JP7219533B2 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。パルプ繊維等のセルロース系原料から製造されるセルロースナノファイバーは、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途などに用いられている。また、セルロースナノファイバーは、水系分散性に優れているため、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤などの多くの用途における利用が期待されている。
セルロースナノファイバーは、パルプ繊維を機械的な処理によって解繊することにより得ることができる。しかし、機械的処理のみでセルロースナノファイバーを製造する場合、多数回の機械的処理が必要となり、エネルギー消費量が非常に大きくなる。そのため、機械的な処理の前に、酸化処理やエステル化処理等の前処理を施す方法が各種検討されてきた。これらの前処理の中でも、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(TEMPO)と次亜塩素酸ナトリウムとを用いてパルプを酸化処理する方法(特開2008-1728号公報)、TEMPOと次亜塩素酸ナトリウムとを用いる酸化処理後さらにセルラーゼを用いてパルプを加水分解処理する方法(特開2010-235679号公報参照)が、後工程の機械的処理を効果的に低減できるとされている。しかし、これらの方法によっても、機械的処理回数が十分に低減されず、また、TEMPOは高価であるため、事業化のためには、高コスト化を抑制しつつ、機械的処理回数の低減を可能とする製造方法が求められる。
特開2008-1728号公報 特開2010-235679号公報
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを生産可能なセルロースナノファイバーの製造方法を提供することである。
発明者らは、パルプ繊維を機械的に微細化する微細化工程の前に酵素を用いた加水分解処理を施し、微細化工程後に酵素を失活させることで、微細処理回数が低減され省エネルギー化が図られることを見出した。
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、スラリー中のパルプ繊維に対して酵素を用いた加水分解処理を施す工程、及び上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程をこの順に備えるセルロースナノファイバーの製造方法であって、上記微細化工程の後に、上記スラリー中の酵素を失活させる工程をさらに備える。
当該製造方法にあっては、上述のようにスラリー中のパルプ繊維に対して酵素を用いた加水分解処理によって予備的なパルプ繊維の解繊がなされた後に上記微細化工程において機械的な解繊を行うので、効率的なパルプの解繊がなされる。さらに、当該方法においては、スラリー中の酵素を失活させる工程が上記微細化工程後になされるため、上記加水分解処理によって用いられる酵素が上記微細化工程においても失活しておらず、上記微細化工程において上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的な繊維の解繊がなされる。このため、微細化工程の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。なお、微細化工程(微細化処理)の処理回数とは、処理されるパルプ繊維を含むスラリーが高圧ホモジナイザー等の微細化処理を施す機械を通過する回数をいう。
当該製造方法にあっては、上記失活を酸又は塩基の添加により行うことも可能であるが、上記失活を加熱により行うとよい。例えば上記微細化工程のようにパルプ繊維の解繊に際して熱が発生することがあり、この解繊によって発生する熱を上記失活のための熱エネルギーとして利用することで、上記酵素を失活させる工程に要するエネルギーを抑制することができる。このため、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
上記微細化工程における機械的な処理としては、高圧ホモジナイザーにより行うことが好ましい。加水分解処理工程を経ることにより、パルプ繊維は十分に柔軟化された状態になっており、このようなパルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突などが作用し、解繊が効果的に生じる。このため、微細化工程の処理回数をより低減しより省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
上記加水分解処理工程と微細化工程との間に、上記パルプ繊維をリファイナーにより粗解繊する粗解繊工程をさらに備えることが好ましい。このように上記パルプ繊維をリファイナーにより粗解繊する工程をさらに備えることで、上記加水分解処理によって予備的に解繊されたパルプ繊維に対して剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維がより柔軟になる。この結果、予備的な解繊がより効率的に生じ、微細化工程の処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
なお、「セルロースナノファイバー」とは、パルプ繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを生産することができる。
本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法のフロー図である。 本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法のフロー図である。 本発明の一実施形態に係る微細化工程において用いられる対向衝突型高圧ホモジナイザーの部分的模式図である。
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法について詳説する。
