JPWO2016208481A1 - 新規白金(iv)錯体 - Google Patents

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Abstract

本発明によれば、医薬として求められる水溶性、安定性、および抗腫瘍活性などを十分に有し、臨床上で使用可能な新規な白金(IV)錯体が求められており、下記一般式(I)[式中、X1およびX2は、共にハロゲン原子、または、共に一緒になってオキサレート、マロネート、スクシネートおよびo−フタレートからなる群から選択されるジカルボキシレートを示し、Yはハロゲン原子を示す]で表される白金(IV)錯体が提供される。

Description

本発明は、新規白金(IV)錯体およびそれを有効成分とする医薬に関する。
シスプラチンは、広い抗がんスペクトルと強い抗腫瘍活性を有する白金(II)錯体であり、がん化学療法における多剤併用療法の中心的な薬剤として、種々のがんの治療に用いられている。しかしながら、副作用として、腎臓障害、吐き気・嘔吐が生じることが知られており、使用時には対策が必要とされる。また、臨床使用上、シスプラチンに耐性を有する細胞の出現が問題となっている。
臨床使用されている他の白金(II)錯体としては、オキサリプラチンが大腸がん治療などに用いられるが、副作用として末梢神経障害などが生じることが知られており、治療上の問題とされている。一方、オキサリプラチンはシスプラチンとの交叉耐性を示さないとされており、シスプラチンと異なるアミン構造、即ち、1,2−シクロヘキサンジアミン(以下、dachと略記する場合もある)構造の配位子を有することが重要であると考えられている。(非特許文献1参照)
抗がん活性を有する白金錯体としては、白金(II)錯体の他に白金(IV)錯体が知られている。白金(IV)錯体の特徴としては、アキシアル位の配位子を様々な置換基へ変換することによる水溶性などの物性の変化、標的へのターゲッティング分子を結合させることによる活性の向上などが期待できることが挙げられる。(非特許文献2参照)
オキサリプラチンと同様のdach構造の配位子を有する白金(IV)錯体としては、例えば、アキシアル位に2つのハロゲン原子を有する錯体(特許文献1参照)、アキシアル位にハロゲン原子およびカルボキシレートを有する錯体(特許文献2参照)、アキシアル位にハロゲン原子および置換アルコキシ基を有する錯体(特許文献3参照)、アキシアル位に2つのカルボキシレートを有する錯体(特許文献4参照)などが知られている。
また、非特許文献3および非特許文献4には、アキシアル位にハロゲン原子および水酸基を有する白金(IV)錯体について記載されている。しかしながら、dach構造の配位子およびオキサレート構造あるいはハロゲン原子の脱離基を共に有する化合物は記載されていない。
いままでに白金(IV)錯体であるサトラプラチン、テトラプラチン、イプロプラチンなど(非特許文献2参照)の臨床試験が試みられてきたが、開発が中止されており有効性の高い新規白金(IV)錯体が求められている。
国際公開第90/05734号 国際公開第96/26949号 仏国特許発明第2954321号明細書 国際公開第2014/100417号
Critical Reviews in Oncology:Hematology,2000,35,75−93 Chemical Reviews,2014,114,4470−4495 Inorganic Chemistry,2014,53,9326−9335 European Journal of Inorganic Chemistry,2006,1168−1173
医薬として求められる水溶性、安定性や抗腫瘍効果を十分に発揮する白金(IV)錯体はなく、臨床上で使用可能な新規白金(IV)錯体が望まれている。
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、dach構造の配位子を有する白金(IV)錯体のアキシアル配位子として、ハロゲン原子および水酸基を選択する事により、優れた抗腫瘍活性を有し、化学的に安定で溶解性に優れた錯体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、下記(1)〜(4)に関する。
(1)下記一般式(I)
Figure 2016208481
[式中、XおよびXは、共にハロゲン原子、または、共に一緒になってオキサレート、マロネート、スクシネートおよびo−フタレートからなる群から選択されるジカルボキシレートを示し、Yはハロゲン原子を示す]
で表される白金(IV)錯体。
