以下に、添付図面を参照して、本発明に係る紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法について説明する。本発明に係る紙葉類識別装置は、分光部によって取得した紙葉類の光学特性に基づいて紙葉類の種類、真偽、正損等を識別する機能を有している。
まず、紙葉類識別装置の概要を説明すると、紙葉類識別装置では、分光スペクトルを取得するセンサの主走査方向に配列された複数の光源の中から、紙葉類を複数領域に分割した部分領域のうち測定対象とする部分領域に光を照射する少なくとも1つの光源を指定して、該光源から照射する光の種類(波長)、光量、光の照射を開始するタイミング、光を照射する時間等を制御することができる。これにより、紙葉類上の所望の部分領域に光を照射して、この部分領域で励起された光の分光スペクトルを取得することができる。このとき、光源の点灯タイミング及び消灯タイミングと、センサから信号を取得するタイミングとを制御することにより、蛍光発光及び燐光発光の少なくともいずれか一方を測定対象とすることができる。また、紙葉類識別装置では、分光スペクトルの信号波形上に現れるピーク等の特徴部が明確となるように、光源から照射する光の発光量を制御するための電流値及び発光時間の少なくともいずれか一方を調整することもできるし、紙葉類で励起された発光をセンサによって測定して得られる信号のゲイン及び測定時間の少なくともいずれか一方を調整することも可能となっている。なお、光源は、紙葉類からの反射光の取得、紙葉類を透過した透過光の取得、紙葉類上での蛍光の励起、紙葉類上での燐光の励起等を目的として光を照射するもので、紙葉類識別装置では、光源及びセンサを制御することにより、分光スペクトルとして、反射スペクトル、吸収スペクトル、透過スペクトル、蛍光スペクトル及び燐光スペクトルの少なくともいずれか一つを取得することができる。以下では、主に、光源から紙葉類に励起光を照射して、励起した発光の分光スペクトルを測定する例について説明する。
また、紙葉類識別装置は、紙幣、小切手、その他の有価証券等、様々な種類の紙葉類を処理対象とすることができるが、以下では、紙葉類識別装置が、紙幣を処理対象とする紙幣処理装置内で識別ユニットとして利用される場合を例に、詳細を説明する。
図1は、本実施形態に係る紙葉類識別装置1(以下「識別ユニット1」と記載する)を利用する紙幣処理装置2の構成概略を示す模式図である。紙幣処理装置2は、複数の紙幣を載置可能な入金口10と、入金口10から1枚ずつ装置内に繰り出された紙幣を搬送する搬送路60と、搬送路60で搬送される紙幣の金種、真偽、正損等を識別する識別ユニット1と、識別ユニット1による識別結果に応じて装置内に収納可能と識別された紙幣を収納する収納部40と、識別ユニット1によって識別できない紙幣や偽券等のリジェクト紙幣を排出するリジェクト口50とを有している。
識別ユニット1は、紙幣の画像を取得するためのラインセンサ、紙幣の磁気特性を取得するための磁気センサ、紙幣の厚みを測定するための厚みセンサ等が含まれる識別用センサ部20と、分光スペクトルを取得するための分光部30とを有している。識別用センサ部20を利用して識別ユニット1で行われる紙幣の識別処理、識別結果に応じて紙幣処理装置2で行われる紙幣処理については従来技術を利用可能であるため詳細な説明は省略し、以下では、分光部30について詳細を説明する。
図2は、分光部30の構成を説明するための外観図である。図2(A)は搬送路60の上方(Z軸正方向)側から見た平面図を示しており、同図(B)は搬送路の側方(X軸正方向)側から見た平面図を示している。図2(B)に示すように、搬送路60を形成する上側ガイド61と下側ガイド62との間を紙幣100が搬送される。分光部30は、光源部31と、読取部32と、光ガイド部33と、センサ部34とを有している。
搬送路60を搬送される紙幣100から受けた光によって分光スペクトルを取得するため、ノイズとなる光が外部から入らないように、光源部31、読取部32及びセンサ部34は、それぞれ光を透過しない黒色樹脂や金属等から成るボックス状のケース内に収められている。また、読取部32と該読取部32と離れた位置に配置されたセンサ部34とを接続して、読取部32で受光した光をセンサ部34へと導く光ガイド部33は、ノイズとなる光が外部から入らないようにかつ折り曲げ可能であるように、光を透過しない黒色の軟質樹脂や繊維等から成る筒状のケースに収められている。これにより、分光部30では、読取部32によって受光した光のみが、光ガイド部33を経てセンサ部34へ導かれるようになっている。
読取部32は、主走査方向が紙幣100の搬送方向(図2白矢印)と直交するように搬送路60上に配置されている。光源部31は、読取部32が紙幣100の光学特性を読み取る読取領域に、光を照射するために、この読取領域に対応して配置されている。読取部32で受光した光によって分光スペクトルを取得するセンサ部34については、配置位置は特に限定されず、読取部32で受光した光は折り曲げ可能な光ガイド部33によってセンサ部34へ導かれるようになっている。そして、センサ部34で得られた分光スペクトルに係るデータが、紙幣100の金種、真偽、正損等を識別する識別処理部(図5参照)へ入力されるようになっている。なお、搬送路60の上(Z軸正方向)側に配置した分光部30に対して、搬送路60の下(Z軸負方向)側に光源部31を配置することにより、搬送路60を搬送される紙幣100の透過スペクトル及び吸収スペクトルを取得することも可能であるが、以下では、図2に示すように、分光部30及び光源部31を搬送路60の上側に配置して、紙幣100上面の反射スペクトルを取得する場合を例に説明する。
図3は、光源部31及び読取部32の構成概略を示す模式図である。図3(A)は、読取部32の内部構造を示す斜視図であり、同図(B)は光源部31の内部をX軸負方向側から見た断面図であり、同図(C)は搬送路60に対向する光源部31の底面をZ軸負方向側から見た平面図を示している。
図3(A)に示すように、読取部32内には、紙幣100の主走査方向(X軸方向)全域から光を受けられるように、紙幣100上から光を受ける16本の光ファイバの受光面501〜516がX軸方向に一列に等間隔で配置されている。光ガイド部33は、これら16本の光ファイバを束ねて形成されている。光ファイバの一端側の受光面501〜516で受けた光は、光ガイド部33を形成する光ファイバ内を通って他端側からセンサ部34内に導かれるようになっている。
図3(B)に示すように、光源部31の底面には、紙幣100への光の照射及び紙幣100からの光の受光を可能とする透明部材311が嵌め込まれている。読取部32の各受光面501〜516は、読取部32の底面から露出した状態で固定されている。光源部31を形成する複数の光源601a〜608a、601b〜608bから照射された光が透明部材311を透過して紙幣100に照射され、紙幣100で反射された光が透明部材311を透過して読取部32の受光面501〜516で受光される。
図3(C)に示すように、X軸方向に一列に等間隔で配置された8個の光源601a〜608aと、X軸方向に一列に等間隔で配置された8個の光源601b〜608bとが、16個の受光面501〜516が1列に配列されたライン(図中破線)に対して対称に配置されている。16個の光源601a〜608a、601b〜608b及び16個の受光面501〜516は、2個の光源及び2個の受光面を1組として、8組に分けられる。具体的には、例えば、隣り合う2個の受光面501、502と、これらに対してY軸正方向側にある1個の光源601aと、Y軸負方向側にある1個の光源601bとを1組とする。光源601a及び光源601bは、受光面501と受光面502の間でY軸に平行な中心線上にあり、受光面501から光源601a迄の距離、受光面501から光源601bまでの距離、受光面502から光源601aまでの距離、受光面502から光源601bまでの距離は全て等しくなっている。8組の各組を形成する2個の受光面と2個の光源との配置関係は全て同一となっている。
