図1は、本発明の実施形態に係る除熱装置1の全体構成を示す図である。除熱装置1は、液状の冷媒RLを貯留する貯液槽3と、貯液槽3等の冷媒を送出するポンプ5と、ポンプ5から送出された冷媒により除熱対象物HO(図2A〜図2C参照)を除熱する除熱部12と、除熱部12から流出した気体状の冷媒を凝縮する凝縮部14と、凝縮部14から流出した冷媒を気体状の冷媒と液状の冷媒とに分離する気液分相器19と、気液分相器19から流出した冷媒をポンプ5のキャビテーション防止のために過冷却する過冷却部21とを備える。過冷却部21により過冷却された冷媒は、ポンプ5により送出され、あるいは、貯液槽3に貯留される。
貯液槽3は、例えばアキュムレータにより構成されており、除熱装置1の循環系の圧力を所定の圧力に保つほか、負荷変動に応じた流体温度微調整にも用いられる。ポンプ5は、モータ6により駆動され、モータ6の動作は制御器7により制御される。凝縮部14は、例えば空冷式であり、冷媒と熱交換を行う空気がファン15により送り込まれる。ファン15はモータ16により駆動され、モータ16の動作は制御器17により制御される。過冷却部21は、例えば空冷式であり、冷媒と熱交換を行う空気がファン22により送り込まれる。ファン22はモータ23により駆動され、モータ23の動作は制御器24により制御される。
ポンプ5と除熱部12との間には、除熱部12に流入する液状の冷媒RLの流量を検出する流量センサ9と、除熱部12に流入する液状の冷媒RLの温度を検出する温度センサ10とが設けられている。制御器7は流量センサ9の検出結果に基づいてモータ6の動作を制御し、制御器17は温度センサ10の検出結果に基づいてモータ16の動作を制御し、制御器24は温度センサ10の検出結果に基づいてモータ23の動作を制御する。
除熱部12では、除熱対象物HOから熱量Qの熱を冷媒に吸収させて除熱が行われ、凝縮部14及び過冷却部21では、冷媒により吸収された熱量Q1及びQ2の熱がそれぞれ放出される。なお、配管からの熱損失がないとすれば、Q=Q1+Q2である。
図2A〜図2Cは、除熱部12の構成を模式的に示す図であり、図2Aは一部透視して示す斜視図、図2Bは図2AのIIb−IIb線矢視方向における断面図、図2Cは図2Aにおいて実線で囲んだ領域Eを拡大して示すx方向から見た断面図である。なお、便宜上、z方向を上下方向として表現する場合があるが、除熱部12は、その大きさ等の種々の条件によっては、x方向、y方向、z方向のいずれが上下方向になっても一定の除熱効果を発揮できるものである。
除熱部12は、除熱対象物HOに隣接して設けられる除熱用流路31と、除熱用流路31に液状の冷媒を供給する液体供給用流路32とを備えている。なお、液体供給用流路32は、あるいは、液体供給用流路32に加え、ポンプ5等を含む冷媒送出系は、本発明の液体供給部の一例である。
除熱用流路31は、例えば除熱対象物HOに当接して設けられた第1板状部34と、第1板状部34に対向配置される第2板状部35と、第1板状部34及び第2板状部35の間に配置され、除熱用流路31の流路方向(冷媒の流れ方向、流路の長さ方向、y方向)に互いに平行に延びる2本のパイプ36とにより、これらの部材に囲まれた領域に形成されている。なお、第1板状部34側だけでなく、第2板状部35側にも除熱対象物を配置してもよい。また、パイプ36に代えて、矩形ダクト等、適宜な断面形状の中空体を用いてよい。除熱用流路31のうち、流路方向の一端(y方向の正側)は開口しており、凝縮部14に接続されている。流路方向の他端は、不図示の壁部によって塞がれている。
第1板状部34、第2板状部35、パイプ36は、金属や樹脂などの適宜な材料により形成してよい。第1板状部34及び第2板状部35と、パイプ36とは、接着剤や半田を用いて接合したり、溶接や融着により接合するなど、適宜に接合してよい。
液体供給用流路32は、パイプ36により、パイプ36の内部に形成されている。液体供給用流路32の位置は、z方向に見て除熱対象物HOに重なる位置でも重ならない位置でもよい。パイプ36の一方の端部36bは開口しており流入口37が形成されている。端部36bはポンプ5に接続されている。なお、パイプ36の他方の端部36cは塞がれている。また、パイプ36のうち、除熱用流路31と液体供給用流路32とを隔てる壁部36aには、除熱用流路31の流路方向(y方向)の複数位置に、除熱用流路31と液体供給用流路32とを連通する連通孔38が設けられている。連通孔38は本発明の冷媒通過部の一例である。複数の連通孔38は、例えば、互いに同じ径であり、また、等間隔で設けられている。
第1板状部34には、除熱用流路31の内周面を形成する面に、除熱用流路31の流路方向に直交する方向(幅方向、x方向)に延びる溝部40が形成されている。溝部40は、除熱用流路31の流路方向に複数設けられており、例えば、複数の連通孔38と同位置に複数の連通孔38と同数設けられている。
図3は、除熱部12における除熱方法を説明する図である。図3では、平面図を紙面左側に示し、平面図のy1〜y3の位置における断面図を、y1〜y3の位置の紙面右側に示している。
除熱部12では、図2Aにおいて矢印A1で示すように、ポンプ5により送出された液状の冷媒RLが流入口37から液体供給用流路32に流し込まれる。液体供給用流路32に流し込まれた液状の冷媒RLは、図2Aの矢印A2及び図3の矢印A5で示すように、連通孔38から除熱用流路31に流れ込む。
除熱用流路31に流れ込んだ液状の冷媒RLは、図3の紙面右側の断面図に示すように、除熱用流路31の第1板状部34側の内周面に液膜を形成する。連通孔38が除熱用流路31の流路方向の複数位置に設けられていることから、冷媒RLの液膜は、除熱用流路31の上流側から下流側まで、流路方向の全体に亘って形成される。
そして、図3の紙面右側の断面図において矢印A6で示すように、第1板状部34には除熱対象物HOからの熱が伝達され、冷媒RLの液膜は蒸発して気体状の冷媒RGとなる。換言すれば、冷媒は略潜熱相当分の熱を除熱対象物HOから吸収する。
