以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「変速比」は、Vベルト式無段変速機(以下、無段変速機と言う。)の入力回転速度を出力回転速度で割って得られる値である。無段変速機は変速比が小さいほどHigh側となる。
図1は無段変速機の概略構成図を示し、図2は油圧コントロールユニット及びCVTコントロールユニットの概念図を示す。
無段変速機5はロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ2、前後進切り替え機構4を介してエンジン1に連結される。無段変速機5は、エンジン1から駆動力が伝達されるプライマリプーリ10と、出力軸13に連結されたセカンダリプーリ11と、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とに掛け回されたVベルト12とを備える。出力軸13はアイドラギア14及びアイドラシャフトを介してディファレンシャル6に連結される。
プライマリプーリ10は、入力軸と一体となって回転する固定円錐板10bと、固定円錐板10bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成する可動円錐板10aとを備える。可動円錐板10aは、プライマリプーリシリンダ室10cにプライマリプーリ圧が給排されることで軸方向へ変位する。
セカンダリプーリ11は、出力軸13と一体となって回転する固定円錐板11bと、固定円錐板11bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成する可動円錐板11aとを備える。可動円錐板11aは、セカンダリプーリシリンダ室11cにセカンダリプーリ圧が給排されることで軸方向へ変位する。
無段変速機5は、プライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とのバランスを変更することによって変速する。変速比が保持されている状態から、セカンダリプーリ圧を変更せずにプライマリプーリ圧を低くすると無段変速機5はダウンシフトし、セカンダリプーリ圧を変更せずにプライマリプーリ圧を高くすると無段変速機5はアップシフトする。
無段変速機5は、プライマリプーリ10の可動円錐板10aの受圧面積が、セカンダリプーリ11の可動円錐板11aの受圧面積よりも大きくなるように構成されている。そのため、プライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とが等しい場合には、プライマリプーリ10の可動円錐板10aの推力はセカンダリプーリ11の可動円錐板11aの推力よりも大きい。
無段変速機5の変速比やプーリ10、11の推力は、CVTコントロールユニット20からの指令に応動する油圧コントロールユニット100によって制御される。CVTコントロールユニット20は、エンジン1を制御するエンジンコントロールユニット21からエンジン出力トルク情報や後述するセンサ等からの出力に基づいて目標変速比や推力を決定し、制御する。
エンジン1で生じた駆動トルクは、トルクコンバータ2、前後進切り替え機構4を介して無段変速機5のプライマリプーリ10へ入力され、プライマリプーリ10からVベルト12を介してセカンダリプーリ11へ伝達される。プライマリプーリ10の可動円錐板10a及びセカンダリプーリ11の可動円錐板11aを軸方向へ変位させて、プライマリプーリ10とVベルト12、セカンダリプーリ11とVベルト12における接触半径を変更することにより、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とにおける変速比は連続的に変更される。
無段変速機5の変速比及びVベルト12の接触摩擦力は油圧コントロールユニット100によって制御される。
油圧コントロールユニット100は、図2に示すように、ライン圧を制御するレギュレータバルブ60と、プライマリプーリ圧を制御する減圧弁30とを備える。
レギュレータバルブ60は、エンジン1で生じた駆動トルクの一部が伝達されて駆動する油圧ポンプ80から吐出された油の圧力を調圧するソレノイド61を備える。レギュレータバルブ60は、油圧ポンプ80から吐出された油の圧力をCVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて運転状態に応じた所定のライン圧に調圧する。ライン圧は、セカンダリプーリ圧としてセカンダリプーリシリンダ室11cに給排される。
減圧弁30は、ライン圧を調圧するソレノイド31を備える。減圧弁30は、ライン圧をCVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて運転状態に応じた所定のプライマリプーリ圧に調圧する。プライマリプーリ圧は、プライマリプーリシリンダ室10cに給排される。
本実施形態においては、プライマリプーリ圧センサを設けておらず、ライン圧はセカンダリプーリ圧に等しく、プライマリプーリ圧の実圧はセカンダリプーリ圧(ライン圧)の実圧よりも高くなることはない。以下においては、ライン圧をセカンダリプーリ圧として説明する。
CVTコントロールユニット20は、変速制御部201と、プーリ圧制御部202とを備える。
変速制御部201は、プライマリプーリ回転速度センサ26からの信号、セカンダリプーリ回転速度センサ27からの信号、アクセルペダルセンサ24からの信号、ブレーキペダルセンサ28からの信号、インヒビタスイッチ23からの信号などに基づいて、目標変速比や目標変速速度を算出する。
