JP2016015260A - フィラメント、それを用いた光源、および、フィラメントの製造方法 - Google Patents

フィラメント、それを用いた光源、および、フィラメントの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】電力を可視光または近赤外光に変換する効率が高いフィラメントを提供する。【解決手段】金属により形成された基体30の表面に、径が所定の範囲で分布した複数の穴がランダムに設けられたフィラメントを提供する。穴の径の分布の範囲は、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含むように設定する。穴は、電気化学エッチングにより形成することができる。【選択図】図2

Description

本発明は、エネルギー利用効率を改善したフィラメントに関する。
タングステンフィラメント等に電流を流すことにより、フィラメントを加熱し、電球とする白熱電球が広く用いられている。白熱電球は、太陽光に近い演色性に優れた放射スペクトルが得られ、白熱電球の電力から光への変換効率は95%以上になるが、放射光の波長成分は、図17に示すように赤外放射光成分が90%以上である(図17の3000Kの場合)。このため、白熱電球の電力から可視光への変換効率は、凡そ15 lm/Wと低い値になる。一方、蛍光灯は、電力から可視光への変換効率が約90 lm/Wであり、白熱電球よりも大きい。このため、白熱電球は、演色性に優れているが、環境負荷が大きいという問題がある。
白熱電球を高効率化・高輝度化・長寿命化する試みとして、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、電球内部に不活性ガスやハロゲンガスを封入することにより、蒸発したフィラメント材料をハロゲン化してフィラメントに帰還させ(ハロゲンサイクル)、フィラメント温度をより高くする構成が提案されている。一般的にこのような白熱電球はハロゲンランプと呼ばれている。これにより、可視光への電力変換効率の上昇およびフィラメント寿命の延長の効果が得られる。この構成では、高効率化並びに長寿命化のために、封入ガスの成分並びに圧力の制御が重要となる。
特許文献2には、電球ガラスの表面に赤外線反射コートを施し、フィラメントから放射された赤外光を反射して、フィラメントに戻し、吸収させる構成が開示されている。これにより、赤外光をフィラメントの再加熱に利用し、高効率化を図っている。
特許文献3には、フィラメント自体に微細構造体を作製し、その微細構造体の物理的効果により、赤外放射を抑制し、可視光放射の割合を高めるという構成が提案されている。
特開昭60−253146号公報 特開昭59−58752号公報 特表2001−519079号公報
F. Kusunoki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43, 8A, 5253(2004).
しかしながら、特許文献1のようにハロゲンサイクルを利用する技術は、寿命延伸効果を図ることはできるが、変換効率を大きく改善することは困難であり、現状、20 lm/W程度の効率である。
また、特許文献2のように、赤外放射を赤外線反射コートで反射して、フィラメントに再吸収させる技術は、フィラメントによる赤外光の反射率が70%と高いために再吸収が効率良く起こらない。また、赤外線反射コートで反射された赤外光が、フィラメント以外の他の部分、例えばフィラメント保持部分並びに口金等に吸収され、フィラメントの加熱に利用されない。このため、本技術により、変換効率を大きく改善することは困難である。現状、20 lm/W程度の効率となる。
特許文献3のように微細構造により赤外放射光の抑制効果を図る技術は、非特許文献1のように赤外放射スペクトルの極一部分の波長に対して放射増強並びに抑制効果を示す報告は存在するものの、広範囲な波長域に亘って放射光の抑制を図ることは非常に困難である。また、微細構造作製に際して、電子ビームリソグラフィー等の高度な微細加工技術を利用するため、これを使用した光源は非常に高価なものとなる。
