JPWO2007024008A1 - 細胞死抑制活性強化タンパク質fnkまたはそれをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤 - Google Patents
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Abstract
細胞死抑制活性強化タンパク質FNKまたはそれをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の提供。Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質またはそれをコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
Description
本発明は、細胞死抑制活性強化タンパク質FNKまたはそれをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤に関する。
正常細胞は細胞周期や細胞増殖に関する機能に変化を来すと不死化、形態変化などの悪性形質を獲得し、癌化することが知られている。このため、この癌細胞を除去するために、化学療法及び放射線療法等を行うが、癌細胞であっても悪性形質以外は正常細胞と共通の性質を有するため、癌細胞のみならず、正常細胞にも毒性を示すことが多い。この正常細胞に対する毒性がすなわち化学療法及び放射線療法の副作用となって現れてくる。
副作用を受けやすい正常細胞は、骨髄細胞、毛母細胞、口腔粘膜や腸管粘膜などの消化管粘膜上皮細胞の幹細胞など活発に分裂・増殖する細胞である。このため、抗癌治療を行ったときには、骨髄抑制や、脱毛、消化管粘膜傷害を示す。例えば、シスプラチンなど代表的な抗癌剤は重大な副作用として、聴力障害が発生し、そのため抗癌剤の投与が継続できない場合が多々ある。また、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質またはアミノグリコシド系抗生物質でも副作用で聴力障害が発生することが報告されている(非特許文献1から3を参照)。このため、抗癌剤による消化管粘膜障害や聴力障害等の副作用を防ぐことが求められてきた。
この副作用を軽減するための方法として、サイクリン依存性キナーゼII阻害薬を用いたり(特許文献1等参照)、カスパーゼインヒビターを用いて正常細胞の細胞死を抑制したり(特許文献2等参照)、副作用が現れた時点で、抗癌治療を中止するなどして副作用の軽減に努めてきた。また、聴力障害に対しては、NOS(L−アルギニンを基質とする酵素)阻害剤を腹腔内投与するなどして、聴力障害を予防及び治療方法について検討されてきた。
しかし、副作用によって抗癌治療を中止することは癌細胞の除去を断念することを意味するため、副作用の少ない抗癌治療が望まれている。
シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質による聴力障害にはアポトーシスが関与すると報告されているが(非特許文献1から5を参照)、アポトーシス自体をコントロールする試みは成されていない。また、モルモットモデルで誘導型一酸化窒素合成酵素を抑制し、聴力障害を軽減する報告は存在するが(非特許文献6参照)、その効果は十分でなかった。
特表2003−502362号公報 特表2003−511463号公報 Corbacella E,et al.,Hear Res.2004 Nov;197(1−2):11−8 Dehne N,et al.,Hear Res.2002 Jul;169(1−2):47−55 Lefebvre PP,et al.,Audiol Neurootol.2002 May−Jun;7(3):165−70 Watanabe K.et al,Chemotherapy 2002;48:82−7 Watanabe K.et al.,Anticancer Drugs 2000;11:731−5 Watanabe K.et al.,Anticancer Drugs 2000;11:401
副作用を受けやすい正常細胞は、骨髄細胞、毛母細胞、口腔粘膜や腸管粘膜などの消化管粘膜上皮細胞の幹細胞など活発に分裂・増殖する細胞である。このため、抗癌治療を行ったときには、骨髄抑制や、脱毛、消化管粘膜傷害を示す。例えば、シスプラチンなど代表的な抗癌剤は重大な副作用として、聴力障害が発生し、そのため抗癌剤の投与が継続できない場合が多々ある。また、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質またはアミノグリコシド系抗生物質でも副作用で聴力障害が発生することが報告されている(非特許文献1から3を参照)。このため、抗癌剤による消化管粘膜障害や聴力障害等の副作用を防ぐことが求められてきた。
この副作用を軽減するための方法として、サイクリン依存性キナーゼII阻害薬を用いたり(特許文献1等参照)、カスパーゼインヒビターを用いて正常細胞の細胞死を抑制したり(特許文献2等参照)、副作用が現れた時点で、抗癌治療を中止するなどして副作用の軽減に努めてきた。また、聴力障害に対しては、NOS(L−アルギニンを基質とする酵素)阻害剤を腹腔内投与するなどして、聴力障害を予防及び治療方法について検討されてきた。
しかし、副作用によって抗癌治療を中止することは癌細胞の除去を断念することを意味するため、副作用の少ない抗癌治療が望まれている。
シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質による聴力障害にはアポトーシスが関与すると報告されているが(非特許文献1から5を参照)、アポトーシス自体をコントロールする試みは成されていない。また、モルモットモデルで誘導型一酸化窒素合成酵素を抑制し、聴力障害を軽減する報告は存在するが(非特許文献6参照)、その効果は十分でなかった。
本発明は、細胞死抑制活性強化タンパク質FNKまたはそれをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の提供を目的とする。
本発明者は、先にアポトーシス抑制タンパク質であるBcl−xLを改変してその活性を強化したタンパク質であるFNKを開発した(特開2001−120281号公報)。また、本発明者等は細胞死抑制活性強化タンパク質であるPTD−FNKが脱毛を防止することを見出し、特願2005−71501として既に出願している。また、骨髄細胞の保存のためにも本タンパク質が有用であることを見出し、特願2005−71819として出願をしている。
本発明者は、FNKの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用に対する効果について鋭意検討を行った。
FNKは、従来用いられてきたアポトーシス抑制タンパク質では得られない程の優れた効果を発揮する。また、FNKは、アポトーシスのみでなく、ネクローシスも含めた細胞死を抑制する(Zonal necrosis prevented by transduction of the artificial anti−death FNK protein.Asoh,S.et al.,Cell Death Differ.12,384−394(2005))。従って、FNKが抑制する細胞死はアポトーシスに限定されない。FNKの改変元となったBcl−xLは様々な生物種に存在するが、その配列は非常によく似ている。本件では、ラット由来のFNKを用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかり、その他の生物種由来のFNKでも同じような効果が予想される。従って、FNKを作製するにあたって、その改変元となるBcl−xLの生物種は限定されない。
通常、タンパク質は細胞膜を通過できない。従って、細胞外からFNKを投与するためには、細胞膜を通過させるための手段が必要となる。そのため、FNKのN末端側にPTD(細胞膜通過ドメイン)を連結させた。本件では、TATをPTDとして用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかった。従って、このPTDは、細胞膜通過機能を有していればよく、特定の配列に限定されない。さらに、FNKをコードする核酸を細胞に導入する方法について検討を行った。
そして今回、これらの細胞死抑制活性強化タンパク質であるFNKが化学療法及び放射線療法による副作用の軽減に繋がることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[2] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される[1]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[3] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である[1]または[2]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[4] 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である[1]〜[3]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[5] 抗癌治療の効果を低下させない、[1]〜[4]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[6] FNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結している、[1]〜[5]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[7] 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される[6]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表されるペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド
[8] Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質をコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[9] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される[8]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[10] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である[8]または[9]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[11] 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である[8]〜[10]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[12] 抗癌治療の効果を低下させない、[8]〜[11]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[13] FNKタンパク質をコードする核酸の5’側に細胞膜通過ペプチドをコードする核酸が連結している[8]〜[12]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[14] 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される[13]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表される、ペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド
[15] 抗癌治療がX線照射である[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[16] 抗癌治療が抗癌剤投与である[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[17] 抗癌治療の細胞死に基づく副作用が、造血組織障害、消化管粘膜を含む消化器の障害、心臓障害、肺障害、腎障害、神経障害、口内炎、聴力障害、皮膚障害からなる群から選択される[1]〜[16]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[18] X線照射による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性基づく副作用の予防または治療剤。
[19] 抗癌剤投与による消化管粘膜を含む消化器の障害、造血組織障害、腎臓障害および聴覚障害からなる群から選択される副作用を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[20] 抗癌剤投与による聴力障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[21] 抗癌剤投与による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[22] 抗癌剤が5−FU(5−フルオロウラシル)、CPT−11(イリノテカン)およびCDDP(シスプラチン)からなる群から選択される、[16]〜[21]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005−241685号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明者は、先にアポトーシス抑制タンパク質であるBcl−xLを改変してその活性を強化したタンパク質であるFNKを開発した(特開2001−120281号公報)。また、本発明者等は細胞死抑制活性強化タンパク質であるPTD−FNKが脱毛を防止することを見出し、特願2005−71501として既に出願している。また、骨髄細胞の保存のためにも本タンパク質が有用であることを見出し、特願2005−71819として出願をしている。
本発明者は、FNKの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用に対する効果について鋭意検討を行った。
FNKは、従来用いられてきたアポトーシス抑制タンパク質では得られない程の優れた効果を発揮する。また、FNKは、アポトーシスのみでなく、ネクローシスも含めた細胞死を抑制する(Zonal necrosis prevented by transduction of the artificial anti−death FNK protein.Asoh,S.et al.,Cell Death Differ.12,384−394(2005))。従って、FNKが抑制する細胞死はアポトーシスに限定されない。FNKの改変元となったBcl−xLは様々な生物種に存在するが、その配列は非常によく似ている。本件では、ラット由来のFNKを用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかり、その他の生物種由来のFNKでも同じような効果が予想される。従って、FNKを作製するにあたって、その改変元となるBcl−xLの生物種は限定されない。
通常、タンパク質は細胞膜を通過できない。従って、細胞外からFNKを投与するためには、細胞膜を通過させるための手段が必要となる。そのため、FNKのN末端側にPTD(細胞膜通過ドメイン)を連結させた。本件では、TATをPTDとして用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかった。従って、このPTDは、細胞膜通過機能を有していればよく、特定の配列に限定されない。さらに、FNKをコードする核酸を細胞に導入する方法について検討を行った。
そして今回、これらの細胞死抑制活性強化タンパク質であるFNKが化学療法及び放射線療法による副作用の軽減に繋がることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[2] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される[1]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[3] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である[1]または[2]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[4] 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である[1]〜[3]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[5] 抗癌治療の効果を低下させない、[1]〜[4]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[6] FNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結している、[1]〜[5]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[7] 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される[6]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表されるペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド
[8] Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質をコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[9] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される[8]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[10] Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である[8]または[9]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[11] 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である[8]〜[10]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[12] 抗癌治療の効果を低下させない、[8]〜[11]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[13] FNKタンパク質をコードする核酸の5’側に細胞膜通過ペプチドをコードする核酸が連結している[8]〜[12]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[14] 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される[13]の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表される、ペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド
