JPWO2016121885A1 - 澱粉質の老化抑制方法 - Google Patents

澱粉質の老化抑制方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、澱粉質の老化性以外の物性を変化させることなく、すなわち、澱粉質の構造を大きく変えることなく、澱粉質の老化を抑制する方法を提供することを課題とし、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、前記澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、前記澱粉質の老化性をトレハロース構造導入前よりも低下させることを特徴とする澱粉質の老化抑制方法を提供することにより、上記課題を解決する。

Description

本発明は、澱粉質の老化抑制方法、老化性が低減された澱粉質の製造方法、及び、老化抑制剤に関する。
澱粉は、主として高等植物の種子や地下茎の細胞内に貯蔵されている高分子グルカンであり、一般に、アミロースとアミロペクチンの混合物である。アミロースは、グルコースがα−1,4結合で直鎖状に結合した構造を有するα−1,4グルカンである。一方、アミロペクチンは、α−1,4グルカンの直鎖のところどころで、通常、グルコース重合度6以上のα−1,4グルカンがα−1,6結合で分岐した構造を有している。澱粉は、優れた加工性と貯蔵性を有し、安価であることから、澱粉或いは澱粉を酸又は酵素で加水分解処理して得られる澱粉部分分解物などを含めた、いわゆる澱粉質として、食品の主原料に利用され、さらに、例えば、増粘安定剤やコロイド安定剤などとして、食品の物性改良と品質保持の目的で、また、グルコース、異性化糖、マルトオリゴ糖、水飴などの原料としても、工業的に広く利用されている。しかしながら、澱粉質は、その水分散液を加熱すると膨潤して糊化するものの、時間の経過と共に不溶化、すなわち、老化するという性質を有しており、澱粉質が老化すると、これを含む食品の食感や風味が損なわれるだけでなく、ヒトの体内で消化され難くなるなどの不都合がもたらされる。このため、食品及びその他の産業における澱粉質の利用範囲には自ずと制限があった。斯かる状況に鑑み、従来から、澱粉質に耐老化性を付与する目的で、澱粉質を構成する分子の構造を改変する試みが数多く行なわれており、とりわけ酵素的に構造を改変することは、澱粉質本来の安全性に影響がないと期待されることから、精力的に検討が進められてきた。
例えば、特許文献1には、枝作り酵素(EC 2.4.1.18)を澱粉質に作用させ、当該澱粉質の内部に分岐構造を導入することにより、澱粉質の老化を抑制する方法が開示されている。
また、特許文献2には、枝作り酵素、4−α−グルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.25)又はシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)を澱粉質に作用させ、当該澱粉質に内分岐環状構造と外分岐構造とを導入することにより、澱粉質の老化を抑制する方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−α−D−グルコピラノシル−(1→}の構造を有する環状四糖を生成する酵素を澱粉質に作用させ、当該澱粉質の非還元末端に分岐構造を導入することにより、澱粉質の老化を抑制する方法が開示されている。
しかしながら、澱粉質の構造を酵素的に改変して澱粉質の老化を抑制する従来の方法は、いずれも澱粉質に分岐構造を導入するものであり、澱粉質に耐老化性を付与することはできても、分岐構造の導入により澱粉質を構成する個々の分子の構造が変化し、さらには、澱粉質全体の分子量分布が大きく変化する場合があり、その結果、改変前の澱粉質が本来有していた粘度などの物性を大きく変化させてしまうという不都合がある。そのため、分岐構造の導入によって老化性が低減された澱粉質は、老化性が低減されているという点では利点があるものの、これを単純に既存の澱粉質に代えて用いると、往々にして、得られる製品の物性までもが変化し、分岐構造の導入によって老化性が低減された澱粉質を用いながら、同時に、既存の澱粉質を用いて得られる製品と同等の物性を備えた製品を得ることは困難であった。このような状況下、澱粉質の老化性以外の物性を可及的に変化させることなく、すなわち、澱粉質の構造や澱粉質全体の分子量分布を大きく変えることなく、澱粉質の老化性を抑制する方法の提供が望まれる。
特開昭60−075295号公報 特許第3107358号公報 特許第4893980号公報
本発明は、澱粉質の構造や澱粉質全体の分子量分布を大きく変えることなく、すなわち、澱粉質の老化性以外の物性を大きく変化させることなく、澱粉質の老化を抑制する方法を提供することを課題とするものである。また、本発明は、老化の抑制された澱粉質の製造方法、及び、老化抑制剤を提供することを課題とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、澱粉質に作用する各種酵素に着目し鋭意研究を行う過程において、意外にも、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、その還元末端にトレハロース構造を導入すると、個々の分子の構造や澱粉質全体の分子量分布を大きく変化させることなく、老化が顕著に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、前記澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、前記澱粉質の老化性をトレハロース構造導入前よりも低下させることを特徴とする澱粉質の老化抑制方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
また、本発明は、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させる工程、及び、得られた還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質を精製する工程を含み、前記精製する工程が澱粉質の沈殿を回収する工程を含まないことを特徴とする、老化性がトレハロース構造導入前よりも低減された澱粉質の製造方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
さらに、本発明は、グリコシルトレハロース生成酵素を有効成分として含有する澱粉質の老化抑制剤を提供することにより、上記課題を解決するものである。
本発明の澱粉質の老化抑制方法は、澱粉質を構成する個々の分子の構造や澱粉質全体の分子量分布を大きく変化させることなく、澱粉質に耐老化性を付与することができるので、耐老化性を付与しても当該澱粉質の物性を維持することができ、食品分野をはじめとする様々な分野における澱粉質の利用の拡大が期待される。
本発明は、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、前記澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、前記澱粉質の老化性をトレハロース構造導入前よりも低下させることを特徴とする澱粉質の老化抑制方法を提供するものである。
本明細書でいう老化とは、良く知られているとおり、水と共に加熱して糊化又は溶解した澱粉質が、時間の経過と共に、水に不溶性の状態に変化する現象を意味する。澱粉質の老化は、溶液の白濁又は固化として観察される。
本明細書でいう澱粉質とは、澱粉、澱粉を構成するアミロース若しくはアミロペクチン、澱粉に酸若しくはα−アミラーゼやイソアミラーゼなどの加水分解酵素を作用させて部分的に加水分解した澱粉部分分解物、さらには、かくして得られる澱粉部分分解物に枝作り酵素やα−グルコシル転移酵素などの糖転移酵素を作用させて分岐構造を導入した澱粉部分分解物、又はこれらの混合物を意味する。
