JPWO2005035740A1 - 無血清馴化したゲノム改変細胞 - Google Patents
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Abstract
医薬開発上有用な抗体組成物などの糖蛋白質組成物を生産することが可能な宿主細胞の開発が求められている。本発明は、無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞および該細胞を用いた糖蛋白質組成物の製造方法を提供する。
Description
本発明は、血清を含有しない培地(以下、「無血清培地」と称す)に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞および該細胞を用いた抗体組成物を始めとする糖蛋白質組成物の製造方法に関する。
花井らは、抗体のN−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加が抗体の抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を50倍以上低下させると言った大きい影響を与えることを報告している[WO00/61739、J.Biol.Chem.,278,3466,(2003)]。これらの報告は、ヒトIgG1サブクラスの抗体のエフェクター機能に糖鎖の構造が極めて重要な役割を果たしており、糖鎖の構造が変わることでエフェクター機能と関連した薬理浩性が変化することを示している。
一般的に、医薬への応用が考えられている抗体を始めとする糖蛋白質の多くは、遺伝子組換え技術を用いて作製され、動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣組織由来のCHO細胞などを宿主細胞として用い製造されている。しかしながら、発現させた糖蛋白質の糖鎖構造は宿主細胞によって異なるため、現状では、必ずしも、最適な薬理活性が発揮できるような糖鎖が付加されているとは限らない。
特に、抗体のように、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加が大きく薬理活性を下げると言うような場合には、フコース修飾のない糖鎖構造を有する抗体分子を適切に調製し提供することが質の高い医療を患者へ提供する上で欠かせない。したがって、このような糖蛋白質の糖鎖構造を制御する技術の開発が望まれている。
糖蛋白質の糖鎖構造は、糖鎖遺伝子、すなわち、糖鎖を合成する糖転移酵素と糖鎖を分解する糖分解酵素の遺伝子によって規定されている。また、糖鎖への糖の供与体となる細胞内糖ヌクレオチドの生合成やゴルジ体への輸送などの機能を担った蛋白質の遺伝子によっても規定されている。これまでに、これらの糖鎖の修飾に係わる遺伝子を導入したり変異を与えたりすることで、その宿主細胞が産生する糖蛋白質の糖鎖構造を制御できる可能性が示されている。
糖鎖の修飾に係わる酵素遺伝子を導入することによって、生産される糖蛋白質の糖鎖構造を改変する試みがなされているが、その具体的な例としては、1)ラットのβ−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼをCHO細胞に導入することで糖鎖の非還元末端にシアル酸が多く付加された蛋白質の製造が可能であること[J.Biol.Chem.,261,13848,(1989)]、2)ヒトのβ−ガラクトシド2−αフコシルトランスフェラーゼをマウスL細胞に導入することで糖鎖の非還元末端にフコース(以下、Fucとも表記する)が付加されたH抗原(Fuc α1−2Gal β1−)の発現が可能であること[Science,252,1668,(1991)]、3)β1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素III(GnTIII)を導入したCHO細胞を用いて抗体を生産することでN−グリコシド結合糖鎖のバイセクティングに位置するN−アセチルグルコサミンの付加の割合が高い抗体の生産が可能であること[Glycobiology,5,813(1995)、WO99/54342]を報告した例があげられる。GnTIIIを導入したCHO細胞を用いて抗体を発現させた場合には、親株で発現させた抗体と比べて16倍高いADCC活性を示したが、GnTIIIあるいはβ1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素V(GnTV)の過剰発現はCHO細胞に対して毒性を示すと報告されている。
糖鎖の修飾に係わる遺伝子の活性が変化した突然変異体は、例えば、WGA(T.vulgaris由来のwheat−germ agglutinin)、ConA(C.ensiformis由来のconcanavalinA)、RIC(R.communis由来の毒素)、L−PHA(P.vulgaris由来のleukoagglutinin)、LCA(L.culinaris由来のlentilagglutinin)、PSA(P.sativum由来のPea lectin)などのレクチンに耐性を示す株として取得されている[Somatic cell Mol.Genet.,12,51,(1986)]。このような糖鎖の修飾に係わる遺伝子の活性が変化した突然変異体を宿主細胞として用いることで、生産される糖鎖構造が変化した糖蛋白質の生産例も報告されており、その具体的な例としては、N−アセチルグルコサミン転移酵素I(GnTI)の活性が欠損しているCHO細胞変異株を用いてハイマンノース型糖鎖構造を有する抗体を生産した報告を挙げることができる[J.Immunol.,160,3393,(1998)]。
また、CMP−シアル酸トランスポーターやUDP−ガラクトーストランスポーターの欠損株を用いて、糖鎖非還元末端側にシアル酸が付加していない糖鎖構造を有する抗体の発現や、ガラクトースの付加のない抗体の発現例が報告されているが、医薬への応用に適するようにエフェクター作用を向上させた抗体の発現には成功していない[J.Immunol.,160,3393,(1998)]。
このような中、細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのde novo合成経路において、GDP−マンノースをGDP−4−ケト,6−デオキシ−GDP−マンノースに変換する脱水反応を触媒する酵素であるGDP−マンノース4,6−デヒドラターゼの活性が低下した株を宿主細胞として用いることで、ADCC活性の高い医薬応用に適した抗体の生産に成功した報告がなされている[WO00/61739、J.Biol.Chem.,277,26733,(2002)]。これらの報告では、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を示す株、例えば、AAL(Aleuria aurantia由来のLectin)に耐性を示すCHO−AAL株、LCA(L.culinaris由来のlentil agglutinin)に耐性を示すCHO−LCA株あるいはLec13株が宿主細胞として用いられている。また、GDP−マンノース4,6−デヒドラターゼの活性が低下した株としては、この他にも、マウス白血病由来の細胞株BW5147のPSA(P.sativum由来のPea lectin)耐性変異株として樹立されたPLRl.3が知られている[J.Biol.Chem.,255,9900,(1980)]。
しかしながら、これらいずれの株も完全な遺伝子欠損体ではないため、抗体が高いADCC活性を示す原因となっている糖鎖構造、すなわち、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加をより完全に抑制することは困難である。特に、PLR1.3やLec13株などの変異株は、変異剤処理によりランダムに変異を導入することで取得されており、医薬品製造に用いる株として必ずしも適した性質を有しているとは言い難い。一方、宿主細胞の糖鎖修飾に係わる酵素遺伝子を標的とし意図的に標的遺伝子のみを破壊した細胞株を用いて抗体などの糖蛋白質の生産を試みた報告はこれまでにない。
また、動物細胞や組換え動物細胞による糖蛋白質などの生理活性蛋白質の生産において、培養液中に血清が存在すると、血清のロット差が細胞収率や生産性に大きな影響を与える上、ウイルスやプリオン等の病原微生物の最終精製品への混在の可能性を考慮する必要がある。従って、動物細胞を用いて医薬品への適応を目的とした生理活性蛋白質の生産を行う場合、血清を含有しない培地で培養することが望まれている。
一般的に、医薬への応用が考えられている抗体を始めとする糖蛋白質の多くは、遺伝子組換え技術を用いて作製され、動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣組織由来のCHO細胞などを宿主細胞として用い製造されている。しかしながら、発現させた糖蛋白質の糖鎖構造は宿主細胞によって異なるため、現状では、必ずしも、最適な薬理活性が発揮できるような糖鎖が付加されているとは限らない。
特に、抗体のように、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加が大きく薬理活性を下げると言うような場合には、フコース修飾のない糖鎖構造を有する抗体分子を適切に調製し提供することが質の高い医療を患者へ提供する上で欠かせない。したがって、このような糖蛋白質の糖鎖構造を制御する技術の開発が望まれている。
糖蛋白質の糖鎖構造は、糖鎖遺伝子、すなわち、糖鎖を合成する糖転移酵素と糖鎖を分解する糖分解酵素の遺伝子によって規定されている。また、糖鎖への糖の供与体となる細胞内糖ヌクレオチドの生合成やゴルジ体への輸送などの機能を担った蛋白質の遺伝子によっても規定されている。これまでに、これらの糖鎖の修飾に係わる遺伝子を導入したり変異を与えたりすることで、その宿主細胞が産生する糖蛋白質の糖鎖構造を制御できる可能性が示されている。
糖鎖の修飾に係わる酵素遺伝子を導入することによって、生産される糖蛋白質の糖鎖構造を改変する試みがなされているが、その具体的な例としては、1)ラットのβ−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼをCHO細胞に導入することで糖鎖の非還元末端にシアル酸が多く付加された蛋白質の製造が可能であること[J.Biol.Chem.,261,13848,(1989)]、2)ヒトのβ−ガラクトシド2−αフコシルトランスフェラーゼをマウスL細胞に導入することで糖鎖の非還元末端にフコース(以下、Fucとも表記する)が付加されたH抗原(Fuc α1−2Gal β1−)の発現が可能であること[Science,252,1668,(1991)]、3)β1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素III(GnTIII)を導入したCHO細胞を用いて抗体を生産することでN−グリコシド結合糖鎖のバイセクティングに位置するN−アセチルグルコサミンの付加の割合が高い抗体の生産が可能であること[Glycobiology,5,813(1995)、WO99/54342]を報告した例があげられる。GnTIIIを導入したCHO細胞を用いて抗体を発現させた場合には、親株で発現させた抗体と比べて16倍高いADCC活性を示したが、GnTIIIあるいはβ1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素V(GnTV)の過剰発現はCHO細胞に対して毒性を示すと報告されている。
糖鎖の修飾に係わる遺伝子の活性が変化した突然変異体は、例えば、WGA(T.vulgaris由来のwheat−germ agglutinin)、ConA(C.ensiformis由来のconcanavalinA)、RIC(R.communis由来の毒素)、L−PHA(P.vulgaris由来のleukoagglutinin)、LCA(L.culinaris由来のlentilagglutinin)、PSA(P.sativum由来のPea lectin)などのレクチンに耐性を示す株として取得されている[Somatic cell Mol.Genet.,12,51,(1986)]。このような糖鎖の修飾に係わる遺伝子の活性が変化した突然変異体を宿主細胞として用いることで、生産される糖鎖構造が変化した糖蛋白質の生産例も報告されており、その具体的な例としては、N−アセチルグルコサミン転移酵素I(GnTI)の活性が欠損しているCHO細胞変異株を用いてハイマンノース型糖鎖構造を有する抗体を生産した報告を挙げることができる[J.Immunol.,160,3393,(1998)]。
また、CMP−シアル酸トランスポーターやUDP−ガラクトーストランスポーターの欠損株を用いて、糖鎖非還元末端側にシアル酸が付加していない糖鎖構造を有する抗体の発現や、ガラクトースの付加のない抗体の発現例が報告されているが、医薬への応用に適するようにエフェクター作用を向上させた抗体の発現には成功していない[J.Immunol.,160,3393,(1998)]。
このような中、細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのde novo合成経路において、GDP−マンノースをGDP−4−ケト,6−デオキシ−GDP−マンノースに変換する脱水反応を触媒する酵素であるGDP−マンノース4,6−デヒドラターゼの活性が低下した株を宿主細胞として用いることで、ADCC活性の高い医薬応用に適した抗体の生産に成功した報告がなされている[WO00/61739、J.Biol.Chem.,277,26733,(2002)]。これらの報告では、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を示す株、例えば、AAL(Aleuria aurantia由来のLectin)に耐性を示すCHO−AAL株、LCA(L.culinaris由来のlentil agglutinin)に耐性を示すCHO−LCA株あるいはLec13株が宿主細胞として用いられている。また、GDP−マンノース4,6−デヒドラターゼの活性が低下した株としては、この他にも、マウス白血病由来の細胞株BW5147のPSA(P.sativum由来のPea lectin)耐性変異株として樹立されたPLRl.3が知られている[J.Biol.Chem.,255,9900,(1980)]。
しかしながら、これらいずれの株も完全な遺伝子欠損体ではないため、抗体が高いADCC活性を示す原因となっている糖鎖構造、すなわち、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンへのフコースの付加をより完全に抑制することは困難である。特に、PLR1.3やLec13株などの変異株は、変異剤処理によりランダムに変異を導入することで取得されており、医薬品製造に用いる株として必ずしも適した性質を有しているとは言い難い。一方、宿主細胞の糖鎖修飾に係わる酵素遺伝子を標的とし意図的に標的遺伝子のみを破壊した細胞株を用いて抗体などの糖蛋白質の生産を試みた報告はこれまでにない。
また、動物細胞や組換え動物細胞による糖蛋白質などの生理活性蛋白質の生産において、培養液中に血清が存在すると、血清のロット差が細胞収率や生産性に大きな影響を与える上、ウイルスやプリオン等の病原微生物の最終精製品への混在の可能性を考慮する必要がある。従って、動物細胞を用いて医薬品への適応を目的とした生理活性蛋白質の生産を行う場合、血清を含有しない培地で培養することが望まれている。
無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与するゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞、該細胞を用いた糖蛋白質組成物の製造方法、該製造方法で製造された糖蛋白質組成物を提供することを目的とする。本発明の細胞は、糖鎖構造の改変された医薬開発上有用な抗体組成物等の糖蛋白質組成物の製造に有用である。
本発明は、以下の(1)〜(27)に関する。
(1) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
(2) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた、上記(1)に記載の細胞。
(3) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子の開始コドンを含むエクソン領域の部分が欠失した、上記(1)または(2)に記載の細胞。
(4) N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の細胞。
(5) α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)または(b)から選ばれるDNAがコードする蛋白質である、上記(4)に記載の細胞。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(6) α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)、(b)及び(c)からなる群から選ばれる蛋白質である、上記(4)に記載の細胞。
(a) 配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かっα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
(c) 配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質。
(7) N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の細胞。
(8) 耐性が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンを含む培地で培養した場合に、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞よりも高い生存率を示すことを特徴とする耐性である、上記(7)に記載の細胞。
(9) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の細胞。
(10) 糖蛋白質をコードする遺伝子を含む上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の細胞。
(11) 糖蛋白質が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を有さない糖蛋白質である上記(10)に記載の細胞。
(12) 糖蛋白質が、抗体である上記(10)または(11)に記載の細胞。
(13) 抗体のクラスがIgGである、上記(12)に記載の細胞。
(14) 上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、糖蛋白質組成物を製造する方法。
(15) 上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の細胞を培地に培養し、培養物中に糖蛋白質組成物を生成蓄積させ、該培養物から糖蛋白質組成物を採取し、精製する工程を含む、糖蛋白質組成物を製造する方法。
(16) 糖蛋白質組成物を製造する方法が、バッチ培養、フェドバッチ培養またはパーフュージョン培養である、上記(14)または(15)に記載の方法。
(17) 培養中に、栄養因子および生理活性物質から選ばれる少なくとも一種を培地に添加する、上記(14)〜(16)のいずれか1項に記載の方法。
(18) 栄養因子がグルコース、アミノ酸およびビタミンから選ばれる少なくとも一種である、上記(17)に記載の方法。
(19) 生理活性物質が、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリンおよびアルブミンから選ばれる少なくとも一種である、上記(17)に記載の方法。
(20) 糖蛋白質組成物が、抗体組成物である上記(14)〜(19)のいずれか1項に記載の方法。
(21) 細胞密度を1×105〜1×106細胞/mlとなるように馴化培地へ接種することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞の無血清培地への馴化方法。
(22) 上記(21)に記載の方法で細胞を無血清培地に馴化させた後、クローン化することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を取得する方法。
(23) 上記(21)に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
(24) 上記(22)に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされたクローン細胞株。
(25) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(21)または(22)に記載の方法。
(26) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(23)に記載の細胞。
(27) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(24)に記載のクローン細胞株。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年10月9日に出願された日本国特許出願2003−350166号の優先権を主張するものであり、当該特許出願の明細書および図面に記載される内容を包含する。
本発明の、無血清培に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞(以下、「本発明の細胞」と表記する)とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素(以下、「α−1,6−フコース修飾酵素」と表記する)の活性が消失するようにゲノム遺伝子が改変された細胞があげられる。
ここで、α−1,6−フコース修飾酵素の活性を消失するようにゲノムが改変されたとは、該酵素の発現を消失させるように該遺伝子の発現調節領域に変異を導入したり、あるいは該酵素の機能を消失させるように該遺伝子のアミノ酸配列に変異を導入することをいう。変異を導入するとは、ゲノム上の塩基配列に欠失、置換、挿入および/または付加といった塩基配列の改変を行うことをいう。このように改変されたゲノム遺伝子の発現または機能を完全に抑制することをノックアウトするという。ゲノム遺伝子をノックアウトする具体的な例としては、標的となる遺伝子のすべてまたは一部がゲノムから削除された例があげられる。具体的には、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子において、少なくとも開始コドンを含むエクソンのゲノム領域を染色体上から欠失させること、またはすべての対立遺伝子を欠失させることなどがあげられる。
したがって、本発明の細胞としては、無血清培地に馴化した、α−1,6−フコース修飾酵素の、ゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた細胞、該酵素の少なくとも開始コドンを含むエクソン領域の部分が欠失した細胞などがあげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素をいう。N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素としては、該反応に影響を与える酵素も包含される。
α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどがあげられる。
また、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する反応に影響を与える酵素としては、上述のα−1,6−フコース修飾酵素の活性に影響を与えたり、該酵素の基質となる物質の構造に影響を与える酵素も包含される。
本発明において、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼとしては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)あるいは(h)のDNAがコードする蛋白質、または下記(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)、(q)、(r)、(s)あるいは(t)の蛋白質などがあげられる。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるDNA
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(e) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(f) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(g) 配列番号3で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(h) 配列番号4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(i) 配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(j) 配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(k) 配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(l) 配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(m) 配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(n) 配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(o) 配列番号7で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(p) 配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(q) 配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(r) 配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(s) 配列番号7で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(t) 配列番号8で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスラェラーゼ活性を有する蛋白質
また、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列をコードするDNAとしては、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNA、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するアミノ酸配列をコードするDNAなどがあげられる。
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNAなどのDNAまたはその一部の断片をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,(1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Aproach, Second Edition,Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
本発明において、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより取得することができる蛋白質をいう。欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、例えば、1〜数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
また、本発明において、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、BLAST〔J.Mol.Biol.,215,403(1990)〕やFASTA〔Methods in Enzymology,183,63(1990)〕等の解析ソフトを用いて計算したときに、配列番号5、6、7または8に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上である蛋白質であることをいう。
本発明の細胞を取得する方法としては、目的とするゲノムの改変を行うことができれば、いずれの手法でも用いることができるが、遺伝子工学的な手法が望ましい。その具体的な手法としては、
(a) α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法
(b) α−1,6−フコース修飾酵素についての突然変異を導入する手法などがあげられる。
また、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性な細胞株を選択する方法を用いることにより、本発明の細胞を選択することができる。
レクチンに耐性な細胞とは、レクチンを有効濃度与えたときにも、生育が阻害されない細胞をいう。有効濃度とは、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞(以下、親株細胞とも称す)が正常に生育できない濃度以上であり、好ましくは、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生育できない濃度と同濃度、より好ましくは2〜5倍、さらに好ましくは10倍、最も好ましくは20倍以上である。
本発明において、生育が阻害されないレクチンの有効濃度は、細胞株に応じて適宜定めればよいが、通常10μg/ml〜10mg/ml、好ましくは0.5mg/ml〜2.0mg/mlである。
N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンとしては、該糖鎖構造を認識できるレクチンであれば、いずれのレクチンでも用いることができる。その具体的な例としては、レンズマメレクチンLCA(Lens Culinaris由来のLentil Agglutinin)エンドウマメレクチンPSA(Pisum sativum由来のPea Lectin)、ソラマメレクチンVFA(Vicia faba由来のAgglutinin)、ヒイロチャワンタケレクチンAAL(Aleuria aurantia由来のLectin)などがあげられる。
本発明の細胞としては、糖蛋白質を発現できる細胞であればいかなる細胞でもよいが、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などがあげられ、これらの細胞の具体的な例としては、後述の2.に記載のものがあげられる。動物細胞の具体例としては、チャイニーズハムスター卵巣組織由来のCHO細胞、ラットミエローマ細胞株YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞、マウスミエローマ細胞株NS0細胞、マウスミエローマ細胞株SP2/0−Ag14細胞、シリアンハムスター腎臓組織由来BHK細胞、抗体を産生するハイブリドーマ細胞、ヒト白血病細胞株ナマルバ細胞、胚性幹細胞、受精卵細胞などがあげられる。好ましくは、抗体などの糖蛋白質の製造に用いられる、上述のミエローマ細胞、ハイブリドーマ細胞、ヒト化抗体あるいはヒト抗体を製造するための宿主細胞、ヒト抗体を生産するヒト以外のトランスジェニック動物を製造するために用いる胚性幹細胞または受精卵細胞、ならびにヒト化抗体およびヒト抗体を生産するトランスジェニック植物を製造するために用いる植物細胞などがあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞(以下、親株細胞とも称す)は、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子をノックアウトさせるための手法を施す前の細胞をいう。ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞としては、特に限定はないが、例えば、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のNS0細胞としては、バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),10,169(1992)、バイオテクノロジー・バイオエンジニアリング(Biotechnol.Bioeng.),73,261,(2001)等の文献に記載されているNS0細胞があげられる。また、理化学研究所細胞開発銀行に登録されているNS0細胞株(RCB0213)、あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のSP2/0−Ag14細胞としては、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.),126,317,(1981)、ネイチャー(Nature),276,269,(1978)、ヒューマン・アンチィボディズ・アンド・ハイブリドーマズ(Human Antibodies and Hybridomas),3,129,(1992)等の文献に記載されているSP2/0−Ag14細胞があげられる。また、ATCCに登録されているSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL−1581)あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株(ATCC CRL−1581.1)などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のチャイニーズハムスター卵巣組織由来CHO細胞としては、Journal of Experimental Medicine,108,945(1958)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,1275(1968)、Genetics,55,513(1968)、Chromosoma,41,129(1973)、Methods in Cell Science,18,115(1996)、Radiation Research,148,260(1997)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980)、Proc.Natl.Acad.Sci.60,1275(1968)、Cell,6,121(1975)、Molecular Cell Genetics,Appendix I,II(p883−900)等の文献に記載されているCHO細胞があげられる。また、ATCCに登録されているCHO−K1株(ATCC CCL−61)、DUXB11株(ATCC CRL−9096)、Pro−5株(ATCC CRL−1781)や、市販のCHO−S株(Lifetechnologies社製Cat#11619)、あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のラットミエローマ細胞株
YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞としては、Y3/Ag1.2.3細胞(ATCC CRL−1631)から樹立された株化細胞が包含される。その具体的な例としては、J.Cell.Biol.,93,576(1982)、Methods Enzymol.73B,1(1981)等の文献に記載されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞があげられる。また、ATCCに登録されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL−1662)あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
本発明の細胞は、抗体などの糖蛋白質に付加される糖鎖構造のうち、フコースの修飾に関する酵素が欠失する。したがって、本発明の細胞に糖蛋白質をコードする遺伝子を含めた細胞では、生産された糖蛋白質がフコース修飾を受けず、その結果、高い生理活性を有する糖蛋白質組成物を無血清培養で安定に製造することができる。
高い生理活性を有する糖蛋白質組成物とは、受容体との親和性が向上する糖蛋白質組成物、血中の半減期が向上する糖蛋白質組成物、血中投与後の組織分布が変化する糖蛋白質組成物、薬理活性発現に必要な蛋白質との相互作用が向上する糖蛋白質組成物などをいう。
したがって、本発明の糖蛋白質組成物としては、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の親株細胞で生産した場合、その産生蛋白質の糖鎖構造にフコースの修飾がある糖蛋白質であればいかなる糖蛋白質組成物も含有される。その具体的な例としては、抗体、エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、組織型プラスミノーゲンアクチベータ、プロウロキナーゼ、トロンボモジュリン、アンチトロンビンIII、プロテインC、血液凝固因子VII、血液凝固因子VIII、血液凝固因子IX、血液凝固因子X、血液凝固因子XII、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子、アクチビン、骨形成因子、幹細胞因子(SCF)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン2、インターロイキン6、インターロイキン10、インターロイキン11、可溶性インターロイキン4受容体、腫瘍壊死因子α、DnaseI、ガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼなどがあげられる。
フコース修飾のない糖鎖構造を有することで、その生理活性が大幅に上昇する糖蛋白質のより具体的な例としては、例えば、抗体組成物があげられる。
したがって、本発明の細胞は、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物より、高いADCC活性を有する抗体組成物を生産することができる。
また、本発明の細胞は、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンとフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞よりも高い抗体組成物を生産することができる。
抗体組成物とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子からなる組成物をいう。
抗体は、重鎖、軽鎖の2種類のポリペプチド鎖がそれぞれ2分子ずつ会合した4量体である。重鎖のN末端側の約4分の1と軽鎖のN末端側の約2分の1(それぞれ100余アミノ酸)は可変領域と呼ばれ、多様性に富み、抗原との結合に直接関与する。可変領域以外の部分の大半は定常領域と呼ばれる。抗体分子は定常領域の相同性によりIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの各クラスに分類される。
またIgGクラスは定常領域の相同性により、さらにIgG1〜IgG4のサブクラスに分類される。
重鎖はN末端側よりVH、CH1、CH2、CH3の4つのイムノグロブリンドメインに分かれ、CH1とCH2の間にはヒンジ領域と呼ばれる可動性の高いペプチド領域があり、CH1とCH2とが区切られる。ヒンジ領域以降のCH2とCH3からなる構造単位はFc領域と呼ばれ、N−グリコシド結合糖鎖が結合している。また、この領域は、Fcレセプター、補体などが結合する領域である(免疫学イラストレイテッド原書第5版、2000年2月10日発行、南江堂版、抗体工学入門、1994年1月25日初版、地人書館)。
抗体などの糖蛋白質の糖鎖は、蛋白質部分との結合様式により、アスパラギンと結合する糖鎖(N−グリコシド結合糖鎖)とセリン、スレオニンなどと結合する糖鎖(O−グリコシル結合糖鎖)の2種類に大別される。N−グリコシド結合糖鎖は、以下の化学式1に示す基本となる共通のコア構造を有する[生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]。
化学式1において、アスパラギンと結合する糖鎖の末端を還元末端、反対側を非還元末端という。
N−グリコシド結合糖鎖としては、化学式1で示されるのコア構造を有するものがあげられ、コア構造の非還元末端にマンノースのみが結合するハイマンノース型、コア構造の非還元末端側にガラクトース−N−アセチルグルコサミン(以下、Gal−GlcNAcと表記する)の枝を並行して1ないしは複数本有し、更にGal−GlcNAcの非還元末端側にシアル酸、バイセクティングのN−アセチルグルコサミンなどの構造を有するコンプレックス型(複合型)、コア構造の非還元末端側にハイマンノース型とコンプレックス型の両方の枝を持つハイブリッド型などがあげられる。
抗体分子のFc領域には、N−グリコシド結合糖鎖が1カ所ずつ結合する領域を有しているので、抗体1分子あたり2本の糖鎖が結合している。抗体分子に結合するN−グルコシド結合糖鎖としては、前記化学式1で示されるコア構造を含むいかなる糖鎖も包含されるので、抗体に結合する2本のN−グルコシド結合糖鎖には多数の糖鎖の組み合わせが存在することになる。
したがって、本発明の細胞を用いて製造される抗体組成物は、本発明の効果が得られる範囲であれば、単一の糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよいし、複数の異なる糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよい。そのような本発明により得られる抗体組成物として、好ましくは、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の親株細胞が生産する抗体組成物よりも高い抗体組成物があげられる。
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合とは、該組成物中に含まれるFc領域に結合する全てのN−グリコシド結合複合型糖鎖の合計数に対して、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の数が占める割合をいう。
N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖とは、フコースが、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにα結合していない糖鎖をいう。具体的には、フコースの1位がN−グリコシド結合複合型糖鎖のN−アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖があげられる。
本発明の抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合としては、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である抗体組成物があげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物よりもADCC活性が高い抗体組成物としては、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物の該割合よりも高いものがあげられる。具体的には、該割合が2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、特に好ましくは10倍以上高い抗体組成物があげられ、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の全てが、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位が結合していない糖鎖である抗体組成物が最も好ましい。
上述の糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が100%である抗体組成物、または抗体組成物中に含まれるFc領域に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の全てが、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位が結合していない糖鎖である抗体組成物としては、後述の6.に記載の糖鎖分析において、フコースが実質的に検出できない程度である場合をいう。実質的に検出できない程度とは、測定の検出限界以下であることをいう。
本発明により得られる抗体組成物において、Fc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物よりも高い場合、本発明により得られる抗体組成物は、親株細胞が生産する抗体分子からなる抗体組成物より高いADCC活性を有する。
ADCC活性とは、生体内で、腫瘍細胞等の細胞表面抗原などに結合した抗体が、抗体Fc領域とエフェクター細胞表面上に存在するFcレセプターとの結合を介してエフェクター細胞を活性化し、腫瘍細胞等を障害する活性をいう[モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・アプリケーションズ(Monoclonal Antibodies:Principles and Applications),Wiley−Liss,Inc.,Capter 2.1(1995)]。エフェクター細胞としては、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、活性化されたマクロファージ等があげられる。
N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子からなる組成物中に含まれる、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合は、抗体分子からヒドラジン分解や酵素消化などの公知の方法[生物化学実験法23−糖タンパク質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989)]を用い、糖鎖を遊離させ、遊離させた糖鎖を蛍光標識又は同位元素標識し、標識した糖鎖をクロマトグラフィー法にて分離することによって決定することができる。また、遊離させた糖鎖をHPAED−PAD法[ジャーナル・オブ・リキッド・クロマトグラフィー(J.Liq.Chromatogr.),6,1577(1983)]で分析することによっても決定することができる。 また、本発明の抗体としては、腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体であることが好ましく、抗体のクラスはIgGが好ましい。
腫瘍関連抗原を認識する抗体としては、抗GD2抗体(Anticancer Res.,13,331,1993)、抗GD3抗体(Cancer Immunol.Immunother.,36,260,1993)、抗GM2抗体(Cancer Res.,54,1511,1994)、抗HER2抗体(Proc.Natl.Acad.Sei.USA,89,4285,1992)、抗CD52抗体(Nature,332,323,1988)、抗MAGE抗体(British J.Cancer,83,493,2000)、抗HM1.24抗体(Molecular Immunol.,36,387,1999)、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体(Cancer,88,2909,2000)、抗FGF8抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,9911,1989)抗塩基性繊維芽細胞増殖因子抗体、抗FGF8受容体抗体(J.Biol.Chem.,265,16455,1990)、抗塩基性繊維芽細胞増殖因子受容体抗体、抗インスリン様増殖因子抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗インスリン様増殖因子受容体抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗PMSA抗体(J.Urology,160,2396,1998)、抗血管内皮細胞増殖因子抗体(Cancer Res.,57,4593,1997)または抗血管内皮細胞増殖因子受容体抗体(Oncogene,19,2138,2000)、抗CA125抗体、抗17−1A抗体、抗インテグリンαvβ3抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗HLA抗体、抗HLA−DR抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗EGF受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CD10抗体(American Journal of Clinical Pathology,113,374,2000)などがあげられる。
アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体としては、抗インターロイキン6抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン6受容体抗体(Molecular Immunol.,31,371,1994)、抗インターロイキン5抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン5受容体抗体、抗インターロイキン4抗体(Cytokine,3,562,1991)、抗インターロイキン4受容体抗体(J.Immunol.Meth.,217,41,1998)、抗腫瘍壊死因子抗体(Hybridoma,13,183,1994)、抗腫瘍壊死因子受容体抗体(Molecular Pharmacol.,58,237,2000)、抗CCR4抗体(Nature,400,776,1999)、抗ケモカイン抗体(J.Immunol.Meth.,174,249,1994)、抗ケモカイン受容体抗体(J.Exp.Med.,186,1373,1997)、抗IgE抗体、抗CD23抗体、抗CD11a抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CRTH2抗体(J.Immunol.,162,1278,1999)、抗CCR8抗体(WO99/25734)、抗CCR3抗体(US6207155)などがあげられる。
循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体としては、抗GpIIb/IIIa抗体(J.Immunol.,152,2968,1994)、抗血小板由来増殖因子抗体(Science,253,1129,1991)、抗血小板由来増殖因子受容体抗体(J.Biol.Chem.,272,17400,1997)または抗血液凝固因子抗体(Circulation,101,1158,2000)などがあげられる。
自己免疫疾患(具体的な例としては、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)に関連する抗原を認識する抗体としては、抗自己DNA抗体(Immunol.Letters,72,61,2000)、抗CD11a抗体、抗ICAM3抗体、抗CD80抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗インテグリンα4β7抗体、抗CD40L抗体、抗IL−2受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)などがあげられる。
ウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体としては、抗gp120抗体(Structure,8,385,2000)、抗CD4抗体(J.Rheumatology,25,2065,1998)、抗CCR4抗体、抗ベ口毒素抗体(J.Clin.Microbiol.,37,396,1999)などがあげられる。
抗体分子としては、抗体のFc領域を含む分子であればいかなる分子も包含される。具体的には、抗体、抗体の断片、Fc領域を含む融合蛋白質などがあげられる。
抗体としては、外来抗原刺激の結果、免疫反応によって生体内に生産される蛋白質で、抗原と特異的に結合する活性を有するものであればいかなるものでもよいが、動物に抗原を免疫し、免疫動物の脾臓細胞より作製したハイブリドーマ細胞が分泌する抗体のほか、遺伝子組換え技術により作製された抗体、すなわち、抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを、宿主細胞へ導入することにより取得された抗体などがあげられる。具体的には、ハイブリドーマが生産する抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などをあげることができる。
ハイブリドーマは、ヒト以外の哺乳動物に抗原を免疫して取得されたB細胞と、マウス、ラット等に由来するミエローマ細胞とを細胞融合させて得られる、所望の抗原特異性を有したモノクローナル抗体を生産する細胞をいう。
ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体重鎖可変領域(以下、可変領域はV領域としてHVまたはVHとも称す)および抗体軽鎖可変領域(以下、軽鎖はL鎖としてLVまたはVLとも称す)とヒト抗体の重鎖定常領域(以下、CHとも称す)およびヒト抗体の軽鎖定常領域(以下、CLとも称す)とからなる抗体を意味する。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ヒト型キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいう。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDR配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列に移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することによりヒト型CDR移植抗体を発現させ、製造することができる。
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーならびにヒト抗体生産トランスジェニック動物あるいはヒト抗体生産トランスジェニック植物から得られる抗体等も含まれる。
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ不死化、クローニングすることにより、該抗体を生産するリンパ球を培養でき、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、一本鎖抗体等の抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
ヒト抗体生産トランスジェニック非ヒト動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物をいう。具体的には、マウス胚性幹細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該胚性幹細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体生産トランスジェニック動物を作製することができる。また、動物の受精卵にヒト抗体遺伝子を導入し、該受精卵を発生させることにヒト抗体生産トランスジェニック動物を作製することもできる。ヒト抗体生産トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体生産ハイブリドーマを得、培養することで培養物中にヒト抗体を生産蓄積させることができる。
トランスジェニック非ヒト動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ニワトリ、サル又はウサギ等があげられる。
また、本発明において、抗体が、腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体であることが好ましく、抗体のクラスがIgGのヒト抗体が好ましい。
抗体の断片とは、上記抗体の少なくともFc領域の一部を含んだ断片をいう。Fc領域とは、抗体のH鎖のC末端側の領域、CH2領域およびCH3領域を意味し、天然型およびその変異型を包含する。少なくともFc領域の一部とは、好ましくはCH2領域を含む断片、より好ましくはCH2領域内に存在する1番目のアスパラギン酸を含む領域をいう。IgGクラスのFc領域は、カバット(Kabat)らのEU Index[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),5th Ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]のナンバリングで226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味する。抗体の断片としては、具体的には、H鎖の単量体、H鎖の2量体などがあげられる。
Fc領域を有する融合蛋白質としては、抗体のFc領域を含んだ抗体あるいは抗体の断片と、酵素、サイトカインなどの蛋白質とを融合させた物質(以下、Fc融合蛋白質と称す)であればいかなるものでもよい。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、以下に述べる手法により作製することができる。
(1)酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子を標的とし、遺伝子破壊の方法を用いることにより作製することができる。α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどあげられる。
遺伝子破壊の方法としては、標的とする酵素の遺伝子を破壊することができる方法であればいかなる方法も包含される。その例としては、相同組換え法、RNA−DNA oligonucleotide(RDO)法、レトロウイルスを用いた方法、トランスポゾンを用いた方法等があげられる。以下これらを具体的に説明する。
(a)相同組換え法による本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、染色体上の標的遺伝子を相同組換え法を用い改変することによって作製することができる。
染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994)(以下、「マニピュレイティング・ザ・マウス・エンブリオ・ア・ラボラトリー・マニュアル」と略す)、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、バイオマニュアルシリーズ8 ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)(以下、「ES細胞を用いた変異マウスの作製」と略す)等に記載の染色体工学の手法を用い、例えば以下のように行うことができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを取得する。
取得したcDNAの塩基配列に基づき、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する。
該ゲノムDNAの塩基配列に基づき、改変する標的遺伝子(例えば、α−1,6−フコース修飾酵素の構造遺伝子、あるいはプロモーター遺伝子)を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。
作製したターゲットベクターを宿主細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択することにより、本発明の細胞を作製することができる。
宿主細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の細胞があげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNA及びゲノムDNAを取得する方法としては、例えば、以下に記載の方法があげられる。
cDNAの調製方法
各種宿主細胞から全RNA又はmRNAを調製する。
調製した全RNA又はmRNAからcDNAライブラリーを作製する。
α−1,6−フコース修飾酵素の既知アミノ酸配列、例えばヒトのアミノ酸配列、に基づいて、デジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法にて、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得する。
取得した遺伝子断片をプローブとして用い、cDNAライブラリーをスクリーニングし、α−1,6−フコース修飾酵素をコードするcDNAを取得することができる。
各種宿主細胞のmRNAは、市販のもの(例えばClontech社)を用いてもよいし、以下のごとく各種宿主細胞から調製してもよい。各種宿主細胞から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),154,3(1987)]、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム(AGPC)法[アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry),162,156(1987);実験医学、9,1937(1991)]などがあげられる。
また、全RNAからpoly(A)+RNAとしてmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)等があげられる。
さらに、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社)などのキットを用いることによりmRNAを調製することができる。
次に、調製した各種宿主細胞mRNAからcDNAライブラリーを作製する。cDNAライブラリー作製法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、A Laboratory Manual,2nd Ed.(1989)等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Life Technologies社)、ZAP−cDNA Synthesis Kit(STRATAGENE社)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自立複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる。具体的には、ZAP Express[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、Lambda ZAP II(STRATAGENE社)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング・ア・プラクティカル・アプローチ(DNA cloning,A Practical Approach),1,49(1985)]、λTriplEx(Clontech社)、λExCell(Pharmacia社)、pT7T318U(Pharmacia社)、pcD2[モレキュラー・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]およびpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等をあげることができる。
