【発明の詳細な説明】
P-セレクチンリガンドおよび関連分子並びに方法
連邦支援研究の申告
本発明はNIH補助金DK43031によるアメリカ合衆国政府の支援で為され、および
このため、アメリカ合衆国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
発明の背景
本発明は、P-セレクチンリガンドの分子、DNAおよびそれらの使用に関する。
P-セレクチンは、膜内在性のC型レクチンで、内皮細胞のヴァイペル−パラー
デ体、および血小板のアルファ顆粒内に見出される(McEverら、J.Clin.Inves
t.,84: 92〜99,1989; Bonfantiら、Blood,73: 1109〜1112,1989; Hsu-Lin
ら、J.Biol.Chem.,259: 9121〜9126,1984; Stenbergら、J.Cell Biol.,10
1: 880〜886,1985)。トロンビン、ヒスタミン、およびマスト細胞の活性化によ
り放出されるその他のメディエーター、補体C5b-9複合体またはC5a断片、過酸化
水素、ならびに酸化型低比重リポタンパク質により、P-セレクチンの形質膜への
移動を、誘発することができる(Hsu-Linら、J.Biol.Chem.,259: 9121〜9126
,1984; Stenbergら、J.Cell Biol.,101: 880〜886,1985; Hattoriら、J.Bi
ol.Chem.,264: 9053〜9060,1989; KubesおよびKanwar,J.Immunol.,152: 3
570〜2577,1994; Thorlaciusら、Biochem.Biophys.Res.Communications,20
3: 1043〜1049,1994; Foremanら、J.Clin.Invest.,94: 1147〜1155,1994;
Patelら、J.Cell Biol.,112: 749〜759,1991; Lehrら、Laboratory Invest.
,71: 380〜386,1994; Gebuhrerら、Biochem.J.,306: 293〜298,1995)。一
旦細胞表面上に提示されると、P-セレクチンは、骨髄性単球が血小板または内皮
細胞に接着するのを支持する(Larsenら、Cell,59: 305〜312,1989,Hamburge
rおよびMcEver,Blood,75: 550〜554,1990; Gengら、Nature,343: 757〜760
,1990; Gambleら、Science,249: 414〜417,1990)。後者の状態において、P-
セレクチンは、下層組織の傷害に先駆けて出現し、ならびに、白血球が血管外滲
出する最初の段階、即ち後毛細管小静脈壁に沿った好中球のローリングを支持す
る(Lawr
enceおよびSpringer,Cell,65: 859〜873,1991)。P-セレクチンの構造遺伝子
に関し、同型の対立遺伝子が欠損したマウスでは、白血球のローリングが減少し
、実験的に誘発した炎症部位への顆粒球の動員が遅れる(Mayadasら、Cell,74:
541〜554,1993)。一般に、P-セレクチンの発現を誘発するメディエーターは
、外傷または創傷のシグナルを発する際に働く。組織が外傷を受けた場合、最初
に認識される反応の一つは、ヒスタミン、セロトニン、及びその他の拡散性メデ
ィエーターの放出を伴う、マスト細胞の活性化である。その他に通常の現象とし
ては、血管断裂部位における血栓形成、および、異物による補体第2経路の活性
化がある。P-セレクチンの発現は、これらの状況の各々において産生されるシグ
ナルにより、誘発される。P-セレクチンを介して好中球のローリングが誘発され
ることは、外科的処置を施した場合には避けられない結果と考えられていたが、
マスト細胞の脱顆粒を阻害する薬剤であるクロモリンは、そのようなローリング
を阻止し、この結果として、外傷および血管外滲出の間に介在するマスト細胞の
役割を見事に証明することが示された(Kubesおよびkanwar,J.Immunol.,152:
3570〜3577,1994)。
発明の概要
第1の形態として、本発明は、シアリル-Lex決定基および硫酸決定基が共有結
合している有機化合物分子であって、これらの決定基の少なくとも一つが、その
分子の天然に生じたのではない部位に位置する、有機化合物分子を特徴とする。
第2の形態としては、本発明は、基本的には(a)図8Aの第21〜57番目のアミ
ノ酸、および(b)図8Aの第38〜57番目のアミノ酸から本質的になる群より選択
される、P-セレクチンのリガンドを特徴とする。
第3の形態として、本発明は、抗体の領域(例えば、ヒンジ、CH2、およびCH3
の各領域のうちのひとつまたはそれ以上)に結合したP-セレクチンリガンドを含
む、融合タンパクを特徴とする。
関連する形態として、本発明は、シアリル-Lex決定基および硫酸決定基の付加
部位を含むタンパク質であって、これらの決定基の少なくとも一つは、そのタン
パク質の天然に生じたのではない部位に位置するタンパク質をコードする、精製
された核酸;本発明のP-セレクチンリガンドのいずれか一つをコードする精製さ
れた核酸;P-セレクチン−抗体融合タンパク質をコードする精製された核酸;な
らびに、これらの核酸のいずれかを含むベクターおよび組換え細胞を特徴とする
。さらに本発明は、以下に述べるいずれかの症状に対する治療薬の製造において
、P-セレクチンリガンド、またはそのようなリガンドを有する有機化合物分子(
望ましければ、抗体またはα1−酸性糖タンパク質ドメインのような他のタンパ
ク質との組み合わせにおいて)を使用することも含む。
もう一つの関連する形態として、本発明は、P-セレクチンタンパク質を有する
細胞が、シアリル-Lex決定基及び硫酸決定基を有する分子または細胞に結合する
のを阻害する方法を特徴とする。その方法には、P-セレクチンタンパク質含有細
胞を、シアリル-Lex決定基および硫酸決定基を有する有機化合物分子であって、
これらの決定基の少なくとも一つが、その分子の天然に生じたのではない部位に
位置する、有機化合物分子;P-セレクチン−抗体融合タンパク質;または本発明
のP-セレクチンリガンドのいずれかと、接触させることが含まれる。
また別の関連する形態として、本発明は、治療有効量の、シアリル-Lex決定
基および硫酸決定基を有する有機化合物分子であって、これらの決定基の少なく
とも一つが、分子の天然では生じない部位に位置する、有機化合物分子;P-セレ
クチン−抗体融合タンパク質;または本発明のP-セレクチンリガンド、のいずれ
かを患者に投与することを含む、哺乳類において炎症を抑制する方法を特徴とす
る。
また更に別の関連する形態として、本発明は、哺乳動物において、すべての血
管外滲出依存性の有害な反応(血管外滲出依存性の器官損傷および/または成人
呼吸促進症候群、糸球体腎炎、および虚血性心筋傷害に伴う凝血を含むが、これ
らに限定されるものではない)を抑制し、またはそれらから哺乳動物を保護する
方法を特徴とする。その方法は、治療有効量のシアリル-Lex決定基および硫酸決
定基が共有結合した有機化合物分子であって、これらの決定基の少なくとも一つ
が、その分子の天然に生じたのではない部位に位置する、有機化合物分子;P-セ
レクチン−抗体融合タンパク質;または本発明のP-セレクチンリガンドのいずれ
かを、哺乳動物に投与することを含む。
最後の形態として、本発明は、治療有効量のシアリル-Lex決定基および硫酸決
定基が共有結合した有機化合物分子であって、これらの決定基の少なくとも一つ
が、その分子の天然に生じたのではない部位に位置する、有機化合物分子;P-セ
レクチン−抗体融合タンパク質;または本発明のP-セレクチンリガンドのいずれ
かを、哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物における有害な免疫反応を抑制
し、またはそれらから哺乳動物を保護する方法を特徴とする。好ましくは、この
方法は、微生物因子により誘導される有害な免疫反応に対して哺乳動物の治療を
行うことを含む。そのような微生物因子としては、グラム陰性細菌のリポ多糖類
(LPS)、グラム陽性生物のペプチドグリカン、真菌細胞壁由来のマンナン、多
