JPWO2004105503A1 - 飲食品の呈味および/または風味の改善方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、以下の酵素特性を示す微生物由来のアミノペプチダーゼを、必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることによって、呈味、風味の改善された飲食品を製造する方法を開示する:(a)ペプチド及び/又はタンパク質のN末端からグルタミン酸、アスパラギン酸を特異的に遊離する反応を触媒する活性を有する、(b)pH6.0〜9.0において至適pHでの活性の50%以上の活性を有する、(c)pH7.5、25〜60℃30分加熱において、未加熱時の活性の40%以上の活性を有する、(d)SDS−PAGFにより測定した分子量が約40〜60kDであり、native−PAGEにより測定した分子量が約300〜480kDである、(e)Glu−Gluペプチドに対する分解活性が5U/mg以上、好ましくは10U/mg以上を示す。

Description

本発明は、調味料、調味料素材等の飲食品の呈味および/または風味の改善方法に関する。
酵素を用いた呈味および/または風味の改質法として既に多くの報告がある。例えばうま味を強化する方法としてプロテアーゼやペプチダーゼを併用して遊離アミノ酸を増加する手段が知られている。この様な手段は天然系調味料製造だけでなく、肉質味改良の際にも用いられる(特開平05−276899)。また特開平11−075765や特開平07−115969で報告されているようにプロリンに特異的に作用する酵素を使用する方法がある。プロテアーゼ反応時にγ−GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)を利用してグルタミン酸を増強する方法(特開平07−099923)や、グルタミンをグルタミナーゼでグルタミン酸に変換し、うま味を増強する方法も知られている。本特許記載のペプチダーゼもグルタミン酸やアスパラギン酸を特異的に遊離するため、うま味強化の作用を有することを既に報告している(特開2000−325090)。
例えば、醤油、味噌、その他のタンパク質加水分解物を含む天然調味料の製造に、麹菌が利用されている。たとえば、醤油は、製麹および発酵の2段階を経て製造される。主として、製麹段階において、麹菌(アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌)が生産する酵素によって原料が分解される。その際、醤油中の呈味性をよくするためには、諸味中の遊離アミノ酸の量、特にグルタミン酸の遊離量を上昇させることが重要である。
一般にアミノ酸は、原料タンパク質から2つの段階を経て生成される。第一は、プロテアーゼによるタンパク質からのペプチドの放出であり、第二はペプチダーゼによって触媒されるペプチドの加水分解によるアミノ酸の生成である。
浅野らはダイズが、その発芽過程において、種子中の貯蔵タンパク質を非常に短時間にアミノ酸まで分解することに着目し、ダイズ子葉中よりペプチダーゼ類(酸性アミノ酸含有ペプチドを効率的に分解するアミノペプチダーゼ、及びロイシンアミノペプチダーゼ群)を見出し、ダイズタンパク質の効率的な加水分解を、行うことに成功した(特開平9−294583号)。
ダイズのアミノペプチダーゼはその酵素学的諸性質から、それまでに報告されていない新規なアミノペプチダーゼであることが明らかにされた酵素であり、発芽ダイズ以外にはその存在は知られていなかった。ダイズのアミノペプチダーゼはN末端にグルタミン酸などの酸性アミノ酸を有するペプチドから、効率的にN末端の酸性アミノ酸を遊離する活性を有する。醤油等のタンパク質加水分解物を含む天然調味料には、難分解性のペプチドとしてグルタミン酸2残基からなるジペプチドが多量に含まれていることが知られている。従って、ダイズのアミノペプチダーゼの作用により、このような難分解性ジペプチドを分解し、グルタミン酸の遊離率が高く呈味性の優れた調味液の製造が可能である。
二宮らはダイズのアミノペプチダーゼを遺伝子組換え技術を用いて大量生産することに成功した(特開2000−325090)が、この方法により生産したダイズのアミノペプチダーゼGXを調味液製造に利用することは、ダイズ由来ペプチダーゼが食品用酵素として認められていないために実用化は困難である。また、組換え体ダイズは、温度安定性が悪く、50℃以上での反応を行うことに適さず、実用面での課題も残っている。
食品用微生物種を多く含む麹菌のペプチダーゼについては、アスペルギルス・オリゼやアスペルギルス・ソーヤ由来のもの(特開平11−346777号、DE95−1952648、WO 98/51163、WO 96/28542、WO 96/15504、WO 98/51803、WO 98/14599)について報告されている。そのなかで、ロイシンアミノペプチダーゼについての報告は多いが、ダイズのアミノペプチダーゼGXのような、呈味性に優れるグルタミン酸を効率良く遊離する酵素活性を有するペプチダーゼの報告はない。例えば、鯉渕らは、ダイズのアミノペプチダーゼと相同性のあるアスペルギルス・ニジュランス(A.nidulans)ESTをプローブとしてアスペルギルス・ニジュランスのゲノムDNAライブラリーをスクリーニングし、アスペルギルス・ニジュランスの新規アミノペプチダーゼをコードするDNAを取得した(WO 02/077223)。しかし、得られた新規アミノペプチダーゼは、ダイズGXと40%近い配列相同性があるにもかかわらず活性化にコバルトイオン、或いは亜鉛イオンを必要とするロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)活性を有する酵素であった。このように、ダイズのアミノペプチダーゼ様の特性を有する酵素はダイズ以外からは取得されていない。また、上述のように、配列の相同性からだけではダイズのアミノペプチダーゼ様活性の有無は判断できないことが示されている。
なお、2003年3月31日、独立行政法人酒類総合研究所HPにて、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40)のESTデータベースが公開になり配列の検索が可能となっている。
一方、甘味の増強法として糖質分解酵素や当該酵素を有する微生物を利用して、あるいは当該酵素に更に別の手段を併用して、甘味並びに風味を改質する方法が知られている。例えば特開平09−299094では糖質と酵素または微生物を反応させた後、アルコール発酵を行って風味を改質している。また特開平09−299094では糖分解酵素と糖転移・縮合反応作用により甘味質の改善に成功している。更に特開2003−153651では渋味の多い茶葉原料や乾燥茶葉にタンニン分解、多糖類分解、タンパク質分解を行う分解酵素を作用させて渋味を少なくして、甘みや旨味を増加している。しかしペプチダーゼ単独の作用により甘味を増強する方法は報告されていない。
塩カド感の低減法として各種エキス(特開2002−034496)や酵母で処理(特開平11−276113)する方法、あるいはダイズミネラル濃縮物(特開平05−049439)の添加などが報告されている。しかしペプチダーゼ処理により塩カド感を低減した例は知られていない。
また、酵素による風味・呈味の全般的な改質方法に関しては以下の手法が報告されている。卵黄の風味改善法にはホスホリパーゼが使用されており、特開2002−325559ではホスホリパーゼA1の効果が明記されている。特開2002−253171ではγ−グルタミルトランスペプチダーゼで苦味アミノ酸をγ−グルタミル化し、苦味低減、酸味増加、及び呈味性改善に成功している。また特開2000−327692では糖転移酵素を作用させてイソフラボンの味質と溶解性を改善している。これら以外にもグルタミン酸脱炭酸酵素による呈味改善食品素材製法(特開2000−166502)、グルタミナーゼ酵素でテアニンを合成し風味改善組成物を提供する方法(特開平09−313129)、β−プリメベロシダーゼを用いた食品フレーバー改善法(特開平08−140675)、リパーゼ酵素剤を用いる油脂風味の改質法(特開平07−135972)、乳酸菌とリパーゼ、プロテアーゼ併用によるパンの風味改善法など様々な手段が知られているが、ペプチダーゼのみの使用で風味・呈味を改質する方法は知られていない。
本発明はグルタミン酸、アスパラギン酸の含量が高く、呈味および/または風味の改善された飲食品の製造方法を提供することを目的とする。
