JPWO2009041135A1 - 燃料電池用セパレータ材料、及び燃料電池スタック - Google Patents
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Abstract
Description
一方、Ti基材の酸化被膜の上に、Ti,Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等からなる中間層を介してAu膜を形成する燃料電池用セパレータが知られている(特許文献2)。この中間層は、基材酸化膜との密着性、すなわちO(酸素原子)との結合性が良いとともに、金属または半金属のためにAu膜との密着性、結合性が良いとされている。
DMFCの構造としては、以下の2つが提案されている。まず第1の構造は、単セル(固体高分子型電解質膜を燃料極と酸素極で挟み込んだ膜電極接合体(以下、MEAという)を積層した積層型(アクティブ型)構造である。第2の構造は、単セルを平面方向に複数個配置した平面型(パッシブ型)構造である。これらの構造は、いずれも単セルを複数個直列に繋いだもの(以下、スタックという)であるが、このうち、パッシブ型構造は、燃料ガス(燃料液体)や空気などをセル内に供給するための能動的な燃料移送手段を必要としないため、更なる燃料電池の小型化が有望視されている(特許文献3)。
また固体高分子型燃料電池やダイレクトメタノール燃料電池以外に、電解質としてイオン導電性セラミックスを用いた固体電解質燃料電池(SOFC)、電解質成分の1つとしてリン酸を用いたりん酸燃料電池(PAFC)、及び電解質成分の1つとして溶融炭酸塩を用いた溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)が開発されている。
そして、DMFC用集電体に要求される条件は、水素ガスを用いる固体高分子型燃料電池用セパレータと比較して多い。すなわち、通常の固体高分子型燃料電池用セパレータに要求される硫酸水溶液への耐食性に加え、燃料であるメタノール水溶液への耐食性、及び蟻酸水溶液への耐食性が必要である。蟻酸は、アノード触媒上でメタノールから水素イオンが生成する際に発生する副生成物である。
このようにDMFC作動環境下では、従来の固体高分子型燃料電池用セパレータに用いる材料をそのまま適用できるとは限らない。
またSOFC、PAFC及びMCFC用セパレータ材料も、電気導電性や耐食性を有する材料でなければならない。
又、特許文献2記載のチタン材を腐食性環境で使用すると、導電性薄膜の厚みが数10nm以下の場合、中間層を構成する(半)金属が腐食性環境下で耐食性がないために腐食または溶出し、接触抵抗が高くなる場合がある。一方、従来から湿式の金めっきが知られているが、この場合、金めっきの電着形状が粒状であり、金めっきの付着量が少ないと、チタン基材表面の一部に非めっき部分となる部分が生じる。そのため、チタン基材表面全体を均一に金めっきするためには、Auの付着量を多くする必要がある。
特許文献3記載の技術の場合、銅板の両面にステンレスをクラッド加工した基材に、樹脂を被覆したものであり、耐食性が優れているとはいえない。
なお本発明において、燃料電池とは、固体高分子型燃料電池(PEFC)、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)、固体電解質燃料電池(SOFC)、リン酸燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)のいずれか1つをいう。
上記の目的を達成するために、本発明の燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材の表面に、Ru、Rh、Pd、Ir、Os及びPtからなる群より選択される少なくとも1種類以上のAuより易酸化性の貴金属からなる第1成分とAuとの合金層、又はAu単独層が形成され、前記合金層又は前記Au単独層と前記Ti基材との間に、Ti、O及び前記第1成分を含み、Au20質量%未満の中間層が存在し、前記合金層又は前記Au単独層において、最表面から下層に向かって厚み1nm以上でAu50質量%以上の領域を有する。
前記合金層中のAuの割合が下層側から上層側に向かって増加することが好ましい。前記合金層の表面にAu単独層が形成されていると、厳しい腐食環境下で燃料電池セパレータが使用されても良好な耐食性を示す。
