JPWO2006088199A1 - Nε−アシル−L−リジン特異的アミノアシラーゼ - Google Patents
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Abstract
Description
このNε-アシル-L-リジンの製造には、従来、アミノ酸のアルカリ水溶液中にアシルハライドを滴下させるいわゆるショッテン・バウマン法が採用されてきた。しかしながら、リジンのような塩基性アミノ酸は、α−位及びω−位にアミノ基を有するために、このショッテン・バウマン法ではジアルキル塩基性アミノ酸が主生成物となり、ω−アシル塩基性アミノ酸は副生成物として少量でしか得られない。そのため、ω−アシル塩基性アミノ酸を製造するには、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸銅塩とし、これをアシルクロライドにてアシル化した後、銅を脱離させる方法が知られている(薬学雑誌、89、531(1969))。これらの方法においては、製造工程、製造作業が煩雑であり、重金属である銅が使用され、脱銅工程で大量の硫化水素ガスが必要とされる。
それ故、酵素を使用したより温和な条件でNε-アシル-L-リジンを特異的かつ効率良く加水分解及び合成する酵素の存在とその工業的製造方法の開発が志向されている。
また、従来の酵素によるNε-アシル-L-リジンの合成については、例えば、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素がNε-アシル-L-リジンの合成反応をも触媒するとの報告がある。
特開2004-81107に記載されているように、特開2003-210164記載のカプサイシン分解合成酵素により収率95%でNε-ラウロイル-L-リジンが生成するという報告がある。しかし、反応時間が2日間という長時間を要し、また、このカプサイシン分解合成酵素はε−アミノ基のみならずα−アミノ基に対しても高い反応性を示すため、最終的には、Nα-ラウロイル-L-LysとNε-ラウロイル-L-Lysの混合物が生成する。
本発明者らは、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する微生物が、Nε-アシル-L-リジンを特異的に加水分解及び合成する能力に優れた酵素を生産することを見出した。
本発明の一側面は、以下の性質を有する酵素である:
1)Nε-アシル-L-リジンに作用し、カルボン酸とL-リジンを遊離させる反応を触媒し、かつ、その逆反応も触媒する。
2)基質特異性:各種アシル基を有するNε-アシル-L-リジンに作用し、Nε-アシル-D-リジンに対する反応性は非常に低い。アシル基に対する特異性は広く、飽和または不飽和脂肪酸アシル、更には芳香族基カルボン酸アシルからなるNε-アシル-L-リジンを加水分解し、その逆反応も触媒する。逆反応については、L-リジンのε-アミノ基に作用するが、D-リジンのε-アミノ基に対する反応性は非常に低く、L-リジンのε-アミノ基に優先的に作用する。
3)至適pH:Nε-アシル-L-リジンを基質としたときの加水分解反応の至適pHは、37℃において、トリス−塩酸緩衝液中でpH8.0〜9.0の範囲である。
4)pH安定性:37℃、1時間のインキュベートにおいて、pH 6.5〜10.5の範囲で安定である。
5)至適温度:Nε-アセチル-L-リジンを基質としたときの加水分解反応の至適温度は、50 mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中で、約55℃である。
6)熱安定性:50 mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中、40℃にて60分間処理しても全く失活しない。また、同じ緩衝液中で55℃にて60分間処理した後の残存活性は約80%(75〜85%)である。
7)活性はo-フェナンスロリンにより阻害を受ける。
8)コバルトイオンにより活性が増加する。
9)分子量はSDS-ポリアクリルアミド電気泳動による測定では分子量約60kである。
10)N末端にアミノ酸配列SERPXTTLLRNGDVH(Xは不明)を含む。
本発明の別の側面は、本発明の酵素をカルボン酸およびL-リジンまたはこれらの塩と接触させ、それによってNε-アシル-L-リジンを生成させることを含む、Nε-アシル-L-リジンの製造方法でもある。
本発明の更なる側面は、本発明の酵素を、炭素数5以上のアシル基を有するカルボン酸またはその塩と-L-リジンまたはその塩と接触させ、それによってNε-アシル-L-リジンを生成させることを含む、Nε-アシル-L-リジンの製造方法である。
