JPWO2003020935A1 - フィトクロムcの発現制御による植物の開花時期の調節 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、植物の開花(出穂)時期の調節に関与するphyC遺伝子の利用に関する。
背景技術
イネは短日植物で日長が短くなると花を付ける(出穂する)。この日長を感知している光受容体がフィトクロム(phytochrome;phy)と呼ばれる色素結合分子である。イネにはフィトクロムをコードする遺伝子として、phyA遺伝子、phyB遺伝子およびphyC遺伝子の3種類が存在する(Kay,S.A.et.al.,Nucleic.Acids.Res.17:2865−2866,1989、Dehesh,K.et.al.,Mol.Gen.Genet.225:305−313,1991、Tahir,M.et.al.,Plant Physiol.118:1535,1998)。
イネと同じ単子葉類におけるフィトクロム遺伝子の突然変異体に関しては、ソルガムでphyB遺伝子突然変異体(ma3 R)が単離されている(Childs,K.L.et.al.,Plant Physiol.113:611−619,1997)。ma3 R突然変異体は、開花時期が早まるが、それに加えて低クロロフィル含量、茎の徒長、頂芽優性の昂進等の特徴的な表現型を示し、明らかに正常の草型とは異なる。最近、本発明者らは、イネのphyA遺伝子突然変異体を単離し、その表現型を詳しく解析した。その結果、開花時期に関しては、長日条件、短日条件のいずれでも対照の日本晴と差がなかった(Takano,M.et.al.,Plant Cell 13:521−534,2001)。また、すべてのフィトクロムが検出限界以下である突然変異体(se5)は、日長に関係なく早く花が咲く(Izawa,T.et.al.,Plant J.22:391−339,2000)。しかしながら、この変異体では、phyA、phyB、phyC遺伝子は正常であり、plastid heme oxidaseをコードする遺伝子に異常があることが知られている(Izawa,T.et.al.,Plant J.22:391−339,2000)。
このように、これまでのところ、代表的な実験植物であるシロイヌナズナをはじめ、どの植物においても、phyC遺伝子突然変異体が単離されたという報告例はなく、さらに植物の開花時期に関するphyC遺伝子の役割についても明らかになっていなかった。
発明の開示
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、phyC遺伝子突然変異体を単離し、その表現型を解析することで、phyC遺伝子の利用法を提供することにある。より詳しくは、開花時期(出穂時期)が早まるphyC遺伝子突然変異体を提供すること、さらに、phyC遺伝子の発現を抑制することで植物の開花を促進する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。まず、phyC遺伝子の機能を明らかにするために、ミュータントパネルを用いた突然変異体の単離法(Hirochika,H.In Molecular Biology of Rice,Springer−Verelag(Tokyo),pp.43−58,1999)を用いて、phyC遺伝子突然変異体を単離した。
この方法では、短日植物であるイネの組織培養中に活性化されるレトロトランスポゾンTos17を利用して作製した挿入突然変異体ラインを使用する。イネ種子を組織培養すると、ゲノム中のTos17と呼ばれるレトロトランスポゾンが活性化されて転移し、それらが染色体に挿入されると遺伝子破壊が起こることが知られている。該種子を一旦カルス化してから植物体を再生させることにより、容易に多数の独立した突然変異体ラインを作製することができる。
このように作製した突然変異体ラインの中から、目的の変異体を単離した。具体的には、突然変異体ラインを980個体ずつ、Z軸8列、Y軸12列、X軸10列の、ちょうどマイクロタイタープレートを10段積み重ねたような3次元マトリクス(ミュータントパネル)に配置させ、X/Y/Z軸毎のプールから抽出したDNAを目的の突然変異体のスクリーニングに利用した。これらのプールDNAを鋳型として、phyC遺伝子の配列に特異的なプライマーとTos17のLTRに特異的なプライマーとの組み合わせでPCRを行うと、Tos17がphyC遺伝子特異的なプライマーの近傍に存在する(即ち、phyC遺伝子に挿入されている)時のみ、増幅したバンドが検出された。従って、わずか8回のPCRで、一つのパネル、980個体の突然変異体ラインの中に目的の突然変異体が存在するか否かを確認できた。もし特異的な増幅が検出されれば、同じパネルのX軸、Y軸で同様のプライマーの組み合わせでPCRを行い、それぞれの軸において増幅される列を確認し、3次元マトリクスの座標上で交差する点として目的の突然変異体を特定した。
検討の結果、phyC遺伝子のタンパク質コード領域(第1エクソン)にTos17が挿入されたphyC遺伝子突然変異体を単離することに成功した。さらに、phyC遺伝子突然変異体は、長日条件で育てたとき、対照に比べて1週間程度開花(出穂)時期が早まることが見出された。従って、phyC遺伝子は、長日条件を感知して開花を遅らせていることが初めて明らかになった。これまでに、phyC遺伝子が植物の開花時期の決定に関与しているという報告は皆無である。この結果は、phyC遺伝子の発現を抑制することにより、長日条件において植物の開花を促進させることが可能となることを示している。特に、phyC遺伝子突然変異体は開花時期以外の形質にはほとんど変化が認められないため、phyC遺伝子の発現量を制御することにより、特異的に開花を促進することができるという特徴を持つ。phyC遺伝子を利用した植物の開花の促進は、栽培地域や栽培時期に適応した新たな形質を有する有用農作物や観賞用植物等の品種の改良に大きく貢献し得る。また、長日条件において開花が促進されるイネのphyC遺伝子突然変異体は、収穫時期が早められた新たなイネとしての利用が大いに期待される。
即ち、長日条件において植物の開花時期(出穂時期)の調節に関与するphyC遺伝子を利用した植物の開花の促進に関し、より具体的には、
〔1〕 植物の開花の促進のために用いる、以下(a)〜(c)のいずれかに記載の核酸、
(a)植物のphyC遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンス核酸
(b)植物のphyC遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)植物のphyC遺伝子の発現を、共抑制により阻害効果を有する核酸
