JPWO2016052554A1 - Fe−Mn系恒弾性・不感磁性合金及びその製造方法 - Google Patents

Fe−Mn系恒弾性・不感磁性合金及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】すぐれた恒弾性及び不感磁性を兼備したFe-Mn 系合金を提供する。【解決手段】実質的に、21〜27at%のMn、及び周期律表のIVB〜VIB に属するMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr 及びHf の1種又は2 種以上からなるX 元素を合計で0.2〜7at%含有し、残部がFe 及び不可避的不純物である組成を有するともに、少なくとも-20〜80℃の温度範囲のヤング率の温度係数が±5×10-5/℃以内の恒弾性、及び磁束密度(1.5T)が300 G 以下の不感磁性特性を有するFe-Mn 系合金。

Description

本発明は、Fe-Mn系恒弾性・不感磁性合金及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、常温近傍でヤング率の温度係数が小さい恒弾性及び常温近傍で外部磁場に対して不敏感である不感磁性を兼備する合金に関するものである。加えて、本発明は恒弾性及び不感磁性を兼備するFe-Mn系合金の製造法に関するものである。
一般的恒弾性材料
恒弾性材料は、従来、測量器、地震計、回転計、時計等の精密機器用材料として開発されてきた。
代表的恒弾性合金は、非特許文献1:金属データブック(改訂4版)、日本金属学会編集、平成16年2月29日、丸善株式会社発行、第249頁に示されており、この中のコエリンバー、エルコロイIVは本出願人である公益財団法人電磁材料研究所(旧財団法人電気磁気材料研究所)が研究開発したものである。すなわち、本出願人は、1955年頃から恒弾性合金の開発研究を行い、エルコロイIVを1955年に、コエリンバーを1958年に発明した。
現在、コエリンバーのうち時計用ひげゼンマイとして本出願人が製造している合金は、(1)43.6wt%Co、34.6wt%Fe、12.7wt%Cr、9.1wt%Niの組成をもち、熱膨張係数(10〜50℃)は7.5×10−6/℃、ヤング率の温度係数(20〜50℃)が−0.2x10−5/℃であり、また(2)27.7wt%Co、39.2wt%Fe、10.0wt%Cr、3.1wt%Niの組成をもち,熱膨張係数(10〜50℃)が8.1×10−6/℃、ヤング率の温度係数(20〜50℃)が−0.2×10−5/℃である。また、コエリンバーは加工と熱処理により硬化し、高弾性となることが知られている。しかし、この合金の常温磁束密度は約6000Gであり、外部磁場に対して敏感である。
従来知られている恒弾性鉄合金は、エリンバー合金(Fe-Ni-Cr系)、コエリンバー合金(Fe-Co-Ni-Cr系合金)、エルコロイ(Fe-Co-Ni-Cr-Mo系)などの合金であり、何れの合金もキュリー温度(Tc)以下の強磁性範囲で発生する磁気弾性効果を利用して、常温付近(10〜50℃)に恒弾性範囲を得ている。このため、これら合金の常温における磁束密度は数1000 Gと高く、外部磁場の影響を受ける。
従来の恒弾性材料の上記以外の特性は次のとおりである。
非特許文献1に示されているエリンバーの中で最もヤング率が高い材料はNi系合金のYN ic(ヤング率186〜196GPa)である。しかしこの合金は伸びが僅かに2%程度であるので、加工性が劣る。
最近は、強い磁場を発生する様々な機器が出現し、この磁場の環境に曝されることが多くなったため、さらに強い磁場にも不感な恒弾性合金の開発が求められている。このことから、本出願人は、弱強磁性の恒弾性合金「パラコロイ」(登録商標第5242009号)を開発し、共同出願人とともに、日本特許第5189580号、米国特許第8684594号、中国特許第ZL200980145779号を取得した。この合金は、コエリンバーの合金組成を特定範囲に限定するとともに集合組織の特定により、常温における磁束密度を、従来と比較して格段に低下し、飽和磁束密度で2500〜3500G程度を達成している。さらにヤング率の温度係数は0〜 40℃の温度範囲で±5×10-5/℃の範囲である。
まとめ
従来の恒弾性材料であるエリンバー、コエリンバーは強磁性体であるために外部磁場に対して敏感であり、また恒弾性(以下、「エリンバー特性」ということもある)の温度範囲が狭い欠点がある。
Fe−Mn系合金
鉄系恒弾性合金では、恒弾性現象が強磁性と密接に関連して、その磁気弾性効果によって現れることから、反強磁性合金では恒弾性現象は起こらないと考えられてきた。
Fe−Mn二元系合金の状態図に関しては、1950年代に、非特許文献2:Eduard Houdremont,Handbuch der SonderstahKunde,Erster Band,1956年発行、第492−494頁で記載されているが、磁性に関しては「ε相はγ固溶体と同様に、強磁性ではない。」(第494頁)と簡単に触れられているだけである。
