JPWO2010103852A1 - 熱伝導性材料及びその製造方法並びに大電流用インダクタ - Google Patents
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Abstract
熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有する。
Description
本発明は、熱硬化性樹脂バインダーに熱伝導性フィラーを混合した熱伝導性材料及びその製造方法並びに熱伝導性材料を利用した大電流用インダクタに関する。
一般に、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車等には、大電流を流すことができる大電流用インダクタを搭載しており、このような大電流用インダクタとしては特許文献1で開示されるリアクトル装置が知られている。ところで、この種の大電流用インダクタ(リアクトル装置)は、鉄心とこの鉄心に巻回したコイルをパッケージに収容し、さらに、ポッティング材を充填して保護するため、特に、ポッティング材には大電流が流れるコイルからの発熱を外部に逃がすための十分な熱伝導性及び放熱性が要求される。
このため、従来より、バインダーに熱伝導性フィラーを混合し、電気部品の発熱を効率的に伝導及び放熱させるための熱伝導性材料も知られており、特許文献2には、流動性を有するゴムに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導シートであって、熱伝導フィラーとして、平均粒径50〜100μmのものと平均粒径10μm以下のものとを、重量比1:1〜3:1の割合で混合した熱伝導シートが開示され、また、特許文献3には、40〜100℃に融点を有するワックス及び/又はパラフィン、40〜100℃で軟化する熱可塑性樹脂、球形度0.78以上で且つ平均粒径が3μm以上の球状アルミナを混合してなる高熱伝導性組成物が開示されている。
しかし、上述したバインダーに熱伝導性フィラーを混合する従来の熱伝導性材料は、次のような問題点があった。
第一に、電子部品(電気部品)の表面とヒートシンク間に介在させて使用するなど、熱伝導性材料の使用方法や用途が特化される傾向があるため、他の電子部品等に適用した場合、必ずしもベストマッチングにならない難点がある。例えば、大電流用インダクタのように、微小隙間が多い部品の場合には、未充填の隙間が生じる虞れもあり、この場合には熱伝導効率及び放熱効率の低下を招いてしまう。
第二に、微小隙間への充填性を高めるため、熱伝導性材料に流動性を持たせた場合、バインダーと熱伝導性フィラーを混合撹拌する際にシェアをかけにくくなる。即ち、混練しにくくなるため、バインダーに対して熱伝導性フィラーを高密度で混合させ、かつ均一分散させることが難しくなる。結局、この場合も熱伝導効率及び放熱効率の低下を招くとともに、熱伝導性材料自身の品質(均質化)低下を招きやすい。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した熱伝導性材料及びその製造方法並びに大電流用インダクタの提供を目的とするものである。
本発明に係る熱伝導性材料Riは、上述した課題を解決するため、熱硬化性樹脂バインダーに熱伝導性フィラーを混合した熱伝導性材料において、熱硬化性樹脂バインダーに、熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有することを特徴とする。
また、本発明に係る熱伝導性材料の製造方法は、熱硬化性樹脂バインダーに熱伝導性フィラーを配合して熱伝導性材料Riを製造するに際し、熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーを混合し、撹拌することにより熱伝導性フィラーを均一分散させ、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を得るようにしたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る大電流用インダクタ1は、縦形の平角導線を巻回した一又は二以上のコイル2と、このコイル2に装填するコア3と、このコア3を装填したコイル2を収容し、かつ熱伝導性素材により形成したパッケージ4とを備えるインダクタにおいて、熱硬化性樹脂バインダーに、熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有する熱伝導性材料Riを、パッケージ4の内部にポッティング材5として充填してなることを特徴とする。
一方、本発明は、その好適な態様により、熱伝導性材料Riにおける熱硬化性樹脂バインダーには、少なくとも、粘度を0.01〜1〔Pa・s〕の範囲で選定したエポキシ系樹脂を含ませることができる。なお、この熱硬化性樹脂バインダーには、一液を用いる樹脂バインダー又は少なくとも主剤と硬化剤を含む二液以上を用いる樹脂バインダーを含ませることができる。また、熱伝導性フィラーには、電気絶縁性を持たせることができる。したがって、この熱伝導性フィラーには、少なくとも、酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,の一つ又は二つ以上を用いた単一材又は複合材を含ませることができるとともに、単一の粒径又は複数の異なる粒径を含ませることができる。他方、大電流用インダクタ1におけるコイル2には、シート材により連続形成したコイルパターンプレートAsを順次折り畳んで製作したコイルを用いることができる。また、コイル2,コア3,パッケージ4、の一又は二以上の表面の一部又は全部には、少なくとも樹脂バインダーに、当該樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、100〜600〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、絶縁破壊強さが14〔kV/mm〕(ただし、10〔kHz〕,遮断電流10〔mA〕)以上、かつ粘度が0.05〜3〔Pa・s〕となる組成を有する放熱性絶縁材料Rcを、コーティング剤6としてコーティングすることができる。なお、この樹脂バインダーには、シリコーン系樹脂バインダーを用いることが望ましい。
