本発明の光源装置は、透光性気密容器と、透光性気密容器内に配置されたフィラメントと、フィラメントに電流を供給するためのリード線とを備えた構成である。本発明では、フィラメントの表面の光の反射率を制御することにより、赤外光放射を抑制し、可視光放射の放射割合を高める。これにより、フィラメントの可視光光束効率を向上させる。
フィラメントの表面の光の反射率を制御することで可視光放射の割合を高めることができる原理を、黒体放射におけるキルヒホッフの法則に基づいて、以下説明する。
自然対流熱伝達の無い条件下(例えば真空中)における材料(ここではフィラメント)の入力エネルギーに対するエネルギー損失は平衡状態では以下の式(1)で与えられる。
(数1)
P (total)=P(conduction)+P(radiation) ・・・(1)
ここで,P(total)は、全入力エネルギー,P(conduction)は、フィラメントに電流を供給するリード線を経て損失されるエネルギー,P(radiation)は、フィラメントが、加熱された温度で外部空間に光を放射して損失するエネルギーである。フィラメントは、その温度が2500K以上の高温になると,リード線を経て損失されるエネルギーはわずか5%程度になり,残りの95%以上のエネルギーは、光放射によって外部にエネルギー損失されるため,入力電力の殆ど全てのエネルギーを光に代えることが出来る。しかしながら,従来の一般的なフィラメントから放射される放射光の内,可視光成分の割合はわずか10%程度で,大部分が赤外放射光成分であるため,そのままでは効率の良い可視光源とはならない。
上記式(1)におけるP
(radiation)の項は一般的に、下記式(2)で記述することができる。
式(2)においてε(λ)は、各波長における放射率,αλ
-5/(exp(β/λT)−1)の項は、プランクの放射則を示す。α=3.747×10
8 Wμm
4/m
2,β=1.4387×10
4 μmK,である。また,ε(λ)は、キルヒホッフの法則によって反射率R(λ)と式(3)の関係にある。
(数3)
ε(λ)=1−R(λ) ・・・(3)
式(2)と式(3)を関連付けて議論すると,仮に反射率が全ての波長に亘って1である材料は,式(3)よりε(λ)=0となり,ひいては,式(2)における積分値が0となるため放射による損失が起こらなくなる。この物理的意味は,P(total)=P(conduction)となるため,少量の入力エネルギーでも光放射による損失が無く,フィラメントが非常に高い温度まで達することを意味している。一方,反射率が全ての波長に亘って0である材料は、完全黒体とよばれ,式(3)よりε(λ)=1となる。この結果,式(2)における積分値は最大となり,ひいては,放射による損失量が最大となる。通常の材料は、放射率ε(λ)が0< ε(λ)<1の間に存在し、かつ、その波長依存性は、劇的に変化することは無い(波長λ,温度Tに対する緩慢な依存性は存在する)。そのため、赤外から可視光領域における光放射は、図2の二点鎖線で示すスペクトルのように略可視から赤外領域に亘って均一に起こる。なお、図2の二点鎖線は、議論を簡略化するため全波長領域でε(λ)=1として黒体放射スペクトルをプロットしている。
一方、図2に一点鎖線で示すように赤外光領域で略0%の放射率を有し,700nm以下の可視光領域で,略100%の放射率を有する材料を,真空中で加熱した熱放射は、以下の式(4)で表現出来る。
式(4)において、θ(λ−λ0) は、長波長から可視光のある波長λ0までは放射率が0であり,ある波長λ0よりも短波長の領域では放射率が1である階段関数的振る舞いを示す関数である。得られる放射スペクトルは階段関数的な放射率と黒体放射スペクトルを畳み込んだ形状となり,計算の結果は、図2の破線で示すスペクトルとなる。即ち,式(4)の物理的意味は,フィラメントへの入力エネルギーの小さい低温領域では輻射損失が抑えられており,式(4)のP(radiation)の項が0となるため,エネルギー損失がP(conduction)のみとなり,非常に効率良くフィラメント温度が上昇する。一方、フィラメント温度が高温になり,黒体放射スペクトルのピーク波長がλ0より短くなるような温度領域になると,フィラメントに入力したエネルギーを図2の破線で示したスペクトルのように可視光放射として損失するようになる。
式(4)におけるθ(λ−λ0)は、上述のように長波長から可視光のある波長λ0までは放射率が0であり,ある波長λ0よりも短波長の領域では放射率が1である材料である。このような材料は、式(3)のキルヒホッフの法則により、図2に実線で示したように、波長λ0以下で反射率が0で、波長λ0よりも長波長領域で反射率が1となる。このことは、本発明のように、フィラメントの表面の光の反射率を制御することにより、フィラメントが電流供給等により加熱された時の赤外光放射を抑制し、可視光放射の放射割合を高めることができることを示している。すなわち、波長λ0以下の可視光域の反射率が低反射率であり、波長λ0よりも長波長の所定の赤外光領域の反射率が高反射率のフィラメントを用いることにより、赤外光放射を抑制し、可視光光束効率を向上させることができる。
フィラメントの表面の光反射率を制御する構造としては、フィラメントの発光時の高温(例えば、2000K以上)においても光反射率を制御できる構造であればどのようなものでもよく、例えば、フィラメントの表面を鏡面加工する構造や、フィラメントの表面に可視光反射率低下膜を備える構造や、フィラメントの基体を所望の光反射率を有する薄膜で被覆する構造等を用いることができる。
本発明の第一の態様としては、フィラメントの表面の反射率が、波長λ0以下の可視光域で20%以下であり、波長λ0よりも長波長の所定の赤外光領域で90%以上であることが望ましい。波長λ0以下の可視光域とは、波長700nm以下で380nm以上であることが好ましく、波長750nm以下で380nm以上であることがより好ましい。反射率が90%以上の所定の赤外光領域とは、波長4000nm以上の赤外光領域であることが好ましく、波長1000nm以上の赤外光領域で反射率が90%以上である場合には更なる光束効率の向上を期待することが出来るため、より好ましい。なお、可視光域の反射率が20%以下であれば、可視光域よりも短い波長領域での反射率が20%を超えていても構わない。また、反射率が20%以下の可視光域と反射率が90%以上になる赤外光領域との間には、反射率が20%以下から90%以上まで変化する領域が存在するため、この領域の反射率が90%未満であっても構わない。そのため、波長750nm以上波長4000nm以下の波長領域は、反射率が20%より大きく90%未満であっても構わない。
また、本発明の第二の態様としては、フィラメントの表面の反射率が、波長1000nm以上5000nm以下の光に対して80%以上であって、波長400nm以上600nm以下の光に対して50%以下であることが望ましい。これらの波長並びに数値は,フィラメント加熱温度に対して赤外光放射を抑制し可視光光束効率向上を図る点から勘案することが出来る。また,400nm未満の波長の光は,現実的な3000 K程度の加熱温度では殆ど出力されないので,400nm未満の反射率は任意の値であっても構わない。
本発明の第三の態様としては、フィラメントの表面は、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率の最小値と、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率の最大値との差が30%以上であることが望ましい。
上記第二および第三の態様が望ましい理由について説明する。フィラメントの材料である高温耐熱性金属材料の可視光領域の反射率は、紫外光領域にかけて落ち込み、表面粗さに大きく依存せず、波長400nm付近で40%程度をとる。そこで、フィラメントの表面の可視光領域の反射率を40%とし、赤外光領域の反射率を、適当な処理(フィラメント表面の鏡面研磨や光学薄膜コート(例えば可視光反射率低下膜)等)の反射率を40%〜100%まで変化させた反射率の変化曲線を仮想し、それぞれについて可視光光束効率をシミュレーションにより求めた。図109(a)〜(c)に、赤外光領域の反射率を40%、80%、100%として反射率の変化曲線を示す。なお、ここで赤外光領域とは、人間の目に不可視な近赤外を含め、700nm以上2500nmの波長領域を意味し、代表波長としては1000nmである。
図110に上記変化曲線を示すフィラメントについて求めた可視光光束効率のシミュレーション結果を示す。図110の縦軸は、可視光光束効率であり、横軸は、可視光領域の反射率と赤外光領域の反射率との差ΔRである。図110から明らかなように、可視光光束効率とΔRとの関係は、ΔRが30%未満の領域では単調増加を示すが、ΔRが30%(すなわち、可視光反射率40%、赤外光反射率70%)付近を境に、それよりもΔRが大きい領域でΔRの変化に対して可視光光束効率が急激に増加することが分かる。この増加率は、ΔRが40%(すなわち、可視光反射率40%、赤外光反射率80%)以上でさらに大きくなり、ΔRが50%(すなわち、可視光反射率40%、赤外光反射率90%)以上の領域でさらに顕著な増加率を示す。
よって、上述した本発明の第二の態様のように、フィラメントの表面は、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率が80%以上で、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率が50%以下であることが望ましいことが導き出される。また、上述した本発明の第三の態様のように、フィラメントの表面は、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率の最小値と、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率の最大値との差が30%以上であることが望ましいことが導き出される。