Fe−Mn系合金を、音叉、電気機器用フィルター用の恒弾性材料として使用することは、特許文献1;特公昭50−21965号公報(1967年5月13日のスイス国優先権主張)において提案されている。この材料は、Fe−21〜31%Mnの組成をもち、また、ネール温度の安定化のために、10%以下のCo又は20%以下のNiが添加される。このCo、Niに加えて、15wt%以下のCr+Mo+W+Si+Vを添加することができる。Fe−21%Mn合金のネール温度、即ち反強磁性体が常磁性に変化する温度が約150℃近傍にあり、ヤング率はこの温度近傍で反強磁性による最大値(ピーク)を示している。Co、Ni、Cr、Moなどの添加元素はこの最大値(ピーク)をなだらかにする効果をもっているが、−10〜+10×10−5/℃の範囲内のヤング率の温度変化を小さくする効果はもっていない。この合金の加工及び熱処理については、(イ)1000℃で熱間圧延され、その後焼鈍、徐冷;(ロ)(イ)に続いて線などに冷間加工;(ハ)(ロ)に続いて冷間加工後100〜500℃で時効処理などが、記載されている。
特許文献1のファミリーである米国特許3735971号(特許文献2)は20〜29wt%Mn、2〜9wt%Cr、0.03〜1wt%C、残部Feを必須元素とし、-10×10-5/℃〜10×10-5/℃の範囲のヤング率温度係数を有する恒弾性合金に関し、次の記載がある。
(1)Fe-Mn二元系合金:Fe-21〜27%Mnは上記範囲のヤング率温度係数を有する。
(2)組成:Crは上記範囲のヤング率温度係数が得られるMn含有量を下げる効果をも
っている(図4、カラム3、第43行の組成式)。4%までのCrは、Ni、Co、V、 Mo、 W及び/又はSiにより置換できる(カラム5、第44〜59行)。Cの一部はNにより置換することができる。
(3)ヤング率の温度係数:Crは、ヤング率の温度係数で表して-10×10-5〜10× 10-5/℃の恒弾性特性が得られるFe-Mn系合金の組成を低Mn領域に変移させる効果がある(図5)。一方、Cは恒弾性特性が得られるFe-Mn系合金の組成を高Mn領域に変移させる効果がある(図4)。
(4)製造方法:熱処理と熱間・冷間加工を調整することにより、恒弾性特性を得ること
ができる。ひげぜんまいの場合は70%の冷間加工を行い、その後580℃、1時間の熱処理は行う。あるいはAl、Be、Ti、Nbなどの元素を有する合金は、溶体化処理後に450〜750℃の時効処理を最終熱処理として行う。
(5)磁性不感特性:時計のヒゲゼンマイをスイス時計協会が規定する試験法により、
60 Oeの磁場中に放置した後の時計の遅れを測定し、0秒/日であること、及び時計は
700 Oeの磁場中で停止したとの結果を得ており、この磁性不感性能は従来の強磁 性合金より優れていると評価している。
なお、特許文献1における次の説明は特許文献2では削除され、前掲(1)〜(3)で引用した新たな知見が提示されている。特許文献1のカラム4、第12〜16行:10〜100wt%Mn-Feの組成範囲において反強磁性が現れるが、特許文献1が特徴とするCrを添加した組成では反強磁性が保たれると弾性的挙動が改善される。
特許文献3:特公昭48-3057号公報は、18〜33wt%Mn、1〜8wt%Cr、1〜15wt%Co-Feの組成をもつFe-Mn-Co-Cr系合金を、溶解し、周知の加工を施した後に溶体化処理、冷間加工及び250〜500℃の範囲の時効処理を施す製造方法を提案している。
この特許文献では、音片の振動周波数の温度に対する変化特性を測定し、Fe-Mn二元系では最大周波数と最小周波数の差が大きいが、Cr、Coはネール温度を下げることにより、この差を小さくする効果があると説明している。さらに、不純物として、2wt%以下のAl、Ti、Mo、V、Nb、W、Be、Co、Cr、C、Nなどが含有される。
特許文献4:特公昭48-3058号公報は、20〜33wt%Mn、1〜6wt%Ni、1〜8wt%Cr、1〜10wt%Co-Feの組成をもつFe-Mn-N i-Co-Cr系合金を、溶解し、周知の加工を施した後に溶体化処理、冷間加工及び200〜500℃の範囲の時効処理を施す製造方法を提案している。
この特許文献では、音片の振動周波数の温度に対する変化特性を測定し、Fe-Mn二元系では最大周波数と最小周波数の差が大きいが、Ni、 Cr、Coはネール温度を下げることにより、この差を小さくする効果があると説明している。さらに、不純物として、2wt%以下のAl、Ti、Mo、V、Nb、W、Be、Cu、Si、C、B、Nなどが含有される。
特許文献5:特公昭48-24125号公報は、18〜33wt%Mn、1〜8wt%Ni、1〜11wt%Cr-Feの組成をもつFe-Mn-Ni-Cr系合金を、溶解し、周知の加工を施した後に溶体化処理、冷間加工及び100 〜500℃の範囲の時効処理を施す製造方法を提案している。
この特許文献では、音片の振動周波数の温度に対する変化特性を測定し、Fe-Mn二元系では最大周波数と最小周波数の差が大きいが、Ni、Crはネール温度を下げることにより、この差を小さくする効果があると説明している。さらに、不純物として、2wt%以下のAl、Ti、Mo、V、Nb、W、Be、Cu、Si、C、B、Nなどが含有される。
その他の不感磁性恒弾性材料
最近では、時計のひげゼンマイ材料としてSi単結晶や、Nb合金などの非磁性材料が開発され、高級機械式時計に採用されている。しかしながら、これらの材料は、加工性が極めて不良であり、歩留まりが悪いために、コスト高になるという問題がある。
強磁場にさらされる装置・機器
現在は、ひげゼンマイよりもさらに強い磁場中で使用される装置・機器として、例えば、リニアモーターカー、超伝導コイル医療機器、強磁場装置などが身近になり、強い磁場下でも使用できる高性能の不感磁性合金の出現が強く求められている。
特公昭50-21965号公報 米国特許3735971号 特公昭48-3057号公報 特公昭48 -3058号公報 特公昭48-24125号公報
