以下、本発明に係る対象物の移動装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。この実施形態においては、移動対象物が生体由来の細胞、特に細胞凝集塊である場合について説明する。なお、移動対象物は細胞凝集塊に限られるものではなく、小型の電子部品や機械部品、有機又は無機の破砕片や粒子、ペレット等であっても良い。
図1は、本発明の実施形態に係る細胞の移動装置1の外観を示す斜視図である。移動装置1は、装置本体10と、この装置本体10の各部の動作を制御するパーソナルコンピューターや制御ボード等からなる制御部16とを含む。装置本体10は、箱形のアウターカバー、すなわちフロントカバー101、サイドカバー102、トップカバー103及び図面には現れないリアカバーで覆われている。フロントカバー101の上部には開口部104が設けられ、この開口部104を通して、細胞の移動作業のための作業空間Rが露呈している。開口部104は、細胞の移動作業の際には透明な開閉カバー17A(図3参照)で覆われ、作業空間Rは閉鎖的な空間(作業室W)とされる。トップカバー103には、装置本体10内を清浄化するために形成される空気流の吸気口8Aと排気口8Bとが設けられている。制御部16は、装置本体10に対して通信可能に接続されている。
図2は、移動装置1(装置本体10)の、前記アウターカバーを取り外した状態の斜視図、図3は、移動装置1の上部の側面図、図4は装置本体10に備えられる各ユニット及びその各駆動部を示す斜視図である。図2乃至図4には、XYZの方向表示を付している。以下では、X方向を左右方向(第1方向)、Y方向を前後方向(第2方向)、及びZ方向を上下方向とし、+Xが右、−Xが左、+Yが前、−Yが後、+Zが上、及び−Zが下として説明を行う。
移動装置1は、支持フレーム11、支持フレーム11によって支持される基台12、基台12に組み付けられる細胞移動ライン20、基台12の上方に形成された閉鎖的な空間を作業空間Rとして利用する作業室W、基台12の上方であって作業空間R内に配置されるヘッドユニット30及び照明ユニット40、及び、基台12の下方に配置されるカメラユニット50を含む。
さらに移動装置1は、ヘッドユニット30を左右及び前後方向に移動させるヘッドユニット駆動装置30M(ヘッドユニットの一部;駆動部)と、照明ユニット40を左右及び前後方向に移動させる照明ユニット駆動装置40M(照明ユニットの一部;照明駆動部)と、カメラユニット50を左右及び前後方向に移動させるカメラユニット駆動装置50Mとを備える。制御部16は、これらユニット駆動装置30M、40M、50Mの動作を制御することによって、ヘッドユニット30、照明ユニット40及びカメラユニット50の左右及び前後方向の移動を制御する。
支持フレーム11は、ベースフレーム111と、一対のサイドフレーム112とを含む。ベースフレーム111は、移動装置1の最下層に位置する矩形のフレーム枠である。ベースフレーム111の下面の四隅には、キャスター及びアジャスターフットが各々取り付けられている。サイドフレーム112は、ベースフレーム111の左右方向両端から、それぞれ上方向に突出しているフレーム枠である。2つのサイドフレーム112の上端縁で、基台12の左右方向の端部が各々支持されている。
基台12は、所定の剛性を有し、その一部又は全部が透光性の材料で形成され、水平方向に延びる平面を備えている。基台12は、上面視においてベースフレーム111と略同じサイズの有する、左右方向に長い長方形の平板である。本実施形態では、基台12はガラスプレートである。基台12をガラスプレートのような透光性材料によって形成することで、基台12の下方に配置されたカメラユニット50にて、基台12の上面に配置された細胞移動ライン20の各作業部を、当該基台12を通して撮像することができる利点がある。なお、前記撮像に必要な部分だけをガラス窓とした板金プレートを、基台12として用いても良い。
基台12の上方には、左右方向に長い平板である上フレーム13と、同じく左右方向に長い平板であって上フレーム13の下方に間隔を置いて配置された中フレーム14とが配置されている。これらフレーム13、14は、基台12の上に立設された図略のフレーム架台で保持されている。上フレーム13の上面には、ヘッドユニット30を左右方向に沿って移動させるための一対の上ガイドレール131が敷設されている。中フレーム14の上面には、照明ユニット40を左右方向に沿って移動させるための一対の中ガイドレール141が敷設されている。また、基台12の下方には、左右方向に長い平板である下フレーム15が配置されている。下フレーム15の左右端部は、サイドフレーム112にて保持されている。下フレーム15の上面には、カメラユニット50を左右方向に沿って移動させるための一対の下ガイドレール151が敷設されている。
作業室Wは、移動装置1の前方側であって基台12の上方に配置されている。作業室Wが備える作業空間Rは、直方体の空間からなる。作業空間Rは、基台12と、この基台12の上方空間を閉鎖的に取り囲む仕切り壁17、開閉カバー17A及びトップカバー103とによって区画されている。細胞移動ライン20上での細胞移動作業時、作業空間R内は清浄に保たれ、ヘッドユニット30及び照明ユニット40が作業空間R内を移動する。
仕切り壁17は、左右方向に延びる隔壁171と、前後方向に延びる右側壁172及び左側壁173とを含む。隔壁171は、基台12の直線状に延びる後側辺から垂直方向に立設された壁である。右側壁172、左側壁173は、基台12の右側辺、左側辺からそれぞれ垂直方向に立設された壁である。開閉カバー17Aは、作業空間Rが透視可能なように透明な部材で形成されたカバーである。開閉カバー17Aは上下動が可能であり、フロントカバー101の開口部104を塞ぐ閉止位置と、開口部104を開放する開放位置との間で位置変更できる。トップカバー103は、仕切り壁17の上端開口を覆っている。隔壁171には、左右方向に互いに並行に直線状に延びる上スリット174(スリット)と、下スリット175(照明用スリット)とが設けられている。
図3に示すように、作業室Wの後方側には機械室WAが配置されている。機械室WAは、ヘッドユニット駆動装置30M及び照明ユニット駆動装置40Mが収容される機械室空間RAを備える。機械室空間RAは、後側壁181と、一対の右面壁182及び左面壁183と、上述の隔壁171及びトップカバー103とからなる区画壁によって画定されている。後側壁181は、支持フレーム11の後側辺から垂直方向に立設された壁である。右面壁182及び左面壁183は、右側壁172及び左側壁173の後方に各々連なる壁である。作業空間Rと機械室空間RAとは、上スリット174及び下スリット175を含む隔壁171によって前後方向に隔てられた空間である。
細胞移動ライン20は、細胞含有液から所望の細胞凝集塊を抽出し、これを所定の容器へ移動させる一連の細胞移動工程の実施に必要な複数の作業部を備える。これらの作業部は、基台12に対して左右方向(第1方向)に並べられて組み付けられている。細胞移動ライン20は、前記複数の作業部として、細胞含有液を貯留する対象物ストック部21、分注チップストック部22、細胞凝集塊の選別のために分注された細胞含有液(細胞培養液)を貯留する細胞選別部23(第1容器)、チップストック部24、チップ撮像部25、選別された細胞凝集塊を受け入れる細胞移載部26(第2容器)、ブラックカバー載置部27及びチップ廃棄部28を備えている。これら各部の詳細は後述する。
ヘッドユニット30は、ユニット本体31とヘッド部32とを含む。図8は、ヘッド部32の斜視図である。ヘッド部32は、いずれも上下方向に移動可能な複数のヘッド33、第1ノズル321及び第2ノズル322を備えている。ヘッド33は、上下動が可能なロッド331(図18参照)を含み、ヘッド部32のハウジングの下端面から突出している。このヘッド33には、細胞凝集塊の吸引およびその吐出を行うシリンダチップ90が装着される。本実施形態では、8本のヘッド33が左右方向に一列に配列されている例を示している。ヘッド33の本数は任意であり、またX−Y方向にマトリクス状に配列されていても良い。
第1ノズル321及び第2ノズル322は、吸引気流及び吐出気流を発生することが出来るノズルであり、それぞれの下端には開口部が備えられている。これら開口部において吸引力及び吐出力を発生するためのピストン機構が、第1ノズル321及び第2ノズル322の内部に備えられている。第1ノズル321の下端には、細胞凝集塊を含む細胞培養液の分注を行うための分注チップ62が装着される。第2ノズル322の下端には、吸盤部材65が装着される。ユニット本体31の内部には、ヘッド33、第1ノズル321及び第2ノズル322を上下動させるための機構と、ロッド331及び前記ピストン機構を動作させるための機構を含むヘッド駆動装置300M(図17参照)が内蔵されている。
