本発明は、高圧の圧縮性流体の膨張エネルギーを回収することによって機械力や電力を発生する膨張機に関し、特に、冷凍サイクルにおける絞り機構部と置き換えて冷媒の膨張エネルギーを回収する膨張機に関するものである。また、その膨張機を備えた冷凍サイクル装置に関する。
冷凍サイクル装置の冷媒が膨張する際の膨張エネルギーを回収する目的で用いられる膨張機として、ロータリ式膨張機が知られている。
特開平8−338356号公報に示されるような従来のロータリ式膨張機の構成について以下に説明する。ただし、説明を簡略化するために、1ピストンタイプとしている。
図14は従来のロータリ式膨張機100の構成を示す縦断面図であり、図15は図14の膨張機のD1−D1線における横断面図である。発電機101は、密閉容器102に固定されたステータ101aと、シャフト103に固定されたロータ101bからなり、ロータ101bの回転によってステータ101aの巻き線との間に起電力を発生させて電力を得る。シャフト103は、シリンダ104を貫通し、軸受105、106によって回転可能に支持されている。シャフト103には偏心部103aが設けられ、偏心部103aにはシリンダ104の内部に配置されたピストン107が嵌合する。また、シャフト103の中には、シャフト103の軸方向に沿って軸方向流路103bが、偏心部103aには、軸方向流路103bと開口部103cを結ぶ、径方向流路103dが設けられている。
図15に示すように、ピストン107の外周面には係合溝107aが形成されるとともに、シリンダ104にはベーン溝104aが形成されている。ベーン溝104aにより往復動可能に保持されたベーン108は、先端が係合溝107aに係合し、ばね109による力や、ベーン108の先端側と背面側の圧力差による力によって、常時、ピストン107に密着している。シリンダ104とピストン107により形成される三日月形状の空間は、ベーン108により2つの作動室110a、110bに区画される。ピストン107に設けられた吸入孔107bは、作動室110aに連通しており、シリンダ104に設けられた吐出孔104bは、作動室110bに連通している。
高圧の作動流体は、吸入管111から密閉容器102の内部に流入した後、シャフト103の軸方向流路103bと径方向流路103dを経て開口部103cに達する。開口部103cはシャフト103の回転運動とともに回転するが、ピストン107は自転運動を伴わない偏心回転運動、いわゆる揺動運動を行う。このため、ピストン107に設けられた吸入孔107bと、偏心部103aに設けられた開口部103cは、シャフト103の回転運動に伴い、連通と非連通を繰り返す。開口部103cと吸入孔107bが連通している間に、作動流体は作動室110aに吸入される。その後、開口部103cと吸入孔107bが非連通となると、吸入行程が終了する。作動流体は圧力を下げながら膨張し、作動室110aの容積が拡大する方向へとシャフト103を回転させ、発電機101を駆動する。シャフト103の回転に伴い、作動室110aは作動室110bへと移行し、吐出孔104bに連通すると膨張行程が終了する。そして、低圧となった作動流体は吐出孔104bから吐出管112へと吐出される。
ベーン108がピストン107に密着する原理について説明する。図16は、図14の膨張機のD1−D1線における拡大横断面図である。図16において、ピストン107はいわゆる上死点にあり、ベーン108はベーン溝104aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bはベーン108の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dはベーン108の背面と側面から成るエッジである。ベーン108の先端側のR面の半径は、ピストン107の係合溝107aの半径よりも小さくしているため、ベーン108の先端側のR面とピストン107の係合溝107aは点Eで接触し、ベーン108の先端側の面AE、BEは作動室110aにつながる空間に面している。従って、ベーン108の先端側のR面(面AB)に作用する圧力は、作動室110aの圧力である。作動室110aの圧力は、作動室110aが吐出孔104bに連通しているため、吐出圧力Pdに等しい。一方、ベーン108の背面CDに作用する圧力は、密閉容器102の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、これらの圧力差により、ベーン108はピストン107に密着する方向に力を受ける。上死点においては、ベーン108はベーン溝104aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、ベーン108に作用する慣性力は、ピストン107からベーン108の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力によって、十分に余裕を持ってベーン108をピストン107に密着させることができる。
ばね109は、起動時に吸入圧力Psと吐出圧力Pdの差圧が生じるまでの間、ベーン108をピストン107に密着させるための補助的なものである。仮に、二酸化炭素を作動流体とする冷凍サイクルに用いる膨張機であって、ベーン108は鋼製で高さ10mm、幅4mm、長さ20mmとし、吸入圧力Psを100kgf/cm2、吐出圧力Pdを50kgf/cm2とすると、差圧によりベーン108に作用する力は、20kgfとなる。また、ばね109をコイルばねと仮定し、最大たわみ量を6mm、ばね109の外径をベーン108の幅と同じ4mmとすると、このクラスのばねのばね定数は、大きく見積もっても高々0.05kgf/mmであり、ばね力は0.3kgf程度となる。一方、ベーン108が振幅3mmで90Hzの単振動する場合の慣性力は、0.6kgf程度となる。このように、特に90Hzのような高速で運転する場合において、ばね109の力は、ベーン108の往復運動の慣性力より小さく、圧力差によりベーン108をピストン107に押さえつける力が必須であることがわかる。
次に、2004年3月に(独)新エネルギー・産業総合開発機構より発行された成果報告書“エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発CO2空調機用二相流膨張機・圧縮機の開発”に示されるような従来のロータリ式膨張機の構成について以下に説明する。なお、上記成果報告書に示されるロータリ式膨張機は、特開2003−343467号公報に示される圧縮機に対して、冷媒の流れとシャフトの回転方向が逆であるが、基本構成は同じである。
図17は従来のロータリ式膨張機200の構成を示す縦断面図であり、図18Aは図17の膨張機のD2−D2線における横断面図、図18Bは図17の膨張機のD3−D3線における横断面図である。発電機201は、密閉容器202に固定されたステータ201aと、シャフト203に固定されたロータ201bからなる。シャフト203は、中板204によってそれぞれ独立するように仕切られた第1シリンダ205と第2シリンダ206を貫通し、軸受207、208によって回転可能に支持されている。シャフト203には、シャフト203の軸に対する偏心方向が同じである第1偏心部203aと第2偏心部203bが軸方向に沿った上下に設けられ、第1偏心部203aには第1シリンダ205の内部に配置された第1ピストン209が、第2偏心部203bには第2シリンダ206の内部に配置された第2ピストン210が嵌合する。
第1シリンダ205と第1ピストン209、および第2シリンダ206と第2ピストン210の高さや径は、第1シリンダ205と第1ピストン209により形成される三日月形状の空間が、第2シリンダ206と第2ピストン210により形成される三日月形状の空間よりも小さくなるように設定する。図17の例では、第1シリンダ205の内径と第2シリンダ206の内径は等しく、第1ピストン209の外径と第2ピストン210の外径とが等しく、かつ第2シリンダ206の高さが第1シリンダ205の高さよりも大となっている。この構成は、本発明のいくつかの実施の形態でも踏襲されている。
図18Aおよび図18Bに示すように、第1シリンダ205および第2シリンダ206には、ベーン溝205aおよび206aがそれぞれ形成されている。ベーン溝205a、206aにより、それぞれ往復動可能に保持された第1ベーン211および第2ベーン212は、ばね213、214による力や、各ベーン211、212の先端側と背面側の圧力差による力によって、各ピストン209、210に密着している。第1シリンダ205と第1ピストン209により形成される三日月形状の空間は、第1ベーン211により2つの作動室215a、215bに区画される。また、第2シリンダ206と第2ピストン210により形成される三日月形状の空間は、第2ベーン212により2つの作動室216a、216bに区画される。第1シリンダ205に設けられた吸入孔205b(吸入路)は、作動室215a(第1吸入側空間)に連通しており、作動室215b(第1吐出側空間)と作動室216a(第2吸入側空間)は、中板204に斜め方向に第1ベーン211と第2ベーン212の間を通過するように設けられた連通孔204a(連通路)で連通して一つの空間を形成している。また、第2シリンダ206に設けられた吐出孔206b(吐出路)は、作動室216b(第2吐出側空間)に連通している。
高圧の作動流体は、吸入管217から密閉容器202の内部に流入した後、吸入孔205bから、第1シリンダ205の作動室215aに吸入される。シャフト203の回転運動に伴って作動室215aの容積は拡大し、やがて、第1シリンダ205の内部の連通孔204aと連通する作動室215bへと移行し、吸入行程が終了する。作動室215bは、連通孔204aを通じて第2シリンダ206の作動室216aと連通して一つの作動室を形成しており、高圧の作動流体は、連通した作動室全体の容積が増加する方向、すなわち、作動室215bの容積が減少し、作動室216aの容積が増加する方向へとシャフト203を回転させ、発電機201を駆動する。シャフト203の回転に伴って作動室215bは消滅し、作動室216aは吐出孔206bと連通する作動室216bへと移行し、膨張行程が終了する。そして、低圧となった作動流体は吐出孔206bから吐出管218へと吐出される。
以上の説明で用いた図18Aおよび図18Bでは、第1シリンダ205と第2シリンダ206の各ベーン溝205a、206aの回転方向位置を同じにしていたが、必ずしもこの限りではない。図19は各ベーン溝205a、206aが異なる回転方向位置になる場合の従来のロータリ式膨張機400の構成を示す縦断面図であり、図20Aは図19の膨張機のD4−D4線における横断面図、図20Bは図19の膨張機のD5−D5線における横断面図である。ここでいう回転方向位置とは、シャフト203の周りにおける角度位置のことである。
第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aに対し、約30deg回転している。このようにすることにより、中板204に設ける連通孔204aを中板204に垂直に設けることができ、かつ、斜めの連通孔204aのために中板204を厚くする必要が無くなるので、連通孔204aの容積を大幅に減らすことができ、連通孔204aの中に残る作動流体の量を低減し、効率低下を抑えることができる。
第1ベーン211が第1ピストン209に、第2ベーン212が第2ピストン210に密着する原理について説明する。図21Aは図17の膨張機のD2−D2線における拡大横断面図、図21Bは図17の膨張機のD3−D3線における拡大横断面図である。
第1ピストン209は、図21Aにおいていわゆる上死点にあり、第1ベーン211は、ベーン溝205aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bは第1ベーン211の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dは第1ベーン211の背面と側面から成るエッジであり、第1ベーン211の先端側のR面と第1ピストン209は、点Eで接触している。第1ベーン211の先端側のR面に作用する圧力は、作動室215aの圧力である。作動室215aの圧力は、作動室215aが吸入孔205bに連通しているため、吸入圧力Psに等しい。一方、第1ベーン211の背面CDに作用する圧力は、密閉容器102の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、第1ベーン211の先端側と背面側に圧力差は無く、圧力差により第1ベーン211を第1ピストン209に密着させる力は作用しない。上死点においては、第1ベーン211はベーン溝205aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、第1ベーン211に作用する慣性力は、第1ピストン209から第1ベーン211の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力が作用しないために、ばね213により第1ベーン211が第1ピストン209から離れないように押さえつける必要がある。図14〜図16に示した従来のロータリ式膨張機100におけるベーン108の慣性力とばね109の力の試算では、ベーン108の慣性力の方が大きくなったことから解るように、ばね213の力は第1ベーン211を第1ピストン209に密着させるのに必ずしも十分とは言えない。このため、第1ベーン211の材料を鋼からカーボンに変更したり、形状を小さくすることなどにより質量を小さくし、第1ベーン211の慣性力がばね213の力より小さくなるように設計しなくてはならない。他の方法として、図22に示すように、ベーンとピストンを一体形成したスウィングピストン219を用いることにより、ベーンがピストンから離れることのない構成としてもよい。