なお、図109(a)のΔR=0のフィラメントの色度(x,y)が(0.477,0.414)であるのに対し、図109(b)のΔR=40%のフィラメントの色度(x,y)は(0.456,0.424)、図109(c)のΔR=60%のフィラメントの色度(x,y)は(0.441,0.429)である。このことから、ΔR=30%以上、または、1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率が80%以上で、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率が50%以下のフィラメントの外観は、金色または銅色を呈することがわかる。
上記第一〜第三の態様のフィラメントは、一例としては、金属材料により形成された基体と、基体の可視光反射率を低下させるために基体を被覆する可視光反射率低下膜とを備える構成により実現できる。基体は、高融点材料(融点2000K以上)であることが望ましい。基体は、表面が鏡面に研磨加工されていてもよい。その場合、基体の表面粗さは、中心線平均粗さRaが1μm以下、最大高さRmaxが10μm以下、および、十点平均粗さRzが10μm以下、のうちの少なくとも1つを満たすことが望ましい。
可視光反射率低下膜は、可視光に対して透明であるものを用いることができる。また、可視光反射率低下膜は、2000K以上の融点を有する誘電体膜を用いることが可能である。具体的には、可視光反射率低下膜として、2000K以上の融点を有する金属の酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜、および、ホウ化物膜のいずれかを用いることができる。
また、第二および第三の態様のフィラメントは、フィラメントの基体として、表面を鏡面研磨されたものを用いることにより、基体を可視光反射率低下膜等の薄膜で被覆しない構成であっても実現することができる。この場合、基体の表面粗さは、中心線平均粗さRaが1μm以下、最大高さRmaxが10μm以下、および、十点平均粗さRzが10μm以下、のうちの少なくとも1つを満たすことが望ましい。なお、鏡面研磨された基体の表面に、可視光反射率低下膜等の光学薄膜を配置することももちろん可能である。
また、第一〜第三の態様のフィラメントは、基体を、所定の反射率特性を呈する薄膜(すなわち放射制御性を有する薄膜)で被覆することでも実現可能である。放射制御性を有する薄膜の上にさらに可視光反射率低下膜を配置することも可能である。
上述の第二の態様のフィラメントは、反射率が波長1000nm以上5000nm以下の光に対して80%以上であって、波長400nm以上600nm以下の光に対して50%以下であるが、波長4000nm以上の光に対する反射率が90%以上であるとさらに好ましい。また、波長400nm以上700nm以下の光に対する反射率が20%以下であると、さらに好ましい。
また、上述の第三の態様のフィラメントは、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率の最小値と、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率の最大値との差(ΔR)が30%以上であるが、差(ΔR)は、40%以上であると可視光光束効率の増加が顕著になるため好ましく、50%以上であるとさらに好ましい。
基体を構成する高融点材料としては、融点2000K以上の金属材料、例えば、Ta,Os,Ir,Mo,Re,W,Ru、Nb,Cr,Zr,V,Rh,C,B4C,SiC,ZrC,TaC,HfC,NbC,ThC,TiC,WC,AlN,BN,ZrN,TiN,HfN,LaB6,ZrB2,HfB2,TaB2,TiB2,のいずれか、または、これらのうちのいずれかを含有する合金を用いることができる。
また,基体は、高温加熱時に、結晶粒が成長すると、表面が粗面化し,延いては,赤外の反射率低下並びに基体上に成膜した薄膜の高温加熱時における破壊の原因となり得るで,予め基体を高温加熱して結晶粒成長を完了させ,その結晶粒成長を完了させた基体を鏡面研磨したものを用いることが好ましい。
可視光反射率低下膜は、可視光に対して透明であり、可視光反射率低下膜の表面で反射される可視光と、可視光反射率低下膜を透過して基体表面で反射される可視光とを打ち消し合わせることにより、フィラメントの可視光反射率を低下させる。例えば、可視光反射率低下膜は、2000K以上の融点を有する誘電体膜により形成する。例えば2000K以上の融点を有する金属の酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜、および、ホウ化物膜のいずれかを用いる。具体的には、MgO,ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、グラファイト、ダイヤモンド、CrZrB2、MoB、Mo2BC、MoTiB4、Mo2TiB2、Mo2ZrB2、MoZr2B4、NbB、Nb3B4、NbTiB4、NdB6、SiB3、Ta3B4、TiWB2、W2B、WB、WB2、YB4、ZrB12、C,B4C,ZrC,TaC,HfC,NbC,ThC,TiC,WC,AlN,BN,ZrN,TiN,HfN,LaB6,ZrB2,HfB2,TaB2,TiB2,CaO,CeO2,およびThO2,のうちのいずれかの単層膜、もしくは、これらの材料の単層膜を複数種類積層した多層膜、またはこれらの複合材料で形成された単層膜並びに多層膜を含む構成を用いることができる。
可視光反射率低下膜の膜厚は、その屈折率に応じて計算により、または実験またはシミュレーションにより、適切な値に設計されている。計算により設計する場合には、例えば、可視光に対する光学的光路長(λ/n0、ただし、n0は屈折率)が1/4波長程度になるように膜厚を設計する。実験またはシミュレーションにより設計する場合には、例えば、膜厚を種々変えて、フィラメントの反射率の膜厚依存性を求め、可視光全体の波長に対して反射率が最も低くなる膜厚を求める方法を用いる。本発明では、可視光全体の波長域に対して反射率を低下させるように可視光反射率低下膜の膜厚を設計することが望ましいため、後者の方法を好適に用いることができる。
基体を放射制御性を有する膜で被覆する場合、放射制御性を有する膜としては、2000K以上の融点を有する金属膜,金属の炭化物膜、窒化物膜,ホウ化物膜、酸化物膜、のいずれかを用いることが可能である。例えば、Ta,Os,Ir,Mo,Re,W,Ru、Nb,Cr,Zr,V,Rh,C,B4C,SiC,ZrC,TaC,HfC,NbC,ThC,TiC,WC,AlN,BN,ZrN,TiN,HfN,LaB6,ZrB2,HfB2,TaB2,TiB2,CaO,CeO2,MgO,ZrO2、Y2O3、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、ThO2,のいずれかの単層膜、もしくは、これらの材料の単層膜を複数種類積層した多層膜、またはこれらの複合材料で形成された単層膜並びに多層膜を含む構成を用いることができる。
フィラメントの形状は、高温に加熱できる形状であればどのような形状でもよく、例えばリード線から電流の供給を受けて発熱することができる線状、棒状、薄板状にすることができる。また、電流供給以外の方法により直接加熱される構造であってもよい。
なお、発明者らは、上記のような反射率を有する材料(フィラメント)を得られる可能性のある従来の技術を調査したところ、以下の(a)〜(d)のような手法が公知であることがわかった。しかしながら、詳細に調査を行ってみると,これらの材料は,1000℃以上の温度には耐えられず、2000K以上の温度では、上述の反射特性(波長λ0=700nm以下の可視光域で反射率20%以下、赤外光領域で反射率90%以上)を達成できないことがわかった。ここに、従来の技術を記しておく。
(a)基体上に電気メッキ等の手法を利用してクロム膜,ニッケル膜等を被覆する手法。(例えば,G. Zajac, et al. J. Appl. Phys. 51, 5544(1980).参照)
(b)アルミを陽極酸化して,表面上に多孔質ナノ構造を作製して,孔径,孔深さを制御して反射率を制御する手法。(例えば,A. Anderson, et al. J. Appl. Phys. 51, 754(1980).参照)
(c)誘電体中に金属微粒子を含んだ複合薄膜を形成する方法。複合薄膜の作製方法として,Cu,Cr,Co,Au,等の金属,またはPbS,CdS等の半導体を,酸化物またはフッ化物等の誘電体と同時に,蒸着,スパッター,またはイオン注入する。(例えば,J. C. C. Fan and S. A. Spura, Appl. Phys. Lett. 30, 511(1977). )
(d) 金属または半導体表面にフォトニック結晶構造を作製し反射率を制御する手法。(例えば,F. Kusunoki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43, 8A, 5253(2004). )
等が考えられる。
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
<基体の鏡面加工の実施形態>
まず、上述の本発明の第二および第三の態様のフィラメントの実施形態について説明する。本発明の第二の態様フィラメントの反射特性は、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率が80%以上、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率が50%以下である。本発明の第三の態様のフィラメントの反射特性は、波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率の最小値と、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率の最大値との差が30%以上である。
本実施形態では、フィラメント(基体)はTaで構成し、表面を研磨加工することにより、上述の第二および第三の態様の反射率を満たすフィラメントを得る。
Ta基体は、材料金属の焼結や線引き等の公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。
焼結や線引き等の工程により製造されたTa基体は、表面が粗面であるため、反射率が小さい。そこで、本実施形態では、基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。
