本発明者らが鋭意研究した結果、植物の生育促進およびバイオマス量の増加に関与する遺伝子を解明した(後述する実施例1および実施例2参照)。また、該遺伝子を過剰発現した形質転換植物体では、生育が促進され、かつバイオマス量が増加することが観察された(後述する実施例3参照)。さらに該植物体が果実野菜等の場合、作物の収量が向上することも確認できた(後述する実施例4参照)。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明は実施の形態に限定されることはなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。本明細書において「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。
(Vita1遺伝子)
本発明に係る遺伝子は、植物の生育を促進し、かつ植物のバイオマス量を増加させる機能を有するタンパク質をコードする。好ましくは、配列番号1または配列番号2に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子をいう。配列番号1に記載の塩基配列は、シロイヌナズナC24(Arabidopsis thaliana C24)に由来する該遺伝子(以下、Vita1遺伝子とも言う)のタンパク質コード配列(CDS)の全塩基配列である。配列番号2に記載の塩基配列は、Vita1遺伝子のcDNAの全塩基配列である。
なお、Vita1遺伝子は本発明者らが付けた名称である。当該遺伝子の塩基配列およびタンパク質のアミノ酸配列は公知であるが、当該タンパク質の機能は未知であり、遺伝子名AT1G30250.1としてその遺伝子座、cDNAの全塩基配列およびCDSの全塩基配列はThe Arabidopsis Information Resource(tair)に登録されている(http://www.arabidopsis.org/参照)。すなわち、本発明者らは当該遺伝子が植物の生育を促進し、かつバイオマス量を増加させる機能を有することを発見したのであり、本発明はVita1遺伝子の機能を利用するものである。
本発明に係る遺伝子は、配列番号1または配列番号2に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子でも構わない。
ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、同一性が高い核酸が形成される条件、すなわち配列番号1または配列番号2に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列の相補鎖がハイブリダイズし、それより同一性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。
具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃であり、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常は、ナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY(1989))等を参照することにより、このようなホモログ遺伝子を容易に取得することができる。また、上記の塩基配列の同一性は、FASTA検索やBLAST検索により当業者にとって容易に決定することができる。
本発明に係る遺伝子は、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子でも構わない。配列番号3に記載の配列は、配列番号1に記載のVita1遺伝子のCDSの塩基配列を翻訳した、Vita1遺伝子に係るタンパク質のアミノ酸配列である。
または、本発明に係る遺伝子は、配列番号3に示すアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されまたはこれらの組合せにより配列に変異が生じているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子でも構わない。
欠失、置換、付加もしくは挿入されてもよいアミノ酸の数としては、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により、欠失、置換、付加もしくは挿入できる程度の数をいう。具体的には、好ましくは、1個から数個である。例えば、配列番号3に示すアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失されてもよい。また、配列番号3に示すアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が付加されてもよい。あるいは、配列番号3に示すアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてもよい。また、ここでの変異は、主には公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
人為的に導入されたアミノ酸配列の変異は、上記タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法を用いて改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、例えば、Kunkel法またはGapped duplex法等により行うことができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(Mutan−K(タカラバイオ株式会社)、LA PCR in vitro mutagenesis kit(タカラバイオ株式会社))等を用いても行うことができる。
または、本発明に係る遺伝子は、配列番号3に示すアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子でも構わない。上記80%以上の同一性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性をいう。アミノ酸配列の同一性は、塩基配列と同様に、FASTA検索またはBLAST検索により決定することができる。
さらに、本発明に係る遺伝子は、配列番号1または配列番号2に示す塩基配列のDNAを含む遺伝子だけでなく、翻訳された場合のタンパク質が有する当該活性が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が有する当該活性と実質的に同等であるDNAを含む遺伝子(ホモログ遺伝子等)も包含する。そこで、本明細書においては、上述した本発明に係る遺伝子を全て含め、「Vita1遺伝子」として交換可能に使用する。
本明細書において、「植物のバイオマス量を増加させる」とは、植物の質量を増加させることであり、植物体の質量を増加させることを含む。具体的には、植物体のシュートバイオマス収量、根バイオマス収量、作物の収量、葉の数、果実数、および果実重量等を増加させることを含み得るが、これに限定されるものではない。
(Vita1遺伝子を含むベクター)
以下、本発明に係るVita1遺伝子を含むベクター、プラスミド等の詳細について説明する。
本発明に係るベクターは、Vita1遺伝子(以下、目的遺伝子とも言う)を、当該技術分野において公知であるベクターに導入することにより構築することができる。例えば、アグロバクテリウムを介して植物(植物細胞)に目的遺伝子を導入する場合(アグロバクテリウム法)では、ベクターとしては、pBI系、pPZP系またはpSMA系のベクター等を用いることができる。特に、バイナリーベクター系(pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3もしくはpBIG2113等)、または、中間ベクター系(pLGV23NeoもしくはpNCAT等)のベクターが好ましい。
