JPWO2012067152A1 - EndothelialProteinCReceptor蛋白質による脳梗塞の検査方法 - Google Patents
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Abstract
被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型診断または予後予測のための検査方法。
Description
本発明は、脳梗塞の病型診断や予後予測のための検査方法に関するものである。
脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害の総称である。これら脳卒中の病型のうち、最近では脳梗塞が相対的に増加してきている。脳梗塞急性期の薬物療法としては血栓溶解療法、抗凝固療法、抗血小板療法、脳保護薬投与などが用いられ、重篤な患者や出血性脳梗塞を起こした患者に対しては外科的手術が行われる。脳梗塞の症状は急性期にもっとも強く、その後徐々に改善していく。これは、壊死に陥った脳組織が腫脹して、周囲の脳組織も圧迫・障害していることによる。腫脹が引いていくとともに、周囲の組織が機能を回復して症状は固定していくのである。ただし、脳虚血部位から放出されるフリーラジカルは周囲の組織をも壊死させる働きがあるため急性期を過ぎても機能予後の向上につなげるため継続的な治療が必要とされている。
脳梗塞の臨床病型には、脳内小動脈が閉塞して発症するラクナ梗塞、脳内大動脈が粥腫で閉塞して発症するアテローム血栓性脳梗塞、心臓内の血栓が栓子となり脳内動脈を閉塞して発症する心原性脳塞栓症等がある。これらの臨床病型により急性期及び慢性期の適切な治療法が異なるため、脳梗塞患者の臨床病型を迅速に診断する方法が求められていた。
脳梗塞の臨床病型の分類方法としては、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等を施行してTOAST分類に準拠した脳梗塞臨床診断のフローチャート(非特許文献1)等により分類する方法や、分子マーカーを用いた方法、具体的には、CRP、D-Dimer、RAGE、MMP-9、S100B、BNP等の分子マーカーを脳梗塞発症24時間以内に同時測定した結果、BNPとD-Dimerで、特定のカットオフ値を設定すると、心原性脳塞栓症を他病型と分類できること(非特許文献2)などが開示されているが、さらに迅速で確実な病型診断が可能となる分子マーカーが求められていた。
脳梗塞の予後は、発症後3ヶ月後ないしは1年後までの間にmodified Rankin Scale(非特許文献3)、またはBarthel Index(非特許文献4)により日常生活における動作の障害度を評価することで判断されている。予後を事前に予測することは、脳梗塞の治療方法を早期に決める上で重要である。入院時に測定した血漿中のBNPで特定のカットオフ値を定めることにより死亡が予測できること(非特許文献5)が開示されているが、生存した場合の障害の程度を予測する分子マーカーが求められていた。
特許文献1には、Endothelial Protein C Receptor蛋白質を循環器疾患、特に、アテローム性動脈硬化症の診断に使用することが開示されている。しかしながら、Endothelial Protein C Receptor蛋白質を脳梗塞の病型診断や予後予測に使用できることは開示も示唆もされていない。
脳梗塞の臨床病型の分類方法としては、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等を施行してTOAST分類に準拠した脳梗塞臨床診断のフローチャート(非特許文献1)等により分類する方法や、分子マーカーを用いた方法、具体的には、CRP、D-Dimer、RAGE、MMP-9、S100B、BNP等の分子マーカーを脳梗塞発症24時間以内に同時測定した結果、BNPとD-Dimerで、特定のカットオフ値を設定すると、心原性脳塞栓症を他病型と分類できること(非特許文献2)などが開示されているが、さらに迅速で確実な病型診断が可能となる分子マーカーが求められていた。
脳梗塞の予後は、発症後3ヶ月後ないしは1年後までの間にmodified Rankin Scale(非特許文献3)、またはBarthel Index(非特許文献4)により日常生活における動作の障害度を評価することで判断されている。予後を事前に予測することは、脳梗塞の治療方法を早期に決める上で重要である。入院時に測定した血漿中のBNPで特定のカットオフ値を定めることにより死亡が予測できること(非特許文献5)が開示されているが、生存した場合の障害の程度を予測する分子マーカーが求められていた。
