JPWO2011118746A1 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents
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Abstract
流動性と透明性に優れた高濃度のセルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで効率良く製造できる方法を提供する。具体的には、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化して酸化されたセルロース系原料を調製し、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼの存在下で超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で解繊・分散処理する。
Description
本発明は、N−オキシル化合物で酸化したセルロース系原料から、従来よりも低エネルギーで高濃度のセルロースナノファイバー分散液を製造できる方法に関する。
セルロース系原料を触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができ、このカルボキシル基を導入したセルロース系原料は、水中でミキサーなどの簡単な機械処理を行なうことにより、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散液へと調製することができることが知られている(非特許文献1)。
セルロースナノファイバーは、生分解性のある水分散型新規素材である。セルロースナノファイバーの表面には酸化反応によりカルボキシル基が導入されているため、セルロースナノファイバーを、カルボキシル基を基点として、自由に改質することができる。また、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、分散液の形態であるため、各種水溶性ポリマーとブレンドしたり、或いは有機・無機系顔料と複合化することで品質の改変を図ることもできる。さらに、セルロースナノファイバーをシート化したり繊維化することも可能である。セルロースナノファイバーのこのような特性を活かし、高機能包装材料、透明有機基盤部材、高機能繊維、分離膜、再生医療材料などに応用することが想定されている。今後、セルロースナノファイバーの特徴を最大限活用することで循環型の安全・安心社会形成に不可欠な新規高機能性商品の開発が期待されている。
しかしながら、上記の方法、すなわち、セルロース系原料をTEMPOを用いて酸化してミキサーで解繊することにより得られたセルロースナノファイバー分散液は、0.3〜0.5%(w/v)といった程度の低い濃度でもB型粘度(60rpm、20℃)が800〜4000mPa・s程度というように、非常に高い粘度を有しており、取り扱いが容易ではなく、その応用範囲は実際には限られていた。例えば、セルロースナノファイバー分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる場合、分散液の粘度が高すぎると均質に塗布することができないため、分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を500〜3000mPa・s程度に調整しなければならず、そのためには、分散液中のセルロースナノファイバーの濃度を0.2〜0.4%(w/v)程度の低い濃度に設定せざるを得なかった。しかしながら、そのような低濃度の分散液を用いる場合には、所望のフィルム厚みが達成されるまで何度も塗布と乾燥とを繰り返し実施せざるを得ず、効率が悪いという問題があった。
また、セルロースナノファイバー分散液を顔料及びバインダーを含む塗料に混ぜて紙などに塗布する場合、分散液の粘度が高すぎると塗料中に均一に混合させることができないため、分散液の濃度を低くして低粘度化させなければならないが、このような低濃度の分散液を用いると塗料の濃度が希薄となり、塗布に必要な十分な粘性が確保できないため塗布し難くなったり、乾燥負荷が増大したり、また、塗料が原紙に浸透することにより有効塗膜が薄くなって光沢発現性や表面強度、印刷むらの抑制などの塗膜に期待される所望の機能が発現しないという問題もあった。
このように、TEMPOを用いて酸化して得られたセルロース系原料をミキサーを用いて解繊処理する従来の方法では、得られる分散液の粘度が非常に高くなり、様々な問題を生じていた。また、粘度が高すぎると、攪拌羽周辺のみで分散が進行するため、不均一な分散が生じ、透明性の低い分散液となるという問題もあった。
また、酸化されたセルロース系原料を、ミキサーよりも解繊・分散力の高いホモジナイザーを用いて解繊処理すると、分散初期にセルロース系原料が顕著に増粘して流動性が悪化し、分散処理時に要する消費電力量が大幅に増大するという問題があり、また、装置内部にセルロースナノファイバー分散液が付着して分散が十分に行なわれなくなったり、また、装置から分散液を取り出すなどの操作が困難になって分散液の歩留りが低下するという問題もあった。
Saito, T., et al., Cellulose Commun., 14 (2), 62 (2007)
本発明は、高濃度であっても低い粘度を有し、流動性に優れており、かつ、透明性にも優れたセルロースナノファイバー分散液を、低エネルギーで効率良く製造できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、かかる従来技術の問題を解決するために鋭意検討した結果、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化して酸化されたセルロース系原料を調製し、該酸化されたセルロース系原料にセルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを添加し、これら酵素の存在下で超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で解繊・分散することにより、1〜3%(w/v)くらいの高濃度であっても流動性と透明性とに優れているセルロースナノファイバー分散液を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物との存在下でセルロース系原料を酸化し、得られた酸化されたセルロース系原料にセルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを添加し、これら酵素の存在下で超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で解繊・分散することにより、高濃度であっても低粘度であり、流動性に優れていて取り扱いがしやすく、かつ透明性にも優れているセルロースナノファイバーの分散液を、従来よりも低い消費電力量で効率的に製造することができる。本発明により得られたセルロースナノファイバー分散液は、高濃度であっても流動性に優れているため、例えば、セルロースナノファイバーを基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる際に、1〜3%(w/v)といった高濃度のセルロースナノファイバーを含有する塗料を500〜3000mPa・s(B型粘度、60rpm、20℃)といった低い粘度で調製することができ、塗料を1回塗布するだけで5〜30μm程度の厚さを有するフィルムを形成できるといった利点がある。従来は、500〜3000mPa・s(B型粘度、60rpm、20℃)程度の粘度を有する塗料を調製するためには、セルロースナノファイバーの濃度を0.2〜0.4%(w/v)といった低い濃度に設定せざるを得ず、5〜30μm程度の厚さを有するフィルムを作成するには、塗布と乾燥を何度も繰り返し行なう必要があった。本発明により得られるセルロースナノファイバー分散液の高濃度で流動性が高いという特徴は、非常に優れたものである。
