JPWO2016002827A1 - 進行型免疫性脱髄疾患治療剤 - Google Patents

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Abstract

抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤、Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤、又は細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。

Description

本発明は、進行型免疫性脱髄疾患治療剤に関する。
多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)とは、自己免疫疾患のひとつで、髄鞘及び神経軸索を標的とする多発性炎症が惹起され、広汎な脱髄に起因する神経伝導障害を引き起こす疾患である。多発性硬化症の病態が進行すると、運動障害や視覚障害などの重篤な神経症状が現れる。
多発性硬化症は、急性増悪と寛解を繰り返す再発寛解型MS(RR−MS)と、進行型MSがある。進行型MSには、一次進行型MS(PP−MS)と、RR−MS病態が一定期間続いた後に進行性の病態へと移行する二次進行型MS(SP−MS)、及び再発を繰り返しながら進行する進行再発型MS(PR−MS)が知られている(非特許文献1〜3)。
Nature Reviews Neurology 2012,8,647−656. Nature Reviews Neurology 2013,9,496−503. Multiple Sclerosis Journal 2013,19: 1428−1436.
RR−MSの疾患修飾性治療薬(disease−modifying therapy:DMT)として、1型インターフェロン、抗炎症剤、免疫抑制剤等が知られている。一方、進行型MSに対してRR−MSのDMTを適用しても効果がなく、現在のところ進行型MSに対するDMTは知られていない。
これまでのところ、進行型MS病態の形成機序は、RR−MS病態の形成機序との異同を含めて全く明らかではない。また、RR−MS病態からSP−MS病態へ移行する原因も明らかではなく、進行型MS病態への移行時期を判定する基準も全くないのが現状である。進行型MS病態モデルとなる非ヒト動物モデルがないこともSP−MS病態の解明が進まない原因の一つである。
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、進行型免疫性脱髄疾患治療剤の提供を主な目的とする。本発明はまた、進行型免疫性脱髄疾患の診断方法の提供、及び進行型免疫性脱髄疾患モデルとなる非ヒト動物モデルの提供も目的とする。
本発明者らは、単相型の実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導したNR4A2欠損マウスでは、誘導初期に通常の四肢麻痺を伴うEAE病態が観察されない一方で、誘導後期(誘導後約28日以降)にEAE病態(以下、「後期EAE病態」ともいう。)が観察されること、及び後期EAE病態が進行型MS病態のモデルになることを見出した。本発明者らはまた、後期EAE病態において、中枢神経系(CNS)に浸潤したCD4T細胞のEomes遺伝子の発現が亢進していること、及びEomes遺伝子発現を抑制することで後期EAE病態を抑制できることを見出した。本発明はこれらの新規な知見に基づくものである。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(22)を提供する。
(1)抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(2)Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(3)前記発現抑制物質が、Eomesの遺伝子発現を抑制する核酸である、(2)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(4)前記核酸が、Eomes遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA及びリボザイムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(3)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(5)細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(6)前記細胞障害性プロテアーゼが、EomesCD4T細胞が産生する細胞障害性プロテアーゼである、(5)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(7)前記活性阻害物質がプロテアーゼインヒビターである、(5)又は(6)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(7−1)前記活性阻害物質が、グランザイムB阻害剤である、(5)又は(6)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(7−2)前記グランザイムB阻害剤が、グランザイムB特異的siRNAである、(7−1)に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(8)進行型多発性硬化症治療剤である、(1)〜(7)のいずれか一項に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
(9)進行型免疫性脱髄疾患の診断方法であって、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップと、検出されたEomesCD4T細胞の頻度が閾値を超える場合に、前記ヒト対象が進行型免疫性脱髄疾患を発症していると判定するステップと、を含む、診断方法。
(10)前記体液が、血液又は脳脊髄液である、(9)に記載の診断方法。
(11)前記閾値が、健常ヒト対象の血液中のEomesCD4T細胞の頻度に基づいて設定されたものである、(9)又は(10)に記載の診断方法。
(12)前記頻度が、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合である、(9)〜(11)のいずれか一項に記載の診断方法。
(13)前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、(9)〜(12)のいずれか一項に記載の診断方法。
(14)進行型免疫性脱髄疾患の診断のためのデータ収集方法であって、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップと、検出されたEomesCD4T細胞の頻度を算出するステップと、を含む、データ収集方法。
(15)前記体液が、血液又は脳脊髄液である、(14)に記載のデータ収集方法。
(16)前記頻度が、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合である、(14)又は(15)に記載のデータ収集方法。
(17)前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、(14)〜(16)のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
(18)Eomes遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Aと、CD4遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Bと、を含む、進行型免疫性脱髄疾患の診断剤。
(19)前記試薬Aが、抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片であり、前記試薬Bが、抗CD4抗体又はその抗原結合性断片である、(18)に記載の診断剤。
(20)前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、(18)又は(19)に記載の診断剤。
(21)進行型免疫性脱髄疾患非ヒト動物モデルとしてのNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物の使用。
(22)前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導されたものである、(21)に記載の使用。
(23)前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、NR4A2遺伝子コンディショナルノックアウトマウスである、(21)又は(22)に記載の使用。
(24)前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、CD4T細胞特異的にNR4A2遺伝子がノックアウトされたマウスである、(21)〜(23)のいずれか一項に記載の使用。