除熱用流路31の気体状の冷媒RGは、図2Aの矢印A3で示すように、開口端部から流出して凝縮部14に流れ込む。なお、気体状の冷媒RGを排気するファン等の排気手段を流路内に設けてもよい。
除熱用流路31において液膜が形成されるようにするためには、以下のように各種パラメータの設定や制御を行えばよい。
除熱用流路31においては、以下の(1)式が成立する。
ρl×dV/dt×(Cpl×(Ts−Tin)+hfg×Xout)=Q …(1)
ここで、
Q:単位時間当たりの除熱量(W)
ρl:液状の冷媒の密度(kg/m3)
dV/dt:液状の冷媒の単位時間当たりの除熱用流路への供給量(m3/s)
Cpl:液状の冷媒の定圧比熱(J/kgK)
Ts:除熱用流路における冷媒の飽和温度(K)
Tin:液状の冷媒の除熱用流路への供給時における温度(K)
hfg:冷媒の蒸発潜熱(J/kg)
Xout:除熱用流路の冷媒の全流量に対する蒸発流量の質量割合
である。
(1)式より、下記の(2)式が得られる。
Xout=((Q/(ρl×dV/dt)−Cpl×(Ts−Tin))/hfg …(2)
従って、除熱装置1では、Xoutが所定値になるように各種パラメータを設定すれば、除熱用流路31に液膜を形成することができる。好適に液膜が形成されるXoutの範囲の一例を示せば、0.2以上かつ1以下である。
Qは、除熱対象物HOにおいて必要とされる除熱量によって決定される。ρl、Cpl、hfgは、冷媒の構成成分の選択や作動圧力の選択により調整できる。dV/dt、Tin、Tsは、除熱装置1の設計時において各種手段の構造的態様により調整でき、また、除熱装置1の稼動時において各種手段の動作により調整できる。
除熱装置1の稼動時におけるXoutの制御は、例えば、以下のように行われる。
dV/dtは流量センサ9により検出される。制御器7は、流量センサ9の検出値に基づいて、dV/dtが所定の目標値に近づくように、モータ6を介してポンプ5の動作を制御する。すなわち、制御器7によりdV/dtのフィードバック制御が行われ、ひいてはXoutの制御が行われる。
Tinは、温度センサ10により検出される。制御器17は温度センサ10の検出値に基づいて、Tinが所定の目標値に近づくように、モータ16の動作を制御する。また、制御器24も温度センサ10の検出値に基づいて、Tinが所定の目標値に近づくように、モータ23の動作を制御する。すなわち、制御器17及び制御器24により、Tinはフィードバック制御され、ひいてはXoutの制御が行われる。
なお、制御器17(凝縮部14)と、制御器24(過冷却部21)とは、Tinの制御において適宜に役割分担してよい。例えば、稼動開始時には、凝縮部14においてTinのフィードバック制御を行うとともに過冷却部21における冷却は停止することとし、冷媒の温度が所定の温度以上に上昇したときには、凝縮部14においてモータ16の回転を一定として冷却効率を一定とするとともに過冷却部21においてTinのフィードバック制御を行うようにする。
Tsは除熱用流路31における圧力により決定される。従って、Tsはファン15、22による放熱量の影響を強く受ける。しかし、dV/dtの調整によって凝縮部14や過冷却部21での熱伝達を変化させれば、冷媒の膨張率等を制御し、間接的にTsを制御することができる。また、例えば除熱用流路31に圧力センサを設けるとともに凝縮部14への流路に圧力調整弁を設け、圧力センサの検出結果に基づいて圧力調整弁の動作を制御するようにしてもよい。
以上の実施形態によれば、除熱対象物HOに隣接して設けられた除熱用流路31の流路方向の複数位置に液状の冷媒RLを供給し、除熱用流路31の内周面に複数位置に亘って冷媒RLの液膜を形成することから、除熱用流路31の上流から下流に亘る広い範囲において液状の冷媒RLを枯渇させることなく、かつ、効率的に冷媒を蒸発させることができる。従って、従来に比較して、顕熱による除熱量に対する潜熱による除熱量の割合が大幅に増加し、大面積からの高熱流束での除熱ができる。冷媒の流量(質量)も低減でき、除熱装置1や除熱用流路31の小型化も図られる。流量が低く抑えられ、また主流路が蒸気で貫通することにより圧損が特許文献1よりも小さく、両者の積で与えられるポンプ能力は大きく低減される。液状の冷媒RLは潜熱により除熱することから、従来のように顕熱や沸騰により除熱する場合に比較して、非常に熱伝達が良く、冷媒RLの温度は、除熱対象物HOの許容温度(除熱後の目標温度)に対して、さほど低くなくてもよい。このため、凝縮部14や過冷却部21に要求される冷却能力を下げることができ、かつ、凝縮部14や過冷却部21においては、その内部を流れる冷媒と外気との温度差が大きくなり、効率的に冷媒の冷却を行うことができるようになることから、凝縮部14や過冷却部21の小型化が図られる。除熱用流路31に気体状の冷媒を流すことを基本としていることから、除熱用流路に液状の冷媒を流す場合に生じる種々の問題も生じない。例えば、特許文献1のように、主流路に副流路の流れが合流して主流路の流れが不安定になるということがない。主流路に生じた気泡を破砕するための部材や装置を設ける必要もない。
除熱装置1は、除熱用流路31に沿って延び、液状の冷媒RLが流れる液体供給用流路32を備え、除熱用流路31と液体供給用流路32とを隔てる壁部36aに、除熱用流路31と液体供給用流路32とを連通する連通孔38が除熱用流路31の流路方向の複数位置に設けられていることから、構成が簡素でありながら、除熱用流路31の流路方向の複数位置に冷媒を供給して液膜を形成することができる。
