JP2008220368A - 重金属蓄積能を有する植物体及び土壌浄化方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鉛などの重金属輸送活性を有するソバ由来タンパク質をコードするDNAを導入した植物体である。
【選択図】図6
Description
さらには、複数の重金属に対して蓄積能を発揮する植物体の報告(特許文献3)はあるが、特定の重金属(例えば鉛)を選択的に蓄積する植物体の報告はない。
すなわち上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、鉛などの重金属輸送活性を有するソバ由来タンパク質をコードするDNAを導入して形質転換してなる植物体である。この植物体は、その生育過程において重金属輸送活性を備えたタンパク質を発現し、ソバ由来の強い重金属蓄積能及び耐性を発揮する。
(A)配列番号1に記載の塩基配列を有するDNA。
(B)配列番号1に記載の塩基配列の全体若しくは一部の配列からなるDNAあるいはその相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、重金属輸送活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。
(A)又は(B)のDNAを導入した植物体は、その生育過程において塩基配列(A)又は(B)のDNAに対応のタンパク質(MRP)を発現し、特定の重金属を選択的に蓄積する(例えば、鉛を蓄積する一方で、カドミウムや酸化クロムをほとんど蓄積しない)ことができる。
本実施の形態では、宿主植物体(ソバ以外の植物体)に、「鉛などの重金属輸送活性を有するソバ由来タンパク質をコードするDNA」を導入することで形質転換する。このように形質転換した宿主植物体は、その生育過程において重金属輸送活性を備えたタンパク質を発現し、ソバ由来の強力な(実用に耐え得る)重金属蓄積能及び耐性を発揮することとなる。
更に、後述の(A)又は(B)の塩基配列を有するDNAを導入して形質転換した宿主植物体は、その生育過程において塩基配列(A)又は(B)に対応のタンパク質を発現し、特定の重金属を選択的に蓄積する(例えば、鉛は効率良く蓄積するが、カドミウムや酸化クロムはほとんど蓄積しない)。
また宿主植物体は、ソバよりも大きく育つか、またはソバよりも環境に対する耐性が高いことが好ましく、例えば、ケナフ、ヒマワリ、ソルガム又はネピアグラスを宿主植物体として用いることが好ましい。
さらに宿主植物体は、アブラナ、ナタネ及び菜の花など油料系植物であることが好ましい。すなわち、油料系植物の生育によって汚染土壌の浄化を達成できると同時に、収穫した油料系植物を燃料原料として用いることもできる。
そして、上述の多剤耐性関連タンパク質(MRP)は、それにより形質転換した宿主植物体に特定の重金属を選択的に除去する選択性を付与するため、「重金属輸送活性を有するソバ由来タンパク質」として好ましい。
(A)配列番号1に記載の塩基配列を有する。
(B)配列番号1に記載の塩基配列の全体若しくは一部の配列{例えば、表1に表記の1)〜18)のプライマを参照}からなるDNAあるいはその相補鎖(それらを総称してプローブと呼ぶ)とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、重金属輸送活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有する。
(A)又は(B)の塩基配列を有するDNAを導入した宿主植物体は、その生育過程において塩基配列(A)又は(B)に対応のタンパク質(MRP)を発現し、特定の重金属を選択的に蓄積する(例えば、鉛を蓄積する一方で、カドミウムや酸化クロムをほとんど蓄積しない)ことができる。
なお、ハイブリダイズの手法としては、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンブロットハイブリダイゼーション法などの各種手法{例えば、Current Protocols I Molecular Biology edit. Ausubel et al.,(1987)を参照}を用いることができる。
ここで「ソバ由来タンパク質をコードするDNA」を宿主植物体に導入してタンパク質を発現するための発現ベクターは、宿主植物体との組み合わせを考慮して適宜選択することができる。例えば発現ベクターとして、宿主植物体の染色体中に発現可能にDNAを組み込み可能な染色体組込型ベクターや、宿主植物体の細胞内において自立複製可能なプラスミドを好適に使用可能である。
具体的には、植物細胞用の発現ベクターとして、アグロバクテリウム感染用バイナリーベクターpGWB(特開2006−325428号公報参照, J. biosci. Bioeng. vol.104,pp34−41, 2007)、pIG121−Hm(Plant Cell Report,vol.15, pp809814,1995)、pBI121(EMBO J. vol.6, pp3901−3907,1987)、pLAN411またはpLAN421(PlantCell Reports vol.10, pp286−290,1991)を好適に使用可能である。
ここで宿主植物体を生育するとは、宿主植物体を重金属の蓄積が可能な状態で維持することであり、必ずしも宿主植物体が増殖することを要しない。このように形質転換した宿主植物体は、その生育過程において重金属輸送活性を備えたタンパク質を発現し、ソバ由来の強力な(実用に耐え得る)重金属蓄積能及び耐性を発揮することができる。
以下、本実施の形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[MRPをコードするDNAのクローニング]
ソバ由来多剤耐性タンパク質(MRP)をコードするDNA(以下、FeMRP3遺伝子と呼ぶ)のクローニング手法を(1)〜(3)の順に説明する。
(1)ソバ由来のtotalRNAの採取