一方の第2ピストン210は、図21Bにおいて上死点にあり、第2ベーン212は、ベーン溝206aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bは第2ベーン212の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dは第2ベーン212の背面と側面から成るエッジであり、第2ベーン212の先端側のR面と第2ピストン210は、点Eで接触している。第2ベーン212の先端側ABに作用する圧力は、作動室216bの圧力である。作動室216bは、吐出孔206bに連通しているため、圧力が吐出圧力Pdに等しい。一方、第2ベーン212の背面CDに作用する圧力は、密閉容器202の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、これらの圧力差により、第2ベーン212は第2ピストン210に密着する方向に力を受ける。上死点においては、第2ベーン212はベーン溝206aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、第2ベーン212に作用する慣性力は、第2ピストン210から第2ベーン212の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力によって、十分に余裕を持って第2ベーン212を第2ピストン210に密着させることができる。ばね214は、特開平8−338356号公報に示される膨張機と同様、起動時に吸入圧力Psと吐出圧力Pdの差圧が生じるまでの間、第2ベーン212を第2ピストン210に密着させるための補助的なものである。
しかしながら、図17〜図21に示す従来のロータリ式膨張機では、第1ベーンの先端側と背面側に作用する圧力の差による押し出し力が得られず、アルミやカーボン等の材料により質量を特別に小さくする場合を除いて、ベーンに作用する慣性力によりベーンの先端がピストンから離れてしまい、作動流体が漏れるために著しく性能が低下し、場合によっては、作動室が形成されず、膨張機として機能しないという課題が生じていた。
また、第1ベーンを軽量化の為にアルミ製やカーボン製にした場合、ベーン溝との間の摺動による信頼性の低下と、材料コストの増加という課題が生じていた。
また、図22に示すような、スウィングピストンを用いる場合には、従来のピストンやベーンと同等の加工精度に仕上げようとすると、加工コストが高くなるという課題が生じていた。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ベーンの信頼性の低下や材料コストの増加を伴わず、また、スウィングピストンのように加工コストの増加を伴わずに、第1ベーンの先端がピストンから離れることを防止することにより、作動流体の漏れを防止し、膨張機としての安定した動作を可能とするとともに、ひいては高効率かつ低コスト、高信頼性である多段ロータリ式膨張機を提供することを目的としている。併せて、その膨張機を備えた冷凍サイクル装置を提供する。
すなわち、本発明は、
軸方向に沿った上下に第1偏心部および第2偏心部を有するシャフトと、
第1偏心部に取り付けられ、偏心回転運動する第1ピストンと、
内面の一部が第1ピストンと接するように配置された第1シリンダと、
第1シリンダに設けられた第1ベーン溝に往復動可能に配置され、先端が第1ピストンに接することにより、第1シリンダと第1ピストンとの間の空間を、第1吸入側空間と第1吐出側空間とに区画する第1ベーンと、
第2偏心部に取り付けられ、偏心回転運動する第2ピストンと、
内面の一部が第2ピストンと接するように配置された第2シリンダと、
第2シリンダに設けられた第2ベーン溝に往復動可能に配置され、先端が第2ピストンに接することにより、第2シリンダと第2ピストンとの間の空間を、第2吸入側空間と第2吐出側空間とに区画し、かつ第2シリンダの外部の高圧雰囲気によって第2ピストンに向かう方向の力が加わる第2ベーンと、
第1吸入側空間へ膨張前の作動流体を吸入させる吸入路と、
第1吐出側空間と第2吸入側空間を連通し、作動流体を膨張させるための作動室を形成する連通路と、
第2吐出側空間から膨張後の作動流体を吐出させる吐出路とを備え、
第2ベーンが第2ピストン側に移動する際に、第1ピストンに向かう方向の力を第2ベーンが第1ベーンに加える、多段ロータリ式膨張機を提供する。
上記本発明の多段ロータリ式膨張機(以下、単に膨張機ともいう)は、図17で説明したロータリ式膨張機の基本構成を踏襲している。第1シリンダ内の吐出側の作動室(第1吐出側空間)と、第2シリンダ内の吸入側の作動室(第2吸入側空間)とからなる1つの作動室(膨張室)で、作動流体を膨張させる。第2ベーンが第2ピストン側に移動する際に、第1ピストンに向かう方向の力を第2ベーンが第1ベーンに加えるので、第1ベーンは第2ベーンに連動して第1ピストンに押し付けられる。つまり、第1ベーンに加わる力の不足分を第2ベーンに加わる力の余分で補うようにする。これにより、第1ベーンの先端側と後端側に圧力差が無かったとしても、第1ベーンと第1ピストンとの接触状態を維持できる。
このように、本発明の膨張機によれば、ベーンの信頼性の低下や材料コストの増加を伴わず、また、スウィングピストンのように加工コストの増加を伴わずに、第1ベーンの先端が第1ピストンから離れることを防止できる。これにより、膨張機としての安定した動作を可能とするとともに、高効率かつ低コスト、高信頼性である膨張機を実現することができる。
本発明の実施の形態1における膨張機の縦断面図
図1Aに示すベーンの拡大図
図1に示す膨張機を好適に採用できる冷凍サイクル装置のブロック図
本発明の実施の形態2における膨張機の縦断面図
図2に示す膨張機の第1ベーンの正面図および底面図
図2に示す膨張機の連結部材の斜視図
図2に示す膨張機の第2ベーンの平面図および正面図
連結部材の別の例の斜視図
連結部材の別の例の斜視図
本発明の実施の形態3における膨張機の縦断面図
図4に示す膨張機のベーンの拡大図
本発明の実施の形態3における別の膨張機の縦断面図
本発明の実施の形態4における膨張機の縦断面図
本発明の実施の形態5における膨張機の縦断面図
図8に示す膨張機のD2−D2線における横断面図
図8に示す膨張機のD3−D3線における横断面図
本発明の実施の形態6における膨張機の縦断面図
図10に示す膨張機のD4−D4線における横断面図
図10に示す膨張機のD5−D5線における横断面図
図10に示す膨張機の第1ベーンの斜視図
図10に示す膨張機の第2ベーンの斜視図
本発明の実施の形態7における膨張機の縦断面図
従来の膨張機の縦断面図
図14の膨張機のD1−D1線における横断面図
図14の膨張機のD1−D1線における拡大横断面図
従来の膨張機の縦断面図
図17に示す膨張機のD2−D2線における横断面図
図17に示す膨張機のD3−D3線における横断面図
従来の膨張機の縦断面図
図19に示す膨張機のD4−D4線における横断面図
図19に示す膨張機のD5−D5線における横断面図
図17に示す膨張機のD2−D2線における拡大横断面図
図17に示す膨張機のD3−D3線における拡大横断面図
従来の膨張機の膨張機構部における拡大横断面図
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1の膨張機300の構成を示す縦断面図である。本実施の形態1の膨張機300の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
膨張機300は、空調機や給湯機の心臓部をなす冷凍サイクル装置に適用することができる。図1Cに示すように、冷凍サイクル装置500は、冷媒を圧縮する圧縮機501と、圧縮機501で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器502と、放熱器502で放熱した冷媒を膨張させる膨張機300と、膨張機300で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器503とを備えている。膨張機300は、冷媒の膨張エネルギーを電力の形で回収する。回収された電力は、圧縮機501を作動させるために必要な電力の一部として使用される。ただし、膨張機300のシャフトと、圧縮機501のシャフトとを連結することにより、冷媒の膨張エネルギーを電力に変換せずに、機械力の形で圧縮機501に直接伝達する形態も採用することができる。
図1Aに示すように、本実施の形態1の膨張機300では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。ピストン209、210の偏心方向は、シャフトの203の軸からピストン209、210の中心に向かう方向である。ピストン209、210の偏心量は、シャフトの203の中心とピストン209、210の中心との距離に等しい。第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aには、第1シリンダ205用の第1ベーン部301bと第2シリンダ206用の第2ベーン部301cとが一体化されたベーン301が往復動可能(スライド可能)に配置されている。ベーン301には、中板304の厚さに略等しい幅の切欠き301aが設けられており、切欠き301aにより、先端側が第1ピストン209と接する第1ベーン部301bと、第2ピストン210と接する第2ベーン部301cに分割されている。第1ベーン301bと、第2ベーン301cの背面側には、それぞれ、ばね213、214が配置されている。
中板304には、ベーン301に対応する位置に、切欠き304kが形成されている。この切欠き304kは、ベーン301の先端がシャフト203の軸に最も接近したとき、中板304とベーン301とが干渉しないように、径方向の形成長さが調整されている。中板304のこのような切欠き304kにより、ベーン301の背面は、シリンダ205、206の外部の高圧雰囲気、具体的には、密閉容器202内に貯留された潤滑油にさらされる。従って、ベーン301の背面には、潤滑油の圧力、言い換えれば、密閉容器202内を満たす作動流体の圧力が懸かる。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、ベーン301の一部である第2ベーン部301cには、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力が作用し、第2ベーン部301cが第2ピストン210側に押し出される。第2ベーン部301cが押し出されると、差圧による力が作用しない第1ベーン部301bも、第2ベーン部301cと共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン部301bの先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン部301bが第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、ベーン301は切欠き301aを設けるだけなので加工が容易であり、図22のスウィングピストン219よりも低コストで作製できる。また、従来2部品だったものを1部品としたので、部品点数減によるコスト削減効果も見込める。
また、図1Aに示した例では、U字状のベーン301が分離不能な単一部品からなり、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとは、それぞれ、そのU字状のベーン301の一端部と他端部とをなしている。すなわち、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとの相対位置関係は不変である。このように、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとを有するベーン301を用いることにより、両ベーン部301b、301cを簡単かつ完全にシンクロさせることができる。
また、第1ピストン209と第2ピストン210の外径が異なる場合には、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cの先端は、それぞれのピストン209、210の外周面に接するように長さを変えて加工する必要がある。一方、図1Aに示すように、第1シリンダ205と第2シリンダ206の内径が等しく、かつ第1ピストン209と第2ピストン210の外径が等しい場合、第1ベーン部301bの先端と第2ベーン部301cの先端とを、まっすぐ揃える必要がある。具体的には、図1Bに示すように、第1ベーン部301bの先端E1および第2ベーン部301cの先端E2は、シャフト203の軸方向と平行な仮想直線SLに含まれる、すなわち、シャフト203の軸からの距離が常に等しい。単一部品であるベーン301は、切欠き301aを設ける前に、先端側を加工しておき、後から切欠き301aを設けるだけで、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cの先端を同時に形成できる。従って、加工が容易であり、低コスト化を図ることができる。
また、本実施の形態1では、第1ベーン部301bの背面側にばね213を、第2ベーン部301cの背面側にばね214を配置したが、少なくとも一つのばねがベーン301の背面側にあれば、膨張機の起動時に第1ベーン部301bの先端と第2ベーン部301cの先端を、それぞれ第1ピストン209と第2ピストン210に密着させることができる。
実施の形態1では、単一部品からなるベーンを用いる例を示したが、第1ベーンと第2ベーンとは、別々の部品で構成することができる。この場合、第1ベーンと第2ベーンとは、相対位置関係の変化が許容されるので、組立誤差や部品の加工誤差を吸収しやすくなる。以下の実施形態では、そうした例について説明を行なう。
