JPWO2007094394A1 - 意識障害患者における病態の検出方法及び検出用キット - Google Patents

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Abstract

意識障害患者において、フォンヴィルブランド因子切断酵素の量及び/又は活性を分析する、意識障害患者における病態の検出方法、並びに、フォンヴィルブランド因子切断酵素に特異的に結合する抗体若しくはその断片、又はフォンヴィルブランド因子若しくはその断片を含む、意識障害患者における病態の検出用キットを開示する。病態の検出には、例えば、脳血管障害の検出、動脈硬化性血管障害の検出、あるいは、重篤度の検出又は重篤度の予測が含まれる。

Description

本発明は、意識障害患者(特には、昏迷又は昏睡などの意識不明患者)における病態の検出方法(把握方法)に関する。本発明によれば、被験者の生体試料(例えば、血液)中のフォンヴィルブランド因子(von Willebrand factor;以下、vWFと称する)切断酵素の量(濃度)及び/又はその酵素活性を分析(好ましくは定量)することにより、現時点での重篤度の程度の判定、あるいは、将来の重篤度の予測が可能である。
我が国における最も多い死亡原因は、1980年までは脳卒中であったが、治療技術の進歩と救命救急医療の発達によって、ここ20年間でほぼ4分の1までに減少してきた。しかしながら、一方では、急速に進む高齢化社会に伴って、現在では再び患者数が増加する傾向にある。その予防のために、日ごろからの健康管理が重要であるとともに、脳卒中等によって昏迷・昏睡状態の初期段階において、その意識障害の原因を正確に把握し、適切な処置(治療、予後の観察)を施すことが、患者延命につながる。
脳卒中は、血管異常によって起こる脳の障害(脳の血管が何らかの原因で破れたり詰まったりする発作性の障害)で、生命の危険性、麻痺や言語障害といった後遺症を残すため、早期の適切な治療が重要となる。
脳卒中は、脳の血管が破裂して起こる出血性病変によるものと、脳の血管が閉塞して起こる虚血性病変によるものに大別される。出血性病変には、くも膜下出血と脳出血があり、一方の虚血性病変は、脳梗塞と一過性脳虚血発作に分類される。
脳梗塞は、血栓による脳動脈の閉塞により生じる疾患であり、日本における死因の第3位になっている脳卒中の主病型で死亡率の高い疾患である。脳梗塞とは、脳動脈が何らかの原因で詰まり、それ以降の組織に血液が流れなくなるか、若しくは流れにくくなった状態を言う。死因の約20%が脳血管疾患であり、その中の約50%が脳梗塞で占められている。脳梗塞は、脳塞栓と脳血栓の2つに分類される。脳塞栓は、脳動脈には直接的な原因はなく、心臓病を起したことによる心臓内で形成された血液、タンパク質、脂肪等の凝固物が、脳動脈に流れ込み、脳動脈を塞ぐことによって起こる。これに対し、脳血栓は、脳動脈それ自体の動脈硬化を成因とし発症するものである。発症頻度は、脳塞栓よりも脳血栓の方が多い。
昏迷・昏睡の原因は、脳卒中だけではなく、頭部外傷等による脳幹損傷、アルコール中毒や、鎮静薬などの薬の過剰摂取、心停止、動脈瘤、重症の肺疾患、一酸化炭素の吸引、てんかん発作、甲状腺機能低下、肝不全や腎不全、糖尿病による低血糖等がある。従って、的確な判断を下すためにも多くの検査結果が必要になる。例えば、血液中の糖、ナトリウム、アルコール、酸素、二酸化炭素などの濃度、赤血球数と白血球数、尿中の糖や有害な物質が調べられる。また、トロポニンや心臓由来脂肪酸結合タンパク質(H−FABP)を測定することで、患者の昏迷・昏睡が心筋梗塞によるものであることが把握でき、適切な治療を選択することができる。しかし、脳血栓の原因となる動脈硬化を診断する方法としては、現在、眼底検査、X線CT、MRI、脈波速度法、超音波による血流計測等の非侵襲的診断法と、血管造影、血管内視鏡、血管内エコー等の観血的検査等によるが、いずれも動脈硬化性血管障害の程度や症状の伸展をモニタリングする上で充分とはいえない。
一方、フォンヴィルブランド因子(von Willebrand factor;以下、vWFと称する)切断酵素[以下、ADAMTS13(vWF切断酵素の別称)と称する]は、元来、非常に重篤な致死率の高い血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic
