JP6004322B2 - 心血管イベントの発症リスクの検査方法 - Google Patents

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Description

本発明は、心血管イベントの発症リスクを検査する方法に関する。
近年の生活習慣の欧米化に伴い、本邦でも動脈硬化性疾患に罹患するケースが急増している。昨今の予防医学は高血圧や高脂血症など、動脈硬化の危険因子を是正することに主眼がおかれている。しかし残念ながら、いまや心血管病は本邦における死因のトップとなってしまった。その理由のひとつとして、脳卒中・急性心筋梗塞など心血管イベント発症の正確な予測マーカーが存在しないことが挙げられる。動脈硬化性病変が進行した結果として生じる様々な病態は、患者のQOLを著しく低下させるばかりか、社会的な損失も甚大である。心血管病イベントの発症を抑制する必要性は益々高まっているが、その意味において、予後予測因子の同定がもたらす意義は非常に大きい。
全身の血管は絶えず種々の物理的・化学的ストレスにさらされており、個体は血管の恒常性を維持しながら生命を保っている。心血管イベント(Major Adverse Cardiac Events; MACE; 主要心血管イベントともいう)は、血管の恒常性が何らかの原因で破綻することで発症すると考えられているが、血管の恒常性に重要な役割を果たす因子として近年、血管内皮前駆細胞(Endothelial progenitor cells; EPC)が重要視されている。EPCは骨髄に由来する細胞で、末梢血を介して虚血組織、創傷治癒、腫瘍、月経周期に伴う子宮内膜増殖などの局所へ動員され、血管内皮へと分化し新生血管の形成に関与することが知られている。またEPCの計数および細胞機能と心血管病のリスクであるFraminghamスコアに負の相関があること(非特許文献1)や、EPC計数値が心血管イベント発症と関連があること(非特許文献2、3)が示されている。したがってEPCは血管恒常性の維持を介して、心血管イベントの抑制に根本的な役割を果たしていると考えられ、その意味でEPC測定は予防医学的に極めて有用と考えられる(非特許文献4)。
なお、血小板と心血管イベント発症との関連に関する従来の報告については、急性冠症候群を発症した症例の生命予後と血小板活性化指標との関連が報告されている(非特許文献5)。しかしながら、実験室における特殊な方法を用いて血小板活性化指標を測定しており、血小板数低下との関連は調べられていない。また、集中治療室で人工呼吸管理を行った超重症患者における血小板測定値が、1年後の生命予後予測に有用であるという報告もなされている(非特許文献6)が、これらは播種性血管内凝固症候群(DIC)や重症感染症など重篤な病態に伴う血小板減少を加味して計算されているほか、昇圧剤の併用など特殊な因子を加点したスコアリングシステムとなっている。いずれも一般検診や通常外来診療を受診した軽症例には、直接応用することはできない。
N Engl J Med. 2003; 348:593 N Engl J Med. 2005; 353:999 Kidney Int. 2008; 74:1603 N Engl J Med 2005; 353:1055-1057 Circulation. 2006; 113:e382 Crit Care Med. 2012 Apr; 40:1171
上述したように、心血管イベント発症予後の予測には、EPCの測定が有用であると考えられる。しかしながら、EPC数の測定は通常、フローサイトメトリー法によって行われており、現時点では費用面で予防医学や日常診療に応用するのは非常に困難であるという問題がある。
そこで本発明は、心血管イベント発症のリスクを低コストで判定することが可能な検査方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その過程で、驚くべきことに、心血管イベント発症のハイリスク群として知られている重症下肢虚血(Critical Limb Ischemia; CLI)の患者のうち加療後に心血管イベントを発症した症例では、初診時の血小板数が低い傾向にあることを見出した(図2、図4を参照)。また、動脈硬化性疾患を有する患者の末梢血EPC数が血小板数と正に相関することも見出した(図3を参照)。そしてこれらの知見に基づき、本発明者らは、被検体から採取された血液試料中の血小板数が心血管イベントの発症リスクを検査するための指標となりうることを検証して、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一形態によれば、被検体における心血管イベントの発症リスクの検査方法が提供される。そして、当該検査方法は、被検体から採取した血液試料中の血小板の量を測定する工程を含む点に特徴を有する。
