本発明は、大型テレビジョンや公衆表示などに用いる平板型の表示装置であるプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)の製造方法に関し、さらに詳しくはPDPの前面板と背面板の周囲をフリットガラスで封着するPDPの製造方法に関する。
PDPは、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、65インチクラスのテレビジョン受像機や大型公衆表示装置などに向けて製品化が進み、100インチを越える製品も商品化されている。特に、テレビジョン受像機向けのPDPは従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上のフルスペックのハイビジョンへの適用が進んでいる。
PDPは、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法により製造された硼珪酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、この表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、この誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。一方、背面板は、ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させ、その周囲を封着材によって気密封着している。隔壁で仕切られた放電空間の排気と放電ガス(Ne−Xeの場合、53.2kPa〜79.8kPaの圧力)の封入は排気管を通して行われ、放電ガスを封入後、排気管を局部的に加熱溶融(チップオフ)して気密封止している。
完成したPDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、可色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
上述したPDPの誘電体層や封着材には一般に酸化鉛を主成分とする低融点のフリットガラスが用いられている。フリットガラスには、加熱しても結晶化せず非晶質の特性を残す非晶質系フリットガラスと、加熱により結晶化する結晶化フリットガラスがある。それぞれの材料に長短があり、製造工程とのマッチングを考慮して選択されることが多い。封着材としての結晶化タイプと非晶質タイプのいずれのフリットガラスの場合には、まず、フィラーを混合して有機溶剤で混練してペースト状の封着材材を調合している。次に、厚膜印刷、インクジェットやディスペンサーを備えた塗布装置を用いて、前面板および背面板の少なくともいずれか一方の基板の周囲に封着材を配置形成している。その後、フリットガラスが完全に軟化しない所定の温度で仮焼成を行ってから、前面板および背面板を対向配置して組み立て、仮焼成の温度よりも高い封着温度で封着を行っている。
近年の環境問題への配慮からPDPにおいても鉛成分を含まない「鉛フリー」あるは「鉛レス」と称する非鉛系の材料を用いることが求められている。封着材としては、鉛成分を含まない燐酸系(燐酸−酸化錫系など)の封着材や、酸化ビスマス系の封着材の例が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2など参照)。しかし、非鉛系の封着材として提案された燐酸−酸化錫系の低融点ガラスを主体とする封着材では、従来から用いられてきた酸化鉛系の封着材に比べて耐水性に劣るところがあり、PDPの気密性を十分に保持することが難しいという課題が残る。そのために、酸化ビスマス系の封着材が非鉛系の材料として注目されている。
一方、上述したPDPの製造工程においては、背面板に蛍光体層を形成した直後に蛍光体焼成炉で蛍光体層の焼成を行っていた。その後、前面板と背面板の少なくともいずれか一方の基板の周縁部に封着材を配置形成し、封着材を配置形成した基板の封着材の仮焼成を行ってから、仮焼成温度よりも高い封着温度に昇温させて封着材を軟化(溶融)させて気密封着を行っていた。そのため蛍光体層は複数回焼成されることになる。
背面板に蛍光体層を形成した直後の焼成工程を省いて、封着材の仮焼成および封着処理の工程において蛍光体層焼成を行えば工数の削減と工程簡略化が可能となる。
しかしながら、従来の鉛系のフリットガラスよりなる封着材では、軟化点温度が加熱温度に対して殆ど変化しないが、酸化ビスマス系のフリットガラスを主体とする非鉛系の封着材では、加熱温度に対して軟化点温度が変化するという特徴を有している。そのために、通常の蛍光体層焼成温度で封着材の仮焼成を行うとその後の封着に不具合を生じるといった課題を有していた。
特開2004−182584号公報 特開2003−095697号公報
本発明のPDPの製造方法は、透明な基板上に表示電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、アドレス電極、隔壁および蛍光体層とが形成された背面板とを対向配置するとともに前面板と背面板の周囲を封着材で封着する封着ステップを備えたプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、封着ステップは、背面板に封着材料を塗布する封着材塗布ステップと、塗布された封着材を仮焼成する仮焼成ステップと、前面板と背面板とを対向配置して封着材を軟化溶融させて封着する封着ステップとを備え、封着材が、加熱温度に対して軟化点温度が変化するとともに加熱温度に対して軟化点温度の変化率が異なる特性を有する酸化ビスマスを主成分とするガラスフリットにより構成され、仮焼成ステップでの仮焼成温度を変化率が変わる温度よりも10℃から60℃低い温度としている。
このような製造方法とすることにより、鉛成分を含有しない封着材を用いて前面板と背面板との気密封着を確実に行い、さらに、蛍光体層の焼成を封着ステップの仮焼成ステップと一緒にすることができ、製造工程の工数を削減して環境に配慮した信頼性の高いPDPを実現することができる。
図1は本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの構造を示す分解斜視図である。
図2Aは本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの平面図である。
図2Bは図2Aの2B−2B線断面図である。
図3は本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法に用いる封着材のフリットガラスの加熱温度と軟化点温度との関係を示す図である。
符号の説明
1 前面ガラス基板
2 走査電極
2a,3a 透明電極
2b,3b 金属バス電極
3 維持電極
4 表示電極
5 遮光層
6 誘電体層
7 保護層
8 背面ガラス基板
9 下地誘電体層
10 アドレス電極
11 隔壁
12R,12G,12B 蛍光体層
14 放電空間