thrombocytopenic purpura;以下、「TTP」と称する)の発症に関与することが示唆され、血漿からvWF切断酵素が精製され(非特許文献1)、cDNAクローニングによりその遺伝子が決定された。実際、ADAMTS13の遺伝子変異がvWF分解活性を著しく低下させることが明らかにされている(非特許文献2)。近年、ADAMTS13に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を応用した酵素免疫測定法が開発され(特許文献1)、血小板凝集が関与した血栓症の原因および血栓症の血栓形成傾向の検出法が確立された。これを使用し、各種血栓症患者の血漿中におけるADAMTS13の濃度が健常人と比べて顕著に低下していることが見いだされている。
例えば、特許文献2には、ADAMTS13を定量することを特徴とする、血栓形成傾向の程度又は血栓症の検出方法が開示されており、前記血栓症として、急性若しくは慢性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、全身性エリトマトーデス、肺塞栓、脳硬塞、肝中心静脈閉塞症、急性リンパ球性白血病、血栓性微小血管障害、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、又は深部静脈血栓症が挙げられている。また、特許文献3には、ADAMTS13及び/又はその分解因子(例えば、エラスターゼ、プラスミン、又はトロンビン)を分析する、播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation;DIC)又は全身性炎症反応症候群(systemic
inflammatory response syndrome;SIRS)患者における血小板血栓症又は臓器障害の検出方法が開示されている。
ADAMTS13の活性測定法は、従来より、SDS−アガロース電気泳動とオートラジオグラフィー又はウエスタンブロット法とを組み合わせたvWF巨大マルチマーの検出法が用いられてきた(非特許文献3)。また近年、ADAMTS13によるvWFの特異的分解部位であるA2ドメイン73残基を用い、その周辺部位に蛍光基と消光基を導入したFRETS−VWF73が開発され、ADAMTS13活性測定が簡便に行われるようになった(非特許文献4)。
国際公開第2004/029242号パンフレット 国際公開第2005/062054号パンフレット 国際公開第2006/049300号パンフレット ケー・フジカワ(K. Fujikawa)ら,「ブラッド(Blood)」,(米国),2001年,第98巻,p.1662−6 ジー・ジー・レビー(G. G. Levy)ら,「ネイチャー(Nature)」,(英国),2001年,第413巻,p.488−494 エム・フルラン(M.Furlan)ら,「ブラッド(Blood)」,(米国),1996年,第87巻,p.4223−4234 コカメ・ケー(Kokame K)ら「ブリティッシュ ジャーナル オブ ヘマトロジー」,(英国),2005年,第129巻,93−100
前記のように、昏迷・昏睡の原因は多岐に渡っており、その由来を早期に把握することは重要なことである。特に、脳血管障害患者における脳血栓の原因となる動脈硬化を診断する様々な検査方法が存在するが、動脈硬化性血管障害の程度や症状の伸展をモニタリングする上では不充分である。また、意識障害及び/又は多臓器不全の発症を伴う病態に伸展するにいたるメカニズムやその成因となる物質の全てが解明されたわけではなく、生命予後不良の転帰をとる患者が後を絶たない。脳血管障害患者において、このように重篤な症状に陥る可能性のある患者をいち早く察知し適切な治療を早期に行うことにより、多臓器不全を含む重度な伸展病態を防御することができる可能性も考えられる。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、脳卒中などの昏迷又は昏睡状態の患者におけるADAMTS13を分析することで、その測定結果から病態の把握又は重篤な症状への伸展を予測できることを見出した。より具体的には、脳血管障害患者の血漿中におけるADAMTS13の濃度及び/又はその活性を測定し、動脈硬化性血管障害の程度に応じADAMTS13の濃度が低下していることを見出した。更に、本発明においては、重度の肝障害を有する症例においてADAMTS13の濃度及び活性が著減している場合に意識障害及び多臓器不全を伴う重篤な症状に陥ることを新たに発見し、これらの測定が、重篤の予測と予後の管理に有用であるという知見を得、ここに本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は、意識障害患者における病態の検出方法及び検出用キットを提供することにある。