本発明によれば、心血管イベント発症のリスクを低コストで判定することが可能な検査方法が提供される。
実施例に記載のパイロット試験で見られた、心血管イベントを発症した重症下肢虚血(CLI)の症例(74歳男性)における血小板数の経時的な変化を示すグラフである。 実施例に記載のパイロット試験における重症下肢虚血(CLI)19例について、6ヶ月以内の心血管イベント発症の有無と初診時血小板数との関連を示す図である。 実施例に記載のパイロット試験で得られた結果について、初診時血小板数を横軸に、CD34陽性細胞数/単核球数を縦軸にそれぞれプロットした散布図である。 実施例に記載のフィージビリティ・スタディにおける重症下肢虚血(CLI)56例について、36ヶ月以内の心血管イベント発症の有無と初診時血小板数との関連を示す図である。 実施例に記載のフィージビリティ・スタディにおける重症下肢虚血(CLI)56例のうち心血管イベントを発症した23例について、CLI初診時の血小板数と、初診日からMACE発症までの日数との関連を示す散布図である。 実施例に記載のフィージビリティ・スタディにおける重症下肢虚血(CLI)56例について、CLI初診時のMCV値と、MACE発症の有無および発症例では発症までの日数との関連を示す散布図である。 実施例に記載のフィージビリティ・スタディにおける重症下肢虚血(CLI)56例のうち心血管イベントを発症した23例について、CLI初診時のMCV値と、初診日からMACE発症までの日数との関連を示す散布図である。
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。
本発明の一形態は、被検体における心血管イベントの発症リスクの検査方法であって、
前記被検体から採取した血液試料中の血小板の量を測定する工程を含む、検査方法である。また、当該検査方法は、得られた血小板の量の測定値を指標として用いて、心血管イベントの発症のリスクを判定する工程をさらに含むことが好ましい。
本明細書において、「心血管イベント」とは、心血管疾患における症状の発生をいい、具体的には、例えば、心血管死(致死性心筋梗塞、突然心臓死等)、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、経皮的冠動脈形成術(PTCA)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、ACバイパス術、その他の心血管再建術、安静狭心症および労作狭心症の新たな発症、狭心症の不安定化(入院、PTCA、PCI、ACバイパス術、その他の心血管再建術の実施)などが挙げられる。
また、本明細書において、「被検体」は、心血管イベントを発症する可能性のある動物であれば特に制限はなく、具体的には、ヒト、サル、またはラット等のげっ歯類等が挙げられる。本発明に係る検査方法は、このうち、動脈硬化性疾患の疑いのあるヒト、または重症下肢虚血(CLI)または動脈硬化性疾患を発症した後のヒト等において特に好ましく行われる。
血小板数を測定する「血液試料」としては、血小板を含有し、その数(濃度)を測定できるものであれば特に制限はないが、通常は全血試料が用いられる。この全血試料としては、被検体から採取された血液(全血)をそのまま用いてもよいし、凝固防止等を目的としてEDTAカリウム塩やヘパリン等の添加剤が添加されてもよい。被検体から血液試料を採取するために採血するタイミングは、特に制限されない。
本発明の方法で使用する血液試料は、被検体から採取直後のものを測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。血液試料の保存方法としては、試料中の血小板の量が変化しない条件であれば特に制限はなく、例えば0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましい。
血液試料中の血小板の量を測定する方法について特に制限はなく、従来公知の手法が適宜採用されうる。特に血小板数の測定は、一般の健康診断等における血液検査においても採用されているほどの主要な検査項目であり、血液試料における血小板の量の測定技術についてはきわめて多くの知見が存在する。
本明細書において、「測定」とは、定量的または非定量的な測定を含み、例えば、非定量的な測定としては、血小板が一定の量以上存在するか否かの測定などが挙げられる。定量的な測定としては、血小板の数の測定、血小板の濃度の測定などが挙げられる。
本発明に係る検査方法では、被検体から採取された血液試料中の血小板の量を測定し、これを指標として心血管イベントの発症リスクを検査することができる。具体的には、対象患者から血液試料を採取し、当該血液試料中の血小板の量を測定し、低値または対象者の経時的変化において低下が見られた場合に、心血管イベントの発症(発生)が疑われるまたはその発症リスクが高いと判定することができる。また、被検体から採取した試料中の特定成分の有無・含有量を指標とした従来の検査方法と組み合わせたり、臨床症候の観察と心エコー、MRI、MRA、頚部血管エコー等の結果とを関連付けた複合指標を用いたりすることで、より的確に検査することも可能である。