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2の膨張機310の構成を示す縦断面図、図3Aは図2における第1ベーンの正面図および底面図、図3Bは図2における連結部材の斜視図、図3Cは図2における第2ベーンの平面図および正面図である。本実施の形態2の膨張機310の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態2の膨張機310は、第2ベーン312に加わる力を第1ベーン311に伝達し、第2ベーン312の動きに第1ベーン311の動きを連鎖させる伝達部材を備えている。こうした伝達部材を用いることにより、第2ベーン312によって第1ベーン311を確実に押すことができる。より具体的には、第1ベーン311と第2ベーン312とを連結する連結部材313を、上記伝達部材として採用している。
本実施の形態2の膨張機310では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン311が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン312が、それぞれ前後にスライド可能に配置されている。第1ベーン311の下面には、その下面に垂直な方向に延びる長円孔311aを、第2ベーン312の上面には、その上面に垂直な方向に延びる円筒孔312aを設けている。円筒孔312aには、円柱形状の連結部材313の一端部が、微小なクリアランスを介して、回転可能、かつ、円筒孔312aの深さ方向にスライド可能に挿入されている。長円孔311aには、連結部材313の他端部が、短軸方向に小さなクリアランスを介して、回転可能、長円孔311aの深さ方向にスライド可能、かつ、長円孔311aの長軸方向にもスライド可能に挿入されている。また、第1ベーン311と、第2ベーン312の背面側にはそれぞれ、ばね213、214が配置されている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン312は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン311も、連結部材313により、第2ベーン312と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン311の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン311が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、実施の形態1の場合、図1Aにおけるベーン301の切欠き301aの幅と中板304の厚さの関係は、ベーン301を往復動可能であるとともに、クリアランスからの漏れが十分に少なく許容できる範囲(10〜20μm程度)で切欠き301aの幅を中板304の厚みよりも若干大きくする必要がある。従って、中板304および切欠き301aの加工精度や、中板304と切欠き301aのマッチングが要求される。第1ベーン部301bの上面から第2ベーン301cの下面までの幅は、第1シリンダ205、第2シリンダ206、中板304の各厚みの合計よりもクリアランスからの漏れが十分に少なく許容できる範囲(10〜20μm程度)で小さくする必要がある。これに対し、本実施の形態2では、連結部材313が長円孔311aと円筒孔312aの内部で軸方向にスライド可能なので、中板304の厚みが多少ばらついた場合にでも、第1ベーン311の下面と、第2ベーン312の上面の間の幅が可変となり、簡単に加工、組立や、クリアランスの設定が可能となる。
また、本実施の形態2では、第1ベーン311に長円孔311aを設け、連結部材313が長円孔311aの長軸方向にスライド可能(揺動可能)としている。長円孔311aの長軸方向は、シャフト203の回転方向に沿っている。また、連結部材313は、第1ベーン311の長円孔311aの底面と、第2ベーン312の円筒孔312aの底面との距離(最短距離)よりも短く調整されているので、円筒孔312aや長円孔311aの深さ方向にも動くことができる。つまり、連結部材313は、第1ベーン311や第2ベーン312の往復動の方向に対して垂直方向にわずかに動くことができる。言い換えれば、連結部材313は、第1ベーン311と第2ベーン312との相対位置関係の変化を吸収しつつ、第2ベーン312に加わる力を第1ベーン311に伝達している。従って、第1シリンダ205のベーン溝205aと第2シリンダ206のベーン溝206aが、組立誤差により回転方向に微小に距離がずれたり、完全に平行では無かったりする場合でも、第1ベーン311および第2ベーン312は、それぞれのベーン溝205a、206aの中でねじれることが防止されてスムーズに作動できる。この結果、ベーン311、312の損傷や摺動面の異常摩耗が防止され、ひいては高信頼性の膨張機の提供できるようになる。
なお、本実施の形態2では、円柱形状の連結部材313を用いたが、角柱や楕円柱等の他の柱状の連結部材を用いた場合でも、同様の効果が得られる。また、連結部材313は、ベーン311、312と同様の材料である金属だけでなく、セラミックやエンジニアリングプラスチック等の他の硬質材料によっても構成することができる。また、連結部材313の全部がエラストマー等の弾性体で構成されていてもよい。
さらに、一部が弾性体で構成された連結部材を用いることも可能である。例えば、図3Dに示すように、棒状の本体部316と、その棒状の本体部316の端部316t、316tが挿入されたゴム製の筒体317、317とからなる連結部材315を、図3Bに示す連結部材313に代えて用いることができる。本体部316は、例えば金属、セラミック、エンジニアリングプラスチックのような硬質材料によって構成することができる。筒体317は、例えばイソプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムのようなエラストマーによって構成することができる。筒体317は、本体部316の両方の端部316t、316tに取り付けられていることが望ましいが、一方の端部316tにのみ取り付けられていてもよい。このような連結部材315によれば、ベーン311、312の孔との間に特に意識してクリアランスを設けなくても、筒体317の弾性変形により各種誤差が吸収される。
また、図3Eに示すように、第1ベーン311の孔311aに係合する棒状の第1本体部318aと、第2ベーン312の孔312aに係合する棒状の第2本体部318bと、それら第1本体部318aと第2本体部318bとを接続するゴム製の筒体318cとからなる連結部材319を好適に用いることができる。この連結部材319によれば、シャフト203の軸と平行な方向に関して、筒体318cが第1シリンダ205と第2シリンダ206との間に配置されるので、筒体318cの伸縮量を比較的大きく設定することが可能である。
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3の膨張機320の構成を示す縦断面図、図5は、図4の膨張機における第2ベーンの正面図、側面図、および平面図である。本実施の形態3の膨張機320の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態3の膨張機320では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン321が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン322が、それぞれ往復動可能に配置されている。第2ベーン322の第1ベーン側には突起部322aが設けられている。その突起部322aは第1ベーン321の背面に接している。図5に示すように、突起部322aは第2ベーン322に設けた孔322bに嵌合されて、第2ベーン322と一体化されている。そして、突起部322aの厚みWは、第1ベーン321の厚みよりも薄くしている。突起部322aや第1ベーン321の厚みは、ベーン321、322のスライド方向とシャフト203の軸方向との双方に垂直な方向の厚みのことである。第2ベーン322の背面側には、ばね214が配置されている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン322は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン321も、突起部322aにより、第2ベーン322と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン321の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン321が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1ベーン321と、第2ベーン322は、別々の部品なので、実施の形態1のように中板の厚さに依存することは無く、簡単に各ベーン321、322の加工、組立や、クリアランスの設定が可能となる。
また、第2ベーン322とは別部品である突起部322aを、第2ベーン322に形成された孔322bに嵌合して一体化する構成としたことにより、第2ベーン322の上面を研摩した後に突起部322aを設けることが可能となり、第2ベーン322が高精度に加工でき、かつ、加工が容易になる。ただし、第2ベーン322と突起部322aをはじめから一体形成しても機能上の差は無い。
また、本実施の形態3では、突起部322aの厚みWを、第1ベーン321の厚みよりも薄くしている。そのため、第1シリンダ205のベーン溝205aと第2シリンダ206のベーン溝206aが、組立誤差により回転方向に微小に距離がずれたり、完全に平行ではなかったりする場合でも、突起部322aの厚みと第1ベーン321の厚みとの差によって、そうした誤差を相殺することができる。この結果、突起部322aがベーン溝205aの中でねじれることが防止され、ベーン321、322がスムーズに作動できるようになるので、ベーン321、322の損傷や摺動面の異常摩耗が防止され、ひいては高信頼性の膨張機の提供できるようになる。
なお、本実施の形態3では、第2ベーン322に突起部322aを設けたが、図6に示す膨張機325のように、第1ベーン326の下面に突起部326aを設けて、第2ベーン327に設けた切欠き327aに引っ掛ける構成としてもよい。このようにしても、第2ベーン327は、突起部326aを介して第1ベーン326を第1ピストン209側にしっかりと押すので、同様の効果が得られる。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4の膨張機330の構成を示す縦断面図である。本実施の形態4の膨張機330の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態4の膨張機330では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン331が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン332が、それぞれ往復動可能に配置されている。第1ベーン331の背面側には樹脂製の弾性部331aを設けている。弾性部331aは、例えばイソプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムのようなエラストマーによって構成される。また、第2ベーン332の第1ベーン側には突起部332aがあり、突起部332aは第1ベーン331の背面側の弾性部331aに接している。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン332は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン331も、突起部332aおよび弾性部331aにより、第2ベーン332と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン331の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン331が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、加工誤差で第1ベーン331が短くなり、第2ベーン332の突起部332aと第1ベーン331の背面の間にクリアランスが生じて、第2ベーン332の突起部332aが第1ベーン331を押す度に衝突が生じる場合でも、第1ベーン331の背面側に弾性部331aを設けたことにより、衝突音の発生が防止され、かつ、衝突によるベーン331、322の破損を防止することができ、ひいては低騒音で高信頼性の膨張機を提供することができる。
逆に、加工誤差で第1ベーン331が長くなる場合には、第2ベーン332の先端側と第2ピストン210との間にクリアランスが生じると考えられるが、本実施の形態4では、第1ベーン331の弾性部331aが変形してクリアランスを吸収するので、第2ベーン332の先端側と第2ピストン210との間にクリアランスは生じない。従って、作動流体の漏れを防止することができるので、高効率な膨張機を提供することができる。
なお、本実施の形態4では、第1ベーン331に弾性部331aを設けたが、第2ベーン332の突起部332aに弾性部を設けるか、あるいは、第2ベーン332の突起部332aを弾性体で構成しても同様の効果が得られる。