プーリ圧制御部202は、エンジン出力トルク情報、目標変速速度情報、プライマリプーリ回転速度センサ26からの信号、セカンダリプーリ回転速度センサ27からの信号、アクセルペダルセンサ24からの信号、ブレーキペダルセンサ28からの信号、インヒビタスイッチ23からの信号などに基づいて、プライマリプーリ10の推力とセカンダリプーリ11の推力を制御する。つまり、プーリ圧制御部202は、上記信号などに基づいてセカンダリプーリ圧の指示圧を算出し、レギュレータバルブ60のソレノイド61を駆動することでセカンダリプーリ圧の実圧を制御し、また、プライマリプーリ圧の指示圧を算出し、減圧弁30のソレノイド31を駆動して、プライマリプーリ圧を制御する。
CVTコントロールユニット20は、アップシフト中に変速不良が生じるとプライマリプーリ10及びセカンダリプーリ11との間の差推力を確保し、目標変速比を達成するためにセカンダリプーリ圧を高くする油圧制御を行う。ここで言う「変速不良」とは、アップシフト中にプライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリ圧と同等になった場合であって、目標変速速度が所定の変速速度よりも小さく、且つ、実変速比が目標変速比とならないことを言う。変速不良は、例えば油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の指示圧とプライマリプーリ圧の実圧との間にずれが発生している無段変速機5で生じる。
アップシフトはプライマリプーリ圧を高くすることで実行されるが、プライマリプーリ圧はライン圧を減圧して生成されるため、プライマリプーリ圧の実圧がセカンダリプーリ圧の実圧(ライン圧)よりも高くなることはない。そのため、プライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の実圧とが略等しくなり、且つ、変速不良が生じる場合には、プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ11との間の差推力を確保するために、セカンダリプーリ圧を高くする必要がある。
例えば、プライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の実圧とが等しくなった場合に、変速比が最Highとなるように設定された無段変速機5では、プライマリプーリ10の実圧とプライマリプーリ圧の指示圧とが等しい場合、つまり、油圧ばらつきがない場合には、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しくなると変速比が最Highとなる。一方、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧より低い無段変速機5では、変速不良が生じる場合に、セカンダリプーリ圧を高くすることで、プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ11との間の差推力を確保し変速比を最Highとする。
プライマリプーリ圧センサを設けている無段変速機では、プライマリプーリ圧センサによってプライマリプーリ圧の実圧を検出し、目標変速比が最Highであって、実変速比が目標変速比に到達しておらず、セカンダリプーリ圧の実圧に対して、プライマリプーリ圧の実圧が低い場合には、セカンダリプーリ圧を上昇させずにプライマリプーリ指示圧を上昇させて、プライマリプーリ圧の実圧がセカンダリプーリ圧の実圧と同等となることで、変速不良を抑制しつつアップシフトを実行することができる。
しかし、本実施形態では、プライマリプーリ圧センサを設けていないので、プライマリプーリ圧の実圧を検出することができない。そこで、本実施形態では、以下において説明する油圧制御を行う。
図3は本実施形態の油圧制御を説明するフローチャートである。
ステップS100では、CVTコントロールユニット20は、目標変速比、及び目標変速速度を算出し、目標変速比、及び目標変速速度に基づいてプライマリプーリ圧の指示圧、セカンダリプーリ圧の指示圧を算出し、変速を実行する。
ステップS101では、CVTコントロールユニット20は、目標変速速度に基づいて変速がアップシフトであるかどうか判定する。CVTコントロールユニット20は、変速がアップシフトである場合にはステップS102へ進み、変速がダウンシフト、または変速を行わない場合には本制御を終了する。目標変速速度は、変速がアップシフトである場合には正の値であり、変速がダウンシフトである場合には負の値である。
ステップS102では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しいかどうか判定する。CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しい場合にはステップS103へ進み、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しくない場合には本制御を終了する。