本発明の目的は、電力を可視光または近赤外光に変換する効率が高いフィラメントを提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明のフィラメントは、金属により形成された基体を有し、基体の表面には、径が所定の範囲で分布した複数の穴がランダムに設けられている。穴の径の分布の範囲は、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含む。
本発明によれば、電力を可視光または近赤外光に変換する効率が高いフィラメントを提供することができる。
一実施形態のフィラメントの基体30の断面図。 (a)および(b)図1の基体30の表面の穴40の断面形状の例を示す説明図。 図1の穴の径が分布していることを示すグラフ。 (a)および(b)基体30の表面を形状維持膜50で覆った構造を示す説明図。 理想的な反射率の変化を示すグラフ。 実現可能な理想的な反射率の変化を示すグラフ。 (a−1)〜(e−1)基体に設けた種々の径の穴を示す説明図、(a−2)〜(e−2)基体の反射率の低下を模式的に示すグラフ。 実施形態で用いた電気化学セルを示す説明図。 実施例のエッチング前とエッチング後の試料の表面の顕微鏡写真。 (a)実施例のW基体の試料の反射率を示すグラフ、(b)実施例のTa基体の試料の反射率を示すグラフ。 実施例のTa基体の反射率をフィッティングしたグラフと、放射効率の演算結果を示す説明図。 実施例のW基体とTa基体のエッチング前とエッチング後の試料の写真。 実施例の試料のAFMによる計測結果を示すグラフ。 実施例の試料の穴の半径の分布を示すヒストグラム。 実施例のエッチング後のTa基体と、エッチングしていないW基体の放射効率を示すグラフ。 実施形態の白熱電球の断面図。 黒体放射スペクトルを示すグラフ。
本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態のフィラメントは、図1のように金属により形成された基体30を有するフィラメントであって、基体30の表面には、図2(a)、(b)のように複数の穴40がランダムに設けられている。複数の穴40の径は、図3のように、所定の範囲で分布している。複数の穴40の径の分布の範囲は、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含む。上記範囲で径が分布した穴40が形成されたフィラメントは、赤外光領域の反射率が高く、可視光領域および/または近赤外光の反射率が低くなる。これにより、このフィラメントは、放射率が可視光領域で高く、赤外光領域で低くなるため、フィラメントの赤外光放射が抑制され、可視光および/または近赤外光の放射が増大する。よって、電力を可視光や近赤外光に変換する効率が高いフィラメントを提供できる。
本発明のフィラメントに設けられた複数の穴40の径が分布している範囲は、50nm以上250nm以下の範囲を含むことが望ましい。穴40の径の分布の範囲としては、穴の径の分布の半値幅を用いることが可能である。複数の穴40の径の分布は、連続的であることが望ましいが、必ずしも連続的でなくてもよく、所定の範囲内の複数種類の穴の径が、離散的に分布していてもよい。なお、穴40の形状は、図2(a)、(b)のように、穴40の側面が基体30の表面に垂直な形状であってもよいし、穴40の側面が基体30の表面に傾斜していてもよい。穴40の側面が、基体30の表面に傾斜している場合、穴の深さの1/2における径(半値幅)を穴径することも可能である。
基体30の表面には、図2(a)、(b)のように穴40と穴40の間には平坦な領域があることが望ましい。
図4(a)、(b)のように、穴40が設けられた基体30の表面を、可視光および赤外光を透過し、フィラメントの加熱温度以上の融点を有する膜(形状維持膜と呼ぶ)50によって覆った構成にすることも可能である。膜50は、穴40の内壁を覆っているか、または、穴40を充填していることが望ましい。このように、形状維持膜50を配置することにより、フィラメントを高温に加熱した場合に、基体30を構成する金属原子が移動するのを抑制することができ、穴40の形状を高温でも維持することができる。よって、高温で原子が移動しやすい金属により基体を構成することが可能になるため、基体30の材料選択の幅が広がる。また、穴40の形状を維持したままフィラメントを高温まで加熱できるため、可視光および/または近赤外光を放射させることができる。
