JP7412690B2 - 超弾性材料およびその使用 - Google Patents

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Description

本発明は、超弾性材料およびその使用に関するものであり、とりわけオリゴマーの結晶を有する超弾性材料およびその使用に関するものである。また、本発明は、上記超弾性材料を含む、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータ、および形状記憶材料にも関する。
固体変形は、弾性変形と塑性変形に分類することができる。弾性変形では、力が除去されたときに物体は自発的にその固体形状を回復し、材料硬度が増加するのにつれて弾性強度が増加する。常識的には永久歪みが残る塑性変形においては、反対方向の力の助けを借りて(強弾性)、または回復力の自然発生を伴う自己復元によって(超弾性)、物体はその形状を復帰させることができる。超弾性と称されるこのような自発的形状回復性は、特定の種類の金属合金に関連して主として知られており、1932年にAu-Cd合金について最初に報告された(非特許文献1,2)。物理科学の分野において「マルテンサイト変態」と呼ばれる超弾性変形は、安定母相に対する応力誘起相の熱的不安定性に由来する。超弾性変形は、弾性変形との対比において、比較的広い範囲の歪みを伴う一定の力の下で進行する。Ti-Ni合金は、その超弾性変形能に基づいて、歯列矯正針金やステントなどの体内での材料用途に適用されてきた(非特許文献3)。また、超弾性の熱的誘起は「形状記憶効果(SME)」として知られており、SMEを伴う金属合金は「形状記憶合金」(SMAs)と呼ばれている。これらはアクチュエータ、シームレス継手、およびカテーテルに利用される(非特許文献3)。しかし、金属合金は、材料の硬度および毒性により、一般的な超弾性用途が遅れている。
テレフタルアミドの水素結合ネットワーク固体(非特許文献4,特許文献1)、3-5-ジフルオロ安息香酸のファンデルワールス固体(非特許文献5,特許文献1)、および安息香酸銅(II)ピラジンの一次元金属錯体(非特許文献6,特許文献1)を含む材料における「有機超弾性」の発見に至るまでは、超弾性は金属合金における特定の物理的特性とみなされていた。また、最近では、テトラブチル-n-ホスホニウムテトラフェニルボレート(PBuBPhと表される)の有機超弾性イオン結晶において、SMA型SMEが発見された(非特許文献7,特許文献1)。この知見により、合成化学や結晶工学などの化学の力を通して新規な超弾性材料の開発が可能になるであろうし、将来の超弾性材料においては、明度、透明性、着色性、軟質性、および生体適合性などの有機材料の重要な特性の導入が可能になることが期待される。このように、有機材料は固有の軟質性を伴う形状回復性を得ることができ、生体に安全な非常に柔軟な超弾性材料の製造が可能になる。
国際公開2015/068712号
Otsuka, K. & Ren, X., Prog. Mater. Sci., 50, 511-678 (2005) Oelander, A., J. Am. Chem. Soc., 56, 3819-3833 (1932) Jani, J. M. et al., Mater. Des., 56, 1078-1113 (2014) Takamizawa, S. & Miyamoto, Y., Angew. Chem., Int. Ed., 53, 6970-6973 (2014) Takamizawa, S. & Takasaki, Y., Angew. Chem. Int. Ed., 54, 4815-4817 (2015) Takasaki, Y. & Takamizawa, S., Nat. Commun., 6, 8934 (2015) Takamizawa, S. & Takasaki, Y., Chem. Sci., 7, 1527-1534 (2016)
本発明は、超弾性を発現するさらなる材料を見出し、これを含む超弾性材料を提供することを目的とする。
本発明者は上記問題を解決すべく研究を行った結果、驚くべきことに、オリゴマーの結晶が超弾性を発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 オリゴマーの結晶を含むことを特徴とする超弾性材料。
〔2〕 前記オリゴマーが鎖状オリゴマーである、〔1〕に記載の超弾性材料。
〔3〕 前記オリゴマーが会合性官能基を有する、〔1〕または〔2〕に記載の超弾性材料。
〔4〕 前記オリゴマーが有機オリゴマーである、〔1〕~〔3〕に記載の超弾性材料。
〔5〕 前記オリゴマーが、置換基を有していてもよいエチレン単位を繰り返し単位として有する、〔4〕に記載の超弾性材料。
〔6〕 前記オリゴマーが下記一般式(1)で表される化合物である、〔5〕に記載の超弾性材料。
Figure 0007412690000001

(式中、
~Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲンまたはメチルであり、ただしXおよびXは、置換基を有さずに同一のまたは隣接する繰り返し単位において互いに結合し、1以上の二重結合を形成していてもよく;
は水素、ハロゲン、1価の会合性官能基、または下記式(2)で表される置換基
Figure 0007412690000002

(式中、Zは水素、ハロゲンもしくは1価の会合性官能基であり、ZおよびZはそれぞれ独立に水素もしくはハロゲンである)であり;
Yは1価の会合性官能基であり;
mは5~50の整数である。)
〔7〕 前記1価の会合性官能基がカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルバモイル基またはスルホ基である、〔6〕に記載の超弾性材料。
〔8〕 前記オリゴマーが直鎖飽和脂肪酸である、〔6〕または〔7〕に記載の超弾性材料。
〔9〕 エネルギー貯蔵密度が1MJm-3以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の超弾性材料。
〔10〕 超弾性指数が0.1以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の超弾性材料。
〔11〕 ヤング率が200MPa以下である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の超弾性材料。
〔12〕 〔1〕~〔11〕のいずれかに記載される超弾性材料を含むエネルギー貯蔵材料。
〔13〕 〔1〕~〔11〕のいずれかに記載される超弾性材料を含むエネルギー吸収材料。
〔14〕 〔1〕~〔11〕のいずれかに記載される超弾性材料を含む弾性材料。
〔15〕 〔1〕~〔11〕のいずれかに記載される超弾性材料を含むアクチュエータ。
〔16〕 〔1〕~〔11〕のいずれかに記載される超弾性材料を含む形状記憶材料。
〔17〕 オリゴマーの結晶を含む材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップと、
前記外力を除荷して前記変形を回復するステップと
を備えることを特徴とする材料の使用。
〔18〕 オリゴマーの結晶を含む材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップと、
前記外力を除荷するステップと、
前記外力が除荷された前記材料を加熱して前記変形を回復するステップと
を備えることを特徴とする材料の使用。
本発明によれば、オリゴマーの結晶を含む超弾性材料が提供される。また、本発明によれば、上記超弾性材料を用いた、エネルギー貯蔵材料、エネルギー吸収材料、弾性材料、アクチュエータ、および形状記憶材料が提供される。