バイナリーベクターとは、大腸菌(Escherichia coli)およびアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターである。バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物(植物細胞)に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを、植物の核内DNAに組み込むことができる。
バイナリーベクターを用いたアグロバクテリウム法においては、まず、バイナリーベクターのボーダー配列(LB配列およびRB配列)間に目的遺伝子を挿入し、大腸菌中でこのベクターを増幅する。次に、増幅したベクターを、アグロバクテリウム・ツメファシエンスGV3101、C58、LBA4404、EHA101もしくはEHA105、または、アグロバクテリウム・リゾゲネスLBA1334等に、凍結融解法またはエレクトロポレーション法等により導入する。その後、ベクターが導入されたアグロバクテリウムを、植物(植物細胞)の形質転換に使用する。
上記の方法以外にも、三者接合法(Bevan, J., Nucleic Acids Research, 12:8711(1984))によって、目的遺伝子を含む植物感染用アグロバクテリウムを調製することもできる。具体的には、目的遺伝子を含むプラスミドを保有する大腸菌、ヘルパープラスミド(例えば、pRK2013等)を保有する大腸菌、および、アグロバクテリウムを混合培養する。次いで、リファンピシリンおよびカナマイシンなどの所定の抗生物質を含む培地上で培養することにより、植物感染用の接合体アグロバクテリウムを得ることができる。
一方、pUC系のベクターは、植物細胞に遺伝子を直接導入することができる。例えば、pUC18、pUC19またはpUC9等のベクターが挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)またはタバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
なお、ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断する。次いで、切断したDNAを、ベクターの適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用できる。
精製されたDNAは、ゲノムDNA、cDNAおよび化学合成DNA等のいずれでもよい。ゲノムDNA、cDNAおよび化学合成DNA等の調製は、当業者にとって公知の手段を利用して行うことが可能である。
例えば、配列番号1または配列番号2の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、cDNAライブラリーまたはゲノムDNA配列ライブラリー等由来のDNAを鋳型とし、PCR増幅を行うことにより、DNA断片を得ることができる。また、上記ライブラリー等由来のDNAを鋳型とし、その塩基配列の一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、DNA断片を得ることができる。または、市販の自動化DNA配列合成装置等を用いてもDNA断片を得ることができる。
また、目的遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そのため、ベクターには、目的遺伝子の上流、内部または下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、バイナリーベクター系を使用するための複製開始点(またはRiプラスミド由来の複製開始点など)、または、選択マーカー遺伝子等を連結する。
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNA配列であれば、植物由来のものでなくてもよい。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーターまたはタバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。
「エンハンサー」としては、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられるものが好ましく、例えば、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域、転写エンハンサーE12またはオメガ配列等が挙げられる。
「ターミネーター」としては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーターまたはCaMV35SRNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
「選択マーカー遺伝子」としては、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子またはジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等が挙げられる。また、選択マーカー遺伝子は、目的遺伝子とともに同一のベクターに連結させてもよいが、選択マーカー遺伝子を連結して得られるベクターと目的遺伝子を連結して得られるベクターとを別々に調製してもよい。別々に調製した場合、各ベクターを宿主にコトランスフェクト(共導入)する。
(形質転換体)
本発明に係る形質転換体は、Vita1遺伝子の発現が増強されている。なお、本明細書において「形質転換体」は、後に詳細に述べるが、主に植物細胞、カルスまたは植物体等の、植物に係る形質転換体を指す。
本明細書において、「Vita1遺伝子の発現が増強された形質転換体」とは、宿主の野生株と比較してVita1遺伝子の発現量が増加している形質転換体をいう。すなわち、宿主の野生株と比較して、該遺伝子がコードするタンパク質が有意に多く発現している(好ましくは過剰発現している)形質転換体を示す。なお、宿主の野生株は、その遺伝子を元々ゲノムDNA上に有していてもよいし、有さなくてもよい。
本発明に係る形質転換体は、該遺伝子の発現が増強されたことによって、植物の生育が促進され、かつそのバイオマス量が増加する。
「Vita1遺伝子の発現を増強する」とは、該遺伝子を宿主のゲノムDNA上に、内在性の該遺伝子とは別に1コピー以上の該遺伝子を導入すること、および/または該遺伝子を含む発現ベクター(プラスミド)を導入し保有させることによって該遺伝子の発現を増強することを含む。ゲノムDNA上又は発現ベクター上の外来性の該遺伝子のプロモーター等の発現調節配列は強力な発現調節配列であることが好ましい。
また、「Vita1遺伝子の発現を増強する」とは、内在性の該遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力な発現調節配列に置換することを含み得る。内在性の該遺伝子のプロモーター等の発現調節配列の強力な発現調節配列への置換は、相同組み換え法を用いることができる。植物に関する相同組み換え法は、例えば、Iida, S. and Terada, R., Plant Molecular Biology (2005) 59: 205-219、Terada, R., Nature Biotechnology (2002) 20: 1030-1034、Yamauchi, T., The Plant Journal (2009) 60: 386-396、および国際公開第2008/059711号を参照することができる。
Vita1遺伝子のプロモーター領域を強力なプロモーター配列に置換するためには、例えば、ボーダー配列であるRB配列、ネガティブ選択マーカー、第1の相同組み換え領域、ポジティブ選択マーカー、強力なプロモーター配列、第2の相同組み換え領域、ネガティブ選択マーカー、およびボーダー配列であるLB配列が順に連結された、相同組み換え用ベクターを用いることができる。第1の相同組み換え領域は、例えば、Vita1遺伝子の転写開始点または翻訳開始点の上流600bp〜6000bpの配列からなる。第2の相同組み換え領域は、例えば、Vita1遺伝子の転写開始点または翻訳開始点の下流600bp〜6000bpの配列からなる。また、ネガティブ選択マーカーとしてジフテリア毒素(DT−A)遺伝子等を用いることができる。ポジティブ選択マーカーとしては、ハイグロマイシン遺伝子等を用いることができる。強力なプロモーター配列としては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーターまたはタバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。