本発明によれば、進行型免疫性脱髄疾患治療剤の提供、進行型免疫性脱髄疾患の診断方法の提供、及び進行型免疫性脱髄疾患モデルとなる非ヒト動物モデルの提供が可能となる。
単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスのEAEスコアを示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスにおけるCNSへ浸潤したT細胞数を示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスにおけるCNSへ浸潤したT細胞によるIL−17産生量を示すグラフである。 再発寛解型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスのEAEスコアを示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスにおけるCNSへ浸潤したCD4T細胞のEomes発現量を示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスの後期EAE病態におけるCNSへ浸潤したCD4T細胞のIL−17、IFN−γ及びEomes発現を示すサイトグラムである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスの後期EAE病態におけるCNSへ浸潤したCD4T細胞のCD27及びCD11a発現を示すサイトグラムである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスの後期EAE病態におけるCNSへ浸潤したCD4CD27T細胞を移入した単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスのEAEスコアを示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス及び対照マウスに、Eomes特異的siRNAを投与したときのEAEスコアを示すグラフである。 単相型EAEを誘導したEomes欠損マウス及び対照マウスのEAEスコアを示すグラフである。 単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス、NR4A2/Eomes欠損マウス及び対照マウスのEAEスコアを示すグラフである。 CNSへ浸潤したリンパ球のパーフォリン1の発現量を示すグラフである。 CNSへ浸潤したリンパ球のグランザイムBの発現量を示すグラフである。 CNSへ浸潤したリンパ球のCD107aの発現量を示すグラフである。 抗CD226抗体の投与によるEAE病態の変化を示すグラフである。 健康成人、RR−MS患者及びSP−MS患者由来のCD3PBMCにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラム、CD3CD4PBMCにおけるCD11a及びEomes発現を示すサイトグラム、並びにCD3CD4PBMCにおけるCD27及びEomes発現を示すサイトグラムである。 健康成人、RR−MS患者及びSP−MS患者由来のCD3CD4PBMCに占めるEomes細胞の割合を示すプロットである。 SP−MS患者由来のCD3CD4PBMCのCD107a、IFN−γ、グランザイムB及びパーフォリン1発現を示すサイトグラムである。 図19Aは、SP−MS患者由来のCD3PBMCにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラム、並びにSP−MS患者由来のCD3CSFにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラムである。図19Bは、SP−MS患者由来のCD3PBMC及びCD3CSFにおけるCD4EomesT細胞の割合をプロットしたグラフである。 グランザイムB特異的siRNAの投与によるEAE病態の変化を示すグラフである。
〔定義〕
本明細書において、「進行型免疫性脱髄疾患」とは、免疫反応に起因する髄鞘の障害により生じる疾患であって、寛解することなく持続的に進行する疾患を意味する。進行型免疫性脱髄疾患は、好ましくは中枢神経系の進行型免疫性脱髄疾患である。進行型免疫性脱髄疾患としては、例えば、PP−MS、SP−MS及びPR−MS等の進行型多発性硬化症が挙げられる。
NR4A2遺伝子は、Nurr1遺伝子、NOT遺伝子、又はRNR1遺伝子とも呼ばれ、オーファン核内受容体の1種である。NR4A2遺伝子の主な発現部位は、中枢神経系であり、特に中脳腹側、脳幹、脊髄に強く発現している。また、NR4A2は,プロスタグランジン、増殖因子、炎症性サイトカイン、T細胞受容体架橋に応答して発現が誘導され、リガンド依存性又はリガンド非依存性にDNAと直接結合して転写を制御する。ヒトNR4A2遺伝子の転写産物のNCBI Reference Sequenceのアクセッション番号は、NM_006186.3である。
Eomes遺伝子は、Eomesodermin又はTbr2とも呼ばれ、T−box転写因子族の一種であり、脊椎動物の発生や分化に係るタンパク質である。Eomes遺伝子は、CD8T細胞(細胞障害性T細胞,CTL)及びNK細胞で発現していることが知られている。また、パーフォリン及びグランザイムBの発現を直接誘導することが知られている。ヒトEomes遺伝子の転写産物のNCBI Reference Sequenceのアクセッション番号は、NM_001278182.1(バリアント1)、NM_005442.3(バリアント2)、及びNM_001278183.1(バリアント3)である。
〔進行型免疫性脱髄疾患治療剤〕
本発明の第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片を有効成分として含有する。当該治療剤は、進行型免疫性脱髄疾患の病態の進行抑制剤としても使用することができる。
抗CD27抗体としては、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。抗CD27抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ハムスター抗体、ウサギ抗体、サル抗体、イヌ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体のいずれであってもよい。抗CD27抗体は、血中滞留性等の物性を改善するために化学修飾を施したものであってもよい。また、抗CD27抗体は、治療効果を高めるために、放射性核種、毒素等が結合したものであってもよい。
抗CD226抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、抗CD226抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ハムスター抗体、ウサギ抗体、サル抗体、イヌ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体のいずれであってもよい。抗CD226抗体は、血中滞留性等の物性を改善するために化学修飾を施したものであってもよい。また、抗CD226抗体は、治療効果を高めるために、放射性核種、毒素等が結合したものであってもよい。
抗原結合性断片としては、抗体の抗原結合部位を含む抗体断片であればよく、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、ダイアボディ等が挙げられる。
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上述した抗CD27抗体、抗CD27抗体の抗原結合性断片、抗CD226抗体、及び抗CD226抗体の抗原結合性断片の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片は、常法に従い製造することができる。また、市販品を使用してもよい。
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤における上記有効成分(抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片)の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、進行型免疫性脱髄疾患治療剤全量を基準として、0.001〜100質量%であってよい。
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上記有効成分のみで構成されていてもよく、また上記有効成分以外に、製剤技術分野において常用される賦形剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤及び流動添加調節剤等の添加剤を含有していてもよい。
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれの剤形であってもよい。