<セルロースナノファイバーの製造方法>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、加水分解処理工程(s1a)、及び微細化工程(s2)をこの順に備え、微細化工程(s2)の後に、酵素失活工程(s3)をさらに備える。当該製造方法によれば、加水分解処理工程(s1a)によって予備的なパルプ繊維の解繊がなされた後に微細化工程(s2)において機械的な解繊を行うので、効率的なパルプの解繊がなされる。さらに、当該方法においては、酵素失活程(s3)が微細化工程(s2)の後になされるため、加水分解処理工程(s1a)において用いられる酵素が微細化工程(s2)においても失活しておらず、微細化工程(s2)において上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的な繊維の解繊がなされる。その結果、微細化工程(s2)の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。以下、各工程を詳説する。
<加水分解処理工程(s1a)>
加水分解処理工程(s1a)は、スラリー中のパルプ繊維に対して酵素を用いた加水分解処理を施す工程であり、パルプ繊維を機械的な処理により微細化する前に、加水分解処理を単独で施す工程である。このような加水分解処理を施すことにより、パルプ繊維中の化学結合の一部を分断すると共に、パルプ繊維を膨潤させることができる。以下に、セルロースナノファイバーの原料となるパルプ繊維について説明する。
パルプ繊維としては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
加水分解処理工程(s1a)に供するパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、例えば30質量%である。上記濃度範囲とすることで、効率的な加水分解処を行うことができる。濃度が上記下限値未満の場合は、一回の処理で加水分解されるパルプ繊維の量が少なく、効率性が低い。一方、濃度が上記上限を超える場合は、十分な撹拌を行うことができず、反応性等が低下する。
加水分解処理工程(s1a)に供するパルプスラリーの温度としては、使用される酵素の至適温度によって適宜選択されるが、例えば40℃以上70℃以下が好ましい。
上記酵素は、特に限定されるものではないが、加熱によって失活しやすいものが好適に用いられる。酵素として、具体的には、セルラーゼ系酵素や、ヘミセルラーゼ系酵素等を挙げることができ、セルラーゼ系酵素が好ましい。これらの酵素は、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
加水分解処工程(s1a)は、公知の反応槽にスラリーを貯め、酵素を添加することによって行うことができる。上記反応槽としては、晒タワー等の製紙用タワーを用いることができる。加水分解処理工程(s1a)における処理(反応)時間は、スラリーの濃度や温度、酵素の添加量、微細化工程(s2)の時間すなわち加水分解処理工程(s1a)の後に酵素活性が維持される時間等に応じて変更されるが、例えば0.5時間以上12時間以下とすることができる。
加水分解処理工程(s1a)を経たスラリーは、次工程に供される。
<微細化工程(s2)>
微細化工程(s2)は、加水分解処理が施された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程である。本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、微細化工程(s2)前に加水分解処理を行っているため、本微細化工程(s2)の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロースナノファイバーの製造効率をより高めることができる。
微細化工程(s2)は、微細化装置によってスラリー中のパルプ繊維を機械的に解繊している。この微細化装置としては、例えばパルプ繊維を回転する砥石間で磨砕するグラインダーや、粉砕機等を挙げることができ、粉砕機が好ましい。粉砕機としては、圧力式ホモジナイザー、ボールミル等を用いる粉砕機などが挙げられる。これらの中でも、圧力式ホモジナイザーが好ましい。圧力式ホモジナイザーとは、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられるものである。上記圧力式ホモジナイザーとしては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーション等が作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程(s2)の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロースナノファイバーの製造効率をより高めることができる。
上記高圧ホモジナイザーとしては、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、湿式ジェットミル)が好ましく、微細化工程(s2)において、上記スラリーを一直線上で対向衝突させることが好ましい。具体的には、図3において部分的に示されるように、対向衝突型高圧ホモジナイザー10においては、加圧されたスラリーS1、S2が合流部Xで対向衝突するように上流側流路11が形成されている。スラリーS1、S2は合流部Xで衝突し、衝突したスラリーS3は、下流側流路12から流出する。上流側流路11に対して、下流側流路12は垂直に設けられており、上流側流路11と下流側流路12とでT型の流路を形成している。このような対向衝突型高圧ホモジナイザー10を用いることで、高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーを衝突エネルギーに最大限に変換することができ、より効率的なパルプ繊維の解繊が生じる。
微細化工程(s2)に供するパルプスラリーのパルプ繊維濃度の下限としては、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。一方、この上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記範囲のパルプ繊維濃度とすることで、パルプスラリーが好適な粘度となるため、機械的処理によりパルプ繊維がより効率的に解繊される。
