JPWO2011030724A1 - 植物におけるカドミウムの蓄積に関与する遺伝子の利用 - Google Patents

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Abstract

植物におけるカドミウムの蓄積に関与する遺伝子を同定し、その遺伝子の利用方法を提供する。本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを植物に発現可能に導入する。

Description

本発明は植物におけるカドミウムの蓄積に関与する遺伝子の利用に関する。
カドミウムはイタイイタイ病の原因物質として知られ、毒性の強い重金属である。カドミウムは、鉱物中や土壌中等に天然に存在する重金属で、銀・銅・亜鉛等の金属とともに存在することから、これらの金属を採掘、精錬する際の副産物として環境中へ排出され土壌に蓄積される。
カドミウムに汚染された土壌で栽培された野菜、穀類等の様々な農作物を経由してカドミウムは人体内に取り込まれ、我々の健康に悪影響を与える。このため、我が国では農作物からのカドミウム摂取量を制限するため、食品衛生法によって、農作物に含まれるカドミウム濃度の基準値が定められている。例えば、玄米中におけるカドミウムの濃度が0.4ppm以上1.0ppm未満のコメは食用としての販売禁止され、カドミウムの濃度が1ppm以上のコメは、販売や加工等が禁止され、実態として焼却処分されている。
コメ等の農作物に含まれるカドミウム濃度を基準値以下とし、食の安全を確保するために、従来、土壌洗浄、埋め立て、客土等の手法によってカドミウムに汚染された土壌を浄化する試みがなされている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
国際公開第2004/037453号パンフレット(2004年5月6日公開)
Calmano W, Mangold S, Stichnothe H, Thoming J: Clean-up and assessment of metal contaminated soils; in Treatment of Contaminated soil, ed. R. Stegmann, G. Brunner, W. Calmano and G. Matz, p.471-490, Springer, Berlin(2001)
しかしながら、上述のような土壌洗浄、埋め立て、および客土といった従来の方法は、コストが高い、埋め立てや客土に用いる未汚染土壌の確保が困難である等の問題を有している。また、化学的または物理的に土壌を処理するため生態系が乱れる可能性がある。このため、カドミウムによって汚染された農業用地は利用されずに放棄されている。
カドミウムによって汚染された農業用地を有効に利用するという観点から、土壌に含有されているカドミウムを蓄積し難い植物を実現することができれば非常に有用であると考えられる。しかし、どのような遺伝子が、植物におけるカドミウムの蓄積に関与するのかは不明であった。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物におけるカドミウムの蓄積に関与する遺伝子を同定し、その遺伝子の利用方法を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、イネの7番染色体に座乗するOsHMA3遺伝子が、植物におけるカドミウムの輸送に関与することを本発明者が初めて発見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
本発明に係る形質転換植物の生産方法は、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物の生産方法であって、下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入することを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
本発明に係る形質転換植物は、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産されたことを特徴としている。
本発明に係るキットは、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を作製するためのキットであって、下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
本発明に係る形質転換植物の生産方法によれば、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を生産することができるという優れた効果を奏する。具体的には、野生型の植物と比較して、カドミウムの蓄積の局在性を根に変化させた、またはカドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させた形質転換植物を生産することができる。
カドミウムの蓄積の局在性を根に変化させた形質転換植物は、根を除く植物体にカドミウムが蓄積され難いため、カドミウムを含有する土壌においても栽培することができる。また、カドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させた形質転換植物は、カドミウムを含有する土壌において栽培することによって、土壌中のカドミウムを低コスト、且つ容易に除去する土壌浄化用の植物として好適に利用することができる。
また、本発明に係るキットを用いれば、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を容易に作製することができる。
カドミウムによって汚染されていない圃場において栽培した131系統のイネの穀粒におけるカドミウム濃度を示すグラフである。 カドミウムによって汚染されていない圃場において栽培したアンジャナ・ダーンと日本晴とについて、地上部および玄米におけるカドミウム濃度を表すグラフである。 カドミウム汚染土壌において栽培したアンジャナ・ダーンと日本晴とについて、地上部および玄米におけるカドミウム濃度を表すグラフである。 アンジャナ・ダーンの地上部に含まれるカドミウム濃度を100とした場合のF集団の地上部に含まれるカドミウム濃度の相対値を表すグラフである。図4中のA、H、およびBは、それぞれ量的遺伝子座が検出された近傍のマーカーの遺伝子型を示しており、「A」はアンジャナ・ダーン型、「H」はヘテロ型、「B」は日本晴型を表している。 穀粒中のカドミウム濃度が高い7系統のイネについてPCRを行った結果を表す図である。1レーン目:Jarjan、2レーン目:アンジャナ・ダーン(Anjana Dhan)、3レーン目:IR 58、4レーン目:Bleiyo、5レーン目:IR36、6レーン目:PI312777である。 日本晴とアンジャナ・ダーンとにおいて、OsHMA3aタンパク質およびOsHMA3nタンパク質のアミノ酸配列を比較した結果を示す図である。図6において、TM1〜TM8は、膜貫通ドメインを示している。 定量的PCRの結果を表すグラフである。 酵母を用いたOsHMA3遺伝子の機能解析の結果を表す図である。 アンジャナ・ダーンおよび日本晴について、導管液、地上部、および根に含まれるカドミウム濃度を経時的に測定した結果を表すグラフである。図9の(a)は導管液、(b)は地上部、(c)は根における測定結果を表している。 アンジャナ・ダーンおよび日本晴の根のカドミウム吸収能を表すグラフである。 アンジャナ・ダーンおよび日本晴の導管液に含まれるカドミウムの濃度を測定した結果を表すグラフである。 相補性検定の結果を表す図であり、(a)はアンジャナ・ダーンにOsHMA3nを導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株の地上部におけるカドミウム濃度を示し、(b)は根におけるカドミウム濃度を示している。 アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株における微量栄養素の濃度を示す図である。 アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株における多量栄養素の濃度を示す図である。 日本晴においてOsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンしたRNAi株および空ベクターを導入したコントロール株におけるカドミウムの蓄積量を測定した結果を示す図であり、(a)は日本晴における3種類のRNAi株およびコントロール株の地上部におけるカドミウム濃度を示し、(b)は根におけるカドミウム濃度を示している。 日本晴においてOsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンしたRNAi株および空ベクターを導入したコントロール株における微量栄養素の濃度を示す図であり、(a)は日本晴における3種類のRNAi株およびコントロール株におけるOsHMA3遺伝子の発現レベルを示し、(b)はRNAi株およびコントロール株の地上部および根における微量栄養素の濃度を示している。 OsHMA3遺伝子の発現パターンを示す図であり、(a)は、日本晴およびアンジャナ・ダーンの根および地上部におけるOsHMA3遺伝子の2つの対立遺伝子の発現を示し、(b)は日本晴およびアンジャナ・ダーンの根の異なる部分における2つの対立遺伝子の発現を示している。 イネの根におけるOsHMA3タンパク質の局在を示す図であり、(a)はアンジャナ・ダーンの根における免疫染色の結果を示し、(b)は日本晴の根における免疫染色の結果を示している。 OsHMA3nタンパク質の細胞内の局在を示す図であり、(a)は、GFP−OsHMA3nタンパク質を発現しているタマネギの表皮細胞におけるGFPの蛍光を示し、(b)はGFPタンパク質のみを発現しているタマネギの表皮細胞におけるGFPの蛍光を示している。 ウエスタンブロット解析の結果を示す図であり、(a)は、抗OsHMA3n抗体の特異性を示し、(b)はショ糖密度勾配解析の結果を示している。 