続いて、各ユニットの駆動部について、ヘッドユニット30、照明ユニット40及びカメラユニット50の側面図を示す図5をさらに参照して詳述する。ヘッドユニット駆動装置30Mは、ヘッドユニット30を左右方向へ移動させるための第1Xスライダ装置30Xと、ヘッドユニット30を前後方向に移動させるための第1Yスライダ装置30Yとを備える。第1Xスライダ装置30Xは、第1Xボールねじ装置34と、この第1Xボールねじ装置34によって左右方向に移動される第1Xスライダ35とを含む。第1Xボールねじ装置34は、第1Xモータ(図4、図5には現れていない)、第1Xねじ軸342及び第1Xナット部材343を含む。第1Xモータは、上フレーム13の左端付近に配置され、第1Xねじ軸342を軸回りに正回転及び逆回転させる回転駆動力を発生するモータである。第1Xねじ軸342は、左右方向に延び、周面に雄ねじが刻まれている。第1Xナット部材343は、雌ねじを内面に有し、第1Xねじ軸342に係合されている。第1Xねじ軸342が正回転又は逆回転することで、第1Xナット部材343は右方又は左方に移動する。
第1Xスライダ35は、第1Yスライダ装置30Y及びヘッドユニット30を保持する平板状の部材である。第1Xスライダ35の下面には、一対の上ガイドレール131に嵌め込まれる被ガイド部352が備えられている。図4では第1Xスライダ35の記載を省いているが、第1Xスライダ35は第1Xナット部材343に固定されている。従って、第1Xモータ341の動作によって、第1Xスライダ35は上ガイドレール131にガイドされつつ左右方向に移動することができる。
第1Yスライダ装置30Yは、第1Yボールねじ装置36と、この第1Yボールねじ装置36によって前後方向に移動される第1Yスライダ37と、第1Yスライダ37に取り付けられたスライダアーム38(アーム部)とを含む。第1Yボールねじ装置36は、第1Yモータ361、第1Yねじ軸362及び第1Yナット部材363を含む。第1Yモータ361は、第1Yねじ軸362を軸回りに正回転及び逆回転させる回転駆動力を発生するモータである。第1Yねじ軸362は、前後方向に延び、周面に雄ねじが刻まれている。第1Yナット部材363は、雌ねじを内面に有し、第1Yねじ軸362に係合されている。第1Yねじ軸362が正回転又は逆回転することで、第1Yナット部材363は前方又は後方に移動する。
第1Yスライダ37は、第1Yナット部材363に固定されている。第1Yスライダ37の下面には、第1Xスライダ35の上面に敷設された前後方向に延びるガイドレール351に嵌め込まれる被ガイド部371が取り付けられている。従って、第1Yモータ361の動作によって、第1Yスライダ37はガイドレール351にガイドされつつ前後方向に移動することができる。
スライダアーム38は、前後方向に水平に延びる断面矩形のハウジング型の部材であり、第1Yスライダ37の上面に取り付けられている。なお、スライダアーム38の断面形状は、円形や多角形であっても良い。スライダアーム38は、第1Yスライダ37の前後方向の移動に伴って、前後方向に進退移動する。ヘッドユニット30は、スライダアーム38の前端(先端)に取り付けられ、該スライダアーム38により支持されている。第1Xスライダ35の前端には、スライダアーム38を貫通させる矩形開口を形成するガイド枠39が取り付けられている。ガイド枠39は、スライダアーム38の左右側面と各々僅かな距離を置いて対峙する一対の垂直フレーム部分を含む。このガイド枠39によって、スライダアーム38の前後方向の移動がガイドされると共に、左右方向への揺動が抑止される。
スライダアーム38内には、ヘッドユニット30が備える電気機器のための給電ケーブルや制御ケーブルが配線されている。これらのケーブルの、スライダアーム38から延出する部分は、第1Yスライダ37の移動に追従し後方に凸のU字型に屈曲したケーブル保護部材36Cと、第1Xスライダ35の移動に追従し左方に凸のU字型に屈曲したケーブル保護部材35Cとによって保護されている。
以上の構成を備えたヘッドユニット駆動装置30Mにより、スライダアーム38及びスライダアーム38の前端に取り付けられたヘッドユニット30は、左右方向及び前後方向に移動自在である。従って、ヘッドユニット30(ヘッド部32)は、基台12の上方において、細胞移動ライン20上を所定の移動経路に沿って移動することができる。
照明ユニット40は、専ら細胞選別部23及び細胞移載部26を上方から照明するために、基台12の上方において左右方向及び前後方向に移動可能に配置されている。前記照明は、細胞選別部23又は細胞移載部26に保持されている細胞凝集塊をカメラユニット50にて撮像する際に、透過照明として使用される。照明ユニット40は、照明光を発する照明ヘッド41と照明ユニット本体部42とを含む。
照明ユニット本体部42には、上下方向に配列された、光源としてのハロゲンランプと、コレクターレンズ、リングスリット、開口絞り、光学フィルター、コンデンサレンズなどの光学部品とを含む。照明ヘッド41には、最も像面側の光学部品(コンデンサレンズ)が配置されている。なお、ハロゲンランプに代えて、タングステンランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)等を、光源として使用してもよい。
照明ユニット駆動装置40Mは、照明ユニット40を左右方向へ移動させるための第2Xスライダ装置40Xと、照明ユニット40を前後方向に微小移動させるための第2Yスライダ装置40Yとを備える。第2Xスライダ装置40Xは、第2Xボールねじ装置43と、この第2Xボールねじ装置43によって左右方向に移動される第2Xスライダ44とを含む。第2Xボールねじ装置43は、第2Xモータ431と、第2Xモータ431により回転駆動される第2Xねじ軸432と、第2Xねじ軸432に係合され第2Xナット部材433とを含む。第2Xねじ軸432が正回転又は逆回転することで、第2Xナット部材433は右方又は左方に移動する。なお、図4では第2Xナット部材433を仮想的に描いており、実際は第2Xスライダ44に第2Xナット部材433が固定されている。
第2Xスライダ44は、第2Yスライダ装置40Y及び照明ユニット40を保持する平板状の部材である。第2Xスライダ44の下面には、一対の中ガイドレール141に嵌め込まれる被ガイド部441(図3)が備えられている。従って、第2Xモータ431の動作によって、第2Xスライダ44は中ガイドレール141にガイドされつつ左右方向に移動することができる。
第2Yスライダ装置40Yは、第2Yボールねじ装置45と、この第2Yボールねじ装置45によって前後方向に比較的短距離だけ移動される第2Yスライダ46とを含む。第2Yボールねじ装置45は、第2Yモータ451と、この第2Yモータ451により回転駆動される第2Yねじ軸452と、第2Yねじ軸452が正回転又は逆回転することで前方又は後方に移動する第2Yナット部材(図には現れていない)とを含む。第2Yスライダ46は、前記第2Yナット部材に固定されている。第2Yスライダ46は、その下面に被ガイド部461を備え、第2Xスライダ44の上面に配置されたガイドレールに組み付けられている。第2Yモータ451の動作によって、第2Yスライダ46は前記ガイドレールに沿って前後方向に移動することができる。
照明アーム部47は、前後方向に水平に延びる断面矩形のハウジング型の部材であり、第2Yスライダ46の上面に取り付けられている。照明アーム部47は、第2Yスライダ46の前後方向の移動に伴って、前後方向に進退移動する。照明ユニット本体部42は、照明アーム部47の前端に取り付けられ、該照明アーム部47により支持されている。第2Xスライダ44の前端にはガイド枠48が取り付けられている。ガイド枠48は、照明アーム部47の左右側面と僅かな距離を置いて対峙する垂直フレーム部分を含む。このガイド枠48によって、照明アーム部47の前後方向の移動がガイドされると共に、左右方向への揺動が抑止される。以上の構成を備えることから、照明ユニット40及び照明アーム部47は、照明ユニット駆動装置40Mによって、基台12の上方において左右方向及び前後方向に移動可能である。
図5に示されているように、スライダアーム38が前方に延び出した状態では、照明ユニット40は当該スライダアーム38と基台12との間に配置されることになる。つまり、照明ユニット40の上面が、スライダアーム38の下面よりも下方に位置している。一方、図6は、スライダアーム38が後方に退行した状態を示し、この状態のときに、細胞移動ライン20にヘッド部32が対向する。このように、スライダアーム38が後方に退行している状態では、共に基台12の上方に配置されているヘッドユニット30と照明ユニット40とは、左右方向において互いに干渉する。しかし、スライダアーム38が前方に延び出した状態では、照明ユニット40はヘッドユニット30と干渉しない位置関係となる。従って、ヘッドユニット30は、左右方向への移動時に照明ユニット40を迂回する経路を移動して、該照明ユニット40とすれ違うことが可能である。