[15] 抗癌治療がX線照射である[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[16] 抗癌治療が抗癌剤投与である[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[17] 抗癌治療の細胞死に基づく副作用が、造血組織障害、消化管粘膜を含む消化器の障害、心臓障害、肺障害、腎障害、神経障害、口内炎、聴力障害、皮膚障害からなる群から選択される[1]〜[16]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[18] X線照射による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性基づく副作用の予防または治療剤。
[19] 抗癌剤投与による消化管粘膜を含む消化器の障害、造血組織障害、腎臓障害および聴覚障害からなる群から選択される副作用を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[20] 抗癌剤投与による聴力障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[21] 抗癌剤投与による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、[1]〜[14]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
[22] 抗癌剤が5−FU(5−フルオロウラシル)、CPT−11(イリノテカン)およびCDDP(シスプラチン)からなる群から選択される、[16]〜[21]のいずれかの抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005−241685号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1は、ヒト、ラット、マウス、ブタおよびイヌ由来のBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
図2は、PTD−FNKによるシスプラチンの致死作用の軽減効果(生存率の上昇)を示す図である。
図3Aは、PTD−FNK投与がシスプラチンの抗癌活性(腫瘍体積縮小効果)を抑制しないことを示す図である。
図3Bは、PTD−FNK投与がシスプラチンの抗癌活性(腫瘍体積縮小効果)を抑制しないことを示す(試験数を増やした場合)図である。
図4は、担癌マウスを用いた、イリノテカンと5−フルオロウラシルの抗癌活性に対するPTD−FNK投与の影響の検討の結果を示す図である。
図5は、PTD−FNKによるX線照射による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図6は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す図である。
図7は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図8は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(脾臓障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは100μmである。
図9は、PTD−FNKによる塩酸イリノテカイン投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図10は、PTD−FNKによるシスプラチン投与による副作用(腎臓障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図11は、PTD−FNKによる5−FuおよびCPT−11投与による副作用(小腸炎症傷害)の軽減効果を示す図である。
図12Aは、担癌マウスにおける、腫瘍の存在様式を示す図である。
図12Bは、PTD−FNKが癌組織に取り込まれないことを示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図13は、PTD−FNKが骨髄中の細胞に取り込まれることを示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図14は、PTD−FNKとZ−VAD−fmkの副作用低減効果の比較を示す図である。
図2は、PTD−FNKによるシスプラチンの致死作用の軽減効果(生存率の上昇)を示す図である。
図3Aは、PTD−FNK投与がシスプラチンの抗癌活性(腫瘍体積縮小効果)を抑制しないことを示す図である。
図3Bは、PTD−FNK投与がシスプラチンの抗癌活性(腫瘍体積縮小効果)を抑制しないことを示す(試験数を増やした場合)図である。
図4は、担癌マウスを用いた、イリノテカンと5−フルオロウラシルの抗癌活性に対するPTD−FNK投与の影響の検討の結果を示す図である。
図5は、PTD−FNKによるX線照射による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図6は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す図である。
図7は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図8は、PTD−FNKによる5−FU投与による副作用(脾臓障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは100μmである。
図9は、PTD−FNKによる塩酸イリノテカイン投与による副作用(腸粘膜障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図10は、PTD−FNKによるシスプラチン投与による副作用(腎臓障害)の軽減効果を示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図11は、PTD−FNKによる5−FuおよびCPT−11投与による副作用(小腸炎症傷害)の軽減効果を示す図である。
図12Aは、担癌マウスにおける、腫瘍の存在様式を示す図である。
図12Bは、PTD−FNKが癌組織に取り込まれないことを示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図13は、PTD−FNKが骨髄中の細胞に取り込まれることを示す写真である。写真中のバーの長さは50μmである。
図14は、PTD−FNKとZ−VAD−fmkの副作用低減効果の比較を示す図である。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の治療剤または予防剤が有効成分として含む細胞死抑制活性強化タンパク質であるFNKは、がん原遺伝子であるBcl−2遺伝子(Science 226(4678):1097−1099,1984;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(22):7166−7170,1984;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(14):5214−5218,1986;Cell47(1):19−28,1986)と類似の構造を有するBcl−2ファミリーに属するBcl−xL遺伝子(Cell 74(4):597−608,1993)を改変することにより得られる。
FNKは、Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する。好ましくは3つが置換されている。FNKをコードする遺伝子は、Bcl−xL遺伝子のコード領域において、第22番目のTyrをコードするトリプレットコドン(tac)をPheをコードするコドン(tttまたはttc)に置換する塩基の置換、第26番目のGlnをコードするコドン(cag)をAsnをコードするコドン(aatまたはaac)に置換する塩基の置換および第165番目のArgをコードするコドン(cgg)をLysをコードするコドン(aaaまたはaag)に置換する塩基の置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つの置換を有するように塩基配列を変異させることにより得られる。FNKタンパク質をコードするDNA配列およびアミノ酸配列の一例として、ラット由来のものをそれぞれ配列番号1および2に、ヒト由来のものをそれぞれ配列番号3および4に示す。
本発明で用いるFNKはいかなる動物種由来のBcl−xLタンパク質を改変したものでもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl−xLタンパク質が挙げられる。図1にヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl−xLタンパク質のアラインメントを示す。また、ヒト、マウス、ラット、ブタおよびイヌ由来のBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5〜9に示す。図1において、いずれの動物種由来のBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列においても、第22番目のアミノ酸はTyrであり、第26番目のアミノ酸はGlnであり、165番目のアミノ酸はArgである。図1に示されている動物種以外の動物種由来のBcl−xLタンパク質においても、これら3箇所のアミノ酸は保存されていると考えられ、本発明のFNKタンパク質は由来動物種を問わず、Bcl−xLタンパク質のアミノ酸配列において、第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。また、本発明のFNKタンパク質は、各種動物由来のFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質、またはFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質も包含する。1個または数個のアミノ酸の欠失、置換または付加は、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1もしくは2個、1個のアミノ酸の欠失、置換または付加のいずれかである。図1に示すように、ヒト、マウス、ラット、ブタおよびイヌの間では28番目、40番目、43番目、45番目、168番目、193番目、220番目のアミノ酸のいずれかが異なる。このことは少なくともこれらのアミノ酸が置換、欠失等により変異してもFNKの活性は保持されることを意味する。例として、28番目のアミノ酸のセリンおよびトレオニンの間の置換、40番目のアミノ酸のグルタミン酸およびグリシン間の置換、43番目のアミノ酸のセリン、アラニンおよびプロリン間の置換、45番目のアミノ酸のメチオニン、アルギニンおよびアラニン間の置換、168番目のアミノ酸のアラニン、セリンおよびトレオニン間の置換、ならびに193番目のアミノ酸のグルタミン酸およびアスパラギン酸間の置換、ならびに220番目のアミノ酸のバリンおよびロイシン間の置換が挙げられる。このようなタンパク質は、異種動物のFNKタンパク質のハイブリッドタンパク質も包含する。例えば、FNKタンパク質のN端側半分がヒト由来のアミノ酸配列を有し、C端側半分が他種動物由来のアミノ酸配列を有するFNKタンパク質が包含される。一般に、遺伝子には個体特異的な遺伝的多型が知られている。ヒトのBcl−xLタンパク質においても、FNKタンパク質活性に影響を与えない部位にアミノ酸置換(遺伝的多型)がある場合があり、例えば、配列番号5に表すヒトBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列において、第70番目のGlyがAlaに置換されているものが知られている。本発明のFNKタンパク質は、このような個体特異的なアミノ酸置換であって、FNKタンパク質活性に大きな影響を与えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をも包含する。
本発明のFNKタンパク質は、本明細書に記載のBcl−xLタンパク質もしくはFNKタンパク質のアミノ酸配列またはBcl−xL遺伝子もしくはFNKタンパク質をコードするDNAの塩基配列情報を基に、得ることができる。例えば、特開2001−120281号公報には、ラット由来のFNKタンパク質について記載されており、該公報の記載に従って本発明のFNKタンパク質を得ることができる。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質のN末端側には、細胞膜通過ドメイン(PTD)が連結していてもよい。
細胞膜通過ドメインはアルギニン、リシンを含む塩基性アミノ酸を種に含む細胞膜通過ペプチドからなり、アミノ酸の光学異性体(D体、L体)に依存しない。細胞膜通過ペプチドとしては種々のものが知られており、本発明においてはいかなる細胞膜通過ペプチドを用いることができる。
細胞膜通過ペプチドとして、6個から12個、好ましくは7個から11個、さらに好ましくは9個または10個のアルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチド、5個から15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、ならびに前記アルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチドまたはアルギニンおよびリシンからなるペプチドにおいて、数個、好ましくは1個から8個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド等が挙げられる。例としてアルギニン9個からなるペプチド(R9、配列番号10および11)、アルギニン7個およびリシン2個からなるペプチド(K2R7、配列番号12および13)、アルギニン7個およびグリシン6個からなるペプチド(R7G6、配列番号14および15)等が挙げられる。これらの細胞膜通過ペプチドを連結するとき、FNKタンパク質のアミノ酸配列の第1番目のメチオニンは残しておいてもよいし、除去してもよい。
また、細胞膜通過ペプチドとして、HIV−1・TATの細胞膜通過ドメイン(protein transduction domain)YGRKKRRQRRR(配列番号16および17)やショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディアの細胞膜通過ドメインRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号18)が挙げられる。その他、VP22のC末端(267−300)ペプチドDAATATRGRSAASRPRERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号19)、HIV−1/Rev(34−50)ペプチドTRQARRNRRRRWRERQR(配列番号20)、FHV/coat(35−49)ペプチドRRRRNRTRRNRRRVR(配列番号21)、K−FGFのN末端(7−22)の疎水性領域AAVALLPAVLLALLAP(配列番号22)等が挙げられる。
また、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドの間にスペーサー配列を有していてもよい。スペーサー配列はアミノ酸数個からなりその配列には限定はないが、例えば、1個から5個、好ましくは1個から3個、さらに好ましくは1個のグリシンが挙げられる。
これらの細胞膜通過ペプチドは、それぞれの細胞膜通過ペプチドをコードするDNAをFNKをコードするDNAと連結して融合DNAを作製し、この融合DNAを遺伝子工学の手法により大腸菌等の宿主細胞で発現させることによって、N末端側に細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。あるいはまた、2価の架橋剤(例えば、EDCやβ−アラニン等を介して、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドを結合させる方法によって細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。
細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質として、ヒトFNKタンパク質にK2R7ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号23に、アミノ酸配列を配列番号24に示す)、ヒトFNKタンパク質にR7G6ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26に示す)、ヒトFNKタンパク質にR9ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号27に、アミノ酸配列を配列番号28に示す)、ヒトFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30に示す)およびラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号31に、アミノ酸配列を配列番号32に示す)等が挙げられる。
さらに、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤は、上記FNKタンパク質をコードするDNA、RNA等の核酸を含む予防または治療剤を含む。この場合、FNKタンパク質は上記のすべての変異を有するFNKタンパク質が包含される。
さらに、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤は、FNKタンパク質をコードする核酸の5’側に上記の細胞膜通過ペプチド(PTD)をコードする核酸を連結させた核酸を含む予防または治療剤を含む。該核酸は、上記のFNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結しているタンパク質をコードする核酸である。
