JPWO2006011528A1 - 固体試料の核磁気共鳴測定方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一方、溶液に溶けている試料の測定手段としてプロトンNMR(PMR)法が広く用いられている。
PMR法は、静磁場に置かれたプロトンに対し、RF磁場を照射し、そのRF磁場に共鳴したプロトンのエネルギー変化を電気信号として記録するものである。
プロトン核磁気共鳴の原理は次のとおりである。
ω0=(γ/2π)H0
ちなみに、γは磁気回転比と呼ばれ、核種に固有の定数である。回転の位相はバラバラであり、上下円錐状で一様に分布している。
NMR信号を得るには、歳差運動と同じ角速度のラジオ波をX軸から照射する。
こうすれば、スピン群はラジオ波のエネルギーを吸収し、MxとMyのベクトル成分を惹起する。そのうちのMy成分をy方向においた受信コイルで検出すれば、NMR信号が得られる。
受信コイルで検出される電流は、FID(Free Induction Decay)と呼ばれるものであるが、その強度は照射パルスが切れた時点で最大となり、時間とともに減衰する。
特によく用いられるのが、(180°−τ−90°)nのパルス系列を用いて測定するもので、化合物の物性研究や医療分野のMRIにも利用されている。
この(180°−τ−90°)nのパルス系列を用いたIR法を解説する。
この状態を記録するのに、180°パルスを照射が終わってから、τsec後に90°パルスを照射する。180°パルス照射直後であれば、ベクトルは180°+90°の位置(270°)になるので、NMR信号は最大のマイナス信号となる。
信号強度y =[1−2exp(-τ/T1)]
この式において、T1は、核スピンが−Z0方向になったものが、はじめの+Z0方向に戻る時間であり、これをスピン−格子緩和時間又は縦緩和時間(T1)という。
縦緩和曲線の値は、0.693T1(sec)後にはゼロの信号強度になりところまで回復し、5T1(sec)後には、ほぼ飽和状態になる。
前記T1の値は、プロトン環境に固有の値を与えるので、分子の認識に使うことが可能となる。例えば前記T1の値は、粉末においては、分子間距離を反映し、分子構造の違いを示す情報として用いることができる。
Journal of American Chemical Society 121, 11554-11557 (1999) Australian Journal of Soil Research 38, 665-683 (2000) Solid State Nuclear Magnetic Resonance 15, 239-248(2000) Journal of Chemometrics 13, 95-110 (1999)
従来のIR−NMR法では、FID信号のスペクトル信号は、固体試料に含まれている水分子のプロトンの影響を受けて、他の必要とするプロトンの信号がはっきりと現れない。
したがって、これをIR法で調べても、横緩和時間T2 が混じり合って平均化されたFID信号しか得られない。
また、本発明者は、ある範囲の横緩和時間T2 のNMR信号のみをFID信号として取り込むことができれば、特定の部位のプロトンの情報を得ることができることに注目した。
そこで本発明は、IR−NMRスペクトルを解析することにより、特定の部位のプロトンの情報を得て、固体試料中に存在する結晶多形や非結晶性成分等の構成成分の存在比を測定することができる固体試料の核磁気共鳴測定方法を提供することを目的とする。
前記励起用のパルスには180度パルスがよく使われ、前記読み取り用のパルスには90度パルスがよく使われる。しかし、本発明は、180度や90度といった数値に限定されるものではないのはもちろんである。
そこで、本発明では、受信遅延時間Ddが経過した後、FID信号の積算を開始する。これにより、固体試料の中の複数の環境の中にある各プロトンからのFID信号のうち、時間的な減衰率の速いものは、受信遅延時間Ddが経過する間にほとんど消滅してしまい、測定したい環境の中にあるプロトンからのFID信号を、他のプロトンからのFID信号から選択して取り出すことが容易になる。
受信遅延時間Ddは、さらに、10から15μsecの範囲内に設定することがより望ましい。
また、本発明の固体試料の核磁気共鳴測定方法は、前記時間τを変えて複数のFID信号を取得し、これらの複数のFID信号に基づいてそれぞれIR−NMRスペクトルを算出し、前記IR−NMRスペクトルのある特定の周波数において、時間τに対してスペクトル強度をプロットすることにより縦緩和曲線を得、その縦緩和曲線を、縦緩和時間の異なる複数の縦緩和曲線の和とみなして回帰分析することにより、前記固体試料の各成分物質の構成成分比を推定する方法である。