Auに代えて、前記貴金属のうち前記第1成分と異なる元素からなる第2成分とAuとを含むAu合金を用いてもよい。
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、固体高分子形燃料電池又はダイレクトメタノール燃料電池に好適に用いられる。
又、本発明において「燃料電池用セパレータ」とは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されたものをいう。セパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される場合がある。
従って、詳しくは後述するが、燃料電池用セパレータとして、板状の基材表面に凹凸状の流路を設けたセパレータの他、上記したパッシブ型DMFC用セパレータのように板状の基材表面にガスやメタノールの流路孔が開口したセパレータを含む。
以下、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料について説明する。図1に示すように、第1の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材2の表面に中間層2aが形成され、中間層2aの上に合金層6が形成されてなる。
燃料電池用セパレータ材料としては、耐食性が要求され、導電性膜となる合金層(Au単独層)には耐食性と導電性が求められる。このため、基材には耐食性が求められるためチタン材を用いる。
Ti基材は無垢のチタン材であってもよいが、Tiと異なる基材表面に厚み10nm以上のTi被膜を形成したものであってもよい。Tiと異なる基材としてはステンレス鋼やアルミニウムが挙げられ、これらの表面にTiを被覆することにより、チタンと比べて耐食性の低いステンレス鋼やアルミノウムの耐食性を向上させることができる。但し、耐食性向上効果はTiを10nm以上被覆しないと得られない。
Ti基材2の材質はチタンであれば特に制限されない。又、Ti基材2の形状も特に制限されず、第1成分及び金をスパッタできる形状であればよいが、セパレータ形状にプレス成形することを考えると、Ti基材の形状は板材であることが好ましく、Ti基材全体の厚みが10μm以上の板材であることが好ましい。
中間層2aに含まれるO(酸素)は、Ti基材2を空気中に放置することにより自然に形成されるが、酸化雰囲気で積極的にOを形成してもよい。
Ti基材2上に、Ru、Rh、Pd、Ir、Os及びPtからなる群より選択される少なくとも1種類以上のAuより易酸化性の貴金属からなる第1成分とAuとの合金層6が形成される。このAu合金層は、Ti基材にAuの特性(耐食性、導電性、装飾性等)を付与するためのものである。上記貴金属は、電位-pH図からAuより易酸化性であり、この特性を利用し、上記第1成分を以下の中間層の構成元素として用いる。第1成分は単一の元素から成っていてもよく、複数の元素から成っていてもよいが、コストが低く酸化物を形成し易いPdが好ましい。
合金層は、後述するSTEM分析により確認することができ、STEM分析により最表面から下層に向かってAu50質量%以上で厚み1nm以上有する部分であって、以下の中間層より上層に位置する部分を合金層とする。合金層の厚みは1〜100nmであることが好ましい。合金層の厚みが1nm未満であると、Ti基材上に燃料電池用セパレータに要求される耐食性を確保できなくなる。合金層の厚みが100nmを超えると省金化が図られずコストアップとなる場合がある。
又、合金層において、最表面から下層に向かう厚み1nm以上の領域のAu濃度が50質量%未満であると、燃料電池用セパレータに要求される耐食性を確保できなくなる。
又、合金層6の中間層側において、主に第1成分からなる組成領域(貴金属領域)を有していてもよい。
合金層(又はAu単独層)6とTi基材2との間に、Ti、O及び前記第1成分を含み、Au20質量%未満の中間層2aが存在する。
通常、Ti基材は表面に酸化層を有しており、酸化され難いAu(含有)層をTi表面に直接形成させるのは難しい。一方、上記貴金属はAuに比べて酸化され易く、Ti基材の表面でTi酸化物中のO原子と酸化物を形成し、Ti基材表面に強固に結合するものと考えられる。
又、上記貴金属は耐食性が他の金属と比べ高い。これらの点で、Auを含んだ導電性膜(上記合金層又はAu単独層)の厚みが数10nm以下の場合には、従来、中間層に用いられてきた元素であるTi,Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等に比べ、Ti、O及び前記第1成分を含む中間層の方が耐食性が高く、金属の腐食または溶出がない中間層を形成することができる。