これらのFNKタンパク質をコードする核酸およびFNKタンパク質に細胞膜通過ペプチドを連結させたタンパク質をコードする核酸は、本明細書に記載のBcl−xLをコードするDNAもしくはFNKタンパク質をコードするDNA、ならびに細胞膜通過ペプチドのアミノ酸配列から推定される塩基配列を基に得ることができる。例えば、特開2001−120281号公報には、ラット由来のFNKタンパク質をコードするDNAについて記載されており、該公報の記載に従って本発明のFNKタンパク質を得ることができる。例えば、配列番号1にヒト由来のFNKタンパク質をコードするDNA、配列番号2にラット由来のFNKタンパク質をコードするDNAが記載されている。本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤が含むDNAの一例として、配列番号1もしくは2に表されるDNAまたは該DNAに相補的なDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。また、配列番号1もしくは2に表されるDNAに細胞膜通過ペプチドが連結したDNAまたは該DNAに相補的なDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。ここで、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAの一例として、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt’s)溶液、100μg/ml サケ精子 DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAが挙げられる。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質は、上記の細胞膜通過ペプチドを連結させる他に種々の方法で細胞に導入することができる。例えば、目的タンパク質と非共有結合的相互作用によって複合体を形成し細胞内に導入するペプチド性キャリアー、例えばChariot(ActiveMotif社,カルフォルニア,USA)を用いることができる。また、本発明のFNKタンパク質にポリアミノ基を結合させてもよい。また、リポソームに本発明のFNKタンパク質を封入し、被治療動物に投与してもよい。この場合、リポソーム表面に糖鎖を結合させることにより、目的の細胞に導入することができる。さらに、公知の非ウイルスベクター、例えばセンダイウイルスの細胞融合活性を担う膜成分(エンベロープタンパク質)の活性を残したままウイルスの複製能を完全に不活化した HVJ−Eベクター(石原産業株式社)を用いて導入することができる。その他、種々の公知のドラッグデリバリーシステムを用いてもよい。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質をコードする核酸およびFNKタンパク質をコードする核酸に細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸は以下の方法により細胞に導入することができ、細胞内で発現させ、遺伝子治療を行うことができる。
核酸を有効成分とする遺伝子治療剤を患者に投与する場合、細胞への遺伝子導入法としては、リポフェクション法、遺伝子銃法、リン酸−カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などが挙げられる。また、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターを用いることができる。その調製法、投与法は例えば、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999等に記載されている。
非ウイルスベクターを用いる場合は、公知の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、目的核酸を細胞に導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ−リポソーム法、改良型HVJ−リポソーム法(HVJ−AVE リポソーム法)、HVJ−E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked−DNAの直接導入法、正電荷ポリマーによる導入法等により、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。このうちHVJ−リポソームは、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan:HVJ)とを融合させたものである。HVJ−リポソームの調製法については文献(実験医学別冊、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;J.Clin.Invest.93,1458−1464(1994);Am.J.Physiol.,271,R1212−1220(1996))などの記載に従えばよい。HVJリポソーム法とは、例えばMolecular Medicine,30,1440−1448(1993);実験医学,1,1822−1826(1994);蛋白質・核酸・酵素,42,1806−1813(1997)等に記載の方法であり、好ましくはCirculation,92(Suppl.II),479−482(1995)に記載の方法が挙げられる。HVJ−E(エンベロープ)ベクターは、外来遺伝子を不活化したセンダイウイルスエンベロープに導入したものであり、WO01/57204号国際公開公報の記載に従い調製することが可能である。用いる発現ベクターは、生体内で目的核酸を発現させることのできるベクターであればいかなるものも用い得るが、例えばpCAGGS(Gene 108,193−200(1991))や、pBK−CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。
ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクター等を用いることができる。具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することができる。遺伝子治療剤の患者への導入は、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法によってもよいし、ヒトから細胞を取り出して体外で遺伝子治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法によってもよい。
細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸の場合、該核酸を導入した細胞を体内に戻した場合、細胞内で発現されたタンパク質は細胞膜通過ペプチドにより、細胞外へ分泌され、さらに他の細胞に入っていく。また、細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸を導入した細胞を、タンパク質は通過させるが、細胞は通過させないカプセルに入れて、被治療動物に投与または埋め込むこともできる。この場合、カプセル中でPTD−FNKが発現産生されカプセルから外に出て、体内に供給され、FNKの治療効果を発揮する。FNKによる治療が必要なくなった場合、前記カプセルを体内から取り出すことにより、FNKの過剰投与を防ぐことができる。タンパク質を通過させるが、細胞は通過させないカプセルとしては、多孔性の樹脂製カプセルを用いることができる。
本発明のFNKタンパク質もしくはPTDを連結したFNKタンパク質またはそれらをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤が対象とする副作用として、X線照射による副作用、抗癌剤投与による副作用が含まれる。本発明において抗癌治療の細胞毒性とは、抗癌治療に用いる放射線や化学物質が正常細胞に障害を与えることをいい、障害の種類として細胞死、増殖能、DNA合成能を含む細胞の各種機能の低下がある。抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用として、白血球減少、血小板減少、赤血球減少等の骨髄抑制あるいは脾臓障害を含む造血組織障害、腸管粘膜障害等の消化器障害、心膜炎、心筋炎症候群等の心臓障害(心毒性)、間質性肺炎、肺線維症等の肺障害(肺毒性)、尿細管障害、出血性膀胱炎等の腎臓障害(腎毒性)、末梢神経障害、中枢神経障害等の神経障害(神経毒性)、口内炎等の口腔粘膜障害、脱毛、聴力障害、皮膚障害等が挙げられる。X線照射による副作用としては特に、口腔粘膜を含む消化管粘膜の障害などの消化器障害が挙げられる。本発明において、消化管粘膜障害とは、口腔から肛門に至る消化管の粘膜の障害をいい、腸管粘膜障害や口腔粘膜障害等を含む。本発明の予防または治療剤が対象とする副作用をもたらす抗癌剤は、限定されず、抗癌剤の細胞毒性に基づく副作用のすべてが治療または予防対象となりえる。本発明が対象とする抗癌剤として、ニトロソウレア剤、窒素マスタード(サイクロフォスファミド等)、ダカルバジン、カルムスチン(BCNU)、ブスルファン、イフォスファミド、塩酸ニムスチン、ロムスチン(CCNU)、ラニムスチン(MCNU)等のアルキル化剤;メトトレキセート、アミノプテリン、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、カルモフール、シタラビン、ヒドロキシカルバミド、ゲムシタビン等の代謝拮抗剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、CPT−11(イリノテカン)、エトポシド等の植物アルカロイド剤;ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、クロモマイシン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ドノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC等の抗癌抗生物質;ホルモン剤;レンチナン、ピシバニール、ベスタチン等の生物機能修飾物質;プロカルバジン;シスプラチン;カルボプラチンなどが例として挙げられる。
骨髄抑制は、上記のほとんどの抗癌剤治療の際の副作用であり、消化器障害は、特にシスプラチン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、窒素マスタード、サイクロフォスファミド、5−フルオロウラシル、CPT−11(イリノテカン)等の副作用であり、心毒性は特に、アドリアマイシン、ダウノマイシン、サイクロフォスファミド、シスプラチン、5−フルオロウラシル等の副作用であり、肺毒性は特にブレオマイシン、カルムスチン、マイトマイシンD、ブスルファン、メトトレキセート、プロカルバジン、サイクロフォスファミド等の副作用である。さらに、腎毒性は特にシスプラチン、マイトマイシンC、メトトレキセート、サイクロフォスファミド、イフォスファミド等の副作用であり、神経毒性は特にビンクリスチン等の植物アルカロイド剤、シスプラチン、メトトレキセート、カルモフール等の副作用であり、口内炎は特にメトトレキセート、5−フルオロウラシル等の代謝拮抗剤、植物アルカロイド剤等の副作用であり、脱毛はすべての抗癌剤、特にアドリアマイシン、エトポシド等の副作用である。さらに、聴力障害は、シスプラチン等の抗癌剤やアミノグリコシド系抗生物質投与の副作用である。
本発明のFNKタンパク質は、正常組織の正常細胞にのみ取り込まれ、腫瘍組織のガン細胞には取り込まれず、抗癌剤の治療効果を損なうことなく、正常細胞の抗癌治療による副作用を予防し、または治療し得る。また、本発明のFNKタンパク質は骨髄中の細胞にも効率的に取りこまれ、骨髄抑制等の抗癌治療による副作用を予防し、または治療し得る。
本願発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、特に抗癌治療による副作用である聴力障害および抗癌治療による副作用である腸管粘膜障害や口内炎等の口腔粘膜障害を含む消化管粘膜障害の予防または治療に有効である。すなわち、本発明は抗癌剤投与等の抗癌治療による細胞死に基づく聴力障害または消化管粘膜障害の予防、治療剤を包含する。
聴力障害は、高音域に障害が現れ(高音障害型感音難聴)、抗癌剤投与を中止しても聴力は回復しない。このため、聴力障害は抗癌剤投与量を制限する要因になっている。抗癌剤投与量の増加に伴い聴力障害が出現しやすくなり、特に1日投与量で80mg/m2以上、総投与量で300mg/m2を超えると非常に出現しやすくなる。アミノグリコシド系抗生物質としては、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ハベカシン、カナマイシン、アミカシン、トブラマイシン、ミクロノマイシン、イセパシン、アルベカシン等が挙げられる。
シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質による内耳障害はアポトーシスが関与していると考えられており、アポトーシスが起きた時点での投与は障害の軽減には寄与しないと考えられる。従って、本発明の治療剤は、シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質投与から早期の内耳障害に効果がある。本願発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、特にシスプラチンによる障害に有効であり、本願発明はシスプラチン難聴の予防または治療剤を包含する。
本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、飴、トローチ、口腔内崩壊錠、口腔内粘膜への塗布若しくは添付剤などの口腔内に留まる剤形等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の注射または配薬を含む非経口投与を挙げることができる。抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、FNKまたはPTDを連結したFNKを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。FNKは、そのタンパク質精製過程で7M Urea、2% SDS、1mM DTTで処理していながら活性は保持しているので、一般的にタンパク質が変性すると予想されるような添加物、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アルコール等を使用することができる。また、必要に応じて、他の公知の成分、例えば、希釈剤、等張化剤、担体、pH安定剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤、安定化剤、溶解補助剤、粘度調整剤、香料等を加えてもよい。その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれる。一般的には1ng〜5mg/1kg体重の範囲で投与されることが望ましい。この1回投与量を1日1回あるいは数回に分けて投与する。
なお、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の投与は、予防のために抗癌剤の投与等の抗癌治療の前、同時、後のいつでもよい。特に、抗癌治療数時間後、1日後および2日後の3回投与するのが望ましい。また、抗癌治療により出現した細胞毒性に基づく副作用の治療にも用いることができる。すなわち、本発明は抗癌剤投与等の抗癌治療後に初回投与し、その後2日間にわたって1日1回投与されることを特徴とする抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤を包含する。
FNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質をコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤も上記のFNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤と同様の形態で投与することができる。遺伝子治療を行う場合の核酸の有効用量はin vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれるが、一般的には核酸として約1μg〜約50mgの範囲、好ましくは約10μg〜約5mg、より好ましくは約50μg〜約5mgの範囲である。投与回数等は、FNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤と同様である。
また、本発明の聴力障害予防剤または治療剤により抗癌剤投与による聴力障害を改善することができる。すなわち、本発明の聴力障害予防剤または治療剤は、抗癌剤投与により障害を受けた聴力の改善剤でもある。
本発明は、FNKもしくはPTDを連結したFNKまたはそれらをコードする核酸を投与して、抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用を治療または予防する方法を包含する。本発明は、さらに抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の製造のためのFNKもしくはPTDを連結したFNKまたはそれらをコードする核酸の使用をも包含する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
FNKは、Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する。好ましくは3つが置換されている。FNKをコードする遺伝子は、Bcl−xL遺伝子のコード領域において、第22番目のTyrをコードするトリプレットコドン(tac)をPheをコードするコドン(tttまたはttc)に置換する塩基の置換、第26番目のGlnをコードするコドン(cag)をAsnをコードするコドン(aatまたはaac)に置換する塩基の置換および第165番目のArgをコードするコドン(cgg)をLysをコードするコドン(aaaまたはaag)に置換する塩基の置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つの置換を有するように塩基配列を変異させることにより得られる。FNKタンパク質をコードするDNA配列およびアミノ酸配列の一例として、ラット由来のものをそれぞれ配列番号1および2に、ヒト由来のものをそれぞれ配列番号3および4に示す。
