JPWO2015068712A1 - 超弾性材料、ならびに当該超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料 - Google Patents

超弾性材料、ならびに当該超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料 Download PDF

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Abstract

従来技術に係る超弾性材料よりも超弾性を発現させるために要するエネルギー量を低下させることが可能な超弾性材料として、分子性結晶を有することを特徴とする超弾性材料であって、好ましくは、分子性結晶は有機骨格を有する材料が提供される。

Description

本発明は、超弾性材料、ならびに当該超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料に関する。
非特許文献1に開示されるように、1932年にAu−Cd合金が超弾性を発現することが見出されて以来、超弾性材料に関する開発が行われてきている。本明細書において、「超弾性」とは、付加した外力を低減させると、逆変態が自律的に生じ、この逆変態に伴い、変態の際に蓄積されたエネルギーが解放され、最終的に変態が生じる前の状態とほぼ同一の状態に回復する現象をいう。
超弾性材料として、特許文献1に示されるような金属系の材料や、特許文献2に示されるような酸化物セラミックス系の材料が開発されてきた。本明細書において、「超弾性材料」とは、所定の温度域において超弾性を発現することが可能な材料を意味する。
特開2006−265680号公報 特開2004−149381号公報
Olander, A. An electrochemical investigation of solid cadmium−gold alloys. J. Am. Chem. Soc. 54, 3819−3833 (1932)
しかしながら、特許文献1や2に開示された超弾性材料は、超弾性を発現させるために要するエネルギー量を低下させることが困難であった。このため、たとえばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のような微細構造体に超弾性材料を適用しても、その微細構造体が超弾性に基づく機能を適切に発揮することができないという問題があった。
本発明は、従来技術に係る超弾性材料よりも超弾性を発現させるために要するエネルギー量を低下させることが可能な超弾性材料を提供することを目的とする。また、上記の超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく提供される本発明の一態様は、分子性結晶を有することを特徴とする超弾性材料である。
上記の超弾性材料の分子性結晶は有機骨格を有していてもよい。
上記の超弾性材料は、分子性結晶体からなっていてもよいし、分子性結晶体を含む混合体からなっていてもよい。
上記の分子性結晶体は、単結晶体であってもよいし、多結晶体であってもよい。
上記の分子性結晶体を含む混合体は、分子性結晶体とマトリックス材料とを含んでいてもよい。
上記のエネルギー貯蔵密度が1MJm−3以下であることが好ましい。
本発明は、別の一態様として、上記の超弾性材料を備える、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料を提供する。
本発明によれば、従来技術に係る超弾性材料よりも超弾性を発現させるために要するエネルギー量を低下させることが可能な超弾性材料が提供される。また、上記の超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータおよび形状記憶材料が提供される。
(a)は、テレフタルアミドの分子構造を示す図であり、(b)は、X線回折による解析のために使用された、せん断力が付与されて折れ曲がった状態で樹脂により固定された結晶体を示す図であり、(c)は、せん断力が解除された後生じる復元動作を示す連続画像(撮像間隔:1/120秒)である。 せん断誘起変態の状態にある相接続を説明する図であって、(a)は、結晶充填を示す図であり、(b)は、[001](a)方向および[010](b)方向への投影像である。(a)における矢印は長軸方向に配置されたテレフタルアミドの端部同士の配位の方向を示している。(a)における破線は分子間相互作用を表し、アミノ基の水素とカルボニル基の酸素間の水素結合を黒の点線で、フェニル基に結合した水素とフェニル基の炭素間のCH―π相互作用をグレーの点線で示している。(b)における角度は、境界に面する各結晶面の法線ベクトルの交差軸により計算されたものである。 実施例1に係る結晶体についてのせん断応力試験(変位速度:500μm/分、294K)の結果を示す、偏光顕微鏡による試料の側面からの観察画像(クロスニコル角からのずれ角:10°)であり、画像中の文字および数字は、図4および6中の文字および数字に対応している。 実施例1に係る結晶体についてのせん断応力試験(変位速度:500μm/分、294K)の結果を示す、測定された力(単位:N)の経時変化を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 図4に示されるグラフを与える刃の位置変動作業を100回繰り返した結果を、図4と同様の形式で示したグラフである。 実施例1に係る結晶体についてのせん断応力試験(変位速度:500μm/分、294K)の結果を示す、測定された力(単位:N)と刃の変位(単位:mm)との関係を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 図6に示されるグラフを与える刃の位置変動作業を100回繰り返した結果を、図6と同様の形式で示したグラフである。 