本発明では、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用い水中にてセルロース系原料を酸化し、酸化されたセルロース系原料にセルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを添加し、これら酵素の存在下で超高圧ホモジナイザーで100MPa以上で解繊・分散することにより、解繊・分散処理における消費電力量を低減させることができ、セルロースナノファイバーを低エネルギーで効率よく製造することができる。
(N−オキシル化合物)
本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)が好ましい。また、下記式2〜4のいずれかで表されるN−オキシル化合物、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体は、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、とりわけ好ましい。
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で、重合度の高いセルロースナノファイバーを製造できるため、とりわけ好ましい。
N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmol程度を用いることができる。
(臭化物またはヨウ化物)
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度を用いることができる。
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度を用いることができる。
(酸化剤)
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、セルロースナノファイバー生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度を用いることができる。
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、セルロースナノファイバー生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが、特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度を用いることができる。
(セルロース系原料)
本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用することができる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末を用いることが量産化やコストの観点から好ましい。また、粉末セルロース及び微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有するセルロースナノファイバー分散液を製造することができるから、とりわけ好ましい。
本発明で用いるセルロース系原料は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用することができる他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末を用いることが量産化やコストの観点から好ましい。また、粉末セルロース及び微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有するセルロースナノファイバー分散液を製造することができるから、とりわけ好ましい。
(酸化反応条件)
本発明の方法は温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができるという特色がある。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。酸化反応における反応時間は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、0.5〜6時間程度である。
本発明の方法は温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができるという特色がある。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。酸化反応における反応時間は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、0.5〜6時間程度である。
(酵素の存在下での解繊・分散処理)
本発明のセルロースナノファイバーは、前述の方法により得られた酸化セルロースに、セルロースの分解酵素であるセルラーゼや、ヘミセルラーゼの分解酵素であるヘミセルラーゼ(例えば、キシラナーゼやマンナーゼ)を単独、又は2種以上混合して添加し、超高圧ホモジナイザーを用いて、100MPa以上の圧力で解繊・分散処理することにより製造することができる。
本発明のセルロースナノファイバーは、前述の方法により得られた酸化セルロースに、セルロースの分解酵素であるセルラーゼや、ヘミセルラーゼの分解酵素であるヘミセルラーゼ(例えば、キシラナーゼやマンナーゼ)を単独、又は2種以上混合して添加し、超高圧ホモジナイザーを用いて、100MPa以上の圧力で解繊・分散処理することにより製造することができる。
添加するセルラーゼ、ヘミセルラーゼは、特に限定されず、セルラーゼまたはヘミセルラーゼ生産性糸状菌、細菌、放線菌、担子菌由来のものや、遺伝子組換え、細胞融合等の遺伝子操作により製造したものを、単独又は2種以上混合して用いることができる。また、市販品を用いることもできる。市販セルラーゼとしては、例えば、ノボザイムズジャパン社製Novozyme 476、天野エンザイム社製セルラーゼAP3、ヤクルト薬品工業社製セルラーゼオノズカRS、ジェネンコア協和社製オプチマーゼCX40L、合同酒精社製のGODO-TCL、ナガセケムテックス社製セルラーゼXL-522、洛東化成工業社製エンチロンCMなどを、市販ヘミセルラーゼとしては、ノボザイムズジャパン社製パルプザイム(登録商標)、天野エンザイム社製ヘミセルラーゼアマノ90、新日本化学工業社製スミチームXなどを用いることができる。
