JPWO2013187207A1 - パワーモジュールの劣化検知装置 - Google Patents

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Abstract

半導体チップ(100)を内蔵したパワーモジュールの劣化を検知する装置であって、半導体チップ(100)の温度を検出して得られる温度信号(S1)に含まれる交流信号と半導体チップ(100)の電力損失を検出して得られる電力損失信号(S3)に含まれる交流成分との間の伝達特性に基づいて劣化検知処理を行う劣化検知処理部(10)を備え、他の発熱源の温度干渉の影響を排除して確実にパワーモジュールの劣化度を検知する。

Description

この発明は、半導体チップを集積して電力変換動作を行うパワーモジュールの劣化度合いを検知するパワーモジュールの劣化検知装置に関するものである。
交流モータの駆動用インバータや、太陽光発電用のパワーコンディショナなどの各種のパワーモジュールは、半導体チップを集積して電力変換動作を実施できるよう構成された電気部品である。半導体チップは、SiやSiC、GaNなどの素材を微細加工してIGBTやMOSFETなどの回路素子として作成されたものであり、電気的にはスイッチ動作により電力変換動作を行うものである。
このようなパワーモジュールは、上記の半導体チップのみならず、ケース、封止ゲル、電気配線、絶縁基板、ベースプレートが一体化されている。さらに、パワーモジュールの種類によっては、ゲートドライバ回路や、過熱、過電流を防ぐための保護回路までもが一体化されており、パワーモジュールを用いた製品の設計、製造を行うユーザの利便性が図られている。
パワーモジュールは、比較的大きな電力を取り扱うため、電力損失に伴うパワーモジュール内部の温度変化が著しい。そのため、パワーモジュールを構成する各部材はこの温度変化に応じて伸縮するが、各部材の材質によってその伸縮の度合いが異なる。このため、部材間で大きな応力が発生することとなり、部材に熱的な疲労をもたらす。
特に、半導体チップの直下のハンダは、熱的な疲労に起因して生じるクラック(割れ)の進展によって破壊が発生しやすい。この半導体チップ下部のハンダのクラックによる故障で決定されるパワーモジュール寿命は、いわゆるパワーサイクル寿命と称され、パワーモジュールの主要な故障モードの一つとして知られている。なお、ここでは以降、半導体チップ下部のハンダのクラックの進展を「劣化」と称することとする。
パワーモジュールのこのような突然の故障は、それを適用する設備や装置の停止につながるため、経済的な損失等をもたらす。このため、パワーモジュールの故障あるいは劣化度を予め調べて寿命を推定、あるいは予測する試みが従来よりなされている(例えば、下記の特許文献1参照)。
すなわち、半導体チップに発生する電力損失は、熱に変化して下部のベースプレートに向かって移動していく。熱抵抗は熱の移動しにくさの目安であり、半導体チップの下部のハンダのクラックが進展すると、ハンダ中の熱の経路が寸断されて熱抵抗が上昇する。したがって、同じ電力損失に対して温度上昇が顕著なほど熱抵抗が大きく、クラックの進展を判断することができる。
そこで、特許文献1の従来技術では、この現象に着目して、半導体チップの設置場所の温度を温度センサで検出するとともに、当該半導体チップの電力損失を求め、その電力損失と、検出した温度上昇率とから熱抵抗の上昇率を求めることで、パワーモジュールの故障あるいは劣化検知を行う。
特許第3668708号
このように、特許文献1記載の従来技術では、主に温度センサで得られる温度信号を活用してパワーモジュールの故障あるいは劣化検知を行っているが、実際のパワーモジュールは、内部に複数の半導体チップを内蔵しており、それらは当然ながら個々に発熱源となる。また、電気配線等からも熱が発生し、これらも発熱源となる。したがって、温度センサが配置された温度測定箇所には、複数の半導体チップや電気配線を発熱源とした熱が同時に到達する。
このため、ある特定の半導体チップ下部のハンダクラックの進展に伴う熱抵抗の変化の検出を目的として温度測定を実施しても、この測定温度には、他の発熱源からの温度情報も同時に含まれることとなり、温度干渉の影響によって正確な熱抵抗計算ができないという問題がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、パワーモジュール内の半導体チップを始めとする他の発熱部品からの温度干渉の影響を排除して簡易な手順でパワーモジュールの劣化を確実に検知できる劣化検知装置を提供することを目的としている。
この発明に係るパワーモジュールの劣化検知装置は、半導体チップを内蔵したパワーモジュールの劣化を検知する装置であって、上記半導体チップの温度を検出して得られる温度信号に含まれる交流信号と上記半導体チップの電力損失を検出して得られる電力損失信号に含まれる交流成分との間の伝達特性に基づいて劣化検知処理を行う劣化検知処理部を備える。
この発明のパワーモジュールの劣化検知装置によれば、熱抵抗等の情報を含む半導体チップの電力損失−温度間の伝達特性の抽出を、温度信号の交流成分と電力損失信号の交流成分に基づいて実施することで、他の発熱源からの温度干渉の影響を排除して高精度に熱抵抗情報の抽出を行うことができるため、パワーモジュールの劣化検知精度を向上させることが可能となる。
パワーモジュールの一例を示すもので、図1(A)は3相・2レベルインバータの回路図、図1(B)は図1(A)の回路図に対応した半導体チップのレイアウトを示す平面図である。 図1のパワーモジュールにおいて複数の半導体チップを含む周辺の構造を示す縦断面図である。 この発明の実施の形態1におけるパワーモジュールの劣化検知装置が備える劣化検知処理部のブロック構成図である。 この発明の実施の形態1の劣化検知装置におけるパワーモジュールの劣化検知の原理説明図である。 この発明の実施の形態1の劣化検知装置の劣化検知動作の説明図である。 この発明の実施の形態1の劣化検知装置の劣化判定部による劣化判定処理動作の説明図である。 図1に示したパワーモジュールを用いてモータなどの3相交流負荷を駆動する場合の相電流、スイッチング素子の電力損失、および温度の各波形を示す図である。 図1に示したパワーモジュールを用いてモータなどの3相交流負荷を駆動する場合のスイッチング素子の温度信号の周波数解析結果を示す図である。 図3に示した構成の劣化検知処理部をパワーモジュールに実装した場合の一例を示す構成図である。 この発明の実施の形態2のパワーモジュールの劣化検知装置における劣化検知の原理説明図である。 この発明の実施の形態2のパワーモジュールの劣化検知装置における劣化検知の原理説明図である。 この発明の実施の形態3におけるパワーモジュールの劣化検知装置が備える劣化検知処理部のブロック構成図である。 図1に示したパワーモジュールを用いてモータなどの3相交流負荷を駆動する場合の電流周波数、相電流、スイッチング素子の温度、および判定用信号の各波形を示す図である。 この発明の実施の形態3におけるパワーモジュールの劣化検知装置における劣化検知処理部の変形例を示すブロック構成図である。 半導体チップに通電用のワイヤが接続された状態を示す平面図である。 ワイヤの接続部近傍の温度分布を示す説明図である。 この発明の実施の形態5におけるパワーモジュールの劣化検知装置の劣化判定部による劣化判定処理動作の説明図である。
実施の形態1.