近赤外分光(NIR)法が非常に複雑な主成分を導き出して解析しているのに対し、本方法の解析対象は、縦緩和時間T1の値のみで表される数学的な曲線であり、その単純性はNIR法とは全く比較にならない。しかも、全くリファレンスがない状態であっても構成成分比を求めることができる。
本発明では、固体試料中の構成成分比を決定するのに、前記縦緩和曲線を例えば非線形最小二乗法により解析し、各成分に対する強度係数fを求める。構成成分比は、これらの強度係数fの比で表される。
核磁気共鳴測定方法において観測されたFID信号の磁化ベクトルの実際の動きは回転運動である。これを周波数スペクトルに変換するためには、観測方向からの第一観測点までの角度(0次フェーズ値、PhC0)と、第一観測点から第二観測点までの角度(1次フェーズ値、PhC1)が必要である。そこで、本発明では、0次フェーズとベースラインとを同時に調整することにより、正しい0次フェーズを見出し、フェーズ調整されたFID信号を得る。これをフーリエ変換することにより正しい周波数スペクトルを得ることができる。
また、前記FID信号を測定する段階において、あらかじめ時間軸に対してスムージング処理を行うこととしても、ノイズが除去された周波数スペクトルを得るのに有効である。
3 パルスプログラマー
4 RFゲート
5 RFパワー増幅器
6 T/Rスイッチ
7 受信コイル
8 RF−AMP
9 IF−AMP
10 位相検波器
11 DC−AMP
12 ローパスフィルター
13 A/D変換器
14 CPU
21 試料管
23 キャップ
24 樹脂チューブ
27 容器
28 コンデンサ
29 NMR測定チャンバ
30 同調回路基板
31 ターミナル部
NMR測定装置は、一定周波数(例えば300MHz)の連続高周波信号を発生するRF発生器2、90°,180°などの変調用のパルス信号を発生するパルスプログラマー3、RF発生器で発生した高周波信号にパルス変調をかけるRFゲート4、パルス変調された高周波信号を数十ワットまで増幅するRFパワー増幅器5を備えている。
前記高周波パルス信号の照射に起因して、試料のプロトンスピンのフリップにより受信コイル7に惹起されたRF電流は、受信モードにおいて、T/Rスイッチ6を通り、RF−AMP8,IF−AMP9を通り位相検波器10に入る。この受信信号がタイムドメインのFID信号である。
CPU14のメモリに保存されたタイムドメインのディジタル信号は、CPU14においてフーリエ変換された後、周波数ドメインのいわゆるNMRスペクトル信号になる。
前記試料管21に試料を入れるときは、ガラス管22に試料を挿入した後、ガラス管22の入り口をキャップ23で塞ぐ。キャップ23には、水分を通すための細い孔が空いている。この細い孔には、後述する脱水剤につながる樹脂チューブを接続する。
試料の入った試料管21は、NMR測定チャンバ29内に斜めに設置されている。試料管21にはめられたキャップ23には、樹脂チューブ24が挿入される。
温度が変化すると、縦緩和時間に影響があるため、試料管21は、一定温度を保つよう制御を行うとよい。また、比較したい全ての試料は同じ温度で測定する必要がある。
図4(a)は、受信コイル7に供給される高周波信号の波形と、受信FID信号の波形とを示す図である。
次に、時間τだけ送信を停止する。エネルギーレベルは、このτ秒の間に縦緩和により低下する。
90度パルスを照射した後、測定系を受信モードにし、受信コイル7に誘起された受信FID信号の波形を観測する。
本発明では、コンピュータは、受信モードに入ってから、受信遅延時間Ddを置いて、受信FID信号の蓄積を開始する。したがって、受信モードに入ってから、受信遅延時間Ddが経過するまでに収集される信号は蓄積の対象から除外される。受信遅延時間Ddは、測定中、固定される。
なお、前記(180°−τ−90°)のパルス系列は、1つのτに対して1回だけ印加してもよく、n回繰り返してもよい。前者の場合、CPU14に入力されるタイムドメインのディジタル信号は、そのままフーリエ変換されるが、後者の場合、CPU14に入力されるタイムドメインのディジタル信号はn平均化された上で、フーリエ変換される。後者のほうが、測定時間がかかるが、受信FID信号の平均化により、平均からかけ離れた値を排除できる点で好ましい。
以上のプロセスにより、時間τを変数とする、受信FID信号波形が得られる。コンピュータは、この受信FID信号波形をフーリエ変換して、周波数スペクトル波形を得る。