本研究者らは上記課題を解決するために、ダイズ由来アミノペプチダーゼGX遺伝子と相同性のあるアスペルギルス・ニジュランス(A.nidulans)ESTを基に、5’RACE法を用いてダイズ由来アミノペプチダーゼ様活性を有するアスペルギルス・ニジュランス由来の新規アミノペプチダーゼをコードするDNAを取得し、さらに、得られた配列情報に基づいてダイズ由来アミノペプチダーゼ様活性を有するアスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー、酵母、コリネ菌由来の新規アミノペプチダーゼをコードするDNAを取得した。さらに、これらのアミノペプチダーゼを必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることにより、特に遊離グルタミン酸量が増加し、呈味および/または風味の増強された飲食品を製造し得ることを見いだした。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)以下の酵素特性を示す微生物由来のアミノペプチダーゼを、必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることを含む、呈味および/または風味の改善された飲食品の製造方法:
(a)ペプチド及び/又はタンパク質のN末端からグルタミン酸、アスパラギン酸を特異的に遊離する反応を触媒する活性を有する;
(b)pH6.0〜9.0において至適pHでの活性の50%以上の活性を有する;
(c)pH7.5、25〜60℃、30分加熱において、未加熱時の活性の40%以上の活性を有する;
(d)SDS−PAGEにより測定した分子量が約40〜60kDであり、native−PAGEにより測定した分子量が約300〜480kDである;および、
(e)Glu−Gluジペプチドに対する分解活性が5U/mg以上、好ましくは10U/mg以上を示す。
(2)アミノペプチダーゼが、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、(1)記載の方法。
(3)アミノペプチダーゼが、配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、(1)記載の方法。
(4)アミノペプチダーゼが、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、(1)記載の方法。
(5)アミノペプチダーゼが、配列番号12に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号12に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、(1)記載の方法。
(6)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼを必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることを含む、呈味および/または風味の改善された飲食品の製造方法。
(7)アミノペプチダーゼが形質転換微生物により生産されるものである(1)〜(6)のいずれか1に記載の方法。
(8)飲食品が調味料又はタンパク質加水分解物又はチーズ又はトマト果汁含有飲料又は豆乳含有飲料である(1)〜(7)のいずれか1に記載の方法。
図1は、EAPの基質特異性を示したグラフである。図1A:アルペルギルス・オリゼEAP、図1B:アスペルギルス・ニガーEAP、図1C:コリネEAP、図1D:酵母EAP。
図2は、EAPの温度反応特性を示したグラフである。横軸は温度(℃)、縦軸は37℃における活性値を100としたときのアミノペプチダーゼ活性の相対値である。図2A:アルペルギルス・オリゼEAP、図2B:アスペルギルス・ニジュランスEAP、図2C:アルペルギルス・ニガーEAP、図2D:コリネEAP、図2E:酵母EAP。
図3は、EAPの温度安定性を示したグラフである。横軸は保存時間、縦軸は保存時間0分の場合の活性値を100としたときのアミノペプチダーゼ活性の相対値である。図3A:アルペルギルス・オリゼEAP、図3B:アスペルギルス・ニジュランスEAP、図3C:アルペルギルス・ニガーEAP、図3D:コリネEAP、図3E:酵母EAP。
図4は、EAPのpH反応特性を示したグラフである。横軸はpH、縦軸はpH7.5における活性値を100としたときのアミノペプチダーゼ活性の相対値である。図4A:アルペルギルス・オリゼEAP、図4B:アスペルギルス・ニジュランスEAP、図4C:アルペルギルス・ニガーEAP、図4D:コリネEAP、図4E:酵母EAP。
図5は、EAPのpH安定性を示したグラフである。横軸は保存した緩衝液のpH、縦軸は保存前の活性値を100とした場合のアミノペプチダーゼ活性の相対値である。図5A:アルペルギルス・オリゼEAP、図5B:アスペルギルス・ニジュランスEAP、図5C:アルペルギルス・ニガーEAP、図5D:コリネEAP、図5E:酵母EAP。
図6は、EAPの種々の長さのペプチドに対する反応特性を示したグラフである。横軸に示したA、B、C、Dは基質の種類を表し、それぞれ、A:Glu−Glu、B:Glu−His−Phe−Arg−Trp−Gly、C:Glu−Gly−Val−Tyr−Val−His−Pro−Val、D:Asp−Gluを意味する。図6A:アルペルギルス・オリゼEAP、図6B:アルペルギルス・ニガーEAP、図6C:コリネEAP、図6D:酵母EAP。
図7は、かつおエキス調味料に対するEAPの呈味増強効果を示したグラフである。
図8は、分離ダイズタンパクを市販のプロテアーゼ製剤であるプロテアーゼMと、ペプチダーゼ製剤であるウマミザイムで分解したタンパク加水分解液に対するEAPの添加効果を示したグラフである。縦軸は、加水分解液中に含まれる遊離Glu量を示す。図8A:アルペルギルス・オリゼEAP、図8B:アスペルギルス・ニジュランスEAP。1:ウマミザイム1%+プロテアーゼM 1%;2:ウマミザイム2%;3:プロテアーゼM 2%。
図9は、分離ダイズタンパクを市販のプロテアーゼ製剤であるアルカラーゼと、ペプチダーゼ製剤であるフレーバーザイムで分解したタンパク加水分解液に対するEAPの添加効果を示したグラフである。縦軸は、加水分解液中に含まれる遊離Glu量を示す。図9A:アルペルギルス・オリゼEAP、図9B:アスペルギルス・ニジュランスEAP。1:アルカラーゼ1%+フレーバーザイム2%;2:アルカラーゼ1%+フレーバーザイム1%;3:アルカラーゼ1%。
本発明は、上述した酵素特性を示す微生物由来のアミノペプチダーゼを、必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることによって呈味および/または風味の改善された飲食品を製造する方法である。特に本発明において使用するアミノペプチダーゼは微生物由来のグルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的アミノペプチダーゼである。
本発明において使用するアミノペプチダーゼは上述したダイズのアミノペプチダーゼGXの麹菌における対応物と考えられるので、本明細書においては、本発明において使用する微生物由来グルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的アミノペプチダーゼタンパク質を「EAP」または「アミノペプチダーゼEAP」と記載し、EAPをコードする遺伝子を「EAP遺伝子」と記載することがある。また、文脈上明らかな場合は、本発明で使用する微生物由来のグルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的アミノペプチダーゼEAPを単に「アミノペプチダーゼ」と称することがある。例えば、本発明で使用する、アスペルギルス・オリゼ由来のグルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的アミノペプチダーゼ、およびアスペルギルス・ニジュランス由来のグルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的アミノペプチダーゼは、それぞれアスベルギルス・オリゼEAPおよびアスペルギルス・ニジュランスEAPと記載することがある。一方、前述したダイズ由来のアミノペプチダーゼ(特開2000−325090)は「GX」または「ダイズのアミノペプチダーゼGX」または「ダイズGX」と記載することがある。
また、本明細書において、特に「アミノペプチダーゼ」とは、ペプチドのN−末端からグルタミン酸やアスパラギン酸等の酸性アミノ酸を遊離する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。
本発明に使用するアミノペプチダーゼEAPをコードする核酸分子は、アスペルギルス・オリゼおよびアスペルギルス・ニジュランス等のアスペルギルス、例えばアスペルギルス・ニジュランスA26株の染色体DNA又はcDNAから以下のようにして取得することができる。