図1は劣化検知対象となるパワーモジュールの一例を示す図である。図1(A)は3相・2レベルインバータの構成をもつパワーモジュールの回路図を、図1(B)は図1(B)のパワーモジュールを構成する半導体チップのレイアウトの平面図をそれぞれ示している。この3相・2レベルインバータは、スイッチング素子Qup〜Qwnが6個、電流還流用のダイオードDup〜Dwnが6個それぞれ用いられている。したがって、合計12個の半導体チップ100からなる各素子Qup〜Qwn、Dup〜Dwnがケース116の内部に集約して配置された構造となっている。
図2は、例えば図1のパワーモジュールにおいて、スイッチング素子QupとダイオードDupの2つの半導体チップ100を含む周辺の構造を示す縦断面図である。
半導体チップ100の近傍は、部材接続用のハンダ101、102、電流を流す銅パターン105、106、電気的絶縁を担う絶縁基板110、放熱や部材保持のためのベースプレート112等が積層されている。なお、図2には、製品化されている多くのパワーモジュールでは付属していない、パワーモジュールに接続するヒートシンク114と接触熱抵抗低減用のグリス113も併せて記載している。また、ワイヤボンディング等の電気配線やケース・ゲル等は図示省略している。
前述したように、ある特定の半導体チップ下部のハンダクラックの進展に伴う熱抵抗の変化の検出を目的として温度測定を実施しても、この測定温度には、他の発熱源からの温度情報も同時に含まれることとなる。そのため、温度干渉の影響によって正確な熱抵抗計算ができない。
例えば、図2に示す場合、図中左側の半導体チップ100(スイッチング素子Qup)の近傍の熱抵抗の計算のため、その温度センサ1で温度を検出する場合、図中右側の半導体チップ100(ダイオードDup)からの熱が到達して、これが半導体チップ100(スイッチング素子Qup)の温度として計測される。そのため、半導体チップ100(スイッチング素子Qup)近傍における熱抵抗、すなわち電力損失とそれに伴う温度変化の比の計算精度が低下し、劣化検知精度が低下する。
そこで、この発明に係る劣化検知装置は、パワーモジュール内部の半導体チップを始めとする他の発熱部品からの温度干渉の影響を排除して簡易な手順でパワーモジュールの劣化を確実に検知できるようにしたものである。以下、この実施の形態1における具体的な劣化検知装置の構成、原理、および作用効果について説明する。
図3はこの発明の実施の形態1におけるパワーモジュールの劣化検知装置が備える劣化検知処理部のブロック構成図である。
この実施の形態1のパワーモジュールの劣化検知装置は、パワーモジュールの劣化検知処理を行う劣化検知処理部10を備える。この劣化検知処理部10は、温度検出部1、電力損失検出部3、温度信号解析部5、電力損失信号解析部6、および劣化判定部9を有する。
ここに、温度検出部1は、図2に示したように、劣化検知対象となる半導体チップ100に設置されて当該半導体チップ100の温度を検出して温度信号S1を出力する。この温度検出部1としては、熱電対やサーミスタなどの温度センサを用いることができる。ただし、温度センサに限らず、例えばダイオードが一定電流で動作するときの電圧降下が温度に比例することを利用し、半導体チップ100の製造のプロセスの過程でダイオードを作り込んで定電流回路を接続し、そのダイオード電圧を検出してもよい。ここでは温度信号S1の交流成分を活用するため、温度検出部1の検出応答特性は高い方が良い。なお、ここでは便宜上、これらの温度検出部1を以下単に温度センサと称する。
電力損失検出部3は、半導体チップ100に流れる電流や半導体チップ100に対するスイッチング指令などから電力損失を計算して電力損失信号S3を出力する。この電力損失には、スイッチング損失や導通損失が含まれており、これらの基本的なデータは電流に対するテーブルの形式でパワーモジュールメーカより提供されることが多く、これらの値を用いて計算を行う。なお、具体的な計算方式はパワーモジュールメーカが提供するアプリケーションノートや初学者向けテキストなどに記載されている公知の方法を適用すればよく、この実施の形態1では詳細な説明は割愛する。また、電力損失は、半導体チップ100における電圧降下を測定して電流信号との積により計算してもよい。
温度検出部1からの温度信号S1は温度信号解析部5に入力され、電力損失検出部3からの電力損失信号S3は電力損失信号解析部6に入力される。各解析部5、6において各信号S1、S3に含まれる周波数成分の計算を行って、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6をそれぞれ出力する。劣化判定部9は、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6とに基づいてパワーモジュールの劣化判定を行って判定信号S9を出力する。
次に、この発明の原理について詳細に説明する。
一般的に、非定常熱伝導現象では、電力損失つまり発生する熱流束が交流成分を含む場合、それによる温度変化も同一の周波数を含む。また、熱の拡散長という指標の考え方に基づけば、発生する熱流束の周波数が高いほど、熱流束に対して所定の応答で追従して温度変化が発生する領域が狭くなるという現象が発生する。すなわち、周波数が一定ならば熱流束の流入箇所(電力損失の発生箇所)に近いほど、熱流束に応じた温度変化が顕著となる。また、熱流束の流入箇所からある一定の距離の場所では、熱流束の周波数が低いほど熱流束に応じた温度変化が顕著となる。
この傾向の単純な例として、1次元の非定常熱伝導の場合を下記に示す。(1)式は非定常熱伝導方程式である。ここでは温度をT、距離をx、時間をtとして、x≧0で定義される単一材料の半無限長物体を想定している。境界条件としてx=0の地点に時間tに応じて変化する熱流束q(t)が入力され、(2)式はこの熱流束の条件を示している。
Figure 2013187207
Figure 2013187207
上記の(1)式と(2)式を合わせて解くと次の(3)式が得られる。ここに、kは熱伝導率、Cpは物体の熱容量、ρは物体の密度、sはラプラス変数である。(3)式は、半無限長物体の各ポイント(距離x)での温度を示す式であり、距離xと時間tの関数となるものであるが、ラプラス変換によって距離Xとラプラス変数sの2変数の式となる。(3)式の左辺で与えられるゲイン(温度変化率)は、右辺に示すように、熱流束qを入力、温度Tを出力とする伝達関数となる。
Figure 2013187207