特許文献1には、Endothelial Protein C Receptor蛋白質を循環器疾患、特に、アテローム性動脈硬化症の診断に使用することが開示されている。しかしながら、Endothelial Protein C Receptor蛋白質を脳梗塞の病型診断や予後予測に使用できることは開示も示唆もされていない。
Lee,L.J. et al., Stroke , 1081-1089 (2000)
Montaner et al., Stroke, 2280-2287(2008)
van Swieten,J.C et al., Stroke, 604-607 (1988)
Mahoney,F.L et al., Maryland State Med J, 61-65 (1965)
Shibazaki,K et al., Inter Med, 1601-1604 (2009)
本発明は、上記の問題点に鑑み、脳梗塞患者などの血清や血漿等を用いて迅速かつ確実な脳梗塞の病型や予後について検査を行う方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、患者血漿中の、Endothelial Protein C Receptor蛋白質が、病型や予後の異なる患者の血漿中のその濃度の間で異なるという知見を得、Endothelial Protein C Receptor蛋白質の量が脳梗塞の病型や予後の検査のための有用な指標となることを見出して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型診断のための検査方法。
[2]病型診断が、ラクナ梗塞、アテローム血栓性、心原性脳塞栓症、大動脈原性脳塞栓症、Branch atheromatous disease(BAD)、動脈解離、分類不能のいずれかを診断するものである[1]に記載の検査方法。
[3]被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
[4]被検動物より採取された血液試料が、脳梗塞発症7日目に被検動物より採取されたものであることを特徴とする[3]に記載の脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
[1]被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型診断のための検査方法。
[2]病型診断が、ラクナ梗塞、アテローム血栓性、心原性脳塞栓症、大動脈原性脳塞栓症、Branch atheromatous disease(BAD)、動脈解離、分類不能のいずれかを診断するものである[1]に記載の検査方法。
[3]被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
[4]被検動物より採取された血液試料が、脳梗塞発症7日目に被検動物より採取されたものであることを特徴とする[3]に記載の脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
本発明によれば、脳梗塞患者の血漿中の濃度が病型や予後の異なる患者の血漿中のその濃度と異なるEndothelial Protein C Receptor蛋白質が脳梗塞検査用分子マーカー(本明細書中ではこれを「EPCR蛋白質マーカー」と称することがある)として提供される。EPCR蛋白質マーカーを単独で、あるいは他の脳梗塞分子マーカーと組み合わせて用いることにより脳梗塞の病型の分類や予後の予測を行うことが可能となる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の検査方法は、被検動物より採取された血液試料中の、Endothelial Protein C Receptor蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型や予後を検査する方法である。
本発明の検査方法は、被検動物より採取された血液試料中の、Endothelial Protein C Receptor蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型や予後を検査する方法である。
本明細書において、「脳梗塞」とは、脳動脈が血栓または塞栓によって閉塞し虚血状態となり、脳組織が壊死および障害される疾患であり、脳内小動脈が閉塞して発症するラクナ梗塞、脳内大動脈が粥腫で閉塞して発症するアテローム血栓性脳梗塞、心臓内の血栓が栓子となり脳内動脈を閉塞して発症する心原性脳塞栓症、上行大動脈から大動脈弓部にできた粥状硬化巣から栓子が解離して脳内動脈を閉塞して発症する塞栓症である大動脈原性脳塞栓症、主幹動脈にできたプラークが穿通枝の入口部を閉塞することによって生じる穿通枝領域の梗塞である「Branch atheromatous disease」(以下、「BAD」と称することがある)、脳血管の内膜が損傷し血液が動脈壁内に侵入して脳血管を閉塞する動脈解離のいずれをも含む。また、脳梗塞でも急性期、亜急性期、回復期(慢性期)等のいずれをも含む。
