JPWO2012105477A1 - 鎮痛剤 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、種々の疼痛疾患の予防又は治療において有効な鎮痛剤を提供することにある。本発明は、炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤を提供するものである。該化合物を有効成分とする本発明鎮痛剤は、種々の疼痛疾患に対する治療剤、例えば、変形性膝関節症又は変形性股関節症等の変形性関節症や多発性硬化症又はギランバレー症候群等の脱髄疾患等による疼痛の予防又は治療剤として有用性の高いものである。

Description

本発明は、炭素数10の脂肪酸エステルの新規な医薬用途に関するものであり、具体的には炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤に関する。
本発明は、炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤に関するものである。炭素数10の脂肪酸エステルに関しては、10-ヒドロキシ-2-デセン酸がローヤルゼリーの特有成分であることが広く知られており、インシュリンと同様の作用を有し、体内の糖代謝を正常にする働きを有する等、生活習慣病の改善や美容効果が期待される物質である。しかしながら、本発明薬剤の有効成分である炭素数10の脂肪酸エステルとは、脂肪酸鎖の10位がヒドロキシ基で置換されている点及びエステルではない点において異なる構造を有する化合物である。一方、特許文献1には、炭素数8又は炭素数10乃至12の脂肪酸又は脂肪酸エステルが神経栄養因子様作用を有することが開示されている。しかしながら、特許文献1の神経栄養因子様作用剤は、アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経変性疾患や、うつ病、不安障害(神経症)等の精神疾患の予防・改善剤として有用であることが記載されているのみであって、本発明におけるような鎮痛作用を有することについては何ら記載されていない。以上の通り、炭素数10の脂肪酸エステルが疼痛疾患に対する鎮痛剤として有効であることはこれまで知られていない知見である。
国際公開WO2009/038110号公報
本発明の目的は、優れた効果を有する鎮痛剤を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、炭素数10の脂肪酸エステルが疼痛疾患に対して優れた鎮痛効果を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は次のとおりである。
(1)炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤。
(2)前記脂肪酸エステルにおける脂肪酸がデセン酸である前記(1)記載の鎮痛剤。
(3)前記デセン酸が2-デセン酸である前記(2)記載の鎮痛剤。
(4)前記2-デセン酸がトランス-2-デセン酸である前記(3)記載の鎮痛剤。
(5)前記脂肪酸エステルにおけるエステルがアルキルエステルである前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(6)前記脂肪酸エステルにおけるエステルがアルケニルエステルである前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(7)前記脂肪酸エステルにおけるエステルがシクロアルキルエステルである前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(8)前記鎮痛剤が関節痛に対する治療剤である前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(9)前記関節痛が変形性関節症による疼痛である前記(8)記載の鎮痛剤。
(10)前記変形性関節症が変形性膝関節症又は変形性股関節症である前記(9)記載の鎮痛剤。
(11)前記鎮痛剤が脱髄疾患に伴う疼痛に対する治療剤である前記(1)乃至(7)のいすれかに記載の鎮痛剤。
(12)前記脱髄疾患が多発性硬化症又はギランバレー症候群である前記(11)記載の鎮痛剤。