「金属データブック(改訂4版)、日本金属学会編集、平成16年2月29日、丸善株式会社発行、第249頁 :Eduard Houdremont,Handbuch der Sonderstahlkunde,Erster Band,1956年発行、第492〜494頁
特許文献1の知見を重要な点で更新している特許文献2は、Fe−21〜27%Mn二元系合金がヤング率の温度係数で表される所定の恒弾性特性をもっていると開示し、さらにMnをCrにより部分的に置換しても、上記特性が確保されることを発見し、この発見に基づいてFe−Mn−Cr系組成を開示している。本発明者らは、少なくとも−20〜80℃において±5×10−5/℃の範囲内のヤング率温度係数で表される恒弾性が得られるFe−Mn系合金を研究し、その過程で、Fe−Mn二元系は恒弾性特性が不良であることを究明し、特定のX元素が恒弾性特性を著しく改良し、且つCo、Ni、V、CrなどのZ及びWの元素はX元素の効果を損なわない範囲では添加が許容されることを見出した。また、C、N、BのY元素は熱処理によって炭化物などとして析出するため、本発明のFe−Mn−X系合金の恒弾性特性を保持したままで、むしろ、ヤング率、強度、硬度を高める効果を持つことを見出した。
特許文献3〜5が提案するFe-Mn系反強磁性合金は、本発明の特徴とするX元素を添加していないので、恒弾性特性がすぐれていない。
よって、本発明は、少なくとも-20〜80℃の温度範囲において±5×10-5/℃ の範囲内のヤング率温度係数で表される恒弾性が得られかつ磁性不感性を有する新規な Fe-Mn系合金を提供することを主たる目的とする。
本発明が特徴とするところは次のとおりである。
第1発明は、実質的に、21〜27at%の Mn、及び周期律表のIVB〜VIBに属するMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7 at%含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるとともに、少なくとも-20〜80℃の温度範囲のヤング率の温度係数±5×10-5/℃以内、及び磁束密度(1.5T)300G以下により、それぞれ表される恒弾性及び不感磁性を兼備したことを特徴とするFe-Mn系合金に関する。
第2発明は、Mn及び前記X元素、下記Y、Z及びW元素の1種又は2種以上及び、残部のFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする第1発明に係るFe-Mn系合金に関する。
Y元素:C、B及びNの1種又は2種以上2at%以下。
Z元素:Cr、V、Si、Cu及びAlの1種又は2種以上3at%以下。
W元素:Ni及びCoの1種又は2種5at%以下。
第3発明は、X元素の含有量が0.3〜5at%である第1又は第2発明に係るFe-Mn系合金に関する。
第4発明は、23〜27at%のMn、周期律表のIVB〜VIBに属すMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7at%、及び、残部Feと不可避的不純物からなり、0〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10−5/℃以下で表される低熱膨張率特性を有することを特徴とする第1発明に係るFe−Mn系合金に関する。
第5発明は、23〜27at%のMn、周期律表のIVB〜VIBに属すMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7at%、C、B及びNの1種又は2種以上のY元素を合計で2at%以下、及び、残部Feと不可避的不純物からなり、0〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10−5/℃以下で表される低熱膨張率特性を有することを特徴とする第2発明に係るFe−Mn系合金に関する。
第6発明は、第1発明から第3発明までの何れかの組成を有する鋳塊を900℃以上融点以下の温度範囲で均一化処理し、処理された鋳造材を種々の熱間又は冷間加工処理を行って、線材、細線、板材又は薄板の形状を有する素材に加工し、最終形状・寸法に加工後800〜1200℃で熱処理を行うことを特徴とするFe-Mn系恒弾性不感磁性合金の製造方法に関する。
第7発明は、第1発明から3発明までの何れか1項記載の組成を有する鋳塊を900℃以上融点以下の温度範囲で均一化処理し、処理された鋳造材を種々の熱間又は冷間加工処理を行って、線材、細線、板材又は薄板の形状を有する素材に加工し、最終形状・寸法に加工後200〜300℃の温度範囲で低温熱処理を行うことを特徴とする恒弾性及び不感磁性を兼備したFe-Mn系恒弾性不感磁性合金の製造方法に関する。
(1)本発明合金(請求項1、4、5)の、X 元素を添加した実質的にFe-Mn-Xからなる合金は、Fe-Mn系合金の反強磁性を損なうことなく、ヤング率の温度係数を変化範囲がより狭い値(恒弾性特性)とし、かつその温度係数が得られる温度範囲を拡大するとともに、種々の素材形態で本発明の恒弾性特性を実現することができる。
(2)さらに、X 元素に加えてY、Z及び/又はWを少量添加した本発明合金(請求項2、4、5)は、上記した恒弾性及びその温度範囲を保持したまま、主として、ヤング率の向上(Y元素)、耐食性向上(Z元素)、γ相の安定化(W元素)などの特性向上に寄与する。