(2)XおよびXが、共に塩素原子若しくは臭素原子、または、共に一緒になってオキサレートであり、Yが塩素原子若しくは臭素原子である前記(1)に記載の白金(IV)錯体。
(3)1,2−シクロヘキサンジアミン配位子が(1R,2R)−シクロヘキサンジアミン配位子である前記(1)または(2)に記載の白金(IV)錯体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体を有効成分とする医薬。
本発明により、優れた抗腫瘍活性を有し、化学的に安定で水溶性を有する白金(IV)錯体とそれを有効成分とする医薬の提供が可能となった。
実施例1化合物および比較例5化合物の37℃における水溶液中での安定性試験である試験例3の結果を示す図である。
以下に本発明の詳細を述べる。
本発明においてハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。XおよびXとしては共に同一なハロゲン原子が好ましく、中でも、共に塩素原子若しくは臭素原子が特に好ましい。Yとしては塩素原子若しくは臭素原子が好ましい。
本発明において脱離基であるジカルボキシレートは特に限定されず、2個のカルボキシ基を有する(C1−C6)アルキル基や(C6−C10)アリール基が挙げられる。中でも以下に示すオキサレート、マロネート、スクシネート、o−フタレートが好ましい。
Figure 2016208481
本発明の白金(IV)錯体として特に好ましくは、下記一般式(II)または一般式(IV)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2016208481
[式中、Yはハロゲン原子を示す]
本発明の白金(IV)錯体の1,2−シクロヘキサンジアミン配位子の立体構造としては、生理活性等の点から1R、2Rのトランス配置が好ましい。
即ち、本発明の白金(IV)錯体としては下記一般式(III)または一般式(V)で表される化合物が殊更に好ましい。
Figure 2016208481
[式中、Yはハロゲン原子を示す]
本発明の白金(IV)錯体は、非特許文献2などの文献記載の方法を応用して製造することができる。即ち、白金(II)錯体を溶媒中で、過酸化水素などの酸化剤処理または酸化的にハロゲン処理をすることにより目的とする白金(IV)錯体とする方法や、白金(IV)錯体を置換反応に付すことにより目的とする白金(IV)錯体とする方法である。これらの製造方法の例示を下記の実施例に示す。
本発明の白金(IV)錯体を有効成分とする医薬も本発明に含まれる。本発明の白金(IV)錯体が薬効を示す医薬用途であれば特に限定されないが、抗がん剤としての用途が好ましい。抗がん剤としての使用は、単独または担体、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保存剤、矯味剤、着香剤、希釈剤、溶解補助剤などの製薬上許容し得る添加剤と混合しても可能で、粉剤、顆粒剤、錠剤、カブレット剤、カプセル剤、注射剤、座剤、軟膏剤などの製剤形態で、経口または非経口的(全身投与、局所投与など)に投与すればよい。製剤中の本発明の白金(IV)錯体は、製剤により種々異なるが、通常0.1〜100重量%である。投与量は投与経路、患者の年齢並びに予防または治療すべき実際の症状などにより異なるが、例えば成人に投与する場合、有効成分として1日0.01mg〜2000mg、好ましくは0.1mg〜1000mgとすることができ、1日1回または数回に分けて投与できる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例では以下の略号を使用する。
ox:オキサレート
cbdc:1,1−シクロブタンジカルボキシレート
l−OHP:オキサリプラチン
本実施例中の化合物の純度測定は、高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムとしてL−column2 ODS(4.6mmI.D.x250mm:一般財団法人 化学物質評価研究機構から購入)、移動相(A)としてリン酸二水素カリウム2.72g、1−ペンタンスルホン酸ナトリウム1.89gおよびトリエチルアミン0.5mlを蒸留水2000mlに溶解し、リン酸でpH4.3に調製した緩衝液、移動相(B)としてメタノールを用い、下記の分析条件1または2の条件で実施した。
分析条件1(イソクラティック分析):
移動相(B)濃度:15%(0min)−15%(20min)、
移動相流速1ml/min、検出210nm。
分析条件2(グラジエント分析):
移動相(B)濃度:15%(0min)−90%(10min)、
移動相流速1ml/min、検出210nm。
