JPWO2011074062A1 - 車両用ベルト式無段変速機の制御装置と制御方法 - Google Patents

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Abstract

ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させること。ベルト44が掛け渡されたプライマリプーリ42およびセカンダリプーリ43を有し、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御して変速比を制御する。この車両用ベルト式無段変速機において、変速比の変化率である変速速度が所定値未満のときに、実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との位相差θに基づいてセカンダリ油圧を制御するベルトスリップ制御手段(図8)と、車両の加速を制限してよいかどうかを所定の加速制限許可条件に基づいて判断し(図12のステップS21,S22,S26)、車両の加速を制限してよいと判断したとき、変速速度を前記所定値未満に制限する変速速度制限手段(図12のステップS23)と、を備えた。

Description

本発明は、プーリに掛け渡されたベルトを所定のスリップ率でスリップさせるベルトスリップ制御を行う車両用ベルト式無段変速機の制御装置と制御方法に関する。
従来、車両用ベルト式無段変速機の制御装置としては、実セカンダリ油圧を通常制御時よりも低下させて、プーリに掛け渡されたベルトを所定のスリップ率でスリップさせるベルトスリップ制御を行うに際して、
(a) セカンダリ油圧に所定の正弦波を重畳し、すなわち、セカンダリ油圧を加振して振動させ、
(b) 実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と、実変速比に含まれる加振による振動成分との乗数に基づき、セカンダリ油圧を制御してベルトスリップ制御を行う。
これにより、ベルトのスリップ率を直接検出する必要がなくなるため、ベルトスリップ制御を容易に行えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
WO 2009/007450 A2(PCT/EP2008/059092)
しかしながら、従来の車両用ベルト式無段変速機の制御装置にあっては、変速比の変化率である変速速度が速いと、実変速比の変動特性において、運転状態に応じた実変速比の基本成分から、実変速比に含まれる加振による振動成分を切り分けて抽出することができなくなる。このため、変速速度が速く、実変速比に含まれる加振による振動成分を抽出できないとき、実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との乗数値を、ベルトスリップ状態をあらわす推定値とし、この値を所定値に収束させるベルトスリップ制御を行うと、ベルトスリップ状態の推定誤差によって制御精度が確保されず、ベルト式無段変速機への入力トルクの大きさによっては、ベルトスリップ制御中にベルトが大きく滑るおそれがある、という問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させることができる車両用ベルト式無段変速機の制御装置と制御方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の車両用ベルト式無段変速機は、ベルトが掛け渡されたプライマリプーリおよびセカンダリプーリを有し、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御して変速比を制御する。
この車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、ベルトスリップ制御手段と、制限判断手段と、変速速度制限手段と、を備えた。
前記ベルトスリップ制御手段は、前記変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、前記セカンダリ油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との位相差に基づいてセカンダリ油圧を制御する。
前記制限判断手段は、車両の加速を制限してよいかどうかを所定の加速制限許可条件に基づいて判断する。
前記変速速度制限手段は、前記制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、前記変速速度を前記所定値未満に制限する。
ベルトスリップ制御手段により、変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、ベルトスリップ制御を許可することによって、ベルトスリップ状態の推定精度が高いとき、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減を確保しながら、ベルトスリップ状態の推定精度が低いとき、ベルトスリップ制御中にベルトが大きく滑ることを防止することができる。
加えて、変速速度制限手段により、制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、変速速度を前記所定値未満に制限することによって、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を拡大することができる。つまり、車両の運転状態に応じて発生する変速比の変化速度に依存し、変速速度条件の成立を待ってベルトスリップ制御が許可されるときの領域に比べて、車両の加速制限許可条件の成立によりベルトスリップ制御が許可される領域が加えられる分、ベルトスリップ制御が許可される運転領域が拡大する。そして、ベルトスリップ制御の許可領域として加えられた運転領域において、変速速度を所定値未満に制限することで、ベルトスリップ状態の推定精度が保たれる。
このように、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させることができる。
実施例1の制御装置と制御方法が適用された車両用ベルト式無段変速機の駆動系と制御系を示す全体システム図である。 実施例1の制御装置と制御方法が適用されたベルト式無段変速機構を示す斜視図である。 実施例1の制御装置と制御方法が適用されたベルト式無段変速機構のベルトの一部を示す斜視図である。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるライン圧制御、セカンダリ油圧制御(通常制御/ベルトスリップ制御)を示す制御ブロック図である。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるセカンダリ油圧の通常制御とベルトスリップ制御(=「BSC」)の間での切り替え処理を示す基本フローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理を示す全体フローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理のうちトルクリミット処理を示すフローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理のうちセカンダリ油圧の加振・補正処理を示すフローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御から通常制御への復帰処理を示す全体フローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される通常制御への復帰処理のうちトルクリミット処理を示すフローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される通常制御への復帰処理のうち変速規制処理を示すフローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理を示す全体フローチャートである。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理でエコスイッチがONのときに用いられるスロットル開速度のしきい値1を示すしきい値特性である。 実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理でエコスイッチがOFFのときに用いられるスロットル開速度のしきい値2を示すしきい値特性である。 ベルトスリップ制御中に変速変化率が小さい変速が行われるときの実変速比特性と目標変速比特性を示すタイムチャートである。 ベルトスリップ制御中に変速変化率が大きな変速が行われるときの実変速比特性と目標変速比特性を示すタイムチャートである。 ドライバによる微妙なアクセル開度変化により目標変速比が変動するときの制限判定・目標変速比・BSC作動フラグ(比較例)・制限後目標変速比・制限後BSC作動フラグの各特性を示すタイムチャートである。 目標変速比変化率を積極的に制限しない比較例との対比により実施例1でのBSC作動領域の拡大効果を示す効果説明図である。 通常制御からベルトスリップ制御・復帰制御を経過して通常制御へ戻る走行シーンにおけるBSC作動フラグ・SEC圧F/B禁止フラグ・アクセル開度・車速・エンジントルク・Ratio・SEC油圧・SEC_SOL電流補正量・SEC圧振動とRatio振動との位相差の各特性を示すタイムチャートである。 ベルトスリップ制御から通常制御への復帰制御を説明するためのトルクリミット制御を示すタイムチャートである。
以下、本発明の車両用ベルト式無段変速機の制御装置と制御方法を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置と制御方法が適用された車両用ベルト式無段変速機の駆動系と制御系を示す全体システム図である。図2は、実施例1の制御装置と制御方法が適用されたベルト式無段変速機構を示す斜視図である。図3は、実施例1の制御装置と制御方法が適用されたベルト式無段変速機構のベルトの一部を示す斜視図である。以下、図1〜図3に基づきシステム構成を説明する。
車両用ベルト式無段変速機の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
前記エンジン1は、ドライバによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクが制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。このエンジン1の出力トルク制御により、ベルト式無段変速機構4への入力トルクの変化速度(=変化率)が制御される。