また、上記澱粉質は、その起源や由来によって特に限定されず、例えば、トウモロコシ粉、米粉、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、テフ粉、ひえ粉、大豆粉、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉、緑豆粉、蕎麦粉、アマランサス粉、栗粉、どんぐり粉、バナナ澱粉などの地上澱粉や、タピオカ粉、馬鈴薯粉、片栗粉、甘藷澱粉、葛粉、わらび粉などの地下澱粉であっても良く、若しくはそれらの中から選ばれる1種又は2種以上の澱粉を元に人為的に調製された澱粉質であっても良い。
本発明の澱粉質の老化抑制方法の対象となる澱粉質は、老化性を有する澱粉質であり、老化性を有する澱粉質は、程度の差はあれ、その還元末端にトレハロース構造を導入することにより老化性が改善、すなわち、還元末端へのトレハロース構造の導入前よりも老化性が低減される。ただし、その還元末端にトレハロース構造を導入することによる老化抑制作用を良好に発揮する上では、澱粉質の種類や由来にも依存するが、一般に、アミロースとしては、重量平均分子量が3,000乃至5,000のものがより好適であり、アミロペクチンとしては、重量平均分子量が12,000乃至120,000のものがより好適である。一方、澱粉質がアミロースとアミロペクチンの混合物である通常の澱粉又はその部分分解物である場合には、アミロースとアミロペクチンとが渾然一体に入り交じっているので、澱粉質全体では、重量平均分子量が3,000乃至120,000のものがより好適であるといえる。一方、重量平均分子量が3,000未満又は5,000超のアミロースにおいても、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制作用は劣るものの全く発揮されないことはなく、同様に、重量平均分子量が12,000未満120,000超のアミロペクチンにおいても、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制作用は劣るものの全く発揮されないことはないので、重量平均分子量が上記範囲外にあるアミロース又はアミロペクチンも、求められる老化抑制効果が比較的低くてもよい場合には好適に利用できる。同様に、アミロースとアミロペクチンとが渾然一体に入り交じっている澱粉質において、重量平均分子量が3,000未満又は120,000超である場合にも、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制作用は劣るものの全く発揮されないことはないので、求められる老化抑制効果が比較的低くてもよい場合には好適に利用できる。
また、本発明が対象とする老化性を有する澱粉質は、通常、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が30質量%以上である澱粉質である。すなわち、β−アミラーゼは、澱粉質を非還元末端からマルトース単位で加水分解するエキソ型の酵素であり、澱粉質のα−1,6−グリコシド結合した分岐部の手前で加水分解反応が停止する。したがって、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合は、澱粉質の非還元末端から分岐部までの直鎖構造の含量の指標として用いることができ、この値が大きい澱粉質ほど直鎖構造の含量が多く、老化しやすくなるため、澱粉質の老化性の一つの指標としても用いることができる。
したがって、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトース含量が30質量%以上の澱粉質は老化性を有する澱粉質であり、そのような澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入する場合には、老化抑制作用がより顕著に発揮されるので、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトース含量が30質量%以上の澱粉質は本発明の老化抑制方法の対象として好適である。一方、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が30質量%未満の澱粉質であっても、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制作用が全く発揮されないことはないので、本発明の老化抑制方法の対象とすることに何らの問題はない。
本明細書でいうグリコシルトレハロース生成酵素とは、酵素番号EC 5.4.99.15が割り当てられる酵素であり、α−1,4結合を介して連結した重合度3以上のグルカンの還元末端のグルコースに作用して、その結合様式をα−1,4結合からα,α−1,1結合へ変換することにより、還元末端にトレハロース構造を導入する酵素を意味する。
本発明において、グリコシルトレハロース生成酵素は、澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入する活性を有する限りその由来に特に限定されるものではなく、例えば、アクチノプラーネス(Actinoplanes)、アルスロバクター(Arthrobacter)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、クルトバクテリウム(Curtobacterium)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、グリロタルピコラ(Gryllotalpicola)、メタロスファエラ(Metallosphaera)、ミクロコッカス(Micrococcus)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、リゾビウム(Rhizobium)、スルフォロブス(Sulfolobus)、テラバクター(Terrabacter)、アナベナ(Anabaena、ネンジュモ科の藻類)、及び、ノストック(Nostoc、ネンジュモ科の藻類)から選ばれるいずれかの属に属する微生物由来のグリコシルトレハロース生成酵素又はその変異体であってもよく、遺伝子組換えによって得られるグリコシルトレハロース生成酵素であってもよい。ただし、前記微生物の中ではアルスロバクター、ブレビバクテリウム、クルトバクテリウム、フラボバクテリウム、ミクロコッカス、マイコバクテリウム、リゾビウム、スルフォロブス、及び、テラバクターから選ばれるいずれかの属に属する微生物由来のグリコシルトレハロース生成酵素又はその変異体が好適であり、その中でも特に、特許第3958884号公報に開示されたアルスロバクター・スピーシーズ S34由来のグリコシルトレハロース生成酵素、特許第4249055号公報に開示されたアルスロバクター・スピーシーズ Q34、リゾビウム・スピーシーズ M−11、ブレビバクテリウム・ヘロボルム、フラボバクテリウム・アクアチレ、ミクロコッカス・ルテウス、ミクロコッカス・ロゼウス、クルトバクテリウム・シトレウム、マイコバクテリウム・スメグマチス、若しくは、テラバクター・ツメスセンス由来のグリコシルトレハロース生成酵素、特許第3557287号公報に開示されたスルフォロブス・アシドカルダリウス、若しくは、スルフォロブス・ソルファタリカス由来のグリコシルトレハロース生成酵素、又は、それらの変異体が好適に利用でき、それらは遺伝子組み換え技術によって得られたものであっても良い。
なお、グリコシルトレハロース生成酵素の活性は、例えば、特許第3958884号公報の段落0026に記載された方法、すなわち、マルトペンタオースを基質とし、グリコシルトレハロース生成酵素の作用による還元末端へのトレハロース構造の導入に伴う還元力の減少を測定する方法などにより測定することができる。本明細書でいうグリコシルトレハロース生成酵素の活性1単位は、上記活性測定法において、1分間に1μmolのマルトペンタオースに相当する還元力を減少させる酵素量である。