〔2〕 植物が短日植物である、〔1〕に記載の核酸、
〔3〕 短日植物がイネである、〔2〕に記載の核酸、
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸を含むベクター、
〔5〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸、または〔4〕に記載のベクターを保持する形質転換植物細胞、
〔6〕 〔5〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
〔7〕 〔6〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体、
〔8〕 〔6〕または〔7〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
〔9〕 〔6〕または〔7〕に記載の形質転換植物体の製造方法であって、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸、または〔4〕に記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法、
〔10〕 植物体の細胞内における内因性のphyC遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、植物の開花を促進させる方法、
〔11〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸、または〔4〕に記載のベクターを植物に導入することを特徴とする、〔10〕に記載の方法、
〔12〕 植物が短日植物である〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法、
〔13〕 短日植物がイネである〔12〕に記載の方法、
〔14〕 イネのphyC遺伝子突然変異体、
〔15〕 〔14〕に記載の突然変異体の子孫またはクローンである、イネのphyC遺伝子突然変異体、
〔16〕 〔14〕または〔15〕に記載のイネのphyC遺伝子突然変異体の繁殖材料、を提供するものである。
本発明者らにより、イネのphyC遺伝子の変異によって、長日条件におけるイネの開花時期(出穂時期)が早められることが明らかになった。従って、植物のphyC遺伝子発現を抑制することで、長日条件において植物の開花を促進させることが可能である。
本発明は、植物の開花を促進させるために用いる核酸を提供する。本発明の好ましい態様においては、長日条件において植物のphyC遺伝子の発現を抑制することにより、植物の開花を促進させる。
本発明において開花とは通常、花が咲くことを指すが、イネを含むイネ科植物等においては出穂を意味する。本発明において開花を促進させるとは、開花時期を早めることを指す。また、本発明において、長日条件とは、一日の暗期が限界暗期以下の光周期条件を指すが、具体的には通常、14時間明/10時間暗の条件を例示することができる。
本発明の上記phyC遺伝子とは、植物のフィトクロムと呼ばれる色素結合タンパク質のうちのC型のタンパク質をコードする遺伝子を指す。phyC遺伝子は、種々の植物において見出されている。従って、本発明においては、開花を促進させたい所望の植物について、該植物のphyC遺伝子の発現を抑制することにより開花を促進させることができる可能性がある。本発明において、phyC遺伝子の発現を抑制して、長日条件において開花を促進させる植物としては、好ましくは短日植物であり、さらに好ましくはイネ科の植物であり、具体的にはイネを例示することができる。この短日植物とは、限界暗期よりも長い継続した暗期を含む光周期が与えられると花芽を形成する、あるいは花芽形成が促進される植物を言う。本発明の方法により開花を促進させたい植物として、例えば、有用農作物や鑑賞用植物等を挙げることができる。具体的には、有用農作物としては、例えばイネ等の単子葉植物や、ダイズ等の双子葉植物が挙げられる。また、観賞用植物としては、例えばキク、アサガオ、ポインセチア、コスモス等の花卉植物が挙げられる。
本発明のphyC遺伝子としては、具体的には、イネのphyC遺伝子(GenBankアクセッション番号:AB018442)、シロイヌナズナのphyC遺伝子(GenBankアクセッション番号:Z32538)等を例示することができる。
また、当業者においては公知の方法、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.et.al.,Journal of Molecular Biology 98:503,1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.et.al.,Science 230:1350−1354,1985、Saiki,R.K.et.al.,Science 239:487−491,1988)を利用して、上記のphyC遺伝子のホモログを単離し、該遺伝子の塩基配列の情報を取得することが可能である。例えば、イネのphyC遺伝子の塩基配列(GenBankアクセッション番号AB018442)もしくはその一部をプローブとして用いるハイブリダイゼーション技術、またはphyC遺伝子の塩基配列に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR技術により、他の所望の植物からphyC遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することが可能である。
このようなDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。単離したDNAの配列の決定は、公知の方法で行うことができる。
単離されたDNAが、phyCタンパク質をコードするDNAであるかは、通常、配列の相同性から判定する。配列の相同性は、BLASTn(核酸レベル)やBLASTx(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul,S.F.et.al.,J.Mol.Biol.215:403−410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sei.USA 87:2264−2268,1990、Proc.Natl.Acad.Sei.USA 90:5873−5877,1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic.Acids.Res.25:3389−3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