微細化工程(s2)においては、例えば一台の高圧ホモジナイザーに対して、スラリーを循環させて複数回の微細化処理を施すことができる。また、複数の高圧ホモジナイザーを用意し、連続的にパルプ繊維を処理することもできる。
この微細化工程にあっては、パルプ繊維の解繊に際して熱が発生し、微細化工程前のスラリーの温度よりも微細化工程後のスラリーの温度が高くなる。このように微細化工程によってスラリーが温度上昇することで、後述する酵素失活工程において、酵素を失活させるために加える熱エネルギーを少なくすることができる。
また、微細化工程にあっては、スラリーの温度が一定以上とならないよう温度制御がなされている。つまり、微細化工程にあっては、上述のようにパルプ繊維の解繊に際して熱が発生することでスラリーが高温となるが、スラリーが一定温度以上とならないようスラリーを冷却している。具体的には、この微細化工程においては、酵素が失活する温度未満となるようスラリーの温度が制御されている。
上述のようにスラリーを冷却するためには、例えば冷却媒体(例えば、冷却水)を用いることができる。なお、微細化工程において温度制御のために用いられ加熱された冷却媒体を、後述する酵素失活工程の熱エネルギーとして用いることも可能である。具体的には、例えば微細化装置で加熱された冷却媒体によって、酵素失活工程において供給する熱水のための水の予備的加熱に用いることができる。
当該製造方法にあっては、この微細化工程(s1a)後に後述するような酵素失活工程(s3)がなされるため、微細化工程(s2)にあっては、上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的なパルプ繊維の解繊がなされる。このため、上記加水分解処理によって用いられる酵素が上記微細化工程においても失活しておらず、微細化工程(s1a)において上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的な繊維の解繊がなされる。従って、効率よくパルプが微細化されると共に、酵素の作用面積が増大して加水分解が促進されると考えられる。これらの結果、微細化工程(s2)の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
<酵素失活工程(s3)>
酵素失活工程(s3)は、微細化工程(s2)後に、上記スラリー中の酵素を失活させる工程である。この失活は加熱によって行われている。本工程により酵素活性が失活されて酵素による加水分解が終了し、セルロースナノファイバーを得ることができる。加水分解処理工程(s1a)において添加された酵素は、その後の微細化工程(s2)においても活性が失活しておらず、微細化工程(s2)において上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的なパルプ繊維の解繊がなされる。このため、効率よくパルプを微細化することができるとともに、微細化工程(s2)の処理回数を低減することができる。このため、微細化工程の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
酵素失活工程(s3)では、加熱により酵素を失活させる。加熱の方法としては、例えば微細化工程(s2)においてパルプ繊維の解繊によって発生する熱を上記失活のための熱エネルギーとして利用する方法が挙げられる。具体的には、例えば微細化装置で加熱された冷却媒体を、酵素失活工程において供給する熱水のための水の予備的加熱に用い、予備加熱された水をさらに加熱してスラリーに熱水や蒸気として注入し、スラリーの温度を酵素失活温度以上とする方法等が挙げられる。このように微細化工程(s2)においてパルプ繊維の解繊によって発生する熱を利用することで、酵素失活工程(s3)に要するエネルギーを抑制することができる。
上記酵素失活処理の加熱温度の下限としては、酵素の失活温度によって適宜選択されるが、80℃が好ましく、90℃がより好ましい。また、上記加熱温度の上限としては、省エネルギー化の観点から、120℃が好ましく、110℃がより好ましく、100℃がさらに好ましい。
酵素失活処理における加熱時間としては、例えば5分以上30分以下である。
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、加水分解処理工程(s1a)、粗解繊工程(s1b)及び微細化工程(s2)をこの順に備え、微細化工程(s2)の後に、酵素失活工程(s3)をさらに備える。当該製造方法によれば、加水分解処理工程(s1a)と粗解繊工程(s1b)との組み合わせにより、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊がより効率的に生じ、後工程の微細化工程(s2)の一層の短縮化、すなわち処理回数の一層の低減化を図ることができる。また、当該方法においては、酵素失活程(s3)が粗解繊工程(s1b)及び微細化工程(s2)の後になされるため、加水分解処理工程(s1a)において用いられる酵素が粗解繊工程(s1b)及び微細化工程(s2)においても失活しておらず、粗解繊工程(s1b)及び微細化工程(s2)において上記機械的な解繊と共に加水分解による補助的な繊維の解繊がなされる。その結果、微細化工程(s2)の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。加水分解処理工程(s1a)、微細化工程(s2)及び酵素失活工程(s3)については、上記実施形態におけるものと同様であるため、説明を省略する。以下、粗解繊工程(s1b)を詳説する。
<粗解繊処理工程(s1b)>
粗解繊処理工程(s1b)は、スラリー中のパルプ繊維をリファイナーにより粗解繊する工程である。間隙を極小さくして負荷をかけながら叩解するリファイナーを用いた粗解繊処理により、パルプ繊維に対して剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が生じる。リファイナーとは、パルプ繊維を叩解する装置であり、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)及びシングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。なお、粗解繊処理工程において、リファイナーを用いると、処理後の分離や洗浄が不要となる点からも好ましい。