図7に係る試験に基づき得られた実施例1に係る結晶体の平均的な力−変位曲線を、Ti−Ni合金の典型的な力−変位曲線と対比可能に示した図である。 実施例1に係る結晶体のβ相についてのX線回折の測定結果に基づく、パウダーパターンのシミュレーション結果を示す図である。 安息香酸銅(II)ピラジン付加物の化学構造を示す図である。 (a)は、実施例2に係る結晶体についてのせん断応力試験の概要を示す図であり、(b)は図13の各位置における結晶体の観察画像である。 実施例2に係る結晶体のせん断誘起変態の状態にある相接続を説明するための、実施例2に係る結晶体のb軸を法線とする面への投影図である。 実施例2に係る結晶体についてのせん断応力試験の結果を示す、測定された力(単位:N)と刃の変位(単位:mm)との関係を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 図13に示されるグラフを与える刃の位置変動作業を100回繰り返した結果を、横軸を経過時間として示したグラフである。 図13に示されるグラフを与える刃の位置変動作業を100回繰り返した結果を、図13と同じ表示形式で示したグラフである。 3,5−ジフルオロ安息香酸の分子構造を示す図である。 (a)は、実施例3に係る結晶体についてのせん断応力試験の概要を示す図であり、(b)は図18の各位置における結晶体の観察画像である。 実施例3に係る結晶体についてのせん断応力試験の結果を示す、測定された力(単位:N)の経時変化を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 実施例3に係る結晶体についてのせん断応力試験の結果を示す、測定された力(単位:N)と刃の変位(単位:mm)との関係を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 テトラブチルホスホニウム テトラフェニルボレートの分子構造を示す図である。 (a)は、実施例4に係る結晶体についてのせん断応力試験の概要を示す図であり、(b)は図22の各位置における結晶体の観察画像である。 実施例4に係る結晶体についてのせん断応力試験の結果を示す、測定された力(単位:N)の経時変化を示すグラフであり、グラフの右側の縦軸は、単結晶体の断面積にて規格化して得られるせん断応力(単位:MPa)を示している。 実施例4に係る結晶体についてのせん断応力試験の結果を示す、測定された力(単位:N)の経時変化を示すグラフであり、図22に示されるグラフに比べて、結晶体を支持するスタンドの変形の影響をより排除したものである。 図23に示されるグラフを与える刃の位置変動作業を50回繰り返した結果を、横軸を経過時間として示したグラフである。 実施例5に係る結晶体についての、環境温度を変化させながら行ったせん断応力試験の結果を示す観察画像である。 テトラブチルホスホニウム テトラフェニルボレートについての、DSCチャートである。 実施例6に係る結晶体についての、環境温度を変化させながら行ったせん断応力試験の結果を示す観察画像である。 実施例8において製造された結晶体に対して室温環境で錘を垂下させたときの結晶体の観察画像である。 図28の観察画像を、単結晶の相分布を認識可能に示した模式図である。 実施例8において製造された結晶体の雰囲気を404.2Kに保持したときの結晶体の観察画像である。 図30の観察画像を、単結晶の相分布を認識可能に示した模式図である。 実施例8において製造された結晶体の雰囲気が昇温されて405Kとなったときの結晶体の観察画像である。 図32の観察画像を、単結晶の相分布を認識可能に示した模式図である。 実施例8において製造された結晶体の雰囲気が昇温されて406.6Kとなったときの結晶体の観察画像である。 図34の観察画像を、単結晶の相分布を認識可能に示した模式図である。 実施例8において製造された結晶体の雰囲気が昇温されて409.2Kとなったときの結晶体の観察画像である。 図36の観察画像を、単結晶の相分布を認識可能に示した模式図である。
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料は、分子性結晶を有する。本明細書において、「分子性結晶」とは、結晶を構成する繰り返し要素(単位格子)が分子から構成され、単位格子同士をつなぐ結合が共有結合性結合(金属結合を含む。)以外の結合(ファンデルワールス力、水素結合が例示される。)からなる結晶を意味する。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料に係る分子性結晶の単位格子を構成する分子の具体的な構造は特に限定されない。単位格子同士をつなぐ結合が共有結合性結合(金属結合を含む。)以外の結合からなることを容易にする観点から、上記の分子性結晶は有機骨格を有することが好ましい。
すなわち、本発明の一実施形態に係る超弾性材料が備える分子性結晶は、一例において有機骨格を有する。有機骨格を有する分子として、炭素と炭素との結合を含む、有機分子、有機金属分子(具体例として金属錯体が例示される。)および有機無機分子、ならびにこれらの組み合わせが例示される。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料は分子性結晶体を備える。本明細書において、「分子性結晶体」とは、分子性結晶からなる物体を意味する。本明細書において、本発明の一実施形態に係る超弾性材料が備える分子性結晶体に含まれる分子性結晶の少なくとも一部が超弾性を発現可能であることにより、本発明の一実施形態に係る超弾性材料は材料全体として超弾性を発現可能とされる。本発明の一実施形態に係る超弾性材料が備える分子性結晶体は、単結晶体であってもよいし、多結晶体であってもよい。本明細書において、「単結晶体」なる用語の概念には、モザイク結晶、格子欠陥を含む結晶も含まれ、結晶化度が低い結晶、純度が低い結晶も含まれる。