一方、なお中間層にはAuは含まれないほうが好ましく、Auが20 質量%以上含まれると密着性が低下する。中間層中のAu濃度を20質量%未満とするためには、Ti基材上に、第1成分単体のターゲット、又は低Au濃度の第1成分−Au合金ターゲットを用いてスパッタすることが好ましい。
ここでSTEM分析は、STEM装置に付属しているEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometer)分析器を用いて、分析したい部分(ライン)及び元素を指定し、各部分における指定元素の濃度をEDSにより検出するものである。指定する元素は、Au、第1成分、O、Tiであり、後述する第2成分を用いた場合は第2成分を指定に加える。
なお、STEM分析で厚み方向に1nmの距離とは、走査距離の実寸である。
合金層を傾斜組成とすると、合金層の下層側ではAuより易酸化性の第1成分の割合が多くなり、Ti基材表面との結合が強固になる一方、合金層の上層側ではAuの特性が強くなるので、耐食性が向上する。
PdとAuとからなる合金層6が均一な層(図の黒い画像部分)を形成していることがわかる。又、図2における合金層6の位置C(白抜き)における組成はEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析)からPd:43質量%,Au:57質量%であり、合金層6の位置Dにおける組成はPd:32質量%,Au:68質量%であった。つまり、合金層のAu濃度は下層側から上層側に向かって増加したものとなった。なお、位置Aの組成はTiを示し、位置Bの組成はTi基材表面のTi酸化被膜層(EDX でTiとOを検出)を示す。但し、この酸化被膜層が第1成分(Pd)を含むか否かはEDXでは判定できない。
燃料電池用セパレータ材料の中間層の形成方法としては、Ti基材の表面Ti酸化膜を除去せずに、この基材に第1の成分をターゲットとしてスパッタ成膜することにより、表面Ti酸化膜中のOに第1の成分が結合し、中間層を形成することができる。又、Ti基材2の表面Ti酸化膜を除去後、第1の成分の酸化物をターゲットとしてスパッタ成膜することや、Ti基材2の表面Ti酸化膜を除去後、第1の成分をターゲットとし酸化雰囲気でスパッタ成膜することによっても中間層を形成することができる。
なお、スパッタの際、Ti基材の表面Ti酸化膜を適度に除去し、基材表面のクリーニングを目的として逆スパッタ(イオンエッチング)を行ってもよい。逆スパッタは、例えばRF100W程度の出力で、アルゴン圧力0.2Pa程度としてアルゴンガスを基材に照射して行うことができる。
中間層のAuは、以下の合金層を形成するためのAuスパッタにより、Au原子が中間層に入り込むことによって中間層内に含まれるようになる。又、第1成分とAuを含む合金ターゲットを用いてTi基材表面にスパッタ成膜してもよい。
Ti基材表面に最初に第1成分とAuのうちAu濃度が低い合金ターゲットを用いてスパッタ成膜し、その後、第1成分とAuのうちAu濃度が高い合金ターゲットを用いてスパッタ成膜してもよい。
次に、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料について説明する。図4に示すように、第2の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材2の表面に中間層2aを介して貴金属層4が形成され、貴金属層4の表面に合金層6が形成されている。Ti基材2及び合金層6は、第1の実施形態と同一であるので説明を省略する。
貴金属層4は上記貴金属(好ましくは中間層の第1成分と同一)から主として成り、第1成分がAuより酸化され易いため、酸化物層である中間層2aとの結合性が高く、貴金属層4がない場合に比べ、合金層6とTi基材2(中間層)との密着性が向上する。
貴金属層4は、スパッタ条件(スパッタ時間、出力)等を変えることにより、適宜形成することができる。
なお、貴金属層4中の貴金属と、合金層6中の第1成分とは同一の元素であってもよく、異なる元素であってもよいが、同一元素とすると、製造が簡易となる。