本発明の方法において開花が促進する植物を作製する場合には、phyC遺伝子の発現を抑制するためのDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物の細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。「phyC遺伝子の発現を抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
本発明において、植物の内在性遺伝子の発現の抑制は、当業者においては、例えばアンチセンス技術を利用する方法によって行うことができる。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(Ecker,J.R.and Davis,R.W.Proc.Natl Acad.USA 83:5372,1986)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(Krol,A.R.et.al.,Nature 333:866,1988)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制等である。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319−347,1993)。従って、本発明は、植物のphyC遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンス核酸を提供する。上記アンチセンス核酸には、アンチセンスDNA、アンチセンスRNAおよび該アンチセンスRNAをコードするDNAが含まれる。
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、mRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス核酸を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な核酸も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス核酸を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。
本発明のアンチセンス核酸は、例えば配列番号:3に記載のDNAの配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein,C.A.et.al.,Nucleic.Acids.Res.16:3209−3221,1988)等により調製することが可能である。調製された核酸は、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。本発明のアンチセンス核酸は、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンス核酸の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンス核酸の長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
内在性遺伝子の発現の抑制は、リボザイムを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの作製が可能となった。従って、本発明は植物のphyC遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸を提供する。本発明の上記核酸には、リボザイム活性を有するRNAおよび該RNAをコードするDNAが含まれる。
一般にリボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,35:2191,1990)。例えばハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3’側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(Koizumi,M.et.al.,FEBS Lett.228:225,1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(Koizumi,M.et.al.,FEBS Lett.239:285,1988、小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,35:2191,1990、Koizumi,M.et.al.,Nucleic.Acids.Res.17:7059,1989)。
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,J.M.Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Kikuchi,Y and Sasaki,N.Nucleic Acids Res.19:6751,1992、菊池洋,化学と生物,30:112,1992)。
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、例えば、植物の細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等のプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5’末端や3’末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5’側や3’側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(Taira,K.et.al.,Protein Eng.3:733,1990、Dzianott,A.M.and Bujarski,J.J.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4823,1989、Grosshans,C.A.and Cech,R.T.Nucleic.Acids.Res.19:3875,1991、Taira,K.et.al.,Nucleic.Acids.Res.19:5125,1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(Yuyama,N.et.al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.186:1271,1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する核酸の形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997、Curr.Biol.6:810,1996)。従って本発明は、植物のphyC遺伝子の発現を、共抑制により阻害効果を有する核酸を提供する。本発明の該核酸には、共抑制により阻害効果を有するDNA、および共抑制により阻害効果を有するRNAが含まれる。