形状維持膜50の材質としては、高温耐熱性を有する酸化物系誘電体材料、窒化物系誘電体材料、炭化物系誘電体材料、並びに硼化物系誘電体材料、例えばハフニア(HfO)、ジルコニア(ZrO)イットリア安定化ハフニア(YSH:Yttria Stabilized Hafnia)、イットリア安定化ジルコニア(YSH:Yttria Stabilized Zirconia)、等のいずれか、または、これらのうちの2種以上の混合した材料を用いることができる。
例えば、基体30は、Ta,Os,Ir,Mo,Re,W,Ru、Nb,Cr,Zr,V,Rh,C,BC,SiC,ZrC,TaC,HfC,AlN,BN,ZrN,HfN,TiN,LaB,ZrB,および、HfB,のうちのいずれかまたはこれらの合金によって形成することができる。
フィラメントの基体30は、穴40と穴40との間の領域の表面粗さが鏡面であることが好ましい。これにより、波長1000nm以上の赤外光の反射率を70%以上にすることが可能になる。例えば、基体30の表面粗さは、穴40と穴40の間の領域において、中心線平均粗さRaが1μm以下、最大高さRmaxが10μm以下、および、十点平均粗さRzが10μm以下、のうちの少なくとも1つを満たすことが好ましい。穴40と穴40との間の領域を鏡面にする方法としては、例えば、穴40を形成する工程の前に、基体30の表面を鏡面研磨し、鏡面研磨した基体30の表面に複数の穴40を形成する工程を実施する方法を用いることができる。
また、基体30は、発光させるために高温加熱した時に結晶粒成長して表面が粗面化並びに不純物堆積しやすく、赤外光波長領域の反射率低下や、基体30上に形成した穴40の破壊の原因となり得るので、予め基体30を高温加熱して結晶粒成長並びに表面純化を完了させ、その結晶粒成長を完了させた基体30を鏡面研磨した後、穴40を形成することが好ましい。
穴40の形成方法としては、例えば、電気化学エッチング法を用いることができる。電気化学エッチング法は、金属からなるフィラメント基体を、陰極および陽極の一方とし、他方の極とともに、溶液中に配置し、フィラメント基体と他方の極との間に電流を流す方法である。これにより、フィラメント基体の表面に、径が所定の範囲で分布した複数の穴をランダムに設けることができる。電気化学エッチング法で形成される穴の径の大きさ並びに深さは、電流を流す時間や、溶液の種類、溶液の濃度、溶液温度、等の条件により決まるため、形成された穴40の径の分布の範囲が、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含むように、電気化学エッチング工程の条件を制御することが望ましい。
また、穴40の形成方法としては、電気化学エッチング以外の電子ビームエッチング方法や、プラズマエッチング方法等の他のエッチング方法を用いることも可能である。例えば、電子ビームエッチング方法を用いる場合、例えば電子ビームの集束条件を変化させながら、順次、電子ビームを基体30の表面に照射していく方法を用いることができる。電子ビームの集束条件等を変化させることにより、集束条件等に応じた径の穴が形成されるため、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲で径が分布した穴をランダムに基体30の表面に形成することができる。また、プラズマエッチング方法を用いる場合、ガス種、ガス濃度、ガス流量、等を制御することによって、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含む複数の穴をランダムに形成することができる。
(反射率と放射率の関係の原理)
ここで、本実施形態のフィラメントは、赤外光放射が抑制され、可視光および/または近赤外光の放射が増大する原理について説明する。