本発明で用いるFNKはいかなる動物種由来のBcl−xLタンパク質を改変したものでもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl−xLタンパク質が挙げられる。図1にヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl−xLタンパク質のアラインメントを示す。また、ヒト、マウス、ラット、ブタおよびイヌ由来のBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5〜9に示す。図1において、いずれの動物種由来のBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列においても、第22番目のアミノ酸はTyrであり、第26番目のアミノ酸はGlnであり、165番目のアミノ酸はArgである。図1に示されている動物種以外の動物種由来のBcl−xLタンパク質においても、これら3箇所のアミノ酸は保存されていると考えられ、本発明のFNKタンパク質は由来動物種を問わず、Bcl−xLタンパク質のアミノ酸配列において、第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。また、本発明のFNKタンパク質は、各種動物由来のFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質、またはFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質も包含する。1個または数個のアミノ酸の欠失、置換または付加は、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1もしくは2個、1個のアミノ酸の欠失、置換または付加のいずれかである。図1に示すように、ヒト、マウス、ラット、ブタおよびイヌの間では28番目、40番目、43番目、45番目、168番目、193番目、220番目のアミノ酸のいずれかが異なる。このことは少なくともこれらのアミノ酸が置換、欠失等により変異してもFNKの活性は保持されることを意味する。例として、28番目のアミノ酸のセリンおよびトレオニンの間の置換、40番目のアミノ酸のグルタミン酸およびグリシン間の置換、43番目のアミノ酸のセリン、アラニンおよびプロリン間の置換、45番目のアミノ酸のメチオニン、アルギニンおよびアラニン間の置換、168番目のアミノ酸のアラニン、セリンおよびトレオニン間の置換、ならびに193番目のアミノ酸のグルタミン酸およびアスパラギン酸間の置換、ならびに220番目のアミノ酸のバリンおよびロイシン間の置換が挙げられる。このようなタンパク質は、異種動物のFNKタンパク質のハイブリッドタンパク質も包含する。例えば、FNKタンパク質のN端側半分がヒト由来のアミノ酸配列を有し、C端側半分が他種動物由来のアミノ酸配列を有するFNKタンパク質が包含される。一般に、遺伝子には個体特異的な遺伝的多型が知られている。ヒトのBcl−xLタンパク質においても、FNKタンパク質活性に影響を与えない部位にアミノ酸置換(遺伝的多型)がある場合があり、例えば、配列番号5に表すヒトBcl−xLタンパク質のアミノ酸配列において、第70番目のGlyがAlaに置換されているものが知られている。本発明のFNKタンパク質は、このような個体特異的なアミノ酸置換であって、FNKタンパク質活性に大きな影響を与えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をも包含する。
本発明のFNKタンパク質は、本明細書に記載のBcl−xLタンパク質もしくはFNKタンパク質のアミノ酸配列またはBcl−xL遺伝子もしくはFNKタンパク質をコードするDNAの塩基配列情報を基に、得ることができる。例えば、特開2001−120281号公報には、ラット由来のFNKタンパク質について記載されており、該公報の記載に従って本発明のFNKタンパク質を得ることができる。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質のN末端側には、細胞膜通過ドメイン(PTD)が連結していてもよい。
細胞膜通過ドメインはアルギニン、リシンを含む塩基性アミノ酸を種に含む細胞膜通過ペプチドからなり、アミノ酸の光学異性体(D体、L体)に依存しない。細胞膜通過ペプチドとしては種々のものが知られており、本発明においてはいかなる細胞膜通過ペプチドを用いることができる。
細胞膜通過ペプチドとして、6個から12個、好ましくは7個から11個、さらに好ましくは9個または10個のアルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチド、5個から15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、ならびに前記アルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチドまたはアルギニンおよびリシンからなるペプチドにおいて、数個、好ましくは1個から8個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド等が挙げられる。例としてアルギニン9個からなるペプチド(R9、配列番号10および11)、アルギニン7個およびリシン2個からなるペプチド(K2R7、配列番号12および13)、アルギニン7個およびグリシン6個からなるペプチド(R7G6、配列番号14および15)等が挙げられる。これらの細胞膜通過ペプチドを連結するとき、FNKタンパク質のアミノ酸配列の第1番目のメチオニンは残しておいてもよいし、除去してもよい。
また、細胞膜通過ペプチドとして、HIV−1・TATの細胞膜通過ドメイン(protein transduction domain)YGRKKRRQRRR(配列番号16および17)やショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディアの細胞膜通過ドメインRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号18)が挙げられる。その他、VP22のC末端(267−300)ペプチドDAATATRGRSAASRPRERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号19)、HIV−1/Rev(34−50)ペプチドTRQARRNRRRRWRERQR(配列番号20)、FHV/coat(35−49)ペプチドRRRRNRTRRNRRRVR(配列番号21)、K−FGFのN末端(7−22)の疎水性領域AAVALLPAVLLALLAP(配列番号22)等が挙げられる。
また、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドの間にスペーサー配列を有していてもよい。スペーサー配列はアミノ酸数個からなりその配列には限定はないが、例えば、1個から5個、好ましくは1個から3個、さらに好ましくは1個のグリシンが挙げられる。
これらの細胞膜通過ペプチドは、それぞれの細胞膜通過ペプチドをコードするDNAをFNKをコードするDNAと連結して融合DNAを作製し、この融合DNAを遺伝子工学の手法により大腸菌等の宿主細胞で発現させることによって、N末端側に細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。あるいはまた、2価の架橋剤(例えば、EDCやβ−アラニン等を介して、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドを結合させる方法によって細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。
細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質として、ヒトFNKタンパク質にK2R7ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号23に、アミノ酸配列を配列番号24に示す)、ヒトFNKタンパク質にR7G6ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26に示す)、ヒトFNKタンパク質にR9ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号27に、アミノ酸配列を配列番号28に示す)、ヒトFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30に示す)およびラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号31に、アミノ酸配列を配列番号32に示す)等が挙げられる。
さらに、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤は、上記FNKタンパク質をコードするDNA、RNA等の核酸を含む予防または治療剤を含む。この場合、FNKタンパク質は上記のすべての変異を有するFNKタンパク質が包含される。
さらに、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤は、FNKタンパク質をコードする核酸の5’側に上記の細胞膜通過ペプチド(PTD)をコードする核酸を連結させた核酸を含む予防または治療剤を含む。該核酸は、上記のFNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結しているタンパク質をコードする核酸である。
これらのFNKタンパク質をコードする核酸およびFNKタンパク質に細胞膜通過ペプチドを連結させたタンパク質をコードする核酸は、本明細書に記載のBcl−xLをコードするDNAもしくはFNKタンパク質をコードするDNA、ならびに細胞膜通過ペプチドのアミノ酸配列から推定される塩基配列を基に得ることができる。例えば、特開2001−120281号公報には、ラット由来のFNKタンパク質をコードするDNAについて記載されており、該公報の記載に従って本発明のFNKタンパク質を得ることができる。例えば、配列番号1にヒト由来のFNKタンパク質をコードするDNA、配列番号2にラット由来のFNKタンパク質をコードするDNAが記載されている。本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤が含むDNAの一例として、配列番号1もしくは2に表されるDNAまたは該DNAに相補的なDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。また、配列番号1もしくは2に表されるDNAに細胞膜通過ペプチドが連結したDNAまたは該DNAに相補的なDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。ここで、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAの一例として、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt’s)溶液、100μg/ml サケ精子 DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAが挙げられる。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質は、上記の細胞膜通過ペプチドを連結させる他に種々の方法で細胞に導入することができる。例えば、目的タンパク質と非共有結合的相互作用によって複合体を形成し細胞内に導入するペプチド性キャリアー、例えばChariot(ActiveMotif社,カルフォルニア,USA)を用いることができる。また、本発明のFNKタンパク質にポリアミノ基を結合させてもよい。また、リポソームに本発明のFNKタンパク質を封入し、被治療動物に投与してもよい。この場合、リポソーム表面に糖鎖を結合させることにより、目的の細胞に導入することができる。さらに、公知の非ウイルスベクター、例えばセンダイウイルスの細胞融合活性を担う膜成分(エンベロープタンパク質)の活性を残したままウイルスの複製能を完全に不活化した HVJ−Eベクター(石原産業株式社)を用いて導入することができる。その他、種々の公知のドラッグデリバリーシステムを用いてもよい。
本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤に用いるFNKタンパク質をコードする核酸およびFNKタンパク質をコードする核酸に細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸は以下の方法により細胞に導入することができ、細胞内で発現させ、遺伝子治療を行うことができる。
核酸を有効成分とする遺伝子治療剤を患者に投与する場合、細胞への遺伝子導入法としては、リポフェクション法、遺伝子銃法、リン酸−カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などが挙げられる。また、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターを用いることができる。その調製法、投与法は例えば、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999等に記載されている。
非ウイルスベクターを用いる場合は、公知の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、目的核酸を細胞に導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ−リポソーム法、改良型HVJ−リポソーム法(HVJ−AVE リポソーム法)、HVJ−E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked−DNAの直接導入法、正電荷ポリマーによる導入法等により、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。このうちHVJ−リポソームは、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan:HVJ)とを融合させたものである。HVJ−リポソームの調製法については文献(実験医学別冊、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;J.Clin.Invest.93,1458−1464(1994);Am.J.Physiol.,271,R1212−1220(1996))などの記載に従えばよい。HVJリポソーム法とは、例えばMolecular Medicine,30,1440−1448(1993);実験医学,1,1822−1826(1994);蛋白質・核酸・酵素,42,1806−1813(1997)等に記載の方法であり、好ましくはCirculation,92(Suppl.II),479−482(1995)に記載の方法が挙げられる。HVJ−E(エンベロープ)ベクターは、外来遺伝子を不活化したセンダイウイルスエンベロープに導入したものであり、WO01/57204号国際公開公報の記載に従い調製することが可能である。用いる発現ベクターは、生体内で目的核酸を発現させることのできるベクターであればいかなるものも用い得るが、例えばpCAGGS(Gene 108,193−200(1991))や、pBK−CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。
ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクター等を用いることができる。具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することができる。遺伝子治療剤の患者への導入は、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法によってもよいし、ヒトから細胞を取り出して体外で遺伝子治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法によってもよい。
細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸の場合、該核酸を導入した細胞を体内に戻した場合、細胞内で発現されたタンパク質は細胞膜通過ペプチドにより、細胞外へ分泌され、さらに他の細胞に入っていく。また、細胞膜通過ペプチドをコードする核酸を連結させた核酸を導入した細胞を、タンパク質は通過させるが、細胞は通過させないカプセルに入れて、被治療動物に投与または埋め込むこともできる。この場合、カプセル中でPTD−FNKが発現産生されカプセルから外に出て、体内に供給され、FNKの治療効果を発揮する。FNKによる治療が必要なくなった場合、前記カプセルを体内から取り出すことにより、FNKの過剰投与を防ぐことができる。タンパク質を通過させるが、細胞は通過させないカプセルとしては、多孔性の樹脂製カプセルを用いることができる。
本発明のFNKタンパク質もしくはPTDを連結したFNKタンパク質またはそれらをコードする核酸を含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤が対象とする副作用として、X線照射による副作用、抗癌剤投与による副作用が含まれる。本発明において抗癌治療の細胞毒性とは、抗癌治療に用いる放射線や化学物質が正常細胞に障害を与えることをいい、障害の種類として細胞死、増殖能、DNA合成能を含む細胞の各種機能の低下がある。抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用として、白血球減少、血小板減少、赤血球減少等の骨髄抑制あるいは脾臓障害を含む造血組織障害、腸管粘膜障害等の消化器障害、心膜炎、心筋炎症候群等の心臓障害(心毒性)、間質性肺炎、肺線維症等の肺障害(肺毒性)、尿細管障害、出血性膀胱炎等の腎臓障害(腎毒性)、末梢神経障害、中枢神経障害等の神経障害(神経毒性)、口内炎等の口腔粘膜障害、脱毛、聴力障害、皮膚障害等が挙げられる。X線照射による副作用としては特に、口腔粘膜を含む消化管粘膜の障害などの消化器障害が挙げられる。本発明において、消化管粘膜障害とは、口腔から肛門に至る消化管の粘膜の障害をいい、腸管粘膜障害や口腔粘膜障害等を含む。本発明の予防または治療剤が対象とする副作用をもたらす抗癌剤は、限定されず、抗癌剤の細胞毒性に基づく副作用のすべてが治療または予防対象となりえる。本発明が対象とする抗癌剤として、ニトロソウレア剤、窒素マスタード(サイクロフォスファミド等)、ダカルバジン、カルムスチン(BCNU)、ブスルファン、イフォスファミド、塩酸ニムスチン、ロムスチン(CCNU)、ラニムスチン(MCNU)等のアルキル化剤;メトトレキセート、アミノプテリン、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、カルモフール、シタラビン、ヒドロキシカルバミド、ゲムシタビン等の代謝拮抗剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、CPT−11(イリノテカン)、エトポシド等の植物アルカロイド剤;ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、クロモマイシン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ドノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC等の抗癌抗生物質;ホルモン剤;レンチナン、ピシバニール、ベスタチン等の生物機能修飾物質;プロカルバジン;シスプラチン;カルボプラチンなどが例として挙げられる。