除熱用流路31の内周面には、除熱用流路31に直交する方向に延びる溝部40が設けられていることから、除熱用流路31に直交する方向において液膜が広がり易く、液体供給用流路32から離れた位置、すなわち、除熱用流路31の中央側位置における冷媒の枯渇が抑制される。なお、溝部40により液状の冷媒が広がる原理は以下のとおりである。液状の冷媒RLは表面張力によって溝部40の側面(傾斜面)に張り付き、溝部40内の液状の冷媒RLの表面は凹状になる。冷媒RLの表面と溝部40の側面との接触角は、除熱用流路31の中央側と側部側(液体供給用流路32側)とで同等であるのに対し、中央側ほど枯渇して冷媒RLの量が少ないから、中央側ほど凹状の表面の曲率は大きくなる。このため、中央側ほど冷媒RLが縮まろうとする力が強くなり、高い気圧とバランスする状態となる。しかし、冷媒RLの表面へかかる気体状の冷媒RGの大きさは、中央側と側部側とで同等である。このため、液体の冷媒RGは、側部側から中央側にかけて負の圧力勾配が生じるので中央側へ自動的に流れる。
図4A〜Cは、本実施形態の除熱装置1の効果を、別の観点から捉えて説明する図である。
図4Aは従来の除熱用流路501における冷媒の様子を示している。従来の除熱用流路501では、液状の冷媒RLは、除熱用流路501の一端から流し込まれ(矢印7A)、他端に向かって流れる。従って、除熱用流路501の流路方向の長さL501が、冷媒が加熱される加熱長さとなる。長さL501が一定の長さを超えると、液状の冷媒RLは蒸発して気体状の冷媒RGになり除熱用流路501の下流側から排出される(矢印A8)。すなわち、除熱用流路501の下流側においては、ドライアウト現象が生じて内周面は枯渇し、冷却能力が著しく低下する。
しかし、図4Bに示すように、本実施形態の除熱用流路31では、除熱用流路31の両側から流路方向に直交する方向に液状の冷媒RLが供給されることから、加熱長さは除熱用流路31の幅の半分の長さL1となる。従って、長さL1を流れる間だけ液状の冷媒RLが枯渇しない量で冷媒RLを供給すれば、除熱用流路31の全面に亘って冷却能力を発揮させることができる。換言すれば、除熱用流路31の流路方向の長さが冷媒RLの枯渇に及ぼす影響は著しく低減され、流路方向の長さの設定の自由度が向上する。
なお、図4Cに示すように、本実施形態の除熱用流路31においても、除熱用流路31の幅が大きくなり、液状の冷媒RLの供給量に対して加熱長さ(L2)が長くなれば、除熱用流路31の中央側において液状の冷媒RLが枯渇することになる。従って、除熱用流路31の幅と液状の冷媒RLの供給量は適宜に設定する必要がある。
図5A〜図5Dは、図4A〜図4Cを参照して説明した加熱長さの観点から、除熱用流路への液体供給方法の変形例を説明する図である。なお、図5A〜図5Dでは、図5Aの矢印A9で示すように、除熱用流路が紙面上下方向の両面(除熱用流路31の第1板状部34側及び第2板状部35側に相当)から加熱される場合について例示する。
図5Aは、断面矩形の除熱用流路41において、矢印A10で示すように、矩形の両側から液体の冷媒が供給される変形例を示している。この変形例では、加熱長さは除熱用流路41の幅の半分の長さL4となる。
図5Bは、断面円形の除熱用流路42において、二股の矢印A11で示すように、円形の対向する2点から液体の冷媒が供給される変形例を示している。この変形例では、加熱長さは除熱用流路42の円周の1/4の長さL5となる。
図5Cは、断面円形の除熱用流路43において、二股の矢印A12で示すように、円形の1点から液体の冷媒が供給される変形例を示している。この変形例では、加熱長さは除熱用流路43の円周の1/2の長さL6となる。
図5Dは、断面円形の除熱用流路44において、二股の矢印A13で示すように、円周上に均等に配置された4点から液体の冷媒が供給される変形例を示している。この変形例では、加熱長さは除熱用流路43の円周の1/8の長さL7となる。
図5A〜図5Dに示したように、液体の供給口を増加させれば加熱長さは短くなり、冷媒の枯渇防止に有利である。ただし、供給口が増加すれば、部品点数や製造工程が増大するおそれがある。従って、除熱用流路の断面形状、液状の冷媒の供給口の位置及び数は、冷媒の飽和温度、除熱対象物の大きさや発熱量等の種々の条件を考慮して設定されることが好ましい。なお、図5A〜図5Dは、除熱用流路の断面形状、供給口の位置や数の組み合わせの例示であり、これ以外にも種々変形してよい。
図6A〜図6Dは、除熱用流路への液体の供給方法の変形例を示す断面図である。なお、図6A〜図6Dにおいて、除熱対象物は、流路のz方向の正側及び負側のうち少なくとも一方側に設けられ、また、除熱用流路の流路方向はy方向である。
図6Aは、断面矩形状の流路に壁部47を設け、当該流路を除熱用流路45と、液体供給用流路46とに分割した変形例を示している。壁部47には除熱用流路45の流路方向(y方向)の複数位置に不図示の連通孔が設けられ、矢印A15で示すように、液体供給用流路46から連通孔を介して除熱用流路45に液状の冷媒が供給される。なお、この変形例では、壁部47を設けることにより、簡単に除熱用流路45及び液体供給用流路46を構成することができる。
図6Bは、除熱用流路49の両側にノズル50を設けた変形例を示している。ノズル50は、除熱用流路49の流路方向(y方向)の複数位置に設けられている。液状の冷媒は、矢印A17で示すように、ノズル50により除熱用流路49に供給される。この変形例では、ノズル50の向きの調整により液体の供給方向を調整でき、ノズル50の先端50aの位置を、除熱用流路49の流路方向に直交する方向(x方向)において調整することにより液体の供給位置を調整できる。複数のノズル50の向き、位置、流量を互いに異なる設定にすることもできる。従って、除熱装置の使用環境等に応じた設定変更が容易である。
図6Cは、矩形の流路の内部両端にパイプ51を設け、パイプ51の外側に除熱用流路52を、パイプ51の内部に液体供給用流路53を形成した変形例を示している。この変形例では、図2Aに示した実施形態と同様に、パイプ51に形成された複数の連通孔から除熱用流路52に液体の冷媒が供給される(矢印A19)。この変形例では、パイプ51を、矩形の流路に挿通するだけで除熱用流路52及び液体供給用流路53を構成することができる。また、パイプ51は矩形の流路の構造的な強度の補強に寄与している。