cDNAライブラリーを作製するための宿主微生物としては、微生物であればいずれでも用いることができるが、好ましくは大腸菌が用いられる。具体的には、Escherichiacoli XL1−Blue MRF’[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、Escherichia coli C600[ジェネティクス(Genetics),39,440(1954)]、Escherichia coli Y1088[サイエス(Science),222,778(1983)]、Escherichia coli Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、Escherichia coli NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、Escherichia coli K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]およびEscherichia coli JM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
このcDNAライブラリーを、そのまま以降の解析に用いてもよいが、不完全長cDNAの割合を下げ、なるべく完全長cDNAを効率よく取得するために、菅野らが開発したオリゴキャップ法[ジーン(Gene),138,171(1994);ジーン(Gene),200,149(1997);蛋白質核酸酵素,41,603(1996);実験医学,11,2491(1993);cDNAクローニング(羊土社)(1996);遺伝子ライブラリーの作製法(羊土社)(1994)]を用いて調製したcDNAライブラリーを以下の解析に用いてもよい。
α−1,6−フコース修飾酵素のアミノ酸配列に基づいて、該アミノ酸配列をコードすることが予測される塩基配列の5’端および3’端の塩基配列に特異的なデジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols),Academic Press(1990)]を用いてDNAの増幅を行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得することができる。
取得した遺伝子断片がα−1,6−フコース修飾酵素をコードするDNAであることは、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM377 DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、確認することができる。
該遺伝子断片をDNAプローブとして、各種宿主細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリー対してコロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーション(モレキュラー・クローニング第2版)を行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素のDNAを取得することができる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得するために用いたプライマーを用い、各種宿主細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法を用いてスクリーニングを行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素のDNAを取得することもできる。
取得したα−1,6−フコース修飾酵素をコードするDNAの塩基配列を末端から、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM377 DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定する。
決定したcDNAの塩基配列をもとに、BLAST等の相同性検索プログラムを用いて、GenBank、EMBLおよびDDBJなどの塩基配列データベースを検索することにより、データベース中の遺伝子の中でGDP−マンノースをα−1,6−フコース修飾酵素をコードしている遺伝子を決定することもできる。
上記の方法で得られるα−1,6−フコース修飾酵素をコードしている遺伝子の塩基配列としては、例えば、配列番号1、2、3または4に記載の塩基配列があげられる。
決定されたDNAの塩基配列に基づいて、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・エルマー社のDNA合成機model392等のDNA合成機で化学合成することにより、α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを取得することもできる。
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する方法としては、例えば、以下に記載の方法があげられる。
ゲノムDNAの調製方法
ゲノムDNAを調製する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された公知の方法があげられる。また、ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems社)やUniversal GenomeWalkerTM Kits(CLONTECH社)などを用いることにより、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを単離することもできる。
上記の方法で得られるα−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAの塩基配列として、例えば配列番号9に記載の塩基配列があげられる。
標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターは、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)等に記載の方法にしたがって作製することができる。ターゲットベクターは、リプレースメント型、インサーション型いずれでも用いることができる。
各種宿主細胞へのターゲットベクターの導入には、後述の2.に記載の各種細胞に適した組換えベクターの導入方法を用いることができる。
相同組換え体を効率的に選別する方法として、例えば、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)等に記載のポジティブ選択、プロモーター選択、ネガティブ選択、ポリA選択などの方法を用いることができる。選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法(モレキュラー・クローニング第2版)やPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols),Academic Press(1990)]等があげられる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として、相同組換え体を取得することもできる。具体的な方法としては、例えば、以下に記載の形質転換体を選択する方法があげられる。
形質転換体を選択する方法
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を選択する方法としては、文献[新生化学実験講座3−糖質I,糖タンパク質(東京化学同人)日本生化学会編(1988)]、文献[細胞工学,別冊,実験プロトコールシリーズ,グライコバイオロジー実験プロトコール,糖タンパク質・糖脂質・プロテオグリカン(秀潤社製)谷口直之・鈴木明美・古川清・菅原一幸監修(1996)]、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された生化学的な方法あるいは遺伝子工学的な方法などがあげられる。生化学的な方法としては、例えば、酵素特異的な基質を用いて酵素活性を評価する方法があげられる。遺伝子工学的な方法としては、例えば、酵素遺伝子のmRNA量を測定するノーザン解析やRT−PCR法等があげられる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた結果生じる形質の変化を指標に細胞を選択する方法としては、例えば、産生抗体分子の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法や、細胞表面上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法などがあげられる。産生抗体分子の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法としては、後述の6.に記載の方法があげられる。細胞表面上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法としては、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性である株を選択する手法を挙げることができる。その具体的な例としては、ソマティク・セル・アンド・モレキュラー・ジェネティクス(Somatic Cell Mol.Genet.),12,51,(1986)等に記載のレクチンを用いた方法があげられる。
レクチンとしては、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンであればいずれのレクチンでも用いることができるが、レンズマメレクチンLCA(Lens Culinaris由来のLentil Agglutinin)、エンドウマメレクチンPSA(Pisum sativum由来のPea Lectin)、ソラマメレクチンVFA(Vicia faba由来のAgglutinin)、ヒイロチャワンタケレクチンAAL(Aleuria aurantia由来のLectin)等が好ましい。
具体的には、数十μg/ml〜数mg/ml、好ましくは0.5〜2.0mg/mlの濃度の上述のレクチンを含む培地にで1日〜2週間、好ましくは3日〜1週間培養し、生存している細胞を継代培養あるいはコロニーをピックアップし別の培養器に移し、さらに引き続きレクチンを含む培地で培養を続けることで、本発明の細胞を選択することができる。
(b)RDO法による本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、RDO法を用い、例えば、以下のように作製することができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAあるいはゲノムDNAを調製する。
調製したcDNAあるいはゲノムDNAの塩基配列を決定する。
決定したDNAの配列に基づき、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする部分、非翻訳領域の部分あるいはイントロン部分を含む適当な長さのRDOのコンストラクトを設計し合成する。
合成したRDOを宿主細胞に導入し、標的とした酵素、すなわちα−1,6−フコース修飾酵素に変異が生じた形質転換体を選択することにより、本発明の細胞を作製することができる。
宿主細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の宿主細胞があげられる。
各種宿主細胞へのRDOの導入には、後述の2.に記載の各種宿主細胞に適した組み換えベクターの導入方法を用いることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを調製する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の「cDNAの調製方法」などがあげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の「ゲノムDNAの調製方法」などがあげられる。
DNAの塩基配列は、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、サンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.),74,5463(1977)]等の反応を行い、塩基配列自動分析装置、例えば、A.L.F.DNAシークエンサー(Pharmacia社製)等を用いて解析することで該DNAの塩基配列を決定することができる。
RDOは、常法またはDNA合成機を用いることにより調製することができる。
RDOを宿主細胞に導入し、標的とした酵素、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子に変異が生じた細胞を選択する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された染色体上の遺伝子の変異を直接検出する方法があげられる。
また、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」を用いることもできる。
RDOのコンストラクトは、サイエンス(Science),273,1386,(1996);ネイチャー・メディシン(Nature Medicine),4,285,(1998);ヘパトロジー(Hepatology),25,1462,(1997);ジーン・セラピー(Gene Therapy),5,1960,(1999);ジーン・セラピー(Gene Therapy),5,1960,(1999);ジャーナル・オブ・モレキュラー・メディシン(J.Mol.Med.),75,829,(1997);プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),96,8774,(1999);プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),96,8768,(1999);ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nuc.Acids.Res.),27,1323,(1999);インベスティゲーション・オブ・ダーマトロジー(Invest.Dematol.),111,1172,(1998);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),16,1343,(1998);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),18,43,(2000);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),18,555,(2000)等の記載に従って設計することができる。
(c)トランスポゾンを用いた方法による、本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、ネイチャー・ジェネティク(Nature Genet.),25,35,(2000)等に記載のトランスポゾンのシステムを用い、α−1,6−フコース修飾酵素の活性、あるいは産生抗体分子または細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標に突然変異体を選択することで、本発明の細胞を作製することができる。
トランスポゾンのシステムとは、外来遺伝子をランダムに染色体上に挿入させることで突然変異を誘発させるシステムであり、通常、トランスポゾンに挿まれた外来遺伝子を、突然変異を誘発させるベクターとして用い、この遺伝子を染色体上にランダムに挿入させるためのトランスポゼースの発現ベクターを同時に細胞の中に導入する。
トランスポゼースは、用いるトランスポゾンの配列に適したものであればいかなるものも用いることができる。
外来遺伝子としては、細胞のDNAに変異を誘起するものであればいかなる遺伝子も用いることができる。
細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の宿主細胞があげられる。
細胞への遺伝子の導入には、後述の2.に記載の各種宿主細胞に適した組み換えベクターの導入方法を用いることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素の活性を指標として突然変異体を選択する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」があげられる。
(2)酵素についての突然変異を導入する手法
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子について突然変異を導入し、該酵素に突然変異を生じた所望の細胞株を選択する手法を用いることにより作製することができる。
α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどがあげられる。
具体的には、1)突然変異誘発処理で親株細胞を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として所望の細胞株を選択する方法、2)突然変異誘発処理で親株を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、生産抗体分子の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法、3)突然変異誘発処理で親株細胞を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、該細胞の細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法などがあげられる。
突然変異誘発処理としては、親株細胞のDNAに点突然変異、欠失あるいはフレームシフト突然変異を誘起するものであればいかなる処理も用いることができる。具体的には、エチルニトロソウレア、ニトロソグアニジン、ベンゾピレン、アクリジン色素による処理、放射線の照射などがあげられる。また、種々のアルキル化剤や発癌物質も突然変異誘発物質として用いることができる。突然変異誘発物質を細胞に作用させる方法としては、例えば、組織培養の技術 第三版(朝倉書店)日本組織培養学会編(1996)、ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genet.),24,314,(2000)等に記載の方法を挙げることができる。
自然発生的に生じた突然変異体としては、特別な突然変異誘発処理を施さないで、通常の細胞培養の条件で継代培養を続けることによって自然発生的に生じる突然変異体を挙げることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として所望の細胞株を選択する方法、生産抗体分子の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法、細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」があげられる。
2.抗体組成物を例とした糖蛋白質の製造方法
抗体組成物の製造を例に、本発明の細胞を用いた糖蛋白質の製造方法を示す。
抗体組成物は、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Antibodies,A Laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988(以下、アンチボディズと略す)、Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition,Acad.Press,1993(以下、モノクローナルアンチボディズと略す)、Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press,1996(以下、アンチボディエンジニアリングと略す)等に記載された方法を用い、例えば、以下のように抗体分子をコードする遺伝子を導入する宿主細胞中で発現させて取得することができる。
抗体分子のcDNAを調製する。
調整した抗体分子の全長cDNAをもとにして、必要に応じて、該蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。
該DNA断片、または全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。
該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、本発明の抗体組成物を生産する形質転換体を得ることができる。
cDNAは、上記1.の(1)の(a)に記載の「cDNAの調製方法」に従い、ヒト又は非ヒト動物の組織又は細胞より、目的とする抗体分子に特異的なプローブプライマーを用いて調製することができる。
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)等をあげることができる。
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP 1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、クリュイベロミセス属、トリコスポロン属、シュワニオミセス属等に属する微生物、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Trichosporon pullulans、Schwanniomyces alluvius等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[メソッズ・エンザイモロジー(Methods.Enzymol.),194,182(1990)]、スフェロプラスト法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A),84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriology),153,163(1983)]、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A),75,1929(1978)]に記載の方法等をあげることができる。
動物細胞を宿主として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pcDNAI、pcDM8(フナコシ社より市販)、pAGE107[特開平3−22979;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133,(1990)]、pAS3−3[特開平2−227075]、pCDM8[ネイチャー(Nature),329,840,(1987)]、pcDNAI/Amp(Invitrogen社)、pREP4(Invitrogen社)、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochemistry),101,1307(1987)]、pAGE210等をあげることができる。
プロモーターとしては、動物細胞中で発現できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等をあげることができる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
宿主細胞としては、ヒトの細胞であるナマルバ(Namalwa)細胞、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ラットミエローマ細胞、マウスミエローマ細胞、シリアンハムスター腎臓由来細胞、胚性幹細胞、受精卵細胞等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、リン酸カルシウム法[特開平2−227075]、リポフェクション法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),84,7413(1987)]、インジェクション法[マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版]、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法[特許第2606856、特許第2517813]、DEAE−デキストラン法[バイオマニュアルシリーズ4−遺伝子導入と発現・解析法(羊土社)横田崇・新井賢一編(1994)]、ウイルスベクター法[マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版]等をあげることができる。
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーBaculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992)、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6,47(1988)等に記載された方法によって、タンパク質を発現することができる
即ち、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。
該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社)等をあげることができる。
バキュロウイルスとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
昆虫細胞としては、Spodopterafrugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21[カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーBaculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992)]、Trichoplusianiの卵巣細胞であるHigh5(Invitrogen社)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への上記組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、リポフェクション法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),84,7413(1987)]等をあげることができる。
植物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、Tiプラスミド、タバコモザイクウイルスベクター等をあげることができる。
プロモーターとしては、植物細胞中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、イネアクチン1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、タバコ、ジャガイモ、トマト、ニンジン、ダイズ、アブラナ、アルファルファ、イネ、コムギ、オオムギ等の植物細胞等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)[特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977]、エレクトロポレーション法[特開昭60−251887]、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法[日本特許第2606856、日本特許第2517813]等をあげることができる。
遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、Fc領域と他の蛋白質との融合蛋白質発現等を行うことができる。
糖鎖の合成に関与する遺伝子を導入した、酵母、動物細胞、昆虫細胞または植物細胞等により発現させた場合には、導入した遺伝子によって所望の糖あるいは糖鎖が付加された抗体分子を得ることができる。
以上のようにして得られる形質転換体を培地に培養し、培養物中に抗体分子を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、抗体組成物を製造することができる。形質転換体を培地に培養する方法は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
酵母を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、該生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中のpHは3.0〜9.0に保持する。pHの調製は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地[ザ・ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエイション(The Journal of the American Medical Association),199,519(1967)]、EagleのMEM培地[サイエンス(Science),122,501(1952)]、ダルベッコ改変MEM培地邊[ヴュウロロジー(Virology),8,396(1959)]、199培地[プロシーディング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォア・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73,1(1950)]、Whitten培地[発生工学実験マニュアル−トランスジェニック・マウスの作り方(講談社)勝木元也編(1987)]またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等を添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜8、30〜40℃、5%CO2存在下等の条件下で1〜7日間行う。フェドバッチ培養、ホロファイバー培養などの培養法を用いて1日〜数ヶ月培養を行うこともできる。
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(Pharmingen社)、Sf−900 II SFM培地(Life Technologies社)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社)、Grace’s Insect Medium[ネイチャー(Nature),195,788(1962)]等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜7、25〜30℃等の条件下で、1〜5日間行う。
また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
植物細胞を宿主として得られた形質転換体は、細胞として、または植物の細胞や器官に分化させて培養することができる。該形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH5〜9、20〜40℃の条件下で3〜60日間行う。
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記のとおり、抗体分子をコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する酵母、動物細胞、あるいは植物細胞由来の形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、抗体組成物を生成蓄積させ、該培養物より抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を製造することができる。
抗体組成物の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、あるいは宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞や、生産させる抗体分子の構造を変えることにより、該方法を選択することができる。
抗体組成物が宿主細胞内あるいは宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),264,17619(1989)]、ロウらの方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),86,8227(1989);ジーン・デベロップメント(Genes Develop.),4,1288(1990)]、または特開平05−336963、WO94/23021等に記載の方法を準用することにより、該抗体組成物を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、発現ベクターに、抗体分子をコードするDNA、および抗体分子の発現に適切なシグナルペプチドをコードするDNAを挿入し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入した後に抗体分子を発現させることにより、目的とする抗体分子を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
また、特開平2−227075に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。
さらに、遺伝子導入した動物または植物の細胞を再分化させることにより、遺伝子が導入された動物個体(トランスジェニック非ヒト動物)または植物個体(トランスジェニック植物)を造成し、これらの個体を用いて抗体組成物を製造することもできる。
形質転換体が動物個体または植物個体の場合は、通常の方法に従って、飼育または栽培し、抗体組成物を生成蓄積させ、該動物個体または植物個体より該抗体組成物を採取することにより、該抗体組成物を製造することができる。
動物個体を用いて抗体組成物を製造する方法としては、例えば公知の方法[アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(American Journal of Clinical Nutrition),63,639S(1996);アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(American Journal of Clinical Nutrition),63,627S(1996);バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),9,830(1991)]に準じて遺伝子を導入して造成した動物中に目的とする抗体組成物を生産する方法があげられる。
動物個体の場合は、例えば、抗体分子をコードするDNAを導入したトランスジェニック非ヒト動物を飼育し、抗体組成物を該動物中に生成・蓄積させ、該動物中より抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を製造することができる。該動物中の生成・蓄積場所としては、例えば、該動物のミルク(特開昭63−309192)、卵等をあげることができる。この際に用いられるプロモーターとしては、動物で発現できるものであればいずれも用いることができるが、例えば、乳腺細胞特異的なプロモーターであるαカゼインプロモーター、βカゼインプロモーター、βラクトグロブリンプロモーター、ホエー酸性プロテインプロモーター等が好適に用いられる。
植物個体を用いて抗体組成物を製造する方法としては、例えば抗体分子をコードするDNAを導入したトランスジェニック植物を公知の方法[組織培養,20(1994);組織培養,21(1995);トレンド・イン・バイオテクノロジー(Trends in Biotechnology),15,45(1997)]に準じて栽培し、抗体組成物を該植物中に生成・蓄積させ、該植物中より該抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を生産する方法があげられる。
抗体分子をコードする遺伝子を導入した形質転換体により製造された抗体組成物は、例えば抗体組成物が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAIONHPA−75(三菱化学(株)製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、抗体組成物の精製標品を得ることができる。
また、抗体組成物が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として抗体組成物の不溶体を回収する。回収した抗体組成物の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該抗体組成物を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法により該抗体組成物の精製標品を得ることができる。
抗体組成物が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該抗体組成物を回収することができる。即ち、該培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、抗体組成物の精製標品を得ることができる。
このようにして取得される抗体組成物として、例えば、抗体、抗体の断片、抗体のFc領域を有する融合蛋白質などを挙げることができる。
以下に、抗体組成物の取得のより具体的な例として、ヒト化抗体およびFc融合蛋白質の組成物の製造方法について記すが、他の抗体組成物等の糖蛋白質を上述の方法および当該方法に準じて取得することもできる。
A.ヒト化抗体組成物の製造
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとは、ヒト抗体の重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)C領域をコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のC領域としては、任意のヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域であることができ、例えば、ヒト抗体のH鎖のIgG1サブクラスのC領域(以下、hCγ1と表記する)及びヒト抗体のL鎖のκクラスのC領域(以下、hCκと表記する)等があげられる。
ヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンから成る染色体DNAを用いるこどができ、また、cDNAを用いることもできる。
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、pHSG274[ジーン(Gene),27,223(1984)]、pKCR[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),78,1527(1981)]、pSG1 βd2−4[サイトテクノロジー(Cytotechnology),4,173(1990)]等があげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスのLTR[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),149,960(1987)]、免疫グロブリンH鎖のプロモーター[セル(Cell),41,479(1985)]とエンハンサー[セル(Cell),33,717(1983)]等があげられる。
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖及びL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(以下、タンデム型と表記する)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖及びL鎖の発現量のバランスが均衡する等の点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい[ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(J.Immunol.Methods),167,271(1994)]。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体及びヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
(2)ヒト以外の動物の抗体のV領域をコードするcDNAの取得。
ヒト以外の動物の抗体、例えば、マウス抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAは以下のようにして取得することができる。
目的のマウス抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージ或いはプラスミド等のベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、既存のマウス抗体のC領域部分或いはV領域部分をプローブとして用い、H鎖V領域をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミド及びL鎖V領域をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージ或いは組換えプラスミド上の目的のマウス抗体のH鎖及びL鎖V領域の全塩基配列を決定し、塩基配列よりH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等、ハイブリドーマ細胞を作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ハイブリドーマ細胞から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオ口酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),154,3(1987)]、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989]等があげられる。また、ハイブリドーマ細胞からmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)等があげられる。
cDNAの合成及びcDNAライブラリー作製法としては、常法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in MolecularBiology),Supplement 1−34]、或いは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマ細胞から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP EXpress[ストラテジーズ(Srategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、λzap II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング:ア・プラクティカル・アプローチ(DNA Cloning:A Practical Approach),I,49(1985)]、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell,pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2[モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]及びpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等が用いられる。
ファージ或いはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現及び維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’[ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、C600[ジェネティックス(Genetics),39,440(1954)]、Y1088、Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]及びJM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
cDNAライブラリーからのヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAクローンの選択法としては、アイソトープ或いは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法或いはプラーク・ハイブリダイゼーション法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press NewYork,1989]により選択することができる。
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNA或いはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction[以下、PCR法と表記する;モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology),Supplement 1−34]によりH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAを調製することもできる。
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBlescript SK(−)(Stratagene社製)等のプスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、サンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.),74,5463(1977)]等の反応を行い、塩基配列自動分析装置、例えば、A.L.F.DNAシークエンサー(Pharmacia社製)等を用いて解析することで該cDNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept. Health and Human Services,1991]と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のH鎖及びL鎖V領域の完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。
(3)ヒト以外の動物の抗体のV領域のアミノ酸配列の解析
分泌シグナル配列を含む抗体のH鎖及びL鎖V領域の完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さ及びN末端アミノ酸配列を推定でき、更にはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、H鎖及びL鎖V領域の各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]と比較することによって見出すことができる。
(4)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流に、ヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAを、ヒト以外の動物の抗体H鎖及びL鎖V領域の3’末端側の塩基配列とヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域の5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAとそれぞれ連結し、それぞれを本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRを移植するヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のフレームワーク(以下、FRと表記する)のアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bank等のデータベースに登録されているヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のH鎖及びL鎖のV領域のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]等があげられるが、その中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。
次に、選択したヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列に目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept. Health and Human Services,1991]を考慮してDNA配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計する。設計したDNA配列に基づき、100塩基前後の長さから成る数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率及び合成可能なDNAの長さから、H鎖、L鎖とも6本の合成DNAを設計することが好ましい。
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項2のAの(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、本項2のAの(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
(6)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRのみをヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている[バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),9,266(1991)]。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域では、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的或いは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている[バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),9,266(1991)]。
ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),112,535(1977)]或いはコンピューターモデリング[プロテイン・エンジニアリング(Protein Engineering),7,1501(1994)]等による抗体の立体構造の構築及び解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討する等の種々の試行錯誤が必要である。
ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAを用いて本項2のAの(5)に記載のPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について本項2のAの(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
(7)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流に、本項2のAの(5)及び(6)で構築したヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、本項2のAの(5)及び(6)でヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域を構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。
(8)ヒト化抗体の安定的生産
本項2のAの(4)及び(7)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な動物細胞に導入することによりヒト型キメラ抗体及びヒト型CDR移植抗体(以下、併せてヒト化抗体と称す)を安定に生産する形質転換株を得ることができる。
動物細胞へのヒト化抗体発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法[特開平2−257891;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]等があげられる。
ヒト化抗体発現ベクターを導入する動物細胞としては、ヒト化抗体を生産させることができる動物細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。
具体的には、マウスミエローマ細胞であるNS0細胞、SP2/0細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO/dhfr−細胞、CHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、IR983F細胞、シリアンハムスター腎臓由来であるBHK細胞、ヒトミエローマ細胞であるナマルバ細胞などがあげられるが、好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、1.に記載の細胞等があげられる。
ヒト化抗体発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に生産する形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418 sulfate(以下、G418と表記する;SIGMA社製)等の薬剤を含む動物細胞培養用培地により選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(曰水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM培地(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM培地(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の各種添加物を添加した培地等をいることができる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を生産蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の生産量及び抗原結合活性は酵素免疫抗体法[以下、ELISA法と表記する;アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1998、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]等により測定できる。また、形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、DHFR遺伝子増幅系等を利用してヒト化抗体の生産量を上昇させることができる。
ヒト化抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる[アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]。また、その他に通常、タンパク質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖或いは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動[以下、SDS−PAGEと表記する;ネイチャー(Nature),227,680(1970)]やウエスタンブロッティング法[アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 12,1988、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]等で測定することができる。
B.Fc融合蛋白質の製造
(1)Fc融合蛋白質発現用ベクターの構築
Fc融合蛋白質発現用ベクターとは、ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子をクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のFc領域としては、CH2とCH3領域を含む領域のほか、ヒンジ領域、CH1の一部が含まれるものも包含される。またCH2またはCH3の少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入され、実質的にFcγ受容体への結合活性を有するものであればいかなるものでもよい。
ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンから成る染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。それら遺伝子とFc領域を連結する方法としては、各遺伝子配列を鋳型として、PCR法(モレキュラー・クローニング第2版;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー,Supplement 1−34)を行うことがあげられる。
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、pHSG274[ジーン(Gene),27,223(1984)]、pKCR[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),78,1527(1981)]、pSG1 βd2−4[サイトテクノロジー(Cytotechnology),4,173(1990)]等があげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスのLTR[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),149,960(1987)]、免疫グロブリンH鎖のプロモーター[セル(Cell),41,479(1985)]とエンハンサー[セル(Cell),33,717(1983)]等があげられる。
(2)ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードするDNAの取得
ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードするDNAは以下のようにして取得することができる。
目的のFcと融合させる蛋白質を発現している細胞や組織よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージ或いはプラスミド等のベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、目的の蛋白質の遺伝子配列部分をプローブとして用い、目的の蛋白質をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミドを単離する。組換えファージ或いは組換えプラスミド上の目的の蛋白質の全塩基配列を決定し、塩基配列より全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等、細胞や組織を摘出することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
細胞や組織から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),154,3(1987)]、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)等があげられる。また、細胞や組織からmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)等があげられる。
cDNAの合成及びcDNAライブラリー作製法としては、常法(モレキュラー・クローニング第2版;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー,Supplement 1−34)、或いは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、細胞や組織から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express[ストラテジーズ(Strategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、λzapII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング:ア・プラクティカル・アプローチ(DNA Cloning:A Practical Approach),I,49(1985)]、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2[モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]及びpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等が用いられる。