各光源601a〜608a、601b〜608bとして、一又は複数のLED等の発光素子を利用する。例えば、一波長の光のみを発する発光素子1個を1つの光源601aとしてもよいし、それぞれが異なる波長の光を発する複数個の発光素子を1つの光源601aとしてもよいし、異なる波長の光を発することができる1個の発光素子を1つの光源601aとしてもよい。利用する発光素子の種類は、紙幣100で発光を励起するために必要な光の種類に応じて決定される。以下では、各光源601a〜608a、601b〜608bから、赤外光及び紫外光の少なくともいずれか一方を照射可能であるものとして説明する。
なお、図3では読取部32及び光ガイド部33が、複数の光ファイバによって形成される例を示したが、本実施形態がこれに限定されるものではない。図4は、読取部32及び光ガイド部33が、複数枚の導光板401〜404によって形成される例を示す模式図である。この例では、図4(B)に示すように、ベース322によって支持された4枚の導光板401〜404がカバー321内に収められている。図4(A)に示すように、各導光板401〜404が4個の受光面を有しており、これらの受光面によって、読取部32の16個の受光面501〜516が形成される。透明部材311及びケース312を含む光源部31は、複数の光源601a〜608a、601b〜608bを有し、図4(C)に示すように、各光源601a〜608a、601b〜608bと、各受光面501〜516とは、図3(C)と同様の位置関係で配置されている。
センサ部34は、読取部32で受光して光ガイド部33によって導かれた光を受けると、この光を、散乱板、第1の45度偏光板、ウォラストンプリズム及び第2の45度偏光板を利用して異常光と常光とに分離して、レンズによってCCDセンサ上に結像することにより、分光スペクトルを取得する。
図4に示す導光板401〜404の構造及び機能、紙幣100から受けた光からウォラストンプリズム等により干渉縞を得る光学処理方法、得られた干渉縞をCCDセンサにより撮像して分光スペクトルを取得する方法については、国際公開第2013/027848号に記載しているため詳細な説明は省略する。以下では、分光部30によって、紙幣100の分光スペクトルを取得するための制御方法について詳細を説明する。
図5は、識別ユニット1の機能構成概略を示すブロック図である。識別ユニット1は、図1に示した識別用センサ部20及び分光部30と、制御部70と、記憶部80と、分光スペクトルや紙幣画像等を表示可能な表示部90とを有している。制御部70は、搬送情報取得部71、光源制御部72、データ取得部73及び識別処理部74を有している。以下では、分光部30の機能及び動作に関係する各部の機能及び動作について説明する。
搬送情報取得部71は、搬送路60による紙幣100の搬送情報を取得して、搬送路60上での紙幣100の搬送位置を特定する機能を有している。例えば、搬送ローラや搬送ベルトによって搬送される紙幣100の搬送速度、搬送路60上の所定位置で紙幣の通過を検知する検知センサによる検知結果等に基づいて、搬送路60上での紙幣100の搬送位置を特定する。搬送情報取得部71の機能により、光源部31から光を照射して読取部32によって光を読み取る搬送路60上の読取領域を紙幣100が通過するタイミングを特定することができる。
光源制御部72は、搬送情報取得部71によって特定された搬送路60上での紙幣100の搬送位置に基づいて、光源部31の動作を制御する機能を有する。具体的には、光源制御部72は、読取部32の受光面501〜516による読取領域を紙幣100が通過するタイミングに合わせて紙幣100に向けて光を照射するために、複数のLED等の光源601a〜608a、601b〜601bを有する光源部31で、点灯するLEDを選択する。また、光源制御部72は、選択したLEDを点灯するタイミング、LEDの点灯時間、LEDを点灯する際の電流値等を制御することにより、LEDの発光量を制御する。
データ取得部73は、搬送路60上での紙幣100の搬送位置に基づいて、ラインセンサ、磁気センサ、厚みセンサ等の識別用センサ部20の動作を制御して、紙幣100の画像、磁気特性、厚み等、紙幣100の特徴に係るデータを取得する機能を有している。また、データ取得部73は、搬送情報取得部71によって特定された搬送路60上での紙幣100の位置に基づいて、センサ部34の動作を制御して、紙幣100の光学特性に係るデータを取得する機能を有する。また、データ取得部73は、紙幣100上で励起された光の発光強度に応じてセンサ部34から出力される信号のゲイン及び測定時間の少なくともいずれか一方を調整する機能を有している。
識別ユニット1では、光源制御部72及びデータ取得部73の機能により、紙幣100上で励起される発光の発光強度が弱い場合でも、その発光強度に応じて、光源部31から照射する光の発光量を制御する電流値、光源部31から光を照射する時間、紙幣100で励起された発光をセンサ部34で測定する際の信号のゲイン、発光を測定する測定時間の少なくともいずれか一つを調整して、紙幣100から取得する分光スペクトルの信号強度を調整できるようになっている。
識別処理部74は、識別用センサ部20を利用してデータ取得部73で取得されたデータに基づいて、紙幣100の金種や真偽等を識別する機能を有している。また、識別処理部74は、分光部30を利用してデータ取得部73で取得されたデータに基づいて、紙幣100の金種や真偽等を識別する機能を有している。
記憶部80は、分光測定条件81及び識別用データ82の保存に利用される半導体メモリ等の不揮発性の記憶装置である。光源制御部72及びデータ取得部73は、分光測定条件81に基づいて動作するようになっている。
記憶部80に保存されている識別用データ82は、識別用センサ部20及び分光部30で取得したデータに基づいて紙幣100の金種や真偽等を識別するために利用するデータである。例えば、紙幣100の金種毎に、識別用センサ部20を利用して紙幣100から得られるデータ、分光部30を利用して紙幣100から得られるデータ等が、予め識別用データ82として保存されている。識別処理部74は、搬送路60を搬送される紙幣100から識別用センサ部20を利用して得られたデータと識別用データ82とを比較することにより、搬送路60上の紙幣100の金種、搬送状態等を特定する。同様に、識別処理部74は、搬送される紙幣100から分光部30を利用して得られたデータと識別用データ82とを比較することにより、搬送される紙幣100の金種を識別する。また、識別処理部74は、同様に、識別用データ82を利用して紙幣100の真偽、正損等の識別も行う。
分光測定条件81は、紙幣100上の所定の部分領域から分光スペクトルを取得するための測定条件を保存したものである。分光測定条件81として、光源部31に含まれる複数の光源601a〜608a、601b〜608bのうち部分領域に向けて光を照射する少なくとも1つの光源を特定するための情報、搬送路60上での紙幣100の搬送位置に合わせてこの光源を点灯するタイミングを特定するための情報、点灯した光源を消灯するタイミングを特定するための情報等が、関連付けられた状態で保存されている。分光測定条件81には、この他、光源を点灯する際の電流値、データ取得部73がセンサ部34から分光スペクトルに係る信号の取得を開始するタイミングを特定するための情報、センサ部34からの信号取得を停止するタイミングを特定するための情報、センサ部34から取得する信号のゲイン調整量を特定するための情報等も含まれている。識別ユニット1では、搬送路60を搬送される紙幣100の金種、表裏方向及び天地方向を特定することができれば、分光測定条件81を参照することにより、光源制御部72による光源部31の制御方法、データ取得部73によるセンサ部34からのデータの取得方法を決定して、搬送路60上の紙幣100から分光スペクトルを取得できるようになっている。
具体的には、識別処理部74は、まず、分光部30よりも搬送方向上流側に配置された識別用センサ部20を利用してデータを取得して、金種や新旧等の紙幣100の種類を特定すると共に、紙幣100が表面及び裏面のいずれを上面として搬送されているか、紙幣100が天地いずれの方向を搬送方向前方としているか等、紙幣100の搬送状態を特定する。次に、光源制御部72が、識別処理部74によって特定された紙幣100の種類及び搬送状態に係る情報に基づいて分光測定条件81を参照することにより、この紙幣100上で励起される発光の種類、この発光が励起される紙幣100上の部分領域、この部分領域で発光を励起するための光の種類及び照射方法、この部分領域と光源部31の光源601a〜608a、601b〜608bとの位置関係等を認識する。同様に、データ取得部73は、分光測定条件81に基づいて、この紙幣100上で励起される発光の種類、この発光が励起される紙幣100上の部分領域、この部分領域で励起された発光の測定方法、この部分領域と読取部32の受光面501〜516との位置関係等を認識する。こうして、紙幣100上での発光の励起方法及び励起された発光の測定方法が設定される。