本明細書においてEndothelial Protein C Receptor蛋白質(以下、「EPCR蛋白質」)とは、本発明の検査法において血液試料中の含有量を測定する対象であるEPCR蛋白質を意味し、被検動物に由来する蛋白質であればよいが、ヒト由来の蛋白質として具体的には、下述する特定のアミノ酸配列で示される蛋白質が例示される。さらに、これらと同様の機能を有する蛋白質の断片、誘導体、および変異体も包含される。
上記検査方法において、「被検動物」は、脳梗塞を起こす可能性のある動物であれば如何なるものでもよく、具体的には、ヒト、サル、あるいはラット等のげっ歯類等が挙げられる。本発明の脳梗塞の検査方法は、このうち、脳梗塞の疑いのあるヒト、あるいは脳梗塞発症後のヒト等において特に好ましく行われる。
また、上記被検動物から採取された「血液試料」としては、EPCR蛋白質を含有し、その濃度を測定できるものであれば特に制限はないが、具体的には、EDTA血漿、クエン酸血漿等の血漿、血清、全血の何れでもよいが、これらのうち、EDTA血漿が簡便に採取でき、保存が容易で且つ採取量が多いため好ましく用いられる。被検動物から該血液試料を採取するために採血するタイミングは、脳梗塞の診断を行うタイミングであればいずれのタイミングでもよい。脳梗塞は、発症後刻々と症状や病態が変化するので、具体的には以下で詳述する。
本発明の検査法において、被検動物から採取した血液試料中の含有量を測定する対象であるEndothelial Protein C Receptor蛋白質とは、ヒトの場合には、UniProtKBのEntry Name EPCR#HUMANで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースなどにおいて上記Entry Nameを入力することで配列情報を得ることができる。上記アミノ酸配列はヒトのものであるが、被検動物が異なる場合には、該動物由来のホモログ蛋白質が測定対象の蛋白質となる。
上記蛋白質の血液試料中の含有量の測定方法としては、該蛋白質の含有量が測定できる方法であれば特に制限はないが、例えば、該蛋白質の抗体を用いた既存の免疫測定法や、クロマトグラフィー技術と飛行時間型質量分析(TOF-MS)を組み合わせて、クロマト担体(例:カチオン交換体、アニオン交換体、疎水性クロマト担体、金属イオンなど)に一定条件下で捕捉されるすべての成分の質量を一括して測定する方法、二次元ゲル電気泳動法等が用いられる。免疫測定法としては、酵素免疫定量法に従い定量検出する方法や、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法等で測定する方法等が好ましい。酵素免疫定量法は、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。また、イムノソルベントを用いる、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA) 法を選択するのが、特に好適である。また、ELISAのうちサンドイッチ法は、操作の簡便性、経済上の利便性、とりわけ臨床検査における汎用性を考慮すると、特に好適な測定態様の一つとして挙げられる。これらの測定方法は、例えば、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (T. Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (2001))、Antibodies - A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., ColdSpring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じて行うことができる。
上記測定を行う際に用いられる抗体等(抗体断片を含む)は、対象のEPCR蛋白質を抗原として公知の方法によって得ることができる。ただし、対象のEPCR蛋白質を抗原として製造されたものである必要はなく、該蛋白質と少なくとも交差反応性を示し、その含有量を測定することができるものであれば何れのものでもよい。このような免疫測定法、及びそれに用いられる抗体としては、例えばR&D社製のHuman EPCR Quantikine ELISA Kit(カタログNo.DEPCR0)に付属の抗体等が好ましく用いられる。
本発明の方法で使用する血液試料は、被検動物から採取直後のものを上記測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。血液試料の保存方法としては、脳梗塞検査用分子マーカー量が変化しない条件であれば特に制限は無いが、例えば0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましい。止むをえず凍結する場合には、深凍結などマーカー分子の分解や酸化反応等を避けられる方法が好ましい。