パウダー状に磨り潰した普通ソバの葉50mg〜100mgと、RNA抽出用試薬1ml(商品名:ISOGEN、日本ジーン社製)を遠心チューブ(l.5ml容)に入れて撹拌した後、50℃で10分間保温したものをサンプルとした。このサンプル1mlにクロロホルム200μlを加えて撹拌及び静置(室温)した後12,000rpm、4℃、15分間の条件で遠心分離(微量高速冷却遠心機 MRX−150、トミー精工株式会社製)してサンプルの上澄み液を得た。この上澄み液に10M塩化リチウム(LiCl)200μlを加えて撹拌、冷却及び静置した後、遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)し、上澄み液と多糖類を除去したRNA沈殿物を得た。このRNA沈殿物を、DEPC水(DEPC処理した滅菌済み超純水)400μlに溶解した後、イソプロパノール400μlを加えて遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)し、その上澄み液を取り除いた後、更に70%エタノール180μlを加えて撹拌し、遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)してリンスした。リンス後のRNA沈殿物を乾燥させた後、DEPC水400μl、3M酢酸ナトリウム(NaAc)40μl、100%エタノール1ml(−20℃)を加えて振盪し、−70℃で1時間冷却して遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)して再度リンスした。
リンス後のRNA沈殿物に、70%エタノール180μl(−20℃)を加えて撹拌、遠心分離(12,000rpm、4℃、15分間)して精製RNA沈殿物を得た。この精製RNA沈殿物からエタノールを取り除いて室温で5分間乾燥させた後、DEPC水18μlに溶解したものを「ソバ由来のtotalRNA」溶液とした。
上述のtotalRNA溶液18μlを遠心チューブ(l.5ml容)へ入れ、オリゴdTアンカプライマ(表1を参照)2μlを加えた。この溶液を、サーマルサイクラ(商品名:TaKaRa PCR Thermal Cycler Personal、TaKaRa社製)にて65℃で5分間保温し、氷上で冷却した後、逆転写用試薬{5×RTase M−MLV Buffer6μl、dNTP Mixture2μl、RNase Inhibitor1μlおよびRTase M−MLV1μl(商品名:Reverse Transcriptase M−MLV、TAKARA BIOCHEMICAL社製)}と42℃で1時間反応させて「ソバ由来のcDNAテンプレート」を得た。
本実施例では、他種間で相同性の高いプライマ(表1)を用いてFeMRP3遺伝子の塩基配列の一部を解読し、さらにRACE法にてFeMRP3遺伝子の全塩基配列を解読した。
上記(2)で調整したcDNAテンプレートに対して、表1に記載のプライマMRP5’−1、プライマMRP3’−1及びDNAポリメラーゼ(商品名:TAKARA ExTaqTM、TAKARA社製)を用いてFeMRP3遺伝子断片の増幅を行った。
なおFeMRP3遺伝子断片の増幅は、PCR用プログラム温度制御装置(商品名:TaKaRa PCR Thermal Cycler PERSONAL、TAKARA社製)を用いた。PCR反応液の組成は、DEPC水18.3μl、dNTP(10mM)2.5μl、10×Ex Taq Buffer(添付試薬)1μl、5’側primer(20μM)1μl、3’側primer(20μM)1μl、テンプレートDNA1μl、 TAKARA ExTaqTM(5units/μl, TAKARA)0.2μlであった。またPCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(1分)→55℃(1分)→72℃(1分)}×30サイクル→72℃(5分)とした。
続いて、FeMRP3遺伝子断片に対して、プライマMRP−point2435とプライマMRP−point1545を用い、ソバ由来のcDNAテンプレートを用いてPCRを行った。PCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(1分)→60℃(1分)→72℃(2分)}×35サイクル→72℃(5分)とした。
ここで上述のプライマMRP−point2297は、シロイヌナズナMRP(AtMRP1,3)の中流域で保存されているアミノ酸配列を基に作製し、プライマMRP−point1545は、シロイヌナズナMRP(AtMRP1,3)の上流域で保存されているアミノ酸配列を基に作製した。
このような手順によりFeMRP3遺伝子の塩基配列の一部を得てそれを解読した。
(i)FeMRP3遺伝子3’末端の解読
FeMRP3遺伝子の塩基配列の一部を基に設計したプライマMRP5’と、オリゴd(T) SXX−アンカプライマと、ソバ由来のcDNAテンプレートを用いてPCRを行った。PCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(1分)→63℃(1分)→72℃(2分)}×35サイクル→72℃(5分)とした。
プライマMRP−point2435を使用して上記(1)のtotalRNAを上記(2)の方法で逆転写(42℃で1時間)し、cDNA溶液を得た。このcDNA溶液を、カラム(商品名:QIAEX(R)II Gel Extraction Kitに附属のカラム、QIAGEN社製)に通してdNTPを除去した。dNTPを除去した溶液中のcDNA3’末端に、ターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT, Invitrogen社製)を用いてポリCを付加した。この操作は、サーマルサイクラ(商品名:TaKaRa PCR Thermal Cycler Personal、TaKaRa社製)にて行った。
そしてポリCを付加のcDNA溶液24μlを94℃で3分間加熱し、すぐに氷上に移した。これにTdTを1μl加えて37℃で20分間反応後、70℃で10分間処理しTdTを失活させた。このcDNA溶液を5’RACE用テンプレートとして用いた。
