以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。以下では、本発明に係る特性測定手法を、音響空間における信号遅延時間測定に適用した場合について説明する。
[基本原理]
まず、本発明による信号遅延時間測定の基本原理について説明する。図1に、信号遅延時間測定のための基本的構成を模式的に示す。図示のように、信号遅延時間測定装置は、信号処理回路2と、測定用信号発生器3と、D/A変換器4と、スピーカ6と、マイク8と、A/D変換器10と、を備える。スピーカ6及びマイク8は音響空間260内に配置される。なお、音響空間260としては、例えばリスニングルーム、ホームシアターなどが挙げられる。
測定用信号発生器3は測定用信号211としてパルス性の信号(以下、「測定用パルス信号」と呼ぶ。)を発生し、信号処理回路2へ供給する。なお、測定用パルス信号はデジタル信号として測定用信号発生器3内のメモリなどに記憶しておくことができる。信号処理回路2は、測定用パルス信号211をD/A変換器4へ送る。D/A変換器4は測定用パルス信号211をアナログの測定用パルス信号212に変換し、スピーカ6へ供給する。スピーカ6は測定用パルス信号212に対応する測定用パルス音35を測定用信号音として音響空間260に出力する。
マイク8は音響空間260で測定用パルス音35を集音し、アナログの応答信号213としてA/D変換器10へ送る。この応答信号213には、測定用パルス音35に対する音響空間260の応答成分が含まれている。A/D変換器10は応答信号213をデジタルの応答信号214に変換し、信号処理回路2へ供給する。信号処理回路2は、応答信号214を所定の閾値と比較することにより、音響空間260における信号遅延時間Tdを算出する。
図1から理解されるように、信号処理回路2が測定する信号遅延時間Tdは、音響空間内における音響遅延時間Tspと、それ以外の遅延時間(主として遅延時間測定装置内における遅延時間、以下「装置内遅延時間Tp」と呼ぶ。)との和である。音響遅延時間Tspは、音響空間260内で測定用パルス音35がスピーカ6から出力されてから、マイク8により受信されるまでの遅延時間である。一方、装置内遅延時間Tpは、測定用パルス音の出力側の遅延時間Tp1と、応答信号の入力側の遅延時間Tp2とにより構成される。測定用パルス音の出力側の遅延時間Tp1は、測定用パルス音211が信号処理回路2からD/A変換器4へ伝送される時間、D/A変換器4による変換処理時間などを含んでいる。また、応答信号の入力側の遅延時間Tp2は、マイク8で集音された応答信号のA/D変換器10内における変換処理時間、A/D変換器10から信号処理回路2への伝送時間などを含んでいる。
従って、仮に音響遅延時間Tspがゼロである(即ち、スピーカ6とマイク8とが接している状態)であったとしても、装置内遅延時間Tpが存在するため、信号遅延時間Tdはゼロにはならない。言い換えれば、信号処理回路2から測定用パルス信号を出力した時点から、装置内遅延時間Tpに相当する期間内は、理論上応答信号が信号処理回路2に到達することはありえない。即ち、測定用パルス信号の出力後、この装置内遅延時間Tpに対応する期間(以下、「未応答期間」と呼ぶ。)内は応答信号が信号処理回路2へ到達するはずがない期間である。
図2(a)から図2(c)に信号処理回路2が受信した応答信号の波形例を示す。図2(a)は、信号遅延時間Tdをゼロと仮定した場合の応答信号波形を示す。横軸は時間を示すが、応答信号214がデジタル信号であるのでサンプル数で示してある。縦軸は応答信号のレベルを示す。時刻0において信号処理回路2が測定用パルス信号を出力し、仮に信号遅延時間Tdがゼロであるとすると、図2(a)に示すように、応答信号は指数関数的に減衰していく波形を示す。
図2(b)は一般的な音響空間の状態、即ち音響空間内においてスピーカとマイクとが数メートル離れている場合の応答信号波形を示す。測定用パルス信号は時刻0において信号処理回路2から出力される。応答信号は信号遅延時間Tdで信号処理回路2へ入力されている。
図2(c)は音響空間内でスピーカとマイクを接して配置した場合の応答信号波形を示す。スピーカとマイクが接しているため音響遅延時間Tspはゼロであり、応答信号の遅延時間は装置内遅延時間Tpに相当する。図2(b)及び図2(c)に示すように、通常の状態における信号遅延時間Tdは、装置内遅延時間Tpと音響遅延時間Tspの和である。また、信号処理回路2が測定用パルス信号を出力した時刻0から装置内遅延時間Tpの間は、測定用パルス音の応答が信号処理回路2に到達するはずがない未応答期間であることがわかる。
図3に、信号処理回路2内の時間遅延測定に関連する構成を示す。信号処理回路2は大別して、音場判定処理部2aと、信号遅延時間測定部2bとを含む。音場判定処理部2aは、実際の遅延時間測定に先だって、音響空間のノイズ状態を判定し、遅延時間測定に使用する測定データを取得する部分である。具体的には、音場判定処理部2aは、音響空間のS/Nを測定し、その測定結果に応じて遅延時間測定に使用される測定データの測定回数を決定する。そして、決定された測定回数にわたって同期加算により測定データを取得する。一方、信号遅延時間測定部2bは、音場判定処理部2aが取得した測定データを使用して、音響空間における信号遅延時間を測定する。
図3に示すように、音場判定処理部2aは、同期加算データバッファ231と、マイク入力バッファ232と、S/N判定部233と、相関判定部234と、スイッチ235とを含む。A/D変換器10から出力される応答信号214は、マイク入力バッファ232に供給される。マイク入力バッファ232は、測定用パルス信号を出力して行われる1回の測定により得られた応答信号214を一時的に保存した後、信号216として同期加算データバッファ231へ供給する。同期加算データバッファ231は、複数回の測定により得られた複数の応答信号214を同期加算し、その結果を保存する。
ここで、「同期加算」とは、複数の信号を、位相情報を保持したまま加算することをいう。複数回の同期加算を行うと、応答信号214に含まれる信号成分は、位相が同一であるので、2回の測定では2倍、3回の測定では3倍、n回の測定ではn倍というふうに増加していく。これに対し、応答信号214に含まれるノイズ成分も複数回の測定によりその絶対量は増加するものの、2回の測定では√2倍、3回の測定では√3倍、n回の測定では√n倍というふうに増加していく。よって、同期加算回数が増えるほど、信号成分の増加分に対するノイズ成分の増加分の比が小さくなるため、S/Nが向上する。
