JPWO2012057235A1 - 数値制御方法 - Google Patents

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Abstract

サーボ制御部(52)により工作機械(10)の送り軸を駆動する数値制御方法において、送り軸のサーボ制御部(52)の動作をモデル化して伝達関数を求め、送り軸の周波数応答を用いて、工作機械のサーボ制御部(52)における位置ループの閉ループ伝達関数(GBP)および速度ループの閉ループ伝達関数のうちの少なくとも一方を測定し、測定された閉ループ伝達関数を用いて位置ループの制御対象(PP)および速度ループの制御対象のうちの少なくとも一方を求め、制御対象から位置ループのモデル化誤差(ΔPP)および速度ループのモデル化誤差のうちの少なくとも一方を求め、閉ループ伝達関数およびモデル化誤差のうちの少なくとも一方を用いてサーボ制御部(52)の少なくとも一つの制御パラメータを算出するようにした。これにより、送り軸の状態に応じた最適な複数の制御パラメータを簡単かつ自動で求める。

Description

本発明は、サーボ制御部により工作機械の送り軸を駆動する数値制御方法に関する。特に、本発明は、複数の送り軸を備えた工作機械の数値制御方法に関する。
工作機械は一つ以上の直動軸および/または回転送り軸(以下、これら直動軸および回転送り軸を単に「送り軸」と呼ぶ場合がある)を含んでおり、これら送り軸を駆動するためのモータは数値制御装置により制御されている。工作機械においては、ワークの加工処理内容に応じて異なる工具が取付けられ、また、ワークを工作機械に取付けるための治具もワークに応じて使用される。
このような工作機械を含むシステムにおいて、送り軸には、加減速時定数、反転補正値、各種ゲイン、共振フィルタ定数などの制御パラメータを設定する必要がある。特許文献1には、モータの時間応答と理想的な応答誤差によって、制御パラメータとしてのフィードバック補償器(積分ゲイン)を調整することが開示されている。また、特許文献2には、機械損傷係数を算出し、これを閾値と比較することで異常を判断することが開示されている。
特開2007−299122号公報 特開2009−154274号公報
しかしながら、特許文献1においては、フィードバック補償器の調整を繰返す必要があるので、処理に時間が掛かり、調整を頻繁に行うのは困難である。また、特許文献1では、フィードバック補償器以外の制御パラメータの設定については開示されていない。さらに、送り軸の現在の状態に適した加減速パラメータ(加減速時における加速度、加速度変化率および所要時間)を自動的に設定することも開示されていない。
さらに、特許文献2では、機械損傷係数を通じて特定の異常を判断しているにすぎず、機械損傷係数では判断できない異常を検出することまではできない。このため、特許文献2に開示される異常判断の信頼性は比較的低く、多面的な判断を通じて異常判断の信頼性を高めることが望まれている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、送り軸の状態に応じた最適な複数の制御パラメータおよび加減速パラメータを簡単に求められると共に、信頼性の高い異常判断を行うことのできる数値制御方法を提供することを目的とする。
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、サーボ制御部により工作機械の送り軸を駆動する数値制御方法において、前記送り軸のサーボ制御部の動作をモデル化して伝達関数を求め、前記送り軸の周波数応答を用いて、前記工作機械のサーボ制御部における位置ループの閉ループ伝達関数および速度ループの閉ループ伝達関数のうちの少なくとも一方を測定し、測定された閉ループ伝達関数を用いて前記位置ループの制御対象および前記速度ループの制御対象のうちの少なくとも一方を求め、前記制御対象から前記位置ループのモデル化誤差および前記速度ループのモデル化誤差のうちの少なくとも一方を求め、前記閉ループ伝達関数およびモデル化誤差のうちの少なくとも一方を用いて前記サーボ制御部の少なくとも一つの制御パラメータを算出する数値制御方法が提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記位置ループのモデル化誤差を用いて、前記位置ループのフィードフォワードゲインを制御パラメータとして求めるか、または、前記速度ループのモデル化誤差を用いて、前記速度ループのフィードフォワードゲインを制御パラメータとして求めるようにした。