本発明のより具体的な一実施態様では、上述したNε-アシル-L-リジンの製造方法において、カルボン酸はオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ケイ皮酸からなる群より選ばれる。
更に、本発明の別の側面は、本発明の酵素とカルボン酸またはその塩、およびL-リジンまたはその塩との接触が水溶性溶媒中で行われる、Nε-アシル-L-リジンの製造方法でもある。
ストレプトミセス属微生物、とりわけStreptomyces mobaraensisを培養した場合、本酵素は菌体外に分泌されるので、培養終了後、菌体を瀘過、遠心分離等の方法で除去することによって粗酵素画分が容易に得られる。他の微生物を用いた場合であって、細胞外に放出されない場合は、それらの微生物についてよく知られた方法により微生物細胞を破砕し、さらに、瀘過、遠心分離等の方法で細胞および細胞破砕物を除去することによって本発明の酵素を粗酵素画分として得ることが出来る。以下では、このようにして得られた本発明の酵素の粗酵素画分を「粗アミノアシラーゼ」と呼ぶこともある。
本発明の酵素の活性は、Nε-アセチル-L-リジン加水分解活性を測定する方法に基づいて測定することが出来る。例えば、本発明の酵素の活性は、一定濃度のNε-アセチル-L-リジンを基質として37℃にて30分間インキュベート(50 mMトリス塩酸緩衝液、pH8.0)し、遊離したL-リジンを定量することによって測定することができる。なお、本発明の酵素1U(ユニット)は、4 mMのNε-アセチル-L-リジン溶液を基質として37℃にて30分間インキュベート(50 mMトリス塩酸緩衝液、pH8.0)し、遊離したL-リジンを酸性ニンヒドリン法により定量した場合に、1時間あたり1マイクロモルのNε-アセチル-L-リジンを加水分解するのに必要な酵素量と定義する。
本発明の酵素の精製は例えば以下のように行うことができる。Streptomyces属微生物、例えばStreptomyces mobaraensisの培養終了後、遠心除菌し、さらにフィルター除菌により新規酵素が含有した上清を得る。その後、この上清を硫酸アンモニウム(2.8M)により沈殿分画後、CM セファデックス C-50、DEAE-セファデックスA-50イオン交換カラムクロマトグラフィー、オクチルセファロース CL-4B およびフェニルセファロース CL-4B カラムクロマトグラフィーを行うことによって、ポリアクリルアミドゲル電気泳動した場合にゲル上で単一バンドを呈する程度に本発明の酵素を精製することができる。
本発明の酵素は、Nε-アシル-L-リジンに作用し、Nε-アシル-D-リジンに対する反応性は非常に低い。アシル基に対する特異性は広く、飽和または不飽和脂肪酸アシル、更には芳香族基を含有するカルボン酸アシルからなるNε-アシル-L-リジンを加水分解し、その逆反応も触媒する。逆反応については、D-リジンのε-アミノ基に対する反応性は非常に低く、L-リジンのε-アミノ基に優先的に作用する。
なお、本明細書において“水溶性溶媒”には水自身も含まれる。また、反応を水溶性溶媒中で行う場合であっても、別途油層(有機溶媒層)を重層し、水溶性溶媒/有機溶媒の2相反応とすることもできる。
本発明によるNε-アシル-L-リジンの製造において使用される「酵素」は、本発明の酵素を生産する微生物の培養物(場合により微生物細胞を破砕してもよい)、前記培養物から(必要により微生物の破砕後)遠心やろ過等により微生物または微生物破砕物を除去した培養液画分(即ち、「粗アミノアシラーゼ」)、前記培養液から種々の純度に部分精製された酵素(例えば、硫安沈殿により部分精製された酵素)、または、SDS-PAGEで単一バンドとなるまで高度に精製された酵素を含み、本発明の酵素活性を有する限りどのような形態であっても良い。
なお、下記実施例におけるパーセンテージは、特にことわらない限り「質量%」を意味する。
可溶性澱粉4.0%、ポリペプトン2.0%、肉エキス 4.0%、リン酸水素カリウム 0.2%、硫酸マグネシウム 2.0%、pH7を含む培地2L(リットル)を5L容量のバッフル付き坂口フラスコに入れ、Streptomyces mobaraensisの胞子溶液0.1mlを接種し、30℃で3日から7日間培養した。計2リットルの本培養を行い、培養終了後、遠心して(10000 x g、30分間)除菌し、上清を回収した。得られた本酵素(上清中)の総活性は、2875U、比活性0.096 U/mgであった。なお、タンパクの定量は色素結合法によって行った。
この活性画分を50mM NaCl/25mM Tric-HCl緩衝液(pH7.5)で平衡化されたDEAE-セファデックスA-50カラム(φ26 x 350 mm)に供し、50 〜500 mMのNaCl濃度勾配により溶出した。その結果、活性画分は、NaCl濃度が約250 mMの条件で溶出された。総活性は613 U、比活性は2.1 U/mgであった。
