本発明は、入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持されたパワーローラのスリップを油圧ローダが発生する押圧荷重により抑制するトロイダル型無段変速機に関する。
入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持したパワーローラを傾転させることで変速比を無段階に変化させるトロイダル型無段変速機の油圧ローダが、第1油室および第1ピストンと、第2油室および第2ピストンとを備え、第1油室および第2油室に同じ油圧を供給することで入力ディスクを軸方向に押圧してパワーローラのスリップを抑制するものが、下記特許文献1により公知である。
ところで、油圧ローダで入力ディスクを軸方向に押圧したとき、入力ディスクが変形すると変速比の制御精度の低下等の種々の問題が発生するため、パワーローラのスリップを抑制しながら入力ディスクの変形を最小限に抑えることが望ましい。特に、油圧ローダが入力ディスクの背面の特定の位置を局所的に押圧するピストンと、入力ディスクの背面の広い領域を均等に押圧する油室とを備える場合には、それら二つの押圧手段を適切に使い分けないと入力ディスクの変形量を増加させてしまう可能性がある。
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、トロイダル型無段変速機の油圧ローダが発生する荷重でパワーローラのスリップを抑制しながら、前記荷重による入力ディスクの変形を最小限に抑えることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によれば、駆動源に接続された回転軸と、前記回転軸に相対回転不能に支持された入力ディスクと、前記回転軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間に挟持されるパワーローラと、前記入力ディスクを前記出力ディスクに接近する方向に付勢する油圧ローダとを備え、前記油圧ローダは、前記回転軸に固定された第1シリンダハウジングと、第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合して前記入力ディスクの背面に突設した第2シリンダハウジングの軸方向端部に当接する第1ピストンと、前記回転軸に固定されて前記第2シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合する第2ピストンと、前記第1シリンダハウジングの側壁および前記第1ピストン間に区画された第1油室と、前記入力ディスクの背面および前記第2ピストン間に区画された第2油室と、前記第1油室および前記第2油室に供給する油圧を制御する制御手段とを備えるトロイダル型無段変速機であって、前記制御手段は、前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間の変速比と、前記駆動源から前記入力ディスクに入力される入力トルクとの少なくとも一方に基づいて、前記第2油室だけに油圧を供給する第1制御状態と、前記第1油室および記第2油室の両方に油圧を供給する第2制御状態とを切り換えることを第1の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1の特徴に加えて、前記入力ディスクの外周面は前記第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在にスプライン嵌合することを第2の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1または第2の特徴に加えて、前記第1制御状態および前記第2制御状態は変速比および入力トルクに基づいて切り換えられ、前記第1制御状態が選択される入力トルクは、中間変速比のときよりも高変速比あるいは低変速比のときの方が大きく設定されることを第3の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1〜第3の何れか1つの特徴に加えて、前記第1制御状態および前記第2制御状態を切り換える入力トルクの閾値は、前記駆動源の出力トルクの急増時に減少方向に変更されることを第4の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
尚、実施の形態のインプットシャフト13は本発明の回転軸に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
本発明の第1の特徴によれば、トロイダル型無段変速機は、駆動源に接続された回転軸と、回転軸に相対回転不能に支持された入力ディスクと、回転軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持されるパワーローラと、入力ディスクを出力ディスクに接近する方向に付勢する油圧ローダとを備える。油圧ローダは、回転軸に固定された第1シリンダハウジングと、第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合して入力ディスクの背面に突設した第2シリンダハウジングの軸方向端部に当接する第1ピストンと、回転軸に固定されて第2シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合する第2ピストンと、第1シリンダハウジングの側壁および第1ピストン間に区画された第1油室と、入力ディスクの背面および第2ピストン間に区画された第2油室と、第1油室および第2油室に供給する油圧を制御する制御手段とを備えるので、第1油室に供給される油圧で第2シリンダハウジングに当接する第1ピストンを駆動して入力ディスクを軸方向に押圧するとともに、第2ピストンで区画された第2油室に供給される油圧で入力ディスクの背面を軸方向に押圧することで、入力ディスクおよび出力ディスク間にパワーローラを挟圧してスリップの発生を防止することができる。
第1ピストンは入力ディスクの径方向外端部(つまり第2シリンダハウジング)を局所的に押圧するので、入力ディスクを変形させ易いが、第2油室の油圧は入力ディスクの背面の全域を均等に押圧するので、入力ディスクの変形が小さくなる。そこで制御手段により、入力ディスクおよび出力ディスク間の変速比と、駆動源から入力ディスクに入力される入力トルクとの少なくとも一方に基づいて、第2油室だけに油圧を供給する第1制御状態と、第1油室および記第2油室の両方に油圧を供給する第2制御状態とを切り換えるので、第2油室の油圧で優先的に入力ディスクを押圧し、第2油室の油圧だけでは不足する場合に第1ピストンで補助的に入力ディスクを押圧することで、パワーローラのスリップを抑制しながら入力ディスクの変形を最小限に抑え、変速比制御の精度向上、動力伝達効率の向上、入力ディスクおよび出力ディスクのトロイダル曲面のフレッティング防止、第1ピストンおよび第2ピストンの接触防止等の効果を得ることができる。