ファージ或いはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現及び維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’[ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、C600[ジェネティックス(Genetics),39,440(1954)]、Y1088、Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]及びJM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
cDNAライブラリーからの目的の蛋白質をコードするcDNAクローンの選択法としては、アイソトープ或いは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法或いはプラーク・ハイブリダイゼーション法(モレキュラー・クローニング第2版)により選択することができる。また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNA或いはcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法により目的の蛋白質をコードするcDNAを調製することもできる。
目的の蛋白質をヒト抗体のFc領域と融合させる方法としては、PCR法があげられる。例えば、目的の蛋白質の遺伝子配列の5’側と3’側に任意の合成オリゴDNA(プライマー)を設定し、PCR法を行いPCR産物を取得する。同様に、融合させるヒト抗体のFc領域の遺伝子配列に対しても任意のプライマーを設定し、PCR産物を得る。このとき、融合させる蛋白質のPCR産物の3’側とFc領域のPCR産物の5’側には同じ制限酵素部位もしくは同じ遺伝子配列が存在するようにプライマーを設定する。この連結部分周辺のアミノ酸改変が必要である場合には、その変異を導入したプライマーを用いることで変異を導入する。得られた2種類のPCR断片を用いてさらにPCRを行うことで、両遺伝子を連結する。もしくは、同一の制限酵素処理をした後にライゲーションすることでも連結することができる。
上記方法により連結された遺伝子配列を、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM 377DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からFc融合蛋白質の全アミノ酸配列を推定し、目的のアミノ酸配列と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含むFc融合蛋白質の完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。
(3)Fc融合蛋白質の安定的生産
前記の(1)項に記載のFc融合蛋白質発現ベクターを適当な動物細胞に導入することによりFc融合蛋白質を安定に生産する形質転換株を得ることができる。
動物細胞へのFc融合蛋白質発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法[特開平2−257891;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]等があげられる。
Fc融合蛋白質発現ベクターを導入する動物細胞としては、Fc融合蛋白質を生産させることができる動物細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。
具体的には、マウスミエローマ細胞であるNS0細胞、SP2/0細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO/dhfr−細胞、CHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、IR983F細胞、シリアンハムスター腎臓由来であるBHK細胞、ヒトミエローマ細胞であるナマルバ細胞などがあげられるが、好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、前記1.項に記載の本発明の方法に用いられる宿主細胞等があげられる。
Fc融合蛋白質発現ベクターの導入後、Fc融合蛋白質を安定に生産する形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418等の薬剤を含む動物細胞培養用培地により選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM培地(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM培地(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の各種添加物を添加した培地等を用いることができる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中にFc融合蛋白質を生産蓄積させることができる。培養上清中のFc融合蛋白質の生産量及び抗原結合活性はELISA法等により測定できる。また、形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、dhfr遺伝子増幅系等を利用してFc融合蛋白質の生産量を上昇させることができる。
Fc融合蛋白質は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムやプロテインGカラムを用いて精製することができる(アンチボディズ,Chapter8、モノクローナル・アンティボディズ)。また、その他に通常、タンパク質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したFc融合蛋白質分子全体の分子量は、SDS−PAGE[ネイチャー(Nature),227,680(1970)]やウエスタンブロッティング法(アンチボディズ,Chapter 12、モノクローナル・アンティボディズ)等で測定することができる。
以上、動物細胞を宿主とした抗体およびFc融合蛋白質の組成物の製造方法を示したが、上述したように、酵母、昆虫細胞、植物細胞または動物個体あるいは植物個体においても製造することができる。
既に、抗体分子等の糖蛋白質を発現する能力を有している細胞の場合には、上記1.に記載の方法を用いて糖蛋白質生産細胞を調製した後に、該細胞を培養し、該培養物から目的とする抗体組成物や糖蛋白質組成物を精製することにより、本発明の抗体組成物や糖蛋白質組成物を製造することができる。
3.無血清培養による本発明の糖蛋白質組成物の製造法
本発明の細胞は、さらに無血清培地へ馴化させる必要がある。本発明の細胞を用いて、糖蛋白質の製造を行なうことにより、無血清あるいは無蛋白培地の糖蛋白質組成物の製造が可能である。
本発明の無血清培地への馴化方法としては、血清を含有する培地で継代したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を、市販の無血清培地等へ直接馴化させる方法や連続馴化させる方法(Cell & Tissue Culture:Laboratory Procedures,JOHON WILEY & SONS 2C:1)等があげられる。以下に、その具体的な例をあげる。
無血清馴化中には細胞の生存率が一時的に低下し、細胞が死滅してしまうことがある。このため、細胞の生存率を戻し、あるいは高く維持するためには、無血清馴化培地への細胞接種時に細胞密度を1×105〜10×105細胞/ml、好ましくは4×105〜6×105細胞/mlとなるように接種することが好ましい。例えば、直接馴化法では、培地中に細胞を接種し、37℃、5%CO2インキュベーターでのバッチ培養等、通常の動物細胞の培養方法を用いて培養し、細胞濃度が10×105〜40×105細胞/mlに達したら、無血清培地中に細胞を接種し、同様な条件で培養を繰り返す。
無血清培地にα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を1×105〜10×105細胞/ml、好ましくは4×105〜6×105細胞/mlとなるように接種し、通常の動物細胞の培養方法を用いて4〜7日後に、細胞密度が10×105〜40×105細胞/mlに達した細胞を無血清培地に馴化した細胞として選択する。
無血清培地に馴化した細胞は、細胞濃度が下記のバッチ培養で用いられる培地中に10×105〜30×105細胞/mlとなるように接種し、下記のバッチ培養で用いられる培養条件で3〜5日間培養して、継代培養を行うことができる。なお、継代培養の期間中、無血清培地に馴化した細胞の生存率は、90%以上に維持しておくことが望ましい。また、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞、例えば、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼのゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞または該細胞の形質転換細胞について、無血清培地に馴化した細胞が所望の糖蛋白質の生産性を維持するためには、アルブミンを好ましくは0.1〜10g/L、さらに好ましくは0.5〜3g/Lとなるように無血清培地へ添加しておくとよい。
本発明の無血清培地への馴化方法を用いて細胞を無血清馴化させた後、96ウエルプレートによる限界希釈方法、コロニー形成方法等を用いることにより、クローン(単一細胞)化した細胞株を調製することができる。
以下に、限界希釈法を用いたクローン化した細胞株を調製する方法を示す。
細胞懸濁液を希釈し、ひとつのウエルに1個以下の確率で細胞が入るように接種し、市販の無血清培地などを用いて、30〜40℃、5%CO2インキュベーター内で数週間培養する。培養終了後、細胞増殖の認められた細胞の培養上清中の所望の糖蛋白質の濃度を調べ、該糖蛋白質の生産性の高い細胞を選択する。
コロニー形成方法を用いてクローン化する方法は以下のとおりである。
付着性細胞の場合は、細胞懸濁液を希釈し、シャーレに細胞を接種して培養後、コロニーの形成を確認する。ペニシリンキャップ等のリングでコロニーを分離し、トリプシン等の酵素で細胞を分離後、適当な培養器に移し、所望の糖蛋白質の生産量を調べ、該糖蛋白質の生産性の高い細胞を選択する。
浮遊細胞の場合は、細胞懸濁液を希釈し、軟寒天中に細胞を接種して培養し、生じたコロニーを顕微鏡下でピックアップした後、静置培養に戻して所望の糖蛋白質の生産量を調べ、生産性の高い細胞を選択する。
上記方法を繰り返して行なうことで、無血清に馴化され、かつ目的とする細胞特性を持ったクローン化されたα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を選択することができる。
上記方法により、無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を得ることができる。
無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株は、上記の無血清培地に馴化した細胞を継代培養する方法で継代培養することができる。本発明の無血清培地への馴化方法を用いて無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞としては、WK704−2B8P(FERM BP−8337)、WK704−2871(FERM BP−8336)、WK704−2760(FERM BP−8335)を無血清培地に馴化した細胞などがあげられる。
なお、本発明の無蛋白培地での細胞の馴化方法についても、上述の無血清培地での細胞の馴化方法と同様の方法で行うことができる。
本発明の細胞を培養する方法としては、所望の糖蛋白質組成物を効率よく生産できる培養方法であれば、通常用いられる動物細胞の培養法のいずれでも用いることができる。例えば、バッチ培養、リピートバッチ培養、フェドバッチ培養、パーフュージョン培養等があげられるが、所望の糖蛋白質の生産性を高めるにはフェドバッチ培養またはパーフュージョン培養が好ましい。
(1)バッチ培養
本発明の細胞の培養方法において用いられる無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され、かつ動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。
具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地〔J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な栄養因子、生理活性物質等を添加する。これらの添加物は、培養前に予め培地に含有させる。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられ。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
栄養因子の濃度として、グルコースの濃度は200〜6000mg/L、好ましくは3000〜5000mg/Lである。
アミノ酸の濃度は、例えば、L−アラニン1〜160mg/L(好ましくは3〜120mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜1000mg/L(好ましくは30〜800mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜200mg/L(好ましくは20〜150mg/L)、L−アスパラギン酸5〜100mg/L(好ましくは10〜75mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜200mg/L(好ましくは20〜150mg/L)、L−グルタミン酸5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−グルタミン50〜2000(好ましくは100〜1500mg/L)、グリシン2〜100mg/L(好ましくは5〜75mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−イソロイシン2〜300mg/L(好ましくは4〜200mg/L)、L−ロイシン5〜300mg/L(好ましくは10〜200mg/L)、L−リジン一塩酸10〜300mg/L(好ましくは20〜250mg/L)、L−メチオニン5〜100mg/L(好ましくは10〜75mg/L)、L−フェニルアラニン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−プロリン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−セリン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−スレオニン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−トリプトファン1〜40mg/L(好ましくは2〜30mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物2〜300mg/L(好ましくは4〜200mg/L)、L−バリン5〜300mg/L(好ましくは10〜200mg/L)である。
ビタミンの濃度は、例えば、d−ビオチン0.001〜0.4mg/L(好ましくは0.002〜0.3mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.001〜10.0mg/L(好ましくは0.002〜7.5mg/L)、塩化コリン0.1〜20.0mg/L(好ましくは0.2〜15.0mg/L)、葉酸0.005〜20.0mg/L(好ましくは0.01〜15.0mg/L)、myo−イノシトール0.01〜300mg/L(好ましくは0.05〜200mg/L)、ナイアシンアミド0.01〜20.0mg/L(好ましくは0.02〜15.0mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.01〜15.0mg/L(好ましくは0.02〜10.0mg/L)、リボフラビン0.005〜2.0mg/L(好ましくは0.01〜1.5mg/L)、チアミンー塩酸0.005〜20.0mg/L(好ましくは0.01〜15.0mg/L)、シアノコバラミン0.001〜5.0mg/L(好ましくは0.002〜3.0mg/L)である。
生理活性物質の濃度は、例えば、インスリン10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、インスリン様増殖因子10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、トランスフェリン10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、アルブミン200〜6000mg/L、好ましくは700〜4000mg/Lである。
バッチ培養は、通常pH6〜8、30〜40℃等の条件下で3〜12日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
(2)フェドバッチ培養
本発明の細胞の培養方法において使用される無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され且つ通常動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地(J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。上記培地以外に、バッチ培養で記載した無血清培地を用いてもよい。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な生理活性物質、栄養因子等を添加する。これらの添加物は、予め培養前に培地に含有させるか、または必要に応じて、培養中に培養液へ適宜追加供給する。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
培地または培養液中への栄養因子の最終添加量として、グルコースは200〜6000mg/L、好ましくは1000〜5000mg/Lである。
アミノ酸は、例えば、L−アラニン1〜960mg/L(好ましくは1〜640mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜6000mg/L(好ましくは11〜4000mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜1200mg/L(好ましくは11〜800mg/L)、L−アスパラギン酸5〜600mg/L(好ましくは5〜400mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜1200mg/L(好ましくは11〜800mg/L)、L−グルタミン酸5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−グルタミン53〜12000(好ましくは55〜8000mg/L)、グリシン2〜600mg/L(好ましくは2〜400mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−イソロイシン4〜1800mg/L(好ましくは4〜1200mg/L)、L−ロイシン13〜1800mg/L(好ましくは14〜1200mg/L)、L−リジン一塩酸10〜1800mg/L(好ましくは11〜1200mg/L)、L−メチオニン4〜600mg/L(好ましくは5〜400mg/L)、L−フェニルアラニン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−プロリン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−セリン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−スレオニン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−トリプトファン1〜240mg/L(好ましくは1〜160mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物8〜1800mg/L(好ましくは8〜1200mg/L)、L−バリン12〜1800mg/L(好ましくは12〜1200mg/L)である。
ビタミンは、例えば、d−ビオチン0.001〜2.4mg/L(好ましくは0.001〜1.6mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.011〜60mg/L(好ましくは0.011〜40mg/L)、塩化コリン0.11〜90mg/L(好ましくは0.11〜60mg/L)、葉酸0.01〜120mg/L(好ましくは0.01〜80mg/L)、myo−イノシトール0.05〜1800mg/L(好ましくは0.05〜1200mg/L)、ナイアシンアミド0.02〜120mg/L(好ましくは0.03〜80mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.02〜90mg/L(好ましくは0.03〜60mg/L)、リボフラビン0.01〜12mg/L(好ましくは0.01〜98mg/L)、チアミン一塩酸0.01〜120mg/L(好ましくは0.01〜80mg/L)、シアノコバラミン0.001〜30mg/L(好ましくは0.001〜20mg/L)である。
培地または培養液中への生理活性物質の最終添加量として、例えば、インスリン10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、インスリン様増殖因子10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、トランスフェリン10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、アルブミン200〜36000mg/L、好ましくは220〜24000mg/Lである。
本発明の細胞の培養方法において物質の「最終添加量」は、フェドバッチ培養中に添加する濃縮培養液を最終的に添加し終わった後、培地に含まれる該物質の重量と培養液中に添加した該物質の重量との合計量を、培地量と添加した濃縮培養液量との合計量で除した値として表わされる。
フェドバッチ培養においては、生理活性物質、栄養因子等は通常に使用される濃度よりも高い濃度で添加することが好ましい。例えば、培養液量の1/30〜1/3好ましくは1/20〜1/5を一回分として添加する。培養液中に添加する場合は、培養期間中、連続的にまたは数回〜十数回に分けて追加供給することが好ましい。生理活性物質、栄養因子等を連続的、または間欠的に少量づつ追加供給する上記フェドバッチ培養法は、細胞の代謝効率が高く、培養液中の老廃物が蓄積されることによる培養細胞の到達細胞密度の低下を防止することができ、また、回収された培養液中の所望の糖蛋白質の濃度はバッチ培養法に比べて高濃度であるため、該糖蛋白質の分離・精製が容易になり、バッチ培養に比べ、培地当りの該糖蛋白質の生産量を増大させることができる。
フェドバッチ培養は、通常pH6〜8、30〜40℃で、3〜12日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
(3)パーフュージョン培養
本発明の細胞の培養方法において使用される無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され且つ通常動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地〔J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。上記培地以外に、バッチ培養で記載した無血清培地を用いてもよい。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な生理活性物質、栄養因子等を添加する。これらの添加物は、培養前の培地または培養液中に供給する培地に含有させておくとよい。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
栄養因子の濃度として、グルコースの濃度は500〜6000mg/L、好ましくは1000〜2000mg/Lにコントロールされる。
栄養因子としては、アミノ酸、ビタミン等があげられる。他の生理活性物質または栄養因子の添加量は、例えば、インスリン4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、インスリン様増殖因子4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、トランスフェリン4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、アルブミン80〜6500mg/L、好ましくは280〜4500mg/Lである。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。アミノ酸濃度は、例えば、L−アラニン1〜200mg/L(好ましくは2〜160mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜1140mg/L(好ましくは30〜940mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜250mg/L(好ましくは20〜200mg/L)、L−アスパラギン酸5〜148mg/L(好ましくは10〜120mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜350mg/L(好ましくは20〜300mg/L)、L−グルタミン酸5〜320mg/L(好ましくは10〜270mg/L)、L−グルタミン50〜3300(好ましくは100〜1800mg/L)、グリシン2〜148mg/L(好ましくは5〜123mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜270mg/L(好ましくは10〜220mg/L)、L−イソロイシン4〜470mg/L(好ましくは4〜370mg/L)、L−ロイシン10〜470mg/L(好ましくは13〜370mg/L)、L−リジン一塩酸10〜530mg/L(好ましくは20〜480mg/L)、L−メチオニン4〜150mg/L(好ましくは4〜120mg/L)、L−フェニルアラニン4〜310mg/L(好ましくは4〜260mg/L)、L−プロリン5〜270mg/L(好ましくは10〜210mg/L)、L−セリン5〜270mg/L(好ましくは10〜220mg/L)、L−スレオニン5〜350mg/L(好ましくは10〜300mg/L)、L−トリプトファン1〜65mg/L(好ましくは2〜55mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物4〜470mg/L(好ましくは8〜370mg/L)、L−バリン10〜450mg/L(好ましくは11〜350mg/L)である。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。ビタミンの最終添加量は、例えば、d−ビオチン0.001〜0.44mg/L(好ましくは0.02〜0.34mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.01〜16mg/L(好ましくは0.02〜14mg/L)、塩化コリン0.1〜21mg/L(好ましくは30.2〜16mg/L)、葉酸0.01〜26mg/L(好ましくは0.01〜21mg/L)、myo−イノシトール0.05〜310mg/L(好ましくは0.05〜211mg/L)、ナイアシンアミド0.02〜26mg/L(好ましくは0.02〜21mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.02〜21mg/L(好ましくは0.02〜16mg/L)、リボフラビン0.01〜2.6mg/L(好ましくは0.01〜2.1mg/L)、チアミン一塩酸0.01〜26mg/L(好ましくは0.01〜21mg/L)、シアノコバラミン0.001〜5mg/L(好ましくは0.002〜3mg/L)である。
本発明の細胞の培養方法において培養液は、通常使われている培養液と細胞を分離する装置により効率的に分離され、濃縮された細胞液が元の培養槽に戻り、減少した分の新鮮培地が新たに供給される。このことにより常に培養環境が良好に保たれる。
本発明の細胞の場合、新鮮培地での培地交換率とは別に、増殖する細胞を細胞の増殖率に合わせて、培養系の外へ捨てることによって培養系を安定させ、所望の糖蛋白質の生産性を高めることができる。例えば、細胞を系外へ捨てる速度を細胞増殖率に合わせて、目的とする細胞密度が維持されるよう細胞の倍加時間に培養槽にある全細胞の2/5〜3/5を系外に出すことにより生産性の高い培養が可能となる。
本発明において培養は、通常pH6〜8、30〜40℃等の条件下で10〜40日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
上記のとおり、本発明のα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を培養し、所望の糖蛋白質を生成蓄積させ、該培養物より該糖蛋白質を採取することにより、該糖蛋白質を製造することができる。
本発明の細胞の培養方法において、細胞を増殖させる場合には、培養液中のインスリン濃度を10mg/L以上、好ましくは20mg/L以上に維持して培養することが好ましい。一方、所望の糖蛋白質を生産させる場合には、例えば培養液中のインスリン濃度を、10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下に維持して培養することが好ましい。なお、前培養において培地中にインスリンが含まれていれば、抗体の生産性を高めるために、インスリンは添加しなくてよいが、通常は培養液中にインスリン濃度を0.01〜10mg/L、好ましくは0.01〜5mg/Lになるように維持することが好ましい。
培養液中のインスリン濃度を調節する方法は、インスリンの濃度調整が可能である培養、例えばフェドバッチ培養、パーフージョン培養等の培養方法において、好適に用いられる。
なお、細胞の培養方法についても、血清、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の蛋白質を添加しない培地を用いて、上述の方法に従って、無血清培地での培養方法と同様の方法を行なうことができる。当該培養方法により、所望の糖蛋白質組成物を製造することができる。
4.糖蛋白質組成物の活性評価
精製した糖蛋白質組成物の蛋白量、受容体との親和性、血液中での半減期、血液投与後の組織への分布、あるいは薬理活性発現に必要な蛋白質相互作用の変化を測定する方法としては、Current Protocols In Protein Science,John Wiley & Sons Inc.,(1995)、日本生化学会編 新生化学実験講座19動物実験法,東京化学同人(1991)、日本生化学会編新生化学実験講座8 細胞内情報と細胞応答,東京化学同人(1990)、日本生化学会編 新生化学実験講座9 ホルモンIペプチドホルモン,東京化学同人(1991)、実験生物学講座3 アイソトープ実験法,丸善株式会社(1982)、Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Wiley−Liss,Inc.,(1995)、酵素免疫測定法第3版,医学書院(1987)、改訂版 酵素抗体法,学際企画(1985)等に記載の公知の方法を用いることができる。
その具体的な例としては、精製した糖蛋白質組成物をラジオアイソトープなどの化合物で標識し、標識した糖蛋白質組成物の受容体あるいは相互作用をする蛋白質との結合反応の強さを定量的に測定する方法があげられる。また、Biacore社のBIAcoreシリーズなどの各種装置を用いて、蛋白質蛋白質相互作用を測定することもできる(J.Immnunol.Methods,145,229(1991)、実験医学別冊バイオマニュアルUPシリーズタンパク質の分子間相互作用実験法,羊土社(1996))。
標識した糖蛋白質を体内に投与することで、血液中での半減期あるいは血液投与後の組織への分布を知ることができるが、標識体の検出には、標識物質を検出する方法と検出の対象となる糖蛋白質特異的な抗体抗原反応を組み合わせた系が好ましい。
5.抗体組成物の活性評価
糖蛋白質組成物が抗体組成物である場合、精製した抗体組成物の蛋白量、抗原との結合性あるいはエフェクター機能を測定する方法としては、モノクローナルアンチボディズ、あるいはアンチボディエンジニアリング等に記載の公知の方法を用いることができる。
その具体的な例としては、抗体組成物がヒト化抗体の場合、抗原との結合活性、抗原陽性培養細胞株に対する結合活性はELISA法及び蛍光抗体法[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),36,373(1993)]等により測定できる。抗原陽性培養細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性等を測定することにより、評価することができる[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),36,373(1993)]。
また、抗体組成物のヒトでの安全性、治療効果は、カニクイザル等のヒトに比較的近い動物種の適当なモデルを用いて評価することができる。
6.糖蛋白質組成物の糖鎖の分析
各種細胞で発現させた糖蛋白質組成物の糖鎖構造は、通常の糖鎖構造の解析に準じて行うことができる。例えば、IgG分子に結合している糖鎖はガラクトース、マンノース、フコースなどの中性糖、N−アセチルグルコサミンなどのアミノ糖、シアル酸などの酸性糖から構成されており、糖組成分析および二次元糖鎖マップ法などを用いた糖鎖構造解析等の手法を用いて行うことができる。
(1)中性糖・アミノ糖組成分析
糖蛋白質組成物の糖鎖の組成分析は、トリフルオロ酢酸等で、糖鎖の酸加水分解を行うことにより、中性糖またはアミノ糖を遊離し、その組成比を分析することができる。
具体的な方法として、Dionex社製糖組成分析装置(BioLC)を用いる方法があげられる。BioLCはHPAEC−PAD(high performance anion−exchange chromatography−pulsed amperometric detection)法[ジャーナル・オブ・リキッド・クロマトグラフィー(J.Liq.Chromatogr.),6,1577(1983)]によって糖組成を分析する装置である。
また、2−アミノピリジンによる蛍光標識化法でも組成比を分析することができる。具体的には、公知の方法[アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agruc.Biol.Chem.),55(1),283−284(1991)]に従って酸加水分解した試料を2−アミノピリジル化で蛍光ラベル化し、HPLC分析して組成比を算出することができる。
(2)糖鎖構造解析
糖蛋白質組成物の糖鎖の構造解析は、2次元糖鎖マップ法[アナリティカル・バイオケミストリー(Anal.Biochem.),171,73(1988)、生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]により行うことができる。2次元糖鎖マップ法は、例えば、X軸には逆相クロマトグラフィー糖鎖の保持時間または溶出位置を、Y軸には順相クロマトグラフィーによる糖鎖の保持時間または溶出位置を、それぞれプロットし、既知糖鎖のそれらの結果と比較することにより、糖鎖構造を推定する方法である。
具体的には、糖蛋白質組成物をヒドラジン分解して糖鎖を遊離し、2−アミノピリジン(以下、PAと略記する)による糖鎖の蛍光標識[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),95,197(1984)]を行った後、ゲルろ過により糖鎖を過剰のPA化試薬などと分離し、逆相クロマトグラフィーを行う。次いで、分取した糖鎖の各ピークについて順相クロマトグラフィーを行う。これらの結果をもとに、2次元糖鎖マップ上にプロットし、糖鎖スタンダード(TaKaRa社製)、文献[アナリティカル・バイオケミストリー(Anal. Biochem.),171,73(1988)]とのスポットの比較より糖鎖構造を推定することができる。
さらに各糖鎖のMALDI−TOF−MSなどの質量分析を行い、2次元糖鎖マップ法により推定される構造を確認することができる。
7.糖蛋白質組成物の利用
本発明により製造される糖蛋白質組成物は、フコースが結合していない糖鎖構造を有しており、例えば、受容体との親和性の向上、血中半減期の向上、血中投与後の組織分布の改善、または薬理活性発現に必要な蛋白質との相互作用の向上などの効果が期待でき高い生理活性を示す。特に、抗体組成物の場合は、高いエフェクター機能、すなわちADCC活性を有している。これら生理活性の高い糖蛋白質、特に高いADCC活性を有する抗体組成物は、癌、炎症疾患、自己免疫疾患、アレルギーなどの免疫疾患、循環器疾患、またはウィルスあるいは細菌感染をはじめとする各種疾患の予防および治療において有用である。
癌、すなわち悪性腫瘍では癌細胞が増殖している。通常の抗癌剤は癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする。しかし、高いADCC活性を有する抗体は、殺細胞効果により癌細胞を障害することにより癌を治療することができるため、通常の抗癌剤よりも治療薬として有効である。特に癌の治療薬において、現状では抗体医薬単独の抗腫瘍効果は不充分な場合が多く化学療法との併用療法が行われているが[サイエンス(Science),280,1197,1998]、本発明により製造される抗体組成物は高い抗腫瘍効果を有するため、化学療法に対する依存度が低くなり、副作用の低減にもつながる。
炎症疾患、自己免疫疾患、アレルギーなどの免疫疾患において、それら疾患における生体内反応は、免疫細胞によるメディエータ分子の放出により惹起されるため、高いADCC活性を有する抗体を用いて免疫細胞を除去することにより、アレルギー反応を抑えることができる。
循環器疾患としては、動脈硬化などがあげられる。動脈硬化は、現在バルーンカテーテルによる治療を行うが、治療後の再狭窄での動脈細胞の増殖を高い抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を用いて抑えることより、循環器疾患を予防および治療することができる。
ウィルスまたは細菌に感染した細胞の増殖を、高い抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を用いて抑えることにより、ウィルスまたは細菌感染をはじめとする各種疾患を予防および治療することができる。
腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体の具体例を以下に述べる。
腫瘍関連抗原を認識する抗体としては、抗GD2抗体(Anticancer Res.,13,331,1993)、抗GD3抗体(Cancer Immunol.Immunother.,36,260,1993)、抗GM2抗体(Cancer Res.,54,1511,1994)、抗HER2抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,4285,1992)、抗CD52抗体(Nature,332,323,1988)、抗MAGE抗体(British J.Cancer,83,493,2000)、抗HM1.24抗体(Molecular Immunol.,36,387,1999)、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体(Cancer,88,2909,2000)、抗FGF8抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,9911,1989)抗塩基性繊維芽細胞増殖因子抗体、抗FGF8受容体抗体(J.Biol.Chem.,265,16455,1990)、抗塩基性繊維芽細胞増殖因子受容体抗体、抗インスリン様増殖因子抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗インスリン様増殖因子受容体抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗PMSA抗体(J.Urology,160,2396,1998)、抗血管内皮細胞増殖因子抗体(Cancer Res.,57,4593,1997)または抗血管内皮細胞増殖因子受容体抗体(Oncogene,19,2138,2000)、抗CA125抗体、抗17−1A抗体、抗インテグリンαvβ3抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗HLA抗体、抗HLA−DR抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗EGF受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CD10抗体(American Journal of Clinical Pathology,113,374,2000)などがあげられる。
アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体としては、抗インターロイキン6抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン6受容体抗体(Molecular Immunol.,31,371,1994)、抗インターロイキン5抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン5受容体抗体、抗インターロイキン4抗体(Cytokine,3,562,1991)、抗インターロイキン4受容体抗体(J.Immunol.Meth.,217,41,1998)、抗腫瘍壊死因子抗体(Hybridoma,13,183,1994)、抗腫瘍壊死因子受容体抗体(Molecular Pharmacol.,58,237,2000)、抗CCR4抗体(Nature,400,776,1999)、抗ケモカイン抗体(J.Immunol.Meth.,174,249,1994)、抗ケモカイン受容体抗体(J.Exp.Med.,186,1373,1997)、抗IgE抗体、抗CD23抗体、抗CD11a抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CRTH2抗体(J.Immunol.,162,1278,1999)、抗CCR8抗体(WO99/25734)、抗CCR3抗体(US6207155)などがあげられる。
循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体としては、抗GpIIb/IIIa抗体(J.Immunol.,152,2968,1994)、抗血小板由来増殖因子抗体(Science,253,1129,1991)、抗血小板由来増殖因子受容体抗体(J.Biol.Chem.,272,17400,1997)または抗血液凝固因子抗体(Circulation,101,1158,2000)などがあげられる。
自己免疫疾患(具体的な例としては、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)に関連する抗原を認識する抗体としては、抗自己DNA抗体(Immunol.Letters,72,61,2000)、抗CD11a抗体、抗ICAM3抗体、抗CD80抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗インテグリンα4β7抗体、抗CD40L抗体、抗IL−2受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)などがあげられる。
ウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体としては、抗gpl20抗体(Structure,8,385,2000)、抗CD4抗体(J.Rheumatology,25,2065,1998)、抗CCR4抗体、抗ベ口毒素抗体(J.Clin.Microbiol.,37,396,1999)などがあげられる。
上記抗体は、ATCC(The American Type Culture Collection)、理化学研究所細胞開発銀行、工業技術院生命工業技術研究所等の公的な機関、あるいは大日本製薬株式会社、R&D SYSTEMS社、PharMingen社、コスモバイオ社、フナコシ株式会社等の民間試薬販売会社から入手することができる。
本発明の糖蛋白質組成物を含有する医薬は、治療薬として単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができ、糖蛋白質製剤の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒痢、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等があげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製される。または、糖蛋白質組成物を常法に従って凍結乾燥し、これに塩化ナトリウムを加えることによって粉末注射剤を調製することもできる。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該糖蛋白質組成物そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該糖蛋白質組成物を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該糖蛋白質組成物および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜20mg/kgである。
また、抗体組成物の各種腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を検討する方法は、インビトロ実験としては、CDC活性測定法ADCC活性測定法等があげられ、インビボ実験としては、マウス等の実験動物での腫瘍系を用いた抗腫瘍実験等があげられる。
CDC活性、ADCC活性、抗腫瘍実験は、文献[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunology Immunotherapy),36,373(1993);キャンサーリサーチ(Cancer Research),54,1511(1994)]等記載の方法に従って行うことができる。
本発明は、以下の(1)〜(27)に関する。
(1) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
(2) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた、上記(1)に記載の細胞。
(3) 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子の開始コドンを含むエクソン領域の部分が欠失した、上記(1)または(2)に記載の細胞。
(4) N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の細胞。
(5) α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)または(b)から選ばれるDNAがコードする蛋白質である、上記(4)に記載の細胞。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(6) α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)、(b)及び(c)からなる群から選ばれる蛋白質である、上記(4)に記載の細胞。
(a) 配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かっα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
(c) 配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質。
(7) N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の細胞。
(8) 耐性が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンを含む培地で培養した場合に、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞よりも高い生存率を示すことを特徴とする耐性である、上記(7)に記載の細胞。
(9) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の細胞。
(10) 糖蛋白質をコードする遺伝子を含む上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の細胞。
(11) 糖蛋白質が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を有さない糖蛋白質である上記(10)に記載の細胞。
(12) 糖蛋白質が、抗体である上記(10)または(11)に記載の細胞。
(13) 抗体のクラスがIgGである、上記(12)に記載の細胞。
(14) 上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、糖蛋白質組成物を製造する方法。
(15) 上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の細胞を培地に培養し、培養物中に糖蛋白質組成物を生成蓄積させ、該培養物から糖蛋白質組成物を採取し、精製する工程を含む、糖蛋白質組成物を製造する方法。
(16) 糖蛋白質組成物を製造する方法が、バッチ培養、フェドバッチ培養またはパーフュージョン培養である、上記(14)または(15)に記載の方法。
(17) 培養中に、栄養因子および生理活性物質から選ばれる少なくとも一種を培地に添加する、上記(14)〜(16)のいずれか1項に記載の方法。
(18) 栄養因子がグルコース、アミノ酸およびビタミンから選ばれる少なくとも一種である、上記(17)に記載の方法。
(19) 生理活性物質が、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリンおよびアルブミンから選ばれる少なくとも一種である、上記(17)に記載の方法。
(20) 糖蛋白質組成物が、抗体組成物である上記(14)〜(19)のいずれか1項に記載の方法。
(21) 細胞密度を1×105〜1×106細胞/mlとなるように馴化培地へ接種することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞の無血清培地への馴化方法。
(22) 上記(21)に記載の方法で細胞を無血清培地に馴化させた後、クローン化することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を取得する方法。
(23) 上記(21)に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
(24) 上記(22)に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされたクローン細胞株。
(25) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(21)または(22)に記載の方法。
(26) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(23)に記載の細胞。
(27) 無血清培地が無蛋白培地である、上記(24)に記載のクローン細胞株。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年10月9日に出願された日本国特許出願2003−350166号の優先権を主張するものであり、当該特許出願の明細書および図面に記載される内容を包含する。
本発明の、無血清培に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞(以下、「本発明の細胞」と表記する)とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素(以下、「α−1,6−フコース修飾酵素」と表記する)の活性が消失するようにゲノム遺伝子が改変された細胞があげられる。
ここで、α−1,6−フコース修飾酵素の活性を消失するようにゲノムが改変されたとは、該酵素の発現を消失させるように該遺伝子の発現調節領域に変異を導入したり、あるいは該酵素の機能を消失させるように該遺伝子のアミノ酸配列に変異を導入することをいう。変異を導入するとは、ゲノム上の塩基配列に欠失、置換、挿入および/または付加といった塩基配列の改変を行うことをいう。このように改変されたゲノム遺伝子の発現または機能を完全に抑制することをノックアウトするという。ゲノム遺伝子をノックアウトする具体的な例としては、標的となる遺伝子のすべてまたは一部がゲノムから削除された例があげられる。具体的には、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子において、少なくとも開始コドンを含むエクソンのゲノム領域を染色体上から欠失させること、またはすべての対立遺伝子を欠失させることなどがあげられる。
したがって、本発明の細胞としては、無血清培地に馴化した、α−1,6−フコース修飾酵素の、ゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた細胞、該酵素の少なくとも開始コドンを含むエクソン領域の部分が欠失した細胞などがあげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素をいう。N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素としては、該反応に影響を与える酵素も包含される。
α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどがあげられる。
また、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する反応に影響を与える酵素としては、上述のα−1,6−フコース修飾酵素の活性に影響を与えたり、該酵素の基質となる物質の構造に影響を与える酵素も包含される。
本発明において、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼとしては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)あるいは(h)のDNAがコードする蛋白質、または下記(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)、(q)、(r)、(s)あるいは(t)の蛋白質などがあげられる。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(c) 配列番号3で表される塩基配列からなるDNA
(d) 配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(e) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(f) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(g) 配列番号3で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(h) 配列番号4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA
(i) 配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(j) 配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(k) 配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(l) 配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(m) 配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(n) 配列番号6で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(o) 配列番号7で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(p) 配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(q) 配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(r) 配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(s) 配列番号7で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質
(t) 配列番号8で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスラェラーゼ活性を有する蛋白質
また、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列をコードするDNAとしては、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNA、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有するアミノ酸配列をコードするDNAなどがあげられる。
本発明において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、例えば配列番号1、2、3または4で表される塩基配列を有するDNAなどのDNAまたはその一部の断片をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,(1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Aproach, Second Edition,Oxford University(1995)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、配列番号1、2、3または4で表される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
本発明において、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより取得することができる蛋白質をいう。欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換もしくは付加できる程度の数であり、例えば、1〜数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
また、本発明において、配列番号5、6、7または8で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質とは、BLAST〔J.Mol.Biol.,215,403(1990)〕やFASTA〔Methods in Enzymology,183,63(1990)〕等の解析ソフトを用いて計算したときに、配列番号5、6、7または8に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上である蛋白質であることをいう。
本発明の細胞を取得する方法としては、目的とするゲノムの改変を行うことができれば、いずれの手法でも用いることができるが、遺伝子工学的な手法が望ましい。その具体的な手法としては、
(a) α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法
(b) α−1,6−フコース修飾酵素についての突然変異を導入する手法などがあげられる。
また、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性な細胞株を選択する方法を用いることにより、本発明の細胞を選択することができる。
レクチンに耐性な細胞とは、レクチンを有効濃度与えたときにも、生育が阻害されない細胞をいう。有効濃度とは、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞(以下、親株細胞とも称す)が正常に生育できない濃度以上であり、好ましくは、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生育できない濃度と同濃度、より好ましくは2〜5倍、さらに好ましくは10倍、最も好ましくは20倍以上である。
本発明において、生育が阻害されないレクチンの有効濃度は、細胞株に応じて適宜定めればよいが、通常10μg/ml〜10mg/ml、好ましくは0.5mg/ml〜2.0mg/mlである。
N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンとしては、該糖鎖構造を認識できるレクチンであれば、いずれのレクチンでも用いることができる。その具体的な例としては、レンズマメレクチンLCA(Lens Culinaris由来のLentil Agglutinin)エンドウマメレクチンPSA(Pisum sativum由来のPea Lectin)、ソラマメレクチンVFA(Vicia faba由来のAgglutinin)、ヒイロチャワンタケレクチンAAL(Aleuria aurantia由来のLectin)などがあげられる。