図4(A)は横軸を熱流束の周波数、縦軸を(3)式のゲインとしたボード線図の計算結果の一例である。熱流束の周波数が同じならば、熱流束が入力されるx=0の地点からの距離が遠ざかるほどゲイン(温度変化率)が低下していく。すなわち、熱流束の入力地点からの距離をL1(実線)、L2(破線)、L3(点線)(ただしL1<L2<L3)としたとき、熱流束の周波数が同じならば、距離が遠ざかるほどゲイン(温度変化率)が低下する。また、距離が同じならば熱流束の周波数が高くなるほどゲインが低下していく結果となる。なお、図4(B)は横軸を熱流束の周波数、縦軸を電力損失信号S3に対する温度信号S1の位相差としたボード線図の計算結果の一例であり、図4(A)と同様な傾向が見られる。
以上は非常に単純な構造での解析であり、また、熱の拡散長は単一の材質に対し定義される指標であるが、図2に示したように、複数の材質で構成される場合でも、前記の電力損失信号S3の周波数と距離やゲイン(温度変化率)の関係は同様の傾向となる。この発明では、このことを利用して、電力損失信号S3の交流成分と温度信号S1の交流成分との間の伝達特性、すなわち、電力損失信号S3の交流成分に対して温度信号S1の交流成分の振幅比を計算することで熱抵抗情報の抽出を行う。
一般的なパワーモジュールは、半導体チップ100の近傍にはその半導体チップ100以外に顕著に発熱する部材はない。そのため、前記の適切な周波数成分に着目すると、検知対象の半導体チップ100の電力損失のみによる温度変化を、検知対象の半導体チップ100に設けられた温度センサ1により取得することができる。その結果として、パワーモジュール内部の他の半導体チップ100間の温度干渉の影響をキャンセルできる。逆に、特定の半導体チップ100からの熱による温度成分は、その半導体チップ100から距離が離れるのに従って減衰していくので、他の半導体チップ100における温度センサ1の情報に影響を与えることがなくなるとも言える。このため、交流成分を利用することにより、パワーモジュール内部の半導体チップ100間の温度干渉の影響をキャンセルすることができる。このため、熱抵抗の計算精度が向上し、高精度な劣化検知が可能となる。
ここで、前記の熱抵抗の計算に適した電力損失信号S3の周波数には、上限と下限が存在する。以下、この点について図5を参照して説明する。
図5は図2に示した左側の半導体チップ100の近傍の構造を拡大して示す劣化検知動作の説明図である。ヒートシンク114の下部の温度を周囲温度Tairとすると、温度センサ1で取得できる温度Tsenは、次の(4)式に示すように各部材での温度差の和となる。
Figure 2013187207
したがって、半導体チップ100に隣接するハンダ101の劣化に伴う熱抵抗上昇により温度変化が顕著になった場合に、ΔT2の変化が顕著となり、Tsenにその兆候が含まれて検知できることとなる。電力損失は主に最上部の半導体チップ100において発生し、その電力損失に対し所定の応答にて温度変化が発生する領域は、前述したように、電力損失信号S3の周波数が高くなるほど狭くなる。つまり、電力損失の発生元である半導体チップ100に近くなっていく。熱抵抗による劣化検知においては、劣化検知の対象となるハンダ101の領域で電力損失に応じた十分な大きさの温度変化を生じさせる必要がある。
すなわち、図5に示すように、電力損失信号S3の周波数について、適切な周波数fcよりも高い周波数fa(>fc)をもつ成分を検知すると、十分な温度変化が半導体チップ100の内部のみに留まり、ハンダ101では発生しなくなる。その結果、交流成分に着目したとしても、劣化に伴う熱抵抗情報の変化を検知することは難しくなる。したがって、熱抵抗の計算に適した電力損失信号S3の周波数には上限が存在する。この電力損失信号S3の周波数の上限については、実験によって求めてもよいし、劣化検知対象となる半導体チップ100の近傍の構造における非定常熱伝導方程式に基づく数値解析で求めてもよい。
一方、電力損失信号S3の周波数について、適切な周波数fcよりも低い周波数fb(<fc)をもつ成分を検知すると、半導体チップ100の近傍以外にもある程度温度変化が現れるようになり、パワーモジュール内の半導体チップ100間の温度干渉の影響を受けることになる。したがって、温度干渉の影響を排除する上で、熱抵抗の計算に適した電力損失信号S3の周波数には下限が存在する。この周波数の下限を設定するには、パワーモジュール内部構造や半導体チップ100のレイアウトを決定して各々の配置距離を把握し、非定常熱伝導方程式に基づく数値解析や実機試験等で周波数の下限値を設定する。
この下限値を適切な値に設定すると、温度変化の中の周波数帯域条件を満たす周波数成分には、図2に示したようなグリス113やヒートシンク114の熱抵抗情報を含まないようにすることができる。一般に、パワーモジュールでは、ユーザがヒートシンク114の設計や接続、グリス113の塗布を実施するが、上記のように電力損失信号S3の周波数に対して適切な下限を設定することで、グリス113やヒートシンク114の特性を考慮することなく劣化検知が実施できる。これはユーザでのヒートシンク114の設計データを前もって入手したり、また想定することが困難な汎用パワーモジュールにおいて特に有効である。
このように、電力損失信号S3の交流成分と温度信号S1の交流成分との間の伝達特性に基づいて熱抵抗情報を抽出する際に、適切な周波数帯域(上限および下限の範囲)を設定してその周波数成分を利用することにより、熱抵抗の計算精度が向上し、高精度な劣化検知が可能となる。
なお、劣化検知に用いる周波数の特性を考慮して、複数の周波数成分を用いると、図2や図5に示した半導体チップ100に隣接するハンダ101以外の部材の劣化(熱伝導率の低下)を検知できる。例えば、図5に示すように、周波数がf1の下でハンダ101に関する電力損失信号S3と温度信号S1についての熱抵抗情報を取得し、また、周波数がf2の下でハンダ101とその下方のハンダ102に関する電力損失信号S3と温度信号S1についての熱抵抗情報を取得する。後者の熱抵抗情報には2つのハンダ101、102の熱抵抗情報が共に含まれるため、周波数f1の下で得られた熱抵抗情報と周波数f2の下で得られた熱抵抗情報との差分を計算することで、下方のハンダ102の劣化検知も可能となる。これに限らず複数の周波数を利用することにより、他の部材の劣化を検知することができる。
以上説明した発明の原理に基づき、図3に示す温度信号解析部5および電力損失信号解析部6において温度信号S1と電力損失信号S3に含まれる各周波数成分の解析をそれぞれ実施し、その振幅や位相情報を温度解析信号S5や電力損失解析信号S6として出力する。各周波数成分の解析の具体的な手法としては、フーリエ解析など公知の手法を用いることができる。