また本発明の第2の特徴によれば、入力ディスクの外周面は第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在にスプライン嵌合するので、回転軸に対して入力ディスクを相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支持できるだけでなく、パワーローラから受ける反力荷重で入力ディスクの径方向外端部が軸方向外側に広がろうとするのを、第1シリンダハウジングおよび入力ディスクのスプライン嵌合により抑制することができる。
また本発明の第3の特徴によれば、第1制御状態および第2制御状態は変速比および入力トルクに基づいて切り換えられ、第1制御状態が選択される入力トルクは、中間変速比のときよりも高変速比あるいは低変速比のときの方が大きく設定されるので、油圧ローダの押圧荷重がパワーローラのスリップ抑制に対して効果的に作用する高変速比時あるいは低変速比時に、できるだけ第2油室および第2ピストンを使用して第1油室および第1ピストンの使用を差し控えることで、入力ディスクの変形を一層効果的に防止することができる。
また本発明の第4の特徴によれば、第1制御状態および第2制御状態を切り換える入力トルクの閾値は、駆動源の出力トルクの急増時に減少方向に変更されるので、キックダウン操作等により駆動源の出力トルクが急増したときに早期に第2制御状態に切り換え、入力ディスクの径方向に外側に設けられた第2シリンダハウジングを第1ピストンで押圧することで、入力ディスクの径方向外端部が軸方向外側に広がるように変形するのを防止し、パワーローラのスリップを一層確実に抑制することができる。
図1はトロイダル型無段変速機のスケルトン図である。(第1の実施の形態)
図2は図1の要部拡大図である。(第1の実施の形態)
図3は図2の3−3線断面図である。(第1の実施の形態)
図4は油圧ローダの必要発生荷重の説明図である。(第1の実施の形態)
図5は油圧ローダのローディング圧と変速比との関係を示すグラフである。(第1の実施の形態)
図6は変速比および入力トルクから油圧ローダの制御領域を検索するマップである。(第1の実施の形態)
図7は油圧ローダの油圧制御のフローチャートである。(第1の実施の形態)
13 インプットシャフト(回転軸)
15 入力ディスク
15a 第2シリンダハウジング
16 出力ディスク
17 トラニオン
19 パワーローラ
20 スプライン嵌合
23 油圧ローダ
24 第1シリンダハウジング
24b 側壁
25 第1ピストン
26 第2ピストン
27 第1油室
28 第2油室
E エンジン(駆動源)
U 電子制御ユニット(制御手段)
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
第1の実施の形態
図1〜図3に示すように、自動車用のトロイダル型無段変速機Tは、エンジンEのクランクシャフト11にダンパー12を介して接続されたインプットシャフト13を備えており、インプットシャフト13上に実質的に同一構造の第1無段変速機構14Fおよび第2無段変速機構14Rが支持される。第1無段変速機構14Fは、インプットシャフト13に固定された概略コーン状の入力ディスク15と、インプットシャフト13に相対回転自在かつ軸方向摺動自在に支持された概略コーン状の出力ディスク16と、インプットシャフト13を挟むように配置された一対のトラニオン17,17と、トラニオン17に一端を回転自在に支持された一対のクランク状のピボットシャフト18,18と、ピボットシャフト18,18の他端に回転自在に支持されて入力ディスク15および出力ディスク16に当接可能な一対のパワーローラ19,19とを備える。
入力ディスク15および出力ディスク16の対向面はトロイダル曲面から構成されており、一対のトラニオン17,17がトラニオン軸21,21に沿って相互に逆方向に移動すると、一対のパワーローラ19,19がトラニオン軸21,21まわりに傾転し、入力ディスク15および出力ディスク16に対するパワーローラ19,19の当接点が変化する。
第2無段変速機構14Rは、ドライブギヤ22を挟んで前記第1無段変速機構14Fと実質的に面対称に配置されており、第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16およびドライブギヤ22は一体に形成される。但し、第1無段変速機構14Fの入力ディスク15がインプットシャフト13に固着されるのに対し、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15はインプットシャフト13に対して軸方向移動可能に支持され、油圧ローダ23により軸方向に付勢される。
第1無段変速機構14Fの入力ディスク15および第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16は、径方向内側部分の軸方向の肉厚が大きいため、パワーローラ19…から軸方向の荷重を受けたときに比較的に変形し難いが、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15は径方向内側から径方向外側に向かって軸方向の肉厚が略一定であるため、パワーローラ19,19から軸方向の荷重を受けたときに比較的に変形し易くなる。
油圧ローダ23は、インプットシャフト13に固定された第1シリンダハウジング24と、外周および内周をそれぞれ第1シリンダハウジング24の周壁24aの内周面およびインプットシャフト13の外周面に摺動自在に支持された第1ピストン25と、入力ディスク15から軸方向に突出して第1ピストン25に当接する第2シリンダハウジング15aと、外周面を第2シリンダハウジング15aの内周面に摺動自在に支持されて内周面をインプットシャフト13に固定された第2ピストン26と、第1シリンダハウジング24の側壁24bおよび第1ピストン25間に区画された第1油室27と、入力ディスク15の背面および第2ピストン26間に区画された第2油室28とを備える。