第一の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの進行型免疫性脱髄疾患治療剤の投与量は、通常、有効成分量換算で、0.0001μg〜10000mg/日/人である。
上記第一の実施形態は、それを必要とするヒト対象に抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片を投与するステップを含む、進行型免疫性脱髄疾患の治療方法、又は病態の進行抑制方法ということもできる。
本発明の第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質を有効成分として含有する。当該治療剤は、進行型免疫性脱髄疾患の病態の進行抑制剤としても使用することができる。
Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質は、Eomes遺伝子がタンパク質として機能することを抑制できる物質であればよい。当該発現抑制物質としては、例えば、Eomes遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質、Eomesタンパク質の機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質が挙げられる。
Eomes遺伝子を転写レベル又は翻訳レベルで発現抑制することができる物質としては、例えば、Eomesの遺伝子発現を抑制する核酸、ペプチド、糖又は糖タンパク質、分子量1000以下の低分子化合物等であってもよい。Eomesの遺伝子発現を抑制する核酸としては、例えば、Eomes遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA及びリボザイムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
Eomesタンパク質の機能性部位に結合して機能発現を抑制することができる物質としては、例えば、抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片(例えば、中和抗体)等が挙げられる。
Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質は、Eomes遺伝子のゲノム配列、mRNA配列、タンパク質配列、タンパク質の立体構造等の情報に基づいて、本技術分野で公知の方法により設計及び製造することができる。
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上述したEomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤における上記有効成分(Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質)の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、進行型免疫性脱髄疾患治療剤全量を基準として、0.001〜100質量%であってよい。
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上記有効成分のみで構成されていてもよく、また上記有効成分以外に、製剤技術分野において常用される賦形剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤及び流動添加調節剤等の添加剤を含有していてもよい。
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれの剤形であってもよい。
第二の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの進行型免疫性脱髄疾患治療剤の投与量は、通常、有効成分量換算で、0.0001pg〜10000mg/日/人である。
上記第二の実施形態は、それを必要とするヒト対象にEomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質を投与するステップを含む、進行型免疫性脱髄疾患の治療方法、又は病態の進行抑制方法ということもできる。
本発明の第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質を有効成分として含有する。当該治療剤は、進行型免疫性脱髄疾患の病態の進行抑制剤としても使用することができる。細胞障害性プロテアーゼは、EomesCD4T細胞が産生する細胞障害性プロテアーゼであってもよい。
細胞障害性プロテアーゼとしては、例えば、セリンプロテアーゼが挙げられ、好ましくはトリプシン様セリンプロテアーゼであり、より好ましくはグランザイムである。グランザイムとしては、例えば、グランザイムA、グランザイムB、グランザイムC、グランザイムD、グランザイムE、グランザイムF、グランザイムG、グランザイムHが挙げられ、好ましくはグランザイムA又はグランザイムBである。
細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質は、細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害することができれば、核酸、ペプチド、糖又は糖タンパクであってもよく、分子量2000以下の低分子化合物であってもよい。細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する物質としては、セリンプロテアーゼ阻害剤であることが好ましく、グランザイム阻害剤であることがより好ましく、グランザイムA阻害剤又はグランザイムB阻害剤であることがより好ましい。
セリンプロテアーゼ阻害剤としては、例えば、トシルリジン クロロメチルケトン 塩酸塩(TLCK塩酸塩)、N−トシル−L−フェニルアラニン クロロメチル ケトンが挙げられる。
グランザイムA阻害剤としては、例えば、3,4−ジクロロイソクマリン、ナファモスタット メシル酸塩、抗グランザイムA抗体又はその抗原結合性断片、グランザイムA特異的siRNA、グランザイムA特異的shRNA、グランザイムA特異的shRNAプラスミドが挙げられる。
グランザイムB阻害剤としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル−イソロイシン−グルタミン酸−スレオニン−アスパラギン酸 フルオロメチル ケトン(Z−IETDFMK)、アセチル−イソロイシン−グルタミン酸−スレオニン−アスパラギン酸−アルデヒド(Ac−IETD−CHO)、3,4−ジクロロイソクマリン、Ecotin,E.coli、アセチル−イソロイシン−グルタミン酸−プロリン−アスパラギン酸−アルデヒド(Ac−IEPD−CHO)、ベンジルオキシカルボニル−アラニン−アラニン−アスパラギン酸 クロロメチル ケトン(Z−AAD−CMK)、プロテアーゼインヒビター9(J.Immunol.2001;166:3218−3225)、WO2012/076985に記載の化合物、抗グランザイムB抗体又はその抗原結合性断片、グランザイムB特異的siRNA、グランザイムB特異的shRNA、グランザイムB特異的shRNAプラスミドが挙げられる。
第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上述した細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤における上記有効成分(細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質)の含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、進行型免疫性脱髄疾患治療剤全量を基準として、0.001〜100質量%であってよい。
第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、上記有効成分のみで構成されていてもよく、また上記有効成分以外に、製剤技術分野において常用される賦形剤、緩衝剤、安定化剤、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤及び流動添加調節剤等の添加剤を含有していてもよい。
第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤の剤形は、例えば、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、注射剤等のいずれの剤形であってもよい。
第三の実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの進行型免疫性脱髄疾患治療剤の投与量は、通常、有効成分量換算で、0.0001μg〜10000mg/日/人である。
上記第三の実施形態は、それを必要とするヒト対象に細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質を投与するステップを含む、進行型免疫性脱髄疾患の治療方法、又は病態の進行抑制方法ということもできる。