対象患者としては、心不全や心筋梗塞等の心血管疾患を未だ発症していない者、心筋梗塞を発症した後に急性期を脱し心不全に至らなかった者、または自覚症状のない者であるが慢性動脈硬化症に罹患した患者が好ましい。
血液試料中の血小板の量を指標として本発明に係る心血管イベントの発症リスクの検査を行う場合には、血液試料中の血小板の量の絶対値を健常者(健常動物)のそれと比較してもよいし、適当なカットオフ値を規定して検査する方法でもよい。健常者の血液試料中の血小板の量は、予め心血管イベント発症のハイリスク群でないことを臨床的に確認された健常者から血液を採取し、被検体から採取した血液と同様の処理および測定を行って定量することにより得ることができる。
カットオフ値とは、ある物質に着目して目的とする疾患群と非疾患群とを判定する場合に定める値をいう。目的とする疾患と非疾患とを判定する場合に、カットオフ値以下であれば陰性、カットオフ値以上であれば陽性として、またはカットオフ値以下であれば陽性、カットオフ値以上であれば陰性として疾患を判定することができる(金井正光編、臨床検査法提要 金原出版株式会社)。
カットオフ値の臨床的有用性を評価する目的で用いられる指標としては、感度と特異度が挙げられる。ある母集団をカットオフ値を用いて判定し、疾病患者のうち、判定で陽性とされたものをa(真陽性)、疾病患者でありながら判定で陰性とされたものをb(偽陰性)、疾病患者でないにも関わらず判定で陽性とされたものをc(偽陽性)、疾病患者でなく判定で陰性とされたものをd(真陰性)と表したときに、a/(a+b)で表される値を感度(真陽性率)、d/(c+d)で表される値を特異度(真陰性率)として表すことができる。
目的とする疾患群と非疾患群との測定値の分布は通常、一部重複する。したがって、カットオフ値を上下させることにより、感度と特異度は変化する。カットオフ値を下げることにより感度は高くなるが、特異度は低下し、カットオフ値を上げることにより感度は低くなるが、特異度は上がる。判定方法としては、感度と特異度の両者の値が高いほうが好ましい。
カットオフ値を設定する方法としては、非疾患群の分布の95%を含む、中央からの両端のいずれかの値をカットオフ値として設定する方法、非疾患群の分布が正規分布を示す場合、平均値+2倍の標準偏差(SD)または平均値−2SDをカットオフ値として設定する方法等が挙げられる。
また、一般に、診断方法が有用かどうかを判定するためには、前述のように設定されたカットオフ値によって感度と特異度が変化するため、単純にあるカットオフ値での感度と特異度で評価するよりも、カットオフ値を上下させたときに感度や特異度が高く保たれるような指標、例えばROC曲線のAUC値で評価するのが望ましい。ROC曲線のAUC値は感度と特異度が両方100%になるようなカットオフ値が存在する場合に1になり、診断性能が良くない場合に0.5に近づく。したがって、ある診断方法の性能をROC曲線のAUC値で判断する場合には0.7以上であれば該方法は診断方法として適当であると評価することが可能である。
本発明に係る血小板の量を指標とした心血管イベントの発症リスクの検査方法の具体的方法として、健常者と心血管イベントの発症のハイリスク群とを区別するための検査方法が挙げられる。この際、採取された血液試料中の血小板の量を測定して、この絶対値を健常者(健常動物)のそれと比較してもよいし、上記の方法で適当なカットオフ値を規定して検査する方法でもよい。被検体から採取された血液試料中の血小板の量の絶対値が、健常者(健常動物)のそれより低い場合や、カットオフ値より低い場合に、該被検体は心血管イベントの発症のハイリスク群であると判定することができる。健常者の血液試料中の血小板の量は、予め心血管イベントの発症のハイリスク群でないことを臨床的に確認された健常者から血液を採取し、被検体から採取した血液と同様の処理および測定を行って定量することにより得ることができる。
なお、後述する実施例にも記載されているように、平均赤血球容積(MCV)の増加は心血管イベントの発症を予測する比較的良い指標であったが、EPC数とは相関しなかった。この点について、本発明者らは、MCVが増加する状態は血小板・EPCの産生低下とは異なる病態を反映するものと考えている。したがって、両者を組み合わせることで、より精度の高いスクリーニングができる可能性がある。すなわち、本発明の好ましい実施形態に係る検査方法は、被検体から採取した血液試料中の平均赤血球容積(MCV)の値を測定する工程をさらに含む。また、当該検査方法は、得られたMCVの値を上述した血小板の量についての測定値と併せて指標として用いて、心血管イベントの発症のリスクを判定する工程をさらに含むことが好ましい。なお、MCV値の測定の具体的な手法やその利用形態については、血小板の量について上述したのと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