(a)飽和脂肪酸の分子式、(b)C15の結晶充填、および(c)C15~C21の相図。各A、B、E相は溶液から得られる。C15のA’およびA’は熱的に交換可能であるが、これらは、長アルキル鎖の立体障害によりB’またはC”からは熱的に転移することができない。(表2参照。) (a)40℃でのC15、(b)25℃でのC17、(c)10℃でのC19、および(d)0℃でのC21に対して偏光顕微鏡下でピンセットで挟むことにより誘起された脂肪酸の超弾性挙動。スナップショットの各点線は、マルテンサイト界面の位置を示す。 300KでのA’/B’共存状態(a)および289KでのA’/A’共存状態(b)下におけるC15の結晶面指数付け。 298KでのA’/B’共存状態下におけるC17の結晶面指数付け。 室温でのC15の機械的に曲げられた結晶の結晶充填(aおよびb)。A’の文字に付した正方形の囲みは「応力誘起相」を示し、これは本稿の以下の図にも適用する。 アルキル鎖の軸に沿って見たC15内のA’相(a)、A’相(b)、およびB’相(c)における隣接カルボキシル部分の配向。(上図:空間充填モデルにおけるカルボキシル基上の面、下図:スティックモデルの図。) C15の種々の結晶相を垂直に見たときの水素結合部分および二量体間接触。(点線は、二量化、O-O原子とO-C原子の間の短接触、およびO-O原子間の原子間距離を示す。) 偏光顕微鏡下でのC15単結晶の変形能。(a)結晶の面外方向に沿う負荷によって生じた結晶試料の弾性変形、(b)マルテンサイト超弾性変態、および(c)結晶の面内方向に沿う荷重による弾性変形およびマルテンサイト変態の連携。結晶の厚さは、(a)に対しては約5μm、(b)および(c)に対しては約20μmであった。適切な観察を容易にするために、(c)に対する結晶を平行四辺形に切断した。正方形の囲みは応力誘起相を示す。 25℃でのC15結晶の一軸圧縮における応力-歪み曲線。結晶の頂面(001)B’の法線方向(a)およびA’/B’相界面(127)B’の法線方向(b)に沿った圧縮。ヤング率は、追加的な点線の各初期勾配から推定された。(最大ヤング率は降伏点の直前で推定することができ、(a)については12~15%の歪みで93.5MPa、(b)については4~7%の歪みで58.6MPaと推定される。) (a)[1-20]B’に垂直に荷重をかけてせん断したC15の拡大写真:(b~d)i~iii部分の拡大画像。 3つの温度領域におけるC15の種々のマルテンサイト変態:(a)40℃でのB’の超弾性、(b)25℃での過冷却B’のマルテンサイト強弾性(形状記憶効果に対する元の状態)、(c)20℃でのA’のA’からの超弾性変態の誘起、(d)10℃でのA’のA’からの超弾性変態の誘起、および(e)過冷却B’からのA’h内におけるA’への段階的マルテンサイト変態。右側のグリッド内における点線の正方形の囲みは、切断前の元の結晶形状を示す。右側グリッド上の温度は、DSC測定(図13)から推定された、加熱(上向き矢印)プロセスおよび冷却(下向き矢印)プロセスにおける転移温度(Ttrans)を示す。 種々の温度でのC15の結晶における種々の相間での共生成および相転移:(a)わずかな機械的刺激による過冷却B’結晶からのA’ドメインの生成、(b)A’とA’の間での熱的な交換性、および(c)結晶に熱を加えることによる、わずかな時間差を伴うA’とB’の両方からC”への熱誘起変態。結晶相間の熱的相関は、図13に表示されたDSC測定の結果と一致する。 C15に対するDSCデータ:(a)合成されたままのB’結晶、および(b)応力誘起A’/B’共存結晶。(加熱によりB’からC”への相変化が48.08℃で生じ、結晶は53.24℃で融解した。(a)C”への凝固が49.96℃で生じ、冷却により41.49℃でB’に変化した。B’は-30℃においてさえ過冷却状態のままであった。応力誘起A’/B’共存結晶(体積分率25:75)については、A’は初期冷却により11.16℃でA’に転移した(b)。その後の加熱によりA’相は22.23℃で可逆的にA’に変化し、A’相およびB’相の両方が46.54℃でC”相に変化した。) (a)20℃でのA’から不安定A’への超弾性変態、および(b)10℃でのA’から不安定A’への超弾性変態。これらA’とA’間での温度双極性による相転移方向の交換は偏光顕微鏡下で記録した。 289Kでの機械的に曲げられた結晶に対する単結晶X線構造解析によって決定された、共存状態におけるA’およびA’の充填図:(a)A’結晶の頂面((001)A’h)に沿って見た結晶構造、および(b)各二量体に沿って見た結晶構造。 (a)C15の応力-歪み試験のための機械的座標。(b)B’からA’へのマルテンサイト強弾性変態の応力-歪み曲線、および(c)B’とA’との間での超弾性変態の応力-歪み曲線。(d,e)偏光顕微鏡下における33℃(d)および43℃(e)での試験中に撮影されたスナップショット。スケールバーは100μmを示す。 表1に記載されたC15結晶試料を用いて得られた種々の温度での応力-歪み曲線。(21~33℃:B’からA’へのマルテンサイト強弾性変態;34~43℃:B’とA’との間でのマルテンサイト超弾性変態) (a)せん断応力σnucl(白抜き三角形)、σf-trans(塗りつぶし丸)、およびσr-trans(白抜き丸)、σchem(σf-transとσr-transの中間線)の温度依存性。(b)相交換を強弾性(FE)、形状記憶効果(SME)、および超弾性(SE)の分類と共に説明する概略エネルギー図。 応力誘起変態および熱的相転移に対する誘起挙動で更新されたC15の合理的相図。(上の図におけるSMEの矢印は、過冷却B’からの強弾性(FE)後の加熱による形状記憶効果発生を示す。下の図における点線の丸は、機械的応力によって生じた不安定なA’およびA’をそれぞれ示す。) 超弾性領域におけるエネルギー貯蔵密度(丸)、エネルギー貯蔵効率(四角)、および超弾性指数(三角)の温度依存性。値は表7にまとめられている。
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔超弾性材料〕
本発明の一実施形態に係る超弾性材料は、オリゴマーの結晶を含むものである。
1.超弾性
本明細書において、「超弾性」とは、付与した外力を低減させると、逆変態が自律的に生じ、この逆変態に伴い、変態の際に蓄積されたエネルギーが解放され、最終的に変態が生じる前の状態とほぼ同一の状態に回復する現象をいう。
「超弾性材料」とは、所定の温度域において超弾性を発現することが可能な材料を意味する。
本実施形態に係る超弾性材料は、負荷変態過程および除荷逆変態過程により、超弾性の発現を確認することができる。
本明細書において、「負荷変態過程」とは、本発明の一実施形態に係る超弾性材料に外力を付与したときに、その外力付与を契機として変態が生じ、その付与された外力によって変態が進行する過程を意味する。
本明細書において、「除荷逆変態過程」とは、負荷変態過程が進行した状態にある超弾性材料に対して付与されていた外力を減じたことを契機として逆変態が生じ、その外力の減少によって逆変態が進行する過程を意味する。
本実施形態においては、超弾性材料に外力を付与すると、オリゴマーの結晶に格子変形(lattice deformation)が生じる。ここで、格子変形は原子拡散(atomic diffusion)を伴わずに結晶格子が変形する現象であり、格子変形はマルテンサイト変態(martensitic transformation)および双晶変形(twinning deformation)を含む。かかる格子変形により、オリゴマーの結晶は、別の結晶格子を有する新たな相(応力誘起相)に変態する(上記負荷変態過程に相当)。
超弾性が発現する温度域(より具体的には、下限値を逆変態終了温度とする温度域)においては、応力誘起相は熱的に不安定な状態ということができ、オリゴマーの結晶は上記変態によりエネルギーを蓄積する。