酵素の添加量は、絶乾したセルロース系原料に対して0.001質量%以上であれば処理時間と効率の観点から所望の酵素反応を行わせるのに十分であり、また、10質量%以下であればセルロースの過度の加水分解を抑制し、セルロースナノファイバーの収率の低下を防ぐことができるから好ましい。したがって、酵素の添加量は、絶乾したセルロース系原料に対して、0.001〜10質量%が好ましい。より好ましくは、0.01〜5質量%、さらに好ましくは、0.05〜2質量%である。なお、ここでいう「酵素の量」とは、酵素水溶液の乾燥固形分量のことをいう。
本発明では、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼの存在下で、超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の圧力で、酸化されたセルロース系原料を解繊・分散する。超高圧ホモジナイザー装置は、公知の装置を必要に応じて単独もしくは2種類以上組合せて用いることができる。
解繊・分散処理時の圧力は、100MPa以上とする。圧力が100MPa未満であると、得られる分散液のB型粘度が増大して分散液の流動性が悪化し、さらに、透明度も顕著に悪化する。圧力は、好ましくは120MPa以上、より好ましくは140MPa以上である。
本発明者らは、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを100MPa以上という超高圧下におくことにより、酵素の熱安定性が向上し、また、セルロース及びヘミセルロースの加水分解活性も向上することを見出した。したがって、100MPa以上という圧力は、セルロースナノファイバーの機械的な解繊・分散のためだけではなく、酵素反応の促進の観点からも好ましい。
酵素の存在下で解繊・分散処理を行なう際のpH、温度、処理時間は、酵素による加水分解反応が進行する条件であれば特に制限されないが、pH4〜10、好ましくは、pH5〜9、さらに好ましくは、pH6〜8で、温度40〜70℃、好ましくは、45℃〜65℃、さらに好ましくは、50℃〜60℃で、所望の粘度となるまで処理時間やパス回数を適宜変更することが、酵素反応効率の観点から好ましい。
超高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、酸化されたセルロース系原料を予備処理してもよい。
(酵素の失活処理)
本発明では、必要に応じて、酵素処理したセルロースナノファイバー分散液に紫外線を照射し、及び/または加熱することにより、酵素を失活させてもよい。
本発明では、必要に応じて、酵素処理したセルロースナノファイバー分散液に紫外線を照射し、及び/または加熱することにより、酵素を失活させてもよい。
加熱して酵素を失活させる場合には、酵素の耐熱性に応じて、加圧型オートクレーブなどを用い、温度90〜120℃で5〜30分間程度処理すればよい。
紫外線を照射して酵素を失活させる場合には、用いる紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、酵素に作用するだけでなく、セルロースやヘミセルロースにも作用して、セルロースナノファイバーのさらなる短繊維化を促進することができるから、酵素の失活のみならず、セルロースナノファイバーの低粘度化の観点からも特に好ましい。
紫外線を照射する光源としては、100〜400nmの波長領域の光を持つものが使用でき、具体的には、キセノンショートアークランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ等が一例として挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合せて使用することができる。特に波長特性の異なる複数の光源を組み合わせて使用すると、異なる波長の紫外線を同時に照射することにより酵素やセルロース鎖、ヘミセルロース鎖における切断箇所が増加し、酵素の失活やセルロースナノファイバーの短繊維化が促進されるため好ましい。
紫外線を照射して酵素を失活させる際には、酸素、オゾン、または、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過炭酸Na、過ホウ酸Na等)などの助剤を添加すると、紫外線による光酸化反応の効率をより高めることができ、好ましい。
(低粘度化処理)
本発明では、上記の酸化されたセルロース系原料を酵素存在下で解繊・分散処理する前に、酸化されたセルロース系原料を低粘度化処理してもよい。低粘度化処理とは、酸化されたセルロース系原料のセルロース鎖を適度に切断し(セルロース鎖の短繊維化)、原料を低粘度化させる処理をいう。セルロース系原料の粘度が低下するような処理であれば、いずれでもよいが、例えば、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射する処理、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解する処理、酸化されたセルロース系原料を酸で加水分解する処理、並びにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
本発明では、上記の酸化されたセルロース系原料を酵素存在下で解繊・分散処理する前に、酸化されたセルロース系原料を低粘度化処理してもよい。低粘度化処理とは、酸化されたセルロース系原料のセルロース鎖を適度に切断し(セルロース鎖の短繊維化)、原料を低粘度化させる処理をいう。セルロース系原料の粘度が低下するような処理であれば、いずれでもよいが、例えば、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射する処理、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解する処理、酸化されたセルロース系原料を酸で加水分解する処理、並びにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
(紫外線照射)
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射する場合、紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、直接セルロースやヘミセルロースに作用して低分子かを引き起こし、セルロース系原料を短繊維化することができるから、特に好ましい。
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射する場合、紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、直接セルロースやヘミセルロースに作用して低分子かを引き起こし、セルロース系原料を短繊維化することができるから、特に好ましい。