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5の膨張機340の構成を示す縦断面図であり、図9Aは図8の膨張機のD2−D2線における横断面図、図9Bは図8の膨張機のD3−D3線における横断面図である。本実施の形態5の膨張機340の構成は、ベーン、中板およびピストンの偏心量を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態5の膨張機340では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向は等しいが、図9Aに示す第1ピストン209の偏心量e1は、図9Bに示す第2ピストン210の偏心量e2よりも小さくしており、第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン341が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン342が、それぞれ往復動可能に配置されている。第2ベーン342の第1ベーン側には突起部342aが設けられ、第1ベーン341の背面と第2ベーン342の突起部342aの間には、第1ベーン341のスライド方向に伸縮する弾性体としてのばね343が配置されている。ばね343のたわみ量(伸縮長さ)は、第1ピストン209の偏心量e1と第2ピストン210の偏心量e2の差の2倍以上とする。例えば、第1ピストン209の偏心量e1が1.5mmで、第2ピストン210の偏心量e2が2.0mmとすれば、1.0mm以上たわめば良い。ばね定数は十分に大きく設定しておく。具体的には、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力で、最大たわみ量となる程度のばね定数が望ましい。背景技術で説明したように、第2ベーン342にはおよそ20kgfの力が働くので、その1/4の力で1mmたわむ場合のばね定数は5kgf/mmとなる。これを、第1ベーン341の背面側と第2ベーン342の突起部342aの間に配置するので、ばね343は、コイルばねよりも板ばねや皿ばねが望ましい。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン342は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン341も、突起部342aとばね343により、第2ベーン342と共に第1ピストン209側に押し出される。ここで、第1ベーン341の往復運動のストロークは、第1ピストン209の偏心量e1の2倍であり、第2ベーン342の往復運動のストロークは、第2ピストン210の偏心量e2の2倍であるので、上死点を基準に考えると、第2ベーン342が第1ベーン341を押そうとする距離と、第1ベーン341が移動する距離が一致しない。しかし、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心量の差の2倍のストロークを持つばね343を配置したことにより、その距離の差を吸収することができる。従って、第1ピストン209の偏心量e1と、第2ピストン210の偏心量e2が異なる場合においても、第1ベーン341の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン341が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1シリンダ205と第1ベーン341との間にばね343を設けても第1ベーン341を押し出す効果は得られるが、第1ベーン341の背面と第2ベーン342の突起部342aの間にばね343を設けたことにより、ばね343のストロークが小さくて済み、上述した5kgf/mm程度のばねをよりコンパクトにすることができる。従って、ベーン341の背後の限られたスペースの中に配置することができる。
また、ばね343のばね定数を、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力とした理由については、第2ベーン342に作用する差圧による力は、ばね343の反力により1/4程度減少するが、それでも第2ベーン342を押し出す力は十分に残っており、かつ、第1ベーン341を押し出す力は、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力があれば十分であるからである。
(実施の形態6)
図10は、本発明の実施の形態6の膨張機350の構成を示す縦断面図、図11Aは図10の膨張機のD4−D4線における横断面図、図11Bは図10の膨張機のD5−D5線における横断面図、また、図12Aは図10の膨張機の第1ベーンの斜視図、図12Bは図10の膨張機の第2ベーンの斜視図である。本実施の形態6の膨張機350の構成は、ベーンおよび中板を除いて図19、図20を用いて説明した、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる回転方向位置になる場合の従来のロータリ式膨張機400と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態6の膨張機350では、第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aの位置に対し、シャフト203の回転方向へ30deg回転させており、かつ、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン351が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン352が、それぞれ往復動可能に配置されている。図12Aに示すように、第1ベーン351の下面側には、突起部353が、スリット状の溝にはめ込まれた状態で、ピン354で固定されている。また、図12Bに示すように、第2ベーン352の上面側には、第2ベーン352に加わる力を第1ベーン351に伝達する伝達部材としてのリンク部材355が取り付けられている。リンク部材355は、台座部355a、ばね部355bから構成されている。リンク部材355は、第2ベーン352の上面のスリット状の溝に台座部355aがはめ込まれた状態で、ピン356で固定されている。リンク部材355の一部をなすばね部355bは、図10に示すように、第1シリンダ205と第2シリンダ206の間に位置し、図11Aに示すように、第2ベーン352側から第1ベーン351の背面側へと円弧状に伸び、第1ベーンの下面側に設けた突起部353に接する形状となっている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン352は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、第2ベーン352に固定されたリンク部材355が第1ベーン351の突起部353を押すことにより、差圧による力が作用しない第1ベーン351も、第2ベーン352と共に第1ピストン209側に押し出される。ここで、第1ベーン351は、第2ベーン352に対して、シャフト203の軸から見て回転方向に約30deg移動した位置にあるので、第2ピストン210が上死点になる位置から、シャフト203が約30deg回転した位置で第1ピストン209が上死点となる。
本実施の形態6において、第1ベーン351は、第2ベーン352に対して、シャフト203の軸から見て回転方向に約30deg移動した位置にある一方、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向は同一としている。したがって、第2ピストン210が上死点になる位置から、シャフト203が約30deg回転した位置で第1ピストン209が上死点となる。第1ベーン351と第2ベーン352は、ベーン溝205a、206aの回転方向位置が異なるだけでなく、上死点となるタイミング、すなわち、往復運動の位相も異なる。しかし、リンク部材355は、第1シリンダ205と第2シリンダ206の間に位置し、第2ベーン352から第1ベーン351の背面側に伸びるばね部355bが設けられているので、ベーン溝205a、206aの回転方向位置が異なっていたとしても、第1ベーン351は、第2ベーン352から力を受けて押し出される。さらに、ばね部355bが台座部355aを支点として、シャフト203の軸に接近する方向と遠ざかる方向との双方向に弾性変形することにより、第1ベーン351と第2ベーン352の往復運動の位相差を吸収することができる。このとき、第2ベーン352が第1ベーン351よりも先に上死点となるので、第1ベーン351は、ばね部355bによって弾性付勢され、第2ベーン352によって押し出される。
また、第1ベーン351のベーン溝205aと第2ベーン352のベーン溝206aの方向が30deg異なるために、往復運動に伴い第1ベーン351のリンク部材355の台座部355aから、第2ベーン352の突起部353までの距離が変化しても、リンク部材355のばね部355bと第1ベーン351の突起部353が滑るので、スムーズに第2ベーン352により第1ベーン351を押し出すことができる。このように、リンク部材355は、第1ベーン351と第2ベーン352との相対位置関係の変化を吸収しつつ、第2ベーン352に加わる力を第1ベーン351に伝達する。従って、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる回転方向位置になる場合においても、第1ベーン351の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン351が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
ばね部355bを有するリンク部材355は、耐久性の観点から金属製であることが望ましい。例えば、ばねに適した各種ステンレス鋼(SUS302、304、316、631等)は、リンク部材355の材料として好適である。
なお、本実施の形態では、第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aに対し、シャフト203の回転方向へ30deg回転させているが、第1ベーン351の往復運動のベクトルが、第2ベーン352の往復運動のベクトルの方向に対して、正の成分を有する角度の範囲、すなわち、0degから90degの間の範囲であれば、同様の効果が得られる。しかし、より顕著な効果を生むには、角度が小さいことが望ましい。
なお、本実施の形態では、第1ピストン209の偏心量と第2ピストン210の偏心量が等しいとしたが、ばね部355bを有するリンク部材355を用いたことにより、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる方向で、かつ、実施の形態5のように第1ピストン209の偏心量と第2ピストン210の偏心量が等しくない場合、具体的には、第1ピストン209の偏心量が第2ピストン210の偏心量よりも小さい場合においても、同様の効果を発揮する。
なお、本実施の形態では、第2ベーン352にリンク部材355を設け、リンク部材355のばね部355bが第1ベーン351に設けた突起部353を押す構成としたが、第1ベーン351にリンク部材を、第2ベーン352に突起部を設け、リンク部材のばね部を第2ベーン352に設けた突起部が押す構成にしても、同様の効果が得られる。
(実施の形態7)
図13は、本発明の実施の形態7の膨張機360の構成を示す縦断面図である。本実施の形態7の膨張機360の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態7の膨張機360では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン361が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン362が、それぞれ往復動可能に配置されている。第1ベーン361の下面には突起部361aを、第2ベーン362の上面には突起部362aを設けている。第2ベーン362の突起部362aが、第1ベーン361の突起部361aを押すことができるように、突起部361a、362aを互いに接した状態にする。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン362は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、突起部362aにより突起部361aを介して、差圧による力が作用しない第1ベーン361も、第2ベーン362と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン361の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン361が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1ベーン361の突起部361aと第2ベーン362の突起部362aの間で力を伝達するので、第2ベーン362の突起部362aの大きさを、実施の形態1〜6の場合よりも小さくすることができ、突起部362aが第1ベーン361を押す力の反作用により第2ベーン362に生じるモーメントを小さくすることができる。従って、モーメントにより第2ベーン362が傾き、第2シリンダ206のベーン溝206aの上下を覆う中板304と軸受208との間で、第2ベーン362がねじれることを防止できる。従って、信頼性の高い膨張機を提供することができる。
以上に説明した本発明の多段ロータリ式膨張機は、冷凍サイクルにおける冷媒の膨張エネルギーを回収する動力回収装置として有用であるとともに、冷媒以外の圧縮性流体(例えば蒸気)からのエネルギー回収装置としても有用である。