そして、上記付加した外力を低減させると、蓄積されたエネルギーが解放されるため、外力を減じたことを契機として元の結晶格子に戻る逆変態が自律的に生じ、最終的に変態が生じる前のほぼ同一の状態に回復する(上記除荷逆変態過程に相当)。
一方、逆変態開始温度以下の温度域では、応力誘起相が安定的に存在できるため、逆変態は生じにくい。したがって、超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、逆変態開始温度以下の温度域において外力を付与すると、オリゴマーの結晶は応力誘起相に変態するが、外力を減じても、自律的な逆変態は生じにくく、外力により生じた歪みは残留する(マルテンサイト強弾性)。
この場合において、歪みが残留する当該材料は、逆変態終了温度以上に加熱することにより、逆変態が生じて歪みが回復する。このように、本実施形態に係る超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、超弾性材料の形状記憶効果を観察することができる。
本実施形態に係る超弾性材料が逆変態を起こしやすくなる温度域は特に限定されない。本実施形態に係る超弾性材料は、オリゴマーの結晶を適切に選択することにより、室温(23℃)において逆変態を容易に生じさせることも可能であるし、室温では逆変態を容易に生じないようにすることも可能である。
なお、超弾性材料が発現する超弾性および形状記憶効果は、形状記憶ポリマーが発揮する形状記憶効果とは全く異なるものである。
一般に、形状記憶ポリマーにおける形状記憶効果はゴム弾性に起因するものである。形状記憶ポリマーは、一定形状に成型した後、所定温度以上で外力を付与すると容易に変形するが、変形を保持したまま所定温度以下に冷却すると、ガラス状化または部分的な結晶化によりポリマー分子鎖の運動が拘束され、変形が維持される。その後、変形した形状記憶ポリマーを再度加温すると、拘束が解かれ、ゴム弾性により元の形状に回復する。
このように、形状記憶ポリマーにおける形状記憶効果はゴム弾性に起因しており、形状回復時においてポリマー分子鎖の運動が活発化し、原子間の距離が大幅に変動する。また、形状記憶ポリマーは超弾性を発現することができない。これに対し、本実施形態の超弾性材料が発現する超弾性や形状記憶効果は、原子拡散を伴わない格子変形に起因するものであり、形状記憶ポリマーが発揮する形状記憶効果とは全く異なるものである。
2.オリゴマー
本明細書において「オリゴマー」とは、繰り返し単位が5~50個連続して結合した構造を有する分子をいう。なお、上記オリゴマーは、繰り返し単位が1種類のホモオリゴマーであってもよく、繰り返し単位が2種類以上のコオリゴマーであってもよい。また、上記オリゴマーは、上記構造を有するものであれば電荷の有無は限定されず、例えば、繰り返し単位が5~50個連続して結合した構造を有するイオンであってもよい。
(オリゴマーの種類)
オリゴマーの構造としては、鎖状オリゴマー、はしご状オリゴマー、かご状オリゴマー、ネットワーク状オリゴマーなどが挙げられるが、結晶の形成しやすさの観点から、鎖状オリゴマー、はしご状オリゴマー、またはかご状オリゴマーであることが好ましく、鎖状オリゴマーであることが特に好ましい。
ここで、鎖状オリゴマーとは、繰り返し単位が2価であり、当該繰り返し単位が鎖状に連結した構造を有するものをいう。なお、本明細書において「価」との単位は、とくに断りがない限り、繰り返し単位または官能基が有する遊離原子価(結合手ともいう。)の数を表す。
鎖状オリゴマーは、比較的密に充填して結晶を形成しやすく、また、結晶が外力を受けた場合に、一部のオリゴマー分子の配向が変化するだけで格子変形を生じさせることができる。そのため、鎖状オリゴマーは、超弾性を発現する結晶を形成しやすく、特に好適である。
上記オリゴマーは、骨格の構成から、有機オリゴマーおよび無機オリゴマーに分類することができる。
ここで、本明細書において「オリゴマーの骨格」とは、隣接する繰り返し単位と結合した原子、および当該結合した原子どうしを連結する原子;ならびにこれらの原子間の結合から構成されるものとする。骨格に環状構造が含まれる場合は、当該環状構造およびこれを構成する原子は「骨格」に含まれる。
「有機オリゴマー」とは、オリゴマーの骨格の中に炭素原子を少なくとも有し、かつ、オリゴマーの骨格の中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子以外の原子を含まないものをいう。
「無機オリゴマー」とは、上記有機オリゴマー以外のオリゴマーを意味し、具体的には、オリゴマーの骨格の中に炭素原子を有しないか、または、オリゴマーの骨格の中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子以外の原子を含むものをいう。
本実施形態で用いるオリゴマーは特に限定されず、有機オリゴマーであっても無機オリゴマーであってもよいが、有機オリゴマーであることが好ましい。
有機オリゴマーとしては、例えば、オレフィンオリゴマー等の骨格内に環状構造を有しないオリゴマーであってもよく、骨格内に脂環式構造、芳香環、複素環等の環状構造を有するオリゴマーであってもよい。
また、骨格を構成する結合がエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合などを含んでいてもよい。
有機オリゴマーは、骨格外にアルキル基やハロゲン、後述する会合性官能基等の置換基を有していてもよい。
上記骨格内に環状構造を有しないオリゴマーとしては、例えば、エチレンオリゴマー、プロピレンオリゴマー等のオレフィン系オリゴマー等が挙げられ、骨格内に環状構造を有するオリゴマーとしては、例えば、ノルボルネンオリゴマー、フェニレンオリゴマー、チオフェンオリゴマー等が例示される。
また、骨格内にエーテル結合やチオエーテル結合を有するオリゴマーとしては、例えば、オキシメチレンオリゴマー、オキシエチレンオリゴマー、フェニレンスルフィドオリゴマー等が挙げられる。
骨格内にエステル結合等を有するオリゴマーとしては、例えば、エステルオリゴマー、アミドオリゴマー、ウレタンオリゴマー、ウレアオリゴマー等を例示することができる。
無機オリゴマーとしては、炭素以外の同一元素の原子により骨格が形成されているオリゴマー;炭素以外の複数元素の原子により骨格が形成されているオリゴマー;骨格内に炭素原子を有し、かつ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子以外の原子も有するオリゴマー;が挙げられる。
炭素以外の1種類の原子が骨格を形成しているオリゴマーとは、硫黄、ケイ素、硫黄、ホウ素、リン、テルル、セレン、ゲルマニウム、スズ、ヨウ素などの、カテネーションが可能な原子により骨格が形成されたオリゴマーが挙げられる。なお、これらのオリゴマーには、アルキルシランオリゴマー、アルキルゲルマンオリゴマー等の、炭素原子を含む置換基を骨格外に有するオリゴマーも含まれ、その他の無機オリゴマーについても同様である。
炭素以外の複数種類の原子が骨格を形成しているオリゴマーとしては、例えば、シロキサンオリゴマー、シルセスキオキサンオリゴマー、シラザンオリゴマー等のケイ素原子を骨格内に有するオリゴマー;リン酸オリゴマー、ホスファゼンオリゴマー等のリン原子を骨格内に有するオリゴマー;チアジルオリゴマー等の硫黄原子を骨格内に有するオリゴマー;ボラジレンオリゴマー、アミノボランオリゴマー等のホウ素原子を骨格内に有するオリゴマー;などが挙げられる。なお、炭素以外の複数種類の原子が骨格を形成しているオリゴマーとしては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム等の酸化物がオリゴマー化したものであってもよい。