糖類、菌体外酵素(例えば、ストレプトキナーゼ)および毒素(例えば、ブドウ
球菌の中毒性ショック腸管毒素)が含まれるが、これらに限定されるものではな
い。その他の好ましい態様において、その方法は、宿主要因により誘発されるす
べての有害な免疫反応に対して、哺乳動物を治療することを含む。そのような宿
主要因としては、補体、キニン、および凝固系の代謝産物、刺激を受けた細胞か
ら放出される因子(例えば、インターロイキン1(IL-1)および腫瘍壊死因子α
(TNF))、多形核白血球(PMNs)に由来する酵素及び酸化剤、バソペプチド(
例えばヒスタミン)、およびアラキドン酸代謝産物が含まれるが、これらに限定
されるものではない。その他の好ましい態様において、有害な免疫反応は、組換
えTNF-αにより誘発されるか、または組換えIL-1により誘発される。更に他の好
ましい態様において、有害な免疫反応は、敗血症性ショックであり、または敗血
症である。
上記の各々の形態に対する好ましい態様において、有機化合物分子またはタン
パク質は、また、E-セレクチン(ELAM-1)を持つ細胞が、シアリルLex決定基を
持つ分子または細胞に結合することを阻害し、このため、E-セレクチン介在の炎
症、血管外滲出依存性の有害反応、および有害な免疫反応を阻害する;それらの
シアリルLex決定基及び硫酸決定基は、図8Aの第21〜57番目のアミノ酸(例えば
、図8Aの第38〜57番目のアミノ酸)を本質的に含むP-セレクチンリガンド上に存
在する;そのシアリルLex決定基は、N-結合性またはO-結合性である;それらの
分子またはタンパク質は、複数のシアリルLex決定基および/または複数の硫酸
決定基を含む;その有機化合物分子は、タンパク質(例えば、抗体(例えば、Ig
GまたはI
gM)、α1−酸性糖タンパク質(AGP)、または抗体融合タンパク質(例えば、AG
P-抗体結合タンパク質))である;そのタンパク質は、抗体、AGP、または本明
細書で述べるP-セレクチンリガンドのいずれかが(例えば、そのタンパク質のア
ミノ末端に)付加された、抗体融合タンパク質(例えば、AGP-抗体融合タンパク
質)である;その抗体または抗体融合タンパク質(例えば、AGP-抗体融合タンパ
ク質)は、抗体部分として、IgG1、CH2、CH3、および/またはヒンジ領域を含む
;その抗体、AGPまたは抗体融合タンパク質は、α1−酸性糖タンパク質のN-結合
性糖鎖付加部位を、一つまたはそれ以上含む;その分子の抗体部分は、天然には
生じないシアリルLex決定基を、一つまたはそれ以上有する;そのシアリルLex決
定基は、(例えば、シアリルLex決定基が、図10で示される配列の第274、287ま
たは322番目のアミノ酸のうち一つまたはそれ以上に付加することにより)抗体
が補体を固定する、またはFc受容体を結合する能力を妨げる;および、その有機
化合物分子は、可溶性である。
本明細書において、「P-セレクチンリガンド」とは、P-セレクチン受容体との
相互作用を仲介しうるあらゆるアミノ酸配列を意味し、および、P-セレクチンカ
ウンター受容体とされるタンパク質を含む。好ましいP-セレクチンリガンドとし
ては、図8Aの第21〜57番目のアミノ酸、更に好ましくは、第38〜57番目のアミノ
酸を含むが、これらに限定されるものではない。本発明に従って、本発明に有用
な融合タンパク質を産生するために、P-セレクチンリガンドに、さらにタンパク
質領域(例えば抗体領域)を結合させて用いてもよい。
「天然には生じない」とは、シアリルLex決定基または硫酸決定基が、天然に
は分子のそのアミノ酸の位置に結合しないことを意味する。
「炎症」とは、物理的、化学的または生物学的要因によって引き起こされた傷
害または異常な刺激に対する反応として、損傷を受けた血管及び隣接組織におい
て起こる、細胞学的および組織学的反応からなる病理学的過程を意味する。本明
細書においては、炎症は、すべての慢性的な炎症性反応(たとえばリウマチ性関
節炎、乾癬、または尋常性天疱瘡)と同様に、すべての急性炎症性反応(例えば
、成人呼吸促進症候群または虚血性心筋傷害の経過中またはその後)を含む。
「精製された核酸」とは、本発明のDNAが由来する生物の、天然に存在するゲ
ノ
ムにおいて、その遺伝子に近接する遺伝子を含まないDNAを意味する。このため
、本用語は、例えば、ベクター;自律的に複製するプラスミドまたはウイルス;
もしくは原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA;もしく
は他の配列とは独立の別な分子として存在する(例えば、cDNAもしくはゲノムも
しくはPCRまたは制限酵素による消化で産生されたcDNA断片)組換えDNAを含む。
それはまた、さらに付加したポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の部分で
ある、組換えDNAを含む。
「N-結合性」とは、タンパク質のアスパラギン残基のアミド窒素に結合するこ
とを意味する。
「O-結合性」とは、タンパク質のセリン、スレオニンまたは水酸化リジン残基
の水酸基の酸素に結合することを意味する。
「血管外滲出依存性の有害反応」とは、宿主に有害な、および炎症、組織傷害
または血栓形成の部位またはその付近の内皮に、好中球が不適切に接着したこと
から直接または間接的に発生し、およびその結果としてそれらの好中球が、接着
した血管または器官内へと移動していくような、全ての反応を意味する。そのよ
うな傷害に侵される可能性のある器官としては、心臓、肺、腎臓が含まれるが、
これらに限定されるものではない。
「有害な免疫反応」とは、免疫担当細胞(即ち、すべてのB細胞、T細胞、単球
/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、マスト細胞、好塩基球、または顆粒
球)により仲介され、宿主に有害な、あらゆる反応を意味する。
詳細な説明
最初に図について簡単に述べる。
図1Aは、PSGL-1欠損変異体の構造を模式的に示したものである。従来のPCR法
を用いて、PSGL-1の外部領域を組織的に欠損させた。典型的な10残基の反復(点
描部分;配列番号:1)および膜貫通ドメイン(斜線部分)が図示されている。
図1Bは、図1Aに示した欠損変異体を発現する形質転換COS細胞の、P-セレクチン
結合能を表す柱状図である。51Crで標識した細胞を、マイクロタイタープレート
のウェルに吸着させた可溶性のP-セレクチンに接着させた。細胞を洗浄した後、
結合した細胞を溶解し、および51Crのレベルを計数した。欠損体を、ヒトFTVII
フコー
ス転移酵素非存在下(棒グラフ2)または存在下(残りの7つの棒グラフ)のいず
れかで、細胞に導入した。
図2Aは、PSGL-1およびCD43のキメラ体を模式的に示したものである。PSGL-1の
膜近傍の細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを、CD43の同等
な配列と置換した。この結果できた分子はシステインを欠損しており、このため
ジスルフィド結合による二量体を形成できない。図2Bは、図2Aに示したキメラ体
を発現する形質転換COS細胞の、P-セレクチン結合能を表す柱状図である。FTVII
h、ヒトFTVIIフコース転移酵素と同時に形質転換した。
図3Aは、完全なまたは途中までで切れたムチンC末端に、PSGL-1の先端領域を
付加した構造を持つキメラムチンを、模式的に示したものである。PSGL-1のN-末
端(点描部分;配列番号:1)および膜貫通(TM)ドメイン(斜線部分)が図示
されている。PSGL-1-NH2/CD43「反復」配列は、配列番号:2に示されている。
成熟型CD34およびGlyCAM-1分子の、予想されるN-末端、および、CD43の反復領域
のN-末端に、PSGL-1を融合させた。図3Bは、図3Aに示された構造物を発現する形
質転換したCOS細胞の、P-セレクチン結合能を表す柱状図である。FTVIIh、ヒトF
TVIIフコース転移酵素。
図4Aは、PSGLの欠損変異体を模式的に示したものである。アミノ末端領域を、
様々な数の反復要素を持つPSGL分子に付加した。図4Bは、図4Aに示すキメラ体を
発現する形質転換したCOS細胞の、P-セレクチン結合能を表す柱状図である。