カメラユニット50は、細胞選別部23及び細胞移載部26に保持されている細胞凝集塊を基台12の下方から撮像するために、基台12の下方において左右方向及び前後方向に移動可能に配置されている。さらに、本実施形態では、カメラユニット50は、チップ撮像部25においてシリンダチップ90のヘッド33への装着状態を観察するためにも用いられる。カメラユニット50は、カメラ51(撮像部)、コンデンサレンズ52、切り替え式の対物レンズユニット53及び図には現れていない落射照明器を含む。
カメラ51は、CCDイメージセンサ等の撮像素子を含み、対象物の静止画像及び動画像を取得する。コンデンサレンズ52及び対物レンズユニット53は、前記CCDイメージセンサの受光面に対象物の光像を結像させるための光学部品である。前記落射照明器は、コンデンサレンズ52の側方に配置されている。本実施形態では、前記細胞凝集塊を撮像する場合、照明ユニット40の照明ヘッド41から照明光が出射されている状態で、カメラ51は撮像動作を行う(透過照明)。一方、チップ撮像部25において前記チップを撮像する場合は、前記落射照明器が点灯された状態で(又は、チップ撮像部25内に組み付けられたLED照明具が点灯された状態で)、カメラ51は撮像動作を行う(側射照明)。なお、前記チップの撮像用に、専用の照明装置をカメラユニット50に具備させても良い。
カメラユニット駆動装置50Mは、カメラユニット50を左右方向へ移動させるための第3Xスライダ装置50Xと、カメラユニット50を前後方向に微小移動させるための第3Yスライダ装置50Yとを備える。第3Xスライダ装置50Xは、第3Xボールねじ装置54と、この第3Xボールねじ装置54によって左右方向に移動される第3Xスライダ55とを含む。第3Xボールねじ装置54は、第3Xモータ541と、第3Xモータ541により回転駆動される第3Xねじ軸542と、第3Xねじ軸542に係合される第3Xナット部材543とを含む。第3Xねじ軸542が正回転又は逆回転することで、第3Xナット部材543は右方又は左方に移動する。なお、図4では第3Xナット部材543を仮想的に描いており、実際は第3Xスライダ55に第3Xナット部材543が固定されている。
第3Xスライダ55は、第3Yスライダ装置50Y及びカメラユニット50を保持する平板状の部材である。第3Xスライダ55の下面には、一対の下ガイドレール151に嵌め込まれる被ガイド部551が備えられている。従って、第3Xモータ541の動作によって、第3Xスライダ55は下ガイドレール151にガイドされつつ左右方向に移動することができる。
第3Yスライダ装置50Yは、第3Yボールねじ装置56と、この第3Yボールねじ装置56によって前後方向にカメラ視野範囲を所望距離だけ移動させる第3Yスライダ57とを含む。第3Yボールねじ装置56は、第3Yモータ561と、この第3Yモータ561により回転駆動される第3Yねじ軸562と、第3Yねじ軸562が正回転又は逆回転することで前方又は後方に移動する第3Yナット部材(図には現れていない)とを含む。第3Yスライダ57は、前記第3Yナット部材に固定されている。なお、対物レンズユニット53は、カメラユニット50の枠フレームに対して前後方向に移動自在の第4Yスライダに搭載されており、一の対物レンズを光軸上に配置することが可能である。
第3Yスライダ57は、第3Xスライダ55の上面に配置されたガイドレールに組み付けられている。第3Yモータ561の動作によって、第3Yスライダ57は前記ガイドレールに沿って前後方向に移動することができる。カメラユニット50は、第3Yスライダ57の上に搭載されている。従って、カメラユニット50は、カメラユニット駆動装置50Mによって、基台12の下方において左右方向及び前後方向に移動可能である。
図3を参照して、ヘッドユニット30(ヘッド部32)は、作業室Wの作業空間R内に配置されている。一方、ヘッドユニット駆動装置30Mは、機械室WAの機械室空間RA内(作業室の外部)に配置されている。そして、スライダアーム38は、その一部(前方部分)が作業空間R内に配置され、他の一部(後方部分)が機械室空間RA内に配置されている。スライダアーム38は、隔壁171の上スリット174を前後方向に貫通している。上スリット174は、スライダアーム38の上下幅よりも僅かに大きいスリット幅を有し、スライダアーム38が細胞移動ライン20に沿って左右方向に移動することを許容する。
同様に照明ユニット40(照明ヘッド41)は、作業室Wの作業空間R内に配置されている。一方、照明ユニット駆動装置40Mは、機械室WAの機械室空間RA内に配置されている。そして、照明アーム部47は、その一部(前方部分)が作業空間R内に配置され、他の一部(後方部分)が機械室空間RA内に配置されている。照明アーム部47は、隔壁171の下スリット175を前後方向に貫通している。下スリット175は、照明アーム部47の上下幅よりも僅かに大きいスリット幅を有し、照明アーム部47が細胞移動ライン20に沿って左右方向に移動することを許容する。
隔壁171は、上スリット174及び下スリット175の形成により、上下方向に並ぶ3つの部分、すなわち上部ピース171A、中部ピース171B及び下部ピース171Cを備える。上部ピース171Aは、スライダアーム38の上面とトップカバー103との間において、中部ピース171Bはスライダアーム38の下面と照明アーム部47の上面との間において、下部ピース171Cは照明アーム部47の下面と基台12との間において、作業空間Rと機械室空間RAとを隔離している。つまり、スライダアーム38と照明アーム部47の移動に必要な最小限の開口を除き、両空間を隔離している。
このように本実施形態によれば、実際に対象物の移動作業を行うヘッドユニット30及び照明ユニット40が、閉鎖的な作業空間R内に配置される。一方、塵埃の発生要因となるヘッドユニット駆動装置30M及び照明ユニット駆動装置40M(駆動部)は、隔壁171で仕切られた機械室空間RAに配置される。このため、作業空間Rの防塵化を図ることができる。また、ヘッドユニット30を支持するスライダアーム38、並びに照明ユニット40を支持する照明アーム部47は、上スリット174、下スリット175を通して一部が作業空間R内に突出し、且つこれらスリット174、175の存在により細胞移動ライン20に沿って左右方向に移動することができる。従って、閉鎖的な作業空間Rを形成しても、作業性が損なわれることは無い。
本実施形態では、作業空間Rのさらなる防塵化を図るため、上スリット174を塞ぐ上シール部材71と、下スリット175を塞ぐ下シール部材73とを備える。これら上シール部材71、下シール部材73は、スライダアーム38、照明アーム部47の移動と同期して左右方向に一体的に移動する。
図7は、上シール部材71、下シール部材73を各々伴った、ヘッドユニット30及び照明ユニット40の斜視図である。上シール部材71及び下シール部材73は、いずれも硬質の樹脂からなる均一幅の帯状の部材である。なお、樹脂ベルトに代えて、上シール部材71及び下シール部材73として金属製の薄肉ベルトを用いることもできる。上シール部材71の幅は、上スリット174の上下幅よりも広く、同様に下シール部材73の幅は下スリット175の上下幅よりも広い。隔壁171は、作業空間Rを区画する面(表面)と、その反対側の機械室空間RAを区画する面(裏面)とを有している。上シール部材71及び下シール部材73は、隔壁171の前記裏面側に配置され、それぞれ上スリット174、下スリット175の周辺の前記裏面に近接する態様で、これらスリット174、175を塞いでいる。
上シール部材71は、上スリット174の左右幅の2倍以上の長さを有し、その一端がヘッドユニット30のガイド枠39の右方側の垂直フレーム部分に、他端がガイド枠39の左方側の垂直フレーム部分にそれぞれ取り付けられている。図8は、上シール部材71のガイド枠39への取り付け状況を示す図であって、図7の−Y方向から見た斜視図である。ガイド枠39の前端には、上下方向に延びるフランジ部391が設けられている。上シール部材71の一端71E1は、フランジ部391へ固定ねじ392によって固定されている。上シール部材71の他端も、同様にしてガイド枠39に固定されている。このような一端及び他端のガイド枠39への固定によって、上シール部材71はループ状を呈している。
