JPWO2009008502A1 - タイヤ摩耗推定方法 - Google Patents
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Abstract
Description
そこで、運転者への警告のため、タイヤの摩耗を自動的に検出する技術が求められている。また、車両制御の面からも、摩耗によるタイヤ特性の変化を把握し、より安全な制御を実現することが期待されている。
タイヤの摩耗を推定する方法としては、従来、GPSや光学センサなどにより車両の絶対速度を算出してこれを車輪回転速度と比較することによりタイヤ動半径を算出し、このタイヤ動半径と新品時のタイヤ半径の差からタイヤ摩耗量を求める方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
しかし、完全に摩耗したタイヤであっても、その回転数と新品タイヤの回転数との差は高々1%程度であるため、上記タイヤ半径の差からタイヤ摩耗量を求めるためには、高い精度の計測が必要なだけでなく、実際の走行においては、旋回時の内外輪誤差や、制駆動時の加速度スリップによる誤差、勾配に伴う誤差などを含むため、安定して精度の良い推定を実現することが困難であった。
一方、タイヤトレッドにトランスポンダやICタグなどを埋め込んでおき、車体側に受信機を配置して、上記トランスポンダやICタグが摩耗により破壊したり脱落したりして応答がなくなることにより、タイヤの摩耗を推定する方法(例えば、特許文献3〜5参照)や、タイヤトレッドに磁性材料や導電ゴムから成る検知体を埋め込んでおき、車体側にセンサを配置して、タイヤの摩耗により上記検知体が摩耗してセンサの検出信号が変化することを検知してタイヤの摩耗を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献6,7参照)。
本発明者は新品のタイヤと摩耗したタイヤの変形の違いを検討した結果、同じ撓み量を与えた場合には、摩耗したタイヤでは踏み込み端や蹴り出し端などの接地端部の変形速度が大きく、また、上記膨出点の変形量が新品のタイヤよりも大きいことがわかった。この理由は、摩耗したタイヤはトレッドゴムが少ないため、トレッドの面外曲げ変形剛性が低くなっていることが影響していると考えられる。そこで、本発明者らは、上記接地端部の変形速度の情報もしくは変形量の情報を用い、また、解析方法を工夫することにより、タイヤの使用条件やタイヤの摩耗形態が異なった場合でも、タイヤの摩耗を精度よく推定することができることを見出し、本発明に到ったものである。
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、タイヤの摩耗を推定する方法であって、トレッドのタイヤ接地端部におけるタイヤ径方向の変形速度の情報、もしくは、タイヤ膨出点におけるタイヤ径方向の変形量の情報を用いて当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とするものである。これにより、例えば、センター部に対してショルダー部の方が摩耗気味であるなど、タイヤの摩耗形態が異なった場合や、荷重などのタイヤの使用条件が変わる場合でも、タイヤの摩耗を精度よく推定することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記センサを加速度センサとするとともに、この加速度センサで検出されたタイヤトレッド部の径方向加速度の時系列波形を用いて、上記変形速度の指標を算出するようにしたものである。加速度センサは応答性が高いセンサであり、これをタイヤトレッド部の径方向の加速度を検出するように配置することにより、トレッドの変形速度を時間遅れなく精度よく検出することができるので、タイヤの摩耗の度合を精度よく推定することができる。
また、請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記計測された変形速度の指標を当該タイヤの回転速度の3乗値で除算して上記変形速度の指標を基準化するようにしたものである。
上記加速度センサに入力する加速度は遠心力、すなわち、回転速度の2乗に比例する。また、上記の請求項4の説明で述べたように、トレッド径方向の変形速度とは上記加速度を時間で除した値であり、接地端の変形に要する時間は回転速度に反比例するので、変形速度は回転速度の3乗に比例する。したがって、請求項7に記載の発明のように、変形速度に回転時間の3乗値を乗ずるか、あるいは、請求項8に記載の発明のように、変形速度を回転速度の3乗値で除するかして、上記変形速度の指標を基準化してやれば、速度が変化した場合でも上記基準化した変形速度は一定になるので、タイヤの摩耗状態の推定精度を更に向上させることができる。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記加速度センサから出力される加速度の時系列波形、または、上記加速度の時系列波形の時間微分波形または時間積分波形に出現するピークが発生した時間から、タイヤが1回転した後に同じ位置にピークが発生するまでの時間を計測し、この計測された時間を当該タイヤの回転時間としたものである。
請求項11に記載の発明は、請求項9に記載のタイヤ摩耗推定方法において、荷重負荷状態でタイヤが1回転する長さである回転長さ係数を上記回転時間で除算した値を当該タイヤの回転速度としたものである。
このように、上記タイヤの回転時間または回転速度を、上記加速度センサから出力される信号を用いて算出するようにすれば、車輪速センサなどの回転センサを用いる必要がないので、装置を小型化することができる。また、2つのセンサの出力を同期させるなどの信号処理も不要となるので、信号処理回路も簡素化できる。
請求項12に記載の発明は、請求項2〜請求項11のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記変形速度の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係を予め求めておき、この予め求めておいた変形速度の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係と、上記算出された変形速度の指標とを比較して当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とするもので、これにより、タイヤの摩耗の度合いを更に精度よく推定することができる。ここで、上記変形速度の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係に用いられる変形速度の指標とは、指標の大きさであってもよいし、指標の使用初期からの大きさの変化量であってもよい。タイヤの製造要因やセンサの取付け要因により、新品時の指標の大きさは変化する可能性がある。その場合、使用初期の指標値を計測し記憶しておき、その初期値から変化量を算出し、上記関係と比較することにより、推定安定性を向上させることができる。