図5は、35S-硫酸塩で標識し、および還元条件のもとで8%の変性ポリアクリル
アミドゲルで電気泳動した、ムチン:免疫グロブリン融合タンパク質のオートラ
ジオグラムの写真である。レーンAは、CDM8形質転換細胞の上清;レーンBは、Ig
の発現ベクター(ムチンは挿入されていない)を形質転換した細胞の上清;レー
ンCは、PSGL-1:Ig発現細胞の上清;レーンDは、CD43:Ig発現細胞の上清;レー
ンE、CD34:Ig発現細胞の上清;およびレーンFは、LGlyCAM-1:Ig発現細胞の上
清を示す。
図6Aおよび図6Bは、10 mM NaClO3存在下または非存在下で、および、フコース
転移酵素共存下または非存在下での、PSGL-1を発現するCOS細胞の、固定化P-お
よびE-セレクチンへの結合を表した柱状図である。図6Aは、P-セレクチンに対す
る
細胞の結合を表す柱状図である。図6Bは、E-セレクチンに対する細胞の結合を柱
状図である。
図7は、10 mM NaClO3存在下または非存在下で、35S-硫酸塩で標識し、および
還元条件のもとで8%の変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した、PSGL-1:免
疫グロブリン融合タンパク質のオートラジオグラムの写真である。写真は、35S-
硫酸塩が可溶性のムチンキメラに取り込まれるのを、塩素酸塩が阻害することを
示す。レーンAは、塩素酸塩非存在下でのCDM8形質転換細胞の上清;レーンBは、
塩素酸塩非存在下でのPSGL-1:Ig発現細胞の上清;レーンCは、塩素酸塩存在下
でのCDM8の上清;およびレーンDは、塩素酸塩存在下でのPSGL-1:Ig発現細胞の
上清を示す。
図8Aは、様々なPSGL-1欠損変異体の配列の終末点(矢印で表示)のリストであ
る。最上段の配列は、配列番号:3;中段の配列は、配列番号:13、最下段の配
列は、配列番号:14である。図8Bは、図8Aで示した終末点を持つ欠損変異体を発
現する形質転換COS細胞の、P-セレクチン結合能を表す柱状図である。
図9Aは、欠損型のPSGL-1またはCD43に、野生型およびPSGL-1の38〜57番残基の
変異体を付加することの効果を測定するために用いた構造を、模式的に図式に示
したものである。挿入した配列は、下部左側に示されている。図9Bは、図9Aに図
示したキメラ体を発現する形質転換COS細胞の、P-セレクチン結合能を表す柱状
図である。
図10は、IgG1(配列番号:9)をコードする塩基配列(配列番号:8)、および
N-結合性グリカン付加部位を作成するために設計された変異体(配列番号:12)
のリストである。
図11Aは、AGP-IgG1融合タンパク質の塩基配列(配列番号:10)、および、図1
1Bは、AGP-IgG1融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:11)である。
図12Aは、完全なPSGL-1(配列番号:4)またはヒトIgG1のヒンジ、CH2、およ
びCH3領域に結合した20残基のペプチドのいずれかを含む、免疫グロブリン融合
タンパク質を、模式的に図式に示したものである。Y/F-hIgGという構造は、配列
番号:5を有し;T/AhIgGという構造は、配列番号:6を有し;Y/F-T/A-hIgGとい
う構造は、配列番号:7を有する。図12Bは、COS細胞に形質転換した後の、図12A
に示し
た融合タンパク質による[35S]システインおよびメチオニンの取り込みを評価
するために用いた、8%ポリアクリルアミドゲルの写真である。レーンAは、CDM8
を対照として形質転換した細胞の上清を示す。レーンBは、PSGL-1-免疫グロブリ
ン融合タンパク質を形質転換した細胞の上清を示す。レーンCは、WT-hIgGを形質
転換した細胞の上清を示す。レーンD、Y/F-hIgGを形質転換した細胞の上清を示
す。レーンEは、T/A-hIgGを形質転換した細胞の上清を示す。レーンFは、Y/F-T/
A-hIgGを形質転換した細胞の上清を示す。図12Cは、COS細胞に形質転換した後の
、図12Aに示した融合タンパク質による[35S]硫酸塩の取り込みを評価するため
に用いた、8%ポリアクリルアミドゲルの写真である。さらに、アミノ末端に何も
付加していない対照の融合タンパク質も含む(レーンB)。レーンCからGは、図1
2Bの、レーンBからFに相当する。
図13は、ビデオ撮影フィールド毎の、相互作用しているHL-60の棒グラフであ
る。予め、P-セレクチン−免疫グロブリンキメラ体、または対照のCD4-免疫グロ
ブリンキメラ体を塗布した平行プレートフローチャンバーに、細胞を注入した。
細胞に、0.75 dynes/cm2で剪断負荷をかけた。各棒線は、15秒間隔で撮影した8
フレームの、各フィールド当たりの平均細胞数(±SEM)を表す。ローリングし
ているまたは浮遊している細胞は、ビデオ画像上では縞のように見える。棒線は
、左から右へ:P-セレクチン−免疫グロブリンキメラ体の上をローリングしてい
るまたは浮遊しているHL-60細胞、10 mM 塩化ナトリウムを含む無硫酸塩培地で
前処理したHL-60細胞、および、CD4-免疫グロブリンキメラ体の上を浮遊してい
るHL-60細胞を示す。
シアリル-ルイスX(シアリル-Lex)および硫酸決定基は、以下の実験によって
、P-セレクチンと相互作用し、結合を促進することが示された。これらの実施例
は本発明の例証のためのものであり、本発明を限定するものではない。以下の実
験で用いた方法を先に説明する。可溶性P-セレクチンの生成
P-セレクチンおよびE-セレクチンIgキメラ体は、レクチン、EGF-関連、および
ヒトIgG1のヒンジ、CH2、およびCH3ドメインに結合したP-セレクチンの最初の2
つの短い共通反復配列、をコードする発現プラスミドをCOS細胞に一過性に発現
さ
せることによって調製した(アルッフォ(Aruffo)ら、EMBO J.,6:3313〜3316,19
91;ワルツ(Walz)ら、Science,250:1132〜1135,1990)。PSGL-1 cDNAコード配
列をHL-60 cDNAライブラリーのPCR増幅によって得て、配列をDNA配列解析によっ
て確認した。ポリオーマウイルス複製起点を欠損し、インフルエンザ血球凝集素
(flu)ペプチド(フィールドら(Field)、Mol.Cell.Biol.8:2159〜2165,1988
)エピトープタグのコード領域のすぐ上流に位置するCD5抗原のリーダー配列を
含むCDMBに基づく発現ベクターに、成熟細胞外、膜貫通、および細胞内ドメイン
に対するコード部分を挿入した。PSGL-1 欠失体の構成
アミノ末端PSGL-1欠失体は、フレーム2(ロイシンアスパラギン酸をコードす
る)におけるXbaI部位の下流に位置する欠失変異体の望ましい終点をコードする
プライマーを用いたPCR増幅によって調製した。得られた配列は、下記の残基がX
ba部位のアスパラギン酸(D)の直後に続くポリペプチドをコードした:PSGL前
駆体のA118、A128、A138、A148、A158、A168、G178、A188、A198、A208、A218、
A228、A238、A248、A258、およびT268。次に、無修飾のPSGL-1の発現のために用
いられるCD5リーダーfluタグ発現ベクターに、PCR断片を挿入した。fluタグは上
記フレームのXbaI部位で終了する。fluタグ結合部の配列を確認し、間接免疫蛍
光顕微鏡による検鏡およびフローサイトメトリーによってCOS細胞における発現
を確認した。フレーム1(グルタミン酸フェニルアラニンをコードする)での欠
損部位におけるEcoRI部位による一連の内部欠損もまた、アミノ末端を有する欠
失変異体をまず作製することによって調製した(前駆体のペプチド配列のA118、
A128、A138、A148、A158、A168、G178、A188、A198、A208、A218、A228、A238、
A248、およびA258に対応するEcoRI部位のフェニルアラニン[F]直後の残基)。こ
れらの欠失変異体のそれぞれに対し、PSGL-1前駆体A117のすぐ下流のグルタミン
酸フェニルアラニンフレームのEcoRI部位で終わるfluタグアミノ末端PSGL-1ドメ
インを付加した。得られた構成物は、A117から上記の様々な終点との間に欠失を