本明細書において、「多結晶体」なる用語は、単結晶に対比される結晶の集合体を意味する。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料の具体的な一例は、分子性結晶体からなる。本発明の一実施形態に係る超弾性材料の具体的な別の一例は、分子性結晶体を含む混合体からなる。上記の混合体における分子性結晶体の含有比率は、混合体全体として超弾性を発現することができる限り、特に限定されない。混合体の具体的な一例として、分子性結晶体とマトリックス材料とを含む場合が挙げられる。この場合には、例えば、マトリックス材料中に分子性結晶体が分散した構造を有するなどして、分子性結晶体の力学的特性により混合体全体の力学的特性が支配され、混合体全体として超弾性を発現可能とされている。ここで、混合体が備えるマトリックス材料と分子性結晶体との関係は限定されない。マトリックス材料は分子性結晶体よりも体積的に多くてもよいし、マトリックス材料と分子性結晶体とが同等の体積であってもよいし、マトリックス材料は分子性結晶体よりも体積的に少なくてもよい。混合体が備えるマトリックス材料と分子性結晶体との相互作用の程度も限定されない。マトリックス材料を構成する物質と分子性結晶体を構成する物質とが会合したり化学的に結合したりするなどして、両者が実質的に一体化していてもよい。そのような例として、混合体がマトリックス材料と分子性結晶体との架橋構造を備える場合が挙げられる。他の例として、混合体が高分子物質を備え、その高分子物質の部分構造(例えば側鎖)が凝集したことなどにより空間的に規則的に配置された場合が挙げられる。この場合には、その規則的に配置された部分構造は分子性結晶体に属し、高分子物質における規則的に配置されていない部分はマトリックス材料に属する。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料は、負荷変態過程と除荷逆変態過程とを有する。本明細書において、「負荷変態過程」とは、本発明の一実施形態に係る超弾性材料に外力を付与したときに、その外力付与を契機として変態が生じ、その付与された外力によって変態が進行する過程を意味する。本明細書において、「除荷逆変態過程」とは、負荷変態過程が進行した状態にある超弾性材料に対して付与されていた外力を減じたことを契機として逆変態が生じ、その外力の減少によって逆変態が進行する過程を意味する。
本実施形態に係る超弾性材料が逆変態を起こしやすくなる温度域は特に限定されない。本実施形態に係る超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、下限値を逆変態終了温度とする温度域において応力誘起相が不安定化して逆変態が生じやすくなる。これに対し、逆変態開始温度以下の温度域では応力誘起相が安定的に存在できるため、逆変態は生じにくい。したがって、超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、逆変態開始温度以下の温度域において外力を加えると、外力により生じた歪は残留する。その後、歪が残留する当該材料を逆変態終了温度以上に加熱すれば、逆変態によって歪が回復する。このように、本実施形態に係る超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、超弾性材料の形状記憶効果を観察することができる。本実施形態に係る分子性結晶を有する超弾性材料は、その単位格子を構成する分子を適切に選択することにより、室温(23℃)において逆変態を容易に生じさせることも可能であるし、室温では逆変態を容易に生じないようにすることも可能である。
超弾性材料が有する超弾性の程度はいくつかのパラメータにより評価することができる。
そのようなパラメータの一例として、エネルギー貯蔵密度が挙げられる。エネルギー貯蔵密度とは、力−変位曲線から求められる、変位量を減少させた際に超弾性材料が行った仕事を、変位量が最大となった状態における超弾性材料の変態した部分の変態前の体積で除した値(単位:Jm−3)である。従来技術に係る金属系の超弾性材料の典型例であるTi−Ni合金におけるエネルギー貯蔵密度は14MJm−3であり、10MJm−3のオーダーである。これに対し、本発明の一実施形態に係る超弾性材料のエネルギー貯蔵密度は1MJm−3以下であり、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の好ましい一例のエネルギー貯蔵密度は0.2MJm−3以下であり、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の他の好ましい一例のエネルギー貯蔵密度は0.1MJm−3以下であり、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の別の好ましい一例のエネルギー貯蔵密度は50kJm−3以下である。
上記のパラメータの別の一例として、化学的応力が挙げられる。化学的応力とは、負荷変態過程の力−変位曲線から求められる、変態が進行して見かけ上外力の数値変動が少なくなった状態において付与している外力から算出された応力と、除荷逆変態過程の力−変位曲線から求められる、逆変態が進行して見かけ上回復力の数値変動が少なくなった状態において発生している回復力との平均値(単位:Pa)である。従来技術に係る金属系の超弾性材料の典型例であるTi−Ni合金における化学応力は558MPaであり、100MPaから1GPaのオーダーである。これに対し、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の化学応力は10MPa以下であり、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の好ましい一例の化学応力は1MPa以下である。化学的応力が低いほど、超弾性を発現させるために必要な外力は低くなる傾向があり、微細構造体に適用しやすい超弾性材料となる。