骨格内に炭素原子を有し、かつ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子以外の原子も有するオリゴマーとしては、例えば、カルボシランオリゴマーなどが挙げられる。
(会合性官能基)
本実施形態で用いるオリゴマーは、分子内に会合性官能基を有することが好ましい。
ここで、本明細書において「会合性官能基」とは、分子間力を介して、相互に会合することのできる官能基を意味する。上記会合するための分子間力は、水素結合、イオン結合、ハロゲン結合、π-π相互作用、イオン-双極子相互作用、およびファンデルワールス力の少なくとも1以上を含む。本実施形態の好ましい一態様において、上記会合するための分子間力は、水素結合およびイオン結合の少なくとも一つを含む。
会合性官能基は、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンをはじめとする金属イオン等の、オリゴマーに含まれないイオンを介して会合してもよい。
上記オリゴマーが会合性官能基を有している場合、当該オリゴマー分子に隣接する他のオリゴマー分子と、会合性官能基を介して会合することができる。そのため、かかるオリゴマーは結晶を形成しやすくなる。
また、会合性官能基は、会合する相手である隣接した会合性官能基に加え、近傍に位置する他の会合性官能基とも相互作用し得る。ここで、結晶が外力を受けて格子変形が生じオリゴマー分子の配向が変化すると、会合性官能基は、上記近傍の他の会合性官能基との相互作用を解消したり、また近傍の他の会合性官能基と新たな相互作用を形成することができる。このような相互作用の解消および形成は、外力を受けて生じた応力誘起相の熱的安定性に寄与し、超弾性や形状記憶効果を発現しやすくなるものと考えられる。
そのため、本実施形態で用いるオリゴマーは、会合性官能基を有する鎖状オリゴマーであると、特に好ましい。
ただし、本実施形態における超弾性の発現のメカニズムは、これらの説明に限定されるものではない。
会合性官能基は、1価の官能基であってもよく、2価以上の官能基であってもよい。
1価の会合性官能基は、オリゴマーの置換基または末端に存在することのできる官能基である。具体的な1価の会合性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルバモイル基(カルボキサミド基)、シアノ基、ニトロ基、ウレイド基(カルバミド基)、スルホ基、リン酸基、シラノール基などが挙げられる。
2価以上の会合性官能基は、オリゴマーの骨格を構成する結合としてオリゴマー分子内に存在していてもよく、オリゴマーの骨格を形成せず(他の官能基とともに)置換基または末端として存在していてもよい。具体的に、2価以上の会合性官能基としては、当該官能基により構成される結合の名称で挙げると、エーテル結合、チオエーテル結合、-C(=O)-O-結合(エステル結合)、-NH-C(=O)-結合(アミド結合)、-NH-C(=O)O-結合(ウレタン結合)、-NH-C(=O)-NH-結合(ウレア結合)、-S(=O)-結合(スルホニル結合)などが挙げられる。
これらの中でも、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルバモイル基、スルホ基であることが好ましく、カルボキシル基であることが特に好ましい。
(好ましいオリゴマー)
上記オリゴマーの中でも特に好ましい具体例として、置換基を有していてもよいエチレン単位を繰り返し単位として有するオリゴマーであることが好ましい。
ここで、「置換基を有していてもよいエチレン単位」とは、エチレン単位(-CH-CH-)において、水素原子の1または2以上が置換基により置換されていてもよいことを意味する。
オリゴマーの繰り返し単位が、置換基を有していてもよいエチレン単位であると、かかるオリゴマーは比較的直線的な分子形状を有するものとなる。そのため、かかるオリゴマーは比較的密に充填して結晶を形成しやすく、また、結晶が外力を受けた場合に、一部のオリゴマー分子がその直線方向を軸として配向を変化するだけで、格子変形を生じさせることができる。さらに、エチレン単位が連続している部分は比較的柔軟性に富むものとなり、この点も上記格子変形が生じやすい一因となる。
このように、オリゴマーの繰り返し単位が、置換基を有していてもよいエチレン単位であると、結晶を形成しやすくかつ格子変形を生じやすいため、本実施形態に係る超弾性材料として好適に利用することができる。
上記エチレン単位が置換基を有する場合には、当該置換基はハロゲンまたはメチルであることが好ましい。
また、上記エチレン単位を繰り返し単位とするオリゴマーは、その分子内に1以上の二重結合を有していてもよい。
繰り返し単位の数の下限値は、5以上であり、6以上であってよく、7以上であってよい。繰り返し数の上限値は、50以下であり、30以下であってよく、15以下であってよい。
上記オリゴマーの末端は特に限定されないが、少なくとも1つの末端は、会合性官能基であることが好ましい。
そして、上記オリゴマーは、下記一般式(1)で表される化合物であることが、とりわけ好ましい。
Figure 0007412690000003
(式中、
~Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲンまたはメチルであり、ただしXおよびXは、置換基を有さずに同一のまたは隣接する繰り返し単位において互いに結合し、1以上の二重結合を形成していてもよく;
は水素、ハロゲン、1価の会合性官能基、または下記式(2)で表される置換基
Figure 0007412690000004

(式中、Zは水素、ハロゲンもしくは1価の会合性官能基であり、ZおよびZはそれぞれ独立に水素もしくはハロゲンである)であり;
Yは1価の会合性官能基であり;
mは5~50の整数である。)
上記式(1)において、Yにおける1価の会合性官能基と、Xが有しうる1価の会合性官能基とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
式(1)において特に好ましい会合性官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルバモイル基、スルホ基等を例示することができ、とりわけカルボキシル基であることが好ましい。
上記式(1)において、X~Xはそれぞれ独立に水素、ハロゲンまたはメチルであり、水素、ハロゲンが好ましく、水素が特に好ましい。
なお、XおよびXは、置換基を有さずに同一のまたは隣接する繰り返し単位において互いに結合し、1以上の二重結合を形成していてもよい。この場合において、二重結合の数は3以下が好ましく、2以下が好ましく、1が好ましい。また、二重構造はトランス型であることが好ましい。
上記式(1)において、Xは、水素、ハロゲン、1価の会合性官能基、または上記式(2)で表される置換基であり、水素、ハロゲンが好ましく、水素が特に好ましい。
上記式(1)において、mは5~50の整数である。mの下限値は、6以上であってよく、7以上であってよい。mの上限値は、30以下であってよく、15以下であってよい。
本実施形態において、上記式(1)で表されるオリゴマーは、繰り返し部分の立体障害が小さい。そのため、オリゴマーの分子形状がより一層直線的になり、結晶を形成しやすくなる。また、結晶が外力を受けた場合に、オリゴマー分子の配向変化による格子変形が生じやすくなり、さらにオリゴマー分子が柔軟性に富むものとなる。
また、上記式(1)で表されるオリゴマーは、分子末端の会合性官能基を介して会合し、二量体化(または多量体化)しやすい。なお、本明細書におけるオリゴマーの二量体(または多量体)とは、オリゴマー分子が、会合性官能基を介して2分子(または複数分子)で会合した状態をいう。
上記式(1)で表されるオリゴマーは、オリゴマー分子が直線的形状を有することと相俟って、二量体(または多量体)も直線的形状を有するため、より一層、結晶を形成しやすくなり、格子変形が生じやすくなり、また柔軟性に富むものとなる。
