JPWO2013168616A1 - マスキング材、マスキング材の製造方法、マスキング部材、マスキング方法、および塗装部材の製造方法 - Google Patents

マスキング材、マスキング材の製造方法、マスキング部材、マスキング方法、および塗装部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

耐熱性に優れ、かつ繰り返しの使用が可能なマスキング材として、アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴムおよび磁性体を含有し、前記磁性体の含有量は前記アクリルゴム100質量部に対して10体積部以上80体積部以下であることを特徴とするマスキング材が提供される。かかるマスキング材は、180℃環境下での積算時間が13時間であるときのショアD硬度が10〜40であることが好ましい。上記のマスキング材の製造方法、上記のマスキング材を備えるマスキング部材、ならびに上記のマスキング部材を用いるマスキング方法および塗装部材の製造方法も提供される。

Description

本発明は、塗装時に塗料を付着させたくない場合などに使用されるマスキングするためのマスキング材、そのようなマスキング材の製造方法、そのようなマスキング材を備えるマスキング部材、ならびにそのようなマスキング部材を用いるマスキング方法および塗装部材の製造方法に関する。
従来より、塗装時に塗料を付着させたくない部分をマスキングするためには、一般的にマスキングテープが使用されている。マスキングテープは、テープ基材と、粘着剤層と、剥離紙とから構成され、使用時に剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層の粘着力を利用して被マスキング部に貼付される。そして、塗装後に被マスキング部から剥がされ、破棄される。
このようなマスキングテープでは、剥離紙も塗装後のマスキングテープも破棄対象のゴミとなるため、資源の無駄となっている。また、一度貼付したマスキングテープを剥がして、再度貼り直そうとすると、粘着剤層の粘着力の低下により、貼り直しができない場合や、見切り線がきれいに出ない場合がある。さらに、粘着剤層の粘着力によって貼付するためには、被マスキング部の油分を除去しなければ所望の粘着力が得られないため、脱脂作業を行う必要があり、煩雑である。
これに対し、特許文献1では、磁性粉末を含有するシートをマスキングシートとして使用することを提案している。かかるマスキングシートによれば、磁気力を利用することによって、マスキング作業の省力化を図ることができる。
特開昭61−257259号公報
しかしながら、特許文献1に記載のマスキングシートは、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、塩素化ポリエチレン(CPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化スルホン化ポリエチレン、軟質塩化ビニル等の軟質プラスチックを主樹脂成分としているため、耐熱性が低く、例えば160℃の加熱工程で使用すると、マスキングシートが変形または溶融してしまうという問題がある。特にマスキングシートが溶融した場合には、当該マスキングシートが被マスキング部に融着し、被マスキング部を汚染してしまうことになる。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、耐熱性、すなわち加熱されても変形しにくいこと、に優れ、かつ繰り返しの使用が可能であるマスキング材、そのようなマスキング材の製造方法、そのようなマスキング材を備えるマスキング部材、ならびにそのようなマスキング部材を用いるマスキング方法および塗装部材の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、マスキング材を構成する材料として、アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴムを使用することにより、上記課題を解決することができることが明らかになった。
上記知見に基づき完成された本発明は、第1に、アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴムおよび磁性体を含有し、前記磁性体の含有量は前記アクリルゴム100質量部に対して10体積部以上80体積部以下であることを特徴とするマスキング材を提供する(発明1)。
かかるマスキング材は耐熱性に優れるため、使用中に高温に環境下に置かれても変形、溶融といった問題が生じにくい。また、そのような高温に環境下に長時間置かれても硬度が上昇しにくい(本明細書において「耐熱硬化性に優れる」ともいう。)ため、使用環境が高温であっても、マスキング材と被マスキング部との間に塗料などが使用中に侵入しにくい。それゆえ、上記の発明に係るマスキング材は繰り返しの使用が可能である。
上記発明(発明1)において、180℃環境下での積算時間が13時間であるときのショアD硬度が10〜40であることが好ましい(発明2)。かかるマスキング材は、使用環境が高温であっても、マスキング材と被マスキング部との間に塗料などが使用中に侵入する可能性がさらに低減されている。
上記発明(発明1,2)において、前記アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する重合体を含むことが好ましい(発明3)。
上記発明(発明1から3)において、前記アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する共重合体を含むことが好ましい(発明4)。
前記アクリルゴムが上記発明(発明3,4)に係る共重合体を含有することによって、耐熱硬化性により優れるマスキング材が得られる。
上記発明(発明1から4)において、老化防止剤を含有することが好ましい(発明5)。老化防止剤を含有することにより、耐熱硬化性に優れるマスキング材が得られやすくなる。
上記発明(発明1から5)において、厚み1mmのシート状に成型した際に、ガーレ法により測定した剛軟度が6.0N以下であることが好ましい(発明6)。剛軟度が6.0N以下であることによって、マスキング材を被マスキング部に付着させる際のマスキング材の被マスキング部への追従性を高めることが容易となる。
上記発明(発明1から6)において、破断強度が2MPa以上20MPa以下であることが好ましい(発明7)。破断強度が2MPa以上であることによって、マスキング材の着脱作業時にマスキング材を引き延ばすような力が付与された場合でも、マスキング材に亀裂が入ったり破断したりするなどの問題を生じる可能性を低減することができる。