紙幣100上での発光の励起方法及び測定方法が設定されると、搬送路60を搬送される紙幣100が分光部30による読取領域を通過するタイミングに合わせて、光源制御部72が光源部31を制御して光を照射して、データ取得部73がセンサ部34から分光スペクトルに係るデータを取得する。こうして得られた分光スペクトルから、紙幣100上の所定の部分領域に所定の光を照射することにより、所定の発光が励起されたか否かを判定することができる。これにより、データ取得部73で得られたデータを識別処理部74での紙幣100の識別処理に利用して、紙幣100の識別精度を高めることができる。
識別ユニット1では、分光測定条件81に基づく設定により、紙幣100の全面で分光スペクトルを測定することもできるし、一又は複数の部分領域のみから分光スペクトルを取得することもできる。また、紙幣100に向けて照射する光の種類を変更することで、様々な発光現象に対応できるようになっている。さらに、分光スペクトルの取得タイミングを変更することにより、蛍光発光だけではなく燐光発光の分光スペクトルを取得することもできる。以下では、光源部31が、紫外光(以下「UV光」)を照射する第1光源部31aと、赤外光(以下「IR光」)を照射する第2光源部31bとを含む場合を例に、具体的な分光スペクトルの取得方法について説明する。
なお、第1光源部31a及び第2光源部31bは、光源601a〜608a、601b〜608bによって実現される。具体的には、光源601a〜608a、601b〜608bのそれぞれから、UV光及びIR光の少なくともいずれか一方を照射することが可能となっており、第1光源部31aによりUV光を照射するよう制御された場合には、光源601a〜608a、601b〜608bからUV光が照射される。また、第2光源部31bによりIR光を照射するよう制御された場合には、光源601a〜608a、601b〜608bからIR光が照射される。
図6は、分光部30の動作を制御して紙幣100全面から光学特性に係るデータを取得する方法を説明する図である。図6(A)は分光部30の受光面501〜516及び光源601a〜608a、601b〜608bによって形成されるチャンネルを示している。図6(B)は、同図(A)に示す各チャンネルに対応して、紙幣100全面を複数の部分領域に分割したブロック701〜740を示している。図6(C)は、同図(B)に示す全てのブロック701〜740からデータを取得するための光源部31及びセンサ部34の制御方法を示す分光測定条件81である。図6(D)は、同図(C)に示す分光測定条件81に基づく第1光源部31a、第2光源部31b及びセンサ部34の制御方法を示している。
図6(A)に示すように、分光部30では、受光面501、受光面502、光源601a及び光源601bを1組(1チャンネル)として制御する。同様に2つの受光面及び2つの光源の組み合わせでチャンネル設定を行うことにより、分光部30は、チャンネル1〜8(図中Ch1〜Ch8)の8チャンネルに分けられる。
図6(B)では、図面の上方向が紙幣100の搬送方向となっている。例えば、図6(B)に示すブロック701が分光部30の直下で読取部32による読取領域と重なるタイミングで、光源部31でチャンネル1の光源601a、601bを点灯する。そして、紙幣100からの反射光を読取部32の受光面501、502で受光することにより、センサ部34でブロック701の分光スペクトルを取得することができる。
センサ部34は、全ての受光面501〜516で受光した光からプリズム等を利用して分光スペクトルを取得するものであるが、チャンネル1の光源601a、601bのみを点灯してブロック701に光を照射することにより、受光面501、502でブロック701からの反射光を受けて、ブロック701の分光スペクトルを取得できるようになっている。すなわち、ノイズとなる光がなく光源からの光のみが紙幣100に照射される環境下で、紙幣100上で分光スペクトルの取得対象となる部分領域に向けて光源から光を照射すると、この部分領域で励起された光が読み取られて分光スペクトルを取得できるようになっている。
紙幣100は、ブロック701に光を照射してデータを取得する間も搬送路60上を搬送され続けているため、ブロック701からデータを取得した後に続けてブロック702からデータを取得する際には、ブロック702の位置がブロック701に対して搬送方向と反対方向(図面の下方向)にずれた位置となる。例えば、紙幣100の搬送速度が2000mm/S、ブロック701のデータ取得にかかる時間が500μSである場合には、ブロック701とブロック702の搬送方向のずれ量は1mmとなる。この結果、ブロック701〜708の1列で搬送方向のずれ量が8mmとなるが、紙幣100に対するブロック701〜740を、図6(B)に示すように設定することにより、高速搬送される紙幣100の全面を対象として、各ブロック701〜740から分光スペクトルを取得することができる。
図6(C)は、紙幣100の全面、すなわち同図(B)に示すブロック701〜740から順に分光スペクトルを取得するための分光測定条件81を示している。分光測定条件81には、測定順序を示す「No.」、搬送路60上での紙幣100の位置をミリメートル単位で示す「紙幣位置」、センサ部34による測定方法を設定した「センサ」、UV光を照射する第1光源部31aの制御方法を設定した「第1光源」、IR光を照射する第2光源部31bの制御方法を設定した「第2光源」の項目が含まれている。
なお、図6(C)の分光測定条件81は、紙幣100全面にUV光を照射して蛍光発光を測定する例を示している。具体的には、第1光源部31aのみを利用してUV光を照射して、UV光を照射している間に、紙幣100上で励起された蛍光を測定する設定内容となっている。
分光測定条件81に含まれる「紙幣位置」の項目については、分光部30によって図6(B)に示すブロック701の測定を開始する際の搬送路60上での紙幣100の位置を0mmとしている。ブロック701の測定を終えた500μS後の紙幣100の紙幣位置は1mmとなり、さらに500μS後の紙幣100の紙幣位置が2mmとなる。
また、分光測定条件81のセンサの項目にある「測定開始」、第1光源の項目にある「点灯開始」、第2光源の項目にある「点灯開始」の項目は、いずれも、紙幣100がその紙幣位置に達したタイミングを0(ゼロ)として、測定又は点灯を何秒後に開始するかを示している。
例えば、図6(C)に示すNo.0(ゼロ)のセンサの項目は、紙幣位置が0mmとなったタイミング(0μS)で、ゲイン1で、センサ部34による測定を開始して、500μSに達した所で測定を終了することを示している。また、No.0の第1光源の項目は、紙幣100が0mmの紙幣位置に達したタイミング(0μS)で、電流値10mAで、第1光源部31aのチャンネル1の光源601a、601bを点灯してUV光の照射を開始して、開始から500μSの時間が経過した所で光源601a、601bを消灯することを示している。2000mm/Sで搬送される紙幣100のブロック701で、No.0の測定を終えた際には、紙幣位置が1mmとなっている。この1mmの紙幣位置でNo.1の測定が開始され、ブロック702の測定が行われる。No.1の測定は、第1光源部31aのチャンネル2の光源602a、602bを電流値10mAで点灯して500μSの間UV光を照射して、この500μSの間にセンサ部34による測定が行われることを示している。すなわち、図6(C)の分光測定条件81は、第1光源部31aのチャンネル1〜8の光源を順に点灯しながら測定を行う交番点灯制御を行う設定となっている。