本実施形態のフィラメントは、赤外光領域の反射率が高く、可視光領域および/または近赤外光の反射率が低い光学特性を有する。理想的には、図5に実線で示したように、波長700nm以下の可視光領域で、0%に近い低反射率を有し、赤外光領域で100%に近い反射率を有することが望ましい。技術的に入手可能な材料を用いて具体的に実現可能な反射曲線としては、図6に示すように、波長500nmで反射率が40%以下の低反射率であり、1000nm以上の長波長赤外光領域の反射率が70%以上の高反射率であることが望ましい。また、波長500nm〜1000nmの間の反射率の波長依存性は、図5並びに図6のように短波長側から長波長側に向かって、反射率が単調に増加していることが望ましい。図6のような反射率曲線を有する基体を3000Kに加熱することで、従来実現されていた30 lm/Wの光束効率を50 lm/Wを超えるものにすることができる。例えば、図6のような反射率特性を有するタングステンフィラメントの場合、3000Kの加熱温度で、光束効率を従来の36.7 lm/Wから51.5 lm/Wまで40%以上高めることが可能になる。
ここで、図5の理論的反射特性を有するフィラメントが、電流供給等により加熱されることによって高効率に可視光を発する原理を、黒体放射におけるキルヒホッフの法則に基づいて、以下説明する。
自然対流熱伝達の無い条件下(例えば真空中)における材料(ここではフィラメント)の入力エネルギーに対するエネルギー損失は平衡状態では以下の式(1)で与えられる。
(数1)
P(total)=P(conduction)+P(radiation) ・・・(1)
式(1)において、P(total)は、全入力エネルギー、P(conduction)は、フィラメントに電流を供給するリード線を経て損失されるエネルギー、P(radiation)は、フィラメントが、加熱された温度で外部空間に光を放射して損失するエネルギーである。
フィラメントは、その温度が2500K以上の高温になると、リード線を経て損失されるエネルギーはわずか5%程度になり、残りの95%以上のエネルギーは、光放射によって外部にエネルギー損失されるため、入力電力の殆ど全てのエネルギーを光に変換することが出来る。しかしながら、従来の一般的なフィラメントは、放射される放射光の内、可視光成分の割合はわずか10%程度で、大部分が赤外放射光成分であるため、そのままでは効率の良い可視光源とはならない。
上記式(1)におけるP (radiation)の項は一般的に、下記式(2)で記述することができる。
式(2)においてε(λ)は、各波長における放射率、αλ−5/(exp(β/λT)−1)の項は、プランクの放射則を示す。α=3.747×10 Wμm/m、β=1.4387×10 μmK、である。
ε(λ)は、キルヒホッフの法則によって反射率R(λ)と式(3)の関係にある。
ここで式(2)と式(3)を関連付けて議論すると、仮に反射率が全ての波長に亘って1である材料は、式(3)よりε(λ)=0となり、ひいては、式(2)における積分値が0となるため、放射による損失が起こらなくなる。この物理的意味は、P (total) = P (conduction)となるため、少量の入力エネルギーでも光放射による損失が無く、フィラメントが非常に高い温度まで達することを意味している。一方、反射率が全ての波長に亘って0である材料は、(3)式よりε(λ)=1となる。この材料は、完全黒体と呼ばれる。この結果、(2)式における積分値は最大となり、ひいては、放射による損失量が最大となる。通常の材料は、放射率ε(λ)が0<ε(λ)<1の間に存在し、かつ、その波長依存性は、劇的に変化することは無い(波長λ、温度Tに対する緩慢な依存性は存在する)。そのため、完全黒体の赤外から可視光領域における光放射は、図5の2点鎖線で示すように略可視から赤外領域に亘って均一に起こる。なお、図5では、議論を簡略化するため全波長領域でε(λ)=1として黒体放射スペクトルをプロットしている。
図5に一点鎖線で示した赤外光領域で略0%の放射率を有し、700nm以下の可視光領域で、略100%の放射率を有する材料を、真空中で加熱した熱放射は、以下の(4)式で表現出来る。