実施例1 trans,cis,cis−[PtCl(OH)(R,R−dach)(ox)]:一般式(III)のY=Clの合成
N−クロロスクシンイミド(66.8mg)を蒸留水14mlに溶解し、l−OHP(200mg)を蒸留水6mlに懸濁した液を加え、遮光下、室温にて4時間撹拌した。反応終了後、反応液中の不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮することにより固体を得た。得られた固体を、エタノール/水で再結晶することで標記化合物(114mg)を得た。H−NMR(DO):δ2.89−2.72(2H、m)、2.15(2H、d、J=12.2Hz)、1.53−1.41(4H、m)、0.97−0.90(2H、m)、MS(ESI;Electrospray Ionization):450(M+1)、451(M+2)、純度(HPLC、分析条件2):99.4%。
実施例2 trans,cis,cis−[PtBr(OH)(R,R−dach)(ox)]:一般式(III)のY=Brの合成
N−ブロモスクシンイミド(89.6mg)を蒸留水14mlに溶解し、l−OHP(200mg)を蒸留水6mlに懸濁した液を加え、遮光下、室温にて3時間撹拌した。反応終了後、反応液中の不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮することにより固体を得た。得られた固体を、水で懸濁させ、再度、ろ取することで標記化合物(216mg)を得た。H−NMR(DMSO−d):δ7.91−7.65(2H、m)、7.14−7.03(2H、m)、2.65−2.55(2H、m)、2.07−1.94(2H、m)、1.50−1.46(4H、m)、1.15−1.02(2H、m)、MS(ESI):495(M+1)、純度(HPLC、分析条件2):98.9%。
実施例3 trans,cis,cis−[PtCl(OH)(R,R−dach)(Cl)]:一般式(I)のX、X、Y=Clの合成
N−クロロスクシンイミド(105.4mg)を蒸留水7mlに溶解し、Pt(R,R−dach)Cl(300mg)をテトラヒドロフラン60mlに懸濁した液に加え、遮光下、室温にて4時間撹拌した。反応終了後、反応液中の不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮することにより固体を得た。得られた固体を、エタノールに懸濁させ、再度、ろ取することで標記化合物(322mg)を得た。H−NMR(DMSO−d):δ7.53−7.29(2H、m)、6.89−6.78(2H、m)、2.75−2.60(2H、m)、2.10−2.00(2H、m)、1.47(2H、d、J=8.0Hz)、1.10−0.93(2H、m)、MS(ESI):433(M+1)、純度(HPLC、分析条件2):98.1%。
比較例1 trans,cis,cis−[Pt(OH)(OAc)(R,R−dach)(ox)]の合成
l−OHP(200mg)を酢酸9mlに懸濁した液に、30%過酸化水素水0.135mlを加え、遮光下、室温にて19時間撹拌した。反応終了後、水を加えながら数回減圧濃縮し、固体を得た。得られた固体を、エタノール/メタノールで再結晶することで標記化合物(55mg)を得た。H−NMR(DO):δ2.78−2.73(2H、m)、2.17(2H、d、J=9.2Hz)、1.94(3H、s)、1.54−1.44(4H、m)、1.20−1.05(2H、m)、純度(HPLC、分析条件1):94.0%。
比較例2 trans,cis,cis−[PtCl(OCHCHOH)(R,R−dach)(ox)]の合成
l−OHP(200mg)をエチレングリコール2mlに懸濁した液に、N−クロロスクシンイミド(66.8mg)を加え、遮光下、室温にて3時間撹拌した。反応終了後、反応液にアセトン10mlおよびジエチルエーテル30mlを加え、析出した固体をろ取した。得られた固体を、エタノール/水で再結晶することで標記化合物(154mg)を得た。H−NMR(DO):δ3.58−3.45(2H、m)、3.22−3.08(2H、m)、2.85−2.83(2H、m)、2.14(2H,d、J=11.2Hz)、1.53−1.44(4H、m)、1.15−1.07(2H、m)、純度(HPLC、分析条件1):98.0%。
比較例3 trans,cis,cis−[Pt(OH)(R,R−dach)(ox)]の合成