具体的には、上記製造工程により製造されたTa基体を予め高温加熱して結晶粒成長を完了させ,その結晶粒成長を完了させた基体を鏡面研磨する。研磨加工方法としては、例えば、複数種類のダイヤモンド研磨粒により研磨する方法を用いる。これにより、中心線平均粗さRaを1μm以下、最大高さ(Rmax)が10μm以下、十点平均粗さ(Rz)が10μm以下の鏡面に加工する。
図3には、研磨加工前の粗面のTa基体について、図4には、鏡面加工後のTa基体について、それぞれシミュレーションにより求めた反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の放射スペクトルを示す。併せて、黒体放射スペクトルと、視感度曲線も示す。いずれも温度は2500Kである。放射スペクトルは、基体の放射率ε(λ)と黒体放射スペクトルとを掛けて求めたものである。視感度内におけるTa基体の放射スペクトルは、視感度曲線と基体の放射スペクトルとを掛けて得たものである。
図4のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図3の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上し,80%以上の反射率になっていることがわかる。また、400nm以上波長600nm以下で反射率50%以下となっている。これにより、本発明の第二の態様の波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率が80%以上であって、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率が50%以下であるフィラメントが得られていることがわかる。また、このフィラメントは、本発明の第三の態様の波長1000nm以上5000nm以下の光に対する反射率の最小値と、波長400nm以上600nm以下の光に対する反射率の最大値との差が30%以上という条件も満たしている。
このように、第二および第三の態様の反射率特性を満たすフィラメントを鏡面研磨によって実現することができる。このような反射率特性により、このフィラメントは、赤外波長領域の放射率が抑制され、その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、28.2 lm/Wから52.2 lm/Wとなり、85%向上することが確認できた。
つぎに、本発明の第一の態様の可視光反射率低下膜を備えたフィラメントの実施形態を具体的に説明する。
<実施形態1> 基体:Ta
以下の実施形態1−1〜1−11は、基体をTaで構成する例である。
(実施形態1−1)
実施形態1−1では、基体をTaで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Ta基体は、上述の実施形態で説明した鏡面加工された基体であり、その反射率特性は、図4に示した通りである。
本実施形態では、鏡面加工したTa基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態1−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。
具体的には、鏡面研磨されたTa基体の表面にMgO膜を可視光反射率低下膜として所定の膜厚で成膜し、基体表面を被覆する。成膜方法としては、電子ビーム蒸着法,スパッター法,CVD法,等種々の方法を用いることが可能である。また、成膜後,基体への密着性を高めるとともに、膜質(結晶性,光学的特性等)を高めるために1500℃〜2500℃の温度範囲でアニーリング処理を行うことも可能である。
可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚には、可視光光束効率を最大にするための最適範囲が存在する。ここでは、膜厚の最適範囲を見つけるため、膜厚を変えて複数のフィラメント試料を作製し、そのフィラメント試料について可視光光束効率をシミュレーションにより求める。可視光光束効率が最大になる膜厚範囲を可視光反射率低下膜の膜厚と定める。
具体的には、0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図5に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図5より、可視光反射率低下膜がMgO膜の場合、その最適膜厚は50nmであることが求められた。最適膜厚50nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の光束効率は、58.9 lm/Wであった。
図6に、50nmのMgO膜で被覆したTa基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図6の反射率を、図4のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のTa基体の状態では40%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより15%程度まで低下していることが分かる。その結果、52.2 lm/Wの可視光光束効率を、58.9 lm/Wまで、13%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Ta基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約60 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態1−2〜1−11)
実施形態1−2〜1−11では、基体をTaで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態1−2〜1−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態1−1に記載の方法を用いることができる。また、GaN,SiC等の可視光反射率低下膜については,高品質に滑らかな成長基板上に、所望の厚さに成長させ、GaN膜やSiC膜の上に、Ta基体をメタルボンディングした後、成長基板をエッチング等でリフトオフ除去するという方法を採用することも可能となる。成長基板としては、例えば、GaNについてはサファイア、SiCについてはSiを用いることができる。
実施形態1−2〜1−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図7〜図16にそれぞれ示す。
図7は、実施形態1−2の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図7のように、膜厚30nmで最大の可視光光束効率57.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図8は、実施形態1−3の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図8のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率58.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図9は、実施形態1−4の、Ta基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図9のように、膜厚20nmで最大の可視光光束効率56.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図10は、実施形態1−5の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図10のように、膜厚20nmで最大の可視光光束効率57.2 lm/Wが達成されることがわかる。
図11は、実施形態1−6の、Ta基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図11のように、膜厚20nmで最大の可視光光束効率56.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図12は、実施形態1−7の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図12のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率58.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図111に、40nmのHfO2膜で被覆したTa基体(フィラメント)について、シミュレーションにより求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における放射スペクトルを示す。図111の反射率を、図4のHfO2膜を形成する前のTa基体の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、HfO2膜の形成前のTa基体の状態では40%前後であった可視光(波長400nm〜600nm)の反射率が、HfO2膜で被覆することにより15%程度まで低下していることが分かる。その結果、52.2 lm/Wの可視光放射効率を、58.9 lm/Wまで、13%向上させることができている。