図6Dは、矩形の流路に多孔質体からなる壁部55を設け、除熱用流路56、液体供給用流路57を形成した変形例を示している。多孔質体については後述する。
図6Eは、除熱用流路59と同等の幅を有する液体供給用流路60を、除熱用流路59に重ねて並走させた変形例を示している。なお、図6Eの変形例において、除熱対象物は除熱用流路59の紙面下方側に配置されている。除熱用流路59及び液体供給用流路60は、互いに連通する不図示の連通孔が流路両側に形成されている。連通孔は除熱用流路59の流路方向(y方向)に複数設けられている。液体供給用流路60の液状の冷媒は、矢印A21で示すように、当該連通孔を介して除熱用流路59に供給される。この変形例では、除熱用流路59と液体供給用流路60を積層することから、幅の縮小、液体供給用流路60の流量確保、除熱用流路59と液体供給用流路60との温度差の縮小が図られる。
図6Fは、図6Bの変形例に加え、除熱用流路49の中央において除熱用流路49内へ突出するノズル62を設けた変形例を示している。この変形例において、除熱対象物は除熱用流路49の紙面下方側に設けられ、ノズル62は除熱用流路49の紙面上方側から除熱用流路49内へ突出している。ノズル50からの液状の冷媒は幅方向中央に到達するまでに枯渇する可能性がある。そこで、この変形例では、ノズル62により除熱用流路49の中央に液状の冷媒を供給することにより、除熱用流路49の幅方向中央の枯渇を防止している。また、中央への液状の冷媒の供給をノズル62により行っていることから、ノズル62の先端位置を除熱対象物に加熱されている側の面(紙面下方側の面)に近づけることにより、当該面へ確実に液膜を形成することができる。
図6Gは、図6Eに示した変形例において、両側の連通孔に代えて、除熱用流路59の幅方向の複数位置に、液体供給用流路60から除熱用流路59内へ突出するノズル65を設けた変形例を示している。液体供給用流路60の液状の冷媒は、ノズル65を介して除熱用流路59へ供給される。この変形例では、加熱長さはノズル65間の距離になる。従って、加熱長さを除熱用流路59の幅よりも更に短くして液状の冷媒の枯渇を防止できる。換言すれば、除熱用流路59の幅方向への拡張が可能である。また、ノズル65の先端位置を除熱対象物に加熱されている側の面(紙面下方側の面)に近づけることにより、当該面へ確実に液膜を形成することができる。
図7A〜図7Dは、液体供給用流路及び除熱用流路における流れのパターンを説明する図である。図7A〜図7Dにおいて、実線の矢印は液状の冷媒の流れ方向を示し、点線の矢印は気体状の冷媒の流れ方向を示している。
液体供給用流路は、図7Aの液体供給用流路74のように、除熱用流路73の流路方向(y方向)の一端74aから液状の冷媒が流入し、他端74bから液状の冷媒が流出してもよいし、図7Bの液体供給用流路68や図7Cの液体供給用流路71のように、他端68b、71bは塞がれており、液状の冷媒の流出口として、除熱用流路67、70との連通孔(不図示)のみが設けられていてもよい。さらに、図7Dに示すように、除熱用流路76の流路方向の中途の適宜な位置に流入口77aが設けられ、当該流路方向の一端77b及び他端77cに向かって液状の冷媒が流れるものでもよい。この場合、図7Dに示すように、液体供給用流路77の一端77b及び他端77cが塞がれて、冷媒の流出口として、除熱用流路76との連通孔のみが設けられてもよいし、一端77b及び他端77cの一方から冷媒が流出してもよい。また、図7Aのように液体供給用流路の両端が開口している場合には、双方を流入口としてもよい。
除熱用流路は、図7Aの除熱用流路73のように、一端73aから液状の流体が供給されてもよいし、図7B〜図7Dの除熱用流路のように、液体供給用流路からのみ液状の冷媒が供給されてもよい。また、除熱用流路は、図7Bの除熱用流路67のように、流路方向の一端側からのみ気体状の冷媒を流出させるものであってもよいし、図7Cの除熱用流路70及び図7Dの除熱用流路76のように流路方向の両側に気体状の冷媒を流出させるものでもよい。
図7C及び図7Dに示したように、除熱用流路の流路方向の両端側から冷媒を排出できるのは、除熱用流路に形成された液膜の蒸発により除熱し、除熱用流路からは気体状の冷媒が排出されるように構成したことによるものである。すなわち、従来のように、基本的に液状の冷媒の顕熱や通常の沸騰により除熱する技術では、除熱用流路に大量の液状の冷媒を流す必要があり、その結果、図14に示したように、除熱用流路の一端から他端へ液状の冷媒を流す構造が採用される。仮に、従来技術において図7Cのように冷媒の流路を設定したとすれば、除熱用流路に十分な流量での流れを形成することができず、十分な除熱効果を得ることができない。しかし、本実施形態では、液膜を形成するのに十分な量の冷媒を供給すればよいだけであるので、除熱用流路の一端を液状の冷媒の流入口とする必要はなく、除熱用流路の両端を冷媒の流出口として利用できる。なお、両端を流出口とすることにより、除熱用流路からの排気が迅速になされ、また、排気速度の過度の増大を抑えることができる。
また、図7Dに示したように、液体供給用流路の流入口を適宜な位置に設け、液状の冷媒を流路方向(y方向)の両側へ向かわせることができるのも、除熱用流路に形成された液膜の蒸発により除熱し、除熱用流路からは気体状の冷媒が排出されるように構成したことによるものである。すなわち、従来は、液状の冷媒の流れを主流路と副流路に分流し、その後、合流させる構成であったことから、主流路の流れと副流路の流れとは同一方向にならざるを得なかった。しかし、本実施形態では、除熱用流路では気体状の冷媒が、液体供給用流路では液体状の冷媒が流れるものであることから、互いの流路方向は自由に設定することができる。
従って、本実施形態では、図7A〜図7Dに示したような種々の流れのパターンが可能であり、設計の自由度が向上する。なお、図7A〜図7Dは例示であり、その他にも種々のパターンで液状の冷媒及び気体状の冷媒を流してよい。