このような相同組み換え用ベクターを用いて、植物細胞を形質転換し、ポジティブ・ネガティブ選択によって目的の形質転換体を得ることができる。
以下、本発明に係る、Vita1遺伝子の発現が増強された形質転換植物体の詳細について説明する。
本発明に係る形質転換植物体は、Vita1遺伝子またはVita1遺伝子を含むベクターを、宿主である植物細胞等に導入することによって作出することができる。また、本発明に係る形質転換植物体は、ゲノム上の内在性のVita1遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を目的遺伝子の強力な発現をもたらす発現調節配列に置換することによっても作出することができる。目的遺伝子の強力な発現をもたらす発現調節配列として、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーターおよびタバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。本明細書において「遺伝子の導入」(「遺伝子が導入された」)とは、例えば公知の遺伝子工学的手法により、Vita1遺伝子を宿主である植物細胞内に発現可能な形で「導入する」(「導入された」)ことを意味する。ここで導入された遺伝子は、宿主である植物細胞のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、外来ベクターに含有されたままで存在していてもよい。
Vita1遺伝子またはVita1遺伝子を含むベクターを植物細胞等内に導入する方法としては、当該分野公知技術の種々の方法を適宜利用することができる。例えば、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法またはマイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法では、プロトプラストを用いる場合と、組織片を用いる場合と、種子または植物体そのものを用いる場合(in planta法)とがある。
プロトプラストを用いる場合は、TiプラスミドまたはRiプラスミドをもつアグロバクテリウム(それぞれAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes)と共存培養する方法、または、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)等により行うことができる。組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法、または、カルス(未分化培養細胞)に感染させる方法等により行うことができる。
種子または植物体を用いるin planta法の場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない場合においては、吸水種子、幼植物(苗)または鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等により行うことができる。植物の形質転換法の詳細については、「島本功、岡田清孝監修、新版 モデル植物の実験プロトコール 遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001)、秀潤社」を参照されたい。
Vita1遺伝子が植物細胞等に組み込まれたか否かは、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法またはウェスタンブロット法等により確認することができる。例えば、形質転換体の一部からDNAを調製し、Vita1遺伝子に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行う。次に、臭化エチジウムまたはSYBR Green液等により染色し、増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、Vita1遺伝子が植物細胞等に組み込まれたことを確認することができる。
また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する方法でも構わない。さらに、その植物細胞からタンパク質を抽出し、2次元電気泳動を行って分画し、Vita1遺伝子がコードするタンパク質のスポットを検出することにより、植物細胞に導入されたVita1遺伝子が発現されていること、すなわちその植物が形質転換されていることを確認してもよい。続いて、検出されたタンパク質についてエドマン分解等によりアミノ酸配列を決定し、配列番号3のアミノ酸配列と一致するかどうかを確認することにより、その植物細胞の形質転換を確実に実証することができる。
さらには、種々のレポーター遺伝子、例えば、ベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、Green Fluorescent Protein(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)またはベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子を用いてもよい。すなわち、これらのレポーター遺伝子をVita1遺伝子の下流域に連結したベクターを作製し、アグロバクテリウムにそのベクターを導入する。そのアグロバクテリウムを用いて植物細胞等を形質転換し、そのレポーター遺伝子の発現を測定することによって、形質転換を確認することもできる。
内在性Vita1遺伝子のプロモーターが強力な発現プロモーターに置換されたか否かは、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法またはウェスタンブロット法等により確認することができる。
本発明において、形質転換に用いられる植物細胞等としては、単子葉植物または双子葉植物のいずれに由来するものであってもよい。例えば、キク科植物、ナス科植物、アカザ科植物、イネ科植物、アブラナ科植物、マツ科植物、スギ科植物、トウヒ科植物、ヒノキ科植物、フトモモ科植物、ヤナギ科植物、ウリ科植物またはアオイ科植物のいずれかに由来するものが好ましいが、これらに限定されるものではない。
また、後述する実施例に記載するように、50〜200ppbのNOx濃度環境下で生育させると生育が促進し、バイオマス量が増加するような植物体であれば、植物体におけるVita1遺伝子の発現を増強することによって、環境中のNOx濃度に関わらず、その植物の生育を促進し、かつバイオマス量を増加させることができるものと考えられる。このような植物体としては、例えば、後述する参考例に記載されたニコチアナ・プランバジニフォーリア(Nicotiana plumbaginifolia)、シロイヌナズナC24(Arabidopsis thaliana C24)、レタス(Lactuca sativa)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、キュウリ(Cucumis sativus)、カボチャ(Cucurbita moschata)、およびケナフ(Hibiscus cannabinus)が挙げられる。さらに、後述する実施例に記載されたシロイヌナズナ コロンビア(Arabidopsis thaliana Columbia)およびトマト(Solanum lycopersicum)が挙げられる。
本発明においては、形質転換の対象は、植物材料であればよい。すなわち、本発明に係る形質転換体には、具体的には、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、穀実もしくは種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部もしくは維管束等)、未分化のカルス、または、植物細胞(プロトプラストも含む)のいずれもが含まれる。