また、本明細書は、2段のシリンダによって1つの膨張室を形成する構成の膨張機を例にいくつかの実施の形態を説明したが、3段以上のシリンダによって複数の膨張室を形成し、それら複数の膨張室を用いて冷媒を段階的に膨張させる構成の膨張機にも本発明の要旨を好適に採用できる。
本発明は、高圧の圧縮性流体の膨張エネルギーを回収することによって機械力や電力を発生する膨張機に関し、特に、冷凍サイクルにおける絞り機構部と置き換えて冷媒の膨張エネルギーを回収する膨張機に関するものである。また、その膨張機を備えた冷凍サイクル装置に関する。
冷凍サイクル装置の冷媒が膨張する際の膨張エネルギーを回収する目的で用いられる膨張機として、ロータリ式膨張機が知られている。
特開平8−338356号公報に示されるような従来のロータリ式膨張機の構成について以下に説明する。ただし、説明を簡略化するために、1ピストンタイプとしている。
図14は従来のロータリ式膨張機100の構成を示す縦断面図であり、図15は図14の膨張機のD1−D1線における横断面図である。発電機101は、密閉容器102に固定されたステータ101aと、シャフト103に固定されたロータ101bからなり、ロータ101bの回転によってステータ101aの巻き線との間に起電力を発生させて電力を得る。シャフト103は、シリンダ104を貫通し、軸受105、106によって回転可能に支持されている。シャフト103には偏心部103aが設けられ、偏心部103aにはシリンダ104の内部に配置されたピストン107が嵌合する。また、シャフト103の中には、シャフト103の軸方向に沿って軸方向流路103bが、偏心部103aには、軸方向流路103bと開口部103cを結ぶ、径方向流路103dが設けられている。
図15に示すように、ピストン107の外周面には係合溝107aが形成されるとともに、シリンダ104にはベーン溝104aが形成されている。ベーン溝104aにより往復動可能に保持されたベーン108は、先端が係合溝107aに係合し、ばね109による力や、ベーン108の先端側と背面側の圧力差による力によって、常時、ピストン107に密着している。シリンダ104とピストン107により形成される三日月形状の空間は、ベーン108により2つの作動室110a、110bに区画される。ピストン107に設けられた吸入孔107bは、作動室110aに連通しており、シリンダ104に設けられた吐出孔104bは、作動室110bに連通している。
高圧の作動流体は、吸入管111から密閉容器102の内部に流入した後、シャフト103の軸方向流路103bと径方向流路103dを経て開口部103cに達する。開口部103cはシャフト103の回転運動とともに回転するが、ピストン107は自転運動を伴わない偏心回転運動、いわゆる揺動運動を行う。このため、ピストン107に設けられた吸入孔107bと、偏心部103aに設けられた開口部103cは、シャフト103の回転運動に伴い、連通と非連通を繰り返す。開口部103cと吸入孔107bが連通している間に、作動流体は作動室110aに吸入される。その後、開口部103cと吸入孔107bが非連通となると、吸入行程が終了する。作動流体は圧力を下げながら膨張し、作動室110aの容積が拡大する方向へとシャフト103を回転させ、発電機101を駆動する。シャフト103の回転に伴い、作動室110aは作動室110bへと移行し、吐出孔104bに連通すると膨張行程が終了する。そして、低圧となった作動流体は吐出孔104bから吐出管112へと吐出される。
ベーン108がピストン107に密着する原理について説明する。図16は、図14の膨張機のD1−D1線における拡大横断面図である。図16において、ピストン107はいわゆる上死点にあり、ベーン108はベーン溝104aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bはベーン108の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dはベーン108の背面と側面から成るエッジである。ベーン108の先端側のR面の半径は、ピストン107の係合溝107aの半径よりも小さくしているため、ベーン108の先端側のR面とピストン107の係合溝107aは点Eで接触し、ベーン108の先端側の面AE、BEは作動室110aにつながる空間に面している。従って、ベーン108の先端側のR面(面AB)に作用する圧力は、作動室110aの圧力である。作動室110aの圧力は、作動室110aが吐出孔104bに連通しているため、吐出圧力Pdに等しい。一方、ベーン108の背面CDに作用する圧力は、密閉容器102の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、これらの圧力差により、ベーン108はピストン107に密着する方向に力を受ける。上死点においては、ベーン108はベーン溝104aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、ベーン108に作用する慣性力は、ピストン107からベーン108の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力によって、十分に余裕を持ってベーン108をピストン107に密着させることができる。
ばね109は、起動時に吸入圧力Psと吐出圧力Pdの差圧が生じるまでの間、ベーン108をピストン107に密着させるための補助的なものである。仮に、二酸化炭素を作動流体とする冷凍サイクルに用いる膨張機であって、ベーン108は鋼製で高さ10mm、幅4mm、長さ20mmとし、吸入圧力Psを100kgf/cm2、吐出圧力Pdを50kgf/cm2とすると、差圧によりベーン108に作用する力は、20kgfとなる。また、ばね109をコイルばねと仮定し、最大たわみ量を6mm、ばね109の外径をベーン108の幅と同じ4mmとすると、このクラスのばねのばね定数は、大きく見積もっても高々0.05kgf/mmであり、ばね力は0.3kgf程度となる。一方、ベーン108が振幅3mmで90Hzの単振動する場合の慣性力は、0.6kgf程度となる。このように、特に90Hzのような高速で運転する場合において、ばね109の力は、ベーン108の往復運動の慣性力より小さく、圧力差によりベーン108をピストン107に押さえつける力が必須であることがわかる。
次に、2004年3月に(独)新エネルギー・産業総合開発機構より発行された成果報告書“エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 CO2空調機用二相流膨張機・圧縮機の開発”に示されるような従来のロータリ式膨張機の構成について以下に説明する。なお、上記成果報告書に示されるロータリ式膨張機は、特開2003−343467号公報に示される圧縮機に対して、冷媒の流れとシャフトの回転方向が逆であるが、基本構成は同じである。
図17は従来のロータリ式膨張機200の構成を示す縦断面図であり、図18Aは図17の膨張機のD2−D2線における横断面図、図18Bは図17の膨張機のD3−D3線における横断面図である。発電機201は、密閉容器202に固定されたステータ201aと、シャフト203に固定されたロータ201bからなる。シャフト203は、中板204によってそれぞれ独立するように仕切られた第1シリンダ205と第2シリンダ206を貫通し、軸受207、208によって回転可能に支持されている。シャフト203には、シャフト203の軸に対する偏心方向が同じである第1偏心部203aと第2偏心部203bが軸方向に沿った上下に設けられ、第1偏心部203aには第1シリンダ205の内部に配置された第1ピストン209が、第2偏心部203bには第2シリンダ206の内部に配置された第2ピストン210が嵌合する。
第1シリンダ205と第1ピストン209、および第2シリンダ206と第2ピストン210の高さや径は、第1シリンダ205と第1ピストン209により形成される三日月形状の空間が、第2シリンダ206と第2ピストン210により形成される三日月形状の空間よりも小さくなるように設定する。図17の例では、第1シリンダ205の内径と第2シリンダ206の内径は等しく、第1ピストン209の外径と第2ピストン210の外径とが等しく、かつ第2シリンダ206の高さが第1シリンダ205の高さよりも大となっている。この構成は、本発明のいくつかの実施の形態でも踏襲されている。
図18Aおよび図18Bに示すように、第1シリンダ205および第2シリンダ206には、ベーン溝205aおよび206aがそれぞれ形成されている。ベーン溝205a、206aにより、それぞれ往復動可能に保持された第1ベーン211および第2ベーン212は、ばね213、214による力や、各ベーン211、212の先端側と背面側の圧力差による力によって、各ピストン209、210に密着している。第1シリンダ205と第1ピストン209により形成される三日月形状の空間は、第1ベーン211により2つの作動室215a、215bに区画される。また、第2シリンダ206と第2ピストン210により形成される三日月形状の空間は、第2ベーン212により2つの作動室216a、216bに区画される。第1シリンダ205に設けられた吸入孔205b(吸入路)は、作動室215a(第1吸入側空間)に連通しており、作動室215b(第1吐出側空間)と作動室216a(第2吸入側空間)は、中板204に斜め方向に第1ベーン211と第2ベーン212の間を通過するように設けられた連通孔204a(連通路)で連通して一つの空間を形成している。また、第2シリンダ206に設けられた吐出孔206b(吐出路)は、作動室216b(第2吐出側空間)に連通している。
高圧の作動流体は、吸入管217から密閉容器202の内部に流入した後、吸入孔205bから、第1シリンダ205の作動室215aに吸入される。シャフト203の回転運動に伴って作動室215aの容積は拡大し、やがて、第1シリンダ205の内部の連通孔204aと連通する作動室215bへと移行し、吸入行程が終了する。作動室215bは、連通孔204aを通じて第2シリンダ206の作動室216aと連通して一つの作動室を形成しており、高圧の作動流体は、連通した作動室全体の容積が増加する方向、すなわち、作動室215bの容積が減少し、作動室216aの容積が増加する方向へとシャフト203を回転させ、発電機201を駆動する。シャフト203の回転に伴って作動室215bは消滅し、作動室216aは吐出孔206bと連通する作動室216bへと移行し、膨張行程が終了する。そして、低圧となった作動流体は吐出孔206bから吐出管218へと吐出される。
以上の説明で用いた図18Aおよび図18Bでは、第1シリンダ205と第2シリンダ206の各ベーン溝205a、206aの回転方向位置を同じにしていたが、必ずしもこの限りではない。図19は各ベーン溝205a、206aが異なる回転方向位置になる場合の従来のロータリ式膨張機400の構成を示す縦断面図であり、図20Aは図19の膨張機のD4−D4線における横断面図、図20Bは図19の膨張機のD5−D5線における横断面図である。ここでいう回転方向位置とは、シャフト203の周りにおける角度位置のことである。
第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aに対し、約30deg回転している。このようにすることにより、中板204に設ける連通孔204aを中板204に垂直に設けることができ、かつ、斜めの連通孔204aのために中板204を厚くする必要が無くなるので、連通孔204aの容積を大幅に減らすことができ、連通孔204aの中に残る作動流体の量を低減し、効率低下を抑えることができる。
第1ベーン211が第1ピストン209に、第2ベーン212が第2ピストン210に密着する原理について説明する。図21Aは図17の膨張機のD2−D2線における拡大横断面図、図21Bは図17の膨張機のD3−D3線における拡大横断面図である。
第1ピストン209は、図21Aにおいていわゆる上死点にあり、第1ベーン211は、ベーン溝205aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bは第1ベーン211の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dは第1ベーン211の背面と側面から成るエッジであり、第1ベーン211の先端側のR面と第1ピストン209は、点Eで接触している。第1ベーン211の先端側のR面に作用する圧力は、作動室215aの圧力である。作動室215aの圧力は、作動室215aが吸入孔205bに連通しているため、吸入圧力Psに等しい。一方、第1ベーン211の背面CDに作用する圧力は、密閉容器102の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、第1ベーン211の先端側と背面側に圧力差は無く、圧力差により第1ベーン211を第1ピストン209に密着させる力は作用しない。上死点においては、第1ベーン211はベーン溝205aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、第1ベーン211に作用する慣性力は、第1ピストン209から第1ベーン211の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力が作用しないために、ばね213により第1ベーン211が第1ピストン209から離れないように押さえつける必要がある。図14〜図16に示した従来のロータリ式膨張機100におけるベーン108の慣性力とばね109の力の試算では、ベーン108の慣性力の方が大きくなったことから解るように、ばね213の力は第1ベーン211を第1ピストン209に密着させるのに必ずしも十分とは言えない。このため、第1ベーン211の材料を鋼からカーボンに変更したり、形状を小さくすることなどにより質量を小さくし、第1ベーン211の慣性力がばね213の力より小さくなるように設計しなくてはならない。他の方法として、図22に示すように、ベーンとピストンを一体形成したスウィングピストン219を用いることにより、ベーンがピストンから離れることのない構成としてもよい。