そして5’RACE用テンプレートと、プライマMRP−point 2415及びプライマMRP−P 1593(5’側プライマ)と、オリゴd(G)アンカプライマ及びオリゴd(G) アンカ NBEプライマ(3’側プライマ)とを用いてPCR反応を2回行った。一回目のPCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(1分)→65℃(1分)→72℃(2分)}×35サイクル→72℃(5分)とした。二回目のPCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(1分)→65℃(1分)→72℃(2分)}×25サイクル→72℃(5分)とした。
このような手順によりFeMRP3遺伝子の全塩基配列(配列番号1)を得てそれを解読した。そして、解読済のFeMRP3遺伝子をプラスミドpCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)に挿入して、FeMRP3遺伝子のオープンリーディングフレーム全長を含む「プラスミドpCR2.1−FeMRP3」を得た。
(1)FeMRP3遺伝子の酵母用発現系プラスミド(pKT10−FeMRP3−HA)の構築
上述のプラスミドpCR2.1−FeMRP3と、プライマMRP−5'Kpn1と、プライマMRP−3‘SalIを用いてPCRを行い、FeMRP3遺伝子の5’末端にKpnI配列を付加し、その3’末端にSalI配列を付加した。そして制限酵素KpnI及びSalIを用いてFeMRP3遺伝子を切り出し、同様に酵母発現用シャトルベクターpKT10−Gal−HA−BS(K.Ozaki et al.,1995、以下単に「発現ベクターpKT10」とも呼ぶ)を制限酵素KpnI及びSalIで消化した。そして制限酵素処理したFeMRP3遺伝子と酵母発現用シャトルベクターをアガロースゲルにて電気泳動の後、それぞれの分子量に対応のバンドを含むゲル断片より両者を各々抽出した。
FeMRP3遺伝子と酵母発現用シャトルベクターのライゲーションは、市販のDNAライゲーションキット(DNA Ligation Kit Ver.2、TaKaRa社製)を用いて行った。ライゲーション後の反応液によって大腸菌DH5αの形質転換を行った。LB/Amp寒天培地(Lysogeny broth Ampicillin medium)にて生育の大腸菌DH5αコロニーをさらにLB/Amp液体培地にて培養し、培養後の菌体から「酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3−HA」を得た。
YPD液体培地(Yeast peptone dextrose medium)5mlに出芽酵母デルタ(Δ)YCF1(Euroscarf社製)のシングルコロニーを懸濁し、30℃、150rpmの条件で15時間振盪培養を行い、出芽酵母デルタYCF1の前培養液を得た。この前培養液2.5mlをYPD液体培地50mlに加え、600nmにおける吸光度が0.8となるまで培養した。この培養液を遠心チューブ(50ml容)に移し、3000rpm、15℃で遠心分離(マイクロ冷却遠心機 3700、株式会社久保田製作所)を5分間行った。培養液の上清を除いた後滅菌水5mlを加え、よく懸濁して遠心分離(3,000rpm、15℃、5分間)を行い、更に1×TE/酢酸リチウム溶液1mlを加え、110rpm、30℃で45分振盪して細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液100μlに、上述の酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3−HA1.0μlを加えた。更に細胞懸濁液にサケ精子DNA(1mg ml−1)50μlを加えて混合した後、PEG/TE/酢酸リチウム溶液700μlを加えて30℃で1時間保温し、酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3−HAを出芽酵母デルタYCF1に導入した。
実施例1の酵母として、上述の酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3-HAを導入した出芽酵母デルタYCF1を使用した。すなわち、実施例1の酵母培養液{YNB−Ura−液体培地(Yeast nitrogen base−urea medium)で振盪培養(30℃、150rpm)}の菌体濃度を、DEPC水でO.D.600=10−1又は10−2となるように希釈した。この希釈培養液5μlを、0〜50μmolL−1の硝酸鉛{Pb(NO3)2}を添加したYPD寒天培地に各々スポットした。これら各培地を5日間培養して、形質転換酵母の生育阻害を観察した。試験は4連で行った。
なお上記出芽酵母において、MRPの発現を誘導する場合はガラクトース(Wako社製)をYPD寒天培地に加え、MRPの誘導を抑制する場合はグルコース(Wako社製)20gL−1をYPD寒天培地に加えた。
また比較例1の酵母として、空の発現ベクターpKT10(FeMRP3遺伝子を未挿入)を導入した出芽酵母を用いて、実施例1と同一条件で培養して、その生育阻害を観察した。
実施例2の酵母として、上述の酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3−HAを導入した出芽酵母デルタYCF1を使用した。実施例2の培養液の菌体濃度をO.D.600=10−1又は10−2となるように希釈した。この希釈培養液5μlを、0〜60μmolL−1の塩化カドミウム(CdCl2)を添加したYPD寒天培地に各々スポットした。これら各培地を3日間培養して、形質転換酵母の生育阻害を観察した。試験は4連で行い、他の条件は、上述の鉛耐性試験と同一とした。
また比較例2として、空の発現ベクターpKT10を導入した出芽酵母を用いて、実施例2と同一条件で培養して、その生育阻害を観察した。