(形質転換植物体の作出方法)
本発明に係る、Vita1遺伝子の発現が強化された形質転換植物体の作出方法について、以下詳細に説明する。本発明に係る形質転換植物体の作出方法は、特に、形質転換された植物体(植物体全体)の作出方法であり、植物細胞中のVita1遺伝子の発現を増強し、該植物細胞から植物体を再生する形質転換植物体の作出方法に関する。
植物細胞におけるVita1遺伝子の発現を増強する方法については、上記の形質転換体において詳説した通りであるが、Vita1遺伝子を含む組み換えベクターを用いて植物細胞にVita1遺伝子を導入する方法が好ましい。該植物細胞から植物体を再生する方法については、当該技術分野において公知の方法を用いて容易に行うことができる。例えば、以下のように行うことができる。
形質転換の対象とする植物材料として植物組織または植物細胞等のプロトプラストを用いた場合、これらをカルス形成用培地中で培養する。カルス形成用培地は、無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレンまたはブラシノステロイド等の植物ホルモン)等を含有し、滅菌されている。培養後には、不定形に増殖する脱分化したカルスが形成される(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスを、オーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移し変え、さらに増殖(継代培養)させる。
カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより、器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光および温度等を適切に設定することにより行うことができる。このような再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽および不定茎葉等が形成され、さらに完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えば、カプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞または組織等)において貯蔵等を行っても構わない。
このように植物体の染色体内にVita1遺伝子が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。例えば、形質転換植物体から植物種子を得るには、形質転換植物体を発根培地から採取し、水を含んだ土を入れたポットに移植し、一定温度下で生育し花を形成させ、最終的に種子を形成させる。種子から子孫である植物体を生育するには、例えば、まず、形質転換植物体上で形成された種子が成熟したところで単離し、水を含んだ土に播種する。これを一定温度下および照度下で生育させることにより、子孫である植物体を得ることができる。このようにして育種された子孫である植物体は、導入されたVita1遺伝子を発現しているため、野生株の植物よりも生育が促進した植物となる。
作出された形質転換植物体のクローンも、導入されたVita1遺伝子を発現している。そのため、その形質転換植物体、その子孫またはクローンから種子またはプロトプラスト等の繁殖材料を得て、それらをもとに形質転換植物体を量産することもできる。
なお、本発明に係る形質転換体には、上述したように再生された完全な形質転換植物体だけでなく、当該形質転換植物体が再生され、さらに量産される過程において発生および使用する中間生成物および繁殖材料等も全て含むものとする。すなわち、形質転換された植物細胞、カルス、該形質転換植物体のクローンの植物体、該形質転換植物体により得られる子孫の植物体、および、そのクローンまたは子孫の植物体の組織や器官等の一部(種子またはプロトプラスト等)も全て包むものとする。
上記にて詳細に説明した形質転換体(形質転換植物体も含む)では、Vita1遺伝子の発現により、野生株と比較すると、細胞の分裂・拡大および組織の分けつが促進している。特に、形質転換植物体では、植物の生育が促進し、植物のバイオマス量が増加する。当該植物が、例えば、トマト(ナス科植物)等の果実野菜、イネ(イネ科植物)等の穀類、または、レタス(キク科植物)等の葉菜である場合、その作物の収量を向上させることができる。
(生育促進植物体のスクリーニング方法)
本発明に係る、生育促進植物体のスクリーニング方法について以下詳細に説明する。本発明に係る、生育促進植物体のスクリーニング方法は、植物体の一部におけるVita1遺伝子の発現量を検出する工程を含む。
本発明において「植物体の一部」とは、例えば、葉、花弁、茎、根、穀実もしくは種子等の植物器官、表皮、師部、柔組織、木部もしくは維管束等の植物組織、未分化のカルス、または、植物細胞(プロトプラストも含む)のいずれであってもよい。これら植物体の一部を、当業者によって公知の技術を用い、遺伝子の発現量を検出できる状態に調整する。本発明に係る生育促進植物体のスクリーニング方法において、Vita1遺伝子の発現量の検出は、Vita1遺伝子から転写されたmRNAの量、該mRNAから逆転写されたcDNAの量または該mRNAによって翻訳されたタンパク質の量等によって測定・検出することができる。
mRNAまたはcDNAの量の測定・検出は、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法、RT−PCR法、Real-Time PCR法またはDNAマクロアレイ法等により行うことができる。タンパク質の量の測定・検出は、例えば、ウェスタンブロット法、2次元電気泳動法、2重収束質量分析法、MALDI−TOFMASS法またはこれらの組み合わせ等により行うことができる。
上述したように、Vita1遺伝子の発現を増強した形質転換体は、細胞の分裂・拡大および組織の分けつが促進する。特に、Vita1遺伝子の発現を増強した形質転換植物体によれば、植物の生育を促進し、かつバイオマス量を増加することができる。すなわち、同種類または同品種の植物体の一部における、Vita1遺伝子の発現量を検出・測定し比較することによって、同種類または同品種でも、いずれの植物株が効率よく生育するのかを選別することができる。
さらに、選別された植物株の子孫またはクローンの植物体を利用することで、効率よく植物の生育を促進することができる。また、当該植物が、例えば、トマト(ナス科植物)等の果実野菜、イネ(イネ科植物)等の穀類、または、レタス(キク科植物)等の葉菜である場合、その作物の収量を向上させることができる植物株を選別することができる。
なお、本発明に係る生育促進植物体のスクリーニング方法においては、形質転換された生育促進植物体をスクリーニングする場合も含まれる。すなわち、野生株の植物体同士のVita1遺伝子の発現量を比較する場合、野生株の植物体と形質転換植物体とのVita1遺伝子の発現量を比較する場合、または、形質転換植物体同士のVita1遺伝子の発現量を比較する場合等に利用することができる。
さらに、本発明に係る生育促進植物体のスクリーニング方法に関連し、Vita1遺伝子のタンパク質と特異的に結合する抗体、または、Vita1遺伝子のmRNAもしくはcDNAと特異的にハイブリダイズするプローブもしくはプライマー等を含む生育促進植物体のスクリーニングキットという他の実施の形態として、本発明を利用することもできる。この場合には、ハイブリダイゼーション等の実施に必要な一以上の試薬(例えば、緩衝液またはpH調製用試薬等)、または、器具等をさらに含んでもよい。好ましくは、さらに使用説明書も含む。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものでない。