含んだ。ムチンドメイン相互交換
成熟アミノ末端(CD34またはGlyCAM-1)またはトレオニン/プロリンに富む反
復配列の領域(CD34)の開始点のいずれかに、EcoRI部位を付加することによっ
て
、PSGL-1アミノ末端ドメインを加えるためにCD34、CD43、およびGlyCAM-1ムチン
を調製した。上記のように、EcoRI部位はグルタミン酸フェニルアラニンフレー
ム(フレーム1)に存在した。CD34配列は前駆体のF30残基で始まり、Gly-CAM-1
は前駆体のL19、およびCD43は前駆体のI135で始まった。これらのそれぞれに対
し、上記のEcoRIで終わるflu-タグPSGL-1ドメインを加えた。PSGL-1のアミノ末
端および反復配列要素を、CD43前駆体の配列S225のすぐ上流に位置するグルタミ
ン酸フェニルアラニンフレームにあるEcoRI部位を通じて、CD43の膜近位、膜貫
通、および細胞内ドメインに付加した。PSGL-1からの相補的断片はT267までの前
駆体のアミノ末端残基に対応した。アミノ末端ドメインの微細構造マッピング
同様の方法を用いて、アミノ末端ドメインにおける欠失体を構成し、この場合
、ロイシンアスパラギン酸フレーム(フレーム2)にXbaI部位を有するプライマ
ーを用いて、PCRによって生じた欠失体を形成した。アスパラギン酸をコードす
る残基のすぐ下流は、前駆体R38、E58、P78、およびA98に対応するPSGL-1配列で
あった。アミノ末端ドメインを明らかにするために、示された配列がスレオニン
またはチロシン残基をアラニンまたはフェニルアラニンに変異した、38から57ま
での残基に対応する二本鎖オリゴヌクレオチドを合成した。ジデオキシ法配列解
析によって全ての構造を確認した。細胞接着アッセイ
形質転換細胞を、0.5 mM EDTAリン酸緩衝生理食塩水(PBS)によって形質転換
後48〜60時間で培養皿から剥離させた。次に、51CrO4(1 mCi/ml;デュポン、
ボストン、MA)の0.9%塩化ナトリウム溶液100 μl+培地100 mlを細胞に加えて
、それらを37℃で1時間インキュベートした。標識を加えた細胞をPBSで2回洗
浄し、0.2%BSA、0.15 M塩化ナトリウム、3 mM塩化カルシウム中に再懸濁した
。同じロットのクロム酸塩によって同様に調製した細胞の標識率(細胞当たり取
り込まれたカウント)の変動は、概して最小限であった。アフィニティー精製ヤ
ギ抗ヒトIgG抗体(抗ヒトIgG Fc(重鎖特異的)のPBS溶液20 μg/mlを100μl)
により室温で2時間湿潤チャンバー内でコーティングした96ウェルマイクロ培養
プレートのウェル中で、標識細胞をインキュベートした。プレートをPBSで2回
洗浄した後
、3%BSAのPBS溶液200μlで一晩インキュベートすることによって、別のタンパ
ク質結合部位をブロックした。プレートをPBSで4回洗浄し、融合タンパク質上
清200μlと共に2時間インキュベートした。PBSで3回洗浄し、さらに1回洗浄
した後(0.2%BSA、0.15 M塩化ナトリウム、3 mM塩化カルシウム中で)、2×1
05個/ウェル(0.2%BSA、0.15 M塩化ナトリウム、3 mM塩化カルシウム200μl
)を加えて、プレートを回転プラットフォーム上で回転させながら(80 rpm)、
室温で15分結合させた。プレートに0.15 M塩化ナトリウム/3 mM塩化カルシウ
ム溶液200μlを満たし、次にプレートを逆転させることによって、3回洗浄した
。2%SDS 200μlを加えて接着細胞を溶解し、標識クロム酸塩をガンマ線分光計
によって計数した。免疫蛍光分析
3%BSAを含むPBS中で一次モノクローナル抗体(腹水の200倍希釈または精製
抗体5μg/mlが適している)と共に30〜45分インキュベートすることによって、
細胞をサイトメトリー用に調製した。細胞をPBSで2回洗浄し、マウスIgG(12CA
5)またはマウスIgM(CSLEX-1)のいずれかに対するFITC結合アフィニティー精
製抗体2μg/mlと共に、PBS/3%BSA中で30〜45分インキュベートした。次に細
胞をPBSで2回洗浄して、分析前に1%の脱重合化したばかりのパラホルムアル
デヒドのPBS溶液1 mlに再懸濁した。免疫蛍光顕微鏡による検鏡のために、形質
転換した細胞を4%の脱重合化したばかりのパラホルムアルデヒドで固定し、洗
浄して、3%BSAのPBS溶液に30分間暴露し、次に一次抗体(腹水、250倍希釈)
と共に30〜45分インキュベートした。次に細胞をPBSで2回洗浄し、マウスIgGに
対するFITC結合アフィニティー精製抗体(カッペル;3%BSA含有PBS溶液2μg/
ml)と共に30〜45分インキュベートした。最後に、細胞をPBSで2回洗浄して分
析した。 35SO4 による代謝標識
ムチン:免疫グロブリンキメラ体をコードする発現プラスミドで形質転換させ
たCOS細胞を、形質転換後1日目にトリプシン処理を行って完全な培地(10%仔
ウシ血清)の入った新しいプレートに移した。標識前に、培地を除去し、細胞を
PBSで1回洗浄し、[35S]システインで標識する場合にはシステインおよびメチオ
ニン不含培地(トランスラベル、ICN)、または35SO4で標識する場合には硫酸塩
不
含CRCM-30培地(シグマケミカル社)のいずれかと、培地を交換した。血清は加
えず、放射性核種は概して200μCi/mlの濃度で存在した。12〜16時間の標識時間
後、上清を回収し、ヤギ抗ヒトIgGアガロース(カッペル)に吸着させることに
よって融合タンパク質を回収した。吸着タンパク質は、還元条件下で8%ポリア
クリルアミドゲル上で変性電気泳動を行った。接着の塩素酸塩阻害
COS細胞をDEAEデキストランで形質転換し、10%仔ウシ血清および10 mM塩素酸
ナトリウムを含むDMEM中で直ちにインキュベートした。形質転換1日後、細胞を
トリプシン処理して、新しい培養皿に代えて同じ培地で6時間インキュベートし
た。次に培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、硫酸塩を含まず、10 mM塩素酸ナト
リウムの存在下で10%透析ウシ胎児血清と共に通常量のシステインおよびメチオ
ニンの2%を含有する特別製のDMEM培地(ライフテクノロジーズ)中でさらに18
時間インキュベートした(バウエール&ハットナー(Baeuerle and Huttner)、
Biochem.Biophys.Res.Comm.,141:870〜877,1986)。次に接着および免疫蛍光ア
ッセイで用いるために細胞を回収した。対照細胞は同様に処置したが、非透析血
清を含むDMEM中でインキュベートした。HL-60 細胞ローリング
37℃で温度調節段を設定して、平行プレート直角フローチャンバー(FCS2、バ
イオプテックス社、バトラー、PA)の中のHL-60細胞ローリングのビデオ画像を
、2.5×対物レンズを備えたツァイスICM 405倒立顕微鏡上に搭載したAIMSテクノ
ロジー(ブロンクス、NY)CCDカメラにより得た。チャンバーの高さは250μmで
あった。ハーバードアパレイタス(サウスナティック、MA)モデルI/W 22シリン
ジポンプを用いて、既定の流速でチャンバーから細胞を回収した。硫酸化を阻害
するため、HL-60細胞をPBSで1回洗浄し、正常レベルの2%システインおよびメ
チオニン、10 mM塩素酸ナトリウム、および上記の透析血清を含む硫酸塩不含培
地中で18時間増殖させた。各実験について、0.15 M塩化ナトリウム、3 mM塩化
カルシウム1 mlに細胞106個を懸濁し、チャンバーを通じて採取した。カバーガ
ラスをアフィニティー精製ヤギ抗ヒトIgG抗体の10μg/ml濃度の50 mMトリス塩酸
(pH 9.0)溶液で2時間コーティングし、PBSで2回洗浄し、0.2%BSA PBS溶液
で一晩ブロ
ックした。処置したカバーガラスを次に、適当な免疫グロブリンキメラ体発現プ
ラスミドで形質転換させたCOS細胞の上清に浸し、PBSで2回洗浄してフローチャ
ンバーに集めた。PSGL-1 のアミノ末端はP-セレクチン結合に必要である
PSGL-1ムチンのアミノ末端の欠失体はPCR技法によって作られ、得られた切断c
DNAを、インフルエンザ血液凝集素(HA)に由来する短いオリゴペプチドタグと