さらに、会合性官能基は、二量体化(あるいは多量体化)する相手である隣接した会合性官能基に加え、近傍に位置する他の会合性官能基とも相互作用し得る。前述したとおり、結晶が外力を受けて格子変形が生じオリゴマー分子の配向が変化した場合に、会合性官能基は、近傍の他の会合性官能基との相互作用を解消したり、また新たな相互作用を形成することができる。このような相互作用の解消および形成は、外力を受けて生じた応力誘起相の熱的安定性に寄与し、超弾性や形状記憶効果を発現しやすくしているものと考えられる。
本実施形態で用いるオリゴマーは、直鎖飽和脂肪酸であることが好ましい。
直鎖飽和脂肪酸は、直鎖のアルキル基と1個のカルボキシル基とからなる化合物である。直鎖飽和脂肪酸は、上記式(1)において、X~Xがいずれも水素であり、Xが水素またはメチル(すなわち、式(2)の置換基においてZ~Zがいずれも水素)であり、Yがカルボキシル基となる。
直鎖飽和脂肪酸の炭素数nは、上記式(1)において、2m+1(Xが水素である場合)、または2m+2(Xがメチルである場合)で表される。前述したとおり、Xは水素であることが好ましく、すなわち直鎖飽和脂肪酸の炭素数nは、奇数(上記式(1)における2m+1)であることが好ましい。
直鎖飽和脂肪酸であれば、直鎖部分の立体障害が極めて小さく、また末端のカルボキシル基を介して二量体化するため、結晶を形成しやすく、結晶が外力を受けた場合に配向を変化させやすく、かつ分子が柔軟性に富むものとなる。
また、直鎖飽和脂肪酸は、末端のカルボキシル基が、二量体化する相手のカルボキシル基以外にも、近傍のカルボキシル基と相互作用を形成することができる。かかる直鎖飽和脂肪酸の結晶は、外力を受けて脂肪酸分子の配向が変化したときに、上記カルボキシル基どうしの相互作用を解消しやすく、また新たに形成しやすい。そのため、かかる相互作用の解消および形成は、外力を受けて生じた応力誘起相の熱的安定性に寄与し、超弾性や形状記憶効果をより一層発現しやすくなる。
さらに、直鎖飽和脂肪酸は、生体に対して安全性が高い。そのため、直鎖飽和脂肪酸の結晶を含む材料は、軟質かつ超弾性を発現できる材料として特に好適である。
以上述べたオリゴマーは、結晶とすることで超弾性を発現することができる。
ここで、オリゴマーの結晶は、オリゴマーから構成される結晶のほか、オリゴマーと陽イオンおよび/または陰イオンとの塩から構成される結晶も含む。さらに、上記塩は錯塩を含む。
また、上記オリゴマーの結晶は、単結晶体であってもよいし、多結晶体であってもよい。
本明細書において、「単結晶体」なる用語の概念には、モザイク結晶、格子欠陥を含む結晶も含まれ、結晶化度が低い結晶、純度が低い結晶も含まれる。本明細書において、「多結晶体」なる用語は、単結晶に対比される結晶の集合体を意味する。
3.超弾性材料
本実施形態に係る超弾性材料は、上記オリゴマーの結晶を含むものであり、当該材料に含まれる上記オリゴマーの結晶の少なくとも一部が超弾性を発現することにより、材料全体として超弾性を発現することができる。
本実施形態に係る超弾性材料は、具体的な一態様として、オリゴマーの結晶からなるものとすることができる。
また、本実施形態に係る超弾性材料は、別の具体的な一態様として、オリゴマーの結晶を含む混合体とすることもできる。
かかる混合体の具体的な一例として、オリゴマーの結晶とマトリックス材料とを含む場合が挙げられる。この場合には、例えば、マトリックス材料中にオリゴマーの結晶が分散した構造を有するなどして、オリゴマーの結晶の力学的特性により混合体全体の力学的特性が支配され、混合体全体として超弾性を発現することができる。
ここで、マトリックス材料としては、超弾性材料が受ける外力やオリゴマーの結晶の逆変態などに追従して変形することのできる材料であればよく、その種類は特に限定されない。
また、混合体が備えるマトリックス材料とオリゴマーの結晶との関係は限定されない。例えば、混合体におけるオリゴマーの結晶の含有比率は、混合体全体として超弾性を発現することができる限り特に限定されず、マトリックス材料はオリゴマーの結晶よりも体積的に多くてもよいし、マトリックス材料とオリゴマーの結晶とが同等の体積であってもよいし、マトリックス材料はオリゴマーの結晶よりも体積的に少なくてもよい。例えば、上記混合体におけるオリゴマーの結晶の体積比率は、1体積%程度としてもよく、また5体積%程度としてもよく、このような低い体積比率であっても、マトリックス材料を適切に選択することにより、混合物全体として超弾性を発現することができる。なお、混合物全体として超弾性を発揮しやすくする観点からは、上記体積比率は、例えば、40体積%以上としてもよく、50体積%以上としてもよく、70体積%以上としてもよく、90体積%以上としてもよく、95体積%以上としてもよい。
上記混合体において、マトリックス材料とオリゴマーの結晶との相互作用の程度も限定されない。マトリックス材料を構成する物質とオリゴマーの結晶を構成する物質とが会合したり化学的に結合したりするなどして、両者が実質的に一体化していてもよい。そのような例として、混合体がマトリックス材料とオリゴマーの結晶との架橋構造を備える場合が挙げられる。
4.超弾性材料の物性
超弾性材料が有する超弾性の程度はいくつかのパラメータにより評価することができる。
そのようなパラメータの一例として、エネルギー貯蔵密度が挙げられる。エネルギー貯蔵密度(単位:Jm-3)は、力-変位曲線から求めることができ、具体的には、変位量を減少させた際に超弾性材料が行った仕事を、変位量が最大となった状態における超弾性材料の変態した部分の変態前の体積で除した値である。
ここで、Ti-Ni合金は、従来技術に係る金属系の超弾性材料の典型例であるところ、Ti-Ni合金におけるエネルギー貯蔵密度は14MJm-3であり、10MJm-3のオーダーである。これに対し、本実施形態に係る超弾性材料のエネルギー貯蔵密度は、好ましい一例においては1MJm-3以下であり、他の好ましい一例においては0.5MJm-3以下であり、さらに他の好ましい一例においては0.2MJm-3以下である。
上記のパラメータの別の一例として、化学的応力が挙げられる。化学的応力(単位:Pa)は、負荷変態過程および除荷変態過程の力-変位曲線から求めることができる。より具体的には、負荷変態過程の力-変位曲線から、変態が進行して見かけ上外力の数値変動が少なくなった状態において付与している外力から算出された応力(後述する実施例におけるσf-trans)を求めるとともに、除荷逆変態過程の力-変位曲線から、逆変態が進行して見かけ上回復力の数値変動が少なくなった状態において発生している回復力(後述する実施例におけるσr-trans)を求める。化学的応力は、これらσf-transとσr-transとの平均値である。
ここで、Ti-Ni合金における化学的応力は558MPaであり、100MPaから1GPaのオーダーである。これに対し、本実施形態に係る超弾性材料の化学的応力は、好ましい一例においては10MPa以下であり、他の好ましい一例においては1MPa以下である。化学的応力が低いほど、超弾性を発現させるために必要な外力は低くなる傾向があり、微細構造体に適用しやすい超弾性材料となる。
上記のパラメータのさらに別の一例として、超弾性指数が挙げられる。超弾性指数(単位:kJm-3Pa-1)は、エネルギー貯蔵密度を化学的応力により除した値である。
ここで、Ti-Ni合金における超弾性指数は0.025程度であり、0.05未満である。これに対し、本実施形態に係る超弾性材料の超弾性指数は、好ましい一例においては0.1以上であり、他の好ましい一例においては0.3以上である。超弾性指数が高いほど、効率的な超弾性材料、すなわち、少ない外力付与で多くのエネルギーが蓄積される超弾性材料であるといえる。したがって、本実施形態に係る超弾性材料は、従来技術に係る超弾性材料に比べて、より微細構造体に適用しやすい材料であるといえる。