本発明の進行型免疫性脱髄疾患治療剤について、第一の実施形態〜第三の実施形態と分けて説明したが、本発明の進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、第一の実施形態における有効成分、第二の実施形態における有効成分、及び第三の実施形態における有効成分を、それぞれ単独で含むものであってもよく、2種又は3種を組み合わせて含むものであってもよい。
本発明の進行型免疫性脱髄疾患治療剤は、進行型多発性硬化症治療剤として好ましく用いられる。
〔進行型免疫性脱髄疾患の診断方法〕
本発明に係る進行型免疫性脱髄疾患の診断方法は、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップ(検出ステップ)と、検出されたEomesCD4T細胞の頻度が閾値を超える場合に、前記ヒト対象が進行型免疫性脱髄疾患を発症していると判定するステップ(判定ステップ)と、を含む。
検出ステップでは、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出する。ヒト対象から採取された体液は、リンパ球を含む体液であればよい。ヒト対象から採取された体液としては、例えば、血液、脳脊髄液が挙げられる。血液は、末梢血であってよい。EomesCD4T細胞の検出は、本技術分野における常法に従って行うことができる。
EomesCD4T細胞の検出は、これに限定されるものではないが、例えば、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液サンプルから常法に従いPBMCを分離するステップ、標識抗CD3抗体又はその抗原結合性断片、標識抗CD4抗体又はその抗原結合性断片、及び標識抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片をPBMCと反応させ、フローサイトメーターでEomesCD4T細胞を検出するステップを含む方法により実施することができる。
検出ステップでEomesCD4T細胞を検出することにより、例えば、体液サンプル中のEomesCD4T細胞の濃度(cells/mL)、体液サンプル中のリンパ球総数に対するEomesCD4T細胞総数(%)、体液サンプル中のCD3CD4PBMC細胞総数に対するEomesCD4T細胞総数(%)等の指標を得ることができる。
判定ステップでは、検出されたEomesCD4T細胞の頻度が閾値を超える場合に、ヒト対象が進行型免疫性脱髄疾患を発症していると判定する。
EomesCD4T細胞の頻度は、体液サンプル中のEomesCD4T細胞数を反映したものであればよく、具体的には、例えば、上述した各指標が挙げられる。中でも、より精度の高い判定が可能になることから、上記頻度は、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合(体液サンプル中のCD3CD4PBMC細胞総数に対するEomesCD4T細胞総数に相当)であることが好ましい。
上記閾値は、予め設定されたものであることが好ましい。これにより、診断主体による判定結果のばらつきを無くすことができる。
上記閾値は、例えば、健常ヒト対象の体液中のEomesCD4T細胞の頻度に基づいて設定されたものであってもよい。健常ヒト対象は、例えば、進行型免疫性脱髄疾患に罹患していないヒト対象であってもよい。
また、例えば、RR−MSに罹患しているヒト対象の体液中のEomesCD4T細胞の頻度を閾値とし、同一のヒト対象について上記診断方法を実施することにより、RR−MS病態から進行形MS病態へ移行したか否かを判定することもできる。
上記診断方法は、進行型多発性硬化症の診断方法として好適に用いられる。
本発明はまた、上記診断方法の変形態様として、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップ(検出ステップ)と、検出されたEomesCD4T細胞の頻度を算出するステップ(算出ステップ)と、を含む、進行型免疫性脱髄疾患の診断のためのデータ収集方法にも関する。
当該データ収集方法で得られたデータ(算出されたEomesCD4T細胞の頻度)を用い、上述した閾値との比較のみに基づいて進行型免疫性脱髄疾患の診断を行なってもよいし、その他の臨床的知見を組み合わせて進行型免疫性脱髄疾患の診断を行なってもよい。
本発明はまた、上記診断方法の変形態様として、Eomes遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Aと、CD4遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Bと、を含む、進行型免疫性脱髄疾患の診断剤にも関する。当該進行型免疫性脱髄疾患の診断剤は、進行型免疫性脱髄疾患の診断用キットということもできる。
試薬Aとしては、Eomes遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定することが可能な試薬であればよく、具体的には、例えば、Eomes遺伝子の転写産物又はその相補鎖にハイブリダイズ可能なDNA、RNA及びペプチド核酸(PNA)等の核酸類、Eomes遺伝子の翻訳産物に結合可能な抗体(例えば、抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片)、タンパク質(例えば、EOMES、MIXL1、BRACHYURY、GOOSECOID、TBX6、FGF8、SNAI1、SPRY2、SPRY4、WNT3、WNT3A、NODAL、BRACHYURY、MEOX1、TBX6、KDR、FOXC1、ISL1、PDGFRA、SOX17、CXCR4、LHX1、FOXA1、FOXA2、FOXA3)、核酸(例えば、Tボックスコアモチーフ(TCACACCT)を含む核酸、miR−302等のmiRNAを含むゲノムDNA)が挙げられる。
試薬Bとしては、CD4遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定することが可能な試薬であればよく、具体的には、例えば、CD4遺伝子の転写産物又はその相補鎖にハイブリダイズ可能なDNA、RNA及びペプチド核酸(PNA)等の核酸類、CD4遺伝子の翻訳産物に結合可能な抗体(例えば、抗CD4抗体又はその抗原結合性断片)、タンパク質(例えば、MHCクラスIIタンパク質複合体)が挙げられる。
本実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の診断剤が、抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片(試薬A)、及び抗CD4抗体又はその抗原結合性断片(試薬B)である場合、例えば、以下のようにして進行型免疫性脱髄疾患を診断することができる。被験者から採取された末梢血から、常法に従ってPBMCを分離する。次に、分離されたPBMCと抗CD4抗体又はその抗原結合性断片、及び抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片を反応させる。当該ステップにおいては、更に抗CD3抗体又はその抗原結合性断片を反応させてもよい。次いで、常法に従い、フローサイトメーター(例えば、アジレント2100バイオアナライザ;アジレント社製)を用いた解析により、EomesCD4T細胞の割合を測定する。測定された割合が基準値を超える場合、当該被験者を進行型免疫性脱髄疾患を発症している(又は発症しているおそれがある)と判定する。基準値は、上述した進行型免疫性脱髄疾患の診断方法における閾値と同じであってよい。
本実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の診断剤は、試薬A及び試薬Bが基材に固定化されたものであってもよい。例えば、試薬A及び試薬Bが、Eomes遺伝子又はCD4遺伝子の転写産物又はその相補鎖にハイブリダイズ可能なDNA等の核酸類である場合、当該DNA等が、ガラス基板又は樹脂基板等の基材に固定化されたDNAチップ等であってもよい。また、試薬A及び試薬Bが、Eomes遺伝子又はCD4遺伝子の翻訳産物に結合可能な抗体(抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片、及び抗CD4抗体又はその抗原結合性断片)である場合、当該抗体がガラス基板又は樹脂基板等の基材に固定化された抗体チップであってもよい。
本実施形態に係る進行型免疫性脱髄疾患の診断剤がDNAチップである場合、次のようにして進行型免疫性脱髄疾患を診断することができる。被験者から採取された末梢血から、常法に従ってPBMCを分離する。次に、分離されたPBMCから抗CD3抗体及び抗CD4抗体を用いて、CD3CD4細胞を分離する(なお、本ステップは実施しても実施しなくてもよい)。分離したPBMC又はCD3CD4細胞から、常法に従い全RNA又はmRNAを抽出する。抽出した全RNA又はmRNAをサンプルとして、常法に従いDNAチップによりEomes遺伝子及びCD4遺伝子の発現量を解析する。Eomes遺伝子及びCD4遺伝子の発現量が基準値を超える場合、当該被験者を進行型免疫性脱髄疾患を発症している(又は発症しているおそれがある)と判定する。基準値は、例えば、健常ヒト対象における測定値から決定することができる。