前記課題は、本発明による、意識障害患者において、フォンヴィルブランド因子切断酵素の量及び/又は活性を分析することを特徴とする、前記意識障害患者における病態の検出方法により解決することができる。
本発明の検出方法の好ましい態様によれば、前記の病態の検出が、脳血管障害の検出、動脈硬化性血管障害の検出、あるいは、重篤度の検出又は重篤度の予測である。
本発明の検出方法の別の好ましい態様によれば、フォンヴィルブランド因子切断酵素量の分析を、フォンヴィルブランド因子切断酵素に特異的に結合する抗体又はその断片を使用する免疫学的手法により行う。
本発明の検出方法の更に別の好ましい態様によれば、フォンヴィルブランド因子切断酵素活性の分析を、フォンヴィルブランド因子又はその断片を使用することにより行う。
また、本発明は、フォンヴィルブランド因子切断酵素に特異的に結合する抗体若しくはその断片、又はフォンヴィルブランド因子若しくはその断片を含む、意識障害患者における病態の検出用キットに関する。
本発明の検出用キットの好ましい態様によれば、前記の病態の検出が、脳血管障害の検出、動脈硬化性血管障害の検出、あるいは、重篤度の検出又は重篤度の予測である。
本明細書における用語「分析」には、分析対象物質(例えば、ADAMTS13)の存在の有無を判定する「検出」と、分析対象物質の量(濃度)又は活性を定量的又は半定量的に決定する「測定」とが含まれる。
本明細書における用語「病態の検出(把握)」には、例えば、脳血管障害の有無又は程度の検出又は予測、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の重篤度の検出又は予測、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の発症の予測(すなわち、発症の危険性の評価)、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の予後の予測、モニタリング、治療法の決定などが含まれる。
本発明によれば、意識障害患者において、現時点での重篤度の程度の判定、あるいは、将来の重篤度の予測が可能である。
例えば、本発明は、意識障害患者(例えば、脳血管障害患者)において、意識障害及び/又は多臓器不全の発症を伴う重篤な症状に陥る可能性のある患者をいち早く察知することを可能としたものであり、その臨床的価値は非常に高いものと考える。本発明によれば、簡便性、迅速性、及び特異性に優れた意識障害、及び/又は多臓器不全の検出が可能となる。また、後述する実施例より、意識障害、あるいは多臓器不全発症のあらたな成因として“ADAMTS13の著減”が示唆でき、従来は当該患者に対して処方されることのなかったADAMTS13を増やす、あるいは減らさないような治療方法[新鮮凍結血漿(FFP)の輸注、血漿交換、など]を行えば病状の悪化を食い止められることが考えられる。このことはADAMTS13のモニタリングが直接的に脳梗塞患者に対する前述のような治療効果の良否判定に使えることを示すものである。
ADAMTS13を含有する正常ヒトプール血漿及びその希釈系列で処理したvWFのSDS−アガロースゲル電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。 図1に示す電気泳動像から作成した標準曲線である。 アテローム血栓性脳梗塞症例におけるADAMTS13抗原量を統計処理した結果を示すグラフである。 ラクナ型脳梗塞症例におけるADAMTS13抗原量を統計処理した結果を示すグラフである。 実施例3の症例1の臨床経過を示すグラフである。
[1]本発明の検出方法
本発明方法では、ADAMTS13の量(濃度)又はその酵素活性の少なくとも一方を分析(好ましくは測定又は定量)し、健常人のADAMTS13の量(濃度)又はその酵素活性と比較することにより、あるいは、量(濃度)及び活性を経時的に測定又は定量することにより、意識障害患者における病態の検出を行うことができる。本発明方法は、