(3)また、特定組成をもつ本発明の合金は恒弾性及びその温度範囲拡大に加えて、熱膨張率が低いという特徴ももっている(請求項4、5)。
(4)本発明合金の恒弾性は製造工程の加工・熱処理条件により影響されるが、第5発明の製造方法を採用し、最終形状が得られた後に800〜1200℃の高温熱処理を行うことにより恒弾性と不感磁性を得ることができるので、製造工程途中の各種加工や加工中の中間熱処理を採用することができる(請求項6)。さらに、各種加工素材を200〜300℃間で低温熱処理することにより、高いヤング率を保持する加工組織が残存したままで恒弾性と不感磁性を得ることができる(請求項7)。
Fe−Mn系二元合金の常温磁束密度とMn含有量の関係を示すグラフである。 Fe−25at%Mn−X系合金(合金番号A−3)のX元素の種類とヤング率の温度係数の関係を示すグラフである。 Fe−25at%Mn−0〜4.9at%Mo系合金のヤング率の温度変化に及ぼすMo量の効果を示すグラフである。 Fe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)に熱処理900℃、1時間を施した試験片のヤング率を−100+200℃の温度範囲で測定したグラフである。 Fe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)の焼鈍材を0〜50%加工した時のヤング率温度係数及び50%加工後再加熱した時のヤング率温度係数を示すグラフである。 Fe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)のヤング率の温度係数及びその屈曲点温度に及ぼす熱処理効果を調べた結果を示すグラフである。 1.5テスラの磁場下でのFe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)の常温磁束密度の熱処理温度依存性を示すグラフである。 Fe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)の熱膨張率の温度変化を示すグラフである。 図5の50%加工材を再加熱した場合の20〜200℃範囲のヤング率の温度曲線を示すグラフである。 Fe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(合金番号A−3)を常温で約50%(断面積減少率)まで加工した材料の硬さとヤング率の変化を示すグラフである。 Fe−25at%Mn−X系合金に熱処理900℃、1時間を施した試験片のヤング率を20〜200℃の温度範囲で測定したグラフである。
組成(基本組成)
図1は、後述の実施例で説明する製造方法により製造したFe-15〜35at%Mnの組成を有する試験片の常温磁束密度(B1.5T)を示すグラフである。このグラフから分かるようにMn 21at%以上において、常温磁束密度(B1.5T)が約100 Gと低くなる。この組成のネール温度は100〜130℃近傍にあり、反強磁性を得ることができる。但し、Mn含有量が27at%を超えると、ヤング率の温度係数の絶対値が大きくなる。また、Fe-Mn系合金を溶解して鋳造したインゴットの加工性が劣化するために、線材などの精密機器部品に適した形状に加工することが困難になる。
図2は後述の実施例で説明する製造方法により製造したFe-25at%Mn-Xの組成を有する試験片のヤング率温度係数(温度範囲-20〜80℃)を示すグラフである。なお、試験片の熱処理は900℃、1時間加熱後空冷で行った。
このグラフから、Fe-25at%Mn二元系はヤング率の温度係数が約-15×10-5/℃であり、絶対値が非常に大きいことが分かる。Xは、周期律表のIVB〜VIB族に属するMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr、Hfであり、ヤング率の温度係数が±5×10-5/℃の範囲内に入り、恒弾性特性を著しく良好にする効果がある。但し、X元素の含有量が0.2 at%未満であると、上記した恒弾性改善効果が少なく、また7at%を超えると、ヤング率の温度係数の絶対値が大きくなるとともに材料の加工性が劣化するために、X元素の含有量は0.2〜7at%とした。好ましいX元素の含有量は0.3〜5at%である。
さらに、図2のグラフから分かるようにCr、Vを含む合金のヤング率の温度係数は±5×10-5/℃の範囲外に大きく逸脱する。
上記したMn及びX元素の残部は実質的にFe及び不可避的不純物であり、上記したX元素の効果を維持できる限度で少量の他の元素の含有が許容される。不可避的不純物とは、これら元素の原料に含有される不純物及び溶解に起因する不純物、例えばP(燐)、S(硫黄)、O(酸素)などである。
組成(任意添加成分)
本発明のFe-Mn-X系恒弾性不感磁性合金は、ヤング率、耐食性、硬さ及び降伏強度の向上などを図るために、Y元素を目的に応じた適量を添加しても、上記した諸特性が維持される組成範囲がある。即ち、強度向上のためのC、B、Nの1種又は2種以上のY元素を合計で2at%以下添加することができる。また、Y元素のC、B、Nは、合計で2at%以下であれば恒弾性現象には殆ど影響しないで、約500〜900℃の熱処理によって化合物の析出硬化による硬さ、強度の上昇が起こり、さらには、ヤング率は約190 GPa以上と著しく向上する。