本発明者らは、NOxに応答して植物の生育を促進し、バイオマス量を増加させるタンパク質をコードする遺伝子を同定するために、モデル植物のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の種々の遺伝子において、NOxに応答した植物の生育促進に関与している遺伝子を解析した。その結果、AT1G30250.1遺伝子(The Arabidopsis Information Resource(tair):http://www.arabidopsis.org/参照)が、NOxに応答した植物の生育促進に関与していることを発見した。AT1G30250.1遺伝子は、その遺伝子座、cDNAの全塩基配列およびCDSの全塩基配列は公知であるが、その機能については不明であり、本発明者らは該遺伝子をVita1遺伝子と名付けた。
(実施例1)
本実施例1では、NO2濃度とVita1遺伝子の発現量との関係について説明する。
本発明者らは、周囲環境のNO2濃度によるシロイヌナズナの野生株(Arabidopsis thaliana C24)のVita1遺伝子の発現量の変化について調べた。
まず、2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌したシロイヌナズナC24の野生株の種子を、滅菌水により3〜5回洗った。次に、該種子を冷蔵庫(4℃)において一晩吸水させ、その後、パーライトおよびバーミキュライトを等体積割合で入れた容器において播種、栽培した。栽培中は、1/2Murashige and Skoog培地(Murashige and Skoog, Physiol Plant 15(3): 473-497, 1962)を、1週間に2回与えた。なお、栽培は、NOx暴露チャンバー(ER-20−A、日本医化器械製作所)に移して行い、+NO2区と−NO2区とに分け栽培した。+NO2区においては、NO2濃度を200±20ppbに制御して、NO2を多く含む空気環境で栽培を行なった。−NO2区においては、NO2濃度を5ppb未満に制御して、NO2をほとんど含まない空気環境で栽培を行なった。
栽培条件は、温度22±0.3℃、相対湿度70±4%、CO2濃度380±40ppm、自然光下とした。両環境下(+NO2区および−NO2区)の植物において、それぞれ、栽培開始4日、7日および14日後に植物のシュートを採集し、液体窒素で凍結させた後、RNAを抽出するまで−80℃で保存した。以下の作業は6種類のシュートを用いて行った。
−80℃で保存していたシュートを乳鉢と乳棒を用いてすりつぶし、すりつぶしたサンプルは、予め液体窒素で冷やしておいたファルコンチューブに移した。この後、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を使用し、そのプロトコールに従いRNAを抽出した。抽出したRNAの濃度を、分光光度計(ND−1000,NanoDrop Technologies Inc.)を用いて測定した。なお、RNAを抽出した後、変性ゲルを用いた電気泳動を行い、RNAが分解していないことを確認した。
抽出したRNAを鋳型にcDNAの合成を行った。全RNA溶液(1μg)を、65℃で10分間処理し、氷上で冷却した。その後、該全RNA溶液に、Oligo(dT)20プライマーを1.0μL(終濃度10pmol/μL)、5×バッファー(Rever Tra Aceに添付の緩衝液、東洋紡株式会社製)を4μL、dNTP(各2.5mM)を4μL、および、100U/μLの逆転写酵素(Rever Tra Ace,東洋紡株式会社製)を1μL添加し、水で総量10μLとした。得られた混合物を、42℃で55分間反応させ、cDNAを得た。
得られたcDNA(4μL)を鋳型として用い、反応溶液20μL中において、Applied Biosystems 7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社製)を用いてリアルタイムPCRを行なった。反応溶液の組成は、SYBR Grenn I Master mix(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社製)が10μL、367Sプライマーが0.4μL(終濃度0.2μM)、367ASプライマーが0.4μL(終濃度0.2μM)であり、残部は水である。なお、リアルタイムPCR解析には、フォワードプライマーとして367Sプライマー(配列番号4:5'-tctcacctcaaccacggactc-3')、リバースプライマーとして367ASプライマー(配列番号5:5'-ggcactgtcgtatggctgtag-3')を用いた。このリアルタイムPCRの結果得られたCt値をもとに、比較Ct法(2−ΔΔCt)でVita1遺伝子の発現量の相対値を求めた。
図1は、実施例1に係るNO2濃度とVita1遺伝子の発現量との関係を示す図である。すなわち、各栽培期間(日)の植物において、−NO2区で栽培した場合のVita1遺伝子の発現量を1としたときの、+NO2区で栽培した場合の該遺伝子の発現量の相対値を示している。図1に示すように、いずれの栽培期間においても+NO2区のVita1遺伝子の発現量の相対値が1より大きく、28日においては3倍近くにもなっていた。
この結果から、野生株の植物において、周囲環境のNOx(NO2)濃度を200±20ppb程度に増加することによって、Vita1遺伝子の発現量が増加することがわかった。すなわち、Vita1遺伝子に係るタンパク質が、NOx(NO2)濃度増加に伴う植物の生育促進およびバイオマス量の増加に関与しているということが示唆された。
(実施例2)
本実施例2では、Vita1遺伝子とNOxに応答した植物の生育促進およびバイオマス量の増加との関連に係る実施例について説明する。
本発明者らは、Vita1遺伝子とNOxに応答した植物の生育促進およびバイオマス量の増加との関連性を実証するため、シロイヌナズナの野生株(Arabidopsis thaliana Columbia)と該シロイヌナズナのVita1遺伝子のノックアウト株(以下、Vita1変異株)とを用い、NO2存在下または非存在下での個体のシュートバイオマス比率について調べた。なお、Vita1遺伝子のノックアウト株は、Woodyらの方法(Woody ST, et. Al., J Plant Res. 2006; 120(1):157-165.)に従って作出されたVita1コーディング領域にT−DNAが挿入されたシロイヌナズナ遺伝子ノックアウト変異体であり、アラビドプシスバイオロジカルリソースセンター(ABRC)から入手した。
まず、野生株およびVita1変異株のそれぞれの種子を、2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌を行った後、滅菌水で5回洗った。次いで、冷蔵庫(4℃、暗所)で一晩吸水させた後、播種した。播種は、パーライトおよびバーミキュライトを等体積割合で入れた容器において、滅菌洗浄した当該吸水させた各種子を、等間隔に並べて行った。
播種後すぐに、NOx暴露チャンバー(株式会社日本医化器械製作所NOx-1130−SCII)に移し、栽培した。栽培条件は、温度22℃、照度40μEm−2s−1(16h明所/8h暗所)、相対湿度70%、CO2濃度380±40ppm、NO2濃度5ppb未満とした。栽培中は、1/2Murashige and Skoog培地を、1週間に2回与えた。栽培開始1週間後、野生株およびVita1変異株のそれぞれの株について、+NO2区と−NO2区とに分けさらに栽培した。+NO2区においては、NO2濃度を50±10ppbに制御して、NO2を含む空気環境で栽培を行なった。−NO2区においては、NO2濃度を5ppb未満にて栽培を続けた。
播種後28日間栽培した各株および各区のシロイヌナズナ植物体をシュートと根とに切り分けた後、凍結乾燥した。次いで、凍結乾燥させたシュートの乾燥重量を、電子天秤で測定した。この測定したシュートの乾燥重量の値(個体のシュートバイオマス)から、野生株およびVita1変異株における+NO2区と−NO2区との比率を算出した。