このような本発明に係る熱伝導性材料Ri及びその製造方法並びに大電流用インダクタ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) 熱伝導性材料Riは、熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有するため、例えば、微小隙間が多い部品の場合であっても未充填の隙間が生じる虞れがなく、熱伝導効率及び放熱効率の向上を図ることができるとともに、汎用性を高めることができ、加えて熱伝導性材料Riの品質(均質化)向上にも寄与できる。
(2) 大電流用インダクタ1は、縦形の平角導線を巻回した一又は二以上のコイル2と、このコイル2に装填するコア3と、このコア3を装填したコイル2を収容し、かつ熱伝導性素材により形成したパッケージ4とを備え、このパッケージ4の内部に熱伝導性材料Riをポッティング材5として充填したため、コイル2(コア3)とパッケージ4間の熱伝導性能をより高めることができるとともに、コイル2に対する保護性能及び大電流用インダクタ1の耐久性をより高めることができる。
(3) 好適な態様により、熱硬化性樹脂バインダーに、少なくとも、粘度を0.01〜1〔Pa・s〕の範囲で選定したエポキシ系樹脂を用いれば、低粘度のエポキシ系樹脂に熱伝導性フィラーを混合させるため、熱伝導性フィラーの均一分散をより最適化させることができる。
(4) 好適な態様により、熱伝導性フィラーに、電気絶縁性を持たせれば、電子部品(電気部品)にとって、より望ましいコーティング剤或いはポッティング材を得ることができる。
(5) 好適な態様により、熱伝導性フィラーに、少なくとも、酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,の一つ又は二つ以上を含む単一材又は複合材を用いれば、良好な熱伝導性及び放熱性を確保する観点から、より大きなパフォーマンスを得ることができる。
(6) 好適な態様により、複数の異なる粒径を有する熱伝導性フィラーを用いれば、熱硬化性樹脂バインダーに対して熱伝導性フィラーを高密度で均一分散させるに際し、異なる粒径の混在により、熱伝導性(放熱性)を高める観点から、より最適化を図ることができる。
(7) 好適な態様により、熱硬化性樹脂バインダーに、一液を用いる樹脂バインダー又は少なくとも主剤と硬化剤を含む二液以上を用いる樹脂バインダーを含ませれば、熱伝導性材料Riを製造するに際し、製造時の反応性及び取扱性等をより柔軟化させることができる。
(8) 好適な態様により、大電流用インダクタ1のコイル2に、シート材により連続形成したコイルパターンプレートAsを順次折り畳んで製作したコイルを用いれば、製造プロセスの簡易化及び単純化、更には、これに伴う製造工数の削減を図れるため、大電流用インダクタ1に係わる量産性の向上及び低コスト性の向上を実現できる。また、コイル2の角部を直角にできるため、大電流用インダクタ1の更なる偏平化により熱伝導性及び熱放射性をより高めることができる。
(9) 好適な態様により、樹脂バインダーに、当該樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、100〜600〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、絶縁破壊強さが14〔kV/mm〕(ただし、10〔kHz〕,遮断電流10〔mA〕)以上、かつ粘度が0.05〜3〔Pa・s〕となる組成を有する放熱性絶縁材料Rcを、コイル2,コア3,パッケージ4、の一又は二以上の表面の一部又は全部にコーティング剤6としてコーティングすれば、コイル2,コア3及びパッケージ4に対して、所定の厚さを有する放熱性絶縁材料Rcのコーティング層を容易かつ確実に設けることができるとともに、コイル2,コア3及びパッケージ4自身の熱伝導性及び放熱性をより高めることができる。この際、樹脂バインダーに、シリコーン系樹脂バインダーを用いれば、コイル2,コア3及びパッケージ4自身の熱伝導性及び放熱性を高める観点からより望ましいパフォーマンスを得ることができる。
1:大電流用インダクタ,2:コイル,3:コア,4:パッケージ,5:ポッティング材,6:コーティング剤,Ri:熱伝導性材料,Rc:放熱性絶縁材料,As:コイルパターンプレート
次に、本発明に係る最良実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
最初に、本実施形態に係る熱伝導性材料Ri及びその製造方法について、図1に示す製造工程図,図6を参照して説明する。
熱伝導性材料Riは、基本的に、熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散した組成を有している。したがって、熱伝導性材料Riを製造するに際しては、原料となる熱硬化性樹脂バインダー,分散剤及び熱伝導性フィラーを用意する。
熱硬化性樹脂バインダーには、有機材料となる耐熱性の比較的高いエポキシ樹脂、特に、主剤と硬化剤(二液混合の加熱硬化型)からなるエポキシ樹脂を使用する。なお、硬化剤には、酸無水物,ポリアミン,イミダゾール等の各種硬化剤を用いることができる。このような主剤と硬化剤からなるエポキシ樹脂を用いれば、熱伝導性材料Riを製造するに際し、製造時の反応性及び取扱性等をより柔軟化させることができる。主剤及び硬化剤は、いずれも粘度を0.01〜1〔Pa・s〕の範囲で選定した低粘度のエポキシ樹脂を使用する。これにより、比較的低粘度のエポキシ樹脂に対して後述する熱伝導性フィラーを混合させることができるため、熱伝導性フィラーの均一分散をより最適化させることができる。図6は、温度〔℃〕と原料(主剤と硬化剤)の粘度〔Pa・s〕の関係を示しており、同図中、Mimが本実施形態で用いる主剤(エポキシ樹脂)の特性、Mihが本実施形態で用いる硬化剤の特性を示す。なお、図6中、MamとMahは市販されている一般的な主剤(エポキシ樹脂)と硬化剤の特性、MbmとMbhは市販されている他の一般的な主剤(エポキシ樹脂)と硬化剤の特性であり、それぞれ比較例として示す。いずれも大電流用インダクタのポッティング材に用いる熱伝導性材料としては十分といえない。なお、熱硬化性樹脂バインダーとしては、エポキシ樹脂が望ましいが、その他、耐熱性が必要な場合には、シリコーン系樹脂が使用可能であるとともに、耐熱性を必要としない場合には、ウレタン系樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキド樹脂,熱硬化性ポリイミド樹脂なども使用可能である。