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する発進要素であり、トルク増大機能を必要としないときには、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、前進走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、後退走行時に締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、ベルト44と、を有する。前記プライマリプーリ42は、固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧によりスライド動作する。前記セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧によりスライド動作する。前記ベルト44は、図2に示すように、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面42c,42cと、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面43c,43cに掛け渡されている。このベルト44は、図3に示すように、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リング44a,44aと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リング44a,44aに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメント44bにより構成される。そして、エレメント44bには、両側位置にプライマリプーリ42のシーブ面42c,42cと、セカンダリプーリ43のシーブ面43c,43cと接触するフランク面44c,44cを有する。
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
ベルト式無段変速機搭載車の制御系は、図1に示すように、変速油圧コントロールユニット7と、CVTコントロールユニット8と、を備えている。
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧と、セカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧を作り出す油圧制御ユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、変速制御弁73と、減圧弁74、セカンダリ油圧ソレノイド75と、サーボリンク76と、変速指令弁77と、ステップモータ78と、を備えている。
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧する。
前記変速制御弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、プライマリ油圧室45に導かれるプライマリ油圧を調圧する弁である。この変速制御弁73は、メカニカルフィードバック機構を構成するサーボリンク76にスプール73aが連結され、サーボリンク76の一端に連結された変速指令弁77がステップモータ78によって駆動されると共に、サーボリンク76の他端に連結されたプライマリプーリ42のスライドプーリ42bからスライド位置(実プーリ比)のフィードバックを受ける。つまり、変速時、CVTコントロールユニット8からの指令によりステップモータ78を駆動すると、変速制御弁73のスプール73aの変位によってプライマリ油圧室45へのライン圧PLの供給/排出を行って、ステップモータ78の駆動位置で指令された目標変速比となるようにプライマリ油圧を調整する。そして、変速が終了するとサーボリンク76からの変位を受けてスプール73aを閉弁位置に保持する。
前記減圧弁74は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてセカンダリ油圧室46に導かれるセカンダリ油圧を減圧制御により調圧する弁である。この減圧弁74は、セカンダリ油圧ソレノイド75を備え、CVTコントロールユニット8からの指令に応じてライン圧PLを減圧して指令セカンダリ油圧に制御する。
前記CVTコントロールユニット8は、車速やスロットル開度等に応じた目標変速比を得る制御指令をステップモータ78に出力する変速比制御、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る制御指令をライン圧ソレノイド72に出力するライン圧制御、変速機入力トルク等に応じた目標セカンダリプーリ推力を得る制御指令をセカンダリ油圧ソレノイド75に出力するセカンダリ油圧制御、前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する前後進切替制御、ロックアップクラッチ20の締結/解放を制御するロックアップ制御、等を行う。このCVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ油圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、スロットル開度センサ87、等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。また、エンジンコントロールユニット88からはトルク情報を入力し、エンジンコントロールユニット88へはトルクリクエストを出力する。さらに、CVTコントロールユニット8には、通常運転モードと経済運転モードとをドライバが選択可能なエコスイッチ89(スイッチ)からのスイッチ情報が入力される。
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるライン圧制御、セカンダリ油圧制御(通常制御/ベルトスリップ制御)を示す制御ブロック図である。
実施例1のCVTコントロールユニット8の油圧制御系は、図4に示すように、基礎油圧計算部90と、ライン圧制御部91と、セカンダリ油圧制御部92と、正弦波加振制御部93と、セカンダリ油圧補正部94と、を備えている。
前記基礎油圧計算部90は、エンジンコントロールユニット88(図1参照)からのトルク情報(エンジン回転数、燃料噴射時間等)に基づいて、変速機入力トルクを計算する入力トルク計算部90aと、入力トルク計算部90aで求めた変速機入力トルクから基礎セカンダリ推力(セカンダリプーリ43に必要なベルトクランプ力)を計算する基礎セカンダリ推力計算部90bと、変速時に必要な差推力(プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43のベルトクランプ力の差)を計算する変速時必要差推力計算部90cと、計算した基礎セカンダリ推力を変速時必要差推力に基づいて補正する補正部90dと、補正したセカンダリ推力を目標セカンダリ油圧に変換するセカンダリ油圧変換部90eと、を有する。さらに、入力トルク計算部90aで求めた変速機入力トルクから基礎プライマリ推力(プライマリプーリ42に必要なベルトクランプ力)を計算する基礎プライマリ推力計算部90fと、計算した基礎プライマリ推力を、変速時必要差推力計算部90cで計算した変速時必要差推力に基づいて補正する補正部90gと、補正したプライマリ推力を目標プライマリ油圧に変換するプライマリ油圧変換部90hと、を有する。
前記ライン圧制御部91は、プライマリ油圧変換部90hから出力された目標プライマリ油圧を、セカンダリ油圧制御部92から得られる指示セカンダリ油圧と比較して、目標プライマリ油圧≧指示セカンダリ油圧であるとき、目標ライン圧を目標プライマリ油圧と同じ値に設定し、目標プライマリ油圧<指示セカンダリ油圧であるとき、目標ライン圧を指示セカンダリ油圧と同じ値に設定する目標ライン圧決定部91aと、目標ライン圧決定部91aで決定された目標ライン圧を、ソレノイドに印加する電流値に変換し、レギュレータ弁71のライン圧ソレノイド72に変換後の指示電流値を出力する油圧−電流変換部91bと、を有する。
前記セカンダリ油圧制御部92は、通常制御時、算出偏差を用いたフィードバック制御により指示セカンダリ油圧を求め、ベルトスリップ制御時、ゼロ偏差を用いた制御により指示セカンダリ油圧を求める。このセカンダリ油圧制御部92は、セカンダリ油圧変換部90eからの目標セカンダリ油圧をフィルタ処理するローパスフィルタ92aと、セカンダリ油圧センサ82にて検出した実セカンダリ油圧と目標セカンダリ油圧の偏差を算出する偏差算出部92bと、偏差=0を設定したゼロ偏差設定部92cと、算出偏差とゼロ偏差の何れかを選択して切り替える偏差切替部92dと、油温により積分ゲインを決定する積分ゲイン決定部92eと、を有する。そして、積分ゲイン決定部92eからの積分ゲインと偏差切替部92dからの偏差を乗算する乗算器92fと、乗算器92fからのFB積分制御量を積算する積分器92gと、セカンダリ油圧変換部90eからの目標セカンダリ油圧に積算したFB積分制御量を加算する加算器92hと、加算した値に上下限リミッタを施して指示セカンダリ油圧(なお、ベルトスリップ制御時は、「基本セカンダリ油圧」という。)を求める制限器92iと、を有する。そして、ベルトスリップ制御時、基本セカンダリ油圧に正弦波加振指令を加える振動加算器92jと、ベルトスリップ制御時、加振した基本セカンダリ油圧をセカンダリ油圧補正量により補正して指示セカンダリ油圧とする油圧補正器92kと、指示セカンダリ油圧をソレノイドに印加する電流値に変換し、減圧弁74のセカンダリ油圧ソレノイド75に変換後の指示電流値を出力する油圧−電流変換部92mと、を有する。なお、前記偏差切替部92dでは、BSC作動フラグ=0(通常制御中)のとき算出偏差が選択され、BSC作動フラグ=1(ベルトスリップ制御中)のときゼロ偏差が選択される。
前記正弦波加振制御部93は、ベルトスリップ制御中、指示セカンダリ油圧に正弦波油圧振動を加えることで、セカンダリ油圧を加振する。この正弦波加振制御部93は、実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と実変速比に含まれる加振による振動成分との位相差を取得するのに適した加振周波数と加振振幅を決定し、決定した周波数と振幅による正弦波油圧振動を加える正弦波加振器93aと、正弦波油圧振動を全く加えないゼロ加振設定器93bと、正弦波油圧振動とゼロ加振の何れかを選択して切り替える加振切替部93cと、を有する。なお、前記加振切替部93cでは、BSC作動フラグ=0(通常制御中)のときゼロ加振が選択され、BSC作動フラグ=1(ベルトスリップ制御中)のとき正弦波油圧振動が選択される。