発芽ダイズ由来のアミノペプチダーゼ(特開2000−325090)の遺伝子配列とアスペルギルス・ニジュランスESTデータベース中の相同性の高いEST断片のヌクレオチド配列を参考に、PCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)プライマーを作製し、アスペルギルス・ニジュランスcDNAもしくはアスペルギルス・ニジュランス染色体DNAを鋳型としたPCR法により本発明の方法に使用し得るアミノペプチダーゼEAPをコードする核酸分子を含むクローンを取得することができる。
アスペルギルス・ニジュランスのポリ(A)RNAから調製したcDNAライブラリーから、例えば配列番号17及び18に示すヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR、さらに配列番号19及び20に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとする5’−RACEによって、取得することができる。オープンリーディングフレーム(ORF)を完全に含む配列を得るためのプライマーとして配列番号22及び23に示すヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。上記のようにして得られるアスペルギルス・ニジュランスA26由来のアミノペプチダーゼをコードする遺伝子を含むゲノムDNAのヌクレオチド配列を配列番号1に示す。また、cDNAのヌクレオチド配列を配列番号2に、アミノ酸配列を配列番号3に示す。ゲノムDNAとcDNAのヌクレオチド配列を比較した結果、ゲノムDNA中にはイントロンは見出されなかった。
また、本発明に用いるアミノペプチダーゼをコードする核酸分子は、アスペルギルス属の他の種に属する微生物、例えばアスペルギルス・オリゼの染色体DNA又はcDNAから取得することもできる。具体的には、アスペルギルス・オリゼ、例えばアスペルギルス・オリゼRIB40(ATCC42149)のcDNAからPCR法により取得することができる。上記アスペルギルス・ニジュランス由来のアミノペプチダーゼのヌクレオチド配列をもとに、PCR用のオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、アスペルギルス・オリゼ、例えばアスペルギルス・オリゼRIB40の菌体より調製したcDNAを鋳型とするPCRを行うことにより調製することができる。このためのPCR用プライマーとしては、dTプライマーと配列番号24に示すヌクレオチド配列、5’−RACE用には配列番号25及び26に示すヌクレオチド配列、全ORFを得るには、配列27および28に示す配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。
上記のようにして得られるアスペルギルス・オリゼRIB40のEAPをコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号6に、アミノ酸配列を配列番号7に示す。配列番号3に示すアスペルギルス・ニジュランスEAPのアミノ酸配列と配列番号7に示すアスペルギルス・オリゼのアミノペプチダーゼのアミノ酸配列は、約83%の相同性を有しており、約85アミノ酸残基が異なっている。アスペルギルス・オリゼEAP遺伝子とアスペルギルス・ニジュランスEAP遺伝子との相同性は、解析ソフトGENETYX−MAC Ver.10で解析した結果、コード領域では約76%であり、アミノ酸配列レベルでは80%以上であった。また、ゲノムDNAとcDNAのヌクレオチド配列を比較した結果、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNA中にはイントロンが5箇所に含まれていた。アスペルギルス・オリゼEAPをコードするゲノムヌクレオチド配列を配列番号4に示す。
同様な方法に従って、アスペルギルス・ニガー、コリネ菌、酵母由来の各アミノペプチダーゼEAPをコードする核酸分子を得ることができる。アスペルギルス・ニガー、酵母、コリネ菌由来の各アミノペプチダーゼEAP遺伝子のゲノム配列をそれぞれ、配列番号8、11および14に記載し、コード領域のヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号9,12および15に記載した。各EAPのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号10、13および16に記載した。
配列番号6に示すcDNA配列に含まれるORF、すなわち、本発明において使用するアミノペプチダーゼをコードするヌクレオチド配列について、アスペルギルス・オリゼのESTデータベース上にその全配列が記載されている。さらに、前述のデータベース上では、このORFによってコードされるタンパク質の推定される機能として「アスパルチルアミノペプチダーゼ(aspartyl aminopeptidase)」と記載されている。しかしながら、本発明者らによって実際に得られた酵素はアスパルチルアミノペプチダーゼと著しく異なった機能を有していることが明らかになった。例えば、アスパルチルアミノペプチダーゼはアスパラギン酸と比較してグルタミン酸を遊離する活性が弱い(Cheung,H.S.and Cushman,D.W.B.B.A.242,190−193(1971))。一方、本発明において使用するアミノペプチダーゼのグルタミン酸を遊離する活性はアスパラギン酸を遊離する活性と同程度である点に本発明の一つの特徴がある。また、アスパルチルアミノペプチダーゼはジペプチドのような短い基質を分解する活性が殆どないとされているが(S.Wilk,E.Wilk,R.P.Magnusson,Arch.Biochem.Biophys.407(2002)176−183)、本発明は、本発明において使用するアミノペプチダーゼが醤油醸造過程等において多く見られる難分解性のジペプチドを含む短いペプチドも効率よく分解する点も特徴の一つとする。
このように、本発明はアスペルギルス・オリゼのESTデータベース上で推定されている仮想的タンパク質の機能および性質とは明らかに異なる機能および性質を利用する方法である。
本発明に用いるアミノペプチダーゼは、上述したアミノペプチダーゼの活性が損なわれない限り、配列番号7に記載のアミノ酸配列において1以上の位置における1または複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むものであってもよい。ここで、「複数」とは、アミノペプチダーゼタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、通常2〜85個、好ましくは2〜50個、最も好ましくは2〜10個である。アスペルギルス・オリゼ由来のアミノペプチダーゼとアスペルギルス・ニジュランス由来のアミノペプチダーゼの間では85個のアミノ酸置換が見られるが、実施例に示すように両者は同等の活性を維持していることが明らかになっている。従って、上述の範囲内のアミノ酸置換であればアミノペプチダーゼの活性および特性は本発明の方法に使用するために十分な程度に維持されると期待される。
本発明に用いるアミノペプチダーゼEAPをコードする遺伝子には配列番号6に示すヌクレオチド配列のうち塩基番号1〜1494からなるヌクレオチド配列を有するDNAが含まれる。また、当該並列において遺伝暗号の縮重による変更を含んでいても良い。さらに、EAPと同等の性質を有するタンパク質をコードする核酸分子は、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されるようにEAP遺伝子のヌクレオチド配列を改変することによっても得られる。また、上記のような改変された核酸分子は、従来知られている突然変異処理によっても取得され得る。突然変異処理としては、アミノペプチダーゼをコードするDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及びアミノペプチダーゼをコードするDNAを保持するエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常人工突然変異に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