図6(D)は、同図(C)に示す分光測定条件81に基づいて行われる第1光源部31a、第2光源部31b及びセンサ部34の制御方法を示すタイミングチャートである。図6(D)を含め、本実施形態に係るタイミングチャートは、右方向に進むほど時間が経過することを示しており、この時間の経過を、最上段の紙幣位置の目盛りによって示している。紙幣位置の数値は分光測定条件81の紙幣位置に対応しており、1mm分の1目盛りが500μSの時間を示している。また、分光スペクトルを取得するために点灯する光源は、第1光源部31a及び第2光源部31bのチャートと、各チャンネル1〜8(図中Ch1〜8)のチャートとによって示している。例えば、図6(D)の例では、紙幣位置0〜1mmの間では、第1光源部31a及びチャンネル1のみがON状態となっている。これは、第1光源部31aのチャンネル1の光源601a、601bのみを点灯して、他の光源は点灯しないことを示している。また、センサ部34のチャートは、OFFの状態が測定を行っていない状態を示し、ONの状態が読取部32の受光面501〜516からの光を受けて分光スペクトルを測定していることを示している。図6(C)の分光測定条件81では、同図(D)に示すように、紙幣位置が0〜1mmの間はチャンネル1でUV光を照射して分光スペクトルの測定が行われた後、紙幣位置が1〜2mmの間はチャンネル2でUV光を照射して分光スペクトルの測定が行われるというように、第1光源部31aの各チャンネル1〜8で、順に、UV光を照射している間に分光スペクトルの測定が行われる。
分光測定条件81に基づいて、紙幣位置が0mmから8mmに至る間に、各チャンネル1〜8の光源を順にオン、オフする交番点灯制御を行うことにより、センサ部34では同図(B)に示すブロック701〜708の1列目のデータを取得することができる。続いて、紙幣位置が8mmに至った所から、再び各チャンネル1〜8の光源を順に点灯及び消灯することにより、センサ部34では、ブロック709〜716の2列目のデータを取得することができる。こうして各チャンネル1〜8の光源の点灯タイミング及び消灯タイミングを制御して、受光面501〜516で受光した光から分光スペクトルを取得することにより、紙幣100の全面を含むブロック701〜740から分光スペクトルを取得することができる。
このように、識別ユニット1では、各ブロック701〜740から順に分光スペクトルを取得するための設定を予め分光測定条件81として準備しておくことにより、紙幣100の全面から分光スペクトルを取得することができる。
次に、図6に示す測定方法により、紙幣100の分光スペクトルを取得する具体的な例について説明する。図7は、紙幣100の全面を測定して、紙幣100上で発光が励起される部分領域から分光スペクトルを取得する方法を示す図である。
図7(A)は、UV光を照射した際に3つの部分領域101〜103で蛍光が励起される紙幣100の例を示している。図7(A)に示すように、部分領域101〜103は、それぞれが紙幣100上に設定された4つのブロックに含まれているため、図6に示すように紙幣全面の測定を行った場合に、3つの部分領域101〜103に対応する12個のブロックで、各部分領域101〜103で励起された蛍光発光の分光スペクトルが取得される。
図7(B)〜(D)は、部分領域101〜103のそれぞれに対応するブロックで取得された分光スペクトルを示している。図7(B)〜(D)に示すように、3つの部分領域101〜103で、ピーク波長、ピークレベル、信号波形等の特徴が異なる分光スペクトルが取得される。取得した分光スペクトルの特徴を紙幣100の金種や真偽等の識別処理に利用することができる。
識別ユニット1では、分光スペクトルに現れたピーク波長、ピークレベル、分光スペクトルの信号波形等の特徴に基づいて紙幣100の識別を行う他、分光スペクトルから生成した紙幣画像に基づいて紙幣100の識別を行うことも可能となっている。なお、紙幣画像の生成はデータ取得部73によって行われ、紙幣100の識別は識別処理部74によって行われる。
図7(E)は、同図(B)〜(D)に示す分光スペクトルに基づいて生成した同図(A)の紙幣100の紙幣画像200を示す模式図である。紙幣画像200は、分光スペクトルを取得する際のブロック701〜740に合わせて、紙幣全面を40個に分割したブロックから形成されている。
図7(E)では、蛍光発光が励起される部分領域101〜103に対応する部分領域191〜193を、異なる模様を用いて模式的に示しているが、実際の画像では、各領域191〜193が色及び明度の異なるカラー画像となっている。具体的には、予め設定した方法に基づいて、紙幣100上に設定された各ブロック701〜740で得られた分光スペクトルから、紙幣画像200の各ブロックの画像を生成する。例えば、紙幣100上のブロックで取得された分光スペクトルが赤の波長域にのみピークを有するものであればブロック画像を赤色の画像とし、緑の波長域にのみピークを有するものであればブロック画像を緑色の画像とし、赤のピーク及び緑のピークの両方を有する場合はブロック画像をピーク比に応じて赤と緑を混合した色の画像とする。また、例えば、ピークレベルに応じて画像の明度を変更する。なお、分光スペクトルによる特徴的な波形が得られなかったブロックは、背景色で表示される。背景色は、特に限定されないが、本実施形態では図示の便宜上背景色を白色として表示する。
例えば、図7(A)に示す紙幣100の部分領域101が含まれる4つのブロック711、712、719、720に対応して、同図(E)に示すように、紙幣画像200上の部分領域191が4つのブロックから形成される。図7(B)に示すように、紙幣100上の部分領域101から黄色の波長域にピークを有する分光スペクトルが得られるので、紙幣画像200の部分領域191は黄色の画像となる。また、図7(C)に示すように、紙幣100上の部分領域102からは緑色の波長域にピークを有する分光スペクトルが得られるので、部分領域102に対応する紙幣画像200上の部分領域192は緑色の画像となる。また、図7(D)に示すように、紙幣100上の部分領域103からは青色の波長域にピークを有する分光スペクトルが得られるので、部分領域103に対応する紙幣画像200上の部分領域193は青色の画像となる。このように、紙幣100上で蛍光発光が励起される部分領域101〜103に対応して、紙幣画像200上の対応する部分領域191〜193がカラー画像で表示される一方で、紙幣100の全面を測定した際に発光が観察されなかったブロックは背景色の白で表示される。
このように、紙幣画像201では、蛍光発光が励起された紙幣100上のブロックに対応する領域が、このブロックで励起された蛍光発光の分光スペクトルに応じた画像で表示される。紙幣100の種類によって、蛍光発光が観察されるブロックの位置、各ブロックで得られる分光スペクトル等が異なるので、紙幣画像200に基づいて、紙幣100の金種や真偽等を識別することができる。
例えば、紙幣100の金種毎に、分光スペクトルに基づいて生成した紙幣画像を、識別用データ82として予め記憶部80に保存しておくことにより、保存されている紙幣画像とデータ取得部73で分光スペクトルから生成した紙幣画像200との相関性に基づいて、紙幣100の金種等を決定することが可能となる。
識別ユニット1では、図6に示すように紙幣100全面の分光スペクトルを取得する他、紙幣100上の所定の部分領域のみから分光スペクトルを取得することもできる。以下では、図8に示す紙幣100を例に、この紙幣100上の部分領域111〜113のみから光学特性に係るデータを取得する方法を説明する。
図8は、3つの部分領域111〜113で発光が観察される紙幣100の例を示す図である。図8(A)は、紙幣100上で発光が観察される3つの部分領域111〜113を示し、同図(B)〜(D)は、それぞれの部分領域111〜113の発光を測定した際に得られる分光スペクトルを示している。具体的には、部分領域111では、図8(B)に示すように、IR光を照射した際に、反射光による分光スペクトルが取得される。また、部分領域112では、図8(C)に示すように、UV光を照射した際に、蛍光発光による分光スペクトルが取得される。また、部分領域113では、図8(D)に示すように、UV光を照射した際には700nm以下の波長域で蛍光発光による分光スペクトルが取得され、IR光を照射した際には700nm以上の波長域で反射光による分光スペクトルが取得される。このような光学特性を有する紙幣100で、分光部30により、各部分領域111〜113の分光スペクトルを取得するために、図9に示すように分光測定条件81が設定される。