一方の第2ピストン210は、図21Bにおいて上死点にあり、第2ベーン212は、ベーン溝206aの中に最も押し込まれた状態となっている。A、Bは第2ベーン212の先端側のR面と側面から成るエッジ、C、Dは第2ベーン212の背面と側面から成るエッジであり、第2ベーン212の先端側のR面と第2ピストン210は、点Eで接触している。第2ベーン212の先端側ABに作用する圧力は、作動室216bの圧力である。作動室216bは、吐出孔206bに連通しているため、圧力が吐出圧力Pdに等しい。一方、第2ベーン212の背面CDに作用する圧力は、密閉容器202の内部圧力であり、常に吸入圧力Psに等しい。従って、これらの圧力差により、第2ベーン212は第2ピストン210に密着する方向に力を受ける。上死点においては、第2ベーン212はベーン溝206aに入る方向から出る方向へと運動方向が逆転するので、第2ベーン212に作用する慣性力は、第2ピストン210から第2ベーン212の先端を離す方向に作用する。しかし、圧力差による力によって、十分に余裕を持って第2ベーン212を第2ピストン210に密着させることができる。ばね214は、特開平8−338356号公報に示される膨張機と同様、起動時に吸入圧力Psと吐出圧力Pdの差圧が生じるまでの間、第2ベーン212を第2ピストン210に密着させるための補助的なものである。
しかしながら、図17〜図21に示す従来のロータリ式膨張機では、第1ベーンの先端側と背面側に作用する圧力の差による押し出し力が得られず、アルミやカーボン等の材料により質量を特別に小さくする場合を除いて、ベーンに作用する慣性力によりベーンの先端がピストンから離れてしまい、作動流体が漏れるために著しく性能が低下し、場合によっては、作動室が形成されず、膨張機として機能しないという課題が生じていた。
また、第1ベーンを軽量化の為にアルミ製やカーボン製にした場合、ベーン溝との間の摺動による信頼性の低下と、材料コストの増加という課題が生じていた。
また、図22に示すような、スウィングピストンを用いる場合には、従来のピストンやベーンと同等の加工精度に仕上げようとすると、加工コストが高くなるという課題が生じていた。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ベーンの信頼性の低下や材料コストの増加を伴わず、また、スウィングピストンのように加工コストの増加を伴わずに、第1ベーンの先端がピストンから離れることを防止することにより、作動流体の漏れを防止し、膨張機としての安定した動作を可能とするとともに、ひいては高効率かつ低コスト、高信頼性である多段ロータリ式膨張機を提供することを目的としている。併せて、その膨張機を備えた冷凍サイクル装置を提供する。
すなわち、本発明は、
軸方向に沿った上下に第1偏心部および第2偏心部を有するシャフトと、
第1偏心部に取り付けられ、偏心回転運動する第1ピストンと、
内面の一部が第1ピストンと接するように配置された第1シリンダと、
第1シリンダに設けられた第1ベーン溝に往復動可能に配置され、先端が第1ピストンに接することにより、第1シリンダと第1ピストンとの間の空間を、第1吸入側空間と第1吐出側空間とに区画する第1ベーンと、
第2偏心部に取り付けられ、偏心回転運動する第2ピストンと、
内面の一部が第2ピストンと接するように配置された第2シリンダと、
第2シリンダに設けられた第2ベーン溝に往復動可能に配置され、先端が第2ピストンに接することにより、第2シリンダと第2ピストンとの間の空間を、第2吸入側空間と第2吐出側空間とに区画し、かつ第2シリンダの外部の高圧雰囲気によって第2ピストンに向かう方向の力が加わる第2ベーンと、
第1吸入側空間へ膨張前の作動流体を吸入させる吸入路と、
第1吐出側空間と第2吸入側空間を連通し、作動流体を膨張させるための作動室を形成する連通路と、
第2吐出側空間から膨張後の作動流体を吐出させる吐出路とを備え、
第2ベーンが第2ピストン側に移動する際に、第1ピストンに向かう方向の力を第2ベーンが第1ベーンに加える、多段ロータリ式膨張機を提供する。
上記本発明の多段ロータリ式膨張機(以下、単に膨張機ともいう)は、図17で説明したロータリ式膨張機の基本構成を踏襲している。第1シリンダ内の吐出側の作動室(第1吐出側空間)と、第2シリンダ内の吸入側の作動室(第2吸入側空間)とからなる1つの作動室(膨張室)で、作動流体を膨張させる。第2ベーンが第2ピストン側に移動する際に、第1ピストンに向かう方向の力を第2ベーンが第1ベーンに加えるので、第1ベーンは第2ベーンに連動して第1ピストンに押し付けられる。つまり、第1ベーンに加わる力の不足分を第2ベーンに加わる力の余分で補うようにする。これにより、第1ベーンの先端側と後端側に圧力差が無かったとしても、第1ベーンと第1ピストンとの接触状態を維持できる。
このように、本発明の膨張機によれば、ベーンの信頼性の低下や材料コストの増加を伴わず、また、スウィングピストンのように加工コストの増加を伴わずに、第1ベーンの先端が第1ピストンから離れることを防止できる。これにより、膨張機としての安定した動作を可能とするとともに、高効率かつ低コスト、高信頼性である膨張機を実現することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1の膨張機300の構成を示す縦断面図である。本実施の形態1の膨張機300の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
膨張機300は、空調機や給湯機の心臓部をなす冷凍サイクル装置に適用することができる。図1Cに示すように、冷凍サイクル装置500は、冷媒を圧縮する圧縮機501と、圧縮機501で圧縮された冷媒を放熱させる放熱器502と、放熱器502で放熱した冷媒を膨張させる膨張機300と、膨張機300で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器503とを備えている。膨張機300は、冷媒の膨張エネルギーを電力の形で回収する。回収された電力は、圧縮機501を作動させるために必要な電力の一部として使用される。ただし、膨張機300のシャフトと、圧縮機501のシャフトとを連結することにより、冷媒の膨張エネルギーを電力に変換せずに、機械力の形で圧縮機501に直接伝達する形態も採用することができる。
図1Aに示すように、本実施の形態1の膨張機300では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。ピストン209、210の偏心方向は、シャフトの203の軸からピストン209、210の中心に向かう方向である。ピストン209、210の偏心量は、シャフトの203の中心とピストン209、210の中心との距離に等しい。第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aには、第1シリンダ205用の第1ベーン部301bと第2シリンダ206用の第2ベーン部301cとが一体化されたベーン301が往復動可能(スライド可能)に配置されている。ベーン301には、中板304の厚さに略等しい幅の切欠き301aが設けられており、切欠き301aにより、先端側が第1ピストン209と接する第1ベーン部301bと、第2ピストン210と接する第2ベーン部301cに分割されている。第1ベーン301bと、第2ベーン301cの背面側には、それぞれ、ばね213、214が配置されている。
中板304には、ベーン301に対応する位置に、切欠き304kが形成されている。この切欠き304kは、ベーン301の先端がシャフト203の軸に最も接近したとき、中板304とベーン301とが干渉しないように、径方向の形成長さが調整されている。中板304のこのような切欠き304kにより、ベーン301の背面は、シリンダ205、206の外部の高圧雰囲気、具体的には、密閉容器202内に貯留された潤滑油にさらされる。従って、ベーン301の背面には、潤滑油の圧力、言い換えれば、密閉容器202内を満たす作動流体の圧力が懸かる。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、ベーン301の一部である第2ベーン部301cには、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力が作用し、第2ベーン部301cが第2ピストン210側に押し出される。第2ベーン部301cが押し出されると、差圧による力が作用しない第1ベーン部301bも、第2ベーン部301cと共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン部301bの先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン部301bが第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、ベーン301は切欠き301aを設けるだけなので加工が容易であり、図22のスウィングピストン219よりも低コストで作製できる。また、従来2部品だったものを1部品としたので、部品点数減によるコスト削減効果も見込める。
また、図1Aに示した例では、U字状のベーン301が分離不能な単一部品からなり、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとは、それぞれ、そのU字状のベーン301の一端部と他端部とをなしている。すなわち、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとの相対位置関係は不変である。このように、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cとを有するベーン301を用いることにより、両ベーン部301b、301cを簡単かつ完全にシンクロさせることができる。
また、第1ピストン209と第2ピストン210の外径が異なる場合には、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cの先端は、それぞれのピストン209、210の外周面に接するように長さを変えて加工する必要がある。一方、図1Aに示すように、第1シリンダ205と第2シリンダ206の内径が等しく、かつ第1ピストン209と第2ピストン210の外径が等しい場合、第1ベーン部301bの先端と第2ベーン部301cの先端とを、まっすぐ揃える必要がある。具体的には、図1Bに示すように、第1ベーン部301bの先端E1および第2ベーン部301cの先端E2は、シャフト203の軸方向と平行な仮想直線SLに含まれる、すなわち、シャフト203の軸からの距離が常に等しい。単一部品であるベーン301は、切欠き301aを設ける前に、先端側を加工しておき、後から切欠き301aを設けるだけで、第1ベーン部301bと第2ベーン部301cの先端を同時に形成できる。従って、加工が容易であり、低コスト化を図ることができる。
また、本実施の形態1では、第1ベーン部301bの背面側にばね213を、第2ベーン部301cの背面側にばね214を配置したが、少なくとも一つのばねがベーン301の背面側にあれば、膨張機の起動時に第1ベーン部301bの先端と第2ベーン部301cの先端を、それぞれ第1ピストン209と第2ピストン210に密着させることができる。
実施の形態1では、単一部品からなるベーンを用いる例を示したが、第1ベーンと第2ベーンとは、別々の部品で構成することができる。この場合、第1ベーンと第2ベーンとは、相対位置関係の変化が許容されるので、組立誤差や部品の加工誤差を吸収しやすくなる。以下の実施形態では、そうした例について説明を行なう。
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2の膨張機310の構成を示す縦断面図、図3Aは図2における第1ベーンの正面図および底面図、図3Bは図2における連結部材の斜視図、図3Cは図2における第2ベーンの平面図および正面図である。本実施の形態2の膨張機310の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態2の膨張機310は、第2ベーン312に加わる力を第1ベーン311に伝達し、第2ベーン312の動きに第1ベーン311の動きを連鎖させる伝達部材を備えている。こうした伝達部材を用いることにより、第2ベーン312によって第1ベーン311を確実に押すことができる。より具体的には、第1ベーン311と第2ベーン312とを連結する連結部材313を、上記伝達部材として採用している。