第2無段変速機構14Rの入力ディスク15の外周部は第1シリンダハウジング24の内周面に相対回転不能かつ軸方向摺動可能にスプライン嵌合20しており、これにより入力ディスク15はインプットシャフト13に対して軸方向摺動可能な状態で、インプットシャフト13と一体に回転する。油圧ローダ23で入力ディスク15をパワーローラ19,19に向けて押圧するとき、入力ディスク15がパワーローラ19,19から受ける反力荷重で径方向外端部が軸方向外側に広がろうとするのを、第1シリンダハウジング24および入力ディスク15のスプライン嵌合20により抑制することができる。
第1油室27に供給された油圧が第1ピストン25を第1シリンダハウジング24に対して図中右方向に駆動すると、第1ピストン25が第2シリンダハウジング15aの左端を押圧することで第2無段変速機構14Rの入力ディスク15を右向きに付勢し、かつ第2油室28に供給された油圧が第2ピストン26に対して第2無段変速機構14Rの入力ディスク15を右向きに付勢する。その結果、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15および出力ディスク16間にパワーローラ19,19が挟圧されるとともに、第1無段変速機構14Fの入力ディスク15および出力ディスク16間にパワーローラ19,19が挟圧され、入力ディスク15,15および出力ディスク16,16とパワーローラ19…との間のスリップを抑制する挟圧力を発生させることができる。
このとき、第1油室27の油圧で作動する第1ピストン25は、入力ディスク15の径方向外端側に設けた第2シリンダハウジング15aの左端部だけを押圧するのに対し、第2油室28の油圧は入力ディスク15の背面全体を押圧することになる。
第1無段変速機構14F(あるいは第2無段変速機構14R)は、油圧制御ブロック31,32に設けられた一対の油圧アクチュエータ33,33を備える。各油圧アクチュエータ33は、トラニオン17の下部に一体に形成され、下部支持板29にローラベアリング30,30を介して回転自在かつ上下摺動自在に支持されたピストンロッド34と、油圧制御ブロック31に形成されたシリンダ35と、ピストンロッド34に一体に形成されてシリンダ35に摺動自在に嵌合するピストン36と、ピストン36の上下一側に区画された増速用油室37と、ピストン36の上下他側に区画された減速用油室38とから構成される。
合計4本のトラニオン17…の上端が、各々球面継手39…を介して上部支持板40の四隅に枢支されており、2本のトラニオン17,17が上動して他の2本のトラニオン17,17が下動するときに、その動きが同期するようになっている。
オイルポンプ41が発生する油圧は油圧制御回路42において調圧され、油圧アクチュエータ33…に供給される。増速用油室37に高圧が供給されて減速用油室38に低圧が供給されるとピストン36およびピストンロッド34が上下方向一方に移動し、逆に減速用油室38に高圧が供給されて増速用油室37に低圧が供給されるとピストン36およびピストンロッド34が上下方向他方に移動する。
例えば、第1無段変速機構14Fの一対のトラニオン17,17を油圧アクチュエータ33,33で相互に逆方向に駆動するとパワーローラ19,19が図1の矢印a方向に傾転し、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するため、入力ディスク15の回転が増速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tの変速比が連続的に減少する。一方、パワーローラ19,19が図1の矢印b方向に傾転すると、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するため、入力ディスク15の回転が減速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tの変速比が連続的に増加する。
第2無段変速機構14Rの作用は上述した第1無段変速機構14Fの作用と同一であり、第1、第2無段変速機構14F,14Rは同期して変速作用を行う。従って、エンジンEのクランクシャフト11からインプットシャフト13に入力された駆動力は、トロイダル型変速機構Tの変速比のレンジ内の任意の変速比で無段階に変速され、ドライブギヤ22から出力される。
油圧制御回路42において調圧された油圧は油圧ローダ23にも供給され、パワーローラ19…のスリップ抑制制御に供される。即ち、油圧制御回路42は第1リニアソレノイドバルブ43および第2リニアソレノイドバルブ44を備えており、オイルポンプ41が発生する油圧は、第1リニアソレノイドバルブ43で調圧されて油圧ローダ23の第1油室27に供給されるとともに、第2リニアソレノイドバルブ44で調圧されて油圧ローダ23の第2油室28に供給される。
電子制御ユニットUは、トロイダル型無段変速機Tの変速比および入力トルクに基づいて第1リニアソレノイドバルブ43および第2リニアソレノイドバルブ44が出力する油圧を制御する。トロイダル型無段変速機Tの変速比は、例えば既存のセンサで検出可能な入力回転数および出力回転数から算出することができ、トロイダル型無段変速機Tの入力トルクは、燃料噴射制御ECUとの間の通信により得ることができるので、特別のセンサを追加する必要はない。
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
図4は、入力ディスク15(あるいは出力ディスク16)とパワーローラ19との間で伝達可能なトルクを説明するもので、図4(A)は変速比がLow(あるいはHigh)の状態に対応し、図4(B)は変速比が1の状態に対応する。
入力ディスク15とパワーローラ19との間で伝達可能なトルクは、入力ディスク15およびパワーローラ19の当接点Pとインプットシャフト13の軸線との距離をRとし、前記当接点Pの法線方向の荷重をFcとすると、Fc×R×トラクション係数で表される。ここで、トラクション係数は一定値であると見なすことができる。
入力ディスク15および出力ディスク16間のスリップを回避しながら必要な伝達トルクを得るためには、図4(A)に示す変速比がLowの状態では、図4(B)に示す変速比が1の状態に比べて、前記距離Rが若干小さくなるため、法線方向の荷重Fcを若干大きくする必要がある。しかしながら変速比がLowの状態では、荷重Fcの方向がインプットシャフト13の軸線に対して成す角度が大きくなり、その荷重Fcを得るために油圧ローダ23が発生すべき軸方向の成分Faが大幅に小さくなるため、変速比がLowの状態では、油圧ローダ23が発生する軸方向の成分Faを小さくしても、必要な伝達トルクを得ることができる。