(1)被検試料中のADAMTS13の量(濃度)又は酵素活性を分析する工程、及び
(2)前記分析値を健常人の値と比較する工程
を含むことができる。あるいは、本発明方法は、
(1)被検試料中のADAMTS13の量(濃度)又は酵素活性を経時的に分析する工程、及び
(2)前記分析値の経時的傾向を解析する工程
を含むことができる。
本明細書において「フォンヴィルブランド因子切断酵素(vWF切断酵素)」とは、フォンヴィルブランド因子(vWF)のA2ドメインに存在するチロシン(842)とメチオニン(843)を特異的に切断し、ADAMTS13とも称されるメタロプロテアーゼである。
本発明方法では、健常人と比較して、ADAMTS13の量(濃度)及び/又はその酵素活性の低下を指標とすることができる。また、本発明方法では、ADAMTS13の量(濃度)及び/又は酵素活性を経時的に測定し、その減少傾向を指標とすることができる。例えば、後述する実施例に示すように、意識障害及び/又は多臓器不全の発症を伴う病態に伸展する患者ではそういった病態に伸展する以前にすでに健常人と比較して、体液試料中に含まれているADAMTS13の濃度及び酵素活性が顕著に低下している。
本発明方法では、ADAMTS13濃度及び/又はその酵素活性を測定又は定量し、健常者の正常値範囲よりも低値を示す場合(例えば、閾値を超える場合)、あるいは、経時的にADAMTS13の濃度及び/又は酵素活性を測定又は定量し、その測定値が減少傾向を示す場合には、被験者が脳血管障害を発症している(又は障害の程度が高い)か、あるいは、その発症の危険性が高いと判定又は予測することができる。また、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の重篤度が高いと判定することができ、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の発症の危険性が高いと予測することができ、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の予後の状態が不良であると予測することができる。
一方、ADAMTS13濃度及び/又はその酵素活性が正常値範囲内である場合、あるいは、経時的にADAMTS13の濃度及び/又は酵素活性を測定又は定量し、その測定値が増加傾向を示す場合には、被験者が脳血管障害を発症していない(又は障害の程度が低い)か、あるいは、その発症の危険性が低いと判定又は予測することができる。また、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の重篤度が低いと判定することができ、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の発症の危険性が低いと予測することができ、各種症状[例えば、脳血管障害及び/又はその他の合併症(例えば、意識障害、多臓器不全、肝機能障害)]の予後の状態が良好であると予測することができる。
本発明方法を適用することのできる対象(被験者)としては、意識障害患者、特には、昏迷又は昏睡などの意識不明患者を挙げることができ、脳血管障害患者(脳卒中患者)であることが好ましい。
脳血管障害としては、例えば、一過性脳虚血発作、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ型脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、頭蓋内出血、脳血管性痴呆、又は高血圧性脳症などを挙げることができる。肝機能障害としては、例えば、急性ウイルス肝炎、慢性ウイルス肝炎、自己免疫性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、肝細胞癌、又は薬剤性肝障害などを挙げることができる。動脈硬化性血管障害とは、大動脈、冠状動脈、脳動脈、又は頚動脈に多く発生し、心筋梗塞や脳梗塞などの主因となる病態である。動脈硬化巣は血管内皮細胞の障害により開始され、障害部位での血小板の凝集と吸着、血管平滑筋細胞の内膜への遊走・増殖、凝集した血小板への貪食細胞の遊走、平滑筋細胞や貪食細胞よりの泡沫細胞の生成などに基づく粥状動脈硬化巣(アテローム)の形成、さらに、コラーゲンの変性着などによる硬化に至り、動脈硬化巣が完成されると考えられている。