この活性画分を再度500 mM NaCl/25 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)で平衡化されたフェニルセファロース CL-4B カラム(φ16 x 150 mm)、500〜0 mMのNaCl濃度勾配に供した。活性は 0 mM NaCl 濃度の条件で溶出された。総活性は169 U、比活性は3370 U/mg となった。
この活性画分をポリアクリルアミドゲル電気泳動に供したところ、分子量約60kの単一バンドになる程度に精製されたことが分かった(図1)。各工程における精製の結果を表1に示す。
上述のように精製された本酵素をプロテインシークエンサーに供したところ、N末端にアミノ酸配列SERPXTTLLRNGDVH(Xは不明)(配列番号1)が存在することが明らかになった。
実施例1に記載の方法によって得られた最終精製酵素を用いて、Nε-アシル-L-リジンを基質にした場合の酵素の至適pHおよびpH安定性を測定した。
37℃、各種緩衝液(pH3.8〜9.7:トリス−塩酸緩衝液、pH8.6〜10.6:CAPS緩衝液)を用いて種々のpHにおける活性を測定した。その結果を図2に示す。図2中、活性は最高値における活性値を100としたときの相対活性(%)で表した。これらの結果から分かるように、本酵素の至適pHはpH8.0〜9.0の範囲であった。
また、pH安定性についても調べた。本発明の酵素は37℃、1時間のインキュベート中、pH 6.5〜10.5の範囲で安定であった(図3)。
横軸に示された各温度で酵素液(50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.2))の活性を測定して本酵素の至適温度を調べた(図4)。また、温度安定性を調べるため、各温度で酵素液(50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.2))を60分間インキュベートした後、前述した活性測定法に従い、残存活性を求めた(図5)。
至適温度は55℃であった。
温度安定性については、各温度で60分間インキュベートした場合、少なくとも40℃付近まで活性の低下が認められず、55℃でも80%の残存活性を有することが示された(図5)。Nε-アシル-L-リジンに対して加水分解活性を示すAchromobacter pestifer由来の酵素は37℃において、1時間インキュベーション後に活性が25%にまで低下することからも分かるように、熱に対して極めて不安定であるが、本酵素はそれよりもはるかに安定であることが示された。
実施例2に準じて得られた精製酵素を用い、前述した活性測定法を用いて各種阻害剤の分解活性に与える影響を比較した。その結果の一例を表2に示す。表2中、酵素活性は無添加の分解活性を100とした相対活性(%)で表した。これらの結果から、本発明の酵素はO-フェナンスロリンにより活性が低下する、金属酵素であることが示された。
O-フェナンスロリン溶液で透析した酵素を用いて、金属イオンの影響について検討を行った。その結果を表3に示す。表3中、酵素活性は、無添加の分解活性を100とした相対活性(%)で表した。コバルト、亜鉛、マンガン、カルシウム、カリウム、マグネシウムを含む金属イオンによって活性が上昇し、特にコバルトイオンによって大きく活性が上昇することが示された。
実施例1に記載の方法によって得られた最終精製酵素をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供したところ、単一のバンドを示し、その分子量は約60kであった(図1)。また、精製された本酵素をゲルろ過クロマトグラフィーおよび非変性-PAGEに供しても分子量57〜60kを示した。従って、本酵素は単量体で存在すると考えられる。
本酵素の基質特異性を見るために、数種類のN-アセチル-L-アミノ酸(終濃度4mM)に対する本発明の酵素の反応性を調べた。結果の一覧を表4に示す。以下の表4および5中、37℃、50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.2)中で、1時間の反応において、酵素タンパク質1mgあたりに加水分解された基質(アセチル-L-アミノ酸)の量(μmole)を比活性として示してある。
本酵素は、Nε-アセチル-L-リジンに高い加水分解活性を示した。しかしながら、Nα-アセチル-L-リジンを除くNα-アセチル-L-アミノ酸には活性を示さなかった。すなわち、本酵素はNε-アセチル-L-リジンに対して極めて特異性の高い酵素であることが示された。