また、Y元素に加えて又は単独で、強度又は耐食性改善のためのCr、V、Si、Cu、Alの1種又は2種以上のZ元素を合計で3at%以下添加することができる。なお、図2に示すように、Fe-Mn二元系合金に添加されたCr、Vは、20〜80℃の温度範囲において±5 ×10-5/℃の範囲内のヤング率の温度係数を達成しないが、Fe-Mn-X系合金に、合計で2at%以下添加されると、上記した範囲内のヤング率の温度係数を達成したうえで、強度などが改善される。Z元素のうち、Cr、V、Siは主に耐食性を向上させる効果がある。Cu、Alは耐食性の向上と共に、金属間化合物を生成し、約500〜900℃の熱処理により金属間化合物析出による析出硬化の作用がある。このことから、本発明のFe-Mn-X-Z (Cu、Al)合金においては、恒弾性効果を弱めることなく、硬さ、強度、ヤング率を向上させることができる。
さらに、Y及び/又はZ元素に加えて又は単独で、γ相の安定化のために、Co、Niの一種又は二種を5at%以下添加することができる。
特性
(1)ヤング率
図3は、後述の実施例で説明する製造方法により作製したFe-25at%Mn-0.6〜4.9at%Moの組成を有する試験片のヤング率の温度変化を示すグラフである。なお、試験片の熱処理は、素材を900℃、1時間加熱後空冷を行った。図3から分かるように、Fe-25at%Mn-0.6〜4.9at%Moの組成では良好な恒弾性特性が得られており、常温におけるヤング率は約150〜170GPaの範囲にある。また、図9にはFe-26.2at%Mn-1.8at%Mo合金素材を900℃、1時間焼鈍後、50%冷間加工した試験片を1200℃まで加熱したときのヤング率の温度変化を示している。さらに、図11にはX元素(Mo、W、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf)を添加したFe-25at%Mn-X合金の900℃、1時間焼鈍した試験片のヤング率の温度変化を示している。これらの図から分かるように、常温のヤング率は、組成、加工及び熱処理により影響され、凡そ150〜250GPaの範囲で大きく変化する。特に、Nb、Zr、Hf、Ta、Ti等の添加及び冷間加工後1000℃以上の高温焼鈍処理はヤング率を増大させる効果が大きい。このように、本発明の合金は広い常温ヤング率の値を有しており、種々の応用に適応させることができる。
(2)ヤング率の温度係数
図2を参照して説明したように、本発明が特徴とするX元素の添加により少なくとも-20〜80℃という広い温度範囲において、±5×10-5/℃の範囲内のヤング率の温度係数をもつFe-Mn系合金が提供される。
図4は、Fe-26.2at%Mn-1.8at%Mo合金に熱処理900℃、1時間を施した試験片のヤング率を-100〜200℃の温度範囲で測定したグラフである。このグラフにおいて、‐20〜100℃の温度範囲において、ヤング率の温度係数が一定し、恒弾性が得られているのは、上記合金が反強磁性体であることと関連している(図1参照)。但し、ほとんどの恒弾性・不感磁性合金の用途では、-20 〜80℃の範囲内の温度変化に合金がさらされるので、この範囲を本発明においては恒弾性が得られる範囲とした。
ヤング率の温度係数の回復
本発明が特徴とする±5×10-5/℃のヤング率の温度係数により表される恒弾性特 性は約15%以上の加工度の加工により劣化するが、熱処理により回復する。
図5は、後述の実施例の方法で製造した鍛造材を900℃、1時間加熱して焼鈍後空冷し、その後加工率50%(断面積減少率)まで、10%刻みで冷間加工した材料のヤング率、及びその内の50%の冷間加工材を200〜1200℃で熱処理した各試験片についてヤング率の温度係数を測定したグラフである。このグラフから分かるように、900℃、1時間の熱処理を施した素材に施す冷間加工が15%以下であると、±5×10-5/℃の範囲内のヤング率の温度係数を保つことができる。さらに高い加工率の冷間加工によりヤング率の温度係数はマイナス方向に大きく増大する。しかし、50%の冷間加工を施した試験片を加熱すると、ヤング率の温度係数はプラス方向に著しく増大した後、600℃以上で再び減少して、800℃以上で±5×10-5/℃の範囲に回復する。図9は20〜200℃の温度範囲のヤング率の変化を示す。したがって、加工によって失われた恒弾性効果は、熱処理によって、約250℃及び800〜1200℃の2つの温度領域で回復し、恒弾性効果が得られることが分かる。
図6は、同じ合金を900℃、1時間の焼鈍を行わない、素材を熱処理した場合の結果である。ヤング率の温度係数を縦軸(左側)に表し、横軸に熱処理温度(各温度に1時間保持後空冷)を示したグラフである。さらに、縦軸(右側)には、恒弾性領域の上限温度であるヤング率変曲点(℃)を示す。このグラフから、図5の冷間加工材と同様に800〜1200℃の広い熱処理温度範囲でヤング率は±5×10-5/℃の温度係数を示し、この恒弾性を示す温度領域の上限であるヤング率の変曲点は80〜90℃の範囲であることが分かる。この結果から、種々の加工処理を行った後でも、800〜1200℃の熱処理によって恒弾性を得ることができる。
(3)不感磁性
図1に示すように、Fe−21〜27at%Mnの範囲において常温磁束密度(B1. 5T)は非常に低くなり、1.5Tの強い外部磁界においても磁束密度が約20G程度までしか磁化されない。なお、本発明において、磁束密度を測定する磁界の強さを1.5T(テスラ)としたのは飽和磁束密度を得るためである。同一の磁界で測定した場合のコエリンバーなどの強磁性恒弾性材料と比較すると、本発明のFe−Mn−X三元系合金の磁束密度は1/500程度と非常に低く、磁性不感特性が根本的に改善されている。即ち、本発明のFe−Mn−X−(Y、Z、W)系合金は、時計などがさらされる数100 Oeの磁界中で使用されても、また1.5Tという強磁界中で使用されても、磁性不感特性を発揮し、恒弾性特性を維持する。