骨髄抑制は、上記のほとんどの抗癌剤治療の際の副作用であり、消化器障害は、特にシスプラチン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、窒素マスタード、サイクロフォスファミド、5−フルオロウラシル、CPT−11(イリノテカン)等の副作用であり、心毒性は特に、アドリアマイシン、ダウノマイシン、サイクロフォスファミド、シスプラチン、5−フルオロウラシル等の副作用であり、肺毒性は特にブレオマイシン、カルムスチン、マイトマイシンD、ブスルファン、メトトレキセート、プロカルバジン、サイクロフォスファミド等の副作用である。さらに、腎毒性は特にシスプラチン、マイトマイシンC、メトトレキセート、サイクロフォスファミド、イフォスファミド等の副作用であり、神経毒性は特にビンクリスチン等の植物アルカロイド剤、シスプラチン、メトトレキセート、カルモフール等の副作用であり、口内炎は特にメトトレキセート、5−フルオロウラシル等の代謝拮抗剤、植物アルカロイド剤等の副作用であり、脱毛はすべての抗癌剤、特にアドリアマイシン、エトポシド等の副作用である。さらに、聴力障害は、シスプラチン等の抗癌剤やアミノグリコシド系抗生物質投与の副作用である。
本発明のFNKタンパク質は、正常組織の正常細胞にのみ取り込まれ、腫瘍組織のガン細胞には取り込まれず、抗癌剤の治療効果を損なうことなく、正常細胞の抗癌治療による副作用を予防し、または治療し得る。また、本発明のFNKタンパク質は骨髄中の細胞にも効率的に取りこまれ、骨髄抑制等の抗癌治療による副作用を予防し、または治療し得る。
本願発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、特に抗癌治療による副作用である聴力障害および抗癌治療による副作用である腸管粘膜障害や口内炎等の口腔粘膜障害を含む消化管粘膜障害の予防または治療に有効である。すなわち、本発明は抗癌剤投与等の抗癌治療による細胞死に基づく聴力障害または消化管粘膜障害の予防、治療剤を包含する。
聴力障害は、高音域に障害が現れ(高音障害型感音難聴)、抗癌剤投与を中止しても聴力は回復しない。このため、聴力障害は抗癌剤投与量を制限する要因になっている。抗癌剤投与量の増加に伴い聴力障害が出現しやすくなり、特に1日投与量で80mg/m2以上、総投与量で300mg/m2を超えると非常に出現しやすくなる。アミノグリコシド系抗生物質としては、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ハベカシン、カナマイシン、アミカシン、トブラマイシン、ミクロノマイシン、イセパシン、アルベカシン等が挙げられる。
シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質による内耳障害はアポトーシスが関与していると考えられており、アポトーシスが起きた時点での投与は障害の軽減には寄与しないと考えられる。従って、本発明の治療剤は、シスプラチンやアミノグリコシド系抗生物質投与から早期の内耳障害に効果がある。本願発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、特にシスプラチンによる障害に有効であり、本願発明はシスプラチン難聴の予防または治療剤を包含する。
本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、飴、トローチ、口腔内崩壊錠、口腔内粘膜への塗布若しくは添付剤などの口腔内に留まる剤形等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の注射または配薬を含む非経口投与を挙げることができる。抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、FNKまたはPTDを連結したFNKを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。FNKは、そのタンパク質精製過程で7M Urea、2% SDS、1mM DTTで処理していながら活性は保持しているので、一般的にタンパク質が変性すると予想されるような添加物、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アルコール等を使用することができる。また、必要に応じて、他の公知の成分、例えば、希釈剤、等張化剤、担体、pH安定剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤、安定化剤、溶解補助剤、粘度調整剤、香料等を加えてもよい。その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれる。一般的には1ng〜5mg/1kg体重の範囲で投与されることが望ましい。この1回投与量を1日1回あるいは数回に分けて投与する。
なお、本発明の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の投与は、予防のために抗癌剤の投与等の抗癌治療の前、同時、後のいつでもよい。特に、抗癌治療数時間後、1日後および2日後の3回投与するのが望ましい。また、抗癌治療により出現した細胞毒性に基づく副作用の治療にも用いることができる。すなわち、本発明は抗癌剤投与等の抗癌治療後に初回投与し、その後2日間にわたって1日1回投与されることを特徴とする抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤を包含する。
FNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質をコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤も上記のFNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤と同様の形態で投与することができる。遺伝子治療を行う場合の核酸の有効用量はin vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれるが、一般的には核酸として約1μg〜約50mgの範囲、好ましくは約10μg〜約5mg、より好ましくは約50μg〜約5mgの範囲である。投与回数等は、FNKタンパク質またはPTDを連結したFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤と同様である。
また、本発明の聴力障害予防剤または治療剤により抗癌剤投与による聴力障害を改善することができる。すなわち、本発明の聴力障害予防剤または治療剤は、抗癌剤投与により障害を受けた聴力の改善剤でもある。
本発明は、FNKもしくはPTDを連結したFNKまたはそれらをコードする核酸を投与して、抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用を治療または予防する方法を包含する。本発明は、さらに抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防剤または治療剤の製造のためのFNKもしくはPTDを連結したFNKまたはそれらをコードする核酸の使用をも包含する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
抗癌剤投与による聴力障害の予防
シスプラチン(CDDP)による内耳障害モデル
以下の検討において、ラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたタンパク質(DNA配列を配列番号31にアミノ酸配列を配列番号32に示す)を大腸菌で発現させ精製し、PTD−FNKとして用いた。この発現及び精製に関しては、既に報告されている方法を用いて行った(Asoh,S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99,17107−17112.(2002))。
マウス(C57BL/6Cr系、4週齢、メス)をシスプラチン投与群(n=20)、シスプラチン単回+PTD−FNK(2.5mg/kg,1.25mg/kg)3回投与群(それぞれn=5)、およびシスプラチン+Vehicle(25mM Tris/0.2M glycinee/0.1% SDS)投与群に分け実験を行った。シスプラチン(ブリストル・マイヤーズ株式会社、東京)は17mg/kg腹腔内投与した。シスプラチン単回+PTD−FNK(2.5mg/kg,1.25mg/kg)3回投与群ではシスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後にPTD−FNK(2.5,1.25mg/kg)を皮下に投与した。各群で投与前および7日後にケタラール(筋肉注射)で麻酔し、聴性脳幹反応(ABR)検査をBio−Logic System Corp.社(Mundekein,IL,USA)のTraveler Expressを用いて防音室内で行った。両耳後部および頭頂部に針電極を挿入した。音刺激はクリックを用い、音圧(dBSPL)を100dBSPLより5dBステップで減少させた。信号を200回加算し、再現性の得られる最小音圧を聴力閾値とした。聴力閾値が30dB以下のマウスを実験に使用した。
1週間後の生存率はシスプラチン投与群(図2,CDDP)、およびシスプラチン+Vehicle投与群(図2,VEH)で40%であったのに対し、シスプラチン単回+PTD−FNK3回投与群(図2,FNK 2.5mg/kg,FNK 1.25mg/kg))では100%であった。表1は、PTD−FNK投与によるシスプラチン誘導聴力障害の軽減効果を示す表である。CDDPはシスプラチンのみを投与した場合、およびVEHはシスプラチンおよびVehicle(3回投与)を投与した場合の結果を示す。FNK 2.5mg/kgは、シスプラチンおよびPTD−FNK(2.5mg/kgを3回投与)を投与した場合、FNK 1.25mg/kgは、シスプラチンおよびPTD−FNK(1.25mg/kgを3回投与)を投与した場合の結果を示す。値は聴力レベル(dB)を平均値で表し、その標準偏差を+/−で示した。( )内のnは調べたマウスの個体数を示す。生き残ったマウスについて、シスプラチン投与群では1週間後聴力の有意な閾値上昇を認めた(n=8,unpaired t test,p<0.01,vs.CDDP投与前、FNK 2.5mg/kgと1.25mg/kgの投与1週間後)(表1、CDDP)。シスプラチン+Vehicle投与群(n=2)でも聴力閾値の上昇を認めた(表1,VEH)。シスプラチン+PTD−FNK 3回投与群では、いずれも聴力に変化は認められなかった(表1,FNK 2.5mg/kgおよびFNK 1.25mg/kg))。
シスプラチン(CDDP)による内耳障害モデル
以下の検討において、ラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたタンパク質(DNA配列を配列番号31にアミノ酸配列を配列番号32に示す)を大腸菌で発現させ精製し、PTD−FNKとして用いた。この発現及び精製に関しては、既に報告されている方法を用いて行った(Asoh,S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99,17107−17112.(2002))。
マウス(C57BL/6Cr系、4週齢、メス)をシスプラチン投与群(n=20)、シスプラチン単回+PTD−FNK(2.5mg/kg,1.25mg/kg)3回投与群(それぞれn=5)、およびシスプラチン+Vehicle(25mM Tris/0.2M glycinee/0.1% SDS)投与群に分け実験を行った。シスプラチン(ブリストル・マイヤーズ株式会社、東京)は17mg/kg腹腔内投与した。シスプラチン単回+PTD−FNK(2.5mg/kg,1.25mg/kg)3回投与群ではシスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後にPTD−FNK(2.5,1.25mg/kg)を皮下に投与した。各群で投与前および7日後にケタラール(筋肉注射)で麻酔し、聴性脳幹反応(ABR)検査をBio−Logic System Corp.社(Mundekein,IL,USA)のTraveler Expressを用いて防音室内で行った。両耳後部および頭頂部に針電極を挿入した。音刺激はクリックを用い、音圧(dBSPL)を100dBSPLより5dBステップで減少させた。信号を200回加算し、再現性の得られる最小音圧を聴力閾値とした。聴力閾値が30dB以下のマウスを実験に使用した。
1週間後の生存率はシスプラチン投与群(図2,CDDP)、およびシスプラチン+Vehicle投与群(図2,VEH)で40%であったのに対し、シスプラチン単回+PTD−FNK3回投与群(図2,FNK 2.5mg/kg,FNK 1.25mg/kg))では100%であった。表1は、PTD−FNK投与によるシスプラチン誘導聴力障害の軽減効果を示す表である。CDDPはシスプラチンのみを投与した場合、およびVEHはシスプラチンおよびVehicle(3回投与)を投与した場合の結果を示す。FNK 2.5mg/kgは、シスプラチンおよびPTD−FNK(2.5mg/kgを3回投与)を投与した場合、FNK 1.25mg/kgは、シスプラチンおよびPTD−FNK(1.25mg/kgを3回投与)を投与した場合の結果を示す。値は聴力レベル(dB)を平均値で表し、その標準偏差を+/−で示した。( )内のnは調べたマウスの個体数を示す。生き残ったマウスについて、シスプラチン投与群では1週間後聴力の有意な閾値上昇を認めた(n=8,unpaired t test,p<0.01,vs.CDDP投与前、FNK 2.5mg/kgと1.25mg/kgの投与1週間後)(表1、CDDP)。シスプラチン+Vehicle投与群(n=2)でも聴力閾値の上昇を認めた(表1,VEH)。シスプラチン+PTD−FNK 3回投与群では、いずれも聴力に変化は認められなかった(表1,FNK 2.5mg/kgおよびFNK 1.25mg/kg))。
担癌マウスを用いた、シスプラチン(CDDP)の抗癌剤活性にたいするPTD−FNK投与の影響の検討
ヒト肺上皮ガン細胞A549(1x107cells)をヌードマウスBALB/c−nu/nu Slc(メス、8週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍の大きさ(体積)は麻酔下(ネンブタール)に精密ノギスで長径と短径を測定し、常法に従い(長径)×(短径)2÷2の計算式で求めた。100〜200mm3の大きさの腫瘍を持つ担癌マウスにPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)あるいはvehicle(25mM Tris/0.2M glycine/0.1%SDS,140μl)を皮下注射した。3時間後、シスプラチン(CDDP;1.5mg/kg,25mg/ml濃度のシスプラチン注射液60μlに生理食塩水0.5mlを加えた。参考文献:Sirotnak FM,et al.Clinical Cancer Research 6,4885−4892(2000)の実験条件)を腹腔内に注射した(Day0)。CDDPの腫瘍体積縮小効果を判定するために、vehicle皮下投与した担癌マウスに生理食塩水(0.5ml)だけを腹腔内に投与した。CDDP投与後、1日目、2日目と連続してPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)あるいはvehicle(140μl)をそれぞれ皮下注射した。3日目(Day3)と7日目(Day7)に腫瘍の大きさを測定した。シスプラチン投与時(Day 0)の腫瘍体積を100%として、腫瘍体積の増加率として図3Aに示した。図3Bは、マウスの試験数(n)を増やしたものである。
なお、用いたFNKタンパク質は実施例1と同様であった。
CDDPを投与しないと、腫瘍体積は2倍(Day3)、3倍(Day7)に増加し、vehicleには腫瘍体積縮小効果がないことが判った。(コントロールのマウスのうち一匹がDay3の麻酔で死亡してしまったため、Day7については2匹のデータである)
CDDP投与群では、PTD−FNK投与してもvehicle投与と同じで、Day3で増加率0,Day7で1.5倍となり、CDDPの腫瘍体積縮小効果にPTD−FNKは影響を与えなかった。CDDP投与群と非投与群では統計的有意差(ANOVAによる解析で、Day3もDay7もp<0.005)があり、CDDP投与群の中で、FNK投与群と非投与群との間には統計的有意差はなかった。
すなわち、PTD‐FNKは担癌マウスに投与しても、抗癌剤の効果は抑制せず、抗癌剤による聴力障害を抑制することが確認できた。
参考例 担癌マウスを用いた、イリノテカンと5−フルオロウラシルの抗癌活性に対するPTD−FNK投与の影響の検討
ヒト大腸癌細胞HT29(5×106cells)をヌードマウスBALB/c−nu/nu Slc(メス、5週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍の大きさ(体積)は麻酔下(ネンブタール)に精密ノギスで長径と短径を測定し、常法に従い(長径)×(短径)2÷2の計算式で求めた。100mm3以上の大きさの腫瘍を持つ担癌マウスにPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)、あるいはvehicle(25mM Tris/0.2Mglycine/0.1%SDS,140μl)を皮下注射した(Day 0)。3時間後、CPT−11投与群では塩酸イリノテカン(CPT−11;トポテシン注、第一製薬株式会社)を30mg/kgの投与量で腹腔内に注射し、5−FU投与群では5−フルオロウラシル(5−FU,シグマCat.# F6627−10G,投与量30mg/kg)とleucovorin(Folinic acid,シグマCat.# F−7878,投与量50mg/kg)の混合液を腹腔内に注射した。CPT−11および5−FUの腫瘍体積縮小効果を判定するために、vehicle投与した担癌マウスに生理食塩水(大塚薬品)を腹腔内に注射した。Day 3,7,10にDay0と同様に、PTD−FNKあるはvehicleを投与し、3時間後にCPT−11あるいは5−FU混合液を投与した。腫瘍体積はDay 7とDay 14に測定したが、Day 7では各種薬剤を投与する前に測定した。Day 0の腫瘍体積を100%として、腫瘍体積の増加率を図4Bに示した。