本発明の検査方法においては、被検動物から採取された血液試料(本明細書中では、これを「検体」と称することがある)中の上記EPCR蛋白質マーカーの含有量を測定して、これを指標として、脳梗塞の病型や予後を検査することができる。また、既存の脳梗塞マーカーであるCRPやD-Dimer等の検体中含有量とを組み合わせることや、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等の結果とを関連付けた複合指標を用いることで、より的確に検査することが可能である。
(1)EPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞病型検査方法
脳梗塞の病型とは、それ自体既知の臨床的に区別されている病型を意味し、具体的には、「ラクナ梗塞」(本明細書中では「ラクナ」と称することがある)、「アテローム血栓性脳梗塞」(本明細書中では、「アテローム血栓性」と称することがある)、「心原性脳塞栓症」(本明細書中では、「心原性脳塞栓」と称することがある)、上行大動脈から大動脈弓部にできた粥状硬化巣から栓子が解離して脳内動脈を閉塞して発症する塞栓症である「大動脈原性脳塞栓症」、主幹動脈にできたプラークが穿通枝の入口部を閉塞することによって生じる穿通枝領域の梗塞である「Branch atheromatous disease」(以下、「BAD」と称することがある)、脳血管の内膜が損傷し血液が動脈壁内に侵入して脳血管を閉塞する動脈解離あるいはそれらのいずれにも該当しない病型(以下、これを「分類不能型」と称することがある)が挙げられる。
脳梗塞の病型とは、それ自体既知の臨床的に区別されている病型を意味し、具体的には、「ラクナ梗塞」(本明細書中では「ラクナ」と称することがある)、「アテローム血栓性脳梗塞」(本明細書中では、「アテローム血栓性」と称することがある)、「心原性脳塞栓症」(本明細書中では、「心原性脳塞栓」と称することがある)、上行大動脈から大動脈弓部にできた粥状硬化巣から栓子が解離して脳内動脈を閉塞して発症する塞栓症である「大動脈原性脳塞栓症」、主幹動脈にできたプラークが穿通枝の入口部を閉塞することによって生じる穿通枝領域の梗塞である「Branch atheromatous disease」(以下、「BAD」と称することがある)、脳血管の内膜が損傷し血液が動脈壁内に侵入して脳血管を閉塞する動脈解離あるいはそれらのいずれにも該当しない病型(以下、これを「分類不能型」と称することがある)が挙げられる。
検体中に含まれるEPCR蛋白質量を測定することにより脳梗塞の病型を区別するためには、まず、血液試料中のEPCR蛋白質量において、各病型を区別し得るカットオフ値を決定し、検体中のEPCR蛋白質量を該カットオフ値と比較して、いずれの病型群に入るかを判断することにより行われる。
カットオフ値とは、一般に、ある物質に着目して目的とする疾患群と非疾患群(目的とする疾患以外の群)とを判定する場合に定める値をいう。目的とする疾患と非疾患とを判定する場合に、カットオフ値以下であれば陰性、カットオフ値以上であれば陽性として、またはカットオフ値以下であれば陽性、カットオフ値以上であれば陰性として疾患を判定することができる(金井正光編、臨床検査法提要 金原出版株式会社)。
本発明においては、目的病型群とそれ以外の群の間でカットオフ値を定め、カットオフ値以下であれば目的病型に該当、カットオフ値以上であれば非該当として、またはカットオフ値以下であれば目的病型に非該当、カットオフ値以上であれば該当として病型を判定することができる。
本発明においては、目的病型群とそれ以外の群の間でカットオフ値を定め、カットオフ値以下であれば目的病型に該当、カットオフ値以上であれば非該当として、またはカットオフ値以下であれば目的病型に非該当、カットオフ値以上であれば該当として病型を判定することができる。
カットオフ値の臨床的有用性を評価する目的で用いられる指標としては、感度と特異度が挙げられる。ある母集団をカットオフ値を用いて判定し、目的の病型の脳梗塞患者のうち、判定で陽性とされたものをa(真陽性)、該病型の脳梗塞患者でありながら判定で陰性とされたものをb(偽陰性)、該病型の脳梗塞でないにも関わらず判定で陽性とされたものをc(偽陽性)、該病型の脳梗塞患者でなく判定で陰性とされたものをd(真陰性)と表したときに、a/(a+b)で表される値を感度(真陽性率)、d/(c+d)で表される値を特異度(真陰性率)として表すことができる。