20 PDP
22 前面板
23 背面板
30 細孔
31 排気管
32 フリットタブレット
33 封着材
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて詳しく説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの構造を示す分解斜視図である。また、図2Aは本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの平面図であり、図2Bは図2Aの2B−2B線断面図である。
PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。図1、図2A、図2Bに示すように、PDP20は前面ガラス基板1などからなる前面板22と、背面ガラス基板8などからなる背面板23とが対向して配置されている。さらに、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材33によって気密封着している。封着されたPDP20内部の放電空間14には、ネオン(Ne)およびキセノン(Xe)などの放電ガスが53.2kPa〜79.8kPaの圧力で封入されている。
前面板22の前面ガラス基板1上には、走査電極2および維持電極3よりなる一対の帯状の表示電極4と遮光層5が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板1上には表示電極4と遮光層5とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層6が形成され、さらにその表面に酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層7が形成されている。
また、背面板23の背面ガラス基板8上には、前面板22の走査電極2および維持電極3と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極10が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層9が被覆している。さらに、アドレス電極10間の下地誘電体層9上には放電空間14を区切る所定の高さの隔壁11が形成されている。隔壁11間の溝にアドレス電極10毎に、紫外線によって赤色、青色および緑色にそれぞれ発光する蛍光体層12R、12G、12Bが順次塗布されて形成されている。走査電極2および維持電極3とアドレス電極10とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極4方向に並んだ赤色、青色、緑色の蛍光体層12R、12G、12Bを有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
続いて、PDP20の製造方法について説明する。まず、前面ガラス基板1上に、走査電極2および維持電極3と遮光層5とを形成する。走査電極2および維持電極3は、それぞれ透明電極2a、3aと金属バス電極2b、3bより構成されている。透明電極2a、3aと金属バス電極2b、3bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。透明電極2a、3aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極2b、3bは銀材料を含むペーストを所望の温度で焼成して固化している。また、遮光層5は、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングして焼成することにより形成される。
この後、走査電極2、維持電極3および遮光層5を覆うように前面ガラス基板1上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト層(誘電体材料層)を形成する。誘電体ペーストを塗布した後、所定の時間放置することによって塗布された誘電体ペースト層の表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極2、維持電極3および遮光層5を覆う誘電体層6が形成される。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料と、バインダおよび溶剤を含む塗料である。次に、誘電体層6上に酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層7を真空蒸着法により形成する。
以上の工程により前面ガラス基板1上に所定の構成物である走査電極2および維持電極3からなる表示電極4と、遮光層5、誘電体層6、保護層7が形成されて前面板22が完成する。なお、本発明の実施の形態では、上述した前面板22の各構成要素には鉛を含む材料は用いていない。
一方、背面板23は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板8上に、銀材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後にフォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極10用の構成物となる材料層を形成し、それらを所定の温度で焼成することによりアドレス電極10を形成する。
次に、アドレス電極10が形成された背面ガラス基板8上にダイコート法などによりアドレス電極10を覆うように下地誘電体ペーストを塗布し、下地誘電体ペースト層を形成する。その後、下地誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層9を形成する。なお、下地誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料と、バインダおよび溶剤を含んだ塗料である。
この後、下地誘電体層9上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布して所定の形状にパターニングして隔壁材料層を形成し、その後、焼成することにより隔壁11を形成する。下地誘電体層9上に塗布した隔壁形成用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。
隔壁11を形成した背面ガラス基板8には、隣接する隔壁11間の下地誘電体層9上および隔壁11の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布して蛍光体層12R、12G、12Bを形成する。その後、蛍光体層12R、12G、12Bを焼成することにより、背面ガラス基板8上に所定の構成部材を有する背面板23が完成するが、本発明の実施の形態では、前面板22と背面板23とを封着する封着材33の仮焼成ステップにおいて蛍光体層12R、12G、12Bの焼成を行ている。なお、上述した背面板23の各構成要素には、前面板22と同様に鉛を含む材料を用いていない。