前記得られたFID信号に対し、適当な強度を持ったExponentialやGaussian等のウィンドウ関数をかけてノイズ成分を除去した後、フーリエ変換を行ってもよい。
フーリエ変換により得られた周波数スペクトルは、ベースラインの歪みを伴う場合が多い。
ここで使用する、1次フェーズ値は、適切なデジタルフィルターを用いて測定したスペクトルを用いて、折り返しシグナルの影響が及んでいる範囲と及ばない範囲で、極端なスペクトル形状の変化が起こらなくなるように、フェーズを調整することで求めることができる。一度この値を設定すれば、測定条件(取り込み条件)を変化させない限り、同じ値を用いることができる。
精密な0次フェーズ調整は、スペクトルの歪んだベースラインを求めることと同時に行う。フェーズが調整されたスペクトルの実数部分をr0、虚数部分をi0、現状から補正すべき0次フェーズ値をPhC0とした場合、真にフェーズ調整されたスペクトルの実数部分rは、
r = r0cos(PhC0)−i0sin(PhC0)
と表される。
basl = A+Bsin(Cx+D)
と表される。なお、sinカーブは一例であり、状況に応じその他のベースライン関数も同様に利用することができる。
ベースライン用に求められた変数の値を用いてベースラインの補正を行えば、特定の双極子相互作用が存在する場合を除いては、パウダーパターン×ガウスパターンとみなすことができる周波数スペクトルが得られる。
そこで誤差が大きくなる場合には、ベースライン補正を行わないで次のステップに進んで差支えがない。特定のベースラインパターンを見出すのが困難な試料の場合は、ベースライン補正を行うことができないが、同様にベースライン補正を行う必要性はない。
図5(a)、図5(b)は、IR−NMRの受信FID信号の周波数スペクトル波形において、受信遅延時間Ddが0の場合の周波数スペクトル波形と、受信遅延時間Ddを14μsecに設定した場合の周波数スペクトル波形との比較を示すグラフである。縦軸はスペクトル強度、横軸は水のプロトンの信号ピーク(4.5ppm)を基準にとった相対周波数(単位ppm)を示している。
図5(b)の4つの波形は、受信遅延時間Dd=14μsecの場合の周波数スペクトル波形である。
図5(a)及び図5(b)の一番左の波形は90度パルス信号のパルス幅PWが2μsecの場合、左から2番目の波形は90度パルス信号のパルス幅PWが5μsecの場合、左から3番目の波形は90度パルス信号のパルス幅PWが10μsecの場合、一番右の波形は90度パルス信号のパルス幅PWが13μsecの場合を示している。
図5(a)及び図5(b)の一番右の波形の中には、複数の波形が描かれているが、これらは、180度パルス信号をかけ終わってから、90度パルス信号をかけるまでの時間τの違いを表している。このグラフでは、時間τをほぼ0秒から70秒まで数十段階にとっている。
これらの、水のプロトンのNMRスペクトルの左及び右にそれぞれピークを持つスペクトルについて、横軸にτをとり、縦軸にスペクトル強度をプロットして縦緩和曲線を作成する。この選択されたプロトンの縦緩和曲線を、「選択縦緩和曲線」ということがある。
この選択縦緩和曲線を記録して、それを回帰分析することにより、固体試料に含まれる複数種のプロトンの定量を行うことができる。
この方法は、(1)測定した個体試料が、結晶形の違う複数の成分物質の混合物である。(2)それぞれの成分物質のプロトンは、異なった縦緩和時間T1を持つ、と仮定する。
以下、本発明の回帰分析手法を、さらに詳しく説明する。
得られた周波数スペクトルの特定の周波数に関し、可変待ち時間(τ)に対応した信号強度をプロットして、前記した選択縦緩和曲線を得る。
また、特定の周波数における信号強度の代わりに、特定の周波数範囲の信号強度積分値を用いてもかまわない。この場合、ここでもスムージング処理が施されたとみなすことができる。
ここで第2項は、時間τに依存しない定数項であるので、これを定数Cとおいて計算を行ってよい。
また、時間τを表すx軸は、図6に示したように、対数表示を用いるのが適当であるので、s=lnτとおき変形すると、
Si=lnT1i
この式を用いて、最小二乗法による最適化を行い、各成分の縦緩和時間とその係数を求める。本来の係数fとH0の値は、f′とCとから求めることが可能である。実際にはH0の値は各成分においてほとんど差がないため、f′をもってfを代用してかまわない場合が多い。
しかし、各成分の縦緩和時間T1が似通っている場合や、特定の成分が少ししか存在しない試料の場合は、誤差が大きくなってしまう。これを避けるためには、共通した成分を含む複数の試料に関して、非線形最小二乗法による解析を行う。こうすることで、各成分のT1値の精度を高めることができ、高精度に存在比を測定することが可能となる。