図4(a)及び図4(b)に、測定用パルス信号を出力して得られた応答信号214の例を示す。図4(a)はある1回の測定により得られた応答信号214の波形を示し、図4(b)は他の1回の測定により得られた応答信号214の波形を示す。図示のように、応答信号214には音響空間に存在する暗騒音92が含まれている。複数回の測定は、図1に示すようにスピーカ6及びマイク8を固定して行われるので、応答信号214に含まれる測定用パルス信号の応答成分91(太線)は測定用パルス信号と相関を有し、毎回同じ位相で到来する。これに対し、音響空間に存在する暗騒音92(細線)は測定用パルス信号とは無相関であるので、基本的に毎回異なる位相で到来する。図4(a)及び図4(b)において、測定用パルス信号の応答成分91は同位相であるが、暗騒音92は位相が異なっている。従って、複数の応答信号214をn回同期加算することにより、測定用パルス信号の応答成分91はn倍に増加するが、暗騒音92は位相が異なるので√n倍にしか増加しない。よって、複数回の測定で得られた応答信号214を同期加算することにより、√n倍分S/Nを向上させることができる。理論的には、測定用パルス信号の応答成分91が測定用パルス信号に対して完全な相関を有し、かつ、暗騒音92が測定用パルス信号に対して完全に無相関であるとすると、同期加算回数が多いほどS/Nは改善する。具体的には、4回の測定によりS/Nは6dB向上し、8回の測定によりS/Nは9dB向上し、32回の測定によりS/Nは15dN向上する。
なお、実際の同期加算処理は、例えば以下のように行われる。同期加算回数がn回である場合、同期加算データバッファ231は、毎回マイク入力バッファ232から取得した応答信号214を1/nしたデータを保存する。よって、n回の測定が完了すると、同期加算データバッファ231内にはn回の同期加算後の応答信号データが保存されていることとなる。なお、同期加算データバッファ231は、毎回1/nした応答信号データを加算していく代わりに、毎回の応答信号214のデータをそのまま加算していき、n回の測定が終了した時点で加算結果を1/nする処理を行ってもよい。そして、同期加算データバッファ231は、同期加算後の応答信号データをスイッチ235へ供給する。
図3に戻り、応答信号214はS/N判定部233にも供給される。S/N判定部233は、複数回の測定の各回毎に音響空間のS/Nを算出し、予め決められた所望のS/N値と比較する。算出されたS/Nが所望のS/N値より大きくなったとき、S/N判定部233は測定を終了させるとともに、切替信号217によりスイッチ235を閉じ、同期加算データバッファ231内の応答信号データを信号遅延時間測定部2bへ供給する。
相関判定部234は、マイク入力バッファ232内に保存されている応答信号を信号218として受け取るとともに、同期加算データバッファ231内に保存されている応答信号を信号219として受け取り、それらの相関を判定する。そして、相関が所定の基準より低い場合には、相関判定部234は測定回数を増加させる。相関判定部234は、応答信号214に含まれる突発性ノイズを検出する役割を有する。図4(c)に突発性ノイズ96を含む応答信号214の波形例を示す。通常の応答信号214では、図4(a)及び図4(b)に示すようにそのレベルが所定の閾値レベルを超えたとき、即ち、図4(c)の波形95が測定用パルス信号の応答成分であると判定される。しかし、図4(c)に示すように、波形95以前にレベルの大きい突発性ノイズ96が存在すると、それを測定用パルス信号の応答成分であると誤判定する可能性がある。そこで、相関判定部234は、毎回の測定で得られる応答信号214と、それ以前に得られた応答信号、即ち同期加算データバッファに格納されている応答信号との相関を判定する。そして、判定された相関が所定の相関基準より小さい場合には、相関判定部234は、図4(c)に例示するような突発性ノイズが発生したと判断し、測定回数を増加させることとする。これにより、同期加算データバッファ内に格納されている同期加算後の応答信号データに対する、突発性ノイズの影響を除去することができる。
具体的な相関の判定方法の1つは、図4(a)から図4(c)に示すような応答信号214間の相関値を算出し、それを所定の基準相関値と比較する方法が挙げられる。また、他の方法としては、応答信号214に含まれる測定用パルス信号の応答成分95の最大値位置を検出した後、その位置を過去に得られた応答信号に含まれる測定用パルス信号の応答成分95の最大値位置と比較する方法がある。測定パルス用信号の応答成分の最大値位置は、各回の測定においてほぼ同一位置となるはずであり、少なくとも数サンプルの範囲内にあるはずである。これに対し、図4(c)に示すように、突発性ノイズは測定用パルス信号とは無関係に発生する。よって、今回得られた測定用パルス成分の最大値位置が、過去に検出された測定用パルス信号の応答成分の最大値位置から所定サンプル数x以上離れた位置で検出された場合には、それは突発性ノイズであるものと推定し、相関が低いとの結果を出力すればよい。
次に、信号遅延測定部2bについて説明する。スイッチ235を介して同期加算データバッファ231から供給された同期加算後の応答信号データ215は微分回路251に入力される。微分回路251は応答信号データ215を微分して絶対値(ABS)を算出し、比較器252へ供給する。
暗騒音測定部253は、後述する暗騒音測定期間Tmにおいて応答信号214から暗騒音レベルを検出し、その最大レベル値を閾値決定部254へ供給する。閾値決定部254は、暗騒音の最大レベル値より所定値だけ大きい閾値THを決定し、比較器252へ入力する。
メモリ255は、装置内遅延時間Tpを記憶しており、この値を比較器252へ入力する。比較器252は、微分回路251から入力された応答信号の微分信号を、閾値決定部254から入力された閾値と比較して信号遅延時間Tdを算出する。但し、比較器252は、メモリ255から供給された装置内遅延時間Tpに基づいて、信号処理回路2が測定用信号211を出力した時刻から、上記装置内遅延時間Tpまでの期間である未応答期間では、応答信号の微分値と閾値THとの比較処理を行わない。