次に、前面板22と背面板23とをその電極形成面側を対向させて、その周囲を封着材33で気密封着する封着ステップについて述べる。本発明の実施の形態では封着ステップを、背面板23の周縁部に封着材33を塗布形成する封着材塗布ステップと、塗布された封着材33を仮焼成する仮焼成ステップと、その後、前面板22と背面板23とを対向配置して封着材33を軟化溶融させて封着する封着接合ステップとを備えている。
本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法には、封着材33としては低融点の鉛成分を含まないフリットガラスとして、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスを用いている。このフリットガラスと所定のフィラーと、樹脂および有機溶剤とを混練したペースト状の封着材を用いている。
まず、封着材塗布ステップでは封着材33を厚膜印刷やインクジェットまたはディスペンサーを備えた塗布装置を用いて、背面板23の周縁部の所定の位置に配置形成する。その後、仮焼成ステップで封着材33のペースト中の樹脂および有機溶剤を除去するとともに、フリットガラスを少し軟化させて形状を固定するために所定の温度で仮焼成する。次に、封着接合ステップで、前面板22と背面板23とをそれぞれの電極形成面側を対向配置し、仮焼成ステップでの仮焼成温度よりも高い温度で全体を焼成し、封着材33中のガラスフリットを軟化させて前面板22と背面板23とを封着接合する。また、本発明では、前述したように封着材33の仮焼成ステップにおいて、背面板23に形成した蛍光体層12R,12G,12Bの焼成処理も同時に行っている。
また、フィラーは耐熱性を有しており、封着材33の熱膨張係数を調整するとともに、フリットガラスの流動状態をコントロールするのに使用される。その材料としては、コージライト、フォルステライト、β−ユークリプタイト、ジルコン、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸アルミニウム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化スズ、酸化アルミニウム、石英ガラスなどが特に好ましい材料として単用または混用して使用されることが多い。なお、封着材33を塗布形成する封着材塗布ステップに厚膜印刷や塗布装置を用いず、封着材をシート状にして貼り付けて形成することもできる。
また、封着ステップの封着接合ステップにおいては、図2A、図2Bに示すように、背面板23のコーナ部の所定の位置に設けた排気用細孔30に配置した排気管31を、その周囲に配置したフリットタブレット32を軟化溶融させることによって固定している。フリットタブレット32は封着材33と同様の材料でフリットガラスを含む成型体である。
このようにして、前面板22と背面板23とを封着接合し排気管31を固定した後に、隔壁11で仕切られた放電空間14を排気管31によって真空排気する。その後、排気管31からネオンやキセノンなどを含む放電ガスを所定の圧力(例えば、Ne−Xe混合ガスの場合、53.2kPa〜79.8kPaの圧力)で封入する。その後、排気管31を適当な位置で局部的に加熱溶融(チップオフ)して封じ切ることにより気密封止してPDP20を完成させている。
以上の製造方法により完成したPDP20は、表示電極4に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層12R、12G、12Bを励起して赤色、緑色、可色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
ここで、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法の封着ステップについてさらに詳細に説明する。
本発明の実施の形態では、封着材33として、少なくとも酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛の硼珪酸系のフリットガラスを用いている。ここで用いた酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスの組成は、酸化ビスマス(Bi2O3)が70重量%〜85重量%、酸化亜鉛(ZnO)が8重量%〜10重量%、酸化硼素(B2O3)が4重量%〜6重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)が6重量%〜8重量%、酸化珪素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)がそれぞれ1重量%〜3重量%になっている。特に酸化ビスマス(Bi2O3)の量は、少な過ぎるとガラスの軟化点温度が下がりにくくなるために封着不良が発生し、逆に多過ぎると表示電極4やアドレス電極10中の銀(Ag)との反応が生じて発泡しやすくなる。そのため、65重量%〜80重量%の範囲に設定するのが好ましい。
図3は本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法に用いる封着材のフリットガラスの加熱温度と軟化点温度との関係を示す図であり、フリットガラスとして本発明の実施の形態で用いる酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスと従来の鉛を含むフリットガラスについて示している。図3の横軸はフリットガラスを加熱する加熱温度であり、前述の仮焼成ステップでの仮焼成温度を示している。縦軸は示差熱分析装置(TDA)を用いて測定した軟化点温度である。
図3に示すように、従来の鉛を含む非晶質系のフリットガラスが加熱温度に対して軟化点温度が一定であるのに対し、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法において用いる非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは加熱温度の増加とともに軟化点温度が変化し上昇する。
図3に示すように、酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは、所定の加熱温度までは加熱温度に対して軟化点温度の変化の変化率Aを有し、所定温度を超えると変化率Aよりも急峻な変化率Bを有している。すなわち、加熱によってフリットガラスの物性が変化するために軟化点温度が変化することを意味し、所定の加熱温度を超えると物性の変化が急激に起こることを示している。したがって、仮焼成ステップにおいてフリットガラスを加熱すると、その加熱温度によって、次の封着接合ステップで軟化溶融させるための温度が変化することになる。また、図3においては、このように変化率が急峻に変化する、すなわち変化率の変化が発生する加熱温度は490℃である。