本発明の上記核酸を用いて、phyC遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、例えばphyC遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現するベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体からphyC変異体の形質を有する植物、即ち長日条件において開花が促進した植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば95%以上)の配列の同一性を有する。
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子をいう。
また本発明は、上記核酸または該核酸を含むベクター、該核酸または該核酸を含むベクターを保持する形質転換植物細胞、該形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、該形質転換植物体の子孫またはクローンである形質転換植物体、および該形質転換植物体の繁殖材料を提供する。
さらに、本発明は、上記の形質転換植物体の製造方法であって、本発明の核酸を植物の細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法を提供する。
本発明の核酸の植物細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えばアグロバクテリウム法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)、パーティクルガン法により実施することができる。
上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol.Lett.67:325,1990)が用いられる。この方法によれば、組み換えベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法により植物細胞に導入する。本発明の核酸がDNAである場合、上記ベクターは、例えば植物体に導入した後、該DNAが植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明のDNAが位置し、さらに該DNAの下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられる組み換えベクターは、植物への導入方法、または植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来のCaMV35S、トウモロコシのユビキチンプロモーター(特開平2−79983号公報)等を挙げることができる。
また、上記ターミネーターは、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、あるいはノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を例示することができるが、植物体中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
また、本発明の核酸を導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
また、本発明の核酸の導入により形質転換した植物細胞を効率的に選択するために、上記組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
次いで、本発明の核酸を導入した形質転換細胞から植物体を再生する。植物体の再生は植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et.al.,Plant Physiol.100:1503−1507,1995)。例えばイネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K.et.al.,In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.)pp66−74,1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et.al.,Plant Physiol.100:1503−1507,1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et.al.,Bio/technology,9:957−962,1991)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et.al.,Plant J.6:271−282,1994)等、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、開花が促進した植物体が得られ、成熟して結実して種子を得ることができる。
なお、このように再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来核酸の存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、または植物体中の核酸の塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からの核酸の抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning,第2版,Cold SpringHarbor laboratory Press,1989)に準じて実施することができる。