劣化判定部9は、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6に基づいて劣化判定を実施して判定信号S9を出力する。すなわち、前記の周波数帯域(上限および下限の範囲)に含まれる周波数成分を取り出し、その電力損失と温度変化の振幅比を計算し、これによって熱抵抗情報を取り出して劣化判定を実施する。なお、周波数帯域内に熱抵抗情報を抽出するための適切な周波数成分が存在しない場合には劣化判定処理を停止する。
劣化判定部9による具体的な劣化判定の仕方としては、例えば図6(A)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6について、複数回サンプリングを行って両信号S5、S6の振幅比(傾き)を計算する。ハンダ101のクラックが進展して熱抵抗が上昇すると、電力損失に対する温度上昇が顕著になるので、劣化が進行すると両信号S5、S6の振幅比(傾き)も大きくなる。このため、その傾きがある閾値k0を超えた場合に劣化有りと判断して判定信号S9を出力する。
あるいは、図6(B)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比と劣化度との関係を予め規定したテーブルを準備しておき、テーブルを参照して振幅比に応じた劣化度を示す判定信号S9を出力するようにしてもよい。パワーモジュールのパワーサイクル寿命における劣化度は、一般的に定義されていないが、例えば、0[%]をパワーモジュールの初期状態、100[%]を完全な劣化状態と定義する。ここで完全な劣化状態とは、クラックにより半導体チップ100下部のハンダ101における通電が不可能になった状態を指す。図6(B)に示すような劣化度を示すテーブルを参照することで、例えばパワーモジュールの使用履歴と比較して残りの寿命を推定することができ、これによって、代替部品の手配を行うなど、最終ユーザの利便を図ることができる。
図6(A)に示した閾値k0や図6(B)に示したテーブルは、非定常熱伝導方程式による数値解析や実機試験により予め求めておいて劣化判定部9に保持しておく。このように、所定の絶対的な判断基準で劣化判定を行うと、パワーモジュールの半導体チップ100ごとに高精度な劣化判定を実施することができる。
なお、以上の説明では熱抵抗の増加に伴う電力損失に対する温度の振幅比の変化について計算を行ったが、熱抵抗の変化に伴って熱時定数も変化するので、電力損失信号S3に対する温度信号S1の位相差の変化によって劣化判定を行ってもよい。この場合、熱抵抗の上昇により電力損失信号S3に対する温度信号S1の位相遅れが広がることとなる。
ところで、パワーモジュール内部の各半導体チップ100とその周辺の構造が互いに類似している場合(例えば、図1に示した3相・2レベルインバータの構成をもつパワーモジュールにおける各スイッチング素子Qup〜Qwnのような場合)、劣化判定部9においては、図6(A)に示した閾値k0などの絶対的な判断基準の代わりに、パワーモジュール内部の各半導体チップ100について上記の振幅比を計算しておき、半導体チップ100間で振幅比の比較を行って劣化検知を実施してもよい。
例えば、図6(C)に示すように、各位置p1、p2、p3、…に配置されている各半導体チップ100について、それぞれ温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比を計算する。そして、各半導体チップ100間で振幅比の比較を行い、平均値から大きく外れた振幅比を示す位置(この例ではp4の位置)にある半導体チップ100は劣化していると判定する。あるいは、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比が最大値となる振幅比を除いた残りの振幅比群で算術平均値と標準偏差とを計算する。そして、それらの値を用いて{(最大値−平均値)/標準偏差}=Maを求め、このMaの値が基準値を超えたときに劣化と判定する。あるいは、振幅比群の中央値(メディアン)とその平均偏差を計算し、{(最大値−中央値)/平均偏差}=Mbを求め、このMbの値が基準値を超えたとき劣化と判定する。また、これらに限らず、各半導体チップ100毎に求めた振幅比のうち、最大値のものが他の振幅比群に対してどれくらい乖離しているかが分かる指標であれば、特に具体的な計算手段としては何でもよい。さらにまた、図6(D)に示すように、上述の{(最大値−平均値)/標準偏差}=Maと劣化度との関係を予め規定したテーブルを準備しておき、テーブルを参照してMaの値に応じた劣化度を示す判定信号S9を出力するようにしてもよい。
図6(C)、(D)に示すように、パワーモジュール内部の半導体チップ100間の相対比較を用いると、図6(A)、(B)のようにして電力損失と温度変化の振幅比の閾値k0や、振幅比と劣化度との関係を示すテーブルなどを予め準備する必要がなくなり、劣化判定部9の設計労力が大幅に低減する。このため、多品種展開を行う汎用パワーモジュールでは、劣化検知可能な品種の拡大が容易に実施できるメリットがある。
以上説明したように、この実施の形態1では、電力損失信号S3の交流成分と温度信号S1の交流成分との間の伝達特性を利用することで半導体チップ100間の温度干渉を排除して、劣化検知精度を向上することができる。なお、この半導体チップ100間の温度干渉に対しては、直流成分を検出することでも温度干渉を排除する処理は実施可能であるが、各半導体チップ100間の熱伝達特性を計算する必要があるため、計算量が膨大になるという欠点があり、また、各半導体チップ100間の熱伝達特性データの取得にも労力を要する。また、図1の半導体チップ100のレイアウトが変更されると、再度、熱伝達特性を取得する必要があり、直流成分を用いるのは得策ではない。これに対して、この発明のように交流成分を用いることで、本質的に温度干渉を排除するための特別な処理が不要となり、劣化検知処理の大幅な簡易化や、その準備労力の低減を図ることができる。
最後に具体的な波形の例について示す。
図7は図1に示した3相・2レベルインバータのパワーモジュールを用いて交流モータなどの3相交流負荷を駆動する場合の各相電流と電力損失の波形の一例である。なお、各相電流の検出箇所は図1(A)の符号pdで示す箇所であり、その極性の取り方については3相・2レベルインバータから負荷への出力を正としている。電力損失は相電流の大きさに応じて変化する。また、相電流の極性によりスイッチング素子Qup〜QvnとダイオードDup〜Dwnを通過する電流が異なるので、電流極性に応じ電力損失波形が変化する。