各種アシル基からなるNε-アシル-L-リジンの加水分解活性から基質特異性について検討したところ、本発明の酵素はNε-アセチル-L-リジンに最も高い比活性を有することがわかったが,クロロアセチル基やベンゾイル基を有する他のNε-アシル-L-リジンなどにも高い活性が認められた(表5)。Nε-アシル-L-リジンに対して高い加水分解活性を示すA.ペスチフェルの酵素はNε-ラウロイル-L-リジンに対してほとんど分解活性を示さないのに対して、本発明の酵素はNε-ラウロイル-L-リジンに対しても分解活性を示した(表5)。一方、本発明の酵素は、Nα-ラウロイル-L-リジンに対しては全く加水分解活性を示さなかった。
L-リジン塩酸塩(終濃度1M)とラウリン酸 (終濃度 15mM)に対して、100 mM Tris塩酸緩衝液, pH 7.0)中で本発明の酵素10Uを添加し、45℃で3時間反応を行った。反応溶液をHPLC(YMC-Pack ODS 150 x 4.6 mm、溶出液:35 %アセトニトリル溶液pH 2.8, 流速;0.8 mL/min)で分析した。合成収率は脂肪酸を基準として約88%であった。
反応が進行するにつれ、水に不溶であるNε-ラウロイル-L-リジンが析出してきた。析出したNε-ラウロイル-L-リジンをろ過又は遠心分離により回収し、水洗することによって精製されたNε-ラウロイル-L-リジンが得られた。
特開2004-81107記載のカプサイシン分解合成酵素および本発明の酵素のNε-ラウロイル-L-リジン合成能を比較した。
15 mMラウリン酸と200 mM-L-リジン塩酸塩を100 mM Tris塩酸緩衝液 (pH 7.5、0.5 mM CoCl2) 中で、カプサイシン分解合成酵素(10U/ml;37℃、pH7.7にて1時間に1マイクロモルのカプサイシンを加水分解する量を1Uとする)および本発明の酵素(10U/ml)を45 ℃にて作用させ、Nε-ラウロイル-L-リジンの生成量を比較した(図6)。4時間反応させた結果では、カプサイシン合成酵素を用いた場合は、Nε-ラウロイル-L-リジン合成収率は10%程度で、Nα-ラウロイル-L-リジンもほぼ等量生成した。一方、本発明の酵素を用いた場合は、反応時間3時間でNε-ラウロイル-L-リジン合成の収率が90%程度に達し、かつ、Nα-ラウロイル-L-リジンの生成は検出されなかった。
1.特開2003-210164
2.特開2004-81107
Claims (10)
- 以下の性質を有する酵素:
1)Nε-アシル-L-リジンに作用し、カルボン酸とリジンを遊離させる反応、および、その逆反応を触媒する;
2)L-Lysのε−アミノ基に作用する;
3)Nε-アセチル-L-リジンを基質とした場合に、加水分解反応の至適pHが、37℃ において、トリス−塩酸緩衝液中で、8.0〜9.0の範囲にある;
4)トリス−塩酸緩衝液中で、37℃、1時間のインキュベートした場合、pH 6.5〜10.5の範囲で安定である;
5)Nε-アセチル-L-リジンを基質としたときの加水分解反応における至適温度が、トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中で、55℃付近である;
6)トリス−塩酸緩衝液(pH8.2)中、40℃、60分処理において失活せず、55℃、60分処理後の残存活性は75〜85%である;
7)o-フェナンスロリンにより阻害を受ける。
8)コバルトイオンにより活性が増加する;
9)分子量はSDS-ポリアクリルアミド電気泳動測定によれば約60kである;
10)N末端にアミノ酸配列SERPXTTLLRNGDVH(Xは不明)が存在する。 - ストレプトミセス属に属する微生物から得られる、請求項1記載の酵素。
- ストレプトミセス属に属する微生物が、ストレプトミセス・モバラエンシスである、請求項2に記載の酵素。
- 請ストレプトミセス属に属する微生物を培養し、前記微生物の培養物から請求項1記載の酵素を分離、回収することを特徴とする前記酵素の製造方法。
- ストレプトミセス属に属する微生物がストレプトミセス・モバラエンシスである、請求項4記載の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の酵素を、カルボン酸またはその塩およびL-リジンまたはその塩と接触させ、それによってNε-アシル-L-リジンを生成させることを含む、Nε-アシル-L-リジンの製造方法。
- カルボン酸が、炭素数5以上のアシル基を有するカルボン酸である、請求項6記載の方法。
- カルボン酸がオクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ケイ皮酸からなる群より選ばれる、請求項6記載の製造方法。
- カルボン酸がラウリン酸であり、Nε-アシル-L-リジンがNε-ラウロイル-L-リジンである、請求項6記載の製造方法。
- 接触が水溶性溶媒で行われることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項記載の製造方法。
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