これら動脈硬化巣は構造的脆弱性を示し、血行力学的な力が引き金となり破錠し、組織因子と血液凝固系因子との反応により急激に血栓が形成される。動脈硬化性血管障害の危険因子として高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、痛風、ストレス、運動不足、A型行動パターン、あるいはHDLコレステロールの低い状態など非常に多くある。近年、脳血管障害においてもこれら生活習慣病の増加に伴い、アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症が増加傾向にある。脳血管障害の中でもこれら動脈硬化性血管障害に起因するものは虚血性の脳梗塞であり、その例として例えば、内頸動脈起始部や中大脳動脈水平部のアテローム形成による動脈狭窄・閉塞に起因するアテローム血栓性脳梗塞、あるいは頸部にある総頸動脈の動脈硬化を原因にすることが多い比較的大きな血管の動脈硬化による動脈原性塞栓症、また、冠動脈疾患に起因する心臓の不整脈などが原因で心腔内に形成されたフィブリン血栓の遊走により内頸動脈や脳動脈が突然閉塞し、急激な脳循環障害とともに発症する心原性脳塞栓症、また穿通動脈の細動脈硬化を主因とし、高血圧が危険因子と考えられているラクナ型脳梗塞を挙げることができる。
本発明方法では、健常者と被験者から、それぞれ検体を採取し、それぞれのADAMTS13濃度及び/又はその酵素活性を測定した後、測定値を比較することにより、前記検出及び/又は予測を行うこともできるが、通常は、健常者から採取した検体を用いてADAMTS13濃度及び/又は酵素活性の正常値範囲又は判定用閾値を予め決定しておくことが好ましい。正常値範囲又は判定用閾値が予め決定されている場合には、予測対象である被験者に関してADAMTS13の分析を行うだけで、前記被験者における前記検出及び/又は予測を行うことができる。前記正常値範囲又は判定用閾値は、種々条件、例えば、基礎疾患、性別、年齢などにより変化することが予想されるが、当業者であれば、被験者に対応する適当な母集団を適宜選択して、その集団から得られたデータを統計学的処理を行うことにより、正常値範囲又は判定用閾値を決定することができる。
例えば、後述の実施例に示す母集団においては、ADAMTS13濃度に関して、異常とみなせる値は50%以下であり、ADAMTS13の酵素活性に関して、異常とみなせる値は40%以下であった。
本発明方法において、ADAMTS13の濃度又はその酵素活性を分析する方法としては、ADAMTS13の濃度又は酵素活性を定量的又は半定量的に決定することができるか、あるいは、ADAMTS13の存在の有無を判定することができる限り、特に限定されるものではない。
ADAMTS13濃度を分析する方法としては、例えば、抗ADAMTS13抗体又はその断片を用いる免疫学的手法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色、又はウエスタンブロット等)、生化学的手法(例えば、酵素学的測定法)、又はmRNA量を測定する分子生物学的手法などを挙げることができる。
ADAMTS13濃度の分析方法として免疫学的手法を用いる場合には、抗ADAMTS13抗体又はその断片は、公知の方法、例えば、国際公開第2004/029242号パンフレットに記載の方法に従って調製することができ、各種免疫学的測定も、例えば、国際公開第2004/029242号パンフレットに記載の方法に従って実施することができる。
ADAMTS13濃度を測定する方法としては、感度及び簡便性から免疫学的方法が好ましい。ここで免疫学的方法とは、ADAMTS13に対する抗体を用いて、ADAMTS13を、例えば、ELISA法、ラテックス法、又はイムノクロマトグラフ法で分析する方法である。免疫学的方法としては、例えば、ADAMTS13を標識する競合法、抗体を標識するサンドイッチ法、抗体をコートしたビーズの凝集を観察するラテックスビーズ法、あるいは、金コロイドなどの着色粒子に結合した抗体を用いる方法等、様々な方法があるが、ADAMTS13に対する抗体を用いた方法であれば、本発明の好ましい態様に含まれる。抗体は、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でも良い。また、抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvを用いることもできる。