ステップS103では、CVTコントロールユニット20は、目標変速速度と所定変速速度とを比較し、目標変速速度が所定変速速度よりも小さいかどうか判定する。CVTコントロールユニット20は、目標変速速度が所定変速速度よりも小さい場合にはステップS104へ進み、目標変速速度が所定変速速度以上の場合には本制御を終了する。目標変速速度が大きいほど無段変速機5はHigh側に急変速する。所定変速速度は、無段変速機5が急変速を行っているかどうか判定可能な変速速度であり、予め設定されている。CVTコントロールユニット20は、目標変速速度が所定変速速度よりも小さい場合には、無段変速機5は急変速を行っていないと判定する。
ステップS104では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度センサ26からの信号、及びセカンダリプーリ回転速度センサ27からの信号に基づいて実変速比を算出する。
ステップS105では、CVTコントロールユニット20は、実変速比と目標変速比との偏差を算出し、偏差が所定値よりも大きいかどうか判定する。CVTコントロールユニット20は、偏差が所定値よりも大きい場合にはステップS106へ進み、偏差が所定値以下の場合にはステップS107へ進む。所定値は、実変速比が目標変速比となっているとみなすことができる値であり、予め設定されている。
ステップS107では、CVTコントロールユニット20は、詳しくは後述するタイマをリセットする。
ステップS106では、CVTコントロールユニット20は、新たにプライマリプーリ圧の指示圧を算出し、変速を実行する。CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧の指示圧をセカンダリプーリ圧の指示圧よりも高くする。
ステップS108では、CVTコントロールユニット20は、タイマを更新する。CVTコントロールユニット20は、現在のタイマの値に1を加算する。なお、タイマの値は初期値としてゼロに設定されており、リセットされるとゼロに戻る。
ステップS109では、CVTコントロールユニット20は、タイマの値と推定時間(所定時間)とを比較する。CVTコントロールユニット20は、タイマの値が推定時間となるとステップS110へ進み、タイマの値が推定時間となっていない場合にはステップS104に戻り上記制御を繰り返す。推定時間は、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧よりも低い無段変速機5であっても、プライマリプーリ圧の指示圧をセカンダリプーリ圧の指示圧よりも高くすることで、プライマリプーリ圧の実圧がセカンダリプーリ圧の実圧と同等になるとみなされる時間である。推定時間は、図4に示すマップから算出される。図4は目標変速速度と推定時間との関係を示すマップであり、目標変速速度が大きくなるほど、推定時間は短くなる。
アップシフトを行っており、目標変速速度が所定変速速度より小さく、目標変速速度が比較的大きい場合には、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧となるまでの時間は比較的短い。変速速度が比較的大きい場合に推定時間を長くすると、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧と等しくなり、セカンダリプーリ圧を高くして変速を実現させる必要がある場合に、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧と等しくなった後でも、推定時間が経過するまではセカンダリプーリ圧が高くならない。つまり、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧と等しくなっているにもかかわらず、推定時間が経過するまではセカンダリプーリ圧が高くならないので、変速比が目標変速比に到達するまでの時間が長くなり、運転者に違和感を与えるおそれがある。そのため、アップシフトを行っており、目標変速速度が大きいほど、推定時間を短くする。
一方、アップシフトを行っており、目標変速速度が所定変速速度より小さく、目標変速速度が比較的小さい場合には、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧となるまでの時間は比較的長く、推定時間を大きくしても変速不良が判定されるまでプライマリプーリ圧が上昇し難い。そのため、アップシフトを行っており、目標変速速度が小さいほど、推定時間を長くする。
ステップS103によって急変速ではないと判定されたにもかかわらず、目標変速比と実変速比との偏差が所定値よりも大きく、かつその状態が推定時間継続すると、CVTコントロールユニット20は、変速不良が生じると判定する。
ステップS110では、CVTコントロールユニット20は、タイマをリセットする。
例えば油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の指示圧に対してプライマリプーリ圧の実圧が低い無段変速機5は、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧となった場合でも、プライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧まで高くならず、変速不良が生じる場合がある。そのような無段変速機5においては、CVTコントロールユニット20は、まずステップS106においてプライマリプーリ圧の指示圧をセカンダリプーリ圧の指示圧よりも高くすることで、プライマリプーリ圧をセカンダリプーリ圧の実圧まで高くする。つまり、セカンダリプーリ圧の実圧を高くせずに、プライマリプーリ圧をセカンダリプーリ圧の実圧まで高くする。そして、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の実圧まで高くなっても変速不良が生じ、実変速比が目標変速比に到達しない場合には、CVTコントロールユニット20は、ステップS111以下で説明する制御を実行する。