グリコシルトレハロース生成酵素の作用により澱粉質の還元末端にトレハロース構造が導入された割合(以下、「トレハロース構造導入率」という。)は、下記式1に基づいて見積もることができる。すなわち、還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質をサイズ排除クロマトグラフィー等で分析し、その数平均分子量を求め、別途、当該澱粉質にグルコアミラーゼを完全に作用させて得られるグルコアミラーゼ消化物を高速液体クロマトグラフィー等で分析し、前記グルコアミラーゼ消化物の固形分当たりのトレハロースの質量の割合を求めておく。そして、還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質の数平均分子量に、グルコアミラーゼ消化物の固形物当たりのトレハロースの割合を乗じ、トレハロースの分子量である342で除して得られる値を、トレハロース構造導入率と見なすことができる。本発明において、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させた澱粉質のトレハロース構造導入率は、望ましくは20%以上、より望ましくは30%以上、さらに望ましくは40%以上である。
式1
Figure 2016121885
前記グリコシルトレハロース生成酵素の作用量に特に制限はなく、通常、澱粉固形物1g当たり0.1乃至100単位の範囲内で適宜選択される。また、前記グリコシルトレハロース生成酵素を作用させる温度及びpHは、酵素反応が進行する範囲内で適宜選択することができ、例えば、反応温度は10乃至90℃、反応pHはpH3乃至9の範囲が好適である。また、反応時間は酵素反応の進行具合に応じて適宜選択することができ、例えば0.1乃至100時間の範囲から選択すればよい。
なお、還元末端に導入されるトレハロース構造が失われない限り、グリコシルトレハロース生成酵素とともに、或いは、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させた後に、老化性をさらに低減させることを目的として、澱粉枝作り酵素やα−グルコシル転移酵素などの澱粉質に分岐構造を導入する酵素を作用させることも随意である。
また、本発明は、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させる工程、及び、得られた還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質を精製する工程を含み、前記精製する工程が澱粉質の沈殿を回収する工程を含まないことを特徴とする、老化性がトレハロース構造導入前よりも低減された澱粉質の製造方法を提供するものである。
なお、前記精製する工程が澱粉質の沈殿を回収する工程を含まないとは、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させて得た老化性が低減された澱粉質を精製するにあたり、老化させたり、或いは、有機溶媒を添加することによって対象物を沈殿させことにより、当該澱粉質の沈殿を回収する工程を必要としないことを意味する。
従来、アミロースをはじめとする老化性を有する澱粉質は、それ自体が老化して不溶化しやすいがために、その精製にあたっては沈殿を回収する工程が必須であり、沈殿した澱粉質を回収する工程は、煩雑で手間暇が掛かるため、製品の価格を上昇させる原因の一つであった。本発明の製造方法によれば、還元末端にトレハロース構造を導入した澱粉質は老化しにくいことから、酵素反応液等をそのまま濾過やカラムクロマトグラフィーで連続的に精製して当該澱粉質を採取することができ、沈殿を回収するという煩雑な精製工程を経る必要がないので、従来の製造方法よりも廉価に製品を製造できるという利点が得られる。
本発明により得られる還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質は、通常の澱粉質よりも老化しにくい一方で、それ以外の物性は改変前の澱粉質と同等であるため、老化性が低減されていない通常の澱粉質の代替品として、好適に利用できる。また、老化性が低減されていない通常の澱粉質と混合して利用することも随意である。さらに、本発明で得られる還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質は、老化性が低減されているので、老化性が原因で澱粉質の利用が制限されていた製品においても、好適に利用することができる。
本発明により得られる還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質は、トレハロース構造導入前の澱粉質よりも高い耐老化性を有しており、且つ、トレハロース構造導入前の澱粉質が本来有していた老化性以外の物性は維持されているので、通常の澱粉質の代替品として、或いは、通常の澱粉質と混合して利用することができ、例えば、エネルギー供給や濃厚感付与、粘稠性付与、つや出し、保型性向上、凍結変性防止、食感改良、味質改善、水分活性調整、離水防止、結晶析出防止、保湿性付与などを目的として、食品(例えば、レトルト食品、冷凍食品、インスタント食品、漬物、佃煮、練り製品、乳製品、和菓子、洋菓子、スナック菓子、冷菓、流動食、離乳食、健康食品など)や、飲料(例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁飲料、野菜ジュース、乳飲料、コーヒー、紅茶飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、アルコール飲料など)、化粧品(化粧水、美容液、乳液、クリーム、ファンデーション、マスカラ、口紅、マニキュア、クレンジング、洗顔料、洗口液、シャンプー、トリートメント、コンディショナー、整髪料、香水など)に利用することができる。また、本発明により得られる還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質は、通常の澱粉質よりも溶解性に優れるので、各種液体(例えば、スープや出汁、ソース、醤油、酢、味醂、油脂、牛乳、コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、麦茶、アルコールなど)の粉末化基材として好適に利用でき、さらに、錠剤などの賦形剤として好適に利用できる。
前記老化性を有する澱粉質の典型的な一例として、アミロースが挙げられる。アミロースは溶液中で螺旋構造を形成する性質を有しており、その螺旋空洞内に種々の疎水性低分子物質を取り込むことにより包接錯体を形成する事が知られているが、アミロース自体が老化し易いがために、その利用範囲は限られていた。本発明により得られる還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースは、通常のアミロースと構造が大きく異ならないことから、通常のアミロースと同等の螺旋形成能を有しており、さらに、通常のアミロースよりも老化しにくいので、不溶性或いは難水溶性の医薬品成分や機能性食品成分、油、色素、香料等の可溶化剤や安定化剤、マスキング剤、徐放剤、粉末化基材として好適に利用できる。また、通常のアミロースの代替品として、或いは、通常のアミロースと混合して利用することも随意である。したがって、本発明によれば、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを有効成分として含有する安定化剤、マスキング剤、徐放剤、又は、粉末化基材が提供される。
老化性を有する澱粉質の典型的な一例としてのアミロースは、いかなる製造方法で得られるアミロースであってもよく、例えば、澱粉質にイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)やプルラナーゼ(EC 3.2.1.41)などの澱粉枝切り酵素を作用させて得られるアミロースや、シクロデキストリンにシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)を作用させて得られるアミロース、スクロースにアミロスクラーゼ(EC 2.4.1.4)を作用させて得られるアミロース、グルコース−1−リン酸にα−グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)を作用させて得られるアミロース、ADP−グルコースに澱粉合成酵素(EC 2.4.1.21)を作用させて得られるアミロース、デキストリンにマルトシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.25)を作用させて得られるアミロースなどであってもよい。