融合した分泌型ペプチド配列の下流に挿入した。切断分子をコードする発現プラ
スミド(図1A)を、sLex決定基のみの発現を指向し、FTVIIと命名される特異的
骨髄フコシルトランスフェラーゼの存在下で、COS細胞に形質転換した(ササキ
ら(Sasaki)J.Biol.Chem.,269:14730〜14737,1994;ナツカら(Natsuka)[出
版正誤表がJ.Biol.Chem.,269:20806,1994にある],J.Biol.Chem.,269:16789〜167
94,1994)。細胞表面での欠失変異体の発現は、抗HAモノクローナル抗体を用い
て間接免疫蛍光法によって確認した。細胞表面のsLexの存在はモノクローナル抗
体CSLEX-1を用いて確認した。放射標識形質転換細胞が、P-セレクチン:免疫グ
ロブリン融合タンパク質で予めコーティングしたプラスチックウェルに結合する
能力を求めた。これらの実験により、PSGL-1のアミノ末端100残基の欠失(以降
先端ドメインと呼ぶ)は、形質転換産物の固定化P-セレクチンへの結合を完全に
破壊するためには十分であることが明らかになった(図1B)。これらの実験は
また、FTVIIの発現がP-セレクチン結合に必要であるように、sLexがP-セレクチ
ン結合を媒介することを証明する(図1B;傍線2と傍線3の比較)。細胞表面
の欠失変種の発現は、抗HAモノクローナル抗体を用いた間接免疫蛍光法によって
確認し、細胞表面上のsLexの存在はモノクローナル抗体CSLEX-1を用いて確認し
た。表1は、ヒトFTVIIhおよび欠失体を同時に形質転換させ(図1Aに示す)、
アミノ末端fluペプチドまたはsLexに対する抗体による間接免疫蛍光法を行ったC
OS細胞の平均蛍光強度(MFI)を示す。
大きい硫酸化ムチンの場合、PSGL-1のアミノ末端はP-セレクチン結合に十分であ る
最初の100個のN-末端アミノ配列(すなわち先端ドメイン)に認められる配列
以外のPSGL-1配列が、P-セレクチンの結合に必要であるか否かを明らかにするた
め、PSGL-1の膜貫通および細胞質ドメインをCD43抗原のものと取り替えた(パラ
ントら(Pallant),Proc.Natl.Acd.Sci.,86:1328〜1332,1989;シェリーら(She
lley),Proc.Natl.Acd.Sci.,86:2819〜2823,1989)。得られた分子は、システイ
ン残基を含まないが、PSGL-1と同様の効率でP-セレクチンに結合した(図2Aお
よび図2B)。このように、ジスルフィド結合形成または特異的膜接着部分のい
ずれもP-セレクチン結合活性に必要ではない。
次に、PSGL-1先端ドメインがP-セレクチンリガンド(すなわち対受容体)活性
に十分であるか否かを明らかにするため、PSGL-1の最初の100個の予測アミノ酸
を、いくつかの無関係ムチンのムチン様反復配列要素のアミノ末端上に遺伝子的
に移植した(図3A)。特定のこれらのキメラムチンは、この状況においてP-セ
レクチン結合を補佐することが可能であった。CD34およびCD43、というヒト造血
細胞上に多く存在する2つの比較的大きいムチンはいずれも、結合を補佐するこ
とが
可能であった。対照的に、GlyCAM-1の人工的接着変種、L-セレクチンリガンド活
性を有する高内皮細静脈上に発現されるムチン(ラスキーら(Lasky),Science
,258:964〜969,1992)は、このアッセイでは不活性であった(図3B)。これら
の実験におけるGlyCAM-1ムチンドメインは、CD7の細胞外茎、膜貫通ドメイン、
および細胞質接着部分を通じて細胞表面に係留された(アルッフォら(Aruffo)
,EMBO J.,6:3313〜3316,1987)。異なるムチンおよびムチンキメラの細胞表面発
現は、fluタグ、sLexまたはそれぞれのムチンに対する抗体を用いた間接免疫蛍
光法によって確認した。表2は、図3Bにおいて分析した構成物で形質転換させ
たCOS細胞によるfluタグまたはsLexの発現の平均蛍光強度測定(MFI)を示す。C
D34およびCD43構成物は、同起源の抗CD抗体を用いた間接免疫蛍光法によって発
現陽性であった。
COS細胞上に発現されるCD43およびCD34の見かけの分子質量はそれぞれ、100〜
130 kD(シェリーら(Shelley),Proc.Natl.Acd.Sci.,86:2819〜2823,1989)お
よび100 kD(シモンズら(Simmons),J.Immunol.,148:267〜271,1992)であると
報
告されている;PSGL-1モノマーは110 kDの有効分子質量を示す(サコら(Sako)
,Cell,75:1179〜1186,1993)。GlyCAM-1は、その本来の(非拘束)状態では50
kDタンパク質と共に移動し、このことはそれが実質的により小さいことを示唆し
ている(ラスキーら(Lasky),Science,258:964〜969,1992)。われわれの試験
では、PSGL-1の先端ドメインをムチンのアミノ末端に加えた場合、より大きいム
チンがP-セレクチン結合を補佐することができた。PSGL-1の内部反復配列要素の
連続的欠失により、われわれは可能性のある全体的な4価会合を損ねることなく
系統的な方法で分子を短くすることができた(図4A)。これらの反復配列要素
が欠失しているため、PSGL-1の結合活性は低下し、このことは、細胞膜からの距
離がP-セレクチン結合活性の重要な決定因子であるという結論に一致した(図4
B)。
われわれのデータは、硫酸化は先端ドメイン指向結合を補佐するムチンの能力
の1つの決定因子であることも示している。われわれは、COS細胞において硫酸
化を受ける様々なムチンの能力を評価した。PSGL-1、CD34、CD43、およびGlyCAM
-1可溶性ムチンキメラは、COS細胞に発現されると、容易に35S-硫酸塩を取り込
んだ(図5)。硫酸化の阻害はP-セレクチンに対するPSGL-1結合を遮断する
われわれは、硫酸化の阻害がP-セレクチンに対するPSGL-1結合を遮断すること
を発見した。COS細胞をPSGL-1およびFTVIIに同時に形質転換させ、またはPSGL-1
およびFTVIIに別々に形質転換させた。PSGL-1の最大合成が予想される時間内に
、硫酸塩を含まず、硫酸化の比較的選択的阻害剤である10 mM塩素酸ナトリウム
(NaClO3)を含む改変DMEM培地中で、細胞をインキュベートした。固定化P-セレ
クチンに対する塩素酸処置共形質転換細胞の結合能力の有意な減少を認めたが(
図6A)、同じ細胞が固定化E-セレクチンに対する結合の減少をほとんどまたは
全く示さなかった。sLex抗原またおよびPSGL-1アミノ末端タグ配列のいずれの細
胞表面発現も、NaClO3処置によって阻害されなかった。実際、表3に示すように
、抗sLexおよび抗fluタグを共に表す形質転換細胞の平均蛍光強度の増加は、塩
酸塩処置後に認められ、塩素酸塩がインターナリゼーションまたは細胞表面輸出
に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
同等条件下で合成した可溶性PSGL-1免疫グロブリンキメラは、[35S]システイ
ンおよびメチオニン取り込みによって測定したタンパク質合成が阻害されない条
件下で、本質的に完全な35S-取り込みの阻害を示した(図7)。これらのデータ
は、P-セレクチンリガンドの硫酸化がP-セレクチン結合活性に必要であることを
証明している。PSGL-1 の先端構造の微細構造欠失分析
P-セレクチン選択的リガンド活性に寄与する100アミノ酸先端ドメイン内の要
素の位置を特定するために、われわれは、先端ドメインの様々な領域が欠失して
いる一連の欠失変異株を調製した(図8A)。次に、各アミノ末端欠失変異株をC
D5リーダー/fluタグ要素の下流に置いて、細胞表面発現をモニターした。微細
構造欠失変異株は、間接免疫蛍光法によって評価すると、エピトープタグを発現
する能力にほとんど変動がないことを示した。成熟PSGL-1のN末端の最初の20個
のアミノ酸を除去しても、P-セレクチン結合活性には影響を及ぼさなかった。対
照的に、N-末端の最初の40個のアミノ酸を除去すると結合が失われた(図8B)