次に、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料について説明する。図5に示すように、第3の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料は、Ti基材2の表面に中間層2aを介して合金層6が形成され、合金層6の表面にAu単独層8が形成されている。Ti基材2及び合金層6は、第1の実施形態と同一であるので説明を省略する。
Au単独層8は、スパッタ条件(スパッタ時間、出力)等を変えることにより、適宜形成することができる。
次に、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータについて説明する。燃料電池用セパレータは、上記した燃料電池用セパレータ材料を所定形状に加工してなり、燃料ガス(水素)又は燃料液体(メタノール)、空気(酸素)、冷却水等を流すための反応ガス流路又は反応液体流路(溝や開口)が形成されている。
図6は、積層型(アクティブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図6では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
そして、セパレータ10は電気伝導性を有し、後述するMEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ10には燃料ガスや空気(酸素)の流路となる溝が形成されている。
そして、アノード電極40側の内部空間20には燃料ガス(水素等)が流れ、カソード電極60側の内部空間20に酸化性ガス(酸素、空気等)が流れることにより、電気化学反応が生じるようになっている。
シール部材31及びガスケット12は、燃料ガス又は酸化ガスがセル外に漏れるのを防止するシールを形成する。又、単セルを複数積層してスタックにした場合、セパレータ10の外面と集電板140A(又は140B)との間の空間21には空間20と異なるガス(空間20に酸化性ガスが流れる場合、空間21には水素が流れる)が流れる。従って、シール部材32もセル外にガスが漏れるのを防止する部材として使われる。
また、この実施形態では、直線状流路溝10Lの始端及び終端はセパレータ10の外縁まで到達せず、セパレータ10の外周縁には直線状流路溝10Lが形成されない平坦部が存在する。また、この実施形態では、隣接する直線状流路溝10Lはそれぞれ等間隔で位置しているが、不等間隔であってもよい。
又、セパレータ10の対向する側端縁(側辺)には、それぞれ位置決め孔10fが開口している。
流路溝の形成を容易にする点からは、互いに平行な直線が好ましい。
セパレータ10の厚みは、プレス成形性の面で10μm以上であることが好ましいが、コストの点から200μm以下とすることが好ましい。
ガスケット12は例えばテフロン(登録商標)からなるシート状であり、外縁がセパレータ10とほぼ同じ大きさの矩形枠体であって、その内縁が燃料ガス導入孔10x、排出孔10y、及び直線状流路溝10Lを囲む略矩形状に形成され、ガスケット12の内部空間において燃料ガス導入孔10x、排出孔10y、及び直線状流路溝10Lが連通するようになっている。
なお、ガスケット12の対向する側端縁(側辺)には、それぞれ位置決め孔12fが開口し、セパレータ10の位置決め孔10fと重なるようにガスケット12を積層することにより、セパレータ10とガスケット12の相対位置を規定する。
同様に、ガスケット12の下側内縁12dは直線状流路溝の下端10L2よりやや下側に位置し、直線状流路溝10Lに沿って流れるガスが折り返して180度向きを変えるための空間が形成されている。又、下側内縁12dの右端部は外側に延び、セパレータ10の燃料ガス排出孔10yがガスケット12内に表出するようになっている。
同様に、下側内縁12dのうち仕切り部材12e1に対向する位置から所定距離だけ右側の位置には、内側に向かって片状の仕切り部材12e3が延びている。又、下側内縁12dのうち仕切り部材12e2に対向する位置から所定距離だけ右側であって、燃料ガス排出孔10yに向かって延びる部分に隣接する位置には、内側に向かって片状の仕切り部材12e4が延びている。そして、仕切り部材12e3、12e4の先端は直線状流路溝の下端(始端又は終端に相当)10L2に接している。
このように、ガスケット12の対向する内縁からそれぞれ延びる仕切り部材は互いに千鳥状に配置されているので、直線状流路溝10Lに沿って流れるガス流路が仕切り部材近傍で折り返されて蛇行流路を構成するようになる。