図2は、実施例2に係るVita1変異株のNO2に対する応答性を示す図である。すなわち、図2は、シロイヌナズナの野生株およびVita1変異株の、+NO2区と−NO2区とでの個体のシュートバイオマス比率を示している。図2に示すように、野生株では該シュートバイオマス比率は約1.5程度であり、やはり、NOx(NO2)が植物の生育に関連するシグナルとして働き、植物の生育を促進していることが確認された(特許文献4参照)。一方、Vita1変異株においては、該シュートバイオマス比率は野生株よりも低く、より1に近い値となっていた。
本実施例2の結果から、Vita1遺伝子をノックアウトするとNO2に応答した植物生育促進およびバイオマス量の増加効果がほとんど認められなくなることがわかった。すなわち、やはり、Vita1遺伝子に係るタンパク質が、NOx(NO2)濃度増加に伴う植物の生育の促進およびバイオマス量の増加に関与しているということが実証された。
(実施例3)
本実施例3では、Vita1遺伝子過剰発現シロイヌナズナに係る実施例について説明する。
本発明者らは、実施例1および実施例2に示したように、Vita1遺伝子がNOxに応答した植物の生育促進及びバイオマス量の増加に関与していることを発見した。そこで、シロイヌナズナの野生株(Arabidopsis thaliana Columbia)とシロイヌナズナのVita1遺伝子過剰発現体の生育について比較した。
(Vita1遺伝子過剰発現体作製のためのベクターの構築)
まず、Vita1遺伝子のクローニング、および該遺伝子を用いたアグロバクテリウムの形質転換について説明する。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana ecotype C24)の全RNA溶液(250ng/μL)4μLを、65℃で10分間処理し、氷上で冷却した。その後、この全RNA溶液に、Oligo(dT)20プライマーを1.0μL(終濃度0.5μM)、5×バッファー(商品名:Rever Tra Aceに添付の緩衝液、東洋紡株式会社製)を4μL、dNTP(各2.5mM)を4μL、100U/μLの逆転写酵素(商品名:Rever Tra Ace、東洋紡株式会社製)を1μL添加した。得られた混合物を、42℃で45分間反応させ、cDNAを得た。
得られたcDNA(1μL)を鋳型として用い、反応溶液50μL中においてPCRにより、Vita1遺伝子のタンパク質のコーディング領域(配列番号1)およびcDNA断片(配列番号2)を増幅した。該反応溶液の組成は、10×PCRバッファー(プロメガ株式会社製、Pfu DNAポリメラーゼに添付の緩衝液)が1μL、dNTP(各2.5mM)が4.0μL、フォワードプライマーが5μL(終濃度1μM)、リバースプライマーが5μL(終濃度1μM)、3U/μLのPfu DNAポリメラーゼ(プロメガ株式会社製)が1μL、残部は水である。
なお、Vita1遺伝子のタンパク質のコーディング領域増幅用のフォワードプライマーとして、Vita1 f1Aプライマー(配列番号6:5'-ccctctagaatggttgatatccaaagcac-3')、リバースプライマーとして、Vita1 r1Aプライマー(配列番号7:5'-aaagagctcctagaaacaagaggtcaccg-3')を用いた。Vita1遺伝子のcDNA断片増幅用のフォワードプライマーとして、Vita1 f1Bプライマー(配列番号8:5'-ccctctagatttgataaaaatggttgatatccaaagc-3')、リバースプライマーとして、Vita1 r1Bプライマー(配列番号9:5'-aaagagctcaacagaagtaaattcttattaattcaac-3')を用いた。
また、PCRは、95℃で5分のインキュベーション後、変性を95℃で30秒、アニーリングを60℃ で1分、伸長を72℃で1分を1サイクルとする反応サイクルを、35回繰り返し、最後に72℃で7分のインキュベーションする条件で行った。
得られたPCR産物を、1%アガロースゲルで電気泳動し、目的の約0.3kbまたは0.5kbのDNA断片を精製した。DNA精製にはGL Science社のMonoFas DNA精製キットIを用いた。精製した各DNA断片をpGEM−T Easy(プロメガ社製)に連結した。その後、得られた産物を用いて、大腸菌DH5αを形質転換した。次いで、菌体を100μg/mLアンピシリン、0.5mM X−gal、および、80mg/L IPTGを含有したLB寒天培地上で、37℃で培養することにより形質転換体を選抜した。
LB寒天培地の組成は、0.01重量%トリプトン(DIFCO社製)、0.005重量%酵母エキス(DIFCO社製)、0.005重量%NaCl、および、1.5重量% 寒天(和光純薬工業株式会社製)であり、pH7.0である。得られた各コロニーよりプラスミドを回収し、該プラスミド中に含まれるPCR産物の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を保持しているものを選別した。
得られたプラスミドを、制限酵素XbaIとSacIとにより切断して、配列番号1のVita1遺伝子のCDSの塩基配列、または、配列番号2のVita1遺伝子のcDNAの塩基配列を含む断片を得た。また、組み換えベクターpIGHm121をXbaIとSacIとにより切断して、CaMV35SプロモーターとNOSターミネーター等を含有するベクター由来の断片を得た。その後、前述したVita1遺伝子のCDSの塩基配列、または、Vita1遺伝子のcDNAの塩基配列を含む断片と、ベクター由来断片とをそれぞれ連結した。
図3は、実施例3および後述する実施例4に係る組み換えベクターの構造を示す模式図である。すなわち、前述したように各断片を連結させた、プラスミドベクター(組み換えベクター)の構造図を示す。図3において、NOS-proはNOSプロモーター、NPTIIはカナマイシン耐性遺伝子、NOS-terはNOSターミネーター、P35SはCaMV35Sプロモーター、HPTはハイグロマイシン耐性遺伝子、ORFはVita1遺伝子のCDSの塩基配列またはVita1遺伝子のcDNAの塩基配列を含む断片である。このようなプラスミドベクターを用いて植物細胞を形質転換する場合、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを、植物核内DNAに組み込むことができる。
これらのプラスミドベクターを用いて、大腸菌DH5αを形質転換した。次いで、当該菌体を、ハイグロマイシン(50μg/mL)とカナマイシン(50μg/mL)とを含有したLB寒天培地上で37℃ で培養することにより、形質転換体を選抜した。得られた各コロニーからプラスミドを回収し、制限酵素XbaIとSacIとで処理することにより、それぞれのVita1遺伝子の塩基配列の存在を確認した。なお、以下、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列(配列番号1)を含むプラスミドベクターをpVita1A、Vita1遺伝子のcDNAの塩基配列(配列番号2)を含むプラスミドベクターをpVita1Bとする。
プラスミドベクターpVita1AまたはpVita1B各1μgDNAを、アグロバクテリウムGV3101(pMP90)コンピテント細胞100μLに加えた。氷上で5分間静置した後、5分間ヒートショック処理(37℃)を行った。その後、LB培地1mLを加え、2時間〜4時間、150rpm、室温で振とう培養した。9,500×gで1分間遠心して集菌した。上清1mLを捨て、残りの培養液100μLに沈殿したアグロバクテリウムを再懸濁した。この形質転換したアグロバクテリウムGV3101(pMP90)(pVita1AまたはpVita1Bが導入されているもの)は、カナマイシン50mg/Lおよびハイグロマシン50mg/Lおよびリファアンピシリン50mg/Lを含むLB培地で培養して維持した。この形質転換したアグロバクテリウムGV3101(pMP90)(pVita1AまたはpVita1Bが導入されているもの)をシロイヌナズナの形質転換に用いた。
(Vita1遺伝子過剰発現シロイヌナズナの作出)