分散剤は、主剤又は硬化剤の100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定する。この場合、分散剤には公知の各種分散剤を使用することが可能であり、特定の分散剤には限定されない。主剤又は硬化剤に対して適量の分散剤を配合すれば、主剤又は硬化剤に後述する高密度の熱伝導性フィラーを混合した場合であっても良好な分散性を実現することが可能となり、主剤又は硬化剤に対する熱伝導性フィラーの高密度化をより均一化することができる。
熱伝導性フィラーには、酸化マグネシウムの単一材を使用する。酸化マグネシウムは、コストメリットに優れるとともに、熱伝導性が高く、電気絶縁性を有している。電気絶縁性を持たせることにより、電子部品(電気部品)にとって、より望ましいコーティング剤或いはポッティング材を得ることができる。また、熱伝導性フィラーとして用いる酸化マグネシウム粒子は、主剤又は硬化剤の100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲で選定する。さらに、酸化マグネシウム粒子の粒径は、0.1〜100〔μm〕の範囲で選定し、特に、複数の異なる粒径を含ませることが望ましい。本実施形態では、5〜100〔μm〕程度の大粒フィラー、0.5〜20〔μm〕程度の中粒フィラー、0.1〜10〔μm〕程度の小粒フィラーを混在させた。勿論、粒径が0.1〜100〔μm〕の範囲であれば、単一の粒径であってもよい。その他、酸化マグネシウム粒子の代わりとしては、窒化アルミニウム粒子又は窒化ホウ素粒子の単一材、或いは酸化アルミニウム粒子又は酸化ケイ素粒子を用いてもよいし、酸化マグネシウム粒子,窒化アルミニウム粒子,窒化ホウ素粒子,酸化アルミニウム粒子,酸化ケイ素粒子の二つ以上を含む複合材を用いてもよい。このように、熱伝導性フィラーに、少なくとも、酸化マグネシウム,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,酸化アルミニウム,酸化ケイ素の一つ又は二つ以上を含む単一材又は複合材を用いれば、良好な熱伝導性及び放熱性を確保する観点から、より大きなパフォーマンスを得ることができるとともに、複数の異なる粒径を有するフィラーを選定すれば、バインダーとなる主剤又は硬化剤に対して各フィラーを高密度で均一分散させるに際し、異なる粒径の混在により、熱伝導性(放熱性)を高める観点からより最適化させることができる。なお、熱伝導性フィラーは、用途によって、電気絶縁性及び熱伝導性が確保される窒化ケイ素,酸化チタン,酸化ジルコニウム,酸化スズ,酸化亜鉛,炭化ケイ素等の他の各種セラミックス粒子も使用可能である。
次に、具体的な製造手順について説明する。まず、主剤と硬化剤を混合するに先だち、予め主剤溶液と硬化剤溶液を別々に製造する。主剤溶液の製造に際しては、最初に、用意した主剤(エポキシ樹脂)に対して、用意した分散剤を配合する(工程S1,S2)。次いで、用意した酸化マグネシウム粒子(熱伝導性フィラー)を混合する(工程S2,S3)。そして、得られた混合溶液は、撹拌装置により十分に撹拌するとともに、脱泡装置により十分な脱泡を行う(工程S4)。これにより、エポキシ樹脂(主剤)に対して高密度の酸化マグネシウム粒子が均一分散する主剤溶液を得ることができる(工程S5)。同様に、硬化剤溶液の製造に際しては、最初に、用意した硬化剤に対して、用意した分散剤を配合する(工程S6,S7)。次いで、用意した酸化マグネシウム粒子を混合する(工程S7,S8)。そして、得られた混合溶液は、撹拌装置により十分に撹拌するとともに、脱泡装置により十分な脱泡を行う(工程S9)。これにより、硬化剤に対して高密度の酸化マグネシウム粒子が均一分散する硬化剤溶液を得ることができる(工程S10)。
次いで、得られた主剤溶液と硬化剤溶液を適度に撹拌しながら混合する(工程S5,S10,S11)。これにより、全体の粘度が0.2〜100〔Pa・s〕となる目的の熱伝導性材料Riを得ることができる(工程S12)。粘度が0.2〜100〔Pa・s〕となる熱伝導性材料Riは、後述する大電流用インダクタ1のポッティング材5として最適であり、本実施形態に係る熱伝導性材料Riでは、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上となる4.12〔W/(m・K)〕を確保し、また、絶縁破壊強さが7〔kV/mm〕(ただし、10〔kHz〕,遮断電流10〔mA〕)を確保するなど、最適な粘性に加え、ポッティング材5として十分な熱伝導性及び電気絶縁性を確保できた。なお、主剤溶液と硬化剤溶液を混合する工程(S12)は、実際に使用する直前、即ち、大電流用インダクタ1のポッティング材5として使用する場合には、パッケージ4(ケース部4p)に注入(充填)する直前に行う。
このように、本実施形態に係る熱伝導性材料Ri及びその製造方法によれば、熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有するため、例えば、微小隙間が多い部品の場合であっても未充填の隙間が生じる虞れがなく、熱伝導効率及び放熱効率の向上を図ることができるとともに、汎用性を高めることができ、加えて熱伝導性材料Riの品質(均質化)向上にも寄与できる。
次に、このような熱伝導性材料Riを用いて好適な本実施形態に係る大電流用インダクタ1について、図3〜図5を参照して説明する。
大電流用インダクタ1には、熱伝導性材料Riをポッティング材5として使用するため、最初に、ポッティング材5を使用する対象となる大電流用インダクタの中間アッセンブリ1mの製造方法について、図4を参照して説明する。