図7A〜図7Dにおいて説明したような、除熱用流路や液体供給用流路の設計の自由度の向上は、液体供給用流路及び除熱用流路における流れのパターンを3次元的に拡張することも可能とする。図8A〜図8Fは、液体供給用流路及び除熱用流路における流れのパターンを3次元的に拡張した変形例を示す図である。図8A〜図8Fにおいて、実線の矢印は液状の冷媒の流路方向を示し、点線の矢印は気体状の冷媒の流路方向を示している。
図8Aは、図7Dに示した変形例に加え、除熱対象物に直交する方向(z方向)において液状の冷媒が供給される変形例を示す平面図であり、図8Bは図8Aの紙面下方から見た断面図である。この変形例では、図8Bの紙面下方側に除熱対象物が設けられている。除熱用流路76の幅方向中央の位置には、除熱用流路76の流路方向に沿って延びる液体供給用流路79が設けられている。液体供給用流路79は、例えば液体供給用流路77と同様の形状で若干小さいものであり、紙面上方側に、液状の冷媒が供給される流入口79aが設けられるとともに、紙面下方側に、液状の冷媒を除熱用流路76に供給するための複数の連通孔(不図示)が除熱用流路76に沿って設けられている。当該変形例は、図6Fに示した変形例と同様に、除熱用流路76の中央の枯渇防止に有効である。
図8Cは、図8Aに示した液体供給用流路79を、除熱用流路81の幅方向に複数配列した変形例であり、図8Dは、図8Cの紙面下方側から見た断面図である。この変形例では、図6Gに示した変形例と同様に、除熱用流路81の幅方向への拡張を可能とするものである。なお、図8Cから明らかなように、本発明の除熱用流路は、流路方向が長手方向でなくてもよい。
図8Eは、除熱用流路83の長手方向及び幅方向に直交する方向に気体状の冷媒を排出する排出口83aを設けた変形例であり、図8Fは、図8Eの紙面下方側から見た断面図である。この変形例において、除熱対象物は図8Fの紙面下方側に設けられ、排出口83aは、除熱用流路83の内周面のうち除熱対象物とは反対側に開口している。なお、除熱用流路83は、長手方向(液体供給用流路84の流れ方向)の両端が塞がれており、気体状の冷媒の流出口は、排出口83aのみである。排出口83aは、例えば液体供給用流路84の流れ方向に沿って複数設けられている。この変形例では、蒸発した冷媒を、除熱対象物に沿う面の他の領域へ流すことなく、即座に排出できる。なお、図8Eでは、流路の端面が除熱対象物に沿うように配置されているといえる。換言すれば、本発明の除熱用流路は、除熱対象物に沿う方向(y方向)に気体状の冷媒が流れるものでなくてもよい。排出口83aから排出された気体状の冷媒は、例えばパイプや矩形ダクトに流れ込んで凝縮部や過冷却部へ流れる。
図9A〜図9Eは、除熱用流路と液体供給用流路とを仕切る壁部(図6Aの壁部47や図6Dの壁部55等を参照)や連通孔の変形例を示す斜視図である。
図9Aの変形例では、平板状の壁部85に複数の連通孔86が形成されている。例えば、金属板や樹脂板に打ち抜き加工を施すことにより形成されている。この変形例では、連通孔を有する壁部を簡単に形成でき、また、連通孔は、位置(例えば複数の連通孔の間隔)、大きさ、形状の設計変更が容易である。
図9Bの変形例では、多孔質体によって壁部88が形成されている。多孔質体は、例えば焼結金属である。多孔質体の濾過径は、除熱用流路への供給量等により適宜に設定してよいが、例えば、1μから200μである。なお、従来の除熱用流路に液状の冷媒を流す技術では、多孔質体によって主流路と副流路とを仕切っても、副流路から主流路へ十分な量の液状の冷媒を供給することはできない。なお、多孔質体の孔部は、本発明の冷媒通過部の一例である。
図9Cの変形例では、壁部89の長手方向に沿って延びる一のスリット90が設けられている。この変形例では、スリット90により除熱用流路の流路方向の所定範囲において除熱用流路内に液状の冷媒を供給し、当該所定範囲に亘って液膜を形成することにより、複数位置に液状の冷媒を供給する場合と同様の効果を得られる。
図9Aに示すように、打ち抜き加工等により連通孔を配置する場合には、連通孔の大きさ、形状、配置位置は適宜に変更してよい。例えば、連通孔の大きさ、形状、位置は不均一、不均等としてよい。連通孔と、除熱用流路の内周面に形成される流路直交方向の溝とは、同位置や同数でなくてもよい。図9Dに示す変形例では、液体供給用流路91は、液状の冷媒が流し込まれる一端91aから他端91bへ複数の連通孔92が設けられており、連通孔92は、他端91b側ほど径が大きくなるように形成されている。これにより、液体供給用流路91の上流側から下流側までの全体に亘って、一様な流量で除熱用流路に液状の冷媒を供給できる場合がある。
また、図9Eに示す変形例では、液体供給用流路94の端部94a及び端部94b側ほど連通孔95のピッチが小さくなるように、連通孔95が形成されている。これにより、液体供給用流路94の上流側から下流側までの全体に亘って、一様な流量で除熱用流路に液状の冷媒を供給できる場合がある。
図15A及び図15Bは、液体供給用流路から除熱用流路への液状の冷媒の供給量を説明する図である。
図15Aの上方側の図は、図2A〜図2C、図7A、図7Bに示した除熱用流路31、73、67を一般化した平面図である。図15Aの下方側の図は、図15Aの上方側の図における、流路方向の各位置における液体供給用流路の圧力P1及び除熱用流路の圧力P2を示す図である。図15Bの上方側の図は、図7Dに示した除熱用流路76を一般化した平面図である。図15Bの下方側の図は、図15Bの上方側の図における、流路方向の各位置における液体供給用流路の圧力P1及び除熱用流路の圧力P2を示す図である。
液体供給用流路(32、77等)から除熱用流路(31、76等)への液状の冷媒の供給は、両者を連通する流路(冷媒通過部。例えば、連通孔(86、図9A)、焼結金属等の多孔質体により構成された壁部(88、図9B)の孔部、スリット(90、図9C)、ノズル(65、図6G)など)の流動抵抗が除熱用流路に沿って一様であると仮定すれば、液体供給用流路と除熱用流路との2つの流路間の圧力差ΔPにより、冷媒通過部を流れる液体供給量が定まる。すなわち、液体供給用流路から除熱用流路へ液体が流入するためには、液体供給用流路の圧力が除熱用流路の圧力よりも高いことが必須であり、また、液体供給用流路から除熱用流路への流量の分布は、液体供給用流路及び除熱用流路それぞれの圧力分布によって決定される。