また、本実施形態に係る超弾性材料は、柔軟性に優れていることが好ましい。かかる柔軟性を示す指標として、ヤング率が挙げられる。
本実施形態に係る超弾性材料は、ヤング率が200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましく、50MPa以下であることが特に好ましい。なお、ヤング率の下限値は特に限定されないが、0.5MPa以上であってよく、また1MPa以上であってよく、さらには2MPa以上であってよい。
なお、本実施形態におけるヤング率は、一軸圧縮試験により得られた応力-歪み曲線の初期勾配から算出される値であり、測定方法の詳細は後述する実施例に示すとおりである。
以上述べた実施形態に係る超弾性材料は、オリゴマーの結晶を含むことにより、超弾性を発現することができる。
〔超弾性材料の応用〕
上記実施形態に係る超弾性材料は、小さなエネルギー入力によって大きな変位を伴う変態を生じることができる。この点を換言すれば、大きな逆変態を伴って小さな出力を均一に行うことができるといえる。したがって、たとえば、以下の用途に好適に用いることができる。
上記実施形態に係る超弾性材料を含むエネルギー貯蔵材料;
上記実施形態に係る超弾性材料を含むエネルギー吸収材料;
上記実施形態に係る超弾性材料を含む弾性材料;
上記実施形態に係る超弾性材料を含むアクチュエータ;または
上記実施形態に係る超弾性材料を含む形状記憶材料。
〔オリゴマーの結晶を有する材料の使用〕
上記実施形態に係る超弾性材料が熱弾性型のマルテンサイト変態を生じる場合には、下限値を逆変態終了温度とする温度域において、応力誘起相が不安定化して逆変態が生じやすくなる。そのため、かかる性質を利用して、上記オリゴマーの結晶を有する材料を以下のように使用することにより、超弾性を発現させることができる。
すなわち、本発明の一実施形態に係る材料の使用は、以下のステップを備える:
(1a)オリゴマーの結晶を含む材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップ;および
(1b)前記外力を除荷して前記変形を回復するステップ。
一方、逆変態開始温度以下の温度域においては、応力誘起相が安定的に存在できる。そのため、かかる温度域において外力を加えると、外力を減じた後も歪みが残留する。その後、歪みが残留する超弾性材料を逆変態終了温度以上に加熱すれば、逆変態によって歪みが回復する。そのため、かかる性質を利用して、上記オリゴマーの結晶を有する材料を以下のように使用することにより、超弾性材料の形状記憶効果を発現させることができる。
すなわち、本発明の他の実施形態に係る材料の使用は、以下のステップを備える:
(2a)オリゴマーの結晶を含む材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップ;
(2b)前記外力を除荷するステップ;および
(2c)前記外力が除荷された前記材料を加熱して前記変形を回復するステップ。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
以下、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
〔実験〕
(1)結晶の調製
脂肪酸の結晶は東京化成工業から購入し、受け取ったまま使用した。良好に形成された単結晶を、イソオクタン中の濃縮溶液からの再結晶によって調製した。
(2)単結晶X線回折実験
単結晶X線分析は、窒素フロー温度制御器を有するBruker SMART APEX CCDエリア(グラファイト単色化Mo-Kα放射(λ=0.71073Å))上で行った。SADABSプログラムを用いて経験的吸収補正を適用した。構造は直接法(SHELXS-97)によって解かれ、SHELXTLプログラムパッケージを用いたF(SHELXL-97)上での完全行列最小二乗計算によって高精度化された。非水素原子は異方的に高精度化され、水素原子はライディングモデルにおいて高精度化された。結晶面の指数付けは、ツインレゾリューションプログラムを有するSHELXTLバージョン6.12プログラムパッケージにおけるSMARTを用いて実施した。構造の結晶学的データは、後述する表3(C15)および表4(C17)にまとめられている。
(3)力-変位試験(応力-歪み試験)
応力試験は汎用試験機(Tensilon RTG-1210,エー・アンド・デイ社製)を用いて実施した。
一軸圧縮による応力-歪み試験は、C15結晶を約1×1×0.2mmにカットして試験片を作成し、25℃において、結晶の頂面(001)B’の法線方向およびA’/B’相界面(127)B’の法線方向に沿って、50μm/分の一軸圧縮を行った。得られた応力-歪み曲線における初期勾配から、C15結晶のヤング率を算出した。また、降伏点の直前における勾配から最大ヤング率を算出した。
また、せん断応力による応力-歪み試験は、表1に示す条件にて、[1-20]B’に沿って有効せん断に平行なせん断応力を負荷することにより、21~43℃の温度範囲で1℃の増分で実施した。
Figure 0007412690000005
(4)DSC測定
DSC測定は、熱分析装置(DSC-60,島津製作所社製)を用い、昇温・降温速度5℃/分にて実施した。
〔構造的特徴および相図〕
ペンタデカン酸(C1530:C15)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸、C1632、C16)、ヘプタデカン酸(C1734:C17)、オクタデカン酸(ステアリン酸、C1836:C18)、ノナデカン酸(C1938:C19)、エイコサン酸(アラキジン酸、C2040:C20)、およびヘンエイコサン酸(C2142:C21)は典型的な直鎖飽和脂肪酸であり(図1a)、これらは、テイル・トゥ・テイルCOOH-HOOC水素結合[C=O…H-O:O…O距離で約2.6Å]により結合された長い直線状アルキル鎖を有する二量体において結晶化する。これらの二量体は平行に密集して「分子二重層」を形成する(図1b)。なお、これらの高級脂肪酸は、合成高分子化学におけるエチレン単位の逐次的な組み合わせによって形成される「オリゴマー」とみなすことができる。
脂肪酸の結晶充填は、1930年代から充填分子配向に応じて3種類の多形に分類されてきた。3つの多形は、分子二重層の厚さの減少の順にA、B、およびCと称され、その厚さは結晶の頂面に対応する面に対するアルキル鎖の増加する傾斜角によって決定される(図1b)。さらに、奇数鎖脂肪酸は、従来、A’、B’、およびC’(またはC”)と称される。A、B、およびC(またはA’、B’、およびC’(C”))の各傾斜角は、鎖長にかかわらずほぼ同じである。知識の進歩に伴い、結晶構造は、A、A、A、Asuper、B、B、E、E、およびCと呼ばれる偶数員のための9種と、A’、A’、B’、C’、C”、およびD’と呼ばれる奇数員のための6種とにさらに分割されてきており(表2)、これらの構造は、特定の蒸発速度および温度条件下で適切な溶液から選択的に結晶化され得る(表2中の参考文献参照)。Eは、Cと同様に全トランス立体配座を有し、Bの傾斜角(約28°)と同様の傾斜角(約26°)を有する。一般に、CおよびC’(またはC”)結晶は加熱(52~75℃)によって融解し、融点は偶数員および奇数員でそれぞれアルキル鎖の伸長に伴って増加する(図1c)。
Figure 0007412690000006
〔脂肪酸結晶の超弾性〕