l−OHP(900mg)を蒸留水12mlに懸濁した液に、30%過酸化水素水2.58mlを加え、遮光下、室温にて20.5時間撹拌した。反応終了後、水を加えながら数回減圧濃縮し、固体を得た。得られた固体を、蒸留水で再結晶することで標記化合物(422mg)を得た。H−NMR(DO):δ2.74−2.72(2H、m)、2.17(2H、d、J=12.8Hz)、1.54−1.45(4H、m)、1.18−1.12(2H、m)、純度(HPLC、分析条件1):>98.0%。
比較例4 trans,cis,cis−[Pt(OCOCHCH(R,R−dach)(ox)]の合成
3−フェニルプロピオン酸(77mg)、N,N−ジメチルアミノピリジン(5.7mg)をN,N−ジメチルホルムアミド2mlに溶解し、ジイソプロピルカルボジイミド0.086mlを加えた後、室温で0.5時間撹拌した。反応液に、比較例3で得られたtrans,cis,cis−[Pt(OH)(R,R−dach)(ox)](200mg)をN,N−ジメチルホルムアミド2mlに懸濁させた液を加え、遮光下、室温で23時間撹拌した。反応液をろ過することで未反応の白金錯体を除き、得られたろ液に水を加えることで、固体を析出させた。固体をろ取し、冷やしたエタノールで洗うことで、標記化合物(38mg)を得た。H−NMR(DMSO−d):δ8.30(4H、brs)、7.27−7.14(10H、m)、2.80−2.76(4H、m)、2.60−2.56(4H,m)、2.40−2.30(2H、m)、2.05(2H,d,J=12.4Hz)、1.47(2H,d,J=8.0Hz)、1.40−1.22(2H,m)、1.15−1.14(2H,m)、純度(HPLC、分析条件2):98.0%。
比較例5 trans,cis,cis−[PtCl(OH)(R,R−dach)(cbdc)]の合成
非特許文献3に記載の方法に従い標記化合物を合成した。H−NMR(DMSO−d):δ7.71−7.43(2H,m)、7.00−6.90(2H,m)、2.60−2.29(6H,m)、2.03−1.93(2H,m)、1.84−1.49(2H,m)、1.50−1.30(4H、m)、1.05−0.95(2H,m)、MS(ESI):504(M+1)、486(M−OH)、純度(HPLC、分析条件2):95.6%。
比較例6 trans,cis,cis−[Pt(OH)(R,R−dach)(cbdc)]の合成
非特許文献3に記載の方法に従い合成したcis,cis−[Pt(R,R−dach)(cbdc)](100mg)を50%アセトン溶液14mlに溶解させ、30%過酸化水素水14mlを加え、遮光下、室温で4時間撹拌した。反応終了後、水を加えながら数回減圧濃縮し、固体を得た。得られた固体を、アセトンで懸濁精製することで標記化合物(41mg)を得た。H−NMR(DO):2.97(2H、d、J=10.0Hz)、2.77−2.72(4H,m)、2.36−2.32(2H,m)、2.14−2.10(2H,m)、1.74−1.64(4H、m)、1.37−1.34(2H、m)、MS(ESI):486(M+1)、486(M−OH)、純度(HPLC、分析条件2):96.8%。
試験例1 実施例化合物および比較例化合物のin vitro抗腫瘍試験
胃がんおよび膵がん細胞株をそれぞれ96穴プレートに播種した。胃がん細胞KATOIIIは1×10細胞/wellで、胃がん細胞MKN−1は5×10細胞/wellで、胃がん細胞MKN−45は1×10細胞/wellで、胃がん細胞MKN−74は1×10細胞/wellで、膵がん細胞AsPC−1は5×10細胞/wellで、膵がん細胞BxPC−3は5×10細胞/wellで、膵がん細胞DAN−Gは5×10細胞/wellで、膵がん細胞SUIT−2は5×10細胞/wellでそれぞれ播種した。24時間培養後、各実施例化合物または各比較例化合物を最終濃度0.0244μmol/Lから100μmol/Lまで公比4で添加した。テクニカルリプリケートは3点とした。対照として薬剤を添加しないwellと、ブランクとして細胞および薬剤を添加しないwellを設けた。72時間培養後、培養液を除去し、メタノールで細胞を固定した後、メチレンブルー染色液を用いて細胞を染色した。過剰なメチレンブルー染色液を洗浄後、各wellに0.1%塩酸を200μL添加し、色素を抽出した。マイクロプレートリーダーを用いて660nmの吸光度を測定し、得られた吸光度から細胞増殖阻害活性(GI%)を以下の式で算出した。
GIXY%=(1−(AXY−B)/(C−B))×100
ここで、GIXY%は化合物Xの濃度がYμMの時の細胞増殖阻害活性、AXYは化合物XをYμM加えたwellの平均吸光度、Bはブランクwellの吸光度、Cは対照wellの吸光度を示す。
各化合物濃度についてGIXY%を求め、濃度と細胞増殖阻害活性から増殖阻害曲線を作図し、細胞増殖阻害活性が50%となる濃度を化合物XのIC50値とした。その結果を表1、2および3に示す。