上記発明(発明1から7)において、厚み1mmのシート状に成型したマスキング材を、20mm/分で延伸したときの破断伸度が50%以上であることが好ましい(発明8)。この破断伸度が50%以上であることによって、マスキング材の着脱作業時にマスキング材を引き延ばすような力が付与された場合でも、マスキング材の破断などの問題を生じる可能性を低減することができる。
上記発明(発明1から8)において、前記マスキング材は被マスキング部に付着した状態で加熱処理が施されるものであって、前記マスキング材に含有される前記磁性体は前記加熱処理における加熱温度よりも高いキュリー温度を有する強磁性体からなることが好ましい(発明9)。磁性体としてこのような材料を用いることによって、使用中に加熱処理が施される場合であってもマスキング材はマスキング機能の劣化が生じにくい。
上記発明(発明9)において、前記加熱処理に先立って、前記被マスキング部材に塗装処理が施されてもよい(発明10)。そのような場合であっても、磁性体が加熱処理における加熱温度よりも高いキュリー温度を有する強磁性体からなることで、マスキング材はマスキング機能の劣化が生じにくい。
本発明は、第2に、上記発明(発明1から10)のいずれかに係るマスキング材を形成するための組成物を成形加工して、前記アミン系架橋剤の架橋反応が進行する前の状態にある成形品を得て、得られた前記成形品を加熱することにより前記成形品に含まれる前記アミン系架橋剤の架橋反応を進行させて、前記アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有する前記アクリルゴムを含有するマスキング材を形成することを特徴とするマスキング材の製造方法を提供する(発明11)。
かかる製造方法を実施することにより、使用中に180℃程度の高温に環境下に置かれても変形、溶融といった問題が生じにくく、耐熱硬化性に優れ、それゆえ繰り返しの使用が可能なマスキング材を得ることができる。
上記発明(発明11)において、前記成形品を加熱する際の加熱温度T(単位:℃)と前記マスキング材を使用する際に前記マスキング材が受ける最高加熱温度T(単位:℃)とは下記式を満たすことが好ましい(発明12)。
>T−30℃
かかる関係を満たすことで、マスキング材が使用中に硬度が上昇してマスキング機能が低下する可能性が特に低減される。
本発明は、第3に、被マスキング部に接するためのマスキング面を少なくとも一つ有するマスキング部材であって、前記マスキング部材は上記発明(発明1から10)のいずれかに係るマスキング材からなることを特徴とするマスキング部材を提供する(発明13)。
本発明は、第4に、被マスキング部に接するためのマスキング面を少なくとも一つ有するマスキング部材であって、前記マスキング部材は上記発明(発明1から10)のいずれかに係るマスキング材を備え、前記マスキング面は前記マスキング材により構成されることを特徴とするマスキング部材を提供する(発明14)。
上記の発明(発明13,14)マスキング部材は、マスキング面を構成する材料が上記発明(発明1から10)のマスキング材であるため、繰り返し使用されても優れたマスキング機能を維持することができる。
本発明は、第5に、上記発明(発明13,14)のいずれかに係るマスキング部材における前記マスキング面を、被マスキング部材の被マスキング部に接触させて、前記マスキング部材を前記被マスキング部材に装着することを特徴とするマスキング方法を提供する(発明15)。
かかるマスキング方法を実施することによって、被マスキング部を適切にマスキングすることが実現される。しかも、そのマスキング部材は繰り返し使用可能なものなので、マスキング方法の実施に係るコストを低減することが可能となる。
本発明は、第6に、上記の発明(発明15)に係るマスキング方法を行うことにより得られた前記マスキング材が装着された前記被マスキング部材からなる被塗装体に前記塗料を付着させ、前記被塗装体に付着した前記塗料から前記被塗装体の表面に塗膜を形成し、前記被塗装体から前記マスキング材を取り外し、前記被マスキング部材の被マスキング部に塗膜が形成されていない部分を有してなる塗装部材を得ることを特徴とする塗装部材の製造方法を提供する(発明16)。
かかる塗装部材の製造方法を実施することによって、被マスキング部材の被マスキング部に塗膜が形成されていない部分を有してなる塗装部材を安定的にかつ経済的に得ることが実現される。
本発明に係るマスキング材は耐熱性に優れるため、使用中に180℃程度の高温に環境下に置かれても変形、溶融といった問題が生じにくい。また、そのような高温に環境下に長時間置かれても硬度が上昇しにくい(耐熱硬化性に優れる)ため、本発明に係るマスキング材は使用環境が高温であっても、マスキング材と被マスキング部との間に塗料などが使用中に侵入しにくい。それゆえ、本発明に係るマスキング材は繰り返しの使用が可能である。
本発明に係るマスキング材の製造方法によれば、上記のようなマスキング材を製造することができる。さらに、上記のようなマスキング材を備えるマスキング部材を用いる本発明に係るマスキング方法によればマスキング材を繰り返し使用することができ、そのようなマスキング方法を工程の一つとして含む塗装部材の製造方法は、非塗装部を含む塗装部材を効率的に製造することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.マスキング材
本発明の一実施形態に係るマスキング材は被マスキング部と接触するマスキング面を備え、アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴムおよび磁性体を含有する。
なお、本実施形態において、「被マスキング部」とはマスキングが施される部分を意味し、被マスキング部を備える部材を「被マスキング部材」という。本実施形態では、被マスキング部材は少なくとも全体として強磁性を示すものであって、磁化された磁性体を被マスキング部に接触させると、磁気力が作用してその磁性体は被マスキング部に付着する。
(1)アクリルゴム
本実施形態において「アクリルゴム」とは、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸アミドに由来する構成単位からなる単独重合体、(メタ)アクリル酸エステルおよび/または(メタ)アクリル酸アミドに由来する構成単位からなる共重合体、ならびに(メタ)アクリル酸エステルおよび/または(メタ)アクリル酸アミドに由来する構成単位と(メタ)アクリル酸エステル以外の化合物(典型的には重合性不飽和結合を有する化合物であり、本実施形態において、「その他の重合性化合物」ともいう。)に由来する構成単位との共重合体からなる群から選ばれる1種または2種以上からなる重合体および/またはその重合体とアミン系架橋剤との架橋反応生成物を含有し、ゴム状弾性体としての機械的性質を有する材料を意味する。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