。PSGL-1のさらなる欠損はP-セレクチン結合活性に影響を及ぼさなかった。した
がって、PSGLのアミノ残基20〜40(すなわち、シグナル配列を有する予想前駆体
の残基38〜57)がP-セレクチンの結合に必要である。
残基38〜57がPSGL-1先端ドメイン指向活性に十分であることを証明するために
、先端ドメインが欠失しているPSGL-1およびCD43ムチンコアのアミノ末端にこの
部分を加えた(図9A)。いずれの場合においても、PSGL-1ペプチド要素のアミ
ノ酸38〜57を加えることは、ムチンコアにP-セレクチン結合活性を与えた。いず
れ
の場合も、P-セレクチン結合活性のレベルは自然のPSGL-1のレベルと同等であっ
た(図9B)。アミノ末端ペプチド内の特異的残基がP-セレクチン結合活性に必要である
P-セレクチン結合に必要な20個のアミノ酸領域は、可能性のある3つのチロシ
ン硫酸化部位およびO-結合グリコシル化のための2つのトレオニン残基を含む。
これらの残基の重要性を評価するため、チロシンをフェニルアラニンに置換した
(図9A)。第2のペプチドでは、スレオニンをアラニンに置換した。さらに、
5箇所変異を含む第3のペプチドを、両置換が単ペプチド内で行われるように調
製した。次に各変異ペプチドを別々に、fluタグの下流および(1)先端ドメイン
を欠損する切断PSGL-1または(2)CD43反復配列要素および膜貫通ドメイン、の
いずれかの上流に配置した。得られたキメラを発現する細胞の固定化P-セレクチ
ンに対する結合能を調べた(図9A)。チロシンからフェニルアラニンへの置換
の結果、P-セレクチンの結合活性が失われた。トレオニン残基をアラニンと置換
すると、結合が減少するが、完全には失われなかった。これらの細胞におけるfl
uタグまたはsLexエピトープの発現は影響を受けなかった。先端20残基によって
媒介される結合は、天然のPSGL-1と同様、カルシウムの存在に依存した。これら
のデータは、46、48、および51位のチロシンの硫酸化がP-セレクチン結合活性に
必要であることを示している。E-セレクチン活性は同じ条件下で影響を受けなか
った。さらに、これらのデータは44および57位のスレオニンが必要であることを
示している。これらのスレオニン残基は、O-結合グリカン付加部位として作用す
ることができる。これらの実験は、FTVII発現がP-セレクチン結合に必要である
ことを示すわれわれの実験と併せて、P-セレクチン結合がスレオニン44および57
位でsLexを必要とする証拠を提供する。要するに、上記の実験は、硫酸化のため
の3つの残基およびsLex付加のための2つの残基を含むアミノ酸38〜57は、P-セ
レクチン結合活性を与えるには十分であることを証明している。アミノ末端20個のアミノ酸内の残基はチロシン上で硫酸化される
アミノ末端部分がインビトロで硫酸化を受けることができるか否かを明らかに
するために、われわれは、本来のペプチド配列、またはヒト免疫グロブリンG1(
IgG1)と結合させた変異ペプチド配列から成る融合タンパク質を作製した(図12
A)。得られた融合タンパク質をCOS細胞で発現させ、無機硫酸の同化能を評価し
た(図12B)。本来のペプチド配列を有する免疫グロブリンキメラ体は硫酸を取
り込むことが可能であったが、チロシンをフェニルアラニンに置換した配列はそ
うではなかった(図12C)。スレオニンをアラニンと置換しても、硫酸取り込み
に影響を及ぼさなかった(図12C)。硫酸化を阻害すればP-セレクチン免疫グロブリンキメラ上のHL-60ローリングを 遮断する
硫酸化の阻害が生理学的に関連する接着を損ねるか否かを調べるため、HL-60
細胞を塩素酸塩を含む培地中で増殖させ、明確に定めた液体剪断応力の条件下で
、得られた細胞が、P-セレクチン免疫グロブリンキメラ体を塗布したカバーガラ
ス上に接着してローリングする能力を調べた(ローレンスら(Lawrence)Blood
,75:227〜237,1990)。HL-60細胞は、P-セレクチン免疫グロブリンキメラ体を
予め塗布したカバーガラス上に接着してローリングすることが可能であったが、
CD4免疫グロブリンキメラ体を塗布したカバーガラス上ではそのような相互作用
を認めなかった(図13)。塩素酸塩中でHL-60を増殖させると、基質と細胞相互
作用の頻度が劇的に低下した(図13)。シアリルLexおよび硫酸決定基を有する抗体および抗体融合タンパク質
一つの態様において、本発明はシアリル-Lexおよび硫酸決定基を有する抗体を
特徴とする。そのような抗体は、導入されたまたは既に存在するシアリル-Lex付
加部位(例えば、標準的な部位特異的変異によって)の近傍に既に存在する抗体
分子への硫酸化部位(すなわち、酸性状況でのチロシン)の導入によって作製し
てもよい。または、標準的な組換え型DNA技法によって、P-セレクチンリガンド
配列(例えば、本明細書に記載のいかなるP-セレクチンドメイン)を天然に生じ
る抗体配列(例えばIgGまたはIgM)に加えることによって、適当なシアリル-Lex
および/または硫酸化部位を加えてP-セレクチン抗体融合タンパク質を産生しも
よい。P-セレクチンリガンド配列を抗体分子のアミノ末端に加えることが好まし
い。そのような抗体は、細胞またはタンパク質の間の望ましくない相互作用を破
壊するために、または一般に、その1つが抗体が保持する決定基を有する2つの
分子間の相互作用を破壊するために有用である。これらの決定基は通常、E-セレ
ク
チンおよびP-セレクチンを含む相互作用を容易にするように作用するため(例え
ば、好中球と血管壁の内面に存在する内皮細胞との相互作用)、そのような相互
作用の破壊能は、例えば、炎症を最小限にし、滲出依存型臓器障害および/また
は凝血を減少させる上で、多くの治療的適応を提供する。
さらに、望ましければ、免疫グロブリン分子のCH2部分を隠し、それによって
補体結合およびFc受容体結合を阻害する1つ以上のシアリル-Lex部分を、抗体配
列に組み込んでもよい。炭水化物部分は、補体結合およびFc受容体結合を誘発す
る免疫グロブリンドメインを遮断するため、そのような抗体は、抗体に基づく療
法にしばしば関連する望ましくない副作用(すなわち、補体結合およびFc受容体
結合の結果得られる作用)を誘発しない。炭水化物基は望ましくない補体結合お
よびFc受容体結合を阻害するばかりか、E-セレクチンおよび/またはP-セレクチ
ン媒介細胞内相互作用の競合的阻害機能を行うために役立つことが好ましい。
補体結合およびFc受容体結合を阻害するため、シアリル-Lex決定基を抗体分子
のいかなる部位に加えてもよい。N-結合グリカン付加部位は、N X S/T(ここで
、Nはアスパラギン、Sはセリン、Tはスレオニン、およびXはプロリンを除くいか
なるアミノ酸でもよい)であることが周知である。したがって、シアリル-Lex側
鎖の結合に適した部位をいくつか含む典型的な分子をデザインしてもよい。IgG1
配列(図10)を調べた結果、補体結合およびFc受容体結合能がこのプロセスによ
って損なわれるような有利な場所の分子に、N-結合グリカン付加部位を導入して
もよい少なくとも5箇所の部位が明らかになった。これらの部位はアミノ酸残基
274、287、295、322、および335である。これらはN-結合グリカン付加の好まし
い部位であるが、それらが唯一の候補部位ではない;その他の有用な部位を確認
して、指針として以下の基準を用いてIgG1配列に組み入れてもよい:(1)部位
は免疫グロブリン分子のCH2領域、すなわち補体結合およびFc受容体結合に関与
する分子の部分、に位置することが好ましい;(2)部位はその疎水性特徴から
、免疫グロブリン分子の外側に存在し、したがって炭水化物側鎖の結合に関与す
る酵素に接近可能となる、と予測される配列の領域に位置する;(3)部位は一
次アミノ酸配列、およびこのように予測された二次アミノ酸構造への破壊が最小
となる領域に位置する。例えば、単一のアミノ酸によるN-結合グリカン付加部位
とは異なる本
来起こるべき部位は、アミノ酸配列に2箇所の変更を必要とする部位が好ましい
だろう。のみならず、同様の荷電または極性のアミノ酸を置換することによって
(例えば、1つの帯電していないアミノ酸を別のアミノ酸に置換する)、N-結合
グリカン付加部位を作製することが好ましい。1つ以上のN-結合グリカン付加部