光学顕微鏡下でピンセットを用いて脂肪酸結晶の機械的変形能を調べた。25℃でのゆっくりした蒸発を伴う2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)溶液からの再結晶化により、10~50μmの厚さを有する膜状薄板が得られた。DSC測定により、各化合物の結晶相は、C16に対してC相、C18およびC20に対してB相、C15、C17、C19、およびC21に対してB’相であることが明らかになった。結晶試料は、薄板を切断することによって実験用に調製した。
圧縮すると、C15、C17、C19、およびC21のB’結晶は、平行な縞状の複数のせん断誘起ドータードメインの生成を伴って変形した(図2a~d)。ドータードメインは自発的に収縮し、その力を解放することによって消失し、脂肪酸結晶において初めて超弾性を示した。マザーB’結晶内には、応力によって準安定ドメインが誘起された。今回の試験条件において、超弾性変形の観察可能な温度は、より長い長鎖脂肪酸に対してはB’相の温度範囲が広がったにもかかわらず、おそらくは結晶軟質性の増大に起因して、炭素数が増加するのにしたがって40℃(C15)から25℃(C17)、10℃(C19)、および約0℃(C21)に低下する傾向があった。
単結晶X線回折分析は、室温でC15およびC17の変形した結晶に対して成功した(C15:表3および図3,C17:表4および図4)。相図における同形性とC17、C19、およびC21の変形態様を考慮すると、誘起ドメインはC19およびC21に対するA’として推定された。C15、C17、C19、およびC21の結晶変形は、テレフタルアミド(非特許文献4参照)およびPBuBPh(非特許文献7参照)の有機超弾性変態において報告されているマルテンサイト変態として分類することができる。
Figure 0007412690000007
Figure 0007412690000008
結晶構造の詳細により、脂肪酸のマルテンサイト変態のメカニズムがよりよく理解される。25℃でのC15の変形下でのA’/B’共存状態の面指数を参照して充填図を見ると、マルテンサイト界面は、(127)B’//(2-17)A’h(または(-21-7)A’h//(-1-2-7)B’)であると決定された(図5)。このことは、二量体がそれらの鎖軸に沿ってシフトしたことを示しており、変態に際してのカルボキシル基の配向変化を伴っている(図6,図7)。格子接続における不整合がSA’h/SB’eに対して0.951であったことから、界面は、分子鎖と平行に配向してB’相の斜方晶系サブセルとA’相の三斜晶系サブセルとの間に相境界を形成した。ここでSは界面上の単位セルの断面積である。
〔C15単結晶の柔軟変形能〕
脂肪酸の結晶は本質的に非常に軟質で柔軟であり、常識的観点からは機械的操作は難しいように思われる。C15結晶においては種々の相A’、A’、B’、C”、およびD’が既に観察されているので(図1c参照)、脂肪酸の多形のうちペンタデカン酸(C15)は詳細な研究のための好ましい候補である。C15の薄板結晶(厚さ約5μm)は、大きな面に対して法線方向に向かって弾性的に湾曲した(図8a)。曲率はヤング率に反比例し、25℃での頂面(001)B’に対する一軸圧縮試験において、5~50MPaという小さな値であることが実験的に明らかにされている(図9,表5)。C15の値は、天然ゴムとして作用するほどには小さく、5MPaの値を示している。
Figure 0007412690000009
マルテンサイト界面[1-20]B’に沿う面内方向へのせん断力により、40℃で超弾性変態が生じた(図8b)。(-11-1)B’と(112)A’hの間の曲げ角度は顕微鏡観察により21°と測定され、これは図5bに示す顕微鏡角度(θ:20.7°)と一致した。C15単結晶の超弾性は、三斜晶格子の対称性が低いため、特定の異方性マルテンサイト変態において制限される一方、[1-20]B’のせん断成分に沿って力を加えると、マルテンサイト変態および弾性的曲がりを伴う連携的な変形が生じ、変態A’ドーター結晶ドメインの複数の縞を曲率内に生成し、力を取り除くと自発的にその形状を母相単結晶の元の形状に復元した(図8c,図10)。脂肪酸結晶は、弾性軟質性および超弾性形状回復性の両方を有しており、明らかにされていない柔軟性をもたらす。
〔C15の安定温度相の交換における超弾性挙動〕
母結晶のB’相内のせん断誘起A’ドメインは、33~34℃より高い温度で超弾性(図11a)によって回復された。33℃と11℃の間で強弾性が超弾性に取って代わり、強弾性においては、マザーB’からドーターA’相まで同じマルテンサイト変態が生じたにもかかわらず、結晶は変形を保持して残留歪みを残した(図11b)。強弾性温度範囲内では、A’ドメインの収縮を伴う逆変態のためには、反対方向に沿う力が必要であった。反対のせん断方向に切り替えることによって観察された変態性は、「マルテンサイト強弾性」と称することができ、これは相転移を含むが、相転移なしに生じる「双晶強弾性」とは異なる。驚くべきことに、マルテンサイト強弾性は、34℃を超える温度に上昇させると超弾性的強弾性に移行し、強弾性的に変形した結晶は、せん断誘起A’ドメインのB’母結晶内への組み込みにより、元の直線的な結晶に完全に回復した(図11b→a)。
DSC測定の結果から、B’相は、-30℃であっても過冷却状態に留まることが分かり(図13参照)、超弾性プロセス(安定B’マザーから準安定A’ドーター)および強弾性プロセス(過冷却B’マザーから安定A’ドーター)の両方に対してA’とB’の間でのマルテンサイト変態が示された。形状記憶合金における形状記憶効果は、加熱による双晶相から超弾性相への熱的相転移によって生じるが、観察された形状記憶効果は過冷却状態から安定相への不可逆変態によってもたらされるマルテンサイト双晶相から超弾性相への熱的相転移によって生じている。脂肪酸結晶における形状記憶効果は、形状記憶合金と原理的に類似した特性であり、形状記憶高分子材料では見られなかった新規なメカニズムである。C15結晶が形状記憶効果を示したことから、C19およびC21結晶においては、より低温で形状記憶効果の能力があると考えられる。
A’とA’の間で、より低い温度でのC15の第2および第3の超弾性挙動が見つかった。A’結晶が室温付近で過冷却B’から機械的に生成され、次いでA’結晶が、A’結晶を11℃まで冷却することによってA’結晶から生成された。興味深いことに、A’とA’の間の超弾性変態における温度双極性が、安定母相と準安定せん断誘起相の交換によって確認された(図11c,d)。A’は、概ね0~5℃までの更なる冷却下で過冷却B’に機械的負荷をかけることによって生成された可能性がある(図12,図13,表6)。したがって、2段階のマルテンサイト変態、即ち(1)過冷却B’からA’への[1-20]B’に沿うマルテンサイト変態および(2)A’からA’への[100]A’hに沿うマルテンサイト変態を通して、A’が熱的に安定になる温度領域に3つの結晶相が共存することができる(図11e,図14,図15)。
Figure 0007412690000010
〔形状記憶効果における熱機械的特性〕
マルテンサイト強弾性からマルテンサイト超弾性への形状記憶効果は、形状記憶合金およびPBuBPhで観察されたもの(非特許文献7参照)と質的に同じ回復力の熱的強化を示した。応力-歪み試験は、[1-20]B’に沿って有効せん断に平行なせん断応力を負荷することにより、21~43℃の温度範囲で1℃の増分で実施した。強弾性変形における残留A’ドメインは、各温度で反対方向に沿って負荷を与えることによって手動で消去した(表1,図16a)。
21~33℃の温度範囲では、マザーB’結晶内でのドーターA’ドメインの増加および減少に伴う強弾性変形に対応する開いた応力-歪み曲線が記録された(図16b,図17)。強弾性変形に必要な強制応力は、温度が低下するにつれて減少し、約19℃でほぼゼロに達し、この温度では、応力-歪み曲線は、過冷却B’に比べてA’の熱的安定性の優位性を明らかにした。一方、33℃の臨界温度(T)を超える温度では、超弾性変態に対して閉じた応力-歪み曲線(ループ)が記録され、そのような温度では、ドーターA’ドメインは、マザーB’結晶と比較して熱的に不安定になった(図16c,図17)。この応力-歪み試験の上限温度は、45~47℃で開始するB’からC”への相転移中の結晶の劣化を避けるために43℃に設定した。