本発明の細胞としては、糖蛋白質を発現できる細胞であればいかなる細胞でもよいが、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などがあげられ、これらの細胞の具体的な例としては、後述の2.に記載のものがあげられる。動物細胞の具体例としては、チャイニーズハムスター卵巣組織由来のCHO細胞、ラットミエローマ細胞株YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞、マウスミエローマ細胞株NS0細胞、マウスミエローマ細胞株SP2/0−Ag14細胞、シリアンハムスター腎臓組織由来BHK細胞、抗体を産生するハイブリドーマ細胞、ヒト白血病細胞株ナマルバ細胞、胚性幹細胞、受精卵細胞などがあげられる。好ましくは、抗体などの糖蛋白質の製造に用いられる、上述のミエローマ細胞、ハイブリドーマ細胞、ヒト化抗体あるいはヒト抗体を製造するための宿主細胞、ヒト抗体を生産するヒト以外のトランスジェニック動物を製造するために用いる胚性幹細胞または受精卵細胞、ならびにヒト化抗体およびヒト抗体を生産するトランスジェニック植物を製造するために用いる植物細胞などがあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞(以下、親株細胞とも称す)は、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子をノックアウトさせるための手法を施す前の細胞をいう。ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞としては、特に限定はないが、例えば、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のNS0細胞としては、バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),10,169(1992)、バイオテクノロジー・バイオエンジニアリング(Biotechnol.Bioeng.),73,261,(2001)等の文献に記載されているNS0細胞があげられる。また、理化学研究所細胞開発銀行に登録されているNS0細胞株(RCB0213)、あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のSP2/0−Ag14細胞としては、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.),126,317,(1981)、ネイチャー(Nature),276,269,(1978)、ヒューマン・アンチィボディズ・アンド・ハイブリドーマズ(Human Antibodies and Hybridomas),3,129,(1992)等の文献に記載されているSP2/0−Ag14細胞があげられる。また、ATCCに登録されているSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL−1581)あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株(ATCC CRL−1581.1)などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のチャイニーズハムスター卵巣組織由来CHO細胞としては、Journal of Experimental Medicine,108,945(1958)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,1275(1968)、Genetics,55,513(1968)、Chromosoma,41,129(1973)、Methods in Cell Science,18,115(1996)、Radiation Research,148,260(1997)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980)、Proc.Natl.Acad.Sci.60,1275(1968)、Cell,6,121(1975)、Molecular Cell Genetics,Appendix I,II(p883−900)等の文献に記載されているCHO細胞があげられる。また、ATCCに登録されているCHO−K1株(ATCC CCL−61)、DUXB11株(ATCC CRL−9096)、Pro−5株(ATCC CRL−1781)や、市販のCHO−S株(Lifetechnologies社製Cat#11619)、あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前のラットミエローマ細胞株
YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞としては、Y3/Ag1.2.3細胞(ATCC CRL−1631)から樹立された株化細胞が包含される。その具体的な例としては、J.Cell.Biol.,93,576(1982)、Methods Enzymol.73B,1(1981)等の文献に記載されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞があげられる。また、ATCCに登録されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL−1662)あるいはこれら株を様々な無血清培地に馴化させた亜株などもあげられる。
本発明の細胞は、抗体などの糖蛋白質に付加される糖鎖構造のうち、フコースの修飾に関する酵素が欠失する。したがって、本発明の細胞に糖蛋白質をコードする遺伝子を含めた細胞では、生産された糖蛋白質がフコース修飾を受けず、その結果、高い生理活性を有する糖蛋白質組成物を無血清培養で安定に製造することができる。
高い生理活性を有する糖蛋白質組成物とは、受容体との親和性が向上する糖蛋白質組成物、血中の半減期が向上する糖蛋白質組成物、血中投与後の組織分布が変化する糖蛋白質組成物、薬理活性発現に必要な蛋白質との相互作用が向上する糖蛋白質組成物などをいう。
したがって、本発明の糖蛋白質組成物としては、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の親株細胞で生産した場合、その産生蛋白質の糖鎖構造にフコースの修飾がある糖蛋白質であればいかなる糖蛋白質組成物も含有される。その具体的な例としては、抗体、エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、組織型プラスミノーゲンアクチベータ、プロウロキナーゼ、トロンボモジュリン、アンチトロンビンIII、プロテインC、血液凝固因子VII、血液凝固因子VIII、血液凝固因子IX、血液凝固因子X、血液凝固因子XII、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、ケラチノサイト増殖因子、アクチビン、骨形成因子、幹細胞因子(SCF)、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン2、インターロイキン6、インターロイキン10、インターロイキン11、可溶性インターロイキン4受容体、腫瘍壊死因子α、DnaseI、ガラクトシダーゼ、αグルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼなどがあげられる。
フコース修飾のない糖鎖構造を有することで、その生理活性が大幅に上昇する糖蛋白質のより具体的な例としては、例えば、抗体組成物があげられる。
したがって、本発明の細胞は、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物より、高いADCC活性を有する抗体組成物を生産することができる。
また、本発明の細胞は、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンとフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞よりも高い抗体組成物を生産することができる。
抗体組成物とは、N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子からなる組成物をいう。
抗体は、重鎖、軽鎖の2種類のポリペプチド鎖がそれぞれ2分子ずつ会合した4量体である。重鎖のN末端側の約4分の1と軽鎖のN末端側の約2分の1(それぞれ100余アミノ酸)は可変領域と呼ばれ、多様性に富み、抗原との結合に直接関与する。可変領域以外の部分の大半は定常領域と呼ばれる。抗体分子は定常領域の相同性によりIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの各クラスに分類される。
またIgGクラスは定常領域の相同性により、さらにIgG1〜IgG4のサブクラスに分類される。
重鎖はN末端側よりVH、CH1、CH2、CH3の4つのイムノグロブリンドメインに分かれ、CH1とCH2の間にはヒンジ領域と呼ばれる可動性の高いペプチド領域があり、CH1とCH2とが区切られる。ヒンジ領域以降のCH2とCH3からなる構造単位はFc領域と呼ばれ、N−グリコシド結合糖鎖が結合している。また、この領域は、Fcレセプター、補体などが結合する領域である(免疫学イラストレイテッド原書第5版、2000年2月10日発行、南江堂版、抗体工学入門、1994年1月25日初版、地人書館)。
抗体などの糖蛋白質の糖鎖は、蛋白質部分との結合様式により、アスパラギンと結合する糖鎖(N−グリコシド結合糖鎖)とセリン、スレオニンなどと結合する糖鎖(O−グリコシル結合糖鎖)の2種類に大別される。N−グリコシド結合糖鎖は、以下の化学式1に示す基本となる共通のコア構造を有する[生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]。
化学式1において、アスパラギンと結合する糖鎖の末端を還元末端、反対側を非還元末端という。
N−グリコシド結合糖鎖としては、化学式1で示されるのコア構造を有するものがあげられ、コア構造の非還元末端にマンノースのみが結合するハイマンノース型、コア構造の非還元末端側にガラクトース−N−アセチルグルコサミン(以下、Gal−GlcNAcと表記する)の枝を並行して1ないしは複数本有し、更にGal−GlcNAcの非還元末端側にシアル酸、バイセクティングのN−アセチルグルコサミンなどの構造を有するコンプレックス型(複合型)、コア構造の非還元末端側にハイマンノース型とコンプレックス型の両方の枝を持つハイブリッド型などがあげられる。
抗体分子のFc領域には、N−グリコシド結合糖鎖が1カ所ずつ結合する領域を有しているので、抗体1分子あたり2本の糖鎖が結合している。抗体分子に結合するN−グルコシド結合糖鎖としては、前記化学式1で示されるコア構造を含むいかなる糖鎖も包含されるので、抗体に結合する2本のN−グルコシド結合糖鎖には多数の糖鎖の組み合わせが存在することになる。
したがって、本発明の細胞を用いて製造される抗体組成物は、本発明の効果が得られる範囲であれば、単一の糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよいし、複数の異なる糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよい。そのような本発明により得られる抗体組成物として、好ましくは、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の親株細胞が生産する抗体組成物よりも高い抗体組成物があげられる。
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合とは、該組成物中に含まれるFc領域に結合する全てのN−グリコシド結合複合型糖鎖の合計数に対して、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の数が占める割合をいう。
N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖とは、フコースが、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにα結合していない糖鎖をいう。具体的には、フコースの1位がN−グリコシド結合複合型糖鎖のN−アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖があげられる。
本発明の抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合としては、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である抗体組成物があげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物よりもADCC活性が高い抗体組成物としては、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物の該割合よりも高いものがあげられる。具体的には、該割合が2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、特に好ましくは10倍以上高い抗体組成物があげられ、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の全てが、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位が結合していない糖鎖である抗体組成物が最も好ましい。
上述の糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が100%である抗体組成物、または抗体組成物中に含まれるFc領域に結合するN−グリコシド結合複合型糖鎖の全てが、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位が結合していない糖鎖である抗体組成物としては、後述の6.に記載の糖鎖分析において、フコースが実質的に検出できない程度である場合をいう。実質的に検出できない程度とは、測定の検出限界以下であることをいう。
本発明により得られる抗体組成物において、Fc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞が生産する抗体組成物よりも高い場合、本発明により得られる抗体組成物は、親株細胞が生産する抗体分子からなる抗体組成物より高いADCC活性を有する。
ADCC活性とは、生体内で、腫瘍細胞等の細胞表面抗原などに結合した抗体が、抗体Fc領域とエフェクター細胞表面上に存在するFcレセプターとの結合を介してエフェクター細胞を活性化し、腫瘍細胞等を障害する活性をいう[モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・アプリケーションズ(Monoclonal Antibodies:Principles and Applications),Wiley−Liss,Inc.,Capter 2.1(1995)]。エフェクター細胞としては、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、活性化されたマクロファージ等があげられる。
N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子からなる組成物中に含まれる、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合は、抗体分子からヒドラジン分解や酵素消化などの公知の方法[生物化学実験法23−糖タンパク質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989)]を用い、糖鎖を遊離させ、遊離させた糖鎖を蛍光標識又は同位元素標識し、標識した糖鎖をクロマトグラフィー法にて分離することによって決定することができる。また、遊離させた糖鎖をHPAED−PAD法[ジャーナル・オブ・リキッド・クロマトグラフィー(J.Liq.Chromatogr.),6,1577(1983)]で分析することによっても決定することができる。 また、本発明の抗体としては、腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体であることが好ましく、抗体のクラスはIgGが好ましい。
腫瘍関連抗原を認識する抗体としては、抗GD2抗体(Anticancer Res.,13,331,1993)、抗GD3抗体(Cancer Immunol.Immunother.,36,260,1993)、抗GM2抗体(Cancer Res.,54,1511,1994)、抗HER2抗体(Proc.Natl.Acad.Sei.USA,89,4285,1992)、抗CD52抗体(Nature,332,323,1988)、抗MAGE抗体(British J.Cancer,83,493,2000)、抗HM1.24抗体(Molecular Immunol.,36,387,1999)、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体(Cancer,88,2909,2000)、抗FGF8抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,9911,1989)抗塩基性繊維芽細胞増殖因子抗体、抗FGF8受容体抗体(J.Biol.Chem.,265,16455,1990)、抗塩基性繊維芽細胞増殖因子受容体抗体、抗インスリン様増殖因子抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗インスリン様増殖因子受容体抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗PMSA抗体(J.Urology,160,2396,1998)、抗血管内皮細胞増殖因子抗体(Cancer Res.,57,4593,1997)または抗血管内皮細胞増殖因子受容体抗体(Oncogene,19,2138,2000)、抗CA125抗体、抗17−1A抗体、抗インテグリンαvβ3抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗HLA抗体、抗HLA−DR抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗EGF受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CD10抗体(American Journal of Clinical Pathology,113,374,2000)などがあげられる。
アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体としては、抗インターロイキン6抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン6受容体抗体(Molecular Immunol.,31,371,1994)、抗インターロイキン5抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン5受容体抗体、抗インターロイキン4抗体(Cytokine,3,562,1991)、抗インターロイキン4受容体抗体(J.Immunol.Meth.,217,41,1998)、抗腫瘍壊死因子抗体(Hybridoma,13,183,1994)、抗腫瘍壊死因子受容体抗体(Molecular Pharmacol.,58,237,2000)、抗CCR4抗体(Nature,400,776,1999)、抗ケモカイン抗体(J.Immunol.Meth.,174,249,1994)、抗ケモカイン受容体抗体(J.Exp.Med.,186,1373,1997)、抗IgE抗体、抗CD23抗体、抗CD11a抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CRTH2抗体(J.Immunol.,162,1278,1999)、抗CCR8抗体(WO99/25734)、抗CCR3抗体(US6207155)などがあげられる。
循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体としては、抗GpIIb/IIIa抗体(J.Immunol.,152,2968,1994)、抗血小板由来増殖因子抗体(Science,253,1129,1991)、抗血小板由来増殖因子受容体抗体(J.Biol.Chem.,272,17400,1997)または抗血液凝固因子抗体(Circulation,101,1158,2000)などがあげられる。
自己免疫疾患(具体的な例としては、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)に関連する抗原を認識する抗体としては、抗自己DNA抗体(Immunol.Letters,72,61,2000)、抗CD11a抗体、抗ICAM3抗体、抗CD80抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗インテグリンα4β7抗体、抗CD40L抗体、抗IL−2受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)などがあげられる。
ウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体としては、抗gp120抗体(Structure,8,385,2000)、抗CD4抗体(J.Rheumatology,25,2065,1998)、抗CCR4抗体、抗ベ口毒素抗体(J.Clin.Microbiol.,37,396,1999)などがあげられる。
抗体分子としては、抗体のFc領域を含む分子であればいかなる分子も包含される。具体的には、抗体、抗体の断片、Fc領域を含む融合蛋白質などがあげられる。
抗体としては、外来抗原刺激の結果、免疫反応によって生体内に生産される蛋白質で、抗原と特異的に結合する活性を有するものであればいかなるものでもよいが、動物に抗原を免疫し、免疫動物の脾臓細胞より作製したハイブリドーマ細胞が分泌する抗体のほか、遺伝子組換え技術により作製された抗体、すなわち、抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを、宿主細胞へ導入することにより取得された抗体などがあげられる。具体的には、ハイブリドーマが生産する抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などをあげることができる。
ハイブリドーマは、ヒト以外の哺乳動物に抗原を免疫して取得されたB細胞と、マウス、ラット等に由来するミエローマ細胞とを細胞融合させて得られる、所望の抗原特異性を有したモノクローナル抗体を生産する細胞をいう。
ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体重鎖可変領域(以下、可変領域はV領域としてHVまたはVHとも称す)および抗体軽鎖可変領域(以下、軽鎖はL鎖としてLVまたはVLとも称す)とヒト抗体の重鎖定常領域(以下、CHとも称す)およびヒト抗体の軽鎖定常領域(以下、CLとも称す)とからなる抗体を意味する。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ヒト型キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいう。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDR配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列に移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することによりヒト型CDR移植抗体を発現させ、製造することができる。
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーならびにヒト抗体生産トランスジェニック動物あるいはヒト抗体生産トランスジェニック植物から得られる抗体等も含まれる。
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ不死化、クローニングすることにより、該抗体を生産するリンパ球を培養でき、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、一本鎖抗体等の抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
ヒト抗体生産トランスジェニック非ヒト動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物をいう。具体的には、マウス胚性幹細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該胚性幹細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体生産トランスジェニック動物を作製することができる。また、動物の受精卵にヒト抗体遺伝子を導入し、該受精卵を発生させることにヒト抗体生産トランスジェニック動物を作製することもできる。ヒト抗体生産トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体生産ハイブリドーマを得、培養することで培養物中にヒト抗体を生産蓄積させることができる。
トランスジェニック非ヒト動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ニワトリ、サル又はウサギ等があげられる。
また、本発明において、抗体が、腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体であることが好ましく、抗体のクラスがIgGのヒト抗体が好ましい。
抗体の断片とは、上記抗体の少なくともFc領域の一部を含んだ断片をいう。Fc領域とは、抗体のH鎖のC末端側の領域、CH2領域およびCH3領域を意味し、天然型およびその変異型を包含する。少なくともFc領域の一部とは、好ましくはCH2領域を含む断片、より好ましくはCH2領域内に存在する1番目のアスパラギン酸を含む領域をいう。IgGクラスのFc領域は、カバット(Kabat)らのEU Index[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),5th Ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]のナンバリングで226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味する。抗体の断片としては、具体的には、H鎖の単量体、H鎖の2量体などがあげられる。
Fc領域を有する融合蛋白質としては、抗体のFc領域を含んだ抗体あるいは抗体の断片と、酵素、サイトカインなどの蛋白質とを融合させた物質(以下、Fc融合蛋白質と称す)であればいかなるものでもよい。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、以下に述べる手法により作製することができる。
(1)酵素の遺伝子を標的とした遺伝子破壊の手法
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子を標的とし、遺伝子破壊の方法を用いることにより作製することができる。α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどあげられる。
遺伝子破壊の方法としては、標的とする酵素の遺伝子を破壊することができる方法であればいかなる方法も包含される。その例としては、相同組換え法、RNA−DNA oligonucleotide(RDO)法、レトロウイルスを用いた方法、トランスポゾンを用いた方法等があげられる。以下これらを具体的に説明する。
(a)相同組換え法による本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、染色体上の標的遺伝子を相同組換え法を用い改変することによって作製することができる。
染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994)(以下、「マニピュレイティング・ザ・マウス・エンブリオ・ア・ラボラトリー・マニュアル」と略す)、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、バイオマニュアルシリーズ8 ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)(以下、「ES細胞を用いた変異マウスの作製」と略す)等に記載の染色体工学の手法を用い、例えば以下のように行うことができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを取得する。
取得したcDNAの塩基配列に基づき、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する。
該ゲノムDNAの塩基配列に基づき、改変する標的遺伝子(例えば、α−1,6−フコース修飾酵素の構造遺伝子、あるいはプロモーター遺伝子)を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。
作製したターゲットベクターを宿主細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択することにより、本発明の細胞を作製することができる。
宿主細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の細胞があげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNA及びゲノムDNAを取得する方法としては、例えば、以下に記載の方法があげられる。
cDNAの調製方法
各種宿主細胞から全RNA又はmRNAを調製する。
調製した全RNA又はmRNAからcDNAライブラリーを作製する。
α−1,6−フコース修飾酵素の既知アミノ酸配列、例えばヒトのアミノ酸配列、に基づいて、デジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法にて、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得する。
取得した遺伝子断片をプローブとして用い、cDNAライブラリーをスクリーニングし、α−1,6−フコース修飾酵素をコードするcDNAを取得することができる。
各種宿主細胞のmRNAは、市販のもの(例えばClontech社)を用いてもよいし、以下のごとく各種宿主細胞から調製してもよい。各種宿主細胞から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),154,3(1987)]、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム(AGPC)法[アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry),162,156(1987);実験医学、9,1937(1991)]などがあげられる。
また、全RNAからpoly(A)+RNAとしてmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)等があげられる。
さらに、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社)などのキットを用いることによりmRNAを調製することができる。
次に、調製した各種宿主細胞mRNAからcDNAライブラリーを作製する。cDNAライブラリー作製法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、A Laboratory Manual,2nd Ed.(1989)等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Life Technologies社)、ZAP−cDNA Synthesis Kit(STRATAGENE社)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自立複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる。具体的には、ZAP Express[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、Lambda ZAP II(STRATAGENE社)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング・ア・プラクティカル・アプローチ(DNA cloning,A Practical Approach),1,49(1985)]、λTriplEx(Clontech社)、λExCell(Pharmacia社)、pT7T318U(Pharmacia社)、pcD2[モレキュラー・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]およびpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等をあげることができる。
cDNAライブラリーを作製するための宿主微生物としては、微生物であればいずれでも用いることができるが、好ましくは大腸菌が用いられる。具体的には、Escherichiacoli XL1−Blue MRF’[STRATAGENE社、ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、Escherichia coli C600[ジェネティクス(Genetics),39,440(1954)]、Escherichia coli Y1088[サイエス(Science),222,778(1983)]、Escherichia coli Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、Escherichia coli NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、Escherichia coli K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]およびEscherichia coli JM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
このcDNAライブラリーを、そのまま以降の解析に用いてもよいが、不完全長cDNAの割合を下げ、なるべく完全長cDNAを効率よく取得するために、菅野らが開発したオリゴキャップ法[ジーン(Gene),138,171(1994);ジーン(Gene),200,149(1997);蛋白質核酸酵素,41,603(1996);実験医学,11,2491(1993);cDNAクローニング(羊土社)(1996);遺伝子ライブラリーの作製法(羊土社)(1994)]を用いて調製したcDNAライブラリーを以下の解析に用いてもよい。
α−1,6−フコース修飾酵素のアミノ酸配列に基づいて、該アミノ酸配列をコードすることが予測される塩基配列の5’端および3’端の塩基配列に特異的なデジェネレイティブプライマーを作製し、作製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols),Academic Press(1990)]を用いてDNAの増幅を行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得することができる。
取得した遺伝子断片がα−1,6−フコース修飾酵素をコードするDNAであることは、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM377 DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、確認することができる。
該遺伝子断片をDNAプローブとして、各種宿主細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリー対してコロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーション(モレキュラー・クローニング第2版)を行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素のDNAを取得することができる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする遺伝子断片を取得するために用いたプライマーを用い、各種宿主細胞に含まれるmRNAから合成したcDNAあるいはcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法を用いてスクリーニングを行うことにより、α−1,6−フコース修飾酵素のDNAを取得することもできる。
取得したα−1,6−フコース修飾酵素をコードするDNAの塩基配列を末端から、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM377 DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定する。
決定したcDNAの塩基配列をもとに、BLAST等の相同性検索プログラムを用いて、GenBank、EMBLおよびDDBJなどの塩基配列データベースを検索することにより、データベース中の遺伝子の中でGDP−マンノースをα−1,6−フコース修飾酵素をコードしている遺伝子を決定することもできる。
上記の方法で得られるα−1,6−フコース修飾酵素をコードしている遺伝子の塩基配列としては、例えば、配列番号1、2、3または4に記載の塩基配列があげられる。
決定されたDNAの塩基配列に基づいて、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・エルマー社のDNA合成機model392等のDNA合成機で化学合成することにより、α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを取得することもできる。
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する方法としては、例えば、以下に記載の方法があげられる。
ゲノムDNAの調製方法
ゲノムDNAを調製する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された公知の方法があげられる。また、ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems社)やUniversal GenomeWalkerTM Kits(CLONTECH社)などを用いることにより、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを単離することもできる。
上記の方法で得られるα−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAの塩基配列として、例えば配列番号9に記載の塩基配列があげられる。
標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターは、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)等に記載の方法にしたがって作製することができる。ターゲットベクターは、リプレースメント型、インサーション型いずれでも用いることができる。
各種宿主細胞へのターゲットベクターの導入には、後述の2.に記載の各種細胞に適した組換えベクターの導入方法を用いることができる。
相同組換え体を効率的に選別する方法として、例えば、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993)、ES細胞を用いた変異マウスの作製(羊土社)等に記載のポジティブ選択、プロモーター選択、ネガティブ選択、ポリA選択などの方法を用いることができる。選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法(モレキュラー・クローニング第2版)やPCR法[ピーシーアール・プロトコールズ(PCR Protocols),Academic Press(1990)]等があげられる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として、相同組換え体を取得することもできる。具体的な方法としては、例えば、以下に記載の形質転換体を選択する方法があげられる。
形質転換体を選択する方法
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を選択する方法としては、文献[新生化学実験講座3−糖質I,糖タンパク質(東京化学同人)日本生化学会編(1988)]、文献[細胞工学,別冊,実験プロトコールシリーズ,グライコバイオロジー実験プロトコール,糖タンパク質・糖脂質・プロテオグリカン(秀潤社製)谷口直之・鈴木明美・古川清・菅原一幸監修(1996)]、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された生化学的な方法あるいは遺伝子工学的な方法などがあげられる。生化学的な方法としては、例えば、酵素特異的な基質を用いて酵素活性を評価する方法があげられる。遺伝子工学的な方法としては、例えば、酵素遺伝子のmRNA量を測定するノーザン解析やRT−PCR法等があげられる。
また、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた結果生じる形質の変化を指標に細胞を選択する方法としては、例えば、産生抗体分子の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法や、細胞表面上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法などがあげられる。産生抗体分子の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法としては、後述の6.に記載の方法があげられる。細胞表面上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として形質転換体を選択する方法としては、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性である株を選択する手法を挙げることができる。その具体的な例としては、ソマティク・セル・アンド・モレキュラー・ジェネティクス(Somatic Cell Mol.Genet.),12,51,(1986)等に記載のレクチンを用いた方法があげられる。
レクチンとしては、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンであればいずれのレクチンでも用いることができるが、レンズマメレクチンLCA(Lens Culinaris由来のLentil Agglutinin)、エンドウマメレクチンPSA(Pisum sativum由来のPea Lectin)、ソラマメレクチンVFA(Vicia faba由来のAgglutinin)、ヒイロチャワンタケレクチンAAL(Aleuria aurantia由来のLectin)等が好ましい。
具体的には、数十μg/ml〜数mg/ml、好ましくは0.5〜2.0mg/mlの濃度の上述のレクチンを含む培地にで1日〜2週間、好ましくは3日〜1週間培養し、生存している細胞を継代培養あるいはコロニーをピックアップし別の培養器に移し、さらに引き続きレクチンを含む培地で培養を続けることで、本発明の細胞を選択することができる。
(b)RDO法による本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を標的とし、RDO法を用い、例えば、以下のように作製することができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAあるいはゲノムDNAを調製する。
調製したcDNAあるいはゲノムDNAの塩基配列を決定する。
決定したDNAの配列に基づき、α−1,6−フコース修飾酵素をコードする部分、非翻訳領域の部分あるいはイントロン部分を含む適当な長さのRDOのコンストラクトを設計し合成する。
合成したRDOを宿主細胞に導入し、標的とした酵素、すなわちα−1,6−フコース修飾酵素に変異が生じた形質転換体を選択することにより、本発明の細胞を作製することができる。
宿主細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の宿主細胞があげられる。
各種宿主細胞へのRDOの導入には、後述の2.に記載の各種宿主細胞に適した組み換えベクターの導入方法を用いることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素のcDNAを調製する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の「cDNAの調製方法」などがあげられる。
α−1,6−フコース修飾酵素のゲノムDNAを調製する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の「ゲノムDNAの調製方法」などがあげられる。
DNAの塩基配列は、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、サンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.),74,5463(1977)]等の反応を行い、塩基配列自動分析装置、例えば、A.L.F.DNAシークエンサー(Pharmacia社製)等を用いて解析することで該DNAの塩基配列を決定することができる。
RDOは、常法またはDNA合成機を用いることにより調製することができる。
RDOを宿主細胞に導入し、標的とした酵素、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子に変異が生じた細胞を選択する方法としては、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された染色体上の遺伝子の変異を直接検出する方法があげられる。
また、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」を用いることもできる。
RDOのコンストラクトは、サイエンス(Science),273,1386,(1996);ネイチャー・メディシン(Nature Medicine),4,285,(1998);ヘパトロジー(Hepatology),25,1462,(1997);ジーン・セラピー(Gene Therapy),5,1960,(1999);ジーン・セラピー(Gene Therapy),5,1960,(1999);ジャーナル・オブ・モレキュラー・メディシン(J.Mol.Med.),75,829,(1997);プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),96,8774,(1999);プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),96,8768,(1999);ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nuc.Acids.Res.),27,1323,(1999);インベスティゲーション・オブ・ダーマトロジー(Invest.Dematol.),111,1172,(1998);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),16,1343,(1998);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),18,43,(2000);ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.),18,555,(2000)等の記載に従って設計することができる。
(c)トランスポゾンを用いた方法による、本発明の細胞の作製
本発明の細胞は、ネイチャー・ジェネティク(Nature Genet.),25,35,(2000)等に記載のトランスポゾンのシステムを用い、α−1,6−フコース修飾酵素の活性、あるいは産生抗体分子または細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標に突然変異体を選択することで、本発明の細胞を作製することができる。
トランスポゾンのシステムとは、外来遺伝子をランダムに染色体上に挿入させることで突然変異を誘発させるシステムであり、通常、トランスポゾンに挿まれた外来遺伝子を、突然変異を誘発させるベクターとして用い、この遺伝子を染色体上にランダムに挿入させるためのトランスポゼースの発現ベクターを同時に細胞の中に導入する。
トランスポゼースは、用いるトランスポゾンの配列に適したものであればいかなるものも用いることができる。
外来遺伝子としては、細胞のDNAに変異を誘起するものであればいかなる遺伝子も用いることができる。
細胞としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、標的とするα−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子を有しているものであればいずれも用いることができる。具体的には、後述の2.に記載の宿主細胞があげられる。
細胞への遺伝子の導入には、後述の2.に記載の各種宿主細胞に適した組み換えベクターの導入方法を用いることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素の活性を指標として突然変異体を選択する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」があげられる。
(2)酵素についての突然変異を導入する手法
本発明の細胞は、α−1,6−フコース修飾酵素の遺伝子について突然変異を導入し、該酵素に突然変異を生じた所望の細胞株を選択する手法を用いることにより作製することができる。
α−1,6−フコース修飾酵素としては、具体的には、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ、α−L−フコシダーゼなどがあげられる。
具体的には、1)突然変異誘発処理で親株細胞を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として所望の細胞株を選択する方法、2)突然変異誘発処理で親株を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、生産抗体分子の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法、3)突然変異誘発処理で親株細胞を処理した突然変異体あるいは自然発生的に生じた突然変異体から、該細胞の細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法などがあげられる。
突然変異誘発処理としては、親株細胞のDNAに点突然変異、欠失あるいはフレームシフト突然変異を誘起するものであればいかなる処理も用いることができる。具体的には、エチルニトロソウレア、ニトロソグアニジン、ベンゾピレン、アクリジン色素による処理、放射線の照射などがあげられる。また、種々のアルキル化剤や発癌物質も突然変異誘発物質として用いることができる。突然変異誘発物質を細胞に作用させる方法としては、例えば、組織培養の技術 第三版(朝倉書店)日本組織培養学会編(1996)、ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genet.),24,314,(2000)等に記載の方法を挙げることができる。
自然発生的に生じた突然変異体としては、特別な突然変異誘発処理を施さないで、通常の細胞培養の条件で継代培養を続けることによって自然発生的に生じる突然変異体を挙げることができる。
α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標として所望の細胞株を選択する方法、生産抗体分子の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法、細胞膜上の糖蛋白質の糖鎖構造を指標として所望の細胞株を選択する方法としては、例えば、上記1の(1)の(a)に記載の、α−1,6−フコース修飾酵素の活性の変化を指標とした「形質転換体を選択する方法」があげられる。
2.抗体組成物を例とした糖蛋白質の製造方法
抗体組成物の製造を例に、本発明の細胞を用いた糖蛋白質の製造方法を示す。
抗体組成物は、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Antibodies,A Laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988(以下、アンチボディズと略す)、Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition,Acad.Press,1993(以下、モノクローナルアンチボディズと略す)、Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press,1996(以下、アンチボディエンジニアリングと略す)等に記載された方法を用い、例えば、以下のように抗体分子をコードする遺伝子を導入する宿主細胞中で発現させて取得することができる。
抗体分子のcDNAを調製する。
調整した抗体分子の全長cDNAをもとにして、必要に応じて、該蛋白質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。
該DNA断片、または全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。
該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、本発明の抗体組成物を生産する形質転換体を得ることができる。
cDNAは、上記1.の(1)の(a)に記載の「cDNAの調製方法」に従い、ヒト又は非ヒト動物の組織又は細胞より、目的とする抗体分子に特異的なプローブプライマーを用いて調製することができる。
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)等をあげることができる。
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP 1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、クリュイベロミセス属、トリコスポロン属、シュワニオミセス属等に属する微生物、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Trichosporon pullulans、Schwanniomyces alluvius等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[メソッズ・エンザイモロジー(Methods.Enzymol.),194,182(1990)]、スフェロプラスト法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A),84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriology),153,163(1983)]、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A),75,1929(1978)]に記載の方法等をあげることができる。
動物細胞を宿主として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pcDNAI、pcDM8(フナコシ社より市販)、pAGE107[特開平3−22979;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133,(1990)]、pAS3−3[特開平2−227075]、pCDM8[ネイチャー(Nature),329,840,(1987)]、pcDNAI/Amp(Invitrogen社)、pREP4(Invitrogen社)、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochemistry),101,1307(1987)]、pAGE210等をあげることができる。
プロモーターとしては、動物細胞中で発現できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等をあげることができる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
宿主細胞としては、ヒトの細胞であるナマルバ(Namalwa)細胞、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ラットミエローマ細胞、マウスミエローマ細胞、シリアンハムスター腎臓由来細胞、胚性幹細胞、受精卵細胞等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、リン酸カルシウム法[特開平2−227075]、リポフェクション法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),84,7413(1987)]、インジェクション法[マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版]、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法[特許第2606856、特許第2517813]、DEAE−デキストラン法[バイオマニュアルシリーズ4−遺伝子導入と発現・解析法(羊土社)横田崇・新井賢一編(1994)]、ウイルスベクター法[マニピュレーティング・マウス・エンブリオ第2版]等をあげることができる。
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーBaculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992)、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6,47(1988)等に記載された方法によって、タンパク質を発現することができる
即ち、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。
該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社)等をあげることができる。
バキュロウイルスとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
昆虫細胞としては、Spodopterafrugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21[カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーBaculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992)]、Trichoplusianiの卵巣細胞であるHigh5(Invitrogen社)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への上記組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、リポフェクション法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),84,7413(1987)]等をあげることができる。
植物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、Tiプラスミド、タバコモザイクウイルスベクター等をあげることができる。
プロモーターとしては、植物細胞中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、イネアクチン1プロモーター等をあげることができる。
宿主細胞としては、タバコ、ジャガイモ、トマト、ニンジン、ダイズ、アブラナ、アルファルファ、イネ、コムギ、オオムギ等の植物細胞等をあげることができる。
組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)[特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977]、エレクトロポレーション法[特開昭60−251887]、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法[日本特許第2606856、日本特許第2517813]等をあげることができる。
遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、Fc領域と他の蛋白質との融合蛋白質発現等を行うことができる。
糖鎖の合成に関与する遺伝子を導入した、酵母、動物細胞、昆虫細胞または植物細胞等により発現させた場合には、導入した遺伝子によって所望の糖あるいは糖鎖が付加された抗体分子を得ることができる。
以上のようにして得られる形質転換体を培地に培養し、培養物中に抗体分子を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、抗体組成物を製造することができる。形質転換体を培地に培養する方法は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
酵母を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、該生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中のpHは3.0〜9.0に保持する。pHの調製は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地[ザ・ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエイション(The Journal of the American Medical Association),199,519(1967)]、EagleのMEM培地[サイエンス(Science),122,501(1952)]、ダルベッコ改変MEM培地邊[ヴュウロロジー(Virology),8,396(1959)]、199培地[プロシーディング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォア・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73,1(1950)]、Whitten培地[発生工学実験マニュアル−トランスジェニック・マウスの作り方(講談社)勝木元也編(1987)]またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等を添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜8、30〜40℃、5%CO2存在下等の条件下で1〜7日間行う。フェドバッチ培養、ホロファイバー培養などの培養法を用いて1日〜数ヶ月培養を行うこともできる。
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(Pharmingen社)、Sf−900 II SFM培地(Life Technologies社)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社)、Grace’s Insect Medium[ネイチャー(Nature),195,788(1962)]等を用いることができる。
培養は、通常pH6〜7、25〜30℃等の条件下で、1〜5日間行う。
また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