ループ状の上シール部材71は、機械室空間RAの右前端、右後端、左前端及び左後端に各々配置された4つのプーリ721、722、723、724に対して、所定のテンションを有する状態で架け渡されている。上シール部材71は、4つのプーリ721〜724で支持されることによって、ヘッドユニット30(ガイド枠39が取り付けられている第1Xスライダ35)の左右方向の移動に伴って、循環的な移動を行うことができる。
同様に、下シール部材73は、下スリット175の左右幅の2倍以上の長さを有し、その一端が照明ユニット40のガイド枠48の右方側の垂直フレーム部分に、他端がガイド枠48の左方側の垂直フレーム部分にそれぞれ取り付けられている。ガイド枠48には、これらの取り付けのためのフランジ部481が備えられている。このような一端及び他端のガイド枠48への固定によって、下シール部材73もループ状を呈している。ループ状の下シール部材73は、機械室空間RAの右前端、右後端、左前端及び左後端に各々配置された4つのプーリ741、742、743、744に対して、所定のテンションを有する状態で架け渡されている。下シール部材73は、4つのプーリ741〜744で支持されることによって、照明ユニット40(ガイド枠48が取り付けられている第2Xスライダ44)の左右方向の移動に伴って、循環的な移動を行うことができる。
図9は、隔壁171の前面視の図であって、上シール部材71、下シール部材73による、上スリット174、下スリット175のシール状況を説明するための模式的な図である。上スリット174は、左右(水平)方向に直線状に延びるよう隔壁171に形成され、右端174R(第1スリット端縁)と左端174L(第2スリット端縁)とを備える。スライダアーム38は、既述の通り断面形状が矩形の部材であり、隔壁171を貫通する部分の付近に、左右方向において互いに対向する右側面38R(第1側面)と左側面38L(第2側面)とを備える。
上シール部材71の一端71E1は、右側面38R(本実施形態ではガイド枠39の右側垂直フレーム部分)に取り付けられ、他端71E2は左側面38L(ガイド枠39の左側垂直フレーム部分)に取り付けられている。スライダアーム38の右側面38Rと上スリット174の右端174Rとの間は、上シール部材71の右側部分71A(第1部分)で塞がれる。また、左側面38Lと左端174Lとの間は、上シール部材71の左側部分71B(第2部分)で塞がれる。
上シール部材71の右端側は右端174Rよりも右方に、左端側は左端174Lよりも左方に位置しており、上スリット174は上シール部材71にてほぼ完全に覆われている。このような閉塞状態を形成するよう、右前端プーリ721(第1プーリ)は右端174Rよりも外側(右方)に、左前端プーリ723(第2プーリ)は左端174Lよりも外側(左方)に、各々隔壁171に隣接して配置されている。これにより、右側部分71Aは右端174Rに至るまで上スリット174を覆うように、左側部分71Bは左端174Lまで上スリット174を覆うように、各々隔壁171の裏面に沿わせられる。このような右前端プーリ721、左前端プーリ723の配置によって、ループ状を呈する上シール部材71による上スリット174の閉塞状態を維持しつつ、ヘッドユニット30の左右方向への移動に追従させて上シール部材71を循環的に移動させることができる。
下スリット175は、上スリット174の下方において左右方向に直線状に延びるよう隔壁171に形成され、右端175Rと左端175Lとを備える。照明アーム部47は、隔壁171を貫通する部分の付近に、左右方向において互いに対向する右側面47Rと左側面47Lとを備える。下シール部材73の一端73E1は、右側面47R(本実施形態ではガイド枠48の右側垂直フレーム部分)に取り付けられ、他端71E2は左側面38L(ガイド枠39の左側垂直フレーム部分)に取り付けられている。照明アーム部47の右側面47Rと下スリット175の右端175Rとの間は、下シール部材73の右側部分73Aで塞がれる。また、左側面47Lと左端175Lとの間は、下シール部材73の左側部分73Bで塞がれる。
下シール部材73の右端側は右端175Rよりも右方に、左端側は左端175Lよりも左方に位置しており、下スリット175は下シール部材73にてほぼ完全に覆われている。このような閉塞状態を形成するよう、右前端プーリ741は右端175Rよりも外側(右方)に、左前端プーリ743は左端175Lよりも外側(左方)に、各々隔壁171に隣接して配置されている。これにより、右側部分73Aは右端175Rに至るまで下スリット175を覆うように、左側部分73Bは左端175Lまで下スリット175を覆うように、各々隔壁171の裏面に沿わせられている。
続いて、細胞移動ライン20について図11に基づいて説明する。図11は、細胞移動ライン20の上面視の平面図である。細胞移動ライン20は、作業空間R内に配置され、図11の左端側から順に、分注チップストック部22、対象物ストック部21、チップストック部24、チップ撮像部25、細胞選別部23(第1容器)、ブラックカバー載置部27、細胞移載部26(第2容器)及びチップ廃棄部28が、基台12上に左右方向(第1方向)に一列に配列されてなる。ここに示した細胞移動ライン20の配列は一例であり、作業効率等を考慮して各部の配置位置を適宜設定することができる。例えば、ブラックカバー載置部27を、細胞選別部23、細胞移載部26の前方側(+Y)又は後方側(−Y)に配置しても良い。
対象物ストック部21は、分注元となる、多量の細胞凝集塊(対象物)が分散された細胞培養液を貯留する部位である。対象物ストック部21は、ボックス211と、このボックス211で保持されたチューブ212と、ボックス211上に載置された蓋部材213とを備える。チューブ212は、上面が開口した円筒状容器であり、細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液を貯留する。蓋部材213は、チューブ212の開口を塞ぐための部材である。
分注チップストック部22は、複数個の分注チップ62を保管する部位である。分注チップ62は、細長いチューブ状の部材であり、第1ノズル321(図10)に嵌め込まれる上端部と、細胞培養液を吸引及び吐出する開口を端縁に備えた下端部とを備える。分注チップ62は、第1ノズル321に対して装着及び取り外しが可能である。分注チップ62は、第1ノズル321から吸引力が与えられることで、細胞培養液を吸引する一方、前記吐出力を与えられることで吸引した細胞培養液を吐出する。分注チップストック部22は、立設状態でマトリクス状に整列された分注チップ62を保持する保持ボックス221を備える。分注チップ62は、その上端部が保持ボックス221の上端面から上方に突出した状態で、保持ボックス221に保持されている。
細胞選別部23は、細胞移動ライン20において左右方向のセンターポジションに配置され、各種サイズの細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液から、所望のサイズの細胞凝集塊を選別するための部位である。細胞選別部23は、ディッシュ61(第1容器)と保持テーブル231とを含む。ディッシュ61は、分注チップ62によって細胞凝集塊を含む細胞培養液が分注され、該細胞培養液を貯留することができる上面開口の容器である。保持テーブル231は、基台12の上に載置され、ディッシュ61を位置決めして保持する透明な部材である。
ディッシュ61は、上面側に細胞凝集塊を担持するための複数の凹部を備えたウェルプレートを含む。前記凹部の底部には貫通孔が設けられており、抽出対象となる細胞凝集塊は前記凹部で保持され、夾雑物等は前記貫通孔から落下する。このように細胞凝集塊と夾雑物との選別が行われるので、前記ウェルプレート上には細胞凝集塊だけが残存するようになる。前記凹部に担持された状態の細胞凝集塊の画像が、照明ユニット40による照明下でカメラ51にて撮像される。これにより、吸引すべき細胞凝集塊の位置が特定される。
チップストック部24は、細胞選別部23の左隣に配置され、複数個のシリンダチップ90(チップの一例)を保持する部位である。シリンダチップ90は、図18に示すように細長いチューブ状の部材であり、ヘッド33に対して装着及び取り外しが可能である。シリンダチップ90は、上述のウェルプレートの凹部に担持された細胞凝集塊を吸引し、ヘッドユニット30の移動に伴い該細胞凝集塊を運搬し、これを細胞移載部26へ吐出する機能を果たす。
チップストック部24は、立設状態でマトリクス状に整列されたシリンダチップ90を保持する保持ボックス241を含む。シリンダチップ90は、その上端部分が保持ボックス241の上端面から上方に突出した状態で、保持ボックス241に保持されている。つまり、上下方向に移動するヘッド33に対して装着が容易に行い得る状態で、シリンダチップ90は、保持ボックス241に保持されている。