上記のパラメータのさらに別の一例として、超弾性指数が挙げられる。超弾性指数とは、エネルギー貯蔵密度を化学応力により除した値(単位:無次元)である。従来技術に係る金属系の超弾性材料の典型例であるTi−Ni合金における超弾性指数は0.025程度であり、0.05未満である。これに対し、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の超弾性指数は0.05以上であり、本発明の一実施形態に係る超弾性材料の好ましい一例の超弾性指数は0.1以上である。超弾性指数が高いほど、効率的な超弾性材料、すなわち、少ない外力付与で多くのエネルギーが蓄積される超弾性材料であるといえる。したがって、従来技術に係る超弾性材料よりも超弾性指数が高い本発明の一実施形態に係る超弾性材料は、微細構造体に適用されやすいことが期待される。
本発明の一実施形態に係る超弾性材料は、小さなエネルギー入力によって大きな変位を伴う変態を生じることができる。この点を換言すれば、大きな逆変態を伴って小さな出力を均一に行うことができるといえる。したがって、たとえば、次の用途が期待される:
本発明の一実施形態に係る超弾性材料を備えるエネルギー貯蔵材料;
本発明の一実施形態に係る超弾性材料を備えるエネルギー吸収材料;
本発明の一実施形態に係る超弾性材料を備える弾性材料;
本発明の一実施形態に係る超弾性材料を備えるアクチュエータ;および
本発明の一実施形態に係る超弾性材料を備える形状記憶材料。
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
試薬級のテレフタルアミドを温水から再結晶させることにより、良好なテレフタルアミドの単結晶を得た。この単結晶を真空乾燥させてなる結晶体を試験に供した。結晶体の{010}結晶面に対してせん断力(以下、「せん断力1」と略記する)を付与したところ、結晶体は折れ曲がり、その内部に他の結晶相が生成した。当初の結晶相と生成した他の結晶相との境界は明確であった。結晶体を押し続ける、すなわちせん断力1を付与し続けると、結晶体における相境界に当たる折れ曲がり位置は、図1に示されるように移動した。
せん断力1の付与を停止すると、折れ曲がった結晶体は自発的に回復し、せん断力1の付与により進行した相境界は294Kにおいて3.33mm/秒で反対方向に進んだ。
せん断力1が付与された状態にある結晶体についてX線回折測定を行った。その結果、せん断力により誘起される、母相(α相)から娘相(β相)への変態が確認された(図1)。α相およびβ相はいずれも同一のP−1型結晶系であるが、それぞれの結晶充填は十分に異なっていた。α相の結晶構造は既知の構造であるが、β相の構造はこれまで知られていない構造であった。
α相において、複数のテレフタルアミド分子は、集まって重合体によるシートを形成していた。その中で、テレフタルアミド分子同士は、NH部分とO=C部分との水素結合により結合された網目構造を構成していた。テレフタルアミドの長軸方向に沿った端部のNHとO=Cとにより形成される水素結合のNとOとの距離は2.932(4)Åであり、隣接する、すなわち、シート内で長軸に直交する方向に位置するテレフタルアミド同士のNHとO=Cとにより形成される水素結合のNとOとの距離は2.912(3)Åであった。
せん断力1の付与によるα相からβ相への変化において、単一の−A−A−A−A−の配列からなるシートは、交番する−A’−B−A’−B−の配列からなるシートに変態した。図2に示されるように、β相では、Aの構造がほぼ維持されているカラムA’が、変形したカラムBにより挟み込まれた構造となった。
α相からβ相へと分子配列が変化することにより、充填密度は相対的に高まった。具体的には、α相は1.470Mg/m−3であり、β相は1.484Mg/m−3であった。β相でもテレフタルアミド分子同士はNHとO=Cとの水素結合により結合された網目構造を構成していた。水素結合距離に変化が僅かに見られた。テレフタルアミドの長軸方向に沿った端部のNHとO=Cとにより形成される水素結合のNとOとの距離は、カラムA’で2.943(5)Åであり、カラムBで2.918(5)Åであった。シート内で長軸に直交する方向に位置するテレフタルアミド同士のNHとO=Cとにより形成される水素結合では、カラムA’におけるNHと、カラムBにおけるO=Cとにより形成される水素結合のNとOとの距離が3.007(4)Å、カラムBにおけるNHと、カラムA’におけるO=Cとにより形成される水素結合のNとOとの距離が2.965(4)Åであった。
β相では、図2に示すように、追加的な相互作用が認められた。シート内においてCH−πの相互作用、具体的には、カラムBにおけるフェニル基に結合するHとカラムA’におけるフェニル基のCとの相互作用が認められた。カラムBにおいて、このHが結合したフェニル基のCと、カラムA’におけるフェニル基のCとの距離は3.471(6)Åであった。α相とβ相では、フェニル基の積層の仕方が変化していた。α相ではカラムAにおけるフェニル基同士の面間距離が3.500Åと弱く積層して二次元性の高い積層構造であったが、β相ではカラムA’内でのフェニル基同士の面間距離が3.209Åと顕著に短くなり、三次元的な分子間相互作用網を形成していた。
α相の(100)面に平行な異相境界(マルテンサイト晶癖面)は、ほぼ、劈開面であるα相の(011)面に垂直であった。α相の(011)面は、水素結合により構成されるシート内に位置する面であった。
晶癖面と劈開面の間の不一致によって、異相界面の周囲の歪みに対して安定化されていた。