図7は、横軸が図6の熱処理温度と同じであり、縦軸が、常温、1.5T(テスラ)の磁界で測定した磁束密度(G、ガウス;1G=10−4T)を示している。この図から、600〜900℃の範囲で熱処理された試験片は常温での磁束密度が約20Gであり、極めて小さいことが分かる。
本発明のFe−Mn−X−(Y、Z、W)合金では、添加元素によっては少量のα−Feや鉄化合物が析出して磁化が上昇する場合がある。しかし、磁束密度が300Gまでは恒弾性特性が維持されるので、この値を本発明の特性とした。
(4)低熱膨張率
図8は、図6に示される900℃熱処理を施された試験片の熱膨張率の温度係数を示すグラフである。熱膨張率は、20〜90℃までの変曲点以下では1.1×10-5/℃である。表1に見るように、Fe-Mn二元系合金の熱膨張率は約1.4×10-5/℃であるのに対して、Fe-23〜27at%Mn合金にX元素含むFe-Mn-X合金(第4発明)は1.1×10-5/℃以下の優れた低熱膨張特性をもっている。さらにY元素を含むFe-Mn-X-Y合金(第5発明)も1.1×10-5/℃以下の優れた低熱膨張特性を持っている。本発明においては、Fe-Mn二元系合金との熱膨張率の有意差が明確になるように、熱膨張率測定は、変曲点以下で、20〜90℃という広い温度範囲で行った。
特性のまとめ
上述した、ヤング率の温度係数及び不感磁性を利用した用途例は、強い外部磁界がかかる環境で使用される精密機器の部品、例えば、吊り線、コイルばね、板ばね、ひげぜんまい、板ばねの回転計、リニア−モーターカーの駆動部、超電導コイルを利用した医療機器、強磁場装置、宇宙精密機器などがある。また、上記特性に加えて低熱膨張率を要求する用途も増えつつある。
(5)製造方法(第6発明)
本発明の合金は、鋳造材を加工して線材、細線、板材又は薄板の形状を付与し、主として小型の精密機器の部品として使用される。鋳造材は、900℃以上、融点以下の温度で、好ましくは900〜1300℃の熱処理を施した後、加工及び熱処理を施す。加工は、熱間及び冷間加工により上記した線材、細線、板材又は薄板の形状の素材を得ることを目的とする。これらの加工工程の途中における熱処理は、適宜行うことができるが、最終形状及び寸法を有する素材に800〜1200℃の熱処理を行うことが必要である。
図5、6、9に示す結果から、製造工程における加工及び熱処理条件により、ヤング率及びその温度係数が変化することが判る。第6発明に関係する熱処理に関しては、後述の実施例で説明する製造方法により製造した製造材(As Prepared、As Pr.)のままの材料及びそれを900℃、1時間焼鈍した後50%加工した冷間加工材料(図5)の両者において、800〜1200℃で1時間熱処理を施すことにより、±5 ×10-5/℃以内のヤング率の温度係数が得られる。この結果に基づいて、第5発明においては、最終形状を有する加工材に800〜1200℃の熱処理を行うことを要件としている。なお、素材に1000℃以上の熱処理を施すと、恒弾性を示す領域のヤング率が高くなり、例えば1200℃の熱処理で240 GPaの高いヤング率を得ることができる。
(6) 製造方法(第7発明)
図5のデータには、前掲(5)以外に、本発明の製造工程において施されることがある次の加工・熱処理条件が示されている。即ち、(a)冷間加工状態の素材は、ヤング率は大きく、かつ負の温度係数を有する。(b)素材を約200℃以上で熱処理すると、ヤング率の温度係数は負から正の値に大きく変化し、250℃付近に±5 X10 /℃の値が得られる。この結果から、鋳造材に適宜、熱間・冷間加工を施して線材、細線、板材、薄板などに成形加工した素材を200〜300℃の低温熱処理を施すことで恒弾性を得ることが期待できる。ヤング率、強度、硬度は、加工組織が残存するために高い値を示すのが特徴である。例えば、ヤング率215GPa(図9)、硬度490Hvが得られる。但し、恒弾性が得られる温度は極めて狭いので、図5に示されたFe−26.2at%Mn−1.8at%Mo合金(900℃×1hr熱処理・空冷後加工)の例のように、合金組成や加工状態により熱処理温度を選択する必要がある。
一方、常温磁束密度については、上記図5の供試材の低温熱処理と同様、As Pr.材の約200℃の熱処理によっても恒弾性合金の常温磁束密度(B1.5T)は約30Gを示し(図7)、不感磁性特性を満たしている。
なお、熱膨張率の温度変化は、製造法による影響を殆ど受けないので、第4、5発明の組成を持つ合金であれば、第7発明の方法で製造しても低熱膨張率を持っている。
図10は、溶解・鋳込み後、熱間加工、焼鈍、冷間加工、及び熱処理の工程により製造したFe-26.2at%Mn-1.8at%Moの組成を有する合金を、その後900℃、1時間加熱後空冷の熱処理(焼鈍)を施した試験片につき冷間加工率とヤング率及び硬さとの関係を示すグラフである。このグラフは、第6発明により素材を最終形状に加工した後に、寸法精度の調整などのために、軽度の加工を行うことができることを示している。即ち、最終焼鈍(第6発明)を行った後に15%までの冷間加工を行っても恒弾性特性を保持することができる。本発明の合金は、冷間加工により、硬さ及びヤング率が15%以上の冷間加工により急増するとともに恒弾性特性が劣化するが、冷間加工後の熱処理により加工組織から回復し、恒弾性特性が得られる。なお、冷間加工の割合が大きい場合は、冷間加工工程の途中で適時に中間焼鈍を行うことができる。