位を、特定のIgG1-コード配列に置換してもよい;そのような配列(すなわち、
シアリル-Lex部分を結合させる抗体分子をコードする配列)をIgG1-シアリル-Le
*またはIgG1-Lexと命名する。
CH2ドメイン内のアミノ酸#274、#287、および#322でのさらなるグリコシル化
部位の導入は、当技術分野で定法であるアッセイを用いて、Fc受容体または補体
によって認識されない分子を作製した;典型的な補体結合アッセイは、ワイアら
(Weir)の「実験的免疫学ハンドブック(Handbook of Experimental Immunolog
y)」Blackwell,Oxford;およびコリガンら(Coligan)の「免疫学の現在のプ
ロトコール(Current Protocols In Immunology)」、Wiley Interscience,199
5である。
シアリル-Lex部分を有する特定のIgG1分子は以下のように生成する。IgG1遺伝
子は一般に入手可能で、その配列を図10に示す。1つ以上のN-結合グリカン付加
部位(例えば、上記および図10の上記の天然に生じる配列)を導入するために、
インビトロ部位特異的変異誘発の定法によってこの遺伝子を変異させる。次に、
真核細胞においてタンパク質を発現するよう設計されたベクターに、遺伝子を挿
入する(例えば、参照として本明細書に組み入れられるギリーズら(Gillies)
米国特許第4,663,281号に記載のベクター参照)。真核宿主細胞は哺乳類細胞(
例えば、CHOまたはlecll細胞)であることが好ましく、変異IgG1-Lex-コード配
列を含む発現ベクターを、定法を用いて一過性または安定な形質転換によって宿
主細胞に導入する。そのような宿主細胞もまた(一過性または安定に)、シアリ
ル-Lex基をグリコシル化部位で抗体分子に結合させることが可能なα(1,3)フコ
シルトランスフェラーゼを発現できるベクターで形質転換させる。α(1,3)フコ
シルトランスフェラーゼ遺伝子は、IgG1-Lexをコードするベクターとは異なるベ
クターによって発現してもよく、または両遺伝子を共通のベクターに存在させる
、および共通のベクターから発現させてもよい。哺乳類細胞は、シアリル-Lex生
成に必要な
全ての前駆体を提供するため、IgG1-Lexの合成に特に有用な宿主である。
本発明のシアリル-Lex修飾および硫酸化抗体を生成するため、抗体配列をコー
ドする遺伝子は、α(1,3)フコース結合のみを触媒するα(1,3)フコシルトランス
フェラーゼをも発現する細胞において発現することが好ましい;そのような酵素
はワルツら(Walz)、Science 250:1132〜1135(1990)およびシード(Seed)「
フコシルトランスフェラーゼ遺伝子とその利用(Fucosyltransferase Genes and
Uses Thereof)」と題した U.S.S.N.08/483,151、1995年6月7日ファイル(本
明細書に参照として組み入れられる)に記述されている。ロウら(Lowe)(Cell
63:475,1990)が記述したα(1,3)フコシルトランスフェラーゼcDNAを用いても
よいが、あまり好ましくない。このフコシルトランスフェラーゼはシアリル前駆
体分子を認識し、α(1,3)-またはα(1,4)-結合フコース部分のいずれかをN-アセ
チルグルコサミン側鎖に加える。シアリル-Lex決定基は、α(1,3)-結合を特徴と
し、ロウ(前記)のα(1,3)-フコシルトランスフェラーゼ酵素は、それ自体、望
ましいシアリル-Lex修飾分子、およびP-セレクチンおよびE-セレクチンに対する
結合に活性を示さないが、シアリル-Lex-修飾分子の作用を妨害せず、その他の
望ましからぬ副作用を生じないα(1,4)-結合フコースを有する産物を共に生成す
る。
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼおよび修飾すべき抗体を発現している宿
主細胞は、定法によって増殖させ、抗体は、プロテインAカラムに対する親和性
に基づく細胞溶解物から、または抗体単離および精製のその他の標準的技法から
精製する。シアリル-Lexおよび硫酸決定基を有するα1-酸糖タンパク質-抗体融合タンパク 質
本明細書で論じるように、硫酸化およびシアリル-Lex付加によって修飾された
抗体融合タンパク質は、重要な治療および診断に利用される。これまでの研究か
ら、大量の抗体融合タンパク質は、形質転換させた哺乳類細胞(例えば、COS細
胞)から産生および一過性に分泌させてもよいことが示された。一般に、本発明
によるAGP抗体融合タンパク質、AGPコードタンパク質、およびP-セレクチンリガ
ンドドメインは、標準的な技法によって、インフレームでIgGドメイン(例えば
、一定のドメイン)と融合し、同様に定法によって融合タンパク質を発現させる
。分子の抗体部分は、融合タンパク質精製を容易にし、またそうでなければ短命
のポ
リペプチドまたはポリペプチドドメインの血漿半減期を延長させる。抗体融合タ
ンパク質は、シードら(Seed)の「フコシルトランスフェラーゼ遺伝子とその利
用(Fucosyltransferase Genes and Uses Thereof)」と題した U.S.S.N.08/483
,151、1995年6月7日ファイル(本明細書に参照として組み入れられる)に開示
された方法に従って、例えばIgGまたはIgM抗体またはその一部を用いて発現され
ることが好ましい(IgM融合タンパク質に関してはゼトルマイスルら(Zettlemei
sl)、DNA Cell Biol.9:347(1990)も参照)。
特定のAGP-抗体融合タンパク質を発現する組換えプラスミド(例えば、AGP-ヒ
ンジ-CH2-CH3およびAGP-CH2-CH3タンパク質)は以下のように構成される。標準
技法に従って、α1-AGPの5'および3'コード領域(ボードら(Board)、Gene 44:
127,1986)に対応するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖
反応(PCR)によって、ヒト肝cDNAライブラリから急性期α1-AGP遺伝子をコード
するcDNAをクローニングした。5'AGPプライマーはHindIII制限部位を含むように
設計され、3'プライマーはAGP停止コドンよりむしろBamHI制限部位を含むように
設計された。PCR-増幅産物をHindIII/BamHIで消化して、ヒトIgG1の一定のドメ
イン(すなわちヒンジ-CH2-CH3またはCH2-CH3)を含むHindIII/BamHI切断プラス
ミド発現カセットにクローニングした(アルッフォら(Aruffo)、Cell,61:1303
,1990参照)。このAGP-IgG融合タンパク質のヌクレオチド配列およびアミノ酸配
列をそれぞれ、図11Aおよび図11Bに示す。
P-セレクチン媒介相互作用を遮断する分子を作製するために、硫酸化部位、お
よび必要な場合にはシアリル-Lex付加を、抗体融合タンパク質配列(例えば、上
記の抗体融合タンパク質)に導入する。そのような部位は、例えば1つ以上の硫
酸化部位(すなわち酸性本体中のチロシン)を、導入されたまたは既に存在する
シアリル-Lex付加部位(例えば、部位特異的変異誘発の標準的技法によって)の
近傍に導入することによって、既に存在する融合分子の中に組み入れてもよく、
または組換えDNA技術の標準的技法を用いて、P-セレクチンリガンド配列(例え
ば、本明細書に記載のP-セレクチンリガンド配列)を抗体融合タンパク質配列に
加えてもよい。
次に、P-セレクチン-AGP-抗体融合タンパク質を発現プラスミドに導入し、適
当
なフコシルトランスフェラーゼ発現細胞にプラスミドを形質転換させて、可溶性
抗体融合タンパク質を産生させる。
補体結合およびFc受容体結合を阻害することが可能な抗体融合タンパク質を調
製するため、別のシアリル-Lex共通グリコシル化部位(N-X-T/S)を、上記のよ
うにヒトIgG1のCH2ドメインに導入してもよい。
この構成方法に基づき、血漿半減期が長く、望ましくない細胞-細胞相互作用
(例えば、白血球とセレクチン含有細胞との相互作用)の阻害能を有する、いか
なる数の組換えP-セレクチン-AGP-抗体融合タンパク質を設計してもよい。阻害