(13)前記鎮痛剤が注射剤である前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(14)前記鎮痛剤が経口剤である前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(15)前記鎮痛剤がシクロデキストリン包接体である前記(13)又は(14)の薬剤。
(16)前記鎮痛剤が外用剤である前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の鎮痛剤。
(17)前記外用剤が貼付剤である前記(16)記載の鎮痛剤。
(18)疼痛疾患を治療するために用いる前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の炭素数10の脂肪酸エステル。
(19)疼痛疾患の患者に前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の炭素数10の脂肪酸エステルの有効量を投与することを特徴とする、疼痛疾患の治療方法。
(20)疼痛疾患を治療するための医薬の製造における前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の炭素数10の脂肪酸エステルの使用。
本発明鎮痛剤に係る炭素数10の脂肪酸エステルは、優れた鎮痛作用を示す化合物であり、変形性関節症等の関節痛による疼痛、多発性硬化症やギランバレー症候群等の脱髄疾患に伴う疼痛等、種々の疼痛性疾患を治療するための薬剤として非常に有用である。
図1は、変形性関節症モデルラットの痛覚過敏に対する本発明鎮痛剤の単回投与の効果を調べた結果である。 図2は、変形性関節症モデルラットの痛覚過敏に対する本発明鎮痛剤の反復投与の効果を調べた結果である。 図3は、変形性関節症モデルラットの関節痛に対する本発明鎮痛剤の反復投与の効果を調べた結果である。 図4は、図3と同様に、変形性関節症モデルラットの関節痛に対する本発明鎮痛剤の反復投与の効果を調べた結果である。
本発明は、炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤に関する。
本発明鎮痛剤の有効成分として利用可能な脂肪酸エステルは、炭素数10の脂肪酸及びアルコールからなる脂肪酸エステルであり、これらの脂肪酸エステルを単独で或いは2種以上を配合して用いてもよい。炭素数10の脂肪酸としては、直鎖飽和脂肪酸であるデカン酸(カプリン酸)、直鎖不飽和脂肪酸であるデセン酸、分岐鎖不飽和脂肪酸であるゲラン酸等のいずれであってもよいが、好ましくは2-デセン酸、3-デセン酸、9-デセン酸等の炭素鎖の二重結合が一つの不飽和脂肪酸、さらに好ましくはこれらのトランス体、特に好ましくはトランス-2-デセン酸がそれぞれ挙げられる。
一方、本発明鎮痛剤における脂肪酸エステルのエステル部分を形成するアルコールとしては、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、シクロアルキルアルコール等が挙げられる。アルキルアルコールは特に限定されるものではないが、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert -ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、イソウンデシル、ドデシル、イソドデシル等の炭素数1乃至12の直鎖状又は分岐状のアルキルのアルコールが挙げられる。
アルケニルアルコールは特に限定されるものではないが、好ましくはエテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、sec-ブテニル、tert-ブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ネオペンテニル、tert -ペンテニル、ヘキセニル、イソヘキセニル、ヘプテニル、イソヘプテニル、オクテニル、イソオクテニル、ノネニル、イソノネニル、デセニル、イソデセニル、ウンデセニル、イソウンデセニル、ドデセニル、イソドデセニル等の炭素数2乃至12の直鎖状又は分岐状のアルケニルのアルコールが挙げられ、さらに好ましくは、ノネニル、イソノネニル、デセニル、イソデセニル、ウンデセニル、イソウンデセニル等の炭素数9乃至11の直鎖状又は分岐状のアルケニルのアルコールが挙げられる。