図13は、実施形態1−8の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図13のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率58.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図14は、実施形態1−9の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図14のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率58.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図15は、実施形態1−10の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図15のように、膜厚20nmで最大の可視光光束効率60.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図16は、実施形態1−11の、Ta基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図16のように、膜厚20nmで最大の可視光光束効率60.7 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態1−1〜1−11の結果をまとめると図17のようになる。図17には、可視光反射率低下膜の最適膜厚と、その時のフィラメントの可視光光束効率(光束効率)ηの他に、フィラメントの反射率特性として、波長550nm並びに1μmにおける反射率と、反射率が50%となる波長(Cutoff波長)についても示している。
図7〜図17に示される実施形態1−2〜1−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は56.7 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Ta基体の可視光光束効率52.2 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態1−2〜1−12のフィラメントは、実施形態1−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態2> 基体:Os
以下の実施形態2−1〜2−11は、基体をOsで構成する例である。
(実施形態2−1)
実施形態2−1では、基体をOsで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Os基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図18には、研磨加工前の粗面のOs基体について、図19には、鏡面加工後のOs基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。併せて、黒体放射スペクトルと、視感度曲線も示す。いずれも温度は2500Kである。
図19のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図18の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、15.3 lm/Wから18.8 lm/Wとなり、23%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態2−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図20に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図20より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の光束効率は、22.9 lm/Wであった。
図21に、70nmのMgO膜で被覆したOs基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図21の反射率を、図19のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のOs基体の状態では40%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより15%程度まで低下していることが分かる。その結果、18.8 lm/Wの可視光光束効率を、22.9 lm/Wまで、22%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Os基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約23 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態2−2〜2−11)
実施形態2−2〜2−11では、基体をOsで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態2−2〜2−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態2−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態2−2〜2−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図22〜図31にそれぞれ示す。
図22は、実施形態2−2の、Os基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図22のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率22.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図23は、実施形態2−3の、Os基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図23のように、膜厚70nmで最大の可視光光束効率22.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図24は、実施形態2−4の、Os基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図24のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図25は、実施形態2−5の、Os基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図25のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率22.2 lm/Wが達成されることがわかる。
図26は、実施形態2−6のOs基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図26のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図27は、実施形態2−7の、Os基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図27のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図28は、実施形態2−8の、Os基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図28のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図29は、実施形態2−9の、Os基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図29のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図30は、実施形態2−10の、Os基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図30のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率22.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図31は、実施形態2−11の、Os基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図31のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率22.3 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態2−1〜2−11の結果をまとめると図32のようになる。図22〜図31に示される実施形態2−2〜2−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は21.5 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Os基体の可視光光束効率18.8 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態2−2〜2−12のフィラメントは、実施形態2−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態3> 基体:Ir
以下の実施形態3−1〜3−11は、基体をIrで構成する例である。
(実施形態3−1)
実施形態3−1では、基体をIrで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Ir基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図33には、研磨加工前の粗面のIr基体について、図34には、鏡面加工後のIr基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。併せて、黒体放射スペクトルと、視感度曲線も示す。いずれも温度は2500Kである。
図34のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図33の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、13.2 lm/Wから17.1 lm/Wとなり、30%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態3−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図35に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図35より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の放射効率は、26.1 lm/Wであった。