目的とする病型群と他の病型群との測定値の分布は通常、一部重複する。したがって、カットオフ値を上下させることにより、感度と特異度は変化する。カットオフ値を下げることにより感度は高くなるが、特異度は低下し、カットオフ値を上げることにより感度は低くなるが、特異度は上がる。判定方法としては、感度と特異度の両者の値が高いほうが好ましい。また、感度と特異度の値が0.5を超えない判定方法は、有用とは認められない。
カットオフ値を設定する方法としては、他の病型群の分布の95%を含む、中央からの両端のいずれかの値をカットオフ値として設定する方法、他の病型群の分布が正規分布を示す場合、平均値+2倍の標準偏差(SD)または平均値−2SDをカットオフ値として設定する方法等が挙げられる。
また、一般に、診断方法が有用かどうかを判定するためには、前述のように設定されたカットオフ値によって感度と特異度が変化するため、単純にあるカットオフ値での感度と特異度で評価するよりも、カットオフ値を上下させたときに感度や特異度が高く保たれるような指標、例えばROC曲線のAUC値で評価するのが望ましい。ROC曲線のAUC値は感度と特異度が両方100%になるようなカットオフ値が存在する場合に1になり、診断性能が良くない場合に0.5に近づく。したがって、ある診断方法の性能をROC曲線のAUC値で判断する場合には0.7以上であれば該方法は診断方法として適当であると評価することが可能である。EPCR蛋白質マーカーについても、ROC曲線のAUC値0.7以上であったので、後述する脳梗塞の病型検査方法に用いられるものである。
本発明の血液試料中に含まれるEPCR蛋白質量により区別し得る病型としては、両病型群の間でEPCR蛋白質含有量によりお互いが区別されるカットオフ値を設定し得るものであれば特に制限はないが、具体的には、例えば、表1に示すように「アテローム血栓性脳梗塞」と「大動脈原性脳塞栓症」、「アテローム血栓性脳梗塞」と「分類不能型」、「アテローム血栓性脳梗塞」と「動脈解離」、「心原性脳塞栓症」と「動脈解離」、「ラクナ梗塞」と「大動脈原性脳塞栓症」、「ラクナ梗塞」と「動脈解離」、「ラクナ梗塞」と「分類不能型」、「BAD」と「分類不能型」、「動脈解離」とそれ以外の病型、「分類不能型」とそれ以外の病型等が挙げられる。
これらの測定を行う場合の検体の取得のタイミングは、脳梗塞様症状の発症直後から特に制限はないが、表1に好ましいタイミングを示す。
本発明の測定方法では、予め、上記の区別される病型と臨床的に判断された患者の血液試料中のEPCR蛋白質量を測定し、上記の方法で、両病型群を区別するカットオフ値を設定する。採取された検体中の上記EPCR蛋白質マーカーの含有量を測定して、この絶対値を、上記の方法で設定されたカットオフ値と比較することによっていずれの病型に検体を採取した被検者(動物)が含まれるかを判断することができる。臨床的に各種脳梗塞を確認する方法は特に制限がないが、例えば頭部X線CT、頭部MRI、MRA、脳血管造影、頚部血管エコー等の機器診断方法等から確認する方法等が挙げられる。
また、上記病型の検査を行う場合には、既存の脳梗塞マーカーであるCRPやD-Dimer等の検体中含有量とを組み合わせることや、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等の結果とを関連付けた複合指標を用いることで、より的確に検査することが可能である。
(2)EPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞の予後予測の検査方法
本発明のEPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞検査方法の具体的方法として、被検者(動物)の脳梗塞の予後を予測するための検査方法が挙げられる。脳梗塞の予後は、脳梗塞発症後、ある一定期間の後に、その患者の脳梗塞による障害の程度にて示される。障害の程度は、それ自体公知の既に確定している指標を用いて評価することができる。指標としては、例えば、日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準(篠原幸人らmRS信頼性研究グループ、modified Rankin Scaleの信頼性に関する研究−日本語版判定基準書および問診表の紹介、脳卒中 2007;29:6-13)等が用いられる。
本発明のEPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞検査方法の具体的方法として、被検者(動物)の脳梗塞の予後を予測するための検査方法が挙げられる。脳梗塞の予後は、脳梗塞発症後、ある一定期間の後に、その患者の脳梗塞による障害の程度にて示される。障害の程度は、それ自体公知の既に確定している指標を用いて評価することができる。指標としては、例えば、日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準(篠原幸人らmRS信頼性研究グループ、modified Rankin Scaleの信頼性に関する研究−日本語版判定基準書および問診表の紹介、脳卒中 2007;29:6-13)等が用いられる。