図7(B)は、P側のスイッチング素子Qup、Qvp、Qwpである各半導体チップ100の電力損失信号S3を示しており、図7(A)に示す相電流が正の場合に主に電力損失を生じる。このため、電力損失信号S3には交流成分が含まれ、特に相電流の周波数と同じ周波数成分を含む。さらに、この電力損失に応じて温度変化が発生するので、図7(C)に示すように温度信号S1にも同じ周波数成分が含まれる。
すなわち、周波数帯域の条件を満たせば、3相交流負荷等を駆動する場合、通常の運転状態で半導体チップ100に関して得られる電力損失信号S3と温度信号S1には共に交流成分が含まれ、これらに基づいて劣化検知処理が実施できる。このため、特別な劣化検知用の運転パターンを必要とせず、パワーモジュールを利用した製品の設計・製造を行うユーザやその製品を使用する最終ユーザに意識させることなく劣化検知が可能となる。
ここでは、U相P側のスイッチング素子Qupである半導体チップ100のハンダ101の部分に劣化が発生して熱伝導率の低下を生じている。そのため、図7(C)に見られるように、温度変化が顕著となり、他の相よりも平均温度が上昇する。
図8(A)はP側のスイッチング素子Qup、Qvp、Qwpである各半導体チップ100の温度信号S1について、温度信号解析部5で周波数解析結果を行った結果を示すものであり、また、図8(B)は図8(A)の符号peで示す箇所の拡大図である。図7に示した例のように、U相P側のスイッチング素子Qupである半導体チップ100のハンダ101の部分に劣化が発生して熱伝導率の低下を生じると、図8(B)に見られるように、電力損失に応じて温度解析信号S5として得られる交流成分の振幅も増加するので、劣化検知が可能となる。
なお、半導体チップ100のスイッチングパターンの影響はあるが、概ね図7に示すように、半導体チップ100に流れる相電流に応じた電力損失が発生するため、電力損失信号S3を用いる代わりに相電流を検出し、この検出信号を用いてもよい。この場合、電力損失の計算が不要となり処理量の低減が実現できる。
また、図7(B)に示す電力損失の波形は、スイッチング素子Qup、Qvp、Qwpと電流還流用のダイオードDup、Dvp、Dwpの各半導体チップ100が共に電流極性に応じて電力損失波形が変化するため正弦波状とはならず、図8(A)に示すように、主に相電流の周波数f0に対して2倍の周波数2・f0の高調波成分を含む。したがって、この高調波成分が前記した周波数帯域の条件を満たせば、この高調波成分と同じ周波数成分を用いて劣化検知を行ってもよい。交流モータなどの3相交流負荷を駆動する場合、速度が可変の場合は相電流の周波数f0も変化する。低速運転時など相電流の周波数f0が劣化検知条件を満たしていなくても、その高調波成分を用いて劣化検知ができる場合があり、劣化検知における制約条件の緩和が実現できる。
図9は図3に示した劣化検知処理部10をパワーモジュールに実装した場合の一例を示す。
このパワーモジュール200は、複数の半導体チップ100を含むインバータ201の部分と、劣化検知処理部10が実装されたロジックIC202の部分とを含んでいる。また、劣化判定部9の出力端子Aを設けている。半導体チップ100の温度は、図示しない温度検出器で検出され、ロジックIC202内の温度検出部1に入力される。また、パワーモジュール200のUVW各相の出力電流は、図示しない電流検出器で検出され、ロジックIC202内の電力損失検出部3が、上記インバータ201に入力されるゲート信号情報を用いて電力損失を検出する。これにより、パワーモジュール200において劣化判定を行うことができる。なお、図9に示した例では、ロジックIC202は、パワーモジュール200に内蔵する構成としているが、これに限らず、パワーモジュール200の外部に接続して劣化判定を行う構成としてもよい。
実施の形態2.
実施の形態1においては、半導体チップ100の上に劣化検知用の温度センサ1を設けているが、必ずしも常に半導体チップ100の上に設ける場合に限らず、図2の破線で示すように、劣化検知対象となる例えば左側の半導体チップ100に隣接して温度センサ1を設置することが必要となる場合もある。
このような場合でも、他の半導体チップ100からの温度干渉を受けないようにするためには、劣化検知対象となる半導体チップ100の極近傍に温度センサ1を設置することは当然必要であるが、さらに、次のようにすれば、劣化検知が可能である。これを図10および図11を用いて説明する。
図10は図2の左側の劣化検知対象となる半導体チップ100近傍における解析結果のボード線図であり、電力損失に基づく熱流束を入力とし、半導体チップ100とハンダ102間における温度変化の和(図5のΔT1〜ΔT6までの和)を出力としたものである。図4の場合と同様、図10(A)は横軸を熱流束の周波数、縦軸を(3)式のゲインとし、また、図10(B)は横軸を熱流束の周波数、縦軸を電力損失信号S3に対する温度信号S1の位相差としている。また、図11は、同様に電力損失に基づく熱流束を入力とし、ハンダ102下部とベースプレート112との間の境界面における熱流束を出力としたものである。図4の場合と同様、図11(A)は横軸を熱流束の周波数、縦軸をゲインとし、また、図11(B)は横軸を熱流束の周波数、縦軸を電力損失信号S3に対する温度信号S1の位相差としている。なお、図10、図11共に、図中、実線で示す曲線がハンダ102の劣化が無い場合を、破線で示す曲線がハンダ102の劣化が有る場合をそれぞれ示している。
図10(A)から分かるように、ハンダ101の劣化により熱伝導率が低下して温度変化が大きくなり、その結果、ゲインが上昇する。また、図11(A)では熱伝導率の低下により熱が伝わりにくくなってゲインが低下する現象が確認できる。したがって、半導体チップ100の極近傍に設置される温度センサ1は、図11の特性の伝達特性を経た電力損失に応じて生じる温度変化が観測される。このため、温度センサ1で測定できる温度の交流成分の振幅は劣化がない場合と比較して小さくなる。これを利用すれば、実施の形態1と同じくパワーモジュールの劣化検知を実施することができる。
ただし、実施の形態1の場合とは異なり、劣化に伴って温度上昇が顕著になるのではなく逆に減少していくので、これに対応する必要がある。例えば、実施の形態1では、図6に示したように、電力損失に対する温度変化の交流成分の振幅比が所定値以上となる場合に劣化と判定していたが、この実施の形態2では、振幅比が所定値以下で劣化と判定する。
以上のように、この実施の形態2では、絶縁などの制約により半導体チップ100の上に温度センサ1が設置できない場合でも、交流成分に着目した劣化検知の原理を利用でき、高精度な劣化検知を実現できる。
実施の形態3.