また、上記のような塩基の置換、欠失、挿入、又は付加、等には麹菌の種あるいは菌株による差等、天然に生じる変異も含まれる。上記のような変異を有する核酸分子を、適当な細胞で発現させ、発現産物のEAP活性を調べることにより、EAPと実質的に同一のタンパク質をコードする核酸分子が得られる。また、変異を有するEAPをコードする核酸分子またはこれを保持する細胞から、例えば配列表の配列番号6に記載のヌクレオチド配列のうち、塩基番号1〜1494からなるヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EAP活性を有するタンパク質をコードする核酸分子を単離することによっても、EAPタンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードする核酸分子が得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。この条件は個々の配列のGC含量や繰り返し配列の有無などに依存するため明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高い核酸分子同士、例えば65%以上の相同性を有する核酸分子同士がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸分子同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗滌条件である60℃、1xSSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれる可能性があるが、それらについては、市販の活性発現ベクターにつなぎEAP活性を後述の方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
なお、本発明で使用するアスペルギルス・ニジュランス、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー由来のアミノペプチダーゼEAPの相同性は、解析ソフトGENETYX−MAC Ver.10で解析した結果、いずれの2種のアミノペプチダーゼ間でもアミノ酸配列レベルにおいて80%以上である。
本発明において使用するアミノペプチダーゼをコードする核酸分子は本発明において使用されるアミノペプチダーゼを製造するために使用することができる。
本発明に使用するアミノペプチダーゼ(EAP)をコードする核酸分子を用いて、麹菌等の糸状菌の育種、あるいはEAPを製造することができる。例えば、EAPをコードするDNAを、糸状菌(例えばアスペルギルス・オリゼ)細胞内に好ましくはマルチコピーで導入することにより、糸状菌の有するEAP活性を増大させることができる。また、EAPをコードする核酸分子を適当な宿主で発現させることにより、EAPを製造することができる。
本発明に使用するアミノペプチダーゼをコードする核酸分子を導入する糸状菌としては、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー(A.niger)、アスペルギルス・ニジュランス等のアスペルギルス属、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)等のニューロスポラ属、リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)等のリゾムコール属に属する糸状菌が挙げられる。アスペルギルス属糸状菌が特に好ましい。
上記のような糸状菌に上述の核酸分子を導入するためのベクターとしては特に制限されず、糸状菌の育種等に通常用いられているものを使用することができる。例えば、アスペルギルス・オリゼに用いられるベクターとしては、pUNG(Lee,B.R.et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,44,425−431(1995))、pMARG(Tsuchiya,K.et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,40,327−332(1993))、pUSC(Gomi,K.et al.,Agric.Biol.Chem.51,2549−2555(1987))等が挙げられる。pUNGはアスペルギルス・オリゼniaD300(Minetoki,T.et al.,Curr.Genet.30,432−438(1996))のniaD(硝酸資化能欠損)を相補するマーカーを、pMARGはアスペルギルス・オリゼM2−3(Gomi,K.et al.,Agric.Biol.Chem.,51(9),2549−2555(1987))のargB(アルギニン要求)を相補するマーカーを、pUSCはアスペルギルス・オリゼNS4(Yamada,O.et al.,Biosci.Biotech.Biochem.,61(8),1367−1369(1997))のsC(ATPスルフリラーゼ欠損)を相補するマーカーを、それぞれ有している。
このようなベクターのうち、プロモーターを含むベクターを利用する場合は、そのプロモーターの下流にEAPをコードするDNA分子をフレームを合わせて挿入することによりEAPを発現させることが出来る。例えば、pUNG及びpMARGは、グルコアミラーゼ遺伝子(glaA)のプロモーター及びα−アミラーゼ遺伝子(amyBのターミネーター)を有しているので、該プロモーターの下流にEAPをコードするDNA(例えば配列番号6において塩基番号1〜1497を含む領域)をフレームを合わせて挿入することにより、該プロモーター制御下でEAPを発現させることができる。また、プロモーターを含まないベクター、例えばpUCS等を利用する場合は、上記DNAを挿入したpUC19等のプラスミドとpUSCとの共形質転換(co−transformation)により宿主糸状菌に導入することによってEAPを発現させることができる。得られる宿主糸状菌またはEAPを本発明の方法に使用することが出来る。
また、以下の表1中に示した文献に記載されているベクター、プロモーター及びマーカーも宿主糸状菌に応じて使用することができる。表1中、プロモーターの名称は天然にその制御下にある遺伝子がコードする酵素名を用いて示してある。
Figure 2004105503
糸状菌の形質転換は、上記文献に記載されている方法の他、任意の公知の方法を採用することができる。例えばアスペルギルス・オリゼは以下のようにして形質転換することができる。
DPY培地(グルコース2%、ペプトン1%、酵母エキス0.5%、pH5.0)に菌体(分生子)を植菌し、30℃で24時間程度激しく振盪培養する。培養液をミラクロス(Myracloth、CALBIO CHEM社製)又は滅菌したガーゼ等で濾過し、菌体を回収し、滅菌水で洗浄し、水分をよく切る。この菌体を、試験管に入れ、酵素液(1.0%ヤタラーゼ(Yatalase、宝酒造(株)製)、または0.5%ノボザイム(NovoZyme、ノボノルディスク社製)及び0.5%セルラーゼ(例えばCellulase Onozuka、ヤクルト社製)、0.6M(NHSO、50mMリンゴ酸、pH5.5)を加え、30℃で3時間程度穏やかに振盪する。顕微鏡でプロトプラスト化の程度を観察し、良好であれば氷中に保存する。
次に上記酵素反応液をミラクロスで濾過して菌体残渣を除去し、プロトプラストを含む濾液に等量の緩衝液A(1.2Mソルビトール、50mM CaCl、35mM NaCl、10mM Tris−HCl、pH7.5)を加えて氷中に置く。これを0℃、1500〜2,500rpmで5〜10分間遠心した後、緩やかに停止させ、ペレットを緩衝液Aで洗浄し、適量の緩衝液Aに懸濁する。100〜200μlのプロトプラスト懸濁液に20μl以下のDNA溶液(5〜10μg)を加え、20〜30分氷中に置く。緩衝液B(60%ポリエチレングリコール6000、50mM CaCl、10mM Tris−HCl、pH7.5)を250μl加えて穏やかに混合し、再び緩衝液Bを250μl加えて穏やかに混合した後、さらに緩衝液Bを850μl加えて穏やかに混合し、20分室温で静置する。その後、10mlの緩衝液Aを加えて試験管を反転させ、0℃、1,500〜2,500rpmで5分間〜10分間遠心し、ペレットを500μlの緩衝液Aに懸濁する。
上記懸濁液の適量を、予め分注し保温しておいた5mlのトップアガーに加えて、下層培地(1.2Mソルビトールを含有し、マーカーに応じて調製した選択培地)に重層し、30℃で培養する。生育した菌体を選択培地に植え継いで、形質転換体であることを確認する。さらに、菌体から組換えDNAを調製し、制限酵素解析又はサザン解析等によって、EAPをコードするDNAが導入されていることを確認してもよい。