次に本発明の実施例について説明する。
なお、実験で使用した測定装置として、ヤング率測定に自由共振式ヤング率測定装置
、磁束密度測定に振動型磁力計、熱膨張率測定にプッシュロット型全膨張式熱膨張計、
硬さ測定に微少ビッカース硬度計、結晶構造解析には全自動多目的X線回折装置等を使
用した。
実施例 1
原料として、市販の99.99%純度の電解鉄、99.9%純度の電解マンガン、99 .9%純度の塊状モリブデンを用い、原料の全重量 500gをアルミナ坩堝に挿入し 、真空中で高周波誘導電気炉によって溶かした後、20mm径の金型に注入して鋳造材 とした。その後鋳造材を1000℃で均一化熱処理を行った後、熱間鍛造して10mm 角の棒とした。さらに、この角棒を1000℃、1時間の焼鈍後、スエージング及 び線引きや圧延により所定の試験片とした。最終熱処理は真空中で900℃、1 時間行い、実験に供した。供試材試験片の特性、即ち、合金組成(at%)、ヤング 率、熱膨張率、硬さ、磁性、組織の観察結果をまとめて表1及び表2に示す。この表 1に示す試験片の合金組成はFe−Mn-X系を、表2にはFe-Mn-Mo-( Y、Z、W)系の例を示しており、また、比較例としてX元素を含 まない合金系を併せて示した。
Figure 2016052554
表1において、A-1はX元素を添加しない比較例であり、常温磁束密度(1.5T)は低いが、ヤング率の温度係数の絶対値及び熱膨張率は大きい。A-5はX元素を含むもののMn 28.1at%とMn組成の上限を超えており、A-1と同様常温磁束密度(1.5T)は低いが、ヤング率の温度係数は大きい。また、A-11、 A-12はX元素を含まず、Z元素を添加した例であり、やはりヤング率の温度係数が高い。これに対して、本発明の実施例(A-2〜4、A-6〜10、A-13〜20)では良好な特性が得られている。硬度は軟質鉄系材料の値に相当し、本発明合金の加工性は良好であることが分かる。
実施例1の試料No. A-3, A-10, A-13, A-14, A-15, A-16, A-17について20〜200℃の温度範囲でヤング率を測定した結果を図11に示す。
実施例2
X及びW元素の添加は約99%純度の金属を用い、Cは鉄-炭素系合金、NはMn-窒素系化合物、Bは鉄-ホウ素系合金を用いた他は、実施例1と同様の方法により試験片を製造した。供試試験片の特性を表2に示す。表に示す試験片の合金組成はFe-Mn-Mo-(Y、Z、W)系合金を中心に、併せて比較例としてX元素を含まない合金系を示した。
Figure 2016052554
表2において、B-1、B-5はMo元素を含まない比較例であり、B-10、B-11、B-13、B-15はZ元素の添加量が多い比較例である。これらの比較例では何れもヤング率の温度係数が高い。これに対して上記の合金以外の本発明実施例(B2〜4、B6〜9、B-12、B-14、B16〜21)では良好な恒弾性特性及び常温磁束密度が得られている。
恒弾性と磁性不感特性が同時に要求される各種機器、特に精密機器の部品の性能改良、新たな用途開発などの面において本発明は産業に大きく寄与する。
【0007】
[0020]
よって、本発明は、少なくとも−20〜80℃の温度範囲において±5×10−5/℃の範囲内のヤング率温度係数で表される恒弾性が得られかつ磁性不感性を有する新規なFe−Mn系合金を提供することを主たる目的とする。
課題を解決するための手段
[0021]
本発明が特徴とするところは次のとおりである。
第1発明は、実質的に、21〜27at%のMn、及び周期表のIVB〜VIBに属するMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7at%含有し、残部がFe及び不可避的不純物であるとともに、少なくとも−20〜80℃の温度範囲のヤング率の温度係数±5×10−5/℃以内、及び磁束密度(1.5T)300G以下により、それぞれ表される恒弾性及び不感磁性を兼備したことを特徴とするFe−Mn系合金に関する。
[0022]
第2発明は、Mn及び前記X元素、下記Y、Z及びW元素の1種又は2種以上及び、残部のFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする第1発明に係るFe−Mn系合金に関する。
Y元素:C、B及びNの1種又は2種以上2at%以下。
Z元素:Cr、V、Si、Cu及びAlの1種又は2種以上3at%以下。
W元素:Ni及びCoの1種又は2種5at%以下。
[0023]
第3発明は、X元素の含有量が0.3〜5at%である第1又は第2発明に係るFe−Mn系合金に関する。
[0024]
第4発明は、23〜27at%のMn、周期表のIVB〜VIBに属すMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7at%、及び、残部Feと不可避的不純物からなり、0〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10−5/℃以下で表される低熱膨張率特性を有することを特徴とする第1発明に係るFe−Mn系合金に関する。
[0025]
第5発明は、23〜27at%のMn、周期表のIVB〜VIBに属すMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からなるX元素を合計で0.2〜7at%、C、B及びNの1種又は2種以上のY元素を合計で2at%以下、及び、残部Feと不可避的不純物からなり、0〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10−5/℃以下で表さ