ステップS111では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧の指示圧、セカンダリプーリ圧の指示圧を算出し、変速を実行する。プライマリプーリ圧の指示圧は、セカンダリプーリ圧の指示圧に、タイマの値が推定時間となった時のプライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を加算した値に設定される。プライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧とは、プライマリプーリ圧の指示圧の方がセカンダリプーリ圧の指示圧よりも高く、タイマの値が推定時間となった時のプライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を維持したまま制御を行う。
ステップS112では、CVTコントロールユニット20は、無段変速機5における変速がダウンシフトであるかどうか判定する。CVTコントロールユニット20は、ダウンシフトである場合にはステップS113へ進み、ダウンシフトでない場合にはステップS111へ戻る。
ステップS113では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧の指示圧からタイマの値が推定時間となった時のプライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を減算して推定されるプライマリプーリ圧と、セカンダリプーリ圧の指示圧とを比較し、推定されたプライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の指示圧よりも低い場合にはステップS114へ進み、推定されたプライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧の指示圧以上である場合にはステップS111へ戻り上記制御を繰り返す。
ステップS114では、CVTコントロールユニット20は、ステップS111以降の制御を終了し、通常の制御を行う。
次に本実施形態の油圧制御を実行した場合のセカンダリプーリ圧、プライマリプーリ圧などの変化を図5のタイムチャートを用いて説明する。ここでは、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧よりも低い無段変速機5が、アップシフトを実行しているものとする。図5においてプライマリプーリ圧の指示圧を実線、プライマリプーリ圧の推定圧を破線、セカンダリプーリ圧の指示圧を二点鎖線、本実施形態の油圧制御を用いない場合のセカンダリプーリ圧の指示圧の一部を一点鎖線で示す。また、図5において目標変速比を実線で示し、実変速比を破線で示す。セカンダリプーリ圧の実圧は、セカンダリプーリ圧の指示圧に対して油圧ばらつきが生じることなく追従するものとする。
アップシフト中は、プライマリプーリ圧の指示圧を高くすることで、変速比がHigh側に変更される。
時間t0においてプライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しくなる。しかし、プライマリプーリ圧の推定圧は、プライマリプーリ圧の指示圧よりも低いので、プライマリプーリ圧の推定圧はセカンダリプーリ圧の実圧よりも低く、実変速比は目標変速比とはならない。
本実施形態を用いない無段変速機は、時間t0においてプライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧と等しくなり、実変速比が目標変速比を達成していないと、変速不良であると判定する。変速不良判定後、無段変速機は、実変速比を目標変速比とするためにセカンダリプーリ圧の指示圧を高くする必要があると判定し、セカンダリプーリ圧の指示圧を高くする。しかし、プライマリプーリ圧の推定圧は時間t0において、セカンダリプーリ圧の指示圧よりも低く、プライマリプーリ圧の指示圧を高くすることで、プライマリプーリ圧の推定圧を高くすることができる。つまり、本実施形態を用いない無段変速機は、セカンダリプーリ圧を高くせずにプライマリプーリ圧の推定圧を高くすることができるにもかかわらず、セカンダリプーリ圧を高くする。セカンダリプーリ圧を高くするためには、油圧ポンプの吐出圧を高くしなければならない。油圧ポンプはエンジンで発生した駆動トルクの一部が伝達されて駆動するので、本実施形態を用いない無段変速機は、エンジンの負荷が大きくなり、エンジンの燃費が悪くなる。
本実施形態の無段変速機5は、プライマリプーリ圧の推定圧がセカンダリプーリ11の実圧となる時間t1まで、セカンダリプーリ圧を高くせずにプライマリプーリ圧の指示圧を高くする。そのため、本実施形態を用いない無段変速機と比較して、エンジン1の燃費を良くすることができる。