アクリルゴムを形成するために使用される(メタ)アクリル酸エステルのエステル基の構造は特に限定されず、(メタ)アクリル酸アルキルエステルであってもよいし、アルキル位に官能基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであってもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルについて具体例を示せば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いや入手のしやすさなどの観点から、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルおよびメタアクリル酸メチルが好ましい。
エステル部分が有する官能基として、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、エポキシ基などが例示される。こうした官能基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル等の(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸4−(グリシジルオキシ)ブチル等、アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)メチル等の(メタ)アクリル酸エポキシアルキルが例示される。
一方、(メタ)アクリル酸アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが例示される。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましく、その中でもアクリル酸メトキシエチルが特に好ましい。すなわち、アクリルゴムは、アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する重合体を含むことが好ましい。この場合には、耐熱硬化性に優れるアクリルゴムが得られやすい。また、耐油性が高いアクリルゴムも得られやすい。
アクリルゴムを形成するために使用される(メタ)アクリル酸エステルや(メタ)アクリル酸アミドは、1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。本実施形態に係るアクリルゴムが複数種類の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を有する共重合体に基づく成分を含む場合には、その(メタ)アクリル酸エステルは(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを含むことが好ましい。アクリルゴムが(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する共重合体に基づく成分を含むことにより、アクリルゴムがかかる成分を含む場合には、耐熱性に優れ、かつ耐熱硬化性に優れるアクリルゴムが得られやすい。
アクリルゴムを形成するために使用されるその他の重合性化合物の種類は、(メタ)アクリル酸エステルと重合反応しうる限り、特に限定されない。典型的には前述のように重合性不飽和結合を有する化合物である。そのような化合物として、エチレン、プロピレン、n−ブテン、ノルボルネン、シクロヘキセンなどオレフィン類;スチレンおよびその誘導体などエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などの炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸;フマル酸モノエチル、フマル酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノブチルなどの炭素数3〜11のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステル;酢酸ビニル、アクリロニトリルなど化合物などが挙げられる。なお、その他の重合性化合物のうち、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸は、アクリルゴム中で、ジカルボン酸無水物の形の構成単位として含有され、架橋の際に加水分解してカルボキシル基を生成してもよい。
これらの中でも、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸などのカルボキシル基を有する化合物が、後述するアミン系架橋剤との反応点をなすことができるため好ましい。なお、この化合物におけるカルボキシル基は、上記のとおり酸無水物の形式であってもよい。
アクリルゴムを形成するために他の重合性化合物が使用される場合において、その他の重合性化合物は1種単独であってもよく2種以上であってもよい。
(メタ)アクリル酸エステル、さらに必要に応じ使用されるその他の重合性化合物が複数種類の化合物からなる場合において、それらの化合物に由来する構成単位のアクリルゴム中の比率は任意であり、そのアクリルゴムを含有するマスキング材の用途などを考慮して適宜設定すればよい。例えば、ブチル基のようにアルキル基が嵩高い(メタ)アクリル酸アルキルエステルの比率が多い場合には脆化温度が低いアクリルゴムが得られる傾向があり、カルボキシル基を有するその他の重合性化合物の比率が多い場合には、アミン系架橋剤との架橋反応の程度が高いと、硬質なアクリルゴムが得られる場合がある。
本実施形態に係るアクリルゴムが有する架橋構造を形成するために使用される架橋剤は、アミン系架橋剤を含む。本実施形態において「アミン系架橋剤」とは、2官能以上のアミン系化合物を意味し、少なくとも1個以上の活性水素を有する窒素原子を2個以上有する化合物であれば特に制限はない。本実施形態に係るアクリルゴムは架橋構造を有しているため、本実施形態に係るマスキング材が例えば180℃の高温環境下に曝されても過度に軟化することは防止されている。また、架橋構造がアミン系架橋剤に基づくことにより、他の架橋剤、たとえばイソシアネート系の架橋剤に基づく場合に比べて、本実施形態に係るマスキング材は耐熱硬化性に優れる。このため、繰り返し使用してもマスキング材のマスキング機能が低下しにくい。