図18は、シリンダチップ90及びヘッド33の内部構造を示す断面図、図19はシリンダチップ90の分解斜視図である。シリンダチップ90は、細胞凝集塊を吸引するための吸引経路となる管状通路91Pを内部に備えるシリンジ91と、管状通路91Pを画定するシリンジ91の内周壁と摺接しつつ管状通路91P内を進退移動するプランジャ92とを備える。シリンジ91は、大径の円筒体からなるシリンジ基端部911と、細径で長尺の円筒体からなるシリンジ本体部912と、基端部911と本体部912とを繋ぐテーパ筒部913とを含む。管状通路91Pは、シリンジ本体部912に形成されている。シリンジ本体部912の先端には、吸引口91T(吐出口でもある)が設けられている。プランジャ92は、円筒体からなるプランジャ基端部921と、針状のプランジャ本体部922と、基端部921と本体部922とを繋ぐ半球部923とを含む。
シリンジ基端部911は、円筒型の中空部91Hを備えている。プランジャ基端部921の外径は、中空部91Hの内径よりも所定長だけ小さく設定されている。プランジャ本体部922の外径は、管状通路91Pの内径よりも僅かに小さく設定されている。また、テーパ筒部913の内周面の形状は、半球部923の外周面の曲面形状に合致している。プランジャ基端部921が中空部91H内に収容され、プランジャ本体部922がシリンジ本体部912の管状通路91Pに挿通される態様で、シリンジ91に対してプランジャ92が組み付けられている。
図18では、プランジャ本体部922がシリンジ本体部912に最も深く挿通されている状態、つまりプランジャ92が最も下降した状態を示している。このとき、テーパ筒部913のキャビティに、半球部923が完全に受容された状態となる。プランジャ本体部922の長さは、シリンジ本体部912よりもやや長く、図18の状態では、吸引口91Tから先端部924が突出している。また、シリンジ基端部911の内周面とプランジャ基端部921の外周面との間にはギャップが存在している。
プランジャ92は、図18の状態から、シリンジ91に対して上方向(+Z)へ移動することができる。所定長だけ上方向にプランジャ92が移動すると、プランジャ本体部922の先端部924は管状通路91Pの内部に没する。この際、吸引口91Tに吸引力を発生させ、該吸引口91Tの周囲の液体(本実施形態では細胞培養液)を管状通路91P内へ吸引することができる。この吸引の後、プランジャ92を下方向(−Z)へ移動させると、前記管状通路91P内へ吸引された液体を吸引口91Tから吐出させることができる。
ヘッド33は、上下方向に移動可能な円柱状のロッド331と、このロッド331の周囲に配置され上下方向に移動可能な円筒状の移動筒332と、該移動筒332の周囲に配置された円筒状の固定筒333とを備えている。また、ヘッド33は、全体的にZ方向へ移動することが可能である。
プランジャ基端部921には、上方向の端面に開口を有する、円筒状の中空空間からなる装着孔92Hが備えられている。この装着孔92Hは、ロッド331の先端を圧入させるための孔であり、該圧入によってロッド331とプランジャ92とが一体的に上下方向へ移動できるようになる。移動筒332は、ロッド331とは独立して上下方向に移動可能である。移動筒332の下端面は、プランジャ基端部921の上端面と対向している。固定筒333は、シリンジ基端部911が圧入される筒であり、この圧入時にはシリンジ基端部911とプランジャ基端部921との間の前記ギャップに入り込む。
続いて、図20(A)〜(E)を参照して、シリンダチップ90による細胞凝集塊Cの吸引及び吐出動作を説明する。ここでは、シリンダチップ90にて、容器C1に貯留されている細胞培養液Lm1中に存在する細胞凝集塊Cを吸引し、容器C2に貯留されている細胞培養液Lm2中に当該細胞凝集塊Cを吐出する場合について説明する。本実施形態に当て嵌めれば、容器C1は細胞選別部23、容器C2は細胞移載部26に各々配置される容器である。
図20(A)に示すように、シリンダチップ90を吸引対象とする細胞凝集塊Cの真上に移動させる。プランジャ92がシリンジ91に対して相対的に上方(+Z)に移動しており、プランジャ本体部922の先端部924がシリンジ本体部912内に没入した状態であるときは、図20(B)に示すように、プランジャ92を最も下方(−Z)に移動させ、先端部924を吸引口91Tから突出させる。つまり、シリンジ本体部912の管状通路91P内に空気が存在しない状態とする。その後、図20(C)に示すように、シリンダチップ90を全体的に下降させ、吸引口91Tを容器C1の細胞培養液Lm1中に突入させる。このとき、なるべく吸引口91Tを細胞凝集塊Cに接近させる。
続いて、図20(D)に示すように、プランジャ92を所定高さだけ上方へ移動させる。この動作により、吸引口91Tには吸引力が発生し、細胞凝集塊Cと一部の細胞培養液Lmaとがシリンジ本体部912内に吸引される。この状態で、シリンダチップ90は全体的に上昇され、容器C2の配置位置まで移動される。そして、図20(E)に示すように、吸引口91Tが容器C2の細胞培養液Lm2中に突入するまで、シリンダチップ90が全体的に下降される。しかる後、所定高さ位置にあるプランジャ92を、先端部924が吸引口91Tから突出するまで下降させる。この下降動作により、細胞凝集塊Cは容器C2の細胞培養液Lm2中に吐出される。
図11に戻って、チップ撮像部25は、ヘッド33に装着されたシリンダチップ90の画像が撮像される位置を提供するピットである。前記撮像を行うのは、本実施形態ではカメラユニット50である。従って、前記撮像が行われる際、カメラユニット50は、チップ撮像部25の直下に移動され、前記落射照明器の照明下において各シリンダチップ90の画像を撮像する。シリンダチップ90の画像並びに撮像時における焦点位置情報に基づき、シリンダチップ90の吸引口91TのXYZ座標位置が求められる。当該座標位置と、予め定められた基準位置との差分から補正値が導出される。当該補正値は、ヘッド33(ヘッドユニット30)の移動制御の際の補正値として利用される。なお、前記落射照明器に代えて、チップ撮像部25自体にLED照明具のような照明器具を装備させ、該照明器具の照明下で前記撮像を行うようにしても良い。
細胞移載部26は、細胞移動ライン20において右端部付近(第1容器に対して第1方向に離間した位置)に配置され、細胞選別部23のディッシュ61から吸引された細胞凝集塊の移動先となる部位である。細胞移載部26は、細胞凝集塊を収容するマイクロプレート63(第2容器)を含む。なお、マイクロプレート90に代えて、ディッシュ60と同様な容器を細胞移載部26に具備させても良い。マイクロプレート63は、上面が開口した多数の小さなウェル64が、マトリクス状に配列されたプレートである。マイクロプレート63は、透光性の部材、例えば透明プラスチックで形成されている。一般に、一つのウェル64には、一つの細胞凝集塊が収容される。従って、各ウェル64に収容された状態の細胞凝集塊を、カメラ51によって撮像することができる。また、ウェル64の配列ピッチは、一列に並んだヘッド33に装着されたシリンダチップ90群の配列ピッチと略同一に設定されている。これにより、一群のシリンダチップ90から同時にウェル64に細胞凝集塊を吐出させることが可能である。なお、一つのウェル91に、指定個数の細胞凝集塊を収容させたり、指定量(総体積又は総面積)の細胞凝集塊を収容させたりすることもできる。
ブラックカバー載置部27は、細胞選別部23又は細胞移載部26に被せられるブラックカバー271が載置される部位である。ブラックカバー271は、下面開口のボックスであって、ディッシュ61又はマイクロプレート63に担持された細胞凝集塊を、遮光された状態で撮像する際に用いられる遮光体である。ブラックカバー271は、例えば、細胞培養液に蛍光剤を添加し、細胞凝集塊を蛍光観察する際に、ディッシュ61又はマイクロプレート63に対して、これらを覆い隠すように被せられる。
チップ廃棄部28は、細胞移動ライン20の右端に配置され、上述の吸引及び吐出動作を終えた使用後のシリンダチップ90及び分注チップ62が廃棄される部位である。チップ廃棄部28は、使用後のシリンダチップ90及び分注チップ62を収容するための回収ボックス281を含む。前記廃棄の際、シリンダチップ90又は分注チップ62を装備したヘッド部32が回収ボックス281の開口部282上に移動され、シリンダチップ90又は分注チップ62のヘッド部32からの取り外し動作が実行される。この取り外し動作により、シリンダチップ90又は分注チップ62は、開口部282を通して回収ボックス281に落下する。