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記位置ループの閉ループ伝達関数および前記位置ループのモデル化誤差からスモールゲイン定理を用いて、前記位置ループのフィードバックゲインを求めるか、または、前記速度ループの閉ループ伝達関数および前記速度ループのモデル化誤差からスモールゲイン定理を用いて、前記速度ループのフィードバックゲインを求めるようにした。
4番目の発明によれば、1番目の発明において、前記工作機械のサーボ制御部における位置ループの閉ループ伝達関数を求め、予め定めた加速度および時間を少なくとも含む複数の組を前記位置ループの閉ループ伝達関数に入力し、前記送り軸の位置指令と実際の位置との間の偏差が所望の値以下になるように、前記複数の組から、加速度および時間を少なくとも含む一つの組を加減速パラメータとして選択する。
5番目の発明によれば、1番目の発明において、算出された制御パラメータと、当該制御パラメータ用の所定の閾値とを比較し、前記制御パラメータが前記閾値以上である場合には、警告するようにした。
1番目の発明においては、サーボ制御部の動作をモデル化して得られた閉ループ伝達関数および/またはモデル化誤差を用いているので、最適な複数種類の制御パラメータを迅速かつ自動的に求めることができる。
2番目の発明においては、位置ループのフィードフォワードゲインまたは速度ループのフィードフォワードゲインを制御パラメータとして求めることができる。
3番目の発明においては、位置ループのフィードバックゲインまたは速度ループのフィードバックゲインを制御パラメータとして求めることができる。
4番目の発明においては、送り軸の状態に応じて適切な加減速パラメータ(加減速時における加速度、加速度変化率および所要時間)を設定することができる。また、このような設定を自動的に行えるので、工作機械による加工時間全体を短くすることも可能である。
5番目の発明においては、複数種類の最適化された制御パラメータを用いて異常判断できるので、異常判断を多面的に行うことができ、その信頼性を高めることができる。また、このような異常判断を自動的に行えるので、オペレータに対する負担を軽減できる。なお、閾値は加工されるべきワークの種類、工具の質量などに応じて異なるものとする。
本発明の数値制御工作機械の概略図である。 本発明の数値制御工作機械を制御するサーボ制御部の構成ブロック線図である。 図2に示される位置制御部およびその周辺を示すブロック線図である。 位置制御部に関する制御パラメータを算出するためのフローチャートである。 モデル化誤差を近似的にカーブフィットする手法を示す第一の図である。 モデル化誤差を近似的にカーブフィットする手法を示す第二の図である。 スモールゲイン定理を用いてモデル化誤差からフィードバックゲインを求めることを説明するための図である。 図2に示される速度制御部およびその周辺を示すブロック線図である。 速度制御部に関する制御パラメータを算出するためのフローチャートである。 速度ループのモデル化誤差を求める手法を示す第一の図である。 速度ループのモデル化誤差を求める手法を示す第二の図である。 ゲインと周波数との関係を示す図である。 ゲインと周波数との関係を示す図である。 (a)送り軸の送り速度と時間との関係を示す図である。(b)加速度と時間との関係を示す図である。(c)加速度、時間などの表を示す図である。 制御パラメータに基づいて異常判断を行うための処理を示すフローチャートである。 位置ループを簡潔に示す図である。 速度ループを簡潔に示す図である。 工作機械の工具の一つの加工経路を示す図である。 図14におけるX方向速度、X方向加速度およびX方向誤差と時間との関係を示す図である。 図14におけるX方向速度、X方向加速度およびX方向誤差と時間との関係を示す図である。 図14の閾値パラメータを計算するためのフローチャートである。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明の数値制御工作機械の概略図である。図1において、数値制御工作機械10は所謂横形マシニングセンタであり、工場等の床面に設置されるベッド12を具備している。ベッド12の上面には、Z軸ガイドレール28が水平なZ軸方向(図1において左右方向)に延設されており、Z軸ガイドレール28には、ワーク用ジグGを介してワークWを固定するためのテーブル14が摺動自在に取り付けられている。図1は、テーブル14上にB軸方向に回転送り可能なNCロータリテーブルを固定し、その上にワークWを積載している例を示しているが、NCロータリテーブルを介在させることなくテーブル14上に直接ワークWを積載しても良い。