当該診断剤によれば、ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞の検出が可能である。上記診断剤は、更に抗CD3抗体又はその抗原結合性断片を含むものであってもよい。これにより、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合を検出することも可能になる。
〔進行型免疫性脱髄疾患非ヒト動物モデル〕
本発明は更に、進行型免疫性脱髄疾患非ヒト動物モデルとしてのNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物の使用を提供する。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物としては、NR4A2遺伝子を欠損(特定の組織又は細胞でのみ欠損している場合を含む。)した非ヒト動物であれば、特に制限はない。非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、サル、イヌが挙げられる。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物に、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導することにより、進行型免疫性脱髄疾患(例えば、進行形MS)病態を引き起こすことができる。したがって、進行型免疫性脱髄疾患の非ヒト動物モデルとして、疾患機序の解明用、効果的な治療剤のスクリーニング用として好適に用いることができる。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、NR4A2遺伝子コンディショナルノックアウトマウスであることが好ましい。ここで、コンディショナルノックアウト(cKO)とは、全ての遺伝子を欠損させることと異なり、非ヒト動物の特定の組織、特定の細胞において対象となる遺伝子を欠損させることを意味する。例えば、CD4T細胞においてNR4A2遺伝子を特異的に欠損させたマウス(NR4A2cKOマウス)等が挙げられる。
NR4A2cKOマウスは、例えば、Cre−loxP部位特異的組み換え技術によって樹立することができる。具体的には、NR4A2cKOマウスは、欠損させる標的遺伝子であるNR4A2遺伝子を挟むようにloxP遺伝子を2か所導入したマウスと、標的遺伝子を欠損させたい細胞においてCre酵素が発現するように、対象細胞のプロモーター領域の下流にcre遺伝子を導入したマウスとを交配させることで作製することができる。対象となる遺伝子を欠損させる組織又は細胞は、当業者がその目的に応じて選択することができる。例えば、対象細胞がCD4T細胞であれば、CD4T細胞においてのみ、NR4A2遺伝子を欠損させたマウスを作製することができる。
次に、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルについて説明する。
EAEモデルは、中枢神経組織由来のタンパク質抗原として、脊髄破砕液、精製ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、PLP、MOGなどのようなミエリンタンパク、これらのタンパク質から得られるペプチドを接種することによって誘導される自己免疫モデルの1種である。EAEモデルとしては、慢性持続性EAEモデル(本明細書中、「単相型EAE」ともいう。)、慢性再発性EAEモデル(本明細書中、「再発寛解型EAE」ともいう。)、受動型EAEモデルが知られており、多発性硬化症の一般的な動物モデルとして知られている。
慢性持続性EAEモデルは、通常、次のように作製される。まず、MOG35−55残基に相当するペプチド(以下、「MOGペプチド」ともいう。)とフロイント不完全アジュバントに結核菌H37Ra死菌を加えたものを等量混和し、エマルジョンを作製する。MOGペプチドは、95%以上の純度であることが好ましい。エマルジョンを作製する際、手で撹拌してもよく、ホモジナイザー又はソニケーターを用いて撹拌してもよい。次に、得られたエマルジョンをC57BL/6Jマウスの背部に1〜2か所皮下注射する。注射した後、0日後及び2日後に、百日咳毒素のPBS(リン酸緩衝液)溶液を投与する。百日咳毒素の投与は、静脈内投与で行ってもよく、腹腔内投与で行ってもよい。投与方法は、腹腔内投与であることが好ましい。
慢性再発性EAEモデルは、通常、次のように作製される。まず、PLP139−151残基に相当するペプチド(以下、「PLPペプチド」ともいう。)とフロイント不完全アジュバントに結核菌H37Ra死菌を加えたものを等量混和し、エマルジョンを作製する。PLPペプチドは、95%以上の純度であることが好ましい。エマルジョンを作製する際、手で撹拌してもよく、ホモジナイザー又はソニケーターを用いて撹拌してもよい。次に、得られたエマルジョンをSJL/Jマウスの背部に1〜2か所皮下注射する。注射した後、0日後及び2日後に、百日咳毒素のPBS溶液を投与する。百日咳毒素の投与は、静脈内投与で行ってもよく、腹腔内投与で行ってもよい。投与方法は、腹腔内投与であることが好ましい。ただし、慢性再発性EAEモデルにおいては、百日咳毒素を投与しなくても、EAE病態が観察されることがある。
受動型EAEモデルは、上記慢性持続性EAEモデル又は上記慢性再発性EAEモデルにより、EAEを誘導された動物において、中枢神経タンパク反応性のCD4T細胞を採取し、EAEモデルを作製するための動物へ移入することによって作製することができる。移入の方法としては、静脈内注射であってもよい。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物に、EAEを誘導することにより、進行型免疫性脱髄疾患と類似した病態を再現することができる。すなわち、EAEを誘導されたNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、進行型免疫性脱髄疾患の病態モデル、特に、進行型MSの後期(進行期)病態を示す動物モデルとして利用することができる。
本発明の他の実施形態は、NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物に実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導するステップと、EAEを誘導されたNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物を使用してEAE病態を解析するステップと、を含む、進行型免疫性脱髄疾患の解析方法である。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物に実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導するステップは、一般的なEAEを誘導させる条件にしたがい、実施することができる。
NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、NR4A2cKOマウスであることが好ましい。NR4A2cKOマウスであると、進行型MSの病態により適切な動物モデルとして利用することができる。
本実施形態の解析方法によれば、進行型免疫性脱髄疾患の病態をより詳細に解析することができる。
また、EAEを誘導されたNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物に、ある物質を投与し、EAE病態を解析することにより、投与された化合物が上記進行型免疫性脱髄疾患の治療効果を発揮するかを評価することもできる。すなわち、EAE病態を改善する作用を有する物質をスクリーニングすることもできる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.NR4A2cKOマウスのEAE解析
(1)動物
使用したマウスはすべて6〜8週齢で、特定病原体不在条件下で飼育した。loxp配列でNR4A2遺伝子を挟んだターゲッティングベクターを用いて、NR4A2fl/flマウスを樹立した。すなわち、loxp配列に挟まれたNR4A2導入遺伝子をC57BL/6胚性幹細胞にマイクロインジェクションにより導入した。樹立系統をC57BL/6 FLPeマウス(理研バイオリソースセンター)と交雑させてネオマイシンカセットを除去した系統同士を交配して、ホモ接合NR4A2fl/fl C57BL/6マウスを作製した。得られたマウスをC57BL/6 CD4−Creマウス(タコニック社)と交配させることにより、CD4特異的NR4A2cKO C57BL/6マウス(C57BL/6 Cre−CD4/NR4A2fl\flマウス)を樹立した。また、得られたマウスをSJL/Jマウス(雌、日本チャールズ・リバー株式会社)と10代に渡って交配させ(戻し交配)ることにより、NR4A2fl/fl SJLマウス、及びCD4特異的NR4A2cKO SJLマウス(SJL/J Cre−CD4/NR4A2fl\flマウス)を樹立した。