まず、それぞれの植物体の調製を行った。バーミキュライトおよびパーライトを等体積割合で入れた混合土50gをポットに入れ、さらに、該混合土に、1000倍希釈したハイポネックス((株)ハイポネックスジャパン社製)50mLを添加した。シロイヌナズナの野生株(Arabidopsis thaliana ecotype columbia)の種子を4℃で一晩吸水させたものを、1ポットあたり、5〜6粒ずつ蒔いた。その後、1ポットずつラップで覆い、温度22℃、光条件16h明所/8h暗所のインキュベーターで維持し、発芽させた。徐々にラップを外していき、10日目までに完全に外した。また、週に2度、1000倍希釈したハイポネックス50mLを供給した。
小さい個体を間引き、1ポット当たり3個体にした。花茎が伸びてきたら、花茎の付け根から数えて1枚目の葉を残し、花茎を切り取り、脇芽を誘導させた。蕾がつき始めた個体を、アグロバクテリウムの感染に用いた。
次に、減圧浸潤法により、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列(配列番号1)を含むプラスミドベクターpVita1Aを有するアグロバクテリウムをシロイヌナズナに感染させた。具体的には、リファンピシン(100μg/mL)とゲンタマイシン(25μg/mL)とカナマイシン(50μg/mL)とを含有したLB液体培地3mLにアグロバクテリウムを播種し、30℃で1〜2日間培養した。得られた培養物を、リファンピシン(100μg/mL)とゲンタマイシン(25μg/mL)とカナマイシン(50μg/mL)とを含有したLB液体培地250mLに移し、OD600=1.2〜1.6になるまで培養した。得られた培養物を、遠心管(アシスト社製)に移し、該遠心管を、4℃、5000rpmにおいて15分の遠心分離に供し、菌体を回収した。
得られた菌体を、Infiltration medium(組成:1/2希釈MS salts(Murashige, T., et al., Physiol.Plant.,15: 473 (1962))、pH5.6、和光純薬工業株式会社製、商品名:ムラシゲ・スクーブ培地用混合塩類)、50μg/mLミオイノシトール、5μg/mLチアミン−HCl、0.5μg/mLニコチン酸、0.5μg/mLピリドキシン−HCl、5重量%シュークロース、10ng/mLベンジルアミノプリン(BAP)、0.00004重量%Silwet L-77(商標)(日本ユニカー株式会社製)、0.05重量%MES/KOH(pH5.7))に、OD600=0.6となるように懸濁し、得られた懸濁物を500mL容ビーカーに移した。
シロイヌナズナのポットを逆さまにして、前記ビーカー中のアグロバクテリウムと接触させ、減圧装置中で、50.6625Paに減圧し、10分間維持し、シロイヌナズナにアグロバクテリウムを感染させた。なお、減圧装置は、シバタ株式会社製のデシケーターに中村理化工業株式会社製の真空ポンプを連結させたものである。
感染させたシロイヌナズナのポットを、キムタオル(登録商標)を敷いたバット上に横向けに静置させ、ラップで覆い、インキュベーターに移した。その後、ラップをはずしてポットを起こし、温度22℃、光条件16h明所/8h暗所の栽培条件で生育させた。なお、感染後、1週間は水を供給せず、根が腐らないようにした。その後、1週間に2度、1000倍希釈したハイポネックス50mLを供給した。
次に、形質転換体の選抜を行った。種子を採取し、2週間以上乾燥させた。得られた種子約3000粒ずつを、1.5mL容エッペンドルフチューブ(グライナー社製)に入れ、該種子を2.5体積%次亜塩素酸ナトリウムで滅菌した。
クリーンベンチにおいて、0.2重量%滅菌済液状LO3(タカラバイオ社製)を1mL取り、試験管に移し、前記種子を滅菌水1mLと共に該試験管に入れ、よく混合した。次いで、上記種子を、9cmディッシュ中、ハイグロマイシン(50μg/mL)とカナマイシン(50μg/mL)とを含む選抜培地(組成:ビタミン類を含有しないMS基本培地(Murashige,T., et al., Physiol.Plant., 15: 473 (1962))、pH5.6、0.8重量%寒天)上に播種した。前記選抜培地の表面が乾燥した後、前記ディッシュをパラフィルムで覆い、温度22℃、光条件16h明所/8h暗所で目的の植物体を選抜した。
3〜4週間後、上記選抜により、生存していた植物体を、アグリポットに入れたMS培地(組成:MS基本培地、pH5.6、1重量%シュークロース、0.8重量%寒天)、または、バーミキュライトおよびパーライトを等体積割合で入れた混合土に移し、5ppb未満のNOx濃度環境下で生育させた。なお、得られた植物体をT0世代とする。得られた植物体はPCRで解析した。
生育させた野生株またはVita1遺伝子過剰発現体のシロイヌナズナ植物体を、シュートと根に切り分けた後、凍結乾燥した。凍結乾燥させたシュートの乾燥重量は、実施例2と同様、電子天秤で測定した。また、各植物体の葉数についても測定した。
図4は、実施例3に係るシロイヌナズナのVita1遺伝子過剰発現体の生育を示す図である。すなわち、シロイヌナズナの野生株(Col WT)とシロイヌナズナのVita1遺伝子過剰発現体(Vita1B−3)とにおける、両植物体の生育の比較を示す。なお、図4において、nは個体数を示す。両植物体の比較は、シュートバイオマス(mg)および葉数(枚)において行っている。図4に示すように、Col WTと比較するとVita1B-3の方が、シュートバイオマスについては重く、かつ葉数についても多かった。
当該結果および実施例1ならびに実施例2の結果から、Vita1遺伝子に係るタンパク質は、植物の生育を促進し、かつバイオマス量を増加させる機能を有することがわかった。さらに、Vita1遺伝子を過剰発現させると、植物の生育が促進し、その収量も増加することが明らかとなった。
次に、野生株およびVita1遺伝子を過剰発現したシロイヌナズナ植物体を50ppbのNOx濃度下で生育させて、上記と同様に両者のシュートバイオマスを比較した。この比較は、シロイヌナズナの野生株(Arabidopsis thaliana C24)とそのVita1遺伝子過剰発現株とを用いて行った。なお、Vita1遺伝子過剰発現株の作製は、上記のArabidopsis thaliana Columbiaと同様の方法で行った。また、栽培条件も上記のArabidopsis thaliana Columbiaと同様である。
その結果、図5に示すように、Vita1遺伝子を過剰発現した植物体では、野生株に比べてシュートバイオマスが増加することが分かった。
これらの結果から、環境中のNOx濃度に関わらず、Vita1遺伝子の発現が増強された植物体は、野生株と比べて生育が促進され、そのバイオマス量が増加することが明らかとなった。
(参考例1)
トマト(Solanum lycopersicum)の野生株のNOx応答性について検討した。
トマト(Solanum lycopersicum)の野生株がNOxに応答して、そのバイオマス量が増加することを確認するために、トマト(品種:Micro−Tom、Solanum lycopersicum)の野生株を50ppb±10ppbのNOx濃度環境下および5ppb未満のNOx濃度環境下で栽培した。栽培条件は、実施例2と同様である。
その結果、図6に示すように、トマト(Solanum lycopersicum)を50ppb±10ppbのNOx濃度環境下で96日間栽培すると、5ppb未満のNOx濃度環境下で栽培した場合に比べて、果実収量(個体あたりの総果実数)が約1.4倍に増加した。これにより、トマト(Solanum lycopersicum)についてもNOxに応答して、そのバイオマス量が増加することが確認された。
また、詳述したように、NOxによる植物の生育促進およびバイオマス量の増加には、Vita1遺伝子が関与していることから、NOxに応答してバイオマス量が増加するトマトについても、Vita1遺伝子を導入することにより、バイオマス量を増加させるものと推測される。
(参考例2)
次に、レタス(Lactuca sativa)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、キュウリ(Cucumis sativus)、カボチャ(Cucurbita moschata)、ニコチアナ・プランバジニフォーリア(Nicotiana plumbaginifolia)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)およびシロイヌナズナC24(Arabidopsis thaliana C24)の野生株それぞれについて、NOx応答性を検討した。