実施例12の酵母として、酵母用発現系プラスミドpKT10−FeMRP3−HAを導入した出芽酵母デルタYCF1を使用した。形質転換酵母はウラシル要求性によって選抜し、YNB−Ura−培地で生育可能な株を使用した。
そしてYNB−Ura−液体培地(30℃、150rpmの条件)で培養した形質転換酵母の培養液を、滅菌超純水でO.D.600=10−1又は10−2となるように希釈した。この希釈培養液5μlを、0〜900μmolL−1の酸化クロム(VI) (CrO3)を添加したYNB−Ura−寒天培地(発現誘導用20gL−1galactose含有)に各々スポットした。これら各培地を、3日間(72hr)、30℃で培養したのち、形質転換酵母の生育阻害を観察した。
また比較例12として、空の発現ベクターpKT10を導入した出芽酵母を用いて、実施例12と同一条件で培養して、その生育阻害を観察した。
本実施例においては、アグロバクテリウム法を用いてFeMRP3遺伝子をシロイヌナズナに導入した。遺伝子導入ベクターとして、アグロバクテリウム感染用バイナリーベクターpGWB2(島根大学遺伝子実験施設より分譲)を用いた。TiプラスミドへのFeMRP3遺伝子の導入は、pENTR Directional TOPO Cloning Kit(Invitrogen社製)およびGatewayTM Cloning Technology(Invitrogen社製)の方法に従い、(i)エントリークローンの作成、(ii)エントリークローンを用いたLR(GatewayTM Cloning Technology)反応による相同組換えの2段階の反応を経て行った。
上述のプラスミドpCR2.1−FeMRP3と、5’末端側プライマ{MRP Gateway forward 5’−CACCATGGAACCC−3’(Forward)}と、プライマMRP−3‘Sallを用いてPCRを行い、FeMRP3遺伝子を増幅した。この増幅操作にはPfx DNAポリメラーゼ(Pfx DNA Polymerase、TaKaRa社製)を使用し、PCR反応条件は、94℃(5分)→{94℃(0.5分)→60℃(0.4分)→72℃(4分)}×30サイクル→72℃(5分)とした。
そして増幅したFeMRP3遺伝子を、電気泳動の後、「Gel extraction kit」(TaKaRa社製)を用いて抽出した。この抽出液を用いて、「TOPO Cloning Reaction」(pENTER Directional TOPO Cloning Kit)を行いてプラスミドpENTER/D−TOPOにFeMRP3遺伝子を連結した。FeMRP3遺伝子を連結したプラスミドにて大腸菌DH5αを形質転換し、カナマイシン50mgL−1(Wako社製)を含むLB寒天培地で一晩培養し、「エントリークローン(pENTER−FeMRP3による形質転換大腸菌)」を得た。
あらかじめ制限酵素XhoIで消化した直鎖状のアグロバクテリウム感染用バイナリーベクターpGWB2と、上述のエントリークローンを用いてLR反応による相同組換えを行い、エントリークローンの大腸菌を形質転換した。そして、カナマイシン50mgL−1及びハイグロマイシンB50mgL−1(Wako社製)を含むLB寒天培地上で一晩培養し形質転換した大腸菌より、「発現ベクターpGWB2−FeMRP3」を得た。
土壌細菌アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)GV3101株の遺伝子導入用細胞(コンピテントセル)を調製した。
寒天培地のアグロバクテリウム一白金耳分をLB液体培地5mlに懸濁し、一晩振盪培養(30℃、150rpm)した。この培養液1mlをLB液体培地50mlに加え、30℃でOD600=0.6になるまで振盪培養を行った。この振盪培養液を氷冷した遠心チューブ(50ml容)に移し、6,000rpm、4℃で5分間遠心分離(微量高速冷却遠心機 MRX−150,トミー精工株式会社)を行った。振盪培養液の上清を除いた後、沈殿(アグロバクテリウム)を氷冷10%グリセロール(w/v)20mlに懸濁し、遠心分離(6000rpm、5分、4℃)を行った。この操作を3回繰り返し、10%グリセロール125μlを加えて懸濁して「アグロバクテリウムGV3101株のコンピテントセル」を得た。
なお、この形質転換アグロバクテリウムより抽出したプラスミドと、5’末端側プライマと、3’末端側プライマを用いてPCR反応を行った。得られたPCR産物を電気泳動することで、発現ベクターpGWB2−FeMRP3がコンピテントセルに導入したことを確認した。
上述の形質転換アグロバクテリウムは、LB寒天培地(カナマイシン50mgL−1及びハイグロマイシンB50mgL−1を含む)で前培養(5ml)を1日、本培養を1日、30℃で行った。培養液500mlを集菌し、浸潤用懸濁培地で1回洗浄し、再び懸濁したものを形質転換アグロバクテリウムの懸濁液とした。
一方、シロイヌナズナは、播種して4週間生育して花茎の高さが10cm程度になった摘心済のものを用いた。このシロイヌナズナ(結実している花や鞘を除去したもの)を逆さまにして形質転換アグロバクテリウムの懸濁液に2〜3秒ほど浸して感染させた。そして感染後のシロイヌナズナを、水飽和状態にして22℃の暗所で2日間静置したのち、水を与えて長日条件下に戻して栽培した。この感染シロイヌナズナを「形質転換第0世代目(T0世代)」とした。
そしてT0世代より得た種子をエタノール700mlL−1で懸濁し、軽く遠心して種子を沈殿させた(以下の操作はクリーンベンチ内で実施)。この懸濁液の上清を取り除き、滅菌水を加えて遠心するという操作を3回繰り返して種子をリンスした。リンス後の種子を、1gL−1アガロース(Wako社製)水溶液にて懸濁し、1/2×MS(Murashige and Skoog)寒天選択培地(ハイグロマイシンB 50mgL−1を含む)に播種し4℃で一晩低温処理した後、22℃の長日条件下で栽培した。この選択培地において育つ形質転換シロイヌナズナ(T0世代より得た種子から育つ形質転換体)を「形質転換第1世代目(T1世代)」とした。