カドミウムに関する酵母における機能解析の結果を示す図であり、(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、AtHMA3遺伝子または2種類のキメラ遺伝子のいずれかを形質導入した野生型の酵母細胞(BY4741株)の、グルコース存在下における成長を示し、(b)は、ガラクトースの存在下における成長を示している。 OsHMA3nタンパク質とOsHMA3aタンパク質とのキメラタンパク質の概略を示す図である。 カドミウムに関する酵母における機能解析の結果を示す図であり、(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔycf1酵母細胞の、グルコースの存在下における成長を示し、(b)は、ガラクトースの存在下における成長を示している。 金属に関する酵母における機能解析の結果を示す図であり、(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはポジティブコントロールとしてAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔzrc1酵母株の、ガラクトースおよび4mM ZnSOの存在下における成長を示し、(b)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはポジティブコントロールとしてAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔcot1酵母株の、ガラクトースおよび2.5mM CoClの存在下における成長を示し、(c)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3a遺伝子、OsHMA3aH80R遺伝子、OsHMA3aV638A遺伝子、OsHMA3aH80R/V638A遺伝子、またはOsHMA3n遺伝子のいずれかを形質導入した野生型酵母細胞の、ガラクトースおよび20μM CdSOの存在下における成長を示している。 カドミウムの蓄積および他の金属の蓄積に関するOsHMA3n遺伝子の過剰発現の作用を示す図であり、(a)は、玄米におけるカドミウムの濃度を示し、(b)は玄米における亜鉛の濃度を示し、(c)は玄米における鉄の濃度を示している。 過剰発現株およびベクターコントロール株におけるOsHMA3n遺伝子の発現レベルを示す図である。 カドミウムの蓄積および他の金属の蓄積に関するOsHMA3n遺伝子の過剰発現の作用を示す図であり、(a)は、地上部におけるカドミウムの濃度を示し、(b)は地上部における亜鉛の濃度を示し、(c)は地上部における鉄の濃度を示している。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
〔1.形質転換植物の生産方法〕
本発明に係る形質転換植物の生産方法は、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物の生産方法であって、下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入する工程を含んでいる:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
本発明者は、細胞内へのカドミウムの輸送に関与する遺伝子(OsHMA3n遺伝子およびOsHMA3a遺伝子)を、イネから新たに同定した。上記の配列番号1および2に示すポリペプチドは、それぞれOsHMA3n遺伝子およびOsHMA3a遺伝子の翻訳産物である。すなわち、配列番号1および2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、本発明者によってイネから新たに同定された、細胞内へのカドミウムの輸送に関与するタンパク質である。つまり、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドおよび配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、カドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有しているといえる。尚、本明細書では、OsHMA3n遺伝子およびOsHMA3a遺伝子を、単に「OsHMA3遺伝子」と称し、OsHMA3nタンパク質およびOsHMA3aタンパク質を、単に「OsHMA3タンパク質」と称することがある。
上記(a)または(b)のポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。また、上記(c)または(d)のポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号4に示された塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
ここで、本明細書において、上記「カドミウムの蓄積の局在性を変化させた」とは、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、形質転換植物におけるカドミウムの蓄積の局在性を根に変化させた、または形質転換植物におけるカドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させたことを意図している。また、上記「根を除く植物体」とは、例えば、茎、葉、穀粒等を含む、植物体の根以外の部分を意図している。尚、本明細書においては、上記「根を除く植物体」を「地上部」と称する場合がある。
カドミウムの蓄積の局在性が変化したことは、野生型の植物と形質転換植物とを同じ条件で栽培し、栽培後の野生型の植物と形質転換植物とについて、根または根を除く植物体におけるカドミウムの蓄積量を比較することによって確認することができる。カドミウムの蓄積量は、例えば、後述する実施例に示す方法によって測定することができる。
上記「カドミウム」は、イオン化されているものでも、塩を形成しているものであってもよい。また、上記「カドミウム」は、カドミウムおよびカドミウムを含む化合物を示すものとする。
また、上記「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」とも換言できる。上記「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、または付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
また、上記「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図されている。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C、およびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドを示している。
上記ポリヌクレオチドを取得する方法は、特に限定されるものではないが、公知の技術によって取得することができる。例えば、PCR等の増幅手段を用いる方法によって取得することができる。具体的には、上記(a)〜(d)のポリヌクレオチドについて5’側および3’側の配列(またはその相補配列)に対応するプライマーをそれぞれ作製し、これらのプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することによって、上記のポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。
また、公知の日本晴の配列情報に基づいて、OsHMA3遺伝子領域を増幅できるようなプライマーを設計し、そのプライマーを用いて、ゲノムDNA(またはcDNA)またはRT−PCR産物を鋳型にして、OsHMA3遺伝子領域を増幅することによっても上記ポリヌクレオチドを取得することができる。
また、上記ポリヌクレオチドまたはその一部の配列を含むオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法によってもポリヌクレオチドを取得することができる。例えば、上記(a)〜(d)のポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、上記ポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものも用いることができる。
上記ポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、配列番号1および配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド(OsHMA3タンパク質)は、イネである日本晴に由来することから、イネ科植物(イネ、トウモロコシ等)を用いることが好ましい。
植物に導入される上記「ポリヌクレオチド」の形態としては、植物に発現可能に導入することができる限り特に限定されず、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)であってもよい。
上記ポリヌクレオチドが導入される上記「植物」としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、イネ科植物、ナス科植物、マメ科植物等を挙げることができる。上記「イネ科植物」としては、例えば、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ライムギ、ソルガム等を挙げることができる。上記「ナス科植物」としては、例えば、ナス等を挙げることができる。上記「マメ科植物」としては、例えば、ダイズ等を挙げることができる。