加えて、本発明は、グリコシルトレハロース生成酵素を有効成分として含有する澱粉質の老化抑制剤を提供するものである。グリコシルトレハロース生成酵素は、α−1,4結合を介して連結した重合度3以上のグルカンに作用させることにより、その還元末端のグルコース残基の結合様式をα−1,4結合からα,α−1,1結合へ変換し、還元末端にトレハロース構造を導入することができ、還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質は老化しにくいので、当該酵素はそれ自体を澱粉質の老化抑制剤として利用することができる。
本発明の澱粉質の老化抑制剤は、有効成分であるグリコシルトレハロース生成酵素の活性が安定に維持される範囲内で、目的に応じて他の成分を配合することができる。例えば、酸や塩基、塩、炭水化物、アミノ酸、タンパク質などを配合してもよい。また、老化抑制剤としての形態は、粉末、顆粒、錠剤、液体などであってもよい。
以下、実験に基づいて本発明をより詳細に説明する。
<実験1:アミロースの還元末端へのトレハロース構造の導入が老化性に及ぼす影響>
アミロースの還元末端へのトレハロース構造の導入が老化性に及ぼす影響を調べるため、アミロースの還元末端にトレハロース構造を導入し、トレハロース構造が導入されたアミロースの老化性を評価した。
<実験1−1:還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースの調製>
アミロースにグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを調製した。
まず、重量平均分子量3,200を示す試薬級の短鎖アミロース粉末(商品名『アミロース EX−I』、株式会社林原製、以下、「アミロース1」という。)、及び、重量平均分子量5,000を示すアミロース粉末(株式会社林原にて調製、以下、「アミロース2」という。)をそれぞれ固形物濃度1質量%となるように純水に溶解し、pH5.8に調整した後、特許第3958884号公報の実施例2−2記載の方法で得られるアルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.) S34由来のグリコシルトレハロース生成酵素を固形物1g当たり2単位添加し、50℃で48時間反応させ、その後、100℃で10分加熱して酵素を失活させた。次いで、得られた各反応液に水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整し、100℃で1時間加熱処理することにより、還元末端にトレハロース構造が導入され非還元性となったアミロース以外の残存する還元糖を分解した。得られた各処理液を、活性炭を用いて脱色し、イオン交換樹脂を用いて脱塩した後、凍結乾燥を行い、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2の粉末を得た。
その後、原料に用いたアミロース1並びに2、及び、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1並びに2について、重量平均分子量、還元力、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合、及び、溶解度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。なお、各種分析は以下の方法で行った。
<重量平均分子量>
アミロース、又は、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを固形物濃度1質量%になるように溶解し、pH7.0に調整した後、サイズ排除クロマトグラフィーに供した。そして、分子量測定用プルラン標準品(株式会社林原製)を同様に分析に供して作成した検量線に基づき、重量平均分子量をそれぞれ算出した。なお、サイズ排除クロマトグラフィーは、カラムに『TSK GEL α−M』(株式会社東ソー製)を2本連結したものを用い、溶離液に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、カラム温度40℃、流速0.3ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
<還元力>
アミロース、及び、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースをそれぞれアンスロン硫酸法に供し、グルコースを標準糖質として作成した検量線に基づき全糖量を測定した。次いで、アミロース、及び、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースをそれぞれソモギー・ネルソン法に供し、グルコースを標準糖質として作成した検量線に基づき還元糖量を測定した。そして、アミロース、及び、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースの全糖量に対する還元糖量の割合をそれぞれ算出し、還元力とした。
<β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合>
アミロースを固形物濃度1質量%になるように溶解し、pH5.0に調整した後、β−アミラーゼ(商品名『#1500』、ナガセケムテックス株式会社製)を固形物1g当たり50単位添加し、50℃で20時間作用させた後、100℃で10分間加熱して酵素反応を停止させた。次いで、得られたβ−アミラーゼ消化物を高速液体クロマトグラフィーに供し、クロマトグラムの全ピーク面積に対するマルトースのピーク面積の割合を求め、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合とした。なお、高速液体クロマトグラフィーは、カラムに『MCI gel CK04SS』(三菱化学株式会社製)を2本連結したものを用い、溶離液に超純水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
<溶解度>
純水、又は、1質量%トレハロース水溶液に、アミロース、及び、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースをそれぞれ過剰量添加し、100℃で10分間加熱した後、25℃下で16時間静置し、飽和溶液を調製した。その後、25℃における各飽和溶液1gに含まれる固形物の質量を常法の乾燥減量法に従って測定し、水100g当たりの値に換算することにより溶解度を求めた。なお、1質量%トレハロース水溶液に対する溶解度については、添加されているトレハロースの固形物量を水100gに含まれる固形物の質量から差し引いた値を溶解度とした。
Figure 2016121885
表1から明らかなとおり、原料に用いたアミロース1及び2は、その還元力がそれぞれ6.0%及び3.8%であったのに対し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2は、その還元力がそれぞれ0.1%及び0.2%であり、実質的に還元力を示さなかったことから、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2は、トレハロース構造導入率が実質的に100%であることが確認された。なお、重量平均分子量の測定に用いたものと同じサイズ排除クロマトグラフィーにより分子量分布を確認したところ、グリコシルトレハロース生成酵素の作用前後でアミロース1及びアミロース2の分子量分布に大きな変化は認められなかった。また、アミロース1及び2のβ−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合は、88.6乃至91.0質量%であった。