紫外線を照射する光源としては、100〜400nmの波長領域の光を持つものを使用することができ、具体的には、キセノンショートアークランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ等が一例として挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合せて使用することができる。特に波長特性の異なる複数の光源を組み合わせて使用すると、異なる波長の紫外線を同時に照射することによりセルロース鎖やヘミセルロース鎖における切断箇所が増加し、短繊維化が促進されるため好ましい。
紫外線照射を行う際の酸化されたセルロース系原料を収容する容器としては、例えば、300nmより長波長の紫外線を用いる場合は、硬質ガラス製のものを用いることができるが、それより短波長の紫外線を用いる場合は、紫外線をより透過させる石英ガラス製のものを用いる方がよい。なお、容器の光透過反応に関与しない部分の材質については、用いる紫外線の波長に対して劣化の少ない材質の中から適切なものを選定することができる。
紫外線を照射する際の酸化されたセルロース系原料の濃度は、0.1質量%以上であればエネルギー効率が高まるため好ましく、また12質量%以下であれば紫外線照射装置内でのセルロース系原料の流動性が良好であり反応効率が高まるため、好ましい。したがって、0.1〜12質量%の範囲が好ましい。より好ましくは、0.5〜5質量%、さらに好ましくは、1〜3質量%である。
また、紫外線を照射する際のセルロース系原料の温度は、20℃以上であれば光酸化反応の効率が高まるため好ましく、一方、95℃以下であればセルロース系原料の品質の悪化などの悪影響のおそれがなく、また反応装置内の圧力が大気圧を超えるおそれもなくなるため好ましい。したがって、20〜95℃の範囲が好ましい。この範囲内であれば、耐圧性を考慮した装置設計を行なう必要性が特にないという利点もある。より好ましくは、20〜80℃、さらに好ましくは、20〜50℃である。
また、紫外線を照射する際のpHは特に限定はないが、プロセスの簡素化を考えると中性領域、例えばpH6.0〜8.0程度で処理することが好ましい。
紫外線照射反応においてセルロース系原料が受ける照射の程度は、照射反応装置内でのセルロース系原料の滞留時間を調節することや、照射光源のエネルギー量を調節すること等により、任意に設定できる。また、例えば、照射装置内のセルロース系原料の濃度を水希釈によって調節することや、あるいは空気や窒素等の不活性気体をセルロース系原料中に吹き込むことによってセルロース系原料の濃度を調節することにより、照射反応装置内でセルロース系原料が受ける紫外線の照射量を、任意に制御することができる。これらの滞留時間や濃度などの条件は、目標とする紫外線照射反応後の酸化されたセルロース系原料の品質(繊維長やセルロース重合度等)にあわせて、適宜設定できる。
また、紫外線照射処理は、酸素、オゾン、または、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過炭酸Na、過ホウ酸Na等)などの助剤の存在下で行なうと、光酸化反応の効率をより高めることができるため、好ましい。
本発明において、特に135〜242nmの波長領域の紫外線を照射する場合、光源周辺の気相部には通常空気が存在するためオゾンが生成する。本発明においては、この光源周辺部に連続的に空気を供給する一方で、生成するオゾンを連続的に抜き出し、この抜き出したオゾンを酸化されたセルロース系原料へと注入することにより、系外からオゾンを供給すること無しに、光酸化反応の助剤としてオゾンを利用することができる。また更に、光源周辺の気相部に酸素を供給することにより、より大量のオゾンを系内に発生させることができ、発生したオゾンを光酸化反応の助剤として使用することができる。このように、本発明では、紫外線照射反応装置で副次的に発生するオゾンを利用することができることも大きな利点である。
また、本発明において、紫外線照射処理は、複数回繰り返すことができる。繰り返しの回数は目標とする酸化されたセルロース系原料の品質や、漂白などの後処理などとの関係に応じて適宜設定できる。例えば、特に制限されないが、100〜400nm、好ましくは135〜260nmの紫外線を、1〜10回、好ましくは2〜5回程度、1回あたり0.5〜10時間、好ましくは0.5〜3時間くらいの長さで、照射することができる。
(過酸化水素及びオゾンによる酸化分解)
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解処理する場合、オゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置で公知の方法で発生させることができる。本発明におけるオゾンの添加量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの添加量がセルロース系原料の絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、次工程での解繊・分散処理に要するエネルギーを大幅に削減することができる。また、3倍以下であればセルロースの過度の分解を抑制でき、セルロース系原料の収率の低下を防ぐことができる。オゾン添加量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.3〜2.5倍がより好ましく、0.5〜1.5倍がさらに好ましい。
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解処理する場合、オゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置で公知の方法で発生させることができる。本発明におけるオゾンの添加量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの添加量がセルロース系原料の絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、次工程での解繊・分散処理に要するエネルギーを大幅に削減することができる。また、3倍以下であればセルロースの過度の分解を抑制でき、セルロース系原料の収率の低下を防ぐことができる。オゾン添加量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.3〜2.5倍がより好ましく、0.5〜1.5倍がさらに好ましい。
また、過酸化水素の添加量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.001〜1.5倍が好ましい。セルロース系原料の添加量の0.001倍以上の量で過酸化水素を使用すると、オゾンと過酸化水素との相乗作用が発揮される。また、セルロース系原料の分解には、過酸化水素を、セルロース系原料の1.5倍以下程度の量で使用すれば十分であり、それより多い添加量はコストアップにつながると考えられる。過酸化水素の添加量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜1.0倍がより好ましい。