粗解繊処理工程(s1b)に供するパルプスラリーのパルプ繊維濃度の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、この上限としては、8質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。上記範囲のパルプ繊維濃度とすることで、パルプスラリーが好適な粘度となるため、リファイナーによりパルプ繊維が効率的に粗解繊される。
粗解繊処理工程(s1b)においては、例えば複数のリファイナーを用意し、連続的にパルプ繊維を処理することもできる。また、一台のリファイナーに対して、スラリーを循環させて長時間処理することもできる。
なお、上記酵素としては、加熱によって失活しやすいもの以外にも、酸又は塩基処理によって失活しやすいものを用いてもよい。
上記酵素失活処理としては、加熱によりスラリー中の酵素を失活させる方法以外にも、例えば酸又は塩基を添加して酵素を失活させる方法、スラリーに紫外線を照射して酵素を失活させる方法を用いてもよい。
また、粗解繊工程をさらに備える場合は、粗解繊処理によるパルプ繊維の予備的な解繊に際して熱が発生することがあり、この解繊によって発生する熱を上記失活のための熱エネルギーとして利用することで、上記酵素を失活させる工程に要するエネルギーを抑制することができる。
<加水分解処理工程(s1a)と粗解繊処理工程(s1b)との順番>
上記実施形態では、加水分解処工程(s1a)後に粗解繊処理工程(s1b)を行うとしたが、粗解繊処理工程(s1b)後に加水分解処工程(s1a)を行ってもよい。
また、加水分解処工程(s1a)と粗解繊処理工程(s1b)とを重複して行うこともできる。
<他の化学的処理工程>
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、上記微細化工程の前に酵素を用いた加水分解処理工程以外の他の化学的処理工程を備えることができる。他の化学的処理工程は、パルプ繊維を機械的な処理により微細化する前に、パルプ繊維に対して酵素を用いた加水分解処理以外の他の化学的処理を施す工程である。他の化学的処理としては、酸化処理、酵素以外を用いた他の加水分解処理等が挙げられる。これらは、単独で施してもよく、複数種を組み合わせて施してもよい。このような化学的処理を施すことにより、パルプ繊維中の化学結合の一部を分断すると共に、パルプ繊維を膨潤させることができる。このため、微細化工程の処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
上記他の化学的処理工程に供するパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、例えば30質量%である。上記濃度範囲とすることで、効率的な化学的処理を行うことができる。濃度が上記下限値未満の場合は、一回の処理で処理されるパルプ繊維の量が少なく、効率性が低い。一方、濃度が上記上限を超える場合は、十分な撹拌を行うことができず、反応性等が低下する。
上記他の化学的処理工程に供するパルプスラリーの温度としては、例えば40℃以上90℃以下が好ましい。
上記酸化処理に用いられる酸化剤としては、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、過硫酸又はその塩、過有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、過硫酸類(過硫酸及びその塩)が好ましい。上記酸化処理を行う際は、N-オキシル化合物等の酸化触媒を併用することもできる。上記他の加水分解処理に用いられる酸としては、硫酸、過硫酸類、塩酸等が挙げられるが、硫酸及び過硫酸類が好ましい。酸を用いる場合の反応槽中のpHとしては、3以下が好ましく、0.5以上2以下がより好ましい。酸化処理及び他の加水分解処理は、複数種の処理剤を用いてもよく、酸化処理と他の加水分解処理とを組み合わせてもよい。なお、過硫酸等の酸化剤としても機能する酸を用いた場合、酸化反応と加水分解反応とが共に生じる。
他の化学的処理工程は、公知の反応槽にスラリーを貯め、酸化剤等の処理剤を添加することによって行うことができる。上記反応槽としては、晒タワー等の製紙用タワーを用いることができる。化学的処理工程の処理(反応)時間は、スラリーの濃度や温度、処理剤の添加量等に応じて変更されるが、例えば0.5時間以上12時間以下とすることができる。
上記他の化学的処理工程を経たスラリーは、必要に応じ中和処理、洗浄処理等が施され、次工程に供される。
(ファイン率)
加水分解処理工程、必要に応じて行われる粗解繊工程、他の化学的処理工程等の前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維のファイン率の下限としては、例えば60%が好ましく、70%がより好ましく、75%がさらに好ましい。また、このファイン率の上限としては、例えば90%が好ましく、85%がより好ましい。このファイン率を上記下限以上とすることで、十分な前処理(解繊)が進んだパルプ繊維となり、微細化工程において効率的に更なる微細化を行うことができる。また、ファイン率を上記下限以上とすることで、微細化工程において高圧ホモジナイザーを用いて処理した際、パルプ繊維の流路内での詰まりの発生を低減することもできる。一方、このパルプ繊維のファイン率が上記上限以下とすることで、過剰に前処理、特に必要に応じて施される粗解繊処理を施すことを抑制することができ、製造工程全体としての、省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。なお、前処理工程と微細化工程との間に、パルプ繊維のファイン率を測定するファイン率測定工程を設けてもよい。ここで、「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下、かつ繊維幅が75μm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。このファイン率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定することができる。繊維分析計「FS5」は、希釈したセルロース繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でセルロース繊維の長さ、幅を測定できる。