このようにして本発明に係る方法により心血管イベントの発症のハイリスク群であると判定された被検者(動物)は、それぞれの疾患に適した治療を受けることにより、予後の経過や治療効果が非常に良好となる。
以下、実施例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
≪血小板数およびCD34陽性細胞数の測定方法≫
以下の実施例において、血液試料中の血小板数およびCD34陽性細胞数の測定は以下の手法により行った。
(血小板数の測定)
患者から採取した血液サンプルを標準的なEDTA-2Kチューブに回収した。次いで、血小板数および平均赤血球容積(MCV)を含む各種の値を、GEN・S cellular analyzer system(ベックマン・コールター社製)またはXE-2100 Hematology analyzer(シスメックス社製)を製造者の指示に従って用いて測定した。これらの測定装置については、測定値の正確性を担保するために適宜較正を行った。
(CD34陽性細胞数の測定)
全血をRPMI培地中に懸濁させ、等体積のHistopaque 1077(シグマ社製)の上に静かに注ぎ、次いで16℃にて400Gで遠心分離して、末梢血単球細胞を得た。この細胞をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、次いでEXPO32ソフトウェアを利用したEPICS ALTRAフローサイトメーター(ベックマン・コールター社製)により測定を行い、CD34陽性細胞を定量した。
≪パイロット試験≫
まず、パイロット試験として小規模な観察研究を行った。詳細には、閉塞性動脈硬化症による重症虚血肢(CLI)が認められた患者を対象とした。なお、CLIとは、末梢動脈の閉塞・狭窄病変による虚血のために安静時疼痛や皮膚潰瘍を呈する病態であり、心血管イベント発症のC群として知られている。CLIは四肢末梢動脈の疾病であるにもかかわらず、年間死亡率は20%以上と極めて高値であり、そのほとんどが心血管死であるとされる(J Vasc Surg. 2007 Jan;45 Suppl S:S5-67.)。
この対象患者に対して冠動脈造影・頚動脈エコーを含めた動脈硬化診断を行い、必要に応じて脳血管・冠動脈に対する充分な血行再建術を行い得た連続19症例について、6ヶ月間フォローアップを行った。その結果、6名に冠動脈病変の悪化や脳血管障害の発症、突然死などの重大な新規心血管イベント(Major Adverse Cardiac Events; MACE)が生じた(6/19=31.6%)。これらの症例について患者背景を後ろ向きに検証した結果、以下の事実が確認された。
(1)血小板数が経時的に減少する症例が存在すること;および、
(2)心血管イベントを発症した症例では、初診時の血小板数が低い傾向にあること。
ここで、上記(1)の症例(74歳男性)における血小板数の経時的な変化を図1のグラフに示す。この患者は、閉塞性動脈硬化症による重症下肢虚血(CLI)のため受診し、下肢バイパス術を受け軽快退院となったが、その後に急性心筋梗塞を発症し死亡した。図1に示すように、経過中、血小板数は減少の一途をたどっていた。また、図2は、上述したCLI連続19例について、6ヶ月以内の心血管イベント発症の有無と初診時血小板数との関連を示す図である。上述したように全19症例中6例(31.6%)に新規心血管イベントが見られたが、イベント発症群では、初診時の血小板数が低い傾向にあった。
さらに、初診時血小板数を測定した末梢血サンプルから単核球細胞成分を分離し、フローサイトメトリー法によってCD34陽性細胞数を計測した。ここで、CD34陽性細胞数は、血管内皮前駆細胞(EPC)の代理マーカー(surrogate marker)として広く認識されているものである。図3は、初診時血小板数を横軸に、CD34陽性細胞数/単核球数を縦軸にそれぞれプロットした散布図である。図3から明らかなように、これらの測定値の間には正の相関が認められた。
≪フィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)≫
上述したパイロット試験の結果は、血小板数が心血管イベント発症の予測因子となる可能性を強く示唆するものである。そこで本発明者らは、この仮説(初診時の血小板数がその後の生命予後に及ぼす影響)を検証すべく、以下のフィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)を計画・実施した。