オゾン及び過酸化水素による酸化分解処理は、pH2〜12、好ましくは、pH4〜10、さらに好ましくは、pH6〜8で、温度は10〜90℃、好ましくは、20〜70℃、さらに好ましくは30〜50℃で、1〜20時間、好ましくは、2〜10時間、さらに好ましくは、3〜6時間程度行なうことが、酸化分解反応効率の観点から好ましい。
オゾン及び過酸化水素による処理を行なうための装置は、当業者に通常使用される装置を用いることができ、例えば、反応室、攪拌機、薬品注入装置、加熱器、及びpH電極を備えた通常の反応器を使用することができる。
オゾン及び過酸化水素による処理後、水溶液中に残留するオゾンや過酸化水素は次工程の解繊・分散処理でも有効に作用し、セルロースナノファイバー分散液の低粘度化を一層促進することができる。
過酸化水素及びオゾンにより、酸化されたセルロース系原料を効率よく低粘度化できる理由としては、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、該原料同士の間には、カルボキシル基同士の電荷反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。そして、該原料をオゾン及び過酸化水素で処理すると、オゾン及び過酸化水素から、酸化力に優れるヒドロキシラジカルが発生し、該原料中のセルロース鎖を効率良く酸化分解し、最終的にセルロース系原料を短繊維化し、セルロース系原料を低粘度化すると考えられる。
(酸による加水分解)
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料に酸を添加してセルロース鎖の加水分解を行なう(酸加水分解処理)場合、使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、又はリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。
本発明の低粘度化処理において、酸化されたセルロース系原料に酸を添加してセルロース鎖の加水分解を行なう(酸加水分解処理)場合、使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、又はリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。
酸加水分解処理の条件としては、酸がセルロースの非晶部に作用するような条件であれば適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、酸の添加量としては、セルロース系原料の絶乾質量に対して0.01〜0.5質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。酸の添加量が0.01質量%以上であると、セルロースの加水分解が進行し、次工程でのセルロース系原料の解繊・分散効率が向上するから好ましく、0.5質量%以下であれば、セルロースの過度の加水分解を防ぐことができ、セルロースナノファイバーの収率の低下を防止することができるから好ましい。酸加水分解時の反応液のpHは、2.0〜4.0、好ましくは2.0以上3.0未満である。また、酸加水分解処理は、温度70〜120℃で、1〜10時間行なうことが、酸加水分解効率の観点から好ましい。
また、酸加水分解処理後は、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和することが、その後の解繊・分散処理の効率の観点から好ましい。
酸加水分解処理により、酸化されたセルロース系原料を効率よく低粘度化できる理由としては、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、該原料同士の間には、カルボキシル基同士の電化反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。そして、該原料に、酸を添加して加水分解を行なうと、セルロース分子の強固なネットワークが崩れ、該原料の比表面積が増大し、セルロース系原料の短繊維化が促進され、セルロース系原料が低粘度化すると考えられる。
(セルロースナノファイバー)
本発明のセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルである。本発明において、「ナノファイバー化する」とは、粉末セルロースを、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。
本発明のセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルである。本発明において、「ナノファイバー化する」とは、粉末セルロースを、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。
本発明により得られるセルロースナノファイバー分散液は、濃度2%(w/v)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜3000mPa・sであり好ましくは、500〜2000mPa・sであり、最も好ましくは、600〜1500mPa・sである。本発明により得られるセルロースナノファイバー分散液は、低粘度であり良好な流動性を有するため、塗料の調製などの加工がし易いという利点を有する。
また、本発明により得られるセルロースナノファイバー分散液は、濃度0.1%(w/v)における光透過率(660nm)(透明度の指標である。)が90%以上であり、好ましくは95%以上である、最も好ましくは97%以上である。透明度が上記の範囲であると、分散液中に、ナノファイバー化されていないセルロースや、ナノファイバー同士の凝集がほとんど存在していないと言うことができ、そのような分散液を用いてフィルムを形成すると、透明性及びバリアー性に優れたフィルムを得ることができる。
以上の通り、本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、流動性と透明性に優れており、さらには、バリアー性や耐熱性にも優れているので、包装材料等の様々な用途に使用することが可能である。
なお、本発明において、セルロースナノファイバー分散液のB型粘度は、当業者に慣用される通常のB型粘度計を用いて測定することができ、例えば、東機産業社のTV−10型粘度計を用いて、20℃及び60rpmの条件で測定することができる。
また、セルロースナノファイバー分散液の透明度は、紫外・可視分光光度計を用いて660nm光の透過率として測定することができる。