ベッド12の上面には、更に、X軸ガイドレール36がZ軸に直交し、かつ水平なX軸方向(図1の紙面に垂直方向)に延設されており、X軸ガイドレール36にはコラム16が摺動自在に取り付けられている。コラム16においてワークWに対面する前面には、X軸およびZ軸に直交するY軸方向(図1において上下方向)にY軸ガイドレール34が延設されており、Y軸ガイドレール34には、主軸20を回転自在に支持する主軸頭18が摺動自在に取り付けられている。
ベッド12内においてテーブル14の下側にはZ軸送りねじ24がZ軸方向に延設されており、テーブル14の下面にはZ軸送りねじ24に螺合するナット26が固定されている。Z軸送りねじ24の一端にはZ軸送りサーボモータMzが連結されており、Z軸送りサーボモータMzを駆動しZ軸送りねじ24を回転させることにより、テーブル14はZ軸ガイドレール28に沿って移動する。同様にベッド12内においてコラム16の下側にはX軸送りねじ(図示せず)がX軸方向に延設されており、コラム16の下面には前記X軸送りねじに螺合するナット(図示せず)が固定されている。
前記X軸送りねじの一端にはX軸送りサーボモータMxが連結されており、X軸送りサーボモータMxを駆動し前記X軸送りねじを回転させることにより、コラム16はX軸ガイドレール36に沿って移動する。更に、コラム16内にはY軸送りねじ32がY軸方向に延設されており、主軸頭18の背面にはY軸送りねじ32に螺合するナット30が固定されている。Y軸送りねじ32の上端にはY軸送りサーボモータMyが連結されており、Y軸送りサーボモータMyを駆動しY軸送りねじ32を回転させることにより、主軸頭18はY軸ガイドレール34に沿って移動する。
主軸20の先端には工具22、例えばエンドミルが装着されている。工具22を回転させながら、コラム16、主軸頭18、テーブル14を各々X軸、Y軸、Z軸方向に動作させることにより、テーブル14に固定されたワークWを所望形状に切削加工する。NCロータリテーブルが固定されている場合、数値制御工作機械10は、更にB軸を有する4軸の数値制御工作機械と言える。
数値制御工作機械10は、コラム16、主軸頭18、テーブル14のX軸、Y軸、Z軸方向に移動させるX軸、Y軸、Z軸送りサーボモータMx、My、Mzを制御する数値制御部40を具備している。NCロータリテーブルを有する場合には、B軸送りサーボモータ(図示せず)を具備している。
数値制御部40は、NCプログラム42を読み取りこれを解釈するプログラム読取解釈部44、解釈されたプログラムを一時的に記憶する解釈済みプログラム記憶部46、解釈済みプログラム記憶部46からプログラムを適宜引き出して実行プログラムデータを発するプログラム実行指令部48、プログラム実行指令部48からの実行プログラムデータに基づいてX軸、Y軸、Z軸の各々への位置指令値、速度指令値、トルク指令値を発する分配制御部50、分配制御部50からの位置指令値、速度指令値、トルク指令値および後述するフィードバック信号に基づいて送り軸モータ駆動部54へトルク指令値または電流指令値を発するサーボ制御部52を含んでいる。なお、B軸についても同様に、分配制御部50がB軸への位置指令値、角速度指令値、角加速度指令値等を発する。
送り軸モータ駆動部54は、サーボ制御部52からのトルク指令値または電流指令値に基づき電流を出力してX軸、Y軸、Z軸の各々の送り軸モータMx、My、Mzを駆動する。更に、本実施形態では、サーボ制御部52から送り軸モータ駆動部54へのトルク指令値または電流指令値を補正する演算制御部56が設けられている。演算制御部56は、後述するモデル化処理、制御パラメータの算出などの各種の処理を行う役目を果たす。
図2は本発明の数値制御工作機械を制御するサーボ制御部の構成ブロック図である。図2の実施形態では、図1に対応する構成要素は同じ参照符号にて指示されている。
サーボ制御部52は、分配制御部50からの位置指令値を加減速処理する加減速処理部102、テーブル14に取り付けたデジタル直線スケール等の位置検出器Spの位置フィードバック信号を位置指令値から減算する減算器58、減算器58からの出力に基づき位置を制御する位置制御部60を含んでいる。さらに、サーボ制御部52は、分配制御部50からの位置指令値などに基づいて、送り軸のバックラッシに関する補正値を公知の手法で算出する反転補正値算出部96を含んでいる。さらに、サーボ制御部52は算出された反転補正値を位置制御部60から出力された速度指令に加算する加算器61、送り軸モータMに設けたパルスコーダPCからの速度フィードバック信号を速度指令から減算する減算器62、減算器62の出力に基づき速度を制御する速度制御部64を含んでいる。