図2(d)から図2(f)に比較器252における比較処理の様子を示す。図2(d)は微分回路251から出力される応答信号の微分波形を示す。横軸は時間であり、縦軸は微分値(絶対値:ABS)である。図2(b)に示す応答信号波形の立上り時間に、その微分波形70が現れている。
図2(e)は図2(d)の波形図に暗騒音の波形例を加えて示したものである。図示のように暗騒音80中に閾値THを超える暗騒音成分75が含まれていると、比較器252はこれを応答信号70と誤判定する可能性がある。しかし、図2(e)に示すように、装置内遅延時間Tpを未応答期間として設定し、未応答期間内では応答信号に対応するパルス70が到来するはずはないとして、比較器252は比較処理を行わない。よって、未応答期間内において閾値を超える暗騒音成分75が含まれていても、それを応答信号であると誤判定することが防止される。
次に、暗騒音測定部253における測定について説明する。上述のように、測定用パルス音を出力した時刻0から装置内遅延時間Tpの間は測定用パルス音の応答が到来するはずのない期間であり、かつ、その直後に応答信号が到来するはずの時間である。よってこの期間は、応答期間の比較処理を実行する直前の暗騒音レベルを取得することができるので、閾値TH決定の元になる暗騒音レベルを検出する期間としては非常に好ましいといえる。そこで、暗騒音測定部253は、時刻0から装置内遅延時間Tp内に暗騒音レベルを測定し、閾値決定手段254はそれに基づいて、その直後の比較処理において比較器252が使用する閾値THを決定する。
具体的には、図3に示すように、暗騒音測定部253はメモリ255から装置内遅延時間Tpを受け取り、信号処理回路2が測定用パルス音信号を出力した時刻0から装置内遅延時間Tpの期間を暗騒音測定期間Tmとして設定する。そして、その暗騒音測定期間Tm内に暗騒音を測定し、その最大レベルを閾値決定部254へ供給する。これにより、各回の信号遅延時間の測定時における暗騒音レベルに基づいて決定された閾値を使用して、信号遅延時間を正確に測定することが可能となる。
次に、信号遅延時間測定処理について説明する。図5は信号遅延時間測定処理のフローチャートである。また、図6は図5に示す信号遅延時間測定処理中の音場判定処理のフローチャートであり、図7は図6に示す音場判定処理中の音場測定処理のフローチャートである。なお、以下の信号遅延時間測定処理は、主として信号処理回路2が他の各構成要素を制御することにより実施される。
図5に示すように、まず、音場判定処理が行われる。音場判定処理においては、まず関数Repeat_Num[]に系列[4,4,24]をセットする(ステップS201)。ここで、関数Repeat_Num[ ]は、測定回数を規定する関数である。Repeat_Num[n1,n2,n3]において、n1は測定の初期設定回数、n2は1次追加回数、n3は2次追加回数を示す。よって、ステップS201では、初期設定回数が4回、1次追加回数が4回、2次追加回数が24回に設定される。よって、本実施例では、合計測定回数は最大で32回となる。
次に、音響空間260において、測定用パルス信号(テスト信号)を発することなく、マイク8で暗騒音を測定し、その値をノイズレベルNaとする(ステップS202)。続いて、Counter_a、Counter_b、Burstの3つのカウンタがクリアされる(カウンタ値=0とされる)(ステップS203)。なお、Counter_aは全測定回数を示す。Counter_bは現在の測定が、上記の初期設定回数、1次追加回数、2次追加回数のいずれに含まれているかを示す。具体的には、Counter_b=0であれば現在の測定は初期設定回数中の測定であり、Counter_b=1であれば現在の測定は1次追加回数中の測定であり、Counter_b=2であれば現在の測定は2次追加設定回数中の測定である。
次に、同期加算データバッファ231がクリアされる(ステップS204)。そして、音場測定処理が実施される(ステップS205)。
音場測定処理の詳細を図7に示す。まず、関数Repeat_Num[Counter_b]が読み出され、測定回数を示す変数Pにセットされる(ステップS301)。これにより変数Pには、初期設定回数「4」がセットされる。次に、Counter_cがクリアされ、Counter_c=0となる(ステップS302)。なお、Counter_cは、初期設定回数、1次追加回数、2次追加回数のうちの現在の回数を示す。
こうして、1回目の測定が行われる。具体的には、まずマイク8により音響空間260内の音声の取り込みが開始され、続いて測定用パルス信号がテスト信号として出力される(ステップS303)。これにより、1回目の測定による応答信号が取得され、マイク入力バッファ232に格納される。
次に、Counter_a=0であるか否かが判定される(ステップS304)。1回目の測定では、Counter_a=0であるので、処理はステップS306へ進む。そして、マイク入力バッファ232に格納されている応答信号から、装置内遅延時間Tp中のノイズレベルNbが算出される(ステップS306)。前述のように、このノイズレベルNbは、測定用パルス信号に対する音響空間の応答成分が到来しない未応答期間中のノイズレベルを示す。
次に、マイク入力バッファ232内の応答信号が同期加算データバッファ231に供給され、同期加算後の応答信号データが格納される(ステップS307)。そして、Counter_a及びCounter_cがそれぞれインクリメントされる(ステップS308、S309)。
次に、Counter_cが変数P以上となったか否かが判定される(ステップS310)。これは、初期設定回数の測定(本例では4回)が終了したか否かを判定している。ステップS310がNoの場合、処理はステップS303へ戻り、ステップS303〜S310を繰り返す。こうして、初期設定回数の測定が終了すると(ステップS310;Yes)、Counter_bがインクリメントされ(ステップS311)、処理は図6に示す音場判定処理へ戻る。
なお、ステップS304でCounter_aの値が「0」でないと判定された場合、即ち2回目以降の測定の場合には、過去の応答信号データを用いて前述の相関判定が行われる(ステップS305)。そして、今回の測定で得られた応答信号と過去の応答信号データとの相関が所定基準より低いと判定された場合、フラグBurstに「1」がセットされる。なお、フラグBurstは前述の突発性ノイズの有無を示すフラグであり、突発性ノイズが検出されると「1」にセットされる。