植物細胞を宿主として得られた形質転換体は、細胞として、または植物の細胞や器官に分化させて培養することができる。該形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
培養は、通常pH5〜9、20〜40℃の条件下で3〜60日間行う。
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記のとおり、抗体分子をコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する酵母、動物細胞、あるいは植物細胞由来の形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、抗体組成物を生成蓄積させ、該培養物より抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を製造することができる。
抗体組成物の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、あるいは宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞や、生産させる抗体分子の構造を変えることにより、該方法を選択することができる。
抗体組成物が宿主細胞内あるいは宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),264,17619(1989)]、ロウらの方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),86,8227(1989);ジーン・デベロップメント(Genes Develop.),4,1288(1990)]、または特開平05−336963、WO94/23021等に記載の方法を準用することにより、該抗体組成物を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、発現ベクターに、抗体分子をコードするDNA、および抗体分子の発現に適切なシグナルペプチドをコードするDNAを挿入し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入した後に抗体分子を発現させることにより、目的とする抗体分子を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
また、特開平2−227075に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。
さらに、遺伝子導入した動物または植物の細胞を再分化させることにより、遺伝子が導入された動物個体(トランスジェニック非ヒト動物)または植物個体(トランスジェニック植物)を造成し、これらの個体を用いて抗体組成物を製造することもできる。
形質転換体が動物個体または植物個体の場合は、通常の方法に従って、飼育または栽培し、抗体組成物を生成蓄積させ、該動物個体または植物個体より該抗体組成物を採取することにより、該抗体組成物を製造することができる。
動物個体を用いて抗体組成物を製造する方法としては、例えば公知の方法[アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(American Journal of Clinical Nutrition),63,639S(1996);アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(American Journal of Clinical Nutrition),63,627S(1996);バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),9,830(1991)]に準じて遺伝子を導入して造成した動物中に目的とする抗体組成物を生産する方法があげられる。
動物個体の場合は、例えば、抗体分子をコードするDNAを導入したトランスジェニック非ヒト動物を飼育し、抗体組成物を該動物中に生成・蓄積させ、該動物中より抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を製造することができる。該動物中の生成・蓄積場所としては、例えば、該動物のミルク(特開昭63−309192)、卵等をあげることができる。この際に用いられるプロモーターとしては、動物で発現できるものであればいずれも用いることができるが、例えば、乳腺細胞特異的なプロモーターであるαカゼインプロモーター、βカゼインプロモーター、βラクトグロブリンプロモーター、ホエー酸性プロテインプロモーター等が好適に用いられる。
植物個体を用いて抗体組成物を製造する方法としては、例えば抗体分子をコードするDNAを導入したトランスジェニック植物を公知の方法[組織培養,20(1994);組織培養,21(1995);トレンド・イン・バイオテクノロジー(Trends in Biotechnology),15,45(1997)]に準じて栽培し、抗体組成物を該植物中に生成・蓄積させ、該植物中より該抗体組成物を採取することにより、抗体組成物を生産する方法があげられる。
抗体分子をコードする遺伝子を導入した形質転換体により製造された抗体組成物は、例えば抗体組成物が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAIONHPA−75(三菱化学(株)製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、抗体組成物の精製標品を得ることができる。
また、抗体組成物が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として抗体組成物の不溶体を回収する。回収した抗体組成物の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該抗体組成物を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法により該抗体組成物の精製標品を得ることができる。
抗体組成物が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該抗体組成物を回収することができる。即ち、該培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、抗体組成物の精製標品を得ることができる。
このようにして取得される抗体組成物として、例えば、抗体、抗体の断片、抗体のFc領域を有する融合蛋白質などを挙げることができる。
以下に、抗体組成物の取得のより具体的な例として、ヒト化抗体およびFc融合蛋白質の組成物の製造方法について記すが、他の抗体組成物等の糖蛋白質を上述の方法および当該方法に準じて取得することもできる。
A.ヒト化抗体組成物の製造
(1)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターとは、ヒト抗体の重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)C領域をコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のC領域としては、任意のヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域であることができ、例えば、ヒト抗体のH鎖のIgG1サブクラスのC領域(以下、hCγ1と表記する)及びヒト抗体のL鎖のκクラスのC領域(以下、hCκと表記する)等があげられる。
ヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンから成る染色体DNAを用いるこどができ、また、cDNAを用いることもできる。
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、pHSG274[ジーン(Gene),27,223(1984)]、pKCR[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),78,1527(1981)]、pSG1 βd2−4[サイトテクノロジー(Cytotechnology),4,173(1990)]等があげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスのLTR[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),149,960(1987)]、免疫グロブリンH鎖のプロモーター[セル(Cell),41,479(1985)]とエンハンサー[セル(Cell),33,717(1983)]等があげられる。
ヒト化抗体発現用ベクターは、抗体H鎖及びL鎖が別々のベクター上に存在するタイプあるいは同一のベクター上に存在するタイプ(以下、タンデム型と表記する)のどちらでも用いることができるが、ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖及びL鎖の発現量のバランスが均衡する等の点からタンデム型のヒト化抗体発現用ベクターの方が好ましい[ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(J.Immunol.Methods),167,271(1994)]。
構築したヒト化抗体発現用ベクターは、ヒト型キメラ抗体及びヒト型CDR移植抗体の動物細胞での発現に使用できる。
(2)ヒト以外の動物の抗体のV領域をコードするcDNAの取得。
ヒト以外の動物の抗体、例えば、マウス抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAは以下のようにして取得することができる。
目的のマウス抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージ或いはプラスミド等のベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、既存のマウス抗体のC領域部分或いはV領域部分をプローブとして用い、H鎖V領域をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミド及びL鎖V領域をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージ或いは組換えプラスミド上の目的のマウス抗体のH鎖及びL鎖V領域の全塩基配列を決定し、塩基配列よりH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等、ハイブリドーマ細胞を作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ハイブリドーマ細胞から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオ口酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),154,3(1987)]、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989]等があげられる。また、ハイブリドーマ細胞からmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)等があげられる。
cDNAの合成及びcDNAライブラリー作製法としては、常法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in MolecularBiology),Supplement 1−34]、或いは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマ細胞から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP EXpress[ストラテジーズ(Srategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、λzap II(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング:ア・プラクティカル・アプローチ(DNA Cloning:A Practical Approach),I,49(1985)]、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell,pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2[モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]及びpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等が用いられる。
ファージ或いはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現及び維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’[ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、C600[ジェネティックス(Genetics),39,440(1954)]、Y1088、Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]及びJM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
cDNAライブラリーからのヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAクローンの選択法としては、アイソトープ或いは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法或いはプラーク・ハイブリダイゼーション法[モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press NewYork,1989]により選択することができる。
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNA或いはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction[以下、PCR法と表記する;モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Lab.Press New York,1989;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology),Supplement 1−34]によりH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAを調製することもできる。
上記方法により選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBlescript SK(−)(Stratagene社製)等のプスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、サンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.),74,5463(1977)]等の反応を行い、塩基配列自動分析装置、例えば、A.L.F.DNAシークエンサー(Pharmacia社製)等を用いて解析することで該cDNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列を推定し、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept. Health and Human Services,1991]と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のH鎖及びL鎖V領域の完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。
(3)ヒト以外の動物の抗体のV領域のアミノ酸配列の解析
分泌シグナル配列を含む抗体のH鎖及びL鎖V領域の完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域の全アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さ及びN末端アミノ酸配列を推定でき、更にはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、H鎖及びL鎖V領域の各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]と比較することによって見出すことができる。
(4)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流に、ヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAをクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、ヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAを、ヒト以外の動物の抗体H鎖及びL鎖V領域の3’末端側の塩基配列とヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域の5’末端側の塩基配列とから成り、かつ適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAとそれぞれ連結し、それぞれを本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。まず、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRを移植するヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のフレームワーク(以下、FRと表記する)のアミノ酸配列を選択する。ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列としては、ヒト抗体由来のものであれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bank等のデータベースに登録されているヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列、ヒト抗体のH鎖及びL鎖のV領域のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept.Health and Human Services,1991]等があげられるが、その中でも、十分な活性を有するヒト型CDR移植抗体を作製するためには、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)を有するアミノ酸配列を選択することが望ましい。
次に、選択したヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列に目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRのアミノ酸配列を移植し、ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列を設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),US Dept. Health and Human Services,1991]を考慮してDNA配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計する。設計したDNA配列に基づき、100塩基前後の長さから成る数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR法を行う。この場合、PCRでの反応効率及び合成可能なDNAの長さから、H鎖、L鎖とも6本の合成DNAを設計することが好ましい。
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項2のAの(1)で構築したヒト化抗体発現用ベクターに容易にクローニングすることができる。PCR後、増幅産物をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、本項2のAの(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域のアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
(6)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、目的のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域のCDRのみをヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元のヒト以外の動物の抗体に比べて低下してしまうことが知られている[バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),9,266(1991)]。この原因としては、元のヒト以外の動物の抗体のH鎖及びL鎖V領域では、CDRのみならず、FRのいくつかのアミノ酸残基が直接的或いは間接的に抗原結合活性に関与しており、それらアミノ酸残基がCDRの移植に伴い、ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRの異なるアミノ酸残基へと変化してしまうことが考えられている。この問題を解決するため、ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基やCDRのアミノ酸残基と相互作用したり、抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらを元のヒト以外の動物の抗体に見出されるアミノ酸残基に改変し、低下した抗原結合活性を上昇させることが行われている[バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),9,266(1991)]。
ヒト型CDR移植抗体の作製においては、それら抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を如何に効率よく同定するかが、最も重要な点であり、そのためにX線結晶解析[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),112,535(1977)]或いはコンピューターモデリング[プロテイン・エンジニアリング(Protein Engineering),7,1501(1994)]等による抗体の立体構造の構築及び解析が行われている。これら抗体の立体構造の情報は、ヒト型CDR移植抗体の作製に多くの有益な情報をもたらして来たが、その一方、あらゆる抗体に適応可能なヒト型CDR移植抗体の作製法は未だ確立されておらず、現状ではそれぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討する等の種々の試行錯誤が必要である。
ヒト抗体のH鎖及びL鎖V領域のFRのアミノ酸残基の改変は、改変用合成DNAを用いて本項2のAの(5)に記載のPCR法を行うことにより、達成できる。PCR後の増幅産物について本項2のAの(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
(7)ヒト型CDR移植抗体発現ベクターの構築
本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流に、本項2のAの(5)及び(6)で構築したヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域をコードするcDNAをクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。例えば、本項2のAの(5)及び(6)でヒト型CDR移植抗体のH鎖及びL鎖V領域を構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、本項2のAの(1)に記載のヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖及びL鎖C領域をコードする遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにクローニングし、ヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築することができる。
(8)ヒト化抗体の安定的生産
本項2のAの(4)及び(7)に記載のヒト化抗体発現ベクターを適当な動物細胞に導入することによりヒト型キメラ抗体及びヒト型CDR移植抗体(以下、併せてヒト化抗体と称す)を安定に生産する形質転換株を得ることができる。
動物細胞へのヒト化抗体発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法[特開平2−257891;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]等があげられる。
ヒト化抗体発現ベクターを導入する動物細胞としては、ヒト化抗体を生産させることができる動物細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。
具体的には、マウスミエローマ細胞であるNS0細胞、SP2/0細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO/dhfr−細胞、CHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、IR983F細胞、シリアンハムスター腎臓由来であるBHK細胞、ヒトミエローマ細胞であるナマルバ細胞などがあげられるが、好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、1.に記載の細胞等があげられる。
ヒト化抗体発現ベクターの導入後、ヒト化抗体を安定に生産する形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418 sulfate(以下、G418と表記する;SIGMA社製)等の薬剤を含む動物細胞培養用培地により選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(曰水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM培地(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM培地(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の各種添加物を添加した培地等をいることができる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中にヒト化抗体を生産蓄積させることができる。培養上清中のヒト化抗体の生産量及び抗原結合活性は酵素免疫抗体法[以下、ELISA法と表記する;アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 14,1998、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]等により測定できる。また、形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、DHFR遺伝子増幅系等を利用してヒト化抗体の生産量を上昇させることができる。
ヒト化抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる[アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]。また、その他に通常、タンパク質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したヒト化抗体のH鎖、L鎖或いは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動[以下、SDS−PAGEと表記する;ネイチャー(Nature),227,680(1970)]やウエスタンブロッティング法[アンティボディズ:ア・ラボラトリー・マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 12,1988、モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice),Academic Press Limited,1996]等で測定することができる。
B.Fc融合蛋白質の製造
(1)Fc融合蛋白質発現用ベクターの構築
Fc融合蛋白質発現用ベクターとは、ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子が組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子をクローニングすることにより構築することができる。
ヒト抗体のFc領域としては、CH2とCH3領域を含む領域のほか、ヒンジ領域、CH1の一部が含まれるものも包含される。またCH2またはCH3の少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換、付加または挿入され、実質的にFcγ受容体への結合活性を有するものであればいかなるものでもよい。
ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードする遺伝子としてはエキソンとイントロンから成る染色体DNAを用いることができ、また、cDNAを用いることもできる。それら遺伝子とFc領域を連結する方法としては、各遺伝子配列を鋳型として、PCR法(モレキュラー・クローニング第2版;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー,Supplement 1−34)を行うことがあげられる。
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]、pAGE103[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、pHSG274[ジーン(Gene),27,223(1984)]、pKCR[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),78,1527(1981)]、pSG1 βd2−4[サイトテクノロジー(Cytotechnology),4,173(1990)]等があげられる。動物細胞用発現ベクターに用いるプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),101,1307(1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスのLTR[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.),149,960(1987)]、免疫グロブリンH鎖のプロモーター[セル(Cell),41,479(1985)]とエンハンサー[セル(Cell),33,717(1983)]等があげられる。
(2)ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードするDNAの取得
ヒト抗体のFc領域と融合させる蛋白質とをコードするDNAは以下のようにして取得することができる。
目的のFcと融合させる蛋白質を発現している細胞や組織よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージ或いはプラスミド等のベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、目的の蛋白質の遺伝子配列部分をプローブとして用い、目的の蛋白質をコードするcDNAを有する組換えファージ或いは組換えプラスミドを単離する。組換えファージ或いは組換えプラスミド上の目的の蛋白質の全塩基配列を決定し、塩基配列より全アミノ酸配列を推定する。
ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等、細胞や組織を摘出することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
細胞や組織から全RNAを調製する方法としては、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),154,3(1987)]、また全RNAからmRNAを調製する方法としては、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)等があげられる。また、細胞や組織からmRNAを調製するキットとしては、Fast Track mRNA Isolation Kit(Invitrogen社製)、Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia社製)等があげられる。
cDNAの合成及びcDNAライブラリー作製法としては、常法(モレキュラー・クローニング第2版;カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー,Supplement 1−34)、或いは市販のキット、例えば、Super ScriptTM Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(GIBCO BRL社製)やZAP−cDNA Synthesis Kit(Stratagene社製)を用いる方法などがあげられる。
cDNAライブラリーの作製の際、細胞や組織から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターは、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express[ストラテジーズ(Strategies),5,58(1992)]、pBluescript II SK(+)[ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),17,9494(1989)]、λzapII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[ディーエヌエー・クローニング:ア・プラクティカル・アプローチ(DNA Cloning:A Practical Approach),I,49(1985)]、Lambda BlueMid(Clontech社製)、λExCell、pT7T3 18U(Pharmacia社製)、pcD2[モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.),3,280(1983)]及びpUC18[ジーン(Gene),33,103(1985)]等が用いられる。
ファージ或いはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌としては該cDNAライブラリーを導入、発現及び維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1−Blue MRF’[ストラテジーズ(Strategies),5,81(1992)]、C600[ジェネティックス(Genetics),39,440(1954)]、Y1088、Y1090[サイエンス(Science),222,778(1983)]、NM522[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),166,1(1983)]、K802[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),16,118(1966)]及びJM105[ジーン(Gene),38,275(1985)]等が用いられる。
cDNAライブラリーからの目的の蛋白質をコードするcDNAクローンの選択法としては、アイソトープ或いは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法或いはプラーク・ハイブリダイゼーション法(モレキュラー・クローニング第2版)により選択することができる。また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNA或いはcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法により目的の蛋白質をコードするcDNAを調製することもできる。
目的の蛋白質をヒト抗体のFc領域と融合させる方法としては、PCR法があげられる。例えば、目的の蛋白質の遺伝子配列の5’側と3’側に任意の合成オリゴDNA(プライマー)を設定し、PCR法を行いPCR産物を取得する。同様に、融合させるヒト抗体のFc領域の遺伝子配列に対しても任意のプライマーを設定し、PCR産物を得る。このとき、融合させる蛋白質のPCR産物の3’側とFc領域のPCR産物の5’側には同じ制限酵素部位もしくは同じ遺伝子配列が存在するようにプライマーを設定する。この連結部分周辺のアミノ酸改変が必要である場合には、その変異を導入したプライマーを用いることで変異を導入する。得られた2種類のPCR断片を用いてさらにPCRを行うことで、両遺伝子を連結する。もしくは、同一の制限酵素処理をした後にライゲーションすることでも連結することができる。
上記方法により連結された遺伝子配列を、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(−)(Stratagene社製)等のプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.),74,5463(1977)]あるいはABI PRISM 377DNAシークエンサー(PE Biosystems社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
決定した塩基配列からFc融合蛋白質の全アミノ酸配列を推定し、目的のアミノ酸配列と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含むFc融合蛋白質の完全なアミノ酸配列をコードしているかを確認することができる。
(3)Fc融合蛋白質の安定的生産
前記の(1)項に記載のFc融合蛋白質発現ベクターを適当な動物細胞に導入することによりFc融合蛋白質を安定に生産する形質転換株を得ることができる。
動物細胞へのFc融合蛋白質発現ベクターの導入法としては、エレクトロポレーション法[特開平2−257891;サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]等があげられる。
Fc融合蛋白質発現ベクターを導入する動物細胞としては、Fc融合蛋白質を生産させることができる動物細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。
具体的には、マウスミエローマ細胞であるNS0細胞、SP2/0細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO/dhfr−細胞、CHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、IR983F細胞、シリアンハムスター腎臓由来であるBHK細胞、ヒトミエローマ細胞であるナマルバ細胞などがあげられるが、好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞であるCHO/DG44細胞、ラットミエローマYB2/0細胞、前記1.項に記載の本発明の方法に用いられる宿主細胞等があげられる。
Fc融合蛋白質発現ベクターの導入後、Fc融合蛋白質を安定に生産する形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、G418等の薬剤を含む動物細胞培養用培地により選択できる。動物細胞培養用培地としては、RPMI1640培地(日水製薬社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX−CELL302培地(JRH社製)、IMDM培地(GIBCO BRL社製)、Hybridoma−SFM培地(GIBCO BRL社製)、またはこれら培地にインスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の各種添加物を添加した培地等を用いることができる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中にFc融合蛋白質を生産蓄積させることができる。培養上清中のFc融合蛋白質の生産量及び抗原結合活性はELISA法等により測定できる。また、形質転換株は、特開平2−257891に開示されている方法に従い、dhfr遺伝子増幅系等を利用してFc融合蛋白質の生産量を上昇させることができる。
Fc融合蛋白質は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムやプロテインGカラムを用いて精製することができる(アンチボディズ,Chapter8、モノクローナル・アンティボディズ)。また、その他に通常、タンパク質の精製で用いられる精製方法を使用することができる。例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び限外濾過等を組み合わせて行い、精製することができる。精製したFc融合蛋白質分子全体の分子量は、SDS−PAGE[ネイチャー(Nature),227,680(1970)]やウエスタンブロッティング法(アンチボディズ,Chapter 12、モノクローナル・アンティボディズ)等で測定することができる。
以上、動物細胞を宿主とした抗体およびFc融合蛋白質の組成物の製造方法を示したが、上述したように、酵母、昆虫細胞、植物細胞または動物個体あるいは植物個体においても製造することができる。
既に、抗体分子等の糖蛋白質を発現する能力を有している細胞の場合には、上記1.に記載の方法を用いて糖蛋白質生産細胞を調製した後に、該細胞を培養し、該培養物から目的とする抗体組成物や糖蛋白質組成物を精製することにより、本発明の抗体組成物や糖蛋白質組成物を製造することができる。
3.無血清培養による本発明の糖蛋白質組成物の製造法
本発明の細胞は、さらに無血清培地へ馴化させる必要がある。本発明の細胞を用いて、糖蛋白質の製造を行なうことにより、無血清あるいは無蛋白培地の糖蛋白質組成物の製造が可能である。
本発明の無血清培地への馴化方法としては、血清を含有する培地で継代したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を、市販の無血清培地等へ直接馴化させる方法や連続馴化させる方法(Cell & Tissue Culture:Laboratory Procedures,JOHON WILEY & SONS 2C:1)等があげられる。以下に、その具体的な例をあげる。
無血清馴化中には細胞の生存率が一時的に低下し、細胞が死滅してしまうことがある。このため、細胞の生存率を戻し、あるいは高く維持するためには、無血清馴化培地への細胞接種時に細胞密度を1×105〜10×105細胞/ml、好ましくは4×105〜6×105細胞/mlとなるように接種することが好ましい。例えば、直接馴化法では、培地中に細胞を接種し、37℃、5%CO2インキュベーターでのバッチ培養等、通常の動物細胞の培養方法を用いて培養し、細胞濃度が10×105〜40×105細胞/mlに達したら、無血清培地中に細胞を接種し、同様な条件で培養を繰り返す。
無血清培地にα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を1×105〜10×105細胞/ml、好ましくは4×105〜6×105細胞/mlとなるように接種し、通常の動物細胞の培養方法を用いて4〜7日後に、細胞密度が10×105〜40×105細胞/mlに達した細胞を無血清培地に馴化した細胞として選択する。
無血清培地に馴化した細胞は、細胞濃度が下記のバッチ培養で用いられる培地中に10×105〜30×105細胞/mlとなるように接種し、下記のバッチ培養で用いられる培養条件で3〜5日間培養して、継代培養を行うことができる。なお、継代培養の期間中、無血清培地に馴化した細胞の生存率は、90%以上に維持しておくことが望ましい。また、α−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞、例えば、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼのゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞または該細胞の形質転換細胞について、無血清培地に馴化した細胞が所望の糖蛋白質の生産性を維持するためには、アルブミンを好ましくは0.1〜10g/L、さらに好ましくは0.5〜3g/Lとなるように無血清培地へ添加しておくとよい。
本発明の無血清培地への馴化方法を用いて細胞を無血清馴化させた後、96ウエルプレートによる限界希釈方法、コロニー形成方法等を用いることにより、クローン(単一細胞)化した細胞株を調製することができる。
以下に、限界希釈法を用いたクローン化した細胞株を調製する方法を示す。
細胞懸濁液を希釈し、ひとつのウエルに1個以下の確率で細胞が入るように接種し、市販の無血清培地などを用いて、30〜40℃、5%CO2インキュベーター内で数週間培養する。培養終了後、細胞増殖の認められた細胞の培養上清中の所望の糖蛋白質の濃度を調べ、該糖蛋白質の生産性の高い細胞を選択する。
コロニー形成方法を用いてクローン化する方法は以下のとおりである。
付着性細胞の場合は、細胞懸濁液を希釈し、シャーレに細胞を接種して培養後、コロニーの形成を確認する。ペニシリンキャップ等のリングでコロニーを分離し、トリプシン等の酵素で細胞を分離後、適当な培養器に移し、所望の糖蛋白質の生産量を調べ、該糖蛋白質の生産性の高い細胞を選択する。
浮遊細胞の場合は、細胞懸濁液を希釈し、軟寒天中に細胞を接種して培養し、生じたコロニーを顕微鏡下でピックアップした後、静置培養に戻して所望の糖蛋白質の生産量を調べ、生産性の高い細胞を選択する。
上記方法を繰り返して行なうことで、無血清に馴化され、かつ目的とする細胞特性を持ったクローン化されたα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を選択することができる。
上記方法により、無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を得ることができる。
無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株は、上記の無血清培地に馴化した細胞を継代培養する方法で継代培養することができる。本発明の無血清培地への馴化方法を用いて無血清培地に馴化したα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞としては、WK704−2B8P(FERM BP−8337)、WK704−2871(FERM BP−8336)、WK704−2760(FERM BP−8335)を無血清培地に馴化した細胞などがあげられる。
なお、本発明の無蛋白培地での細胞の馴化方法についても、上述の無血清培地での細胞の馴化方法と同様の方法で行うことができる。
本発明の細胞を培養する方法としては、所望の糖蛋白質組成物を効率よく生産できる培養方法であれば、通常用いられる動物細胞の培養法のいずれでも用いることができる。例えば、バッチ培養、リピートバッチ培養、フェドバッチ培養、パーフュージョン培養等があげられるが、所望の糖蛋白質の生産性を高めるにはフェドバッチ培養またはパーフュージョン培養が好ましい。
(1)バッチ培養
本発明の細胞の培養方法において用いられる無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され、かつ動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。
具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地〔J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な栄養因子、生理活性物質等を添加する。これらの添加物は、培養前に予め培地に含有させる。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられ。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
栄養因子の濃度として、グルコースの濃度は200〜6000mg/L、好ましくは3000〜5000mg/Lである。
アミノ酸の濃度は、例えば、L−アラニン1〜160mg/L(好ましくは3〜120mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜1000mg/L(好ましくは30〜800mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜200mg/L(好ましくは20〜150mg/L)、L−アスパラギン酸5〜100mg/L(好ましくは10〜75mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜200mg/L(好ましくは20〜150mg/L)、L−グルタミン酸5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−グルタミン50〜2000(好ましくは100〜1500mg/L)、グリシン2〜100mg/L(好ましくは5〜75mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−イソロイシン2〜300mg/L(好ましくは4〜200mg/L)、L−ロイシン5〜300mg/L(好ましくは10〜200mg/L)、L−リジン一塩酸10〜300mg/L(好ましくは20〜250mg/L)、L−メチオニン5〜100mg/L(好ましくは10〜75mg/L)、L−フェニルアラニン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−プロリン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−セリン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−スレオニン5〜200mg/L(好ましくは10〜150mg/L)、L−トリプトファン1〜40mg/L(好ましくは2〜30mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物2〜300mg/L(好ましくは4〜200mg/L)、L−バリン5〜300mg/L(好ましくは10〜200mg/L)である。
ビタミンの濃度は、例えば、d−ビオチン0.001〜0.4mg/L(好ましくは0.002〜0.3mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.001〜10.0mg/L(好ましくは0.002〜7.5mg/L)、塩化コリン0.1〜20.0mg/L(好ましくは0.2〜15.0mg/L)、葉酸0.005〜20.0mg/L(好ましくは0.01〜15.0mg/L)、myo−イノシトール0.01〜300mg/L(好ましくは0.05〜200mg/L)、ナイアシンアミド0.01〜20.0mg/L(好ましくは0.02〜15.0mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.01〜15.0mg/L(好ましくは0.02〜10.0mg/L)、リボフラビン0.005〜2.0mg/L(好ましくは0.01〜1.5mg/L)、チアミンー塩酸0.005〜20.0mg/L(好ましくは0.01〜15.0mg/L)、シアノコバラミン0.001〜5.0mg/L(好ましくは0.002〜3.0mg/L)である。
生理活性物質の濃度は、例えば、インスリン10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、インスリン様増殖因子10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、トランスフェリン10〜500mg/L、好ましくは50〜300mg/L、アルブミン200〜6000mg/L、好ましくは700〜4000mg/Lである。
バッチ培養は、通常pH6〜8、30〜40℃等の条件下で3〜12日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
(2)フェドバッチ培養
本発明の細胞の培養方法において使用される無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され且つ通常動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地(J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。上記培地以外に、バッチ培養で記載した無血清培地を用いてもよい。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な生理活性物質、栄養因子等を添加する。これらの添加物は、予め培養前に培地に含有させるか、または必要に応じて、培養中に培養液へ適宜追加供給する。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
培地または培養液中への栄養因子の最終添加量として、グルコースは200〜6000mg/L、好ましくは1000〜5000mg/Lである。
アミノ酸は、例えば、L−アラニン1〜960mg/L(好ましくは1〜640mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜6000mg/L(好ましくは11〜4000mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜1200mg/L(好ましくは11〜800mg/L)、L−アスパラギン酸5〜600mg/L(好ましくは5〜400mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜1200mg/L(好ましくは11〜800mg/L)、L−グルタミン酸5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−グルタミン53〜12000(好ましくは55〜8000mg/L)、グリシン2〜600mg/L(好ましくは2〜400mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−イソロイシン4〜1800mg/L(好ましくは4〜1200mg/L)、L−ロイシン13〜1800mg/L(好ましくは14〜1200mg/L)、L−リジン一塩酸10〜1800mg/L(好ましくは11〜1200mg/L)、L−メチオニン4〜600mg/L(好ましくは5〜400mg/L)、L−フェニルアラニン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−プロリン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−セリン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−スレオニン5〜1200mg/L(好ましくは5〜800mg/L)、L−トリプトファン1〜240mg/L(好ましくは1〜160mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物8〜1800mg/L(好ましくは8〜1200mg/L)、L−バリン12〜1800mg/L(好ましくは12〜1200mg/L)である。
ビタミンは、例えば、d−ビオチン0.001〜2.4mg/L(好ましくは0.001〜1.6mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.011〜60mg/L(好ましくは0.011〜40mg/L)、塩化コリン0.11〜90mg/L(好ましくは0.11〜60mg/L)、葉酸0.01〜120mg/L(好ましくは0.01〜80mg/L)、myo−イノシトール0.05〜1800mg/L(好ましくは0.05〜1200mg/L)、ナイアシンアミド0.02〜120mg/L(好ましくは0.03〜80mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.02〜90mg/L(好ましくは0.03〜60mg/L)、リボフラビン0.01〜12mg/L(好ましくは0.01〜98mg/L)、チアミン一塩酸0.01〜120mg/L(好ましくは0.01〜80mg/L)、シアノコバラミン0.001〜30mg/L(好ましくは0.001〜20mg/L)である。
培地または培養液中への生理活性物質の最終添加量として、例えば、インスリン10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、インスリン様増殖因子10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、トランスフェリン10〜3000mg/L、好ましくは11〜2000mg/L、アルブミン200〜36000mg/L、好ましくは220〜24000mg/Lである。
本発明の細胞の培養方法において物質の「最終添加量」は、フェドバッチ培養中に添加する濃縮培養液を最終的に添加し終わった後、培地に含まれる該物質の重量と培養液中に添加した該物質の重量との合計量を、培地量と添加した濃縮培養液量との合計量で除した値として表わされる。
フェドバッチ培養においては、生理活性物質、栄養因子等は通常に使用される濃度よりも高い濃度で添加することが好ましい。例えば、培養液量の1/30〜1/3好ましくは1/20〜1/5を一回分として添加する。培養液中に添加する場合は、培養期間中、連続的にまたは数回〜十数回に分けて追加供給することが好ましい。生理活性物質、栄養因子等を連続的、または間欠的に少量づつ追加供給する上記フェドバッチ培養法は、細胞の代謝効率が高く、培養液中の老廃物が蓄積されることによる培養細胞の到達細胞密度の低下を防止することができ、また、回収された培養液中の所望の糖蛋白質の濃度はバッチ培養法に比べて高濃度であるため、該糖蛋白質の分離・精製が容易になり、バッチ培養に比べ、培地当りの該糖蛋白質の生産量を増大させることができる。
フェドバッチ培養は、通常pH6〜8、30〜40℃で、3〜12日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
(3)パーフュージョン培養
本発明の細胞の培養方法において使用される無血清培地は、通常の動物細胞の培養に用いられる基礎培地に血清の代わりに、各生理活性物質、栄養因子が添加され且つ通常動物細胞が同化しうる炭素源、窒素源等を含有させたものが用いられる。具体的には、RPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science,122,501(1952)〕、ダルベッコ改変MEM培地〔Virology,8,396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)〕、F12培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,53,288(1965)〕、IMDM培地〔J.Experimental Medicine,147,923(1978)〕等があげられるが、好ましくは、DMEM培地、F12培地、IMDM培地等が用いられる。上記培地以外に、バッチ培養で記載した無血清培地を用いてもよい。
無血清培地には、必要に応じて動物細胞の生育に必要な生理活性物質、栄養因子等を添加する。これらの添加物は、培養前の培地または培養液中に供給する培地に含有させておくとよい。
栄養因子としては、グルコース、アミノ酸、ビタミン等があげられる。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
生理活性物質としては、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等があげられる。
栄養因子の濃度として、グルコースの濃度は500〜6000mg/L、好ましくは1000〜2000mg/Lにコントロールされる。
栄養因子としては、アミノ酸、ビタミン等があげられる。他の生理活性物質または栄養因子の添加量は、例えば、インスリン4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、インスリン様増殖因子4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、トランスフェリン4〜560mg/L、好ましくは20〜360mg/L、アルブミン80〜6500mg/L、好ましくは280〜4500mg/Lである。
アミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。アミノ酸濃度は、例えば、L−アラニン1〜200mg/L(好ましくは2〜160mg/L)、L−アルギニン一塩酸10〜1140mg/L(好ましくは30〜940mg/L)、L−アスパラギン一水和物10〜250mg/L(好ましくは20〜200mg/L)、L−アスパラギン酸5〜148mg/L(好ましくは10〜120mg/L)、L−シスチン二塩酸10〜350mg/L(好ましくは20〜300mg/L)、L−グルタミン酸5〜320mg/L(好ましくは10〜270mg/L)、L−グルタミン50〜3300(好ましくは100〜1800mg/L)、グリシン2〜148mg/L(好ましくは5〜123mg/L)、L−ヒスチジン一塩酸二水和物5〜270mg/L(好ましくは10〜220mg/L)、L−イソロイシン4〜470mg/L(好ましくは4〜370mg/L)、L−ロイシン10〜470mg/L(好ましくは13〜370mg/L)、L−リジン一塩酸10〜530mg/L(好ましくは20〜480mg/L)、L−メチオニン4〜150mg/L(好ましくは4〜120mg/L)、L−フェニルアラニン4〜310mg/L(好ましくは4〜260mg/L)、L−プロリン5〜270mg/L(好ましくは10〜210mg/L)、L−セリン5〜270mg/L(好ましくは10〜220mg/L)、L−スレオニン5〜350mg/L(好ましくは10〜300mg/L)、L−トリプトファン1〜65mg/L(好ましくは2〜55mg/L)、L−チロシン二ナトリウム二水和物4〜470mg/L(好ましくは8〜370mg/L)、L−バリン10〜450mg/L(好ましくは11〜350mg/L)である。