また、本発明のセルロースナノファイバーのカルボキシル基量としては0.5mmol/g以上であるものが望ましい。セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、セルロースナノファイバーの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕
(本発明の作用)
本発明では、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料を、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼの存在下で、100MPa以上の圧力下で解繊・分散することにより、高濃度であっても低粘度であり、流動性と透明性に優れているセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。その理由は、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料はミクロフィブリルから構成され、その表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、ミクロフィブリル同士の間には、カルボキシル基同士の電荷反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。該原料にセルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを共存させた状態で100MPa以上という超高圧下で処理すると、加圧により酵素の熱安定性が向上し、また、セルロース、へミセルロース等の多糖の加水分解活性も向上して、高い酵素反応効率で、セルロース鎖、ヘミセルロース鎖の加水分解が起こると考えられる。さらに、セルロース系原料が解繊してナノファイバー化することによりセルロース系原料の比面積が増大し、多糖の分解反応がさらに加速されると考えられる。その結果、セルロースナノファイバーを構成するセルロース鎖が効率よく分断され、最終的にセルロースナノファイバーの短繊維化が促進されると考えられる。このセルロース鎖の短繊維化により、得られる分散液のB型粘度が顕著に低下し、流動性が向上すると考えられる。また、セルロース鎖の短繊維化により、分散液の透明度が顕著に向上すると考えられる。
本発明では、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料を、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼの存在下で、100MPa以上の圧力下で解繊・分散することにより、高濃度であっても低粘度であり、流動性と透明性に優れているセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。その理由は、以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料はミクロフィブリルから構成され、その表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、ミクロフィブリル同士の間には、カルボキシル基同士の電荷反発力の作用で、通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在すると考えられる。該原料にセルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを共存させた状態で100MPa以上という超高圧下で処理すると、加圧により酵素の熱安定性が向上し、また、セルロース、へミセルロース等の多糖の加水分解活性も向上して、高い酵素反応効率で、セルロース鎖、ヘミセルロース鎖の加水分解が起こると考えられる。さらに、セルロース系原料が解繊してナノファイバー化することによりセルロース系原料の比面積が増大し、多糖の分解反応がさらに加速されると考えられる。その結果、セルロースナノファイバーを構成するセルロース鎖が効率よく分断され、最終的にセルロースナノファイバーの短繊維化が促進されると考えられる。このセルロース鎖の短繊維化により、得られる分散液のB型粘度が顕著に低下し、流動性が向上すると考えられる。また、セルロース鎖の短繊維化により、分散液の透明度が顕著に向上すると考えられる。
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社製)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液18ml(7.2mmol/g)を添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中、系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化されたセルロース系原料を得た。酸化されたセルロース系原料の2%(w/v)スラリーに、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)を、酸化されたセルロース系原料に対して2質量%添加し、超高圧ホモジナイザーにより50℃、140MPaの圧力で5回処理した(解繊・分散処理)ところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られたゲル状分散液を、105℃で30分間処理してセルラーゼを失活させた(セルラーゼの失活処理)。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)をTV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定し、0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液の透明度(660nm 光の透過率)をUV−VIS分光光度計 UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定した。また、解繊・分散処理に要した消費電力を(処理時における電力)×(処理時間)/(処理したサンプル量)により求めた。結果を表1に示す。
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社製)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液18ml(7.2mmol/g)を添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中、系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化されたセルロース系原料を得た。酸化されたセルロース系原料の2%(w/v)スラリーに、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)を、酸化されたセルロース系原料に対して2質量%添加し、超高圧ホモジナイザーにより50℃、140MPaの圧力で5回処理した(解繊・分散処理)ところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られたゲル状分散液を、105℃で30分間処理してセルラーゼを失活させた(セルラーゼの失活処理)。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)をTV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定し、0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液の透明度(660nm 光の透過率)をUV−VIS分光光度計 UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定した。また、解繊・分散処理に要した消費電力を(処理時における電力)×(処理時間)/(処理したサンプル量)により求めた。結果を表1に示す。