まず、主要部品となる、コイル2,コア3及びパッケージ4をそれぞれ製作する。コイル2の製作に際しては、厚さが0.5〜1.0〔mm〕程度、幅がコイル2の設計仕様に対応した寸法の銅素材によるフープ母材を用意する。そして、このフープ母材を所定のコイル製造機に供給する。コイル製造機では、プレス工程によりフープ母材の打ち抜き処理を行い、図3に示すようなシート材により連続形成したコイルパターンプレートAsを得る。このコイルパターンプレートAsは、1ターン分を構成するコイルパターン部2pc…及びコイルパターン部2pc…同士を連結する連結パターン部2jx,2jy…を有する。この連結パターン部2jx,2jy…は、コイルパターン部2pc…から突出する長さ(オフセット長)の異なる二種類の連結パターン部2jx,2jy…を有し、順次交互に設ける。なお、例示するコイルパターン部2pc…の幅(最大部位)は10〔mm〕である。このコイルパターンプレートAsは、全ての角部(コーナー部)に所定の曲率によるアール形成を行うとともに、全てのエッジ部に対してバリを生じさせないバリフリー処理を行う。これらのアール形成及びバリフリー処理は、プレス工程と同時又はプレス工程の後工程で行うことができる。このようなアール形成及びバリフリー処理を行うことにより、後述するコーティング剤を均一にコーティングできる。
次いで、折畳工程によりコイルパターンプレートAsを順次折り畳む折り畳み処理を行う。この場合、連結パターン部2jx,2jy…における二位置、即ち、図3に示す連結パターン部2jx,2jy…の端部位置K1…と中間部位置K2…をそれぞれ反対方向に折り返す。これにより、コイルパターン部2pc…は順次積層された状態となり、図4及び図5に示すコイル2を製作できる。この際、二種類の連結パターン部2jx,2jy,2jx,2jy…は、軸方向から見て相互にオフセットした位置に配されることになり、両者の重なりが回避される。したがって、各連結パターン部2jx…と2jy…の軸方向における積層時の厚さを1/2にできる。このようなコイル2を用いれば、製造プロセスの簡易化及び単純化、更には、これに伴う製造工数の削減を図れるため、大電流用インダクタ1に係わる量産性の向上及び低コスト性の向上を実現できる。特に、コイルパターンプレートAsを順次折り返して製作できるため、任意の折り返し間で得られるコイルを製造する際の巻数は1ターン(360〔゜〕)となり巻効率を高めることができるとともに、フープ母材を打ち抜く際の形状が一方向に整列するため、コイル製造機(製造工程)を単純化し、製造コストの低減及び製造精度の向上を図ることができる。また、コイル2の角部を直角にできるため、大電流用インダクタ1の更なる偏平化により、熱伝導性及び熱放射性をより高めることができる。加えて、コイル2を製造する際におけるコイル2自身の内部には折り返し部分が存在しないため、磁気回路としての磁気効率を高めることができるとともに、小型コンパクト化(薄型化)を図る上で有利になる。しかも、コイル部2の全体形状を任意の形状に選定できるなど、設計自由度を飛躍的に高めることができる。そして、得られたコイル2に対しては、放熱性絶縁材料Rcを用いたコーティング剤によりコーティング処理を行う。
次に、コーティング剤となる放熱性絶縁材料Rcの製造方法及びコイル2に対するコーティング方法について、図2に示す製造工程図,図7及び図8を参照して説明する。
まず、放熱性絶縁材料Rcの製造方法について説明する。この放熱性絶縁材料Rcも、基本的には、前述した熱伝導性材料Riと同様の組成構造を有しており、シリコーン樹脂バインダーに、当該シリコーン樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、シリコーン樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、100〜600〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散する組成を有する。したがって、放熱性絶縁材料Rcの製造に際しては、原料として、シリコーン樹脂バインダー,分散剤,希釈溶剤及び熱伝導性フィラーを用意する。
シリコーン樹脂バインダーには、有機材料となる耐熱性の比較的高い低粘度のシリコーン樹脂を使用する。低粘度のシリコーン樹脂を用いれば、後述する熱伝導性フィラーを混合させる際に、熱伝導性フィラーの均一分散をより最適化させることができる。バインダーとしてはシリコーン樹脂が望ましいが、その他、シリコーン樹脂の代わりとしては、耐熱性が必要な場合、エポキシ系樹脂も使用可能であるとともに、耐熱性が必要でない場合には、ウレタン系樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキド樹脂,熱硬化性ポリイミド樹脂なども使用可能である。
分散剤及び希釈溶剤は、公知の各種分散剤及び公知の各種希釈溶剤を使用することが可能であり、特定の分散剤及び希釈溶剤には限定されない。この場合、分散剤は、シリコーン樹脂(熱硬化性樹脂バインダー)の100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定するとともに、希釈溶剤は粘度の調製に用いる。したがって、粘度の調製が不要のときは、希釈溶剤も不要となり、この希釈溶剤は必要に応じて用いればよい。このように、シリコーン樹脂に対して適量の分散剤を配合すれば、シリコーン樹脂に後述する高密度の熱伝導性フィラーを混合した場合であっても良好な分散性を実現することが可能となり、シリコーン樹脂に対する熱伝導性フィラーの高密度化をより均一化することができる。
熱伝導性フィラーには、酸化マグネシウムの単一材と電気絶縁性の高い酸化ケイ素(シリカ)粒子を組合わせて使用する。酸化マグネシウムは、コストメリットに優れるとともに、熱伝導性が高く、電気絶縁性も有している。熱伝導性フィラーとして用いる酸化マグネシウム粒子は、粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定するとともに、酸化ケイ素粒子の粒径には複数の異なる粒径を含ませることが望ましい。本実施形態では、1〜20〔μm〕程度の中粒フィラーと0.1〜10〔μm〕程度の小粒フィラーの混合材(複合材)を使用した。そして、シリコーン樹脂の100〔wt%〕に対して、酸化マグネシウム粒子と酸化ケイ素粒子の全体を100〜600〔wt%〕の範囲で選定、望ましくは195〔wt%〕前後で選定する。勿論、粒径が0.1〜20〔μm〕の範囲であれば、単一の粒径であってもよい。なお、熱伝導性フィラーは酸化マグネシウム粒子と酸化ケイ素粒子の複合材を用いたが、この熱伝導性フィラーは酸化マグネシウム粒子又は酸化ケイ素粒子のいずれか一方のみで構成してもよい。その他、酸化マグネシウム粒子又は酸化ケイ素粒子の代わりとしては、窒化アルミニウム粒子,窒化ホウ素粒子,酸化アルミニウム粒子の単一材を用いてもよいし、酸化マグネシウム粒子,窒化アルミニウム粒子,窒化ホウ素粒子,酸化ケイ素粒子,酸化アルミニウムの二つ以上を含む複合材を用いてもよい。