本発明のIR−NMR法を用いて、アルギニン粉末に混在するアモルファスの定量性を評価した。
バリアン社製INOVA300型NMR測定装置で測定した。試料は、アルギニンを用いた。
図6は、アルギニン粉末の結晶多形分析を示す縦緩和時間のグラフである。縦軸は信号強度、横軸は180度パルスを印加終了後、90度パルスを印加開始するまでの時間τ(対数)を表す。aは無水アルギニン原粉末を碼碯鉢で粉砕した粉砕品のグラフ、bは粉砕品をアルギニン原粉末に70%添加した試料、cは粉砕品をアルギニン原粉末に50%添加した試料、dは粉砕品をアルギニン原粉末に20%添加した試料、eはアルギニン原粉末のグラフである。
これらの粉末試料には、アルギニン結晶、アルギニンアモルファス、アグリゲートの3種類が入っている。アルギニン結晶の縦緩和時間T1をT1a、アルギニンアモルファスの縦緩和時間T1をT1b、アグリゲートの縦緩和時間をT1cとする。信号強度Gtotalは、
Gtotal=a1GA+b1GB+c1GC
=fa{1−2exp( -τ/T1a)}
+fb{1−2exp( -τ/T1b)}
+fc{1−2exp( -τ/T1c)}
と表すことができる。 fa,fb,fcは構成成分比率である。
T1a =28.02秒,
T1b =12.01秒,
T1c =3.99秒,
という値が求まった。
fa=17.80%,
fb=64.46%,
fc=17.73%
粉砕品をアルギニン原粉末に70%添加した試料では、
fa=41.01%,
fb=46.19%,
fc=12.80%
粉砕品をアルギニン原粉末に50%添加した試料では、
fa=57.52%,
fb=32.42%,
fc=10.06%
粉砕品をアルギニン原粉末に20%添加した試料では、
fa=79.94%,
fb=15.82%,
fc=10.06%
アルギニン原粉末では、
fa=97.10%,
fb=2.55%,
fc=0.35%
がそれぞれ求まった。
<実施例2>
(1)測定用試料の調製
試料として、インドメタシンを用いた。インドメタシンは和光純薬工業試薬生化学用を購入した。これに基づき、以下の7通りの方法で試料を作製した。
・試料1(MeCN再結晶; MeCN)
インドメタシン2gをMeCN(アセトニトリル)(50ml)に加温しながら溶解させた。溶け残った結晶をろ過して除き、ろ液を室温で静置した。1日後、析出した結晶をろ取し、MeCNで洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料2(Et2O再結晶; Et2O)
インドメタシン1gをEt2O(ジエチルエーテル)(50ml)にやや加温しながら溶解させた。溶け残った結晶をろ過して除き、ろ液を室温で静置した。3日後、析出した結晶をろ取し、Et2Oで洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料3(EtOH-水 再結晶熟成なし; 0h)
インドメタシン2gをEtOH(エタノール)(50ml)にやや加温しながら溶解させた。この溶液に、攪拌しながら水を徐々に加えていった。結晶が析出しはじめたところで、水を加えるのを止めた。すぐに大量の結晶が析出し、系内は攪拌不可能な状態となった。ここですぐに、析出した結晶をろ取し、50%EtOHで洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料4(EtOH-水 再結晶18時間熟成; 18h)
試料3と同様に結晶を析出させた。攪拌不可能な状態となったものを、そのままマグネティックスターラーで攪拌を続けた。最初は攪拌不可能な状態であったが、徐々に攪拌可能な状態に変化した。18時間室温で攪拌した後、結晶をろ取し、50%EtOHで洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料5(0M)
試料3で得られた結晶の一部をメノウの乳鉢で粉砕して、粉砕品を得た。
・試料6(18M)
試料4で得られた結晶の一部をメノウの乳鉢で粉砕して、粉砕品を得た。
・試料7(R)
購入した試薬をそのまま用いた。
(2)測定
これら7個の試料を、5mmφNMRチューブに高さが25-35mm程度になるよう入れ、脱水剤として五酸化二燐(P2O5)を共存させた減圧デシケーター中に1時間以上入れて乾燥させた。これらは測定直前にデシケーターから取り出し、直ちに密栓して測定用試料として使用した。