本発明に係るカドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物の生産方法は、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチド、またはそのポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入されており、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドを発現させるものであれば、特に限定されるものではない。尚、本明細書において、上記「カドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性」とは、「上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、形質転換植物のカドミウムの蓄積の局在性を根に変化させる活性、または形質転換植物のカドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させる活性」を意図している。
上記「組換え発現ベクター」は、(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを含むものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、配列番号3または4に示すcDNAが挿入された組換え発現ベクターを挙げることができる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、コスミド等を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
また、上記「組換え発現ベクター」は、植物の細胞(以下、「ホスト細胞」とも言う)において挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。例えば、アグロバクテリウムを用いる方法(アグロバクテリウム感染法)によって植物に組換え発現ベクターを導入する場合には、組換え発現ベクターとして、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
また、上記「組換え発現ベクター」は、導入対象となる植物(導入対象植物)の細胞内において遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができる。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーター等を挙げることができる。これらのプロモーター配列と上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとをプラスミド等に組み込んだ組換え発現ベクターとして用いることによって、導入したポリヌクレオチドを植物の細胞内において好適に発現させることができる。中でも、OsHMA3タンパク質を高発現させる観点から、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを用いることが好ましい。例えば、OsHMA3nタンパク質を高発現させることにより、カドミウムが地上部により蓄積され難い形質転換植物を生産することができる。また、OsHMA3aタンパク質を高発現させることにより、カドミウムが地上部により蓄積され易い形質転換植物を生産することができる。
また、OsHMA3タンパク質は主に植物の根に発現することが発明者によって明らかにされた。そこで、形質転換植物においてOsHMA3タンパク質を好適に機能させる観点から、上記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、上記植物の根において特異的に発現可能に導入することが好ましい。
例えば、根において特異的に発現する遺伝子を制御することが知られているプロモーターの制御下に上記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを導入することによって、上記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、上記植物の根において特異的に発現させることができる。このようなプロモーターとしては、例えば、OsHMA3プロモーターを用いることができる。
上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを植物に導入する方法、すなわち形質転換方法としては特に限定されるものではない。例えば、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを染色体に組み込ませてもよいし、相同組換えによって上記ポリヌクレオチドが染色体の特定の部位に組み込ませてもよい。また、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターを植物内で一過的に発現させてもよい。
上記形質転換方法としては、従来公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)を用いることができる。例えば、アグロバクテリウム感染法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびパーティクルガン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、上記「アグロバクテリウム感染法」としては、Plant, J. 6: 271-282 (1994)に記載された方法を用いることができる。
また、上記ポリヌクレオチド、または上記組換え発現ベクターがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞内で確実に発現しているか否かについては、各種マーカーを用いて確認することができる。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する方法を挙げることができる。この方法を用いれば、薬剤選択によって、導入された遺伝子がホスト細胞内で確実に発現しているか否かを確認することができる。
本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産された形質転換植物は、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチド、または上記の組換え発現ベクターが導入されており、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドを発現しているものである。すなわち、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産された形質転換植物は、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチド(OsHMA3遺伝子)が導入されていない野生型の植物と比較して、カドミウムの蓄積の局在性が変化している。
具体的に説明すると、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドは、日本晴に由来するOsHMA3n遺伝子に対応している。このため、上記(a)または(b)のポリヌクレオチドが導入された形質転換植物では、これらのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、根におけるカドミウムの蓄積性が向上し、且つ根を除く植物体(例えば、穀粒等)におけるカドミウムの蓄積性が低下すると考えられる。
一方、上記(c)または(d)のポリヌクレオチドは、アンジャナ・ダーンに由来するOsHMA3a遺伝子に対応している。このため、上記(c)または(d)のポリヌクレオチドが導入された形質転換植物では、これらのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、根におけるカドミウムの蓄積性が低下し、且つ根を除く植物体(例えば、穀粒等)におけるカドミウムの蓄積性が向上すると考えられる。
従って、上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドが導入された形質転換植物では、これらのポリヌクレオチドが導入されていない野生型の植物と比較して、カドミウムの蓄積の局在性が変化しているといえる。
本発明に係る形質転換植物の生産方法によれば、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を容易に作製することができる。
本発明に係る形質転換植物の生産方法では、上記植物はイネ科植物であることが好ましい。
〔2.形質転換植物〕
本発明に係る形質転換植物は、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって生産されたことを特徴としている。
上記「本発明に係る形質転換植物の生産方法」については、上記「1.形質転換植物の生産方法」の項において説明した通りであるので、ここでは省略する。
本発明に係る形質転換植物の範疇には、植物体のみならず、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス等も含まれる。また、本発明に係る形質転換植物の生産方法によって、植物の染色体に上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドが組み込まれた形質転換植物がいったん得られれば、当該植物から得られる種子にも上記ポリヌクレオチドが導入されている。従って、本発明には、形質転換植物から得られた種子も含まれる。
本発明に係る形質転換植物は、カドミウムの蓄積の局在性が変化しているため、様々な用途に用いることができる。例えば、カドミウムの蓄積の局在性を根に変化させた形質転換植物は、根を除く植物体にカドミウムが蓄積され難いため、カドミウムを含有する土壌においても栽培することができる。
また、カドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させた形質転換植物を、カドミウムを含有する土壌で栽培すれば、土壌中のカドミウムを形質転換植物内に効率よく蓄積させることができる。このため、かかる性質が付与された形質転換植物は、カドミウムを含有する土壌からカドミウムを除去するために用いることができる。例えば、カドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させた形質転換植物を、カドミウムを含有する土壌で栽培し、栽培した形質転換植物を収穫し、焼却等によって処分する工程を繰り返すことによって、土壌に含まれるカドミウムを効率よく除去することができる。