興味深いことに、アミロース1及び2は、水100gに対する溶解度がそれぞれ4.5g及び1.7gであったのに対し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2は、水100gに対する溶解度がそれぞれ7.4g及び4.6gであったことから、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースは、原料に用いたアミロースよりも、その溶解度が1.6乃至2.7倍向上していた。ここで、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2の重量平均分子量がそれぞれ3,700及び5,200であり、トレハロースの分子量が342であるので、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2の25℃での飽和溶液100gには、それぞれ0.7g(=7.4×(342/3700))及び0.3g(=4.6×(342/5200))のトレハロースがトレハロース構造として含まれていると見積もられる。一方、アミロース1及び2の1質量%トレハロース水溶液100gに対する溶解度は、それぞれ4.8g及び1.5gであり、水100gへの溶解度とそれぞれ同等であったことから、単に遊離のトレハロースをアミロースに添加しただけでは、アミロース1及び2の溶解度を向上させる作用は認められなかった。以上のことから、アミロースの還元末端にトレハロース構造を導入することにより、溶解度が向上するものと結論した。これらの結果は、澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、当該澱粉質の溶解度を顕著に向上させることができることを物語っており、澱粉質の老化はそれを構成する分子の不溶化によりもたらされる現象であるから、還元末端へのトレハロース構造の導入により、澱粉質に耐老化性を付与できると考えられた。
<実験1−2:還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースの老化性の評価>
実験1−1で得た還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースについて老化性を調べ、アミロースの還元末端へのトレハロース構造の導入が老化性に及ぼす影響を評価した。
実験1−1で使用したアミロース1、実験1−1で得た還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1、及び、それらを20:80、40:60、60:40、80:20の割合で混合した混合物をそれぞれ固形物濃度1質量%になるように純水に懸濁し、100℃下で10分間加熱して溶解させた後、4℃で保存した。保存開始時、30分後、1時間後、2時間後、4時間後、1日後、2日後、及び、4日後に、溶液の濁度(波長650nmにおける吸光度)を分光光度計(株式会社島津製作所製)により測定し、保存開始時からの濁度の増加量を求めた。また、実験1−1で使用したアミロース2、実験1−1で得た還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース2、及び、それらを20:80、40:60、60:40、80:20の割合で混合した混合物についても同様に測定を行い、保存開始時からの濁度の増加量を求めた。結果を表2及び3にそれぞれ示す。なお、濁度の増加量が2.0を超えたものについては、表中に「2.0超」と示し、それ以後の濁度の測定は行わず、表中、斜線で示した。
Figure 2016121885
Figure 2016121885
表2から明らかなとおり、アミロース1の溶液が1日後、すなわち、保存24時間後の時点で濁度の増加量2.0超を示したのに対し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1は濁度2.0超を示すのに4日(96時間)を要し、老化の速度が最大で1/4まで低下していた。また、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1の混合比率が20%の場合でも、2時間後、4時間後における測定値に見られるとおり、濁度の上昇が抑制された。全体としては、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1の混合比率が高いほど、老化速度のより大きな低下が認められた。
また、表3から明らかなとおり、アミロース2の溶液が保存1時間後の時点で濁度の増加量2.0超を示したのに対し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース2は濁度2.0超を示すのに1日(24時間)を要し、老化の速度が最大で1/24まで低下していた。また、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース2の混合比率が20%の場合でも、1時間後における測定値に見られるとおり、濁度の上昇が抑制されており、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース2の混合比率が高いほど、老化速度のより大きな低下が認められた。
これらの結果から、アミロースの還元末端にトレハロース構造を導入することにより、老化速度を低下、すなわち、耐老化性を付与できることが明らかとなり、その効果は、重量平均分子量が3,000程度の比較的低分子のアミロースについても認められた。また、トレハロース構造が導入されたアミロースの混合比率が少なくとも20%以上あれば、老化が抑制されることが明らかとなった。上記実験に用いたアミロース1及び2はトレハロース構造を有しておらず、トレハロース構造導入率は0%であるところ、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2は、実験1−1で示したとおり、トレハロース構造導入率が実質的に100%であるので、両者の混合比率が少なくとも20%以上であれば老化が抑制されるということは、トレハロース構造導入率としてみれば、少なくとも20%以上のトレハロース構造導入率でアミロースの還元末端にトレハロース構造を導入すれば、澱粉質の老化を抑制することができるということを意味している。
なお、一般に、重量平均分子量が大きい澱粉質の方がより老化し易いものであるのに対し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロース1及び2は、還元末端にトレハロース構造が導入されていない対照のアミロース1及び2よりも、それぞれ重量平均分子量が若干大きいにもかかわらず、老化速度が低下していた。この結果は、本発明による顕著な耐老化性の改善効果が、分子量の減少によってもたらされるものではなく、アミロースの還元末端にトレハロース構造を導入することにより、もたらされるものであることを如実に示すものである。
<実験2:重量平均分子量の異なるアミロペクチンの還元末端へのトレハロース構造の導入が老化性に及ぼす影響>
実験2では、還元末端へのトレハロース構造の導入がアミロペクチンの老化に及ぼす影響を調べるため、実質的にアミロペクチンのみで構成されるワキシーコーンスターチの部分分解物について、その還元末端へトレハロース構造を導入し、老化性を評価した。