このように、熱伝導性フィラーに、少なくとも、酸化マグネシウム,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,酸化ケイ素粒子,酸化アルミニウム粒子の一つ又は二つ以上を含む単一材又は複合材を用いれば、良好な熱伝導性及び放熱性を確保する観点から、より大きなパフォーマンスを得ることができるとともに、酸化ケイ素粒子のように複数の異なる粒径を有するフィラーを選定すれば、バインダーとなるシリコーン樹脂に対して各フィラーを高密度で均一分散させるに際し、異なる粒径の混在により、熱伝導性(放熱性)を高める観点からより最適化させることができる。なお、熱伝導性フィラーは、用途によって、電気絶縁性及び熱伝導性が確保される窒化ケイ素,酸化チタン,酸化ジルコニウム,酸化スズ,酸化亜鉛,炭化ケイ素等の他の各種セラミックス粒子も使用可能である。
次に、具体的な製造手順について説明する。まず、用意したシリコーン樹脂(熱硬化性樹脂バインダー)に対して、用意した分散剤,希釈溶剤,酸化マグネシウム粒子及び酸化ケイ素粒子を配合(混合)する(工程S21,S22,S23,S24,S25)。そして、撹拌装置により十分に撹拌する(工程S26)。この際、熱伝導性フィラーとは著しく比重の異なるビーズを被撹拌材料に添加し、遊星撹拌のような均一分散可能な撹拌手法を用いて、酸化マグネシウム粒子及び酸化ケイ素粒子の均一分散を行うことが望ましい。また、全体の粘度は、希釈溶剤を適量配合し、1〔Pa・s〕程度に調製するとともに、撹拌時に発生する気泡に対しては、脱泡装置により十分な脱泡を行う(工程S27)。これにより、シリコーン樹脂に対して酸化マグネシウム粒子及び酸化ケイ素粒子が均一分散する高密度構造の放熱性絶縁材料Rcを得ることができる(工程S28)。
表1に、得られた放熱性絶縁材料Rcの特性(性能)を示す。なお、比較例として同様の用途の耐熱性絶縁コーティング剤として一般に市販されているポリアミドイミド樹脂を用いた放熱性絶縁材料Rrの特性(性能)を示した。
図7は、得られた放熱性絶縁材料Rcと比較例として同様の用途の耐熱性絶縁コーティング剤として一般に市販されているポリアミドイミド樹脂を用いた放熱性絶縁材料Rrの加熱時間〔H〕(250〔℃〕)に対する質量減少率〔%〕の特性を示すとともに、図8は、得られた放熱性絶縁材料Rcと比較例としての放熱性絶縁材料Rrの加熱時間〔H〕(200〔℃〕)に対する絶縁破壊強さ〔kV/mm〕の特性を示す。表1,図7及び図8から明らかなように、本実施形態に係る放熱性絶縁材料Rcは、大電流用インダクタのコイル2,コア3,パッケージ4にとって十分となる熱伝導率1.30〔W/(m・K)〕以上を確保しているとともに、絶縁破壊強さも十分となる14〔kV/mm〕(10〔kHz,遮断電流10〔mA〕)以上を確保している。また、耐熱性の評価となる質量減少率も1000時間において−3〔%〕以内を確保している。さらに、熱安定性評価(ヒートサイクル試験)において3000回(−30〜200〔℃〕)後でも剥離やクラックは見られなかった。
次に、この放熱性絶縁材料Rcをコーティング剤6として使用し、上述したコイル2の表面2f…をコーティング処理するコーティング方法について説明する。
コーティング処理は、放熱性絶縁材料Rcを収容したディップ槽に、コイル2をディップするディップコート処理により行う(工程S29)。この場合、コイル2の両端におけるリード部をチャック等により把持し、コイル2の各導体ターン部2m…間に隙間を空けた状態でディップを行う。ディップコート処理では、ディップ槽からの引き上げ速度によりコーティング層の厚さが決まるため、予め、引き上げ速度を設定する。引き上げ速度としては、コーティング層の厚さが60〜80〔μm〕程度となるように、0.1〜2.0〔mm/s〕の範囲で設定することができる。コーティング処理には、その他、スプレーコーティング処理や電着塗装処理等の各種コーティング処理を用いることができる。
この後、放熱性絶縁材料Rcをコーティングしたコイル2に対する焼成処理を行う。焼成処理は、焼成温度を200〔℃〕、焼成時間を15〔min〕に設定した環境下で行う。これにより、コイル2の表面に、60〜80〔μm〕の厚さを有するコーティング層を設けたコイル2を得ることができる。このようなディップコート処理及び焼成処理を行うことにより、コイル2に対する放熱性絶縁材料Rcのコーティング、更にはコイル2におけるコーティング層の成膜を容易かつ確実に行うことができるとともに、特に、シート材により連続形成したコイルパターンプレートAsを順次折り畳んで製作したコイル2のような塗布しにくい形状部分を有するコイルであっても容易かつ均質なコーティングを行うことができる。
他方、コア3は、全体をドーナツ状に製作する。この場合、コア3は珪素鋼板を積層した積層コアを用いるが、一体に焼成したアモルファス等を用いた焼結コアであってもよい。コア3は、コイル2を装着できるように、複数(例示は二つ)のコア分割部3a,3bの組合わせにより構成する。そして、コア3(コア分割部3a,3b)もコイル2と同様に、放熱性絶縁材料Rcを収容したディップ槽を用いてディップコート処理を行う(工程S30)。この場合、基本的には、上述したコイル2のコーティング処理と同様に、コーティング層の厚さが60〜80〔μm〕程度となるようにコーティング処理を行うとともに、この後、コア3の表面に対する焼成処理を行う。
また、パッケージ4は、コイル2を収容可能な上方に開口したケース部4pと、このケース部4pの開口を覆うカバー部4cを備える。ケース部4pとカバー部4cは、熱伝導性素材、例えば、アルミニウム素材等により、それぞれ一体成形する。さらに、得られたケース部4pとカバー部4cに対して、放熱性絶縁材料Rcによるコーティング処理を行う(工程S31)。この場合、放熱性絶縁材料Rcを収容したディップ槽に、ケース部4p及びカバー部4cをディップするディップコート処理を行う。ディップコート処理は、基本的に上述したコア分割部3a…のコーティング処理と同様に、コーティング層の厚さが60〜80〔μm〕程度となるようにコーティング処理を行うとともに、この後、コーティングしたケース部4p及びカバー部4cに対する焼成処理を行う。よって、これらの処理工程を経て、ケース部4p及びカバー部4c(パッケージ4)の表面4fに所定の厚さを有するコーティング層を設けたパッケージ4を得ることができる。