図6の音場判定処理に戻り、ステップS206ではノイズレベルNaとNbが比較され、大きい方がノイズレベルNとして保存される。なお、ノイズレベルNaは複数回の音場測定を開始する前の時点で測定されたノイズレベルであり、ノイズレベルNbは複数回の音場測定中に毎回測定されたノイズレベルである。よって、過去において検出された最大のノイズレベルNを用いて後述のS/Nが算出されることになる。さらに、同期加算データバッファ231内に格納されている応答信号データを用いて信号レベルSが算出される(ステップS207)。この信号レベルSも後述のS/Nの算出に使用される。
次に、Counter_b=2であるか否かが判定される(ステップS208)。前述のようにCounter_bは現在の測定が初期設定回数中の測定であるか、1次追加回数中の測定であるか、2次追加回数中の測定であるかを示しており、Counter_b=2である場合には、それは既に初期設定回数、1次追加回数及び2次追加回数の全ての測定が完了したことを意味している。よって、ステップS208がYesの場合、音場判定処理は終了する。
一方、ステップS208がNoの場合、フラグBurst=1であるか否かが判定される(ステップS209)。ステップS209がYesの場合、それは過去の測定において突発性ノイズが検出されたことを示している。よって、突発性ノイズの影響を除去するために、処理はステップ205へ戻り、音場測定処理を繰り返す。
ステップS209がNoの場合、ステップS206で得られたノイズレベルNと、ステップS207で得られた信号レベルSを用いてS/Nが算出され、所望のS/N値の最小値SNrefより大きいか否かが判定される(ステップS210)。所望のS/N値より大きい場合、それまでの測定により得られた応答信号データは所望のS/N値を満たすものであるので、処理は図5に示す信号遅延時間測定へ戻る(ステップS210:Yes)。一方、所望のS/N値より小さい場合、さらにS/Nを改善すべく処理はステップS205へ戻る。
こうして、所望のS/Nが得られるまで(ステップS210:Yes)、又は、初期設定回数、1次追加回数及び2次追加回数の全ての測定が完了するまで、音場測定処理が繰り返し実行される。その結果、複数回の測定で応答信号データが同期加算された効果により所望のS/Nが得られるか、又は、最大回数にわたり測定が行われた後で得られた応答信号データに基づいて、その後の信号遅延時間測定が行われることになる。また、測定中に突発性ノイズが検出された場合には、その影響を排除するために、さらに測定が繰り返される。よって、いずれの場合にも、必要最小限の時間で、精度の高い応答信号データを得ることが可能となる。
さて、こうして音場判定処理が終了すると、処理は図5に示す信号遅延時間測定処理に戻る。そして、音場判定処理により得られた測定データ、即ち、同期加算データバッファ231に格納されている応答信号データを用いて、信号遅延時間測定部2bが前述の方法により遅延時間を判定する(ステップS250)。そして、その結果が保存されるとともに、モニタなどに表示され(ステップS260)、処理は終了する。
次に、ノイズレベルの測定方法について説明する。上記の実施例では、音場判定処理を実行する前の段階でノイズレベルNaを測定するとともに(ステップS202、以下、「事前測定」とも呼ぶ。)、毎回の音場測定処理において装置内遅延時間Tp中のノイズレベルNbを測定し(ステップS306、以下、「直前測定」とも呼ぶ。)、それらのうちの最大値をノイズレベルNとしてS/Nを算出している。しかし、これは必須ではなく、事前測定又は直前測定のいずれか一方のみを採用してもよい。
事前測定のみを採用する場合には、ステップS206及びS306の処理を省略すればよい。ノイズレベルNの変動が十分に小さくS/Nが変動しないとみなすことができる場合には、事前測定のみを行うこととしてもよい。この場合、ノイズの状態が最初に確定されるので、信号レベルSを1度測定するのみでS/Nを取得し、測定回数を早い段階で決定することができるという利点がある。
他方、直前測定のみを採用する場合には、ステップS202及びS206を省略すればよい。図6及び図7の処理から理解されるように、直前測定により得られるノイズレベルNbは、複数回の測定で得られた同期加算後の測定データに基づいて得られるノイズレベルであり、音響空間におけるノイズの影響が低減されている状態のノイズレベルである。よって、事前測定によるノイズレベルNbを使用してS/Nを評価し、測定回数を決定することにより、実際の音響空間のノイズ状態により適合した測定を実施できることとなる。また、直前測定は事前測定より実際の特性測定時に近い時刻で実行されるので、その意味で実際の特性測定時のノイズ状態をより正確に示しており、実際の音響空間のノイズレベルにより適合した測定が実施可能となる。
[自動音場補正システム]
次に、本発明を適用した自動音場補正システムの実施例を図面を参照して説明する。
(I)システム構成
図8は、本実施例の自動音場補正システムを備えたオーディオシステムの構成を示すブロック図である。
図8において、本オーディオシステム100には、CD(Compact disc)プレーヤやDVD(Digital Video Disc又はDigital Versatile Disc)プレーヤ等の音源1から複数チャンネルの信号伝送路を通じてデジタルオーディオ信号SFL,SFR,SC,SRL,SRR,SWF,SSBL及びSSBRが供給される信号処理回路2と、測定用信号発生器3とが設けられている。
なお、本オーディオシステムは複数チャンネルの信号伝送路を含むが、以下の説明では各チャンネルをそれぞれ「FLチャンネル」、「FRチャンネル」などと表現することがある。また、信号及び構成要素の表現において複数チャンネルの全てについて言及する時は参照符号の添え字を省略する場合がある。また、個別チャンネルの信号及び構成要素に言及する時はチャンネルを特定する添え字を参照符号に付す。例えば、「デジタルオーディオ信号S」と言った場合は全チャンネルのデジタルオーディオ信号SFL〜SSBRを意味し、「デジタルオーディオ信号SFL」と言った場合はFLチャンネルのみのデジタルオーディオ信号を意味するものとする。