結果を図4に示す。CPT−11あるいは5−FUを投与しないと腫瘍体積は2.5倍(Day 7)、4倍(Day 10)に増加した。CPT−11あるいは5−FUを投与することで腫瘍体積の増加は半分以下に抑えられ、PTD−FNKを投与してもこの抗癌剤の腫瘍体積縮小効果は抑制されなかった。図4にはANOVA解析による統計的有意差の群を示した(*,P<0.01;**,P<0.001)。また、矢印で示したマウスは一回目の腫瘍体積測定中に死亡したマウスである。
ヒト肺上皮ガン細胞A549(1x107cells)をヌードマウスBALB/c−nu/nu Slc(メス、8週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍の大きさ(体積)は麻酔下(ネンブタール)に精密ノギスで長径と短径を測定し、常法に従い(長径)×(短径)2÷2の計算式で求めた。100〜200mm3の大きさの腫瘍を持つ担癌マウスにPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)あるいはvehicle(25mM Tris/0.2M glycine/0.1%SDS,140μl)を皮下注射した。3時間後、シスプラチン(CDDP;1.5mg/kg,25mg/ml濃度のシスプラチン注射液60μlに生理食塩水0.5mlを加えた。参考文献:Sirotnak FM,et al.Clinical Cancer Research 6,4885−4892(2000)の実験条件)を腹腔内に注射した(Day0)。CDDPの腫瘍体積縮小効果を判定するために、vehicle皮下投与した担癌マウスに生理食塩水(0.5ml)だけを腹腔内に投与した。CDDP投与後、1日目、2日目と連続してPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)あるいはvehicle(140μl)をそれぞれ皮下注射した。3日目(Day3)と7日目(Day7)に腫瘍の大きさを測定した。シスプラチン投与時(Day 0)の腫瘍体積を100%として、腫瘍体積の増加率として図3Aに示した。図3Bは、マウスの試験数(n)を増やしたものである。
なお、用いたFNKタンパク質は実施例1と同様であった。
CDDPを投与しないと、腫瘍体積は2倍(Day3)、3倍(Day7)に増加し、vehicleには腫瘍体積縮小効果がないことが判った。(コントロールのマウスのうち一匹がDay3の麻酔で死亡してしまったため、Day7については2匹のデータである)
CDDP投与群では、PTD−FNK投与してもvehicle投与と同じで、Day3で増加率0,Day7で1.5倍となり、CDDPの腫瘍体積縮小効果にPTD−FNKは影響を与えなかった。CDDP投与群と非投与群では統計的有意差(ANOVAによる解析で、Day3もDay7もp<0.005)があり、CDDP投与群の中で、FNK投与群と非投与群との間には統計的有意差はなかった。
すなわち、PTD‐FNKは担癌マウスに投与しても、抗癌剤の効果は抑制せず、抗癌剤による聴力障害を抑制することが確認できた。
参考例 担癌マウスを用いた、イリノテカンと5−フルオロウラシルの抗癌活性に対するPTD−FNK投与の影響の検討
ヒト大腸癌細胞HT29(5×106cells)をヌードマウスBALB/c−nu/nu Slc(メス、5週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍の大きさ(体積)は麻酔下(ネンブタール)に精密ノギスで長径と短径を測定し、常法に従い(長径)×(短径)2÷2の計算式で求めた。100mm3以上の大きさの腫瘍を持つ担癌マウスにPTD−FNK(1.25mg/kg,140μl)、あるいはvehicle(25mM Tris/0.2Mglycine/0.1%SDS,140μl)を皮下注射した(Day 0)。3時間後、CPT−11投与群では塩酸イリノテカン(CPT−11;トポテシン注、第一製薬株式会社)を30mg/kgの投与量で腹腔内に注射し、5−FU投与群では5−フルオロウラシル(5−FU,シグマCat.# F6627−10G,投与量30mg/kg)とleucovorin(Folinic acid,シグマCat.# F−7878,投与量50mg/kg)の混合液を腹腔内に注射した。CPT−11および5−FUの腫瘍体積縮小効果を判定するために、vehicle投与した担癌マウスに生理食塩水(大塚薬品)を腹腔内に注射した。Day 3,7,10にDay0と同様に、PTD−FNKあるはvehicleを投与し、3時間後にCPT−11あるいは5−FU混合液を投与した。腫瘍体積はDay 7とDay 14に測定したが、Day 7では各種薬剤を投与する前に測定した。Day 0の腫瘍体積を100%として、腫瘍体積の増加率を図4Bに示した。
結果を図4に示す。CPT−11あるいは5−FUを投与しないと腫瘍体積は2.5倍(Day 7)、4倍(Day 10)に増加した。CPT−11あるいは5−FUを投与することで腫瘍体積の増加は半分以下に抑えられ、PTD−FNKを投与してもこの抗癌剤の腫瘍体積縮小効果は抑制されなかった。図4にはANOVA解析による統計的有意差の群を示した(*,P<0.01;**,P<0.001)。また、矢印で示したマウスは一回目の腫瘍体積測定中に死亡したマウスである。
X線照射による消化管粘膜障害に対するPTD−FNKの軽減効果
マウス(C57BL/6 N,7週齢、雄)にPTD−FNK(5mg/kg)を腹腔内に投与した(n=3)。対照として同じ容量の溶媒(25mM Tris/0.2M グリシン/0.1%SDS:Vehicle)を腹腔内に投与した(n=4)。3時間後にこれらのマウスを一つの紙箱(W210mm,D175mm,H35mm)に入れ、X線外部照射用LINAC(直線加速器)EXL−6SP(三菱電機株式会社)で20GyのX線を照射した。マウスを飼育ケージ内にもどし、毎日PTD−FNK(5mg/kg)あるいは溶媒を皮下に注入した。X線照射後5日目に、マウスから腸を摘出し、4%パラホルムアルデヒド/0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)に浸漬して固定した。パラフィン切片作製後、ヘマトキシリン・エオシン染色で小腸(空腸)粘膜組織を病理組織学的に評価した。
結果を図5に示す。図5Aは、PTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図5Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。
対照群では、X線照射に伴う腸粘膜(腸絨毛)構造の破壊が顕著であり、粘膜固有層に位置する多数の毛細血管の拡張そして鬱血が認められた。PTD−FNK投与群では、対照群に比べて腸粘膜(腸絨毛)構造が維持され、粘膜固有層に位置する毛細血管の拡張そして鬱血が認められず、明らかにX線照射に伴う腸粘膜傷害を軽減した。
マウス(C57BL/6 N,7週齢、雄)にPTD−FNK(5mg/kg)を腹腔内に投与した(n=3)。対照として同じ容量の溶媒(25mM Tris/0.2M グリシン/0.1%SDS:Vehicle)を腹腔内に投与した(n=4)。3時間後にこれらのマウスを一つの紙箱(W210mm,D175mm,H35mm)に入れ、X線外部照射用LINAC(直線加速器)EXL−6SP(三菱電機株式会社)で20GyのX線を照射した。マウスを飼育ケージ内にもどし、毎日PTD−FNK(5mg/kg)あるいは溶媒を皮下に注入した。X線照射後5日目に、マウスから腸を摘出し、4%パラホルムアルデヒド/0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)に浸漬して固定した。パラフィン切片作製後、ヘマトキシリン・エオシン染色で小腸(空腸)粘膜組織を病理組織学的に評価した。
結果を図5に示す。図5Aは、PTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図5Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。
対照群では、X線照射に伴う腸粘膜(腸絨毛)構造の破壊が顕著であり、粘膜固有層に位置する多数の毛細血管の拡張そして鬱血が認められた。PTD−FNK投与群では、対照群に比べて腸粘膜(腸絨毛)構造が維持され、粘膜固有層に位置する毛細血管の拡張そして鬱血が認められず、明らかにX線照射に伴う腸粘膜傷害を軽減した。
5−FU投与による消化管粘膜障害の軽減
5−フルオロウラシル(5−FU)は骨髄などの造血組織および消化管に顕著な毒性を発揮する。5−FUの大量投与による消化管毒性は小腸粘膜を破壊し、高度な下痢を引き起こす(参考文献:Zhao,J.et al.Clinical Cancer Research 10,2851−2859(2004))。また、ヒトとは違いマウスでは脾臓は造血組織のひとつである。5−FUによる小腸と脾臓に対する副作用(毒性)のPTD−FNKによる軽減効果を検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)を皮下に注射した(Day0)。対照(コントロール)マウスには実施例3と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後に5−FU 200mg/kgをPTD−FNK投与群及び対照群のマウスの皮下に注入した。5−FU注射液は5−FU(Sigma Cat.No.F6627−10G)を生理食塩水(大塚製薬 大塚生食注)で溶解し、10mg/mlになるように調製した。翌日(Day1)及び翌々日(Day2)、Day0と同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれのマウスに皮下注し、3時間後に5−FUを皮下注し、連続2日投与群(n=3)と連続3日投与群(n=3)のマウスを作製した。5−FUの最後の投与から2日後にマウスを灌流固定し、脾臓ならびに小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色し、病理組織学的に評価した。
また、3日間連続投与群に関しては、5−FU最終投与の翌日(Day 3;各群マウス数n=3)および翌々日(Day 4;各群マウス数n=3)にマウスを灌流固定し、小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色した。デジタルカメラで低倍率(対物10倍)で染色像のimageを各マウス(各切片)につき3枚とり、各群合計9枚のimage像の粘膜の厚さ(粘膜筋板から腸絨毛先端までの長さ)を解析した。140から158個の絨毛について計測し、その平均値と標準偏差値を図に示した。図6では5−FUもPTD−FNKあるいはVehicleも投与していない正常マウスの小腸(空腸)(調べた絨毛数113)についての解析結果も合わせて示した。
結果を図6に示す。図6に示すように、FNK投与で粘膜構造の破壊による粘膜の厚さの減少が抑制された。
図7にPTD−FNK/5−FUの腸管への影響を示す(ヘマトキシリン&エオシン染色像)。図7AおよびBは、2日連続投与した場合であり、図7AはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図7Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。また、図7CおよびDは、3日連続投与した場合であり、図7CはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図7Dは非投与マウスの腸粘膜を示す。
PTD−FNK非投与群(対照群)では、小腸の粘膜上皮の丈が非常に短縮し、結果として粘膜固有層が萎縮している。また、粘膜上皮細胞と腸腺の変性破壊が見られる。さらに平滑筋層では、非常に多数の空胞形性が観察されるが、いずれの症状もPTD−FNK投与によって、改善が認められる。
図8にPTD−FNK/5−FUの脾臓への影響を示す。図8AおよびBは、2日連続投与した場合であり、図8AはPTD−FNKを投与したマウスの脾臓を示し、図8Bは非投与マウスの脾臓を示す。また、図8CおよびDは、3日連続投与した場合であり、図8CはPTD−FNKを投与したマウスの脾臓を示し、図8Dは非投与マウスの脾臓を示す。
何れの群でも脾臓自体の大きさの顕著な萎縮が見られる。特に白脾髄は染色性が失われ、著しい縮小が観察される。これはリンパ球形成の低下が原因と考えられる。同一倍率で撮影しているため3日間連続投与の写真をみるとその変化は明らかである。
これに対して、PTD−FNK投与群では脾臓自体の大きさの萎縮はVehicle投与群と顕著な差は認められなかったが、白脾髄の染色性が維持され、その縮小が抑制されているのが確認できる。
5−フルオロウラシル(5−FU)は骨髄などの造血組織および消化管に顕著な毒性を発揮する。5−FUの大量投与による消化管毒性は小腸粘膜を破壊し、高度な下痢を引き起こす(参考文献:Zhao,J.et al.Clinical Cancer Research 10,2851−2859(2004))。また、ヒトとは違いマウスでは脾臓は造血組織のひとつである。5−FUによる小腸と脾臓に対する副作用(毒性)のPTD−FNKによる軽減効果を検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)を皮下に注射した(Day0)。対照(コントロール)マウスには実施例3と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後に5−FU 200mg/kgをPTD−FNK投与群及び対照群のマウスの皮下に注入した。5−FU注射液は5−FU(Sigma Cat.No.F6627−10G)を生理食塩水(大塚製薬 大塚生食注)で溶解し、10mg/mlになるように調製した。翌日(Day1)及び翌々日(Day2)、Day0と同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれのマウスに皮下注し、3時間後に5−FUを皮下注し、連続2日投与群(n=3)と連続3日投与群(n=3)のマウスを作製した。5−FUの最後の投与から2日後にマウスを灌流固定し、脾臓ならびに小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色し、病理組織学的に評価した。
また、3日間連続投与群に関しては、5−FU最終投与の翌日(Day 3;各群マウス数n=3)および翌々日(Day 4;各群マウス数n=3)にマウスを灌流固定し、小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色した。デジタルカメラで低倍率(対物10倍)で染色像のimageを各マウス(各切片)につき3枚とり、各群合計9枚のimage像の粘膜の厚さ(粘膜筋板から腸絨毛先端までの長さ)を解析した。140から158個の絨毛について計測し、その平均値と標準偏差値を図に示した。図6では5−FUもPTD−FNKあるいはVehicleも投与していない正常マウスの小腸(空腸)(調べた絨毛数113)についての解析結果も合わせて示した。
結果を図6に示す。図6に示すように、FNK投与で粘膜構造の破壊による粘膜の厚さの減少が抑制された。
図7にPTD−FNK/5−FUの腸管への影響を示す(ヘマトキシリン&エオシン染色像)。図7AおよびBは、2日連続投与した場合であり、図7AはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図7Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。また、図7CおよびDは、3日連続投与した場合であり、図7CはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図7Dは非投与マウスの腸粘膜を示す。
PTD−FNK非投与群(対照群)では、小腸の粘膜上皮の丈が非常に短縮し、結果として粘膜固有層が萎縮している。また、粘膜上皮細胞と腸腺の変性破壊が見られる。さらに平滑筋層では、非常に多数の空胞形性が観察されるが、いずれの症状もPTD−FNK投与によって、改善が認められる。
図8にPTD−FNK/5−FUの脾臓への影響を示す。図8AおよびBは、2日連続投与した場合であり、図8AはPTD−FNKを投与したマウスの脾臓を示し、図8Bは非投与マウスの脾臓を示す。また、図8CおよびDは、3日連続投与した場合であり、図8CはPTD−FNKを投与したマウスの脾臓を示し、図8Dは非投与マウスの脾臓を示す。
何れの群でも脾臓自体の大きさの顕著な萎縮が見られる。特に白脾髄は染色性が失われ、著しい縮小が観察される。これはリンパ球形成の低下が原因と考えられる。同一倍率で撮影しているため3日間連続投与の写真をみるとその変化は明らかである。
これに対して、PTD−FNK投与群では脾臓自体の大きさの萎縮はVehicle投与群と顕著な差は認められなかったが、白脾髄の染色性が維持され、その縮小が抑制されているのが確認できる。
CPT−11投与による消化管粘膜障害の軽減
CPT−11(塩酸イリノテカン)は白血球(好中球)減少と消化管に顕著な毒性を発揮する。CPT−11は生体内でcarboxyl esteraseにより活性代謝体SN−38に変換され、DNA一本鎖の切断の過程におけるDNA−トポイソメラーゼI複合体に結合して、複合体の安定化をもたらす。その結果、細胞周期が妨げられ、細胞死が起きる。SN−38は肝臓でグルクロン酸抱合酵素によってグルクロン酸に抱合された形で胆汁中に排泄される。胆汁中に排泄されたSN−38/グルクロン酸抱合体は、腸内細菌叢の脱グルクロン酸抱合を受けてSN−38に再び変換され、腸管より再吸収される。この結果、SN−38が肝臓の解毒酵素CYP3A4やCYP3A5で活性のない誘導体に変換されない限り、SN−38は腸肝循環する。このSN−38の腸肝循環が遅発性の下痢(腸管粘膜障害)の原因のひとつと考えられている(典拠:市川 度、消化器セミナー,p32−34、田村和夫編、ヘルス出版)。CPT−11による遅発性下痢は致死的になるほどの激しいものである(参考文献:Zhao,J.et al.Clinical Cancer Research 10,2851−2859(2004))。CPT−11による小腸粘膜に対する副作用(毒性)に対するPTD−FNKの軽減効果を検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)(n=3)を皮下に注射した(Day0)。対照マウス(n=3)には、実施例3と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後にCPT−11(トポテシン注(塩酸イリノテカン注)第一製薬株式会社)200mg/kg)をPTD−FNK投与群及び対照投与群のマウスの腹腔内に注入した。翌日(Day1)及び翌々日(Day2),同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれのマウスに皮下注し、3時間後にCPT−11を腹腔内に注入した。Day3はPTD−FNKあるいはVehicleだけを皮下注した。Day5にマウスを灌流固定し、小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色し、病理組織学的に評価した。