[実施例2]
超高圧ホモジナイザーの圧力を100MPaとした以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーの圧力を100MPaとした以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例3]
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧水銀ランプを用いて254nmに主ピークを有する紫外線を2時間照射した以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧水銀ランプを用いて254nmに主ピークを有する紫外線を2時間照射した以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例4]
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧紫外線ランプを用いて254nmと185nmの紫外線を同時に照射した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧紫外線ランプを用いて254nmと185nmの紫外線を同時に照射した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例5]
紫外線照射時に、酸化されたセルロース系原料に対して過酸化水素を1%(w/v)添加した以外は、実施例3と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
紫外線照射時に、酸化されたセルロース系原料に対して過酸化水素を1%(w/v)添加した以外は、実施例3と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例6]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプの代わりに、広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプの代わりに、広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例7]
酸化されたセルロース系原料に対し、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)とヘミセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Pulpzyme HC)を各々2質量%添加した以外は、実施例6と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
酸化されたセルロース系原料に対し、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)とヘミセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Pulpzyme HC)を各々2質量%添加した以外は、実施例6と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例8]
超高圧ホモジナイザーでの処理時の温度を40℃とした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーでの処理時の温度を40℃とした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例9]
超高圧ホモジナイザーでの処理時の温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーでの処理時の温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例10]
酸化されたセルロース系原料にセルラーゼを添加する前に、酸化されたセルロース系原料(1質量%)に、20W低圧紫外線ランプ(主ピーク254nm)を用いて、6時間紫外線を照射した(低粘度化処理)以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
酸化されたセルロース系原料にセルラーゼを添加する前に、酸化されたセルロース系原料(1質量%)に、20W低圧紫外線ランプ(主ピーク254nm)を用いて、6時間紫外線を照射した(低粘度化処理)以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例11]
紫外線照射時に、酸化されたセルロース系原料に対してオゾンを1%(w/v)添加した以外は、実施例3と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
紫外線照射時に、酸化されたセルロース系原料に対してオゾンを1%(w/v)添加した以外は、実施例3と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[実施例12]
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧水銀ランプを用いて254nmに主ピークを有する紫外線を2時間照射した以外、実施例6と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
セルラーゼを失活させる際に、105℃で30分間処理する代わりに、20W低圧水銀ランプを用いて254nmに主ピークを有する紫外線を2時間照射した以外、実施例6と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[比較例1]
超高圧ホモジナイザーの処理圧を80MPaとした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーの処理圧を80MPaとした以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[比較例2]