式(4)において、θ(λ−λ)は、長波長から可視光のある波長λまでは放射率が0であり、ある波長λよりも短波長の領域では放射率が1である階段関数的振る舞いを示す関数である。得られる放射スペクトルは階段関数的な放射率と黒体放射スペクトルを畳み込んだ形状となる。計算の結果は、図5の破線で示すスペクトルとなる。即ち、式(4)の物理的意味は、フィラメントへの入力エネルギーの小さい低温領域では輻射損失が抑えられており、式(4)のP(radiation)の項が0となるため、エネルギー損失がP(conduction)のみとなり、非常に効率良くフィラメント温度が上昇する。一方、フィラメント温度が高温になり、黒体放射スペクトルのピーク波長がλより短くなるような温度領域になると、フィラメントに入力したエネルギーを図5の破線で示したスペクトルのように可視光放射として損失するようになる。
式(4)におけるθ(λ−λ)は、上述のように長波長から可視光のある波長λまでは放射率が0であり、ある波長λよりも短波長の領域では放射率が1である材料である。このような材料は、式(3)のキルヒホッフの法則により、図5に実線で示したように、波長λ以下で反射率が0で、波長λよりも長波長領域で反射率が1となる。そこで本発明は、波長λ以下で反射率が0に近く、波長λよりも長波長領域で1に近い反射率を有するフィラメントを作製することにより、赤外光の放射を抑制し、可視光を高効率で放射する。しかしながら、図5に示すように単一の波長λで急激に反射率並びに放射率が落ち込むような設計は理論的には可能であるものの、現状利用可能な高温耐熱材料を用いて光学設計することは困難であるため、より実現可能な設計として、図6に示すように波長λ=500nm以下の反射率が40%以下の低反射率であり、その波長より反射率が単調に増加し、波長λ=1000nmよりも長波長の赤外光領域の反射率が70%以上の高反射率のフィラメントを本実施形態では理想とする。
(穴径が分布した複数の穴40により反射率を制御する原理)
本実施形態では、可視光領域から赤外光領域まで高反射率を有する基材の表面に、複数の穴40をランダムに設け、複数の穴40の径を、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含む範囲で分布させることにより、可視光領域の反射率を低下させる。これにより、図6に示した理想的な反射率の変化を示すフィラメントを提供する。穴40の径を分布させることにより、可視光領域の反射率を低下させることができる原理について以下説明する。
基体30の表面に穴40がある場合、その穴40の径が、1/4波長から1波長に相当する波長の光は、穴40によって吸収される。この理由は、非特許文献1で記載されているように、微細な穴構造を有する構造体の反射率Rは
R∝sin2[(π×a)/λ×sinθ],
という関係を取ることによる。ここでθは反射方向の角度、λは光の波長、aは穴の直径を示す。上式で示されるように、構造体の大きさaがあまりに大きいと位相変化が緩やかとなり干渉効果を示さない。一方、構造体の大きさがあまりに小さいと位相が激しく変化する関数となり、観測量としては位相変化が打ち消され、平均化された(干渉効果を示さない)反射強度を示す。結局、(π×a)/λ=1程度の大きさの構造体が大きな干渉効果を示し、反射率を大きく低減させることが可能となる。即ち、穴の直径aは、λ/3〜λ/4程度の大きさが最適となる。
よって、図7(a−1)のように、ある可視光波長λの1/4波長(=(1/4)λ)から1波長(=λ)に相当する径の穴40を基体30に形成することにより、図7(a−2)のように、その波長λの可視光の反射率を低下させることができる。穴40の径が1種類の場合には、特定の波長の可視光の反射率が低下するとともに、その波長の周辺に干渉により図7(a−2)のように反射率に干渉縞が生じる。
本実施形態では、可視光領域全体の波長範囲にわたって、反射率を低下させる必要があるため、図7(a−1)とは異なる複数の径の穴40を、例えば、図7(b−1)、(c−1)、(d−1)のように基体30に形成すると、図7(b−2)、(c−2)、(d−2)に示すように、それぞれの径に対応した波長の可視光の反射率を低下させることができる。
よって、これらの複数の種類の径の穴40を図7(e−1)のように同時に基体30に形成すると、図7(e−2)のように、可視光領域全体の反射率を低下させることができる。また、反射率の干渉縞は、相互に打ち消し合うことにより低減される。