図12はこの発明の実施の形態3におけるパワーモジュールの劣化検知装置が備える劣化検知処理部のブロック構成図である。
実施の形態1では、電力損失信号S3とそれに伴う温度信号S1の交流成分をフーリエ解析等の公知手法を用いて取り出して両者の振幅比を用いて劣化検知を実施する場合について説明した。この実施の形態3においても、パワーモジュールの劣化検知の原理は、実施の形態1で説明したものと本質的には同じである。ただし、その場合のフーリエ解析の基準となる基底信号はパワーモジュールの負荷電流とする。なお、この実施の形態3の場合は、オンライン、すなわちパワーモジュールの通常使用状態での劣化検知、特に、交流モータなどの3相交流負荷を駆動するパワーモジュールの運転条件が時間に応じて変化する場合の劣化検知に適している。
図12において、11は電流検出部であり、図1(A)で示すように交流モータの駆動用インバータの出力側の位置pdに設けられている。そして、電流検出部11は、交流モータに供給される3相電流(Iu,Iv,Iw)を検出して電流信号S11として出力する。座標変換部13は、この電流信号S11に対して次の(5)式の計算を実施して、互いに90度位相がずれた2相の電流信号Iα、Iβを出力する。
Figure 2013187207
バンドパスフィルタ14は、電流信号Iα、Iβの通過周波数帯域が実施の形態1で説明したような劣化検知に適した周波数帯域に含まれるように設定されており、バンドパスフィルタ14を通過した電流信号Iα、Iβがフーリエ解析のフーリエ係数を求めるための基底信号として利用される。そして、この基底信号Iα、Iβは、後述の各判定用信号計算部16に与えられる。
なお、このバンドパスフィルタ14の動作により、劣化検知に不適な周波数成分は除去されるが、劣化検知に適した周波数成分が存在しない場合は、バンドパスフィルタ14の出力信号Iα、Iβはゼロとなり、後述する振幅比相当の信号計算が自動的に停止する。このため、電流や温度に含まれる周波数を検知して把握する処理を省略できる。
判定用信号計算部16は、温度センサ(温度検出部)1で検出された温度信号S1を入力して判定用信号S25を計算する。この判定用信号計算部16は、劣化検知を行いたい箇所、すなわち温度センサ1の設置箇所に個別に対応して設けられており、バンドパスフィルタ15、乗算器19、20、積分器21、22、およびノルム計算部25を備えている。
バンドパスフィルタ15は、前記の電流信号に対するバンドパスフィルタ14と同一の通過周波数帯域を持ち、温度信号S1に対して周波数帯域を制限して出力する。また、直流成分を除去することにより、後段の積分器21、22の出力である積分信号S21、S22の振動を防止でき、後段の劣化判定処理動作の精度を向上させる働きを持つ。
フーリエ解析におけるフーリエ係数は、対象信号に基底信号を掛けて所定の期間にわたって積分を実施することで得られる。そのため、ここでは温度信号S1に対して基底信号Iα、Iβをそれぞれ乗算器19、20により乗算する。そして、乗算後の信号S17、S18を次段の積分器21、22で積分して積分信号S21、S22として出力する。
次いで、ノルム計算部25は、積分信号S21、S21を入力してノルムの計算を行う。具体的には次の(6)式の計算を実施する。この(6)式の演算結果はフーリエ係数の振幅に相当し、これが判定用信号S25として次段の劣化判定部9に出力される。なお、(6)式において、符号Sig23が積分信号S21に、Sig24が積分信号S22に、Sig26がノルム計算部25から出力される判定用信号S25にそれぞれ対応している。
Figure 2013187207
以上の手順で得た判定用信号S25は、温度信号S1に含まれる交流成分の振幅が大きくなるに従って大きくなる。実施の形態1で説明したように、ハンダ101が劣化すると熱伝導率が低下するので、温度信号S1の交流成分は、同じ電力損失に対してその振幅が増大する。このため、判定用信号S25はハンダ劣化が存在すると、ハンダ劣化が存在しない健全な箇所の判定用信号S25と比較して大きくなり、劣化検知を実施することができる。
具体的な劣化判定部9の動作としては、実施の形態1の図6(C)について説明したパワーモジュール内の半導体チップ100同士での信号比較により実施することができる。その場合、図6(C)において縦軸である温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比(S5/S6)を、判定用信号S25の大きさに置き換えればよい。
図13は、交流モータの加速・減速時の電流周波数(図13(A))、その場合のU相、V相、W相の各相電流波形(図13(B))、P側のスイッチング素子Qup、Qvp、Qwpである各半導体チップ100の温度波形(図13(C))、および各判定用信号計算部16から出力される各相に対応した判定用信号S25の計算結果(図13(D))をそれぞれ対比して示している。そして、ここでは、U相のスイッチング素子Qupの下部のハンダ101に劣化が生じて熱伝導率の低下が発生した状態を示している。