一方、図4(B)に示す変速比が1の状態では、図4(A)に示す変速比がLowの状態に比べて、前記距離Rが若干大きくなるため、法線方向の荷重Fcを若干小さくすることができる。しかしながら変速比が1の状態では、荷重Fcの方向がインプットシャフト13の軸線に対して成す角度が小さくなり、その荷重Fcを得るために油圧ローダ23が発生すべき軸方向の成分Faが大幅に大きくなるため、変速比が1の状態では、油圧ローダ23が発生する軸方向の荷重Faを大きくしないと、必要な伝達トルクを得ることができなくなる。
以上のように、変速比がLowの状態あるいは変速比がHighの状態では、変速比が1の状態に比べて、油圧ローダ23が発生する軸方向の荷重Faを小さくすることができる。図5はトロイダル型無段変速機Tの変速比と油圧ローダ23が発生すべき軸方向の荷重Fa(ローディング圧)との関係を示すもので、変速比が1.0〜1.5の中間領域ではローディング圧が大きくなり、それよりも変速比が大きい領域および小さい領域でローディング圧が小さくなることが分かる。
さて、本実施の形態の油圧ローダ23は、第1油室27および第1ピストン25によるローディング圧と、第2油室28および第2ピストン26によるローディング圧とを発生可能であるが、第1油室27および第1ピストン25によるローディング圧は、第1ピストン25が入力ディスク15の径方向外端に設けた第2シリンダハウジング15aを押圧することで発生するため、入力ディスク15は第2シリンダハウジング15aが設けられた径方向外端に集中的にローディング圧を受けることになり、そのローディング圧による入力ディスク15の変形が大きくなる懸念がある。
一方、第2油室28および第2ピストン26によるローディング圧は、第2油室28の油圧が入力ディスク15の背面を径方向の全域に亙って均等に押圧するため、そのローディング圧による入力ディスク15の変形は比較的に小さく抑えられる。
従って、本実施の形態では、第2油室28および第2ピストン26を優先的に使用して必要なローディング圧を発生させ、そのローディング圧では不足する場合に第1油室27および第1ピストン25を使用して不足分のローディング圧を発生させることで、入力ディスク15の変形を最小限に抑えるようになっている。
図6のマップは、横軸がトロイダル型無段変速機Tの変速比であり、縦軸がトロイダル型無段変速機Tの入力トルクであり、閾値ラインSの下側の第1制御領域Aは第2油室28および第2ピストン26だけでローディング圧を発生させる領域であり、閾値ラインSの上側の第2制御領域Bは第2油室28および第2ピストン26に加えて第1油室27および第1ピストン25でローディング圧を発生させる領域である。閾値ラインSが高変速比側および低変速比側で高くなっているのは、前述したように、高変速比側および低変速比側では小さいローディング圧でパワーローラ19のスリップを抑制することができるため、入力トルクが大きくなっても第2油室28および第2ピストン26が発生するローディング圧だけでスリップを抑制することができるからである。
次に、第1油室27および第2油室28の油圧制御を、図7のフローチャートに基づいて説明する。
先ずステップS1で電子制御ユニットUにトロイダル型無段変速機Tの変速比および入力トルクを読み込ませる。続くステップS2で変速比および入力トルクを図6のマップに適用して、その変速比および入力トルクが第1制御領域Aにあれば、つまり閾値ラインSの下側にあれば、ステップS3で変速比および入力トルクに応じてパワーローラ19のスリップを抑制するために必要な第2油室28の第2油圧を算出する。そしてステップS4で油圧制御回路42の第2リニアソレノイドバルブ44を制御して第2油圧を出力させる。このとき、第1リニアソレノイドバルブ43は全閉状態であって油圧を出力していない。
前記ステップS2で変速比および入力トルクが第2制御領域Bにあれば、つまり閾値ラインSの上側にあれば、ステップS5で第2リニアソレノイドバルブ44を全開状態にして上限油圧を出力させるとともに、ステップS6でパワーローラ19のスリップを抑制するために必要な第1油室27の第1油圧を算出する。そしてステップS7で油圧制御回路42の第1リニアソレノイドバルブ43を制御して第1油圧を出力させることで、第1油室および第2油室の両方の油圧でパワーローラ19のスリップを抑制する。
以上のように、油圧ローダ23の第1油室27および第2油室28の油圧を制御するとき、入力ディスク15を変形させ難い第2油室28に優先的に油圧を供給し、第2油室28の油圧だけではパワーローラ19のスリップを抑制できない場合に、第1油室27に補助的に油圧を供給するので、パワーローラ19のスリップを抑制しながら入力ディスク15の変形を最小限に抑え、変速比制御の精度向上、動力伝達効率の向上、入力ディスク15および出力ディスク16のトロイダル曲面のフレッティング防止、第1ピストン25および第2ピストン26の接触防止等の効果を得ることができる。
車両の走行中にアクセルペダルを急激に踏む込むキックダウン操作が行われたような場合、トロイダル型無段変速機Tの入力トルクが急激に増加してパワーローラ19のスリップが発生する虞はあるが、図6に示すように、キックダウン操作が行われた場合には閾値ラインSを下方に移動させる。その結果、通常時よりも早期に第1油室27の油圧が立ち上がり、第1ピストン25が入力ディスク15を押圧する。
第1ピストン25は入力ディスク15の径方向外端の第2シリンダハウジング15aだけを押圧するので、第1ピストン25の押圧荷重は入力ディスク15の径方向外端が軸方向外側に広がるように変形するのを効果的に阻止することができ、キックダウン操作により入力トルクが急激に増加してもパワーローラ19のスリップを確実に阻止することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態のトロイダル型無段変速機Tはダブルキャビティ型のものであるが、シングルキャビティ型のものであっても良い。
また実施の形態では、第1制御領域Aおよび第2制御領域Bを変速比および入力トルクの二つのパラメータで判定している、何れか一方のパラメータで判定しても良い。
また本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電気モータ等の任意の駆動源であっても良い。