ビタミンとしては、d−ビオチン、D−パントテン酸、コリン、葉酸、myo−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、シアノコバラミン、DL−α−トコフェロール等があげられ、1種または2種以上組み合わせて用いられる。ビタミンの最終添加量は、例えば、d−ビオチン0.001〜0.44mg/L(好ましくは0.02〜0.34mg/L)、D−パントテン酸カルシウム0.01〜16mg/L(好ましくは0.02〜14mg/L)、塩化コリン0.1〜21mg/L(好ましくは30.2〜16mg/L)、葉酸0.01〜26mg/L(好ましくは0.01〜21mg/L)、myo−イノシトール0.05〜310mg/L(好ましくは0.05〜211mg/L)、ナイアシンアミド0.02〜26mg/L(好ましくは0.02〜21mg/L)、ピリドキサール一塩酸0.02〜21mg/L(好ましくは0.02〜16mg/L)、リボフラビン0.01〜2.6mg/L(好ましくは0.01〜2.1mg/L)、チアミン一塩酸0.01〜26mg/L(好ましくは0.01〜21mg/L)、シアノコバラミン0.001〜5mg/L(好ましくは0.002〜3mg/L)である。
本発明の細胞の培養方法において培養液は、通常使われている培養液と細胞を分離する装置により効率的に分離され、濃縮された細胞液が元の培養槽に戻り、減少した分の新鮮培地が新たに供給される。このことにより常に培養環境が良好に保たれる。
本発明の細胞の場合、新鮮培地での培地交換率とは別に、増殖する細胞を細胞の増殖率に合わせて、培養系の外へ捨てることによって培養系を安定させ、所望の糖蛋白質の生産性を高めることができる。例えば、細胞を系外へ捨てる速度を細胞増殖率に合わせて、目的とする細胞密度が維持されるよう細胞の倍加時間に培養槽にある全細胞の2/5〜3/5を系外に出すことにより生産性の高い培養が可能となる。
本発明において培養は、通常pH6〜8、30〜40℃等の条件下で10〜40日間行う。また、培養中必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。なお、溶存酸素濃度制御、pH制御、温度制御、攪拌などは通常の動物細胞の培養に用いられる方法に準じて行うことができる。
上記のとおり、本発明のα−1,6−フコース修飾酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を培養し、所望の糖蛋白質を生成蓄積させ、該培養物より該糖蛋白質を採取することにより、該糖蛋白質を製造することができる。
本発明の細胞の培養方法において、細胞を増殖させる場合には、培養液中のインスリン濃度を10mg/L以上、好ましくは20mg/L以上に維持して培養することが好ましい。一方、所望の糖蛋白質を生産させる場合には、例えば培養液中のインスリン濃度を、10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下に維持して培養することが好ましい。なお、前培養において培地中にインスリンが含まれていれば、抗体の生産性を高めるために、インスリンは添加しなくてよいが、通常は培養液中にインスリン濃度を0.01〜10mg/L、好ましくは0.01〜5mg/Lになるように維持することが好ましい。
培養液中のインスリン濃度を調節する方法は、インスリンの濃度調整が可能である培養、例えばフェドバッチ培養、パーフージョン培養等の培養方法において、好適に用いられる。
なお、細胞の培養方法についても、血清、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリン、アルブミン等の蛋白質を添加しない培地を用いて、上述の方法に従って、無血清培地での培養方法と同様の方法を行なうことができる。当該培養方法により、所望の糖蛋白質組成物を製造することができる。
4.糖蛋白質組成物の活性評価
精製した糖蛋白質組成物の蛋白量、受容体との親和性、血液中での半減期、血液投与後の組織への分布、あるいは薬理活性発現に必要な蛋白質相互作用の変化を測定する方法としては、Current Protocols In Protein Science,John Wiley & Sons Inc.,(1995)、日本生化学会編 新生化学実験講座19動物実験法,東京化学同人(1991)、日本生化学会編新生化学実験講座8 細胞内情報と細胞応答,東京化学同人(1990)、日本生化学会編 新生化学実験講座9 ホルモンIペプチドホルモン,東京化学同人(1991)、実験生物学講座3 アイソトープ実験法,丸善株式会社(1982)、Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Wiley−Liss,Inc.,(1995)、酵素免疫測定法第3版,医学書院(1987)、改訂版 酵素抗体法,学際企画(1985)等に記載の公知の方法を用いることができる。
その具体的な例としては、精製した糖蛋白質組成物をラジオアイソトープなどの化合物で標識し、標識した糖蛋白質組成物の受容体あるいは相互作用をする蛋白質との結合反応の強さを定量的に測定する方法があげられる。また、Biacore社のBIAcoreシリーズなどの各種装置を用いて、蛋白質蛋白質相互作用を測定することもできる(J.Immnunol.Methods,145,229(1991)、実験医学別冊バイオマニュアルUPシリーズタンパク質の分子間相互作用実験法,羊土社(1996))。
標識した糖蛋白質を体内に投与することで、血液中での半減期あるいは血液投与後の組織への分布を知ることができるが、標識体の検出には、標識物質を検出する方法と検出の対象となる糖蛋白質特異的な抗体抗原反応を組み合わせた系が好ましい。
5.抗体組成物の活性評価
糖蛋白質組成物が抗体組成物である場合、精製した抗体組成物の蛋白量、抗原との結合性あるいはエフェクター機能を測定する方法としては、モノクローナルアンチボディズ、あるいはアンチボディエンジニアリング等に記載の公知の方法を用いることができる。
その具体的な例としては、抗体組成物がヒト化抗体の場合、抗原との結合活性、抗原陽性培養細胞株に対する結合活性はELISA法及び蛍光抗体法[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),36,373(1993)]等により測定できる。抗原陽性培養細胞株に対する細胞障害活性は、CDC活性、ADCC活性等を測定することにより、評価することができる[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),36,373(1993)]。
また、抗体組成物のヒトでの安全性、治療効果は、カニクイザル等のヒトに比較的近い動物種の適当なモデルを用いて評価することができる。
6.糖蛋白質組成物の糖鎖の分析
各種細胞で発現させた糖蛋白質組成物の糖鎖構造は、通常の糖鎖構造の解析に準じて行うことができる。例えば、IgG分子に結合している糖鎖はガラクトース、マンノース、フコースなどの中性糖、N−アセチルグルコサミンなどのアミノ糖、シアル酸などの酸性糖から構成されており、糖組成分析および二次元糖鎖マップ法などを用いた糖鎖構造解析等の手法を用いて行うことができる。
(1)中性糖・アミノ糖組成分析
糖蛋白質組成物の糖鎖の組成分析は、トリフルオロ酢酸等で、糖鎖の酸加水分解を行うことにより、中性糖またはアミノ糖を遊離し、その組成比を分析することができる。
具体的な方法として、Dionex社製糖組成分析装置(BioLC)を用いる方法があげられる。BioLCはHPAEC−PAD(high performance anion−exchange chromatography−pulsed amperometric detection)法[ジャーナル・オブ・リキッド・クロマトグラフィー(J.Liq.Chromatogr.),6,1577(1983)]によって糖組成を分析する装置である。
また、2−アミノピリジンによる蛍光標識化法でも組成比を分析することができる。具体的には、公知の方法[アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agruc.Biol.Chem.),55(1),283−284(1991)]に従って酸加水分解した試料を2−アミノピリジル化で蛍光ラベル化し、HPLC分析して組成比を算出することができる。
(2)糖鎖構造解析
糖蛋白質組成物の糖鎖の構造解析は、2次元糖鎖マップ法[アナリティカル・バイオケミストリー(Anal.Biochem.),171,73(1988)、生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]により行うことができる。2次元糖鎖マップ法は、例えば、X軸には逆相クロマトグラフィー糖鎖の保持時間または溶出位置を、Y軸には順相クロマトグラフィーによる糖鎖の保持時間または溶出位置を、それぞれプロットし、既知糖鎖のそれらの結果と比較することにより、糖鎖構造を推定する方法である。
具体的には、糖蛋白質組成物をヒドラジン分解して糖鎖を遊離し、2−アミノピリジン(以下、PAと略記する)による糖鎖の蛍光標識[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J.Biochem.),95,197(1984)]を行った後、ゲルろ過により糖鎖を過剰のPA化試薬などと分離し、逆相クロマトグラフィーを行う。次いで、分取した糖鎖の各ピークについて順相クロマトグラフィーを行う。これらの結果をもとに、2次元糖鎖マップ上にプロットし、糖鎖スタンダード(TaKaRa社製)、文献[アナリティカル・バイオケミストリー(Anal. Biochem.),171,73(1988)]とのスポットの比較より糖鎖構造を推定することができる。
さらに各糖鎖のMALDI−TOF−MSなどの質量分析を行い、2次元糖鎖マップ法により推定される構造を確認することができる。
7.糖蛋白質組成物の利用
本発明により製造される糖蛋白質組成物は、フコースが結合していない糖鎖構造を有しており、例えば、受容体との親和性の向上、血中半減期の向上、血中投与後の組織分布の改善、または薬理活性発現に必要な蛋白質との相互作用の向上などの効果が期待でき高い生理活性を示す。特に、抗体組成物の場合は、高いエフェクター機能、すなわちADCC活性を有している。これら生理活性の高い糖蛋白質、特に高いADCC活性を有する抗体組成物は、癌、炎症疾患、自己免疫疾患、アレルギーなどの免疫疾患、循環器疾患、またはウィルスあるいは細菌感染をはじめとする各種疾患の予防および治療において有用である。
癌、すなわち悪性腫瘍では癌細胞が増殖している。通常の抗癌剤は癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする。しかし、高いADCC活性を有する抗体は、殺細胞効果により癌細胞を障害することにより癌を治療することができるため、通常の抗癌剤よりも治療薬として有効である。特に癌の治療薬において、現状では抗体医薬単独の抗腫瘍効果は不充分な場合が多く化学療法との併用療法が行われているが[サイエンス(Science),280,1197,1998]、本発明により製造される抗体組成物は高い抗腫瘍効果を有するため、化学療法に対する依存度が低くなり、副作用の低減にもつながる。
炎症疾患、自己免疫疾患、アレルギーなどの免疫疾患において、それら疾患における生体内反応は、免疫細胞によるメディエータ分子の放出により惹起されるため、高いADCC活性を有する抗体を用いて免疫細胞を除去することにより、アレルギー反応を抑えることができる。
循環器疾患としては、動脈硬化などがあげられる。動脈硬化は、現在バルーンカテーテルによる治療を行うが、治療後の再狭窄での動脈細胞の増殖を高い抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を用いて抑えることより、循環器疾患を予防および治療することができる。
ウィルスまたは細菌に感染した細胞の増殖を、高い抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を用いて抑えることにより、ウィルスまたは細菌感染をはじめとする各種疾患を予防および治療することができる。
腫瘍関連抗原を認識する抗体、アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体、循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体、自己免疫疾患に関連する抗原を認識する抗体、またはウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体の具体例を以下に述べる。
腫瘍関連抗原を認識する抗体としては、抗GD2抗体(Anticancer Res.,13,331,1993)、抗GD3抗体(Cancer Immunol.Immunother.,36,260,1993)、抗GM2抗体(Cancer Res.,54,1511,1994)、抗HER2抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,4285,1992)、抗CD52抗体(Nature,332,323,1988)、抗MAGE抗体(British J.Cancer,83,493,2000)、抗HM1.24抗体(Molecular Immunol.,36,387,1999)、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体(Cancer,88,2909,2000)、抗FGF8抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,9911,1989)抗塩基性繊維芽細胞増殖因子抗体、抗FGF8受容体抗体(J.Biol.Chem.,265,16455,1990)、抗塩基性繊維芽細胞増殖因子受容体抗体、抗インスリン様増殖因子抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗インスリン様増殖因子受容体抗体(J.Neurosci.Res.,40,647,1995)、抗PMSA抗体(J.Urology,160,2396,1998)、抗血管内皮細胞増殖因子抗体(Cancer Res.,57,4593,1997)または抗血管内皮細胞増殖因子受容体抗体(Oncogene,19,2138,2000)、抗CA125抗体、抗17−1A抗体、抗インテグリンαvβ3抗体、抗CD33抗体、抗CD22抗体、抗HLA抗体、抗HLA−DR抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗EGF受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CD10抗体(American Journal of Clinical Pathology,113,374,2000)などがあげられる。
アレルギーあるいは炎症に関連する抗原を認識する抗体としては、抗インターロイキン6抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン6受容体抗体(Molecular Immunol.,31,371,1994)、抗インターロイキン5抗体(Immunol.Rev.,127,5,1992)、抗インターロイキン5受容体抗体、抗インターロイキン4抗体(Cytokine,3,562,1991)、抗インターロイキン4受容体抗体(J.Immunol.Meth.,217,41,1998)、抗腫瘍壊死因子抗体(Hybridoma,13,183,1994)、抗腫瘍壊死因子受容体抗体(Molecular Pharmacol.,58,237,2000)、抗CCR4抗体(Nature,400,776,1999)、抗ケモカイン抗体(J.Immunol.Meth.,174,249,1994)、抗ケモカイン受容体抗体(J.Exp.Med.,186,1373,1997)、抗IgE抗体、抗CD23抗体、抗CD11a抗体(Immunology Today,21,403,2000)、抗CRTH2抗体(J.Immunol.,162,1278,1999)、抗CCR8抗体(WO99/25734)、抗CCR3抗体(US6207155)などがあげられる。
循環器疾患に関連する抗原を認識する抗体としては、抗GpIIb/IIIa抗体(J.Immunol.,152,2968,1994)、抗血小板由来増殖因子抗体(Science,253,1129,1991)、抗血小板由来増殖因子受容体抗体(J.Biol.Chem.,272,17400,1997)または抗血液凝固因子抗体(Circulation,101,1158,2000)などがあげられる。
自己免疫疾患(具体的な例としては、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)に関連する抗原を認識する抗体としては、抗自己DNA抗体(Immunol.Letters,72,61,2000)、抗CD11a抗体、抗ICAM3抗体、抗CD80抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗インテグリンα4β7抗体、抗CD40L抗体、抗IL−2受容体抗体(Immunology Today,21,403,2000)などがあげられる。
ウイルスあるいは細菌感染に関連する抗原を認識する抗体としては、抗gpl20抗体(Structure,8,385,2000)、抗CD4抗体(J.Rheumatology,25,2065,1998)、抗CCR4抗体、抗ベ口毒素抗体(J.Clin.Microbiol.,37,396,1999)などがあげられる。
上記抗体は、ATCC(The American Type Culture Collection)、理化学研究所細胞開発銀行、工業技術院生命工業技術研究所等の公的な機関、あるいは大日本製薬株式会社、R&D SYSTEMS社、PharMingen社、コスモバイオ社、フナコシ株式会社等の民間試薬販売会社から入手することができる。
本発明の糖蛋白質組成物を含有する医薬は、治療薬として単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができ、糖蛋白質製剤の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒痢、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等があげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製される。または、糖蛋白質組成物を常法に従って凍結乾燥し、これに塩化ナトリウムを加えることによって粉末注射剤を調製することもできる。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該糖蛋白質組成物そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該糖蛋白質組成物を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該糖蛋白質組成物および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜20mg/kgである。
また、抗体組成物の各種腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を検討する方法は、インビトロ実験としては、CDC活性測定法ADCC活性測定法等があげられ、インビボ実験としては、マウス等の実験動物での腫瘍系を用いた抗腫瘍実験等があげられる。
CDC活性、ADCC活性、抗腫瘍実験は、文献[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunology Immunotherapy),36,373(1993);キャンサーリサーチ(Cancer Research),54,1511(1994)]等記載の方法に従って行うことができる。
図1は、プラスミドpKOFUT8Neoの構築を示した図である。
図2は、プラスミドpBs−2B8Lの構築を示した図である。
図3は、プラスミドpBs−2B8HおよびプラスミドpBs−2B8Hmの構築を示した図である。
図4は、プラスミドpKANTEX2B8Pの構築を示した図である。
図5は、CHO/DG44細胞由来FUT8遺伝子ダブルノックアウト株より精製した抗CD20キメラ抗体のヒトBリンパ球培養細胞株Rajiに対するADCC活性を示した図である。縦軸に細胞障害活性、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。
図6は、無蛋白培地馴化細胞を無蛋白培地で継代した際の、生細胞密度、生存率の推移を示したものである。
図7は、無蛋白培地馴化細胞のフェドバッチ培養における、生細胞密度、生存率の推移を示したものである。
図8は、無血清培地に馴化したMs704/CD20株を用いて浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養を行った際の、生細胞密度(A)、細胞生存率(B)、累積生細胞密度(C)、抗体濃度(D)の推移を示した図である。各グラフの構軸は、培養開始後の培養日数を示す。
図9は、精製した2種類の抗CD20ヒト型キメラ抗体の、ヒト末梢血中でのB細胞に対するADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に、リンパ球画分中のCD2陰性CD19陽性ヒトB細胞の比率、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。○は無血清培地に馴化したMs704/CD20株を用い浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養法にて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(Ms704/CD20抗体)、●は親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(DG44/CD20抗体)の活性をそれぞれ示す。
図10は、精製した2種類の抗CD20ヒト型キメラ抗体の、WIL2−S細胞に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。○はMs704/CD20抗体、●はDG44/CD20抗体の活性をそれぞれ示す。
図11は、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体に0〜300ng/mLのDG44/CD20抗体を添加して調製した抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物の、WIL2−S細胞に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性、横軸に添加したDG44/CD20抗体の抗体濃度をそれぞれ示す。図中の※は、フコース非結合型糖鎖を有する抗体の割合が20%以上の抗体組成物を示す。
図12は、Ms704/CD20抗体のみからなる抗体組成物と、Ms704/CD20抗体に9倍量のDG44/CD20抗体を混合した抗体組成物の、WIL2−S細砲に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性を示す。グラフ横軸に示した数値は、上段からMs704/CD20抗体の濃度、添加したDG44/CD20抗体の濃度、総抗体濃度をそれぞれ示す。□はMs704/CD20抗体のみからなる抗体組成物、■はMs704/CD20抗体に9倍量のDG44/CD20抗体を混合した抗体組成物の活性を示す。
図2は、プラスミドpBs−2B8Lの構築を示した図である。
図3は、プラスミドpBs−2B8HおよびプラスミドpBs−2B8Hmの構築を示した図である。
図4は、プラスミドpKANTEX2B8Pの構築を示した図である。
図5は、CHO/DG44細胞由来FUT8遺伝子ダブルノックアウト株より精製した抗CD20キメラ抗体のヒトBリンパ球培養細胞株Rajiに対するADCC活性を示した図である。縦軸に細胞障害活性、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。
図6は、無蛋白培地馴化細胞を無蛋白培地で継代した際の、生細胞密度、生存率の推移を示したものである。
図7は、無蛋白培地馴化細胞のフェドバッチ培養における、生細胞密度、生存率の推移を示したものである。
図8は、無血清培地に馴化したMs704/CD20株を用いて浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養を行った際の、生細胞密度(A)、細胞生存率(B)、累積生細胞密度(C)、抗体濃度(D)の推移を示した図である。各グラフの構軸は、培養開始後の培養日数を示す。
図9は、精製した2種類の抗CD20ヒト型キメラ抗体の、ヒト末梢血中でのB細胞に対するADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に、リンパ球画分中のCD2陰性CD19陽性ヒトB細胞の比率、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。○は無血清培地に馴化したMs704/CD20株を用い浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養法にて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(Ms704/CD20抗体)、●は親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(DG44/CD20抗体)の活性をそれぞれ示す。
図10は、精製した2種類の抗CD20ヒト型キメラ抗体の、WIL2−S細胞に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性、横軸に抗体濃度をそれぞれ示す。○はMs704/CD20抗体、●はDG44/CD20抗体の活性をそれぞれ示す。
図11は、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体に0〜300ng/mLのDG44/CD20抗体を添加して調製した抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物の、WIL2−S細胞に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性、横軸に添加したDG44/CD20抗体の抗体濃度をそれぞれ示す。図中の※は、フコース非結合型糖鎖を有する抗体の割合が20%以上の抗体組成物を示す。
図12は、Ms704/CD20抗体のみからなる抗体組成物と、Ms704/CD20抗体に9倍量のDG44/CD20抗体を混合した抗体組成物の、WIL2−S細砲に対するin vitro ADCC活性を示した図である。グラフ縦軸に細胞傷害活性を示す。グラフ横軸に示した数値は、上段からMs704/CD20抗体の濃度、添加したDG44/CD20抗体の濃度、総抗体濃度をそれぞれ示す。□はMs704/CD20抗体のみからなる抗体組成物、■はMs704/CD20抗体に9倍量のDG44/CD20抗体を混合した抗体組成物の活性を示す。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1 ゲノム上に存在する全てのFUT8遺伝子を破壊したCHO/DG44細胞の造成
α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)両対立遺伝子の翻訳開始コドンを含むゲノム領域を欠失したCHO/DG44細胞株を以下の手順で造成した。
1.チャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8Neoの構築。
WO02/31140の実施例13の1項に記載の方法により構築したチャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8PuroおよびプラスミドpKOSelectNeo(Lexicon社製)を用いて、以下の様にしてプラスミドpKOFUT8Neoを構築した。
プラスミドpKOSelectDT(Lexicon社製)1.0μgを16単位の制限酵素AscI(New England Biolabs社製)を用いて37℃で2時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、ネオマイシン耐性遺伝子発現ユニットを含む約1.6KbのAscI断片を回収した。
次に、プラスミドpKOFUT8Puro 1.0μgを16単位の制限酵素AscI(New England Biolabs社製)を用いて37℃で2時間反応させた。消化反応後、大腸菌C15株由来Alkaline Phosphatase(宝酒造社製)を用いて、添付の説明書に従い、DNA末端を脱リン酸化させた。反応後、フェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を用いて、DNA断片を回収した。
上記で得たプラスミドpKOSelectNeo由来のAscI断片(約1.6Kb)0.1μgとプラスミドpKOFUT8Puro由来のAscI断片(約10.1Kb)0.1μgに滅菌水を加えて5μLとし、Ligation High(東洋紡社製)5μLを加えて16℃で30分間反応させた。この様にして得られた組換えプラスミドDNAを用いて大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図1に示したプラスミドpKOFUT8Neoを得た。該プラスミドはCHO細胞のFUT8遺伝子ノックアウト細胞を作製するためのターゲティングベクターとして用いた。
2.ゲノム上のFUT8遺伝子を1コピー破壊したCHO細胞の作製
(1)ターゲティングベクターpKOFUT8Neo導入株の取得
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)を欠損したチャイニーズハムスター卵巣由来CHO/DG44細胞[Somatic Cell and Moleculer Genetics,12,555,1986]に対し、実施例1の1項で構築したチャイニーズハムスターFUT8ゲノム領域ターゲティングベクターpKOFUT8Neoを以下の様にして導入した。
プラスミドpKOFUT8Neo 280μgを400単位の制限酵素SalI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で5時間反応させて直線状化した後、4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)[透析FBS(インビトロジェン社製)を10%、HT supplement(インビトロジェン社製)を1倍濃度で含むIMDM培地(インビトロジェン社製)]に懸濁し、接着細胞培養用10cmデッシュ(Falcon社製)へ播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養後、G418(ナカライテスク社製)を600μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)[透析FBSを10%で含むIMDM培地]10mLに培地交換した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、G418耐性クローンを取得した。
(2)ゲノムPCRによる相同組換えの診断
本項(1)で取得したG418耐性クローンに対し、ゲノムPCRによる相同組換えの診断を以下の様にして行った。
96穴プレートに得たG418耐性クローンに対しトリプシン処理を行った後、2倍量の凍結培地[20% DMSO、40% ウシ胎児血清、40% IMDM]と混和した。このうち半量を接着細胞用平底96穴プレート(旭テクノグラス社製)へ播種してレプリカプレートとする一方、残りの半量をマスタープレートとして凍結保存に供した。
レプリカプレート上のネオマイシン耐性クローンは、600μg/mL G418を含むIMDM−dFBS(10)を用いて1週間培養した後、細胞を回収し、回収した細胞から公知の方法[アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry),201,331(1992)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/L EDTA、200μg/mL RNase A]30μLに一晩溶解した。
ゲノムPCRに用いるプライマーは以下のように設計した。まず、WO02/31140の実施例12に記載の方法により取得したFUT8ゲノム領域(配列番号9)のうち、ターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号10または配列番号11)およびベクター内配列に結合するプライマー(配列番号12または配列番号13)を調製した。それらを用いて、以下のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。即ち、上記で調製したゲノムDNA溶液を各々10μL含む25μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(フォワードプライマーは配列番号10または配列番号11、リバースプライマーは配列番号12または配列番号13)]を調製し、94℃で3分間の加熱の後、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間からなる反応を1サイクルとした条件でPCRを行った。
PCR後、反応液を0.8%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、CHO細胞ゲノム領域とターゲティングベクター相同領域との境界部を含む約1.7Kbの特異的増幅が認められるものを陽性クローンと判定した。
(3)ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(2)で陽性が確認されたクローンに対し、ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を以下の様にして行った。
本項(2)で凍結保存したマスタープレートのうち、本項(2)で見出された陽性クローンを含む96穴プレートを選択し、5% CO2、37℃の条件下で10分間静置後、陽性クローンに該当するウェルから細胞を接着細胞用平底24穴プレート(グライナー社製)へ播種した。600μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(グライナー社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/EDTA、200μg/mL RNase A]150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを25単位の制限酵素BamHI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/L EDTA]20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)に従い、ナイロン膜へゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行った。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、WO02/31140の実施例12に記載の方法により取得したFUT8ゲノム領域(配列番号9)のうち、ターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号14および配列番号15)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、WO02/31140の実施例12に記載の方法により構築したプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号14および配列番号15)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩加温した。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
親株であるCHO/DG44細胞、および本項(2)で取得した陽性クローンである50−10−104株のゲノムDNAを本法により解析した。CHO/DG44細胞では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片のみが検出された。一方、陽性クローン50−10−104株では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片に加え、相同組換えされた対立遺伝子に特異的な約20.0Kbの断片が検出された。両断片の量比は1:1であったことから、50−10−104株は、FUT8対立遺伝子のうち1コピーが破壊されたヘミノックアウトクローンであることが確認された。
3.ゲノム上のFUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞の作製
(1)ターゲティングベクターpKOFUT8Puro導入株の取得
実施例1の2項(2)で得たFUT8ヘミノックアウトクローン50−10−104に対し、WO02/31140の実施例13の1項に記載の方法により構築したチャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8Puroを以下の様にして導入した。
プラスミドpKOFUT8Puro 440μgを800単位の制限酵素SalI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で5時間反応させて直線状化した後、4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)に懸濁し、接着細胞培養用10cmデッシュ(Falcon社製)へ播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養後、ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)10mLに培地交換した。
この培地交換作業を7日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、薬剤耐性クローンを取得した。
(2)ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(l)で得た薬剤耐性クローンに対し、以下の手順でゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を行った。
ピューロマイシン耐性クローンが出現した10cmディッシュより培養上清を除去し、リン酸緩衝液7mLを注入した後、実体顕微鏡下に移した。次にピペットマン(GILSON社製)を用いてコロニーを掻き取って吸い込み、丸底96穴プレート(Falcon社製)へ採取した。トリプシン処理を行った後、接着細胞用平底96穴プレート(旭テクノグラス社製)へ各クローンを播種し、ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1))を用いて1週間培養した。
培養後、上記プレートの各クローンに対しトリプシン処理を行い、接着細胞用平底24穴プレート(Greiner社製)へ播種した。ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(Greiner社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを25単位の制限酵素BamHI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)]に従い、ナイロン膜へゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行った。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、FUT8ゲノム領域のうちターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号16および配列番号17)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、WO02/31140の実施例12に記載の方法により構築したプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼExTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号16および配列番号17)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行なった。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
50−10−104株から本項(1)に記載の方法により取得したピューロマイシン耐性クローンの1っであるWK704株のゲノムDNAを本法により解析した。WK704株では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片が消失し、相同組換えされた対立遺伝子に特異的な約20.0Kbの断片のみが検出された。この結果からWK704株は、FUT8両対立遺伝子が破壊されたクローンであることが確認された。
4.FUT8遺伝子をダブルノックアウトした細胞からの薬剤耐性遺伝子の除去
(1)Creリコンビナーゼ発現ベクターの導入
実施例1の3項で作製したFUT8ダブルノックアウトクローンのうちWK704に対し、Creリコンビナーゼ発現ベクターpBS185(Life Technologies社製)を以下の様にして導入した。
プラスミドpBS185 4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)10mLに懸濁し、さらに同培地を用いて2万倍希釈した。該希釈液を接着細胞培養用10cmディッシュ(Falcon社製)7枚へ播種後、5%CO2、37℃の条件下で10日間の培養を行い、コロニーを形成させた。
(2)Creリコンビナーゼ発現ベクター導入株の取得
WK704に対し遺伝子導入して得たコロニーより任意のクローンを以下の手順で採取した。まず、10cmディッシュより培養上清を除去し、リン酸緩衝液7mLを注入した後、実体顕微鏡下に移した。次にピペットマン(GILSON社製)を用いてコロニーを掻き取って吸い込み、丸底96穴プレート(Falcon社製)へ採取した。トリプシン処理を行った後、接着細胞用平底96穴プレート(岩城硝子社製)へ各クローンを播種し、IMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて1週間培養した。
培養後、上記プレートの各クローンに対しトリプシン処理を行い、2倍量の凍結培地[20% DMSO、40%ウシ胎児血清、40% IMDM]と混和した。このうち半量を接着細胞用平底96穴プレート(岩城硝子社製)へ播種してレプリカプレートを作製する一方、残りの半量をマスタープレートとして凍結保存に供した。
次にレプリカプレートを、G418を600μg/mL、ピューロマイシンを15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて7日間培養した。Creリコンビナーゼの発現によりloxP配列に挟まれた両対立遺伝子上の薬剤耐性遺伝子が除去された陽性クローンは、G418およびピューロマイシン存在下で死滅する。本ネガティブ選択法により陽性クローンを選択した。
(3)ゲノムサザンブロットによる薬剤耐性遺伝子除去の診断
本項(2)で見出された陽性クローン(4−5−C3)に対し、以下の手順でゲノムサザンブロットによる薬剤耐性遺伝子除去の診断を行った。
本項(2)で凍結保存したマスタープレートのうち、上記陽性クローンを含む96穴プレートを選択し、5% CO2、37℃の条件下で10分間静置した。静置後、上記クローンに該当するウェルから細胞を接着細胞用平底24穴プレート(Greiner社製)へ播種した。10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(Greiner社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを20単位の制限酵素NheI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)]に従い、ナイロン膜ヘゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行い、固定化した。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、FUT8ゲノム領域のうちターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号16および配列番号17)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、実施例1の1項(2)で得たプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号16および配列番号17)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP 1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩加温した。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(W/V)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(W/V)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
前述の制限酵素NheI処理により、野生型FUT8対立遺伝子から約8.0KbのDNA断片が生じる。また、同制限酵素処理により、ターゲティングベクターとの相同組換えが起こった対立遺伝子から約9.5KbのDNA断片が生じた。さらに、相同組換えが起こった対立遺伝子からネオマイシン耐性遺伝子(約1.6Kb)またはピューロマイシン耐性遺伝子(約1.5Kb)が除去された場合には、同処理により約8.0KbのDNA断片が生じた。
親株であるCHO/DG44細胞、本実施例の2項に記載の50−10−104株、本実施例の3項に記載のWK704株、およびWK704株から本項(2)に記載の方法により取得した薬剤感受性クローンの1つである4−5−C3株のゲノムDNAを、本法により解析した。CHO/DG44細胞では、野生型FUT8対立遺伝子に由来する約8.0KbのDNA断片のみが検出された。また、50−10−104株やWK704株では、相同組換えが起こった対立遺伝子に由来する約9.5KbのDNA断片が認められた。一方、4−5−C3株では、相同組換えが起こった対立遺伝子からさらに、ネオマイシン耐性遺伝子(約1.6Kb)およびピューロマイシン耐性遺伝子(約1.5Kb)が除去されて生じる約8.0KbのDNA断片のみが検出された。この結果から4−5−C3株は、Creリコンビナーゼにより薬剤耐性遺伝子が除去されたことが確認された。
薬剤耐性遺伝子の除去されたFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローン(以下、FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞と表記する)は、4−5−C3株以外にも複数株取得された。
実施例2 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞における抗体分子の発現
1.抗CD20キメラ抗体発現ベクターの作製
(1)抗CD20マウスモノクローナル抗体のVLをコードするcDNAの構築
WO94/11026に記載されている抗CD20マウスモノクローナル抗体2B8のVLのアミノ酸配列をコードするcDNA(配列番号18)をPCR法を用いて以下の様にして構築した。
まず、WO94/11026記載のVLの塩基配列の5’末端と3’末端にPCR反応時の増幅用プライマーの結合塩基配列(ヒト化抗体発現用ベクターへクローニングするための制限酵素認識配列も含む)を付加した。設計した塩基配列を5’末端側から約100塩基ずつ計6本の塩基配列に分け(隣り合う塩基配列は、その末端に約20塩基の重複配列を有する様にする)、それらをセンス鎖、アンチセンス鎖の交互の順で、実際には、配列番号20、21、22、23、24、および25の6本の合成DNAを作製(GENSET社製へ委託)した。
各オリゴヌクレオチドを最終濃度が0.1μMとなる様に、50μLの反応液[KOD DNA Polymerase添付PCR Buffer #l(東洋紡績社製)、0.2mM dNTPs、1mM塩化マグネシウム、0.5μM M13 primer M4(宝酒造社製)、0.5μM M13 primer RV(宝酒造社製)]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて3分間加熱した後、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)を添加し、94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、74℃にて1分間のサイクルを25サイクル行ない、更に72℃にて10分間反応させた。該反応液25μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.44kbのVLのPCR産物を回収した。
次に、プラスミドpBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)を制限酵素SmaI(宝酒造社製)して得られたDNA0.1μgと、上記で得られたPCR産物約0.1μgを滅菌水に加えて7.5μLとし、TAKARA ligation kit ver.2のsolution I(宝酒造社製)7.5μL、制限酵素SmaI(宝酒造社製)0.3μLを加えて22℃で2時間反応させた。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABIPRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図2に示したプラスミドpBS−2B8Lを得た。
(2)抗CD20マウスモノクローナル抗体のVHをコードするcDNAの構築
WO94/11026に記載されている抗CD20マウスモノクローナル抗体2B8のVHのアミノ酸配列をコードするcDNA(配列番号19)をPCR法を用いて以下の様にして構築した。
まず、WO94/11026記載のVHの塩基配列の5’末端と3’末端にPCR反応時の増幅用プライマーの結合塩基配列(ヒト化抗体発現用ベクターへクローニングするための制限酵素認識配列も含む)を付加した。設計した塩基配列を5’末端側から約100塩基ずつ計6本の塩基配列に分け(隣り合う塩基配列は、その末端に約20塩基の重複配列を有する様にする)、それらをセンス鎖、アンチセンス鎖の交互の順で、実際には、配列番号26、27、28、29、30、および31の6本の合成DNAを作製(GENSET社製へ委託)した。
各オリゴヌクレオチドを最終濃度が0.1μMとなる様に、50μLの反応液[KOD DNA Polymerase添付PCR Buffer#1(東洋紡績社製)、0.2mM dNTPs、1mM塩化マグネシウム、0.5μM M13 primer M4(宝酒造社製)、0.5μM M13 primer RV(宝酒造社製)]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて3分間加熱した後、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)を添加し、94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、74℃にて1分間のサイクルを25サイクル行い、更に72℃にて10分間反応させた。該反応液25μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.49kbのVHのPCR産物を回収した。
次に、プラスミドpBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)を制限酵素SmaI(宝酒造社製)して得られたDNA0.1μgと、上記で得られたPCR産物約0.1μgを滅菌水に加えて7.5μLとし、TAKARA ligation kit ver.2のsolution I(宝酒造社製)7.5μL,制限酵素SmaI(宝酒造社製)0.3μLを加えて22℃で一晩反応させた。
この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied−Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図3に示したプラスミドpBS−2B8Hを得た。
次に、14番目のアミノ酸残基をAlaからProへ置換するために、配列番号32で示した合成DNAを設計し、LA PCR in vitro Mutagenesis Primer Set for pBluescriptII(宝酒造社製)を用いたPCR法により、以下の様に塩基の置換を行った。上記のプラスミドpBS−2B8Hを1ng含む50μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、2.5単位のTaKaRa LA Taq、0.4mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム、50nM T3 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)、50nM上記の変異導入用プライマー(配列番号32、GENSET社製)]を調製し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて30秒間、55℃にて2分間、72℃にて1分30秒間のサイクルを25サイクル行なった。該反応液30μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.44kbのPCR産物を回収し、30μLの水溶液とした。また、同様に、上記のプラスミドpBS−2B8Hを1ng含む50μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、2.5単位のTaKaRa LA Taq、0.4mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム、50nM T7 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)、50nM MUT B1 primer(宝酒造社製)]のPCR反応を行った。該反応液30μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.63kbのPCR産物を回収し、30μLの水溶液とした。続いて、上記で得られた0.44kbのPCR産物と0.63kbのPCR産物を0.5μLずつ47.5μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、0.41mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、90℃にて10分間加熱した後、60分間かけて37℃まで冷却した後、37℃で15分間保持することによってDNAをアニーリングさせた。2.5単位のTaKaRa LA Taq(宝酒造社製)を添加して72℃にて3分間反応させた後、10pmolずつのT3 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)とT7 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)を添加して反応液を50μLとし、94℃にて30秒間、55℃にて2分間、72℃にて1分30秒間のサイクルを10サイクル行った。該反応液25μLをQIA quick PCR purification kit(QIAGEN社製)にて精製した後、半量を10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)と10単位の制限酵素SacI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.59kbのKpnI−SacI断片を回収した。
次に、pBlueseciptII SK(−)(Stratagene社製)1μgを10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)と10単位のSacI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.9kbのKpnI−SacI断片を回収した。
上記で得られたPCR産物由来のKpnI−SacI断片とプラスミドpBluescriptII SK(−)由来のKpnI−SacI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM377により塩基配列を解析した。
こうして目的の塩基配列を有する図3に示したプラスミドpBS−2B8Hmを得た。
(3)抗CD20ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93(Mol.Immunol.,37,1035,2000)と本項(1)および(2)で得られたプラスミドpBS−2B8LおよびpBS−2B8Hmを用いて抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、抗CD20キメラ抗体と表記する)の発現ベクターpKANTEX2B8Pを以下の様にして構築した。
本項(1)で得られたプラスミドpBS−2B8Lの2μgを10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を用いて55℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.41kbのBsiWI−EcoRI断片を回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の2μgを10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を用いて55℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約12.75kbのBsiWI−EcoRI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpBS−2B8L由来BsiWI−EcoRI断片とプラスミドpKANTEX93由来のBsiWI−EcoRI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、図4に示したプラスミドpKANTBX2B8−Lを得た。
次に、本項(2)で得られたプラスミドpBS−2B8Hmの2μgを10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.45kbのApaI−NotI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX2B8−Lの3μgを10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約13.16kbのApaI−NotI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpBS−2B8Hm由来のApaI−NotI断片とプラスミドpKANTEX2B8−L由来のApaI−NotI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて、添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した。
得られたプラスミドを用い、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を同社のDNAシークエンサー377を用いて塩基配列の解析を行った結果、目的のDNAがクローニングされている図4に示したプラスミドpKANTEX2B8Pが得られたことを確認した。
2.抗CD20キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、本実施例第1項で得た抗CD20抗体発現ベクターpKANTEX2B8Pを導入した。
プラスミドpKANTEX2B8PのWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX2B8P 10μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距雕2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2B8Pを取得した。なお、WK704−2B8P株はWK704−2B8Pの株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8337として寄託されている。
3.抗ガングリオシドGD3キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、抗ガングリオシドGD3キメラ抗体発現ベクタープラスミドpKANTEX641を導入し、抗GD3キメラ抗体の安定的発現株を作製した。pKANTEX641は、WO00/61739記載の抗GD3キメラ抗体発現ベクタープラスミドpChi641LHGM4およびヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93[モレキュラー・イムノロジー(Mol.Immunol.),37,1035(2000)]より構成された誘導体であり、pChi641LHGM4より得たタンデム型抗体発現ユニットを含むEcoRI−HindIII断片をpKANTEX93より得た複製起点を含むEcoRI−HindIII断片へ連結したものである。
プラスミドpKANTEX641のWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX641 10μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距離2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2871を取得した。なお、WK704−2871株はWK704−2871の株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8336として寄託されている。
4.抗CCR4キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、WO01/64754記載の抗CCR4キメラ抗体発現ベクターpKANTEX2160を導入し、抗CCR4キメラ抗体の安定的発現株を作製した。