一定の期間後とは、発症後いつの時点でもよいが、被検者(動物)の社会復帰の状態を評価する観点から、例えば発症3ヶ月後から1年後までの間に評価するのが一般的である。予後の予測においては、予想方法の有用性を考慮して、発症直後から2週間程度の被検者から取得した血液試料中のEPCR蛋白質の量で発症後3ヵ月後の該被検者の状態を予測する方法等が好ましい。
本発明の測定方法では、予め、予測目的時点で上記mRSをそれぞれ臨床的に判定された患者の、測定目的時の血液試料中のEPCR蛋白質量を測定し、予測目的時点で区別したいmRS間で、上述の方法で両mRS群を区別するカットオフ値を設定する。具体的に説明すると、例えば、発症3ヵ月後のmRSが0〜1の患者と2〜5の患者を区別する場合には、発症3ヵ月後(予測目的時)にmRSが0〜5の患者の発症7日後(測定目的時)の血液試料中のEPCR蛋白質量を測定し、3ヵ月後のmRSが0〜1の患者の測定値と2〜5の患者の測定値との間にカットオフ値を設定する。この後、測定目的時の検体を採取し、検体中のEPCR蛋白質マーカーの含有量を測定して、この絶対値を、上記の方法で設定されたカットオフ値と比較することにより、予測目的時の該被検者(動物)の状態を予測することができる。
本発明の予測方法で特に好ましくは、発症直後から2週間程度、さらに好ましくは発症7日後の被検者から採取した検体中のEPCR蛋白質量を測定することにより3ヵ月後付近の該被検者のmRSが2〜5となるか/1以下となるかを予測する方法等が挙げられる。
また、本発明の他の好ましい予測方法としては、発症直後から2週間程度、さらに好ましくは発症7日後の被検者から採取した検体中のEPCR蛋白質量を測定することにより3ヵ月後付近の該被検者のmRSが3〜5となるか/2以下となるかを予測する方法、発症直後から2週間程度、さらに好ましくは発症7日後の被検者から採取した検体中のEPCR蛋白質量を測定することにより3ヵ月後付近の該被検者のmRSが4〜5となるか/3以下となるかを予測する方法等が好ましい例として挙げられる。
かくして、本発明の方法により脳梗塞の診断がついた被検者(動物)は、それぞれの疾患に適した治療法を受けることにより、予後の経過や治療効果が非常に良好となる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 EPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞病型を判別するための検査方法の評価
脳梗塞の各病型に診断が確定している患者、具体的には、「ラクナ梗塞」(表中では「ラクナ」と称する)、「アテローム血栓性脳梗塞」(表中では、「アテローム血栓性」と称する)、「心原性脳塞栓症」(表中では、「心原性脳塞栓」と称する)、「大動脈原性脳塞栓症」(表中では、「大動脈原性脳塞栓」と称する)、「Branch atheromatous disease」(表中では「BAD」と称する)、「動脈解離」(表中では、「動脈解離」と称する)、あるいはそれらのいずれにも該当しない病型(表中では「分類不能型」と称する)の患者について、脳梗塞発症直後(表中「DAY0」と記載されている)のに採血を行い(それぞれ表2中に記載の人数)からそれぞれEDTA血漿を取得した。R&D社のHuman EPCR Quantikine ELISA Kit(カタログNo.DEPCR0)を用いた免疫測定法により、EDTA血漿中のEPCR蛋白質濃度を測定した。具体的には標準品であるEPCR蛋白質を用いて検量線を作成し、この検量線からEPCR蛋白質の濃度を算出した。
脳梗塞の各病型に診断が確定している患者、具体的には、「ラクナ梗塞」(表中では「ラクナ」と称する)、「アテローム血栓性脳梗塞」(表中では、「アテローム血栓性」と称する)、「心原性脳塞栓症」(表中では、「心原性脳塞栓」と称する)、「大動脈原性脳塞栓症」(表中では、「大動脈原性脳塞栓」と称する)、「Branch atheromatous disease」(表中では「BAD」と称する)、「動脈解離」(表中では、「動脈解離」と称する)、あるいはそれらのいずれにも該当しない病型(表中では「分類不能型」と称する)の患者について、脳梗塞発症直後(表中「DAY0」と記載されている)のに採血を行い(それぞれ表2中に記載の人数)からそれぞれEDTA血漿を取得した。R&D社のHuman EPCR Quantikine ELISA Kit(カタログNo.DEPCR0)を用いた免疫測定法により、EDTA血漿中のEPCR蛋白質濃度を測定した。具体的には標準品であるEPCR蛋白質を用いて検量線を作成し、この検量線からEPCR蛋白質の濃度を算出した。