〔3.キット〕
本発明に係るキットは、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を作製するためのキットであって、下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
上記「ポリヌクレオチド」については、上記「1.形質転換植物の生産方法」の項において説明した通りであるので、ここでは省略する。
本発明に係るキットは、上述したポリヌクレオチド以外の成分を含んでいてもよい。例えば、上記ポリヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを作製するためのプラスミド、当該組換え発現ベクターを作製するために必要な試薬、バッファー、植物の形質転換を行うために必要な試薬等が含まれていてもよい。
本発明に係るキットを用いれば、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を容易に作製することができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
(カドミウム濃度の測定方法)
本発明の実施例では、イネの根、地上部、および穀粒(玄米)におけるカドミウム濃度は、植物試料を全て濃硝酸(60%)で分解し、原子吸光光度計を用いて吸光度を測定した。
(1.地上部へのカドミウムの蓄積に関与する遺伝子の同定)
まず、世界各国の様々な品種のイネ(計131系統)を用いて、各品種のイネについて穀粒におけるカドミウムの蓄積量を調べた。具体的には、カドミウムによって汚染されていない圃場(土壌中のカドミウム濃度1ppm未満)においてイネを栽培し、得られた穀粒におけるカドミウム濃度を測定した。
図1は、カドミウムによって汚染されていない圃場において栽培した131系統のイネの穀粒におけるカドミウム濃度を示すグラフである。図1に示すように、穀粒に含まれるカドミウムの濃度は系統間で大きく異なることが明らかになった。中でも、インディカ米(Indica)の系統の一つであるアンジャナ・ダーン(Anjana Dhan)は、日本米(Japonica)の系統の一つである日本晴(Nipponbare)と比較して、穀粒に含まれるカドミウム濃度が40倍以上高いことが明らかになった。
そこで、カドミウム高蓄積品種としてアンジャナ・ダーンを、カドミウム低蓄積品種として日本晴を選び、アンジャナ・ダーンと日本晴について、カドミウムの蓄積量についてさらに詳しく解析を行った。図2は、カドミウムによって汚染されていない圃場において栽培したアンジャナ・ダーンと日本晴とについて、地上部および玄米におけるカドミウム濃度を表すグラフである。尚、本実施例においては、上記「地上部」は、地上に出ている部分、つまりイネの茎、葉を含む部分を指し、穀粒は地上部には含まない。図2に示すように、日本晴と比較して、アンジャナ・ダーンの地上部に含まれるカドミウム濃度は28倍、玄米に含まれるカドミウム濃度は15倍高いことが明らかになった。
次いで、人工のカドミウム汚染土壌において、1/5000アールのワグネルポットを用いて179日間栽培した場合の、アンジャナ・ダーンおよび日本晴におけるカドミウム蓄積量を解析した。用いた人工カドミウム汚染土壌は、0.1N塩酸抽出画分において、カドミウム濃度7.6ppmであった。図3は、カドミウム汚染土壌において栽培したアンジャナ・ダーンと日本晴とについて、地上部および玄米におけるカドミウム濃度を表すグラフである。図3に示すように、日本晴と比較して、アンジャナ・ダーンの地上部に含まれるカドミウム濃度は6倍、玄米に含まれるカドミウム濃度は8倍高いことが明らかになった。
次いで、アンジャナ・ダーンと日本晴との交配を行い、得られたF集団を用いて、カドミウムの蓄積に関与する量的形質を調べた。具体的には、50nMのカドミウムを含んだ1/2木村B溶液を用いて得られたF集団を10日間栽培し、地上部におけるカドミウム濃度を測定した。尚、1/2木村B溶液は、多量栄養素(mM):MgSO(0.28),(NHSO(0.18),Ca(NO(0.18),KNO(0.09),KHPO(0.09)、および微量栄養素(mM):Fe(II)SO(10),HBO(3),MnCl(0.5),CuSO(0.2),ZnSO(0.4),(NHMo24(1)を含む培養培地である。1/2木村B溶液は、1N NaOHを用いてpH5.4に調整したものを用いた。
図4は、アンジャナ・ダーンの地上部に含まれるカドミウム濃度を100とした場合のF集団の地上部に含まれるカドミウム濃度の相対値を表すグラフである。図4中のA、H、およびBは、それぞれ量的遺伝子座(QTL)が検出された近傍のマーカーの遺伝子型を示しており、「A」はアンジャナ・ダーン型、「H」はヘテロ型、「B」は日本晴型を表している。図4に示すように、F集団における地上部のカドミウム濃度は3:1に分離した。この結果から、アンジャナ・ダーンと日本晴とにおいて、地上部に含まれるカドミウム濃度に差があるのは、一つの遺伝子の違いによって生じていることが明らかになった。
そこで、上記F集団の地上部へのカドミウムの蓄積量を規定する遺伝子座を検出するために、QTL解析を行った。QTL解析は、qtl cartographer version 2.5(ノースカロライナ州立大学のバイオインフォマティクスリサーチセンターから提供、http://statgen.ncsu.edu/qtlcart/WQTLCart.htm)を用いて行った。その結果、地上部へのカドミウムの蓄積に関与するQTLは、座乗していることが明らかになった。このQTLのLOD値は53.1であり、寄与率は72.5%であった。
さらに、1000株以上のF2集団を用いて、原因遺伝子のマッピングを行ったところ、地上部へのカドミウムの蓄積に関与するQTLが座乗している候補領域を、マーカーRM21251とRM21275とに挟まれた500kbの範囲内に絞り込むことができた。この領域に存在する遺伝子を、イネゲノムの注釈情報を収録・公開するデータベースであるRAP-DB(http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)を用いて検索した。その結果、マーカーRM21251とRM21275との間には、32個の予測遺伝子が存在することが明らかになった。その内、アンジャナ・ダーンと日本晴との間に塩基配列の差が認められたOsHMA3が、カドミウムの輸送に関与する遺伝子と考えられた。
ついで、表1に示した、穀粒に含まれるカドミウム濃度が高い6系統と、日本晴とからcDNAを作製し、かかるcDNAを鋳型としてPCRを行った。
Figure 2011030724
具体的には、OsHMA3のC末端側、つまり日本晴におけるPCR増幅産物が848bpとなる領域においてプライマーを設計し、PCRを行った。PCRは、Ex Taq(製品名、TaKaRa製)を用いてPCR反応液を作製し、Mastercycler(製品名、エッペンドルフ社製)を用いて増幅を行った。PCRの反応条件は、初期変性94℃ 20秒、変性98℃ 10秒、アニーリング62℃ 30秒、伸長72℃ 60秒、変性から伸長の行程を35回反復した。
図5は、穀粒中のカドミウム濃度が高い7系統のイネについてPCRを行った結果を表す図である。1レーン目:Jarjan、2レーン目:アンジャナ・ダーン(Anjana Dhan)、3レーン目:IR 58、4レーン目:Bleiyo、5レーン目:IR36、6レーン目:PI312777である。図5に示すように、穀粒に含まれるカドミウム濃度が高い上位2品種であるJarjanとアンジャナ・ダーンでは、PCR増幅産物の長さが短いことが明らかになった。
(2.OsHMA3遺伝子の単離)
OsHMA3遺伝子は、以下の方法によってアンジャナ・ダーンおよび日本晴のそれぞれから単離した。具体的には、日本晴由来のOsHMA3n遺伝子のORFは、データベース(RAP-DB)の情報を基に、N末端とC末端とについてプライマーを設計し、PCRによって遺伝子を増幅した。アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3a遺伝子は、SMART RACE cDNA Amplificationキット(製品名、クロンテック社製)を用いて5’-RACE、および3’-RACEを行い、ORFを単離した。
日本晴由来のOsHMA3タンパク質(OsHMA3nタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号1に、日本晴由来のOsHMA3遺伝子(OsHMA3n遺伝子)の塩基配列を配列番号3に示した。また、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3タンパク質(OsHMA3aタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号2に、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3遺伝子(OsHMA3a遺伝子)の塩基配列を配列番号4に示した。
図6は、日本晴とアンジャナ・ダーンとにおいて、OsHMA3aタンパク質およびOsHMA3nタンパク質のアミノ酸配列を比較した結果を示す図である。図6において、TM1〜TM8は、膜貫通ドメインを示している。図6に示すように、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3aタンパク質には、日本晴由来のOsHMA3nタンパク質と比較して、C末端側の領域に53アミノ酸の欠失が認められた。以上のから、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3aタンパク質が正常に機能していない可能性が考えられた。尚、OsHMA3aタンパク質とOsHMA3nタンパク質との相同性は、91.4%であった。