図36に、70nmのMgO膜で被覆したIr基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図36の反射率を、図34のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のIr基体の状態では70%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより35%程度まで低下していることが分かる。その結果、17.1 lm/Wの可視光光束効率を、26.1 lm/Wまで、53%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Ir基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約26 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態3−2〜3−11)
実施形態3−2〜3−11では、基体をIrで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態3−2〜3−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態3−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態3−2〜3−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図37〜図46にそれぞれ示す。
図37は、実施形態3−2の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図37のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率29.1 lm/Wが達成されることがわかる。
図38は、実施形態3−3の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図38のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率26.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図39は、実施形態3−4の、Ir基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図39のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率29.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図40は、実施形態3−5の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図40のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率30.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図41は、実施形態3−6のIr基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図41のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率29.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図42は、実施形態3−7の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図42のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率27.1 lm/Wが達成されることがわかる。
図43は、実施形態3−8の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図43のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率27.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図44は、実施形態3−9の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図44のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率27.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図45は、実施形態3−10の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図45のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率31.2 lm/Wが達成されることがわかる。
図46は、実施形態3−11の、Ir基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図46のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率31.2 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態3−1〜3−11の結果をまとめると図47のようになる。図37〜図46に示される実施形態3−2〜3−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は26.1 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Ir基体の可視光光束効率17.1 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態3−2〜3−12のフィラメントは、実施形態3−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態4> 基体:Mo
以下の実施形態4−1〜4−11は、基体をMoで構成する例である。
(実施形態4−1)
実施形態4−1では、基体をMoで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Mo基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図48には、研磨加工前の粗面のMo基体について、図49には、鏡面加工後のMo基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。いずれも温度は2500Kである。
図49のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図48の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、16.2 lm/Wから21.8 lm/Wとなり、35%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態4−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図50に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図50より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の光束効率は、28.8 lm/Wであった。
図51に、70nmのMgO膜で被覆したMo基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図51の反射率を、図49のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のMo基体の状態では55%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより25%程度まで低下していることが分かる。その結果、21.8 lm/Wの可視光光束効率を、28.8 lm/Wまで、32%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Mo基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約29 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態4−2〜4−11)
実施形態4−2〜4−11では、基体をMoで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態4−2〜4−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態4−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態4−2〜4−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図52〜図61にそれぞれ示す。
図52は、実施形態4−2の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図52のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率30.2 lm/Wが達成されることがわかる。