液体供給用流路(32、77等)における圧力勾配は、除熱用流路(31、76等)への液体流入により、液体供給用流路における流量が減ってゆくので、徐々に低下する。一方、除熱用流路では、流量は増加の一途を辿るうえに、加熱により液単相から気液二相へと変化するので、圧力勾配は逆に増加してゆく。
従って、液体供給用流路(32、77等)及び除熱用流路(31、76等)の圧力差ΔPは、並行流路を想定した場合、除熱用流路の上流部で小さく、下流部で大きくなるため、上流部での液体供給用流路から除熱用流路への供給量が小さくなって、上流部でドライアウトが発生りやすくなることもある。
これを解消するためには、液体供給用流路(32、77等)及び除熱用流路(31、76等)を連通する流路(冷媒通過部)の流動抵抗に関して、開口部の寸法やピッチなどを変化させて、除熱用流路の上流部で小さく、下流部で大きくして、除熱用流路への液体供給量を一様にすることが考えられる。
図16A〜図16Fは、上記のように、液体供給用流路と除熱用流路との境界に位置する冷媒通過部の流動抵抗を除熱用流路の上流部で小さく、下流部で大きくした例を示している。
図16Aは、図15Aの液体供給用流路と除熱用流路とを連通孔131により連通した場合を示している。連通孔131は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(紙面右側)ほど径が大きく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。
図16Bは、図15Aの液体供給用流路と除熱用流路とを連通孔133により連通した場合を示している。連通孔133は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(紙面右側)ほどピッチが小さく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。
図16Cは、図15Aの液体供給用流路と除熱用流路とをスリット135により連通した場合を示している。スリット135は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(紙面右側)ほど幅が大きく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。
図16Dは、図15Bの液体供給用流路と除熱用流路とを連通孔137により連通した場合を示している。連通孔137は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(液体供給用流路77の中央側)ほど径が大きく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。
図16Eは、図15Bの液体供給用流路と除熱用流路とを連通孔139により連通した場合を示している。連通孔139は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(液体供給用流路77の中央側)ほどピッチが小さく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。
図16Fは、図15Bの液体供給用流路と除熱用流路とをスリット141により連通した場合を示している。スリット141は、液体供給用流路及び除熱用流路の上流側(液体供給用流路77の中央側)ほど幅が大きく設定されており、上流側ほど流動抵抗が小さくなっている。ただし、流入液体の衝突により局所的に液体供給用流路の圧力が高くなる中央部は流動抵抗を相対的にやや大きくしている。
なお、発生蒸気の通過量が多い下流部でドライアウトを発生する場合もある。この場合には、図9Dや図9Eに示したような、下流部での流量を増大させる方法が有効になる。
図10A〜図10Fは、除熱用流路の内周面のパターンを説明する図である。図10A〜図10Dにおいては、液状の冷媒は、液体供給用流路等から紙面左右方向(x方向)へ供給される。なお、図10Aは、図2A〜図2Cに示した実施形態に対応する図である。
図10Bの変形例では、溝部40に加えて、溝部40に直交する方向に延びる溝部96が複数設けられている。溝部96により、液状の冷媒は溝部96の延びる方向にも広がり易くなり、液膜が除熱用流路の全体に亘って形成されやすくなる。特に、液体供給用流路に形成された連通孔から液状の冷媒が供給される場合など、液状の冷媒の供給位置が互いに離間している場合には、供給位置間が枯渇しやすいが、溝部96により当該供給位置間にも液状の冷媒が広がるから、枯渇が防止される。
なお、溝部40を設けずに溝部96のみを設けてもよいし、流路方向に斜めに延びる溝部を設け、当該溝部により流路方向及び流路に直交する方向の双方に液状の冷媒を広げてもよい。ジグザグに蛇行する溝部を設けてもよい。なお、溝部40や流路に斜めに延びる溝部は、流路を横切る溝部の一例である。流路を横切る溝部は、流路の一方の側方端から他方の側方端まで延びるものでもよいし、側方端間の中途の適宜な範囲において延びるものであってもよい。
図10Cの変形例では、網状のシート98が除熱用流路の内周面に張られる。シート98は、本発明の液状の冷媒が浸透するシートの一例である。シート98は例えば金属、セラミック、樹脂、繊維等により形成されている。メッシュの大きさや編み込み形式は冷媒の種類等に応じて適宜に選択してよい。この変形例では、冷媒はシート98に吸い込まれて除熱用流路の内周面に広がる。これにより内周面全体に満遍なく液膜が形成される。