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のタイヤ摩耗推定方法において、タイヤの摩耗の度合いに応じた基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係を予め求めておき、上記基準化した変形速度の指標と、上記計測された接地長の指標と、上記予め求めておいた上記基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係とを比較して、当該タイヤの摩耗の度合いを推定するようにしたものである。すなわち、基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係を、摩耗の度合いごとにグラフ化するなどして、タイヤの摩耗の度合いに応じた基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係を予め求めておき、上記基準化した変形速度の指標と上記計測された接地長の指標とが、上記グラフのどの摩耗度合いのラインに乗るかを調べるなどして、上記基準化した変形速度の指標と上記計測された接地長の指標とを、予め求めておいた基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係と比較して当該タイヤの摩耗の度合いを推定するようにすれば、当該タイヤの摩耗の度合いを更に精度よく推定することができる。また、請求項12の説明にも記載したように、変形速度の指標は、その大きさ、あるいは、使用初期からの変化量を指す。
また、請求項15に記載の発明は、請求項13に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記計測された接地長の指標と上記基準化した変形速度の指標との相関式を求め、この相関式の係数の大きさに基づいて当該タイヤの摩耗の度合いを推定するようにしたものである。上記相関式は、例えば、一次近似であれば、Y=aX+b(X;接地長の指標、Y;基準化した変形速度の指標、a,b;定数)とし、上記定数aの値を固定値とし、bの値の大きさで摩耗の度合いを推定するなどすればよい。あるいは、bの値など、係数の大きさの使用初期からの変化量に基づいて摩耗の度合いを推定してもよい。なお、相関式は、上記のような一次近似である必要はないので、予め基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係を求めておき、この関係を表すのに適していると考えられる近似式を選択すればよい。
請求項17に記載の発明は、請求項13〜請求項15のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記接地長の指標を、トレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間を回転時間で除算した接地時間比としたものである。この値は、接地長を1周長さで除算した比の値にほぼ等しい。
請求項18に記載の発明は、請求項13〜請求項15のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記接地長の指標を、接地面のタイヤ周方向長さとしたものである。
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載のタイヤ摩耗推定方法において、トレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間に回転速度を乗算した値を上記接地面のタイヤ周方向長さとしたものである。
このように、上記接地長の指標として、トレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間、上記接地時間を回転時間で除算した接地時間比、あるいは、接地面のタイヤ周方向長さを用いれば、荷重及びタイヤの摩耗形状の推定に対する影響を少なくすることができ、タイヤの摩耗の度合いを確実に推定することができる。また、上記接地面のタイヤ周方向長さをトレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間に回転速度を乗算した値とすれば、上記接地面のタイヤ周方向長さを精度良く求めることができる。
請求項21に記載の発明は、請求項20に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記加速度センサによりタイヤ径方向加速度を検出するとともに、上記検出されたタイヤ径方向加速度の時系列波形を時間微分して得られる時間微分波形の2つのピーク間の時間を計測してこれを接地時間とし、このように計測された接地時間を用いて接地長の指標を算出するようにしたもので、これにより、上記接地時間を用いて算出する接地長の指標の精度を更に向上させることができる。
請求項23に記載の発明は、請求項22に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記センサを加速度センサとするとともに、この加速度センサで検出されたタイヤトレッド部の径方向加速度の時系列波形を用いて、上記変形量の指標を算出するようにしたものである。加速度センサは、上記のように、応答性が高いセンサであり、これをタイヤトレッド部の径方向の加速度を検出するように配置することにより、トレッドの変形量を精度よく検出することができるので、タイヤの摩耗の度合を精度よく推定することができる。
請求項24に記載の発明は、請求項23に記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記径方向加速度の時系列波形のピークレベルを算出し、この算出されたピークレベルを上記変形量の指標としたものである。加速度波形がタイヤ径方向加速度の場合には、加速度の時系列波形そのものが変形量に対応するので、上記変形量の指標を精度よく算出することができる。
また、請求項26に記載の発明は、請求項1〜請求項25のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法において、上記摩耗の度合いの推定を行うタイヤ速度の上限値を100km/hr以下としたことを特徴とするもので、これにより安定した摩耗推定を行うことができる。すなわち、本手法ではトレッドの変形情報を捉えてタイヤ摩耗を推定しているが、タイヤ速度が100km/hrを超えると遠心力の影響が非常に大きくなるので、大きな補正が必要になる。しかし、摩耗は時間的に非常に遅い変化であるので、高速走行時に推定を中断しても問題になることはない。したがって、上記のように、摩耗の度合いの推定を行うタイヤ速度に上限値を設けて、推定範囲を設定する方が、推定の安定性が高くなる。
5 周方向溝、6 ショルダー部、7 センター部、
10,20,30 タイヤ摩耗推定装置、11 加速度センサ、11F 送信器、
12 車輪速センサ、13 加速度波形抽出手段、14 微分波形演算手段、
15 変形速度算出手段、16 記憶手段、16A L−Wマップ、
16B M−Vマップ、17 荷重推定手段、18 摩耗推定手段、19 演算部、
25 変形量算出手段、26 記憶手段、26B M−Yマップ、28 摩耗推定手段、
30A センサ部、30B 演算部、32 加速度微分波形演算手段、
33 変形速度算出手段、34 回転時間算出手段、35 接地時間算出手段、
36 接地時間比算出手段、37 基準化変形速度指標算出手段、38 記憶手段、
38M V(M)−Lマップ、39 タイヤ摩耗推定手段。
最良の形態1.