一方、分配制御部50からの位置指令値、速度指令値、トルク指令値は、速度フィードフォワード制御部90およびトルクフィードフォワード制御部92へも刻々と送出されている。速度フィードフォワード制御部90およびトルクフィードフォワード制御部92は、分配制御部50からの位置指令値等に基づいて、速度フィードフォワード値およびトルクフィードフォワード値を生成する。速度フィードフォワード値と位置制御部60からの出力とは加算機98において加算され、送り軸モータ駆動部54に供給される。さらに、トルクフィードフォワード値と、速度制御部64からの出力とは、加算器94において加算され、送り軸モータ駆動部54に供給される。
図3は図2に示される位置制御部およびその周辺を示すブロック線図である。図3に示されるように、減算器58からの出力には、位置比例ゲイン(位置ループのフィードバックゲイン)Kppが乗算される。また、図3においては、速度フィードフォワード制御部90のフィードフォワードゲインは伝達関数GVFでモデル化される。
図3においては、加減速処理後の位置指令と、位置検出器Spで検出される実位置との間の領域は、位置ループの閉ループ伝達関数GBPとしてモデル化される。さらに、図3に示されるように、閉ループ伝達関数GBP内においては、位置ループの制御対象PPがモデル化されており、さらに、位置ループの制御対象PP内には、位置ループの制御対象モデルPP0が示されている。なお、図中における「s」はラプラス演算子である。また、図3の「ΔPP」は工作機械の状態によって変化するとともに、加減速処理部102、伝達関数GVFおよび位置比例ゲインKppは最適化によって変化するものとする。
図4は、位置制御部に関する制御パラメータを算出するためのフローチャートである。なお、以下の処理は演算制御部56が行うものとする。本発明においては、図4に示される処理により、位置制御部60の制御パラメータとしての伝達関数GVF(フィードフォワードゲイン)および位置比例ゲインKpp(フィードバックゲイン)を算出する。
はじめに、ステップS1で、位置ループの閉ループ伝達関数GBPを測定する。これは、図3に示される加減速処理後の位置指令と、位置検出器Spにより検出される実位置との比から求められる。
次いで、ステップS2において、位置ループの閉ループ伝達関数GBPに基づいて以下の式(1)により位置ループの制御対象PPを求める。
Figure 2012057235
次いで、ステップS3において、以下の式(2)により位置ループの制御対象PPからモデル化誤差ΔPPを求める。ここで、モデル化誤差ΔPPは、モデル化することにより生じた実際の値に対する誤差を意味する。
Figure 2012057235
その後、ステップS4において、以下の式(3)により、モデル化誤差ΔPPに基づいてフィードフォワードゲインGVF(図3参照)を算出する。
Figure 2012057235
このとき、以下の式(4)を用いて、モデル化誤差ΔPPを近似的にカーブフィットする手法を利用する。
Figure 2012057235
具体的にはモデル化誤差のデータ群を用い、次数nの伝達関数Δcf(s)で近似する。本発明では、近似する目的で偏分反復法を用いて、伝達関数の係数を求める。なお、計算時間は次数nの値に応じて定まる。次数nが比較的小さい場合には、計算時間は短くて足りるが、高周波数側での精度に乏しい。
図5aはモデル化誤差を近似的にカーブフィットする手法を示す第一の図であり、縦軸はゲイン(db)、横軸は周波数f(Hz)を示している。図5aに示されるように、近似のための伝達関数Δcf(s)は、低周波数側では実際のモデル化誤差Δに概ね一致するものの、高周波数側ではモデル化誤差Δから大きく離間する。
Figure 2012057235
これに対し、次数nが比較的大きい場合には、図5aと同様な図である図5bに示されるように、伝達関数Δcf(s)は、実際のモデル化誤差Δに全周波数領域に亙って概ね一致する。ただし、次数nが大きいと計算時間がかかるので、演算制御部56の処理能力を考慮して決める。このようにして得られた伝達関数Δcf(s)をモデル化誤差ΔPPとして使用して式(3)よりフィードフォワードゲインGVFを求める。
最終的に、図4のステップS5において、スモールゲイン定理を用いて、位置ループの閉ループ伝達関数GBPおよびモデル化誤差ΔPPに基づいて位置比例ゲインKppを式(5)より求める。スモールゲイン定理により導かれる関係から、閉ループ伝達関数(式(5)では、「T」とする)の逆数が、モデル化誤差Δよりも周波数応答でみて、全周波数領域で大きいか否かで安定性を評価する。
図6はスモールゲイン定理を用いてモデル化誤差からフィードバックゲインを求めることを説明するための図である。図6においては、縦軸はゲイン(db)、横軸は周波数f(Hz)を示している。ここで、閉ループ伝達関数Tの逆数は、モデル化誤差Δに近いことが好ましく、閉ループ伝達関数Tの逆数をモデル化誤差Δに向かって矢印方向にシフトさせることが望まれる。