図6に示す積層型(アクティブ型)燃料電池は、上記した水素を燃料として用いる燃料電池のほか、メタノールを燃料として用いるDMFCにも適用することができる。
図9は、平面型(パッシブ型)燃料電池の単セルの断面図の一例を示す。なお、図6では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
なお,図9において、MEA80の構成は図6の燃料電池と同一であるので同一符号を付して説明を省略する(図9では、ガス拡散膜90A、90Bの記載を省略しているが、ガス拡散膜90A、90Bを有していてもよい)。
セパレータ100は、断面がクランク形状になるよう、長尺平板状の基材の中央付近に段部100sを形成してなり、段部100sを介して上方に位置する上側片100bと、段部100sを介して下方に位置する下側片100aとを有する。段部100sはセパレータ100の長手方向に垂直な方向に延びている。
そして、複数のセパレータ100を長手方向に並べ、隣接するセパレータ100の下側片100aと上側片100bとの間に空間を形成させ、この空間にMEA80を介装する。2つのセパレータ100でMEA80が挟まれた構造体が単セル300となる。このようにして、複数のMEA80がセパレータ100を介して直列に接続されたスタックが構成される。
このスタックにおいて、図9の上方から空気(酸素)を流すと、セパレータ100の孔100hを通ってMEA80のカソード電極60側に酸素が接触し、反応を生じるようになる。一方、図9の下方からメタノールを流すと、セパレータ100の孔100hを通ってMEA80のアノード電極40側にメタノールが接触し、反応を生じるようになる。なお、メタノールは、図9の下方のタンク(メタノールカートリッジ)200から供給される。
図9に示す平面型(パッシブ型)燃料電池は、上記したメタノールを燃料として用いるDMFCのほか、水素を燃料として用いる燃料電池にも適用することができる。又、平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータの開口部の形状や個数は限定されず、開口部として上記した孔の他、スリットとしてもよく、セパレータ全体が網状であってもよい。
本発明の燃料電池用スタックは、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いてなる。
燃料電池用スタックは、1対の電極で電解質を挟み込んだセルを複数個直列に接続したものであり、各セルの間に燃料電池用セパレータが介装されて燃料ガスや空気を遮断する。燃料ガス(H2)が接触する電極が燃料極(アノード)であり、空気(O2) が接触する電極が空気極(カソード)である。
燃料電池用スタックの構成例は、既に図6及び図9で説明した通りであるが、これに限定されない。
Ti基材として、厚み100μmの工業用純チタン材(JIS1種)を用い、FIB(集束イオンビーム加工)による前処理をした。FE−TEM(電解放射型透過電子顕微鏡)によるエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)により観察したところ、Ti基材の表面には予め約6nmのチタン酸化物層が形成されていたのを確認した。
又、一部の実施例では、厚み100μm工業用純ステンレス鋼材(SUS316L)に対し、表1,2に示す所定厚みのTiを被覆したものを用いた(Ti被覆材)。Tiの被覆は、電子ビーム蒸着装置(アルバック製、MB05−1006)を用いた真空蒸着により行った。
目標厚みは以下のように定めた。まず、予めチタン基材にスパッタで対象物(例えばPd)を成膜し、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製SEA5100、コリメータ0.1mmΦ)で実際の厚みを測定し、このスパッタ条件におけるスパッタレート(nm/min)を把握した。そして、スパッタレートに基づき、厚み1nmとなるスパッタ時間を計算し、この条件でスパッタを行った。
Pd及びAuのスパッタは、株式会社アルバック製のスパッタ装置を用い、出力DC50W アルゴン圧力0.2Paの条件で行った。
得られた試料の断面の実際のFE−TEM(電解放射型透過電子顕微鏡)像を観察し、像の中でEDX分析したい位置を指定し、その部分のEDX分析を行うことで、試料中の各層の組成を分析した。