ADAMTS13の酵素活性を分析する方法としては、例えば、vWF又はその断片を用いる生化学的手法[例えば、SDS−アガロースゲル電気泳動及とオートラジオグラフィー又はウエスタンブロット法とを組み合わせたvWF巨大マルチマーの検出法(非特許文献3)、vWFのA2ドメイン中のAsp1596−Arg1668に相当する73残基に相当する合成ペプチドに蛍光基[2-(N-methylamino)benzoyl, Nma]と消光基(2,4-dinitrophenyl, Dnp)を導入した方法によるvWF切断活性を検出する方法(非特許文献4)、あるいは、vWF又はその断片と、vWFのADAMTS13切断部位を特異的に認識する抗体又はその断片とを用いる免疫学的手法などを挙げることができる。
ADAMTS13の酵素活性を分析する方法としては、合成基質を用いる測定法や免疫測定法を挙げることができる。これらは、例えば、特願2005−148793号明細書に記載の方法に従って実施することができ、具体的には、(1)ADAMTS13を含有する可能性のある被検試料と、vWF又はその断片を不溶性担体に結合させた固定化基質とを液中で接触させる工程、(2)前記液と不溶性担体とを分離する工程、並びに(3)不溶性担体に残存するvWF又はその断片、及び/又は、不溶性担体から遊離した液中のvWF断片を分析する工程を含む分析方法により実施することができる。また、前記分析方法において、不溶性担体に結合するvWF又はその断片が、ADAMTS13の切断により不溶性担体から遊離する基質断片側において、標識物質で標識されている態様も可能である。更に、ADAMTS13の切断で生じるネオアンチゲン(切断面のアミノ酸を含む部分配列)と特異的に結合する抗体若しくはその断片又はアプタマー等を用い、これらを標識物質で標識し、前記分析工程で使用することにより、酵素活性を分析することができる。前記標識物質としては、例えば、蛍光物質、発光物質、発色物質、又は酵素を挙げることができ、不溶性担体としては、例えば、各種プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、又はポリテトラフルオロエチレン)からなるラテックス粒子、ガラス粒子、磁性粒子、又はマイクロタイターウェルなどを挙げることができる。
本発明方法において、被検試料としては、例えば、血漿または血清形態の血液が好ましいが、それ以外にも、例えば、細胞組織液、リンパ液、胸腺水、腹水、羊水、胃液、尿、膵臓液、骨髄液、又は唾液等の各種体液を用いることもできる。
[2]本発明の検出用キット
本発明の検出用キットは、本発明方法を実施するのに用いることができる。本発明の検出用キットには、その分析対象に応じて、ADAMTS13濃度を分析することにより前記障害を検出することができる検出用キット(以下、濃度分析型キットと称する)と、ADAMTS13の酵素活性を分析することにより前記障害を検出することができる検出用キット(以下、酵素活性分析型キットと称する)とが含まれる。
本発明の濃度分析型キットは、抗ADAMTS13抗体又はその断片を少なくとも含み、異なる2種類以上の抗ADAMTS13抗体を含むことが好ましい。前記抗ADAMTS13抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであることもできる。また、異なる2種類以上の抗ADAMTS13抗体を含む場合には、いずれか一方(第2抗体)を標識抗体とすることもできるし、あるいは、標識化の代わりに、第2抗体に対する抗体に標識を結合させた標識抗体を更にキットに追加することもできる。
本発明の酵素活性分析型キットは、vWF又はその断片を少なくとも含む。また、vWF又はその断片が標識されているものをキットに使用することもできる。あるいは、vWF又はその断片を標識する代わりに、ADAMTS13の切断で生じるネオアンチゲン(切断面のアミノ酸を含む部分配列)と特異的に結合する抗体又はその断片をキットに追加することもできる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:SDS−アガロースゲル電気泳動によるADAMTS13酵素活性の測定》