その結果を図9に示す。図9AはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図9Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。
対照群では小腸の絨毛(粘膜上皮の丈)が非常に短縮し、各絨毛のおおくの粘膜上皮細胞が細胞質空胞変性して、至る所に細胞質空胞が形成されている。さらに、残存している粘膜上皮細胞の核は著しく核濃縮をおこしている。これに対して、PTD−FNK投与群では、絨毛はvehicle投与群と同じ程度に短縮しているが、粘膜上皮細胞に顕著な改善効果が認められた。具体的には、粘膜上皮細胞の空胞変性が著しく抑制され、粘膜構造が良く維持されている。
CPT−11(塩酸イリノテカン)は白血球(好中球)減少と消化管に顕著な毒性を発揮する。CPT−11は生体内でcarboxyl esteraseにより活性代謝体SN−38に変換され、DNA一本鎖の切断の過程におけるDNA−トポイソメラーゼI複合体に結合して、複合体の安定化をもたらす。その結果、細胞周期が妨げられ、細胞死が起きる。SN−38は肝臓でグルクロン酸抱合酵素によってグルクロン酸に抱合された形で胆汁中に排泄される。胆汁中に排泄されたSN−38/グルクロン酸抱合体は、腸内細菌叢の脱グルクロン酸抱合を受けてSN−38に再び変換され、腸管より再吸収される。この結果、SN−38が肝臓の解毒酵素CYP3A4やCYP3A5で活性のない誘導体に変換されない限り、SN−38は腸肝循環する。このSN−38の腸肝循環が遅発性の下痢(腸管粘膜障害)の原因のひとつと考えられている(典拠:市川 度、消化器セミナー,p32−34、田村和夫編、ヘルス出版)。CPT−11による遅発性下痢は致死的になるほどの激しいものである(参考文献:Zhao,J.et al.Clinical Cancer Research 10,2851−2859(2004))。CPT−11による小腸粘膜に対する副作用(毒性)に対するPTD−FNKの軽減効果を検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)(n=3)を皮下に注射した(Day0)。対照マウス(n=3)には、実施例3と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後にCPT−11(トポテシン注(塩酸イリノテカン注)第一製薬株式会社)200mg/kg)をPTD−FNK投与群及び対照投与群のマウスの腹腔内に注入した。翌日(Day1)及び翌々日(Day2),同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれのマウスに皮下注し、3時間後にCPT−11を腹腔内に注入した。Day3はPTD−FNKあるいはVehicleだけを皮下注した。Day5にマウスを灌流固定し、小腸(空腸)のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン&エオシン染色し、病理組織学的に評価した。
その結果を図9に示す。図9AはPTD−FNKを投与したマウスの腸粘膜を示し、図9Bは非投与マウスの腸粘膜を示す。
対照群では小腸の絨毛(粘膜上皮の丈)が非常に短縮し、各絨毛のおおくの粘膜上皮細胞が細胞質空胞変性して、至る所に細胞質空胞が形成されている。さらに、残存している粘膜上皮細胞の核は著しく核濃縮をおこしている。これに対して、PTD−FNK投与群では、絨毛はvehicle投与群と同じ程度に短縮しているが、粘膜上皮細胞に顕著な改善効果が認められた。具体的には、粘膜上皮細胞の空胞変性が著しく抑制され、粘膜構造が良く維持されている。
シスプラチン投与による腎毒性の軽減
シスプラチンの毒性は、腎毒性と聴覚障害に代表される神経障害である。腎障害は腎尿細管のCa2+代謝障害、重炭酸イオン等の塩類・グルコース・アミノ酸の能動輸送傷害、細胞内ミトコンドリアの呼吸増大などが原因とされている。
マウス(C57BL/6 Cr系、5週齢、メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg)(n=6)を皮下に投与した。実施例1と同じように対照として等量のvehicleを皮下に投与した(n=15)。3時間後にシスプラチン(ブリプラチン注、ブリストル・マイヤーズ株式会社)17mg/kg腹腔内投与した(Day0)。Day1、Day2にPTD−FNKとvehicleをそれぞれに皮下投与した。翌日(Day3)に生存したマウス(PTD−FNK投与群6匹(生存率100%)、対照群8匹(生存率53.3%)から血液を採取した後、灌流固定し、腎臓のパラフィン切片を作製した。ヘマトキシリン・エオシン染色して、腎臓組織を病理組織学的に評価した。採取した血液から血清を調製し、血清中に存在する尿素窒素(BUN)とクレアチニンをそれぞれ尿素窒素B−テストワコー(和光純薬工業株式会社)とクレアチニンーテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。測定方法はキットに添付されてきた説明書に従って、尿素窒素の測定では1/10のスケールに、クレアチニンの測定では1/50のスケールにそれぞれ使用する血清量と添加する試薬量を減じて行った。シスプラチン未投与の正常マウス(n=12)についても血清中に存在する尿素窒素(BUN)とクレアチニンを測定した。
図10にヘマトキシリン・エオシン染色組織像を示す。図10AはPTD−FNKを投与したマウスの腎臓を示し、図10Bは正常マウスの腎臓を示し、図10CはPTD−FNK非投与マウスの腎臓を示す。
シスプラチンの投与により、実施例1にも示したようにPTD−FNKでは生存率が100%であったにも関わらず、対照群では生存率が53.3%に過ぎなかった。更に、シスプラチンによる近位尿細管の機能低下で尿細管に硝子円柱が形成され、さらには多くの尿細管が変性壊死してその構造がこわれている。広範囲にわたり、近位尿細管および遠位尿細管の上皮細胞において、刷子縁の喪失、核濃縮、核喪失が起こり変性壊死していることが判る(図10C)。
これに対し、PTD−FNK投与群では、近位尿細管および遠位尿細管の上皮細胞の形態が保たれており、広範囲に渡って尿細管構造が良く維持されている。さらに、尿細管の硝子円柱の形成が著しく抑制されている(図10A)。
表2に血清中に存在する尿素窒素量とクレアチニン量の平均値と標準偏差を+/−で示した。( )内のnは測定したマウスの個体数を示す。
血清尿素窒素値と血清クレアチニン値はともに腎機能障害の生化学的指標である。腎機能が低下するとこれらの値が上昇する。PTD−FNKを投与しないシスプラチン投与群では血清尿素窒素値と血清クレアチニン値がともに正常値にくらべ著しく上昇したが、PTD−FNKの投与によってこれらの上昇が有意に抑制された(p<0.05,One−way ANOVA and Post hoc tests)。
以上のようにPTD−FNKはシスプラチンによる腎組織変性および腎機能障害を軽減した。
以上のように、PTD−FNKを投与することによって、X線、抗癌剤(5−FU、塩酸イリノテカン、シスプラチン)等によって、消化管粘膜への障害、腎毒性、脾臓への毒性なの各種の副作用が明らかに軽減されることがわかった。
シスプラチンの毒性は、腎毒性と聴覚障害に代表される神経障害である。腎障害は腎尿細管のCa2+代謝障害、重炭酸イオン等の塩類・グルコース・アミノ酸の能動輸送傷害、細胞内ミトコンドリアの呼吸増大などが原因とされている。
マウス(C57BL/6 Cr系、5週齢、メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg)(n=6)を皮下に投与した。実施例1と同じように対照として等量のvehicleを皮下に投与した(n=15)。3時間後にシスプラチン(ブリプラチン注、ブリストル・マイヤーズ株式会社)17mg/kg腹腔内投与した(Day0)。Day1、Day2にPTD−FNKとvehicleをそれぞれに皮下投与した。翌日(Day3)に生存したマウス(PTD−FNK投与群6匹(生存率100%)、対照群8匹(生存率53.3%)から血液を採取した後、灌流固定し、腎臓のパラフィン切片を作製した。ヘマトキシリン・エオシン染色して、腎臓組織を病理組織学的に評価した。採取した血液から血清を調製し、血清中に存在する尿素窒素(BUN)とクレアチニンをそれぞれ尿素窒素B−テストワコー(和光純薬工業株式会社)とクレアチニンーテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。測定方法はキットに添付されてきた説明書に従って、尿素窒素の測定では1/10のスケールに、クレアチニンの測定では1/50のスケールにそれぞれ使用する血清量と添加する試薬量を減じて行った。シスプラチン未投与の正常マウス(n=12)についても血清中に存在する尿素窒素(BUN)とクレアチニンを測定した。
図10にヘマトキシリン・エオシン染色組織像を示す。図10AはPTD−FNKを投与したマウスの腎臓を示し、図10Bは正常マウスの腎臓を示し、図10CはPTD−FNK非投与マウスの腎臓を示す。
シスプラチンの投与により、実施例1にも示したようにPTD−FNKでは生存率が100%であったにも関わらず、対照群では生存率が53.3%に過ぎなかった。更に、シスプラチンによる近位尿細管の機能低下で尿細管に硝子円柱が形成され、さらには多くの尿細管が変性壊死してその構造がこわれている。広範囲にわたり、近位尿細管および遠位尿細管の上皮細胞において、刷子縁の喪失、核濃縮、核喪失が起こり変性壊死していることが判る(図10C)。
これに対し、PTD−FNK投与群では、近位尿細管および遠位尿細管の上皮細胞の形態が保たれており、広範囲に渡って尿細管構造が良く維持されている。さらに、尿細管の硝子円柱の形成が著しく抑制されている(図10A)。
表2に血清中に存在する尿素窒素量とクレアチニン量の平均値と標準偏差を+/−で示した。( )内のnは測定したマウスの個体数を示す。
以上のようにPTD−FNKはシスプラチンによる腎組織変性および腎機能障害を軽減した。
以上のように、PTD−FNKを投与することによって、X線、抗癌剤(5−FU、塩酸イリノテカン、シスプラチン)等によって、消化管粘膜への障害、腎毒性、脾臓への毒性なの各種の副作用が明らかに軽減されることがわかった。
5−FuおよびCPT−11による小腸炎症傷害の生化学的定量(TNFαの定量)
抗癌剤の消化管毒性は小腸粘膜を破壊し、腸管の透過性の上昇、白血球の浸潤、および炎症性サイトカインの産生を引き起こす(Boushey RP et al.Cancer Research 61,687−693,2001)。PTD−FNK投与で5−FUおよびCPT−11による炎症性サイトカインTNFαの産生上昇を抑制できるのかをJingsong,Z.et al.(Clinical Cancer Reaseach 10,2851−2859,2004)の方法に従って検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)を皮下に注射した(Day 0)。対照(コントロール)マウスには実施例4および実施例5と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後に5−FU 200mg/kg(皮下注射)、あるいはCPT−11 200mg/kg(トポテシン注(塩酸イリノテカン注)第一製薬株式会社)(腹腔内注射)をPTD−FNK投与群及び対照群のマウスに注入した。5−FU注射液は5−FU(Sigma Cat.No.F6627−10G)を生理食塩水(大塚製薬 大塚生食注)で溶解し、10mg/mlになるように調製した。さらに、5−FUおよびCPT−11によるTNFαの産生上昇を確認するために、Vehicle投与したマウスに生理食塩水を同体積注射した生理食塩水投与群を用意した。翌日(Day 1)及び翌々日(Day2)に、Day 0と同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれマウスに皮下注し、3時間後に5−FU、CPT−11および生理食塩水を皮下注した。薬剤最終投与2日目のDay 4(各群n=3)に、マウスを痲酔下に解剖し、PBS(phosphate−buffered saline;NaCl 8g/L,Na2HPO4 1.14g/L,KCl 0.2g/L,KH2PO4 0.2g/L))で灌流して血液を除き、小腸の一部である空腸(mid−jejunum)2cmを切り取った。さらに、切り取った腸管の内容物を除くために、長軸方向に外科用ナイフで3回切断し、生理食塩水と培地(RPMI1640,10%FCS(Ultra low IgG))で洗浄して、1mlの培地内で12時間CO2インキュベーター(37℃)で培養した。RPMI1640とFCS(Ultra low IgG)はInvitrogen Corporation(GIBCO)社の製品を使用した。培養後、培地を卓上遠心機で遠心(15,000rpm,5分)し、その上清を小分注して−80℃で保存した。培地中のTNFαをAmersham Biosciences社のマウスTNFα ELISAシステム(コード番号RPN2718)キットを用いて測定した。測定手順はキットに添付されてきたマニュアルに従った。各培地上清につき6回ELISA(100μl/回)の測定を行い、その平均値を各マウス空腸のTNFα産生量(pg/ml−培地)とした。図11には各群(使用したマウス数n=3)の平均値と標準偏差値を示した。
結果を図11に示す。PTD−FNK投与で、Day4における5−FuおよびCPT−11による炎症性サイトカインTNFαの産生を著しく抑制した。
抗癌剤の消化管毒性は小腸粘膜を破壊し、腸管の透過性の上昇、白血球の浸潤、および炎症性サイトカインの産生を引き起こす(Boushey RP et al.Cancer Research 61,687−693,2001)。PTD−FNK投与で5−FUおよびCPT−11による炎症性サイトカインTNFαの産生上昇を抑制できるのかをJingsong,Z.et al.(Clinical Cancer Reaseach 10,2851−2859,2004)の方法に従って検討した。
C57BL/6Cr(5W,メス)にPTD−FNK(1.25mg/kg,0.15ml)を皮下に注射した(Day 0)。対照(コントロール)マウスには実施例4および実施例5と同じようにVehicle(0.15ml)を皮下に注射した。3時間後に5−FU 200mg/kg(皮下注射)、あるいはCPT−11 200mg/kg(トポテシン注(塩酸イリノテカン注)第一製薬株式会社)(腹腔内注射)をPTD−FNK投与群及び対照群のマウスに注入した。5−FU注射液は5−FU(Sigma Cat.No.F6627−10G)を生理食塩水(大塚製薬 大塚生食注)で溶解し、10mg/mlになるように調製した。さらに、5−FUおよびCPT−11によるTNFαの産生上昇を確認するために、Vehicle投与したマウスに生理食塩水を同体積注射した生理食塩水投与群を用意した。翌日(Day 1)及び翌々日(Day2)に、Day 0と同じようにPTD−FNKとVehicleをそれぞれマウスに皮下注し、3時間後に5−FU、CPT−11および生理食塩水を皮下注した。薬剤最終投与2日目のDay 4(各群n=3)に、マウスを痲酔下に解剖し、PBS(phosphate−buffered saline;NaCl 8g/L,Na2HPO4 1.14g/L,KCl 0.2g/L,KH2PO4 0.2g/L))で灌流して血液を除き、小腸の一部である空腸(mid−jejunum)2cmを切り取った。さらに、切り取った腸管の内容物を除くために、長軸方向に外科用ナイフで3回切断し、生理食塩水と培地(RPMI1640,10%FCS(Ultra low IgG))で洗浄して、1mlの培地内で12時間CO2インキュベーター(37℃)で培養した。RPMI1640とFCS(Ultra low IgG)はInvitrogen Corporation(GIBCO)社の製品を使用した。培養後、培地を卓上遠心機で遠心(15,000rpm,5分)し、その上清を小分注して−80℃で保存した。培地中のTNFαをAmersham Biosciences社のマウスTNFα ELISAシステム(コード番号RPN2718)キットを用いて測定した。測定手順はキットに添付されてきたマニュアルに従った。各培地上清につき6回ELISA(100μl/回)の測定を行い、その平均値を各マウス空腸のTNFα産生量(pg/ml−培地)とした。図11には各群(使用したマウス数n=3)の平均値と標準偏差値を示した。
結果を図11に示す。PTD−FNK投与で、Day4における5−FuおよびCPT−11による炎症性サイトカインTNFαの産生を著しく抑制した。
PTD−FNKが癌組織に取り込まれないことの証明
実施例2と同じようにヒト肺上皮ガン細胞A549をヌードマウスBALB/c−nu/nu(メス、8週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍体積が100〜200mm3の大きさを持つ担癌マウスにPTD−myc−FNK(1.25mg/kg,140μl)(参考文献 Asoh,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.99,17107−17112,(2002))を皮下に注射した。1,3,6,9時間後にマウスを灌流固定した。灌流はノボ・ヘパリン(50単位/ml:アベンティス ファーマ株式会社)を含むPBS溶液を用い、固定液は4%PFA(パラホルムアルデヒド)を含むPBSで行った。灌流固定したマウスの腫瘍部位と隣接正常組織(皮膚と筋組織)を一緒に取り出した(図12A)。常法に従いパラフィン切片(5μm厚)を作製し、免疫組織化学染色を行った。一次抗体はRabbit polyclonal anti−Myc Tag antibody(Upstate Biotechnology Incorporated,Lake Placid,NY,USA)を希釈倍率100で用いて、4℃で一晩反応させた。二次抗体およびペルオキシダーゼ反応による呈色反応はVectastain ABC Elite kit(Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)を用いて、キットに添付されたマニアルに従って行った。染色後、20×対物レンズにてイメージ像を撮影した。