また、時間t1において、変速不良と判定される場合には、セカンダリプーリ圧をプライマリ圧と所定の偏差を保ったまま高くすることで、セカンダリプーリ圧及びプライマリプーリ圧が高くなり、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11との差推力が確保され、変速比はHigh側へ変更される。
本発明の実施形態の効果について説明する。
ライン圧(セカンダリプーリ圧)を減圧してプライマリプーリ圧が生成される無段変速機5は、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧よりも低い場合には、プライマリプーリ圧の実圧が不足し、実変速比を目標変速比にすることができないことがある。例えば、プライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧とが等しい場合に、変速比が最Highとなるように設定されている無段変速機は、変速比を最Highとすることができない。
これに対して、プライマリプーリ圧センサを有する無段変速機は、プライマリプーリ圧の実圧が目標変速比を実現することができるプライマリプーリ圧となるように、プライマリプーリ圧の指示圧を高くすることで、プライマリプーリ圧の実圧が不足することを防止し、実変速比を目標変速比とすることができる。しかし、プライマリプーリ圧センサを有していない無段変速機は、上記方法を用いることはできない。
そこで、本実施形態では、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧となり、目標変速速度が所定変速速度より小さく、無段変速機5の実変速比が目標変速比となっていない場合に、プライマリプーリ圧の指示圧を推定時間、セカンダリプーリ圧(ライン圧)の指示圧よりも高くする。その後、プライマリプーリ圧がセカンダリプーリ圧と同等となったものとみなし、セカンダリプーリ圧を推定時間経過後のプライマリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を保ったまま夫々変化させる。これによって、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧の実圧がプライマリプーリ圧の指示圧よりも低く、プライマリプーリ圧センサを有していない無段変速機5であっても、プライマリプーリ圧をセカンダリプーリ圧まで上昇させることができ、セカンダリプーリ圧を推定時間経過後のプライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を保ったまま夫々変化させることで実変速比を目標変速比とすることができる。
また、本実施形態を用いずに、プライマリプーリ圧の指示圧がセカンダリプーリ圧の指示圧となった後に、無段変速機の実変速比が目標変速比となっていない場合に、セカンダリプーリ圧の指示圧のみを高くしてプライマリプーリ圧を同時に高くすることで目標変速比を達成することも可能である。しかし、油圧ばらつきによってプライマリプーリ圧がプライマリプーリ圧の指示圧よりも低い場合には、セカンダリプーリ圧を高くせずにプライマリプーリ圧を高くすることができるにもかかわらず、セカンダリプーリ圧を高くするので、油圧ポンプで高いセカンダリプーリ圧を吐出しなければならず、エンジンで発生する駆動力を大きくしなければならず、燃費が悪くなる。
これに対して、本実施形態の無段変速機5は、プライマリプーリ圧の実圧とプライマリプーリ圧の指示圧との間に偏差があると仮定される場合には、セカンダリプーリ圧を高くせずに、プライマリプーリ圧の指示圧を高くして、プライマリプーリ圧のみを高くする。そのため、不必要にセカンダリプーリ圧が高くなることを抑制し、エンジン1の燃費を向上することができる。
プライマリプーリ圧の指示圧を推定時間、セカンダリプーリ圧よりも高くしても変速不良となる場合には、変速不良が生じた時のプライマリプーリ圧の指示圧とセカンダリプーリ圧の指示圧との偏差を維持してプライマリプーリ圧及びセカンダリプーリ圧を高くする。例えば変速不良が生じ、プライマリプーリ圧の指示圧をセカンダリプーリ圧の指示圧よりも高くした場合には、変速制御のフィードバック積分項が蓄積され、その後にダウンシフトを行う際に変速が遅れるおそれがある。本実施形態の無段変速機5は、このような遅れを抑制することができる。
推定時間を目標変速速度に基づいて設定することで、無段変速機5の運転状態に応じて変速不良が生じるか判定することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
プライマリプーリ圧の実圧が、セカンダリプーリ圧の実圧と等しくなると段階的にセカンダリプーリ圧を高くする無段変速機に上記実施形態の油圧制御を用いてもよい。この場合、セカンダリプーリ圧が高くなるタイミングを遅くすることができ、エンジン1の燃費を良くすることができる。
上記実施形態では、ライン圧がセカンダリプーリ圧となり、ライン圧を減圧した油圧がプライマリプーリ圧となる無段変速機5について説明したが、ライン圧を減圧した油圧がセカンダリプーリ圧として作用する無段変速機であっても良い。
推定時間を図4のマップから算出したが、予め設定された固定値としてもよい。
また、電動オイルポンプを備えた車両、例えば電気自動車などに用いてもよく、電動オイルポンプで消費される電力を少なくすることができる。
本願は2011年12月13日に日本国特許庁に出願された特願2011−271981に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。