折れ曲がった形態にある結晶体のX線回折のデータから、α相とβ相とが共存する状態において、界面で各結晶がどの程度整合しているかについて推測した。α相の(100)面とβ相の(00−1)面の界面では、当接する面同士の比率(Sα/Sβ)は0.989であって、べイン変形が生じていた。この界面では、α相の結晶面とβ相の結晶面とは、それぞれ、面の圧縮および引き伸ばしを受けていると考えられた。具体的には、α相のc軸(7.1853Å)およびβ相のb軸(7.268Å)に相当の相違が認められ、この相違は、主として、それぞれ、bc面内におけるC軸方向に沿った方向の単向性の歪み、およびab面のb軸方向に沿った方向の単向性の歪みを示していると考えられた。
界面における結合状態の推測図(図2)によれば、観察された結晶体の双晶変態においてマルテンサイト変態が生じていることが示された。α結晶の[010]方向および[00−1]方向は、せん断誘起双晶変態が効果的に生じる結晶軸である可能性が示された。
顕微鏡を用いて観察された結晶体の折れ曲がり角度は、[001]方向への投影で5から8°の範囲および[010]方向への投影で3から5°の範囲であった。これらの角度は、X線回折データから期待される角度(それぞれ、6.55°および5.35°)とおおむね一致していた(図2)。
顕微鏡観察により得られた、α相の(010)面上のせん断力1を付与している位置と、移動している(せん断力1を付与している位置から遠い方の)β相とα相との界面の位置との比率は、1:6.7であった。この比率は、X線回折データから期待される比率(1:5.4)とおおむね一致していた。
これらのパラメータの整合性は、本実施例に係る結晶体において、微視的な構造変化と巨視的な構造変化とが調和していることを示している。
せん断力と変形との関係を、{010}結晶面の一部に負荷を与えることにより調査した。この方向の負荷は、せん断による変態が容易に生じる方向に平行な方向であると考えられる(図2参照)。上記のテレフタルアミドの単結晶からなる結晶体(厚さ149.52μm、幅58.84μm)の一方の端部を固定し、結晶体の(010)面に25μm幅の金属性の刃を当接させ、294Kにおいて、500μm/分の定速でその面を横切るように押した。その結果、図3に示されるように、結晶体の双晶変態が生じた。
図4に示されるように、刃が結晶体に到達したことにより、(a)の位置において応力が検出された。その後、負荷の増大とともに相境界の増大が始まった(図3の番号1から5の画像)。刃が接触する部分から薄いβ相のバンドが形成され、図4の(b)において応力は一定値となった。
続いて、図4の(c)および(d)に示されるように、応力値が安定した状態が継続し、この期間は、α相からβ相への変態が継続的に進行することにより、β相の成長および進展が生じた。
図4の(e)は除荷(刃を引き戻す)過程への切換点であり、若干の応力の減少が図4の(f)において観察された。その後、応力値が安定した状態が継続し、この期間は、β相からα相への変態が生じた。図4の(h)においてβ相の領域が狭まって境界線となった。この点から、図4の(i)において結晶体の表面から刃が離れるまで応力は直線的に減少し、この間、結晶体では、線状の境界が減少して消滅する現象が生じた(図3の番号6から10の画像)。
こうして得られたせん断応力曲線(図4)は、本実施例に係る結晶体が超弾性を発現したことを明確に示していた。
図5に示されるように、本実施例に係る結晶体による上記の超弾性変態は、弾性減衰や材料劣化を起こすことなく100サイクル再現した。
異なった大きさの単結晶からなる結晶体に対して繰り返し試験を行った結果、結晶体が折り曲げられた状態において生じる応力の大きさは、相境界の面積に対して線形性を有し、刃の接触面積には相関を有さなかった。この結果は、せん断についての弾性指数は、力の絶対値をα相とβ相との境界面積で除したパラメータにより規格化されるべきものであることを意味している。上記のパラメータは、結晶体の断面積で外力を除して得られるせん断応力に相当する。図4から、本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料の変態(α相からβ相)におけるせん断応力は0.496MPaであり、逆変態(β相からα相)におけるせん断応力は0.459MPaであった。このせん断応力は、典型的なTi−Ni合金のせん断応力として知られている558MPaのおよそ1/1000であった。図6の(b)の位置におけるせん断応力と(h)の位置におけるせん断応力の平均値である化学的応力は、0.477MPaであった。
本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料のエネルギー貯蔵密度およびエネルギー貯蔵効率(η)は、それぞれ、0.062MJm−3および0.925と見積もられた。また、本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料の超弾性指数は0.13程度と見積もられた。
超弾性せん断ひずみの変動範囲は広く、結晶サイズに対する変位量の比率は11.34%にまで至った。この数値は、X線回折データに基づく、隣接する結晶格子の接合部の形状的配置から予測することができる。
本実施例に係るテレフタルアミドの単結晶体からなる超弾性材料は、純粋な、すなわち、金属元素などの無機成分を有さない有機結晶体である。上記のとおり、エネルギー貯蔵密度は0.062MJm−3であって、典型的なTi−Ni合金のエネルギー貯蔵密度(14MJm−3)の1/226であった。上記のエネルギー貯蔵密度をモルあたりの量として換算すると、テレフタルアミドの単結晶体からなる超弾性材料が6.96Jmol−1であるのに対し、典型的なTi−Ni合金のエネルギー貯蔵密度は114.76Jmol−1であり、その比率は、1:16.5となる。この比率は、テレフタルアミドの単結晶体からなる超弾性材料の結合エネルギー(NHとO=Cとの結合エネルギーの4倍=28.87kJmol−1×4)とTi−Ni合金の結合エネルギー(458.83kJmol−1×4)との比率である1:15.9におおむね一致する。したがって、エネルギー貯蔵の能力は、格子エネルギーに関連する。体積当たりのエネルギー密度は格子の程度により相対的に小さくなる。それゆえ、本実施例により示された分子性超弾性材料は、小さなエネルギー入力によって大きな変位を伴う変態を生じることができる。この点を換言すれば、大きな逆変態を伴って小さな出力を均一に行うことができるといえる。