ワキシーコーンスターチの部分分解物として、市販の『パインデックス#100』、『パインデックス#1』、『パインデックス#2』及び『パインデックス#4』(いずれも松谷化学株式会社販売)の4種(以下、それぞれをアミロペクチン1乃至4と呼称する。)を用い、それぞれについて、実験1−1と同じ方法により重量平均分子量及びβ−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合を求めた。アミロペクチン1乃至4をそれぞれ固形物濃度30質量%となるように純水に溶解し、実験1で使用したグリコシルトレハロース生成酵素を固形物1g当たり2単位添加し、50℃で22時間作用させた後、100℃、10分間加熱することにより酵素反応を停止した。その後、得られた溶液をそれぞれ4℃で保存し、溶液の濁度(波長650nmにおける吸光度)を保存開始時、1日後、2日後、4日後、8日後、16日後、及び、32日後に、分光光度計(株式会社島津製作所製)によりそれぞれ測定し、保存開始時からの濁度の増加量を求めた。また、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制効果を比較するため、グリコシルトレハロース生成酵素を添加しない以外は同様の方法でアミロペクチン1乃至4を処理したものについても、同様に保存開始時からの濁度の増加量を求めた。結果を表4に示す。なお、濁度の増加量が2.0を超えたものについては、表中に「2.0超」と示し、それ以後の濁度の測定は行わず、表中、斜線で示した。
Figure 2016121885
表4に見られるとおり、重量平均分子量が2,660と比較的低分子のアミロペクチン4では、4℃で16日間保存しただけでは、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させる又はさせないにかかわらず、濁度の上昇、すなわち、老化が認められなかったが、32日間保存した場合には、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたものは依然として濁度の上昇は認められなかったのに対し、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させないものには、若干の濁度の上昇が認められ、重量平均分子量が2,660と比較的低分子で本来老化性が低いアミロペクチン4においても、還元末端へのトレハロース構造の導入が僅かではあるが老化抑制効果を発揮することが確認された。一方、重量平均分子量が118,000であるアミロペクチン1は4℃で4日保存した時点で濁度が2.0超に達する老化性を示したのに対し、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン1は濁度が2.0超に達するまで8日を要し、明らかに老化が抑制されていた。同様に、重量平均分子量が23,400であるアミロペクチン2は4℃で2日保存した時点で濁度が2.0超に達したのに対し、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン2は濁度が2.0超に達するまで8日を要し、さらに、重量平均分子量が12,100であるアミロペクチン3は4℃で32日保存した時点で濁度0.6を示したのに対し、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン3は32日保存した時点でも濁度の上昇が認められず、いずれの場合にも顕著な老化抑制効果が確認された。なお、実験1−1と同様にサイズ排除クロマトグラフィーにより分子量分布を確認したところ、グリコシルトレハロース生成酵素の作用前後でアミロペクチン1乃至4の分子量分布に大きな変化は認められなかった。また、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより老化が顕著に抑制されることが確認されたアミロペクチン1乃至3は、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が32.7乃至45.3質量%であり、いずれも30質量%以上であった。
これらの結果から、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が30質量%以上のアミロペクチンにおいては、重量平均分子量が12,000以上になると、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより、老化速度を顕著に低下させる、すなわち、耐老化性を付与する効果が顕著に発揮され、その効果は、重量平均分子量が120,000というような比較的高分子のアミロペクチンにおいても、十分に発揮されることが明らかとなった。
<実験3:アミロースとアミロペクチンの混合物の還元末端へのトレハロース構造の導入が老化に及ぼす影響>
実験1及び2では、アミロース及びアミロペクチンの還元末端にトレハロース構造を導入することにより、それらの老化を抑制できることが明らかとなった。そこで、実験3では、還元末端へのトレハロース構造の導入がアミロースとアミロペクチンの混合物の老化に及ぼす影響を調べるため、アミロースとアミロペクチンとを約1:4の割合で含有するタピオカ澱粉の部分分解物について、その還元末端にトレハロース構造を導入し、老化性を評価した。
まず、タピオカ澱粉を固形物濃度30質量%となるよう純水に懸濁し、これに塩化カルシウムを最終濃度1mMとなるように添加した後、pH6.0に調整し、澱粉懸濁液を調製した。得られた澱粉懸濁液に、α−アミラーゼ(商品名『スピターゼHK』、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形物1グラム当たり10単位添加し、連続液化装置に流速1L/分で通液しながら、100℃で25分間、次いで、140℃で5分間加熱して酵素反応を停止し、澱粉部分分解物1の溶液を得た。次いで、得られた澱粉部分分解物1の溶液に、α−アミラーゼ(商品名『クライスターゼE5C』、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形物1g当たり0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、又は1.0単位添加し、50℃で22時間反応させた後、100℃で20分間加熱して酵素反応を停止し、それぞれ澱粉部分分解物2乃至8の溶液を得た。その後、得られた澱粉部分分解物1乃至8の溶液を、活性炭を用いて脱色し、イオン交換樹脂を用いて脱塩した後、凍結乾燥して粉末化した。得られた澱粉部分分解物1乃至8の粉末について、重量平均分子量、及び、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合をそれぞれ実験1−1と同様の方法で求めた。
得られた澱粉部分分解物1乃至8を固形物濃度30質量%となるように純水に溶解し、実験1で使用したグリコシルトレハロース生成酵素を固形物1g当たり2単位添加し、50℃で22時間作用させた後、100℃で10分間の加熱処理を行い酵素反応を停止した。その後、4℃で保存し、保存開始時、30分後、1時間後、2時間後、及び、3日後に、その老化性を下記に示す基準に基づいて目視で評価した。
「−」:変化なし
「白濁」:老化による不溶物の生成により、溶液が白濁した状態
「固化」:老化が進行し、溶液が固化した状態
また、還元末端へのトレハロース構造の導入による老化抑制効果を比較するため、グリコシルトレハロース生成酵素を添加しない以外は同様の方法でアミロペクチン1乃至4を処理したものについても、同様に評価した。結果を表5に示す。
Figure 2016121885
表5から明らかなとおり、固形物濃度30質量%という高濃度、且つ、4℃という低温の条件下であっても、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させることにより、重量平均分子量が45,300乃至49,800の澱粉部分分解物1乃至3では少なくとも30分間、重量平均分子量が40,700の澱粉部分分解物4では少なくとも1時間、重量平均分子量が34,400の澱粉部分分解物5では少なくとも2時間、重量平均分子量が20,200の澱粉部分分解物6では少なくとも3日間、その老化が抑制されることが明らかとなった。一方、重量平均分子量が15,000未満の澱粉部分分解物7及び8については、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させる、させないにかかわらず、3日間保存しても変化はなく、老化は認められなかった。なお、実験1−1と同様にサイズ排除クロマトグラフィーにより分子量分布を確認したところ、グリコシルトレハロース生成酵素の作用前後で澱粉部分分解物1乃至8の分子量分布に大きな変化は認められなかった。また、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより老化が抑制されることが確認された澱粉部分分解物1乃至6は、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が56.5乃至59.2質量%であった。