前記セカンダリ油圧補正部94は、ベルトスリップ制御中、実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と実変速比に含まれる加振による振動成分との位相差に基づいてセカンダリ油圧を減圧補正する。このセカンダリ油圧補正部94は、プライマリ回転センサ80からのプライマリ回転数Npriとセカンダリ回転センサ81からのセカンダリ回転数Nsecの比により実変速比Ratioを算出する実変速比算出部94aと、ベルトスリップ制御時、セカンダリ油圧センサ82により取得された実セカンダリ油圧Psecに含まれる加振による振動成分を実セカンダリ油圧Psecの基本成分(=基本セカンダリ油圧をあらわす成分)から抽出する第1バンドパスフィルタ94bと、実変速比算出部94aにより取得された実変速比Ratioの算出データから加振による振動成分を抽出する第2バンドパスフィルタ94cと、を有する。そして、両バンドパスフィルタ94b,94cにて抽出された実セカンダリ油圧の加振による振動成分と実変速比の加振による振動成分を掛け合わせる乗算器94dと、乗算した結果から位相差をあらわす情報を抽出するローパスフィルタ94eと、ローパスフィルタ94eからの位相差情報に基づいてセカンダリ油圧補正量を決定するセカンダリ油圧補正量決定部94fと、セカンダリ油圧のゼロ補正量を設定するゼロ補正量設定器94gと、セカンダリ油圧補正量とゼロ補正量の何れかを選択して切り替える補正量切替部94hと、を有する。なお、前記補正量切替部94hでは、BSC作動フラグ=0(通常制御中)のときゼロ補正量が選択され、BSC作動フラグ=1(ベルトスリップ制御中)のとき決定したセカンダリ油圧補正量が選択される。
図5は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるセカンダリ油圧の通常制御とベルトスリップ制御(「BSC」は、ベルトスリップ制御の略称をあらわす。)の間での切り替え処理を示す基本フローチャートである。以下、図5の各ステップについて説明する。
ステップS1では、キーオンによるスタート、あるいは、ステップS2でのBSC不許可の判定、あるいは、ステップS5での通常制御復帰処理に続き、ベルト式無段変速機構4の通常制御を行い、ステップS2へ進む。なお、通常制御中は、BSC作動フラグ=0にセットする。
ステップS2では、ステップS1での通常制御に続き、下記のBSC許可条件を全て満たすか否かを判定し、YES(全てのBSC許可条件を満たす)の場合、ステップS3へ進み、ベルトスリップ制御を行う。NO(BSC許可条件のうち1つでも満たさない条件がある)の場合、ステップS1へ戻り、通常制御を続ける。
ここで、BSC許可条件の一例を下記に示す。
(1) ベルト式無段変速機構4の伝達トルク容量の変化率が小さく安定していること。
この条件(1)は、例えば、
a. |指令トルク変化率|<所定値
b. |指令変速比変化率|<所定値
という2つの条件成立に基づき判断する。
ここで、「指令変速比変化率」は、ベルト式無段変速機構4による変速比の変化率である変速速度に相当する。そして、|指令変速比変化率|<所定値という条件は、運転状態や車両状態等により成立する場合だけでなく、後述するように、車両の加速を制限してよいという加速制限許可条件の成立に基づく強制的な制限により、|指令変速比変化率|<所定値が成立する場合も含む。
(2) プライマリプーリ42への入力トルクの推定精度が信頼できる範囲に入っていること。
この条件(2)は、例えば、エンジンコントロールユニット88からのトルク情報(推定エンジントルク)、トルクコンバータ2のロックアップ状態、ブレーキペダルの操作状態、レンジ位置等に基づき判断する。
(3) 所定時間、上記(1),(2)の許可状態を継続すること。
ステップS2では、以上の条件(1),(2),(3)の全ての条件を満たすか否かを判断する。
ステップS3では、ステップS2でのBSC許可判定、あるいは、ステップS4でのBSC継続判定に続き、ベルト式無段変速機構4のベルト44への入力を低減し、ベルト44のスリップ状態を“ミクロスリップ”と呼ばれる状態に保つベルトスリップ制御(図6〜図8)を行い、ステップS4へ進む。なお、ベルトスリップ制御中は、BSC作動フラグ=1にセットする。
ステップS4では、ステップS3でのベルトスリップ制御に続き、下記のBSC継続条件を全て満たすか否かを判定し、YES(全てのBSC継続条件を満たす)の場合、ステップS3へ戻り、ベルトスリップ制御(BSC)をそのまま継続する。NO(BSC継続条件のうち1つでも満たさない条件がある)の場合、ステップS5へ進み、通常制御復帰処理を行う。
ここで、BSC継続条件の一例を下記に示す。
(1) ベルト式無段変速機構4の伝達トルク容量の変化率が小さく安定していること。
この条件(1)は、例えば、
a. |指令トルク変化率|<所定値
b. |指令変速比変化率|<所定値
という2つの条件成立に基づき判断する。
ここで、|指令変速比変化率|<所定値という条件は、運転状態や車両状態等により成立する場合だけでなく、後述するように、車両の加速を制限してよいという加速制限許可条件の成立に基づく強制的な制限により、|指令変速比変化率|<所定値が成立する場合も含む。
(2) プライマリプーリ42への入力トルクの推定精度が信頼できる範囲に入っていること。
この条件(2)は、例えば、エンジンコントロールユニット88からのトルク情報(推定エンジントルク)、トルクコンバータ2のロックアップ状態、ブレーキペダルの操作状態、レンジ位置等に基づき判断する。
以上の条件(1),(2)を共に満たすか否かを判断する。
すなわち、BSC許可条件とBSC継続条件の差異は、BSC継続条件にはBSC許可条件のうち(3)の継続条件が無いことである。
ステップS5では、ステップS4でのBSC継続条件のうち1つでも満たさない条件があるとの判断に続き、ベルトスリップ制御から通常制御へ復帰するときのベルト44の滑りを防止する通常制御復帰処理(図9〜図11)を行い、処理終了後、ステップS1へ戻り、通常制御へ移行する。
図6は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理を示す全体フローチャートである。図7は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理のうちトルクリミット処理を示すフローチャートである。図8は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御処理のうちセカンダリ油圧の加振・補正処理を示すフローチャートである。
まず、図6から明らかなように、BSC許可判定からBSC継続判定が維持されているベルトスリップ制御中、実セカンダリ油圧を用いて指示セカンダリ油圧を求める油圧フィードバック制御の禁止処理(ステップS31)と、通常制御への復帰に備えたトルクリミット処理(ステップS32)と、ベルトスリップ制御のためのセカンダリ油圧の加振・補正処理(ステップS33)と、が同時進行にて行われる。
ステップS31では、BSC許可判定からBSC継続判定が維持されているベルトスリップ制御中、セカンダリ油圧センサ82にて検出した実セカンダリ油圧情報を用いて指示セカンダリ油圧を求める油圧フィードバック制御を禁止する。
すなわち、ベルトスリップ制御中は、実セカンダリ油圧情報に加振による振動成分を含むため、通常制御時の油圧フィードバック制御を禁止し、ゼロ偏差を用いて基本セカンダリ油圧を求める制御に切り替える。そして、ベルトスリップ制御から通常制御へ移行すると、再び油圧フィードバック制御に復帰する。
ステップS32では、BSC許可判定からBSC継続判定が維持されているベルトスリップ制御中、図7のトルクリミット処理を行う。
すなわち、図7のフローチャートにおいて、ステップS321では、“ベルトスリップ制御からのトルクリミット要求”をドライバ要求トルクとする。
ステップS33では、BSC許可判定からBSC継続判定が維持されているベルトスリップ制御中、位相差情報を用いた位相差フィードバック制御により、図8のセカンダリ油圧の加振・補正を行う。以下、図8のフローチャートの各ステップについて説明する。
ステップS331では、指令セカンダリ油圧を加振する。すなわち、指令セカンダリ油圧に所定振幅かつ所定周波数の正弦波油圧を重畳し、ステップS332へ進む。
ステップS332では、ステップS331での指令セカンダリ油圧の加振に続き、セカンダリ油圧センサ82から実セカンダリ油圧を検出し、プライマリ回転センサ80とセカンダリ回転センサ81からの回転数情報に基づき、実変速比を計算により検出し、ステップS333へ進む。
ステップS333では、ステップS332での実セカンダリ油圧と実変速比の検出に続き、実セカンダリ油圧と実変速比のそれぞれにバンドパスフィルタ処理を行い、実セカンダリ油圧と実変速比のそれぞれに含まれる加振による振動成分(正弦波)を抽出し、それらを掛け合わせて乗算し、乗算値にローパスフィルタ処理を行い、実セカンダリ油圧振動の位相と実変速比振動の位相との位相差θを表す値に変換し、ステップS334へ進む。
ここで、実セカンダリ油圧振幅をA、実変速比振幅をBとすると、
実セカンダリ油圧振動:Asinωt …(1)
実変速比振動:Bsin(ωt+θ) …(2)
で表される。
(1)と(2)を掛け合わせ、積和の公式である
sinαsinβ=-1/2{cos(α+β)−cos(α−β)} …(3)
を用いると、
Asinωt×Bsin(ωt+θ)=(1/2)ABcosθ−(1/2)ABcos(2ωt+θ) …(4)
となる。
上記(4)式において、ローパスフィルタを通すと、加振周波数の2倍成分である(1/2)ABcos(2ωt+θ)が低減され、上記(4)式は、
Asinωt×Bsin(ωt+θ)≒(1/2)ABcosθ …(5)
となる。
すなわち、実セカンダリ油圧と実変速比のそれぞれに含まれる加振による振動成分を乗算した乗算値にローパスフィルタ処理を施すと、式(5)に示すように、振幅A,B(定数)とcosθ(位相差θの余弦値)を掛け合わせた値に変換される。この値は、実セカンダリ油圧振動の位相と実変速比振動の位相との位相差θを表す制御情報(以下、単に「位相差θ」という。)として用いることができる。
ステップS334では、ステップS333での加振による2つの振動成分の位相差θの算出に続き、実セカンダリ油圧振動の位相と実変速比振動の位相との位相差θが、0≦位相差θ<所定値1であるか否かを判断し、YES(0≦位相差θ<所定値1)の場合はステップS335へ進み、NO(所定値1≦位相差θ)の場合はステップS336へ進む。
ステップS335では、ステップS334での0≦位相差θ<所定値1であるとの判断に続き、セカンダリ油圧補正量を「−ΔPsec」とし、ステップS339へ進む。
ステップS336では、ステップS334での所定値1≦位相差θであるとの判断に続き、実セカンダリ油圧振動の位相と実変速比振動の位相との位相差θが、所定値1≦位相差θ<所定値2(ベルトスリップ率が目標とする“ミクロスリップ”と呼ばれる領域になる位相差範囲)であるか否かを判断し、YES(所定値1≦位相差θ<所定値2)の場合はステップS337へ進み、NO(所定値2≦位相差θ)の場合はステップS338へ進む。
ステップS337では、ステップS336での所定値1≦位相差θ<所定値2であるとの判断に続き、セカンダリ油圧補正量を「0」とし、ステップS339へ進む。