プラスミドpKANTEX2B8PのWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX2160 15μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距離2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2760を取得した。なお、WK704−2760株はWK704−2760の株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8335として寄託されている。
5.培養上清中のヒトIgG抗体濃度の測定(ELISA法)
ヤギ抗ヒトIgG(H&L)抗体(American Qualex社製)をPhosphate Buffered Saline(以下、PBSと表記する)(インビトロジェン社製)で希釈して1μg/mLとし、96穴のELISA用プレート(グライナー社製)に、50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩放置して吸着させた。PBSで洗浄後、BSAを1%の濃度で含むPBS(以下、1%BSA−PBSと表記する)(和光純薬社製)を100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。1%BSA−PBSを捨て、形質転換株の培養上清、または培養上清から精製した抗体の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween20を0.05%の濃度で含むPBS(以下、Tween−PBSと表記する)(和光純薬社製)で各ウェルを洗浄後、1%BSA−PBSで2000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H&L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、それぞれ50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム(和光純薬社製)の0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素(和光純薬社製)を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、415nmの吸光度(以示、OD415と表記する)を測定した。
6.抗体分子の精製
本実施例第2項で得た抗CD20抗体発現株WK704−2B8Pを、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)へ3×105個/mlの密度で懸濁後、接着細胞培養用T182フラスコ(Greiner社製)10本へ計300ml播種した。同様にして、本実施例第3項で得た抗GD3抗体発現株WK704−2871および本実施例第4項で得た抗CCR4抗体発現株WK704−2760を播種した。3日間の培養後、各株の上清全量を除去し、EXCELL301培地(JRH Biosciences社製)へ交換した。これらを37℃の5% CO2インキュベーター内で7日間培養後、各細胞懸濁液を回収した。回収した各細胞懸濁液に対し3000rpm、4℃の条件で10分間の遠心分離を行って上清を回収した後、0.22μm孔径500ml容PES Membrane(旭テクノグラス社製)を用いて濾過した。
0.8cm径のカラムにMab Select(Amersham Pharmacia Biotech社製)0.5mlを充填し、精製水3.0mlおよび0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)3.0mlを順次通筒した。さらに、0.1mol/lクエン酸緩衝液(pH3.5)2.0mlおよび0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)1.5mlで順次洗浄することによって担体の平衡化を行った。次に、上記培養上清300mlをカラムに通筒した後、0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)3.0mlで洗浄した。洗浄後、0.1mol/lクエン酸緩衝液(pH3.5)1.25mlを用いて担体に吸着した抗体の溶出を行った。初めに溶出する250μlの画分を廃棄し、次に得られる溶出画分1mlを回収して2mol/l Tris−HCl(pH8.5)200μlと混合して中和した。取得した溶出液に対し、10mol/lクエン酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH6.0)を用いて4℃で一昼夜透析を行った。透析後、抗体溶液を回収し、0.22μm孔径Millex GV(MILLIPORE社製)を用いて滅菌濾過した。
実施例3 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞が産生する抗体組成物のin vitro細胞障害活性(ADCC活性)
実施例2第6項で精製した抗CD20抗体のin vitro細胞障害活性を評価するため、以下の記述に従いADCC活性を測定した。
(1)標的細胞溶液の調製
RPMI1640−FCS(10)培地(FCSを10%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で培養したヒトBリンパ球培養細胞株Raji細胞(JCRB9012)を遠心分離操作および懸濁によりRPMI1640−FCS(5)培地(FCSを5%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で洗浄した後、RPMI1640−FCS(5)培地によって、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
(2)エフェクター細胞溶液の調製
健常人静脈血50mLを採取し、ヘパリンナトリウム(清水製薬社製)0.5mLを加え穏やかに混ぜた。これをLymphoprep(AXIS SHIELD社製)を用いて使用説明書に従い、遠心分離(800g、20分間)して単核球層を分離した。RPMI1640−FCS(5)培地で3回遠心分離して洗浄後、同培地を用いて4×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
(3)ADCC活性の測定
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記(1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を分注した。次いで上記(2)で調製したエフェクター細胞溶液を50μL(2×105細胞/ウェル、エフェクター細胞と標的細胞の比は20:1となる)添加した。更に、各種抗CD20キメラ抗体を各最終濃度0.3〜3000ng/mLとなるように加えて全量を5150μLとし、37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を、CytoTox96 NoN−Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega社製)を用いて測定した。標的細胞自然遊離LDH量は、エフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清のLDH活性を測定することにより求めた。エフェクター細胞自然遊離の吸光度データは、標的細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて、上記と同様の操作を行うことで取得した。全標的細胞破壊にともなう全遊離LDH量は、抗体溶液、エフェクターター細胞溶液の代わりに培地を用い、反応終了45分前に15μLの9% Triton X−100溶液を添加し、上記と同様の操作を行い、上清のLDH活性を測定することにより求めた。これらの値を用いて下式(II)により、ADCC活性を求めた。
図5に各抗CD20抗体のADCC活性を示した。FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704−2B8Pより得た抗体は、いずれの抗体濃度においても市販RituxanTMより高いADCC活性を示し、最高細胞障害活性値も高かった。RituxanTMは、FUT8遺伝子が破壊されていないCHO細胞を宿主細胞として製造された抗CD20キメラ抗体である。また、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704−2871株、WK704−2760株より得たそれぞれの抗体に関してADCC活性を測定したところ、抗CD20抗体の場合と同様に、FUT8遺伝子が破壊されてない通常のCHO細胞株が産生する抗体に比べて高い細胞障害活性を示した。以上の結果より、FUT8対立遺伝子を破壊した宿主細胞を用いることにより、FUT8遺伝子が破壊されていない宿主細胞を用いた場合より、細胞障害活性の高い抗体の生産が可能となることが分かった。
実施例1 ゲノム上に存在する全てのFUT8遺伝子を破壊したCHO/DG44細胞の造成
α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ(FUT8)両対立遺伝子の翻訳開始コドンを含むゲノム領域を欠失したCHO/DG44細胞株を以下の手順で造成した。
1.チャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8Neoの構築。
WO02/31140の実施例13の1項に記載の方法により構築したチャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8PuroおよびプラスミドpKOSelectNeo(Lexicon社製)を用いて、以下の様にしてプラスミドpKOFUT8Neoを構築した。
プラスミドpKOSelectDT(Lexicon社製)1.0μgを16単位の制限酵素AscI(New England Biolabs社製)を用いて37℃で2時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、ネオマイシン耐性遺伝子発現ユニットを含む約1.6KbのAscI断片を回収した。
次に、プラスミドpKOFUT8Puro 1.0μgを16単位の制限酵素AscI(New England Biolabs社製)を用いて37℃で2時間反応させた。消化反応後、大腸菌C15株由来Alkaline Phosphatase(宝酒造社製)を用いて、添付の説明書に従い、DNA末端を脱リン酸化させた。反応後、フェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を用いて、DNA断片を回収した。
上記で得たプラスミドpKOSelectNeo由来のAscI断片(約1.6Kb)0.1μgとプラスミドpKOFUT8Puro由来のAscI断片(約10.1Kb)0.1μgに滅菌水を加えて5μLとし、Ligation High(東洋紡社製)5μLを加えて16℃で30分間反応させた。この様にして得られた組換えプラスミドDNAを用いて大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図1に示したプラスミドpKOFUT8Neoを得た。該プラスミドはCHO細胞のFUT8遺伝子ノックアウト細胞を作製するためのターゲティングベクターとして用いた。
2.ゲノム上のFUT8遺伝子を1コピー破壊したCHO細胞の作製
(1)ターゲティングベクターpKOFUT8Neo導入株の取得
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)を欠損したチャイニーズハムスター卵巣由来CHO/DG44細胞[Somatic Cell and Moleculer Genetics,12,555,1986]に対し、実施例1の1項で構築したチャイニーズハムスターFUT8ゲノム領域ターゲティングベクターpKOFUT8Neoを以下の様にして導入した。
プラスミドpKOFUT8Neo 280μgを400単位の制限酵素SalI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で5時間反応させて直線状化した後、4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)[透析FBS(インビトロジェン社製)を10%、HT supplement(インビトロジェン社製)を1倍濃度で含むIMDM培地(インビトロジェン社製)]に懸濁し、接着細胞培養用10cmデッシュ(Falcon社製)へ播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養後、G418(ナカライテスク社製)を600μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)[透析FBSを10%で含むIMDM培地]10mLに培地交換した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、G418耐性クローンを取得した。
(2)ゲノムPCRによる相同組換えの診断
本項(1)で取得したG418耐性クローンに対し、ゲノムPCRによる相同組換えの診断を以下の様にして行った。
96穴プレートに得たG418耐性クローンに対しトリプシン処理を行った後、2倍量の凍結培地[20% DMSO、40% ウシ胎児血清、40% IMDM]と混和した。このうち半量を接着細胞用平底96穴プレート(旭テクノグラス社製)へ播種してレプリカプレートとする一方、残りの半量をマスタープレートとして凍結保存に供した。
レプリカプレート上のネオマイシン耐性クローンは、600μg/mL G418を含むIMDM−dFBS(10)を用いて1週間培養した後、細胞を回収し、回収した細胞から公知の方法[アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry),201,331(1992)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/L EDTA、200μg/mL RNase A]30μLに一晩溶解した。
ゲノムPCRに用いるプライマーは以下のように設計した。まず、WO02/31140の実施例12に記載の方法により取得したFUT8ゲノム領域(配列番号9)のうち、ターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号10または配列番号11)およびベクター内配列に結合するプライマー(配列番号12または配列番号13)を調製した。それらを用いて、以下のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。即ち、上記で調製したゲノムDNA溶液を各々10μL含む25μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(フォワードプライマーは配列番号10または配列番号11、リバースプライマーは配列番号12または配列番号13)]を調製し、94℃で3分間の加熱の後、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間からなる反応を1サイクルとした条件でPCRを行った。
PCR後、反応液を0.8%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、CHO細胞ゲノム領域とターゲティングベクター相同領域との境界部を含む約1.7Kbの特異的増幅が認められるものを陽性クローンと判定した。
(3)ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(2)で陽性が確認されたクローンに対し、ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を以下の様にして行った。
本項(2)で凍結保存したマスタープレートのうち、本項(2)で見出された陽性クローンを含む96穴プレートを選択し、5% CO2、37℃の条件下で10分間静置後、陽性クローンに該当するウェルから細胞を接着細胞用平底24穴プレート(グライナー社製)へ播種した。600μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(グライナー社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/EDTA、200μg/mL RNase A]150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを25単位の制限酵素BamHI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)[10mmol/L Tris−HCl、1mmol/L EDTA]20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)に従い、ナイロン膜へゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行った。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、WO02/31140の実施例12に記載の方法により取得したFUT8ゲノム領域(配列番号9)のうち、ターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号14および配列番号15)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、WO02/31140の実施例12に記載の方法により構築したプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号14および配列番号15)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩加温した。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
親株であるCHO/DG44細胞、および本項(2)で取得した陽性クローンである50−10−104株のゲノムDNAを本法により解析した。CHO/DG44細胞では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片のみが検出された。一方、陽性クローン50−10−104株では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片に加え、相同組換えされた対立遺伝子に特異的な約20.0Kbの断片が検出された。両断片の量比は1:1であったことから、50−10−104株は、FUT8対立遺伝子のうち1コピーが破壊されたヘミノックアウトクローンであることが確認された。
3.ゲノム上のFUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞の作製
(1)ターゲティングベクターpKOFUT8Puro導入株の取得
実施例1の2項(2)で得たFUT8ヘミノックアウトクローン50−10−104に対し、WO02/31140の実施例13の1項に記載の方法により構築したチャイニーズハムスターFUT8遺伝子エクソン2ターゲティングベクタープラスミドpKOFUT8Puroを以下の様にして導入した。
プラスミドpKOFUT8Puro 440μgを800単位の制限酵素SalI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で5時間反応させて直線状化した後、4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)に懸濁し、接着細胞培養用10cmデッシュ(Falcon社製)へ播種した。5%CO2インキュベーター内で37℃、24時間培養後、ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)10mLに培地交換した。
この培地交換作業を7日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、薬剤耐性クローンを取得した。
(2)ゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断
本項(l)で得た薬剤耐性クローンに対し、以下の手順でゲノムサザンブロットによる相同組換えの診断を行った。
ピューロマイシン耐性クローンが出現した10cmディッシュより培養上清を除去し、リン酸緩衝液7mLを注入した後、実体顕微鏡下に移した。次にピペットマン(GILSON社製)を用いてコロニーを掻き取って吸い込み、丸底96穴プレート(Falcon社製)へ採取した。トリプシン処理を行った後、接着細胞用平底96穴プレート(旭テクノグラス社製)へ各クローンを播種し、ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1))を用いて1週間培養した。
培養後、上記プレートの各クローンに対しトリプシン処理を行い、接着細胞用平底24穴プレート(Greiner社製)へ播種した。ピューロマイシン(SIGMA社製)を15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(Greiner社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを25単位の制限酵素BamHI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)]に従い、ナイロン膜へゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行った。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、FUT8ゲノム領域のうちターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号16および配列番号17)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、WO02/31140の実施例12に記載の方法により構築したプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼExTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号16および配列番号17)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行なった。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(w/v)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
50−10−104株から本項(1)に記載の方法により取得したピューロマイシン耐性クローンの1っであるWK704株のゲノムDNAを本法により解析した。WK704株では、野生型FUT8対立遺伝子由来の約25.5Kbの断片が消失し、相同組換えされた対立遺伝子に特異的な約20.0Kbの断片のみが検出された。この結果からWK704株は、FUT8両対立遺伝子が破壊されたクローンであることが確認された。
4.FUT8遺伝子をダブルノックアウトした細胞からの薬剤耐性遺伝子の除去
(1)Creリコンビナーゼ発現ベクターの導入
実施例1の3項で作製したFUT8ダブルノックアウトクローンのうちWK704に対し、Creリコンビナーゼ発現ベクターpBS185(Life Technologies社製)を以下の様にして導入した。
プラスミドpBS185 4μgを1.6×106細胞へエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]により導入後、IMDM−dFBS(10)−HT(1)10mLに懸濁し、さらに同培地を用いて2万倍希釈した。該希釈液を接着細胞培養用10cmディッシュ(Falcon社製)7枚へ播種後、5%CO2、37℃の条件下で10日間の培養を行い、コロニーを形成させた。
(2)Creリコンビナーゼ発現ベクター導入株の取得
WK704に対し遺伝子導入して得たコロニーより任意のクローンを以下の手順で採取した。まず、10cmディッシュより培養上清を除去し、リン酸緩衝液7mLを注入した後、実体顕微鏡下に移した。次にピペットマン(GILSON社製)を用いてコロニーを掻き取って吸い込み、丸底96穴プレート(Falcon社製)へ採取した。トリプシン処理を行った後、接着細胞用平底96穴プレート(岩城硝子社製)へ各クローンを播種し、IMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて1週間培養した。
培養後、上記プレートの各クローンに対しトリプシン処理を行い、2倍量の凍結培地[20% DMSO、40%ウシ胎児血清、40% IMDM]と混和した。このうち半量を接着細胞用平底96穴プレート(岩城硝子社製)へ播種してレプリカプレートを作製する一方、残りの半量をマスタープレートとして凍結保存に供した。
次にレプリカプレートを、G418を600μg/mL、ピューロマイシンを15μg/mLの濃度で含むIMDM−dFBS(10)−HT(1)を用いて7日間培養した。Creリコンビナーゼの発現によりloxP配列に挟まれた両対立遺伝子上の薬剤耐性遺伝子が除去された陽性クローンは、G418およびピューロマイシン存在下で死滅する。本ネガティブ選択法により陽性クローンを選択した。
(3)ゲノムサザンブロットによる薬剤耐性遺伝子除去の診断
本項(2)で見出された陽性クローン(4−5−C3)に対し、以下の手順でゲノムサザンブロットによる薬剤耐性遺伝子除去の診断を行った。
本項(2)で凍結保存したマスタープレートのうち、上記陽性クローンを含む96穴プレートを選択し、5% CO2、37℃の条件下で10分間静置した。静置後、上記クローンに該当するウェルから細胞を接着細胞用平底24穴プレート(Greiner社製)へ播種した。10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)を用いて1週間培養した後、接着細胞用平底6穴プレート(Greiner社製)へ播種した。該プレートより公知の方法[ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Research),3,2303,(1976)]に従って各クローンのゲノムDNAを調製し、各々TE−RNase緩衝液(pH8.0)150μLに一晩溶解した。
上記で調製したゲノムDNA 12μgを20単位の制限酵素NheI(New England Biolabs社製)を加えて37℃で一晩消化反応を行った。該反応液よりエタノール沈殿法を用いてDNA断片を回収した後、TE緩衝液(pH8.0)20μLに溶解し、0.6%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供した。泳動後、公知の方法[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,3683,(1979)]に従い、ナイロン膜ヘゲノムDNAを転写した。転写終了後、ナイロン膜に対し80℃で2時間の熱処理を行い、固定化した。
一方、サザンブロットに用いるプローブを以下のように調製した。まず、FUT8ゲノム領域のうちターゲティングベクター相同領域を越えた部分の配列に結合するプライマー(配列番号16および配列番号17)を用いて、以下のPCRを行った。即ち、実施例1の1項(2)で得たプラスミドpFUT8fgE2−2 4.0ngを含む20μLの反応液[DNAポリメラーゼEXTaq(宝酒造社製)、ExTaq buffer(宝酒造社製)、0.2mmol/L dNTPs、0.5μmol/L上記遺伝子特異的プライマー(配列番号16および配列番号17)]を調製し、94℃で1分間の加熱の後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、74℃で1分間からなる反応を1サイクルとした25サイクルの条件でPCRを行った。PCR後、反応液を1.75%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、約230bpのプローブDNA断片を精製した。得られたプローブDNA溶液5μLに対し、[α−32P]dCTP 1.75MBqおよびMegaprime DNA Labelling system,dCTP(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて放射線標識した。
ハイブリダイゼーションは以下のように行った。まず、上記のナイロン膜をローラーボトルへ封入し、ハイブリダイゼーション液[5×SSPE、50×Denhaldt’s液、0.5%(w/v)SDS、100μg/mLサケ精子DNA]15mLを加えて65℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行った。次に、32P標識したプローブDNAを熱変性してボトルへ投入し、65℃で一晩加温した。
ハイブリダイゼーション後、ナイロン膜を2×SSC−0.1%(W/V)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。上記の洗浄操作を2回繰り返した後、膜を0.2×SSC−0.1%(W/V)SDS 50mLに浸漬し、65℃で15分間加温した。洗浄後、ナイロン膜をX線フィルムへ−80℃で暴露し現像した。
前述の制限酵素NheI処理により、野生型FUT8対立遺伝子から約8.0KbのDNA断片が生じる。また、同制限酵素処理により、ターゲティングベクターとの相同組換えが起こった対立遺伝子から約9.5KbのDNA断片が生じた。さらに、相同組換えが起こった対立遺伝子からネオマイシン耐性遺伝子(約1.6Kb)またはピューロマイシン耐性遺伝子(約1.5Kb)が除去された場合には、同処理により約8.0KbのDNA断片が生じた。
親株であるCHO/DG44細胞、本実施例の2項に記載の50−10−104株、本実施例の3項に記載のWK704株、およびWK704株から本項(2)に記載の方法により取得した薬剤感受性クローンの1つである4−5−C3株のゲノムDNAを、本法により解析した。CHO/DG44細胞では、野生型FUT8対立遺伝子に由来する約8.0KbのDNA断片のみが検出された。また、50−10−104株やWK704株では、相同組換えが起こった対立遺伝子に由来する約9.5KbのDNA断片が認められた。一方、4−5−C3株では、相同組換えが起こった対立遺伝子からさらに、ネオマイシン耐性遺伝子(約1.6Kb)およびピューロマイシン耐性遺伝子(約1.5Kb)が除去されて生じる約8.0KbのDNA断片のみが検出された。この結果から4−5−C3株は、Creリコンビナーゼにより薬剤耐性遺伝子が除去されたことが確認された。
薬剤耐性遺伝子の除去されたFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローン(以下、FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞と表記する)は、4−5−C3株以外にも複数株取得された。
実施例2 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞における抗体分子の発現
1.抗CD20キメラ抗体発現ベクターの作製
(1)抗CD20マウスモノクローナル抗体のVLをコードするcDNAの構築
WO94/11026に記載されている抗CD20マウスモノクローナル抗体2B8のVLのアミノ酸配列をコードするcDNA(配列番号18)をPCR法を用いて以下の様にして構築した。
まず、WO94/11026記載のVLの塩基配列の5’末端と3’末端にPCR反応時の増幅用プライマーの結合塩基配列(ヒト化抗体発現用ベクターへクローニングするための制限酵素認識配列も含む)を付加した。設計した塩基配列を5’末端側から約100塩基ずつ計6本の塩基配列に分け(隣り合う塩基配列は、その末端に約20塩基の重複配列を有する様にする)、それらをセンス鎖、アンチセンス鎖の交互の順で、実際には、配列番号20、21、22、23、24、および25の6本の合成DNAを作製(GENSET社製へ委託)した。
各オリゴヌクレオチドを最終濃度が0.1μMとなる様に、50μLの反応液[KOD DNA Polymerase添付PCR Buffer #l(東洋紡績社製)、0.2mM dNTPs、1mM塩化マグネシウム、0.5μM M13 primer M4(宝酒造社製)、0.5μM M13 primer RV(宝酒造社製)]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて3分間加熱した後、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)を添加し、94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、74℃にて1分間のサイクルを25サイクル行ない、更に72℃にて10分間反応させた。該反応液25μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.44kbのVLのPCR産物を回収した。
次に、プラスミドpBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)を制限酵素SmaI(宝酒造社製)して得られたDNA0.1μgと、上記で得られたPCR産物約0.1μgを滅菌水に加えて7.5μLとし、TAKARA ligation kit ver.2のsolution I(宝酒造社製)7.5μL、制限酵素SmaI(宝酒造社製)0.3μLを加えて22℃で2時間反応させた。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABIPRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図2に示したプラスミドpBS−2B8Lを得た。
(2)抗CD20マウスモノクローナル抗体のVHをコードするcDNAの構築
WO94/11026に記載されている抗CD20マウスモノクローナル抗体2B8のVHのアミノ酸配列をコードするcDNA(配列番号19)をPCR法を用いて以下の様にして構築した。
まず、WO94/11026記載のVHの塩基配列の5’末端と3’末端にPCR反応時の増幅用プライマーの結合塩基配列(ヒト化抗体発現用ベクターへクローニングするための制限酵素認識配列も含む)を付加した。設計した塩基配列を5’末端側から約100塩基ずつ計6本の塩基配列に分け(隣り合う塩基配列は、その末端に約20塩基の重複配列を有する様にする)、それらをセンス鎖、アンチセンス鎖の交互の順で、実際には、配列番号26、27、28、29、30、および31の6本の合成DNAを作製(GENSET社製へ委託)した。
各オリゴヌクレオチドを最終濃度が0.1μMとなる様に、50μLの反応液[KOD DNA Polymerase添付PCR Buffer#1(東洋紡績社製)、0.2mM dNTPs、1mM塩化マグネシウム、0.5μM M13 primer M4(宝酒造社製)、0.5μM M13 primer RV(宝酒造社製)]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて3分間加熱した後、2.5単位のKOD DNA Polymerase(東洋紡績社製)を添加し、94℃にて30秒間、55℃にて30秒間、74℃にて1分間のサイクルを25サイクル行い、更に72℃にて10分間反応させた。該反応液25μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.49kbのVHのPCR産物を回収した。
次に、プラスミドpBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)を制限酵素SmaI(宝酒造社製)して得られたDNA0.1μgと、上記で得られたPCR産物約0.1μgを滅菌水に加えて7.5μLとし、TAKARA ligation kit ver.2のsolution I(宝酒造社製)7.5μL,制限酵素SmaI(宝酒造社製)0.3μLを加えて22℃で一晩反応させた。
この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換した。形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied−Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM 377により塩基配列を解析した。こうして目的の塩基配列を有する図3に示したプラスミドpBS−2B8Hを得た。
次に、14番目のアミノ酸残基をAlaからProへ置換するために、配列番号32で示した合成DNAを設計し、LA PCR in vitro Mutagenesis Primer Set for pBluescriptII(宝酒造社製)を用いたPCR法により、以下の様に塩基の置換を行った。上記のプラスミドpBS−2B8Hを1ng含む50μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、2.5単位のTaKaRa LA Taq、0.4mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム、50nM T3 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)、50nM上記の変異導入用プライマー(配列番号32、GENSET社製)]を調製し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、94℃にて30秒間、55℃にて2分間、72℃にて1分30秒間のサイクルを25サイクル行なった。該反応液30μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.44kbのPCR産物を回収し、30μLの水溶液とした。また、同様に、上記のプラスミドpBS−2B8Hを1ng含む50μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、2.5単位のTaKaRa LA Taq、0.4mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム、50nM T7 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)、50nM MUT B1 primer(宝酒造社製)]のPCR反応を行った。該反応液30μLをアガロースゲル電気泳動した後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、約0.63kbのPCR産物を回収し、30μLの水溶液とした。続いて、上記で得られた0.44kbのPCR産物と0.63kbのPCR産物を0.5μLずつ47.5μLの反応液[LA PCR Buffer II(宝酒造社製)、0.41mM dNTPs、2.5mM塩化マグネシウム]に添加し、DNAサーマルサイクラーGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer社製)を用いて、90℃にて10分間加熱した後、60分間かけて37℃まで冷却した後、37℃で15分間保持することによってDNAをアニーリングさせた。2.5単位のTaKaRa LA Taq(宝酒造社製)を添加して72℃にて3分間反応させた後、10pmolずつのT3 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)とT7 BcaBEST Sequencing primer(宝酒造社製)を添加して反応液を50μLとし、94℃にて30秒間、55℃にて2分間、72℃にて1分30秒間のサイクルを10サイクル行った。該反応液25μLをQIA quick PCR purification kit(QIAGEN社製)にて精製した後、半量を10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)と10単位の制限酵素SacI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.59kbのKpnI−SacI断片を回収した。
次に、pBlueseciptII SK(−)(Stratagene社製)1μgを10単位の制限酵素KpnI(宝酒造社製)と10単位のSacI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約2.9kbのKpnI−SacI断片を回収した。
上記で得られたPCR産物由来のKpnI−SacI断片とプラスミドpBluescriptII SK(−)由来のKpnI−SacI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製し、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を用いて添付の説明書に従って反応後、同社のDNAシーケンサABI PRISM377により塩基配列を解析した。
こうして目的の塩基配列を有する図3に示したプラスミドpBS−2B8Hmを得た。
(3)抗CD20ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93(Mol.Immunol.,37,1035,2000)と本項(1)および(2)で得られたプラスミドpBS−2B8LおよびpBS−2B8Hmを用いて抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、抗CD20キメラ抗体と表記する)の発現ベクターpKANTEX2B8Pを以下の様にして構築した。
本項(1)で得られたプラスミドpBS−2B8Lの2μgを10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を用いて55℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.41kbのBsiWI−EcoRI断片を回収した。
次に、ヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93の2μgを10単位の制限酵素BsiWI(New England Biolabs社製)を用いて55℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素EcoRI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約12.75kbのBsiWI−EcoRI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpBS−2B8L由来BsiWI−EcoRI断片とプラスミドpKANTEX93由来のBsiWI−EcoRI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、図4に示したプラスミドpKANTBX2B8−Lを得た。
次に、本項(2)で得られたプラスミドpBS−2B8Hmの2μgを10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約0.45kbのApaI−NotI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpKANTEX2B8−Lの3μgを10単位の制限酵素ApaI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた後、更に10単位の制限酵素NotI(宝酒造社製)を用いて37℃で1時間反応させた。該反応液をアガロースゲル電気泳動にて分画し、約13.16kbのApaI−NotI断片を回収した。
次に、上記で得られたプラスミドpBS−2B8Hm由来のApaI−NotI断片とプラスミドpKANTEX2B8−L由来のApaI−NotI断片をDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)のSolution Iを用いて、添付の説明書に従って連結した。この様にして得られた組換えプラスミドDNA溶液を用いて大腸菌DH5α株(東洋紡績社製)を形質転換し、形質転換株のクローンより各プラスミドDNAを調製した。
得られたプラスミドを用い、BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(Applied Biosystems社製)を同社のDNAシークエンサー377を用いて塩基配列の解析を行った結果、目的のDNAがクローニングされている図4に示したプラスミドpKANTEX2B8Pが得られたことを確認した。
2.抗CD20キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、本実施例第1項で得た抗CD20抗体発現ベクターpKANTEX2B8Pを導入した。
プラスミドpKANTEX2B8PのWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX2B8P 10μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距雕2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2B8Pを取得した。なお、WK704−2B8P株はWK704−2B8Pの株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8337として寄託されている。
3.抗ガングリオシドGD3キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、抗ガングリオシドGD3キメラ抗体発現ベクタープラスミドpKANTEX641を導入し、抗GD3キメラ抗体の安定的発現株を作製した。pKANTEX641は、WO00/61739記載の抗GD3キメラ抗体発現ベクタープラスミドpChi641LHGM4およびヒト化抗体発現用ベクターpKANTEX93[モレキュラー・イムノロジー(Mol.Immunol.),37,1035(2000)]より構成された誘導体であり、pChi641LHGM4より得たタンデム型抗体発現ユニットを含むEcoRI−HindIII断片をpKANTEX93より得た複製起点を含むEcoRI−HindIII断片へ連結したものである。
プラスミドpKANTEX641のWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX641 10μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距離2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2871を取得した。なお、WK704−2871株はWK704−2871の株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8336として寄託されている。
4.抗CCR4キメラ抗体の発現
実施例1第5項の(2)で作製したFUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704に対し、WO01/64754記載の抗CCR4キメラ抗体発現ベクターpKANTEX2160を導入し、抗CCR4キメラ抗体の安定的発現株を作製した。
プラスミドpKANTEX2B8PのWK704への遺伝子導入はエレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology),3,133(1990)]に準じて以下の手順で行った。まず、プラスミドpKANTEX2160 15μgをNEBuffer 4(New England Biolabs社製)100μlに溶解し、40単位の制限酵素AatII(New England Biolabs社製)を加えて37℃で2時間消化反応を行うことにより線状化した。該反応液に対しフェノール/クロロホルム抽出処理およびエタノール沈殿を行い、回収した線状化プラスミドを1μg/μl水溶液とした。一方、WK704をK−PBS緩衝液[137mmol/l KCl、2.7mmol/l NaCl、8.1mmol/l Na2HPO4、1.5mmol/l KH2PO4、4.0mmol/l MgCl2]に懸濁して8×107個/mlとした。細胞懸濁液200μl(1.6×106個)を上記線状化プラスミド4μl(4μg)と混和した後、細胞−DNA混和液の全量をGene Pulser Cuvette(電極間距離2mm)(BIO−RAD社製)へ移し、細胞融合装置Gene Pulser(BIO−RAD社製)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。遺伝子導入後、細胞懸濁液を10%ウシ胎児血清(Invitrogen社製)および1倍濃度のHT supplement(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)に懸濁し、接着細胞培養用T75フラスコ(Greiner社製)へ播種した。5% CO2、37℃の条件下で24時間培養した後、培養上清を除去し、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)10mlを注入した。この培地交換作業を3〜4日毎に繰り返しながら15日間の培養を行い、形質転換株WK704−2760を取得した。なお、WK704−2760株はWK704−2760の株名で、平成15年3月20日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−8335として寄託されている。
5.培養上清中のヒトIgG抗体濃度の測定(ELISA法)
ヤギ抗ヒトIgG(H&L)抗体(American Qualex社製)をPhosphate Buffered Saline(以下、PBSと表記する)(インビトロジェン社製)で希釈して1μg/mLとし、96穴のELISA用プレート(グライナー社製)に、50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩放置して吸着させた。PBSで洗浄後、BSAを1%の濃度で含むPBS(以下、1%BSA−PBSと表記する)(和光純薬社製)を100μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させて残存する活性基をブロックした。1%BSA−PBSを捨て、形質転換株の培養上清、または培養上清から精製した抗体の各種希釈溶液を50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween20を0.05%の濃度で含むPBS(以下、Tween−PBSと表記する)(和光純薬社製)で各ウェルを洗浄後、1%BSA−PBSで2000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgG(H&L)抗体溶液(American Qualex社製)を二次抗体溶液として、それぞれ50μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。反応後、Tween−PBSで洗浄後、ABTS基質液[2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム(和光純薬社製)の0.55gを1Lの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)に溶解し、使用直前に過酸化水素(和光純薬社製)を1μL/mLで添加した溶液]を50μL/ウェルで加えて発色させ、415nmの吸光度(以示、OD415と表記する)を測定した。
6.抗体分子の精製
本実施例第2項で得た抗CD20抗体発現株WK704−2B8Pを、10%ウシ胎児透析血清(Invitrogen社製)を添加したIMDM培地(Invitrogen社製)へ3×105個/mlの密度で懸濁後、接着細胞培養用T182フラスコ(Greiner社製)10本へ計300ml播種した。同様にして、本実施例第3項で得た抗GD3抗体発現株WK704−2871および本実施例第4項で得た抗CCR4抗体発現株WK704−2760を播種した。3日間の培養後、各株の上清全量を除去し、EXCELL301培地(JRH Biosciences社製)へ交換した。これらを37℃の5% CO2インキュベーター内で7日間培養後、各細胞懸濁液を回収した。回収した各細胞懸濁液に対し3000rpm、4℃の条件で10分間の遠心分離を行って上清を回収した後、0.22μm孔径500ml容PES Membrane(旭テクノグラス社製)を用いて濾過した。
0.8cm径のカラムにMab Select(Amersham Pharmacia Biotech社製)0.5mlを充填し、精製水3.0mlおよび0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)3.0mlを順次通筒した。さらに、0.1mol/lクエン酸緩衝液(pH3.5)2.0mlおよび0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)1.5mlで順次洗浄することによって担体の平衡化を行った。次に、上記培養上清300mlをカラムに通筒した後、0.2mol/lホウ酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH7.5)3.0mlで洗浄した。洗浄後、0.1mol/lクエン酸緩衝液(pH3.5)1.25mlを用いて担体に吸着した抗体の溶出を行った。初めに溶出する250μlの画分を廃棄し、次に得られる溶出画分1mlを回収して2mol/l Tris−HCl(pH8.5)200μlと混合して中和した。取得した溶出液に対し、10mol/lクエン酸−0.15mol/l NaCl緩衝液(pH6.0)を用いて4℃で一昼夜透析を行った。透析後、抗体溶液を回収し、0.22μm孔径Millex GV(MILLIPORE社製)を用いて滅菌濾過した。
実施例3 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞が産生する抗体組成物のin vitro細胞障害活性(ADCC活性)
実施例2第6項で精製した抗CD20抗体のin vitro細胞障害活性を評価するため、以下の記述に従いADCC活性を測定した。
(1)標的細胞溶液の調製
RPMI1640−FCS(10)培地(FCSを10%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で培養したヒトBリンパ球培養細胞株Raji細胞(JCRB9012)を遠心分離操作および懸濁によりRPMI1640−FCS(5)培地(FCSを5%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で洗浄した後、RPMI1640−FCS(5)培地によって、2×105細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
(2)エフェクター細胞溶液の調製
健常人静脈血50mLを採取し、ヘパリンナトリウム(清水製薬社製)0.5mLを加え穏やかに混ぜた。これをLymphoprep(AXIS SHIELD社製)を用いて使用説明書に従い、遠心分離(800g、20分間)して単核球層を分離した。RPMI1640−FCS(5)培地で3回遠心分離して洗浄後、同培地を用いて4×106細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
(3)ADCC活性の測定
96ウェルU字底プレート(Falcon社製)の各ウェルに上記(1)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×104細胞/ウェル)を分注した。次いで上記(2)で調製したエフェクター細胞溶液を50μL(2×105細胞/ウェル、エフェクター細胞と標的細胞の比は20:1となる)添加した。更に、各種抗CD20キメラ抗体を各最終濃度0.3〜3000ng/mLとなるように加えて全量を5150μLとし、37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を、CytoTox96 NoN−Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega社製)を用いて測定した。標的細胞自然遊離LDH量は、エフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて上記と同様の操作を行い、上清のLDH活性を測定することにより求めた。エフェクター細胞自然遊離の吸光度データは、標的細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて、上記と同様の操作を行うことで取得した。全標的細胞破壊にともなう全遊離LDH量は、抗体溶液、エフェクターター細胞溶液の代わりに培地を用い、反応終了45分前に15μLの9% Triton X−100溶液を添加し、上記と同様の操作を行い、上清のLDH活性を測定することにより求めた。これらの値を用いて下式(II)により、ADCC活性を求めた。
図5に各抗CD20抗体のADCC活性を示した。FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704−2B8Pより得た抗体は、いずれの抗体濃度においても市販RituxanTMより高いADCC活性を示し、最高細胞障害活性値も高かった。RituxanTMは、FUT8遺伝子が破壊されていないCHO細胞を宿主細胞として製造された抗CD20キメラ抗体である。また、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンWK704−2871株、WK704−2760株より得たそれぞれの抗体に関してADCC活性を測定したところ、抗CD20抗体の場合と同様に、FUT8遺伝子が破壊されてない通常のCHO細胞株が産生する抗体に比べて高い細胞障害活性を示した。以上の結果より、FUT8対立遺伝子を破壊した宿主細胞を用いることにより、FUT8遺伝子が破壊されていない宿主細胞を用いた場合より、細胞障害活性の高い抗体の生産が可能となることが分かった。
FUT8対立遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞が産生する抗体組成物の単糖組成分析
実施例2第6項で取得した、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンが生産した抗CD20抗体、抗GD3抗体および抗CCR4抗体の中性糖・アミノ糖組成分析を、以下の様にして行った。
抗体を遠心濃縮機で減圧下乾固した後、2.0−4.0mol/Lのトリフルオロ酢酸溶液を加えて100℃、2−4時間酸加水分解を行い、タンパク質から中性糖・アミノ糖を遊離した。トリフルオロ酢酸溶液を遠心濃縮機で除去し、脱イオン水に再溶解してDionex社製糖分析装置(DX−500)を用いて分析を行った。CarboPac PA−1カラム、CarboPac PA−1ガードカラム(Dionex社製)を用い、溶離液として10−20mM水酸化ナトリウム−脱イオン水溶解液、洗浄液として500mM水酸化ナトリウム−脱イオン水溶解液を使用して、以下の溶出プログラムで分析した。
得られた中性糖・アミノ糖成分のピーク面積から、N−アセチルグルコサミン比を4とした場合の各成分(フコース、ガラクトース、マンノース)の組成比を算出した。
各抗体の単糖組成比をもとに、全複合型糖鎖に占めるフコースを持たない複合型糖鎖の割合を計算した結果、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンが生産した抗CD20抗体、抗GD3抗体および抗CCR4抗体の複合型糖鎖には、フコースが結合していないことが示された。
実施例5 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞の無蛋白培地への馴化
実施例1で作製したFUT8ダブルノックアウトCHO/DG44細胞である4−5−C3株の無蛋白培地への馴化を行った。
IMDM培地(インビトロジェン社製)に1%(v/v)HTサプルメント(インビトロジェン社製)及び10%(v/v)牛胎児血清(dFBS;インビトロジェン社製)を含有してなる血清添加培地(以下、「基本血清培地」という)を作製した。該培地を用い4−5−C3株を2〜4×105細胞/mLの細胞密度でT型フラスコに接種し、継代期間を2〜4日間として、37℃で5%CO2濃度で静置培養を行った。継代時には、遠心分離により培養液から新鮮培地への全量交換を実施した。
上記継代培養で得られた細胞を用い、EX−CELL325PF(JRH社製)に1%(v/v)HTサプルメント(インビトロジェン社製)及び6mMグルタミン(インビトロジェン社製)を含有してなる無蛋白培地(以下、「基本無蛋白培地」という)により6継代29日間の静置継代培養を行った。培養は、血清培養時と同様、T型フラスコを用い37℃で5%CO2濃度の条件で行った。引き続き基本無蛋白培地にて、三角フラスコを用いた浮遊旋回培養を6継代20日間行った。培養温度は35℃、旋回速度は90〜100rpmとし、継代の際には、培養容器の4倍量以上の5%濃度CO2を培地上面に通気し、三角フラスコ中の空気を置換して継代した。
上述の基本無蛋白培地を用いた継代培養により、培養初期には細胞凝集し増殖しなかった細胞を、最終的には基本無蛋白培地で継代可能な馴化細胞に変換することができた。
次に、取得した無蛋白培地に馴化させた4−5−C3株を、限界希釈法により、以下のようにクローニングした。
基本無蛋白培地を用いて取得した馴化細胞を希釈し、96ウエルプレートに0.5細胞/ウエルで、1ウエルあたり0.05mLずつ接種した。続いて、滅菌フィルターを用いて滅菌処理を施した馴化細胞株の培養上清(コンデイションメディウム)を1ウエルあたり0.05mLずつ加えた。合計768ウエルに播種し1〜2週間培養した結果、単一のコロニー増殖を確認した49クローンを得た。取得した49クローンを24ウエルプレート、6ウエルプレートへと拡大培養し、取得した個々のクローン増殖性を考慮し、増殖性の良い17クローンを選択した。選択された17クローンを混合し、無蛋白培地馴化細胞とした。
得られた無蛋白培地馴化細胞を無蛋白培地で継代した際の、生細胞密度、生存率の推移を示した。結果を図6に示す。
図6に示される通り、上記方法で得られた無蛋白培地馴化細胞は、低い細胞密度で培地に培養した後、2〜3日間で3倍の細胞量に増殖している。このことは、親株である無蛋白培地馴化前の細胞株とは異なり、基本無蛋白培地を用いて培養しても安定して継代培養を行うことができるように変換されていることを示している。
実施例6 無蛋白培地に馴化した、FUT8遺伝子ダブルノックアウトCHO/DG44細胞の無血清フェドバッチ培養
実施例5で取得した無蛋白培地馴化細胞を用いて、フェドバッチ培養を行った。