本実施例に係るテレフタルアミドの結晶体からなる超弾性材料のβ相についてのX線回折の測定結果は表1のとおりである。当該測定は、Bruker社製Smart APEX CCD X線回折計を用いて行った。
Figure 2015068712
上記のデータに基づき行った、パウダーパターンのシミュレーション結果を図9に示す。
(実施例2)
特許第4951728号に記載される方法により、図10に示す化学構造を有する安息香酸銅(II)ピラジン付加物の単結晶を製造した。この単結晶を真空乾燥させてなる結晶体を試験に供した。結晶体の{00−1}結晶面に対してせん断力(以下、「せん断力2」と略記する)を付与したところ、結晶体は折れ曲がり、その内部に他の結晶相が生成した。当初の結晶相と生成した他の結晶相との境界は明確であった。結晶体を押し続ける、すなわちせん断力2を付与し続けると、結晶体における相境界に当たる折れ曲がり位置は、図11に示されるように移動した。せん断力2の付与を停止すると、折れ曲がった結晶体は自発的に回復し、せん断力2の付与により進行した相境界は反対方向に進んだ。
せん断力2が付与された状態にある結晶体についてX線回折測定を行った。その結果、せん断力により誘起される、母相(α(trans)相)から娘相(α’(trans)相)への変態が確認された(図12)。X線回折データから期待される折れ曲がり角度は14.6°であった。
せん断力と変形との関係を、{00−1}結晶面の一部に負荷を与えることにより調査した。上記の安息香酸銅(II)ピラジン付加物の単結晶からなる結晶体の一方の端部を固定し、結晶体の(00−1)面に25μm幅の金属性の刃を当接させ、294Kにおいて、500μm/分の定速でその面を横切るように押した。
その結果、図13に示されるように、刃が結晶体に到達したことにより、(a)の位置において応力が検出された。その後、刃の変位量にほぼ比例するように応力が増大した。この過程では相変態は生じなかったが、(b)の位置において相変態により娘相が生じ、刃の変位量がわずかに増大した位置(c)に至るまで、応力の低下が測定された。その結果、母相、娘相および母相がこの順で配置された構造体が得られた。2つの母相の(00−1)面に挟まれる娘相の面は(100)面であった。(c)の位置からさらに刃の変位量を増大させると、応力はほとんど増加することなく、娘相が成長した(すなわち、母相から娘相への変態が進行した)。
図13における(d)は除荷(刃を引き戻す)過程への切換点であり、若干の応力の減少が観察された。その後、応力値が安定した状態が継続し、この期間は、娘相から母相への変態が生じた。図13の(e)において娘相の領域が狭まって2つの母相の境界線となった。そして、図13の(f)において線状の境界が消滅した。
こうして得られたせん断応力曲線(図13)は、本実施例に係る結晶体が超弾性を発現したことを明確に示していた。
図14および15に示されるように、本実施例に係る結晶体による上記の超弾性変態は、弾性減衰や材料劣化を起こすことなく100サイクル再現した。
本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料のエネルギー貯蔵密度およびエネルギー貯蔵効率(η)は、それぞれ、0.0404MJm−3および0.0539と見積もられた。図13の(c)の位置におけるせん断応力と(e)の位置におけるせん断応力の平均値である化学的応力は、0.146MPaであった。また、本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料の超弾性指数は0.277程度と見積もられた。
(実施例3)
3,5−ジフルオロ安息香酸(図16)を温水から再結晶させることにより、良好な3,5−ジフルオロ安息香酸の単結晶を得た。この単結晶を真空乾燥させてなる結晶体を試験に供した。結晶体の{011}結晶面に対してせん断力(以下、「せん断力3」と略記する)を付与したところ、結晶体は折れ曲がり、その内部に他の結晶相が生成した。当初の結晶相と生成した他の結晶相との境界は明確であった。結晶体を押し続ける、すなわちせん断力3を付与し続けると、結晶体における相境界に当たる折れ曲がり位置は、図17(b)に示されるように移動した。せん断力3の付与を停止すると、折れ曲がった結晶体は自発的に回復し、せん断力3の付与により進行した相境界は反対方向に進んだ。
せん断力3が付与された状態にある結晶体についてX線回折測定を行った。その結果を表2に示す。当該測定は、Bruker社製Smart APEX CCD X線回折計を用いて行った。
Figure 2015068712
せん断力により誘起される、母相(α相)から娘相(α相)への双晶変態が確認された(図17(a))。
せん断力と変形との関係を、{011}結晶面の一部に負荷を与えることにより調査した。上記の3,5−ジフルオロ安息香酸の単結晶からなる結晶体の一方の端部を固定し、結晶体の(011)面に25μm幅の金属性の刃を当接させ、294Kにおいて、500μm/分の定速でその面を横切るように押した。
その結果、図18および19に示されるように、刃が結晶体に到達したことにより、(a)の位置において応力が検出された。その後、刃の変位量にほぼ比例するように応力が増大した。この過程では相変態は生じなかったが、(b)の位置において相変態により娘相が生じ、刃の変位量がわずかに増大した位置(c)に至るまで、応力の低下が測定された。その結果、母相、娘相および母相がこの順で配置された構造体が得られた。(c)の位置からさらに刃の変位量を増大させると、応力はほとんど増加することなく、娘相が成長した(すなわち、母相から娘相への変態が進行した)。X線回折データから期待される折れ曲がり角度は27.8°であった。