結果を図12Bに示す。一般に増殖が活発な細胞(例えばガン細胞)はMycを発現していて、核に局在していることがわかっている。すべての写真で、腫瘍組織(右側)にび漫性点状の茶色に染色された陽性像は核内に存在する内因性Mycによるものである。一方、TAT−myc−FNKを皮下投与した群では、投与後3時間で腫瘍組織に隣接した骨格筋層(左側)の細胞質にび漫性の陽性像(茶色)の増加が認められ、その後経時的に減少した。このような細胞質の染色像はTAT−myc−FNK非投与群(未処理(NT)およびVehicle投与(V))のマウスでは認められなかった。以上の結果は、TAT−FNKが正常組織には効率良く取り込まれるが、腫瘍組織のガン細胞には取り込まれないことを示している。
実施例2と同じようにヒト肺上皮ガン細胞A549をヌードマウスBALB/c−nu/nu(メス、8週齢)の皮下に移植して担癌マウスを作製した。腫瘍体積が100〜200mm3の大きさを持つ担癌マウスにPTD−myc−FNK(1.25mg/kg,140μl)(参考文献 Asoh,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.99,17107−17112,(2002))を皮下に注射した。1,3,6,9時間後にマウスを灌流固定した。灌流はノボ・ヘパリン(50単位/ml:アベンティス ファーマ株式会社)を含むPBS溶液を用い、固定液は4%PFA(パラホルムアルデヒド)を含むPBSで行った。灌流固定したマウスの腫瘍部位と隣接正常組織(皮膚と筋組織)を一緒に取り出した(図12A)。常法に従いパラフィン切片(5μm厚)を作製し、免疫組織化学染色を行った。一次抗体はRabbit polyclonal anti−Myc Tag antibody(Upstate Biotechnology Incorporated,Lake Placid,NY,USA)を希釈倍率100で用いて、4℃で一晩反応させた。二次抗体およびペルオキシダーゼ反応による呈色反応はVectastain ABC Elite kit(Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)を用いて、キットに添付されたマニアルに従って行った。染色後、20×対物レンズにてイメージ像を撮影した。
結果を図12Bに示す。一般に増殖が活発な細胞(例えばガン細胞)はMycを発現していて、核に局在していることがわかっている。すべての写真で、腫瘍組織(右側)にび漫性点状の茶色に染色された陽性像は核内に存在する内因性Mycによるものである。一方、TAT−myc−FNKを皮下投与した群では、投与後3時間で腫瘍組織に隣接した骨格筋層(左側)の細胞質にび漫性の陽性像(茶色)の増加が認められ、その後経時的に減少した。このような細胞質の染色像はTAT−myc−FNK非投与群(未処理(NT)およびVehicle投与(V))のマウスでは認められなかった。以上の結果は、TAT−FNKが正常組織には効率良く取り込まれるが、腫瘍組織のガン細胞には取り込まれないことを示している。
PTD−FNKが骨髄中の細胞に取り込まれることの証明
上記実施例で作製したPTD−myc−FNKを投与した担癌マウスを灌流固定(灌流はノボ・ヘパリン(50単位/ml:アベンティス ファーマ株式会社)を含むPBS溶液を用い、固定液は4%PFA(パラホルムアルデヒド)を含むPBS)後に背骨を摘出した。5%蟻酸で脱灰し、常法に従いパラフィン切片(5μm厚)を作製し、免疫組織化学染色を行った。一次抗体はRabbit polyclonal anti−Myc Tag antibody(Upstate Biotechnology Incorporated,Lake Placid,NY,USA)を希釈倍率100で用いて4℃で一晩反応させた。二次抗体およびペルオキシダーゼ反応による呈色反応はVectastain ABC Elite kit(Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)を用いて、キットに添付されたマニアルに従って行った。染色後、イメージ像を撮影した。
結果を図13に示す。骨髄中には赤血球、白血球、血小板の形成にあずかる各種幹細胞が存在し、内因性Mycを発現している。TAT−myc−FNK非投与群(未処理(NT)およびVehicle投与(V))で認められる染色像はび漫性点状の茶色に染色された陽性像で、これは核内に存在する内因性Mycによるものである。一方、TAT−myc−FNKを皮下投与した群では、投与後1時間で骨髄の細胞−特に巨大核細胞(血小板の前駆細胞)−の細胞質にび漫性の陽性像(茶色)が認められた。投与後3時間まで陽性像が増加し、その後経時的に減少した。このような染色像はTAT−myc−FNK非投与群では認められなかった。以上の結果は、皮下投与したTAT−FNKが骨髄中の細胞にまで運搬されることを示している。
比較例 他のアポトーシス阻害剤との効果の比較:カスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkによるシスプラチン致死作用への効果の検討
アポトーシスを阻害することによって抗癌剤の副作用を軽減する新規薬剤の開発において、新規カスパーゼ阻害剤について報告されている(特表2003−511463号公報)。該公報に記載の新規カスパーゼ阻害剤を合成あるいは入手することが困難であるために、特表2003−511463号公報の実施例1で使用されたZ−VD−fmkに酷似したZ−VAD−fmk(製品名Caspase inhibitor I,Calbiochem社、Cat#627610)を比較試験のために用いた。Z−VAD−fmkはカスパーゼ阻害剤としてin vitroおよびin vivoの実験に広く使用されている。投与量については、上述の特許公報のハムスターを用いた実施例の項目以降に記載されている腹腔内投与量20mg/kgを用いた。ここで、Wannerらは0.25mg(約10mg/kg)のZ−VAD−fmkをマウスに静脈内投与することで抗Fas抗体によって誘導される急性肝障害を軽減し、その死亡率を減少できたことを報告している(Wanner,G.A.et al.,FASEB J.1999;13:1239−1248)。従って、本実施例で使用するZ−VAD−fmkの投与量20mg/kgは十分その効果を発揮することのできる量である。
本実施例はPTD−FNKとカスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkとのシスプラチン致死作用に対する効果の比較検討である。従って、実施例1と同様にZ−VAD−fmkを投与した。マウス(C57BL/6Cr系、4週齢、メス)をシスプラチン単回+Z−VAD−fmk(20mg/kg)3回投与群とシスプラチン単回+Vehicle3回投与群(それぞれn=5)に分けた。シスプラチン(ブリストル・マイヤー株式会社)は17mg/kg腹腔内投与した。シスプラチン単回+Z−VAD−fmk3回投与群では、Z−VAD−fmkをジメチルスルフキシド(DMSO、和光純薬株式会社)に溶かして10mg/mlの濃度とし、さらにZ−VAD−fmk/DMSO溶液28.4μlに121.6μlの生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬株式会社)を加えて0.15mlとして、シスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後に皮下に投与した。シスプラチン単回+Vehicle3回投与群では、DMSO溶液28.4μlに121.6μlの生理食塩水を加えて0.15mlとし、シスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後に皮下に投与した。シスプラチン投与後1週間の生存率を調べ、図2の結果と同時に記載した。
結果を図14に示す。カスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkを投与群の一週間後の生存率は非投与群(Vehicle)と同じ40%であった。Z−VAD−fmkにはシスプラチンによる致死作用を軽減する効果はなかった。これは、抗癌剤副作用の軽減効果についてPTD−FNKの優位性を示すものである。
上記実施例で作製したPTD−myc−FNKを投与した担癌マウスを灌流固定(灌流はノボ・ヘパリン(50単位/ml:アベンティス ファーマ株式会社)を含むPBS溶液を用い、固定液は4%PFA(パラホルムアルデヒド)を含むPBS)後に背骨を摘出した。5%蟻酸で脱灰し、常法に従いパラフィン切片(5μm厚)を作製し、免疫組織化学染色を行った。一次抗体はRabbit polyclonal anti−Myc Tag antibody(Upstate Biotechnology Incorporated,Lake Placid,NY,USA)を希釈倍率100で用いて4℃で一晩反応させた。二次抗体およびペルオキシダーゼ反応による呈色反応はVectastain ABC Elite kit(Vector Laboratories,Burlingame,CA,USA)を用いて、キットに添付されたマニアルに従って行った。染色後、イメージ像を撮影した。
結果を図13に示す。骨髄中には赤血球、白血球、血小板の形成にあずかる各種幹細胞が存在し、内因性Mycを発現している。TAT−myc−FNK非投与群(未処理(NT)およびVehicle投与(V))で認められる染色像はび漫性点状の茶色に染色された陽性像で、これは核内に存在する内因性Mycによるものである。一方、TAT−myc−FNKを皮下投与した群では、投与後1時間で骨髄の細胞−特に巨大核細胞(血小板の前駆細胞)−の細胞質にび漫性の陽性像(茶色)が認められた。投与後3時間まで陽性像が増加し、その後経時的に減少した。このような染色像はTAT−myc−FNK非投与群では認められなかった。以上の結果は、皮下投与したTAT−FNKが骨髄中の細胞にまで運搬されることを示している。
比較例 他のアポトーシス阻害剤との効果の比較:カスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkによるシスプラチン致死作用への効果の検討
アポトーシスを阻害することによって抗癌剤の副作用を軽減する新規薬剤の開発において、新規カスパーゼ阻害剤について報告されている(特表2003−511463号公報)。該公報に記載の新規カスパーゼ阻害剤を合成あるいは入手することが困難であるために、特表2003−511463号公報の実施例1で使用されたZ−VD−fmkに酷似したZ−VAD−fmk(製品名Caspase inhibitor I,Calbiochem社、Cat#627610)を比較試験のために用いた。Z−VAD−fmkはカスパーゼ阻害剤としてin vitroおよびin vivoの実験に広く使用されている。投与量については、上述の特許公報のハムスターを用いた実施例の項目以降に記載されている腹腔内投与量20mg/kgを用いた。ここで、Wannerらは0.25mg(約10mg/kg)のZ−VAD−fmkをマウスに静脈内投与することで抗Fas抗体によって誘導される急性肝障害を軽減し、その死亡率を減少できたことを報告している(Wanner,G.A.et al.,FASEB J.1999;13:1239−1248)。従って、本実施例で使用するZ−VAD−fmkの投与量20mg/kgは十分その効果を発揮することのできる量である。
本実施例はPTD−FNKとカスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkとのシスプラチン致死作用に対する効果の比較検討である。従って、実施例1と同様にZ−VAD−fmkを投与した。マウス(C57BL/6Cr系、4週齢、メス)をシスプラチン単回+Z−VAD−fmk(20mg/kg)3回投与群とシスプラチン単回+Vehicle3回投与群(それぞれn=5)に分けた。シスプラチン(ブリストル・マイヤー株式会社)は17mg/kg腹腔内投与した。シスプラチン単回+Z−VAD−fmk3回投与群では、Z−VAD−fmkをジメチルスルフキシド(DMSO、和光純薬株式会社)に溶かして10mg/mlの濃度とし、さらにZ−VAD−fmk/DMSO溶液28.4μlに121.6μlの生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬株式会社)を加えて0.15mlとして、シスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後に皮下に投与した。シスプラチン単回+Vehicle3回投与群では、DMSO溶液28.4μlに121.6μlの生理食塩水を加えて0.15mlとし、シスプラチン投与の3時間前、1日後および2日後に皮下に投与した。シスプラチン投与後1週間の生存率を調べ、図2の結果と同時に記載した。
結果を図14に示す。カスパーゼ阻害剤Z−VAD−fmkを投与群の一週間後の生存率は非投与群(Vehicle)と同じ40%であった。Z−VAD−fmkにはシスプラチンによる致死作用を軽減する効果はなかった。これは、抗癌剤副作用の軽減効果についてPTD−FNKの優位性を示すものである。
実施例に示すように、X線照射や抗癌剤投与により抗癌治療を行った際の副作用により種々の障害を表すようになった被験体に本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを投与することにより、抗癌治療による副作用を、抗癌治療の効果を妨げることなく、抑制することができる。さらに、FNKをコードする核酸を投与した場合も、同様の効果を持続させることができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (22)
- Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される請求項1記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である請求項1または2に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療の効果を低下させない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- FNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される請求項6記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表されるペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド - Bcl−xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質をコードする核酸を有効成分として含む抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択される請求項8記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- Bcl−xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl−xLタンパク質から選択され、さらに第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が欠失、付加または置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質である請求項8または9に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が抗癌治療による細胞死による副作用である請求項8〜10のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療の効果を低下させない、請求項8〜11のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- FNKタンパク質をコードする核酸の5’側に細胞膜通過ペプチドをコードする核酸が連結している請求項8〜12のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される請求項13記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
(i)6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii)6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii)6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv)(i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v)配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi)配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii)配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii)配列番号17で表されるペプチド、
(viiii)配列番号18で表されるペプチド、
(x)配列番号19で表されるペプチド、
(xi)配列番号20で表されるペプチド、
(xii)配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii)配列番号22で表されるペプチド - 抗癌治療がX線照射である請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療が抗癌剤投与である請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用が、造血組織障害、消化管粘膜を含む消化器の障害、心臓障害、肺障害、腎障害、神経障害、口内炎、聴力障害、皮膚障害からなる群から選択される請求項1〜16のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- X線照射による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌剤投与による消化管粘膜を含む消化器の障害、造血組織障害、腎臓障害および聴覚障害からなる群から選択される副作用を予防または治療し得る、請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌剤投与による聴力障害を予防または治療し得る、請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌剤投与による消化管粘膜障害を予防または治療し得る、請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
- 抗癌剤が5−FU(5−フルオロウラシル)、CPT−11(イリノテカン)およびCDDP(シスプラチン)からなる群から選択される、請求項16〜21のいずれか1項に記載の抗癌治療の細胞毒性に基づく副作用の予防または治療剤。
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