(3.OsHMA3遺伝子の機能解析)
まず、OsHMA3遺伝子の発現に対するカドミウム添加の影響について解析した。具体的には、蒔種後11日目の幼植物を50nMのカドミウムを含む1/2木村B溶液を用いて24時間培養した。陰性対照として、カドミウムを含有しない1/2木村B溶液を用いて培養を行った。培養後、地上部および根からRNAを抽出した。得られたRNAから逆転写反応によってcDNAを合成し、合成したcDNAを鋳型として定量的PCRを行った。
尚、キアゲンのRNeasy Plant Mini Kit(製品名、キアゲン社製)を用いてtotal RNAを抽出し、インビトロジェンのSuperScriptII逆転写酵素(製品名、インビトロジェン社製)を用いてcDNAを合成した。定量的PCRは、Thunderbrid SYBR qPCR Mix(製品名、東洋紡製)を用いてPCR反応液を作製し、Mastercycler ep RealprexリアルタイムPCR(製品名、エッペンドルフ社製)を用いて増幅を行った。PCRの反応条件は、初期変性95℃ 30秒、変性95℃ 30秒、アニーリング62℃ 20秒、伸長72℃ 35秒、変性から伸長の行程を40回反復した。
図7は、定量的PCRの結果を表すグラフである。図7に示すように、OsHMA3遺伝子は、主に根で発現していることが明らかになった。カドミウムの添加は、OsHMA3遺伝子の発現量に影響を及ぼさなかった。また、アンジャナ・ダーンと日本晴との間においても、カドミウムの有無に関わらず、OsHMA3遺伝子の発現量に有意な差は認められなかった。この結果から、アンジャナ・ダーンと日本晴との地上部に含まれるカドミウム濃度の差をもたらす要因は、OsHMA3遺伝子の発現量の差によるものではなく、OsHMA3タンパク質の機能の違いによるものであることが明らかになった。
次いで、アンジャナ・ダーンおよび日本晴のそれぞれから単離したOsHMA3遺伝子を、酵母に発現させ、OsHMA3タンパク質のカドミウムの輸送活性を解析した。具体的には、酵母(BY4741株、Euroscarf社から購入)に発現ベクターpYES2(インビトロジェン社製)を用いて日本晴およびアンジャナ・ダーンのそれぞれに由来するOsHMA3を、従来公知の酢酸リチウム法によって導入した。陰性対照としてpYES2ベクターのみを導入した。
得られた形質転換酵母を、0μM、10μM、または20μMのカドミウムを含有する寒天培地に播種し、30℃で42時間培養した。具体的には、まず、形質転換酵母を2%グルコースを含み、且つウラシルを含まない液体SC培地を用いて、対数増殖期(OD0.5〜1.0)になるまで培養した。測定したODを基に、各株の密度を一定にし、形質転換酵母を滅菌水で3回洗浄してから10倍毎、5段階の希釈系列を作り、形質転換酵母を寒天培地に5μLずつスポットした。上記寒天培地にはウラシルを除いたSC培地を用いた。尚、GAL1プロモーターによってOsHMA3遺伝子の発現を誘導するために、炭素元としてガラクトースを用いた。
OsHMA3タンパク質は排出型の輸送体であり、OsHMA3タンパク質を発現する酵母では、細胞質内のカドミウムが特定のオルガネラに集中するため、カドミウムの毒性によって増殖が抑制されると考え、酵母の増殖を指標として、カドミウムの輸送活性の有無を判断した。
図8は、酵母を用いたOsHMA3タンパク質の機能解析の結果を表す図である。図8に示すように、日本晴由来のOsHMA3nタンパク質を発現させた酵母は、陰性対照としてpYES2ベクターを導入した酵母と比較して、カドミウムを含有する培地において増殖が抑制された。この結果から、日本晴由来のOsHMA3nタンパク質はカドミウムの輸送活性を有することが明らかになった。一方、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3aタンパク質を発現させた酵母の増殖は、陰性対照としてpYES2ベクターを導入した酵母と同じであった。この結果から、アンジャナ・ダーン由来のOsHMA3aタンパク質は、カドミウムの輸送活性を有さないことが明らかになった。
さらに、OsHMA3nタンパク質についての生理学的な解析を行った。具体的には、蒔種後28日目のアンジャナ・ダーンおよび日本晴の幼植物を1μMのカドミウムを含む1/2木村B溶液を用いて栽培し、経時的に導管液、地上部、および根を採取し、それぞれの部位に含まれるカドミウムの濃度を測定した。尚、導管液は、地上部と根の境目から上部3〜4cmの葉鞘をカミソリを用いて水平に切断し、切断面から滲出してくる液をマイクロピペットを用いて採取した。尚、切断後最初の1〜2マイクロリットルは細胞質液のが混入する可能性があるため、導管液として採取しなかった。
図9は、アンジャナ・ダーンおよび日本晴について、導管液、地上部、および根に含まれるカドミウム濃度を経時的に測定した結果を表すグラフである。図9の(a)は導管液、(b)は地上部、(c)は根における測定結果を表している。図9に示すように、培養5日目におけるアンジャナ・ダーンの導管液および地上部におけるカドミウム濃度は、日本晴における各部位のカドミウム濃度と比較して、導管液中では6倍、地上部では3倍高いことが明らかになった。
一方、根においては、日本晴の方が、アンジャナ・ダーンよりもカドミウム濃度が2倍高いことが明らかになった。この結果は、日本晴と比較して、アンジャナ・ダーンでは、吸収したカドミウムを根に留めておく能力が低いことを示している。
そこで、日本晴およびアンジャナ・ダーンの根におけるカドミウムの吸収能について解析した。具体的には、0μM〜5μMのカドミウムを含んだ1/2木村B溶液に、蒔種後21日目のアンジャナ・ダーンおよび日本晴の幼植物の根を暴露し、暴露後30分後に根に吸収されたカドミウムの濃度を測定した。
図10は、アンジャナ・ダーンおよび日本晴の根のカドミウム吸収能を表すグラフである。いずれのカドミウム濃度の培養液に暴露した場合も、カドミウム低蓄積性の日本晴の方が、高蓄積性のアンジャナ・ダーンよりも根のカドミウム吸収能が高かった。この結果は、アンジャナ・ダーンの地上部および穀粒におけるカドミウム高蓄積の要因は、外部からカドミウムを吸収する能力が高いためではないことを示している。
そこで、日本晴およびアンジャナ・ダーンの導管液におけるカドミウムの濃度について解析した。具体的には、0μM〜5μMのカドミウムを含んだ1/2木村B溶液において、蒔種後33日目のアンジャナ・ダーンおよび日本晴の幼植物の根を3日間培養し、培養後の導管液中のカドミウム濃度を測定した。
図11は、アンジャナ・ダーンおよび日本晴の導管液に含まれるカドミウムの濃度を測定した結果を表すグラフである。日本晴およびアンジャナ・ダーンのどちらの品種においても、培養液に含まれるカドミウム濃度が0.5μMのときに、導管液に含まれるカドミウムの濃度が飽和した。しかし、アンジャナ・ダーンの導管液には、日本晴と比較して、8.5倍高い濃度のカドミウムが含まれていた。
以上の生理学的解析結果は、アンジャナ・ダーンのカドミウム高蓄積性は、カドミウムを根に留めておくことができなくなったことにより導管へ排出されるカドミウムの量が高くなったことに起因していることを示している。すなわち、アンジャナ・ダーンは、日本晴に比べて、根からカドミウムを吸収する活性と根から地上部へカドミウムを輸送する活性とが高いため、アンジャナ・ダーンの地上部および穀粒にカドミウムが高蓄積すると考えられた。
(4.形質転換株の機能解析)
アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した形質転換株におけるカドミウムの蓄積を調べた。
鋳型として日本晴のゲノムDNAを用い、2.1kbのプロモーターと全長OsHMA3n遺伝子とを有する6.8kbのDNA断片をPCR法によって増幅した。2つのDNA断片を増幅するために用いたプライマーペアは、それぞれ、5’-atctagaAGCATAAAAGAATAGAGCCGTGGAC-3’(配列番号5)および5’-GGATGCGTCAATCAGTTTACCA-3’(配列番号6);5’-GGCACAATGAACTTTGACGGT-3’(配列番号7)および5’-CTCTTCTGGACAAGCTTCCTTAATC-3’(配列番号8)である。
まず、2つのDNA断片を、pTA2ベクターにクローニングし、その後、制限酵素サイトAflIIを用いて連結した。融合した6.8kbのDNAは、その後、バイナリーベクターであるpPZP2H−lacに挿入した。
作製したコンストラクトは、Agrobacterium tumefaciens(EHA101株)を用いた方法によってアンジャナ・ダーン由来のカルスに形質転換した。
プラスミドを導入した後、形質転換植物を、およそ100日間ゲル上で前培養した。形質転換した幼植物体を、栄養溶液中で1〜3週間栽培し、その後、カドミウム処理に供した。カドミウム処理は、50nM CdSOを含有している栄養溶液に、幼植物体を10日間曝露した。処理溶液は、2日毎に交換した。
図12は、相補性検定の結果を表す図である。図12の(a)はアンジャナ・ダーンにOsHMA3nを導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株の地上部(Shoot)におけるカドミウム濃度を示し、(b)は根(Root)におけるカドミウム濃度を示している。それぞれのデータは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定(Dunnett’s t-test)を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「*」は、危険率5%未満において、コントロール株と形質転換株との間に有意差があることを表し、「**」は、危険率1%未満において、コントロール株と形質転換株との間に有意差があることを表す。
図12の(a)に示すように、アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した形質転換株は、地上部におけるカドミウムの蓄積が有意に減少した(p<0.01)。これに対して、図12の(b)に示すように、アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した形質転換株は、根におけるカドミウムの蓄積が有意に増加した(p<0.01)。