図1は、本最良の形態1に係るタイヤ摩耗推定装置10の構成を示す機能ブロック図で、同図において、11はタイヤトレッド部の加速度を検出する加速度センサ、12は車輪の回転速度を検出する車輪速センサ、13は上記加速度センサの出力からタイヤトレッド部の加速度の時系列波形を抽出する加速度波形抽出手段、14は上記加速度を微分した値の時系列波形である加速度の微分波形を演算する微分波形演算手段、15は上記加速度の微分波形に現れる2つのピークのうちの前側のピークである踏み込み端側ピークのレベルを算出し、この算出された踏み込み端側のピークのレベルを当該タイヤの変形速度の指標Vとして出力する変形速度算出手段、16は予め求めておいた接地長Lと荷重Wの関係を示すL−Wマップ16A及びタイヤの摩耗の度合Mと変形速度の指標Vとの関係を示すM−Vマップ16Bとを記憶する記憶手段、17は上記加速度の微分波形に現れるトレッドの接地端における変形に対応する2つのピーク間の時間である接地時間を算出し、この算出された接地時間にタイヤ速度を掛け合わせて当該タイヤの接地長Lを算出するとともに、上記記憶手段16に記憶された上記L−Wマップ16Aを用いて、上記算出された接地長Lから当該タイヤの荷重Wを推定して出力する荷重推定手段、18は上記変形速度算出手段15で算出された変形速度の指標Vと上記M−Vマップ16B及び荷重推定手段17で推定された荷重Wとから、当該タイヤの摩耗の度合を推定する摩耗推定手段である。なお、本例では、上記タイヤ回転速度を、車輪速センサ12で検出された車輪の回転時間と当該タイヤの回転長さ係数とを用いて算出するようにしている。
また、本例では、加速度センサ11を、図2に示すように、タイヤ1のインナーライナー部2のタイヤの幅方向中心に、その検出方向がタイヤ径方向になるように配置して、路面からタイヤトレッド3の内面に作用するタイヤ径方向の加速度を検出する。
車輪速センサ12は、ヨークとコイルとから成るセンサ部を図示しないナックルに装着して車軸の回転を検出する周知の電磁誘導型の車輪速センサを用いている。
また、上記加速度波形抽出手段13から摩耗推定手段18までの各手段は車体側に設置されて演算部19を構成する。
上記加速度センサ11の出力信号を演算部19に送る構成としては、例えば、図2に示すように、インナーライナー部2もしくはホイール4に送信器11Fを設置して、上記出力信号を図示しない増幅器で増幅した後、無線にて上記演算部19に送信する構成とすることが好ましい。なお、演算部19をタイヤ側に設けて摩耗推定手段18の判定結果を車体側の図示しない車両制御装置に送信する構成としてもよい。
まず、加速度センサ11によりタイヤトレッド3の変形に伴って変形するインナーライナー部2内面のタイヤ径方向の加速度を検出する。加速度波形抽出手段13では、上記加速度センサの出力信号から、上記径方向加速度の時系列波形(以下、加速度波形という)を抽出する。図3は上記加速度波形の一例を示す図で、横軸は時間[sec.]で、縦軸は径方向の加速度の大きさ[G]である。加速度がプラスの値の場合にはタイヤ外側に加速度が発生しており、マイナスの値の場合にはタイヤ中心方向に加速度が発生している。この加速度は、タイヤトレッドが径方向に受けている力に応じて発生しており、若干の位相差はあるが、径方向の変形量を代用する値である。プラス側の2つのピーク近傍は接地面外であり、トレッドがタイヤ外側に変形するような力を受けていることから、上記2つのピークは膨出点であることが分かる。
トレッド3のタイヤ接地面の端部における変形速度は上記径方向の変形量の時間変化の大きさに比例するので、微分波形演算手段14にて上記加速度を微分した値の時系列波形である微分波形を演算して求める。
図4は上記微分波形の一例を示す図で、横軸は時間[sec.]で、縦軸は径方向加速度の微分値の大きさ[G/sec.]である。この微分波形のピークである2つのピーク(踏み込み端側のピークと蹴り出し端側のピーク)はトレッドの受けている径方向の力が最も変化している点であり、そのピークの大きさは接地端部の変形速度に比例している。
変形速度算出手段15では、上記2つのピークのうち、踏込み側ピークのレベル(絶対値)を検出して、これを変形速度の指標Vとし、この変形速度の指標Vを摩耗推定手段18に出力する。
なお、ピーク検出においては、加速度センサ11の感度にもよるが、適度なローパスフィルタを掛けてからピーク検出する方がデータが安定する。すなわち、より安定した摩耗推定をすることができる。また、上記ピーク間の時間間隔はタイヤ速度によって大きく変化するので、ローパスフィルタの周波数はタイヤ速度に応じて変える方が、各速度における波形形状を同様にすることができるので、より安定した推定を行うことができる。
摩耗推定手段18では、上記変形速度算出手段15で算出された変形速度の指標Vと予め記憶手段16に記憶しておいたタイヤ摩耗の度合Mと変形速度の指標Vとの関係を示すM−Vマップ16Bとを用いて当該タイヤの摩耗の度合を推定する。
なお、上記変形速度の指標Vとして用いるピークレベルは若干、荷重依存性があるので、本例では、上記荷重推定手段17で推定した荷重Wに基づいて、上記タイヤ摩耗の度合Mを補正するようにしている。
摩耗量だけでなく、摩耗の形態の影響も含めて検討すべく、以下の4種の試験タイヤを準備した。言うまでもなく、市場における摩耗の形態にはバラツキがあり、摩耗形態が異なっても推定誤差が小さいことが重要である。
試験タイヤ1は新品タイヤで、図2に示すセンターに近い位置の周方向溝5の溝深さは約8mmである。
試験タイヤ2はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約4mmで、かつ、ショルダー部6が摩耗気味のタイヤである。
試験タイヤ3はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約4mmで、センター部7が摩耗気味で、ショルダー部6は残っている形態のタイヤである。
試験タイヤ4はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約2mmで、スリップサインに近いレベルまでほぼ均等に摩耗したタイヤである。