再生させた植物体中に存在する本発明の核酸よりなる外来遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、上記のように再生植物体から抽出した核酸を鋳型として増幅反応を行う。また、本発明の核酸がDNAである場合には、該DNAの塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中おいて増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、本発明のDNA配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が本発明のDNAに対応することを確認することが可能である。
一旦、染色体内に本発明の核酸が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
本発明においては、上記の如く、植物のphyC遺伝子の発現を抑制することで、植物の開花を促進することができる。
さらに、本発明においては、イネのphyC遺伝子突然変異体、該イネphyC遺伝子突然変異体の子孫またはクローン、また、該イネphyC遺伝子突然変異体の繁殖材料が提供される。
本発明におけるイネのphyC遺伝子突然変異体には、長日条件下において開花が促進したイネのphyC遺伝子突然変異体(ホモ変異体)だけでなく、ヘテロ変異体も含まれる。該ヘテロ変異体は、ホモ変異体の作製に用いることができる点で有用である。また、本発明におけるイネのphyC遺伝子突然変異体には、本発明で単離したphyC遺伝子突然変異体(ホモ変異体およびヘテロ変異体)の他に、実施例に記載しているミュータントパネルを用いた突然変異体の単離法によって新たに単離されるphyC遺伝子突然変異体(ホモ変異体およびヘテロ変異体)をも含む。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] phyC遺伝子突然変異体の単離
本発明者らは、ミュータントパネルを用いた突然変異体の単離法を用いて、phyC遺伝子突然変異体の単離を行った。まず、イネのphyC遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBankアクセッション番号AB018442)を参考に、phyC遺伝子のプライマーを作製した。phyC遺伝子は大きな遺伝子なので、すべての領域をカバーするために6種類のプライマー(BR、DR、EF、FR、GF、HR)をデザインした(表1)。また、Tos17については、両端のLTR配列に外向きに二ヶ所(LTR1、LTR4)プライマーをデザインした(表2)。
9600個体分のミュータントパネルを12通り(phyC特異的プライマー:6種類×Tos17特異的プライマー:2種類)のプライマーの組み合わせでPCRスクリーニングを行った結果、BRとLTR4の間で特異的な増幅が認められた。ミュータントパネルのDNAプールには80(X軸)〜120個体(Z軸)由来のDNAが含まれる、即ち、一個体に付いてみれば1/120〜1/80に希釈されており、鋳型の濃度はかなり低いことになる。また、Tos17のLTRの塩基配列はAT含量が高く、設計されたプライマーのTmが低いことから、一回のPCRで特異的な増幅を検出することは難しい。そこで感度を上げ、かつ特異性も高めるために、それぞれのプライマーの下流に別のプライマー(BR1、DR1、EF1、FR1、GF1、HR1、LTR2、LTR5)をデザインして、二回のPCR(nested PCR)によって増幅を検出した。その結果非特異的なバンドが多数出現したので、サザンハイブリダイゼーションによって、特異的な増幅を特定し、特定されたバンドを切り出して、DNA断片を抽出した。該DNA断片をシークエンスし、Tos17の挿入位置を決定したところ、発色団(開環型テトラピロール)の結合部位より上流(アミノ酸配列において244番目)に挿入されており(図1)、完全突然変異体(null mutant)と予想された。
また、Tos17の挿入をサザンハイブリダイゼーション解析を用いて確認した。イネのゲノムDNAをXhoIで切断し、サザンハイブリダイゼーション解析すると、報告されているイネphyC遺伝子のゲノムDNA配列(D.Basu et al.Plant Mol.Biol.44:27−42,2000)から、野生型において3.8kbのバンドが検出されると予想される。これに対し、Tos17の挿入変異体では7.5kbと0.4kbの2本のバンドが検出されると予測される。phyC突然変異のヘテロ変異体を自殖して得た後代(#1〜9)から抽出したDNAに対し、XhoI処理により生じるphyC遺伝子を含む3.8kbの断片を認識するプローブ(変異体では7.5kbの断片を認識するphyCの全長cDNAからなるプローブ)を用いたサザンハイブリダイゼーションにより解析した結果、予測通りのバンドパターンが得られた。また、phyC遺伝子に挿入されたTos17が分離して、#2、5、6、7ではホモ変異体に、#1、4、8、9ではヘテロ変異体に、#3ではTos17が失われていることが分かった(図2B)。以上の結果より、phyC遺伝子突然変異体を1系統(osphyC−1)分離することができた。
[実施例2] RT−PCRによるphyC遺伝子の転写産物の確認
単離された突然変異体において、phyC遺伝子が発現していないことを確認するために、phyC遺伝子突然変異をヘテロに持つ個体を自家受粉して、その分離後代の植物体(#1〜9)からDNAを抽出して遺伝型を決定すると共に、RNAを抽出し、表1のBRおよびEFをプライマーとして競合的RT−PCRを行った(図3)。その際、両端にそれぞれBRおよびEFの配列を持ち、その間に、phyCのcDNAとは全く無関係の340bpの配列が挿入されているDNA断片を、競合DNA(competitor)として用いた。検討の結果、phyC遺伝子が野生型(#3)あるいはヘテロ(#1、4、8、9)の個体では、phyC遺伝子の増幅バンドが認められるのに対して、ホモのphyC遺伝子突然変異体(#2、5、6、7)では予想される位置にバンドが認められず、phyC遺伝子が発現していないことが確認された。
[実施例3] 開花時期(出穂時期)に対するphyC遺伝子突然変異の影響
開花時期を調べるため、日本晴とphyC遺伝子突然変異体の種子を2000年6月28日に播種し、7月14日に圃場に移植した。これらのイネを自然日長で生育させ、開花時期を観察した。図4に示すように、対照として植えたphyA遺伝子突然変異体(osphyA−2)や自殖後分離したヘテロ変異体や野生型の個体が播種後60〜61日で開花したのに対して、phyC遺伝子突然変異体は約1週間早い54日で開花した。