図13は、アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株における微量栄養素(micronutrient)の濃度を示す図である。形質転換株およびコントロール株を50nMカドミウムに10日間にわたって曝露した。それぞれのデータは、平均値±標準偏差として示した(n=4)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「*」は、危険率5%未満において、コントロール株と形質転換株との間に有意差があることを表す。
図14は、アンジャナ・ダーンにOsHMA3n遺伝子を導入した3種類の形質転換株および空ベクターを導入したコントロール株における多量栄養素(macronutrient)の濃度を示す図である。形質転換株およびコントロール株を50nMカドミウムに10日間にわたって曝露した。それぞれのデータは、平均値±標準偏差として示した(n=4)。
図13および図14に示すように、根および地上部における他の微量栄養素や多量栄養素の濃度については、コントロールと形質転換株との間に差異がなかった。
これらの結果から、OsHMA3遺伝子が、アンジャナ・ダーンおよび日本晴の品種間におけるカドミウム蓄積の違いに関与する遺伝子であることが確認できた。
(4.RNAi株の機能解析)
日本晴においてOsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンしたRNAi株におけるカドミウムの蓄積を調べた。
ヘアピンRNAiコンストラクトを作製するために、逆方向反復(inverted repeat)として、OsHMA3n cDNAの511bp断片(転写開始点から893bp〜1407bp)を、トウモロコシ(maize)のユビキチンプロモーターの制御下において、pANDAベクターにクローニングした。ユビキチンプロモーターを有するコンストラクトを作製するために、プライマーセット5'-AGGATCCATGGCCGGAAAGGATGAGG-3'(配列番号9)および5'-TGGATCCGCAACATCATCCTTTCACTTCACC-3'(配列番号10)を用いて、PCR法によってOsHMA3n cDNAからOsHMA3n遺伝子およびNOSターミネーターを増幅した。増幅した断片は、pANDAベクターにクローニングし、その後、トウモロコシのユビキチンプロモーターと一緒に切り取り、pPZP2H−lacバイナリーベクターにサブクローニングした。
作製したコンストラクトは、アグロバクテリウム法によって、日本晴由来のイネのカルスに導入した。
図15は、日本晴においてOsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンしたRNAi株および空ベクターを導入したコントロール株におけるカドミウムの蓄積量を測定した結果を示す図である。図15の(a)は日本晴における3種類のRNAi株およびコントロール株の地上部におけるカドミウム濃度を示し、(b)は根におけるカドミウム濃度を示している。RNAi株およびコントロール株を50nMカドミウムに10日間にわたって曝露した。それぞれのデータは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「*」は、危険率5%未満において、コントロール株とRNAi株との間に有意差があることを表し、「**」は、危険率1%未満において、コントロール株とRNAi株との間に有意差があることを表す。
図15の(a)に示すように、OsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンすると、コントロール株と比較して、RNAi株の地上部におけるカドミウムの濃度が、2.1〜2.5倍に有意に上昇した(p<0.05)。これに対して、RNAi株の根におけるカドミウム濃度は、コントロール株と比較して、74〜60%まで有意に低下した(p<0.05)。
図16は、日本晴においてOsHMA3遺伝子の発現をRNAiによってノックダウンしたRNAi株および空ベクターを導入したコントロール株における微量栄養素の濃度を示す図である。図16の(a)は日本晴における3種類のRNAi株およびコントロール株におけるOsHMA3遺伝子の発現レベルを示し、(b)はRNAi株およびコントロール株の地上部および根における微量栄養素の濃度を示している。
RNAi株およびコントロール株を50nMカドミウムに10日間にわたって曝露した。図16の(a)は、コントロール株におけるOsHMA3遺伝子の発現量に対するRNAi株におけるOsHMA3遺伝子の発現量を示している。
それぞれのデータは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「*」は、危険率5%未満において、コントロール株とRNAi株との間に有意差があることを表し、「**」は、危険率1%未満において、コントロール株とRNAi株との間に有意差があることを表す。
図16の(a)に示すように、コントロール株と比較して、RNAi株では、OsHMA3遺伝子の発現量が有意に減少していた。また、図16の(b)に示すように、根および地上部における亜鉛、銅、マンガンおよび鉄を含む他の微小栄養素の濃度については、RNAi株とコントロール株との間に差異はなかった。
これらの結果から、OsHMA3遺伝子が、日本晴およびアンジャナ・ダーンの2種の品種間におけるカドミウムの蓄積の違いに関与する遺伝子であることがさらに確認できた。
(5.OsHMA3遺伝子の発現パターン解析)
2つの品種の異なる組織における2つの対立遺伝子の発現レベルを、定量的リアルタイムRT−PCT法を用いて解析した。
発現レベルは、以下のプライマーペアを用い、ThunderbirdTM qPCR Mix(Toyobo製)を用いて分析した:
OsHMA3解析用として、5'-TCCATCCAACCAAACCCGGAAA-3'(配列番号11)および5'- TGCCAATGTCCTTCTGTTCCCA-3'(配列番号12);内部標準としてのヒストンH3解析用として、5'-GGTCAACTTGTTGATTCCCCTCT-3'(配列番号13)および5'-AACCGCAAAATCCAAAGAACG-3'(配列番号14)。
データは、7500 Real Time PCR System (Applied Biosystems製)に従って収集した。増幅産物の相対量を見積もるために、ΔCt法を用いた。リアルタイムPCR法の増幅効率は、希釈したプラスミドDNAを鋳型として用いた標準曲線によって確認した。OsHMA3n遺伝子およびOsHMA3a遺伝子の増幅効率は、共に1.96であった。
図17は、OsHMA3遺伝子の発現パターンを示す図である。図17の(a)は、日本晴およびアンジャナ・ダーンの根および地上部におけるOsHMA3遺伝子の2つの対立遺伝子の発現を示し、(b)は日本晴およびアンジャナ・ダーンの根の異なる部分における2つの対立遺伝子の発現を示している。
OsHMA3遺伝子の発現パターンを調べるために、日本晴およびアンジャナ・ダーン(それぞれ12日齢)の地上部および根からRNAを抽出した。また、日本晴およびアンジャナ・ダーンの苗を、0μM CdSOまたは1μM CdSOに24時間曝露し、その後、根を0〜1cm、1〜2cm、および2〜3cmの部分で切断し、RNAを抽出した。発現レベルは、定量的リアルタイムRT−PCT法によって決定した。内部標準としてヒストンH3を用いた。発現は、ヒストンH3の発現レベルに対する発現量を示した。データは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「*」は、危険率5%未満において、コントロール株とRNAi株との間に有意差があることを表す。
図17の(a)に示すように、OsHMA3遺伝子は、カドミウムの蓄積に関して対照的な2つの品種において、主として根において、同じレベルで発現していた。また、図17の(b)に示すように、根の異なる部分間ではOsHMA3遺伝子の発現に差異がないことが空間的解析によって示された。さらに、カドミウムに対する曝露によってOsHMA3遺伝子の発現が影響を受けないことが明らかになった。この結果は、2つの品種においてOsHMA3遺伝子が恒常的に発現していることを示すものである。
(6.OsHMA3タンパク質の局在解析)
免疫染色およびプロモーター−GFP形質転換イネを用いて、OsHMA3タンパク質の局在を確認した。
OsHMA3nタンパク質(配列番号1)のアミノ酸配列の第993位〜第1004位合成ペプチドを用いてウサギを免疫し、OsHMA3タンパク質に対する抗体を取得した。使用する前に、取得した抗血清を、ペプチドアフィニティーカラムを通して精製した。日本晴およびアンジャナ・ダーン(それぞれ10日齢)の根を用いて、OsHMA3タンパク質の免疫染色を行った。二次抗体(Alexa Fluor 555 goat anti-rabbit IgG; Molecular Probes)の蛍光は、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700;Carl Zeiss製)によって観察した。
トランスレーショナルなpOsHMA3−GFP融合遺伝子を作製するために、プライマーセット5'-ATCTAGAAGCATAAAAGAATAGAGCCGTGGAC-3'(配列番号15)および5'-ATCTAGAATGCAAGTGGGGATCAAGGA-3'(配列番号16)を用いて、PCR法によって、OsHMA3遺伝子の2kb上流領域(翻訳開始コドンより−34bp〜−2094bp)を、日本晴のゲノムDNAから増幅した。pUC18ベクター(Takara)において、GFPおよびNOSターミネーターのXbaIサイトに、プロモーターをクローニングした。pOsHMA3n−GFPおよびNOSターミネーターを有しているコンストラクトは、pPZP2H−lacバイナリーベクターにサブクローニングした。
作製したコンストラクトは、アグロバクテリウム法によって、日本晴由来のイネのカルスに導入した。GFPシグナルは、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700;Carl Zeiss製)によって観察した。