上記試験タイヤ1〜4を、フラットベルト試験機上で時速40kmにて走行させ、タイヤ径方向の加速度を計測し、上記加速度の微分波形を用いて踏込み側ピークのレベルを算出した。用いたタイヤはサイズが205/65R15のタイヤで、そのときの内圧は230kPaである。また、荷重については、3〜7kNまで1kNおきに変化させた。
図5のグラフは荷重(kN)を変化させたときの、上記各試験タイヤ1〜4の踏込み側ピークのレベル(G/sec.)をプロットしたものである。このグラフから、踏込み側ピークのレベルは、若干の荷重依存性はあるものの、摩耗の度合Mが進むほど踏込み側ピークのレベルの絶対値が大きくなっていることが分かる。
また、同図の□印で示す試験タイヤ2と△印で示す試験タイヤ3とは摩耗の形態が異なっているが、摩耗の形態が異なっていてもその差は少なく、試験タイヤ2と試験タイヤ3のラインは、同図の◆印で示す新品タイヤのラインと×印で示す残溝約2mmのタイヤのラインとのほぼ中間に位置している。また、センター摩耗量は同じでショルダーがより摩耗している、すなわち、トレッド全体としてはより摩耗している試験タイヤ2の変形速度の方が、試験タイヤ3より大きくなっている。したがって、トレッドのタイヤ径方向の加速度の微分波形を用いて算出した踏込み側ピークのレベルを算出し、これを変形速度の指標Vとしてタイヤの摩耗を推定すれば、摩耗の形態が異なっていても安定して摩耗レベルを推定できる。また、上記図5のグラフを用いて荷重による補正を行えば、摩耗レベルの推定精度を更に向上させることができる。
ところで、タイヤ速度が大きくなると変形への遠心力の影響が大きくなり、その結果、接地長Lと荷重Wとの関係も変ってくる。そこで、推定を行う際のタイヤ速度の上限値を定め、低速側で推定する方が安定した摩耗推定が実現できる。また、摩耗の進展は非常に遅いため、高速走行時に推定できなくても実用上は何ら問題はない。タイヤの種類にもよるが、タイヤの動半径への遠心力の影響が大きくなるのは100km/hr以上であるので、100km/h以下で測定することが好ましい。なお、上記試験をタイヤ速度を変えて行ったところ、時速100kmまでの範囲では各ラインは動かず安定していることが確認された。
また、加速度センサ11はタイヤ接地面に露出しないので、耐久性に優れるとともに、グリップ力などのタイヤ性能を損なうことなく、タイヤの摩耗を推定することができる。
このグラフから、蹴り出し端側のピークレベルは、若干の荷重依存性はあるものの、摩耗の度合Mが進むほど踏込み側ピークのレベルが大きくなっていることが分かる。したがって、蹴り出し端側のピークレベルを算出してこれを変形速度の指標Vとしても、タイヤの摩耗の度合を精度よく推定することができる。
また、上記例では、タイヤトレッド3のタイヤ径方向の加速度を検出して変形速度の指標Vを算出したが、加速度センサ11の検出方向をタイヤ周方向として、トレッドのタイヤ接地面端部のタイヤ周方向加速度を検出するようにしてもよい。
図7はタイヤ周方向加速度の時系列波形を示す図で、タイヤ周方向加速度を用いる場合には、微分波形のピークではなく、周方向加速度波形に現れる踏み込み端側のピークレベルもしくは蹴り出し端側のピークレベルをそのまま用いればよい。この場合、加速度の方向は周方向であるが、その大きさは、タイヤ径方向の変形速度に連動して変化しているので、上記タイヤ周方向加速度もタイヤ径方向の変形速度の情報である。
図8(a)のグラフは,荷重(kN)を変化させたときの、上記各試験タイヤ1〜4の踏み込み端側ピークのレベルをプロットしたもので、図8(b)のグラフは蹴り出し端側ピークのレベルをプロットしたものである。試験方法については、上記例と同様である。
これらのグラフから、踏み込み端側のピークレベルも蹴り出し端側のピークレベルも、若干の荷重依存性はあるものの、摩耗の度合が進むほどピークのレベルの絶対値が大きくなっていることが分かる。したがって、タイヤ周方向加速度の時系列波形からその踏み込み端側のピークレベル、もしくは、蹴り出し端側のピークレベルを算出してこれを変形速度の指標Vとしても、タイヤの摩耗の度合を精度よく推定することができる。
また、上記踏み込み端側のピークレベルと蹴り出し端側のピークレベルの両方を算出し、踏み込み端側のピークレベルの絶対値と蹴り出し端側のピークレベルの絶対値の和、もしくは、踏み込み端側のピークレベルの絶対値と蹴り出し端側のピークレベルの絶対値との平均値を変形速度の指標Vとしてもよい。
また、上記例では、車輪速センサ12を用いて当該タイヤの速度を検出するようにしたが、車体側に速度センサもしくは加速度センサを設けて車体速度を計測し、この車体速度から接地長を求めるようにしてもよい。
上記加速度波形のピークもしくは微分波形のピークは、タイヤの1回転毎に繰り返し現れるので、上記ピークの時間間隔と当該タイヤの回転長さ係数とを用いてタイヤ速度を算出するようにしてもよい。
上記最良の形態1では、加速度センサ11により検出したタイヤ径方向加速度の微分波形からタイヤのトレッドの接地端部における変形速度の指標Vを算出し、タイヤの摩耗の度合を推定したが、上記タイヤ径方向加速度波形からトレッドの膨出点におけるタイヤ径方向の変形量の指標Yを算出し、この変形量の指標Yからタイヤの摩耗の度合を推定することも可能である。
図10は、タイヤのサイズが205/65R15の夏用タイヤを、速度40km/hr、荷重5kN、内圧230kPaの条件で、フラットベルト試験機上で走行させたときのトレッドのタイヤ径方向加速度波形を比較した図である。横軸は時間[sec.]で、縦軸は径方向の加速度の大きさ[G]で、同図の実線が上記試験タイヤ1と同じ新品タイヤのデータで、同図の破線が上記試験タイヤ4と同じ摩耗品タイヤである。
プラス側の2つのピーク近傍は接地面外であり、トレッドがタイヤ外側に変形するような力を受けていることから、これら2つのピークは上記膨出点である。この膨出点のレベルはトレッドが受ける力の大きさ、すなわち、トレッドのタイヤ接地端部側の変形量に比例するので、上記トレッドのタイヤ径方向加速度波形の踏み込み端側のピークレベル、もしくは、蹴り出し端側のピークレベルを算出し、これをトレッドのタイヤ接地端部側の変形量の指標Yとすれば、上記指標Yは、図10に示すように、タイヤの摩耗の度合が大きい程大きくなるので、変形量の指標Yからタイヤの摩耗の度合を推定することができる。