これらの結果から、タピオカ澱粉のようなアミロースとアミロペクチンの混合物の部分分解物であっても、重量平均分子量によって程度に違いはあるものの、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより老化速度を低下、すなわち、耐老化性を付与できることが明らかとなった。
実験1乃至3で得られた知見を総合すると、澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、その老化を抑制することができ、重量平均分子量が3,000乃至5,000のアミロース、及び、重量平均分子量が12,000乃至120,000のアミロペクチンで特に顕著な効果があり、それらの混合物においても同様に顕著な効果が発揮されることが判明した。以上のことから、澱粉質全体としては、重量平均分子量が3,000乃至120,000の老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、その還元末端にトレハロース構造を導入することにより、老化を顕著に抑制することができると考えられる。
また、実験1乃至3において、還元末端にトレハロース構造を導入することによる老化抑制効果が顕著に認められたアミロース1並びに2、アミロペクチン1乃至3及び澱粉部分分解物1乃至6のβ−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合は、32.7乃至91.0質量%であったことから、重量平均分子量が3,000乃至120,000であり、且つ、β−アミラーゼ消化物の固形物当たりのマルトースの割合が30質量%以上、詳細には30質量%以上100質量%以下を示す澱粉質であれば、その還元末端にトレハロース構造を導入することにより、老化を特に顕著に抑制することができると考えられる。
<実験4:トレハロース構造導入率の分析>
実験2及び3において、老化の抑制が顕著に認められたグリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン1乃至3及び澱粉部分分解物1乃至6について、トレハロース構造導入率を調べた。
まず、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン1乃至3及び澱粉部分分解物1乃至6を固形物濃度1質量%となるように脱イオン純水に溶解し、サイズ排除クロマトグラフィーに供し、分子量測定用プルラン標準品(株式会社林原製)を同様に分析に供して作成した検量線に基づき、それぞれの数平均分子量を算出した。なお、サイズ排除クロマトグラフィーは、カラムに『TSK GEL α−M』(株式会社東ソー製)を2本連結したものを用い、溶離液に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、カラム温度40℃、流速0.3ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
次いで、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン1乃至3及び澱粉部分分解物1乃至6の固形物濃度1質量%の溶液に、グルコアミラーゼ(商品名『グルコチーム#20000』、ナガセケムテックス製)を固形物1g当たり50単位添加し、pH5.0、50℃で20時間作用させた後、100℃下で10分間加熱して酵素反応を停止した。その後、得られたグルコアミラーゼ消化物を高速液体クロマトグラフィーで分析し、クロマトグラムの全ピーク面積に対するトレハロースのピーク面積の割合を求め、グルコアミラーゼ消化物の固形物当たりのトレハロースの割合とした。なお、高速液体クロマトグラフィーは、カラムとして『MCI gel CK04SS』(三菱化学株式会社製)を2本連結したものを用い、溶離液に超純水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RID−10A』(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
次いで、前記式1に従いトレハロース構造導入率を求めた。すなわち、グリコシルトレハロース生成酵素を作用させた澱粉部分分解物の数平均分子量に、そのグルコアミラーゼ消化物の固形物当たりのトレハロースの質量の割合を乗じ、トレハロースの分子量である342で除すことにより、トレハロース構造導入率を求めた。結果を表6に示す。
Figure 2016121885
表6から明らかなように、実験2及び3で老化の抑制が顕著に認められたグリコシルトレハロース生成酵素を作用させたアミロペクチン1乃至3及び澱粉部分分解物1乃至6のトレハロース構造導入率は、41乃至98%であることが明らかとなった。これらの結果は、トレハロース構造導入率が少なくとも20質量%以上であれば、老化を十分に抑制できるという実験1−2の結果を裏付けるものである。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの実施例により何ら限定的に解釈されるべきものではない。
<還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物の製造>
澱粉部分分解物にグリコシルトレハロース生成酵素及び澱粉枝切り酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物の製造を行った。以下にその詳細を説明する。
実験3で調製した澱粉部分分解物6乃至8の粉末をそれぞれ固形物濃度30質量%となるよう純水に溶解した後、pH5.8に調整し、特許第3958884号公報の実施例2−2記載の方法で得られるアルスロバクター・スピーシーズ S34由来のグリコシルトレハロース生成酵素を固形物1g当たり2単位、及び、イソアミラーゼ(株式会社林原製)を固形物1g当たり400単位添加し、50℃で48時間作用させた。得られた反応液を100℃で10分間加熱することにより酵素反応を停止させ、次いで、精製工程として、活性炭による脱色、及び、イオン交換樹脂による脱塩を行った。その後、得られた溶液を凍結乾燥し、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cの粉末を得た。なお、上記精製工程においても、アミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cは、老化して不溶化することがなかったので、沈殿を回収する必要がなく、溶液状態のまま精製を行うことができた。得られた還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉質A乃至Cについて、重量平均分子量を実験1−1と同様の方法で求めた。結果を表7に示す。
Figure 2016121885
表7に示すとおり、得られた還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cは、重量平均分子量が2,350乃至5,020であり、顕著な耐老化性を有するものであった。また、還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cは、上述したとおり、老化して不溶化することがなかったので、精製工程において、沈殿を回収するという煩雑な工程を経る必要がなく、通常のアミロースよりも極めて簡便な方法で製造することができるものであった。