そして、これらのコイル2,コア3,パッケージ4が得られたなら中間組立を行う(工程S32)。まず、コイル2にコア分割部3a,3bを組付けることによりコイルアッセンブリを製作する。この場合、コイル2には一対のコイル部21,22を使用し、各コア分割部3a,3bを、コイル部21,22の内部空間にそれぞれ収容するとともに、各コア分割部3a,3bの相互間に、厚さ1〔mm〕程度のガラスエポキシ樹脂製のセパレータシートを介在させ、接着剤を用いて各コア分割部3a,3bの相互間を結合する。これにより、コア3を装着したコイル2、即ち、図4に示すようなコイルアッセンブリが得られる。また、コイル部21,22の一端同士は、中間リード18mにより接続するとともに、コイル部21,22の他端には、それぞれ導出リード18p,18nの端部を接続する。さらに、得られたコイルアッセンブリは、同図に示すように、ケース部4pの内部に収容する。この際、例えば、シリコンゴム等を用いた複数の保持部材17…をケース部4pの内部底面上に敷き、この上にコイルアッセンブリ(コイル2)を載せる。なお、必要によりケース部4pの内壁部とコイル2間にも同様の保持部材17…を介在させてもよい。これにより、大電流用インダクタ1の中間アッセンブリ1mを得ることができる(工程S33,S13)。
次いで、ケース部4pの内部に、前述した熱伝導性材料Riをポッティング材5として充填(注入)する(工程S14)。そして、熱伝導性材料Riに使用したエポキシ樹脂の硬化温度に対応する温度で加熱することによりポッティング材5に対する硬化処理を行う(工程S15)。また、この際、脱泡装置により十分な脱泡を行う(工程S16)。ポッティング材5に対する硬化処理が終了したなら最終組立を行う(工程S17)。この場合、ケース部4pの上にカバー部4cを載せ、複数の固定ネジ16…により固定する。15…は固定ネジ16…が螺着するケース部4p側のネジ孔である。さらに、導出リード18p,18nの先端側は、図5に示すように、カバー4cに設けた開口部から外部に導出する。以上の製造工程を経て、図5に示す目的の大電流用インダクタ1を得ることができる(工程S18)。
図9は、得られた大電流用インダクタ1に通電した際における作動時間〔分〕に対する各部の上昇温度特性を示す。Tciは本実施形態におけるコイル2の表面温度、Tcrは比較例におけるコイル2の表面温度、Tbiは本実施形態におけるコア3の表面温度、Tbrは比較例におけるコア3の表面温度、Tpiは本実施形態におけるパッケージ4の表面温度、Tprは比較例におけるパッケージ4の表面温度をそれぞれ示す。この場合、本実施形態は、熱伝導性材料Ri及び放熱性絶縁材料Rcを使用したインダクタ1であり、比較例は、熱伝導性材料Rb及び放熱性絶縁材料Rrを使用したインダクタである。図9に示すように、コイル2の表面温度に着目した場合、本実施形態では120〔℃〕程度、比較例では150〔℃〕程度となり、本実施形態では比較例に対して30〔℃〕程度低下する改善効果が認められる。また、パッケージ4の表面温度に着目した場合、本実施形態では75〔℃〕程度、比較例では85〔℃〕程度となり、本実施形態では概ね10〔℃〕程度低下する改善効果が認められる。このように、本実施形態に係る大電流用インダクタ1は良好な熱伝導性及び熱放射性を有している。
よって、このような本実施形態に係る大電流用インダクタ1によれば、縦形の平角導線を巻回した一又は二以上のコイル2と、このコイル2に装填するコア3と、このコア3を装填したコイル2を収容し、かつ熱伝導性素材により形成したパッケージ4とを備え、このパッケージ4の内部に熱伝導性材料Riをポッティング材5として充填するようにしたため、コイル2(コア3)とパッケージ4間の熱伝導性能をより高めることができるとともに、コイル2に対する保護性能及び大電流用インダクタ1の耐久性をより高めることができる。また、コイル2,コア3,パッケージ4、の一又は二以上の表面の一部又は全部に放熱性絶縁材料Rcをコーティング剤6としてコーティングするとともに、この放熱性絶縁材料Rcは、シリコーン樹脂バインダーに、当該シリコーン樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、シリコーン樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、100〜600〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、絶縁破壊強さが14〔kV/mm〕以上、かつ粘度が0.05〜3〔Pa・s〕となる組成を有するため、コイル2,コア3及びパッケージ4に対して、所定の厚さを有する放熱性絶縁材料Rcのコーティング層を容易かつ確実に設けることができるとともに、コイル2,コア3及びパッケージ4自身の熱伝導性及び放熱性をより高めることができる。
次に、本発明の変更実施形態に係る熱伝導性材料Riの実施例について、図10〜図14を参照して説明する。
変更実施形態に係る熱伝導性材料Riは、特に、熱伝導性フィラーを変更したものである。即ち、前述した実施形態(基本実施形態)では、熱伝導性フィラーとして、酸化マグネシウムの単一材を用いた例を示したが、変更実施形態は、酸化アルミニウム(アルミナ)と酸化マグネシウム(マグネシア)の複合材を用いたものであり、三つの試料X,Y,Zを用いた。表2に、各試料X,Y,Zにおけるアルミナとマグネシアの配合比を示す。
一方、図10には、熱硬化性樹脂バインダーに対する各試料X,Y,Z(熱伝導性フィラー)の配合率〔%〕に対する熱伝導率〔W/(m・K)〕の変化特性を示す。図10から明らかなように、マグネシアに対してアルミナの配合比を高くしたほうが熱伝導率が高くなる傾向がある。即ち、試料X,Y,Zの順に熱伝導率が高くなる。また、マグネシアとアルミナの配合比を一定とした場合、熱硬化性樹脂バインダーに対する各試料X,Y,Zの配合率を高くしたほうが熱伝導率が高くなる傾向がある。