ステップS338では、ステップS336での所定値2≦位相差θ(ミクロスリップ/マクロスリップの遷移領域)であるとの判断に続き、セカンダリ油圧補正量を「+ΔPsec」とし、ステップS339へ進む。
ステップS339では、ステップS335、ステップS337、ステップS338でのセカンダリ油圧補正量の設定に続き、基本セカンダリ油圧+セカンダリ油圧補正量を、指令セカンダリ油圧とし、エンドへ進む。
図9は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるベルトスリップ制御から通常制御への復帰処理を示す全体フローチャートである。図10は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される通常制御への復帰処理のうちトルクリミット処理を示すフローチャートである。図11は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される通常制御への復帰処理のうち変速規制処理を示すフローチャートである。
まず、図9から明らかなように、BSC継続中止から通常制御が開始されるまでのベルトスリップ制御から通常制御への復帰中、実セカンダリ油圧を用いて指示セカンダリ油圧を求めるフィードバック制御の復帰処理(ステップS51)と、通常制御への復帰に向かうトルクリミット処理(ステップS52)と、ベルトスリップ制御のためのセカンダリ油圧の加振・補正のリセット処理(ステップS53)と、変速速度を規制する変速規制処理(ステップS54)と、が同時進行にて行われる。
ステップS51では、BSC継続中止から通常制御が開始されるまでのベルトスリップ制御から通常制御への復帰中、セカンダリ油圧センサ82にて検出した実セカンダリ油圧を用いて指示セカンダリ油圧を求めるフィードバック制御に復帰する。
ステップS52では、BSC継続中止から通常制御が開始されるまでのベルトスリップ制御から通常制御への復帰中、図10の通常制御への復帰に向かうトルクリミット処理を行う。
ステップS53では、BSC継続中止から通常制御が開始されるまでのベルトスリップ制御から通常制御への復帰中、図8のセカンダリ油圧の加振・補正をリセットし、通常制御に備える。
ステップS54では、BSC継続中止から通常制御が開始されるまでのベルトスリップ制御から通常制御への復帰中、図11の変速速度を規制する変速規制処理を行う。
以下、図10のトルクリミット処理を示すフローチャートの各ステップについて説明する。このトルクリミット処理では、「ドライバ要求トルク」と「BSCからのトルクリミット要求」と「トルク容量(算出トルク容量)」との3つの値の大小関係に基づき制御を切替えるのがポイントである。
ここで、「ドライバ要求トルク」とは、ドライバが要求するエンジントルクである。「BSCからのトルクリミット要求」とは、図20のフェーズ(2)、(3)におけるトルク制限量である。「トルク容量」とは、通常制御(図20のフェーズ(1))は、設計上の許容トルク容量であり、ベルト滑りが生じないよう、ベルト式無段変速機構4のメカニカル的バラツキを考慮した安全マージン分だけドライバ要求トルクより高めに設定される値である。ここで、実際のトルク容量の制御は、通常制御によるセカンダリ油圧制御で行う。
さらに、「算出トルク容量」とは、BSC中(図20のフェーズ(2))と復帰処理時(図20のフェーズ(3))のトルク容量である。この算出トルク容量は、実セカンダリ油圧と実変速比に基づく値であり、具体的には、実セカンダリ油圧と実変速比により算出される値である(二つのプーリ42,43のうち、エンジントルクが入ってくる側のプーリ、すなわち、プライマリプーリ42でのトルク容量)。
ステップS521では、「ドライバ要求トルク」が「BSCからのトルクリミット要求」より大きいか否かを判断し、YESの場合はステップS522へ進み、NOの場合はステップS525へ進む。
ステップS522では、ステップS521での「ドライバ要求トルク」>「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「算出トルク容量」が「BSCからのトルクリミット要求」より大きいか否かを判断し、YESの場合はステップS523へ進み、NOの場合はステップS524へ進む。
ステップS523では、ステップS522での「算出トルク容量」>「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「BSCからのトルクリミット要求」を、「BSCからのトルクリミット要求(前回値)+ΔT」と「算出許容トルク容量」のうち小さい方の値に設定し、リターンへ進む。
ステップS524では、ステップS522での「算出トルク容量」≦「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「BSCからのトルクリミット要求」を、「BSCからのトルクリミット要求(前回値)」と「ドライバ要求トルク」のうち小さい方の値に設定し、リターンへ進む。
ステップS525では、ステップS521での「ドライバ要求トルク」≦「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「算出トルク容量」が「BSCからのトルクリミット要求」より大きいか否かを判断し、YESの場合はステップS527へ進み、NOの場合はステップS526へ進む。
ステップS526では、ステップS525での「算出トルク容量」≦「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「BSCからのトルクリミット要求」を、「BSCからのトルクリミット要求(前回値)」と「ドライバ要求トルク」のうち小さい方の値に設定し、リターンへ進む。
ステップS527では、ステップS525での「算出トルク容量」>「BSCからのトルクリミット要求」であるとの判断に続き、「BSCからのトルクリミット」を解除し、エンドへ進む。
以下、図11の目標プライマリ回転数の制限による変速規制処理を示すフローチャートの各ステップについて説明する。
ステップS541では、エンジントルクにより目標イナーシャトルクを算出し、ステップS542へ進む。
ステップS542では、ステップS541での目標イナーシャトルクの算出に続き、目標イナーシャトルクにより目標プライマリ回転変化率を算出し、ステップS543へ進む。
ステップS543では、ステップS542での目標プライマリ回転変化率の算出に続き、目標プライマリ回転変化率を超えない制限目標プライマリ回転数を算出し、ステップS544へ進む。
ステップS544では、ステップS543での制限目標プライマリ回転数の算出に続き、制限目標プライマリ回転数に基づき、変速制御を行い、ステップS545へ進む。
ステップS545では、ステップS544での変速制御に続き、制限目標プライマリ回転数に基づく変速制御が終了したか否か、すなわち、実プライマリ回転数が制限目標プライマリ回転数に到達したか否かを判断する。YES(変速制御終了)の場合はエンドへ進み、NO(変速制御途中)の場合はステップS541へ戻る。
図12は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理を示す全体フローチャートである。図13は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理でエコスイッチがONのときに用いられるスロットル開速度しきい値1を示すしきい値特性である。図14は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行されるBSC許可判定処理でエコスイッチがOFFのときに用いられるスロットル開速度しきい値2を示すしきい値特性である。以下、図12〜図14に基づいて、BSC許可判定処理を説明する。
ステップS21では、通常運転モードと経済運転モードをドライバが選択可能なエコスイッチ89がONであるか否かを判断し、YES(経済運転モードの選択時)の場合はステップS22へ進み、NO(通常運転モードの選択時)の場合はステップS26へ進む(制限判断手段)。
ここで、ドライバが、燃費性能の向上を意図して経済運転モードを選択したことを示す「エコスイッチ89がON状態」は、所定の加速制限許可条件の一つである。
ステップS22では、ステップS21での経済運転モードの選択時であるとの判断に続き、スロットル開速度がしきい値1以下であるか否かを判断し、YES(スロットル開速度≦しきい値1)の場合はステップS23へ進み、NO(スロットル開速度>しきい値1)の場合はステップS25へ進む(制限判断手段)。
ここで、経済運転モードの選択時、ドライバが、大きな加速要求を意図することなくアクセル操作を行ったことを示す「スロットル開速度≦しきい値1」は、所定の加速制限許可条件の一つである。
「スロットル開速度」は、スロットル開度センサ87からのスロットル開度検出値を、時間により微分演算することにより求められる。
「しきい値1」は、図13に示すしきい値特性に基づき、スロットル開度が低開度のときに高い値で高開度になるほど低くなる値で、車速が高車速のときに高い値で低車速になるほど低くなる値で与えられる。そして、経済運転モードの選択時においては、ドライバの加速要求よりも燃費性能を優先するという考え方に基づき、車両の加速制限を許可する「スロットル開速度≦しきい値1」の領域を、図14に示すしきい値特性での「スロットル開速度≦しきい値2」の領域に比べて広く設定している。
なお、図13に示す特性において「しきい値1」を、スロットル開度が高開度になるほど低くなる値で与えているのは、高スロットル開度からの踏み込み操作時であるほどドライバの加速要求が高いためである。また、車速が低車速になるほど低くなる値で与えているのは、低車速から踏み込み操作時であるほどドライバの加速要求が高いためである。
ステップS23では、ステップS22でのスロットル開速度≦しきい値1であるとの判断に続き、目標変速比を所定値に制限し、ステップS24へ進む(変速速度制限手段)。
ここで、「目標変速比を所定値に制限」とは、BSC作動許可条件(BSC許可条件、BSC継続条件)である|指令変速比変化率|<所定値が成立するように、指令による変速比変化率を所定値未満に制限することをいう。つまり、ステップS23での「所定値」は、上記ステップS2、ステップS4での|指令変速比変化率|のBSC許可条件とBSC継続条件のしきい値である「所定値」と同一の値である。
ステップS24では、ステップS23での目標変速比変化率の制限あり、あるいは、ステップS25の目標変速比変化率の制限なし、あるいは、ステップS27の目標変速比変化率の制限なしに続き、BSC作動許可条件に従ってBSC許可判定やBSC継続判定を行い、エンドへ進む。
ステップS25では、ステップS22でのスロットル開速度>しきい値1であるとの判断に続き、目標変速比変化率を制限することなく、ステップS24へ進む。