使用するプロモーターに適した条件にて上記のようにして得られる形質転換体を培養することによってEAP遺伝子が発現し、EAPが産生される。例えば、アスペルギルス・オリゼを宿主に用い、プロモーターとしてグルコアミラーゼプロモーターを使用する場合には、小麦フスマ、リン酸カリウム等を含む培地に形質転換アスベルギルス・オリゼの胞子を懸濁し、約30℃にて約3日間培養することによりEAPを産生させることができる。必要に応じて培養物を蒸留水等で希釈し、ストマッカー等で処理することによってEAPを含む酵素粗抽出液を得ることができる。得られた粗抽出液はゲル濾過、種々のクロマトグラフィー等を用いることによって更にEAPを精製することもできる。得られたEAPは更に塩析、等電点沈殿、ゲル濾過、イオンクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等によって精製し、ペプチドからの酸性アミノ酸遊離のために使用することができる。
しかしながら、EAP活性の向上した形質転換微生物の培養物をそのまま、または必要によりタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)とともにタンパク質原料と直接混合してタンパク質またはその混合物に作用させることにより、遊離アミノ酸含量が高く、呈味および/または風味の改善された調味料、タンパク質加水分解物等の飲食品を得ることもできる。作用させるタンパク質原料としては、例えば大豆、小麦、小麦グルテン、コーンミール、ミルクカゼイン、カツオ、カツオ節、フィッシュミール、食品用に用いられるあらゆるタンパクが挙げられ、さらに脱脂大豆あるいは膨化や可溶化等の加工をされた種々のタンパク質あるいはこれらの種々の原料からの分離タンパク質であってもよい。タンパク質分解酵素を使用する場合、市販の酵素製剤でよく、細胞壁分解酵素等、他の酵素を含むものであっても構わない。アスペルギルス属やバチルス属の微生物が生産するタンパク質分解酵素を使用することができ、例えばウマミザイム、プロテアーゼM、フレーバーザイム、アルカラーゼなどの市販の酵素製剤を用いることができる。
グルタミン酸および/またはアスパラギン酸特異的ペプチダーゼを作用させることによって風味・呈味を改善し得るタンパク質、ペプチドを含む食品には、例えば、醤油、味噌などの醸造・発酵食品や、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、野菜・果実ジュースなどの飲料品、豆乳、豆腐などの大豆食品、パン、麺などの小麦食品、かまぼこ、竹輪などの水練り食品、ソーセージ、ハムなどの畜肉食品などが含まれるが、これらに限定されず広範な食品が含まれる。
形質転換微生物の培養物または粗精製酵素をタンパク質に作用させる実用的条件としては、たとえば0.2〜50%、好ましくは1〜20%の濃度のタンパク質原料に精製酵素または必要により更にタンパク質分解酵素を加えて混合し、5〜55℃、好ましくは30〜55℃にて1分間〜10日間、好ましくは1時間〜10日間反応させればよい。
反応終了後、未反応のタンパク質原料、菌体などの不溶物は遠心分離や濾過等、従来の分離法を用いて除去することができる。また、必要に応じて減圧濃縮、逆浸透法などにより濃縮を行い、濃縮物は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等の乾燥処理により粉末化または顆粒化することもできる。かくして遊離グルタミン酸含有量が高く、呈味および/または風味の改善された調味料、タンパク質分解物等の飲食品を得ることができる。
実施例1.アスペルギルス・ニジュランスEAPをコードするゲノムDNAのクロー ニング
発芽ダイズ由来アミノペプチダーゼの配列をもとに、アスペルギルス・ニジュランスのcDNAデータベース(http://www.genome.ou.edu/fungal.html)を用いて、ホモロジー検索したところ、相同性の高いESTp0f10a1.f1を見出した。
この情報を基に、アスペルギルス・ニジュランスcDNAからアスペルギルス・ニジュランスEAPのクローニングを以下のように行った。
アスペルギルス・ニジュランスA26株(Fungal Genetics Stock Center,Department of Microbiology,University of Kansas Medical Centerから購入可能)をYG培地(酵母エキストラクト0.5%,グルコース2.5%,微量元素*0.1%、pH6.5)50mlで30℃、48時間振とう培養した(微量元素*:FeSO・7HO 0.1%,ZnSO・7HO 0.88%,CuSO・5HO 0.04%,MnSO・4HO 0.015%,Na・10HO 0.01%,(NHMoO24・4HO 0.005%)。
菌体を回収し、液体窒素にて凍結後、乳鉢を用いて粉砕した。粉砕物より、RN easy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAの調製を行い、oligotex−dT30〈Super〉mRNA Purification Kit(TaKaRa社)を用いてmRNAの調製を行った。このmRNAから、TaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa社)を用いcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、アスペルギルス・ニジュランスESTp0f10a1.f1配列よりデザインした下記配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR、および5’RACE法により、EAPの完全長cDNAのクローニングを行った。
(5’末端用プライマー)
Figure 2004105503
(3’末端用プライマー)
Figure 2004105503
PCR反応は、94℃3分間の熱変性後、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒の反応を25サイクルで行なった。その結果、予想されるサイズのDNA断片(約1000bp)が増幅されたため、プラスミドpUC19に挿入した。このプラスミドでエシュリヒア・コリJM109株を形質転換し、形質転換菌からプラスミドDNAを調製してヌクレオチド配列を決定した。その結果、ESTデータベースに示された配列と同一の配列であることが判明した。
続いて、アスペルギルス・ニジュランス全ORF配列を得るために、5’RACE法と3’RACE法を用いた。PCRの反応条件は、94℃9分間の熱変性の後、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒の反応を30サイクル行い、さらに72℃5分の反応を行った。その結果、配列番号19及び20のプライマーを用いた5’RACE法により5’側の全ORF配列が明らかになり、配列番号21を用いた3’RACE側の全ORFが明らかとなった。配列番号22及び23のプライマーを用いたPCRにより、全ORFを含む、約1500bpの増幅断片が得られた。これらのDNA断片のヌクレオチド配列を配列番号2に、ヌクレオチド配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号3に示す。
上記アスペルギルス・ニジュランスEAP cDNA断片を、pUC19のHincII部位に挿入した。また、挿入した配列の上流にtrpプロモーターを接続した発現プラスミドpUCtrpnidGXも構築した。得られたプラスミドで形質転換されたエシェリヒア・コリJM109株を得た。
(5’RACE用 プライマー)
Figure 2004105503
(5’RACE用 プライマー)
Figure 2004105503
(3’RACE用 プライマー)
Figure 2004105503
(5’末端用プライマー)
Figure 2004105503
(3’末端用プライマー)
Figure 2004105503
実施例2.アスペルギルス・オリゼ由来の、アスペルギルス・ニジュランスEAP に相同なcDNAのクローニング
(1)アスペルギルス・オリゼ由来cDNAの取得
アスペルギルス・オリゼRIB40(ATCC42149)を、1.5%分離ダイズを含む培地50mlで30℃、64時間培養した。菌体をろ過により集め、1gを回収した。この菌体を直ちに液体窒素で凍結し、乳鉢で粉砕した後、Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAの調製を行い、oligotex−dT30〈Super〉mRNA Purification Kit(TaKaRa社)を用いてmRNAの調製を行った。このmRNAから、TaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa社)を用いcDNAを合成した。
(2)アスペルギルス・ニジュランス由来EAPに相当するアスペルギルス・オリゼ由来アミノペプチダーゼのクローニング