ADAMTS13を含む正常ヒトプール血漿及びその希釈系列を、トリス緩衝液(pH7.4;1.5mol/L尿素及び0.1mol/L塩化バリウム含有)と等量混合し、更に終濃度2.4mmol/Lとなるように4−[2−アミノエチル]−ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(4-[2-Aminoethyl]-benzenesulfonyl fluoride, hydrochloride;Pefabloc;Roche社)を添加した。このように処理したサンプル溶液を、vWF(非特許文献3に記載の方法により、ヒト血漿から精製したもの)3μg/mLを含むトリス緩衝液(pH7.4、1.5mol/L尿素)と1:5の容量比で混合し、37℃で一晩インキュベーションし、組み換えvWFをサンプル溶液中のADAMTS13で分解した。分解反応は、終濃度40mmol/LとなるようにEDTAを添加することにより停止させた。このように調製したサンプルを非還元下のSDS−アガロースゲル電気泳動(1.4%アガロースゲル)にて分離後、ウエスタンブロット法にて、PVDF(polyvinylidene
difluoride)膜にトランスファーした。市販のブロッキング剤(ブロックエース;大日本製薬)で室温にてブロッキングした後、トリス緩衝液(pH7.4)で洗浄した。トリス緩衝液(pH7.4)/10%ブロックエースで1/1000希釈したHRP(horseradish
peroxidase)標識抗vWF抗体(DAKO社)にて1時間室温で反応させた後、トリス緩衝液(pH7.4)で3回洗浄後、市販の発色キット(イムノステインHRP−1000;コニカ社)にて発色した。
電気泳動の結果を図1に示す。図1に示す各レーンの数値(単位=%)は、正常ヒトプール血漿を100%とした場合の、正常ヒトプール血漿及びその希釈系列に含まれるプール血漿の含有割合である。サンプル中のADAMTS13によりvWFが分解され、そのマルチマーサイズに準じたvWFバンドの長さとなって検出されている。
vWFバンドの長さ(単位=mm)を縦軸、プール血漿の含有割合を横軸にとり、図2に示す標準曲線を作成した。
《実施例2:脳血管障害症例におけるADAMTS13抗原量の測定》
アテローム血栓性脳梗塞症例及びラクナ型脳梗塞症例の患者由来の血漿を被検試料として、ADAMTS13抗原量を測定した。ADAMTS13抗原量は、市販キット(vWF切断酵素 ELISA kit;三菱化学ヤトロン)を使用して測定した。
アテローム血栓性脳梗塞症例に関する結果を図3に、ラクナ型脳梗塞症例に関する結果を図4に示す。図3及び図4において、Y軸[ADAMTS13:Ag(%)]は、健常人プール血漿のADAMTS13抗原量を100%とした場合の、ADAMTS13抗原量(単位=%)である。図3に示す「P<0.05」は、危険率5%未満で有意差があることを意味する。図4に示す「P<0.01」は、危険率1%未満で有意差があることを意味する。
アテローム血栓性脳梗塞症例(図3)においては、他部位(すなわち、脳以外の部位)の血管イベント[例えば、陳旧性心筋梗塞(OMI)及び/又は閉塞性動脈硬化症(ASO)]合併の有無別でADAMTS13抗原量を比較した。他部位の血管イベント非合併群に比べ、合併群ではADAMTS13抗原量が有意に低下していた。
また、ラクナ型脳梗塞症例(図4)においては、MRI画像上で解析を行って単発梗塞群と多発梗塞群とに選別し、それぞれにおいてADAMTS13抗原量を比較した。単発梗塞群に比べ、多発梗塞群ではADAMTS13抗原量が有意に低下していた。
図3及び図4に示す結果は、脳血管障害患者においてADAMTS13の血液中の濃度が低ければ、より動脈硬化性の血管障害が進行していることを示唆するものであり、このことはADAMTS13の脳血管障害の程度を反映するマーカーとしての意義を示すものである。例えば、アテローム血栓性脳梗塞は、内頸動脈起始部や中大脳動脈水平部のアテローム形成による動脈狭窄・閉塞に起因する。また、陳旧性心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症も動脈硬化性血管障害とみなされる。更に、ラクナ型脳梗塞は、穿通動脈の細動脈硬化を主因とし、この梗塞が多発している場合、脳動脈以外にも動脈硬化部位を認めることが多く、単発と多発を比べると、より動脈硬化性の血管障害が進行していると考えられる。
《実施例3:意識障害及び/又は多臓器不全の発症を伴う病態に伸展する症例における臨床像とADAMTS13値》