シクロアルキルアルコールは特に限定されるものではないが、好ましくはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等炭素数3乃至8のシクロアルキルのアルコールが挙げられ、さらに好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシル等の炭素数5又は6のシクロアルキルのアルコールが挙げられる。
本発明鎮痛剤の有効成分である炭素数10の脂肪酸エステルは、特許文献1記載の公知化合物や市販品を用いることができるが、既知の方法で製造することもできる。例えば、炭素数10の脂肪酸とアルコールとを脱水縮合することによっても製造することができ、脱水縮合反応は公知の方法を用いることができる。
公知の縮合方法としては、例えば、炭素数10の脂肪酸とアルコールを、適当な縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド・HCl等)の存在下に反応させることができる。反応は、通常溶媒(例えば、ジクロロメタン等)中で実施することができる。アルコールの使用量は、通常、炭素数10の脂肪酸1モルに対し、0.5〜2モル(好ましくは1〜1.5モル)である。
他には、炭素数10の脂肪酸を一旦カルボン酸ハライドに変換した後、塩基の存在下又は非存在下に、アルコールを反応させることができる。カルボン酸ハライドへの変換は、例えば、塩化チオニル、塩化スルフィリル、三塩化リン、五塩化リン、塩化オキサリル、リン酸トリクロリド等のハロゲン化剤を用いることができる。塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。アルコールの使用量は、通常、炭素数10の脂肪酸1モルに対し、0.5〜2モル(好ましくは1〜1.5モル)である。塩基を用いる場合、塩基の使用量は、通常炭素数10の脂肪酸1モルに対し、1〜5モル程度である。
上記の反応終了後、公知の精製及び単離操作(例えば、抽出、クロマトグラフィー、蒸留、再結晶等)を用いて、目的化合物の炭素数10の脂肪酸エステルを得ることができる。
このようにして得た化合物の例を表1及び表2に示す。以下、それぞれの化合物を呼ぶ場合には、表に記載した化合物番号を用いる。
Figure 2012105477
Figure 2012105477
なお、上記表1及び表2に記載した化合物のうち、文献未記載の化合物8、9、12、14、15及び17については、トランス-2-デセン酸と各エステル部分に対応する適当なアルコールを出発原料として上記反応にて合成し、シリカゲルクロマトグラフィー等を用いて精製し、各化合物を油状物として得た。
本発明鎮痛剤は、炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有し、種々の疼痛疾患に対する予防又は治療剤として有用である。疼痛疾患としては、例えば、変形性膝関節症や変形性股関節症等の変形性関節症による疼痛や関節リウマチによる疼痛等の関節痛、或いは多発性硬化症又はギランバレー症候群等の脱髄疾患に伴う疼痛等が挙げられる。
本発明に係る炭素数10の脂肪酸エステルは、適当な医薬用の担体や希釈剤と適宜組み合わせて各種の剤形(経口剤、注射剤、外用剤等)に製剤化することができる。また、本発明鎮痛剤は、炭素数10の脂肪酸エステルを他の医薬活性成分と組み合わせた配合剤であってもよい。さらに、本発明鎮痛剤はシクロデキストリン等との包接体として製剤化されたものであってもよい。そうすることによって、薬理活性の増強、安定性の向上、持続化、取扱いの容易性等を得ることができる。包接体は、例えば、炭素数10の脂肪酸エステルとα‐、β‐又はγ‐シクロデキストリンとを混合して形成することができ、これによって、例えば経口投与時の薬理活性の増強が認められる。
本発明鎮痛剤を、経口剤とする場合は、炭素数10の脂肪酸エステルに適当な添加剤、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料等を適宜組み合わせた処方により錠剤、散剤、顆粒剤或いはカプセル剤とすることができる。また、注射剤とする場合は、炭素数10の脂肪酸エステルを含有する溶液や懸濁液に安定剤、保存剤、等張化剤等を加えて注射剤とすることができる。外用剤とする場合は、例えば貼付剤、ゲル剤、軟膏、クリーム剤等の外用剤等に製剤化することができる。すなわち、炭素数10の脂肪酸エステルを適当な基剤に混和、溶融、乳化等して調製し、貼付剤の場合はこれを支持体上に展延塗布する。貼付剤、ゲル剤等としては、例えばオルガノゲル化剤を用いた組成のものとすることができる。なお、各外用剤の剤形により通常使用される保存剤、抗酸化剤、着香剤、粘着剤等を適宜選択して処方に加えることができる。