臨界せん断応力の大きさに着目すると、A’ドメインの核生成に対する最大値(σnucl)、順方向転移に対する最大値(σf-trans)、および逆方向転移に対する最大値(σr-trans)は、43℃(T+9℃)でそれぞれ0.51MPa、0.49MPa、および0.28MPaに達した(図18a)。これらの値は、PBuBPhの超弾性に対して得られた値(126.5℃(T+3℃)でσf-trans:0.53MPa、σr-trans:0.42MPa)(非特許文献7参照)と同様である。測定値は、断面積1cmの試料の形状回復中に3kgの重りを引っ張る強さにほぼ対応する。(001)B’に垂直な圧縮下でのC15のヤング率(E)は5~50MPaであった(図9)。これは、室温付近でのPBuBPh結晶の対応する値(E:1430MPa)(非特許文献7参照)に対して1/30~1/100の小ささである。したがって、形状回復強度および材料の軟質性は、それぞれ、超弾性形状回復のためのΔG(図18b)によって、および材料の軟質性に対して適切な分子構造を設計することによって、個別に制御することができる。これは単なる弾性材料にとっては不可能である。
34~43℃の温度範囲では、超弾性を生じさせるのに必要な臨界応力は、温度の上昇に伴って単調に増加した(図18a)。σf-transおよびσr-transの平均値である化学的せん断応力(σchem)に対応する線は、31℃で温度軸を横切っており(図18a)、溶液におけるA’相とB’層の間での相転移の温度と一致している。超弾性領域における温度に対するσr-transの傾き(dσ/dT)は0.0254MPa℃-1と推定され、この値は、33℃未満での強弾性領域におけるσf-transの傾き(0.0140MPa℃-1)よりも大きい。34℃を超える温度でのC15の傾きは、PBuBPhの値(123.5℃を超える温度でdσ/dT:0.135MPa℃-1)(非特許文献7参照)の約1/5であった。母相から応力誘起ドーター相への順方向マルテンサイト変態におけるΔS(=-(dσ/dT)・ε・D-1・M、但しεは歪み(tanθ)、Dは結晶密度(Mgm-3)、Mは分子量(gmol-1)である)の推定値は、C15に対して-2.29JK-1mol-1、PBuBPhに対して-8.27JK-1mol-1であった(非特許文献7参照)。-ΔSが大きいほど、形状記憶効果における形状回復応力の温度勾配が大きくなる。このように、C15の単結晶は、臨界せん断応力の熱的増加に関して比較的穏やかである。
〔考察〕
C15の観察された応力誘起変態および熱誘起相変化は、図19の相図を用いて合理的に説明することができる。過冷却B’から熱的に安定なA’またはA’への追加的なマルテンサイト相転移は、機械的な刺激によって進行した。超弾性変態に対しては、熱的に安定なB’における応力誘起A’および熱的に安定なA’における応力誘起A’は、不安定性が自発的な形状回復をもたらす「過加熱状態」とみなすことができる。形状記憶効果は、A’とB’の間の熱的相安定性の交換によるものである一方で、自発的形状回復性は、過冷却B’を伴う強弾性変形に対しては安定であり、過加熱A’を伴う超弾性変形に対しては不安定である。A’とA’の間での相交換は、有機超弾性または従来の超弾性合金では報告されていない超弾性変形における理想的な熱的双極性を実現する。
定量的観点からは、C15結晶は、体温付近の35~39℃で0.4kJm-3Pa-1を超える大きな超弾性指数(SEI:χ)を有していた。この値は、他の有機超弾性化合物に対して報告された値(0.05~0.25kJm-3Pa-1)(非特許文献4,5,7参照)や形状記憶合金に対して報告された値(<0.05kJm-3Pa-1)よりも著しく大きい(図19,図20,表7)。化学的せん断応力(σchem)に対するエネルギー貯蔵密度(ρ)の割合としてχ=ρ/σchemと推定されるSEIは、超弾性材料の有用性を評価する場合における重要な要素の1つである。さらに、C15結晶の密度は、有機固体であることにより、約1.0gcm-3と小さかった。このことは、脂肪酸固体が、超弾性エネルギー貯蔵において軽量および高効率の両方の要求を満たし得ることを意味する。
Figure 0007412690000011
結言
軟質生体適合C15~C21脂肪酸結晶の機械的変形の研究において、脂肪酸結晶は、確かに室温付近で超弾性変形を示した。C15結晶についての詳細な実験から、マルテンサイト強弾性から超弾性への移行によって誘起された熱的形状記憶効果、およびせん断誘起結晶ドメインにおける熱的双極性を伴う二次超弾性変態が確認された。脂肪酸結晶は、有機超弾性および有機強弾性における弾性軟質性および塑性形状回復性の組み合わせによって実現された種々の形状変態性を示すことができ、これは軟質弾性固体(例えば金属またはゴム)や硬質超弾性固体(例えばTi-Ni合金)では達成することができない。脂肪酸結晶の変態において、オリゴマー結晶の性質により超弾性変形が実現されることで、成分分子の再配列が可能となり、結晶は、超弾性指数値に関して極めて高い有用性を示す。脂肪酸は、生物学的代謝産物およびアルキル鎖を有する合成高分子と関連しているので、脂肪酸結晶の弾性、超弾性、強弾性、および形状記憶効果との組み合わせにおける驚くべき変形性の発見は、オリゴマー結晶を用いた形状回復性に対する新規な設計に貢献する可能性を秘めている。

Claims (12)

  1. オリゴマーの結晶を含む超弾性材料であって、
    前記オリゴマーが下記一般式(1)で表される化合物である、超弾性材料。
    Figure 0007412690000012

    (式中、
    ~X は水素であり;
    は水素、またはメチルであり;
    Yはカルボキシル基、水酸基、アミノ基、カルバモイル基またはスルホ基であり;
    mは5~50の整数である。)
  2. 前記オリゴマーが直鎖飽和脂肪酸である、請求項に記載の超弾性材料。
  3. エネルギー貯蔵密度が1MJm-3以下である、請求項1または2に記載の超弾性材料。
  4. 超弾性指数が0.1以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の超弾性材料。
  5. ヤング率が200MPa以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の超弾性材料。
  6. 請求項1~のいずれか一項に記載される超弾性材料を含むエネルギー貯蔵材料。
  7. 請求項1~のいずれか一項に記載される超弾性材料を含むエネルギー吸収材料。
  8. 請求項1~のいずれか一項に記載される超弾性材料を含む弾性材料。
  9. 請求項1~のいずれか一項に記載される超弾性材料を含むアクチュエータ。
  10. 請求項1~のいずれか一項に記載される超弾性材料を含む形状記憶材料。
  11. 請求項1~5のいずれか一項に記載される超弾性材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップと、
    前記外力を除荷して前記変形を回復するステップと
    を備えることを特徴とする超弾性材料の使用。
  12. 請求項1~5のいずれか一項に記載される超弾性材料に外力を負荷して前記材料を変形させるステップと、
    前記外力を除荷するステップと、
    前記外力が除荷された前記材料を加熱して前記変形を回復するステップと
    を備えることを特徴とする超弾性材料の使用。
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