ステップS26では、ステップS21での通常運転モードの選択時であるとの判断に続き、スロットル開速度がしきい値2以下であるか否かを判断し、YES(スロットル開速度≦しきい値2)の場合はステップS23へ進み、NO(スロットル開速度>しきい値2)の場合はステップS27へ進む(制限判断手段)。
ここで、通常運転モードの選択時、ドライバが、大きな加速要求を意図することなくアクセル操作を行ったことを示す「スロットル開速度≦しきい値2」は、所定の加速制限許可条件の一つである。
「スロットル開速度」は、スロットル開度センサ87からのスロットル開度検出値を、時間により微分演算することにより求められる。
「しきい値2」は、図14に示すしきい値特性に基づき、「しきい値1」の場合と同様、スロットル開度が低開度のときに高い値で高開度になるほど低くなる値で、車速が高車速のときに高い値で低車速になるほど低くなる値で与えられる。そして、通常運転モードの選択時においては、燃費性能よりもドライバの加速要求を優先するという考え方に基づき、車両の加速制限を許可する「スロットル開速度≦しきい値2」の領域を、図13に示すしきい値特性での「スロットル開速度≦しきい値1」の領域に比べて狭く設定している。
ステップS27では、ステップS26でのスロットル開速度>しきい値2であるとの判断に続き、目標変速比変化率を制限することなく、ステップS24へ進む。
次に、作用を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機構4の制御作用を、「通常制御とベルトスリップ制御」、「BSC許可判定作用とBSC継続判定作用」、[|指令変速比変化率|<所定値によるBSC許可・継続判定作用]、「ベルトスリップ制御が作動許可される運転領域拡大作用」、「ベルトスリップ制御作用(BSC作用)」、「BSCから通常制御への復帰制御作用」に分けて説明する。
[通常制御とベルトスリップ制御]
実施例1におけるベルト式無段変速機構4では、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御するが、この油圧制御のうち、両プーリ42,43に掛け渡されたベルト44が滑らないように制御することを「通常制御」といい、両プーリ42,43に掛け渡されたベルト44を所定のスリップ率で意図的に滑らせる制御を「ベルトスリップ制御」という。以下、各制御作用を理解する上で重要な文言となる「通常制御」と「ベルトスリップ制御」の意味を説明すると共に、「ベルトスリップ制御」として「位相差フィードバック制御」を採用した理由を説明する。
「通常制御」とは、駆動源であるエンジン1からの入力トルクの変動があっても、ベルト44の滑りを確実に抑えるだけの余裕を持たせたベルトクランプ力(=ベルト推力)を発生させるように、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を調圧制御することをいう。
この通常制御時には、セカンダリ油圧センサ82からの実セカンダリ油圧を、基礎油圧計算部90において入力トルクや変速時必要差推力等に基づいて算出された目標セカンダリ油圧に一致させる「油圧フィードバック制御(PI制御)」により、セカンダリ油圧が制御される(図4参照)。
一方、「ベルトスリップ制御」とは、同じ運転条件下において通常制御時よりもベルトクランプ力を低下させて“ミクロスリップ”と呼ばれる範囲内でベルト44の滑りを保つようにセカンダリ油圧を調圧制御することをいう。
このベルトスリップ制御時には、セカンダリ油圧を加振して、実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分の抽出と、実変速比に含まれる加振による振動成分の抽出を行い、抽出した両振動成分の振動位相の差である位相差θを、目標とする位相差範囲(所定値1≦位相差<所定値2)に収束させる「位相差フィードバック制御」により、セカンダリ油圧が制御される(図8参照)。
このように、ベルトスリップ制御時に油圧制御として、「位相差フィードバック制御」を採用した理由は、抽出した実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と、抽出した実変速比に含まれる加振による振動成分は、セカンダリプーリ43とベルト44の接触位置関係が変わらず、ベルトスリップの発生がないとき、油圧振動と変速比振動は同じ位相による同期した振動波形であらわれる。しかし、セカンダリプーリ43とベルト44の接触位置関係にずれが生じ、ベルトスリップが発生すると、ベルトスリップ率が大きくなるにしたがって振動波形の位相差が比例的に大きくなる。すなわち、位相差とベルトスリップ率とは密接な相関関係にあり、位相差情報をベルトスリップ率の推定情報として用いることで、ベルトスリップ率を直接検出しないでも、“ミクロスリップ”と呼ばれる範囲内でベルト44の滑りを保つ高精度のベルトスリップ制御を行えることを確認したことによる。
加えて、位相差情報は、プライマリ回転センサ80とセカンダリ回転センサ81による実変速比情報と、セカンダリ油圧センサ82による実セカンダリ油圧情報と、を用いて取得される。したがって、ベルトスリップ制御を行うに際し、スリップ率情報を得るための新たなセンサ追加を要することなく、ベルト式無段変速機構4での「通常制御」に用いる既存の各センサ80,81,82を流用して「ベルトスリップ制御」を採用することができる。
ただし、ベルトスリップ制御時には、セカンダリ油圧を加振するため、仮にセカンダリ油圧センサ82からの加振による振動成分を含む実セカンダリ油圧情報を用いた算出偏差により実セカンダリ油圧の基本成分を求めると、算出偏差が加振により変動し、セカンダリ油圧制御の収束性が低下して不安定になる。このため、「ベルトスリップ制御」では、実セカンダリ油圧の基本成分を、ゼロ偏差により求めるようにしている。
[BSC許可判定作用とBSC継続判定作用]
車両走行を開始すると、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2へと進み、ステップS2でのBSC許可判定条件の全てを満足しない限り、ステップS1→ステップS2へと進む流れが繰り返され、通常制御が維持される。すなわち、ステップS2でのBSC許可判定条件の全てを満足することが、BSC制御の開始条件とされる。
ここで、実施例1でのBSC許可条件について下記に述べる。
(1) ベルト式無段変速機構4の伝達トルク容量の変化率が小さく安定していること。
(2) プライマリプーリ42への入力トルクの推定精度が信頼できる範囲に入っていること。
(3) 所定時間、上記(1),(2)の許可状態を継続すること。
ステップS2では、以上の条件(1),(2),(3)の全ての条件を満たすか否かを判断する。
したがって、通常制御中、ベルト式無段変速機構4の伝達トルク容量の変化率が小さく安定していて、かつ、プライマリプーリ42への入力トルクの推定精度が信頼できる範囲に入っている状態が、所定時間継続すると、BSC許可条件の全てを満足し、ベルトスリップ制御の開始が許可される。このため、高い制御精度が保証される好ましい車両走行状態でベルトスリップ制御を開始することができる。
そして、ステップS2でBSC許可判定がなされると、ステップS3へ進み、ベルト式無段変速機構4のベルト44への入力を低減し、ベルト44のスリップ状態を、目標とする“ミクロスリップ”と呼ばれる状態に保つベルトスリップ制御が行われる。そして、ステップS3でのベルトスリップ制御に続き、次のステップS4では、BSC継続条件を全て満たすか否かが判定され、全てのBSC継続条件を満たす限り、ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返され、ベルトスリップ制御(BSC)が継続される。
ここで、実施例1でのBSC継続条件としては、BSC許可条件のうち(1),(2)条件を用いている。つまり、BSC許可条件のうち(3)の所定時間継続条件がBSC継続条件には無く、ベルトスリップ制御中において、(1),(2)の条件のうち1つの条件でも満足しない状態となったら直ちにベルトスリップ制御を止めて通常制御へ復帰させる。このため、ベルトスリップ制御の制御精度が保証されない車両走行状態になったにもかかわらず、ベルトスリップ制御をそのまま継続することが防止される。
[|指令変速比変化率|<所定値によるBSC許可・継続判定作用]
実施例1のベルトスリップ制御許可判定では、ベルト式無段変速機構4の変速比の変化速度を示す指令変速比変化率が、所定値未満であることを条件(1)の一つとし、ベルトスリップ制御を許可するようにしている。
すなわち、変速変化率(変速比の単位時間当たりの変化幅=変速速度)が小さいときには、図15の目標変速比特性に対する実変速比特性に示すように、変速中も加振による振動成分が生じるが、変速変化率が小さいため、変速による変速比変動と加振による振動成分の切り分けができる。つまり、実変速比の振動成分を用いた位相差監視によるベルトスリップ状態の推定精度が高いといえる。
一方、変速変化率が大きいときには、図16の領域Cに示すように、実変速比に含まれる振動成分が消え、変速による変速比変動と加振による振動成分の切り分けができない。つまり、実変速比の振動成分を用いた位相差監視によるベルトスリップ状態の推定精度が低いといえる。
これに対し、実施例1では、|指令変速比変化率|<所定値であり、ベルトスリップ状態の推定精度が高いときは、ベルトスリップ制御を許可する。このため、セカンダリ油圧の低減によってベルトフリクションが低下し、ベルトフリクションの低下分、変速機駆動負荷が低く抑えられる。この結果、エンジン1の実用燃費の向上を図ることができる。
一方、|指令変速比変化率|≧所定値であり、ベルトスリップ状態の推定精度が低いときは、ベルトスリップ制御が許可されない。このため、例えば、変速速度条件を含めないでベルトスリップ制御を許可した場合のように、ベルトスリップ制御中にベルトが大きく滑る“マクロスリップ”と呼ばれる状態に移行することが防止される。
すなわち、ベルトスリップ制御中は、通常制御時よりもセカンダリ油圧を低減し、ベルトクランプ力を低下させる制御を行うことで、“ミクロスリップ”と呼ばれる状態を維持するようにしている。この状態でベルト式無段変速機構4への入力トルクが増大すると、低いクランプ力で支えられているベルト44が大きく滑る“マクロスリップ”と呼ばれる状態に入るおそれがある。
そして、実施例1の|指令変速比変化率|<所定値というBSC許可条件のうち、指令変速比変化率の大きさ判断しきい値である「所定値」は、実変速比Ratioに含まれる加振による振動成分が抽出できる値に設定される。例えば、「所定値」は、ベルトスリップ制御中にベルト式無段変速機構4への変速比の変化率である変速速度を徐々に上昇させたときに、実変速比Ratioに含まれる加振による振動成分が抽出できると判定された変速比変化率上限値を求め、この変速比変化率上限値から製品バラツキ等によるマージン分を差し引いた値に設定される。