ここで、ヘッド33に対するシリンダチップ90の着脱動作を説明する。シリンダチップ90のヘッド33への装着時、ヘッド部32がチップストック部24上に移動され、1のシリンダチップ90に対して位置合わせされた1のヘッド33が降下される。このとき、図18に示しているように、ロッド331の下端面と固定筒333の下端面とは略面一に設定される一方で、これら下端面に対して移動筒332の下端面は上方に没入した状態とされる。この状態のヘッドが下降することで、ロッド331はプランジャ基端部921の装着孔92Hに圧入され、また、固定筒333はシリンジ基端部911の中空部91Hに圧入される。これにより、シリンダチップ90のヘッド33への装着が完了する。この状態でロッド331だけを上下動させることで、プランジャ92をシリンジ91に対して進退移動させることができる。
シリンダチップ90のヘッド33からの取り外し時、上方に退避していた移動筒332(図18の状態)が下降される。これにより、移動筒332の下端面によってプランジャ基端部921が下方に押圧され、プランジャ基端部921がロッド331から抜け出し始める。すると、プランジャ92の半球部923がシリンジ91のテーパ筒部913の内周面を押圧するようになり、シリンジ91に対しても固定筒333から抜け出す押圧力が作用するようになる。移動筒332の下降がさらに進むと、ついにはシリンダチップ90はヘッド33から脱落する。
続いて、移動装置1の吸排気系統について説明する。図12は、移動装置1の吸排気に関わる構成を示す斜視図である。本実施形態の移動装置1は、細胞移動ライン20、ヘッドユニット30及び照明ユニット40を、閉鎖的な空間である作業空間Rに配置することによって、細胞を実際にハンドリングする空間を防塵化している。これにより、移動装置1自体をクリーンルームに配置する必要がなくなる。しかし、移動装置1は、作業空間Rとは隔壁171で離隔された機械室空間RAに配置されているとはいえ、ヘッドユニット駆動装置30M及び照明ユニット駆動装置40Mといった塵埃の発生要因となる可動部を備えている。しかも隔壁171には、上述の通り上スリット174、下スリット175という開口が存在する。そこで、作業空間Rのクリーン度をより高く維持するために、移動装置1は作業空間Rを通過する空気流を形成するための吸排気系統を備えている。
前記吸排気系統は、外気を移動装置1内へ取り込むための吸気口8Aと、移動装置1から空気を排気するための排気口8Bと、吸気口8Aから作業空間R及び機械室空間RAを経て排気口8Bへ至る空気流を発生させる吸気ファン81及び排気ファン85とを備えている。また、吸気口8Aと排気口8Bとの間には、空気流をガイドするための上部ダクト82、前方ダクト83、連通ダクト84(図16)、後方ダクト86、側方ダクト87(図14)及び垂直ダクト88が備えられている。
吸気口8A及び排気口8Bは、いずれもトップカバー103(基台12と対向する天板)に設けられている。つまり、前記吸排気系統は、移動装置1の天井面から吸気と排気とを行う。本実施形態では、吸気口8A及び排気口8Bは、一対で、前記天井面の右前端部と左前端部との2箇所に配置されている。吸気口8A及び排気口8Bは、作業室Wを区画する他の側壁(仕切り壁17)や基台12に設けるようにしても良い。しかし、吸気口8Aを天井面に設けることで、後述するダウンフローを作業空間R内に生成し易い利点がある。また、排気口8Bを移動装置1の側壁や底面に設けると、隣接する機器に影響を与えたり地面の塵埃を舞上げたりする懸念があるが、このような懸念は、排気口8Bを天井面に設けることで解消することができる。
吸気口8Aには、防塵フィルター811が配置されている。この防塵フィルター811により、作業空間Rに導入される空気はプレフィルタリングされる。防塵フィルター811は、トップカバー103の右前端部及び左前端部に配置された、上面開口のフレーム枠812の上方において、トップカバー103によって保持されている。吸気ファン81はシロッコファンであり、図13に示すように、防塵フィルター811の下面に対向する入気口81Aと、側方に配向した出気口81Bとを備えている。上部ダクト82は、作業室Wの上面であって、吸気ファン81の下流側に配置されている(図16参照)。上部ダクト82は、出気口81Bから吹き出される空気流を、作業空間Rの左右方向の中央へ向けて導き、その後に基台12に向けて吹き出し口821から前記空気流を下方へ吹き出すダクトである。
上部ダクト82の吹き出し口821の近傍には、平面視で矩形のHEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)フィルター822が配置されている。HEPAフィルター822は、日本工業規格のJIS Z8122で規定されている通り、定格流量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルターである。このHEPAフィルター822により、作業空間Rに導入される空気は清浄化される。すなわち、吸気ファン81の稼働によって、防塵フィルター811を介して空気が取り入れられ、吸気ファン81の下流に配置された上部ダクト82内のHEPAフィルター822を通して作業空間Rに向かう前記空気流が形成される。なお、防塵フィルター811の位置にHEPAフィルター822を配置するようにしても良い。特に、移動装置1が配置される環境がクリーンルーム環境である場合は、防塵フィルター811の位置にHEPAフィルター822を配置することが望ましい。
前方ダクト83は、作業室Wの下面であって、基台12の前方に配置された、左右方向に広幅のダクトである。前方ダクト83の上面には、左右方向に並ぶ多数の長孔からなるルーバー83Lが備えられている。作業空間R内の空気は、専らこのルーバー83Lから吸引される。すなわち、上部ダクト82から吹き出された空気の多くはルーバー83Lに向かうようになり、これにより作業空間Rには、上方から下方にむかうダウンフローが形成されることになる。
図16に示されているように、前方ダクト83と排気ファン85との間には、基台12の裏面を利用した連通ダクト84が配置されている。排気ファン85は、連通ダクト84の後方であって、機械室WAの底板121の下方に、左右一対で配置されている。排気ファン85の入気口851は、底板121と対向するように上方に配向されている。図15に示されているように、底板121には、多数の通気孔122が穿孔されている。なお、底板121よりも一段低い位置に配置されている下段底板123にも、多数の通気孔124が穿孔されている。連通ダクト84の下流端は、排気ファン85の入気口851に接続されている。後方ダクト86の上流端は、排気ファン85の出気口(不図示)に接続されている。連通ダクト84は、前方ダクト83に取り入れられた空気流を、機械室空間RAを経由せずに後方ダクト86へ導くダクトである。排気ファン85はシロッコファンであり、作業空間R及び機械室空間RAにダウンフローの空気流を発生させるためのファンである。後方ダクト86は、排気ファン85から排出される空気流を移動装置1の側面に導くダクトである。
図14は、移動装置1の側壁に組み込まれるダクト(側方ダクト87及び垂直ダクト88)を示す斜視図である。側方ダクト87は、各サイドフレーム112(図2)の外側にそれぞれ配置され、前後方向に延びるダクトである。後方ダクト86の下流端が、側方ダクト87の上流端87U(後端)付近に接続されている。側方ダクト87の下流端87D(前端)は、移動装置1の前端面付近まで延びている。側方ダクト87の側方開口面は、側面外装カバー19により閉塞されている。つまり側方ダクト87は、サイドフレーム112と側面外装カバー19との間に配置され、空気流を機械室空間RA側から移動装置1の前面へ導くためのダクトである。
垂直ダクト88は、移動装置1の右前端部及び左前端部にそれぞれ配置されている。垂直ダクト88の上流端(下端)付近には、側方ダクト87の下流端87Dが接続されている。また、垂直ダクト88の下流端(上端)は、排気口8Bである。図13に示すように、排気口8Bはフレーム枠812の最も前寄りの位置に配置されている。垂直ダクト88は、側方ダクト87によって移動装置1の前面へ導かれた空気流を、天井面の排気口8Bに向けて導くダクトである。
図15は、移動装置1内に形成される空気流を示す斜視図、図16は、その側面図である。なお、図15では、右側の吸排気系統についてのみ空気流を示している。先ず、装置前面の開閉カバー17Aが閉じられ、吸気ファン81及び排気ファン85の双方が稼働する状態における空気流について説明する。吸気ファン81の吸排気動作により、矢印F1で示すように、吸気口8Aから防塵フィルター811を介して外気が取り入れられ、上部ダクト82内のHEPAフィルター822を経て作業空間R内に向かう空気流が形成される。