しかしながら、図6において破線で示されるように、閉ループ伝達関数Tの逆数の少なくとも一部分がモデル化誤差Δと交差すると、モデル化誤差Δが閉ループ伝達関数Tの逆数よりも大きい領域が発生する。この場合には、スモールゲイン定理を満たさないようになり、機械の安定性が損なわれる。従って、モデル化誤差Δに交差または接することなしに、閉ループ伝達関数Tの逆数をモデル化誤差Δ近傍に設定する(図6の実線を参照されたい)。このようにして位置ループの閉ループ伝達関数GBPを定め、式(1)等より位置比例ゲインKppを算出する。
図7は図2に示される速度制御部およびその周辺を示すブロック線図である。図7においては、反転補正値算出部96により作成された反転補正値が加算器61において速度指令に加算され、さらに、パルスコーダPCで検出された速度が減算器62において減算される。そのような速度指令は速度ループのコントローラCv(=Kvp・Kvi/s)に入力される。
図7に示されるように、速度ループのコントローラCvにおいては、減算器62からの出力は分岐され、一方では比例ゲインKvp(速度ループの第一のフィードバックゲイン)が乗算されると共に、他方では積分ゲインKvi(速度ループの第二のフィードバックゲイン)およびラプラス演算子sの逆数が乗算され、加算器94で互いに加算される。さらに、トルクフィードフォワード制御部92は伝達関数GAFでモデル化されており、その出力も加算器94で加算され、制振フィルタ100に入力される。
図7においては、分配制御部50からの速度指令と、パルスコーダPCで検出される実速度との間の領域は、速度ループの閉ループ伝達関数GBVとしてモデル化される。さらに、図7に示されるように、閉ループ伝達関数GBV内においては、速度ループの制御対象PVがモデル化されており、さらに、速度ループの制御対象PV内には、速度ループの制御対象モデルPV0が示されている。なお、図中における「s」はラプラス演算子であり、「J」はイナーシャであり、「Kt」はトルク定数である。図7におけるトルク定数Kt、「1/Js」および「ΔPV」は工作機械の状態によって変化するとともに、伝達関数GAF、比例ゲインKvp、積分ゲインKviおよび共振フィルタ100は最適化によって変化するものとする。
図8は、速度制御部に関する制御パラメータを算出するためのフローチャートである。なお、以下の処理は演算制御部56が行うものとする。本発明においては、図8に示される処理により、速度制御部64の制御パラメータとしての伝達関数GAF(フィードフォワードゲイン)ならびに比例ゲインKvpおよび積分ゲインKvi(フィードバックゲイン)を算出する。
はじめに、ステップS11で、速度ループの閉ループ伝達関数GBVを測定する。これは、図7に示される速度指令と、パルスコーダPCにより検出される実速度との比から求められる。
次いで、ステップS12において、速度ループの閉ループ伝達関数GBVに基づいて以下の式(6)により速度ループの制御対象PVを求める。
Figure 2012057235
次いで、ステップS13において、以下の式(7)により速度ループの制御対象PVからモデル化誤差ΔPVを求める。
Figure 2012057235
図9aおよび図9bは速度ループのモデル化誤差ΔPVを求める手法を示す図であり、縦軸はゲイン(db)、横軸は周波数f(Hz)を示している。図9aに示されるように、速度ループの制御対象モデルPV0を実際にプロットすると、直線状にはならず、高周波数側で誤差を多く含んでいる。
そのため、図9bに示されるように、低周波数側で速度ループの制御対象モデルPV0に合うように速度ループの制御対象PVを設定する。そして、設定された制御対象PVと制御対象モデルPV0との間の差の領域をモデル化誤差ΔPVとして定める。また、図7から分かるように、制御対象モデルPV0は、制振フィルタ100からの出力にKt/Js(=λ)が乗算されている。このため、実際のJ(イナーシャ)は、λをトルク定数Ktで除算することにより得られる。
その後、ステップS14において、以下の式(8)により、モデル化誤差ΔPVに基づいてフィードフォワードゲインGAF(図7参照)を算出する。このとき、式(4)を参照して説明したのと同様に、モデル化誤差ΔPVを近似的にカーブフィットする手法を利用する。
Figure 2012057235