次に各採血時点において判別性能を評価するために、Fawcett, T. (2004) ROC Graphs:Notes and Practical Considerations for Researchers に記載の方法に従い ROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果を表2に示す。それぞれの採血時点において、0.7を上回ったものが目的の疾患とそれ以外の疾患の判別をするための検査方法として有用であることが示される。
つまり、発症直後の各病型患者の血漿中のEPCR蛋白質の濃度を比較することにより、「アテローム血栓性脳梗塞」と「大動脈原性脳塞栓症」の病型の脳梗塞患者を判別するための検査を行うことができ、また、同じ比較において「アテローム血栓性脳梗塞」と「分類不能型脳梗塞」の病型の脳梗塞患者の判別、「アテローム血栓性脳梗塞」と「動脈解離」の病型の脳梗塞患者の判別、「心原性脳塞栓症」と「動脈解離」の病型の脳梗塞患者の判別、「ラクナ梗塞」と「大動脈原性脳塞栓症」の病型の脳梗塞患者の判別、「ラクナ梗塞」と「動脈解離」の病型の脳梗塞患者の判別、「ラクナ梗塞」と「分類不能型脳梗塞」の病型の脳梗塞患者の判別、「Branch atheromatous disease」と「分類不能型脳梗塞」の病型の脳梗塞患者の判別、「動脈解離」とそれ以外の病型の脳梗塞患者の判別、及び「分類不能型脳梗塞」とそれ以外の病型の脳梗塞患者の判別をするための検査を行えることがわかった。
実施例3 EPCR蛋白質マーカーを用いた脳梗塞の予後予測のための検査方法の評価
脳梗塞の予後は、脳梗塞発症後、ある一定期間の後に、その患者の脳梗塞による障害の程度にて示される。脳梗塞発症3ヶ月後の障害の程度を、日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準(篠原幸人らmRS信頼性研究グループ、modified Rankin Scaleの信頼性に関する研究−日本語版判定基準書および問診表の紹介、脳卒中 2007;29:6-13)を用いて0〜5に分類した患者について、脳梗塞発症7日後(表中「DAY7」と記載されている)に採血を行い(それぞれ表3中に記載の人数)EDTA血漿を取得した。
該血漿中のEPCR蛋白質の濃度を実施例1の方法と同様に測定し、該測定値から実施例1と同様にROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果を表3に示す。それぞれの採血時点において、0.7を上回ったものが脳梗塞患者の予後を判別するための検査方法として有用であることが示される。
脳梗塞の予後は、脳梗塞発症後、ある一定期間の後に、その患者の脳梗塞による障害の程度にて示される。脳梗塞発症3ヶ月後の障害の程度を、日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準(篠原幸人らmRS信頼性研究グループ、modified Rankin Scaleの信頼性に関する研究−日本語版判定基準書および問診表の紹介、脳卒中 2007;29:6-13)を用いて0〜5に分類した患者について、脳梗塞発症7日後(表中「DAY7」と記載されている)に採血を行い(それぞれ表3中に記載の人数)EDTA血漿を取得した。
該血漿中のEPCR蛋白質の濃度を実施例1の方法と同様に測定し、該測定値から実施例1と同様にROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果を表3に示す。それぞれの採血時点において、0.7を上回ったものが脳梗塞患者の予後を判別するための検査方法として有用であることが示される。
具体的には、脳梗塞発症後3ヶ月後の障害の程度(予後)について、3ヵ月後に各ランクとなる患者の発症後7日目の血漿中のEPCR蛋白質の濃度を比較することにより、発症後3ヶ月でランク2から5の患者と、ランク0から1の患者、ランク3から5の患者と、ランク0から2の患者、及びランク4から5の患者と、ランク0から3の患者を判別するための検査を行うことができることがわかった。
参考例1 CD40リガンド蛋白質マーカーを用いた脳梗塞の病型、および予後予測のための検査方法の評価
脳梗塞発症直後、および7日後時点の脳梗塞患者111名と健常者91名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTM v1.6法)を用いてEDTA血漿中のヒトCD40リガンド (UniProtKBのEntry Name CD40L_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる)蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点において脳梗塞患者と健常者で差があるかを知るために、Fawcett, T. (2004) ROC Graphs: Notes and Practical Considerations for Researchers に記載の方法に従い ROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果を表4に示す。それぞれの採血時点において、0.7を上回ったため、CD40リガンドは脳梗塞患者と健常者の判別をするための検査方法として有用であることが示された。