更に、オーディオシステム100は、信号処理回路2によりチャンネル毎に信号処理されたデジタル出力DFL〜DSBRをアナログ信号に変換するD/A変換器4FL〜4SBRと、これらのD/A変換器4FL〜4SBRから出力される各アナログオーディオ信号を増幅する増幅器5FL〜5SBRとを備えている。これらの増幅器5で増幅した各アナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRを、図13に例示するようなリスニングルーム7等に配置された複数チャンネルのスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させるようになっている。
また、オーディオシステム100は、受聴位置RVにおける再生音を集音するマイクロホン8と、マイクロホン8から出力される集音信号SMを増幅する増幅器9と、増幅器9の出力をデジタルの集音データDMに変換して信号処理回路2に供給するA/D変換器10とを備えている。
ここで、オーディオシステム100は、オーディオ周波数帯域のほぼ全域にわたって再生可能な周波数特性を有する全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRと、所謂重低音だけを再生するための周波数特性を有する低域再生専用のスピーカ6WFと、受聴者の背後に配置されるサラウンドスピーカ6SBL及び6SBRを鳴動させることで、受聴位置RVにおける受聴者に対して臨場感のある音響空間を提供する。
各スピーカの配置としては、例えば、図13に示すように、受聴者が好みに応じて、受聴位置RVの前方に、左右2チャンネルのフロントスピーカ(前方左側スピーカ、前方右側スピーカ)6FL,6FRとセンタースピーカ6Cを配置する。また、受聴位置RVの後方に、左右2チャンネルのスピーカ(後方左側スピーカ、後方右側スピーカ)6RL,6RRと左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6SBL,6SBRを配置し、更に、任意の位置に低域再生専用のサブウーハ6WFを配置する。オーディオシステム100に備えられた自動音場補正システムは、周波数特性、各チャンネルの信号レベル及び信号到達遅延特性を補正したアナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRをこれら8個のスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させることで、臨場感のある音響空間を実現する。
信号処理回路2は、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)等で形成されており、図9に示すように、大別して信号処理部20と、係数演算部30とから構成される。信号処理部20は、CD、DVD、その他の各種音楽ソースを再生する音源1から複数チャンネルのデジタルオーディオ信号を受け取り、各チャンネル毎に周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を施してデジタル出力信号DFL〜DSBRを出力する。
係数演算部30は、マイクロホン8で集音された信号をデジタルの集音データDMとして受け取り、周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正のための係数信号SF1〜SF8、SG1〜SG8、SDL1〜SDL8をそれぞれ生成して信号処理部20へ供給する。マイクロホン8からの集音データDMに基づいて信号処理部20が適切な周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を行うことにより、各スピーカ6から最適な信号が出力される。
信号処理部20は、図10に示すようにグラフィックイコライザGEQと、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8と、遅延回路DLY1〜DLY8とを備えている。一方、係数演算部30は、図11に示すように、システムコントローラMPUと、周波数特性補正部11と、チャンネル間レベル補正部12と、遅延特性補正部13とを備えている。周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12及び遅延特性補正部13はDSPを構成している。
周波数特性補正部11がグラフィックイコライザGEQの各チャンネルに対応するイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調整し、チャンネル間レベル補正部12がチャンネル間アッテネータATG1〜ATG8の減衰率を調整し、遅延特性補正部13が遅延回路DLY1〜DLY8の遅延時間を調整することで、適切な音場補正を行うように構成されている。
ここで、各チャンネルのイコライザEQ1〜EQ5、EQ7及びEQ8は、それぞれ帯域毎に周波数特性補正を行うように構成されている。即ち、オーディオ周波数帯域を例えば9つの帯域(各帯域の中心周波数をf1〜f9とする。)に分割し、帯域毎にイコライザEQの係数を決定して周波数特性補正を行う。なお、イコライザEQ6は、低域の周波数特性を調整するように構成されている。
オーディオシステム100は、動作モードとして自動音場補正モードと音源信号再生モードの2つのモードを有する。自動音場補正モードは、音源1からの信号再生に先だって行われる調整モードであり、システム100の設置された環境について自動音場補正を行う。その後、音源信号再生モードでCDなどの音源1からの音響信号が再生される。本発明は、主として自動音場補正モードにおける補正処理に関するものである。
図10を参照すると、FLチャンネルのイコライザEQ1には、音源1からのデジタルオーディオ信号SFLの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW12と、測定用信号発生器3からの測定用信号DNの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW11が接続され、スイッチ素子SW11はスイッチ素子SWNを介して測定用信号発生器3に接続されている。