図9は、図8に示す紙幣100について設定された分光測定条件81を説明する図である。図9(A)は、紙幣100上の部分領域111〜113と、紙幣100上に設定されたブロック701〜740との位置関係を示し、同図(B)は分光測定条件81の設定内容を示し、同図(C)は分光測定条件81に基づいて分光スペクトルを取得する際の第1光源部31a、第2光源部31b及びセンサ部34の動作に係るタイミングチャートを示している。
なお、図9(A)では、図6に示すブロック701〜740の設定を利用する例を示しているが、分光スペクトルを取得する際のブロック設定が図6に示す例に限定されるものではない。例えば、図9(A)では部分領域111が4つのブロックに含まれているが、部分領域111が3つ以下のブロックに含まれるようにブロックを設定することもできるし、部分領域111が5つ以上のブロックに含まれるように設定することもできる。図9(B)に示す分光測定条件81の紙幣位置と、第1光源部31a及び第2光源部31bの点灯開始タイミング及び点灯時間と、センサ部34による測定開始タイミング及び測定時間とを設定することにより、紙幣100上の任意の位置に任意の大きさのブロックを設定して、このブロックで分光スペクトルを測定することができるが、本実施形態では、図6に示すブロック設定を利用して分光スペクトルを測定する例を説明することとする。
図9(A)に示すように、紙幣100上の所定の部分領域111〜113のみで発光が観察される場合には、識別ユニット1では、これらの部分領域111〜113のみからデータを取得することができる。具体的には、図9(A)に示すように、部分領域111に対応するブロック705〜707と、部分領域112に対応するブロック710、711、718及び719と、部分領域113に対応するブロック729〜731のみで分光スペクトルを測定する。
例えば、紙幣処理装置2で図9(A)に示す紙幣100のみが処理される場合や、識別処理部74が、識別用センサ部20で得られたデータに基づいて、搬送路60を搬送中の紙幣100の金種が図9(A)に示す紙幣100の金種であると識別した場合に、同図(B)に示す分光測定条件81を利用して、同図(C)に示すように部分領域111〜113のみから分光スペクトルを取得する処理が行われる。
図9(B)及び(C)に示すように、紙幣100の位置が0mmの紙幣位置に達しても分光スペクトルの取得は行わず、搬送速度2000mm/Sで搬送される紙幣100がさらに搬送されて、紙幣位置が4mmとなったタイミングでNo.0(ゼロ)の測定を開始する。No.0の測定では、紙幣100が4mmの紙幣位置に到達したタイミングを0μSとして、ここから500μSの間、第2光源部31bのチャンネル5の光源605a、605bを電流値10mAで点灯してIR光を照射する。そして、第2光源部31bからIR光を照射するこの500μSの間に、センサ部34によって分光スペクトルを取得することにより、ブロック705で励起された発光の分光スペクトルを取得する。続いて、分光測定条件81のNo.1及び2に示す測定では、同様に、第2光源部31bからIR光を照射してブロック706及び707で励起された発光の分光スペクトルを取得する。このように、No.0〜2に示す測定を行うことにより、部分領域111に対応するブロック705〜707から、IR光を照射した際に励起される発光の分光スペクトルを取得することができる。
紙幣位置6〜7mmの間にブロック707で分光スペクトルの測定を終えた後、紙幣位置が9mmに達するまでは、光源を点灯せず分光スペクトルの取得は行わない。そして、紙幣100の紙幣位置が9mmに到達すると、再び分光スペクトルの測定を開始して、図9(B)及び(C)に示すように、分光測定条件81のNo.3〜6に示す測定を実行して、部分領域112に対応するブロック710、711、718及び719で分光スペクトルを取得する。具体的には、No.3の測定では、紙幣100が9mmの紙幣位置に到達したタイミングを0μSとして、ここから500μSの間、第1光源部31aのチャンネル2の光源602a、602bを電流値10mAで点灯してUV光を照射する。そして、UV光を照射するこの500μSの間にセンサ部34によって分光スペクトルを取得することにより、ブロック710で励起された発光の分光スペクトルを取得する。続いて、分光測定条件81のNo.4に示す測定では、同様に、第1光源部31aからUV光を照射してブロック711で分光スペクトルを取得する。ブロック711で分光スペクトルを取得した後は測定を停止する。そして、紙幣位置17mmに到達すると再び測定を開始して、分光測定条件81に示すNo.5及び6に示す測定を行って、ブロック718及び719で分光スペクトルを取得する。こうして、No.3〜6の測定により、部分領域112に対応するブロック710、711、718及び719で分光スペクトルを取得することができる。
紙幣位置18〜19mmの間にブロック719の測定を終えた後、測定を停止して、紙幣位置が28mmに到達すると再び測定を開始する。具体的には、No.7〜9では、第1光源部31aのチャンネル5〜7から順にUV光を照射すると共に、第2光源部31bのチャンネル5〜7からも順にIR光を照射することにより、部分領域113に対応するブロック729〜731でUV光による分光スペクトル及びIR光による分光スペクトルの両方を取得する。
このように、紙幣100上で分光スペクトルを取得する部分領域が予め分かっている場合には、この部分領域のみから分光スペクトルを取得することにより、処理に係る負荷を軽減することができる。例えば図9の例では、紙幣100を形成する40個のブロック701〜740のうち、10個のブロックのみから分光スペクトルを測定することにより、紙幣100上で発光が観察される部分領域111〜113の全てについて分光スペクトルを取得することができる。
こうして、部分領域111に対応するブロック705〜707では図8(B)に示すような分光スペクトルが取得され、部分領域112に対応するブロック710、711、718及び719では同図(C)に示すような分光スペクトルが取得され、部分領域113に対応するブロック729〜731では同図(D)に示すような分光スペクトルが取得される。
図10は、部分領域111〜113から取得された分光スペクトルに基づいて生成した紙幣画像201、202を示す模式図である。図7の場合と同様に、実際の紙幣画像201、202では、各領域211〜213が分光スペクトルに応じたカラー画像となっているが、図10ではこれらの画像を模様を用いて模式的に示している。
図10(A)は、UV光を照射して得られた分光スペクトルから生成した紙幣画像201を示し、同図(B)はIR光を照射して得られた分光スペクトルから生成した紙幣画像202を示している。このように、識別ユニット1では、光源部31から照射した光の種類に応じて、別々に紙幣画像201、202を生成することも可能となっている。
図8に示すように、UV光を照射した際には、部分領域112及び113で蛍光発光による分光スペクトルが取得されるため、図10(A)に示すように、紙幣画像201上では、紙幣100の部分領域112及び113に対応する部分領域212及び213が、分光スペクトルに応じた色の画像となる。同様に、IR光を照射した際には、部分領域111及び113で反射光による分光スペクトルが取得されるため、図10(B)に示すように、紙幣画像202上では、紙幣100の部分領域112及び113に対応する部分領域211及び213が、分光スペクトルに応じた色の画像となる。
識別用データ82として、図8に示す紙幣100のUV光照射時の紙幣画像及びIR光照射時の紙幣画像を予め記憶部80に保存しておけば、これらの画像と、搬送路60を搬送される紙幣100から分光スペクトルを取得して生成した紙幣画像201、202との相関性に基づいて、搬送中の紙幣100が、図8に示す紙幣100であるか否かを判定することが可能となる。
識別ユニット1では、蛍光発光に加えて燐光発光の分光スペクトルを取得することもできる。以下では、蛍光発光及び燐光発光の両方が観察される、図11に示す紙幣100を例に、光学特性に係るデータを取得する方法を説明する。