これら植物の野生株がNOxに応答して、そのバイオマス量が増加することを確認するために、これら植物の野生株を50ppb±10ppb〜200ppb±50ppbのNOx濃度環境下(+NOx)および対照として5ppb未満のNOx濃度環境下(−NOx)で5〜10週間、栽培した。
具体的には、レタス(Lactuca sativa)およびシロイヌナズナC24(Arabidopsis thaliana C24)の野生株は、50ppb±10ppbのNO2濃度環境下で栽培した。キュウリ(Cucumis sativus)およびケナフ(Hibiscus cannabinus)の野生株は、100ppb±50ppbのNO2濃度環境下で栽培した。ニコチアナ・プランバジニフォーリア(Nicotiana plumbaginifolia)の野生株は、150ppb±50ppbのNO2濃度環境下で栽培した。ヒマワリ(Helianthus annuus)およびカボチャ(Cucurbita moschata)の野生株は、200ppb±50ppbのNO2濃度環境下で栽培した。
それぞれの培養条件は、キュウリ(Cucumis sativus)には1mM硝酸カリウムを含む1/2Murashige and Skoog培地を、1週間に2回与え、ニコチアナ・プランバジニフォーリア(Nicotiana plumbaginifolia)には、栽培中、10nm硝酸カリウムを含むCoic and Lesaint培地を、4日に1回与えた点を除いて、実施例2と同様である。
図6には、各植物を栽培した期間と、−NOx下で栽培した植物のバイオマス量に対する+NOx下で栽培したときのバイオマス量の増加率を示す。その結果、評価した全ての植物において、50〜200ppbのNOx濃度環境下で栽培することによって、バイオマス量が1.6倍〜2.4倍に増加することが確認された。
以上の結果から、レタス(Lactuca sativa)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、キュウリ(Cucumis sativus)、カボチャ(Cucurbita moschata)、ニコチアナ・プランバジニフォーリア(Nicotiana plumbaginifolia)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)およびシロイヌナズナC24(Arabidopsis thaliana C24)といった、トマト以外の野菜等の植物でも、Vita1遺伝子を導入することにより、そのバイオマス量および作物の収量を増加するものと推測される。
(実施例4)
本実施例4では、Vita1遺伝子組み換えトマト(Solanum lycopersicum)に係る実施例について説明する。上記の実施例3で作製した、pVita1AまたはpVita1Bを保持するアグロバクテリウムGV2260を用いたVita1遺伝子組み換えトマト(形質転換植物体)の作出について説明する。
プラスミドベクターpVita1AまたはpVita1Bを用いて、アグロバクテリウムGV2260をエレクトロポーレーション法により形質転換した。この形質転換したアグロバクテリウムGV2260(pVita1AまたはpVita1Bが導入されているもの)は、カナマイシン100mg/Lを含むLB培地で培養してpVita1AまたはpVita1Bを維持した。
pVita1AまたはpVita1Bを保持するアグロバクテリウムGV2260を用い、リーフディスク法により、トマト(品種:Micro−Tom、Solanum lycopersicum)にVita1遺伝子を導入した。具体的には、pVita1AまたはpVita1Bを保持するアグロバクテリウムを、100mg/Lのカナマイシンを含んだLB培地中で一晩振とう培養し、遠心洗浄を行った。次いで、アセトシリンゴン200μMとメルカプトエタノール10μMとを含むMS液体培地に、OD600が0.1になるようにアグロバクテリウムを懸濁した。このアグロバクテリウム菌液に、播種後7日目の無菌のトマト子葉切片を浸漬させた。
アグロバクテリウムを感染させたトマト子葉切片は、1.5mg/Lのゼアチン(Zeatin)を含むMS培地で3日間共存培養した。その後、1mg/Lのゼアチン、100mg/Lのカナマイシンを含む選抜MS培地に移し、2週間ごとに培地を交換しながら培養した。培養により伸びたシュートを、50mg/Lのカナマイシンを含む発根MS培地に移した。この培地で根を形成した個体から形質転換個体を選抜した。発根MS培地で根を形成した形質転換個体の葉からゲノムDNAを抽出しPCR解析を行い、Vita1遺伝子(Vita1遺伝子のCDSの塩基配列、または、Vita1遺伝子のcDNAの塩基配列)が導入されていることを確かめた。
図7は、実施例4に係るVita1遺伝子組み換えトマトの花の数を示す図である。すなわち、前述した形質転換個体の花の数を示している。図7に示すように、野生株(Control)と比較すると、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列が導入されている個体(pVita1A)およびVita1遺伝子のcDNAの塩基配列が導入されている個体(pVita1B)はいずれも花の数が多くなった。すなわち、これは収穫されるトマトの数が多くなるということを意味する。
上記の結果から、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列またはVita1遺伝子のcDNAの塩基配列のいずれを導入しても、トマトの花の数が増加することが分かった。そこで、以下の検証では、Vita1遺伝子のCDS配列を導入した個体について評価した。
図8は、実施例4に係るVita1遺伝子組み換えトマト(pVita1A)の果実の数を示す図である。すなわち、前述した形質転換個体の果実の数を示している。図8に示すように、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列が導入されている個体(pVita1A)では、赤色果実の数および赤色以外の果実も含めた全ての果実の数(総果実数)ともに、野生株と比較して多くなっていることが明らかとなった。
図9は、実施例4に係るVita1遺伝子組み換えトマト(pVita1A)の果実の重量を示す図である。すなわち、前述した形質転換個体の果実の重量を示している。図9に示すように、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列が導入されている個体(pVita1A)では、赤色果実の重量、及び赤色以外の果実も含めた全ての果実の重量(総果実重量)ともに、野生株と比較して増加することが明らかとなった。
このように、Vita1遺伝子の発現を増強することによって、トマトの果実の数及び重量ともに増加し、トマトの収量が増加することが明らかとなった。
本実施例4に係る結果から、トマトにおいてもVita1遺伝子の発現を増強することで、植物の生育が促進し、かつトマトの収量が向上することがわかった。さらに、導入するVita1遺伝子のDNA配列は、Vita1遺伝子のCDSの塩基配列またはVita1遺伝子のcDNAの塩基配列のいずれでも構わないこともわかった。
以上の結果から、NOx応答による植物の生育促進およびバイオマス量の増加効果は、Vita1遺伝子の発現が増加することによってもたらされるものであることが分かった。また、Vita1遺伝子の発現を増強することにより、環境中のNOx濃度に関わらず、植物の生育を促進し、かつバイオマス量を増加させることができることが明らかとなった。
さらに、NOxに応答して植物体の生育が促進されかつ収量が増加するシロイヌナズナおよびトマトはともに、Vita1遺伝子の発現を増強することによって植物の生育が促進され、かつバイオマス量が増加したことから、NOxに応答して植物の生育が促進される他の植物においても同様にVita1遺伝子の発現を増強することによって植物の生育が促進され、かつバイオマス量が増加するものと推察される。