【0010】
発明を実施するための形態
[0030]
組成(基本組成)
図1は、後述の実施例で説明する製造方法により製造したFe−15〜35at%Mnの組成を有する試験片の常温磁束密度(B1.5T)を示すグラフである。このグラフから分かるようにMn21at%以上において、常温磁束密度(B1.5T)が約100Gと低くなる。この組成のネール温度は100〜130℃近傍にあり、反強磁性を得ることができる。但し、Mn含有量が27at%を超えると、ヤング率の温度係数の絶対値が大きくなる。また、Fe−Mn系合金を溶解して鋳造したインゴットの加工性が劣化するために、線材などの精密機器部品に適した形状に加工することが困難になる。
[0031]
図2は後述の実施例で説明する製造方法により製造したFe−25at%Mn−Xの組成を有する試験片のヤング率温度係数(温度範囲−20〜80℃)を示すグラフである。なお、試験片の熱処理は900℃、1時間加熱後空冷で行った。
このグラフから、Fe−25at%Mn二元系はヤング率の温度係数が約−15×10−5/℃であり、絶対値が非常に大きいことが分かる。Xは、周期表のIVB〜VIB族に属するMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr、Hfであり、ヤング率の温度係数が±5×10−5/℃の範囲内に入り、恒弾性特性を著しく良好にする効果がある。但し、X元素の含有量が0.2at%未満であると、上記した恒弾性改善効果が少なく、また7at%を超えると、ヤング率の温度係数の絶対値が大きくなるとともに材料の加工性が劣化するために、X元素の含有量は0.2〜7at%とした。好ましいX元素の含有量は0.3〜5at%である。
さらに、図2のグラフから分かるようにCr、Vを含む合金のヤング率の温度係数は±5×10−5/℃の範囲外に大きく逸脱する。
[0032]
上記したMn及びX元素の残部は実質的にFe及び不可避的不純物であり、上記したX元素の効果を維持できる限度で少量の他の元素の含有が許容される。不可避的不純物とは、これら元素の原料に含有される不純物及び溶解に起因する不純物、例えばP(燐)、S(硫黄)、O(酸素)などである。
[0033]
組成(任意添加成分)

Claims (7)

  1. 実質的に、21〜27at%の Mn、及び周期律表のIVB〜VIB に属すMo、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2 種以上からなるX元素を合計で0.2〜7 at%含有し、残部がFe及び 不可避的不純物であるとともに、少なくとも-20〜80℃の温度範囲のヤング率の温 度係数±5×10-5/℃以内、及び磁束密度(1.5T)300 G以下により、そ れぞれ表される恒弾性及び不感磁性を兼備したことを特徴とするFe-Mn系合金。
  2. Mn、前記X元素、下記Y、Z及びW元 素の1種又は2種以上、及び残部Fe及び不可避的不純物からなることを特 徴とする請求項1記載のFe-Mn系合金。
    Y元素;C、B及びNの1種又は2種以上2at%以下。
    Z元素: Cr、V、Si、Cu及びAlの1種又は2種以上3at%以下。
    W元素:Ni及びCoの1種又は2種5at%以下。
  3. X元素の含有量が0.3〜5at%である請求項1又は2記載 のFe-Mn系合金。
  4. 23〜27at%の Mn、周期律表のIVB〜VIBに属すMo 、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からな るX元素を合計で0.2〜7 at%、及び、残部Feと不可避的不純物から なり、0〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10-5/℃以下であることを特徴 とする請求項1記載のFe-Mn系合金。
  5. 23〜27at%の Mn、周期律表のIVB〜VIBに属すMo 、W、Nb、Ta、Ti、Zr及びHfの1種又は2種以上からな るX元素を合計で0.2〜7 at%、C、B及びNの1種又は2種以上の Y元素を合計で2at%以下、残部、Feと不可避的不純物からなり、0 〜80℃範囲における熱膨張率が1.1×10-5/℃以下であることを特徴とする請求 項2記載のFe-Mn系合金。
  6. 請求項1から3までの何れか1項記載の組成を有する鋳塊を900℃ 以上融点以下の温度範囲で均一化処理し、処理された鋳造材を種々の熱間又は冷間加 工処理を行って、線材、細線、板材又は薄板の形状を有する素材に加工し、最終形状・ 寸法に加工後800〜1200℃の温度範囲で熱処理を行うことを特徴とする恒弾性及び 不感磁性を兼備したFe-Mn系恒弾性不感磁性合金の製造方法。
  7. 請求項1から3までの何れか1項記載の組成を有する鋳塊を900℃以上融点以下の温度範囲で均一化処理し、処理された鋳造材を種々の熱間又は冷間加工処理を行って、線材、細線、板材又は薄板の形状を有する素材に加工し、最終形状・寸法に加工後200〜300℃の温度範囲で低温熱処理を行うことを特徴とする恒弾性及び不感磁性を兼備したFe-Mn系恒弾性不感磁性合金の製造方法。
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