アミン系架橋剤としては、例えば、1,4−ブタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、エチレンジアミン、N,N−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサ−2−スピロ[5.5]ウンデカン等の脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン;カルバジン酸、6−アミノヘキシルカルバミド酸、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)カルバミド酸等のアミノカルバミド酸;さらにはこれらのポリアミンやアミノカルバミド酸の塩などが挙げられる。アミン系架橋剤は、1種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。本実施形態に係るアクリルゴムを形成するために使用されるアミン系架橋剤は、耐熱硬化性を向上させる観点からアミノカルバミド酸および/またはその塩を含むことが好ましい。
アクリルゴムを形成するために使用されるアミン系架橋剤の配合量は、通常、アクリルゴムを構成する重合体100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがさらに好ましい。
本実施形態に係るアクリルゴムにおけるアミン系架橋剤に基づく架橋構造の程度(換言すれば、架橋点の存在密度)は特に限定されない。過度に低い場合には耐熱硬化性に優れるアクリルゴムを得ることが困難となることが懸念される。一方、過度に高い場合にはマスキング材に含有される他の成分(特に磁性体)の含有量との関係で、マスキング材が過度に硬質化して変形しにくくなり、被マスキング部の形状にマスキング材が追従できなくなってマスキング機能が低下してしまうことが懸念される。したがって、架橋点の存在密度はマスキングを構成する材料の組成を考慮して、適宜設定されるべきものである。
なお、本実施形態に係るマスキング材に含有されるアクリルゴム内に残留する未架橋のアミン系架橋剤の含有量は可能な限り少ないことが好ましい。かかる未架橋のアミン系架橋剤がマスキング材の使用中に加熱されて架橋反応を生じると、アクリルゴム中の架橋点の存在密度が使用中に増加することとなり、マスキング材のショアD硬度の上昇がもたらされる。この硬度上昇の程度が著しい場合には、マスキング材のマスキング機能の低下をもたらすおそれがある。
なお、架橋剤による架橋反応の反応を促進する観点から、本実施形態に係るアクリルゴムは架橋促進剤を含有することが好ましい。架橋促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、テトラメチルブタンジアミンなどのアミノ化合物、塩化第一スズ、ジメチル二塩化スズ、トリメチルスズヒドロキシド、ジ−n−ブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズスルフィド、塩化第二鉄、鉄アセチルアセテート、ナフテン酸コバルト、硝酸ビスマス、オレイン酸鉛、三塩化アンチモンなどの金属化合物などを用いることができる。
(2)磁性体
本実施形態に係るマスキング材が含有する磁性体を構成する材料としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の金属やそれらの合金(例えばステンレススチール)または酸化物、あるいはストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト等のフェライト系、アルミニウム−ニッケル−コバルト合金のようなアルニコ系、希土類−遷移金属系(例:SmCo系,SmFeN系,NbFeB系)等の希土類系などの強磁性体材料が挙げられる。これらの中でも、磁気力をコントロールすることが容易という観点から、フェライト系が好ましく、中でもストロンチウムフェライトおよびバリウムフェライトがより好ましい。
被マスキング部材にマスキング材を装着した状態で加熱処理が施されるものである場合には、磁性体は、この加熱処理における加熱温度よりも高いキュリー温度を有する強磁性体からなることが好ましい。このような材料を用いることによって、使用中に加熱処理が施される場合であってもマスキング材はマスキング機能の劣化が生じにくい。
磁性体の形状としては、マスキング材の成形加工のしやすさなどの観点から粉体形状が好ましい。粉体形状の場合、体積平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましく、0.3〜50μmであることがさらに好ましく、0.5〜20μmであることが特に好ましい。なお、ここでいう粉体形状の磁性体の体積平均粒子径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、製品名:レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920)を用いて、JIS K5600−9−3に準拠した測定方法により測定された体積平均粒子径をいう。
本実施形態に係るマスキング材における磁性体の含有量は、アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴム100体積部に対して10体積部以上80体積部以下である。その含有量が過度に多い場合にはマスキング材が硬質化し、逆に過度に低い場合にはマスキング材の被マスキング部への磁気力に基づく付着力が低下し、いずれの場合もマスキング機能の低下をもたらすが、磁性体の含有量を上記の範囲とすることで、付着力の低下を回避することができる。磁性体の含有量をアクリルゴム100体積部に対して15体積部以上70体積部以下とすれば、上記の付着力の低下をより安定的に回避することができるため好ましく、20体積部以上60体積部以下とすればさらに好ましい。
(3)老化防止剤
本実施形態に係るマスキング材は、上記のアクリルゴムおよび磁性体に加えて、老化防止剤を含有してもよい。老化防止剤の種類としては酸化防止効果が高ければ特に限定するものではないが、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体などのアミン−ケトン系老化防止剤;4,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等の芳香族第二級アミン系老化防止剤;2−メルカプトベンツイミダゾールの亜鉛塩や2−メルカプトメチルベンツイミダゾールの亜鉛塩等のベンツイミダゾール系老化防止剤;ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等のジチオカルバミン酸塩系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスフェイト等の亜リン酸系老化防止剤などが挙げられる。老化防止剤は1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。また、老化防止剤は、耐熱性などの観点から、4,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを含有することが好ましい。