タイヤ摩耗推定装置20を上記のような構成にすることにより、加速度センサ11により検出したタイヤ径方向加速度波形を用いてタイヤのトレッドの変形量の指標Yを算出して、タイヤの摩耗の度合を推定することができる。
上記M−Yマップ26Bを作製するための、タイヤの摩耗の度合Mと変形速度の指標Yの値であるタイヤ径方向加速度波形の踏込み側ピークのレベルとの関係については、上記最良の形態1と同様に、上述した4種の試験タイヤ1〜4を用いて求めることができる。
また、加速度センサ11に代えて、歪センサを設け、タイヤ周方向歪波形を検出してタイヤの摩耗を推定するようにしてもよい。この場合には、図9(a)に示した周方向歪波形のピークのうちの負側のピークレベルを当該タイヤの径方向変形量の指標Yとし、この変形量の指標Yを用いてタイヤの摩耗の度合を推定するようにすればよい。
図12は、本最良の形態3に係るタイヤ摩耗推定装置30の構成を示す機能ブロック図で、同図において、11は加速度センサ、32は加速度微分波形演算手段、33は変形速度算出手段、34は回転時間算出手段、35は接地時間算出手段、36は接地時間比算出手段、37は基準化変形速度指標算出手段、38は記憶手段、39はタイヤ摩耗推定手段である。
加速度センサ11は、上記最良の形態1,2と同じ、タイヤトレッド内面の加速度を検出するセンサで、この加速度センサ11が本発明のタイヤ摩耗推定装置30のセンサ部30Aを構成し、上記加速度微分波形演算手段32から摩耗推定手段39までの各手段が演算部30Bを構成する。
本例では、図2に示すように、上記加速度センサ11を、タイヤ1のインナーライナー部2のタイヤの幅方向中心に、その検出方向がタイヤ径方向になるように配置し、タイヤトレッド(以下、トレッドという)3の内面に作用するタイヤ径方向加速度を検出する。また、上記演算部30Bは図示しない車体側に配置されている。
上記加速度センサ11の出力信号を上記演算部30Bに送る構成としては、例えば、図2に示すように、インナーライナー部2もしくはホイール4に送信器11Fを設置して、上記加速度センサ11の出力信号を図示しない増幅器で増幅した後、無線にて上記車体側に配置された演算部30に送信する構成とすることが好ましい。なお、上記演算部30Bをタイヤ1側に設けてタイヤ摩耗推定手段39の判定結果を車体側の図示しない車両制御装置に送信する構成としてもよい。
変形速度算出手段33は、上記径方向加速度の微分波形に現れる2つのピーク(図14に示す、踏み込み端側ピークPfと蹴り出し端側のピークPk)の値である微分ピーク値をそれぞれ算出する。本例では、上記踏み込み端側ピークPfの微分ピーク値を踏み込み端側におけるトレッドの変形速度Vtfとし、上記蹴り出し端側ピーク値Pkの微分ピーク値を蹴り出し端側におけるトレッドの変形速度Vtkとした。
回転時間算出手段34は、上記2つのピークのうちの蹴り出し端側のピークが現れた時間T1とこの蹴り出し端側のピークがタイヤ1が1周してから再び現れるまでの時間T2との時間差Tr=T2−T1を算出する。この時間差Trが当該タイヤの一周に要する回転時間である。以下、上記Trを回転時間という。
接地時間算出手段35は、トレッド3の接地端における変形に対応する2つのピーク間の時間である接地時間Ttを算出する。
接地時間比算出手段36は、上記接地時間Ttを上記回転時間Trで除算して接地時間比を算出する。本例では、上記接地時間比を接地長の指標Ltとしている。
基準化変形速度指標算出手段37は、上記変形速度算出手段33で算出された踏み込み端側及び蹴り出し端側の変形速度Vtf,Vtkを上記回転時間算出手段34で算出した回転時間Trの情報を用いてそれぞれ基準化して、踏み込み端側の基準化変形速度Vn tfと蹴り出し側の基準化変形速度Vn tkとを算出するとともに、上記踏み込み端側の基準化変形速度Vn tfと蹴り出し側の基準化変形速度Vn tkとを平均化して、基準化した変形速度の指標(基準化変形速度指標)Vn tを算出する。
記憶手段38は、予め求めた、タイヤの摩耗の度合いMごとの、基準化された変形速度の指標Vn t(M)と接地長の指標Lt(M)との関係を示すマップ(V(M)−Lマップ)38Mを記憶する。
タイヤ摩耗推定手段39は、上記基準化変形速度指標算出手段37で算出した基準化変形速度指標Vn tと上記接地時間比算出手段36で算出した接地長の指標Ltと、上記マップ38Mとから、当該タイヤの摩耗の度合いMを推定する。
まず、加速度センサ11により、トレッド3の変形に伴って変形する上記インナーライナー部2の内面のタイヤ径方向の加速度を検出し、図示しない増幅器で増幅した後、上記インナーライナー部2に設置された送信器11Fから車体側に配置された演算部30Bに送信する。演算部30Bの加速度微分波形演算手段32では、上記検出された径方向加速度の時系列波形を時間微分して径方向加速度の微分波形を求める。なお、この径方向加速度の微分波形も時系列波形である。
図13は、インナーライナー部のタイヤ幅方向中心に加速度センサが取り付けられた、サイズが205/65R15の夏用タイヤを、速度40km/hr、荷重5kN、内圧230kPaの条件で、フラットベルト試験機上で走行させたときに上記加速度センサで検出した径方向加速度波形の一例を示す図で、横軸は時間[sec.]、縦軸は径方向加速度の大きさ[G]である。加速度の値がプラスの場合にはタイヤ外側に加速度が発生しており、マイナスの場合にはタイヤ中心方向に加速度が発生している。この加速度は、タイヤトレッドが径方向に受けている力にほぼ比例して発生しており、径方向の変形量に比例している。上記径方向加速度波形のプラス側の2つのピークpf,pk近傍は接地面外であり、トレッド3がタイヤ外側に変形するような力を受けていることから、上記2つのピークpf,pkは膨出点であり、これら2つのピークpf,pkのレベルは接地面外のトレッド変形量に対応する指標である。
また、図14は上記径方向加速度の微分波形を示す図で、横軸は時間[sec.]で、縦軸は径方向の加速度の微分値[G/sec.]である。この微分波形の2つのピークPf,Pkは、トレッド3の受けている径方向の力が最も変化している点である。上記ピークPf,Pkのレベル(ピーク値)はそれぞれタイヤ1の踏み込み端と蹴り出し端の変形速度に対応している。