すなわち、ベルトスリップ制御系は、図4の正弦波加振制御部93において、指令セカンダリ油圧に正弦波油圧振動を重畳して加振し、この加振によって実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と実変速比Ratioに含まれる加振による振動成分を用いてベルトスリップ状態を推定している。このため、ベルトスリップ状態の推定精度を確保し、ベルトスリップ制御を成立させるには、実変速比Ratioに含まれる加振による振動成分の抽出ができることが必要条件となる。
したがって、|指令変速比変化率|<所定値をベルトスリップ制御許可判定条件としたことで、抽出された2つの加振による振動成分に基づき、ベルトスリップ状態の推定精度を確保することができる。加えて、実変速比Ratioに含まれる加振による振動成分と、の抽出限界域までの変速比変化率を許容することで、変速比変化率が一定に保たれているという条件下でのみベルトスリップ制御を許可する場合に比べ、変速比変化率に関するベルトスリップ制御の許可条件が成立する運転領域を拡大することができる。
実施例1では、ベルト式無段変速機構4での実際の変速比変化率に基づいて判断するのではなく、制御指令である指令変速比変化率が所定値未満であるとき、ベルトスリップ制御を許可するようにしている。このため、目標変速比を演算により決め、現在の変速比と目標変速比により指令変速比変化率が算出された時点で、ベルトスリップ制御の開始許可判定と継続判定が行われることになる。
したがって、指令変速比変化率という予測情報に基づき、実際にベルト式無段変速機構4の変速比が変化するのに先行して、ベルトスリップ制御の開始許可判定およびベルトスリップ制御の継続判定を行うことができる。
[ベルトスリップ制御が作動許可される運転領域拡大作用]
エコスイッチ89をONとしての走行時であって、スロットル開速度がしきい値1以下のときには、図12のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24へと進む。つまり、エコスイッチ89のONによる経済走行モード選択条件と、スロットル開速度≦しきい値1によるスロットル開速度条件が共に成立し(ステップS21,ステップS22でYES)、この加速制限許可条件に基づいて車両の加速を制限してよいと判断される。この加速制限許可判断に基づいて、ステップS23では、|指令変速比変化率|<所定値が成立するように目標変速比変化率が所定値に制限され、ステップS24では、BSC作動許可条件に従って、ベルトスリップ制御を開始するBSC許可判定やベルトスリップ制御を継続するBSC継続判定が行われる。
エコスイッチ89をONとしての走行時であって、スロットル開速度がしきい値1を超えるときには、図12のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS25→ステップS24へと進む。つまり、エコスイッチ89のONによる経済走行モード選択条件は成立する(ステップS21でYES)が、スロットル開速度>しきい値1によるスロットル開速度条件が不成立(ステップS22でNO)であることで、加速要求にしたがった車両の加速を許可すると判断される。この加速要求許可判断に基づいて、ステップS25では、目標変速比変化率が制限されず、ステップS24では、BSC作動許可条件に従って、基本的に通常制御の維持判定や通常制御への復帰判定が行われる。
エコスイッチ89をOFFとしての走行時であって、スロットル開速度がしきい値2以下のときには、図12のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS26→ステップS23→ステップS24へと進む。つまり、エコスイッチ89のOFFによる通常走行モード選択時であっても、スロットル開速度≦しきい値2によるスロットル開速度条件が成立すると(ステップS26でYES)、この加速制限許可条件に基づいて車両の加速を制限してよいと判断される。この加速制限許可判断に基づいて、ステップS23では、|指令変速比変化率|<所定値が成立するように目標変速比変化率が所定値に制限され、ステップS24では、BSC作動許可条件に従って、ベルトスリップ制御を開始するBSC許可判定やベルトスリップ制御を継続するBSC継続判定が行われる。
エコスイッチ89をOFFとしての走行時であって、スロットル開速度がしきい値2を超えるときには、図12のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS26→ステップS27→ステップS24へと進む。つまり、エコスイッチ89のOFFによる通常走行モード選択条件は成立する(ステップS21でYES)が、スロットル開速度>しきい値2によるスロットル開速度条件が不成立(ステップS26でNO)であることで、加速要求にしたがった車両の加速を許可すると判断される。この加速要求許可判断に基づいて、ステップS27では、目標変速比変化率が制限されず、ステップS24では、BSC作動許可条件に従って、基本的に通常制御の維持判定や通常制御への復帰判定が行われる。
上記のように、実施例1のベルトスリップ制御許可判定では、ベルト式無段変速機構4の変速速度を示す指令変速比変化率が、所定値未満であることを条件の一つとし、ベルトスリップ制御を許可するのに加え、加速制限許可条件に基づいて、車両の加速を制限してよいと判断したとき、強制的に目標変速比変化率を制限することによって、ベルトスリップ制御を積極的に作動させるようにしている。
図17は、ドライバによる微妙なアクセル開度変化により入力トルクが変動するときの制限判定・目標変速比・BSC作動フラグ(比較例)・制限後目標変速比・制限後BSC作動フラグの各特性を示すタイムチャートである。図18は、目標変速比変化率(目標変速速度)を積極的に制限しない比較例との対比により実施例1でのBSC作動領域の拡大効果を示す効果説明図である。以下、図17及び図18に基づいて、ベルトスリップ制御が作動許可される運転領域拡大作用を説明する。
まず、ベルトスリップ制御は、ベルトフリクションを低減し、フリクション損失を抑えることで、ベルト式無段変速機構4の動力伝達効率を高め、エンジン車やハイブリッド車の場合、燃費性能の向上を目指す制御である。このため、ベルトスリップ制御の実効を図るには、ベルトスリップ制御を作動させる運転領域をできる限り拡大することが燃費性能の向上を達成する上で重要なポイントになる。
そこで、比較例として、ベルトスリップ制御許可判定として、車両状態(アクセル開度や車速、等)により決まる指令変速比変化率が、所定値以下という条件だけを用いた場合を説明する。ドライバによる微妙なアクセル開度変化等により、図17の目標変速比特性Tに示すように、目標変速比が変動している場合、|指令変速比変化率|≦所定値という判定条件が成立する時刻t2〜t3、時刻t4〜t5、時刻t6〜t7、時刻t8〜t9、時刻t10〜t11、時刻t13〜、というように、細切れに分断された運転領域にてBSC作動フラグが立ち、ベルトスリップ制御が行われることになる。つまり、比較例の場合、ベルトスリップ制御を許可するか不許可とするかの判定を、ドライバによるアクセル操作や車速等による車両状態に依存する受動的(消極的)な条件判定により行うため、|指令変速比変化率|≦所定値という判定条件が成立する運転領域が限られてしまう。特に、定速走行中、微妙な踏み込み操作と戻し操作を繰り返すようなアクセル操作をする運転個性を持つドライバの場合、ベルトスリップ制御が作動する運転領域が非常に限られた領域となってしまう。
これに対し、実施例1は、加速制限許可条件が成立すると、強制的に目標変速比変化率を制限することによって、ドライバによるアクセル操作や車速等による車両状態に依存することなく、能動的(積極的)に|指令変速比変化率|≦所定値という条件を成立させてベルトスリップ制御を行うようにしている。
つまり、ドライバによる微妙なアクセル開度変化や路面勾配による微妙な車速変化、等により、図17の目標変速比特性Tに示すように、目標変速比が変動している場合、時刻t1において、経済走行モード選択による加速制限許可条件と、スロットル開速度≦しきい値1によるスロットル開速度条件が共に成立すると、|指令変速比変化率|<所定値が成立するように目標変速比変化率(=目標変速速度)を所定値に制限し、BSC作動フラグを立ててベルトスリップ制御を開始する。そして、加速制限許可条件とスロットル開速度条件が共に成立する間は、目標変速比変化率の制限を継続し、BSC作動フラグを立てたままとする。次に、時刻t12において、スロットル開速度>しきい値1となりスロットル開速度条件が不成立になると、目標変速比変化率の制限を止め、BSC作動フラグを収めてベルトスリップ制御を終了する。すなわち、図17の制限後の目標変速比特性T’に示すように、時刻t1に対応する点FSから時刻t12に対応する点FEまでの期間G、目標変速比変化率(=変速速度)の制限を継続し、ベルトスリップ制御の作動を維持する。
ここで、実施例1と比較例によるベルトスリップ制御の作動期間を対比すると、実施例1によるベルトスリップ制御の作動期間は、比較例によるベルトスリップ制御の作動期間に、|指令変速比変化率|≦所定値という判定条件が不成立である時刻t1〜t2、時刻t3〜t4、時刻t5〜t6、時刻t7〜t8、時刻t9〜t10、時刻t11〜t12を加えた期間となる。
つまり、ベルトスリップ制御が許可される作動領域(=運転領域)として、図18に示すように、比較例によるBSC作動領域BE1に、車両の加速制限許可条件が成立するBSC作動領域BE2が加えられることにより、図18の矢印Wに示すように、BSC作動領域が拡大する。そして、加えられたBSC作動領域BE2において、図18の矢印Lに示すように、目標変速比変化率を、加速要求,車両性能から決定される目標変速比変化率から、BSC作動限界変速比変化率(=所定値)未満に制限することで、ベルトスリップ状態の推定精度が保たれる。
このように、エコスイッチ89のON時等、車両の加速を制限してよいと判断される走行シーンにおいては、変速比変化率を、BSC作動可能な変速比変化率まで強制的に制限することによって、ベルトスリップ制御を積極的に作動させてBSC作動領域を拡大することで、結果、燃費効果を向上させることができる。
[ベルトスリップ制御作用(BSC作用)]
通常制御からベルトスリップ制御へ移行する制御開始時は、通常制御側での安全率を見積もってベルト滑りのないクランプ力を得るセカンダリ油圧となっているため、位相差θが所定値1未満という条件が成立し、図8のフローチャートにおいて、ステップS331→ステップS332→ステップS333→ステップS334→ステップS335→ステップS339へと進む流れが繰り返され、この流れを繰り返す毎に指令セカンダリ油圧が、−ΔPsecの補正を受けて低下する。そして、位相差θが所定値1以上になると、位相差θが所定値2になるまでは、図8のフローチャートにおいて、ステップS331→ステップS332→ステップS333→ステップS334→ステップS336→ステップS337→ステップS339へと進む流れとなり、指令セカンダリ油圧が維持される。そして、位相差θが所定値2以上になると、図8のフローチャートにおいて、ステップS331→ステップS332→ステップS333→ステップS334→ステップS336→ステップS338→ステップS339へと進む流れとなり、指令セカンダリ油圧が、+ΔPsecの補正を受けて上昇する。