なお特に断りのないかぎり、T(n)世代より得た種子から上記条件にて生育の形質転換シロイヌナズナをT(n+1)世代とする(nは正の整数)。
上述のT1世代の葉からtotalRNAを抽出し、RT−PCR法を用いてFeMRP3遺伝子の発現確認を行った。
本実施例3のシロイヌナズナとして、T1世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして本実施例3のシロイヌナズナの葉1枚(約10mg)を、氷冷したスクリューキャップチューブ(2ml容)に入れ、これに滅菌したグラスビーズ(直径0.25−0.5mm)を適量加え、グラスビーズ細胞破砕機(商品名:MINI−BEAD−8、BIOSPEC−CSC社製)を用いて葉の細胞を破砕した。なお破砕は細胞破砕機の最大速度で行い、30秒間破砕の後、氷上で1分間冷却する事によって、細胞液の温度上昇を防いだ。この操作を5回繰り返した後、RNA抽出用試薬1ml(商品名:ISOGEN、日本ジーン社製)を遠心チューブ(l.5ml容)に入れて撹拌した後、50℃で10分間保温したものをサンプルとした。以下、「(1)ソバ由来のtotalRNAの採取」と同様の操作を行い、T1世代のtotalRNAを抽出した。このT1世代のtotalRNAより、上述の「(2)ソバ由来のcDNAテンプレートの作成」と同様の操作を行い、「T1世代のcDNAテンプレート」を作成した。このT1世代のcDNAテンプレートと、プライマMRP5’と、プライマMRP−3‘Sallを用いてPCRを行った。このとき、シロイヌナズナのハウスキーピング遺伝子であるアクチン(Actin)をコントロールとして同時に検出した。すなわち上述のプライマMRP5’及びプライマMRP−3’Sallと共にアクチン検出用のプライマactin5’及びプライマactin3’を混入して上記PCRを行い、実施例3のPCR溶液を得た。
また比較例3のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例3と同一条件でRT−PCRを実施し、比較例3のPCR溶液を得た。
そして実施例3のPCR溶液と比較例3のPCR溶液を並べてアガロースゲルにアプライして電気泳動したのち、エチジウムブロマイドにて各バンドを染色し、紫外線下で撮影した。
(A)鉛耐性試験
(a)地上部の生鮮重量測定試験(T1世代)
実施例4のシロイヌナズナとして、T1世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例4のシロイヌナズナを、1,000μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、5gL−1アガロース)に移して栽培した。そして、4週間栽培後における実施例4の地上部の生鮮重量を測定した。なお、試験は少なくとも3連で行い、Studentのt−検定を行い、統計的に有意な差の有無を判定した。
また比較例4のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例4と同一条件で栽培し、その生鮮重量を測定した。
実施例5のシロイヌナズナとして、T2世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例5のシロイヌナズナを、100、250、500、750及び1,000μmolL−1になるよう硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、15gL−1アガロース)に移した。そして同寒天培地を垂直に立て22℃、長日条件下で生育し、1週間後及び2週間後における実施例5の根の伸長を測定した。なお試験は4連で行った。
また比較例5のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例5と同一条件で栽培し、その根の伸長を測定した。
(a)地上部の鉛集積試験
実施例6のシロイヌナズナとして、T1世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例6のシロイヌナズナを、750μmolL−1になるよう硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、5gL−1アガロース)に移して22℃長日条件下で4週間生育したのち、地上部及び地下部に分割した。そして1個体あたりの地上部全量を、77℃で2日間乾燥したのち、硝酸過塩素酸分解により湿式分解を行い1個体分の地上部分解液を得た。そして、原子吸光分光光度計でこの地上部分解液の鉛濃度を測定し1個体あたりの地上部の鉛集積量を求めた。なお試験は少なくとも3連で行った。
また比較例6のシロイヌナズナとして野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、上記と同一条件で栽培、分割、乾燥及び分解したのち、その地上部分解液の鉛含有濃度を測定し1個体あたりの地上部の鉛集積量を求めた。
(b)地下部の鉛集積試験
実施例7のシロイヌナズナとしてT1世代の形質転換シロイヌナズナを使用し、上記(B)(a)と同一条件で生育したのち、地上部及び地下部に分割した。そして地下部を回収して蒸留水で洗浄した後1個体あたりの地下部全量を乾燥及び分解し、地下部分解液の鉛含有濃度を測定して1個体あたりの地下部の鉛集積量を求めた。
また比較例7のシロイヌナズナとして野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、上記と同一条件で栽培、分割、乾燥及び分解したのち、その地下部分解液の鉛含有濃度を測定し1個体あたりの地下部の鉛集積量を求めた。
(a)地上部の生鮮重量測定試験
実施例8のシロイヌナズナとして、T2世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例8のシロイヌナズナを、40μmolL−1の塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、15gL−1アガロース)に移した。そして実施例8のシロイヌナズナを、寒天培地を垂直に立てた状態で22℃、長日条件下生育し、2週間後の地上部生鮮重量を測定した。なお、試験は4連で行った。