亜急性期〜慢性期の脳血管障害133症例(アテロ−ム血栓性脳梗塞50例、心原性脳塞栓症22例、ラクナ型脳梗塞34例、脳出血19例、くも膜下出血8例)において、実施例1に示すSDS−アガロースゲル電気泳動によりADAMTS13酵素活性を測定し、また、実施例2に示す市販キット(vWF切断酵素 ELISA kit;三菱化学ヤトロン)によりADAMTS13抗原量を測定した。これらの中で、ADAMTS13酵素活性が30%未満の症例は6例であり、この6例は全て脳梗塞[心原性脳塞栓症(CEBI)3例、ラクナ型脳梗塞(LBI)3例]であり、重度の肝障害(胆管癌1例、アルコール性肝炎1例、慢性C型肝炎4例)及び意識障害を伴っていた。前記6例の臨床像とADAMTS13値を表1に示す。
Figure 2007094394
表1に示す6例の内、入院中にADAMTS13酵素活性が更に低下した5症例(症例1〜症例5)に関しては、多臓器不全症候群(MODS)へと進展し、生命予後不良の転帰となった。なお、症例6は、MODSへ至らず、生命予後不良を免れた(生存中)。
症例1の臨床経過を図5に示す。図5において、「Ag」及び「Act」は、それぞれ、ADAMTS13抗原量及びADAMTS13酵素活性を意味する。症例1は、2004年6月22日(6/22’04)に入院(入院時の基礎疾患として、胆管癌、多発性肝転移、及び再発性胆管炎を発症)し、同年9月10日(9/10)に意識障害及び多臓器不全症候群(MODS)の症状が表れ、徐々に悪化し、同年9月28日(9/28’04)に死亡した。
以上の結果より、ADAMTS13は、重症肝障害の際に著しく低下した場合、意識障害、MODSへの促進因子となっていることが強く示唆される。すなわち、意識障害及び/又は多臓器不全の発症を伴う病態に伸展する成因として、「ADAMTS13の著減」自体がその病態形成に際し非常に重要な意義を有するものと考えられた。また、前記6症例の内、ADAMTS13酵素活性が低い(21%)ものの、その活性値を維持し、それ以上の減少を認めなかった症例(症例6)に関しては、MODSへ至らず、生命予後不良を免れた。この結果からは「ADAMTS13の著減」が重篤な進展病態を形成する上での成因となる可能性を示唆するだけでなく、当該患者に対して、これまで処方されることのなかったADAMTS13補充療法の新規有効性を考察することができる。ADAMTS13抗原量及び酵素活性をモニタリングし、その減少度合いを検出することはMODSへの伸展をいち早く予知することができ、早期に治療方針を決定し、ひいては患者への救命措置につながる診断法になることを示すものである。
本発明は、意識障害患者における病態の検出の用途に適用することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。

Claims (10)

  1. 意識障害患者において、フォンヴィルブランド因子切断酵素の量及び/又は活性を分析することを特徴とする、前記意識障害患者における病態の検出方法。
  2. 病態の検出が、脳血管障害の検出である、請求項1に記載の方法。
  3. 病態の検出が、動脈硬化性血管障害の検出である、請求項1に記載の方法。
  4. 病態の検出が、重篤度の検出又は重篤度の予測である、請求項1に記載の方法。
  5. フォンヴィルブランド因子切断酵素量の分析を、フォンヴィルブランド因子切断酵素に特異的に結合する抗体又はその断片を使用する免疫学的手法により行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. フォンヴィルブランド因子切断酵素活性の分析を、フォンヴィルブランド因子又はその断片を使用することにより行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  7. フォンヴィルブランド因子切断酵素に特異的に結合する抗体若しくはその断片、又はフォンヴィルブランド因子若しくはその断片を含む、意識障害患者における病態の検出用キット。
  8. 病態の検出が、脳血管障害の検出である、請求項7に記載のキット。
  9. 病態の検出が、動脈硬化性血管障害の検出である、請求項7に記載のキット。
  10. 病態の検出が、重篤度の検出又は重篤度の予測である、請求項7に記載のキット。
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