試料と同じ高さまでCDCl3を入れた他のNMRチューブを用いてシムを調整した後、目的の試料をプローブにセットした。SWEEP OFF、SPIN OFF、LOCK OFFのまま測定を行った。温度コントローラーにより試料温度を23℃に調整した。Bruker社より標準で提供されているt1irパルスプログラムを用い、以下のパラメーター値で測定を行い、時間軸スペクトル(FID信号)を得た。
P1=pw(90° pulse) : 8.45μs
P2=pl(180° pulse) : 16.9μs
DE=Dd(受信遅延時間) : 16μs
DE1(送信コイルを閉じてから受信コイルを開くまでの遅延時間) : 3μs
O1(観測中心周波数) : 2.54ppm
NS(積算回数) : 8
DS(ダミースキャン) : 2
SW(観測幅): 497.314ppm
DigMod(デジタイザモード) : Analog
ParMod(パラメータモード) : 2D
SI(データサイズ) :[F2] 16384, [F1] 64 (F1,F2は2次元NMRにおける観測軸)
TD(取り込みデータサイズ) :[F2] 16384, [F1] 45
以上で得られた時間軸スペクトルに対し、以下のパラメーター値でフーリエ変換(xf2)を行い、各時間τごとに周波数スペクトルを得た。
LB (Line Broadening Factor) : 300Hz
PhC0: -99.56 (スペクトル両端の強度がほぼ同じになる値。測定ごとに異なる値。)
PhC1: 130 (DigMod: Digitalで測定したスペクトルと相似形となる値。常に一定値。)
このスペクトルは、各待ち時間(τ)に対応するスペクトルからなる2次元NMRスペクトルであるので、split2Dを行い、各待ち時間(τ)に対応する1次元スペクトルの実数部分と虚数部分を得た。これらの1次元スペクトルのデータを測定用のコンピュータからデータ処理用のコンピュータにコピーした。
(3)データ処理
データ処理用コンピュータにコピーした1次元スペクトルの実数部分(r0)と虚数部分(i0)は、Y軸数値を低波数側から高波数側に並べたものである。X軸(周波数軸)の数値は251.17ppm〜-246.124ppmであるが、特にppm単位を使用して計算する必要がないため、x=1〜16384の整数で代用した。
r = r0 cos(PhC0)-i0 sin(PhC0)
と表される。
一方ベースラインとしては、取り込み開始直後の信号強度の不正確さに起因しているsinカーブのベースラインを使用した。この場合ベースライン(basl)は、xに対し、
basl = A+Bsin(Cx+D)
と表される。
r0 cos(PhC0)−i0 sin(PhC0) = A+B sin(Cx+D)
となるが、このままでは計算することができないので、
r0 = {r0 sin(PhC0)+A+Bsin(Cx+D)}/cos(PhC0)
と変形し、r0を従属変数、i0,xを独立変数として計算させた。
得られた周波数スペクトルに関し、191pointsのFFTスムージングフィルターを作用させ、ノイズ除去処理を行った。
周波数スペクトルのX軸数値7000(周波数では38.72ppmに相当)の信号強度を、各待ち時間(τ)に対してプロットし、縦緩和曲線を得た。
構成成分の数nは、次のようにして決定する。f′の95%信頼区間値を算出して、f′が95%信頼区間値と同等又はこれより小さい値になれば、その構成成分は存在しないとみなす。例えば、n=3とおいて、f′1を95%信頼区間値と比較する。f′1が95%信頼区間値以上あれば、n=4とおいて、f′1、f′2が、すべて95%信頼区間値以上あるかどうかを調べる。このようにして、nを増やしていって、あるnを超えるf′が95%信頼区間値未満になれば、そのnを構成成分数として決定する。
10.16s(γ型に帰属)
4.67s(α型に帰属)
1.07s(アモルファスに帰属)
1.57ms(帰属不明)
0.25ms(帰属不明)
と決定できた。
<実施例3>
(1)測定用試料の調製
試料として、グリシンを用いた。グリシンは和光純薬工業試薬特級を使用した。これに基づき、以下の8通りの方法で試料を作製した。
・試料1(水再結晶; A)
グリシン10gを水(40ml)にやや加温しながら溶解させた。溶液を室温で静置した。3日後、析出した結晶をろ取し、水で洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料2(水−酢酸再結晶; C)