スイッチ素子SW11,SW12,SWNは、図11に示すマイクロプロセッサで形成されたシステムコントローラMPUによって制御され、音源信号再生時には、スイッチ素子SW12がオン(導通)、スイッチ素子SW11とSWNがオフ(非導通)となり、音場補正時には、スイッチ素子SW12がオフ、スイッチ素子SW11とSWNがオンとなる。
また、イコライザEQ1の出力接点には、チャンネル間アッテネータATG1が接続され、チャンネル間アッテネータATG1の出力接点には遅延回路DLY1が接続されている。そして、遅延回路DLY1の出力DFLが、図8中のD/A変換器4FLに供給される。
他のチャンネルもFLチャンネルと同様の構成となっており、スイッチ素子SW11に相当するスイッチ素子SW21〜SW81と、スイッチ素子SW12に相当するスイッチ素子SW22〜SW82が設けられている。そして、これらのスイッチ素子SW21〜SW82に続いて、イコライザEQ2〜EQ8と、チャンネル間アッテネータATG2〜ATG8と、遅延回路DLY2〜DLY8が備えられ、遅延回路DLY2〜DLY8の出力DFR〜DSBRが図8中のD/A変換器4FR〜4SBRに供給される。
更に、各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG1〜SG8に従って0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる。また、各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8は、位相特性補正部13からの調整信号SDL1〜SDL8に従って入力信号の遅延時間を変化させる。
周波数特性補正部11は、各チャンネルの周波数特性を所望の特性となるように調整する機能を有する。図12(A)に示すように、周波数特性補正部11は、バンドパスフィルタ11a、係数テーブル11b、利得演算部11c、係数決定部11d、及び係数テーブル11eを備えて構成される。
バンドパスフィルタ11aは、イコライザEQ1〜EQ8に設定されている9個の帯域を通過させる複数の狭帯域デジタルフィルタで構成されており、A/D変換器10からの集音データDMを周波数f1〜f9と中心とする9つの周波数帯域に弁別することにより、各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]を利得演算部11cに供給する。なお、バンドパスフィルタ11aの周波数弁別特性は、係数テーブル11bに予め記憶されているフィルタ係数データによって設定される。
利得演算部11cは、帯域毎のレベルを示すデータ[PxJ]に基づいて、自動音場補正時のイコライザEQ1〜EQ8の利得(ゲイン)を周波数帯域毎に演算し、演算した利得データ[GxJ]を係数決定部11dに供給する。即ち、予め既知となっているイコライザEQ1〜EQ8の伝達関数にデータ[PxJ]を適用することで、イコライザEQ1〜EQ8の周波数帯域毎の利得(ゲイン)を逆算する。
係数決定部11dは、図11に示すシステムコントローラMPUの制御下でイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8を生成する。(なお、音場補正の際に、受聴者の指示する条件に応じて、フィルタ係数調整信号SF1〜SF8を生成するように構成されている。)
受聴者が音場補正の条件を指示せず、本音場補正システムに予め設定されている標準の音場補正を行う場合には、利得演算部11cから供給される周波数帯域毎の利得データ[GxJ]によって係数テーブル11eからイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数データを読み出し、このフィルタ係数データのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8によりイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節する。
即ち、係数テーブル11eには、イコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を様々に調節するためのフィルタ係数データが予めルックアップテーブルとして記憶されており、係数決定部11dが利得データ[GxJ]に対応するフィルタ係数データを読み出し、その読み出したフィルタ係数データをフィルタ係数調整信号SF1〜SF8として各イコライザEQ1〜EQ8に供給することで、チャンネル毎に周波数特性を調整する。
次に、チャンネル間レベル補正部12について説明する。チャンネル間レベル補正部12は、各チャンネルを通じて出力される音響信号の音圧レベルを均一にする役割を有する。具体的には、測定用信号発生器3から出力される測定用信号(ピンクノイズ)DNによって各スピーカ6FL〜6SBRを個別に鳴動させたときに得られる集音データDMを順に入力し、その集音データDMに基づいて、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを測定する。
チャンネル間レベル補正部12の概略構成を図12(B)に示す。A/D変換器10から出力される集音データDMはレベル検出部12aに入力される。なお、チャンネル間レベル補正部12は、基本的に各チャンネルの信号の全帯域に対して一律にレベルの減衰処理を行うので帯域分割は不要であり、よって図12(A)の周波数特性補正部11に見られるようなバンドバスフィルタを含まない。
レベル検出部12aは集音データDMのレベルを検出し、各チャンネルについての出力オーディオ信号レベルが一定となるように利得調整を行う。具体的には、レベル検出部12aは検出した集音データのレベルと基準レベルとの差を示すレベル調整量を生成し、調整量決定部12bへ出力する。調整量決定部12bはレベル検出部12aから受け取ったレベル調整量に対応する利得調整信号SG1〜SG8を生成して各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8へ供給する。各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、利得調整信号SG1〜SG8に応じて各チャンネルのオーディオ信号の減衰率を調整する。このチャンネル間レベル補正部12の減衰率調整により、各チャンネル間のレベル調整(利得調整)が行われ、各チャンネルの出力オーディオ信号レベルが均一となる。