このように、本実施形態では、赤外光領域で高反射率(70%以上)の基体30に対して、径が分布した複数の穴40を設け、穴の径の分布範囲を可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含むように設定することにより、可視光領域の全体の反射率を低下させることができる。また、赤外光領域の光は穴によって吸収されないため、高反射率のまま維持することができる。よって、本実施形態のフィラメントは、赤外光領域の反射率が高く、可視光領域および/または近赤外光の反射率が低くなるため、フィラメントの赤外光放射が抑制され、可視光および/または近赤外光の放射が増大する。
(実施例)
上述してきた実施形態のフィラメントを製造した。
高温耐熱材料の基材30を用意し、少なくとも赤外領域(波長2μm)まで90%以上の高反射率を有するように、表面を鏡面研磨した。この基体30の表面に穴径が5〜20nmの穴40をランダムに形成した。
穴40は、電気化学的エッチング(陽極酸化手法ともいう)により形成した。電気化学的エッチングに用いた電気化学セル35の構造を図8に示す。基体30を陽極とし、Ptメッシュを陰極31とした。HSO溶液18 mol/lを0.01−1 mol/l 程度の濃度まで純水で薄め、これを電解液33とした。これらの基体30、電極(基体(陽極)30および陰極31)、電解液33をフッ素樹脂のセル35内に配置し、陰極31と基体(陽極)30間に電流密度 10−20 mA/cmを通電した。これにより、基体(陽極)30は、表面の原子がSO 2−イオンと結合して溶け出し、基体30の表面がエッチングされて、種々の径の穴40が形成された。
このエッチング処理を、基体30として、WとTaの2種類を用意し、通電時間を1秒、3秒、5秒と変化させてそれぞれ行った。図9にW基体30のエッチング前と、3秒エッチング後の電子顕微鏡写真を示す。図9からエッチングにより、基体30の表面に、特徴的な大きさが50−100 nmの微細な凹凸構造が形成されていることがわかる。
また、WとTaの基体30のエッチング前と、通電時間を1秒、3秒、5秒でそれぞれエッチングした後の反射率スペクトルを図10(a)、(b)に示す。図10(a)、(b)から明らかなように、基体30のエッチング後の反射率は、エッチング前の基体30の反射率と比較して大きく変化しており、可視光領域から近赤外光領域で大きく低下していることがわかる。特に、図10(a)、(b)からわかるように、Ta基体30に1秒の電気化学的エッチング処理を施した表面は、その反射率特性が、図6に示した理想的な反射率曲線をほぼ実現できている。
1秒の電気化学的エッチング処理を施したTa基体30をフィラメントとして用いた場合の放射効率を、図11のように反射率をフィッティングして演算により求めたところ、従来のWフィラメント(3000 Kで20 lm/W)と比較して3倍以上の効率を有し、3000Kにて約76 lm/Wの効率を有する高効率光源が得られることがわかる。
また、WとTaの基体30のエッチング前と、上述の条件で通電時間を1秒、3秒、5秒にしてそれぞれエッチングした後の試料の表面の写真と、目視で確認した表面の色を図12に示す。W基体30は、エッチング処理前は、鏡面のため光沢のある金属色であるが、1秒エッチングした後は、紺色を示し、3秒エッチングした後は、薄青色、5秒エッチングした後は、薄黄色を示していた。すなわち、エッチング時間が長くなるにつれて、吸収領域(反射が低い領域)が長波長側にシフトしていることが目視で確認できた。また、Ta基体30は、エッチング処理前は、鏡面のため光沢のある金属色であるが、1秒エッチングした後は、濃紺色を示し、3秒エッチングした後は、青色、5秒エッチングした後は、黄色を示していた。すなわち、エッチング時間が長くなるにつれて、吸収領域(反射が低い領域)が長波長側にシフトしていることが目視で確認できた。
また、図12のエッチングの各試料の色は、鮮明であり、しかも試料の表面をどの方向から見ても同じ色に見えた。このことから、本実施例の試料の色は、等方向的な干渉により生じたものであることが確認できた。よって、各試料の色は、薄膜の様に見る方向によって反射スペクトルが変化する一方向性の干渉ではなく、エッチングにて形成された微細な穴(構造)による等方向的な干渉(構造反射色)であると考えられる。