作業空間Rは閉鎖的な空間であり、主な空気の逃げ道は前方ダクト83のルーバー83Lとなる。排気ファン85の稼働により、ルーバー83Lには吸引力が発生する。従って、作業空間R内には、矢印F2で示すように、上方の上部ダクト82の下流端から下方のルーバー83Lに向かうダウンフローが発生する。従って、作業空間Rには、HEPAフィルター822でフィルタリングされた清浄な空気が導入される。また、作業空間Rに塵埃が存在するとしても、これらは前記ダウンフローにより作業空間R内において飛散することなく、ルーバー83Lから回収される。その後、空気流は、矢印F3で示すように、連通ダクト84によって基台12の下方、及び機械室WAの下方を経由して、排気ファン85の入気口851に導かれる。
さらに、機械室空間RA内においては、上スリット174から排気ファン85に向かう空気流(矢印F21)、及び、下スリット175から排気ファン85に向かう空気流(矢印F22)が発生する。既述の通り、上シール部材71、下シール部材73によって、上スリット174、下スリット175は各々塞がれる。しかし、上スリット174及び下スリット175は密閉されるわけではない。このため、排気ファン85の動作によって、上スリット174と上シール部材71との隙間、並びに、下スリット175と下シール部材73との隙間を介して、作業空間Rから機械室空間RAへ向かう空気流が発生する。以上の矢印F21、F22の空気流によって、機械室空間RA内の空気が入れ換えられ、仮にヘッドユニット駆動装置30M及び照明ユニット駆動装置40Mの駆動によって塵埃が発生したとしても、これら塵埃は舞い上がることなく、入気口851から回収される。また、上スリット174及び下スリット175の隙間と通して、機械室空間RAの塵埃が作業空間Rへ向かうことを防止することができる。
排気ファン85から吹き出される空気流は、矢印F4で示すように、後方ダクト86及び側方ダクト87によって、移動装置1の前面へ導かれる。しかる後、空気流は、矢印F5で示すように、垂直ダクト88内に導入され、該垂直ダクト88内を上方へ向かう。そして、空気流は、矢印F6で示すように、回収された塵埃と共に移動装置1の天井面に配置されている排気口8Bから上方へ排出される。
開閉カバー17Aが開放されている場合、吸気ファン81及び排気ファン85の双方が稼働していると、矢印F2で示すダウンフローの一部が、フロントカバー101の開口部104(図1)から外部に流れ出すようになる。このような空気流がエアーカーテンとしての機能を果たし、開閉カバー17Aが開放されても、みだりに塵埃が作業空間R内に進入しない。
また、吸気ファン81を停止させ排気ファン85を稼働させた場合、或いは、吸気ファン81に比べて排気ファン85のパワーが十分大きい場合、図16において矢印F23で示すように、移動装置1の前面周辺の空気がルーバー83Lへ流入する空気流が発生する。このような空気流は、作業空間R内の空気が開口部104から飛散することを抑止する。従って、細胞移動作業において人体に影響を及ぼす物質が扱われる場合に、開閉カバー17Aを開けて開口部104と対峙するユーザーを保護することができる。
図17は、移動装置1の制御部16の構成を示すブロック図である。制御部16は、主制御部161、軸制御部162、照明制御部163、カメラ制御部164及びファン制御部165を機能的に備えている。主制御部161は、移動装置1の装置本体10における各種の制御を統合的に行う。すなわち、主制御部161は、ヘッドユニット30(ヘッド部32)を細胞移動ライン20の各作業部へ向かうように移動させ、シリンダチップ90又は分注チップ62の装着及び取り外しや、細胞培養液(細胞凝集塊)の吸引及び吐出動作等を行わせ、また、照明ユニット40及びカメラユニット50を移動させ、ディッシュ61又はマイクロプレート63に担持された細胞凝集塊、或いはヘッド33に装着されたシリンダチップ90の画像を撮像させる。さらに主制御部161は、吸気ファン81及び排気ファン85を動作させて、移動装置1内を防塵環境とする。
軸制御部162は、ヘッドユニット駆動装置30M、ヘッド駆動装置300M、照明ユニット駆動装置40M及びカメラユニット駆動装置50Mの動作を制御する。実際に軸制御部162が制御するのは、ヘッドユニット駆動装置30Mの第1Xモータ341及び第1Yモータ361、ヘッド駆動装置300Mが備えるヘッド33(ロッド331及び移動筒332)を上下動させる駆動モータ(図略)、照明ユニット駆動装置40Mの第2Xモータ431及び第2Yモータ、及び、カメラユニット駆動装置50Mの第3Xモータ541及び第3Yモータ561である。
具体的には軸制御部162は、ヘッドユニット駆動装置30Mを制御することで、ヘッドユニット30の前後左右の移動を制御する。ヘッド駆動装置300Mの制御により、ヘッド33、第1ノズル321及び第2ノズル322の上下動、ヘッド33におけるロッド331他の昇降動作(吸引及び吐出動作)、第1ノズル321及び第2ノズル322における吸引及び吐出動作などが制御される。照明ユニット駆動装置40Mの制御により、照明ユニット40の前後左右の移動が制御される。カメラユニット駆動装置50Mの制御により、カメラユニット50の前後左右の移動が制御される。
照明制御部163は、照明ユニット40内に備えられている光源40Lの発光動作を制御する。具体的には、照明制御部163は、細胞選別部23又は細胞移載部26に保持されている細胞凝集塊をカメラ51にて撮像する際に、透過照明を発生させるために光源40Lを所定のルーチンで点灯及び消灯させる。
カメラ制御部164は、カメラ51の撮像動作を制御する。例えばカメラ制御部164は、上記撮像動作の際に、カメラ51のフォーカシング、シャッタータイミング、シャッター速度(露光量)などを制御する。
ファン制御部165は、吸気ファン81及び排気ファン85の回転駆動の開始及び停止を制御する。作業室W内で細胞移動作業が行われる場合等、作業空間R及び機械室空間RAにダウンフローの空気流を発生させる必要があるときに、ファン制御部165は、吸気ファン81及び排気ファン85を動作させる。
制御部16が移動装置1の装置本体10に実行させる動作(作業)は、大別すると、分注チップ62を用いた細胞培養液の分注動作と、シリンダチップ90を用いた細胞移動動作とである。これらの動作の際、開閉カバー17Aは閉とされ、吸気ファン81及び排気ファン85は稼働状態とされる。前記分注動作は、作業空間R内で順次行われる次の作業ステップ1〜5を含む。
[作業ステップ1]ヘッドユニット30を分注チップストック部22上に移動させ、ヘッド部32の第1ノズル321に分注チップ62を装着させる。
[作業ステップ2]ヘッドユニット30を対象物ストック部21上に移動させ、チューブ212に貯留された、細胞凝集塊を含む細胞培養液を所定の分注量だけ分注チップ62内に吸引させる。
[作業ステップ3]ヘッドユニット30を細胞選別部23上に移動させ、分注チップ62内の前記細胞培養液をディッシュ61に吐出させる。
[作業ステップ4]照明ユニット40及びカメラユニット50を細胞選別部23の上方及び下方に移動させ、前記細胞培養液が分注されたディッシュ61を撮像させる。
[作業ステップ5]ヘッドユニット30をチップ廃棄部28上に移動させ、使用済みの分注チップ62を第1ノズル321から取り外し、回収ボックス281内に廃棄させる。
前記細胞移動動作は、次の作業ステップ6〜11を含む。
[作業ステップ6]ヘッドユニット30をチップストック部24上に移動させ、ヘッド33にシリンダチップ90を装着させる。
[作業ステップ7]ヘッドユニット30及びカメラユニット50をチップ撮像部25の上方及び下方に移動させ、ヘッド33に装着されたシリンダチップ90を撮像し、得られた画像からシリンダチップ90の吸引口91TのXYZ座標位置を求める。
[作業ステップ8]ヘッドユニット30を細胞選別部23上に移動させ、ディッシュ61に貯留された細胞凝集塊をシリンダチップ90内に吸引させる。
[作業ステップ9]ヘッドユニット30を細胞移載部26上に移動させ、各シリンダチップ90内の細胞凝集塊をマイクロプレート63のウェル64にそれぞれ吐出させる。
[作業ステップ10]ヘッドユニット30をチップ廃棄部28上に移動させ、使用済みのシリンダチップ90をヘッド33から取り外し、回収ボックス281内に廃棄させる。
[作業ステップ11]照明ユニット40及びカメラユニット50を細胞移載部26の上方及び下方に移動させ、ウェル64内の細胞凝集塊を撮像する。
以上説明した移動装置1によれば、細胞凝集塊の吸引及び吐出動作を行うシリンダチップ90が取り付けられるヘッド33を備えたヘッド部32が、仕切り壁17によって閉鎖的に区画された作業空間R内に配置される。一方、塵埃の発生要因となるヘッドユニット駆動装置30M及び照明ユニット駆動装置40Mなどの駆動部は、作業空間Rと隔壁171で隔離された機械室空間RAに配置される。このため、作業空間Rの防塵化を図ることができる。また、ヘッドユニット30を前端側で支持するスライダアーム38は、上スリット174を通して一部が作業空間Rに突出し、且つ上スリット174の存在により左右方向に移動することができる。従って、閉鎖的な作業空間Rを形成しても、ヘッド部32による細胞移動作業の作業性が損なわれることは無い。