図18は、イネの根におけるOsHMA3タンパク質の局在を示す図である。図18の(a)はアンジャナ・ダーンの根における免疫染色の結果を示し、(b)は日本晴の根における免疫染色の結果を示している。図中のスケールバーは、100μmに相当する。
図18の(a)および(b)に示すように、抗OsHMA3ポリクローナル抗体を用いた免疫染色によって、OsHMA3タンパク質が根の全ての細胞に局在していることが確認された。また、アンジャナ・ダーンと日本晴ではOsHMA3タンパク質の局在に差異がないことが確認された。
図18の(c)はpOsHMA3n−GFPを形質転換した日本晴の根におけるGFPタンパク質の蛍光を示し、(d)は野生型日本晴の根におけるGFPタンパク質の蛍光を示している。図中のスケールバーは、100μmに相当する。
図18の(c)に示すように、OsHMA3nプロモーターの制御下にGFPをつないだpOsHMA3n−GFPを形質転換した日本晴は、根の全ての細胞においてOsHMA3nタンパク質が発現していた。これに対して、図18の(d)に示すように、野生型の日本晴では、GFPシグナルは観察されなかった。
図示しないが、抗OsHMA3抗体を用いた過剰発現株の免疫染色では、OsHMA3タンパク質のシグナルは非常に亢進していた。これに対して、抗OsHMA3抗体を用いたRNAi株の免疫染色では、OsHMA3タンパク質のシグナルは、非常に低下していた。これらの結果から、免疫染色に用いた抗OsHMA3抗体の特異性が確認された。
図示しないが、OsHMA3タンパク質のシグナルは、核の外側で観察された。このことから、OsHMA3タンパク質は液胞膜に局在していることが明らかになった。
OsHMA3n遺伝子のORFおよびOsHMA3a cDNA断片は、プライマーセット5'-ATCCGGAATGGCCGGAAAGGATGAGGC-3'(配列番号17)および5'-TTCCGGATCCTTTCACTTCACCGGAG-3'(配列番号18)を用いて増幅した。OsHMA3断片を、リンカー配列(SGGGGGG)を有しているGFPの3’末端に連結し、pUC18(Takara)において、CaMV 35Sプロモーターの制御下に配置した。得られたプラスミド(pGFP−OsHMA3)またはGFPのみを、1100プシープレッシャーディスクを用いた粒子衝突(PDS-1000/He particle delivery system, Bio-Rad, http
://www.bio-rad.com/)によってタマネギの表皮細胞に導入した。GFPシグナルは、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700;Carl Zeiss製)によって観察した。
図19は、OsHMA3nタンパク質の細胞内の局在を示す図である。図19の(a)は、GFP−OsHMA3nタンパク質を発現しているタマネギの表皮細胞におけるGFPの蛍光を示し、(b)はGFPタンパク質のみを発現しているタマネギの表皮細胞におけるGFPの蛍光を示している。図中のスケールバーは、100μmに相当する。
図19の(a)に示すように、タマネギの表皮細胞におけるOsHMA3n−GFP融合タンパク質の一過性の発現を観察することによって、OsHMA3nタンパク質が液胞膜に局在することが明らかになった。図示しないが、OsHMA3aタンパク質についても同様の結果が得られた。さらに、GFP−OsHMA3nタンパク質またはGFP−OsHMA3aタンパク質と小胞体マーカーであるDsRed−HDELとの共発現の結果から、OsHMA3タンパク質は、小胞体ではなく、液胞膜に局在していることがさらに確認された(図示しない)。
図20は、ウエスタンブロット解析の結果を示す図である。日本晴(137日齢)から作出した、OsHMA3nタンパク質の過剰発現株の根の全てからミクロソームを抽出し、抗OsHMA3n抗体を用いたウエスタンブロット解析に供した。ミクロソーム画分は、ショ糖密度勾配によって分画した。一次抗体として、抗OsHMA3ポリクローナル抗体(100倍希釈)、抗γ−TIPポリクローナル抗体(液胞膜マーカー、1000倍希釈)および抗H−ATPaseポリクローナル抗体(細胞膜マーカー)を用いた。二次抗体として、ECLペルオキシダーゼ標識抗−ウサギ抗体(10000倍希釈、GE Healthcare製)を用い、ECL Plus western blotting detection system(GE Healthcare製)を用いて、シグナルを検出した。
図20の(a)は、抗OsHMA3n抗体の特異性を示し、(b)はショ糖密度勾配解析の結果を示している。
図20の(a)に示すように、OsHMA3タンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロット解析によって、予測されたサイズに単一のバンドが確認されたことから、この抗体の特異性が確認された。また、図20の(b)に示すように、ショ糖密度勾配解析によって、OsHMA3タンパク質が、液胞膜マーカーであるγ−TIPと同じ分画に存在することが明らかになった。これらの結果から、イネの根の細胞において、OsHMA3タンパク質は、液胞膜に局在していることが明らかになった。
(6.酵母における輸送活性の解析)
アンジャナ・ダーンと日本晴との間のカドミウム蓄積における大きな違いを解析するために、酵母においてそれぞれの遺伝子を発現させた。
サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)BY4741株(Mat a; his3Δ1; leu2Δ0; met15Δ0; ura3Δ0)、並びに変異株であるΔzrc1株(Mat a; his3Δ1; leu2Δ0;met15Δ0; ura3Δ0; YMR243c::kanMX4)およびΔcot1(Mat a; his3Δ1; leu2Δ0; met15Δ0;ura3Δ0; YOR316c::kanMX4)は、Euroscarf(http://web.uni-frankfurt.de/fb15/mikro/euroscarf/index.html)から購入した。
OsHMA3a遺伝子およびOsHMA3n遺伝子は、PCR法によって増幅した。ORFを含む断片を、酵母発現ベクターであるpYES2に挿入した。
図21は、カドミウムに関する酵母における機能解析の結果を示す図である。図21の(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、AtHMA3遺伝子または2種類のキメラ遺伝子のいずれかを形質導入した野生型の酵母細胞(BY4741株)の、グルコース存在下における成長を示し、(b)は、ガラクトースの存在下における成長を示している。酵母は、20μM CdSOの存在下において培養した。
なお、N−OsHMA3n−C−OsHMA3a(OsHMA3na)およびN−OsHMA3a−C−OsHMA3n(OsHMA3an)は、OsHMAタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1または配列番号2)の第501位において、OsHMA3nタンパク質とOsHMA3aタンパク質とを融合したキメラタンパク質(図22を参照)を発現している形質転換株である。
図23は、カドミウムに関する酵母における機能解析の結果を示す図である。図23の(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔycf1酵母細胞の、グルコースの存在下における成長を示し、(b)は、ガラクトースの存在下における成長を示している。酵母は、2μMカドミウムを含む培地において、3日間にわたって培養した。
pYES2ベクターにおいて、GAL1プロモーターからの遺伝子の発現は、ガラクトースの存在下において誘導され、グルコースの存在下において抑制されることが知られている。このため、形質導入した遺伝子の発現を抑制するためにグルコースを培地に添加し、形質導入した遺伝子の発現を誘導するためにガラクトースを培地に添加した。
図21の(a)に示すように、グルコースの存在下において、OsHMA3n遺伝子を含んでいるプラスミドを有する酵母、およびOsHMA3a遺伝子を含んでいるプラスミドを有する酵母において、カドミウムに対する感受性に差異はなかった。しかし、図21の(b)に示すように、ガラクトースの存在下において、OsHMA3n遺伝子を発現している酵母は、カドミウムに対する感受性が強くなっていた。一方、OsHMA3a遺伝子を発現している酵母は、コントロールと同様の成長を示した。
また、図23の(a)および(b)に示すように、カドミウム感受性変異体であるΔycf1酵母においてOsHMA3a遺伝子およびOsHMA3n遺伝子を発現させると、図21と同じ結果を示した。これらの結果から、OsHMA3n遺伝子は、酵母においてカドミウム輸送体として機能し、OsHMA3a遺伝子は、カドミウム輸送体として機能しないと考えられた。
図24は、金属に関する酵母における機能解析の結果を示す図である。図24の(a)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはポジティブコントロールとしてAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔzrc1酵母株の、ガラクトースおよび4mM ZnSOの存在下における成長を示し、(b)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3n遺伝子、OsHMA3a遺伝子、またはポジティブコントロールとしてAtHMA3遺伝子のいずれかを形質導入したΔcot1酵母株の、ガラクトースおよび2.5mM CoClの存在下における成長を示し、(c)は、pYES2ベクターのみ、OsHMA3a遺伝子、OsHMA3aH80R遺伝子、OsHMA3aV638A遺伝子、OsHMA3aH80R/V638A遺伝子、またはOsHMA3n遺伝子のいずれかを形質導入した野生型酵母細胞の、ガラクトースおよび20μM CdSOの存在下における成長を示している。全ての酵母株は、30℃で3日間培養した。