さらに、図12の各試料の吸収領域(低反射領域)の長波長側へのシフトは、図10(a)、(b)の反射スペクトルの長波長側へのシフトと一致していることから、各試料の低反射領域の長波長側へのシフトは、エッチングにて形成された穴の大きさが、エッチングが進展するにつれて大きくなる効果によるものと考えることが出来る。
さらに、W基体30を3秒エッチングした試料の表面形状をAFMで計測した計測結果を図13に示す。図13のように、基体30の表面には、種々の形状の穴が形成されていることが確認できる。また、穴が形成されていない領域は、ほぼ平坦であることも確認できる。
また、W基体30の3秒エッチング後の試料の図13のAFMの計測結果から穴の径を計測し、その分布をヒストグラムとして図14に示す。穴の径の計測は、AFMの計測結果の穴の開口径を計測することにより行った。図14から明らかなように、穴の径は、分布しており、種々の径の穴が、本実施例の電気化学エッチングにより形成されていることが確認できる。また、穴の径の分布は、半径75nmにピークを有し、ヒストグラムの半値幅は、25nm〜150nm程度の範囲であることがわかる。
実施形態で作成したTa基体(エッチング時間1秒)を加熱して、可視光光束効率を求めた。結果を図15に示す。Ta基体は、図10(b)および図11に示したように、図6の反射率に近い理想的な反射率特性を有するため、エッチング処理をしていないW基材(黒点)と比較して2−3倍の光束効率を実現できることが確認できた。なお、エッチング処理したTa基体は、3000Kを超える耐熱性を有し、加熱後も表面の穴構造が保持されていた。加熱前と比較して、加熱後は、表面の色が多少黒味を帯びるようになったが、これは表面が若干酸化並びに炭化されたことによるものと思われる。酸化並びに炭化を抑制することによって、加熱後も濃紺色を示す光束効率の高い基材を構成することが出来る。
本実施例で製造される表面に穴を備えたフィラメントは、エッチング時間は1秒から5秒と短く、その時間内に表面反射率は急激な変化を示すので、所望のエッチング時間が経過したならば、エッチングを停止するように制御することが望ましい。例えば、エッチング処理中に分光器で基体30の表面のスペクトルを計測し、所望のスペクトル形状が得られたらエッチングが停止するように、コンピューター等で自動制御する構成にすることが可能である。
また、本実施例のように電気化学エッチングで金属基体30の表面に形成した穴は、一般的な電子線リソグラフィ等により形成したナノ構造と比較して機械的強度が強い。このため、基体30に接触等しても穴構造の破壊が起こりにくいというメリットがある。また、電気化学的エッチングにより短時間で安価に、可視光放射効率の高いフィラメントを製造することが出来るため、実用に適している。
なお、エッチング処理後のW基体を加熱すると、1600 K程度の加熱温度で表面の穴構造が消失してしまうが、表面の穴構造の内壁を高温耐熱性誘電体膜等の形状維持膜50で覆うことにより、高温まで穴構造を維持することができる。
本実施形態のフィラメントは、白熱電球等の光源に好適に用いることができる。図16に、白熱電球の断面図を示す。白熱電球は、透光性気密容器2と、透光性気密容器2の内部に配置されたフィラメント3と、フィラメント3の両端に電気的に接続される一対のリード線4、5と、フィラメント3を支持するアンカ6とを備えて構成される。リード線4、5とアンカ6は、透光性気密容器2内に配置された絶縁性のマウント7により支持されている。マウント7の基部は、透光性気密容器2の封止部8によって支持されている。封止部8には、封止金属(金属箔)14、15とリード棒16、17が配置されている。透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。
透光性気密容器2の内部は、10−3〜10+7Paの圧力状態に設定する。実施形態のフィラメントは、10−3Pa以下の高真空状態では、作製した穴構造が昇華する場合もあるので、その場合には、Ar等の不活性ガスを10+3〜10+7Pa程度の高圧力状態で封入して膜の昇華を抑えるようにすることが望ましい。なお、Ar等の不活性ガスに替えて、適宜、不活性ガスに数%程度の酸素ガス、窒素ガス、ハロゲンガス、炭素系ガス、またはこれらの混合ガスを利用することによっても膜の昇華を抑え、長寿命を図ることも可能でなる。