また比較例8のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例8と同一条件で栽培し、2週間後の地上部生鮮重量を測定した。
実施例9のシロイヌナズナとして、T2世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例9のシロイヌナズナを、40μmolL−1になるよう塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、15gL−1アガロース)に移した。そして同寒天培地を垂直に立て22℃、長日条件下で生育し、2週間後における実施例9の根の伸長を測定した。試験は4連で行った。
また比較例9のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例9と同一条件で栽培し、その根の伸長を測定した。
実施例10のシロイヌナズナとして、T1世代の形質転換シロイヌナズナの地上部を用いた。そして実施例10のシロイヌナズナを、40μmolL−1になるよう塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、5gL−1アガロース)に移した。そして各寒天培地の形質転換シロイヌナズナを、22℃長日条件下で4週間生育したのち、地上部及び地下部に分割した。そして1個体あたりの地上部全量を77℃で2日間乾燥させた後、硝酸過塩素酸分解により分解した。そして地上部分解液のカドミウム濃度を原子吸光分光光度計で測定し1個体あたりの地上部のカドミウム集積量を求めた。
また比較例10のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例10と同一条件で栽培、分割、乾燥及び分解したのち、地上部分解液のカドミウム濃度を測定し1個体あたりの地上部のカドミウム集積量を求めた。
実施例11のシロイヌナズナとして、T1世代の形質転換シロイヌナズナを用いた。そして実施例11のシロイヌナズナを、グルタチオン合成阻害剤であるブチオニンスルオキシミン{L−.buthionine−[S,R]−sulfoximime(BSO)}200μmolL−1と硝酸鉛750μmolL−1を加えた1/2×MS寒天培地(15gL−1スクロース、5gL−1アガロース)に移し、4週間栽培して実施例11におけるBSO存在下の鉛集積を調べた。
また比較例11のシロイヌナズナとして、野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例11と同一条件で栽培し、BSO存在下の鉛集積を調べた。
上記4)「シロイヌナズナの形質転換」の手法に従い、T3世代のシロイヌナズナ(実施例13(L16)、実施例14(L4))を得た。
そして上記5)「FeMRP3遺伝子の発現確認試験」の手法に従い、これらT3世代のシロイヌナズナについてFeMRP3遺伝子の発現確認試験を行った。
実施例13(L16)のシロイヌナズナを、250、500又は750μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地に移した。そして実施例13のシロイヌナズナを、寒天培地を垂直に立てた状態で22℃、長日条件下で生育し、2週間後の地上部及び地下部の生鮮重量を測定した。試験は少なくとも3連で行い、Studentのt−検定を行い、統計的に有意な差の有無を判定した。
また実施例14(L4)のシロイヌナズナを、実施例13と同一条件で栽培し、その地上部及び地下部の生鮮重量を測定した。
そして比較例13のシロイヌナズナとして野生株(形質転換していないシロイヌナズナ)を使用し、実施例13と同一条件で栽培し、その地上部及び地下部の生鮮重量を測定した。
(a)地上部の鉛集積試験
上述の生鮮重量測定試験後の実施例13、実施例14及び比較例13を用いた。
すなわち実施例13(L16)に係るシロイヌナズナの一個体あたりの地上部全量を77℃で2日間乾燥したのち、硝酸過塩素酸分解により湿式分解を行い1個体分の地上部分解液を得た。そして、原子吸光分光光度計でこの地上部分解液の鉛濃度を測定し1個体あたりの地上部の鉛集積量を求めた。
また実施例14(L4)のシロイヌナズナを、上記実施例13と同一条件で乾燥及び分解したのち1個体あたりの地上部の鉛集積量を求めた。
そして比較例13(野生株)のシロイヌナズナを、上記実施例13と同一条件で乾燥及び分解したのち1個体あたりの地上部の鉛集積量を求めた。
同様に上述の生鮮重量測定試験後の実施例13、実施例14及び比較例13を用いた。すなわち実施例13(L16)のシロイヌナズナの地下部を回収して蒸留水で洗浄した後1個体あたりの地下部全量を乾燥及び分解し、地下部分解液の鉛含有濃度を測定して1個体あたりの地下部の鉛集積量を求めた。
また実施例14(L4)のシロイヌナズナを、上記実施例13と同一条件で洗浄、乾燥及び分解したのち1個体あたりの地下部の鉛集積量を求めた。
そして比較例13(野生株)のシロイヌナズナを、上記実施例13と同一条件で洗浄、乾燥及び分解したのち1個体あたりの地下部の鉛集積量を求めた。
実施例15として、実施例13(L16)のシロイヌナズナの種子(T4世代)を用いた。このT4世代の種子を、10μmolL−1の硝酸鉛及び10μmolL−1の塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地(5gL−1アガロース)に播種して、22℃にて18日間、長日条件下で栽培した(種子9粒/1プラントボックス、3連)。そしてこの「Pb・Cd複合含有培地」の植物体全体を回収して、その生鮮重量を測定するとともに、その鉛集積量、鉛集積濃度及びカドミウム集積量を測定した。なお鉛集積濃度とは、植物体の乾燥重量あたりの鉛重量(μgg−1d.w.)である。