図3に示すように、加熱温度が490℃を越えると軟化点温度が急上昇している。このことは非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは、490℃近傍の温度から急激に結晶化が進むことを示している。すなわち、仮焼成ステップでの仮焼成温度を490℃以上に設定すると、フリットガラスは一部で結晶化が始まっているために軟化点温度が上昇する。そのために、次の封着ステップで490℃よりも若干高い温度で封着しようとすると、フリットガラスが軟化溶融しにくくなり封着接合ができなくなるといことである。
一方、結晶化が進展し、軟化点温度が上昇したガラスフリットを軟化溶融させて封着接合するためには、さらに高い温度の封着温度にする必要がある。しかしながら、封着温度を高くすることは、ガラスなどの構成材料の再溶融や電極、隔壁などのアライメントに悪影響を及ぼす恐れがある。特に、走査線の数が従来の2倍以上になるフルスペックのハイビジョンテレビ用の高精細PDPでは電極本数が増加するために、封着材の仮焼成温度を上昇させることはその影響が顕著に現れる。
また、一部結晶化したフリットガラスを再溶融させようとすると、特にPDP20の画面サイズが大きくなる場合には、加熱プロセスでの面内均一性を確保することが難しくなり、結果として面内でフリットの軟化溶融状態の不均一性が発生する。例えば、従来の仮焼成温度よりも少し高い温度の封着温度では十分に軟化せずに、前面板22と背面板23間のギャップが所定のギャップより大きくなり、表示性能を劣化させるなどの問題が発生する。また、フリットガラスが結晶化した状態では、前面ガラス基板1や背面ガラス基板8と封着材33との接着接合が不十分となり、確実な気密性が確保できなくなる。
したがって、本発明では、封着材に、加熱温度に応じて軟化点温度の変化の変化率が変化する酸化ビスマス(Bi2O3)を主成分とするガラスフリットを用い、封着ステップのうちの仮焼成ステップでの仮焼成温度を変化率の変化が発生する温度よりも10℃から60℃低い温度としている。
すなわち、図3に示す変化率の変化が発生する加熱温度は490℃より10℃から60℃低い温度である、480℃から430℃の範囲の仮焼成温度で仮焼成を行うようにしている。そのため、封着接合ステップでは、封着温度をその仮焼成温度より10℃程度高い温度とするだけで、軟化溶融が確実に行われ、かつ結晶化の進展のない状態での封着接合を実現することができる。つまり、仮焼成温度を430℃〜480℃の間で行うことにより、フリットガラスの軟化点温度の変化の変化率が変化率Aの領域範囲となり、次の、封着温度を490℃までの温度としても、軟化点温度が450℃以下の低温となる。そのため、均一な軟化溶融ができ、確実な封着接合が可能となる。
なお、図3では、加熱温度が300℃から490℃まではひとつの近似線で変化率Aであるように示しているが、430℃未満では加熱温度に対する軟化点温度の変化率あるいはその変化にバラツキが生じる。そのため、その後の封着プロセスのでフリットガラスの軟化溶融が不均一となる場合がある。そこで、本発明の実施の形態では仮焼成温度の下限を430℃としている。
一方、従来の鉛を含有するフリットガラスを用いた封着材を用いた場合には、図3に示すように、加熱温度に対して軟化点温度が変化せず一定のため、封着ステップでの仮焼成ステップと、背面板に塗布形成した蛍光体層の焼成ステップとを同一とする、いわゆる同時焼成が可能であった。すなわち、例えば、蛍光体層を焼成する温度が470℃の場合、470℃で封着ステップの仮焼成を行っても、鉛を含有するフリットガラスの軟化点温度は440℃と変化しない。そのため、次の封着温度を450℃とすると、フリットガラスが完全に軟化溶融して封着接合を確実に行うことができるものであった。
一方、本発明では、前述のように、酸化ビスマス(Bi2O3)を主成分とするガラスフリットを用い、封着ステップのうちの仮焼成ステップでの仮焼成温度を490℃以下としており、具体的には430℃〜480℃の間で行うようにしている。蛍光体層の焼成は、塗布された蛍光体層中に含有する樹脂成分と有機溶媒成分を完全に除去することを目的としている。そのために、430℃〜480℃の温度範囲の中で焼成を行うことにより、充分確実な樹脂成分と勇気溶剤成分の除去を行うことができる。また、430℃未満の温度では塗布された蛍光体層中に含有する樹脂成分と有機溶媒成分を完全に除去することが難しくなる。そのため、焼成の確実性と、前述の理由による封着接合の確実性を確保するために仮焼成温度を430℃〜480℃の間の温度で行うようにしている。
したがって、本発明の実施形態におけるPDPの製造方法によれば、封着材の仮焼成ステップでの仮焼成温度を上昇させ、蛍光体層が焼成可能な温度まで高く設定することができる。したがって、背面板23に塗布形成された蛍光体層12R、12G、12Bの蛍光体層焼成ステップと仮焼成ステップとを同一の熱プロセス、すなわち同時焼成で行うことが可能となる。その結果、製造工程の工数を削減して環境に配慮した信頼性の高いPDPを実現することができる。
また、走査線の数が従来の2倍以上になるフルスペックのハイビジョンテレビのような高精細PDPでは電極本数が増加するため、封着ステップでの封着温度が上昇するとPDPの特性や品質への影響が避けられない。しかしながら、本発明の実施の形態によれば、非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスを用いた場合でも、封着温度をガラス基板などの材料や電極、隔壁のアラインメントに影響を与えない温度範囲とすることができる。
なお、上記の実施の形態では、排気管31やフリットタブレット32を、上述の封着材33と同様の鉛を含まない材料組成とすることが可能であり、環境に配慮したPDPを実現することができる。
また、上述した本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法で用いる酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスは、厳密にいえば、全く鉛を含まないことはなく、分析すると500PPM以下ではあるが、極微量レベルの鉛が検出される。しかしながら、欧州における環境に関するEC−RoHS指令の規定では1000PPM以下であれば鉛を含まないとみなすことができ、本発明の実施の形態においては「鉛を含まない」とか「非鉛」といった表現を用いている。
以上述べたように本発明のPDPは、封着の信頼性を高め、さらに、環境に配慮した表示品質に優れたPDPを実現して大画面の表示デバイスなどに有用である。
本発明は、大型テレビジョンや公衆表示などに用いる平板型の表示装置であるプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)の製造方法に関し、さらに詳しくはPDPの前面板と背面板の周囲をフリットガラスで封着するPDPの製造方法に関する。