本発明鎮痛剤の望ましい投与量は、用法、患者の年齢、性別、症状の程度などを考慮して適宜増減できるが、通常成人1日当り1乃至1000mg、好ましくは5乃至300mgを1日1回又は数回に分けて投与することができる。
以下に、本発明に係る炭素数10の脂肪酸エステルの新規な薬理作用、すなわち鎮痛作用に関する薬理試験結果の一例を示すが、本発明はこれらの実施例の記載によって何ら制限されるものではない。
薬理試験I:変形性関節症モデルラットに対する鎮痛作用
変形性関節症(Osteoarthritis; OA)のモデル動物であるモノヨード酢酸ナトリウム(MIA)誘発OAラットを用いて、本発明鎮痛剤の鎮痛作用を調べる以下の実験を行った。
1.MIA誘発OAラットへの本発明鎮痛剤の単回投与試験
(1)MIA誘発OAラットの作製
6週齢雄性Wistar系ラットの機械刺激に対する50%反応閾値(測定方法は後述)を測定して、正常対照群を選別した。正常対照群以外のラットに対し、右膝関節内に生理食塩液で調製したMIAを0.3mg/50μLの用量で単回投与し、左膝関節内には生理食塩液50μLを投与して、MIA誘発OAラットを作製した。また、正常対照群には、両膝の関節内に生理食塩液50μLを投与した。
(2)群編成
実験動物の6週齢雄性Wistar系ラットは、正常対照群以外については上記(1)のMIA投与の24日後に、機械刺激に対する50%反応閾値(測定方法は後述)及び体重を測定して、1群6匹として正常対照群、発症対照群、被験薬投与群、ロキソプロフェンナトリウム水和物(LOX)投与群(陽性対照)の4群に群編成を行った。
(3)被験薬の投与
被験薬として化合物4を用いた被験薬溶液(0.1mg/mL)及びLOX懸濁液(1mg/mL)は、それぞれ0.1vol%のジメチルスルホキシド(DMSO)を含むリン酸緩衝生理食塩液(PBS)及び0.5 w/v%のカルボキシメチルセルロース水溶液で調製した。
群編成直後(MIA投与24日後)に、被験薬投与群には0.5mg/kgの用量で被験薬溶液を腹腔内に単回投与し、LOX投与群には5mg/kgの用量でLOX懸濁液を経口で単回投与した。また、正常対照群及び発症対照群には0.1vol%DMSO含有PBSを腹腔内に単回投与した。
(4)機械刺激に対する50%反応閾値の測定(フォン・フライ試験)の結果
底が金網の透明アクリルゲージに、上記(2)記載の4群のラットを入れ、約3分間馴化させた後に、機械刺激に対する50%反応閾値を、被験薬の投与1、3、5及び24時間後に測定した。
測定は、Chaplanら(Journal of Neuroscience Methods、53巻、1号、55-63頁、1994年)及びDixonら(Annual Review of Pharmacology and Toxicology、20巻、441-462頁、1980年)の方法に準じ、フォン・フライ フィラメント(von Frey filament、North Coast Medical Inc.製)を用いて行った。8本のフィラメント〔刺激荷重(g):0.4、0.6、1.0、2.0、4.0、6.0、8.0、15.0〕のうち、2.0gのフィラメントより開始し、軽度にフィラメントが湾曲する程度の力で2〜3秒間、足底に対し垂直に当て、後肢が逃避反応を示した場合を陽性反応とした。陽性反応が見られた場合は一つ上の強さのフィラメントで同様に刺激し、反応が陰性から陽性へ又は陽性から陰性へ変化した時点を最初の2反応とし、その後4回連続してup-down法により刺激を行った。合計6回の刺激に対する反応を用いて、機械刺激に対する50%反応閾値を測定し、各群の平均値±標準誤差を算出した。なお、陽性反応がないまま15.0gの刺激まで行った場合は15.0g、陽性反応が0.4gまで続いた場合は0.25gを各々の閾値とした。
有意差の検定は、正常対照群と発症対照群間、発症対照群と被験薬投与群間、発症対照群とLOX投与群間、並びに、被験薬投与群とLOX投与群間において、2群の検定(Student's t検定又はWelch検定)又はWilcoxon検定を用いて行った。SAS System Version 8.2(SAS 前臨床パッケージ Ver. 5.0、SAS Institute Japan)を用いて解析を行い、p<0.05を有意差有りとした。