グリシン15gを水(30ml)−酢酸(3ml)に加熱溶解させた。溶液を室温まで徐々に冷却し、析出した結晶をろ取した。水で洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料3(水−EtOH再結晶; B)
グリシン10gを水(40ml)にやや加温しながら溶解させた。溶液を室温で攪拌しながら、EtOH(20ml)を徐々に加えた。析出した結晶をろ取し、水で洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料4(水−EtOH再結晶60℃乾燥; B60)
試料3と同様にして得た結晶を60℃16時間温風乾燥した。
・試料5(S)
試料1の再結晶操作を行った際に、器壁に付着した結晶を取り出して、水で洗浄後、減圧下で乾燥させた。
・試料6(CM)
試料2で得られた結晶の一部メノウの乳鉢で粉砕して、粉砕品を得た。
・試料7(RM)
購入した試薬をメノウの乳鉢で粉砕して、粉砕品を得た。
・試料8(R)
購入した試薬をそのまま用いた。
(2)測定
これら8個の試料を、5mmφNMRチューブに高さが25-35mm程度になるよう入れ、脱水剤として五酸化二燐(P2O5)を共存させた減圧デシケーター中に1時間以上入れて乾燥させた。これらは測定直前にデシケーターから取り出し、直ちに密栓して測定用試料として使用した。
試料と同じ高さまでCDCl3を入れた他のNMRチューブを用いてシムを調整した後、目的の試料をプローブにセットした。SWEEP OFF、SPIN OFF、LOCK OFFのまま測定を行った。温度コントローラーにより試料温度を23℃に調整した。Bruker社より標準で提供されているt1irパルスプログラムを用い、以下のパラメーター値で測定を行い、時間軸スペクトル(FID信号)を得た。
P1=pw(90°pulse) : 8.45μs
P2=pl(180°pulse) : 16.9μs
DE=Dd(受信遅延時間) : 16μs
DE1(送信コイルを閉じてから受信コイルを開くまでの遅延時間) : 3μs
O1(観測中心周波数): 2.54ppm
NS(積算回数) : 8
DS(ダミースキャン): 2
SW(観測幅) : 497.314ppm
DigMod(デジタイザモード) : Analog
ParMod(パラメータモード) : 2D
SI(データサイズ) :[F2] 16384, [F1]64
TD(取り込みデータサイズ) :[F2] 16384, [F1]45(F1,F2は2次元NMRにおける観測軸)
以上で得られた時間軸スペクトルに対し、以下のパラメーター値でフーリエ変換(xf2)を行い、周波数スペクトルを得た。
LB (Line Broadening Factor) : 300Hz
PhC0 : -0.64 (スペクトル両端の強度がほぼ同じになる値。測定ごとに異なる値。)
PhC1 : 130 (DigMod:Digitalで測定したスペクトルと相似形となる値。常に一定値。)
このスペクトルは、各待ち時間(τ)に対応するスペクトルからなる2次元NMRスペクトルであるので、split2Dを行い、各待ち時間(τ)に対応する1次元スペクトルの実数部分と虚数部分を得た。これらの1次元スペクトルのデータを測定用のコンピュータからデータ処理用のコンピュータにコピーした。
(3)データ処理
データ処理用コンピュータにコピーした1次元スペクトルの実数部分(r0)と虚数部分(i0)を用いて0次フェーズの調整を行った。
r= r0 cos(PhC0)−i0 sin(PhC0)
と表される。
一方ベースラインとしては、別途測定したグリシンの周波数スペクトル(b)を使用した。
b = Ar+B = A{r0 cos(PhC0)−i0 sin(PhC0)}+B
グリシン水−酢酸再結晶試料2についての計算結果を表7A、表7Bに示す。
得られた周波数スペクトルに関し、191pointsのFFTスムージングフィルターを作用させ、ノイズ除去処理を行った。
試料2から試料8のグリシン試料に関しても、上と同様に縦緩和曲線を作成した。それらの結果を表8A、表8Bに示す。
T1=4.37s(γ型に帰属)
T1=0.29s(α型に帰属)
T1=1.15ms(帰属不明)
T1=0.18ms(帰属不明)
と決定できた。
Claims (14)
- 受信コイルに励起用のパルスを流すことにより、静磁場の中に設置された固体試料の核スピンを励起し、励起用のパルスの印加終了後、時間τの経過を待って読み取り用のパルスを印加することにより、当該励起された核スピンからのFID信号(Free Induction Decay)信号を受信し、このFID信号を周波数変換処理することにより、IR(Inversion Recovery)−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルを得る、固体試料の核磁気共鳴測定方法において、