PDPは、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、65インチクラスのテレビジョン受像機や大型公衆表示装置などに向けて製品化が進み、100インチを越える製品も商品化されている。特に、テレビジョン受像機向けのPDPは従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上のフルスペックのハイビジョンヘの適用が進んでいる。
PDPは、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法により製造された硼珪酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、この表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、この誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。一方、背面板は、ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させ、その周囲を封着材によって気密封着している。隔壁で仕切られた放電空間の排気と放電ガス(Ne−Xeの場合、53.2kPa〜79.8kPaの圧力)の封入は排気管を通して行われ、放電ガスを封入後、排気管を局部的に加熱溶融(チップオフ)して気密封止している。
完成したPDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、可色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
上述したPDPの誘電体層や封着材には一般に酸化鉛を主成分とする低融点のフリットガラスが用いられている。フリットガラスには、加熱しても結晶化せず非晶質の特性を残す非晶質系フリットガラスと、加熱により結晶化する結晶化フリットガラスがある。それぞれの材料に長短があり、製造工程とのマッチングを考慮して選択されることが多い。封着材としての結晶化タイプと非晶質タイプのいずれのフリットガラスの場合には、まず、フィラーを混合して有機溶剤で混練してペースト状の封着材材を調合している。次に、厚膜印刷、インクジェットやディスペンサーを備えた塗布装置を用いて、前面板および背面板の少なくともいずれか一方の基板の周囲に封着材を配置形成している。その後、フリットガラスが完全に軟化しない所定の温度で仮焼成を行ってから、前面板および背面板を対向配置して組み立て、仮焼成の温度よりも高い封着温度で封着を行っている。
近年の環境問題への配慮からPDPにおいても鉛成分を含まない「鉛フリー」あるは「鉛レス」と称する非鉛系の材料を用いることが求められている。封着材としては、鉛成分を含まない燐酸系(燐酸−酸化錫系など)の封着材や、酸化ビスマス系の封着材の例が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2など参照)。しかし、非鉛系の封着材として提案された燐酸−酸化錫系の低融点ガラスを主体とする封着材では、従来から用いられてきた酸化鉛系の封着材に比べて耐水性に劣るところがあり、PDPの気密性を十分に保持することが難しいという課題が残る。そのために、酸化ビスマス系の封着材が非鉛系の材料として注目されている。
一方、上述したPDPの製造工程においては、背面板に蛍光体層を形成した直後に蛍光体焼成炉で蛍光体層の焼成を行っていた。その後、前面板と背面板の少なくともいずれか一方の基板の周縁部に封着材を配置形成し、封着材を配置形成した基板の封着材の仮焼成を行ってから、仮焼成温度よりも高い封着温度に昇温させて封着材を軟化(溶融)させて気密封着を行っていた。そのため蛍光体層は複数回焼成されることになる。
背面板に蛍光体層を形成した直後の焼成工程を省いて、封着材の仮焼成および封着処理の工程において蛍光体層焼成を行えば工数の削減と工程簡略化が可能となる。
しかしながら、従来の鉛系のフリットガラスよりなる封着材では、軟化点温度が加熱温度に対して殆ど変化しないが、酸化ビスマス系のフリットガラスを主体とする非鉛系の封着材では、加熱温度に対して軟化点温度が変化するという特徴を有している。そのために、通常の蛍光体層焼成温度で封着材の仮焼成を行うとその後の封着に不具合を生じるといった課題を有していた。
特開2004−182584号公報
特開2003−095697号公報
本発明のPDPの製造方法は、透明な基板上に表示電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、アドレス電極、隔壁および蛍光体層とが形成された背面板とを対向配置するとともに前面板と背面板の周囲を封着材で封着する封着ステップを備えたプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、封着ステップは、背面板に封着材料を塗布する封着材塗布ステップと、塗布された封着材を仮焼成する仮焼成ステップと、前面板と背面板とを対向配置して封着材を軟化溶融させて封着する封着ステップとを備え、封着材が、加熱温度に対して軟化点温度が変化するとともに加熱温度に対して軟化点温度の変化率が異なる特性を有する酸化ビスマスを主成分とするガラスフリットにより構成され、仮焼成ステップでの仮焼成温度を変化率が変わる温度よりも10℃から60℃低い温度としている。
このような製造方法とすることにより、鉛成分を含有しない封着材を用いて前面板と背面板との気密封着を確実に行い、さらに、蛍光体層の焼成を封着ステップの仮焼成ステップと一緒にすることができ、製造工程の工数を削減して環境に配慮した信頼性の高いPDPを実現することができる。
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて詳しく説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの構造を示す分解斜視図である。また、図2Aは本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの平面図であり、図2Bは図2Aの2B−2B線断面図である。
PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。図1、図2A、図2Bに示すように、PDP20は前面ガラス基板1などからなる前面板22と、背面ガラス基板8などからなる背面板23とが対向して配置されている。さらに、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材33によって気密封着している。封着されたPDP20内部の放電空間14には、ネオン(Ne)およびキセノン(Xe)などの放電ガスが53.2kPa〜79.8kPaの圧力で封入されている。