また実施例15の種子を、250μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地(5gL−1アガロース)に播種して、上記実施例15の栽培条件にて栽培した。そしてこの「Pb含有培地」の植物体全体を回収して、その生鮮重量、鉛集積量、鉛集積濃度及びカドミウム集積量を測定した。
また比較例15として、野生株のシロイヌナズナの種子を、10μmolL−1の硝酸鉛及び10μmolL−1の塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地(5gL−1アガロース)に播種して、上記実施例15の栽培条件と同一条件にて栽培した。
図1は、酵母による鉛耐性試験の結果を示す図である。
菌体濃度O.D.600=10−1の実施例1の酵母は、0〜45μmolL−1の硝酸鉛を添加したYPD寒天培地でその生育が認められた。一方、比較例1の酵母は、0〜30μmolL−1の硝酸鉛を添加したYPD寒天培地でその生育が認められたが、30μmolL−1以上の硝酸鉛濃度下ではほとんど生育が認められなかった。このことから実施例1の酵母はソバ由来の強力な鉛耐性を発揮することがわかった。
実施例2の酵母と比較例2の酵母は、0〜60μmolL−1の塩化カドミウムを添加したYPD寒天培地において生育度合に差がなかった。このことから、実施例2の酵母は、カドミウムに対する耐性が強化しておらず、またカドミウムを酵母内にほとんど蓄積しないことが示唆された。
そして、このカドミウム耐性試験の結果(図2)と上述の鉛耐性試験の結果(図1)を総合すると、実施例の酵母は、その生育過程においてMRPを発現することにより、鉛を効率良く蓄積する一方、カドミウムをほとんど蓄積しない機能(鉛を選択的に蓄積する機能)を発揮することが示唆された。
実施例12の酵母と比較例12の酵母は、共に100〜700μmolL−1の酸化クロムを添加したYNB−Ura−寒天培地において生育度合に差がなかった。そして実施例12の酵母と比較例12の酵母は、いずれも800μmolL−1の酸化クロム存在下で生育の遅延が認められるとともに、900μmolL−1の酸化クロム存在下で生育が阻害される結果となった。このことから実施例12の酵母は、酸化クロムに対する耐性が強化しておらず、また酸化クロムを酵母内にほとんど蓄積しないことが示唆された。
このことからFeMRP3遺伝子を導入した植物体も同様に、鉛を効率良く蓄積する一方、カドミウムや酸化クロムをほとんど蓄積しない機能(鉛を選択的に蓄積する機能)を発揮することが強く示唆される。
実施例3のシロイヌナズナではFeMRP3遺伝子の発現が確認できた。一方、比較例のシロイヌナズナ3ではFeMRP3遺伝子の発現が確認できなかった。このことから、実施例3のシロイヌナズナにはFeMRP3遺伝子が発現しており、恒常的に発現(過剰に発現)していると推察された。
なお、実施例3及び比較例3のシロイヌナズナいずれにおいても、アクチン遺伝子の発現を確認できたことから、RT−PCRの操作自体は成功したことがわかった。
図4は、地上部の生鮮重量(Fresh weight)測定試験の結果を示す図である。
実施例4のシロイヌナズナの地上部は、比較例4と比較すると1,000μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地で格段に大きく生育した。このことから実施例4のシロイヌナズナは、ソバ由来の強力な(実用に耐え得る)鉛耐性を発揮することがわかった。
実施例5及び比較例5のシロイヌナズナは、100、250、500、750及び1,000μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地における根の生育度合に顕著な差がなかった。
そして、この地下部(根)の伸長測定試験(図5)の結果と、上述の地上部の生鮮重量測定試験(図4)を総合すると、実施例4のシロイヌナズナの鉛耐性は、発現したMRPの機能(地下部から地上部に鉛を輸送する機能)に由来することがわかった。
実施例6のシロイヌナズナの地上部には、比較例6と比較すると、750μmolL−1の硝酸鉛を添加した1/2×MS寒天培地から格段に高濃度の鉛を蓄積することが認められた。そして実施例7及び比較例7のシロイヌナズナの地下部には鉛蓄積に顕著な差がなかった。
このことから、実施例6のシロイヌナズナは、発現したMRPでもって地上部に鉛を輸送することにより、ソバ由来の強力な(実用に耐え得る)鉛蓄積能を発揮したことがわかった。
図8は、地上部の生鮮重量(Fresh weight)測定試験の結果を示す図であり、図9は、地下部(根)の伸長(Root length)測定試験の結果を示す図である。
実施例8のシロイヌナズナの地上部は、比較例8と比較すると、40μmolL−1の塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地でほとんど生育しなかった。このことから実施例8のシロイヌナズナは、シロイヌナズナが本来的に有するカドミウム耐性を喪失しているか又は極めて弱いことがわかった。
また実施例9及び比較例9のシロイヌナズナは、40μmolL−1の塩化カドミウム存在下における根の生育度合に顕著な差がなかった。このことから、実施例のシロイヌナズナでは、発現したMRPが、シロイヌナズナ本来のカドミウム輸送能力を積極的に阻害していることが推察される(なお、この推察は本発明を何ら拘束しない)。
実施例10のシロイヌナズナは、40μmolL−1の塩化カドミウムを添加した1/2×MS寒天培地において、ほとんど生育しなかった。一方、比較例10のシロイヌナズナは通常どおり生育した。このことから、実施例のシロイヌナズナは、シロイヌナズナが本来的に有するカドミウム蓄積能力を喪失しているか又はその能力が極めて弱いことがわかった。
すなわち本実施例のシロイヌナズナは、その生育過程において塩基配列(A)又は(B)に対応のタンパク質(MRP)を発現し、鉛は効率良く蓄積するがカドミウムはほとんど蓄積しない(特定の重金属を選択的に蓄積する)機能を発揮することがわかった。