交流モータの電流周波数は、モータ速度に比例するので、交流モータの加減速に応じて周波数も変化する。図13(D)において、符号T1で示す区間では相電流が小さく、温度変化も小さいため、判定用信号S25は殆ど変化しない。また、符号T2で示す区間では、相電流が直流となり、バンドパスフィルタ15によって温度信号S1や基底信号Iα、Iβが阻止されるため、判定用信号S25は殆ど変化しない。その他の区間では判定用信号S25がU・V・W相の各相電流に応じて増加していく。
上記のように、ここではU相のスイッチング素子Qupの下部のハンダ101に劣化が生じて熱伝導率の低下が発生しているので、その結果、図13(D)に示すように、U相における判定用信号S25は、V・W相と比較して大きな値に収束し、劣化検知が可能となる。
以上のように、この実施の形態3においても、劣化検知に不適な条件を省いて判定用信号S25に基づいて劣化判定部9で判定信号S9が得られるため、電流の大きさや周波数が時間によって変化する交流モータを駆動するような場合でも、パワーモジュールの劣化検知を実施することができる。この実施の形態3の特徴により、パワーモジュールの劣化検知をオフラインだけでなく、オンラインでも特に問題なく実施することができる。
なお、判定用信号計算部17の積分器21、22における積分区間であるが、十分に長い期間を取る。例えば図13に示すように、電流の大きさや周波数が変化する場合、電流の位相や運転パターンによっては、判定用信号S25の大小が瞬間的に入れ替わる場合がある。すなわち、半導体チップ100の下部のハンダ劣化がない箇所の判定用信号S25の振幅がハンダ劣化が存在する箇所の判定用信号S25の振幅よりも大きくなる場合がある。そこで、積分区間を長くとることでこのような誤差を解消することができ、高精度な劣化検知を実現できる。例えば、図13(A)に示すように、台形波状の運転パターンが繰り返される場合には、その台形波が少なくとも十〜数十サイクル以上繰り返される区間とする。このように可能な限り積分区間を長く取ることで劣化検知精度を向上させることができる。
なお、図12に示した構成では、劣化検知を行いたい箇所に個別に配置された温度センサ(温度検出部)1によって検出された温度信号S1が判定用信号計算部16に入力されるようにしているが、このような構成に限らず、例えば、図14に示すように、温度信号S1が入力される判定用信号計算部16と、電力損失信号S3が入力される判定用信号計算部17とを共に、劣化検知を行いたい箇所に個別に対応して配置した構成としてもよい。この場合、判定用信号計算部17は、温度信号S1が入力される判定用信号計算部16と同じ構成である。
図14に示した構成の場合、ハンダ劣化により熱伝導率低下が発生すると電力損失に対する温度変化が増加する。そのため、劣化判定部9では、判定用信号計算部16で温度信号S1に基づいて得られる判定用信号S25と、判定用信号計算部17で電力損失信号S3に基づいて得られる判定用信号S26との比を比較することで劣化検知を実施することができる。
具体的な劣化判定部9の動作としては、実施の形態1の図6(A)について説明した温度解析信号S5の振幅(縦軸)と電力損失解析信号S6の振幅(横軸)との比(傾き)を計算して劣化判定を行う場合と同様に、判定用信号計算部16で温度信号S1に基づいて得られる判定用信号S25を縦軸に、判定用信号計算部17で電力損失信号S3に基づいて得られる判定用信号S26を横軸にして、両者S25、S26の比(傾き)を計算してその傾きがある閾値を超えた場合に劣化有りと判断して判定信号S9を出力する。
実施の形態4.
前述の実施の形態1〜3では、半導体チップ100に関する電力損失信号S3と温度信号S1とにパワーモジュールの劣化検知に適した周波数成分が含まれることを前提としている。しかし、これに限らず、半導体チップ100のスイッチング指令の生成に用いるキャリア周波数に対して所定帯域の周波数成分を重畳するキャリア周波数補正部を設け、これによってパワーモジュールのキャリア周波数を制御することにより、電力損失信号S3に対して劣化検知に適した目的の周波数成分を含ませるようにしてもよい。
通常、キャリア周波数は一定値であるが、以下の(7)式に示すように、交流成分を重畳することでスイッチング損失が増減し、半導体チップ100の電力損失信号S3に所定の周波数成分を含ませることができる。
Figure 2013187207
ここに、fcはキャリア周波数、fc_constは基準となる一定キャリア周波数、fAmpはキャリア周波数の増減の大きさ、fが目的となる劣化検知に適した周波数である。
太陽光発電のパワーコンディショナなど、電源系統に同期した一定の周波数で動作するパワーモジュールでは、電流の周波数も電源系統と同じ値で一定となる。この周波数が劣化検知に不適な周波数である場合は、劣化検知ができないが、前記の手順のようにスイッチング損失を増減させることにより、半導体チップ100の電力損失の劣化検知に適した周波数成分を含ませることができるので、劣化検知処理が実現できる。
実施の形態5.