基本無蛋白培地を用いて2×105細胞/mLの細胞密度に無蛋白培地馴化細胞を調製した。125mLの三角フラスコに調製した無蛋白培地馴化細胞を15mL加え、培養温度35℃、旋回速度100rpmで3日間培養した。なお、細胞播種の際には、500mL以上の5%濃度CO2を培地上面に通気し、三角フラスコ中の空気を置換した。3日間の培養で得られた細胞を種細胞として、基本無蛋白培地を用いて3×105細胞/mLの細胞密度に調製後、125mLの三角フラスコに30mL播種し、培養温度35℃旋回速度100rpmでフェドバッチ培養を開始した。細胞を播種する際には、1L以上の5%濃度CO2を培地上面に通気することでフラスコ内の空気を置換した。フェドバッチ培養開始後、アミノ酸などの消費量を補う目的で培養3日目、6日目に3.3mlずつ以下に示す組成のフィード培地を添加した。また、培養3日目に、グルコースの終濃度が5000mg/Lとなるよう、20%(w/v)グルコース溶液を添加した。その結果を図7に示す。細胞は培養開始から3日目後まで増殖し、3〜6日目まではその細胞密度がほぼ維持された。培養6日目の生細胞密度は2×106細胞/mlまで達した。培養開始から6日を過ぎると生存率が急速に低下し、9日目には細胞生存率が50%を切り、フェドバッチ培養を終了した。
なお、フェドバッチ培養に用いたフィード培地は、通常の培地にアミノ酸(L−アラニン0.177g/L、L−アルギニン一塩酸0.593g/L、L−アスパラギン一水和物0.177g/L、L−アスパラギン酸0.212g/L、L−シスチン二塩酸0.646g/L、L−グルタミン酸0.530g/L、L−グルタミン5.84g/L、グリシン0.212g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.297g/L、L−イソロイシン0.742g/L、L−ロイシン0.742g/L、L−リジン一塩酸1.031g/L、L−メチオニン0.212g/L、L−フェニルアラニン0.466g/L、L−プロリン0.283g/L、L−セリン0.297g/L、L−スレオニン0.671g/L、L−トリプトファン0.113/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.735g/L、L−バリン0.664g/L)、ビタミン(d−ビオチン0.0918mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.0283g/L、塩化コリン0.0283g/L、葉酸0.0283g/L、myo−イノシトール0.0509g/L、ナイアシンアミド0.0283g/L、ピリドキサール塩酸0.0283g/L、リボフラビン0.00283g/L、チアミン塩酸0.0283g/L、シアノコバラミン0.0918mg/L)、インシュリン0.314g/Lを添加した培地であった。
実施例7 無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウトCHO/DG44細胞による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造とその生物活性
実施例6記載の無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて、抗CD20ヒト型キメラ抗体の安定生産細胞を樹立し、抗CD20ヒト型キメラ抗体の生産性ならびに生産された抗体の生物活性を評価した。その際、無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞による高ADCC活性抗体製造の優位性を示す目的で、FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞の親株であるCHO/DG44細胞、Stanleyらによって樹立されたCHO細胞のGDP−マンノース−4,6−デヒドラターゼ変異株Lec13細胞(Somat.Cell Mol.Genet.12,51(1986))、およびラット−ラットハイブリドーマYB2/0細胞(American Type Culture Collection CRL−1662)からも抗CD20ヒト型キメラ抗体生産株を樹立して比較を行った。Lec13およびYB2/0細胞では、フコースが結合していない糖鎖の割合が高い高ADCC活性抗体の発現が可能であることが報告されているため比較対照とした(J.Biol.Chem.,277,30,26733,(2002);WO02/31140)。
1.抗CD20ヒト型キメラ抗体安定生産株の造成
実施例6記載の無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞、CHO/DG44細胞およびLee13細胞に、実施例2の2項に記載の方法に従って抗CD20ヒト型キメラ抗体発現ベクターpKANTEX2B8Pを導入し、96ウェルカルチャープレート(グライナー社製)に播種して5%CO2インキュベーター内で37℃、l〜2週間培養した。IMDM−dFBS(10)培地中で増殖が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体産生量を増加させる目的で、MTX(シグマ社製)を50nmol/L含むIMDM−dFBS(10)培地に交換してさらに1〜2週間培養した。50nmol/LのMTXに耐性を示す形質転換株については、MTX濃度をさらに上昇させて培養を続けた。培養上清中への抗CD20ヒト型キメラ抗体の発現を実施例2の5項に記載のELISA法により測定し、最終的にMTXを200、500または1000nmol/Lの濃度で含むIMDM−dFBS(10)培地で増殖可能かつ、抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を選抜した。YB2/0細胞については、WO03/055993に記載の方法に従って抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を選抜した。
次に、このようにして得られた抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を実施例5に記載の方法に準じて無血清培地に馴化した。無蛋白培地馴化FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞、CHO/DG44細胞およびLec13細胞から樹立した各形質転換株の無血清培地への馴化には、MTXを200、500または1000nmol/L、L−グルタミン(インビトロジェン社製)を6mMの濃度で含むEX−CELL302培地(JRH社製)(以下、無血清培地と表記)を用いた。YB2/0細胞から樹立した形質転換株の無血清培地への馴化には、CD−Hybridoma培地(インビトロジェン社製)(以下、無血清培地と表記)を用いた。このようにして無蛋白培地馴化FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞より樹立した形質転換株をMs704/CD20株、CHO/DG44細胞より樹立した形質転換株をDG44/CD20株、Lec13細胞より樹立した形質転換株をLec13/CD20株、YB2/0細胞より樹立した形質転換株をYB/CD20株と名付けた。なお、Ms704/CD20株は、平成16年8月13日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−10092として寄託されている。
2.三角フラスコ無血清フェドバッチ培養による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造
本実施例の1項で樹立したMs704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株を用い、三角フラスコでの無血清フェドバッチ培養を行い、各株による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造を行った。
(1)三角フラスコでの無血清フェドバッチ培養
フェドバッチ培養の基礎培地には、前項の無血清培地に20%(w/v)グルコース溶液を終濃度5000mg/Lとなるように追添加した培地を使用した(以下、無血清フェドバッチ培養培地と表記)。フィード培地には、各種のアミノ酸(L−アラニン0.177g/L、L−アルギニン一塩酸0.593g/L、L−アスパラギン一水和物0.177g/L、L−アスパラギン酸0.212g/L、L−シスチン二塩酸0.646g/L、L−グルタミン酸0.530g/L、L−グルタミン5.84g/L、グリシン0.212g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.297g/L、L−イソロイシン0.742g/L、L−ロイシン0.742g/L、L−リジン一塩酸1.031g/L、L−メチオニン0.212g/L、L−フェニルアラニン0.466g/L、L−プロリン0.283g/L、L−セリン0.297g/L、L−スレオニン0.671g/L、L−トリプトファン0.113g/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.735g/L、L−バリン0.664g/L)、各種のビタミン(d−ビオチン0.0918mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.0283g/L、塩化コリン0.0283g/L、葉酸0.0283g/L、myo−イノシトール0.0509g/L、ナイアシンアミド0.0283g/L、ピリドキサール塩酸0.0283g/L、リボフラビン0.00283g/L、チアミン塩酸0.0283g/L、シアノコバラミン0.0918mg/L)、およびインシュリン0.314g/Lを含有する培地を用いた。
Ms704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株を、3×105細胞/mLの密度で無血清フェドバッチ培養培地に懸濁し、該細胞懸濁液40mLを250mL三角フラスコ(コーニング社製)に播種した。培養容器の4倍量以上の5%CO2ガスを通気してフラスコ内の空気を置換した後に密栓し、回転数90〜100rpmで攪拌しながら35℃にて培養を行った。培養開始後3日目、6日目、9日目、11日目に、アミノ酸などの消費を補う目的で上記のフィード培地を3.3mL添加し、グルコース濃度を制御する目的で20%(w/v)グルコース溶液を終濃度5000mg/Lとなるように添加した。また培養開始後0日目、3日目、6日目、9日目、11日目、13日目に培養液約2mLを採取し、トリパンブルー染色法により生細胞密度と細胞生存率を、実施例3の2項に記載のELISA法により各培養上清中に含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体濃度をそれぞれ測定した。
フェドバッチ培養は、それぞれの細胞株の細胞生存率が60%以下となった時点で終了した。培養開始後の各時点におけるMs704/CD20株の生細胞密度、細胞生存率はDG44/CD20株と同等以上であった。一方、Lec13/CD20株は、増殖性が遅く最高細胞到達密度も低かった。また、YB/CD20株は最高細胞到達密度に達した後急激に細胞生存率が低下し長期のフェドバッチ培養は困難であった。また、抗体生産量については、いずれの株においても累積生細胞密度に比例して抗体蓄積量が増加し、培養終了時に最高生産量に達した。従って、FUT8遺伝子を破壊した細胞株においても、親株に比べて細胞増殖性や培養ストレスによる生存能力に差は見られず、他のフコースが結合していない糖鎖の割合が高い高ADCC活性抗体の発現が可能な株に比べて良い培養挙動を示すことが明らかとなった。
(2)無血清フェドバッチ培養において製造された抗体組成物の生物活性の解析
上記(1)の無血清フェドバッチ培養で、Ms704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株から経日的に採取した培養液を用い、それぞれの培養液中に含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物のフコースが結合していない糖鎖の割合を解析した。フコースが結合していない糖鎖の割合は、Biotechnology and Bioengineering,87,618,(2004)に記載の公知の方法に基づき、可溶性ヒトFcγRIIIa(以下、shFcγRIIIaと表記)に対する結合活性を指標にしたELISA法により測定した。フコースが結合していない糖鎖の割合が既知の標準抗体としては、WO03/085119の実施例4の5項に記載のKM2760−1(フコースが結合していない糖鎖の割合:90%)、およびKM3060(フコースが結合していない糖鎖の割合:10%)を用いた。上記(1)で各株から採取した培養液および標準抗体は1%BSA−PBSで希釈し、5μg/mLの抗体溶液に調製し評価サンプルとした。
測定の結果、DG44/CD20株のサンプルは、いずれもshFcγRIIIaに対する結合活性がほとんど認められず、フコースが結合した糖鎖構造を有する抗体組成物を含むことが判明した。Lec13/CD20株とYB/CD20株のサンプルは、培養初期にはフコースが結合していない糖鎖の割合が高い抗体組成物を含むが、培養期間が長くなるにつれてフコースが結合した糖鎖構造を有する抗体組成物の割合が高くなることが判明した。Lec13/CD20株のフェドバッチ培養終了時のサンプルに含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体のフコースが結合してない糖鎖の割合は、60%以下であった。一方、Ms704/CD20株のサンプルは、培養期間を通じて安定してshFcγRIIIaへの強い結合活性を示した。Ms704/CD20株のサンプルに含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体のフコースが結合していない糖鎖の割合を、標準抗体でのELISAの吸光度をもとに算出したところ、培養期間を通じて100%に保たれていると見積もられた。
以上の結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞は、三角フラスコを用いた無血清フェドバッチ培養において、N−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖を持つ抗体組成物を安定に生産できることが判明した。
3.浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養によるフコースが結合していない糖鎖を有する抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造
本実施例の2項で無血清培地に馴化したMs704/CD20株が、抗体医薬の商業的な生産に用いられる浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養においても、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の安定製造が可能か否かを検討した。
(1)シード細胞の拡大培養
リアクター培養に至るまでの拡大培養を行う培地として、MTXを500nM、L−グルタミンを1.75g/Lの濃度で含むEX−CELL302培地(以下、拡大培養用培地と表記)を用いた。125mL、250mLまたは1000mL容量の三角フラスコ(コーニング社製)に約10〜30%量の拡大培養用培地を入れ、3×105細胞/mLとなるように細胞懸濁液を播種し、37℃で4日間培養した。リアクター培養の播種に必要な細胞数が得られるまで複数回継代を繰り返した。
(2)リアクター培養
リアクター培養の基本培地として、(1)の拡大培養用培地にMTXを500nM、L−グルタミンを1.75g/Lとなるように追添加した培地(以下、リアクター培養用培地と表記)を用いた。
上記の拡大培養により必要な細胞数を獲得したところで、リアクター培養用培地700mLを満たした1Lバイオリアクター(ABLB社製)に3×105細胞/mLとなるように細胞を播種し、35℃、pH7.1、DO 50%の条件下で17日間培養した。フィード培地には、アミノ酸(L−アラニン0.14g/L、L−アルギニン一塩酸0.47g/L、L−アスパラギン一水和物0.16g/L、L−アスパラギン酸0.17g/L、L−シスチン二塩酸0.51g/L、L−グルタミン酸0.42g/L、L−グルタミン7.3g/L、グリシン0.17g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.24g/L、L−イソロイシン0.59g/L、L−ロイシン0.59g/L、L−リジン一塩酸0.82g/L、L−メチオニン0.17g/L、L−フェニルアラニン0.37g/L、L−プロリン0.22g/L、L−セリン0.24g/L、L−スレオニン0.53g/L、L−トリプトファン0.09g/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.58g/L、L−バリン0.53g/L)、ビタミン(d−ビオチン0.073mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.022g/L、塩化コリン0.022g/L、葉酸0.022g/L、myo−イノシトール0.040g/L、ナイアシンアミド0.022g/L、ピリドキサール塩酸0.022g/L、リボフラビン0.0022g/L、チアミン塩酸0.022g/L、シアノコバラミン0.073mg/L)、リコンビナントヒトインスリン0.31g/L(JRH社製)、エタノールアミン0.025g/L(シグマ−アルドリッチ社製)、2−メルカプトエタノール0.0098g/L(シグマ−アルドリッチ社製)、大豆加水分解物HY−SOY 8g/L(クウェストインターナショナル社製)、亜セレン酸ナトリウム16.8マイクロg/L(シグマ−アルドリッチ社製)、コレステロール脂質濃縮溶液2mL/L(250×水溶液、インビトロジェン社製)、エチレンジアミン四酢酸第二鉄ナトリウム塩0.05g/L(シグマ−アルドリッチ社製)からなる培地を用い、培養3、5、7、9、11日目に初発培地量の8.3%を添加した。また、培養3日目以降のグルコース濃度が約4g/Lとなるように、500g/Lグルコース溶液を適宜添加した。
培養開始から培養終了まで培養液を毎日1回ずつ採取し、生細胞密度(細胞/mL)および細胞生存率を0.4%トリパンブルー溶液(インビトロジェン社製)を用いた色素排除法により、抗体濃度(mg/L)をHPLCによりそれぞれ測定した。
比抗体生産速度を以下の式より算出した。なお累積生細胞密度(細胞/mL×日)は、各測定時点で生細胞密度(細胞/mL)と単位時間(日)の積を計算し、それらを合計した値とした。本実施例では、生細胞密度を1日1回測定したので、各時点の生細胞密度×1日を合計して累積生細胞密度とした。
比抗体生産速度(pg/細胞/日)=抗体濃度(mg/L)÷累積生細胞密度(細胞/mL×日)
浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養を行った結果を図8に示した。生細胞密度は培養13日目に最大に達した。細胞生存率は培養開始から培養13日目まで90%以上の高い値を維持し、その後は徐々に低下して培養17日目では12%となった。累積生細胞密度は17日間で5.6×107細胞/mL×日、培養終了時の抗体濃度は1.7g/Lに達し、比抗体生産速度は30pg/細胞/日を示した。この結果は、標準的な抗体医薬の製造力価である0.5〜1.0g/Lを超えるものであった。また、培養開始後5、7、14、17日目に採取した培養液より精製した抗体からN−グリカナーゼFにてアスパラギン結合型糖鎖を遊離した。除蛋白、イオン交換樹脂による脱塩の後、質量分析計にて糖鎖構造を解析した。培養開始後5、7、14、17日目のいずれの時点においてもフコースが結合した糖鎖は検出限界以下であり、フコースが結合していないN−グリコシド結合複合型糖鎖を有する抗体が安定して製造されていた。
以上の結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞は、抗体医薬の商業的な生産に用いられる浮遊撹拌リアクターでの無血清フェドバッチ培養においても、N−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖を持つ抗体組成物を安定的に高生産できることを確認した。
4.無血清フェドバッチ培養により製造されたフコースが結合していない抗体組成物の生物活性
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、Ms704/CD20抗体とも称す)の生物活性を測定し、本製造法で製造した抗体組成物の優位性を確認した。比較対照としては、市販抗体の生産にも用いられているCHO/DG44細胞を用いて製造した本実施例の2項記載の抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、DG44/CD20抗体とも称す)を用いた。
(1)抗CD20ヒト型キメラ抗体のCD20抗原発現細胞株に対する抗原結合活性
WO03/055993の実施例2の1項に記載の蛍光抗体法に従って測定した結果、FACS解析によるRaji細胞への抗体染色強度に差は観察されず、本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載のCHO/DG44細胞を用いて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体の抗原結合活性に相違は観察されなかった。従って、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて製造を行っても、親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗体組成物と同等の抗原結合活性を有することを確認した。
(2)抗CD20ヒト型キメラ抗体のex vivo細胞傷害活性(ADCC活性)
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載のCHO/DG44細胞を用いて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体のヒト末梢血中でのADCC活性を、以下の様にして測定した。
24ウェル平底プレート(グライナー社製)の各ウェルに、ダルベッコPBS(インビトロジェン社)で希釈したMs704/CD20抗体およびDG44/CD20抗体を、100μL/ウェルずつ分注した。次いで、健常人から採取しヘパリンナトリウム(清水製薬社製)を加えたヒト末梢血を500μL/ウェルずつ分注し、5%CO2インキュベーター内で37℃、一晩培養した。反応後の各ウェルから150μLずつ反応液を分取し、1%BSA−PBSで洗浄した後に、FITC標識マウス抗CD19モノクローナル抗体(ベックマン・コールター社製)およびPE標識マウス抗CD2モノクローナル抗体(ファーミンジェン社製)を加えて室温、暗所で30分間反応させた。FACS Lysing Solution(ベクトン・ディッキンソン社製)で赤血球除去および細胞固定処理を行い、1%BSA−PBSで洗浄後、固定した細胞を500μLの1%BSA−PBSに懸濁してセルストレーナー(ファルコン社製)で濾過し解析サンプルとして調製した。フローサイトメーターFACS Caliber(ベクトン・ディッキンソン社製)で1サンプルあたり約5,000個のリンパ球画分を測定し、CD2陰性CD19陽性のB細胞の、全細胞に占める比率を求めた。
図9に結果を示した。Ms704/CD20抗体添加条件では、DG44/CD20抗体添加条件よりもB細胞の割合が低下しており、Ms704/CD20抗体のB細胞に対する高いADCC活性が示された。この結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて製造した抗体組成物は、親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗体組成物よりもヒト血漿中において高い細胞傷害活性を有することを確認した。
(3)抗CD20ヒト型キメラ抗体のin vitro細胞傷害活性(ADCC活性)
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載の親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体のin vitro ADCC活性を、実施例3に記載の方法に準じ、ヒトCD20抗原を発現するヒトBリンパ球培養細胞株WIL2−S細胞(ATCC CRL−8885)を標的細胞に用いて測定した。
図10に結果を示した。いずれの抗体濃度においても、Ms704/CD20抗体添加条件では、DG44/CD20抗体添加条件よりもWIL2−S細胞に対する高いADCC活性が示された。
次に、一定量のMs704/CD20抗体にDG44/CD20抗体を添加することで、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の割合を変化させた抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物を調製し、そのADCC活性を測定した。具体的には、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体に0〜300ng/mLのDG44/CD20抗体を添加した抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物を調製した。
図11に結果を示した。3.7ng/mLのMs704/CD20抗体にさらにMs704/CD20抗体を添加すると、総抗体濃度の増加に伴ってADCC活性の上昇が観察されたが、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体にさらにDG44/CD20抗体を添加しても、総抗体濃度が増加するにも関わらず調製した抗体組成物のADCC活性は逆に低下した。このことは、フコースが結合する糖鎖を有する抗体分子が、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体分子のADCC活性を阻害することを示している。また、フコースが結合する糖鎖を有する抗体分子とフコースが結合していない糖鎖を有する抗体分子が混合された抗体組成物においても、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の割合が20%以上の抗体組成物では、該割合が20%未満の抗体組成物に比べ顕著に高いADCC活性を示した。
さらに、1ng/mLのMs704/CD20抗体サンプルと、1ng/mLのMs704/CD20抗体に9倍量の9ng/mLのDG44/CD20抗体を加えた抗体のADCC活性を測定した。
図12に結果を示した。Ms704/CD20抗体のADCC活性はDG44/CD20抗体を加えることで大幅に低下した。また、Ms704/CD20抗体とDG44/CD20抗体の存在比が1対9のまま抗体組成物の抗体濃度を100倍以上に上昇させても、1ng/mLのMs704/CD20抗体サンプルのADCC活性には及ばなかった。
以上のことから、フコースが結合した糖鎖を有する抗体分子が、フコースが結合しない糖鎖を有する抗体分子のADCC活性を阻害していること、従来の抗体組成物では、本発明の抗体組成物と同等のADCC活性を発揮することはできないことが明らかとなった。
なお、本発明の製造法で製造した他の抗体組成物においても同様の結果が得られた。
実施例2第6項で取得した、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンが生産した抗CD20抗体、抗GD3抗体および抗CCR4抗体の中性糖・アミノ糖組成分析を、以下の様にして行った。
抗体を遠心濃縮機で減圧下乾固した後、2.0−4.0mol/Lのトリフルオロ酢酸溶液を加えて100℃、2−4時間酸加水分解を行い、タンパク質から中性糖・アミノ糖を遊離した。トリフルオロ酢酸溶液を遠心濃縮機で除去し、脱イオン水に再溶解してDionex社製糖分析装置(DX−500)を用いて分析を行った。CarboPac PA−1カラム、CarboPac PA−1ガードカラム(Dionex社製)を用い、溶離液として10−20mM水酸化ナトリウム−脱イオン水溶解液、洗浄液として500mM水酸化ナトリウム−脱イオン水溶解液を使用して、以下の溶出プログラムで分析した。
得られた中性糖・アミノ糖成分のピーク面積から、N−アセチルグルコサミン比を4とした場合の各成分(フコース、ガラクトース、マンノース)の組成比を算出した。
各抗体の単糖組成比をもとに、全複合型糖鎖に占めるフコースを持たない複合型糖鎖の割合を計算した結果、FUT8遺伝子ダブルノックアウトクローンが生産した抗CD20抗体、抗GD3抗体および抗CCR4抗体の複合型糖鎖には、フコースが結合していないことが示された。
実施例5 FUT8遺伝子をダブルノックアウトしたCHO/DG44細胞の無蛋白培地への馴化
実施例1で作製したFUT8ダブルノックアウトCHO/DG44細胞である4−5−C3株の無蛋白培地への馴化を行った。
IMDM培地(インビトロジェン社製)に1%(v/v)HTサプルメント(インビトロジェン社製)及び10%(v/v)牛胎児血清(dFBS;インビトロジェン社製)を含有してなる血清添加培地(以下、「基本血清培地」という)を作製した。該培地を用い4−5−C3株を2〜4×105細胞/mLの細胞密度でT型フラスコに接種し、継代期間を2〜4日間として、37℃で5%CO2濃度で静置培養を行った。継代時には、遠心分離により培養液から新鮮培地への全量交換を実施した。
上記継代培養で得られた細胞を用い、EX−CELL325PF(JRH社製)に1%(v/v)HTサプルメント(インビトロジェン社製)及び6mMグルタミン(インビトロジェン社製)を含有してなる無蛋白培地(以下、「基本無蛋白培地」という)により6継代29日間の静置継代培養を行った。培養は、血清培養時と同様、T型フラスコを用い37℃で5%CO2濃度の条件で行った。引き続き基本無蛋白培地にて、三角フラスコを用いた浮遊旋回培養を6継代20日間行った。培養温度は35℃、旋回速度は90〜100rpmとし、継代の際には、培養容器の4倍量以上の5%濃度CO2を培地上面に通気し、三角フラスコ中の空気を置換して継代した。
上述の基本無蛋白培地を用いた継代培養により、培養初期には細胞凝集し増殖しなかった細胞を、最終的には基本無蛋白培地で継代可能な馴化細胞に変換することができた。
次に、取得した無蛋白培地に馴化させた4−5−C3株を、限界希釈法により、以下のようにクローニングした。
基本無蛋白培地を用いて取得した馴化細胞を希釈し、96ウエルプレートに0.5細胞/ウエルで、1ウエルあたり0.05mLずつ接種した。続いて、滅菌フィルターを用いて滅菌処理を施した馴化細胞株の培養上清(コンデイションメディウム)を1ウエルあたり0.05mLずつ加えた。合計768ウエルに播種し1〜2週間培養した結果、単一のコロニー増殖を確認した49クローンを得た。取得した49クローンを24ウエルプレート、6ウエルプレートへと拡大培養し、取得した個々のクローン増殖性を考慮し、増殖性の良い17クローンを選択した。選択された17クローンを混合し、無蛋白培地馴化細胞とした。
得られた無蛋白培地馴化細胞を無蛋白培地で継代した際の、生細胞密度、生存率の推移を示した。結果を図6に示す。
図6に示される通り、上記方法で得られた無蛋白培地馴化細胞は、低い細胞密度で培地に培養した後、2〜3日間で3倍の細胞量に増殖している。このことは、親株である無蛋白培地馴化前の細胞株とは異なり、基本無蛋白培地を用いて培養しても安定して継代培養を行うことができるように変換されていることを示している。
実施例6 無蛋白培地に馴化した、FUT8遺伝子ダブルノックアウトCHO/DG44細胞の無血清フェドバッチ培養
実施例5で取得した無蛋白培地馴化細胞を用いて、フェドバッチ培養を行った。
基本無蛋白培地を用いて2×105細胞/mLの細胞密度に無蛋白培地馴化細胞を調製した。125mLの三角フラスコに調製した無蛋白培地馴化細胞を15mL加え、培養温度35℃、旋回速度100rpmで3日間培養した。なお、細胞播種の際には、500mL以上の5%濃度CO2を培地上面に通気し、三角フラスコ中の空気を置換した。3日間の培養で得られた細胞を種細胞として、基本無蛋白培地を用いて3×105細胞/mLの細胞密度に調製後、125mLの三角フラスコに30mL播種し、培養温度35℃旋回速度100rpmでフェドバッチ培養を開始した。細胞を播種する際には、1L以上の5%濃度CO2を培地上面に通気することでフラスコ内の空気を置換した。フェドバッチ培養開始後、アミノ酸などの消費量を補う目的で培養3日目、6日目に3.3mlずつ以下に示す組成のフィード培地を添加した。また、培養3日目に、グルコースの終濃度が5000mg/Lとなるよう、20%(w/v)グルコース溶液を添加した。その結果を図7に示す。細胞は培養開始から3日目後まで増殖し、3〜6日目まではその細胞密度がほぼ維持された。培養6日目の生細胞密度は2×106細胞/mlまで達した。培養開始から6日を過ぎると生存率が急速に低下し、9日目には細胞生存率が50%を切り、フェドバッチ培養を終了した。
なお、フェドバッチ培養に用いたフィード培地は、通常の培地にアミノ酸(L−アラニン0.177g/L、L−アルギニン一塩酸0.593g/L、L−アスパラギン一水和物0.177g/L、L−アスパラギン酸0.212g/L、L−シスチン二塩酸0.646g/L、L−グルタミン酸0.530g/L、L−グルタミン5.84g/L、グリシン0.212g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.297g/L、L−イソロイシン0.742g/L、L−ロイシン0.742g/L、L−リジン一塩酸1.031g/L、L−メチオニン0.212g/L、L−フェニルアラニン0.466g/L、L−プロリン0.283g/L、L−セリン0.297g/L、L−スレオニン0.671g/L、L−トリプトファン0.113/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.735g/L、L−バリン0.664g/L)、ビタミン(d−ビオチン0.0918mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.0283g/L、塩化コリン0.0283g/L、葉酸0.0283g/L、myo−イノシトール0.0509g/L、ナイアシンアミド0.0283g/L、ピリドキサール塩酸0.0283g/L、リボフラビン0.00283g/L、チアミン塩酸0.0283g/L、シアノコバラミン0.0918mg/L)、インシュリン0.314g/Lを添加した培地であった。
実施例7 無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウトCHO/DG44細胞による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造とその生物活性
実施例6記載の無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて、抗CD20ヒト型キメラ抗体の安定生産細胞を樹立し、抗CD20ヒト型キメラ抗体の生産性ならびに生産された抗体の生物活性を評価した。その際、無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞による高ADCC活性抗体製造の優位性を示す目的で、FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞の親株であるCHO/DG44細胞、Stanleyらによって樹立されたCHO細胞のGDP−マンノース−4,6−デヒドラターゼ変異株Lec13細胞(Somat.Cell Mol.Genet.12,51(1986))、およびラット−ラットハイブリドーマYB2/0細胞(American Type Culture Collection CRL−1662)からも抗CD20ヒト型キメラ抗体生産株を樹立して比較を行った。Lec13およびYB2/0細胞では、フコースが結合していない糖鎖の割合が高い高ADCC活性抗体の発現が可能であることが報告されているため比較対照とした(J.Biol.Chem.,277,30,26733,(2002);WO02/31140)。
1.抗CD20ヒト型キメラ抗体安定生産株の造成
実施例6記載の無蛋白培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞、CHO/DG44細胞およびLee13細胞に、実施例2の2項に記載の方法に従って抗CD20ヒト型キメラ抗体発現ベクターpKANTEX2B8Pを導入し、96ウェルカルチャープレート(グライナー社製)に播種して5%CO2インキュベーター内で37℃、l〜2週間培養した。IMDM−dFBS(10)培地中で増殖が認められたウェルの形質転換株については、dhfr遺伝子増幅系を利用して抗体産生量を増加させる目的で、MTX(シグマ社製)を50nmol/L含むIMDM−dFBS(10)培地に交換してさらに1〜2週間培養した。50nmol/LのMTXに耐性を示す形質転換株については、MTX濃度をさらに上昇させて培養を続けた。培養上清中への抗CD20ヒト型キメラ抗体の発現を実施例2の5項に記載のELISA法により測定し、最終的にMTXを200、500または1000nmol/Lの濃度で含むIMDM−dFBS(10)培地で増殖可能かつ、抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を選抜した。YB2/0細胞については、WO03/055993に記載の方法に従って抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を選抜した。
次に、このようにして得られた抗CD20ヒト型キメラ抗体を高生産する形質転換株を実施例5に記載の方法に準じて無血清培地に馴化した。無蛋白培地馴化FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞、CHO/DG44細胞およびLec13細胞から樹立した各形質転換株の無血清培地への馴化には、MTXを200、500または1000nmol/L、L−グルタミン(インビトロジェン社製)を6mMの濃度で含むEX−CELL302培地(JRH社製)(以下、無血清培地と表記)を用いた。YB2/0細胞から樹立した形質転換株の無血清培地への馴化には、CD−Hybridoma培地(インビトロジェン社製)(以下、無血清培地と表記)を用いた。このようにして無蛋白培地馴化FUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞より樹立した形質転換株をMs704/CD20株、CHO/DG44細胞より樹立した形質転換株をDG44/CD20株、Lec13細胞より樹立した形質転換株をLec13/CD20株、YB2/0細胞より樹立した形質転換株をYB/CD20株と名付けた。なお、Ms704/CD20株は、平成16年8月13日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP−10092として寄託されている。
2.三角フラスコ無血清フェドバッチ培養による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造
本実施例の1項で樹立したMs704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株を用い、三角フラスコでの無血清フェドバッチ培養を行い、各株による抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造を行った。
(1)三角フラスコでの無血清フェドバッチ培養
フェドバッチ培養の基礎培地には、前項の無血清培地に20%(w/v)グルコース溶液を終濃度5000mg/Lとなるように追添加した培地を使用した(以下、無血清フェドバッチ培養培地と表記)。フィード培地には、各種のアミノ酸(L−アラニン0.177g/L、L−アルギニン一塩酸0.593g/L、L−アスパラギン一水和物0.177g/L、L−アスパラギン酸0.212g/L、L−シスチン二塩酸0.646g/L、L−グルタミン酸0.530g/L、L−グルタミン5.84g/L、グリシン0.212g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.297g/L、L−イソロイシン0.742g/L、L−ロイシン0.742g/L、L−リジン一塩酸1.031g/L、L−メチオニン0.212g/L、L−フェニルアラニン0.466g/L、L−プロリン0.283g/L、L−セリン0.297g/L、L−スレオニン0.671g/L、L−トリプトファン0.113g/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.735g/L、L−バリン0.664g/L)、各種のビタミン(d−ビオチン0.0918mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.0283g/L、塩化コリン0.0283g/L、葉酸0.0283g/L、myo−イノシトール0.0509g/L、ナイアシンアミド0.0283g/L、ピリドキサール塩酸0.0283g/L、リボフラビン0.00283g/L、チアミン塩酸0.0283g/L、シアノコバラミン0.0918mg/L)、およびインシュリン0.314g/Lを含有する培地を用いた。
Ms704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株を、3×105細胞/mLの密度で無血清フェドバッチ培養培地に懸濁し、該細胞懸濁液40mLを250mL三角フラスコ(コーニング社製)に播種した。培養容器の4倍量以上の5%CO2ガスを通気してフラスコ内の空気を置換した後に密栓し、回転数90〜100rpmで攪拌しながら35℃にて培養を行った。培養開始後3日目、6日目、9日目、11日目に、アミノ酸などの消費を補う目的で上記のフィード培地を3.3mL添加し、グルコース濃度を制御する目的で20%(w/v)グルコース溶液を終濃度5000mg/Lとなるように添加した。また培養開始後0日目、3日目、6日目、9日目、11日目、13日目に培養液約2mLを採取し、トリパンブルー染色法により生細胞密度と細胞生存率を、実施例3の2項に記載のELISA法により各培養上清中に含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体濃度をそれぞれ測定した。
フェドバッチ培養は、それぞれの細胞株の細胞生存率が60%以下となった時点で終了した。培養開始後の各時点におけるMs704/CD20株の生細胞密度、細胞生存率はDG44/CD20株と同等以上であった。一方、Lec13/CD20株は、増殖性が遅く最高細胞到達密度も低かった。また、YB/CD20株は最高細胞到達密度に達した後急激に細胞生存率が低下し長期のフェドバッチ培養は困難であった。また、抗体生産量については、いずれの株においても累積生細胞密度に比例して抗体蓄積量が増加し、培養終了時に最高生産量に達した。従って、FUT8遺伝子を破壊した細胞株においても、親株に比べて細胞増殖性や培養ストレスによる生存能力に差は見られず、他のフコースが結合していない糖鎖の割合が高い高ADCC活性抗体の発現が可能な株に比べて良い培養挙動を示すことが明らかとなった。
(2)無血清フェドバッチ培養において製造された抗体組成物の生物活性の解析
上記(1)の無血清フェドバッチ培養で、Ms704/CD20株、DG44/CD20株、Lec13/CD20株およびYB/CD20株から経日的に採取した培養液を用い、それぞれの培養液中に含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物のフコースが結合していない糖鎖の割合を解析した。フコースが結合していない糖鎖の割合は、Biotechnology and Bioengineering,87,618,(2004)に記載の公知の方法に基づき、可溶性ヒトFcγRIIIa(以下、shFcγRIIIaと表記)に対する結合活性を指標にしたELISA法により測定した。フコースが結合していない糖鎖の割合が既知の標準抗体としては、WO03/085119の実施例4の5項に記載のKM2760−1(フコースが結合していない糖鎖の割合:90%)、およびKM3060(フコースが結合していない糖鎖の割合:10%)を用いた。上記(1)で各株から採取した培養液および標準抗体は1%BSA−PBSで希釈し、5μg/mLの抗体溶液に調製し評価サンプルとした。
測定の結果、DG44/CD20株のサンプルは、いずれもshFcγRIIIaに対する結合活性がほとんど認められず、フコースが結合した糖鎖構造を有する抗体組成物を含むことが判明した。Lec13/CD20株とYB/CD20株のサンプルは、培養初期にはフコースが結合していない糖鎖の割合が高い抗体組成物を含むが、培養期間が長くなるにつれてフコースが結合した糖鎖構造を有する抗体組成物の割合が高くなることが判明した。Lec13/CD20株のフェドバッチ培養終了時のサンプルに含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体のフコースが結合してない糖鎖の割合は、60%以下であった。一方、Ms704/CD20株のサンプルは、培養期間を通じて安定してshFcγRIIIaへの強い結合活性を示した。Ms704/CD20株のサンプルに含まれる抗CD20ヒト型キメラ抗体のフコースが結合していない糖鎖の割合を、標準抗体でのELISAの吸光度をもとに算出したところ、培養期間を通じて100%に保たれていると見積もられた。
以上の結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞は、三角フラスコを用いた無血清フェドバッチ培養において、N−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖を持つ抗体組成物を安定に生産できることが判明した。
3.浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養によるフコースが結合していない糖鎖を有する抗CD20ヒト型キメラ抗体の製造
本実施例の2項で無血清培地に馴化したMs704/CD20株が、抗体医薬の商業的な生産に用いられる浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養においても、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の安定製造が可能か否かを検討した。
(1)シード細胞の拡大培養
リアクター培養に至るまでの拡大培養を行う培地として、MTXを500nM、L−グルタミンを1.75g/Lの濃度で含むEX−CELL302培地(以下、拡大培養用培地と表記)を用いた。125mL、250mLまたは1000mL容量の三角フラスコ(コーニング社製)に約10〜30%量の拡大培養用培地を入れ、3×105細胞/mLとなるように細胞懸濁液を播種し、37℃で4日間培養した。リアクター培養の播種に必要な細胞数が得られるまで複数回継代を繰り返した。
(2)リアクター培養
リアクター培養の基本培地として、(1)の拡大培養用培地にMTXを500nM、L−グルタミンを1.75g/Lとなるように追添加した培地(以下、リアクター培養用培地と表記)を用いた。
上記の拡大培養により必要な細胞数を獲得したところで、リアクター培養用培地700mLを満たした1Lバイオリアクター(ABLB社製)に3×105細胞/mLとなるように細胞を播種し、35℃、pH7.1、DO 50%の条件下で17日間培養した。フィード培地には、アミノ酸(L−アラニン0.14g/L、L−アルギニン一塩酸0.47g/L、L−アスパラギン一水和物0.16g/L、L−アスパラギン酸0.17g/L、L−シスチン二塩酸0.51g/L、L−グルタミン酸0.42g/L、L−グルタミン7.3g/L、グリシン0.17g/L、L−ヒスチジン一塩酸二水和物0.24g/L、L−イソロイシン0.59g/L、L−ロイシン0.59g/L、L−リジン一塩酸0.82g/L、L−メチオニン0.17g/L、L−フェニルアラニン0.37g/L、L−プロリン0.22g/L、L−セリン0.24g/L、L−スレオニン0.53g/L、L−トリプトファン0.09g/L、L−チロシン二ナトリウム二水和物0.58g/L、L−バリン0.53g/L)、ビタミン(d−ビオチン0.073mg/L、D−パントテン酸カルシウム0.022g/L、塩化コリン0.022g/L、葉酸0.022g/L、myo−イノシトール0.040g/L、ナイアシンアミド0.022g/L、ピリドキサール塩酸0.022g/L、リボフラビン0.0022g/L、チアミン塩酸0.022g/L、シアノコバラミン0.073mg/L)、リコンビナントヒトインスリン0.31g/L(JRH社製)、エタノールアミン0.025g/L(シグマ−アルドリッチ社製)、2−メルカプトエタノール0.0098g/L(シグマ−アルドリッチ社製)、大豆加水分解物HY−SOY 8g/L(クウェストインターナショナル社製)、亜セレン酸ナトリウム16.8マイクロg/L(シグマ−アルドリッチ社製)、コレステロール脂質濃縮溶液2mL/L(250×水溶液、インビトロジェン社製)、エチレンジアミン四酢酸第二鉄ナトリウム塩0.05g/L(シグマ−アルドリッチ社製)からなる培地を用い、培養3、5、7、9、11日目に初発培地量の8.3%を添加した。また、培養3日目以降のグルコース濃度が約4g/Lとなるように、500g/Lグルコース溶液を適宜添加した。
培養開始から培養終了まで培養液を毎日1回ずつ採取し、生細胞密度(細胞/mL)および細胞生存率を0.4%トリパンブルー溶液(インビトロジェン社製)を用いた色素排除法により、抗体濃度(mg/L)をHPLCによりそれぞれ測定した。
比抗体生産速度を以下の式より算出した。なお累積生細胞密度(細胞/mL×日)は、各測定時点で生細胞密度(細胞/mL)と単位時間(日)の積を計算し、それらを合計した値とした。本実施例では、生細胞密度を1日1回測定したので、各時点の生細胞密度×1日を合計して累積生細胞密度とした。
比抗体生産速度(pg/細胞/日)=抗体濃度(mg/L)÷累積生細胞密度(細胞/mL×日)
浮遊撹拌リアクター無血清フェドバッチ培養を行った結果を図8に示した。生細胞密度は培養13日目に最大に達した。細胞生存率は培養開始から培養13日目まで90%以上の高い値を維持し、その後は徐々に低下して培養17日目では12%となった。累積生細胞密度は17日間で5.6×107細胞/mL×日、培養終了時の抗体濃度は1.7g/Lに達し、比抗体生産速度は30pg/細胞/日を示した。この結果は、標準的な抗体医薬の製造力価である0.5〜1.0g/Lを超えるものであった。また、培養開始後5、7、14、17日目に採取した培養液より精製した抗体からN−グリカナーゼFにてアスパラギン結合型糖鎖を遊離した。除蛋白、イオン交換樹脂による脱塩の後、質量分析計にて糖鎖構造を解析した。培養開始後5、7、14、17日目のいずれの時点においてもフコースが結合した糖鎖は検出限界以下であり、フコースが結合していないN−グリコシド結合複合型糖鎖を有する抗体が安定して製造されていた。
以上の結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞は、抗体医薬の商業的な生産に用いられる浮遊撹拌リアクターでの無血清フェドバッチ培養においても、N−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖を持つ抗体組成物を安定的に高生産できることを確認した。
4.無血清フェドバッチ培養により製造されたフコースが結合していない抗体組成物の生物活性
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、Ms704/CD20抗体とも称す)の生物活性を測定し、本製造法で製造した抗体組成物の優位性を確認した。比較対照としては、市販抗体の生産にも用いられているCHO/DG44細胞を用いて製造した本実施例の2項記載の抗CD20ヒト型キメラ抗体(以下、DG44/CD20抗体とも称す)を用いた。
(1)抗CD20ヒト型キメラ抗体のCD20抗原発現細胞株に対する抗原結合活性
WO03/055993の実施例2の1項に記載の蛍光抗体法に従って測定した結果、FACS解析によるRaji細胞への抗体染色強度に差は観察されず、本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載のCHO/DG44細胞を用いて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体の抗原結合活性に相違は観察されなかった。従って、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて製造を行っても、親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗体組成物と同等の抗原結合活性を有することを確認した。
(2)抗CD20ヒト型キメラ抗体のex vivo細胞傷害活性(ADCC活性)
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載のCHO/DG44細胞を用いて製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体のヒト末梢血中でのADCC活性を、以下の様にして測定した。
24ウェル平底プレート(グライナー社製)の各ウェルに、ダルベッコPBS(インビトロジェン社)で希釈したMs704/CD20抗体およびDG44/CD20抗体を、100μL/ウェルずつ分注した。次いで、健常人から採取しヘパリンナトリウム(清水製薬社製)を加えたヒト末梢血を500μL/ウェルずつ分注し、5%CO2インキュベーター内で37℃、一晩培養した。反応後の各ウェルから150μLずつ反応液を分取し、1%BSA−PBSで洗浄した後に、FITC標識マウス抗CD19モノクローナル抗体(ベックマン・コールター社製)およびPE標識マウス抗CD2モノクローナル抗体(ファーミンジェン社製)を加えて室温、暗所で30分間反応させた。FACS Lysing Solution(ベクトン・ディッキンソン社製)で赤血球除去および細胞固定処理を行い、1%BSA−PBSで洗浄後、固定した細胞を500μLの1%BSA−PBSに懸濁してセルストレーナー(ファルコン社製)で濾過し解析サンプルとして調製した。フローサイトメーターFACS Caliber(ベクトン・ディッキンソン社製)で1サンプルあたり約5,000個のリンパ球画分を測定し、CD2陰性CD19陽性のB細胞の、全細胞に占める比率を求めた。
図9に結果を示した。Ms704/CD20抗体添加条件では、DG44/CD20抗体添加条件よりもB細胞の割合が低下しており、Ms704/CD20抗体のB細胞に対する高いADCC活性が示された。この結果から、無血清培地に馴化したFUT8遺伝子ダブルノックアウト細胞を用いて製造した抗体組成物は、親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗体組成物よりもヒト血漿中において高い細胞傷害活性を有することを確認した。
(3)抗CD20ヒト型キメラ抗体のin vitro細胞傷害活性(ADCC活性)
本実施例の3項で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体と、本実施例の2項記載の親株であるCHO/DG44細胞で製造した抗CD20ヒト型キメラ抗体のin vitro ADCC活性を、実施例3に記載の方法に準じ、ヒトCD20抗原を発現するヒトBリンパ球培養細胞株WIL2−S細胞(ATCC CRL−8885)を標的細胞に用いて測定した。
図10に結果を示した。いずれの抗体濃度においても、Ms704/CD20抗体添加条件では、DG44/CD20抗体添加条件よりもWIL2−S細胞に対する高いADCC活性が示された。
次に、一定量のMs704/CD20抗体にDG44/CD20抗体を添加することで、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の割合を変化させた抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物を調製し、そのADCC活性を測定した。具体的には、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体に0〜300ng/mLのDG44/CD20抗体を添加した抗CD20ヒト型キメラ抗体組成物を調製した。
図11に結果を示した。3.7ng/mLのMs704/CD20抗体にさらにMs704/CD20抗体を添加すると、総抗体濃度の増加に伴ってADCC活性の上昇が観察されたが、3.7ng/mLのMs704/CD20抗体にさらにDG44/CD20抗体を添加しても、総抗体濃度が増加するにも関わらず調製した抗体組成物のADCC活性は逆に低下した。このことは、フコースが結合する糖鎖を有する抗体分子が、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体分子のADCC活性を阻害することを示している。また、フコースが結合する糖鎖を有する抗体分子とフコースが結合していない糖鎖を有する抗体分子が混合された抗体組成物においても、フコースが結合していない糖鎖を有する抗体の割合が20%以上の抗体組成物では、該割合が20%未満の抗体組成物に比べ顕著に高いADCC活性を示した。
さらに、1ng/mLのMs704/CD20抗体サンプルと、1ng/mLのMs704/CD20抗体に9倍量の9ng/mLのDG44/CD20抗体を加えた抗体のADCC活性を測定した。
図12に結果を示した。Ms704/CD20抗体のADCC活性はDG44/CD20抗体を加えることで大幅に低下した。また、Ms704/CD20抗体とDG44/CD20抗体の存在比が1対9のまま抗体組成物の抗体濃度を100倍以上に上昇させても、1ng/mLのMs704/CD20抗体サンプルのADCC活性には及ばなかった。
以上のことから、フコースが結合した糖鎖を有する抗体分子が、フコースが結合しない糖鎖を有する抗体分子のADCC活性を阻害していること、従来の抗体組成物では、本発明の抗体組成物と同等のADCC活性を発揮することはできないことが明らかとなった。
なお、本発明の製造法で製造した他の抗体組成物においても同様の結果が得られた。
本発明により、無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞、該細胞を用いた糖蛋白質組成物の製造方法および該製造方法で製造された糖蛋白質組成物が提供される。
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Claims (27)
- 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
- 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム上の対立遺伝子のすべてがノックアウトされた、請求項1に記載の細胞。
- 無血清培地に馴化した、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子の開始コドンを含むエクソン領域の部分が欠失した、請求項1または2に記載の細胞。
- N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α−1,6−フコシルトランスフェラーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞。
- α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)または(b)から選ばれるDNAがコードする蛋白質である、請求項4に記載の細胞。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。 - α−1,6−フコシルトランスフェラーゼが、以下の(a)、(b)及び(c)からなる群から選ばれる蛋白質である、請求項4に記載の細胞。
(a)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号5で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質;
(c)配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質。 - N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞。
- 耐性が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンを含む培地で培養した場合に、ゲノム遺伝子がノックアウトされる以前の細胞よりも高い生存率を示すことを特徴とする耐性である、請求項7に記載の細胞。
- 無血清培地が無蛋白培地である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞。
- 糖蛋白質をコードする遺伝子を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞。
- 糖蛋白質が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を有さない糖蛋白質である請求項10に記載の細胞。
- 糖蛋白質が、抗体である請求項10または11に記載の細胞。
- 抗体のクラスがIgGである、請求項12に記載の細胞。
- 請求項1〜13のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、糖蛋白質組成物を製造する方法。
- 請求項1〜13のいずれか1項に記載の細胞を培地に培養し、培養物中に糖蛋白質組成物を生成蓄積させ、該培養物から糖蛋白質組成物を採取し、精製する工程を含む、糖蛋白質組成物を製造する方法。
- 糖蛋白質組成物を製造する方法が、バッチ培養、フェドバッチ培養またはパーフュージョン培養である、請求項14または15に記載の方法。
- 培養中に、栄養因子および生理活性物質から選ばれる少なくとも一種を培地に添加する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
- 栄養因子がグルコース、アミノ酸およびビタミンから選ばれる少なくとも一種である、請求項17に記載の方法。
- 生理活性物質が、インスリン、インスリン様増殖因子、トランスフェリンおよびアルブミンから選ばれる少なくとも一種である、請求項17に記載の方法。
- 糖蛋白質組成物が、抗体組成物である請求項14〜19のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞密度を1×105〜1×106細胞/mlとなるように馴化培地へ接種することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞の無血清培地への馴化方法。
- 請求項21に記載の方法で細胞を無血清培地に馴化させた後、クローン化することを特徴とする、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞株を取得する方法。
- 請求項21に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞。
- 請求項22に記載の方法で得られる、無血清培地に馴化したN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされたクローン細胞株。
- 無血清培地が無蛋白培地である、請求項21または22に記載の方法。
- 無血清培地が無蛋白培地である、請求項23に記載の細胞。
- 無血清培地が無蛋白培地である、請求項24に記載のクローン細胞株。
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