最終的に、ステップS15において、スモールゲイン定理を用いて、速度ループの閉ループ伝達関数GBVおよびモデル化誤差ΔPVに基づいて速度比例ゲインKviおよび積分ゲインKvpを求める。それらゲインの求め方は、図4のステップS5と概ね同様であるので詳細を省略する。ただし、図6に示される伝達関数Tの逆数をモデル化誤差Δに向かってシフトさせるときに伝達関数Tの逆数がモデル化誤差Δに交差しないように、速度比例ゲインKviおよび積分ゲインKvpの比を調節する必要がある。このようにして速度ループの閉ループ伝達関数GBVを定め、式(6)等より速度比例ゲインKviおよび積分ゲインKvpを定める。
このように本発明においては、サーボ制御部52の動作をモデル化することにより得られた位置ループおよび速度ループのモデル化誤差ΔPP、ΔPVを用いて、フィードフォワードゲインGVF、GAFをそれぞれ算出している。さらに、本発明においては、位置ループおよび速度ループの閉ループ伝達関数GBP、GBVとモデル化誤差ΔPP、ΔPVとを用いて、フィードバックゲインKpp、Kvi、Kvpを求めている。
そして、これらゲインGVF、GAF、Kpp、Kvi、Kvpはいずれも数値制御工作機械10の制御パラメータである。本発明においては、モデル化により得られた閉ループ伝達関数および/またはモデル化誤差を用いているので、送り軸の状態に適した最適な制御パラメータが得られる。このため、本発明では、加工時において複数種類の制御パラメータを計算により迅速かつ自動的に求めることができる。それゆえ、本発明では、ワークWの加工面品位、形状精度を高いレベルで維持することが可能となっている。
ところで、図10はゲインと周波数との関係を示す図であり、図9bの内容からモデル化誤差ΔPvを抽出したものである。図10aから分かるように、比較的高周波数側の領域Zに誤差が集中している。この領域Zは、ゲインの平均値と各ゲインの値との比較から自動的に容易に特定できる。従って、この領域Zの値を抑えるように制振フィルタ100の共振フィルタ定数を選択すれば、図10bに示されるように誤差の少ない制御対象モデルPv0を作成することができる。
この制振フィルタ100の共振フィルタ定数も数値制御工作機械10の制御パラメータの一つである。従って、このような処理により、本発明では、さらに多数の制御パラメータを自動的に設定できることが分かるであろう。
ところで、送り軸には加減速パラメータ(加減速時における加速度、加速度変化率および所要時間、ならびに許容加速度、コーナ減速、補間後加減速)が設定されているが、このような加減速パラメータは、ワークWの質量、つまり送り軸の負荷に応じて変更する必要がある。ここで、許容加速度パラメータは、工具軌跡の曲率半径と指令速度で定義される加速度であり、コーナ減速パラメータは、コーナ部における加速度の不連続性の影響により発生する位置誤差を抑えるための減速速度であり、補間後加減速パラメータは、加速度および加速度変化率が無限大になることを防ぐために用いるフィルタの時定数である。従来では、ワークWをテーブル14に載せて実際に数値制御工作機械10を動作させることにより加減速パラメータを決定していた。このため、送り軸の状態に応じて加減速パラメータを自動的かつ高速に設定することが望まれている。そこで、本発明では、実際に工作機械を動作させることなく、計算機上の送り軸システムを使って、高速に最適な加減速パラメータを計算する。
図11(a)は、送り軸の送り速度と時間との関係を示す図であり、図11(b)は加速度と時間との関係を示す図である。送り速度が図11(a)に示されるようにゼロから所定値まで上昇するときには、加速度は図11(b)に示されるように一定の割合で上昇し、所定の値を維持した後、一定の割合で下降している。加速度が早く上昇または下降するとき、つまり加速度変化率が大きい場合には、図11(a)に破線で示されるように、誤差が大きくなって揺れや振動が発生する場合がある。
本発明では、図11(c)に示されるように、加速度α、加速度変化率α’からなる組が記憶部(図示しない)に複数、記憶されている。ここで、図11(b)から分かるように、時間TAは、送り速度がゼロから一定値になるまでの時間を示し、時間TBは、加速度αがゼロから一定値になるまでの時間を示している。
そして、加速度α、加速度変化率α’からなる組を一つずつ順番に加減速処理部102に入力して、位置指令を加減速処理する。位置ループの閉ループ伝達関数GBPから得られる値を実位置と比較して、それらの差が所定の範囲内にあるか否かを判定する。
そのような処理をn組まで順に行い、上記差が所定の範囲内に在る組を抽出する。次いで、そのような組から加速度変化率α’が所定値以下の組を抽出する。これは、加速度変化率が大きい場合に、揺れや振動などが数値制御工作機械10に発生するので、そのような場合を除くためである。最終的に、抽出された組の中から、時間TAの最も短い組を選択し、これを加減速パラメータとして設定する。