(研究計画)
対象:閉塞性動脈硬化症によるCLIで受診し、冠動脈造影・頚動脈エコーを含めた動脈硬化診断を行い、必要に応じて脳血管・冠動脈に対する充分な血行再建術を行い得た症例
除外基準:血小板減少を来す既知の疾患を有する症例、5年以内に悪性疾患の既往を有する症例、インフォームドコンセントを得られない症例
研究デザイン:血液検査によるコホート内症例対照研究(Nested case-control study)
目標症例数:60例
主要評価項目:脳卒中・急性心筋梗塞・全死亡の複合エンドポイント
副次評価項目:非致死性脳卒中、非致死性急性心筋梗塞、または心血管イベントによる死亡
血液検査項目:血小板数、一般血液検査による生化学・血液血算データ、フローサイトメトリー法によるCD34陽性細胞数
(結果)
平成14年度から23年度までの10年間に受診した重症下肢虚血(CLI)症例のうち、上記条件をすべて満たした連続60症例中、58例について6か月以上のフォローアップが終了した。この58例のうち1例は経過観察中に脱落し、もう1例は他の血液疾患が判明して脱落した。したがって、残る56例について解析を行った。その結果、平均年齢は67±SD 9.1歳、そのうち男性は41名(73.2%)であった。また糖尿病42名(75.0%)、高血圧45名(80.4%)、高脂血症25名(44.6)%であったほか、33名(58.9%)が血液透析を受けており、さらに脳血管障害の既往が18名(32.1%)に、冠動脈疾患の既往が38名(67.9%)にそれぞれ認められた。CLI初診時の血小板数は、252.5±SD 82.2 (x103)、中央値は244x103であった(表1)。
また、平均観察期間33.4±SD27.2ヶ月のなかで、重症下肢虚血(CLI)での初診後12か月以内に主要評価項目を満たしたケースは8例(表2)、36か月以内に発症したケースはこの8例も含めて19例(表3)であった。
図4は、上述した56例について、36ヶ月以内の心血管イベント発症の有無と初診時血小板数との関連を示す図である。表2、表3および図4の結果からわかるように、36か月以内に主要評価項目を満たしたケースでは、初診時における血小板数は有意に低かった。また、この56例を初診時血小板数の中央値で2群(28例ずつ)に分類したところ、血小板低値群では高値群と比較して12か月以内および3年以内のMACE発症率が有意に高かった(12か月以内の発症:7/28(25.0%) vs 1/28 (3.6%);p < 0.05)、3年以内の発症:14/28 (50.0%) vs 5/28 (17.9):p < 0.05)(表4)。
図5は、上述した56例のうち心血管イベントを発症した23例について、CLI初診時の血小板数と、初診日からMACE発症までの日数との関連を示す散布図である。図5に示すように、MACE発症例に限ると、CLI初診時の血小板数は、発症までの期間と正に相関していた。つまり、CLI初診時の血小板数が少ないほど、比較的短期間の間にMACEを発症する傾向にあると言える。
図6は、上述した56例について、CLI初診時のMCV値と、MACE発症の有無および発症例では発症までの日数との関連を示す散布図である。図6に示すように、MACE発症例のなかでも、MACEを1年以内に発症した例では、CLI初診時におけるMCV値が高い傾向にあった。
図7は、上述した56例のうち心血管イベントを発症した23例について、CLI初診時のMCV値と、初診日からMACE発症までの日数との関連を示す散布図である。図7に示すように、MACE発症例に限ると、CLI初診時のMCV値は、発症までの期間と負に相関していた。つまり、CLI初診時のMCV値が高いほど、比較的短期間の間にMACEを発症する傾向にあると言える。
(考察)
本実施例では、CLI発症時の血小板数が、1年以内または3年以内のMACE発症を予測する因子(マーカー)となることが見出された。従来、血小板数がMACE発症の予後予測に有用であるという報告はない。よって、非常に簡便かつ安価に測定可能な血小板数を予測因子(マーカー)として利用することでMACEの発症予後を予測する手法を提供する本発明は、従来の技術に対してきわめて優位性が高く、かつ、医学的にも重要な知見を提供するものであると言える。