上記径方向加速度の微分波形のデータは、変形速度算出手段33、回転時間算出手段34、及び、接地時間算出手段35にそれぞれ送られる。
変形速度算出手段33では、上記微分波形の2つのピークPf,Pkの値(以下、微分ピーク値という)Vtf,Vtkをそれぞれ算出して、これらのデータを、踏み込み端側及び蹴り出し端側におけるにおけるトレッドの変形速度Vtf,Vtkとして基準化変形速度指標算出手段37に送る。
なお、ピーク検出においては、加速度センサ11の感度にもよるが、適度なローパスフィルタを掛けてからピーク検出する方がデータが安定する。すなわち、より安定した摩耗推定をすることができる。また、上記ピークPf,Pk間の時間間隔はタイヤの回転速度によって大きく変化する。そこで、上記ローパスフィルタの周波数をタイヤの回転速度に応じて変える方が、各速度における波形形状を同様にすることができるので、より安定した推定を行うことができる。また、変形速度としては、上記ピーク値の代わりに、ピーク近傍の特定範囲の微分値、特に、上記ピークを中心としたピーク周辺の微分値を平均化したものを用いてもよい。
一方、回転時間算出手段34では、上記蹴り出し端側のピークPkが現れた時間T1と、タイヤ1が1回転して、上記蹴り出し端側のピークPkが再び現れるまでの時間T2との時間差Trを算出し、このデータを当該タイヤ1の回転時間Trとして上記基準化変形速度指標算出手段37に送る。なお、タイヤ1の回転時間Trは踏み込み端側のピークPfを用いても算出してもよい。
また、接地時間算出手段35では、上記2つのピークPf,Pkの時間間隔Ttを算出し、このデータを当該タイヤの接地時間Ttとして、接地時間比算出手段16に送る。
このように、本例では、上記加速度センサ11により検出したタイヤ径方向の加速度から、トレッド3の変形速度Vtf,Vtkと当該タイヤ1の回転時間Trと、当該タイヤの接地時間Ttとを算出することができる。
試験タイヤ1は新品タイヤで、図2に示すセンターに近い位置の周方向溝5の溝深さは約8mmである。
試験タイヤ2はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約4mmで、かつ、ショルダー部6が摩耗気味のタイヤである。
試験タイヤ3はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約4mmで、センター部7が摩耗気味で、ショルダー部6は残っている形態のタイヤである。
試験タイヤ4はセンターに近い位置の周方向溝5の残溝深さが約2mmで、スリップサインに近いレベルまでほぼ均等に摩耗したタイヤである。
なお、これらの試験タイヤ1〜4は上記最良の形態1で用いた試験タイヤと同様である。
図15は、上記4種類の試験タイヤを用い、荷重5kNとし、タイヤ回転速度Wrを40,80,120km/hrと変化させたときのタイヤ回転速度Wrとトレッドの踏み込み端側の変形速度Vtfとの関係を摩耗の度合いMごとに調べた結果を示すグラフである。同図に示すように、トレッドの変形速度Vtはタイヤ回転速度Wrにより大きく変化している。
本例では、上記踏み込み端側の変形速度Vtfを上記回転時間算出手段34で算出した回転時間Trを用いて基準化して基準化変形速度Vn tfを算出し、この基準化変形速度Vn tfを用いてタイヤの摩耗度合いMを推定するようにしている。上述したように、変形速度は、タイヤの回転時間Trの3乗に反比例するので、本例では、下記の式(1)を用いて上記踏み込み端側における基準化変形速度Vn tfを算出する。
Vn tf=Vtf・Tr 3 …… (1)
蹴り出し端側における基準化変形速度Vn tkについても同様に算出する。
タイヤの摩耗度合いMを推定するための基準化変形速度指標としては、上記踏み込み端側の基準化変形速度Vn tf、もしくは、蹴り出し端側の基準化変形速度Vn tkを用いてもよいが、本例では、下記の式(2)を用いて平均基準化変形速度を算出し、これを基準化変形速度指標Vn tとした。
Vn t=(|Vn tf|+|Vn tk|)/2 …… (2)
このように、基準化変形速度指標Vn tとして、踏み込み端側と蹴り出し端側の平均値である平均基準化変形速度を用いれば、タイヤ1に作用する前後力やタイヤ1の姿勢角の影響を受けにくくなるので、より安定した推定を行うことができる。なお、上記基準化変形速度指標Vn tの算出にVn tfの絶対値とVn tkの絶対値とを用いたのは、トレッドの変形速度Vtの符号が踏み込み端側と蹴り出し端側とで正負逆になるからである。
図16は、タイヤ回転速度Wrと上記算出された基準化変形速度指標Vn tとの関係を示す図である。基準化変形速度指標Vn tは、タイヤ回転速度Wrが80km/hrまではほぼ一定の値となっており、摩耗が進むほど変形速度の指標である基準化変形速度指標Vn tの値は大きくなっている。タイヤ回転速度Wrが120km/hrになると、基準化変形速度指標Vn tの値はやや低下している。これは、遠心力の影響が大きくなり、タイヤの動半径が変化していることが影響していると考えられる。但し、摩耗は、時間的には非常に遅い変化であるので、必ずしも常時モニタリングする必要はないと考えられるので、摩耗を推定する速度を低速側に限定しても問題はない。そこで、摩耗の推定をタイヤ回転速度Wrが100km/hr以下の領域、更に好ましくは、80km/hr以下の領域で行うようにすれば、安定して摩耗の推定を行うことができる。
但し、図16からわかるように、残溝量が同じ4mmでも摩耗形状が異なる試験タイヤ2と試験タイヤ3とでは、基準化変形速度指標Vn tの値が異なっていることから、センサ装着部、すなわち、センター部近辺の摩耗量を推定するには、摩耗形状により誤差が発生する可能性がある。また、図示はしないが、荷重が変わると撓み量が変わるので、基準化変形速度指標Vn tの値も変化する。そこで、これらの影響を少なくするため、接地長の指標Ltの情報も推定に使用する。上記接地長の指標Ltは接地時間比算出手段36にて算出する。本例では、上記接地時間Ttを上記回転時間算出手段14で算出された回転時間Trで除算して得られる接地時間比R=(Tt/Tr)を接地長の指標Ltとした。タイヤ摩耗推定手段19では、上記接地長の指標Ltのデータと上記基準化変形速度指標Vn tのデータとを用いてタイヤの摩耗を推定する。