さらに、図14は工作機械の工具の一つの加工経路を示す図である。図14においては、工具22が一方の直線経路ABから円弧経路BCを通って他方の直線経路CDに移動するのを示している。円弧経路BCの半径をRとする。このような加工経路はNCプログラム42を解析することにより求められる。また、破線はこの加工経路に対して機械が動作したときの実軌跡を拡大して表している。
そして図15a、図15bは、図14におけるX方向速度、X方向加速度およびX方向誤差と時間の関係を示す図である。図15a、図15bにおいて、各波形はシミュレーションにより求められた結果を示している。図15aは速度VXが比較的大きい(F1)ため、加速度αXも大きく(−F1 2/R)、その結果、C点における誤差EXも大きい(e1)様子を示している。一方、図15aは速度VXが比較的小さい(F2)ため、加速度αXも小さく(−F2 2/R)、その結果、C点における誤差EXも小さい(e2)様子を示している。
図15aのように速度(F1)が大きいと、C点において大きな加速度(−F1 2/R)が瞬間的に消失するため大きな誤差(e1)が発生し、図14の実軌跡が乱れ、工作機械に振動が発生したり、ワークに加工不良が生じたりする。図15bのように、誤差(e2)が小さいと工作機械に振動が発生したり、ワークに加工不良が生じたりすることがない。
そこで、図16に示すフローチャートで実軌跡の乱れが許容値に入るように適正な速度VXを求め、図2の加減速処理部102に含まれる半径Rと指令速度Fから計算される加速度(F2/R)の閾値パラメータを自動決定する。ステップS31において、図14に示す指令速度Fと半径Rに予め決めておいた初期値F0と半径R(固定値)を設定する。次にステップS32のX軸に関する位置指令を作成する。次にステップS33ではその位置指令を図3の位置制御部60の位置指令に入力し、誤差(位置指令−実位置)をシミュレーションする。ステップS34において、C点における誤差(EX)が許容値以下になっているか判断する。その結果、まだ誤差が許容値(e2)より大きい場合は、ステップS35において予め設定されるΔFをステップS32で使用したF(Fold)から引いて、次回ステップS32で使用するFとし、ステップS32、S33を繰り返す。ステップS34において誤差が許容値(e2)以下になったら、ステップS36において図2の加減速処理部102に含まれる閾値パラメータ(=F2/R)を現在のFで計算し設定する。
このようにして、図2の加減速処理部102に設定された加減速パラメータは送り軸の状態に対して適切となる。また、位置制御部60を用いて、工作機械を実際動作させることなしにシミュレーションによって計算することから、短時間で最適な加減速パラメータを求めることができる。
さらに、図12は制御パラメータに基づいて異常判断を行うための処理を示すフローチャートである。図12に示されるように、ステップS21においては、本発明により算出された制御パラメータが、どの制御パラメータであるかを確認する。
次いで、ステップS22において、その制御パラメータに関して予め設定された閾値の組を記憶部(図示しない)から読込む。閾値の組は実験等により定められ、第一閾値と、第一閾値よりも大きい第二閾値とを含んでいる。これら閾値は加工されるべきワークWの種類、工具の質量などに応じて異なるものとする。
そして、ステップS23において制御パラメータが第一閾値よりも大きいと判定された場合には、ステップS24に進んで、操作者に対し視覚的または聴覚的な警告を発令する。そして、ステップS25において、制御パラメータが第二閾値よりも大きいと判定された場合には、ステップS26に進んで数値制御工作機械10自体を停止させる。
前述したように、本発明においては、複数種類の制御パラメータが得られ、また、それら制御パラメータのそれぞれを異常判断の指標として使用している。従って、各制御パラメータに応じた固有の異常判断を行うことができる。
例えば、制御パラメータが制振フィルタ100の共振フィルタ定数である場合には、送り軸の剛性低下を判定することができる。その理由は、送り軸を構成するボールねじ装置の予圧が低下すると、送り軸の剛性も低下するためである。当然のことながら、他の制御パラメータを選択した場合には、他の種類の異常判断を行うことができる。
従って、本発明においては、複数種類の最適化された制御パラメータを用いて異常判断を多面的に行うことができ、その結果、異常判断の信頼性を高めることができる。さらに、本発明においては、このような異常判断を自動的に行えるので、オペレータに対する負担を軽減することも可能である。本発明の数値制御方法を工作機械の電源立上げ時に自動的に実行させ、最適化された制御パラメータの日々の変化から工作機械の状態チェックを行うこともできる。