フィラメント3は、実施形態のフィラメントであり、図16では、線材形状のフィラメントをらせん状に巻き回した構造である。フィラメント3は、実施形態で述べたように、基体30の表面に径が分布した穴を備え、赤外波長領域の反射率が高く、可視光領域の反射率が低い。この構成により、高い可視光放射効率(光束効率)を実現できる。
よって、本発明では、フィラメントの表面に径が分布した穴を備えるという簡単な構成で、赤外域の放射を抑制することができ、結果的に入力電力に対する可視光の可視光変換効率を高めることができる。これにより、安価で効率のよい省エネ型照明用電球を提供することができる。
なお、上述の実施形態は、穴を形成する前の基体30を研磨加工により反射率を向上させることについて説明したが、機械的な研磨加工に限らず、フィラメント表面の反射率を向上させることができれば他の方法を用いることももちろん可能である。例えば、湿式や乾式のエッチングや、線引き時や鍛造や圧延時に滑らかな型に接触させる方法等を採用できる。
また、本実施形態の基体30は、白熱電球以外に用いることも可能である。例えば、近赤外ヒーター光源として好適に用いることができる。また、基体30に形成する穴の径を大きくして赤外光を高効率で放射するようにすることも可能である。この場合、フィラメントをヒーター用電線として用いることができる。
2…透光性気密容器、3…フィラメント、4…リード線、5…リード線、6…アンカ、11…中心電極、8…封止部、30…基体、40…穴、50…形状維持膜

Claims (9)

  1. 金属により形成された基体を有し、
    前記基体の表面には、複数の穴がランダムに設けられ、前記複数の穴の径は、所定の範囲で分布しており、
    前記穴の径の分布の前記範囲は、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含むことを特徴とするフィラメント。
  2. 請求項1に記載のフィラメントにおいて、
    前記穴の径の分布の前記範囲は、50nm以上250nm以下であることを特徴とするフィラメント。
  3. 請求項1または2に記載のフィラメントにおいて、前記穴の径の分布の前記範囲は、前記穴の径の分布の半値幅の範囲であることを特徴とするフィラメント。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフィラメントにおいて、前記複数の穴の径は、前記所定の範囲で連続的に分布していることを特徴とするフィラメント。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィラメントにおいて、前記基体の表面は、前記穴と穴の間に平坦な領域を有することを特徴とするフィラメント。
  6. 請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフィラメントにおいて、前記穴が設けられた前記基体の表面は、可視光および赤外光を透過し、前記フィラメントの加熱温度以上の融点を有する膜によっておおわれていることを特徴とするフィラメント。
  7. 請求項6に記載のフィラメントにおいて、前記膜の材質は、2000K以上の融点を有する、酸化物系誘電体材料、窒化物系誘電体材料、炭化物系誘電体材料、および硼化物系誘電体材料、のうちの1種類以上を含む材質であることを特徴とするフィラメント。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項に記載のフィラメントを用いた光源。
  9. 金属からなるフィラメント基体を、陰極および陽極の一方とし、他方の極とともに、溶液中に配置し、前記フィラメント基体と他方の極との間に電流を流すことにより、前記フィラメント基体の表面に、径が所定の範囲で分布した複数の穴をランダムに設ける、電気化学エッチング工程を有し、
    前記穴の径の分布の前記範囲を、可視光波長帯域に対応する数値範囲全体を1/4倍した範囲を含むように、前記電気化学エッチング工程の条件を制御することを特徴とするフィラメントの製造方法。
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