ジャクソン研究所から購入したEomesfl/flマウスをC57BL/6 CD4−Creマウスと交配させて、Cre−CD4 Eomesfl/fl C57BL/6マウスを得た。さらに、Eomesfl/flマウスをCre−CD4/NR4A2fl/fl C57BL/6マウスと交配させて、Cre−CD4/NR4A2fl/flEomesfl/fl C57BL/6マウスを得た。
(2)EAE誘導(単相型EAE)
100μgのMOG35−55残基に相当するペプチド(東レリサーチセンター,日本,東京にて合成、以下、「MOGペプチド」ともいう。)と1mgの結核菌H37Ra死菌(Difco,米国,カンザス州)を完全フロイントアジュバントで乳化したものを等量混和し、ホモジナイザーを用いて乳化させ、MOGエマルジョンを調製した。得られたMOGエマルジョンを、CD4特異的NR4A2cKO C57BL/6マウス(Cre−CD4/NR4A2fl/fl C57BL/6マウス、NR4A2cKO)及び対照としてNR4A2fl/fl C57BL/6マウス(Control)の背部皮下に1〜2か所注射し、免疫を付与した。さらに、免疫付与後0日目と2日目に、1匹あたり、200ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories,米国)のPBS溶液200μLを、マウスの腹腔内に注射した。注射した後、以下に示すEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
<EAE評価基準>
0:臨床徴候なし
1:尾の部分的麻痺
2:弛緩した尾
3:後肢の部分的麻痺
4:全後肢の麻痺
5:後肢及び前肢の麻痺
結果を図1に示す。図1に示すように、NR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)では、対照マウス(Control)で観察されたEAE発症期、ピーク期及び慢性期(EAE誘導後約9〜28日後)におけるEAE病態が抑制されていた。一方、NR4A2欠損マウスでは、EAE誘導後28日以降に新たな病態(後期EAE病態)が出現した。
(3)中枢神経系へのT細胞の浸潤
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)の脳及び脊髄を採取し、CNSへ浸潤したT細胞の数をフローサイトメーターを用いて測定した。具体的には、組織を小さい破片に切断した後、37℃で40分間、1.4mg/mLのコラゲナーゼH及び100μg/mLのDNaseI(Roche社製)を含有したRPMI 1640培地(Invitrogen社製)において更に分解した。得られた組織のホモジネートを70μm細胞濾過器(GEヘルスケアサイエンス社製)に通し、不連続パーコール密度勾配遠心分離法(37%/80%)を用いて、白血球細胞を濃縮した。CNSへ浸潤したT細胞の数をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)で測定した。その際、T細胞の検出には抗CD3抗体(Biolegend社製)を用いた。
結果を図2に示す。健常状態のCNSにはT細胞は検出されないが、図2に示すように、後期EAE病態時では、CNSへのT細胞の浸潤が認められた。
(4)後期EAE病態とIL−17産生
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)から脳及び脊髄を採取し、フローサイトメーターを用いてCD4T細胞を分離した。具体的には、上記1.(3)と同様に組織から白血球細胞を濃縮した。次いで、CNSへ浸潤したCD4T細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、及び抗CD4抗体(Biolegend社製)である。得られたT細胞を、MOGペプチドで刺激し、培養上清中におけるIL−17含有量を、FlowCytomixサイトメトリックビーズアレイ(eBioscience社製)及びBio−Plexサスペンジョンアレイシステム(バイオラッド社)を用いて測定した。得られたIL−17量をCNS浸潤T細胞の数で除し、CNS浸潤T細胞あたりのIL−17産生量を算出した。
結果を図3に示す。NR4A2が関わるEAE病態にIL−17を産生するTh17細胞の関与が示唆されている。対照マウス(Control)のDay18における高いIL−17産生量はこれを反映していると考えられる。一方、後期EAE病態(Day28)では、EAE病態を説明し得るIL−17産生量は観察されなかった。
(5)EAE誘導(再発寛解型EAE)
100μgのPLP139−151残基に相当するペプチド(以下、「PLPペプチド」ともいう。)とフロイント不完全アジュバントに1mgの結核菌H37Ra死菌を加えたものを等量混和し、ホモジナイザーを用いて乳化させ、PLPエマルジョンを調製した。得られたPLPエマルジョンを、CD4特異的NR4A2cKO SJLマウス(NR4A2cKO SJLマウス)及び対照としてNR4A2fl/fl SJLマウス(Control SJLマウス)の背部皮下に1〜2か所注射し、免疫を付与した。さらに、免疫付与(EAE誘導)後0日後と2日後に、1匹あたり、200ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories,米国)のPBS溶液200μLを、マウスの腹腔内に注射した。注射した後、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
結果を図4に示す。図4に示すように、NR4A2欠損SJLマウス(NR4A2cKO SJLマウス)に再発寛解型EAEを誘導した場合、EAE病態が消失した。また、後期EAE病態に相当する病態も認められなかった。
以上の結果から、NR4A2欠損マウスでは再発寛解型EAE病態とTh17細胞応答が抑制されていること、NR4A2欠損マウスの単相型EAEは、初期病態が抑制される一方で後期に新たな病態(後期EAE病態)が出現すること、後期EAE病態でも中枢神経系へのT細胞の浸潤が認められるが、Th17細胞応答は生じていないこと、単相型EAE病態は、NR4A2依存性が異なる二つの病態(初期病態と後期病態)からなることが明らかとなった。
2.NR4A2cKOマウスの後期EAE病態の解析
(1)CNS浸潤CD4T細胞におけるEomes遺伝子の発現
上記1.(2)と同様にして単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)から、誘導15日後(対照のみ)及び誘導28日後(後期EAE病態に相当)に脳及び脊髄を採取し、上記1.(4)と同様にCNSへ浸潤したCD4T細胞を分離した。RNeasyミニキット又はFastLaneキット(Qiagen社製)を使用して、得られたCD4T細胞から総RNAを抽出した。得られた総RNAから、ファーストストランドcDNA合成キット(タカラ社製)を用いて、cDNAを合成した。LightCycler装置で、Light Cycler−FastStart DNAマスターSYBRグリーンIキット(Roche Diagnostics社製)を用いた条件で、又はABI 7300リアルタイムPCR装置で、Power SYBRグリーンマスターミックス(Applied Biosystems社製)を用いた条件で、市販のプライマー(QuantiTect Primer Assay,QT01074332,Qiagen社製)を使用して定量リアルタイムPCRを行った。Eomes遺伝子発現量は、GAPDHハウスキーピング遺伝子の発現量に基づいて補正した。
結果を図5に示す。図5に示すように、後期EAE病態(Day28)では、対照マウス(Control)及びNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)ともに、対照マウスのDay15と比較して、CNSへ浸潤したCD4T細胞のEomes遺伝子(mRNA)の発現が亢進していた。
(2)Th17細胞とEomesCD4T細胞の異同
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)から、誘導28日後(後期EAE病態に相当)に脳及び脊髄を採取し、上記2.(1)と同様にCNSへ浸潤したCD4T細胞を分離した。分離した細胞は、5ng/mLのPMA、500ng/mLのイオノマイシン(共にSigma−Aldrich社製)で、Golgi Stop(BD Biosciences社製)の存在下において5時間、再刺激した後に、製造者の取扱説明にしたがって、eBioscience Foxp3染色キットを用いて表面染色及び固定/細胞内染色した。その後、IL−17、IFN−γ及びEomesの発現量を、フローサイトメーターを用いて測定した。解析の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗IL−17抗体(eBioscience社製)、及び抗IFN−γ抗体(eBioscience社製)である。