上記の各実施の形態1〜4では、パワーモジュールの劣化検知対象として、半導体チップ100の下部のハンダ劣化を検知するのを目的とした。しかし、実施の形態1で説明した本発明の原理によれば、ハンダ劣化のみを検知対象とする場合に限らず、電流あるいは電力損失に対する温度変化の割合が変化する故障モードならば、半導体チップ100間の温度干渉の影響を受けることなく故障の有無を検知することが可能である。その一例として、この実施の形態5では、半導体チップ100への電気配線となるワイヤボンディングの接続不良を検知する場合について説明する。
図15は半導体チップの平面図であり、一例として半導体チップ100に対して3本のワイヤ118が接続されている。ここでは、各ワイヤ118の各接続部(ボンディング部)をP1、P2、P3とする。また、ここでは中央のワイヤ118の接続部P2の近傍に温度センサ1が設置されているものとする。
実施の形態1において述べたように、温度変化によりハンダに応力が発生して劣化する。ワイヤボンディングでは、このようにハンダ劣化が進展すると、最終的にはワイヤ118が半導体チップ100から外れることとなる。
ここで、半導体チップ100の電流は、この3本のワイヤ118を通して均等に流れるものとする。各ワイヤ118の各接続部P1、P2、P3にハンダ劣化が発生していない場合、図16(A)に示すように、3本のワイヤ118より供給された電流は、ワイヤ118の各接続部P1、P2、P3に近い程電流密度が高いので、電流に伴う電力損失により発熱が顕著になり、各接続部P1、P2、P3から離れる程、温度が次第に低下するような温度分布が生じる。
ここで、例えば図15において、左側のワイヤ118の接続部P1がハンダ劣化によって半導体チップ100から外れると、電流は残りのワイヤ118を流れるようになり、残りのワイヤ118の1本当たりの電流が増加する。このため、図16(B)に示すように、半導体チップ100への同一の電流に対し、温度センサ1により検出される温度変化が顕著となる。また、図15において、温度センサ1近傍の中央のワイヤ118の接続部P2がハンダ劣化によって半導体チップ100から外れると、その接続部P2の発熱が無くなるため、図16(C)に示すように、温度センサ1で検出される温度変化は逆に小さくなる。
このように、ワイヤ118の接続部P1、P2、P3がハンダ劣化により接続不良が生じた場合でも、温度分布に変化が生じるので、実施の形態1等で説明したのと同様な手順によってその故障を検知することができる。
例えば、図15の左側のワイヤ118の接続部P1がハンダ劣化によって半導体チップ100から外れると、図16(B)に示したように、温度センサ1により検出される温度変化が顕著となる。したがって、図17(A)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6について、複数回サンプリングを行って両信号S5、S6の振幅比(傾き)を計算し、その傾きがある閾値k1を超えた場合にワイヤ118の接続部P1が半導体チップ100から外れる故障が生じたと判断する。あるいは、図17(C)に示すように、モジュール内部の各半導体チップ100について温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比を求め、この振幅比の最大値と最小値を除いた平均値を計算し、振幅比の最大値が平均値を大きく上回った場合には、当該振幅比の最大値に該当する箇所でワイヤ118の接続部P1が半導体チップ100から外れる故障が生じたと判断する。
また、図15の中央のワイヤ118の接続部P2がハンダ劣化によって半導体チップ100から外れると、図16(C)に示したように、温度センサ1により検出される温度変化が低下する。したがって、図17(A)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比(傾き)がある閾値k2(<k1)よりも低下した場合にワイヤ118の接続部P2が半導体チップ100から外れる故障が生じたと判断する。あるいは、図17(C)に示すように、モジュール内部の各半導体チップ100について温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比を求めて最大値と最小値を除いた平均値を計算し、振幅比の最小値が平均値から大きく下回った場合には、当該振幅比の最小値に該当する箇所でワイヤ118の接続部P2が半導体チップ100から外れる故障が生じたと判断する。
なお、図17(B)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比と劣化度との関係を予め規定したテーブルを準備しておき、このテーブルを参照して振幅比に応じた劣化度を判定することができる。また、図17(D)に示すように、温度解析信号S5と電力損失解析信号S6の振幅比が最大値となる振幅比を除いた残りの振幅比群により算術平均値と標準偏差とを計算し、それらの値を用いて{(最大値−平均値)/標準偏差}=Maを求めて、このMaの値と劣化度との関係を予め規定したテーブルを準備しておく。そして、このテーブルを参照してMaの値に応じた劣化度を判定する場合も、同様にして、ワイヤ118の接続部P1、P2、P3のハンダ劣化による接続不良を検知することができる。なお、実施の形態1の図6との比較で分かるように、この実施の形態5の劣化検知の判断方法は、半導体チップ100の下部のハンダ劣化を検知する場合にも適用可能である。
以上のように、この実施の形態5では、半導体チップ100の下部のハンダ劣化の検知のみならず、半導体チップ100のワイヤボンディングの不良(ワイヤ外れ)を検知することができ、より正確度が高いパワーモジュールの劣化検知を実現することができる。
なお、この発明は上記の各実施の形態1〜5の構成のみに限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態1〜5を組み合わせたり、各実施の形態1〜5の構成について適宜の変形を加えたり、省略することが可能である。

Claims (8)

  1. 半導体チップを内蔵したパワーモジュールの劣化を検知する装置であって、上記半導体チップの温度を検出して得られる温度信号に含まれる交流信号と上記半導体チップの電力損失を検出して得られる電力損失信号に含まれる交流成分との間の伝達特性に基づいて劣化検知処理を行う劣化検知処理部を備えたパワーモジュールの劣化検知装置。
  2. 上記劣化検知処理部は、上記半導体チップの温度を検出して温度信号を出力する温度検出部と、上記半導体チップの電力損失を検出して電力損失信号を出力する電力損失検出部と、上記温度信号に含まれる各交流信号の周波数成分を解析する温度信号解析部と、上記電力損失信号に含まれる各交流信号の周波数成分を解析する電力損失信号解析部と、上記両解析部で解析された上記温度信号と上記電力損失信号の各交流信号の周波数成分に基づいて上記パワーモジュールの劣化を判定する劣化判定部と、を備えた請求項1に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  3. 上記劣化判定部は、上記温度信号と上記電力損失信号がそれぞれ所定の周波数帯域の交流成分を含む場合にのみ劣化判定を行うものである請求項2に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  4. 上記劣化判定部は、上記温度信号に含まれる交流成分と上記電力損失信号に含まれる交流成分との間の伝達特性を所定の基準値と比較することにより劣化判定を行うものである請求項2または請求項3に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  5. 上記パワーモジュールが上記半導体チップを複数個内蔵されたものである場合、上記劣化判定部は、上記半導体チップ毎に、上記温度信号に含まれる交流成分と上記電力損失信号に含まれる交流成分との間の伝達特性を求め、各半導体チップ間で上記伝達特性を比較することにより劣化判定を行うものである請求項2または請求項3に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  6. 上記劣化検知処理部は、上記半導体チップの温度を検出して温度信号を出力する温度検出部と、上記半導体チップに流れる電流を検出して電流信号を出力する電流検出部と、上記電流検出部で検出された電流信号をフーリエ解析の基準となる基底信号として用いて上記温度検出部で得られた上記温度信号に含まれる各交流信号のフーリエ係数の大きさを求めてこれを判定用信号として出力する判定用信号計算部と、上記判定用信号計算部で得られた判定用信号に基づいて上記パワーモジュールの劣化を判定する劣化判定部と、を備えた請求項1に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  7. 上記判定用信号計算部は、上記電流信号と上記温度信号がそれぞれ所定の周波数帯域の交流成分を含む場合にのみ判定信号を出力するものである請求項6に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
  8. 上記半導体チップへのスイッチング指令の生成に用いるキャリア周波数に、上記所定の周波数帯域の交流成分を重畳するキャリア周波数補正部を設けた請求項3または請求項7に記載のパワーモジュールの劣化検知装置。
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