前面板22の前面ガラス基板1上には、走査電極2および維持電極3よりなる一対の帯状の表示電極4と遮光層5が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板1上には表示電極4と遮光層5とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層6が形成され、さらにその表面に酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層7が形成されている。
また、背面板23の背面ガラス基板8上には、前面板22の走査電極2および維持電極3と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極10が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層9が被覆している。さらに、アドレス電極10間の下地誘電体層9上には放電空間14を区切る所定の高さの隔壁11が形成されている。隔壁11間の溝にアドレス電極10毎に、紫外線によって赤色、青色および緑色にそれぞれ発光する蛍光体層12R、12G、12Bが順次塗布されて形成されている。走査電極2および維持電極3とアドレス電極10とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極4方向に並んだ赤色、青色、緑色の蛍光体層12R、12G、12Bを有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
続いて、PDP20の製造方法について説明する。まず、前面ガラス基板1上に、走査電極2および維持電極3と遮光層5とを形成する。走査電極2および維持電極3は、それぞれ透明電極2a、3aと金属バス電極2b、3bより構成されている。透明電極2a、3aと金属バス電極2b、3bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。透明電極2a、3aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極2b、3bは銀材料を含むペーストを所望の温度で焼成して固化している。また、遮光層5は、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングして焼成することにより形成される。
この後、走査電極2、維持電極3および遮光層5を覆うように前面ガラス基板1上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト層(誘電体材料層)を形成する。誘電体ペーストを塗布した後、所定の時間放置することによって塗布された誘電体ペースト層の表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極2、維持電極3および遮光層5を覆う誘電体層6が形成される。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料と、バインダおよび溶剤を含む塗料である。次に、誘電体層6上に酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層7を真空蒸着法により形成する。
以上の工程により前面ガラス基板1上に所定の構成物である走査電極2および維持電極3からなる表示電極4と、遮光層5、誘電体層6、保護層7が形成されて前面板22が完成する。なお、本発明の実施の形態では、上述した前面板22の各構成要素には鉛を含む材料は用いていない。
一方、背面板23は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板8上に、銀材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後にフォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極10用の構成物となる材料層を形成し、それらを所定の温度で焼成することによりアドレス電極10を形成する。
次に、アドレス電極10が形成された背面ガラス基板8上にダイコート法などによりアドレス電極10を覆うように下地誘電体ペーストを塗布し、下地誘電体ペースト層を形成する。その後、下地誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層9を形成する。なお、下地誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料と、バインダおよび溶剤を含んだ塗料である。
この後、下地誘電体層9上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布して所定の形状にパターニングして隔壁材料層を形成し、その後、焼成することにより隔壁11を形成する。下地誘電体層9上に塗布した隔壁形成用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。
隔壁11を形成した背面ガラス基板8には、隣接する隔壁11間の下地誘電体層9上および隔壁11の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布して蛍光体層12R、12G、12Bを形成する。その後、蛍光体層12R、12G、12Bを焼成することにより、背面ガラス基板8上に所定の構成部材を有する背面板23が完成するが、本発明の実施の形態では、前面板22と背面板23とを封着する封着材33の仮焼成ステップにおいて蛍光体層12R、12G、12Bの焼成を行ている。なお、上述した背面板23の各構成要素には、前面板22と同様に鉛を含む材料を用いていない。
次に、前面板22と背面板23とをその電極形成面側を対向させて、その周囲を封着材33で気密封着する封着ステップについて述べる。本発明の実施の形態では封着ステップを、背面板23の周縁部に封着材33を塗布形成する封着材塗布ステップと、塗布された封着材33を仮焼成する仮焼成ステップと、その後、前面板22と背面板23とを対向配置して封着材33を軟化溶融させて封着する封着接合ステップとを備えている。
本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法には、封着材33としては低融点の鉛成分を含まないフリットガラスとして、酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスを用いている。このフリットガラスと所定のフィラーと、樹脂および有機溶剤とを混練したペースト状の封着材を用いている。
まず、封着材塗布ステップでは封着材33を厚膜印刷やインクジェットまたはディスペンサーを備えた塗布装置を用いて、背面板23の周縁部の所定の位置に配置形成する。その後、仮焼成ステップで封着材33のペースト中の樹脂および有機溶剤を除去するとともに、フリットガラスを少し軟化させて形状を固定するために所定の温度で仮焼成する。次に、封着接合ステップで、前面板22と背面板23とをそれぞれの電極形成面側を対向配置し、仮焼成ステップでの仮焼成温度よりも高い温度で全体を焼成し、封着材33中のガラスフリットを軟化させて前面板22と背面板23とを封着接合する。また、本発明では、前述したように封着材33の仮焼成ステップにおいて、背面板23に形成した蛍光体層12R、12G、12Bの焼成処理も同時に行っている。