図53は、実施形態4−3の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図53のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率28.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図54は、実施形態4−4の、Mo基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図54のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率29.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図55は、実施形態4−5の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図55のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率30.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図56は、実施形態4−6の、Mo基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図56のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率29.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図57は、実施形態4−7の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図57のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率29.1 lm/Wが達成されることがわかる。
図58は、実施形態4−8の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図58のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率29.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図59は、実施形態4−9の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図59のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率29.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図60は、実施形態4−10の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図60のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率30.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図61は、実施形態4−11の、Mo基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図61のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率30.7 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態4−1〜4−11の結果をまとめると図62のようになる。図52〜図61に示される実施形態4−2〜4−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は28.8 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Mo基体の可視光光束効率21.8 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態4−2〜4−12のフィラメントは、実施形態4−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態5> 基体:Re
以下の実施形態5−1〜5−11は、基体をReで構成する例である。
(実施形態5−1)
実施形態5−1では、基体をReで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Re基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図63には、研磨加工前の粗面のRe基体について、図64には、鏡面加工後のRe基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。いずれも温度は2500Kである。
図64のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図63の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、13.3 lm/Wから15.5 lm/Wとなり、17%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態5−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図65に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図65より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の放射効率は、20.4 lm/Wであった。
図66に、70nmのMgO膜で被覆したRe基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図66の反射率を、図64のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のRe基体の状態では50%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより15%程度まで低下していることが分かる。その結果、15.5 lm/Wの可視光光束効率を、20.4 lm/Wまで、32%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Re基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約29 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態5−2〜5−11)
実施形態5−2〜5−11では、基体をReで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態5−2〜5−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態5−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態5−2〜5−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図67〜図76にそれぞれ示す。
図67は、実施形態5−2の、Re基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図67のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率20.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図68は、実施形態5−3の、Re基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図68のように、膜厚70nmで最大の可視光光束効率20.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図69は、実施形態5−4の、Re基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図69のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率19.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図70は、実施形態5−5の、Re基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図70のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率20.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図71は、実施形態5−6の、Re基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図71のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率19.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図72は、実施形態5−7の、Re基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図72のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率20.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図73は、実施形態5−8の、Re基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図73のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率20.