ところで、図13aは位置ループを簡潔に示す図である。図4のステップS1において位置ループの閉ループ伝達関数GBPを求めるときには、図13aに示される工作機械の位置指令を振幅を維持しつつ周波数を変えて、例えば10Hz〜1000Hzの範囲で入力する。そして、補償器81およびプラント82を通過した出力が、スケールまたはサーボモータのエンコーダにより検出される。次いで、入力と出力とをフーリエ変換して、それらの比を求めることにより、伝達関数GBPを求めることができる。
同様に、図13bは速度ループを簡潔に示す図である。図8のステップS11において速度ループの速度ループ伝達関数GBVを求めるときには、サーボモータを動作させて図13bに示されるように、そのトルクを振幅を維持しつつ周波数を変えて、例えば10Hz〜1000Hzの範囲で入力する。そして、補償器81およびプラント82を通過した出力をトルク検出器などで検出する。次いで、入力と出力とをフーリエ変換して、それらの比を求めることにより、伝達関数GBVを求めることができる。なお、当然のことながら、トルクの代わりに、速度を直接的に入力してもよい。
このように周波数を例えば10Hz〜1000Hzの範囲で変えつつ位置指令などを入力するのに要する時間は数秒で足りる。また、このような作業においては、工作機械を実際に動作させる必要がない。このため、伝達関数GBP、GBVの算出は極めて短時間で行えるのが分かるであろう。さらに、プラント82は工作機械のモデルと誤差、例えばアナログデジタル変換時の変換遅れ等とを通常は含んでいる。本発明では伝達関数GBP、GBVを通じて各種の判定を行っているので、実際の工作機械の動作により近い結果が得られるのが分かるであろう。
10 数値制御工作機械
14 テーブル
16 コラム
20 主軸
22 工具
40 数値制御部
42 NCプログラム
46 解釈済みプログラム記憶部
48 プログラム実行指令部
50 分配制御部
52 サーボ制御部
54 送り軸モータ駆動部
56 演算制御部
58 減算器
60 位置制御部
61 加算器
62 減算器
64 速度制御部
92 トルクフィードフォワード制御部
94 加算器
96 反転補正値算出部
98 パラメータ演算部
100 制振フィルタ
102 加減速処理部

Claims (5)

  1. サーボ制御部により工作機械の送り軸を駆動する数値制御方法において、
    前記送り軸のサーボ制御部の動作をモデル化して伝達関数を求め、
    前記送り軸の周波数応答を用いて、前記工作機械のサーボ制御部における位置ループの閉ループ伝達関数および速度ループの閉ループ伝達関数のうちの少なくとも一方を測定し、
    測定された閉ループ伝達関数を用いて前記位置ループの制御対象および前記速度ループの制御対象のうちの少なくとも一方を求め、
    前記制御対象から前記位置ループのモデル化誤差および前記速度ループのモデル化誤差のうちの少なくとも一方を求め、
    前記閉ループ伝達関数およびモデル化誤差のうちの少なくとも一方を用いて前記サーボ制御部の少なくとも一つの制御パラメータを算出することを特徴とする数値制御方法。
  2. 前記位置ループのモデル化誤差を用いて、前記位置ループのフィードフォワードゲインを制御パラメータとして求めるか、または、前記速度ループのモデル化誤差を用いて、前記速度ループのフィードフォワードゲインを制御パラメータとして求めるようにした請求項1に記載の数値制御方法。
  3. 前記位置ループの閉ループ伝達関数および前記位置ループのモデル化誤差からスモールゲイン定理を用いて、前記位置ループのフィードバックゲインを求めるか、または、前記速度ループの閉ループ伝達関数および前記速度ループのモデル化誤差からスモールゲイン定理を用いて、前記速度ループのフィードバックゲインを求めるようにした請求項1に記載の数値制御方法。
  4. 前記工作機械のサーボ制御部における位置ループの閉ループ伝達関数を求め、
    予め定めた加速度および時間を少なくとも含む複数の組を前記位置ループの閉ループ伝達関数に入力し、
    前記送り軸の位置指令と実際の位置との間の偏差が所望の値以下になるように、前記複数の組から、加速度および時間を少なくとも含む一つの組を加減速パラメータとして選択する請求項1に記載の数値制御方法。
  5. 算出された制御パラメータと、当該制御パラメータ用の所定の閾値とを比較し、
    前記制御パラメータが前記閾値以上である場合には、警告するようにした請求項1に記載の数値制御方法。
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