超高圧ホモジナイザーの代わりに、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて50℃で20分間処理した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーの代わりに、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて50℃で20分間処理した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[比較例3]
酸化されたセルロース系原料の2%(w/v)スラリーを、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて10分間処理し、その後、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)を、酸化されたセルロース系原料に対して2質量%添加し、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて70℃で10分間処理した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
酸化されたセルロース系原料の2%(w/v)スラリーを、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて10分間処理し、その後、市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)を、酸化されたセルロース系原料に対して2質量%添加し、回転刃ミキサー(周速140m/秒)を用いて70℃で10分間処理した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
[比較例4]
超高圧ホモジナイザーでの処理時にセルラーゼを添加せず、また、セルラーゼの失活処理も行なわなかった以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
超高圧ホモジナイザーでの処理時にセルラーゼを添加せず、また、セルラーゼの失活処理も行なわなかった以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。結果を表1に示す。
酸化されたセルロース系原料を、酵素の存在下で、超高圧ホモジナイザーを用いて100MPa以上の条件で解繊・分散処理した実施例1〜10では、100MPa未満で処理した比較例1や、ミキサーを用いた比較例2及び3、また、酵素を添加しなかった比較例4に比べて、B型粘度が低く、透明度が高いセルロースナノファイバーを、比較的低い消費電力で得られることがわかる。したがって、本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、高濃度であっても低粘度であり、流動性及び透明度が高いセルロースナノファイバー分散液を、高い効率で得ることができる。
[実施例13]
実施例1により製造した2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液(B型粘度1646mPa・s)を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約18.2μmであった。
実施例1により製造した2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液(B型粘度1646mPa・s)を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約18.2μmであった。
[比較例5]
比較例2により製造した2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、B型粘度1600mPa・s(60rpm、20℃)となるように濃度を調整した。このときのセルロースナノファイバー濃度は、0.76%(w/v)であった。この分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約6.9μmであった。実施例13と同じ厚さである18.2μmのフィルムを形成させるためには、塗布と乾燥を2回以上繰り返す必要があった。
比較例2により製造した2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を、B型粘度1600mPa・s(60rpm、20℃)となるように濃度を調整した。このときのセルロースナノファイバー濃度は、0.76%(w/v)であった。この分散液を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み20μm)片面に、手塗り専用のバー(バーNo.16)で塗工し、50℃で乾燥させてフィルムを形成した。フィルムの厚みは約6.9μmであった。実施例13と同じ厚さである18.2μmのフィルムを形成させるためには、塗布と乾燥を2回以上繰り返す必要があった。
なお、比較例2により製造した2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液をそのままの濃度で使用したところ、塗布ムラが生じ、均一なフィルムは形成できなかった。
Claims (5)
- (A)(1)N−オキシル化合物、及び、(2)臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化すること、
(B)前記(A)からのセルロース系原料を、セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼの存在下、超高圧ホモジナイザーで100MPa以上の圧力で処理し、セルロース系原料を解繊・分散してナノファイバー化すること、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。 - 得られたセルロースナノファイバーの濃度2%(w/v)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が、500〜3000mPa・sである、請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記解繊・分散を40〜70℃で行う、請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記(A)及び(B)の間に、前記(A)からのセルロース系原料を低粘度化処理することをさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
- 前記(B)の後に、紫外線を照射し、および/または加熱することにより、前記セルラーゼ及び/またはヘミセルラーゼを失活させることをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
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