Figure 2016208481
RはCHCHを表す。
n.t.はnot testedを表す。
Figure 2016208481
RはCHCHを表す。
実施例1化合物は、アキシアル配位子の組み合わせが異なる比較例1〜4化合物と比較し、いずれの細胞株に対しても高い抗腫瘍効果を示した。このことから、dach構造を有する白金(IV)錯体のアキシアル配位子の組み合わせは、実施例1化合物が有する水酸基およびハロゲン原子の組み合わせが優れていることが明らかとなった。なお、実施例1化合物は、抗がん剤として用いられているl−OHPと同等の活性を示し、Pt(dach)Clよりも高活性であった。
Figure 2016208481
本発明の化合物より活性は劣るが、比較例5化合物および比較例6化合物の結果から、X,Xをcbdcに変換した場合においても、dach構造を有する白金(IV)錯体のアキシアル配位子の組み合わせは、水酸基および塩素原子あるいは臭素原子の組み合わせが優れていることが解った。更に、実施例3化合物の結果より、Yが塩素原子、X,Xが共に塩素原子でも高い抗腫瘍活性を示すことが明らかとなった。
試験例2 実施例1化合物および比較例5化合物の水への溶解性試験
実施例1化合物および比較例5化合物を量りとり、それぞれに蒸留水を徐々に加え、結晶が完全に溶解する濃度を測定した。その結果を表4に示す。なお、l−OHPの溶解度は文献値から算出した参考値である。
Figure 2016208481
その結果、本発明のアキシアル配位子として水酸基およびハロゲン原子を導入した白金(IV)錯体である実施例1化合物の水に対する溶解度は、対応する白金(II)錯体であるl−OHPよりも3倍程度上昇していることが明らかとなった。また、既知の白金(IV)錯体である比較例5化合物よりも2倍以上溶解度が高かった。
試験例3 実施例1化合物および比較例5化合物の蒸留水中での溶液安定性試験
実施例1化合物および比較例5化合物を容器に量りとり、蒸留水を用いて1mg/mlとなるように溶解した。それぞれの水溶液を0.45μmのシリンジフィルターを用いてろ過し、遮光下、37℃の水浴中で振とうさせ、経時的にサンプリングを行い、液体高速クロマトグラフィーにより安定性を試験した。その結果を図1に示す。
試験の結果、74時間後の実施例1化合物の残存率は、99.1%であったのに対し、既知の白金(IV)錯体である比較例5化合物の残存率は、63.7%であった。本発明の実施例1化合物は、水溶液中で長時間安定であり、比較例5化合物と比較しても安定であることが明らかである。
試験例4 実施例1化合物の生理食塩水中での溶液安定性試験
実施例1化合物を容器に量りとり、生理食塩水を用いて1mg/mlとなるように溶解した。溶解液を遮光下5℃で静置または遮光せず37℃の水浴中で振とうし残存量を高速液体クロマトグラフィーにより定量し、残存率を表5に示す。
Figure 2016208481
一般に塩素原子以外の脱離基を有する白金錯体、例えばl−OHPは、生理食塩水の塩素イオンと交換が起こることから生理食塩水中では不安定である。しかしながら、本試験結果が示すように、本発明のジカルボキシレートを脱離基とする白金(IV)錯体である実施例1化合物は、生理食塩水中であっても、遮光下5℃で24時間後においてほとんど分解が進行せず、より過酷な条件である遮光せずに37℃にて振とうさせても残存率は94.4%であり、生理食塩水中でも安定である。
以上の各試験結果より、本発明の白金(IV)錯体は優れた抗腫瘍活性を有すとともに、溶解性に優れ、溶液にしても化学的に安定であるという優れた性能であることが明らかとなった。

Claims (4)

  1. 下記一般式(I)
    Figure 2016208481
    [式中、XおよびXは、共にハロゲン原子、または、共に一緒になってオキサレート、マロネート、スクシネートおよびo−フタレートからなる群から選択されるジカルボキシレートを示し、Yはハロゲン原子を示す]
    で表される白金(IV)錯体。
  2. およびXが、共に塩素原子若しくは臭素原子、または、共に一緒になってオキサレートである請求項1に記載の白金(IV)錯体。
  3. 1,2−シクロヘキサンジアミン配位子が(1R,2R)−シクロヘキサンジアミン配位子である請求項1または2に記載の白金(IV)錯体。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体を有効成分とする医薬。
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