図10Dの変形例では、多孔質体により形成されたシート100が除熱用流路の内周面に張られる。シート100は、本発明の液状の冷媒が浸透するシートの一例である。シート100は、例えば焼結金属により構成される。シート100においても、シート98と同様の効果が得られる。
シート100の配置に代えて、除熱用流路の内周面にコーティングや研磨等の粗面加工を施すことにより、内周面を粗状とし、液膜保持機能を持たせてもよい。
図10E及び図10Fは、溝部40や溝部96の断面形状の例を示している。図10Eに示す溝部102は断面V字であり、図10Fに示す溝部103は断面矩形である。図10E及び図10Fは例示であり、溝部40や溝部96はU字等の種々の形状にしてよい。
図11A〜図11Cは、除熱用流路を流路の幅方向へ拡大した変形例を示しており、図11Aは除熱部105の外観斜視図、図11Bは図11AのXIb−XIb線矢視方向の断面図、図11Cは図11AのXIc−XIc線矢視方向の断面図である。
図11A〜図11Cの除熱部105は、断面矩形の中空体106の両側部及び中央に、分岐部を有するパイプ107A、107B、107C(以下、単に「パイプ107」といい、これらを区別しないことがある。)が挿通されて区画され、2つの除熱用流路109A、109B(以下、単に「除熱用流路109」といい、両者を区別しないことがある。)が形成されている。また、パイプ107A、107B、107Cには、それぞれ内部に液体供給用流路110A、110B、110C(以下、単に「液体供給用流路110」といい、これらを区別しないことがある。)が形成されている。パイプ107には、除熱用流路109と、液体供給用流路110とを連通する不図示の連通孔が除熱用流路109の流路方向に沿って複数設けられている。
各除熱用流路109においては、図2A等に示した除熱用流路と同様に、その両側に配置された液体供給用流路110から、不図示の連通孔を介して液状の冷媒が供給され、冷媒の液膜が形成される。ただし、中央の液体供給用流路110Bは、その両側の除熱用流路109A及び109Bの双方に液状の冷媒を供給する。各除熱用流路109において蒸発した気体状の冷媒は、各除熱用流路109から排出された後に合流する。
図11A〜図11Cの変形例では、除熱用流路が流路の幅方向において複数の除熱用流路109に分割されることになるから、幅方向の加熱長さが短くなり、液状の冷媒の枯渇が防止される。換言すれば、除熱用流路を幅方向に拡張することが可能になる。二つの除熱用流路109A及び109Bにおいて液体供給用流路110Bが共用されており、部品点数の削減が図られる。二つの除熱用流路109A及び109Bは液体供給用流路110Bに隔てられており、除熱用流路109A及び109Bの相互影響が緩和される。
図12A〜図12Cは、除熱用流路を流路方向へ拡大した変形例を示しており、図12Aは除熱部112の外観斜視図、図12Bは図12AのXIIb−XIIb線矢視方向の断面図、図12Cは図12AのXIIc−XIIc線矢視方向の断面図である。
図12A〜図12Cの除熱部112は、断面矩形の中空体114の両側部及び中央に、複数の分岐部を有するパイプ115A、115B、115C(以下、単に「パイプ115」といい、これらを区別しないことがある。)が挿通されて区画され、2つの除熱用流路116A、116B(以下、単に「除熱用流路116」といい、両者を区別しないことがある。)が形成されている。また、パイプ115A、115B、115Cには、それぞれ内部に液体供給用流路117A、117B、117C(以下、単に「液体供給用流路117」といい、これらを区別しないことがある。)が形成されている。パイプ115には、除熱用流路116と、液体供給用流路117とを連通する不図示の連通孔が除熱用流路116の流路方向に沿って複数設けられている。
除熱用流路116は、流路方向(y方向)において、複数の区画D1、D2、D3に仕切られている。複数の区画D1〜D3には、流路側方、例えば、除熱対象物HOの反対側へ開口して気体状の前記冷媒を排出する排出口119A、119B、119Cがそれぞれ設けられている。各区画においては、液体供給路117から供給された冷媒により液膜が形成され、蒸発した冷媒は排出口119A〜119Cから排出される。なお、液体供給路117は、図12Bに示すように、液体供給路117は全区画D1〜D3に亘って連通していてもよいし、除熱用流路116と同様に複数に仕切られていてもよい。
この変形例では、除熱用流路116を流路方向において区画することにより、蒸発した冷媒を早期に排出可能として各区画D1〜D3の除熱効率を高めるとともに区画同士の相互影響を緩和できる。換言すれば、除熱用流路すなわち除熱面を限りなく長くすることができる。しかも、液体供給用流路117は区画D1〜D3に合わせて仕切る必要はなく、設計変更を要しない。なお、従来のように液状の冷媒を流す技術では、除熱用流路を流路方向において区画すると圧力損失が大きく、ポンプの負担が増大し、冷却効率の低下をも生じることから、流路方向への拡張が困難であった。
図13は、除熱装置の全体構成の変形例を示す図である。なお、図1の除熱装置1と共通部分については同一符号を付している。図13の除熱装置では、気液分相器19及び過冷却部21が省略されている。従って、蒸発冷媒は完全に凝縮部14内部で液体に戻り、除熱対象物からの熱量Qは、全て凝縮部14において大気へ放出されることになる。
図17は、本発明の応用例を示す図である。
自動車151は、除熱対象物としてのパワーコントローラ153と、除熱装置155とを有している。
除熱装置155は、上述した除熱装置1と類似した構成を有している。具体的には、除熱装置155は、液状の冷媒を貯留する補助液体タンク157(貯液槽3に対応)と、液状の冷媒を送出するポンプ159(ポンプ5に対応)と、ポンプ159により送出された液状の冷媒によりパワーコントローラ153を除熱する除熱部161(除熱部12に対応)と、除熱部161から流出した気体状の冷媒を凝縮するラジエータ163(凝縮部14に対応)と、ラジエータ163から流出した冷媒を気体状の冷媒と液状の冷媒とに分離する気液分相器165(気液分相器19に対応)とを有している。気液分相器165により分離された液状の冷媒は、ポンプ159により送出される。ポンプ159により送出された液状の冷媒は、流量コントロールユニット160により、補助液体タンク157や除熱部161への流量が制御される。