なお、上述したように、本実施例では、血小板数とEPC数との間に強い正の相関が存在することが見出された(図3)。これは血小板およびEPCの産生が低下する機序に、共通のバックグラウンドが存在することを強く示唆する。加えてEPC数および血小板数がともに心血管イベントと関連するということは、心血管イベントを来す機序にも、それぞれ本質的に共通なメカニズムが存在する可能性が考えられる。そのなかで本発明者らは、細胞老化機序に着目している。個体の老化形質や加齢関連疾患の一部は細胞レベルでの老化現象(cellular senescence)によって説明されるが、心血管病でも、少なくとも一部は血管内皮細胞の老化によって引き起こされると考えられている(J Mol Cell Cardiol. 2004; 36:175-183)。EPCや血小板の計数および機能は加齢に伴い低下することが知られている(N Engl J Med. 2003; 348:593, Haematol. 2011; 96:10)が、心血管病患者におけるこれら細胞群の減少・機能低下は、骨髄内の造血幹細胞・前駆細胞の老化を示唆するものかもしれない。したがって、心血管病の発症メカニズムの根底に血管内皮細胞のみならず血液細胞の老化が深く関与する可能性がある。動脈硬化の進展および心血管イベント発症における骨髄由来細胞の関与は広く研究されている(Curr Pharm Des 2006; 12:557-563)が、これを細胞老化の側面から究明することができれば大変興味深い。
ここで細胞集団における老化形質は、少なくともin vitroでは徐々に出現することが知られている。また内皮・骨髄細胞の老化が心血管イベントを発症するまでには、当然ある程度のタイムラグがあるものと考えられる。したがって、ある一時点での血小板数測定に加えて、長期的な経時経過をとらえることによって、心血管イベント発症に関連した細胞老化現象をより早期に発見することが可能となるものと考えられる。実際、我々のデータでは血小板数が少ないケースほど、より早期に心血管イベントを発症していた。今後の前向き研究によってこの仮説の実証が進められるであろう。
また、最近、冠動脈インターベンションを受けた症例において、赤血球MCV値が心血管予後に相関するという報告があった(Atherosclerosis. 2012; 221:148)。本発明者らによる研究のデータでも同様に、MCVの増加はMACE発症を予測する比較的良い指標であった。しかし一方でCD34陽性細胞数や血小板数とMCV値とは有意な相関を示さなかった。このことについて、本発明者らは血管における酸化ストレスの緩和作用との関連を考察しているが、その他にもMCV増加は造血前駆細胞におけるDNA合成障害の存在を示唆するとされている。いずれにせよMCVが増加する状態は、血小板・EPCの産生低下とは異なる病態を反映するものと考えられ、両者を組み合わせることで、より精度の高いスクリーニングができる可能性がある。
本発明では心血管イベント発症のハイリスク群であるCLI症例を対象として、血小板数の中央値を用いて予後予測における有用性を実証した。今後は中等度から低リスク症例を対象とした大規模な臨床観察研究へと一般化し、これらのコホートでも予後予測に有用であるか、またより適切なカットオフ値が定められるか検証を加える予定である。また血小板の計測は低コストであることから、この研究課題をPopulation based studyに応用することも比較的容易と考えられる。血小板数の定量によって心血管イベント発症のultra-high riskケースを同定できるようになれば、これらのケースに対して現状よりも一層積極的な医療介入を行うことで、患者の生命予後およびQOLを改善できる可能性がある。さらにこれをコホートとした新たな臨床研究を行うことで、イベント発症をより正確に予測する新規分子マーカーを発掘するための重要な足がかりとなる可能性がある。

Claims (5)

  1. 閉塞性動脈硬化症による重症下肢虚血(Clinical Limb Ischemia; CLI)を発症した患者である被検体から採取した血液試料中の血小板の量を測定する工程を含む、血液試料中の血小板の量の測定方法であって、
    当該測定方法は、前記被検体における心血管イベント(Major Adverse Cardiac Events; MACE)の発症またはそのリスクを判定するためのものであり、
    前記判定は、CLI初診時に得られた血小板の量の測定値が低い場合に、心血管イベントの発症が疑われる、または、その発症リスクが高いと判定するものである、測定方法。
  2. 前記被検体がヒトである、請求項に記載の測定方法。
  3. 前記血液試料中の平均赤血球容積の値を測定する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の測定方法。
  4. 前記判定は、得られた平均赤血球容積の測定値を前記血小板の量の測定値と併せて指標として用いるものである、請求項3に記載の測定方法。
  5. 前記判定は、得られた血小板の量の測定値が低い場合に、1年以内または3年以内の心血管イベントの発症リスクが高いと判定するものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定方法。
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