図11は、4つの部分領域121〜124で発光が観察される紙幣100の例を示す図である。図11(A)は、紙幣100上で発光が観察される4つの部分領域121〜124を示し、同図(B)〜(E)は、それぞれの部分領域121〜124の発光を測定した際に得られる分光スペクトルを示している。具体的には、部分領域121では、図11(B)に示すように、UV光を照射した際に、蛍光発光による分光スペクトルが取得される。また、部分領域122では、図11(C)に示すように、UV光を照射した際に、蛍光発光及び燐光発光による分光スペクトルが取得される。また、部分領域123では、図11(D)に示すように、IR光を照射した際に、燐光発光による分光スペクトルが取得される。また、部分領域124では、図11(E)に示すように、UV光を照射した際には700nm以下の波長域で燐光発光による分光スペクトルが取得され、IR光を照射した際には700nm以上の波長域で燐光発光による分光スペクトルが取得される。このような光学特性を有する紙幣100で、分光部30により、各部分領域121〜124の分光スペクトルを取得するために、図12に示すように分光測定条件81が設定される。
なお、図11に示す部分領域121〜124に合わせてブロックの位置及び大きさを設定することも可能であるが、本実施形態では、図6に示すブロック設定を利用して分光スペクトルを測定する例を説明する。分光スペクトルは、発光する部分領域の直上でしか測定できないものではない。このため、図12(A)に示すように、紙幣100上で発光が励起される部分領域121、123、124の一部が、測定するブロック710、720、730の領域外となる場合でも、各ブロック710、720、730から、各部分領域121、123、124で励起される発光の分光スペクトルを測定することができる。また、これとは逆に、部分領域122がブロック711に含まれて、ブロック711内の一部の領域が部分領域122となるような場合でも、ブロック711から、部分領域122で励起される発光の分光スペクトルを測定することができる。
図12は、図11に示す紙幣100について設定された分光測定条件81を説明する図である。図12(A)は、紙幣100上の部分領域121〜124と、紙幣100上に設定されたブロック701〜740との位置関係を示し、同図(B)は分光測定条件81の設定内容を示し、同図(C)は分光測定条件81に基づいて分光スペクトルを取得する際の第1光源部31a、第2光源部31b及びセンサ部34の動作に係るタイミングチャートを示している。
図12(A)に示すように、紙幣100上の所定の部分領域121〜124のみで発光が観察される場合には、これらの部分領域121〜124のみからデータを取得することができる。具体的には、図12(A)に示すように、部分領域121に対応するブロック710と、部分領域122に対応するブロック711と、部分領域123に対応するブロック720と、部分領域124に対応するブロック730のみで分光スペクトルを測定する。
例えば、紙幣処理装置2で図12(A)に示す紙幣100のみが処理される場合や、識別処理部74が、識別用センサ部20で得られたデータに基づいて、搬送路60を搬送中の紙幣100の金種が図12(A)に示す紙幣100の金種であると識別した場合に、同図(B)に示す分光測定条件81を利用して、同図(C)に示すように部分領域121〜124のみで分光スペクトルを測定する。
図12(B)及び(C)に示すように、紙幣100の位置が0mmの紙幣位置に達しても分光スペクトルの取得は行わず、搬送速度2000mm/Sで搬送される紙幣100がさらに搬送されて紙幣位置が9mmとなったタイミングで、No.0(ゼロ)の測定を開始する。No.0の測定では、紙幣100が9mmの紙幣位置に到達したタイミングを0μSとして、ここから500μSの間、第1光源部31aのチャンネル2の光源602a、602bを電流値10mAで点灯してUV光を照射する。そして、第1光源部31aからUV光を照射するこの500μSの間に、センサ部34によって分光スペクトルを取得することにより、ブロック710で励起された発光の分光スペクトルを取得する。続いて、分光測定条件81のNo.1及び2に示す測定では、第1光源部31aのチャンネル3の光源603a、603bからUV光を照射して、ブロック711で励起された蛍光発光及び燐光発光の分光スペクトルを取得する。
具体的には、No.1の測定では、紙幣位置10〜11mmの500μSの間に、UV光を照射しながら同時に分光スペクトルを取得することにより、蛍光発光の分光スペクトルを取得する。そして、No.2の測定では、紙幣位置が10mmに達してから500μS経過してUV光の照射を停止した後、500μSの間に、ゲイン2で燐光発光の分光スペクトルを取得する。言い換えれば、紙幣位置が11mmに達して光源603a、603bを消灯した後、紙幣位置11〜12mmの500μSの間に、ゲイン2で燐光発光の分光スペクトルを取得する。
蛍光発光は光源から光の照射を開始した瞬間から発光して光の照射を停止した瞬間に消失するのに対し、燐光発光では光の照射を停止した後も発光を継続して徐々に消失する残光が観察される。このため、UV光を照射している間に蛍光発光による分光スペクトルを取得して、UV光の照射を停止した後、燐光発光の分光スペクトルを取得するものである。燐光発光の発光強度は、蛍光発光の発光強度に比べて弱い。このため、No.1の測定では蛍光発光を測定する際のセンサ部34のゲインを1としているのに対して、No.2の測定では燐光発光を測定する際のセンサ部34のゲインを2としている。これにより、燐光発光の分光スペクトルのピークレベルを上げた状態で、分光スペクトルの測定結果を得られるようになっている。また、図12の例には含まれていないが、必要に応じて、分光測定条件81で設定する光源部31a、31bの電流値を変更して、光源601〜608a、601b〜608bから照射する光の光量を増大させることにより、燐光発光の発光量を増大させることも可能となっている。
識別ユニット1では、発光を励起するために光源から照射する光の発光量を制御する電流値、光を照射する時間、励起された発光を測定して得られる信号のゲイン、信号の測定時間の少なくともいずれか一つを調整することにより、蛍光発光及び燐光発光の両方で適度なピークレベルを有する分光スペクトルを得ることができる。なお、光源点灯時の電流値及び発光時間と、センサ信号取得時のゲイン及び測定時間とは、各分光スペクトルの信号波形上でピーク等の特徴が明確に現れかつセンサ部34で光を受光する受光素子が飽和状態とならないように設定される。
こうして紙幣位置9〜12mmの間に、ブロック710の蛍光発光、ブロック711の蛍光発光及び燐光発光を測定した後、紙幣位置が19mmに達するまでは、光源を点灯せず分光スペクトルの取得は行わない。そして、紙幣100が、19mmの紙幣位置に到達すると、再び分光スペクトルの測定を開始する。
図12(B)及び(C)に示すように、分光測定条件81のNo.3に示す測定を実行して、部分領域123に対応するブロック720で分光スペクトルを取得する。具体的には、No.3の測定では、紙幣100が19mmの紙幣位置に到達したタイミングを0μSとして、ここから500μSの間、第2光源部31bのチャンネル4の光源604a、604bを電流値10mAで点灯してIR光を照射する。そして、IR光を照射する500μSの間はセンサ部34による測定を行わず、紙幣位置が19mmとなってから500μSが経過してIR光の照射を停止してから500μS(紙幣位置20〜21mm)の間に、ゲイン2でセンサ部34による測定を行う。これにより、部分領域123に対応するブロック720でIR光によって励起された燐光発光の分光スペクトルを取得する。
ブロック720で燐光発光の分光スペクトルを取得した後、紙幣位置が29mmに達するまでは、光源を点灯せず分光スペクトルの取得は行わない。そして、紙幣100が29mmの紙幣位置に到達すると、再び分光スペクトルの測定を開始する。