上記試験結果の一例を図1に示す。MIAの投与によりOAを誘発した発症対照群の機械刺激に対する50%反応閾値は、正常対照群に比べて有意に低下した。これに対し、図1に示す通り、被験薬(化合物4)をMIAの投与後に腹腔内に単回投与した被験薬投与群では、発症対照群と比較して有意に高い50%反応閾値を示した。5mg/kgの用量で投与したLOX投与群は有意な痛覚過敏抑制効果を示さなかったが、被験薬投与群は0.5mg/kgという低用量で痛覚過敏抑制効果を示した。
上記と同様に本発明鎮痛剤を単回投与した試験結果の一例を表3に示す。上記と同様にフォン・フライ試験を実施し、各々の50%反応閾値を測定し、被験薬投与1時間後の50%反応閾値について、下記の式により、50%反応閾値の回復率(%)を算出した。
50%反応閾値の回復率(%)=〔(被験薬投与1時間後の50%反応閾値−被験薬投与前の50%反応閾値)÷(正常閾値−被験薬投与前の50%反応閾値)〕×100
Figure 2012105477
表3から明らかなように、本発明鎮痛剤は、MIA投与により誘発されるOAの痛覚過敏に対して、優れた抑制効果を示した。なお、エステル体でないトランス-2-デセン酸では、被験薬投与前と被験薬投与1時間後の50%反応閾値に差がなく、痛覚過敏抑制効果は認められなかった。
2.MIA誘発OAラットへの本発明鎮痛剤の反復投与試験〔1〕
(1)MIA誘発OAラットの作製
上記1.(1)と同様に、正常対照群の選別及びMIA誘発OAラットの作製を行った。
(2)群編成
実験動物の6週齢雄性Wistar系ラットは、正常対照群以外については上記(1)のMIA投与の27日後に、機械刺激に対する50%反応閾値、MIA非投与後肢への重量負荷率(測定方法は後述)及び体重を測定して、1群6匹として正常対照群、発症対照群、被験薬投与群、LOX投与群(陽性対照)の4群に群編成を行った。
(3)被験薬の投与
被験薬溶液及びLOX懸濁液は、上記1.(2)と同様に調製した。
群編成直後から8日間(MIA投与27日後から34日後まで)、被験薬投与群には0.5mg/kg/日の用量で被験薬溶液を腹腔内に反復投与し、LOX投与群には5mg/kg/日の用量でLOX懸濁液を経口で反復投与し、また、正常対照群及び発症対照群には0.1vol%DMSO含有PBSを腹腔内に反復投与した。
(4)機械刺激に対する50%反応閾値の測定(フォン・フライ試験)の結果
上記1.(4)と同様に、被験薬の最終投与から1、3、5及び24時間後に機械刺激に対する50%反応閾値を測定した。各群の平均値±標準誤差を算出し、有意差の検定は、上記1.(4)と同様に行った。
上記試験の結果の一例を図2に示す。MIAの投与によりOAを誘発した発症対照群の機械刺激に対する50%反応閾値は、正常対照群に比べて有意に低下した。これに対し、図2に示す通り、被験薬(化合物4)をMIAの投与後に腹腔内に反復投与した被験薬投与群では、投与1及び3時間後に、発症対照群と比較して有意に高い50%反応閾値を示した。このように、本発明鎮痛剤を反復投与した場合も、優れた痛覚過敏抑制効果を有することが確認された。
(5)デュアルチャンネル重量平均法によるMIA非投与後肢への重量負荷率の測定
MIAの投与によりOAを誘発した方のラット後肢は疼痛症状を発症する。従って、ラットはMIA投与後肢への体重の加重を避けるために、痛みのないMIA非投与後肢への体重負荷が上昇する。しかし、被験物質の投与で疼痛症状が改善した場合は、ラットはMIA投与後肢への加重が容易となり、その分MIA非投与後肢への重量負荷率が低下する。このMIA非投与後肢への重量負荷率を指標にして、本発明鎮痛剤の鎮痛作用を測定した。
MIA非投与後肢への重量負荷率は、被験薬の最終投与1時間後に小動物用鎮痛評価装置(Incapacitance Tester:Linton Instrumentation社製)を用いてラットの左右の後肢への重量配分を測定し、以下の式を用いて求めた。また、各群の平均値±標準誤差を算出し、有意差の検定は、上記1.(4)と同様に行った。
MIA非投与後肢への重量負荷率(%)
=〔(MIA非投与後肢への体重負荷−MIA投与後肢への体重負荷)÷(MIA非投与後肢への体重負荷+MIA投与後肢への体重負荷)〕×100