結果を図6に示す。図6に示すように、EomesCD4T細胞ではIL−17発現は観察されず、したがって、EomesCD4T細胞とTh17細胞は、異なるサブセットであると考えられる。
(3)EomesCD4T細胞の表面抗原
上述の方法により、EomesCD4T細胞の細胞表面に発現している表面抗原について、フローサイトメーターを用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗CD27抗体(eBioscience社製)、抗CD11a抗体(Biolegend社製)、及び抗CD226抗体(Biolegend社製)である。
結果を図7に示す。図7に示したように、EomesCD4T細胞は、CD27を発現しCD11aを高発現していた。また、データは示していないが、EomesCD4T細胞は、CD226を発現していた。
(4)中枢神経系由来CD4CD27T細胞の移入による受動EAEの誘導
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導し、誘導後28日目のNR4A2欠損マウスの脊髄及び脳から、CNSへ浸潤したCD4CD27T細胞を採取した。具体的には、上記1.(3)と同様に組織から白血球細胞を濃縮した。CNSへ浸潤したCD4CD27T細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗CD4抗体(Biolegend社製)、および抗CD27抗体(eBioscience社製)である。分離したCD4CD27T細胞は、抗CD3及び抗CD28抗体を用いた再刺激を行った後、10,000個の細胞を、上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導し、単相型EAE誘導後10日目のNR4A2cKOマウス及び対照マウスに静脈注射によって移入した。注射した後、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
結果を図8に示す。図8に示すように、CNS由来CD4CD27T細胞を移入することによりEAEを誘導することができた。
(5)Eomes特異的siRNAの静脈内投与による後期EAE病態の抑制
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)に、誘導16日後に、コラーゲンマトリックスに封入したコントロールsiRNA(Negative control、高研社製)又はEomes特異的siRNA(配列番号1:5’−ggcucuuauuucuacucauUU−3’)(3’のオーバーハング(大文字UU)を含む2本鎖RNA)を静脈内注射した。注射した後、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。なお、コントロールsiRNAは、ヒト、マウス、ラットのいずれの遺伝子とも一致しない配列を含むコントロールsiRNAとして市販されているものである。
結果を図9に示す。図9に示すように、NR4A2欠損マウス及び対照マウスのいずれにおいても、Eomes特異的siRNAの投与により、後期EAE病態が有意に改善した。
(6)NR4A2/Eomes欠損マウスのEAE病態 上記1.(2)と同様にして、Eomesfl/flマウス(Control eomesfl/fl)、Cre−CD4 Eomesfl/fl C57BL/6マウス(Cre−CD4 eomesfl/fl)、NR4A2fl/flEomesfl/fl C57BL/6マウス(Control)、CD4特異的NR4A2cKOマウス(NR4A2cKO)及びCre−CD4/NR4A2fl/flEomesfl/fl C57BL/6マウス(Eomes/NR4A2cKO)に単相型EAEを誘導した。その後、上記EAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
結果を図10及び11に示す。図10に示すように、CD4遺伝子のプロモーター下にcre遺伝子を導入し、かつeomes遺伝子をloxP遺伝子で挟んだEomes欠損マウス(Cre−CD4 eomesfl/fl)は、eomes遺伝子をloxP遺伝子で挟んだ対照マウス(Control eomesfl/fl)に比べて、EAEスコアが若干改善した。また、NR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)では、後期EAE病態においてEAEスコアが上昇したのに対し、NR4A2/Eomes欠損マウス(NR4A2/eomes cKO)では後期EAEスコアが上昇せず、後期EAE病態を発症しなかった。
(7)EomesCD4T細胞における細胞障害因子の発現
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導し、後期EAE病態を発症した対照マウス(Control)及びNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)の中枢神経系から分離した単核球を、抗CD3抗体、抗CD4抗体、及び抗CD27抗体で染色し、CD4CD27T細胞、CD4CD27T細胞とCD4T細胞をFACS ARIA II(BD Cytometry Systems社製)を用いたFACSソートで分離した。分離の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗CD4抗体(Biolegend社製)、および抗CD27抗体(eBioscience社製)である。得られた細胞からRNAを抽出し、パーフォリン1とグランザイムBの発現量をLightCycler装置で、Light Cycler−FastStart DNAマスターSYBRグリーンIキット(Roche Diagnostics社製)を用いた条件で、又はABI 7300リアルタイムPCR装置で、Power SYBRグリーンマスターミックス(Applied Biosystems社製)を用いた条件で、市販のプライマー(QuantiTect Primer Assay,QT00282002(パーフォリン),QT00114590(グランザイムB),いずれもQiagen社製)を使用して定量リアルタイムPCRを行った。また、Eomes発現CD4T細胞に抗CD3抗体で刺激した場合と刺激しなかった場合において、Eomes遺伝子及びCD107aの細胞表面発現をフローサイトメーターを用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗Eomes抗体(eBioscience社製)、抗CD107a抗体(Biolegend社製)である。
結果を図12〜14に示す。図12及び13に示すように、NR4A2欠損マウス由来のCD4CD27T細胞では、CD4CD27T細胞と比較して、パーフォリン1の発現量には大きな差を認めなかったが、グランザイムBの発現量が増加していた。また、図14に示すように、EomesCD4T細胞を抗CD3抗体で刺激することにより、CD107aの発現量が上昇した。すなわち、EomesCD4T細胞は、抗CD3抗体による刺激を受けると脱顆粒するものと考えられる。
(8)抗CD226抗体の投与によるEAE病態への影響
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウスに誘導15日後及び18日後に、抗CD226抗体(Biolegend社製)又はそのアイソタイプ(Rat IgG2a,κ Isotype抗体,Biolegend社製)を投与し、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
結果を図15に示す。図15に示すように、抗CD226抗体を投与することで(CD226)、アイソタイプを投与した場合と比べて(Isotype)、後期EAE病態が有意に改善された。
以上の結果から、慢性持続性EAEモデルは、初期EAE病態と後期EAE病態の2種に分類できると考えられる。具体的には、初期EAE病態は、NR4A2遺伝子に依存的で、Th17細胞が関与する病態であり、後期EAE病態は、Eomes遺伝子に依存的で、細胞障害性CD4T細胞が関与する病態であると考えられる。
3.ヒトMS患者におけるEomesCD4T細胞の解析
(1)ヒト末梢血中のEomesCD4T細胞頻度
健康成人のボランティア(n=14)、RR−MS患者(n=15)及びSP−MS患者(n=12)から、ヘパリン処理済チューブを用いて末梢血を採取し、得られた末梢血をフィコール勾配(GEヘルスケア)に沈殿させ、約900gで30分間、遠心分離することによってPBMCを分離した。得られたPBMCを、製造者の取扱説明にしたがって、eBioscience Foxp3染色キットを用いて表面染色及び固定/細胞内染色した。CD3CD4PBMCにおけるEomes、CD11a及びCD27の発現量を、フローサイトメーターを用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗CD4抗体(Biolegend社製)、抗CD11a抗体(Biolegend社製)、抗CD27抗体(eBioscience社製)、及び抗Eomes抗体(eBioscience社製)である。