図11は、グルタチオン依存性試験の結果を示す図である。
実施例11のシロイヌナズナは、グルタチオン合成阻害剤BSOを加えた培地であっても強い鉛集積能及び耐性を示した。このことから、実施例11のシロイヌナズナにおいて発現したMRPは、グルタチオン非依存的に機能することがわかった。
このことより、実施例11のシロイヌナズナにおいて発現したMRPは、イオン化した鉛もしくはグルタチオン以外の物質によりキレート化された鉛を輸送しているものと考えられる。
図13は、T3世代のシロイヌナズナにおけるFeMRP3遺伝子発現の結果を示す図である。
実施例13(L16)及び実施例14(L4)のシロイヌナズナではFeMRP3遺伝子の発現が確認できた。一方、比較例13(野生株)のシロイヌナズナではFeMRP3遺伝子の発現が確認できなかった。
なお実施例13及び比較例13のいずれにおいても、アクチン遺伝子の発現を確認できたことから、RT−PCRの操作自体は成功したことがわかった。
実施例13(L16)及び実施例14(L4)のシロイヌナズナは、比較例13(野生株)と比較して、250μmolL−1から750μmolL−1へ硝酸鉛濃度が増加しても生鮮重量が極端に低下することはなかった。
特に実施例13のシロイヌナズナは、250μmolL−1〜750μmolL−1の硝酸鉛濃度範囲で十分に大きく生育した。すなわち実施例13のシロイヌナズナは硝酸鉛濃度が750μmolL−1に増加しても、地上部の生鮮重量の低下は僅か7%であり(ほぼ横ばいであり)、地下部での生鮮重量の低下は認められなかった。
以上のことからT3世代(実施例13及び実施例14)のシロイヌナズナは、ソバ由来の強力な(実用に耐え得る)鉛耐性をT1世代及びT2世代より引き継いでいることがわかった。
実施例13(L16)及び実施例14(L4)のシロイヌナズナは、硝酸鉛濃度の増加に伴い、より多くの鉛を蓄積する傾向があることがわかった。特に実施例13(L16)のシロイヌナズナは、比較例13と比較して、750μmolL−1の硝酸鉛存在下で極めて高い鉛蓄積能を発揮することがわかった。
これとは逆に比較例13(野生株)のシロイヌナズナは、硝酸鉛の添加量とは関係なくその鉛蓄積能が低いことがわかった。そして比較例13(野生株)のシロイヌナズナは、750μmolL−1の硝酸鉛存在下でほとんど鉛を蓄積しなかった。
そして図13〜図15の結果を総合的に考察して、本実施例によれば、組み換え植物としてのラインが確立する(実用に耐え得る)T3世代の組み換え植物種子を獲得できたことがわかった。
図16は、「Pb・Cd複合含有培地」及び「Pb含有培地」における生鮮重量の測定結果を示す図である。
「Pb・Cd複合含有培地」のシロイヌナズナ(実施例15)の生鮮重量は、「Pb含有培地」のシロイヌナズナ(実施例15)と比較して極端に低下することはなかった。一方、比較例15のシロイヌナズナは生育が不十分であり、分析に供する十分な植物体量(生鮮重量)が得られなかった。
「Pb・Cd複合含有培地」のシロイヌナズナ(実施例15)の鉛集積量及び鉛集積濃度は、「Pb含有培地」のシロイヌナズナ(実施例15)と比較して遜色のないものであった(見かけ上増加しているが、t−検定では差は認められなかった)。
一方、「Pb・Cd複合含有培地」のシロイヌナズナ(実施例15)からはカドミウムが検出されなかった。
このことから本実施例のシロイヌナズナは、「Pb・Cd複合含有培地」(鉛・カドミウム複合汚染条件)においても十分な鉛除去能力を維持すること(特に鉛を選択的に蓄積する機能を発揮すること)が判明した。
すなわち本実施例においては、塩基配列1のDNAをPCRにて獲得する例を説明した。これとは異なり、塩基配列1のDNAを化学的に合成してもよい。化学的に合成する場合には、例えば、長鎖DNAの合成方法として知られている藤本らの手法(藤本英也、合成遺伝子の作製法、植物細胞工学シリーズ7植物のPCR実験プロトコール、1997、秀潤社、p95−100)を採用することができる。
なお、上記タンパク質のアミノ酸変異数は、MRPに求められる所望の重金属輸送活性が維持できる限り制限しないが、全アミノ酸の70%以内であることが好ましく、より好ましくは、30%以内であり、さらに好ましくは20%以内である。
そしてホモログタンパク質は、ABCトランスポータに特徴的なドメイン{例えば、膜貫通領域ABC TMF1(ABC transporter integral membrane type―1 fused domain profile)}を有していることが好ましい。
Claims (3)
- 鉛などの重金属輸送活性を有するソバ由来タンパク質をコードするDNAを導入した植物体。
- 前記DNAは、以下の(A)又は(B)である請求項1に記載の植物体。
(A)配列番号1に記載の塩基配列を有するDNA。
(B)配列番号1に記載の塩基配列の全体若しくは一部の配列からなるDNAあるいはその相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、重金属輸送活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNA。 - 請求項1又は請求項2に記載の植物体を、重金属で汚染状態の土壌にて生育した後、収穫することを特徴とする土壌浄化方法。
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2008
- 2008-02-14 JP JP2008033062A patent/JP2008220368A/ja active Pending
Non-Patent Citations (1)
Title |
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JPN6012048879; 日本土壌肥料学会講演要旨集 第50集, 20040914, 第176頁、22-39 * |
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