実施例1で得たアスペルギルス・ニジュランスのEAP配列を参考に、配列番号24で示したオリゴヌクレオチドとdTプライマーアダプタープライマーを用いた3’RACEおよび配列番号25及び26を用いた5’RACEによって、アスペルギルス・ニジュランスのアミノペプチダーゼEAPに相同なアスペルギルス・オリゼ由来のcDNAのクローニングを行った。
(3’RACE用 5’末端プライマー)
Figure 2004105503
(5’RACE用 プライマー)
Figure 2004105503
(5’RACE用 プライマー)
Figure 2004105503
3’RACEのPCR反応は、95℃で9分熱変性した後、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分の反応を35サイクル行った。これにより約800bpのアスペルギルス・ニジュランス由来のアミノペプチダーゼEAPに相同な遺伝子断片を得た。5’RACEのPCR反応は、94℃30秒、53℃30秒、72℃1分の反応を35サイクル行った。これによりそれぞれ約300bの、アスペルギルス・ニジュランスEAPに相同なアスペルギルス・オリゼ遺伝子断片を得た。配列番号27と28に示した配列を用いてPCR反応を行うことにより、全ORFを含む、約1500bpのヌクレオチド配列を得た。PCR反応は、94℃ 30秒、54℃ 30秒、72℃ 45秒の反応を25サイクル行った。
(5’末端用 プライマー)
Figure 2004105503
(3’末端用 プライマー)
Figure 2004105503
上記遺伝子断片のヌクレオチド配列を決定したところ、アスペルギルス・ニジュランス由来アミノペプチダーゼEAPに相同な完全長配列を含むことが明らかとなったため、この遺伝子はアスペルギルス・オリゼにおいて、アスペルギルス・ニジュランスEAPに対応するアミノペプチダーゼをコードする遺伝子であると推定した。また、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAを鋳型に、配列番号27と28に示すプライマーを用いてPCRを行うことにより、イントロンを5個含む約1800bpのヌクレオチド配列を得ることができる。このイントロンを含むアスペルギルス・オリゼのゲノム配列を配列番号4に示す。また、アスペルギルス・オリゼ由来アミノペプチダーゼをコードする全長cDNAのヌクレオチド配列を配列番号6に、アスペルギルス・オリゼ由来アミノペプチダーゼのアミノ酸配列を配列番号7に示す。
この断片をプラスミドpUC19に挿入して得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109株を形質転換した。また、cDNAの上流にtrpプロモーターを接続し、発現用ベクターpUCtrpoGXを得た。得られたベクターでエシュリヒア・コリJM109株を形質転換した。
実施例3.アスペルギルス・ニジュランスおよびアスペルギルス・オリゼ由来 EAPに相同な、アスペルギルス・ニガー由来のEAP cDNAのクローニング
(1)アスペルギルス・ニガー由来アミノペプチダーゼcDNAの取得
アスペルギルス・ニガー(JCM2261)を、1.5%分離ダイズを含む培地50mlで30℃、64時間培養した。菌体をろ過により集め、1gを回収した。この菌体を直ちに液体窒素で凍結し、乳鉢で粉砕した後、Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAの調製を行い、oligotex−dT30〈Super〉mRNA Purification Kit(TaKaRa社)を用いてmRNAの調製を行った。このmRNAから、TaKaRa RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa社)を用いcDNAを合成した。
(2)アスペルギルス・ニジュランスおよびアスペルギルス・オリゼ由来EAPに相当するアスペルギルス・ニガー由来EAPのクローニング
実施例1で得たアスペルギルス・ニジュランスおよび実施例2で得たアスペルギルス・オリゼのEAPの配列間で100%のホモロジーがある配列部分に、配列番号29および配列番号30で示したプライマーを設計した。両プライマーを用いて、アスペルギルス・ニガー由来アミノペプチダーゼEAPの部分的なcDNAを取得した。これをテンプレートとし、配列番号31で示したオリゴヌクレオチドとdTプライマーアダプタープライマーを用いた3’RACEおよび配列番号32を用いた5’RACEによって、アスペルギルス・ニジュランスおよびアスペルギルス・オリゼ由来EAPに相同なアスペルギルス・ニガー由来EAPのcDNAのクローニングを行った。3’RACEには、3’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends(Invitrogen社)を、5’RACEには、5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends(Invitrogen社)を用いた。
(部分的cDNA取得用5’側プライマー)
Figure 2004105503
(部分的cDNA取得用3’側プライマー)
Figure 2004105503
(3’RACE用プライマー)
Figure 2004105503
(5’RACE用プライマー)
Figure 2004105503
3’RACEのPCR反応は、95℃で9分熱変性した後、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分の反応を35サイクル行った。これにより約120bpのアスベルギルス・ニジュランスおよびアスペルギルス・オリゼ由来EAPに相同な遺伝子断片を得た。5’RACEのPCR反応は、94℃30秒、53℃30秒、72℃1分の反応を35サイクル行った。これにより約100bpの、アスペルギルス・ニジュランスおよびアスペルギルス・オリゼ由来EAPに相同なアスペルギルス・ニガー遺伝子断片を得た。配列番号33と34に示した配列を用いてPCR反応を行うことにより、全ORFを含む、約1500bpのヌクレオチド配列を得た。PCR反応は、94℃30秒、54℃30秒、72℃45秒の反応を25サイクル行った。
(3’末端用プライマー)
Figure 2004105503
(5’末端用プライマー)
Figure 2004105503
上記遺伝子断片をもとに、アスペルギルス・ニガー由来EAPをコードする全長cDNAのヌクレオチド配列を決定し、配列番号9に示した。また、アスペルギルス・ニガー由来EAPのアミノ酸配列を配列番号10に示した。
この断片をプラスミドpUC19に挿入して得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109株を形質転換した。また、cDNAの上流にtrpプロモーターを接続し、発現用ベクターpUCtrpnigGXを得た。得られたベクターでエシュリヒア・コリJM109株を形質転換した。
実施例4.サッカロマイセス由来のダイズ由来GXに相同な遺伝子のクローニン
(1)サッカロマイセス由来ゲノムDNAの取得
サッカロマイセスYPH500(IFO10506)を、YPD(1%イーストエキス、2%ペプトン、2%グルコース)とアデニンからなる培地50mlを用い、30℃で一晩培養した。培養液から、Genとるくん(酵母用)(TaKaRa社)を用いてゲノムDNAを抽出した。
(2)ダイズGXに相当するサッカロマイセス由来EAPのクローニング
サッカロマイセスのゲノムデータベースから、特開平9−294583記載のダイズGXの配列とホモロジーのある配列を検索したところ、43%のホモロジーの見られる配列が確認され、開始コドンおよび終止コドンの位置が特定された。これを基に、配列番号35および配列番号36で示したプライマーを設計し、両プライマーを用いて、ゲノムDNAからサッカロマイセス由来EAPの遺伝子断片をクローニングした。
(5’側プライマー)
Figure 2004105503
(3’側プライマー)
Figure 2004105503
上記遺伝子断片をもとに、サッカロマイセス由来EAPをコードする全長DNAのヌクレオチド配列を決定し、配列番号12に示した。また、サッカロマイセス由来EAPのアミノ酸配列を配列番号13に示した。
この断片をプラスミドpUC19に挿入して得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109株を形質転換した。また、cDNAの上流にtrpプロモーターを接続し、発現用ベクターpUCtrpsGXを得た。得られたベクターでエシュリヒア・コリJM109株を形質転換した。
実施例5.コリネ菌由来のダイズGXに相同な遺伝子のクローニング
(1)コリネ菌由来ゲノムDNAの取得