遅延特性補正部13は、各スピーカの位置と受聴位置RVとの間の距離差に起因する信号遅延を調整する、即ち、本来同時に受聴者が聴くべき各スピーカ6からの出力信号が受聴位置RVに到達する時刻がずれることを防止する役割を有する。よって、遅延特性補正部13は、測定用信号発生器3から出力される測定用信号DNによって各スピーカ6を個別に鳴動させたときに得られる集音データDMに基づいて各チャンネルの遅延特性を測定し、その測定結果に基づいて音響空間の位相特性を補正する。
具体的には、図10に示すスイッチSW11〜SW82を順次切り換えることにより、測定用信号発生器3から発生された測定用信号DNを各チャンネル毎に各スピーカ6から出力し、これをマイクロホン8により集音して対応する集音データDMを生成する。測定用信号を例えばインパルスなどのパルス性信号とすると、スピーカ8からパルス性の測定用信号を出力した時刻と、それに対応するパルス信号がマイクロホン8により受信された時刻との差は、各チャンネルのスピーカ6とマイクロホン8との距離に比例することになる。よって、測定より得られた各チャンネルの遅延時間のうち、最も遅延量の大きいチャンネルの遅延時間に残りのチャンネルの遅延時間を合わせることにより、各チャンネルのスピーカ6と受聴位置RVとの距離差を吸収することができる。よって、各チャンネルのスピーカ6から発生する信号間の遅延を等しくすることができ、複数のスピーカ6から出力された時間軸上で一致する時刻の音響が同時に受聴位置RVに到達することになる。
図12(C)に遅延特性補正部13の構成を示す。遅延量演算部13aは集音データDMを受け取り、パルス性測定用信号と集音データとの間のパルス遅延量に基づいて、各チャンネル毎に音場環境による信号遅延量(時間)を演算する。遅延量決定部13bは遅延量演算部13aから各チャンネル毎に信号遅延量を受け取り、一時的にメモリ13cに記憶する。全てのチャンネルについての信号遅延量が演算され、メモリ13cに記憶された状態で、調整量決定部13bは最も大きい信号遅延量を有するチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するのと同時に他のチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するように、各チャンネルの調整量を決定し、調整信号SDL1〜SDL8を各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8に供給する。各遅延回路DLY1〜DLY8は調整信号SDL1〜SDL8に応じて遅延量を調整する。こうして、各チャンネルの遅延特性の調整が行われる。なお、上記の例では遅延調整のための測定用信号としてパルス性信号を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の測定用信号を用いてもよい。
本発明では、遅延量演算部13aは図3に示す各構成要素を備えている。暗騒音測定部253は装置内遅延時間Tpを含む暗騒音測定機関Tm内に暗騒音の最大レベルを測定し、閾値決定部254はその最大レベルに基づいて閾値THを決定する。また、微分回路251は各チャンネルの再生信号を微分して絶対値を算出する。比較器252は未応答期間、即ち測定用信号の出力時刻から装置内遅延時間Tpが経過するまでの期間は比較処理を行わず、未応答期間の経過後に再生信号の絶対値と閾値を比較して信号遅延量Tpを決定する。この処理は各チャンネルについて行われる。
(II)自動音場補正
次に、かかる構成を有する自動音場補正システムによる自動音場補正の動作について説明する。
まず、オーディオシステム100を使用する環境としては、受聴者が、例えば図13に示したように複数のスピーカ6FL〜6SBRをリスニングルーム7等に配置し、図8に示すようにオーディオシステム100に接続する。そして、受聴者がオーディオシステム100に備えられているリモートコントローラ(図示省略)等を操作して自動音場補正開始の指示をすると、システムコントローラMPUがこの指示に従って自動音場補正処理を実行する。
次に、本発明の自動音場補正における基本的な原理を説明する。先に述べたように、自動音場補正において行う処理は、各チャンネルの周波数特性補正、音圧レベルの補正及び遅延特性補正がある。自動音場補正処理の概要を図14のフローチャートを参照して説明する。
始めに、ステップS10で、周波数特性補正部11がイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調整する処理が行われる。次に、ステップS20のチャンネル間レベル補正処理で、チャンネル間レベル補正部12により、各チャンネルに設けられているチャンネル間アッテネータATG1〜ATG8の減衰率を調節する処理が行われる。次に、ステップS30の遅延特性補正処理で、遅延特性補正部13により、全チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8の遅延時間を調整する処理が行われる。この順序で本発明による自動音場補正が行われる。
次に、各処理段階の動作を順に詳述する。まず、ステップS10の周波数特性補正処理について、図15を参照して説明する。図15は本実施例による周波数特性補正処理のフローチャートである。なお、図15に示す周波数特性補正処理は、各チャンネルの周波数特性補正処理に先だって、各チャンネルの遅延測定を行う。ここで、遅延測定とは、測定用信号を信号処理回路2が出力してから、それに対応する集音データが信号処理回路2に到達するまでの遅延時間Tdを各チャンネル毎に事前に測定する処理である。図15においては、ステップS100〜S106がこの遅延測定処理に対応し、ステップS108〜S115が実際の周波数特性補正処理に対応している。
図15において、信号処理回路2は、まず複数のチャンネルのうちの1つのチャンネルについて例えばパルス性の遅延測定用信号を出力し、これがスピーカ6から測定用信号音として出力される(ステップS100)。この測定用信号音は、マイクロホン8により集音され、集音データDMが信号処理回路2へ供給される(ステップS102)。信号処理回路2内の周波数特性補正部11は遅延時間Tdを演算し、内部メモリなどに記憶する(ステップS104)。これらステップS100〜S104の処理を全てのチャンネルについて行うことにより(ステップS106:Yes)、全てのチャンネルについての遅延時間Tdがメモリに格納されたことになる。こうして、遅延時間測定が完了する。