本発明は、入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持されたパワーローラのスリップを油圧ローダが発生する押圧荷重により抑制するトロイダル型無段変速機に関する。
入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持したパワーローラを傾転させることで変速比を無段階に変化させるトロイダル型無段変速機の油圧ローダが、第1油室および第1ピストンと、第2油室および第2ピストンとを備え、第1油室および第2油室に同じ油圧を供給することで入力ディスクを軸方向に押圧してパワーローラのスリップを抑制するものが、下記特許文献1により公知である。
ところで、油圧ローダで入力ディスクを軸方向に押圧したとき、入力ディスクが変形すると変速比の制御精度の低下等の種々の問題が発生するため、パワーローラのスリップを抑制しながら入力ディスクの変形を最小限に抑えることが望ましい。特に、油圧ローダが入力ディスクの背面の特定の位置を局所的に押圧するピストンと、入力ディスクの背面の広い領域を均等に押圧する油室とを備える場合には、それら二つの押圧手段を適切に使い分けないと入力ディスクの変形量を増加させてしまう可能性がある。
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、トロイダル型無段変速機の油圧ローダが発生する荷重でパワーローラのスリップを抑制しながら、前記荷重による入力ディスクの変形を最小限に抑えることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によれば、駆動源に接続された回転軸と、前記回転軸に相対回転不能に支持された入力ディスクと、前記回転軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間に挟持されるパワーローラと、前記入力ディスクを前記出力ディスクに接近する方向に付勢する油圧ローダとを備え、前記油圧ローダは、前記回転軸に固定された第1シリンダハウジングと、第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合して前記入力ディスクの背面に突設した第2シリンダハウジングの軸方向端部に当接する第1ピストンと、前記回転軸に固定されて前記第2シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合する第2ピストンと、前記第1シリンダハウジングの側壁および前記第1ピストン間に区画された第1油室と、前記入力ディスクの背面および前記第2ピストン間に区画された第2油室と、前記第1油室および前記第2油室に供給する油圧を制御する制御手段とを備えるトロイダル型無段変速機であって、前記制御手段は、前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間の変速比と、前記駆動源から前記入力ディスクに入力される入力トルクとの少なくとも一方に基づいて、要求されるローディング圧が小さいときの第1制御状態と要求されるローディング圧が大きいときの第2制御状態とを切り換え、前記第1制御状態では前記第2油室だけに油圧を供給し、前記第2制御状態では前記第1油室および前記第2油室の両方に油圧を供給することを第1の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1の特徴に加えて、前記入力ディスクの外周面は前記第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在にスプライン嵌合することを第2の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1または第2の特徴に加えて、前記第1制御状態および前記第2制御状態は変速比および入力トルクに基づいて切り換えられ、前記第1制御状態が選択される入力トルクは、中間変速比のときよりも高変速比あるいは低変速比のときの方が大きく設定されることを第3の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
また本発明によれば、前記第1〜第3の何れか1つの特徴に加えて、前記第1制御状態および前記第2制御状態を切り換える入力トルクの閾値は、前記駆動源の出力トルクの急増時に減少方向に変更されることを第4の特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
尚、実施の形態のインプットシャフト13は本発明の回転軸に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
本発明の第1の特徴によれば、トロイダル型無段変速機は、駆動源に接続された回転軸と、回転軸に相対回転不能に支持された入力ディスクと、回転軸に相対回転自在に支持された出力ディスクと、トラニオンに傾転自在に支持されて入力ディスクおよび出力ディスク間に挟持されるパワーローラと、入力ディスクを出力ディスクに接近する方向に付勢する油圧ローダとを備える。油圧ローダは、回転軸に固定された第1シリンダハウジングと、第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合して入力ディスクの背面に突設した第2シリンダハウジングの軸方向端部に当接する第1ピストンと、回転軸に固定されて第2シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在に嵌合する第2ピストンと、第1シリンダハウジングの側壁および第1ピストン間に区画された第1油室と、入力ディスクの背面および第2ピストン間に区画された第2油室と、第1油室および第2油室に供給する油圧を制御する制御手段とを備えるので、第1油室に供給される油圧で第2シリンダハウジングに当接する第1ピストンを駆動して入力ディスクを軸方向に押圧するとともに、第2ピストンで区画された第2油室に供給される油圧で入力ディスクの背面を軸方向に押圧することで、入力ディスクおよび出力ディスク間にパワーローラを挟圧してスリップの発生を防止することができる。