また、フィラーは耐熱性を有しており、封着材33の熱膨張係数を調整するとともに、フリットガラスの流動状態をコントロールするのに使用される。その材料としては、コージライト、フォルステライト、β−ユークリプタイト、ジルコン、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸アルミニウム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化スズ、酸化アルミニウム、石英ガラスなどが特に好ましい材料として単用または混用して使用されることが多い。なお、封着材33を塗布形成する封着材塗布ステップに厚膜印刷や塗布装置を用いず、封着材をシート状にして貼り付けて形成することもできる。
また、封着ステップの封着接合ステップにおいては、図2A、図2Bに示すように、背面板23のコーナ部の所定の位置に設けた排気用細孔30に配置した排気管31を、その周囲に配置したフリットタブレット32を軟化溶融させることによって固定している。フリットタブレット32は封着材33と同様の材料でフリットガラスを含む成型体である。
このようにして、前面板22と背面板23とを封着接合し排気管31を固定した後に、隔壁11で仕切られた放電空間14を排気管31によって真空排気する。その後、排気管31からネオンやキセノンなどを含む放電ガスを所定の圧力(例えば、Ne−Xe混合ガスの場合、53.2kPa〜79.8kPaの圧力)で封入する。その後、排気管31を適当な位置で局部的に加熱溶融(チップオフ)して封じ切ることにより気密封止してPDP20を完成させている。
以上の製造方法により完成したPDP20は、表示電極4に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層12R、12G、12Bを励起して赤色、緑色、可色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
ここで、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法の封着ステップについてさらに詳細に説明する。
本発明の実施の形態では、封着材33として、少なくとも酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛の硼珪酸系のフリットガラスを用いている。ここで用いた酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスの組成は、酸化ビスマス(Bi2O3)が70重量%〜85重量%、酸化亜鉛(ZnO)が8重量%〜10重量%、酸化硼素(B2O3)が4重量%〜6重量%、酸化アルミニウム(Al2O3)が6重量%〜8重量%、酸化珪素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)がそれぞれ1重量%〜3重量%になっている。特に酸化ビスマス(Bi2O3)の量は、少な過ぎるとガラスの軟化点温度が下がりにくくなるために封着不良が発生し、逆に多過ぎると表示電極4やアドレス電極10中の銀(Ag)との反応が生じて発泡しやすくなる。そのため、65重量%〜80重量%の範囲に設定するのが好ましい。
図3は本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法に用いる封着材のフリットガラスの加熱温度と軟化点温度との関係を示す図であり、フリットガラスとして本発明の実施の形態で用いる酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスと従来の鉛を含むフリットガラスについて示している。図3の横軸はフリットガラスを加熱する加熱温度であり、前述の仮焼成ステップでの仮焼成温度を示している。縦軸は示差熱分析装置(TDA)を用いて測定した軟化点温度である。
図3に示すように、従来の鉛を含む非晶質系のフリットガラスが加熱温度に対して軟化点温度が一定であるのに対し、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法において用いる非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは加熱温度の増加とともに軟化点温度が変化し上昇する。
図3に示すように、酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは、所定の加熱温度までは加熱温度に対して軟化点温度の変化の変化率Aを有し、所定温度を超えると変化率Aよりも急峻な変化率Bを有している。すなわち、加熱によってフリットガラスの物性が変化するために軟化点温度が変化することを意味し、所定の加熱温度を超えると物性の変化が急激に起こることを示している。したがって、仮焼成ステップにおいてフリットガラスを加熱すると、その加熱温度によって、次の封着接合ステップで軟化溶融させるための温度が変化することになる。また、図3においては、このように変化率が急峻に変化する、すなわち変化率の変化が発生する加熱温度は490℃である。
図3に示すように、加熱温度が490℃を越えると軟化点温度が急上昇している。このことは非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスは、490℃近傍の温度から急激に結晶化が進むことを示している。すなわち、仮焼成ステップでの仮焼成温度を490℃以上に設定すると、フリットガラスは一部で結晶化が始まっているために軟化点温度が上昇する。そのために、次の封着ステップで490℃よりも若干高い温度で封着しようとすると、フリットガラスが軟化溶融しにくくなり封着接合ができなくなるといことである。
一方、結晶化が進展し、軟化点温度が上昇したガラスフリットを軟化溶融させて封着接合するためには、さらに高い温度の封着温度にする必要がある。しかしながら、封着温度を高くすることは、ガラスなどの構成材料の再溶融や電極、隔壁などのアライメントに悪影響を及ぼす恐れがある。特に、走査線の数が従来の2倍以上になるフルスペックのハイビジョンテレビ用の高精細PDPでは電極本数が増加するために、封着材の仮焼成温度を上昇させることはその影響が顕著に現れる。
また、一部結晶化したフリットガラスを再溶融させようとすると、特にPDP20の画面サイズが大きくなる場合には、加熱プロセスでの面内均一性を確保することが難しくなり、結果として面内でフリットの軟化溶融状態の不均一性が発生する。例えば、従来の仮焼成温度よりも少し高い温度の封着温度では十分に軟化せずに、前面板22と背面板23間のギャップが所定のギャップより大きくなり、表示性能を劣化させるなどの問題が発生する。また、フリットガラスが結晶化した状態では、前面ガラス基板1や背面ガラス基板8と封着材33との接着接合が不十分となり、確実な気密性が確保できなくなる。