次に、各チャンネルについて、周波数特性補正を行う。即ち、信号処理回路2は1つのチャンネルについてピンクノイズなどの周波数特性測定用信号を出力し、これがスピーカ6から測定用信号音として出力される(ステップS108)。この測定用信号音はマイクロホン8により集音され、集音データが信号処理回路2の周波数特性補正部11内で取得される(ステップS110)。そして、周波数特性補正部11内の利得演算部11cが集音データを分析し、係数決定部11dがイコライザ係数を設定し(ステップS112)、そのイコライザ係数に基づいてイコライザが調整される(ステップS114)。こうして、1つのチャンネルについて、集音データに基づいて周波数特性の補正が完了する。この処理を全てのチャンネルについて行い(ステップS116;Yes)、周波数特性補正処理が終了する。
次に、ステップS20のチャンネル間レベル補正処理が行われる。チャンネル間レベル補正処理は、図16に示すフローに従って行われる。なお、チャンネル間レベル補正処理では、先の周波数特性補正処理により設定されたグラフィックイコライザGEQの周波数特性を上記周波数特性補正処理で調整した状態に維持して行う。
図10に示す信号処理部20において、まずスイッチSW11をオンにすると同時にスイッチSW1をオフとすることにより、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)に測定用信号DN(ピンクノイズ)が供給され、その測定用信号DNがスピーカ6FLから出力される(ステップS120)。マイクロホン8はその信号を集音し、増幅器9及びA/D変換器10を通じて集音データDMが係数演算部30内のチャンネル間レベル補正部12へ供給される(ステップS122)。チャンネル間レベル補正部12では、レベル検出部12aが集音データDMの音圧レベルを検出し、調整量決定部12bへ送る。調整量決定部12bは、目標レベルテーブル12cに予め設定されている所定の音圧レベルと一致するようにチャンネル間アッテネータATG1の調整信号SG1を生成し、チャンネル間アッテネータATG1へ供給する(ステップS124)。こうして、1つのチャンネルのレベルが所定のレベルと一致するように補正される。この処理を、各チャンネルに対して順に行い、全てのチャンネルについてレベル補正が完了した時点で(ステップS126:Yes)、処理は図14のメインルーチンへ戻る。
次に、ステップS30の遅延特性補正処理が図17に示すフローに従って行われる。まず、1つのチャンネル(例えばFLチャンネル)について、SW11をオンにすると同時にSW12をオフとして、測定用信号DNをスピーカ6から出力する(ステップS130)。次に、出力された測定用信号DNをマイクで集音し、集音データDMが係数演算部30内の遅延特性補正部13に入力される(ステップS132)。
遅延量演算部13aは、前述のように図3に示す各構成要素を含んでいる。遅延量演算部13a内部では、同期加算データバッファ231内のデータが測定データとして使用され(ステップS132)、暗騒音測定部253が暗騒音レベルを測定する(ステップS134)。この測定は、暗騒音測定期間Tmが終了するまで、即ち測定用パルス信号の出力時刻から、所定の装置内遅延時間Tpを経過するまでの期間にわたり行われる。なお、この時間は未応答時間にも設定されており、その間は比較器252における比較処理は行われない。
そして、装置内遅延時間Tpが経過すると(ステップS136;Yes)、未応答期間が終了する。よって、閾値決定部254は閾値を決定し(ステップS138)、比較器252は比較処理を実行して信号遅延量Tdを算出する(ステップS140)。
この処理が他の全てのチャンネルについて実行される。全てのチャンネルについて処理が完了した時点で(ステップS142:Yes)、メモリ13cには全てのチャンネルの遅延量が記憶されることになる。次に、係数演算部13bはメモリ13cの記憶内容に基づいて、全てのチャンネルのうち最大遅延量を有するチャンネルを基準とし、他の全てのチャンネルの信号が同時に受聴位置RVに到達するように各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8の係数を決定し、各遅延回路DLYに供給する(ステップS138)。これにより、遅延特性補正が完了する。
こうして、周波数特性、チャンネル間レベル及び遅延特性が補正され、自動音場補正が完了する。
[変形例]
なお、上記実施例においては本発明に係る信号処理を信号処理回路により実現する例を示したが、その代わりに、同一の信号処理をコンピュータ上で実行されるプログラムとして構成し、コンピュータ上で実行することにより実現することも可能である。この場合、該プログラムはCD−ROM、DVDなどの記録媒体の形態で、又はネットワークなどを利用した通信により供給される。コンピュータとしては、例えばパーソナルコンピュータなどを利用することができ、周辺機器として複数のチャンネルに対応するオーディオインターフェース、複数のスピーカ及びマイクなどを接続する。パーソナルコンピュータ上で上記プログラムを実行することにより、コンピュータ内部又は外部に設けた音源を利用して測定用信号を発生し、これをオーディオインターフェース及びスピーカを介して出力し、マイクで集音することにより、コンピュータを使用して、上述の自動音場補正装置を実現することができる。
また、上記の実施例は、本発明に係る特性測定装置を音場特性を測定する自動音場補正装置に適用したものであったが、本発明による特性測定装置は、他の各種の特性測定に適用することができる。例えば、ある環境における光伝達特性、電波伝搬特性、電気回路特性、自動車の車間距離などの距離測定全般などに適用することができる。また、音響特性に適用する場合には、距離測定、レベル測定、周波数特性測定、定在波測定、スピーカ大小判定測定、スピーカ有無判定測定などに適用することができる。即ち、本発明の特性測定装置は、テスト信号を出力し、その応答を計測することにより測定対象の特性を測定する各種の測定装置に対して適用可能である。