このファイン率は、前処理工程、特に必要に応じて施される粗解繊処理工程における処理量等によって調整することができる。粗解繊処理が施される場合は、例えば、リファイナーによる処理時間を長くすることや、リファイナーによる処理の際、ディスク(プレート)の間隔(クリアランス)を狭くする、ディスクの刃幅、溝幅、刃の高さ、刃の交差角度、ディスクのパタ-ンの組み合わせなどによって、ファイン率を高めることができる。
(平均繊維長)
前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維の平均繊維長としては特に限定されないが、下限としては、0.15mmが好ましく、0.2mmがより好ましく、0.25mmがさらに好ましい。一方、この上限としては、0.5mmが好ましく、0.4mmがより好ましい。このような繊維長のパルプ繊維を微細化工程に供することで、製造工程全体としての省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。
<その他の工程>
酵素失活工程を経て得られたセルロースナノファイバーは、必要に応じて、改質処理工程や乾燥工程等のその他の工程に供することができる。
このようにして得られたセルロースナノファイバーは、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤、化粧品配合剤、粘度保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤等の用途に広く用いることができる。
得られるセルロースナノファイバーは、十分に微細化がされており、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する。また、上記擬似粒度分布曲線におけるピークとなる粒径(最頻径)としては5μm以上25μm以下が好ましい。得られるセルロースナノファイバーがこのような粒度分布を有する場合、十分に微細化された良好な性能を発揮することができる。なお、「擬似粒度分布曲線」とは、粒度分布測定装置(例えば株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布を示す曲線を意味する。
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、TEMPOをはじめとしたN-オキシル化合物等の高価な酸化触媒等を使用しなくとも、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを得ることができるため、セルロースナノファイバーの製造コストを抑えることができる。また、TEMPO等を用いなかった場合、過剰な酸化が抑えられるため、得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量が低含される。セルロースナノファイバーのカルボキシ基の量が少ない場合、過剰な親水性や水素結合が抑えられ、乾燥性や分散性などが高まるといった利点もある。得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量としては、例えば0.1mmol/g以下であり、0.05mmol/g以下とすることもできる。
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、機械的な微細化処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを生産することができる。
s1a 加水分解処理工程
s1b 粗解繊工程
s2 微細化工程
s3 酵素失活程
10 対向衝突型高圧ホモジナイザー
11 上流側流路
12 下流側流路
S1、S2、S3 スラリー
X 合流部

Claims (1)

  1. スラリー中のパルプ繊維に対して酵素を用いた加水分解処理を施す工程、及び
    上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程
    をこの順に備えるセルロースナノファイバーの製造方法であって、
    上記微細化工程における機械的な処理を高圧ホモジナイザーにより行い、上記高圧ホモジナイザーが上記スラリーを一直線上で対向衝突させる対向衝突型高圧ホモジナイザーであり、
    上記微細化工程の後に、上記スラリー中の酵素を失活させる工程
    をさらに備え、
    上記微細化工程において温度制御のために用いられ加熱された冷却媒体を上記酵素失活工程の熱エネルギーとして利用し、
    上記加水分解処理工程と上記微細化工程との間に、
    上記パルプ繊維をリファイナーにより粗解繊する工程
    をさらに備え、
    上記加水分解処理工程及び上記粗解繊工程を経て上記微細化工程に供されるパルプ繊維のファイン率を60%以上とし、
    上記ファイン率が、繊維長が0.2mm以下、かつ繊維幅が75μm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合であり、
    上記加水分解処理工程及び上記粗解繊工程を経て上記微細化工程に供されるパルプ繊維の平均繊維長が0.15mm以上0.5mm以下であり、
    得られるセルロースナノファイバーは、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において1つのピークを有し、上記擬似粒度分布曲線におけるピークとなる粒径(最頻径)が5μm以上25μm以下であるセルロースナノファイバーの製造方法。

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