また、phyC遺伝子突然変異と開花の促進が連鎖していることを確認するために、phyC遺伝子突然変異体を日本晴に戻し交配し、その分離F2集団について遺伝子型と開花日数を調べた。F2集団(n=54)および対照としての日本晴(n=63)は、2002年5月15日に播種し、6月5日に圃場に移植した。図5に示すように、分離したヘテロ及び野生型の個体(n=45)は、最も早いもので91日、平均して播種後93.2日で開花したのに対して、phyC遺伝子突然変異体(n=9)は最も遅いものでも84日、平均して83.1日で開花し、遺伝子型と開花時期はこの集団では完全に一致した。対照の日本晴は、ヘテロ及び野生型とほぼ同様に平均して94.1日で開花した。
さらに、短日および長日条件における開花時期を調べるために、人工気象器(短日:10.5時間明/13.5時間暗、長日:14時間明/10時間暗)でも育てた(図6)。短日条件では、日本晴、phyA遺伝子突然変異体、およびphyC遺伝子突然変異体の間で開花日数に差がなく、いずれも約50日で開花したが、長日条件では、日本晴および、phyA突然変異体が開花まで約90日を要したのに対して、phyC遺伝子突然変異体は約1週間早い、約83日で開花した。従って、phyC遺伝子は、長日を関知して開花を遅らせるように働いていると判断される。
また、該phyC遺伝子突然変異体において、開花時期以外の形質(草丈、草姿、クロロフィル含量、クロロフィルa/b比等)の観察を行ったが、有意な差は認められなかった。
産業上の利用の可能性
本発明により、植物のphyC遺伝子を利用した植物の開花(出穂)の促進方法が提供された。特に、phyC遺伝子突然変異体は開花時期以外の形質(草丈、草姿、クロロフィル含量、クロロフィルa/b比等)には変化が認められないため、phyC遺伝子の発現量を抑制することにより、特異的に開花を促進することができると考えられる。phyC遺伝子を利用した植物の開花の促進は、栽培地域や栽培時期に適応した新たな形質を有する有用農作物や観賞用植物等の品種の改良に貢献し得るものと大いに期待される。また、本発明において、長日条件において開花が促進される植物のphyC遺伝子突然変異体が提供された。該変異体は、収穫時期が早められた新たなイネとしての利用が大いに期待される。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、phyC遺伝子突然変異体におけるTos17の挿入部位を示す図である。Aでは、黒枠の部分を境にして(244番目のヒスチジン残基(H)と245番目のグルタミン酸残基(E)との間に)Tos17が挿入されていることを示す。Bでは、染色体上のTos17の挿入部位を模式的に示す。
図2は、phyC遺伝子突然変異体を単離したことを示す写真である。phyC突然変異のヘテロ変異体を自殖して得た後代(#1〜9)において、XhoI処理により生じるphyC遺伝子を含む3.8kbの断片を認識するプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションにより解析した結果を示す。(+/+)は野生型、(+/−)はphyC遺伝子のヘテロ変異体、(−/−)はphyC遺伝子のホモ変異体を示す。
図3は、競合的RT−PCRによるphyC遺伝子転写産物の発現量を示す写真である。log(Comp)はCompetitor濃度の対数を示す。phyCはphyC遺伝子転写産物、CompはCompetitor由来の増幅産物を示す。(+/+)は野生型、(+/−)はphyC遺伝子のヘテロ変異体、(−/−)はphyC遺伝子のホモ変異体を示す。
図4は、phyC遺伝子突然変異体の圃場栽培における開花日数(出穂日数)を示す図である。osphyA−2はphyA遺伝子突然変異体、(+/±)は自殖後分離したヘテロ変異体や野生型の個体、osphyC−1はphyC遺伝子突然変異体を示す。
図5は、phyC遺伝子突然変異体を日本晴に戻し交配し、その分離F2集団における遺伝子型と開花日数との関係を示す図である。
図6は、phyC遺伝子突然変異体における長日条件と短日条件での開花日数(出穂日数)を示す図である。横軸の14L/10Dおよび10.5L/13.5Dは、それぞれ、長日条件および短日条件を示す。
Claims (16)
- 植物の開花の促進のために用いる、以下(a)〜(c)のいずれかに記載の核酸。
(a)植物のphyC遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンス核酸
(b)植物のphyC遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)植物のphyC遺伝子の発現を、共抑制により阻害効果を有する核酸 - 植物が短日植物である、請求項1に記載の核酸。
- 短日植物がイネである、請求項2に記載の核酸。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の核酸を含むベクター。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを保持する形質転換植物細胞。
- 請求項5に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
- 請求項6に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
- 請求項6または7に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
- 請求項6または7に記載の形質転換植物体の製造方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
- 植物体の細胞内における内因性のphyC遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、植物の開花を促進させる方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを植物に導入することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
- 植物が短日植物である請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
- 短日植物がイネである請求項12に記載の方法。
- イネのphyC遺伝子突然変異体。
- 請求項14に記載の突然変異体の子孫またはクローンである、イネのphyC遺伝子突然変異体。
- 請求項14または15に記載のイネのphyC遺伝子突然変異体の繁殖材料。
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