脳梗塞発症直後、および7日後時点の脳梗塞患者111名と健常者91名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTM v1.6法)を用いてEDTA血漿中のヒトCD40リガンド (UniProtKBのEntry Name CD40L_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる)蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点において脳梗塞患者と健常者で差があるかを知るために、Fawcett, T. (2004) ROC Graphs: Notes and Practical Considerations for Researchers に記載の方法に従い ROC 曲線の AUC 値を算出した。その結果を表4に示す。それぞれの採血時点において、0.7を上回ったため、CD40リガンドは脳梗塞患者と健常者の判別をするための検査方法として有用であることが示された。
次に上記CD40リガンドで、脳梗塞発症直後、および7日後時点の脳梗塞患者173名から採血を行い、EDTA血漿を取得したのちにRules Based Medicine社に依頼して免疫測定法(Human MapTM v1.6法)を用いてEDTA血漿中のヒトCD40リガンド (UniProtKBのEntry Name CD40L_HUMANで示されるアミノ酸配列からなる)蛋白質濃度を測定した。次に測定値が検出下限を下回った場合には検出下限の1/2の値を、測定値が検出上限を上回った場合には検出上限の2倍の値を補完して、各採血時点において脳梗塞患者と健常者で差があるかを知るために、Fawcett, T. (2004) ROC Graphs: Notes and Practical Considerations for Researchers に記載の方法に従い ROC 曲線の AUC 値を算出した。
脳梗塞発症直後の測定値に関し、上記表2に相当する群分けで病型診断に関する解析を行ったところ、7つのグループの組み合わせ((27−2)÷2=63通り)の全てにおいてAUCの値は0.7を下回った。このことから、脳梗塞と健常者で差のあるバイオマーカーであっても、病型の診断に用いられないものがあることがわかった。
また、表4と同様に,脳梗塞発症7日後に採血を行い、予後に関する解析を行ったところ、3つの組み合わせでAUC値は0.7を超えなかった。このことから、脳梗塞と健常者で差のあるバイオマーカーであっても、予後の診断に用いられないものがあることがわかった。
脳梗塞発症直後の測定値に関し、上記表2に相当する群分けで病型診断に関する解析を行ったところ、7つのグループの組み合わせ((27−2)÷2=63通り)の全てにおいてAUCの値は0.7を下回った。このことから、脳梗塞と健常者で差のあるバイオマーカーであっても、病型の診断に用いられないものがあることがわかった。
また、表4と同様に,脳梗塞発症7日後に採血を行い、予後に関する解析を行ったところ、3つの組み合わせでAUC値は0.7を超えなかった。このことから、脳梗塞と健常者で差のあるバイオマーカーであっても、予後の診断に用いられないものがあることがわかった。
本発明の方法によれば脳梗塞の診断や予後予測の検査を行うことができ、医療や診断の分野で有用である。
Claims (4)
- 被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の病型診断のための検査方法。
- 病型診断が、ラクナ梗塞、アテローム血栓性、心原性脳塞栓症、大動脈原性脳塞栓症、Branch atheromatous disease、動脈解離、分類不能のいずれかを診断するものである請求項1に記載の検査方法。
- 被検動物より採取された血液試料中のEndothelial Protein C Receptor蛋白質の蛋白質量を測定する工程を含む、該動物における脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
- 被検動物より採取された血液試料が、脳梗塞発症7日目に被検動物より採取されたものであることを特徴とする請求項3に記載の脳梗塞の予後の予測のための検査方法。
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