FE−TEM装置としては、日立製作所製のHF-2000 FE-TEMを用い、加速電圧200kV、倍率10万倍、70万倍で観察した。又、EDX装置は、上記FE−TEM装置に附属したEDAX社製Genesisシリーズを用い、分析エリア1nmで分析した。
図2は、試料の断面FE−TEMを示す。PdとAuとからなる合金層6が均一な層を形成していることがわかる。又、図2における合金層6の位置Cにおける組成はEDXからPd:43質量%,Au:57質量%であり、合金層6の位置Dにおける組成はPd:32質量%,Au:68質量%であった。つまり、合金層のAu濃度は下層側から上層側に向かって増加したものとなった。なお、位置Aの組成はTiを示し、位置Bの組成はTi基材表面のTi酸化被膜層(又は中間層)を示した。
図11は位置AにおけるEDX分析チャートを示し、図12は位置CにおけるEDX分析チャート及び組成解析結果を示す。
なお、STEMによる濃度検出は、検出元素からカーボンを除外し、指定元素の合計100質量%として、各元素の濃度(質量%)を分析した。又、STEM分析で厚み方向に1nmの距離とは、STEM分析によるチャート(図3)の横軸の距離である。
同様にして、試料の最表面側の断面をSTEMで分析した。
Ti基材2の表面に、Ti、Oがそれぞれ10 質量%以上含まれ、かつPdが20 質量%以上含まれると共に、Auが20 質量%未満である中間層2aが1nm以上存在することがわかる。
なお、本発明においては、中間層を定義するためTi、O等の濃度を規定している。従って、中間層の境界は便宜上Ti、O濃度によって決められるため、中間層とその上下の層(例えばTi基材2)との間に、中間層ともTi基材とも異なる層が介在する場合もある。
チタン基材(純Ti、Ti被覆材)に、スパッタ時のPd膜及びAu膜の目標厚みを種々変更して実施例1〜16の試料を作製した。
比較例17として、スパッタの代わりに、湿式めっきにより、Ti基材表面にAu層を50nm形成した。湿式めっきは、基材の浸漬脱脂、水洗、酸洗、水洗、活性化処理、水洗を順に行った後、金めっきし、さらに水洗、熱処理を行った。
比較例18、19として、スパッタ時にそれぞれAu膜、Pd膜のみ成膜した。
比較例20として、Pd膜及びAu膜を別個にスパッタする代わりに、Pd−Au合金(Pd70質量%,Au30質量%)を用いて成膜した。比較例21として、Pd膜及びAu膜を別個にスパッタする代わりに、Pd−Au合金(Pd50質量%,Au50質量%)を用いて成膜した。比較例22として、Pd膜及びAu膜を別個にスパッタする代わりに、Pd−Au合金(Pd30質量%,Au70質量%)を用いて成膜した。
比較例23として、スパッタ時のPd膜の目標厚みを0.5nmに低減して成膜した。比較例24として、スパッタ時のAu膜の目標厚みを0.5nmに低減して成膜した。
比較例25として、Ti被覆材(Ti厚み1nm)に、Pdの目標厚み5nm、Auの目標厚み10nmでスパッタ成膜した。
各試料について以下の評価を行った。
A.密着性
各試料の最表層の合金層に1mm間隔で碁盤の目を罫書いた後、粘着性テープをはり付け、さらに各試験片を180°曲げて元の状態に戻し、曲げ部のテープを急速にかつ強く引き剥がす剥離試験を行った。
剥離が全くない場合を○とし、一部でも剥離があると目視で認められた場合を×とした。
B.成膜形状
各試料の断面のFE-TEM像を撮影し、表面に数nmから数百nmの粒子が集まった凹凸構造が観察された場合を粒状とし、粒状に比べて表面が平滑な場合を層状とした。
接触抵抗の測定は、試料全面に荷重を加える方法で行った。まず、40×50mmの板状の試料の表裏にそれぞれカーボンペーパーを積層し、さらに表裏のカーボンペーパーの外側にそれぞれCu/Ni/Au板を積層した。Cu/Ni/Au板は厚み10mmの銅板に1.0μm厚のNi下地めっきをし、Ni層の上に0.5μmのAuめっきした材料であり、Cu/Ni/Au板のAuめっき面がカーボンペーパーに接するように配置した。
さらに、Cu/Ni/Au板の外側にそれぞれテフロン(登録商標)板を配置し、各テフロン板の外側からロードセルで圧縮方向に10kg/cm2の荷重を加えた。この状態で、2枚のCu/Ni/Au板の間に電流密度100mA/cm2の定電流を流した時、Cu/Ni/Au板間の電気抵抗を4端子法で測定した。
条件1:硫酸水溶液(浴温80℃、濃度0.5g/L、浸漬時間240時間)
条件2:メタノール水溶液A(浴温80℃、濃度400cc/L、浸漬時間240時間)