図12(B)及び(C)に示すように、分光測定条件81のNo.4に示す測定を実行して、部分領域124に対応するブロック730で分光スペクトルを取得する。具体的には、No.4の測定では、紙幣100が29mmの紙幣位置に到達したタイミングを0μSとして、ここから400μSの間、第1光源部31a及び第2光源部31bのチャンネル6の光源606a、606bを電流値10mAで点灯して、UV光及びIR光の両方を照射する。そして、UV光及びIR光を照射する400μSの間はセンサ部34による測定を行わず、紙幣位置が29mmとなってから400μSが経過してUV光及びIR光の両方の照射を停止してから500μSの間に、ゲイン2でセンサ部34による測定を行う。すなわち、紙幣100が29mmの紙幣位置に到達した時点を0(ゼロ)として、0〜400μSの間はUV光及びIR光の両方を照射するのみで分光スペクトルの取得は行わず、400μSが経過してUV光及びIR光の照射を停止した後、400〜900μSの間にUV光による燐光発光及びIR光による燐光発光を測定するものである。
このように、所定の部分領域のみで分光スペクトルに係る測定処理を行うことにより、測定に係る負荷を軽減することができる。図12の例では、紙幣100を形成する40個のブロック701〜740のうち、4個のブロックで分光スペクトルを測定することにより、紙幣100上で発光が観察される部分領域121〜124の全てについて分光スペクトルを取得することができる。
こうして、部分領域121に対応するブロック710では、UV光によって励起された蛍光発光から図11(B)に示すような分光スペクトルが取得される。また、ブロック711では、UV光によって励起された蛍光発光及び燐光発光から図11(C)に示すような分光スペクトルが取得される。また、ブロック720ではIR光によって励起された燐光発光から図11(D)に示すような分光スペクトルが取得される。そして、ブロック730では、UV光によって励起された燐光発光及びIR光によって励起された燐光発光から図11(E)に示すような分光スペクトルが取得される。
図13は、部分領域121〜124から取得された分光スペクトルに基づいて生成した紙幣画像203〜205を示す模式図である。図7及び図10の場合と同様に、実際の紙幣画像203〜205では、各領域221〜224が分光スペクトルに応じたカラー画像となっているが、図13ではこれらを異なる模様を用いて模式的に示している。
図13(A)は、UV光を照射して得られた蛍光発光の分光スペクトルから生成した紙幣画像203を示し、同図(B)はUV光を照射して得られた燐光発光の分光スペクトルから生成した紙幣画像204を示し、同図(C)はIR光を照射して得られた燐光発光の分光スペクトルから生成した紙幣画像205を示している。このように、識別ユニット1では、光源部31から照射した光の種類と、励起された発光の種類とに応じて、別々に紙幣画像203〜205を生成することも可能となっている。
図11に示すように、UV光を照射した際に、部分領域121及び122で蛍光発光を示す分光スペクトルが取得されるため、図13(A)に示すように、紙幣100上の部分領域121及び122に対応して、紙幣画像203上の部分領域221及び222が分光スペクトルに応じた色の画像となる。また、UV光を照射した際に、部分領域122及び124で燐光発光による分光スペクトルが取得されるため、図13(B)に示すように、紙幣100上の部分領域122及び124に対応して、紙幣画像204上の部分領域222及び224が分光スペクトルに応じた色の画像となる。また、IR光を照射した際には、部分領域123及び124で燐光発光による分光スペクトルが取得されるため、図13(C)に示すように、紙幣100上の部分領域123及び124に対応して、紙幣画像205上の部分領域223及び224が分光スペクトルに応じた色の画像となる。
なお、図11〜図13では、UV光を照射した際の可視蛍光及び可視燐光、IR光を照射した際のIR蛍光及びIR燐光の分光スペクトルを取得する態様を示したが、本実施形態がこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、UV光を照射した際のIR蛍光及びIR燐光、可視光を照射した際のIR蛍光及びIR燐光の光スペクトルを取得する態様であっても構わない。紙幣100に照射する光の波長域及び紙幣100から取得する分光スペクトルの波長域は、紙幣100で励起される発光現象に応じて適宜決定される。
識別用データ82として、図11に示す紙幣100について、UV光照射時の蛍光発光の紙幣画像と、UV光照射時の燐光発光の紙幣画像と、IR光照射時の燐光発光の紙幣画像とを予め記憶部80に保存しておけば、これらの画像と、搬送路60を搬送される紙幣100から分光スペクトルを取得して生成した紙幣画像203〜205との相関性に基づいて、搬送中の紙幣100が、図11に示す紙幣100であるか否かを判定することが可能となる。
なお、上述した例では、発光が観察される領域に対して、この領域が直下を通過するチャンネルの光源を点灯する例を示したが、本実施形態がこれに限定されるものではなく、発光領域直上の光源に変えて又は加えて、発光領域に対して斜め上方から光を照射するように、分光測定条件81上を設定することもできる。また、燐光発光の測定についても、発光領域に向けて光を照射するタイミング、光の照射を停止するタイミング、燐光発光を測定するタイミングを、上述した例とは異なる値に設定することができる。例えば、2000mm/Sで搬送される紙幣100からの分光スペクトルの取得を、全てのブロックで、500μSの時間内に行うこととして、蛍光発光を測定する場合はこの500μSの間に光源からの光の照射及び蛍光発光の測定を行って、燐光発光を測定する場合にはこの500μSの間に光源からの光の照射、光の照射の停止及び燐光発光の測定の全てを終了するように設定することも可能である。具体的には、例えば、1ブロックの燐光測定を、0〜400μSの間に光源から光を照射して、光源からの光の照射を停止してから400〜500μSの間に燐光発光を測定するように設定する。これにより、例えば、最初のブロックで燐光発光を測定した直後に、次のブロックで再び蛍光発光又は燐光発光を測定する必要がある場合でも、最初のブロックで500μSの間に燐光発光に係る分光スペクトルを取得した後、続けて次のブロックでも500μSの間に蛍光発光又は燐光発光の分光スペクトルを取得することができる。
このように、識別ユニット1では、分光測定条件81により、紙幣100上の各部分領域で発光を励起するために点灯する一又は複数の光源を選択することができる。また、分光測定条件81では、各部分領域で励起される発光の種類、波長域、発光量等に合わせて、選択した光源から照射する光の種類(波長)、発光量、照射角度、発光の開始タイミング及び停止タイミング、各部分領域で励起された発光の測定開始タイミング及び停止タイミング、測定時のゲイン等を設定することもできる。これにより、搬送路60を高速搬送される紙幣100上の任意の部分領域で発光を励起すると共に、励起した発光の分光スペクトルを取得することができる。
また、識別ユニット1では、分光スペクトルに現れるピーク波長、ピークレベル等の特徴や、分光スペクトルから生成した紙幣画像を紙幣100の識別に利用する他、分光スペクトルの信号波形に基づいて紙幣100の金種等を識別することもできる。具体的には、例えば、紙幣100の金種毎に、この紙幣100上で得られる分光スペクトルの信号波形を識別用データ82として予め記憶部80に保存しておけば、識別処理部74が、データ取得部73で得られた分光スペクトルの信号波形と識別用データ82として保存されている信号波形との相関性に基づいて紙幣100の金種等を識別することが可能となる。
識別ユニット1では、識別用センサ部20による処理を終えた後に分光部30による処理を行うこともできるし、識別用センサ部20による処理及び分光部30による処理を並行して行うこともできる。
図14は、識別用センサ部20による処理と、分光部30による処理とを直列的に行う場合を示すフローチャートである。まず、識別用センサ部20による紙幣100の画像、磁気特性、厚み等が測定され(ステップS11)、測定結果に基づいて紙幣100の種類及び真偽が識別される(ステップS12)。続いて、紙幣100の種類識別結果に基づいて、紙幣100に応じた分光測定条件81が記憶部80から読み出される(ステップS13)。そして、分光測定条件81に基づいて、分光部30による分光スペクトルの測定が行われる(ステップS14)。分光スペクトルの測定結果が得られると、記憶部80に保存されている識別用データ82と比較することにより紙幣100の真偽が識別される(ステップS15)。こうして、識別用センサ部20を利用した紙幣100の種類及び真偽の識別結果と、分光部30を利用した紙幣100の真偽の識別結果とが得られると、これらに基づいて紙幣100の種類及び真偽が最終決定される(ステップS16)。