老化防止剤の含有量は特に限定されず、その機能やアクリルゴムの組成などを考慮して適宜設定されるべきものである。老化防止剤の含有量は、通常、アクリルゴム100質量部に対して、0.001〜1質量部であることが好ましく、0.01〜0.1質量部であることがさらに好ましい。
(4)その他の成分
本実施形態に係るマスキング材は、その他の成分として分散剤等の添加物をさらに含有していてもよい。また、その他の成分の一つとして、タルクやカオリンのような非磁性材料を硬度調整などの目的で含有してもよい。それらの成分の含有量は特に限定されず、マスキング材のマスキング機能を低下させないように設定すればよい。
(5)ショアD硬度
本実施形態に係るマスキング材は、180℃の環境下に置かれた積算時間が13時間であるときのショアD硬度(本実施形態において「加熱後ショアD硬度」ともいう。)が10〜40であることが好ましい。マスキング材の加熱後ショアD硬度が40以下であることによって、繰り返し使用した場合であっても、被マスキング部へマスキング材を接触させたときに、被マスキング部の形状にマスキング材が追従することが容易となる。この被マスキング部へのマスキング材の追従性を安定的に高める観点から、加熱後ショアD硬度は35以下であることが好ましく、30以下であればさらに好ましい。本実施形態に係るマスキング材は、マスキング材が含有するアクリルゴムがアミン系架橋剤を含有することから、加熱後ショアD硬度が40以下となりやすく、組成を適切に調整すれば30よりも十分に低い値とすることも可能である。一方、マスキング材の加熱後ショアD硬度が10以上であることによって、マスキング材を被マスキング部に付着させる作業性が著しく低下することが回避される。また、加熱後ショアD硬度が10未満の場合にはアクリルゴムの成分によっては被マスキング部にマスキング材が固着して、マスキング材の取り外し作業が困難となることも懸念される。被マスキング部材に対するマスキング材の着脱作業時に問題が発生することを安定的に回避する観点から、マスキング材の加熱後ショアD硬度は12以上であることが好ましく、14以上であることがさらに好ましい。
(6)剛軟度
本実施形態に係るマスキング材は、剛軟度が6.0N以下であることが好ましい。なお、本実施形態において、「剛軟度」とは、マスキング材を厚み1mmのシート状に成型した際に、JIS L1096に規定されるガーレ式試験機を用いて測定された剛軟度、すなわちガーレ法による剛軟度を意味する。剛軟度が6.0N以下であることによって、マスキング材を被マスキング部に付着させる際のマスキング材の被マスキング部への追従性を高めることが容易となる。この追従性をさらに安定的に高める観点から、マスキング材の剛軟度は5.5N以下であることが好ましく、5.0N以下であることがさらに好ましい。マスキング材の剛軟度はその追従性を高める観点からは低ければ低いほどよいが、過度に低い場合には、前述のショアD硬度の場合と同様に被マスキング部材に対するマスキング材の着脱作業時に問題が発生することが懸念されるため、マスキング材の剛軟度は通常0.5N以上とすることが好ましい。
(7)破断強度
本実施形態に係るマスキング材は、JIS K7127に基づいて測定(測定環境:23℃、50%RH)した破断強度が2MPa以上20MPa以下であることが好ましい。破断強度が2MPa以上であることによって、マスキング材の着脱作業時にマスキング材を引き延ばすような力が付与された場合でも、マスキング材に亀裂が入ったり破断したりするなどの問題を生じる可能性を低減することができる。この着脱作業時の問題発生の可能性をさらに安定的に低減する観点から、マスキング材の破断強度は3MPa以上であることがより好ましく、4MPa以上であることがさらに好ましい。一方、破断強度が過度に高い場合には、前述の剛軟度が過度に高まる傾向を示す場合があるため、マスキング材の破断強度は通常20MPa以下とすることが好ましい。
(8)破断伸度
本実施形態に係るマスキング材は、厚み1mmのシート状に成型した際に、JIS K7161に基づいて測定(測定環境:23℃、50%RH)した、20mm/分で延伸したときの破断伸度(以下、「破断伸度」と略記する。)が50%以上であることが好ましい。この破断伸度が50%以上であることによって、マスキング材の着脱作業時にマスキング材を引き延ばすような力が付与された場合でも、マスキング材の破断などの問題を生じる可能性を低減することができる。この着脱作業時の問題発生の可能性をさらに安定的に低減する観点から、マスキング材の破断伸度は60%以上であることが好ましく、100%以上であることが好ましい。上記の問題発生を回避する観点からはマスキング材の破断伸度は高ければ高いほどよいが、過度に高い場合には、前述の剛軟度が過度に高まる傾向を示す場合があるため、マスキング材の破断伸度は通常2000%以下とすることが好ましい。
(9)寸法変化率
本実施形態に係るマスキング材は使用中に加熱された場合でも、被マスキング部に接する面の面内方向の寸法変化率は小さいことが好ましい。
ここで、上記の寸法変化率は、マスキング材の加熱前における平面方向の1辺の長さをX、加熱後における平面方向の当該1辺の長さをXとした時に、以下の式で表わされるものである。
寸法変化率(%)={1−(X/X)}×100
180℃環境下での積算時間が13時間であるときの上記の寸法変化率は、±5.0%の範囲内であることが好ましく、±3.0%の範囲内であることが特に好ましく、±1.5%の範囲内であることがさらに好ましい。マスキング材の寸法変化率が上記範囲内にあれば、マスキング材の寸法安定性は優れているということができる。また、この場合には、加熱されても材料が変形しにくい、特に収縮しにくいことから、加熱後におけるマスキング性能にも優れている。
2.マスキング材の製造方法
本実施形態に係るマスキング材の製造方法は限定されない。その組成や形成すべき形状に応じて適宜設定される。マスキング材が架橋構造を有していることから、マスキング材を形成するための材料を成形加工して得られた、アミン系架橋剤の架橋反応が進行する前の状態にある成形品を加熱して、その成形品に含まれるアミン系架橋剤の架橋反応を進行させる方法が、生産しやすさおよび品質の安定の観点から好ましく、その方法の一例を挙げれば次のとおりである。
まず、アクリルゴムを構成する重合体、アミン系架橋剤および磁性体、さらに必要に応じ老化防止剤等の添加成分を含有し、重合体と架橋剤との架橋反応が進行する前の状態にある組成物を調製する。具体的には、上記の重合体、アミン系架橋剤および磁性体(好ましくは磁性粉)、所望によりさらに添加物をヘンシェルミキサー、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融混合すればよい。この組成物に対して成形加工を施してマスキング材の形状を概略形成する。成形方法として具体的には、カレンダー成形、射出成形、押出成形などが例示され、高い形状精度の成形品を容易に得ることができることから射出成形が好ましい。得られた成形品を加熱して架橋反応を進行させることにより、マスキング材を得ることができる。なお、磁性体が磁化していない場合には、上記の製造過程において、または得られたマスキング材を公知の方法で磁化すればよい。