前記読み取り用のパルスの印加終了後、受信遅延時間Ddが経過してから、FID信号の処理を開始する、固体試料の核磁気共鳴測定方法。 - 前記励起用のパルスは180度パルスであり、前記読み取り用のパルスは90度パルスである請求項1記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記受信遅延時間Ddは、5から20μsecの範囲内の値に設定される請求項1記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記受信遅延時間Ddは、10から15μsecの範囲内の値に設定される請求項3記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 測定中、水分子トラップ機構により、前記固体試料及びその周囲に存在する水を捕捉する請求項1記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 時間τを変えて複数のFID信号を取得し、これらの複数のFID信号に基づいてそれぞれIR−NMRスペクトルを算出し、IR−NMRスペクトルのある特定の周波数において、時間τに対するスペクトル強度をプロットすることにより縦緩和曲線を得、その縦緩和曲線を、縦緩和時間の異なる複数の縦緩和曲線の和とみなして回帰分析することにより、前記固体試料の各成分物質の構成成分比を推定する請求項1記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 受信コイルに励起用のパルスを流すことにより、静磁場の中に設置された固体試料の核スピンを励起し、励起用のパルスの印加終了後、時間τの経過を待って読み取り用のパルスを印加することにより、当該励起された核スピンからのFID信号(Free Induction Decay)信号を受信し、このFID信号を周波数変換処理することにより、IR(Inversion Recovery)−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルを得る、固体試料の核磁気共鳴測定方法において、
前記時間τを変えて複数のFID信号を取得し、
これらの複数のFID信号に基づいてそれぞれIR−NMRスペクトルを算出し、
前記IR−NMRスペクトルのある特定の周波数において、時間τに対してスペクトル強度をプロットすることにより縦緩和曲線を得、
その縦緩和曲線を、縦緩和時間の異なる複数の縦緩和曲線の和とみなして回帰分析することにより、前記固体試料の各成分物質の構成成分比を推定する固体試料の核磁気共鳴測定方法。 - 前記励起用のパルスは180度パルスであり、前記読み取り用のパルスは90度パルスである請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記縦緩和曲線を、非線形最小二乗法により解析し、各成分に対する強度係数fを求めることにより、固体試料中の構成成分比を決定する請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記固体試料中の構成成分比とともに、各構成成分の縦緩和時間を同時に求める請求項9記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記FID信号の0次フェーズとベースラインとを同時に調整することにより、正しい0次フェーズを見出し、フェーズ調整されたFID信号を得る請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記IR−NMRスペクトルに対し、デジタルスムージングフィルターを用いて、ノイズが除去された周波数スペクトルを得る請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記FID信号を測定する段階において、あらかじめ時間軸に対してスムージング処理を行う、請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
- 前記縦緩和曲線を、特定の周波数におけるスペクトル強度の代わりに、特定の周波数区間におけるスペクトル強度の積分値を用いて作成する請求項7記載の固体試料の核磁気共鳴測定方法。
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