すなわち、タイヤ摩耗推定手段39にて、上記基準化変形速度指標算出手段37で算出した基準化変形速度指標をVn t、上記接地時間比算出手段36で算出した接地長の指標をLtとしたとき、(Lt,Vn t)が、上記マップ38Mの、摩耗の度合いMにより異なる複数のラインのうちのどのライン上に乗るか、あるいは、上記複数のラインのうちのどのラインとどのラインとの間にあるか調べれば、当該タイヤの摩耗の度合いMを精度よく推定することができる。
また、トレッド3の変形速度Vtj(j=f,k)は、タイヤの回転時間Trの3乗に反比例するので、基準化変形速度Vn tjを式Vn tj=Vtj・Tr 3を用いて算出すれば、タイヤ回転速度Wrの影響の極めて少ない基準化変形速度Vn tjを得ることができる。
更に、本例では、加速度センサ11の出力から上記変形速度Vtj、回転時間Tr、及び、接地時間Ttを算出することができるので、装置を小型化することができるとともに、信号処理回路も簡素化できる。
また、上記加速度センサ11はタイヤ接地面に露出しないので、耐久性に優れるとともに、グリップ力などのタイヤ性能を損なうことなく、タイヤの摩耗を推定することができる。
また、上記例では、予め求めた、タイヤの摩耗の度合いMごとの、基準化された変形速度の指標Vn t(M)と接地長の指標Lt(M)との関係を示すV(M)−Lマップ38Mを用いて当該タイヤの摩耗の度合いMを推定したが、上記計測された接地長の指標Lt(M)と上記基準化した変形速度の指標Vn t(M)との相関式を求め、この相関式の係数の大きさ、あるいは、その使用初期からの変化量に基づいて当該タイヤの摩耗の度合いMを推定するようにしてもよい。上記図17に示したタイヤの摩耗の度合いMごとのラインは直線性が高いので、上記相関式としては1次近似でも十分である。例えば、1次近似の場合には、a,bを定数として、Vn t(M)=a・Lt(M)+bとする。そして、上記aの値を予め固定し、bの値によって摩耗の度合いMを推定する。なお、場合によっては、多項式近似や指数近似などの推定精度の高い相関式を用いてもよい。
また、上記例では、トレッド3の変形速度をタイヤの回転時間Trを用いて基準化したが、タイヤ回転速度Wrを用いて基準化してもよい。すなわち、トレッド3の変形速度の指標Vtj(j=f,k)はタイヤ回転速度Wrの3乗に比例するので、上記変形速度の指標Vtj(j=f,k)を、上記タイヤ回転速度Wrで除算してやればよい。上記タイヤ回転速度Wrは、例えば、荷重負荷状態でタイヤが1回転する長さである回転長さ係数Sを上記回転時間Trで除算するなどして求めることができる。
また、上記例では、接地時間算出手段35で算出した接地時間Ttを回転時間算出手段34で算出された回転時間Trで除算して得られた接地時間比を接地長の指標Ltとしたが、上記接地時間Ttを接地長の指標Ltとしてもよい。あるいは、接地面のタイヤ周方向の長さLを接地長の指標Ltとしてもよい。なお、上記接地面のタイヤ周方向の長さ(接地長)Lは、上記接地時間Ttに上記タイヤ回転速度Wrを乗算して求めることができる。
Claims (26)
- トレッドのタイヤ接地端部におけるタイヤ径方向の変形速度の情報、もしくは、タイヤ膨出点におけるタイヤ径方向の変形量の情報を用いて当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とするタイヤ摩耗推定方法。
- タイヤのインナーライナー部に配置されたセンサからの入力情報に基づいて、トレッドのタイヤ接地端部におけるタイヤ径方向の変形速度の指標を算出し、この算出された指標の大きさをタイヤ接地端部における変形速度の情報とすることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記センサを加速度センサとするとともに、この加速度センサで検出されたタイヤトレッド部の径方向加速度の時系列波形を用いて、上記変形速度の指標を算出することを特徴とする請求項2に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記タイヤ径方向加速度の時系列波形を時間微分して得られる時間微分波形のピークの大きさである微分ピーク値、上記ピーク周辺の微分値の平均値、または、上記ピークの位置を上記タイヤトレッドの接地端としたときの、上記タイヤ径方向加速度の時系列波形における上記接地端もしくは接地端近傍の傾きを算出し、これらのいずれかを上記変形速度の指標とすることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 当該タイヤの摩耗の度合いを推定する変形速度の指標を、接地面の踏み込み端または踏み込み端の近傍における変形速度の指標と接地面の蹴り出し端または蹴り出し端の近傍における変形速度の指標との平均値としたことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記加速度センサで検出されたタイヤトレッド部の径方向加速度の時系列波形を用いて、タイヤトレッドの接地端または上記接地端の近傍のタイヤ径方向の変形速度の指標を計測し、この計測された変形速度の指標を、当該タイヤの回転時間の情報、もしくは、当該タイヤの回転速度の情報に基づいて基準化し、上記基準化された変形速度の指標の大きさから当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記計測された変形速度の指標に当該タイヤの回転時間の3乗値を乗算して上記変形速度の指標を基準化することを特徴とする請求項6に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記計測された変形速度の指標を当該タイヤの回転速度の3乗値で除算して上記変形速度の指標を基準化することを特徴とする請求項6に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記タイヤの回転時間または回転速度を、上記加速度センサから出力される信号を用いて算出することを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記加速度センサから出力される加速度の時系列波形、または、上記加速度の時系列波形の時間微分波形または時間積分波形に出現するピークが発生した時間から、タイヤが1回転した後に同じ位置にピークが発生するまでの時間を計測し、この計測された時間を当該タイヤの回転時間とすることを特徴とする請求項9に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 