なお、OsHMA3aH80R、OsHMA3aV638AおよびOsHMA3aH80R/V638Aは、OsHMA3a遺伝子(配列番号4)の塩基配列の第80位および/または第638位における部位特異的突然変異体である。
図24の(a)に示すように、OsHMA3n遺伝子を形質導入したΔzrc1酵母株と、OsHMA3a遺伝子を形質導入したΔzrc1酵母株とでは、亜鉛に対する感受性に差異がなかった。また、図24の(b)に示すように、OsHMA3n遺伝子を形質導入したΔcot1酵母株と、OsHMA3a遺伝子を形質導入したΔcot1酵母株とでは、コバルトに対する感受性に差異がなかった。これに対して、ポジティブコントロールとしてAtHMA3遺伝子を形質導入したΔcot1酵母株では、コバルトに対する感受性が強くなっていた。
OsHMA3タンパク質は、イネの根の液胞膜に局在している(図19の(a)および(b))。酵母においてもOsHMA3タンパク質の局在が同じであれば、機能的なOsHMA3タンパク質の発現は、カドミウムに対する耐性を強くすると考えられた。しかし、OsHMA3n遺伝子を発現する酵母は、カドミウムに対する感受性が強くなっていた(図21の(b))。この矛盾は、酵母におけるOsHMA3タンパク質の局在ミスに起因すると考えられた。具体的には、OsHMA3タンパク質は、酵母では小胞体に局在していると考えられた(図示しない)。それゆえ、機能的なOsHMA3タンパク質は、カドミウムを小胞体へ輸送し、その結果、カドミウム感受性が強くなったと考えられた(図21の(b))。
OsHMA3a遺伝子における機能の欠失の基礎となる機構を分析するために、OsHMA3aタンパク質およびOsHMA3nタンパク質のキメラタンパク質を2種類作製した。OsHMA3aタンパク質とOsHMA3nタンパク質との間で最も異なる部分はC末端側にあり、OsHMA3aタンパク質では、推定された金属結合ドメインの繰り返し内で、53個のアミノ酸残基が欠失している(OsHMA3nタンパク質は9個の繰り返しを有し、OsHMA3aタンパク質は6個の繰り返しを有している)(図6を参照)。
OsHMA3aタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の第501位において、OsHMA3aタンパク質のN末端型を、OsHMA3nタンパク質のC末端型と融合させたキメラタンパク質、またはOsHMA3nタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)の第501位において、OsHMA3nタンパク質のN末端型を、OsHMA3aタンパク質のC末端型と融合させたキメラタンパク質(図22を参照)を用いて、輸送活性における金属結合ドメインの繰り返しの役割を解析した。
OsHMA3nタンパク質において観察されたように、N−OsHMA3n−C−OsHMA3aキメラタンパク質において、カドミウム感受性が強くなっていた(図21の(b))。しかし、N−OsHMA3a−C−OsHMA3nキメラタンパク質では、カドミウム感受性に変化が無かった(図21の(b))。これらの結果は、OsHMA3aタンパク質のC末端における53残基の欠失ではなく、OsHMA3nタンパク質におけるN末端領域が、カドミウム輸送機能に重要であることを示している。
2つの対立遺伝子のN末端部をさらに比較した。膜貫通ドメイン予測プログラム(SOSUI; http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/)を用いて、OsHMA3aタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の第80位および第638位におけるアミノ酸の変異が、予測された膜貫通ドメインの数の違いをもたらしていることを見出した。これらの変異がOsHMA3aタンパク質の機能の欠失に関与することを調べるために、酵母発現系を用いて部位特異的突然変異解析を行った。
図24の(c)に示すように、OsHMA3aタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の第80位におけるヒスチジン(His)をアルギニン(Arg)に置換したタンパク質(H80R)では、カドミウムに対する感受性が強くなっていた。しかし、第638位のバリン(Val)をアラニン(Ala)に置換したタンパク質(V638A)では、カドミウム感受性は変化しなかった。この結果は、キメラタンパク質の実験結果(図23の8b))と一致していた。また、第80位および第638位でのアミノ酸置換体(H80R/V638A)も、カドミウムに対する感受性が増加していた(図24の(c))。これらの結果から、OsHMA3nタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)の第80位におけるアミノ酸が、OsHMA3nタンパク質の機能にとって重要である可能性が示唆された。
(7.形質転換株の機能解析2)
穀粒におけるカドミウムの蓄積が、OsHMA3遺伝子の発現レベルの操作によって低下する可能性を調べるために、カドミウム低蓄積性の品種である日本晴において、OsHMA3n遺伝子を、トウモロコシユビキチンプロモーターの制御下において過剰発現させた。
図26は、過剰発現株およびベクターコントロール株におけるOsHMA3n遺伝子の発現レベルを示す図である。発現レベルは、ベクターコントロール株に対する値として示した。データは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「**」は、危険率1%未満において、ベクターコントロール株と過剰発現株との間に有意差があることを表す。
図26に示すように、過剰発現株では、ベクターコントロール株と比較して、OsHMA3遺伝子の発現が有意に増加していることが確認された。
これらの過剰発現株、ベクターコントロール株および形質転換していない日本晴(非形質転換株)を、中程度にカドミウム汚染された土壌(1.5 mg Cd kg-1)において湛水することなく5ヶ月間栽培した。処理後、フレーム原子吸光分析(Z−2000;日立製作所製)によってカドミウムおよび他の金属を測定するために、葉身(leaf blade)および葉鞘を含む地上部、根、並びに玄米に分けて収穫した。
結果を図25に示す。図25は、カドミウムの蓄積および他の金属の蓄積に関するOsHMA3n遺伝子の過剰発現の作用を示す図であり、(a)は、玄米におけるカドミウムの濃度を示し、(b)は玄米における亜鉛の濃度を示し、(c)は玄米における鉄の濃度を示している。なお、データは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「**」は、危険率1%未満において、ベクターコントロール株と過剰発現株との間に有意差があることを表す。
図25の(a)に示すように、カドミウム汚染土壌において栽培すると、ベクターコントロール株および非形質転換株と比較して、過剰発現株では、玄米におけるカドミウム濃度が有意に低下していた(p<0.01)。また、図25の(b)および(c)に示すように、玄米における亜鉛および鉄の濃度は、ベクターコントロール株および過剰発現株の間で差異がなかった。
図27は、カドミウムの蓄積および他の金属の蓄積に関するOsHMA3n遺伝子の過剰発現の作用を示す図であり、(a)は、地上部におけるカドミウムの濃度を示し、(b)は地上部における亜鉛の濃度を示し、(c)は地上部における鉄の濃度を示している。なお、データは、平均値±標準偏差として示した(n=3)。また、ダネットt検定を用いて統計解析を行った。なお、グラフ中に示す「**」は、危険率1%未満において、ベクターコントロール株と過剰発現株との間に有意差があることを表す。
図27の(a)〜(c)に示すように、地上部においても、玄米と同じ傾向が観察された。
本発明によれば、カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を生産することができる。かかる形質転換植物は、様々な用途に利用することができる。例えば、カドミウムの蓄積の局在性を根に変化させた形質転換植物は、カドミウムを含む土壌においても栽培できる。また、カドミウムの蓄積の局在性を根を除く植物体に変化させた形質転換植物は、カドミウムを含有する土壌を浄化するために用いることができる。それゆえ、本発明は、農業において好適に利用することができる。

Claims (4)

  1. カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物の生産方法であって、
    下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを、植物に発現可能に導入することを特徴とする、形質転換植物の生産方法:
    (a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
  2. 上記植物はイネ科植物であることを特徴とする請求項1に記載の形質転換植物の生産方法。
  3. 請求項1または2に記載の形質転換植物の生産方法によって生産されたことを特徴とする形質転換植物。
  4. カドミウムの蓄積の局在性を変化させた形質転換植物を作製するためのキットであって、
    下記の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドを備えていることを特徴とするキット:
    (a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (c)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
    (d)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つカドミウムの蓄積の局在性を変化させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
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