第1ピストンは入力ディスクの径方向外端部(つまり第2シリンダハウジング)を局所的に押圧するので、入力ディスクを変形させ易いが、第2油室の油圧は入力ディスクの背面の全域を均等に押圧するので、入力ディスクの変形が小さくなる。そこで制御手段により、入力ディスクおよび出力ディスク間の変速比と、駆動源から入力ディスクに入力される入力トルクとの少なくとも一方に基づいて、要求されるローディング圧が小さいときの第1制御状態と要求されるローディング圧が大きいときの第2制御状態とを切り換え、第1制御状態では第2油室だけに油圧を供給し、第2制御状態では第1油室および第2油室の両方に油圧を供給するので、第2油室の油圧で優先的に入力ディスクを押圧し、第2油室の油圧だけでは不足する場合に第1ピストンで補助的に入力ディスクを押圧することで、パワーローラのスリップを抑制しながら入力ディスクの変形を最小限に抑え、変速比制御の精度向上、動力伝達効率の向上、入力ディスクおよび出力ディスクのトロイダル曲面のフレッティング防止、第1ピストンおよび第2ピストンの接触防止等の効果を得ることができる。
また本発明の第2の特徴によれば、入力ディスクの外周面は第1シリンダハウジングの内周面に軸方向摺動自在にスプライン嵌合するので、回転軸に対して入力ディスクを相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支持できるだけでなく、パワーローラから受ける反力荷重で入力ディスクの径方向外端部が軸方向外側に広がろうとするのを、第1シリンダハウジングおよび入力ディスクのスプライン嵌合により抑制することができる。
また本発明の第3の特徴によれば、第1制御状態および第2制御状態は変速比および入力トルクに基づいて切り換えられ、第1制御状態が選択される入力トルクは、中間変速比のときよりも高変速比あるいは低変速比のときの方が大きく設定されるので、油圧ローダの押圧荷重がパワーローラのスリップ抑制に対して効果的に作用する高変速比時あるいは低変速比時に、できるだけ第2油室および第2ピストンを使用して第1油室および第1ピストンの使用を差し控えることで、入力ディスクの変形を一層効果的に防止することができる。
また本発明の第4の特徴によれば、第1制御状態および第2制御状態を切り換える入力トルクの閾値は、駆動源の出力トルクの急増時に減少方向に変更されるので、キックダウン操作等により駆動源の出力トルクが急増したときに早期に第2制御状態に切り換え、入力ディスクの径方向に外側に設けられた第2シリンダハウジングを第1ピストンで押圧することで、入力ディスクの径方向外端部が軸方向外側に広がるように変形するのを防止し、パワーローラのスリップを一層確実に抑制することができる。
図1はトロイダル型無段変速機のスケルトン図である。(第1の実施の形態)
図2は図1の要部拡大図である。(第1の実施の形態)
図3は図2の3−3線断面図である。(第1の実施の形態)
図4は油圧ローダの必要発生荷重の説明図である。(第1の実施の形態)
図5は油圧ローダのローディング圧と変速比との関係を示すグラフである。(第1の実施の形態)
図6は変速比および入力トルクから油圧ローダの制御領域を検索するマップである。(第1の実施の形態)
図7は油圧ローダの油圧制御のフローチャートである。(第1の実施の形態)
13 インプットシャフト(回転軸)
15 入力ディスク
15a 第2シリンダハウジング
16 出力ディスク
17 トラニオン
19 パワーローラ
20 スプライン嵌合
23 油圧ローダ
24 第1シリンダハウジング
24b 側壁
25 第1ピストン
26 第2ピストン
27 第1油室
28 第2油室
E エンジン(駆動源)
U 電子制御ユニット(制御手段)
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
第1の実施の形態
図1〜図3に示すように、自動車用のトロイダル型無段変速機Tは、エンジンEのクランクシャフト11にダンパー12を介して接続されたインプットシャフト13を備えており、インプットシャフト13上に実質的に同一構造の第1無段変速機構14Fおよび第2無段変速機構14Rが支持される。第1無段変速機構14Fは、インプットシャフト13に固定された概略コーン状の入力ディスク15と、インプットシャフト13に相対回転自在かつ軸方向摺動自在に支持された概略コーン状の出力ディスク16と、インプットシャフト13を挟むように配置された一対のトラニオン17,17と、トラニオン17に一端を回転自在に支持された一対のクランク状のピボットシャフト18,18と、ピボットシャフト18,18の他端に回転自在に支持されて入力ディスク15および出力ディスク16に当接可能な一対のパワーローラ19,19とを備える。
入力ディスク15および出力ディスク16の対向面はトロイダル曲面から構成されており、一対のトラニオン17,17がトラニオン軸21,21に沿って相互に逆方向に移動すると、一対のパワーローラ19,19がトラニオン軸21,21まわりに傾転し、入力ディスク15および出力ディスク16に対するパワーローラ19,19の当接点が変化する。
第2無段変速機構14Rは、ドライブギヤ22を挟んで前記第1無段変速機構14Fと実質的に面対称に配置されており、第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16およびドライブギヤ22は一体に形成される。但し、第1無段変速機構14Fの入力ディスク15がインプットシャフト13に固着されるのに対し、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15はインプットシャフト13に対して軸方向移動可能に支持され、油圧ローダ23により軸方向に付勢される。
第1無段変速機構14Fの入力ディスク15および第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16は、径方向内側部分の軸方向の肉厚が大きいため、パワーローラ19…から軸方向の荷重を受けたときに比較的に変形し難いが、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15は径方向内側から径方向外側に向かって軸方向の肉厚が略一定であるため、パワーローラ19,19から軸方向の荷重を受けたときに比較的に変形し易くなる。
油圧ローダ23は、インプットシャフト13に固定された第1シリンダハウジング24と、外周および内周をそれぞれ第1シリンダハウジング24の周壁24aの内周面およびインプットシャフト13の外周面に摺動自在に支持された第1ピストン25と、入力ディスク15から軸方向に突出して第1ピストン25に当接する第2シリンダハウジング15aと、外周面を第2シリンダハウジング15aの内周面に摺動自在に支持されて内周面をインプットシャフト13に固定された第2ピストン26と、第1シリンダハウジング24の側壁24bおよび第1ピストン25間に区画された第1油室27と、入力ディスク15の背面および第2ピストン26間に区画された第2油室28とを備える。