上記試験結果の一例を図3に示す。MIAの投与によりOAを誘発した発症対照群のMIA非投与後肢への重量負荷率は、正常対照群に比べて有意に上昇した。これに対し、図3に示す通り、被験薬(化合物4)をMIAの投与後に腹腔内に反復投与した被験薬投与群では、MIA非投与後肢への重量負荷率が発症対照群と比較して有意に低下した。このように、本発明鎮痛剤は、MIA投与により誘発されるOAによる疼痛に対して、優れた鎮痛効果を有することが確認された。
3.MIA誘発OAラットへの本発明鎮痛剤の反復投与試験〔2〕
(1)機械刺激に対する50%反応閾値の測定
本発明鎮痛剤をMIA誘発OAラットに反復投与し、上記試験1.(4)と同様にフォン・フライ試験を実施し、各々の50%反応閾値を測定した。被験薬投与1時間後の50%反応閾値について、上記1.(4)と同様に、50%反応閾値の回復率(%)を算出した。この試験結果の一例を表4に示す。
Figure 2012105477
表4から明らかなように、本発明鎮痛剤はMIA投与により誘発されるOAの痛覚過敏に対して、優れた抑制効果を示した。
(2)デュアルチャンネル重量平均法によるMIA非投与後肢への重量負荷率の測定
本発明鎮痛剤を0.5mg/kg/日の用量でMIA誘発OAラットの腹腔内に反復投与し、上記試験2.(5)と同様にMIA非投与後肢への重量負荷率を測定した試験結果の一例を図4に示す。
図4から明らかなように、本発明鎮痛剤(化合物16)は有意に重量負荷率を低下させ、他の化合物でも重量負荷率は低下しているため、本発明鎮痛剤は、MIA投与により誘発されるOAの疼痛に対して、鎮痛効果を有することが確認された。
薬理試験II:多発性硬化症モデルラットに対する鎮痛作用
慢性痛を発症する多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)モデル動物である実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoallergic encephalomyelitis; EAE)ラットを用いて、本発明鎮痛剤の鎮痛作用を調べる以下の実験を行った。
(1)EAEラットの作製
7週齢雌性Lewis系ラットの機械刺激に対する50%反応閾値を測定して、正常対照群を選別した。正常対照群以外のラットに対し、0.4mg/mLモルモットミエリン塩基性たん白由来ペプチド(MB68-84)溶液とフロイント完全アジュバント(Adjuvant Complete Freund H37Ra)を等量混合したエマルジョン0.1mLを、麻酔したラットの左後肢に皮下投与して免疫し、EAEラットを作製した。
(2)群編成
実験動物の7週齢雌性Lewis系ラットは、1群8匹として正常対照群、発症対照群、被験薬0.25mg/kg/日投与群、被験薬0.50mg/kg/日投与群の4群に群編成を行った。
(3)被験薬の投与
免疫日から28日後まで1日1回、被験薬投与群には0.25mg/kg/日又は0.50mg/kg/日の用量で化合物4を反復腹腔内投与した。
(4)機械刺激に対する50%反応閾値の測定(フォン・フライ試験)の結果
上記薬理試験Iの1.(4)と同様に、フォン・フライ試験を実施し、各群の機械刺激に対する50%反応閾値を経時的に測定し、下記の式により、50%反応閾値の回復率(%)を算出した。有意差の検定は、正常対照群と発症対照群間においては2群の検定(t検定又はWelch検定)を用い、発症対照群と被験薬投与群間においてはノンパラメトリック又はパラメトリックDunnett型多重比較を用いて行った。SAS System Version 8.2(SAS 前臨床パッケージ Ver. 5.0、SAS Institute Japan)を用いて解析を行い、p<0.05を有意差有りとした。
なお、本EAEラットは免疫日から11日後から19日後において、脱髄変性による臨床症状(麻痺)を発症したため、その間の機械刺激に対する50%反応閾値による鎮痛作用の評価は行わなかった。
50%反応閾値の回復率(%)=〔(被験薬投与群の50%反応閾値−発症対照群の50%反応閾値)÷(正常対照群の50%反応閾値−発症対照群の50%反応閾値)〕×100
この試験の結果の一例を表5に示す。
Figure 2012105477
上記試験において、モルモットミエリン塩基性たん白由来ペプチドとフロイント完全アジュバントの投与で免疫された発症対照群は、一過性の麻痺発症の前後において、機械刺激に対する50%反応閾値が正常対照群に比べて有意に低下した。これに対し、表5から明らかなように、被験薬(化合物4)を免疫後に腹腔内に反復投与した被験薬投与群では、優れた50%反応閾値の回復率を示した。このように、本発明鎮痛剤は、EAEに伴う疼痛に対して、優れた鎮痛効果を有することが確認された。