コリネ菌(ATCC13869)を、LB培地(トリプトン1%、酵母エキストラクト0.5%、塩化ナトリウム1%)50mlを用い、30℃で一晩培養した。培養液から、Genとるくん(酵母用)(TaKaRa社)を用いてゲノムDNAを抽出した。
(2)ダイズGXに相当するコリネ菌由来アミノペプチダーゼのクローニング
コリネ菌のゲノムデータベースから、特開平9−294583記載のダイズ由来アミノペプチダーゼの配列とホモロジーのある配列を検索したところ、アスパルチルアミノペプチダーゼをコードする配列と48%のホモロジーが確認された。これを基に、配列番号37および配列番号38で示したプライマーを設計し、両プライマーを用いて、ゲノムDNAからコリネ菌由来EAPの遺伝子断片をクローニングした。
(5’側プライマー)
Figure 2004105503
(3’側プライマー)
Figure 2004105503
上記遺伝子断片をもとに、コリネ菌由来EAPをコードする全長DNAのヌクレオチド配列を決定し、配列番号15に示した。また、コリネ菌由来EAPのアミノ酸配列を配列番号16に示した。
この断片をプラスミドpUC19に挿入して得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109株を形質転換した。また、cDNAの上流にtrpプロモーターを接続し、発現用ベクターpUCtrpcGXを得た。得られたベクターでエシュリヒア・コリJM109株を形質転換した。
実施例6.アスペルギルス・ニジュランスEAP、アスペルギルス・オリゼEAP、 アスペルギルス・ニガーEAP、酵母EAP、およびコリネEAPのエシェリヒア・コ リJM109株における大量発現
(1)アスペルギルス・ニジュランスEAP、アスペルギルス・オリゼEAP、アスペルギルス・ニガーEAP、酵母EAP、およびコリネEAPの精製
pUCtrpGXで形質転換した菌をリフレッシュ培地(トリプトン1%,イースト・エキストラクト0.5%,NaCl 0.5%,グルコース0.1%)にて、30℃で8時間振とう培養した。次いで、得られた培養液5mlを350mlカザミノ酸培地(NaHPO 0.6%,KHPO 0.3%,NHCl 0.1%,NaCl 0.05%,カザミノ酸1%,チアミン0.0002%,MgSO 1mM,CaCl 1mM,グルコース0.1%)にて37℃で20時間培養した。ただし、コリネのみ培養温度を34℃とした。得られた菌体を定法に従って破砕し、細胞抽出液を得た。この細胞抽出液に硫酸アンモニウムを添加し、40%−65%硫安沈殿画分を取得した。ただし、酵母のみ0%−40%画分を取得した。上記画分を50mMリン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、あらかじめ前述のリン酸緩衝液で平衡化したゲルろ過カラム(アマシャムバイオテク社製sephadex200)にて分離を行い、粗精製EAPを得ることができた。得られた酵素溶液を限外ろ過にて濃縮した。粗精製EAPは陰イオン交換カラム(アマシャムバイオテク社製monoQ)にて更に分離操作を行い、精製EAPを得た。
得られた精製EAPは未変性ポリアクリルアミドゲル上で約300〜480kDの分子量を示し、変性ポリアクリルアミドゲル上で約40〜60kDの分子量を示した。
実施例7.アミノペプチダーゼEAPの特性解析
上述のように調製した酵素精製液中のアミノペプチダーゼ活性を以下のように測定した。即ち、5mM Glu−Glu(50mM HEPESバッファー、pH7.5)0.16mlに酵素精製液0.02mlを加え、37℃で10分間反応させた後、20%酢酸を0.02ml添加して反応を停止した。反応液中の遊離Glu量をグルタミン酸測定キット(ヤマサ醤油社)を用いて測定した。活性は1分間あたりに1μmolのGluを生成する酵素活性を1ユニット(U)とした。
その結果、得られた精製アミノペプチダーゼ酵素の酵素学的諸性質を示す。
(i)基質特異性
EAPの活性測定は、Glu−pNAを基質として用いても可能である。即ち、1mM Glu−pNA(50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.5)0.75mlに酵素溶液0.02mlを加え、37℃で10分間反応させた後、40%酢酸を0.25ml添加して反応を停止した。反応液の405nmの吸光度を測定し、活性を測定した。活性は1分間あたりに1μmolのパラニトロアニリドを生成する酵素活性を1ユニット(U)とした。Glu−pNAの代わりにX−pNAを用い、各種X−pNAの分解活性を測定した。最大の分解活性値を100とした時の相対活性値を図1に示す。本酵素はN末端の酸性アミノ酸、即ちグルタミン酸とアスパラギン酸の2種類を特異的に効率よく分解することがわかった。
(ii)温度反応特性
前記Glu−Gluを基質とした活性測定法において、各種温度でEAP活性を測定した。37℃での活性値を100とした時の相対活性値を図2に示す。図2から、30℃〜60℃の範囲、より好ましくは37℃〜50℃の範囲で相対活性が高いことが分かる。
(iii)温度安定性
前記Glu−Gluを基質とした活性測定法において、各種温度でEAPを10、20、30、40、60分保存した後、前記活性測定方法でEAP活性を測定した。保存時間0分の際の活性値を100としたときの相対活性値を図3に示す。
アスペルギルス・オリゼEAP、アスペルギルス・ニジュランスEAPおよびアスペルギルス・ニガーEAPを、pH7.5、25℃〜40℃、1時間保存した後に80%以上の残存活性を示した。また、コリネEAPおよび酵母EAPを、pH7.5、25℃〜50℃、1時間保存した後に80%以上の残存活性を示し、pH7.5、25〜60℃30分加熱において、未加熱時の活性の40%以上の活性を有していた。
(iv)pH反応特性
前記Glu−Gluを基質とした活性測定法において、50mM HEPESバッファー(pH7.5)の代わりに、終濃度50mMとなるよう、各pHのGTA緩衝液を反応液に加えた。pH7.5中におけるEAP活性を100とした。各pHにおける活性を図4に示す。図4より、pH6.0〜9.0の範囲において、至適pHでの活性の50%以上の活性を有していた。
(v)pH安定性
精製酵素を50mMの各種pHのGTA緩衝液中、0℃で24時間保存した後、前記活性測定方法(pH7.5)でEAP活性を測定した。保存前の活性値を100とした時の相対活性値を図5に示す。アスペルギルス・オリゼEAP、アスペルギルス・ニジュランスEAP、アスペルギルス・ニガーEAPおよび酵母EAPにおいて、pH6.0〜10.0の範囲で0℃にて24時間保存した場合に90%以上の残存活性を示した。また、コリネEAPにおいて、pH7.0〜8.0の範囲で0℃にて24時間保存した場合に90%以上の残存活性を示した。
(vi)ペプチド長に対する反応特性
Glu−Glu基質を用いる代わりに、GluをN末端に持つ、アミノ酸残基数の異なる他の基質を用いてアミノペプチダーゼの活性を測定した。即ち、5mM各基質(50mM HEPESバッファー、pH7.5)0.16mlに酵素精製液0.02mlを加え、37℃で10分間反応させた後、20%酢酸を0.02ml添加して反応を停止した。反応液中の遊離Glu量をグルタミン酸測定キット(ヤマサ醤油社)を用いて測定した。活性は1分間あたりに1μmolのGluを生成する酵素活性を1ユニット(U)とし、重量あたりの活性値である比活性(U/mg)を算出して図6に示した。用いた基質は、(a)Glu−Glu(Bachem社)、(b)Glu−His−Phe−Arg−Trp−Gly(Bachem社)(配列番号39)、(c)Glu−Gly−Val−Tyr−Val−His−Pro−Val(Bachem社)(配列番号40)、(d)Asp−Glu(Bachem社)の4種類である。図6より、ジペプチドに対する活性に比べ、長鎖ペプチドに対する活性が高い傾向にある。
実施例8.天然調味料に対する呈味増強効果
「本造り一番だし極味かつお」(味の素社)に各種精製EAPを0.1mg/ml添加し、37℃で反応させ、0、60、120分後に経時的にサンプリングした。そして、サンプリングした反応溶液中の遊離Glu量を、グルタミン酸測定キット(ヤマサ醤油社)を用いて測定した。また、120分反応後のサンプルを20倍希釈し、官能評価を行った。
その結果、アスペルギルス・オリゼEAP、アスペルギルス・ニガーEAP、酵母EAPは、120分間の反応により遊離Glu量を約300mg/l増加させた(図7参照)。一方、コリネEAPによる増加は、その3分の1程度であった。また、官能評価によるうま味強度は、遊離Glu量に比例していた(表2参照)。
Figure 2004105503
実施例9.呈味の強いタンパク質加水分解物の作製