回転長さ係数を上記回転時間で除算した値を当該タイヤの回転速度としたことを特徴とする請求項9に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記変形速度の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係を予め求めておき、この予め求めておいた変形速度の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係と、上記算出された変形速度の指標とを比較して当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項2〜請求項11のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 当該タイヤの接地長の指標を計測し、上記計測された接地長の指標と上記基準化した変形速度の指標とに基づいて当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項6〜請求項12のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- タイヤの摩耗の度合いに応じた基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係を予め求めておき、上記基準化した変形速度の指標と、上記計測された接地長の指標と、上記予め求めておいた上記基準化した変形速度の指標と接地長の指標との関係とを比較して、当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項13に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記計測された接地長の指標と上記基準化した変形速度の指標との相関式を求め、この相関式の係数の大きさに基づいて当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項13に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記接地長の指標がトレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間であることを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記接地長の指標がトレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間を回転時間で除算した接地時間比であることを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記接地長の指標が接地面のタイヤ周方向長さであることを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- トレッドのある部分が路面と接触している時間である接地時間に回転速度を乗算した値を上記接地面のタイヤ周方向長さとしたことを特徴とする請求項18に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記加速度センサから出力される信号を用いて上記接地長の指標を算出することを特徴とする請求項13〜請求項19のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記加速度センサによりタイヤ径方向加速度を検出するとともに、上記検出されたタイヤ径方向加速度の時系列波形を時間微分して得られる時間微分波形の2つのピーク間の時間を計測してこれを接地時間とし、このように計測された接地時間を用いて接地長の指標を算出することを特徴とする請求項20に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- タイヤトレッド部に配置されたセンサからの入力情報に基づいて、トレッドのタイヤ膨出点におけるタイヤ径方向の変形量の指標を算出し、この算出された指標の大きさをタイヤ膨出点における変形量の情報とすることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記センサを加速度センサとするとともに、この加速度センサで検出されたタイヤトレッド部の径方向加速度の時系列波形を用いて、上記変形量の指標を算出することを特徴とする請求項22に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記径方向加速度の時系列波形のピークレベルを算出し、この算出されたピークレベルを上記変形量の指標とすることを特徴とする請求項23に記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記変形量の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係を予め求めておき、この予め求めておいた変形量の指標とタイヤの摩耗の度合いとの関係と、上記算出された変形量の指標とを比較して当該タイヤの摩耗の度合いを推定することを特徴とする請求項22〜請求項24のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
- 上記摩耗の度合いの推定を行うタイヤ速度の上限値を100km/hr以下としたことを特徴とする請求項1〜請求項25のいずれかに記載のタイヤ摩耗推定方法。
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