薬理試験III:ギランバレー症候群モデルラットに対する鎮痛作用
慢性痛を発症するギランバレー症候群モデル動物である実験的自己免疫性神経炎(experimental autoimmune neuritis; EAN)ラットを用いて、本発明鎮痛剤の鎮痛作用を調べる以下の実験を行った。
(1)EANラットの作製
7週齢雌性Lewis系ラットの機械刺激に対する50%反応閾値を測定して、正常対照群を選別した。正常対照群以外のラットに対し、2mg/mLウシP2たん白由来ペプチド(SP-26)溶液とフロイント完全アジュバント(Adjuvant Complete Freund H37Ra)を等量混合したエマルジョン0.1mLを、麻酔したラットの左後肢に皮下投与して免疫し、EANラットを作製した。
(2)群編成及び被験薬の投与
薬理試験IIの(2)及び(3)と同様に、群編成を行い、被験薬を投与した。
(3)機械刺激に対する50%反応閾値の測定(フォン・フライ試験)の結果
上記薬理試験Iの1.(4)と同様に、フォン・フライ試験を実施し、各群の機械刺激に対する50%反応閾値を経時的に測定した。上記薬理試験IIの(4)と同様に有意差の検定を行い、50%反応閾値の回復率(%)を算出した。なお、本EANラットは免疫日から12日後から21日後において、脱髄変性による臨床症状(麻痺)を発症したため、その間の機械刺激に対する50%反応閾値による鎮痛作用の評価は行わなかった。
この試験結果の一例を表6に示す。
Figure 2012105477
上記試験において、ウシP2たん白由来ペプチドとフロイント完全アジュバントの投与で免疫された発症対照群は、一過性の麻痺発症の前後において、機械刺激に対する50%反応閾値が正常対照群に比べて有意に低下した。これに対し、表6から明らかなように、被験薬(化合物4)を免疫後に腹腔内に反復投与した被験薬投与群では、優れた50%反応閾値の回復率を示した。このように、本発明鎮痛剤は、EANに伴う疼痛に対して、優れた鎮痛効果を有することが確認された。
上記の薬理試験結果に示したとおり、本発明鎮痛剤は、OAモデルであるMIA誘発OAラットを用いた動物実験をはじめ、多発性硬化症やギランバレー症候群等の脱髄疾患モデルラットを用いた動物実験において、優れた鎮痛効果や痛覚過敏抑制効果を有するものである。従って、本発明鎮痛剤は、種々の疼痛疾患、例えば、OAや脱髄疾患等による疼痛の予防又は治療剤として有用性の高いものである。

Claims (17)

  1. 炭素数10の脂肪酸エステルを有効成分として含有する鎮痛剤。
  2. 前記脂肪酸エステルにおける脂肪酸がデセン酸である請求項1記載の鎮痛剤。
  3. 前記デセン酸が2-デセン酸である請求項2記載の鎮痛剤。
  4. 前記2-デセン酸がトランス-2-デセン酸である請求項3記載の鎮痛剤。
  5. 前記脂肪酸エステルにおけるエステルがアルキルエステルである請求項1乃至4のいずれか一項記載の鎮痛剤。
  6. 前記脂肪酸エステルにおけるエステルがアルケニルエステルである請求項1乃至4のいずれか一項記載の鎮痛剤。
  7. 前記脂肪酸エステルにおけるエステルがシクロアルキルエステルである請求項1乃至4のいずれか一項記載の鎮痛剤。
  8. 前記鎮痛剤が関節痛に対する治療剤である請求項1乃至7のいずれか一項記載の鎮痛剤。
  9. 前記関節痛が変形性関節症による疼痛である請求項8記載の鎮痛剤。
  10. 前記変形性関節症が変形性膝関節症又は変形性股関節症である請求項9記載の鎮痛剤。
  11. 前記鎮痛剤が脱髄疾患に伴う疼痛に対する治療剤である請求項1乃至7のいずれか一項記載の鎮痛剤。
  12. 前記脱髄疾患が多発性硬化症又はギランバレー症候群である請求項11記載の鎮痛剤。
  13. 前記鎮痛剤が注射剤である請求項1乃至12のいずれか一項に記載の鎮痛剤。
  14. 前記鎮痛剤が経口剤である請求項1乃至12のいずれか一項に記載の鎮痛剤。
  15. 前記鎮痛剤がシクロデキストリン包接体である請求項13又は14記載の薬剤。
  16. 前記鎮痛剤が外用剤である請求項1乃至12のいずれか一項に記載の鎮痛剤。
  17. 前記外用剤が貼付剤である請求項16記載の鎮痛剤。
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