本実施の形態2の膨張機310では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン311が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン312が、それぞれ前後にスライド可能に配置されている。第1ベーン311の下面には、その下面に垂直な方向に延びる長円孔311aを、第2ベーン312の上面には、その上面に垂直な方向に延びる円筒孔312aを設けている。円筒孔312aには、円柱形状の連結部材313の一端部が、微小なクリアランスを介して、回転可能、かつ、円筒孔312aの深さ方向にスライド可能に挿入されている。長円孔311aには、連結部材313の他端部が、短軸方向に小さなクリアランスを介して、回転可能、長円孔311aの深さ方向にスライド可能、かつ、長円孔311aの長軸方向にもスライド可能に挿入されている。また、第1ベーン311と、第2ベーン312の背面側にはそれぞれ、ばね213、214が配置されている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン312は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン311も、連結部材313により、第2ベーン312と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン311の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン311が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、実施の形態1の場合、図1Aにおけるベーン301の切欠き301aの幅と中板304の厚さの関係は、ベーン301を往復動可能であるとともに、クリアランスからの漏れが十分に少なく許容できる範囲(10〜20μm程度)で切欠き301aの幅を中板304の厚みよりも若干大きくする必要がある。従って、中板304および切欠き301aの加工精度や、中板304と切欠き301aのマッチングが要求される。第1ベーン部301bの上面から第2ベーン301cの下面までの幅は、第1シリンダ205、第2シリンダ206、中板304の各厚みの合計よりもクリアランスからの漏れが十分に少なく許容できる範囲(10〜20μm程度)で小さくする必要がある。これに対し、本実施の形態2では、連結部材313が長円孔311aと円筒孔312aの内部で軸方向にスライド可能なので、中板304の厚みが多少ばらついた場合にでも、第1ベーン311の下面と、第2ベーン312の上面の間の幅が可変となり、簡単に加工、組立や、クリアランスの設定が可能となる。
また、本実施の形態2では、第1ベーン311に長円孔311aを設け、連結部材313が長円孔311aの長軸方向にスライド可能(揺動可能)としている。長円孔311aの長軸方向は、シャフト203の回転方向に沿っている。また、連結部材313は、第1ベーン311の長円孔311aの底面と、第2ベーン312の円筒孔312aの底面との距離(最短距離)よりも短く調整されているので、円筒孔312aや長円孔311aの深さ方向にも動くことができる。つまり、連結部材313は、第1ベーン311や第2ベーン312の往復動の方向に対して垂直方向にわずかに動くことができる。言い換えれば、連結部材313は、第1ベーン311と第2ベーン312との相対位置関係の変化を吸収しつつ、第2ベーン312に加わる力を第1ベーン311に伝達している。従って、第1シリンダ205のベーン溝205aと第2シリンダ206のベーン溝206aが、組立誤差により回転方向に微小に距離がずれたり、完全に平行では無かったりする場合でも、第1ベーン311および第2ベーン312は、それぞれのベーン溝205a、206aの中でねじれることが防止されてスムーズに作動できる。この結果、ベーン311、312の損傷や摺動面の異常摩耗が防止され、ひいては高信頼性の膨張機の提供できるようになる。
なお、本実施の形態2では、円柱形状の連結部材313を用いたが、角柱や楕円柱等の他の柱状の連結部材を用いた場合でも、同様の効果が得られる。また、連結部材313は、ベーン311、312と同様の材料である金属だけでなく、セラミックやエンジニアリングプラスチック等の他の硬質材料によっても構成することができる。また、連結部材313の全部がエラストマー等の弾性体で構成されていてもよい。
さらに、一部が弾性体で構成された連結部材を用いることも可能である。例えば、図3Dに示すように、棒状の本体部316と、その棒状の本体部316の端部316t、316tが挿入されたゴム製の筒体317、317とからなる連結部材315を、図3Bに示す連結部材313に代えて用いることができる。本体部316は、例えば金属、セラミック、エンジニアリングプラスチックのような硬質材料によって構成することができる。筒体317は、例えばイソプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムのようなエラストマーによって構成することができる。筒体317は、本体部316の両方の端部316t、316tに取り付けられていることが望ましいが、一方の端部316tにのみ取り付けられていてもよい。このような連結部材315によれば、ベーン311、312の孔との間に特に意識してクリアランスを設けなくても、筒体317の弾性変形により各種誤差が吸収される。
また、図3Eに示すように、第1ベーン311の孔311aに係合する棒状の第1本体部318aと、第2ベーン312の孔312aに係合する棒状の第2本体部318bと、それら第1本体部318aと第2本体部318bとを接続するゴム製の筒体318cとからなる連結部材319を好適に用いることができる。この連結部材319によれば、シャフト203の軸と平行な方向に関して、筒体318cが第1シリンダ205と第2シリンダ206との間に配置されるので、筒体318cの伸縮量を比較的大きく設定することが可能である。
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3の膨張機320の構成を示す縦断面図、図5は、図4の膨張機における第2ベーンの正面図、側面図、および平面図である。本実施の形態3の膨張機320の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態3の膨張機320では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン321が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン322が、それぞれ往復動可能に配置されている。第2ベーン322の第1ベーン側には突起部322aが設けられている。その突起部322aは第1ベーン321の背面に接している。図5に示すように、突起部322aは第2ベーン322に設けた孔322bに嵌合されて、第2ベーン322と一体化されている。そして、突起部322aの厚みWは、第1ベーン321の厚みよりも薄くしている。突起部322aや第1ベーン321の厚みは、ベーン321、322のスライド方向とシャフト203の軸方向との双方に垂直な方向の厚みのことである。第2ベーン322の背面側には、ばね214が配置されている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン322は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン321も、突起部322aにより、第2ベーン322と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン321の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン321が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1ベーン321と、第2ベーン322は、別々の部品なので、実施の形態1のように中板の厚さに依存することは無く、簡単に各ベーン321、322の加工、組立や、クリアランスの設定が可能となる。
また、第2ベーン322とは別部品である突起部322aを、第2ベーン322に形成された孔322bに嵌合して一体化する構成としたことにより、第2ベーン322の上面を研摩した後に突起部322aを設けることが可能となり、第2ベーン322が高精度に加工でき、かつ、加工が容易になる。ただし、第2ベーン322と突起部322aをはじめから一体形成しても機能上の差は無い。
また、本実施の形態3では、突起部322aの厚みWを、第1ベーン321の厚みよりも薄くしている。そのため、第1シリンダ205のベーン溝205aと第2シリンダ206のベーン溝206aが、組立誤差により回転方向に微小に距離がずれたり、完全に平行ではなかったりする場合でも、突起部322aの厚みと第1ベーン321の厚みとの差によって、そうした誤差を相殺することができる。この結果、突起部322aがベーン溝205aの中でねじれることが防止され、ベーン321、322がスムーズに作動できるようになるので、ベーン321、322の損傷や摺動面の異常摩耗が防止され、ひいては高信頼性の膨張機の提供できるようになる。
なお、本実施の形態3では、第2ベーン322に突起部322aを設けたが、図6に示す膨張機325のように、第1ベーン326の下面に突起部326aを設けて、第2ベーン327に設けた切欠き327aに引っ掛ける構成としてもよい。このようにしても、第2ベーン327は、突起部326aを介して第1ベーン326を第1ピストン209側にしっかりと押すので、同様の効果が得られる。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4の膨張機330の構成を示す縦断面図である。本実施の形態4の膨張機330の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態4の膨張機330では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン331が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン332が、それぞれ往復動可能に配置されている。第1ベーン331の背面側には樹脂製の弾性部331aを設けている。弾性部331aは、例えばイソプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムのようなエラストマーによって構成される。また、第2ベーン332の第1ベーン側には突起部332aがあり、突起部332aは第1ベーン331の背面側の弾性部331aに接している。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン332は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン331も、突起部332aおよび弾性部331aにより、第2ベーン332と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン331の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン331が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、加工誤差で第1ベーン331が短くなり、第2ベーン332の突起部332aと第1ベーン331の背面の間にクリアランスが生じて、第2ベーン332の突起部332aが第1ベーン331を押す度に衝突が生じる場合でも、第1ベーン331の背面側に弾性部331aを設けたことにより、衝突音の発生が防止され、かつ、衝突によるベーン331、322の破損を防止することができ、ひいては低騒音で高信頼性の膨張機を提供することができる。
逆に、加工誤差で第1ベーン331が長くなる場合には、第2ベーン332の先端側と第2ピストン210との間にクリアランスが生じると考えられるが、本実施の形態4では、第1ベーン331の弾性部331aが変形してクリアランスを吸収するので、第2ベーン332の先端側と第2ピストン210との間にクリアランスは生じない。従って、作動流体の漏れを防止することができるので、高効率な膨張機を提供することができる。
なお、本実施の形態4では、第1ベーン331に弾性部331aを設けたが、第2ベーン332の突起部332aに弾性部を設けるか、あるいは、第2ベーン332の突起部332aを弾性体で構成しても同様の効果が得られる。
(実施の形態5)
図8は、本発明の実施の形態5の膨張機340の構成を示す縦断面図であり、図9Aは図8の膨張機のD2−D2線における横断面図、図9Bは図8の膨張機のD3−D3線における横断面図である。本実施の形態5の膨張機340の構成は、ベーン、中板およびピストンの偏心量を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態5の膨張機340では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向は等しいが、図9Aに示す第1ピストン209の偏心量e1は、図9Bに示す第2ピストン210の偏心量e2よりも小さくしており、第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン341が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン342が、それぞれ往復動可能に配置されている。第2ベーン342の第1ベーン側には突起部342aが設けられ、第1ベーン341の背面と第2ベーン342の突起部342aの間には、第1ベーン341のスライド方向に伸縮する弾性体としてのばね343が配置されている。ばね343のたわみ量(伸縮長さ)は、第1ピストン209の偏心量e1と第2ピストン210の偏心量e2の差の2倍以上とする。例えば、第1ピストン209の偏心量e1が1.5mmで、第2ピストン210の偏心量e2が2.0mmとすれば、1.0mm以上たわめば良い。ばね定数は十分に大きく設定しておく。具体的には、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力で、最大たわみ量となる程度のばね定数が望ましい。背景技術で説明したように、第2ベーン342にはおよそ20kgfの力が働くので、その1/4の力で1mmたわむ場合のばね定数は5kgf/mmとなる。これを、第1ベーン341の背面側と第2ベーン342の突起部342aの間に配置するので、ばね343は、コイルばねよりも板ばねや皿ばねが望ましい。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン342は、第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、差圧による力が作用しない第1ベーン341も、突起部342aとばね343により、第2ベーン342と共に第1ピストン209側に押し出される。ここで、第1ベーン341の往復運動のストロークは、第1ピストン209の偏心量e1の2倍であり、第2ベーン342の往復運動のストロークは、第2ピストン210の偏心量e2の2倍であるので、上死点を基準に考えると、第2ベーン342が第1ベーン341を押そうとする距離と、第1ベーン341が移動する距離が一致しない。しかし、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心量の差の2倍のストロークを持つばね343を配置したことにより、その距離の差を吸収することができる。従って、第1ピストン209の偏心量e1と、第2ピストン210の偏心量e2が異なる場合においても、第1ベーン341の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン341が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1シリンダ205と第1ベーン341との間にばね343を設けても第1ベーン341を押し出す効果は得られるが、第1ベーン341の背面と第2ベーン342の突起部342aの間にばね343を設けたことにより、ばね343のストロークが小さくて済み、上述した5kgf/mm程度のばねをよりコンパクトにすることができる。従って、ベーン341の背後の限られたスペースの中に配置することができる。