第2無段変速機構14Rの入力ディスク15の外周部は第1シリンダハウジング24の内周面に相対回転不能かつ軸方向摺動可能にスプライン嵌合20しており、これにより入力ディスク15はインプットシャフト13に対して軸方向摺動可能な状態で、インプットシャフト13と一体に回転する。油圧ローダ23で入力ディスク15をパワーローラ19,19に向けて押圧するとき、入力ディスク15がパワーローラ19,19から受ける反力荷重で径方向外端部が軸方向外側に広がろうとするのを、第1シリンダハウジング24および入力ディスク15のスプライン嵌合20により抑制することができる。
第1油室27に供給された油圧が第1ピストン25を第1シリンダハウジング24に対して図中右方向に駆動すると、第1ピストン25が第2シリンダハウジング15aの左端を押圧することで第2無段変速機構14Rの入力ディスク15を右向きに付勢し、かつ第2油室28に供給された油圧が第2ピストン26に対して第2無段変速機構14Rの入力ディスク15を右向きに付勢する。その結果、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15および出力ディスク16間にパワーローラ19,19が挟圧されるとともに、第1無段変速機構14Fの入力ディスク15および出力ディスク16間にパワーローラ19,19が挟圧され、入力ディスク15,15および出力ディスク16,16とパワーローラ19…との間のスリップを抑制する挟圧力を発生させることができる。
このとき、第1油室27の油圧で作動する第1ピストン25は、入力ディスク15の径方向外端側に設けた第2シリンダハウジング15aの左端部だけを押圧するのに対し、第2油室28の油圧は入力ディスク15の背面全体を押圧することになる。
第1無段変速機構14F(あるいは第2無段変速機構14R)は、油圧制御ブロック31,32に設けられた一対の油圧アクチュエータ33,33を備える。各油圧アクチュエータ33は、トラニオン17の下部に一体に形成され、下部支持板29にローラベアリング30,30を介して回転自在かつ上下摺動自在に支持されたピストンロッド34と、油圧制御ブロック31に形成されたシリンダ35と、ピストンロッド34に一体に形成されてシリンダ35に摺動自在に嵌合するピストン36と、ピストン36の上下一側に区画された増速用油室37と、ピストン36の上下他側に区画された減速用油室38とから構成される。
合計4本のトラニオン17…の上端が、各々球面継手39…を介して上部支持板40の四隅に枢支されており、2本のトラニオン17,17が上動して他の2本のトラニオン17,17が下動するときに、その動きが同期するようになっている。
オイルポンプ41が発生する油圧は油圧制御回路42において調圧され、油圧アクチュエータ33…に供給される。増速用油室37に高圧が供給されて減速用油室38に低圧が供給されるとピストン36およびピストンロッド34が上下方向一方に移動し、逆に減速用油室38に高圧が供給されて増速用油室37に低圧が供給されるとピストン36およびピストンロッド34が上下方向他方に移動する。
例えば、第1無段変速機構14Fの一対のトラニオン17,17を油圧アクチュエータ33,33で相互に逆方向に駆動するとパワーローラ19,19が図1の矢印a方向に傾転し、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するため、入力ディスク15の回転が増速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tの変速比が連続的に減少する。一方、パワーローラ19,19が図1の矢印b方向に傾転すると、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するため、入力ディスク15の回転が減速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tの変速比が連続的に増加する。
第2無段変速機構14Rの作用は上述した第1無段変速機構14Fの作用と同一であり、第1、第2無段変速機構14F,14Rは同期して変速作用を行う。従って、エンジンEのクランクシャフト11からインプットシャフト13に入力された駆動力は、トロイダル型変速機構Tの変速比のレンジ内の任意の変速比で無段階に変速され、ドライブギヤ22から出力される。
油圧制御回路42において調圧された油圧は油圧ローダ23にも供給され、パワーローラ19…のスリップ抑制制御に供される。即ち、油圧制御回路42は第1リニアソレノイドバルブ43および第2リニアソレノイドバルブ44を備えており、オイルポンプ41が発生する油圧は、第1リニアソレノイドバルブ43で調圧されて油圧ローダ23の第1油室27に供給されるとともに、第2リニアソレノイドバルブ44で調圧されて油圧ローダ23の第2油室28に供給される。
電子制御ユニットUは、トロイダル型無段変速機Tの変速比および入力トルクに基づいて第1リニアソレノイドバルブ43および第2リニアソレノイドバルブ44が出力する油圧を制御する。トロイダル型無段変速機Tの変速比は、例えば既存のセンサで検出可能な入力回転数および出力回転数から算出することができ、トロイダル型無段変速機Tの入力トルクは、燃料噴射制御ECUとの間の通信により得ることができるので、特別のセンサを追加する必要はない。
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
図4は、入力ディスク15(あるいは出力ディスク16)とパワーローラ19との間で伝達可能なトルクを説明するもので、図4(A)は変速比がLow(あるいはHigh)の状態に対応し、図4(B)は変速比が1の状態に対応する。
入力ディスク15とパワーローラ19との間で伝達可能なトルクは、入力ディスク15およびパワーローラ19の当接点Pとインプットシャフト13の軸線との距離をRとし、前記当接点Pの法線方向の荷重をFcとすると、Fc×R×トラクション係数で表される。ここで、トラクション係数は一定値であると見なすことができる。
入力ディスク15および出力ディスク16間のスリップを回避しながら必要な伝達トルクを得るためには、図4(A)に示す変速比がLowの状態では、図4(B)に示す変速比が1の状態に比べて、前記距離Rが若干小さくなるため、法線方向の荷重Fcを若干大きくする必要がある。しかしながら変速比がLowの状態では、荷重Fcの方向がインプットシャフト13の軸線に対して成す角度が大きくなり、その荷重Fcを得るために油圧ローダ23が発生すべき軸方向の成分Faが大幅に小さくなるため、変速比がLowの状態では、油圧ローダ23が発生する軸方向の成分Faを小さくしても、必要な伝達トルクを得ることができる。