上記の一例に係る方法において、架橋反応を進行させるための加熱温度(以下、「架橋温度」という。)は架橋剤の種類などにより適宜設定されるべきものであるが、架橋温度は、マスキング材を使用する際にマスキング材が受ける最高加熱温度(以下、「使用温度」という。)と同等の温度とすることが好ましい。架橋温度が使用温度よりも過度に低い場合には、マスキング材の製造段階で架橋反応が完了せずに、マスキング材の使用中にマスキング材が加熱されたときに架橋反応が進行することが懸念される。この場合には、前述の加熱後ショアD硬度が高くなってマスキング機能が低下してしまうなどの不具合が生じることがある。かかる問題を安定的に回避する観点から、架橋温度Tは、使用温度T−30℃超であること、すなわち下記式を満たすことが好ましい。
>T−30℃
上記の問題をさらに安定的に回避する観点からは、温度差ΔT(=T−T)は40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。ただし、架橋温度Tが過度に高い場合には、成形品が加熱中に基台に固着するなどの問題が生じる可能性があるため、この点を考慮して架橋温度Tを設定することが好ましい。架橋温度Tとしては、100〜200℃であることが好ましく、140〜180℃であることがさらに好ましい。成形品の架橋反応を進行させるための加熱時間は任意であり、架橋剤の種類や架橋温度を考慮して適宜設定すればよい。この場合においても、マスキング材が使用中に加熱されたことによってマスキング材内で架橋反応が進行してマスキング材の硬度が使用中に過度に高まらないように、成形品の架橋反応をほぼ完了させることを考慮してこの加熱時間を設定することが好ましい。
3.マスキング部材
本実施形態に係るマスキング材は、そのままの形態でマスキング作業を行う際に使用する部材としてもよい。本実施形態において、そのような、被マスキング部に接するためのマスキング面を少なくとも一つ有する部材を「マスキング部材」という。本実施形態に係るマスキング部材は、前述の本実施形態に係るマスキング材を備え、具体的な一例としてマスキング部材はマスキング材からなり、他の具体的な一例として、マスキング部材はマスキング材以外の部材も備えるが、マスキング面を構成する材料はマスキング材である。
マスキング部材がマスキング材からなる場合には、前述のマスキング材の製造方法を行うことによってマスキング部材が得られるため、生産性の観点から有利な場合がある。
一方、マスキング部材の前記マスキング面側の部分が前述のマスキング材から構成され、マスキング部材におけるその他の部分はマスキング材以外から構成されていてもよい。マスキング部材がこのような構成を有する場合には、マスキング部材の形状自由度が高まる場合がある。
本実施形態に係るマスキング部材の形状およびマスキング材の形状は、いずれも特に限定されない。シート状であってもよいし、ブロック状であってもよい。シート状である場合におけるその厚さは任意であり、マスキング部材の着脱作業のしやすさの観点から0.3〜2.5mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5mmである。また、マスキング部材およびマスキング材の被マスキング部材と接する面(マスキング面)は平滑であることが好ましい。なお、上記のようにマスキング部材がマスキング材以外の構成要素を含む場合には、マスキング材以外の構成要素も磁性体を含有していることが、マスキング材のマスキング機能を高める観点から好ましい。
被マスキング部材がステンレス板からなる場合を一例とすると、マスキング部材の磁気的固定力は、3〜20Nであることが好ましく、特に4〜15Nであることが好ましい。マスキング部材の磁気的固定力が4N以上であることにより、被マスキング部材に装着されたマスキング部材が使用中に脱落する可能性を低減することができる。また、マスキング部材の磁気的固定力が20N以下であることにより、装着位置を変更する目的でマスキング部材を被マスキング部材から取り外す作業等が容易となる。
ここで、マスキング部材の磁気的固定力は、被マスキング部材としてのステンレス板(厚み1.5mm,SUS430板)に、マスキング材からなるマスキング部材(40mm×150mm,厚み1.5mm)を100mm長で貼り付け(残りの50mmは把持部分)、マスキング部材をステンレス板に貼り付けた状態で、引張試験機によりステンレス板の主面内方向と平行な方向に速度300mm/minで引張り、測定した値である。
マスキング部材の磁気力はその使用目的に応じて適宜設定されるべきものであるが、通常、20〜100mTであることが好ましい。マスキング部材の磁気力が20mT以上であれば、被マスキング部材に装着されたマスキング部材が使用中に脱落する可能性を低減することができる。また、マスキング部材の磁気力が100mT以下であることにより、マスキング部材を被マスキング部材から取り外す作業が容易となる。ここでいう磁気力とは、マスキング部材の表面から1cm離れた距離でガウスメーターにより測定した磁気力をいう。
4.マスキング部材の使用方法
本実施形態に係るマスキング部材の使用方法は限定されない。一例を挙げれば、被マスキング部材の被マスキング部に対してマスキング部材のマスキング材を対向配置すると、マスキング部材の磁気力によってマスキング材は被マスキング部に付着し、マスキング部材は被マスキング部材に装着される。
このマスキング部材が装着された被マスキング部材に対して加熱処理が施されても、マスキング部材に含有される磁性体のキュリー温度をこの加熱処理に係る加熱温度よりも高く設定しておけば、被マスキング部への付着力をもたらすマスキング材の磁気力が著しく減衰することはない。ここで、マスキング部材が装着された被マスキング部材に対して塗装処理が施されたのち、被マスキング部材に対して加熱処理を施されてもよい。上記のとおり適切に選択された磁性体を含有するマスキング材を備えるマスキング部材は加熱処理が施されても磁気力を維持するため、加熱処理の前に行われた塗装処理により被マスキング部材の被マスキング部以外に塗布された塗料が加熱処理中に被マスキング部に侵入することは抑制されている。
加熱処理が終了して被マスキング部材から取り外されたマスキング部材を、別の被マスキング部材に装着して、加熱処理を施してもよい。本実施形態に係るマスキング部材はこのような繰り返しの使用がなされても優れたマスキング機能を維持することができる。以上説明したマスキング方法は、次に説明する塗装部材の製造方法に用いてもよいし、めっき部材やブラスト処理が施された部材の製造方法などに用いてもよい。