図18および19における(d)は除荷(刃を引き戻す)過程への切換点であり、除荷後(e)の位置までは相当量の応力の減少が観察された。その後、応力の減少は緩やかとなり(位置(f))、この期間は、娘相から母相への変態が生じた。そして、位置(g)において娘相が消滅した。
こうして得られたせん断応力曲線(図19)は、本実施例に係る結晶体が超弾性を発現したことを明確に示していた。
本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料のエネルギー貯蔵密度およびエネルギー貯蔵効率(η)は、それぞれ、0.0119MJm−3および0.178と見積もられた。図19の(c)の位置におけるせん断応力と(g)の位置におけるせん断応力の平均値である化学的応力は、0.0453MPaであった。また、本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料の超弾性指数は0.263程度と見積もられた。
(実施例4)
テトラブチルホスホニウム テトラフェニルボレート(図20、以下、「(PBu)(BPh)」と記す。)を温水から再結晶させることにより、良好な(PBu)(BPh)の単結晶を得た。この単結晶を真空乾燥させてなる結晶体を試験に供した。結晶体の{0−10}結晶面に対して400Kの環境においてせん断力(以下、「せん断力4」と略記する)を付与したところ、結晶体は折れ曲がり、その内部に他の結晶相が生成した。当初の結晶相と生成した他の結晶相との境界は明確であった。結晶体を押し続ける、すなわちせん断力4を付与し続けると、結晶体における相境界に当たる折れ曲がり位置は、図21(b)に示されるように移動した。せん断力4の付与を停止すると、折れ曲がった結晶体は自発的に回復し、せん断力4の付与により進行した相境界は反対方向に進んだ。
せん断力4が付与された状態にある結晶体についてX線回折測定を行った。その結果、を表3に示す。当該測定は、Bruker社製Smart APEX CCD X線回折計を用いて行った。
Figure 2015068712
せん断力により誘起される、母相(高温相β)から娘相(低温相α)への変態が確認された(図21(a))。
せん断力と変形との関係を、{0−10}結晶面の一部に負荷を与えることにより調査した。上記の(PBu)(BPh)の単結晶からなる結晶体の一方の端部を固定し、結晶体の(0−10)面に25μm幅の金属性の刃を当接させ、400Kにおいて、500μm/分の定速でその面を横切るように押した。
その結果、図21に示されるように、刃が結晶体に到達したことにより、(a)の位置において応力が検出された。その後、刃の変位量にほぼ比例するように応力が増大した。この過程では相変態は生じなかったが、(b)の位置において相変態により娘相が母相内に生じた。刃の変位量の増大に伴い、せん断力4の加えられた方向に相境界が成長した。その結果、位置(d)において、母相、娘相および母相がこの順で、せん断力4の加えられた方向に垂直な方向に並んで配置された構造が得られた。(d)の位置からさらに刃の変位量を増大させると、この構造における娘相が成長した。すなわち、この過程では、母相から娘相への変態がせん断力4の加えられた方向に垂直な方向に進行した。
図21における(e)は除荷(刃を引き戻す)過程への切換点であり、除荷後(f)の位置までは娘相から母相への変態がせん断力4の加えられた方向に垂直な方向に進行した。その後、(f)の位置から(g)の位置までは娘相から母相への変態がせん断力4の加えられた方向に進行した。そして、位置(g)において娘相が消滅した。
こうして得られたせん断応力曲線(図22)は、(b)の位置から(e)の位置を経て(g)の位置に至る範囲において、本実施例に係る結晶体が超弾性を発現したことを明確に示していた。
ここで、図22に示されるせん断応力曲線は、刃が結晶体に接した(a)の位置から(b)の位置までの範囲、および(g)の位置から刃が結晶体から離間した(h)の位置までの範囲では、結晶体を固定・支持する保持部材の変形などの影響を支配的に受けていた。そこで、保持部材の変形などの影響がより排除された状態として、本実施例に係る結晶体のせん断応力曲線を399.7Kの環境下において測定した(図23)。また、図24に示されるように、本実施例に係る結晶体による上記の超弾性変態は、弾性減衰や材料劣化を起こすことなく397.7Kの環境下において50サイクル再現した。
図23に示されるせん断応力曲線に基づき、本実施例に係る結晶体からなる超弾性材料のエネルギー貯蔵密度は26.5kJm−3と見積もられ、エネルギー貯蔵効率(η)は0.766と見積もられた。同様に、図23に示されるせん断応力曲線に基づき、化学的応力は0.472MPaと見積もられ、超弾性材料の超弾性指数は0.0561程度と見積もられた。
(実施例5)
(PBu)(BPh)の単結晶からなる結晶体のせん断力と変形との関係を、実施例4の場合と同様に{0−10}結晶面の一部に負荷を与えるとともに、環境温度を変化させることによりさらに調査した。
まず、環境温度を397K(123.8℃)として、結晶体全体をβ相からなるものとした(図25の「0s」)。この状態を「初期状態」という。次に、せん断力4を付与してα相を生成させて、β/α二相共存状態とした(図25の「9s」)。続いて、除荷して、初期状態から100秒経過後(すなわち、除荷後90秒間以上経過後)においてもせん断力4の付与に起因する変形歪みが保持されていることを確認した(図25の「100s」)。
初期状態から100秒経過後150秒経過するまでの期間(50秒間)に、環境温度を397K(123.8℃)から398K(124.8℃)に上昇させた。図25の「125s」に示されるように、環境温度が397.5K(124.3℃)のときの結晶体は、397K(123.8℃)のときの結晶体に比べて、α相の体積が減少していることが確認された。そして、初期状態から150秒経過した状態では、α相は完全に消滅してβ相のみとなっていた(図25の「150s」)。