したがって、本発明では、封着材に、加熱温度に応じて軟化点温度の変化の変化率が変化する酸化ビスマス(Bi2O3)を主成分とするガラスフリットを用い、封着ステップのうちの仮焼成ステップでの仮焼成温度を変化率の変化が発生する温度よりも10℃から60℃低い温度としている。
すなわち、図3に示す変化率の変化が発生する加熱温度は490℃より10℃から60℃低い温度である、480℃から430℃の範囲の仮焼成温度で仮焼成を行うようにしている。そのため、封着接合ステップでは、封着温度をその仮焼成温度より10℃程度高い温度とするだけで、軟化溶融が確実に行われ、かつ結晶化の進展のない状態での封着接合を実現することができる。つまり、仮焼成温度を430℃〜480℃の間で行うことにより、フリットガラスの軟化点温度の変化の変化率が変化率Aの領域範囲となり、次の、封着温度を490℃までの温度としても、軟化点温度が450℃以下の低温となる。そのため、均一な軟化溶融ができ、確実な封着接合が可能となる。
なお、図3では、加熱温度が300℃から490℃まではひとつの近似線で変化率Aであるように示しているが、430℃未満では加熱温度に対する軟化点温度の変化率あるいはその変化にバラツキが生じる。そのため、その後の封着プロセスのでフリットガラスの軟化溶融が不均一となる場合がある。そこで、本発明の実施の形態では仮焼成温度の下限を430℃としている。
一方、従来の鉛を含有するフリットガラスを用いた封着材を用いた場合には、図3に示すように、加熱温度に対して軟化点温度が変化せず一定のため、封着ステップでの仮焼成ステップと、背面板に塗布形成した蛍光体層の焼成ステップとを同一とする、いわゆる同時焼成が可能であった。すなわち、例えば、蛍光体層を焼成する温度が470℃の場合、470℃で封着ステップの仮焼成を行っても、鉛を含有するフリットガラスの軟化点温度は440℃と変化しない。そのため、次の封着温度を450℃とすると、フリットガラスが完全に軟化溶融して封着接合を確実に行うことができるものであった。
一方、本発明では、前述のように、酸化ビスマス(Bi2O3)を主成分とするガラスフリットを用い、封着ステップのうちの仮焼成ステップでの仮焼成温度を490℃以下としており、具体的には430℃〜480℃の間で行うようにしている。蛍光体層の焼成は、塗布された蛍光体層中に含有する樹脂成分と有機溶媒成分を完全に除去することを目的としている。そのために、430℃〜480℃の温度範囲の中で焼成を行うことにより、充分確実な樹脂成分と勇気溶剤成分の除去を行うことができる。また、430℃未満の温度では塗布された蛍光体層中に含有する樹脂成分と有機溶媒成分を完全に除去することが難しくなる。そのため、焼成の確実性と、前述の理由による封着接合の確実性を確保するために仮焼成温度を430℃〜480℃の間の温度で行うようにしている。
したがって、本発明の実施形態におけるPDPの製造方法によれば、封着材の仮焼成ステップでの仮焼成温度を上昇させ、蛍光体層が焼成可能な温度まで高く設定することができる。したがって、背面板23に塗布形成された蛍光体層12R、12G、12Bの蛍光体層焼成ステップと仮焼成ステップとを同一の熱プロセス、すなわち同時焼成で行うことが可能となる。その結果、製造工程の工数を削減して環境に配慮した信頼性の高いPDPを実現することができる。
また、走査線の数が従来の2倍以上になるフルスペックのハイビジョンテレビのような高精細PDPでは電極本数が増加するため、封着ステップでの封着温度が上昇するとPDPの特性や品質への影響が避けられない。しかしながら、本発明の実施の形態によれば、非鉛の酸化ビスマス(Bi2O3)を含むフリットガラスを用いた場合でも、封着温度をガラス基板などの材料や電極、隔壁のアラインメントに影響を与えない温度範囲とすることができる。
なお、上記の実施の形態では、排気管31やフリットタブレット32を、上述の封着材33と同様の鉛を含まない材料組成とすることが可能であり、環境に配慮したPDPを実現することができる。
また、上述した本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法で用いる酸化ビスマス(Bi2O3)を含む非鉛のフリットガラスは、厳密にいえば、全く鉛を含まないことはなく、分析すると500PPM以下ではあるが、極微量レベルの鉛が検出される。しかしながら、欧州における環境に関するEC−RoHS指令の規定では1000PPM以下であれば鉛を含まないとみなすことができ、本発明の実施の形態においては「鉛を含まない」とか「非鉛」といった表現を用いている。
以上述べたように本発明のPDPは、封着の信頼性を高め、さらに、環境に配慮した表示品質に優れたPDPを実現して大画面の表示デバイスなどに有用である。
本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの構造を示す分解斜視図
本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法によるPDPの平面図
図2Aの2B−2B線断面図
本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法に用いる封着材のフリットガラスの加熱温度と軟化点温度との関係を示す図
符号の説明
1 前面ガラス基板
2 走査電極
2a,3a 透明電極
2b,3b 金属バス電極
3 維持電極
4 表示電極
5 遮光層
6 誘電体層
7 保護層
8 背面ガラス基板
9 下地誘電体層
10 アドレス電極
11 隔壁
12R,12G,12B 蛍光体層
14 放電空間
20 PDP
22 前面板
23 背面板
30 細孔
31 排気管
32 フリットタブレット
33 封着材
本発明のPDPの製造方法は、透明な基板上に表示電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板と、アドレス電極、隔壁および蛍光体層とが形成された背面板とを対向配置するとともに前面板と背面板の周囲を封着材で封着する封着ステップを備えたプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、封着材は鉛成分を含まない封着材であり、封着ステップは、背面板に封着材料を塗布する封着材塗布ステップと、塗布された封着材を仮焼成する仮焼成ステップと、前面板と背面板とを対向配置して封着材を軟化溶融させて封着する封着ステップとを備え、封着材が、加熱温度に対して軟化点温度が変化するとともに加熱温度に対して軟化点温度の変化率が異なる特性を有する酸化ビスマスを主成分とするガラスフリットにより構成され、仮焼成ステップでの仮焼成温度を変化率が変わる温度よりも10℃から60℃低い温度としている。