一方、図4(B)に示す変速比が1の状態では、図4(A)に示す変速比がLowの状態に比べて、前記距離Rが若干大きくなるため、法線方向の荷重Fcを若干小さくすることができる。しかしながら変速比が1の状態では、荷重Fcの方向がインプットシャフト13の軸線に対して成す角度が小さくなり、その荷重Fcを得るために油圧ローダ23が発生すべき軸方向の成分Faが大幅に大きくなるため、変速比が1の状態では、油圧ローダ23が発生する軸方向の荷重Faを大きくしないと、必要な伝達トルクを得ることができなくなる。
以上のように、変速比がLowの状態あるいは変速比がHighの状態では、変速比が1の状態に比べて、油圧ローダ23が発生する軸方向の荷重Faを小さくすることができる。図5はトロイダル型無段変速機Tの変速比と油圧ローダ23が発生すべき軸方向の荷重Fa(ローディング圧)との関係を示すもので、変速比が1.0〜1.5の中間領域ではローディング圧が大きくなり、それよりも変速比が大きい領域および小さい領域でローディング圧が小さくなることが分かる。
さて、本実施の形態の油圧ローダ23は、第1油室27および第1ピストン25によるローディング圧と、第2油室28および第2ピストン26によるローディング圧とを発生可能であるが、第1油室27および第1ピストン25によるローディング圧は、第1ピストン25が入力ディスク15の径方向外端に設けた第2シリンダハウジング15aを押圧することで発生するため、入力ディスク15は第2シリンダハウジング15aが設けられた径方向外端に集中的にローディング圧を受けることになり、そのローディング圧による入力ディスク15の変形が大きくなる懸念がある。
一方、第2油室28および第2ピストン26によるローディング圧は、第2油室28の油圧が入力ディスク15の背面を径方向の全域に亙って均等に押圧するため、そのローディング圧による入力ディスク15の変形は比較的に小さく抑えられる。
従って、本実施の形態では、第2油室28および第2ピストン26を優先的に使用して必要なローディング圧を発生させ、そのローディング圧では不足する場合に第1油室27および第1ピストン25を使用して不足分のローディング圧を発生させることで、入力ディスク15の変形を最小限に抑えるようになっている。
図6のマップは、横軸がトロイダル型無段変速機Tの変速比であり、縦軸がトロイダル型無段変速機Tの入力トルクであり、閾値ラインSの下側の第1制御領域Aは第2油室28および第2ピストン26だけでローディング圧を発生させる領域であり、閾値ラインSの上側の第2制御領域Bは第2油室28および第2ピストン26に加えて第1油室27および第1ピストン25でローディング圧を発生させる領域である。閾値ラインSが高変速比側および低変速比側で高くなっているのは、前述したように、高変速比側および低変速比側では小さいローディング圧でパワーローラ19のスリップを抑制することができるため、入力トルクが大きくなっても第2油室28および第2ピストン26が発生するローディング圧だけでスリップを抑制することができるからである。
次に、第1油室27および第2油室28の油圧制御を、図7のフローチャートに基づいて説明する。
先ずステップS1で電子制御ユニットUにトロイダル型無段変速機Tの変速比および入力トルクを読み込ませる。続くステップS2で変速比および入力トルクを図6のマップに適用して、その変速比および入力トルクが第1制御領域Aにあれば、つまり閾値ラインSの下側にあれば、ステップS3で変速比および入力トルクに応じてパワーローラ19のスリップを抑制するために必要な第2油室28の第2油圧を算出する。そしてステップS4で油圧制御回路42の第2リニアソレノイドバルブ44を制御して第2油圧を出力させる。このとき、第1リニアソレノイドバルブ43は全閉状態であって油圧を出力していない。
前記ステップS2で変速比および入力トルクが第2制御領域Bにあれば、つまり閾値ラインSの上側にあれば、ステップS5で第2リニアソレノイドバルブ44を全開状態にして上限油圧を出力させるとともに、ステップS6でパワーローラ19のスリップを抑制するために必要な第1油室27の第1油圧を算出する。そしてステップS7で油圧制御回路42の第1リニアソレノイドバルブ43を制御して第1油圧を出力させることで、第1油室および第2油室の両方の油圧でパワーローラ19のスリップを抑制する。
以上のように、油圧ローダ23の第1油室27および第2油室28の油圧を制御するとき、入力ディスク15を変形させ難い第2油室28に優先的に油圧を供給し、第2油室28の油圧だけではパワーローラ19のスリップを抑制できない場合に、第1油室27に補助的に油圧を供給するので、パワーローラ19のスリップを抑制しながら入力ディスク15の変形を最小限に抑え、変速比制御の精度向上、動力伝達効率の向上、入力ディスク15および出力ディスク16のトロイダル曲面のフレッティング防止、第1ピストン25および第2ピストン26の接触防止等の効果を得ることができる。
車両の走行中にアクセルペダルを急激に踏む込むキックダウン操作が行われたような場合、トロイダル型無段変速機Tの入力トルクが急激に増加してパワーローラ19のスリップが発生する虞はあるが、図6に示すように、キックダウン操作が行われた場合には閾値ラインSを下方に移動させる。その結果、通常時よりも早期に第1油室27の油圧が立ち上がり、第1ピストン25が入力ディスク15を押圧する。
第1ピストン25は入力ディスク15の径方向外端の第2シリンダハウジング15aだけを押圧するので、第1ピストン25の押圧荷重は入力ディスク15の径方向外端が軸方向外側に広がるように変形するのを効果的に阻止することができ、キックダウン操作により入力トルクが急激に増加してもパワーローラ19のスリップを確実に阻止することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態のトロイダル型無段変速機Tはダブルキャビティ型のものであるが、シングルキャビティ型のものであっても良い。
また実施の形態では、第1制御領域Aおよび第2制御領域Bを変速比および入力トルクの二つのパラメータで判定している、何れか一方のパラメータで判定しても良い。
また本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電気モータ等の任意の駆動源であっても良い。