条件3:メタノール水溶液B(浴温60℃、濃度100%、浸漬時間240時間)
条件4:ギ酸水溶液A(浴温80℃、濃度1g/L、浸漬時間240時間)
条件5:ギ酸水溶液B(浴温80℃、濃度9g/L、浸漬時間240時間)
なおDMFCの場合、条件2〜5は条件1(通常の固体高分子型燃料電池の耐食性試験条件)に付け加えられ、通常の固体高分子型燃料電池と比較すると評価すべき耐食性試験環境が多くなる。
又、燃料電池用セパレータに求められる代表的な特性は、低接触抵抗(10mΩ・cm2以)、使用環境での耐食性(耐食試験後も低接触抵抗で、有害なイオンの溶出がない)の2つである。
なお、各実施例1〜16の場合、最表面から下層に向かうAu50質量%以上の領域の厚みはいずれも1nm以上であった。
Auのみをスパッタした比較例18の場合、中間層が形成されずに密着性が劣化した。一方、Pdのみをスパッタした比較例19の場合、最表層がAuを含まず、耐食試験後に接触抵抗が大幅に増大した。これは、最表層がAuを含まないために耐食性が劣化したためと考えられる。
Pd-Au合金(Pd70質量%)をターゲットとしてスパッタした比較例20の場合も、耐食試験後に接触抵抗が大幅に増大した。これは、Pd-Au合金中のAuの割合が少ないために最表層にAuを50質量%以上含む層が形成されず、耐食性が劣化したためと考えられる。
これは、Pd-Au合金中のPdの割合が少ないために中間層が充分に形成されなかったためと考えられる。
Pd膜の目標厚みを低減してスパッタした比較例23の場合も、中間層の厚みが1nm未満となり、密着性が十分ではないものもあった。
また、純Ti基材に代え、厚み1nmのTi被覆材を用いた比較例25の場合、Ti膜厚が薄いためにステンレス鋼基材が腐食し、耐食試験後に接触抵抗が大幅に増加した。
2a 中間層
4 貴金属層
6 合金層
8 Au単独層
2 固体高分子電解質膜
4、6 電極
8 膜電極接合体
10、100 セパレータ
10L、10LB (ガス)流路
10L1、10LB1 流路溝の始端
10L2、10LB2 流路溝の終端
12、12B ガスケット
12c、12d ガスケットの内縁
12e1〜12e4 仕切り部材
12eb1〜12eb4 ガスケット流路
20 固体高分子電解質膜
40 アノード電極
60 カソード電極
80 膜電極接合体(MEA)
100h (セパレータの)孔
Claims (9)
- Ti基材の表面に、Ru、Rh、Pd、Ir、Os及びPtからなる群より選択される少なくとも1種類以上のAuより易酸化性の貴金属からなる第1成分とAuとの合金層、又はAu単独層が形成され、
前記合金層又は前記Au単独層と前記Ti基材との間に、Ti、O及び前記第1成分を含み、Au20質量%未満の中間層が存在し、
前記合金層又は前記Au単独層において、最表面から下層に向かって厚み1nm以上でAu50質量%以上の領域を有する燃料電池用セパレータ材料。 - 前記中間層は、Ti、Oがそれぞれ10質量%以上でかつ前記第1成分が20質量%以上含まれる1nm以上の層として存在する請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 前記合金層中のAuの割合が下層側から上層側に向かって増加する請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 前記合金層の表面にAu単独層が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
- Auに代えて、前記貴金属のうち前記第1成分と異なる元素からなる第2成分とAuとを含むAu合金を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 前記Ti基材は、Tiと異なる基材表面に厚み10nm以上のTi被膜を形成してなる請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料
- 固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
- ダイレクトメタノール燃料電池に用いられる請求項7記載の燃料電池用セパレータ材料。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池スタック。
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