結果を図16及び17に示す。図16は、CD3PBMCにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラム、CD3CD4PBMCにおけるCD11a及びEomes発現を示すサイトグラム、並びにCD3CD4PBMCにおけるCD27及びEomes発現を示すサイトグラムである。図17は、CD3CD4PBMCに占めるEomes細胞の割合を健康成人ボランティア、RR−MS患者及びSP−MS患者についてプロットしたものである。図16及び図17に示すように、SP−MS患者において、EomesCD4T細胞が選択的に亢進していた。
(2)SP−MS患者由来のEomesCD4T細胞の細胞傷害性
上記3.(1)と同様にして得られたSP−MS患者由来のCD3CD4PBMCに、抗CD3抗体で刺激を与えた後、CD107a、IFN−γ、グランザイムB及びパーフォリン1の発現量を、フローサイトメーターを用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗CD107a抗体(Biolegend社製)、抗IFN−γ抗体(Biolegend社製)、抗グランザイムB抗体(Biolegend社製)、抗パーフォリン1抗体(Biolegend社製)である。なお、CD107aについては、抗107a抗体蛍光色素標識抗体の存在下で抗CD3/抗CD28抗体(BD Biosciences,BioLegend又はeBioscienceから入手した)で刺激して行った。
結果を図18に示す。図18に示すように、SP−MS患者由来のCD3CD4PBMCは、細胞傷害因子(IFN−γ、パーフォリン1、グランザイムB)を高発現しており、抗CD3抗体で刺激されると、CD107aの発現量が増加した。したがって、EomesCD4T細胞は刺激を受けることにより、脱顆粒すると考えられる。
(3)ヒト脳脊髄液中のEomesT細胞頻度
SP−MS患者(n=12)から、ヘパリン処理済チューブを用いて末梢血及び脳脊髄液を採取し、得られた末梢血をフィコール勾配(GEヘルスケア)に沈殿させ、約900gで30分間、遠心分離することによってPBMCサンプルを分離し、一方、得られた脳せき髄液をフィコール勾配(GEヘルスケア)に沈殿させ、約1800gで30分間、遠心分離することによってCSFサンプルを分離した。得られたPBMCサンプル及びCSFサンプルを、製造者の取扱説明にしたがって、eBioscience Foxp3染色キットを用いて表面染色及び固定/細胞内染色した。CD3PBMC及びCD3CSFにおけるEomes及びCD4の発現量を、フローサイトメーターを用いて解析した。解析の際に使用した抗体は、抗CD3抗体(Biolegend社製)、抗CD4抗体(Biolegend社製)、及び抗Eomes抗体(eBioscience社製)である。
結果を図19に示す。図19Aは、CD3PBMCにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラム、並びにCD3CSFにおけるCD4及びEomes発現を示すサイトグラムである。図19Bは、CD3PBMC及びCD3CSFにおけるCD4EomesT細胞の割合をプロットしたグラフである。図19Bに示すように、5名のSP−MS患者において、CD3CSFにおけるCD4EomesT細胞の割合は、CD3PBMCにおけるCD4EomesT細胞の割合よりも増加した。
4.グランザイムB特異的siRNAによる後期EAE病態の抑制
上記1.(2)と同様に単相型EAEを誘導したNR4A2欠損マウス(NR4A2cKO)及び対照マウス(Control)に、誘導16日後に、コラーゲンマトリックスに封入したコントロールsiRNA(Negative control、高研社製)、又はグランザイムB特異的siRNA−1(配列番号2:CUCUAGAAUAGAGCAAGAAAUU)を静脈内注射した。注射した後、上述のEAE評価基準にしたがい、マウスのEAE病態を毎日、評価した。
結果を図20に示す。図20に示すように、NR4A2欠損マウス及び対照マウスのいずれにおいても、グランザイムB特異的siRNAの投与により、後期EAE病態が有意に改善した。

Claims (24)

  1. 抗CD27抗体若しくはその抗原結合性断片、又は抗CD226抗体若しくはその抗原結合性断片を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  2. Eomes遺伝子の発現を抑制する発現抑制物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  3. 前記発現抑制物質が、Eomesの遺伝子発現を抑制する核酸である、請求項2に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  4. 前記核酸が、Eomes遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA及びリボザイムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  5. 細胞障害性プロテアーゼの活性を阻害する活性阻害物質を有効成分として含有する進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  6. 前記細胞障害性プロテアーゼが、EomesCD4T細胞が産生する細胞障害性プロテアーゼである、請求項5に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  7. 前記活性阻害物質がプロテアーゼインヒビターである、請求項5又は6に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  8. 進行型多発性硬化症治療剤である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の進行型免疫性脱髄疾患治療剤。
  9. 進行型免疫性脱髄疾患の診断方法であって、
    ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップと、
    検出されたEomesCD4T細胞の頻度が閾値を超える場合に、前記ヒト対象が進行型免疫性脱髄疾患を発症していると判定するステップと、を含む、診断方法。
  10. 前記体液が、血液又は脳脊髄液である、請求項9に記載の診断方法。
  11. 前記閾値が、健常ヒト対象の血液中のEomesCD4T細胞の頻度に基づいて設定されたものである、請求項9又は10に記載の診断方法。
  12. 前記頻度が、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の診断方法。
  13. 前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の診断方法。
  14. 進行型免疫性脱髄疾患の診断のためのデータ収集方法であって、
    ヒト対象から採取された、リンパ球を含む体液中のEomesCD4T細胞を検出するステップと、
    検出されたEomesCD4T細胞の頻度を算出するステップと、を含む、データ収集方法。
  15. 前記体液が、血液又は脳脊髄液である、請求項14に記載のデータ収集方法。
  16. 前記頻度が、CD3CD4ヒト末梢血単核細胞に占めるEomesT細胞の割合である、請求項14又は15に記載のデータ収集方法。
  17. 前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、請求項14〜16のいずれか一項に記載のデータ収集方法。
  18. Eomes遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Aと、CD4遺伝子の転写産物量又は翻訳産物量を測定するための試薬Bと、を含む、進行型免疫性脱髄疾患の診断剤。
  19. 前記試薬Aが、抗Eomes抗体又はその抗原結合性断片であり、
    前記試薬Bが、抗CD4抗体又はその抗原結合性断片である、請求項18に記載の診断剤。
  20. 前記進行型免疫性脱髄疾患が、進行型多発性硬化症である、請求項18又は19に記載の診断剤。
  21. 進行型免疫性脱髄疾患非ヒト動物モデルとしてのNR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物の使用。
  22. 前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導されたものである、請求項21に記載の使用。
  23. 前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、NR4A2遺伝子コンディショナルノックアウトマウスである、請求項21又は22に記載の使用。
  24. 前記NR4A2遺伝子ノックアウト非ヒト動物が、CD4T細胞特異的にNR4A2遺伝子がノックアウトされたマウスである、請求項21〜23のいずれか一項に記載の使用。
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