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図74は、実施形態5−9の、Re基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図74のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率20.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図75は、実施形態5−10の、Re基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図75のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図76は、実施形態5−11の、Re基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図76のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.2 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態5−1〜5−11の結果をまとめると図77のようになる。図67〜図76に示される実施形態5−2〜5−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は19.8 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Re基体の可視光光束効率15.5 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態5−2〜5−12のフィラメントは、実施形態5−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態6> 基体:W
以下の実施形態6−1〜6−11は、基体をWで構成する例である。
(実施形態6−1)
実施形態6−1では、基体をWで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
W基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図78には、研磨加工前の粗面のW基体について、図79には、鏡面加工後のW基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。いずれも温度は2500Kである。
図79のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図78の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、14.1 lm/Wから16.9 lm/Wとなり、20%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態6−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図80に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図80より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の光束効率は、21.9 lm/Wであった。
図81に、70nmのMgO膜で被覆したW基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図81の反射率を、図79のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のW基体の状態では50%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより15〜20%程度まで低下していることが分かる。その結果、16.9 lm/Wの可視光光束効率を、21.9 lm/Wまで、30%向上させることができている。
このように、本実施形態では、W基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約22 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態6−2〜6−11)
実施形態6−2〜6−11では、基体をWで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態6−2〜6−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態6−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態6−2〜6−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図82〜図91にそれぞれ示す。
図82は、実施形態6−2の、W基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図82のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率22.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図83は、実施形態6−3の、W基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図83のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図84は、実施形態6−4の、W基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図84のように、膜厚30nmで最大の可視光光束効率21.8 lm/Wが達成されることがわかる。
図85は、実施形態6−5の、W基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図85のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率22.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図86は、実施形態6−6の、W基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図86のように、膜厚30nmで最大の可視光光束効率21.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図87は、実施形態6−7の、W基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図87のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.0 lm/Wが達成されることがわかる。
図88は、実施形態6−8の、W基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図88のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.2 lm/Wが達成されることがわかる。
図89は、実施形態6−9の、W基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図89のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率22.1 lm/Wが達成されることがわかる。
図90は、実施形態6−10の、W基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図90のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率22.7 lm/Wが達成されることがわかる。
図91は、実施形態6−11の、W基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図91のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.2 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態6−1〜6−11の結果をまとめると図92のようになる。図82〜図91に示される実施形態6−2〜6−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は21.2 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨W基体の可視光光束効率16.9 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態6−2〜6−12のフィラメントは、実施形態6−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態7> 基体:Ru
以下の実施形態7−1〜7−11は、基体をRu構成する例である。
(実施形態7−1)
実施形態7−1では、基体をRuで構成し、基体の表面の可視光反射率低下膜として、MgO膜を配置したフィラメントについて説明する。
Ru基体は、公知の工程により作製される。基体の形状は、線材、棒材、薄板等所望の形状に形成する。実施形態1−1と同様に基体の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくする。表面粗さについても実施形態1−1と同様である。
図93には、研磨加工前の粗面のRu基体について、図94には、鏡面加工後のRu基体について、それぞれシミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。いずれも温度は2500Kである。
図94のように、基体表面を鏡面研磨することにより、波長1〜10μmの赤外波長域における基体の反射率が,図93の粗面状態の反射率と比較して10%以上向上していることがわかる。本反射率が向上するのに応じて、赤外波長領域の放射率が抑制されている。その結果、光束効率(可視光の放射効率)は、10.8 lm/Wから12.2 lm/Wとなり、13%向上している。