変更実施形態に係る熱伝導性材料Riは、熱伝導性フィラーを変更した点を除き、他の原料は前述した基本実施形態の場合と同じである。即ち、熱硬化性樹脂バインダーとしてエポキシ樹脂(エポキシ樹脂+硬化剤)を用いるとともに、この熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤、更には、熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって、粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーを用いる。熱伝導性フィラーの粒径は、5〜100〔μm〕程度の大粒フィラー、0.5〜20〔μm〕程度の中粒フィラー、0.1〜10〔μm〕程度の小粒フィラーを混在させる。表3に、変更実施形態(実施例)で用いる各原料及び配合率を示す。
したがって、変更実施形態に係る熱伝導性材料Riの製造方法も、基本的には前述した基本実施形態の場合と同じになり、図1に示した製造工程図の一部を抽出した図11に示す製造工程図のように、ステップ3及びステップ8を、「酸化マグネシウム粒子」から「アルミナ粒子+マグネシア粒子」に変更すればよい。それ以外の工程は、図1に示した製造工程図と同じになる。
図12〜図14は、製造した変更実施形態に係る熱伝導性材料Riの各種特性を示し、図12は熱伝導性材料Riの温度対粘度特性図、図13は熱伝導性材料Riの評価試験結果表、図14は熱伝導性材料Riを大電流用インダクタに用いた際の作動時間に対する上昇温度特性図である。
熱伝導性材料Riとしては、二つの実施例OP1及びOP2を用いた。実施例OP1は、熱伝導性フィラーとして、試料Yを使用するとともに、熱硬化性樹脂バインダーに対するフィラー配合率を91.2〔wt%〕とし、実施例OP2は、熱伝導性フィラーとして、試料Zを使用するとともに、熱硬化性樹脂バインダーに対するフィラー配合率を93.3〔wt%〕としたものである。また、比較例として代表的な三つの市販品TR1,TR2及びTR3を用いた。
なお、評価試験(図13)において、作業性は、粘度と脱泡性により評価し、熱的特性は、熱伝導率,ガラス転移温度及び耐熱衝撃性により評価し、電気的特性は、体積抵抗率と絶縁破壊強さにより評価した。この場合、脱泡性の評価は、パッケージ4に、25〔ミリリットル〕の熱伝導性材料Riをポッティング後、圧力50〔hPa〕,温度70〔℃〕の条件により気泡が抜けるまでの時間を用いた。ガラス転移温度は、150〔℃〕以上の温度であり、耐熱性を評価した。耐熱衝撃性の評価は、熱膨張率の異なる板材料(シリコーンゴム,Cu,Fe,Al,アルマイト,アラミド紙)を熱伝導性材料Riと一緒にポッティングし、150〔℃〕に加熱した後、3〔℃〕の水に入れる熱衝撃処理を5回繰り返した。そして、熱伝導性材料Riと板材料の界面状態を観察することにより剥離及びクラックの有無を確認し、剥離及びクラックが無ければ「○」、有れば「×」として評価した。絶縁破壊強さの評価は、車載用インダクタとして使用される周波数に近い10〔kHz〕により評価するとともに、遮断電流は10〔mA〕を用いた。
変更実施形態に係る熱伝導性材料Riの特性(評価)において、実施例OP1は、図12に示すように、25〔℃〕の粘度が58〔Pa・s〕と非常に低く、常温でも十分に注型が可能となるなど、良好な粘度特性を示すとともに、脱泡性も6.5〔分〕となり、作業性については良好な結果を得た。また、熱伝導率も6.2〔W/(m・K)〕となり、高い値を示すとともに、耐熱衝撃性についても全ての板材料に対して「○」となった。さらに、実施例OP1の熱伝導性材料Riを大電流用インダクタに用いた際の作動時間に対する上昇温度特性は、図14に示すようになり、市販品TR2に対しても良好な結果を得た。なお、図14において、OP1cは実施例PO1を用いた際のコイル2の表面温度、TR2cは市販品TR2を用いた際のコイル2の表面温度、OP1bは実施例PO1を用いた際のコア3の表面温度、TR2bは市販品TR2を用いた際のコア3の表面温度、OP1pは実施例PO1を用いた際のパッケージ4の表面温度、TR2pは市販品TR2を用いた際のパッケージ4の表面温度をそれぞれ示す。このように、実施例OP1は、特に、熱伝導率と作業性のバランスが求められる用途に最適である。
一方、実施例OP2は、25〔℃〕の粘度が高いが、60〔℃〕まで加熱することにより、粘度は56〔Pa・s〕まで低下し、注型が可能となった。また、脱泡性は、実施例OP1よりも長くなるものの、30〔分〕で脱泡が完了した。実施例OP2は、実施例OP1に対して、作業性については劣るものの、熱伝導率は、8.8〔W/(m・K)〕となり、非常に高い値を示すとともに、耐熱衝撃性についても全ての板材料に対して「○」となった。したがって、実施例OP2は、特に、高い熱伝導率が要求される用途に最適である。
他方、市販品TR1,TR2及びTR3は、いずれも脱泡性に難がある。また、熱伝導率は、5.0〔W/(m・K)〕以下となり、いずれも実施例OP1及びOP2よりも劣る結果となった。
以上、最良実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような各実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材(材料),数量,数値,手法等において、本発明の精神を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、熱硬化性樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂を例示したが各種エポキシ系樹脂から選択して使用することができるとともに、シリコーン樹脂バインダーも各種シリコーン系樹脂から選択して使用することができる。また、主剤と硬化剤からなる熱硬化性樹脂バインダー、即ち、二液混合の加熱硬化型のエポキシ樹脂を使用する場合を例示したが、勿論、一液タイプのエポキシ樹脂(熱硬化性樹脂バインダー)であってもよい。一方、コイル2,コア3,パッケージ4は、例示の素材に限定されるものではなく、他の各種素材により実施可能である。特に、コイル2は、銅素材が望ましいがアルミニウム素材等の他の素材であってもよい。また、コイル2は、コイルパターンプレートAsを利用する製作方法が望ましいが、他の製作方法を排除するものではない。さらに、コア3も、パーマロイ,ナノ結晶合金,フェライト,Fe−Al−Si系合金,純鉄等の焼結タイプを利用可能である。なお、実施形態では、一対のコイル部21,22を用いた大電流用インダクタ1を例示したが、例えば、パッケージ4を複数のコイル2…(コア3…を含む)を収容可能な形状に形成し、複数のコイル2…を有するインダクタ1として構成してもよい。また、コイル2の一部又は複数のコイル2…を利用したトランス等として構成してもよい。