5.塗装部材の製造方法
本実施形態に係るマスキング部材を用いて部分的に塗膜が形成されていない塗装部材を製造する方法の一例は次のステップを備える。
(1)装着ステップ(マスキング方法)
装着ステップでは、本実施形態に係るマスキング部材におけるマスキング材を、被マスキング部材の被マスキング部に接触させて、マスキング部材を被マスキング部材に装着する。本実施形態に係る塗装部材の製造方法において、マスキング部材が装着された被マスキング部材を被塗装体ともいう。ここで、被マスキング部材の具体的な形状は任意であり、携帯機器、液晶テレビ、冷蔵庫、照明器具等の電気製品の筺体やフレーム;ドア、窓枠等の建材;いす、テーブル等の家具;輸送機器の構造部材(メインボディ、ボンネット等)や構成部品(スライドレール、キャリア等)など様々な物品の形状が例示される。また、塗料についても特に限定されない。水性塗料であってもよいし溶剤系の塗料であってもよい。本実施形態に係るマスキング材に含有されるアクリルゴムは架橋構造を備えるため、こうした塗料による劣化が生じにくい。
(2)付着ステップ
付着ステップでは、上記の被塗装体を塗料に接触させて、被塗装体に塗料を付着させる。塗料の接触方法は任意である。具体例として、浸漬塗布、スプレー、ロールコート、電着塗装などが例示される。塗料の組成、温度、浸漬時間などの条件は、塗装方法に応じて適宜設定される。
(3)塗膜形成ステップ
塗膜形成ステップでは、上記の付着ステップを経て被塗装体に付着した塗料から被塗装体の表面に塗膜を形成する。この形成方法は任意であり、通常は乾燥である。この乾燥方法の詳細は塗料により決定されるべきものであって、塗料が付着している被塗装体を加熱してもよいし、大気中に放置してもよい。
(4)取り外しステップ
取り外しステップでは、上記の塗膜形成ステップを経た被塗装体からマスキング部材を取り外し、マスキング部材のマスキング材が接触していた部分(被マスキング部に相当する。)に塗膜が形成されていない部分を有してなる塗装部材を得る。
本実施形態に係る製造方法の好ましい一態様では、この取り外しステップで取り外されたマスキング部材を、別の被塗装体を対象とする装着ステップにおいて使用する。上記のとおり、本実施形態に係るマスキング部材は塗膜形成ステップを経てもマスキング機能の低下が起こりにくいため、繰り返し使用されても優れたマスキング機能を維持することができる。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
〔実施例1〕
アクリル酸エチル(EA)に由来する構成単位、アクリル酸n−ブチル(BA)に由来する構成単位およびアクリル酸メトキシエチル(MEA)に由来する構成単位をモル比として1:7:4の割合で含有し(以下、これらの成分のモル比を「アクリレートモル比」という。)、さらにカルボキシ基を有する化合物に由来する構成単位を微量含んでなる共重合体と、この共重合体100質量部に対して1質量部のアミン系架橋剤としての6−アミノヘキシルカルバミド酸とからなり架橋反応が進行する前の状態にあるアクリルゴム、このアクリルゴム100質量部に対して0.5質量部の4,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンからなる老化防止剤、および上記のアクリルゴム100体積部に対して47体積部のストロンチウムフェライトからなる磁性体(体積平均粒子径16μm)を混合して成形原料としての組成物を得た。この組成物を用いて、磁場中にある金型を用いた着磁ならびに射出成形により、厚さ1mmのシート形状を有する成形体を得た。なお、上記の磁性体の体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、製品名:レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920)を用いて、JIS K5600−9−3に準拠した測定方法により測定した。
得られた成形体を炉内が170℃に保持された恒温槽内に入れ、架橋温度を170℃として成形体を3時間加熱した。その後、恒温槽から成形体を取り出し、室温になるまで放冷して、マスキング材のテストサンプルを得た。
〔実施例2〕
実施例1における組成物を調製するにあたり、アクリレートモル比を1:7:4から1:8:3に変更し、老化防止剤を含有させなかった以外は実施例1と同様の操作を行って組成物から厚さ1mmのシート状の成形品を得た。以下、得られた成形体を、架橋温度を150℃として3時間加熱した以外は、実施例1と同様にしてマスキング材のテストサンプルを得た。
〔比較例1〕
従来のマスキングテープ(スリーエム社製、製品名:ファインラインマスキングテープ2800)を用意し、これをテストサンプルとした。
〔比較例2〕
実施例1における組成物を調製するにあたり、アミン系架橋剤に代えて、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、製品名:コロネートL)を架橋剤として用いた以外は実施例1と同様の操作を行って組成物から厚さ1mmの成形品を得た。以下、得られた成形体を、架橋温度を150℃として3時間加熱した以外は、実施例1と同様にしてマスキング材のテストサンプルを得た。
〔比較例3〕
実施例1における組成物を調製するにあたり、磁性体の含有量をアクリルゴム100体積部に対して100体積部とした以外は実施例1と同様の操作を行って組成物から厚さ1mmの成形品を得た。以下、得られた成形体を、架橋温度を150℃として3時間加熱した以外は、実施例1と同様にしてマスキング材のテストサンプルを得た。
〔比較例4〕
比較例1における組成物を調製するにあたり、アクリルゴムおよびアミン系架橋剤を含有させずにポリエステル(東洋紡績社製、製品名:ペルプレン)100体積部とストロンチウムフェライトからなる磁性体47体積部とを混合して組成物を得た。この組成物について実施例1と同様の成形を行って厚さ1mmの成形品を得て、これをマスキング材のテストサンプルとした。
〔試験例1〕浸漬試験
実施例および比較例で作成したテストサンプルから直径30〜50mmの円形シート状の試験片を切り出し、この試験片を鋼板(SUS430 2B)に装着した。なお、比較例1の試験片については2kgのローラーを用いて貼り付けた。試験片が装着または貼付する鋼板を、水系塗装液(液温:23℃)を満たした槽に浸漬させた。浸漬開始から10分後に鋼板を取り出し、マスキング材またはマスキングテープを取り外し、鋼板におけるマスキングした部分における塗装液の付着の有無を確認した。評価基準は次のとおりである。
A:付着無し
F:付着あり