すなわち、ベルトスリップ制御では、位相差θが所定値1以上で所定値2未満という範囲内となる“ミクロスリップ”と呼ばれる領域のスリップ率を維持する「位相差フィードバック制御」が行われることになる。
図19に示すタイムチャートにより、ベルトスリップ制御を説明する。
まず、時刻t1にて上記(1),(2)のBSC許可条件が成立し、(1),(2)のBSC許可条件成立が継続し((3)のBSC許可条件)、時刻t2に達すると、上記(1),(2)のBSC継続条件のうち、少なくとも一つの条件が不成立となる時刻t2〜時刻t3までの間、BSC作動フラグとSEC圧F/B禁止フラグ(セカンダリ圧フィードバック禁止フラグ)が立てられ、ベルトスリップ制御が行われる。なお、時刻t3の少し前からのアクセル踏み込み操作によりBSC継続条件のうち、少なくとも一つの条件が不成立になると、時刻t3から時刻t4までは、通常制御への復帰制御が行われ、時刻t4以降は、通常制御が行われることになる。
このように、ベルトスリップ制御は、アクセル開度特性・車速特性・エンジントルク特性から明らかなように、図19の矢印Eに示す定常走行判定中において、セカンダリ油圧ソレノイド75へのソレノイド電流補正量特性に示すように、セカンダリ油圧を加振した結果あらわれる実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分と変速比に含まれる加振による振動成分との位相差θを監視し、電流値を増減させることで行われる。なお、セカンダリ油圧ソレノイド75は、ノーマルオープン(常開)であり、電流値を上昇させるとセカンダリ油圧は逆に低下する。
このベルトスリップ制御により、実変速比は、図19の実変速比特性(Ratio)に示すように、小さな振幅にて振動しているがほぼ一定に維持される。そして、位相差θは、図19のSEC圧振動とRatio振動との位相差特性に示すように、スリップ率がゼロに近い時刻t2からの時間経過にしたがって、スリップ率が徐々に高まって“ミクロスリップ”と呼ばれる領域の目標値に収束する特性を示す。そして、セカンダリ油圧は、図19のSEC油圧特性に示すように、安全率を持った時刻t2からの時間経過にしたがって矢印Fに示すように低下していき、最終的に設計上の最低圧に油圧振幅を加えたものとなり、実最低圧に対しては余裕のある油圧レベルに収束する特性を示す。なお、ベルトスリップ制御が長く継続する場合は、位相差θの目標値(ベルトスリップ率の目標値)を保つように、設計上の最低圧+油圧振幅域での実セカンダリ油圧を維持することになる。
このように、ベルトスリップ制御によりセカンダリ油圧を低減することによって、ベルト44に作用するベルトフリクションが低下し、このベルトフリクションの低下分、ベルト式無段変速機構4を駆動する駆動負荷が低く抑えられる。この結果、BSC許可判定によるベルトスリップ制御中、走行性能に影響を与えることなく、エンジン1の実用燃費の向上を図ることができる。
[BSCから通常制御への復帰制御作用]
図6のステップS32では、BSC許可判定からBSC継続判定が維持されているベルトスリップ制御中、図7のステップS321において、“ベルトスリップ制御からのトルクリミット要求”をドライバ要求トルクとすることで、トルクリミット処理を行うようにしている。以下、図10及び図20に基づいて通常制御復帰時のトルクリミット作用を説明する。
まず、エンジンコントロールユニット88は、制御上のエンジントルク上限として、トルク制限量を有している。これにより、エンジン1の実トルクが上記トルク制限量を上回らないように制限される。
このトルク制限量は、様々な要求から決まる。例えば、ベルト式無段変速機構4からの要求として、通常制御中(図20のフェーズ(1))のベルト式無段変速機構4の入力トルク上限を“通常制御中のトルクリミット要求”とし、CVTコントロールユニット8がエンジンコントロールユニット88に対しこの“通常制御中のトルクリミット要求”を送信する。エンジンコントロールユニット88は、このようにして様々なコントローラから要求される複数の“トルクリミット要求”のうち最小のものをトルク制限量として選択することになる。
すなわち、通常制御のフェーズ(1)から時刻t5にてベルトスリップ制御に入ると、図20のトルク制限量特性に示すように、フェーズ(2)では、“BSCからのトルクリミット要求”がエンジンコントロールユニット88に送信される。
ただし、BSC中(図20のフェーズ(2))の“BSCからのトルクリミット要求”は、図10のトルクリミットのための事前準備であり、BSC中(図20のフェーズ(2))においては、事実上、トルク制限としては機能していない。
そして、時刻t6にてBSC継続中止となり、通常制御への復帰制御に入ると、時刻t6では、ドライバ要求トルク>BSCからのトルクリミット要求であり、かつ、算出トルク容量≦BSCからのトルクリミット要求であるため、図10のフローチャートにおいて、ステップS521→ステップS522→ステップS524→リターンへと進む流れが繰り返され、ステップS524では、BSCからのトルクリミット要求(前回値)が維持される。
その後、ドライバ要求トルク>BSCからのトルクリミット要求であるが、算出トルク容量>BSCからのトルクリミット要求となる時刻t7からは、図10のフローチャートにおいて、ステップS521→ステップS522→ステップS523→リターンへと進む流れが繰り返され、ステップS523では、BSCからのトルクリミット要求が、(前回値+ΔT)とされ、徐々にBSCからのトルクリミット要求が上昇する特性となり、実トルクもこの上昇勾配に沿って徐々に上昇する。
その後、時刻t7から「BSCからのトルクリミット要求」が上昇することにより、ドライバ要求トルク≦BSCからのトルクリミット要求となる時刻t8では、算出トルク容量>BSCからのトルクリミット要求であるため、図10のフローチャートにおいて、ステップS521→ステップS525→ステップS527→エンドへと進み、ステップS527では、BSCからのトルクリミットが解除される。
なお、この例では、ステップS526は通過しないが、ステップS526を通過するのは、アクセル踏み込みやアクセル戻し(足離し)のアクセル操作が短時間にて実施される場合である。すなわち、アクセル踏み込みによりベルトスリップ制御が解除され、復帰制御に入った途端、アクセル足離し操作が行われるようなとき、ステップS526を通過することになる。
したがって、ベルトスリップ制御から通常制御への復帰時、ベルト式無段変速機構4への入力トルクの変化速度を制限するトルクリミット制御を行うため、ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力に対して過大となることが抑えられ、ベルトスリップ制御から通常制御へ復帰するとき、ベルトスリップ率が“ミクロスリップ”と呼ばれる領域から一気に“マクロスリップ”と呼ばれる領域に入り、大きな滑りが発生することを防止できる。
そして、ベルトスリップ制御から通常制御への復帰制御時に、上記のように、トルクリミット制御を行い、ベルト式無段変速機構4への入力トルクの変化速度を抑制した状態で変速比を通常の変速速度で変化させると、回転イナーシャ変化に基づく入力トルクの低下が顕著にあらわれるため、ドライバに不要な減速感(引きショック)を与えてしまう。このため、ベルト式無段変速機構4への入力トルクの変化速度制限に伴い、変速比の変化速度を制限するようにしている。
すなわち、BSC継続中止となり、通常制御への復帰制御に入ると、図11にフローチャートにおいて、ステップS541→ステップS542→ステップS543→ステップS544→ステップS545へと進む流れが、変速終了まで繰り返され、制限目標プライマリ回転数に基づく変速制御が行われることになる。
したがって、プライマリ回転の変化率に制限を設ける、つまり、変速速度を遅くすることにより、回転イナーシャ変化を低減して、変速機入力トルクの低下を抑制することができる。この結果、通常制御への復帰時、ドライバに与える不要な減速感(引きショック)を防止することができる。
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機構4の制御装置と制御方法にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) ベルト44が掛け渡されたプライマリプーリ42およびセカンダリプーリ43を有し、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御して変速比を制御する車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、前記変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、前記セカンダリ油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との位相差θに基づいてセカンダリ油圧を制御するベルトスリップ制御手段(図8)と、車両の加速を制限してよいかどうかを所定の加速制限許可条件に基づいて判断する制限判断手段(図12のステップS21,S22,S26)と、前記制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、前記変速速度を前記所定値未満に制限する変速速度制限手段(図12のステップS23)と、を備えた。
このため、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を提供することができる。
(2) 前記制限判断手段は、所定の加速制限許可条件として、通常運転モードと経済運転モードとのうち、経済運転モードが選択されたとき、車両の加速を制限してよいと判断する(図12のステップS21)。
このため、上記(1)の効果に加え、経済運転モードを選択したドライバの意図を反映してベルトスリップ制御が許可される運転領域の拡大を図ることができる。
(3) 前記通常運転モードと前記経済運転モードとをドライバが選択可能なスイッチ(エコスイッチ89)を備えた。
このため、上記(2)の効果に加え、簡単なスイッチ操作により、経済運転モードを希望するドライバの意図を、応答良く確実にベルトスリップ制御に反映することができる。
(4) 前記制限判断手段は、所定の加速制限許可条件として、アクセル開度若しくはスロットル開度の増加速度が所定速度以下のとき、車両の加速を制限してよいと判断する(図12のステップS22,S26と図13,図14)。
このため、上記(1)〜(3)の効果に加え、アクセル開度若しくはスロットル開度の増加速度にあらわれるドライバの加速要求に応じて、ドライバの加速要求が高くないと判断される運転領域を、ベルトスリップ制御を許可する運転領域として設定することができる。