本発明に係る熱伝導性材料Riは、例示した大電流用インダクタのポッティング材として最適であるが、その他、熱伝導性が要求される少なくとも基板,電源,回路等を含む電子部品(電気部品)をはじめ、各種物品に利用できるとともに、ポッティング材のみならず、コーティング剤など、各種目的において利用することができる。したがって、熱伝導性材料Riは、スピンコート,ロールコート,スプレーコート,ディップコート,スプレーコート,プリント,インクジェット等の各種手法によりポッティング又はコーティング可能である。また、本発明に係る大電流用インダクタ1は、各種コイル製品に利用することができる。
Claims (17)
- 熱硬化性樹脂バインダーに熱伝導性フィラーを混合した熱伝導性材料において、前記熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有することを特徴とする熱伝導性材料。
- 前記熱硬化性樹脂バインダーには、少なくとも、粘度を0.01〜1〔Pa・s〕の範囲で選定したエポキシ系樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の熱伝導性材料。
- 前記熱伝導性フィラーは、電気絶縁性を有することを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性材料。
- 前記熱伝導性フィラーには、少なくとも、酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,の一つ又は二つ以上を用いた単一材又は複合材を含むことを特徴とする請求項1,2又は3記載の熱伝導性材料。
- 前記熱伝導性フィラーは、単一の粒径又は複数の異なる粒径を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性材料。
- 熱硬化性樹脂バインダーに熱伝導性フィラーを配合して製造する熱伝導性材料の製造方法において、前記熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーを混合し、撹拌することにより熱伝導性フィラーを均一分散させ、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を得るようにしたことを特徴とする熱伝導性材料の製造方法。
- 前記熱硬化性樹脂バインダーには、少なくとも、粘度を0.01〜1〔Pa・s〕の範囲で選定したエポキシ系樹脂を含むことを特徴とする請求項6記載の熱伝導性材料の製造方法。
- 前記熱硬化性樹脂バインダーには、一液を用いる樹脂バインダーを含むことを特徴とする請求項6記載の熱伝導性材料の製造方法。
- 前記熱硬化性樹脂バインダーには、少なくとも主剤と硬化剤を含む二液以上を用いる樹脂バインダーを含むことを特徴とする請求項6記載の熱伝導性材料の製造方法。
- 前記熱伝導性フィラーには、少なくとも、酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,の一つ又は二つ以上を用いた単一材又は複合材を含むことを特徴とする請求項6記載の熱伝導性材料の製造方法。
- 縦形の平角導線を巻回した一又は二以上のコイルと、このコイルに装填するコアと、このコアを装填したコイルを収容し、かつ熱伝導性素材により形成したパッケージとを備える大電流用インダクタにおいて、熱硬化性樹脂バインダーに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、1〜180〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、当該熱硬化性樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、350〜2000〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜100〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、熱伝導率が3.5〔W/(m・K)〕以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.2〜100〔Pa・s〕となる組成を有する熱伝導性材料を、パッケージの内部にポッティング材として充填してなることを特徴とする大電流用インダクタ。
- 前記熱伝導性フィラーは、電気絶縁性を有することを特徴とする請求項11記載の大電流用インダクタ。
- 前記熱伝導性フィラーには、少なくとも、酸化マグネシウム,酸化アルミニウム,酸化ケイ素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,の一つ又は二つ以上を用いた単一材又は複合材を含むことを特徴とする請求項11記載の大電流用インダクタ。
- 前記熱伝導性フィラーは、単一の粒径又は複数の異なる粒径を含むことを特徴とする請求項13記載の大電流用インダクタ。
- 前記コイルには、シート材により連続形成したコイルパターンプレートを順次折り畳んで製作したコイルを用いることを特徴とする請求項11のいずれかに記載の大電流用インダクタ。
- 前記コイル,前記コア,前記パッケージ、の一又は二以上の表面の一部又は全部に、少なくとも樹脂バインダーに、当該樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、0.01〜50〔wt%〕の範囲で選定した分散剤を配合するとともに、樹脂バインダー100〔wt%〕に対して、100〜600〔wt%〕の範囲であって粒径を0.1〜20〔μm〕の範囲で選定した熱伝導性フィラーが均一分散し、少なくとも、絶縁破壊強さが14〔kV/mm〕(ただし、10〔kHz〕,遮断電流10〔mA〕)以上、かつ粘度が温度60〔℃〕以下で0.05〜3〔Pa・s〕となる組成を有する放熱性絶縁材料をコーティングしてなることを特徴とする請求項10記載の大電流用インダクタ。
- 前記樹脂バインダーには、少なくともシリコーン系樹脂バインダーを含むことを特徴とする請求項16記載の大電流用インダクタ。
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