斯くして得られた還元末端にトレハロース構造が導入されたアミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cの粉末は、水に溶解した際に、通常のアミロースよりも老化し難いので、老化による不溶化を懸念することなく使用でき、不溶性或いは難水溶性の薬剤や機能性食品成分、油、色素、香料等の化合物の可溶化剤や安定化剤、マスキング剤、徐放剤、粉末化基材として好適に利用することができる。また、通常のアミロースの代替品として、或いは、通常のアミロースと混合して利用することも随意である。
<還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質を含有する澱粉部分分解物の製造>
実験3で調製した澱粉部分分解物6の粉末を固形物濃度30質量%となるよう純水に溶解した後、pH5.8に調整し、特許第3958884号公報の実施例2−2記載の方法で得られるアルスロバクター・スピーシーズ S34由来のグリコシルトレハロース生成酵素を固形物1g当たり2単位添加し、50℃で48時間作用させた。得られた反応液を100℃で10分間加熱することにより酵素反応を停止させ、次いで、精製工程として、活性炭による脱色、及び、イオン交換樹脂による脱塩を行った。その後、得られた溶液を凍結乾燥し、重量平均分子量が20,000を示す、還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質を含有する澱粉部分分解物の粉末を得た。なお、上記精製工程においても、アミロースを含有する澱粉部分分解物A乃至Cは、老化して不溶化することがなかったので、沈殿を回収する必要がなく、溶液状態のまま精製を行うことができた。上記のようにして得られた澱粉部分分解物の粉末は、還元末端にトレハロース構造が導入されていることから、老化性が顕著に低減されたものであり、澱粉部分分解物の代替品、或いは、通常の澱粉部分分解物と混合して利用することも随意である。
<澱粉質の老化抑制剤>
特許第3958884号公報の実施例2−2記載の方法で得られるアルスロバクター・スピーシーズ S34由来のグリコシルトレハロース生成酵素を、2質量%トレハロース水溶液に対して透析し、次いで、タンパク質濃度4mg/mlに濃縮した後、凍結乾燥し、グリコシルトレハロース生成酵素の粉末を得た。本品は、1g当たり約10,000単位の酵素活性を有しており、澱粉質の老化抑制剤として好適に使用できる。
<餅>
白玉粉500質量部と上新粉500質量部を均一に混合した後、水700質量部を加えて混合し、水蒸気で40分間蒸した。次いで、蒸したものをミキサー(ACM20LVW、株式会社愛工舎製作所)で攪拌しながら生地が約55℃になったところで、スクロース360質量部、トレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)240質量部、及び、実施例3で得た老化抑制剤を10質量部添加し、その後さらに3分間混合してからプラスチック製の内径60mm、高さ22mmの容器に詰めて成形し、放冷し保存した。本品は、老化抑制剤の有効成分であるグリコシルトレハロース生成酵素の作用により澱粉質の還元末端にトレハロース構造が導入されているので、老化が抑制され、柔らかさが持続して伸びがあり、歯切れがよい高品質の餅である。
<おはぎ>
マルトース(登録商標『サンマルト』、株式会社林原商事販売)350質量部、トレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)150質量部を温水に溶解し、濃度70質量%の糖液を調製して55℃に保温した。次いで、予め水に浸漬しておいた1000質量部の餅米を常法により蒸し器で蒸し上げ、55℃まで冷却した後、前記糖液500質量部及び実施例3で得た老化抑制剤を5質量部加えて均質に攪拌した。これを保温容器に入れて約1時間、45〜50℃に保持した後、取り出し、こし餡を用いておはぎを調製した。本品は、老化抑制剤の有効成分であるグリコシルトレハロース生成酵素の作用により澱粉質の還元末端にトレハロース構造が導入されているので、老化が抑制され、冷蔵、或いは冷凍保存後に解凍しても離水などの発生もなく、調製直後の柔らかさが保持される高品質のおはぎである。
以上説明したとおり、本発明によれば、老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、還元末端にトレハロース構造を導入することにより、当該澱粉質の構造や全体としての分子量分布を大きく変化させることなく、その老化を抑制することができる。本発明で得られるトレハロース構造が導入された澱粉質は、老化性が低減された澱粉質として既存の澱粉質と容易に置換して利用できる。また、本発明で得られるトレハロース構造が導入された澱粉質は、老化性が低減されているので、老化性が原因で澱粉質の利用が制限されていた製品にまで、澱粉質の利用を拡大することができる。本発明は、斯界に多大の貢献をする誠に意義のある発明である。

Claims (9)

  1. 老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させ、前記澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することにより、前記澱粉質の老化性をトレハロース構造導入前よりも低下させることを特徴とする澱粉質の老化抑制方法。
  2. 前記老化性を有する澱粉質の重量平均分子量が3,000乃至120,000であることを特徴とする請求項1記載の老化抑制方法。
  3. 前記老化性を有する澱粉質がβ−アミラーゼ消化によりマルトースを消化物の固形物当たり30質量%以上生成することを特徴とする請求項1又は2記載の老化抑制方法。
  4. グリコシルトレハロース生成酵素が、アクチノプラーネス(Actinoplanes)、アルスロバクター(Arthrobacter)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、クルトバクテリウム(Curtobacterium)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、グリロタルピコラ(Gryllotalpicola)、メタロスファエラ(Metallosphaera)、ミクロコッカス(Micrococcus)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、リゾビウム(Rhizobium)、スルフォロブス(Sulfolobus)、テラバクター(Terrabacter)、アナベナ(Anabaena)、及び、ノストック(Nostoc)から選ばれるいずれかの属に属する微生物由来の酵素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の老化抑制方法。
  5. 20%以上のトレハロース構造導入率で、前記老化性を有する澱粉質の還元末端にトレハロース構造を導入することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の老化抑制方法。
  6. 老化性を有する澱粉質にグリコシルトレハロース生成酵素を作用させる工程、及び、得られた還元末端にトレハロース構造が導入された澱粉質を精製する工程を含み、前記精製する工程が澱粉質の沈殿を回収する工程を含まないことを特徴とする、老化性がトレハロース構造導入前よりも低減された澱粉質の製造方法。
  7. 前記老化性を有する澱粉質の重量平均分子量が3,000乃至120,000であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
  8. 前記老化性を有する澱粉質がβ−アミラーゼ消化によりマルトースを消化物の固形物当たり30質量%以上生成することを特徴とする請求項6又は7記載の製造方法。
  9. グリコシルトレハロース生成酵素を有効成分として含有する澱粉質の老化抑制剤。
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