評価結果を表1に示す。なお、この評価において付着あり(F)と評価された比較例1のテストサンプルについては、試験例2以降の評価を実施しなかった。
〔試験例2〕加熱後ショアD硬度の測定
実施例および比較例で作成したマスキング材のテストサンプルについて、180℃の環境下に40分間放置した後23℃の環境下に40分間放置するサイクルを20回繰り返す加熱試験(180℃環境下での積算時間は13時間)の前後でショアD硬度を測定した。評価結果を表1に示す。なお、比較例4のテストサンプルは、上記の加熱試験を行ったところ著しく劣化(脆化)して測定が不可能であったため、評価対象外と判定して加熱試験後の硬度測定を行わなかった。
〔試験例3〕剛軟度
実施例および比較例で作成したマスキング材のテストサンプルから長さ38mm、幅25mmの試験片を切り出し、JIS L1096に規定されるガーレ式試験機を用いて剛軟度の測定を行った。測定結果を表1に示す。
〔試験例4〕破断強度および破断伸度の測定
実施例および比較例で作成したマスキング材のテストサンプルから長さ150mm、幅15mmの試験片を切り出し、万能引張試験機(オリエンテック社製テンシロンRTA−T−2M)を用いて、JIS K7127:1999に準拠して、破断強度および破断伸度の測定を行った。
測定条件は次の通りとした。
・試験環境:23℃、50%RH
・引張速度:200mm/min
・測定方法:テストサンプルが破断した際の荷重および伸び量を測定し、これらの結果に基づき破断強度および破断伸度を算出した。
〔試験例5〕寸法安定性
実施例で作成したマスキング材のテストサンプルから直径30mmの試験片を切り出し、その縦方向および横方向の寸法を測定した後、180℃の環境下に40分間放置した後23℃の環境下に40分間放置するサイクルを10回繰り返す加熱試験を行い、加熱試験後の試験片の寸法も測定し、加熱試験前後の寸法変化率(加熱試験前基準)を求めた。その結果を表1に示す。
Figure 2013168616
表1から分かるように、実施例1および2で得られたマスキング材は、剛軟度などの機械的特性に優れるため、着脱作業時に問題を生じにくいものであった。また、加熱試験を経ても変形量が少なかったことから耐熱性に優れるものであった。しかも、加熱試験前後での硬度変化が少なく、加熱後であってもショアD硬度が40未満を維持していることから耐熱硬化性に優れ繰り返しの使用が可能なものであった。
本発明のマスキング材およびこれを備えるマスキング部材は、塗装作業やめっき作業などにおけるマスキングに好適に用いられる。

Claims (16)

  1. アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有するアクリルゴムおよび磁性体を含有し、前記磁性体の含有量は前記アクリルゴム100質量部に対して10体積部以上80体積部以下であることを特徴とするマスキング材。
  2. 180℃環境下での積算時間が13時間であるときのショアD硬度が10〜40である、請求項1に記載のマスキング材。
  3. 前記アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する重合体を含む、請求項1または2に記載のマスキング材。
  4. 前記アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位を有する共重合体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のマスキング材。
  5. 老化防止剤を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマスキング材。
  6. 厚み1mmのシート状に成型した際に、ガーレ法により測定した剛軟度が6.0N以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のマスキング材。
  7. 破断強度が2MPa以上20MPa以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載のマスキング材。
  8. 厚み1mmのシート状に成型したマスキング材を、20mm/分で延伸したときの破断伸度が50%以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載のマスキング材。
  9. 前記マスキング材は被マスキング部に付着した状態で加熱処理が施されるものであって、前記マスキング材に含有される前記磁性体は前記加熱処理における加熱温度よりも高いキュリー温度を有する強磁性体からなる、請求項1から8のいずれか一項に記載のマスキング材。
  10. 前記加熱処理に先立って、前記被マスキング部材に塗装処理が施される、請求項9に記載のマスキング材。
  11. 請求項1から10のいずれか一項に記載されるマスキング材を形成するための組成物を成形加工して、前記アミン系架橋剤の架橋反応が進行する前の状態にある成形品を得て、得られた前記成形品を加熱することにより前記成形品に含まれる前記アミン系架橋剤の架橋反応を進行させて、前記アミン系架橋剤に基づく架橋構造を有する前記アクリルゴムを含有するマスキング材を形成することを特徴とするマスキング材の製造方法。
  12. 前記成形品を加熱する際の加熱温度T(単位:℃)と前記マスキング材を使用する際に前記マスキング材が受ける最高加熱温度T(単位:℃)とは下記式を満たす、請求項11に記載の製造方法。
    >T−30℃
  13. 被マスキング部に接するためのマスキング面を少なくとも一つ有するマスキング部材であって、前記マスキング部材は請求項1から10のいずれか一項に記載されるマスキング材からなることを特徴とするマスキング部材。
  14. 被マスキング部に接するためのマスキング面を少なくとも一つ有するマスキング部材であって、前記マスキング部材は請求項1から10のいずれか一項に記載されるマスキング材を備え、前記マスキング面は前記マスキング材により構成されることを特徴とするマスキング部材。
  15. 請求項13または14に記載されるマスキング部材における前記マスキング面を、被マスキング部材の被マスキング部に接触させて、前記マスキング部材を前記被マスキング部材に装着することを特徴とするマスキング方法。
  16. 請求項15に記載されるマスキング方法を行うことにより得られた前記マスキング材が装着された前記被マスキング部材からなる被塗装体に前記塗料を付着させ、前記被塗装体に付着した前記塗料から前記被塗装体の表面に塗膜を形成し、前記被塗装体から前記マスキング材を取り外し、前記被マスキング部材の被マスキング部に塗膜が形成されていない部分を有してなる塗装部材を得ることを特徴とする塗装部材の製造方法。
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