除熱部161は、特に図示しないが、除熱部12と同様に、パワーコントローラ153に隣接して設けられた除熱用流路を有している。除熱用流路の所定方向の複数位置(所定範囲)において除熱用流路内に液状の冷媒が供給され、除熱用流路の内周面には複数位置(所定範囲)に亘って冷媒の液膜が形成される。液膜の蒸発により、パワーコントローラ153は冷却される。
自動車への適用に際し、パワーコントローラの許容温度(100°C程度)と廃熱を放出する外気温度(30°C程度)の間の温度差が小さく、液膜蒸発により除熱部の所要温度差を通常の沸騰冷却よりも小さく抑えることができるので、冷却システム全体の除熱能力を高めることができる。
図18は、本発明の他の応用例を示す図である。
電力変換システム171は、例えば、発電所や工場などに設けられ、電圧等を変換するシステムである。電力変換システム171は、除熱対象物としての複数のパワー素子173と、除熱装置175とを有している。
除熱装置175は、上述した除熱装置121と類似した構成を有している。具体的には、除熱装置175は、液状の冷媒を送出するポンプ177(ポンプ5に対応)と、ポンプ177により送出された液状の冷媒により複数のパワー素子173を除熱する複数の除熱部179(除熱部12に対応)と、除熱部179から流出した気体状の冷媒を凝縮する空冷ユニット181(凝縮部14に対応)とを有している。空冷ユニット181から流出した冷媒は、ポンプ177により送出される。
複数のパワー素子173及び複数の除熱部179は、1つの除熱部179及び2つのパワー素子173が交互に積層されることにより、パワー素子冷却列183を構成している。パワー素子冷却列183は、複数列設けられている。各パワー素子冷却列183では、1つの除熱部179の両側にパワー素子173が配置され、1つの除熱部179により2つのパワー素子173を除熱可能となっている。
複数のパワー素子冷却列183及び各パワー素子冷却列183内の複数の除熱部179は、互いに並列に接続されている。すなわち、ポンプ177から送出された液状の冷媒は、分流して各パワー素子冷却列183に流入し、さらに、各パワー素子冷却列183において分流して各除熱部179に流入するように構成されている。
各除熱部179は、特に図示しないが、除熱部12と同様に、パワー素子173に隣接して設けられた除熱用流路を有している。除熱用流路の所定方向の複数位置(所定範囲)において除熱用流路内に液状の冷媒が供給され、除熱用流路の内周面には複数位置(所定範囲)に亘って冷媒の液膜が形成される。液膜の蒸発により、パワー素子173は冷却される。
図19A及び図19Bは、本発明の効果を説明する図である。図19Aは、本発明の一例の除熱装置における、実験により得られた熱伝達特性を示す図である。図19Bは、図19Aの熱伝達特性を、従来技術における熱伝達特性と比較して示す図である。図19A及び図19Bにおいて、横軸は、除熱対象物の除熱対象面(除熱用流路を構成する一つの面)と除熱用流路に流入する液状の冷媒との温度差ΔT(K)を、縦軸は、除熱対象物の除熱対象面における熱流束q(W/cm2)を示している。また、図中には、熱伝達率a(W/m2K)が示されている。
図19A及び図19Bにおいて、円形のマークM1は、本発明の一例の除熱装置における、除熱用流路の流路方向の上流且つ幅方向の中央の位置における値を、矩形のマークM2は、本発明の一例の除熱装置における、除熱用流路の流路方向の中央且つ幅方向の中央の位置における値を、三角形のマークM3は、本発明の一例の除熱装置における、除熱用流路の流路方向の下流且つ幅方向の中央の位置における値を示している。
本発明の一例の除熱装置の除熱用流路は、内周面に溝が形成されているものである。また、ヒートスプレッダは設けられていない。除熱用流路入口における液体の過冷度(飽和温度からの差)は、15Kである。液体冷媒の体積流量は、4.5リットル/分である。液体供給用流路の片側は、閉じられている。除熱用流路の間隙幅(除熱対象面と対向する断熱面との間隙)は、5mmである。除熱対象面の幅×長さ(流路方向)は、30mm×150mmである。
図19A及び図19Bから理解されるように、本発明の一例の除熱装置では、ヒートスプレッダが設けられていない場合であっても、ヒートスプレッダ付きの水冷方式よりも1オーダ高い熱流束での冷却を実現している。しかも、冷却可能な発熱面積は2オーダ大きく、液膜蒸発により高い熱伝達率が得られるので、除熱対象面と流体との温度差は十分に小さい。
本発明は以上の実施形態や変形例に限定されず、種々の態様で実施してよい。
除熱対象物は、冷媒の飽和温度よりも高温であればよく、パワー素子、モータ、バッテリ等の熱を放出する発熱物であってもよいし、ヒートスプレッダ等の発熱物の熱を伝達する伝熱物であってもよい。気体、液体、固体のいずれであるかも問わない。
除熱用流路は、除熱対象物に隣接して設けられれば、適宜な材質、形状、寸法で形成してよい。いずれにせよ、除熱用流路は、除熱対象物に隣接していれば、除熱対象物から熱が伝達されるから、除熱対象物に熱的に接続されることになる。
除熱用流路への液状の冷媒の供給がなされる複数位置は、流路方向に配列されたものに限定されない。複数位置に液状の冷媒が供給され、当該複数位置に亘って液膜が形成されれば、流路に直交する方向などでもよい。なお、複数位置に亘る範囲には、枯渇する箇所が生じないことが望ましいが、一部に枯渇する箇所が生じたとしても、複数位置に液体の冷媒が供給されており、かつ、従来の液状の冷媒を流す技術のように、複数位置に亘る範囲に液状の冷媒が充填されている(液状の冷媒が除熱用流路に満たされている)状態となっていなければ、複数位置に亘って液膜が形成されているといえる。