その後、初期状態から159秒経過に至るまでの期間は、環境温度を398K(124.8℃)の状態を維持して、せん断力4の付与および除荷を行った。その結果、せん断力4の付与によりβ相からなる結晶体の内部にα相が形成されること(図25の「155s」)、およびせん断力4の除荷により結晶体内部のα相が消滅すること(図25の「159s」)を確認した。
参考のために、(PBu)(BPh)のDSC(示差走査熱量測定)チャートを図26に示すとともに、測定結果を表4に示す。
Figure 2015068712
(実施例6)
(PBu)(BPh)の単結晶からなる結晶体のせん断力と変形との関係を、実施例4の場合と同様に、β相の{0−10}結晶面に対応する結晶面であるα相の{−101}結晶面の一部に負荷(せん断力4)を与えるとともに、実施例5とは異なる態様で環境温度を変化させることによりさらに調査した。
まず、環境温度を298K(25℃)として、結晶体全体をα相からなるものとした(図27(a))。次に、せん断力4を付与したところ、せん断力4の付与に起因する変形歪みがα相のままで保持された(図27(b))。
続いて、環境温度を高めることにより結晶体全体を加熱した。その結果、397.5K(124.5℃)までは、図27(b)と同様に、変形歪みが保持されたα相が維持されていた(図27(c))。環境温度が398K(125℃)を超えると、図27(d)に示されるように、結晶体内にβ相が生成してα相からβ相への変態が速やかに進行した。そして、この変態の進行に伴い、結晶体に保持されていた変形歪みが減少した(図27(e))。環境温度がほぼ400K(126.6℃)のときには、図27(f)に示されるように、結晶体における、低温相であるα相から高温相であるβ相への相変態が完了し、結晶体に保持されていた変形歪みは完全に消失した。以上の観察から、昇温による形状復元(形状記憶効果)が確認された。
次に、環境温度を低下させることによりβ相からなる結晶体を冷却した。その結果、環境温度が397K(124℃)付近でβ相からα相への変態が生じ、この相変態は速やかに進行した(図27(g))。さらに環境温度を低下させると低温相であるα相のみからなり変形歪みのない結晶体となり、環境温度が室温(25℃)のときには、図27(a)と同様の相状態および形状を有する結晶体が復元した(図27(h))。
以上説明したように、本実施例により、熱による結晶形状復元サイクルが確認された。
(実施例7)
異なる温度の環境において、結晶体の{0−10}結晶面に対してせん断力の付与および除荷を行って、各温度でのせん断応力曲線を求めた。これらのせん断応力曲線から、エネルギー貯蔵密度(Energy density)、エネルギー貯蔵効率(η)(Energy efficiency)および超弾性指数(Superelastic index)を求めた。結果を表5に示す。
Figure 2015068712
(実施例8)
実施例4と同様にして(PBu)(BPh)の単結晶を得た。大きさは3mm×6mm×34mmであり、質量は0.61gであった。室温の環境(25℃)において、中心距離として30mmが突出するように(PBu)(BPh)の単結晶を保持し、保持した支点からの距離で、5mmの位置に100gの錘を糸を介して垂下させ、20mmの位置に10gの錘を糸を介して垂下させ、25mmの位置に1gの錘を糸を介して垂下させた。この状態では、支点から1gの錘が垂下した位置までα相(娘相)であり、それ以外の領域はα相(母相)であった(図28,29)。
この状態で雰囲気を404.2K(131℃)に保持した。その結果、単結晶は、先端部から1gの錘の垂下位置までの領域はβ相に変態していた(図30,31)。その後、7×10-3Ks-1で雰囲気を昇温させたところ、単結晶のβ相は支点側に成長して1gの錘が持ち上がり続けた。雰囲気が405K(131.8℃)のときに、単結晶は、先端部から10gの錘の垂下位置までβ相が成長して、10gの錘が持ち上がり始めた(図32,33)。さらに7×10-3Ks-1で昇温させてβ相を成長させたところ、環境温度が406.6K(133.4℃)のときに単結晶から垂下した100gの錘が持ち上がり始めた(図34,35)。409.2K(136℃)では、単結晶は支点に至るまでβ相となった(図36,37)。

Claims (13)

  1. 分子性結晶を有することを特徴とする超弾性材料。
  2. 前記分子性結晶は有機骨格を有する、請求項1に記載の超弾性材料。
  3. 分子性結晶体からなる、請求項1または2に記載の超弾性材料。
  4. 分子性結晶体を含む混合体からなる、請求項1または2に記載の超弾性材料。
  5. 前記分子性結晶体は単結晶体である、請求項3または4に記載の超弾性材料。
  6. 前記分子性結晶体は多結晶体である、請求項3または4に記載の超弾性材料。
  7. 前記混合体は、前記分子性結晶体とマトリックス材料とを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の超弾性材料。
  8. エネルギー貯蔵密度が1MJm−3以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の超弾性材料。
  9. 請求項1から8のいずれか一項に記載される超弾性材料を備えるエネルギー貯蔵材料。
  10. 請求項1から8のいずれか一項に記載される超弾性材料を備えるエネルギー吸収材料。
  11. 請求項1から8のいずれか一項に記載される超弾性材料を備える弾性材料。
  12. 請求項1から8のいずれか一項に記載される超弾性材料を備えるアクチュエータ。
  13. 請求項1から8のいずれか一項に記載される超弾性材料を備える形状記憶材料。
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