例えば、運転モードの選択と組み合わせた場合、経済運転モードを選択したときには、燃費性能を優先し、ドライバの加速要求が高いと判断される領域まで拡大した領域を、ベルトスリップ制御を許可する運転領域として設定することができる(図13)。また、通常運転モードを選択したときには、加速性能を優先し、通常運転時にドライバの加速要求が低いと判断される領域を、ベルトスリップ制御を許可する運転領域として設定にすることができる(図14)。
(5) ベルト44が掛け渡された一対のプーリ42,43を有し、前記一対のプーリ42,43への油圧を制御して変速比を制御する車両用ベルト式無段変速機の制御方法において、前記変速比の変化率である変速速度が所定値未満のときに、前記油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実油圧に含まれる加振による振動成分との位相差θに基づき前記油圧を制御するベルトスリップ制御を許可すると共に、所定の加速制限許可条件に基づいて、車両の加速を制限してよいと判断したときは、前記変速速度を前記所定値未満に制限する。
このため、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させる車両用ベルト式無段変速機の制御方法を提供することができる。
以上、本発明の車両用ベルト式無段変速機の制御装置と制御方法を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、変速速度制限手段において、変速比変化率を制限するときの「所定値」を、|指令変速比変化率|のBSC許可条件とBSC継続条件のしきい値である「所定値」と同一の値とした。しかし、これに限られるものではなく、変速比変化率を制限するときの「所定値」を、|指令変速比変化率|のBSC許可条件とBSC継続条件のしきい値である「所定値」より小さい値に設定してもよい。
実施例1では、通常運転モードか経済運転モード(ECOモード)かをエコスイッチ89のON/OFFで判断する例を示した(図12のステップS21)。しかし、これに限られるものではなく、例えば、ドライバのスイッチ操作とは関係なく、運転状態(アクセル操作やブレーキ操作等)の監視に基づき、通常運転モードか経済運転モードかを判断し、自動的に運転モードを切り替えるシステムであれば、運転モード判断結果あるいは切り替え結果に基づき、運転モードを判断するような例としても良い。
実施例1では、加速制限許可条件として、通常運転モードの選択時であっても、スロットル開速度がしきい値2以下のとき、車両の加速を制限してよいと判断する例を示した(図12のステップS26)。これは、通常運転モード選択時もベルトスリップ制御を作動させる運転領域を拡大して燃費性能の向上を達成するためである。しかし、これに限られるものではなく、通常運転モード選択時であれば、スロットル開速度に関係なく、車両の加速を制限しないようにしてもよい。すなわち、図12のフローチャートにおいて、ステップS26を削除し、ステップS21で通常運転モードと判断されたとき(NOと判断されたとき)、ステップS27に進み、目標変速比変化率を制限することなく、ステップS24に進むようにしてもよい。
実施例1では、加速制限許可条件として、経済運転モードの選択時、スロットル開速度がしきい値1以下のとき、車両の加速を制限してよいと判断し、通常運転モードの選択時、スロットル開速度がしきい値2以下のとき、車両の加速を制限してよいと判断する例を示した。しかし、スロットルバルブの開き速度である実施例1のスロットル開速度に代え、アクセルペダルの踏み込み速度であるアクセル開速度に基づき、車両の加速を制限してよいかどうかを判断してもよい。
実施例1では、変速油圧コントロールユニット7として、片調圧方式でステップモータ制御による油圧回路を有する例を示した。しかし、他の片調圧方式や両調圧方式の変速油圧コントロールユニットに対しても適用できる。
実施例1では、セカンダリ油圧のみを加振する例を示した。しかし、例えば、直動制御方式であれば、セカンダリ油圧と共にプライマリ油圧を同位相で同時に加振する例としても良い。また、ライン圧を加振することで、セカンダリ油圧と共にプライマリ油圧を同位相で加振する例としても良い。
実施例1では、加振する手段として、演算処理中の指示セカンダリ油圧の信号に振動成分の信号を重畳する例を示したが、出力するソレノイド電流値に振動成分の出力信号を重畳するような例であっても良い。
実施例1では、ベルト式無段変速機を搭載したエンジン車両への適用例を示したが、ベルト式無段変速機を搭載したハイブリッド車両やベルト式無段変速機を搭載した電気自動車等に対しても適用することができる。要するに、油圧変速制御を行うベルト式無段変速機を搭載した車両であれば適用できる。
上記目的を達成するため、本発明の車両用ベルト式無段変速機は、ベルトが掛け渡されたプライマリプーリおよびセカンダリプーリを有し、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御して変速比を制御する。
この車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、ベルトスリップ制御手段と、制限判断手段と、変速速度制限手段と、を備えた。
前記ベルトスリップ制御手段は、前記変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、前記セカンダリ油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との位相差に基づいてセカンダリ油圧を制御する。
前記制限判断手段は、車両の加速を制限してよいかどうかを判断する。
前記変速速度制限手段は、前記制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、前記変速速度を前記所定値未満に制限する。
前記ベルトスリップ制御手段は、前記変速速度制限手段が前記変速速度を前記所定値未満に制限しているとき、前記ベルトスリップ制御を許可する。
ベルトスリップ制御手段により、変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、ベルトスリップ制御を許可することによって、ベルトスリップ状態の推定精度が高いとき、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減を確保しながら、ベルトスリップ状態の推定精度が低いとき、ベルトスリップ制御中にベルトが大きく滑ることを防止することができる。
加えて、変速速度制限手段により、制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、変速速度を前記所定値未満に制限し、ベルトスリップ制御を許可することによって、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を拡大することができる。つまり、車両の運転状態に応じて発生する変速比の変化速度に依存し、変速速度条件の成立を待ってベルトスリップ制御が許可されるときの領域に比べて、車両の加速制限許可条件の成立によりベルトスリップ制御が許可される領域が加えられる分、ベルトスリップ制御が許可される運転領域が拡大する。そして、ベルトスリップ制御の許可領域として加えられた運転領域において、変速速度を所定値未満に制限することで、ベルトスリップ状態の推定精度が保たれる。
このように、ベルトスリップ制御が許可される運転領域を、ベルトスリップ状態の推定精度を保ったままで拡大することで、ベルトフリクションの低下による消費駆動エネルギーの削減効果を向上させることができる。

Claims (5)

  1. ベルトが掛け渡されたプライマリプーリおよびセカンダリプーリを有し、プライマリ油圧とセカンダリ油圧を制御して変速比を制御する車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
    前記変速比の変化速度である変速速度が所定値未満のときに、前記セカンダリ油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実セカンダリ油圧に含まれる加振による振動成分との位相差に基づいてセカンダリ油圧を制御するベルトスリップ制御手段と、
    車両の加速を制限してよいかどうかを所定の加速制限許可条件に基づいて判断する制限判断手段と、
    前記制限判断手段が車両の加速を制限してよいと判断したとき、前記変速速度を前記所定値未満に制限する変速速度制限手段と、
    を備えたことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
  2. 請求項1に記載された車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
    前記制限判断手段は、所定の加速制限許可条件として、通常運転モードと経済運転モードとのうち、経済運転モードが選択されたとき、車両の加速を制限してよいと判断する
    ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
  3. 請求項2に記載された車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
    前記通常運転モードと前記経済運転モードとをドライバが選択可能なスイッチを備えたことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された車両用ベルト式無段変速機の制御装置において、
    前記制限判断手段は、所定の加速制限許可条件として、アクセル開度若しくはスロットル開度の増加速度が所定速度以下のとき、車両の加速を制限してよいと判断する
    ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
  5. ベルトが掛け渡された一対のプーリを有し、前記一対のプーリへの油圧を制御して変速比を制御する車両用ベルト式無段変速機の制御方法において、
    前記変速比の変化率である変速速度が所定値未満のときに、前記油圧を加振して、実変速比に含まれる加振による振動成分を実変速比の基本成分から抽出し、この実変速比に含まれる加振による振動成分と実油圧に含まれる加振による振動成分との位相差に基づき前記油圧を制御するベルトスリップ制御を許可すると共に、
    所定の加速制限許可条件に基づいて、車両の加速を制限してよいと判断したときは、前記変速速度を前記所定値未満に制限する
    ことを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御方法。
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