5%分離ダイズタンパク溶液をpH8.0に調製し、121℃、20分間オートクレーブ滅菌することにより熱変性を行った。得られたタンパク溶液に、ダイズタンパク質量に対してウマミザイム1%(アマノエンザイム社)、プロテアーゼM1%(アマノエンザイム社)を添加し、50℃にて48時間反応を行った。その後、アスペルギルス・オリゼEAPを0.2%(質量%)添加し、37℃にて24時間反応を行った。アスペルギルス・オリゼEAP添加サンプルと、未添加サンプル中に含まれる遊離Glu量をグルタミン酸測定キット(ヤマサ醤油社)を用いて測定した結果、遊離Glu量がアスペルギルス・オリゼEAPの添加によって約1.5倍に増加した(図8参照)。
上記と同様に処理したダイズタンパク溶液に、アルカラーゼ1%(ノボザイム社)を添加し、50℃にて48時間反応を行った。その後、121℃にて10分間アルカラーゼを失活させ、フレーバーザイム1%(ノボザイム社)を添加し、37℃24時間の条件で反応を行った。その後、アスペルギルス・オリゼEAPを添加し、さらに37℃にて24時間反応を行った。アスペルギルス・オリゼEAPを添加したサンプルと未添加サンプル中に含まれる遊離Glu量を上記と同様に測定した結果、アスペルギルス・オリゼEAPの添加によって遊離Glu量が約2.2倍に増加した(図9参照)。
実施例10.乳製品の呈味および/または風味の改善
アスペルギルス・オリゼEAP添加のチーズへの効果を確認した。原料乳は同一生乳(約35L)を使用した。所定の方法にて脱脂後、脂肪率は3%に調乳した。所定量の乳酸菌スターターを添加後、原料乳を32℃に加温し、キモシンを原料に対し0.003%添加した。原料乳が凝固している事を確認後、カッティング、攪拌し、約1/3のホエーを排除した。次に34℃まで1℃/2minのスピードでゆっくり昇温、攪拌し、更に1/3のホエーを排除した。その後、38℃まで1℃/2minのスピードでゆっくり昇温し、1時間攪拌した後、ホエーオフし、カードを得た。アスペルギルス・オリゼEAP添加量はカード100gに対し0.5mgとした。このときコントロール群は酵素無添加とした。酵素はカード1500gに直接添加し、均一になるように良くかき混ぜた。使用乳酸菌は、クリスチャン・ハンゼン社の4種混合乳酸球菌(ゴーダチーズ)使用した。なおカード重量に対して3%の食塩を添加した。高温(10℃)熟成のため、酪酸菌を抑制のため硝酸Naを0.002%原料乳に加えた。製造日から翌朝で予備乾燥した後、チーズ約375gのカードをモールドに添加した。試験期間を短縮するため熟成は、真空包装の後に10℃の熟成室に保管した。140日保管後、官能評価した。
アスペルギルス・オリゼEAP添加による熟成率(可溶化窒素率)の上昇は無添加のコントロールと比較して有意な差は認められなかった。可溶化窒素率は12%トリクロロ酢酸に可溶性の画分の窒素量を、全窒素量に対する比率で求めた。一方、アスペルギルス・オリゼEAP添加による遊離グルタミン酸の増加量は1mg/100gチーズであった。官能評価の結果、アスペルギルス・オリゼEAP添加により、チーズ風味が強まる、全体のまとまり感が出る、食感が滑らかになる等の効果が認められた。またチーズの苦味がアスペルギルス・オリゼEAP添加により消失していたが、これは遊離グルタミン酸の上昇による効果と推測された。
実施例11.飲料の呈味および/または風味の改善(I)
トマト(桃太郎、およびプチトマト)を洗浄後、家庭用ミキサーで粉砕しトマト果汁を調製した。本果汁100mlにアスペルギルス・オリゼEAPを3mg/lの濃度に添加した。コントロールとして予め熱失活させたアスペルギルス・オリゼEAPを添加した。反応は37℃、1時間で、反応後の果汁を官能評価した。
アスペルギルス・オリゼEAP処理により遊離のグルタミン酸は約3%増加した。しかしトマト果汁中には元来0.2%(W/W)の遊離グルタミン酸が存在しているため、3%の遊離グルタミン酸含量増加によるうま味強度の影響は認められなかった。一方で、酵素処理群は甘味が強まり、かつ酸味が抑制されていたため、トマト果汁独特の抵抗感が弱まっていた。この呈味および/または風味改質効果はコントロール群では認められなかった。なお、アスペルギルス・オリゼEAPのトマトへの効果はプチトマトや、熟成の進んだトマトで顕著であった。
実施例12.飲料の呈味および/または風味の改善(II)
市販の豆乳飲料(国産豆乳;太子食品工業株式会社)100mlにアスペルギルス・オリゼEAPを3mg/lの濃度に添加した。コントロールとして予め熱失活したペプチダーゼを用いた。これらを37℃で1時間酵素反応させた後、官能評価に供した。
豆乳へのアスペルギルス・オリゼEAP処理によるグルタミン酸量の増加は認められなかった。よってうま味強化は認められなかった。しかし酵素添加群はコントロール群と比較して、豆乳独特の青臭さ(ヘキサナール臭)が弱まっており、尚且つ、まろやかに変化しており、豆乳に対する呈味および/または風味改質効果が確認できた。
本発明により、遊離アミノ酸量が高く、呈味の増強された飲食品を製造する方法が提供される。特に、醤油醸造条件下などで存在するGlu−Gluといった難分解性ペプチドを効率よく分解し、呈味の強い調味液をつくることができる。市販のプロテアーゼ、ペプチダーゼ製剤と併用することによってタンパク質加水分解物中の遊離Glu量を上昇させることができる。これは、市販のプロテアーゼ、ペプチダーゼ製剤にはEAP様活性を有する酵素が殆ど含まれておらず、Glu−Gluといった難分解ペプチドがそのまま存在しているからであると考えられる。このように、本発明によりアミノペプチダーゼEAPを用いることによって、醤油、タンパク質加水分解物などの飲食品の呈味性をさらに高めることが可能となる。
【配列表】
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Claims (8)

  1. 以下の酵素特性を示す微生物由来のアミノペプチダーゼを、必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることを含む、呈味および/または風味の改善された飲食品の製造方法:
    (a)ペプチド及び/又はタンパク質のN末端からグルタミン酸、アスパラギン酸を特異的に遊離する反応を触媒する活性を有する;
    (b)pH6.0〜9.0において至適pHでの活性の50%以上の活性を有する;
    (c)pH7.5、25〜60℃、30分加熱において、未加熱時の活性の40%以上の活性を有する;
    (d)SDS−PAGEにより測定した分子量が約40〜60kDであり、未変性−PAGEにより測定した分子量が約300〜480kDである;および、
    (e)Glu−Gluジペプチドに対する分解活性が10U/mg以上を示す。
  2. アミノペプチダーゼが、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、請求項1記載の方法。
  3. アミノペプチダーゼが、配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、請求項1記載の方法。
  4. アミノペプチダーゼが、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号9に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、請求項1記載の方法。
  5. アミノペプチダーゼが、配列番号12に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号12に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼである、請求項1記載の方法。
  6. 配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされる、または、配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸分子によってコードされるアミノペプチダーゼを必要によりプロテアーゼの共存下でタンパク質原料に作用させることを含む、呈味および/または風味の改善された飲食品の製造方法。
  7. アミノペプチダーゼが形質転換微生物により生産されるものである請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
  8. 飲食品が調味料又はタンパク質加水分解物又はチーズ又はトマト果汁含有飲料又は豆乳含有飲料である請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
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