本発明では、鏡面加工した基体の表面に可視光反射率低下膜を成膜し、可視光反射率を低下させる。本実施形態7−1では、可視光反射率低下膜としてMgO膜を形成する。MgO膜の形成方法については、実施形態1−1で述べた通りである。0nm以上100nm以下の範囲で、可視光反射率低下膜(MgO膜)の膜厚を変化させ、可視光光束効率を求めたところ、図95に示すように可視光光束効率の膜厚依存性が得られた。図95より、MgO膜の最適膜厚は70nmであることが求められた。最適膜厚70nmのMgO膜で被覆したフィラメントの可視光の光束効率は、18.2 lm/Wであった。
図96に、70nmのMgO膜で被覆したRu基体(フィラメント)について、シミュレーション並びに実験により求めた、反射率と、放射スペクトルと、視感度内における基体の分光光度を示す。図96の反射率を、図94のMgO膜を形成する前の反射率と比較すると、可視光域で反射率が大きく低下し、MgO膜の形成前のRu基体の状態では65%前後であった反射率が、MgO膜で被覆することにより35〜40%程度まで低下していることが分かる。その結果、12.2 lm/Wの可視光光束効率を、18.2 lm/Wまで、58%向上させることができている。
このように、本実施形態では、Ru基体を、可視光反射率低下膜(MgO膜)で被覆することにより、2500Kで、約18 lm/Wの効率を有する光源用フィラメント並びに光源装置を提供できる。
(実施形態7−2〜7−11)
実施形態7−2〜7−11では、基体をRuで構成し、可視光反射率低下膜を、ZrO2、Y2O3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN,3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO2、Lu2O3、Yb2O3、カーボン(グラファイト)、ならびに、ダイヤモンドでそれぞれ形成する。
実施形態7−2〜7−11の基体の作製方法および研磨方法ならびに、可視光反射率低下膜の成膜方法についても、実施形態7−1に記載の方法を用いることができる。
実施形態7−2〜7−11において、可視光反射率低下膜の膜厚を種々に変化させた場合の、フィラメントの可視光光束効率の変化をシミュレーションにより求めた。その結果を図97〜図106にそれぞれ示す。
図97は、実施形態7−2の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてZrO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図97のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率20.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図98は、実施形態7−3の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてY2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図98のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率19.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図99は、実施形態7−4の、Ru基体に可視光反射率低下膜として6H−SiC(六方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図99のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図100は、実施形態7−5の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてGaN膜を用いる場合の可視光光束効率である。図100のように、膜厚50nmで最大の可視光光束効率20.6 lm/Wが達成されることがわかる。
図101は、実施形態7−6の、Ru基体に可視光反射率低下膜として3C−SiC(立方晶のSiC)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図101のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.1 lm/Wが達成されることがわかる。
図102は、実施形態7−7の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてHfO2膜を用いる場合の可視光光束効率である。図102のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率18.9 lm/Wが達成されることがわかる。
図103は、実施形態7−8の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてLu2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図103のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率19.3 lm/Wが達成されることがわかる。
図104は、実施形態7−9の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてYb2O3膜を用いる場合の可視光光束効率である。図104のように、膜厚60nmで最大の可視光光束効率19.4 lm/Wが達成されることがわかる。
図105は、実施形態7−10の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてカーボン(グラファイト)膜を用いる場合の可視光光束効率である。図105のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.5 lm/Wが達成されることがわかる。
図106は、実施形態7−11の、Ru基体に可視光反射率低下膜としてダイヤモンド膜を用いる場合の可視光光束効率である。図106のように、膜厚40nmで最大の可視光光束効率21.5 lm/Wが達成されることがわかる。
実施形態7−1〜7−11の結果をまとめると図107のようになる。図97〜図106に示される実施形態7−2〜7−12の可視光反射率低下膜を備えるフィラメントの可視光光束効率は18.2 lm/W以上であり、可視光反射率低下膜を備えない鏡面研磨Ru基体の可視光光束効率12.2 lm/Wよりも増大している。このように、本実施形態7−2〜7−12のフィラメントは、実施形態7−1と同様に、可視光反射率低下膜を備えたことにより、可視光光束効率を向上させることができる。
<実施形態8>
実施形態8として、実施形態1〜7のいずれかのフィラメントを用いた光源装置として、白熱電球について説明する。
図108に、本実施形態1〜7のフィラメントを用いた白熱電球の切り欠き断面図を示す。白熱電球1は、透光性気密容器2と、透光性気密容器2の内部に配置されたフィラメント3と、フィラメント3の両端に電気的に接続されると共にフィラメント3を支持する一対のリード線4,5とを備えて構成される。透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。透光性気密容器2の内部は、10−1〜10−6Paの高真空状態となっている。なお,透光性気密容器2の内部に107〜10−1PaのO2,H2,ハロゲンガス,不活性ガス,並びにこれらの混合ガスを導入することによって,従来のハロゲンランプと同様に,フィラメント上に成膜された可視光反射率低下膜の昇華並びに劣化を抑制し,寿命の延伸効果を期待することが可能となる。
透光性気密容器2の封止部には、口金9が接合されている。口金9は、側面電極6と、中心電極7と、側面電極6と中心電極7とを絶縁する絶縁部8とを備える。リード線4の端部は、側面電極6に電気的に接続され、リード線5の端部は、中心電極7に電気的に接続されている。
フィラメント3は、実施形態1〜7のいずれかのフィラメントであり、ここでは、線材形状のフィラメントをらせん状に巻き回した構造である。
フィラメント3は、実施形態1〜7で述べたように、基体上に可視光反射率低下膜を備えているため、赤外波長領域の反射率が高く、可視光領域の反射率が低い。この構成により、高い可視光光束効率(光束効率)を実現できる。よって、本発明では、フィラメントの表面に可視光反射率低下膜を備えるという簡単な構成で、赤外域の放射を抑制することができ、結果的に入力電力に対する可視光の可視光変換効率を高めることができる。これにより、安価で効率のよい省エネ型照明用電球を提供することができる。
なお、上述の実施形態1−7では、機械研磨加工によりフィラメント表面の反射率を向上させたが、機械研磨加工に限らず、フィラメント表面の反射率を向上させることができれば他の方法を用いることももちろん可能である。例えば、湿式や乾式のエッチングや、線引き時や鍛造や圧延時に滑らかな型に接触させる方法等を採用できる。
本発明のフィラメントは、白熱電球等の光源装置以外に用いることも可能である。例えば、ヒーター用電線、溶接加工用電線、熱電子放出電子源(X線管や電子顕微鏡等)等として採用することができる。この場合も、赤外光放射の抑制作用により、少量の入力電力で、効率よく高温にフィラメントを加熱することができるため、エネルギー効率を向上させることができる。
また、本実施形態では、赤外光放射を抑制し、可視光光束の放射効率を向上させるフィラメントについて説明したが、抑制される赤外光領域の波長を長波長側にシフトさせることにより、可視光光束のみならず近赤外光の放射効率の高いフィラメントを提供することも可能である。これにより、近赤外光において放射効率の高い光源装置を得ることも可能である。特に,透光性気密容器がシリコン並びに酸素を構成元素とする材料より成り立っている場合,2 μm以上の波長の光は全て透光性気密容器材料自体に吸収されてしまうので,2 μm以下の波長の近赤外光を出力するようにすることによって,透光性気密容器自体を温めることのない,放射効率の高い光源装置を得ることが可能となる。