さらに、上スリット174は上シール部材71にて塞がれる。つまり、スライダアーム38を移動させるために必要な上スリット174が上シール部材71にて塞がれる。従って、前記作業空間のより高度な防塵化を図ることができる。その上、吸気ファン81及び排気ファン85によって形成される作業空間R内のダウンフローにより、当該作業空間Rの防塵化を図ることができる。
なお、上記実施形態では、吸気口8Aから外気を移動装置1内に取り入れ、これを排気口8Bから排気させる例を示した。これに代えて、移動装置1内でHEPAフィルター811のようなエアフィルターを経由する内部循環空気流路を形成し、外気とは遮断された空気流を形成するようにしても良い。この内部循環方式は、移動装置1を配置する環境が塵埃等の多い環境である場合や、逆に移動装置1の設置環境が細胞培養施設のように外部に移動装置1内の空気を排気させないことが求められる場合等に有用である。なお、内部循環方式と上記実施形態で説明した外気取り入れ方式との切り替えを、吸気口8A及び排気口8Bの上にカバー部材を取り付けるか否かによって選択できるようにすることは、好ましい実施形態の一つである。
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
本発明の一局面に係る対象物の移動装置は、水平方向に延びる平面を備えた基台と、該基台の上方空間を閉鎖的に取り囲む壁とを含み、前記上方空間が作業空間として利用される作業室と、前記基台上に配置され、上面が開口し、対象物を貯留する第1容器と、前記基台上に前記第1容器に対して第1方向に離間して配置され、上面が開口し、前記対象物を受け入れる第2容器と、上下動が可能なロッドを備えるヘッド部と、前記第1方向と交差する第2方向において水平方向に延び前記ヘッド部を支持するアーム部と、前記ヘッド部及び前記アーム部を前記第1方向に移動させる駆動部と、を含むヘッドユニットと、
前記ロッドに取り付けられ、前記ロッドの上下動により前記対象物の吸引と吸引した前記対象物の吐出とを行うチップと、を備え、前記ヘッドユニットのヘッド部は、前記作業空間内に配置され、前記駆動部は、前記作業室の外部に配置され、前記アーム部は、その一部が前記作業空間内に配置され、他の一部が前記作業室の外部に配置され、前記壁には、前記アーム部を貫通させると共に前記アーム部の第1方向への移動を許容するスリットが形成されている。
この移動装置によれば、対象物の吸引及び吐出動作を行うチップが取り付けられるロッドを備えたヘッド部、つまり実際に対象物の移動作業を行うヘッド部が、壁によって閉鎖的に区画された作業空間内に配置される。一方、塵埃の発生要因となる駆動部は、前記作業室の外部に配置される。このため、前記作業空間の防塵化を図ることができる。また、前記ヘッド部を支持するアーム部は、スリットを通して一部が前記作業空間内に突出し、且つ前記スリットの存在により前記第1方向に移動することができる。従って、閉鎖的な作業空間を形成しても、前記ヘッド部による前記移動作業の作業性が損なわれることは無い。
上記の移動装置において、前記スリットを塞ぐシール部材をさらに備え、前記シール部材は、前記アーム部と同期して前記第1方向に移動することが望ましい。
この移動装置によれば、前記アーム部を移動させるために必要な前記壁のスリットの部分をもシール部材にて塞ぐことができる。従って、前記作業空間のより高度な防塵化を図ることができる。
この場合の移動装置において、前記基台は直線状の側辺を含み、前記作業室の壁は前記基台の前記側辺から垂直方向に立設された隔壁を含み、前記スリットは、前記第1方向に直線状に延びるよう前記隔壁に形成され、第1スリット端縁と、これと反対側の第2スリット端縁とを備え、前記アーム部は、前記隔壁を貫通する部分の付近に、前記第1方向において互いに対向する第1側面及び第2側面を備え、前記シール部材は帯状の部材からなり、前記第1側面と前記第1スリット端縁との間を塞ぐ第1部分と、前記第2側面と前記第2スリット端縁との間を塞ぐ第2部分とを含む構成とすることができる。
この移動装置によれば、帯状のシール部材によって、前記アーム部の第1側面と前記第1スリット端縁との間、及び第2側面と前記第2スリット端縁との間を、隙間無く塞ぐようにすることができる。
さらに望ましくは、上記の移動装置において、前記隔壁は、前記作業空間を区画する表面と、その反対側の裏面とを備え、前記シール部材は前記裏面の側に配置され、前記第1部分及び前記第2部分が前記スリットの周辺の前記裏面に近接する態様で前記スリットを塞いでおり、前記シール部材は、前記スリットの前記第1方向の長さの少なくとも2倍の長さを有する帯状の部材からなり、その一端が前記アーム部材の前記第1側面に取り付けられ、他端が前記第2側面に取り付けられることによってループ状を呈し、前記対象物の移動装置は、さらに、前記ループ状のシール部材を循環的な移動を可能に支持するプーリであって、前記第1スリット端縁よりも外側に配置され前記第1部分を前記隔壁の裏面に沿わせる第1プーリと、前記第2スリット端縁よりも外側に配置され前記第2部分を前記隔壁の裏面に沿わせる第2プーリとを備える構成とすることができる。
この移動装置によれば、前記シール部材がループ状を呈し、このシール部材の循環的な移動が第1、第2プーリにより担保される。従って、前記シール部材による前記スリットの閉塞状態を維持しつつ、前記ヘッド部及びアーム部の前記第1方向への移動に追従させて前記シール部材を移動させる機能を、簡易な構成で実現することができる。
上記の移動装置において、前記アーム部材は、前記第2方向に進退するスライダ部を含み、前記ヘッド部は、前記スライダ部の進退によって前記第2方向にも移動することが望ましい。
この移動装置によれば、前記作業空間内における前記ヘッド部による作業領域を、前記第2方向に拡張させることができる。
上記の移動装置において、前記基台、前記第1容器及び前記第2容器は透光性の部材で形成され、前記対象物の移動装置は、さらに、前記作業空間内に配置される照明ヘッドと、前記第2方向において水平方向に延び前記照明ヘッド部を支持する照明アーム部と、前記照明ヘッド部及び前記照明アーム部を前記第1方向に移動させる照明駆動部と、を含む照明ユニットと、撮像部を有し、前記基台の下方において前記第1方向に移動可能に配置され、前記照明ヘッドで照明された前記第1容器又は前記第2容器の画像を取得するカメラユニットと、を備え、前記壁には、前記照明アーム部を貫通させると共に前記照明アーム部の第1方向への移動を許容する照明用スリットが形成されている構成とすることができる。
この移動装置によれば、前記第1容器又は前記第2容器に収容された対象物の画像を、照明ユニットによる照明光の下でカメラユニットにて撮像させることができる。また、前記照明アーム部は照明用スリットを貫通して前記作業空間に突出し、且つ前記照明用スリッに沿って移動するので、前記作業空間の防塵性を損なうことはない。
上記の移動装置において、前記作業室の壁若しくは前記基台に設けられる吸気口及び排気口と、前記吸気口から前記作業空間を経て前記排気口へ至る空気流を発生させるファンとをさらに備えることが望ましい。
この移動装置によれば、前記吸気口から清浄な空気を送り込むようにすることで、前記作業空間内を清浄化することが可能となる。
この場合の移動装置において、前記排気口に連なるダクトをさらに備え、前記作業室の壁は、前記基台と対向する天板を含み、前記吸気口及び前記ファンは前記天板に取り付けられ、前記ファンは前記作業空間内に上方から下方へ向かうダウンフローの空気流を発生させ、前記ダクトは、前記作業空間を通過した空気流を前記排気口に導くことが望ましい。
この移動装置によれば、ダウンフローの空気流が前記作業空間内に形成されるので、仮に前記作業空間内に塵埃が存在したとしても、これが飛散してしまうことを抑止することができる。
上記の移動装置において、前記駆動部が配置される機械室空間を画定する区画壁をさらに備え、この区画壁は前記スリットが形成される前記壁を一部に含み、前記ダクトは、前記作業空間を通過し、その後に機械室空間を通過した空気流を前記排気口に導くことが望ましい。
この移動装置によれば、機械室空間内で前記駆動部の動作に起因して発生する塵埃などを、前記空気流に乗せて除去することができる。従って、前記スリットを通して機械室空間の塵埃が前記作業空間内に進入することを防止できる。
以上の通り、本発明によれば、対象物を、一の容器から他の容器へ移動させる移動装置において、作業効率の良い前記移動を実現させると共に、その作業空間の防塵化を図ることができる。従って、塵埃が混入しない環境下において対象物の自動移動作業を行わせることができる移動装置を提供することができる。