図15は、識別用センサ部20による処理と、分光部30による処理とを並列的に行う場合を示すフローチャートである。まず、識別用センサ部20により紙幣100の画像、磁気特性、厚み等が測定され(ステップS21)、測定結果に基づいて紙幣100の種類及び真偽が識別される(ステップS23)。これらの処理(ステップS21、S23)と並行して、分光部30により分光スペクトルが測定され(ステップS22)、測定結果に基づいて紙幣100の種類及び真偽が識別される(ステップS24)。
なお、紙幣100の種類が不明な状態で分光部30による測定を行う場合には、全ての紙幣100の種類を互いに区別するために必要な分光スペクトルの測定が行われる。例えば、紙幣処理装置2で処理される紙幣100が所定の発行国によるものである場合は、この発行国の紙幣100の種類を識別するために測定する必要がある紙幣100上の部分領域、各部分領域に対応する光源、光源から照射する光の波長、光を照射するタイミング及び時間、分光スペクトルを測定するタイミング及び時間等が、予め、分光測定条件81として記憶部80に保存されている。この分光測定条件81に基づいて測定を行えば、紙幣100の種類に応じて、所定の部分領域から所定の分光スペクトルを取得することができる。例えば、紙幣100の種類毎に、得られる分光スペクトル、この分光スペクトルが得られる部分領域等の情報を識別用データ82として予め準備しておくことにより、この識別用データ82と搬送路60を搬送される紙幣100から得られた分光スペクトルとに基づいて、紙幣100の種類及び真偽を識別することができる。同様に、紙幣100の種類毎に、分光スペクトルから得られる紙幣画像を識別用データ82として予め準備しておくことにより、この識別用データ82と搬送路60を搬送される紙幣100の分光スペクトルから得られた紙幣画像とに基づいて、紙幣100の種類及び真偽を識別することができる。
こうして、識別用センサ部20を利用した紙幣100の種類及び真偽の識別結果と、分光部30を利用した紙幣100の種類及び真偽の識別結果とが得られると、これらに基づいて紙幣100の種類及び真偽を決定する(ステップS25)。
分光部30による測定結果を利用して紙幣100の金種や発行年度等の種類、紙幣100の真偽を識別する他、紙幣100の正損を判定することも可能である。具体的には、同じ種類の紙幣100であれば、同じ波形を有する分光スペクトルが得られる所、紙幣100の傷み具合によって、所定の周波数域で分光スペクトルの波形が変化する。これを利用して、識別ユニット1では、所定波長域の分光スペクトルの波形に基づいて紙幣100の正損を判定することも可能となっている。
なお、本実施形態では、光源部31から照射する光として紫外光及び赤外光を利用する態様を示したが、照射する光の種類が紫外光及び赤外光に限定されるものではない。例えば、紫外光のみ又は赤外光のみで紙幣100を識別できる場合には、光源部31から1種類の光のみを照射する態様であってもよい。また、光源部31から照射する光として紫外光、赤外光の他、白色光、所定波長の可視光等、3種類以上の光を利用する態様であっても構わない。
また、読取部32に配列される受光面の数が16個に限定されるものではないし、チャンネル数が8チャンネルに限定されるものではない。受光面の数、チャンネル数、光源の数、光源から照射する光の種類等は、識別対象とする紙幣100で観察される発光現象、発光が励起される部分領域の位置やサイズに応じて適宜決定されるものである。
また、図12(B)のNo.1には、センサ部34による測定を複数回に分けて行う態様を示したが、同様に、光源601a〜608a、601b〜608bからの光の照射を複数回に分けて行うように設定することもできる。具体的には、例えば、同じ光源から照射する光によって蛍光発光及び燐光発光が励起される場合に、蛍光発光を励起するために設定された電流値で光源を点灯した後、燐光発光を励起するために設定された電流値で同じ光源を点灯する態様であっても構わない。分光測定条件81を利用することにより、1回の測定の間に、光源から光を照射するタイミング、時間及び回数と、励起された光を測定するタイミング、時間及び回数とを、測定対象とする発光に合わせて設定することができる。
また、本実施形態では、1回の測定で、1つのブロックに対応する光源のみを点灯して、このブロックで分光スペクトルを取得する態様を示したが、本実施形態がこれに限定されるものではない。具体的には、複数チャンネルの光源を同時に点灯して、各チャンネルに対応するブロックから同時に分光スペクトルを取得する態様であっても構わない。例えば、図6(A)に示すブロック701とブロック705とで異なる波長域の分光スペクトルが得られる場合には、ブロック701に対応するチャンネル1の光源601a、601bと、ブロック705に対応するチャンネル5の光源605a、605bとを同時に点灯して、ブロック701及びブロック705から同時に分光スペクトルを取得することができる。紙幣100上で、読取部32の主走査方向にある複数の部分領域で発光が励起され、これらの発光が異なる波長域の分光スペクトルを示す場合には、各部分領域に合わせてブロックを設定し、各ブロックに対応する光源を同時に点灯して、分光スペクトルを同時に測定するように分光測定条件81を設定すればよい。
上述したように、本実施形態によれば、分光測定条件81に基づき紙幣100上の複数の部分領域のそれぞれに光を照射可能に配置された複数の光源601a〜608a、601b〜608bの点灯及び消灯を制御すると共に、センサ部34によって分光スペクトルを取得するタイミングを制御することにより、蛍光発光及び燐光発光の分光スペクトルを取得することができる。そして、得られた分光スペクトル又は分光スペクトルから生成した紙幣画像を利用して紙幣100の種類、真偽、正損等を識別することができる。
光源制御部72は、搬送情報取得部71によって特定された搬送路60上での紙幣100の搬送位置に基づいて、光源部31の動作を制御する機能を有する。具体的には、光源制御部72は、読取部32の受光面501〜516による読取領域を紙幣100が通過するタイミングに合わせて紙幣100に向けて光を照射するために、複数のLED等の光源601a〜608a、601b〜608b を有する光源部31で、点灯するLEDを選択する。また、光源制御部72は、選択したLEDを点灯するタイミング、LEDの点灯時間、LEDを点灯する際の電流値等を制御することにより、LEDの発光量を制御する。
図8に示すように、UV光を照射した際には、部分領域112及び113で蛍光発光による分光スペクトルが取得されるため、図10(A)に示すように、紙幣画像201上では、紙幣100の部分領域112及び113に対応する部分領域212及び213が、分光スペクトルに応じた色の画像となる。同様に、IR光を照射した際には、部分領域111及び113で反射光による分光スペクトルが取得されるため、図10(B)に示すように、紙幣画像202上では、紙幣100の部分領域111 及び113に対応する部分領域211及び213が、分光スペクトルに応じた色の画像となる。
蛍光発光は光源から光の照射を開始した瞬間から発光して光の照射を停止した瞬間に消失するのに対し、燐光発光では光の照射を停止した後も発光を継続して徐々に消失する残光が観察される。このため、UV光を照射している間に蛍光発光による分光スペクトルを取得して、UV光の照射を停止した後、燐光発光の分光スペクトルを取得するものである。燐光発光の発光強度は、蛍光発光の発光強度に比べて弱い。このため、No.1の測定では蛍光発光を測定する際のセンサ部34のゲインを1としているのに対して、No.2の測定では燐光発光を測定する際のセンサ部34のゲインを2としている。これにより、燐光発光の分光スペクトルのピークレベルを上げた状態で、分光スペクトルの測定結果を得られるようになっている。また、図12の例には含まれていないが、必要に応じて、分光測定条件81で設定する光源部31a、31bの電流値を変更して、光源601a 〜608a、601b〜608bから照射する光の光量 を増大させることにより、燐光発光の発光量を増大させることも可能となっている。