能を高めた分子を産生するため、上記のアッセイを用いて、候補分子を設計して
スクリーニングする。一つの特定の例では、シアリル-Lexおよび硫酸決定基の取
り込み能、および好中球の活性化内皮細胞への結合阻害能に関して、分子をスク
リーニングしてもよい;そのような分子はセレクチン-依存型炎症反応および浸
潤性白血球によって誘発された組織損傷の阻害に用いられる。P- セレクチン媒介およびE-セレクチン媒介相互作用を妨害可能な分子
P-セレクチンおよびE-セレクチン媒介細胞内相互作用のいずれも炎症に関与し
ているため、およびそれらの相互作用に関わる重要な決定基が今や特定されたた
め、両タイプの有害な相互作用を妨害することが可能な単一の分子を設計するこ
とが可能である。特に、P-セレクチンリガンドドメイン(すなわちシアリル-Lex
および硫酸化部分を有するドメイン)およびE-セレクチンリガンドドメイン(す
なわち、シアリル-Lex部分を有するドメイン)の双方を含む分子(例えばタンパ
ク質)を構成してもよい。そのような分子はドメインを組み合わせることによっ
て、例えば、P-セレクチンリガンドドメインをシアリル化分子(例えば、本明細
書記載のシアリル化抗体または抗体融合タンパク質)に加えることによって構成
してもよい。または、例えば、部位特異的変異誘発によって、適当なシアリル-L
exおよび/または硫酸化部位を既に存在する配列に導入してもよい。
操作分子のグリコシル化または硫酸化は、例えば、本明細書およびワルツら(
Walz)Science 250:1132〜1135(1990)に記載のように試験してもよい。シアリ
ル-Lex修飾および/または硫酸化分子の細胞内相互作用の妨害能はまた、前記の
ワルツら(Walz)が記載のように、または標準的な技法、例えば、決定因子含有
分子の濃度増加の、固定化P-セレクチンおよび/またはE-セレクチンに対するT
リンパ球または骨髄細胞の接着阻害能をアッセイすることによって、試験しても
よい。利用
本発明のタンパク質または有機化合物分子を患者に投与するために、薬学的に
純粋なタンパク質または分子を、許容される担体、例えば生理食塩水に懸濁し、
適当な経路によって(例えば、静脈内)1回投与または複数回投与として患者に
投与する。最適には、全てのP-セレクチン、二重機能分子については全てのE-セ
レクチン結合部位を内皮細胞上で飽和させるために十分量の治療剤が提供される
。典型的には、これは0.1 mg/kg以上の用量で得てもよい。好ましい投与量は0.1
〜2.0 mg/kgの範囲である。
本発明のシアリル-Lex修飾および硫酸化分子ならびにタンパク質(例えば、本
明細書記載の修飾抗体および抗体融合タンパク質)を、1つの例において滲出依
存性臓器障害および/または凝血の治療に用いてもよい。特に、P-セレクチンは
炎症または組織障害部位、もしくは血栓形成部位近位に重層する好中球の接着を
媒介するため、本発明の分子およびタンパク質はそのような相互作用を遮断する
有用な治療を提供する。例えば、P-セレクチンは、成人呼吸促進症候群後の好中
球の肺への遊走および虚血性心筋損傷(すなわち梗塞)後の心臓への遊走をおそ
らく媒介し、特定の条件下では腎臓の糸球体損傷に重要な役割を果たす可能性が
ある。したがって、本発明のシアリル-Lex修飾および硫酸化分子またはタンパク
質は、そのような疾患または状態に苦しむ患者に投与してもよい。そのような治
療は、浸潤する好中球と血管または臓器の内皮細胞との相互作用を競合的に阻害
することによって、滲出依存性損傷を低減する。本発明の化合物は、特に、P-セ
レクチンリガンド-AGP-融合タンパク質およびP-セレクチンリガンド-AGP-抗体融
合タンパク質もまた、上記のように、敗血性ショックまたは敗血症の治療に用い
てもよい。
さらに、本発明による抗体または抗体融合タンパク質は、治療または診断部位
を標的とする抗体の特異性を利用して、抗体に基づく療法の在来治療またはイン
ビボ診断に用いてもよい。1つの特定の例では、本発明による抗体融合タンパク
質のP-セレクチンリガンドドメインは、そのタンパク質を炎症部位に向け、治療
法(有害なP-セレクチン媒介細胞内相互作用の遮断に有用な)および診断法(炎
症の部位の標識に有用な)を共に提供する。再度、接着したシアリル-Lex決定基
は抗体のCH2ドメインを隠し、補体結合およびFc受容体結合の望ましくない効果
を遮断するために用いてもよい。
その他の態様
その他の態様は請求の範囲内である。例えば、細胞またはタンパク質間の相互
作用を遮断する目的で、シアリル-Lexおよび硫酸決定基を接着すべきその他の適
当な担体分子を本発明に用いてもよい。一般に、血清中での半減期が比較的長い
タンパク質が好ましい。担体タンパク質の1つのクラスはアルブミン(例えば、
ウシ血清アルブミン、またはヒト血清アルブミン)、トランスフェリン、または
α-2マクログロブリンのような血清タンパク質である。担体タンパク質は、例え
ば、部位特異的変異誘発によって担体タンパク質(上記のように)のDNA配列に
部位が導入されることに加えて、内因性硫酸化およびグリカン付加部位を含んで
もよい。担体タンパク質は脂質であってもよいがあまり好ましくない。1つの例
において、1つ以上の結合シアリル-Lexおよび硫酸化決定部位を有する脂質を、
リポソームとして標的細胞壁(例えば、内皮細胞壁)に輸送する。リポソームは
細胞またはタンパク質相互作用を遮断してもよく、薬物をその適当な作用部位に
投与するために用いてもよい。
シアリル-Lexおよび硫酸決定基を有する担体分子の産生は、細胞内、好ましく
は酵母以外の真核生物で行ってもよい。哺乳類細胞、例えば哺乳類細胞株は特に
適した宿主である。これらの細胞は一般に、必要な前駆体分子を合成し、硫酸化
および炭水化物結合に関与する酵素を産生または産生するよう操作することがで
きる。シアリル-Lex決定基の結合に関しては、CHOおよびlec11のような哺乳類細
胞株は特に適している。または、シアリル-Lexおよび硫酸決定基のいずれかまた
は両方をインビトロで、すなわち細胞外で担体分子に結合してもよい。一つの例
において、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼは固体支持体(例えばカラム)
に結合させ、硫酸化担体分子は、担体分子上のその適当な部位へのシアリル-Lex
基を結合を容易にする条件下で、結合したフコシルトランスフェラーゼ酵素上を
通
過する。
本発明はまた、微生物因子(例えば、リポ多糖類(LPS))、微生物毒素(例
えば、毒性ショック腸管毒素)、宿主メディエーター(例えば、サイトカイン)
、または抗腫瘍治療(例えば、腫瘍壊死因子(TNF)またはインターロイキン-1
(IL-1)の投与)、もしくはその組み合わせによって引き起こされたショック誘
発現象、ショックの臨床症状、またはその両者の予防、阻害、または治療のため
の、硫酸化およびシアリル-Lex修飾-AGP-抗体融合タンパク質の利用を含む。例
えば、そのような抗体融合タンパク質をヒト患者に投与して、微生物LPSによっ
て生じた敗血症ショックの効果を軽減することができる。抗体融合タンパク質が
、ショック(例えば、敗血症または毒素ショック症候群)の効果を予防、治療、
または阻害する能力は、当技術分野で既知の定法に従って評価される(例えば、
リバートら(Libert)J.Exp.Med.180:1571〜1575に記載の方法)。
本明細書で言及した全ての出版物、特許、および特許出願は、個々の出版物、
特許および特許出願が特殊におよび個々に参照として組み入れられることが示さ
れる場合があれば、それと同じ程度に、本明細書に参照として組み入れられる。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
A61K 38/22 ACD A61K 37/24 ABN
ACV ABD
ADZ ACV
AEE ACD
C07K 14/47 ADZ
14/705 ABA
16/18 AEE
(72)発明者 ポウヤニ ターラ
アメリカ合衆国 マサチューセッツ州 ボ
ストン デパートメント オブ ジェネテ
ィックス ハーバード メディカル スク
ール アンド モウルキュラー バイオロ
ジー マサチューセッツ ジェネラル ホ
スピタル