また、ばね343のばね定数を、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力とした理由については、第2ベーン342に作用する差圧による力は、ばね343の反力により1/4程度減少するが、それでも第2ベーン342を押し出す力は十分に残っており、かつ、第1ベーン341を押し出す力は、第2ベーン342に作用する差圧による力の1/4程度の力があれば十分であるからである。
(実施の形態6)
図10は、本発明の実施の形態6の膨張機350の構成を示す縦断面図、図11Aは図10の膨張機のD4−D4線における横断面図、図11Bは図10の膨張機のD5−D5線における横断面図、また、図12Aは図10の膨張機の第1ベーンの斜視図、図12Bは図10の膨張機の第2ベーンの斜視図である。本実施の形態6の膨張機350の構成は、ベーンおよび中板を除いて図19、図20を用いて説明した、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる回転方向位置になる場合の従来のロータリ式膨張機400と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態6の膨張機350では、第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aの位置に対し、シャフト203の回転方向へ30deg回転させており、かつ、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン351が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン352が、それぞれ往復動可能に配置されている。図12Aに示すように、第1ベーン351の下面側には、突起部353が、スリット状の溝にはめ込まれた状態で、ピン354で固定されている。また、図12Bに示すように、第2ベーン352の上面側には、第2ベーン352に加わる力を第1ベーン351に伝達する伝達部材としてのリンク部材355が取り付けられている。リンク部材355は、台座部355a、ばね部355bから構成されている。リンク部材355は、第2ベーン352の上面のスリット状の溝に台座部355aがはめ込まれた状態で、ピン356で固定されている。リンク部材355の一部をなすばね部355bは、図10に示すように、第1シリンダ205と第2シリンダ206の間に位置し、図11Aに示すように、第2ベーン352側から第1ベーン351の背面側へと円弧状に伸び、第1ベーンの下面側に設けた突起部353に接する形状となっている。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン352は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、第2ベーン352に固定されたリンク部材355が第1ベーン351の突起部353を押すことにより、差圧による力が作用しない第1ベーン351も、第2ベーン352と共に第1ピストン209側に押し出される。ここで、第1ベーン351は、第2ベーン352に対して、シャフト203の軸から見て回転方向に約30deg移動した位置にあるので、第2ピストン210が上死点になる位置から、シャフト203が約30deg回転した位置で第1ピストン209が上死点となる。
本実施の形態6において、第1ベーン351は、第2ベーン352に対して、シャフト203の軸から見て回転方向に約30deg移動した位置にある一方、第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向は同一としている。したがって、第2ピストン210が上死点になる位置から、シャフト203が約30deg回転した位置で第1ピストン209が上死点となる。第1ベーン351と第2ベーン352は、ベーン溝205a、206aの回転方向位置が異なるだけでなく、上死点となるタイミング、すなわち、往復運動の位相も異なる。しかし、リンク部材355は、第1シリンダ205と第2シリンダ206の間に位置し、第2ベーン352から第1ベーン351の背面側に伸びるばね部355bが設けられているので、ベーン溝205a、206aの回転方向位置が異なっていたとしても、第1ベーン351は、第2ベーン352から力を受けて押し出される。さらに、ばね部355bが台座部355aを支点として、シャフト203の軸に接近する方向と遠ざかる方向との双方向に弾性変形することにより、第1ベーン351と第2ベーン352の往復運動の位相差を吸収することができる。このとき、第2ベーン352が第1ベーン351よりも先に上死点となるので、第1ベーン351は、ばね部355bによって弾性付勢され、第2ベーン352によって押し出される。
また、第1ベーン351のベーン溝205aと第2ベーン352のベーン溝206aの方向が30deg異なるために、往復運動に伴い第1ベーン351のリンク部材355の台座部355aから、第2ベーン352の突起部353までの距離が変化しても、リンク部材355のばね部355bと第1ベーン351の突起部353が滑るので、スムーズに第2ベーン352により第1ベーン351を押し出すことができる。このように、リンク部材355は、第1ベーン351と第2ベーン352との相対位置関係の変化を吸収しつつ、第2ベーン352に加わる力を第1ベーン351に伝達する。従って、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる回転方向位置になる場合においても、第1ベーン351の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン351が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
ばね部355bを有するリンク部材355は、耐久性の観点から金属製であることが望ましい。例えば、ばねに適した各種ステンレス鋼(SUS302、304、316、631等)は、リンク部材355の材料として好適である。
なお、本実施の形態では、第1シリンダ205のベーン溝205aの位置は、第2シリンダ206のベーン溝206aに対し、シャフト203の回転方向へ30deg回転させているが、第1ベーン351の往復運動のベクトルが、第2ベーン352の往復運動のベクトルの方向に対して、正の成分を有する角度の範囲、すなわち、0degから90degの間の範囲であれば、同様の効果が得られる。しかし、より顕著な効果を生むには、角度が小さいことが望ましい。
なお、本実施の形態では、第1ピストン209の偏心量と第2ピストン210の偏心量が等しいとしたが、ばね部355bを有するリンク部材355を用いたことにより、第1シリンダ205のベーン溝205aと、第2シリンダ206のベーン溝206aが異なる方向で、かつ、実施の形態5のように第1ピストン209の偏心量と第2ピストン210の偏心量が等しくない場合、具体的には、第1ピストン209の偏心量が第2ピストン210の偏心量よりも小さい場合においても、同様の効果を発揮する。
なお、本実施の形態では、第2ベーン352にリンク部材355を設け、リンク部材355のばね部355bが第1ベーン351に設けた突起部353を押す構成としたが、第1ベーン351にリンク部材を、第2ベーン352に突起部を設け、リンク部材のばね部を第2ベーン352に設けた突起部が押す構成にしても、同様の効果が得られる。
(実施の形態7)
図13は、本発明の実施の形態7の膨張機360の構成を示す縦断面図である。本実施の形態7の膨張機360の構成は、ベーンおよび中板を除いて図17、図18、および図21を用いて説明した従来のロータリ式膨張機200と同様の構成である。また、同一機能部品については同一番号を使用し、従来例と同一の構成および作用の説明は省くことにする。
本実施の形態7の膨張機360では、シャフト203に対する第1ピストン209と第2ピストン210の偏心方向および偏心量を等しくしている。第1シリンダ205のベーン溝205aには第1ベーン361が、第2シリンダ206のベーン溝206aには第2ベーン362が、それぞれ往復動可能に配置されている。第1ベーン361の下面には突起部361aを、第2ベーン362の上面には突起部362aを設けている。第2ベーン362の突起部362aが、第1ベーン361の突起部361aを押すことができるように、突起部361a、362aを互いに接した状態にする。
このような構成とすることにより、シャフト203の回転に伴って各ピストン209、210が上死点から下死点に向かって移動する際、第2ベーン362は、ばね214の力に加えて第2シリンダ206の内外の差圧による力により第2ピストン210側に押し出され、先端が第2ピストン210に接する。このとき、突起部362aにより突起部361aを介して、差圧による力が作用しない第1ベーン361も、第2ベーン362と共に第1ピストン209側に押し出される。従って、第1ベーン361の先端と第1ピストン209の密着を保つことができ、第1ベーン361が第1ピストン209から離れて膨張機の作動室215a、215bが形成されずにシャフト203の回転が不安定になることや、作動流体が漏れることによる性能低下が防止され、高効率で安定した動作の膨張機を提供することができる。
また、第1ベーン361の突起部361aと第2ベーン362の突起部362aの間で力を伝達するので、第2ベーン362の突起部362aの大きさを、実施の形態1〜6の場合よりも小さくすることができ、突起部362aが第1ベーン361を押す力の反作用により第2ベーン362に生じるモーメントを小さくすることができる。従って、モーメントにより第2ベーン362が傾き、第2シリンダ206のベーン溝206aの上下を覆う中板304と軸受208との間で、第2ベーン362がねじれることを防止できる。従って、信頼性の高い膨張機を提供することができる。
以上に説明した本発明の多段ロータリ式膨張機は、冷凍サイクルにおける冷媒の膨張エネルギーを回収する動力回収装置として有用であるとともに、冷媒以外の圧縮性流体(例えば蒸気)からのエネルギー回収装置としても有用である。
また、本明細書は、2段のシリンダによって1つの膨張室を形成する構成の膨張機を例にいくつかの実施の形態を説明したが、3段以上のシリンダによって複数の膨張室を形成し、それら複数の膨張室を用いて冷媒を段階的に膨張させる構成の膨張機にも本発明の要旨を好適に採用できる。
本発明の実施の形態1における膨張機の縦断面図
図1Aに示すベーンの拡大図
図1に示す膨張機を好適に採用できる冷凍サイクル装置のブロック図
本発明の実施の形態2における膨張機の縦断面図
図2に示す膨張機の第1ベーンの正面図および底面図
図2に示す膨張機の連結部材の斜視図
図2に示す膨張機の第2ベーンの平面図および正面図
連結部材の別の例の斜視図
連結部材の別の例の斜視図
本発明の実施の形態3における膨張機の縦断面図
図4に示す膨張機のベーンの拡大図
本発明の実施の形態3における別の膨張機の縦断面図
本発明の実施の形態4における膨張機の縦断面図
本発明の実施の形態5における膨張機の縦断面図
図8に示す膨張機のD2−D2線における横断面図
図8に示す膨張機のD3−D3線における横断面図
本発明の実施の形態6における膨張機の縦断面図
図10に示す膨張機のD4−D4線における横断面図
図10に示す膨張機のD5−D5線における横断面図
図10に示す膨張機の第1ベーンの斜視図
図10に示す膨張機の第2ベーンの斜視図
本発明の実施の形態7における膨張機の縦断面図
従来の膨張機の縦断面図
図14の膨張機のD1−D1線における横断面図
図14の膨張機のD1−D1線における拡大横断面図
従来の膨張機の縦断面図
図17に示す膨張機のD2−D2線における横断面図
図17に示す膨張機のD3−D3線における横断面図
従来の膨張機の縦断面図
図19に示す膨張機のD4−D4線における横断面図
図19に示す膨張機のD5−D5線における横断面図
図17に示す膨張機のD2−D2線における拡大横断面図
図17に示す膨張機のD3−D3線における拡大横断面図
従来の膨張機の膨張機構部における拡大横断面図