JPH1143866A - 抗菌作用を有する獣毛繊維質物とそれを用いた装身具及び獣毛繊維質物の抗菌処理方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 獣毛繊維質物とそれを用いた寝具布団等の装
身具及び獣毛繊維質物の抗菌処理方法に係り、抗菌効果
をより確実にすると共に、獣毛同士の絡み合いを防止可
能で、また、人体の皮膚に接しても何等問題のないもの
とする。 【解決手段】 獣毛繊維１の表皮組織を剥離した剥離獣
毛の表面を粗化して凹凸８とし、この表面に天然抗菌材
であるキトサン９及びコラーゲン１０を付着させる。こ
れにより、抗菌作用が確実なものにすることができると
共に、水分を含んでも縮んだり、獣毛同士が絡み合うこ
とがなくなる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌作用を有する
羊毛等の獣毛繊維質物とそれを用いた寝具布団等の装身
具及び獣毛繊維質物の抗菌処理方法に関するものであ
る。

【０００２】

【従来の技術】羊、山羊等の獣毛繊維の表面は撥水性の
強い表皮細胞組織（スケールと称される）で覆われてお
り、スケールを構成するケラチン層と非ケラチン蛋白質
層との間の水分吸収率の差に起因する膨化度の違いによ
り、いわゆるフェルト収縮が生じることが知られてい
る。そこで、このスケールを剥離して、改質した獣毛繊
維を提供する方法が提案されている（例えば、特開平８
−２０９５３２号公報参照）。この改質した獣毛繊維
（以下、スケール剥離ウールという）は、しなやかな肌
触りや僅かに抗菌効果が得られる。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の
スケール剥離ウールにおいては、スケールを完全に剥離
したり、樹脂で表面をコーティングしていないために、
水分を含むと縮んでカールしたり、取扱いが乱暴である
と、獣毛同士が絡み合うという問題があった。また、製
造ロットのばらつきにより、抗菌効果が十分に得られな
い場合があった。また、抗菌処理のために、第４アンモ
ニウム塩等を用いることが知られているが、このような
従来の抗菌処理は、かゆみを呈する恐れがあり、人体の
皮膚に接するものには好ましくない。本発明は、上述し
た問題点を解決するためになされたものであり、抗菌効
果をより確実にすると共に、獣毛同士の絡み合いを防止
可能で、また、人体の皮膚に接しても何等の問題のない
獣毛繊維質物とそれを用いた寝具布団等の装身具及び獣
毛繊維質物の抗菌処理方法を提供することを目的とす
る。

【０００４】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に請求項１の発明の抗菌作用を有する獣毛繊維質物は、
獣毛の表面に天然抗菌材を付着させたものである。この
構成においては、抗菌作用が確実なものとなると同時
に、表面をコーティングしたのと同等の作用により、水
分を含んでも縮んだり、獣毛同士が絡み合うことがなく
なる。また、人体の皮膚に触れても何等問題がないもの
となる。

【０００５】また、請求項２の発明の抗菌作用を有する
獣毛繊維質物は、上記請求項１に記載の構成において、
獣毛の表面が粗化され、粗化された表面に天然抗菌材が
付着させているものである。この構成においては、獣毛
の表面に天然抗菌材を十分に付着できるので、上記請求
項１の作用が顕著に得られる。

【０００６】また、請求項３の発明の抗菌作用を有する
獣毛繊維質物は、上記請求項１又は請求項２に記載の構
成において、天然抗菌材が、キトサン及びコラーゲンで
あるものである。この構成においては、天然物質の獣毛
と天然物質の抗菌材の組み合わせにより、良好な抗菌作
用が得られる。

【０００７】また、請求項４の発明の抗菌作用を有する
獣毛繊維質物は、上記請求項１乃至請求項３のいずれか
に記載の構成において、獣毛が、表皮組織を剥離したも
のである。この構成においては、獣毛への天然抗菌材の
付着を確実なものにできる。

【０００８】また、請求項５の発明の装身具は、上記請
求項１乃至請求項４のいずれかに記載の獣毛繊維質物を
基布に縫製したものである。この構成においては、高い
抗菌性を保有した寝具布団等を得ることができ、また、
水分を含んでも、皮膚に直接に触れても何等支障がない
ものとなる。

【０００９】また、請求項６の発明は、獣毛を抗菌処理
する方法であって、獣毛の表面に天然抗菌処理を施す工
程と、天然抗菌処理工程により付着された蛋白質を変性
する工程とから成るものである。この方法においては、
獣毛の表面に付着した天然抗菌層が剥離し難いものとな
り、抗菌作用を長期にわたり確保することができる。

【００１０】また、請求項７の発明の獣毛繊維質物の抗
菌処理方法は、上記請求項６に記載の方法において、天
然抗菌処理を施す工程の前に、獣毛の表面を粗化する工
程を有するものである。この方法においては、上記請求
項６の作用が顕著に得られる。

【００１１】また、請求項８の発明の獣毛繊維質物の抗
菌処理方法は、上記請求項６又は請求項７に記載の方法
において、獣毛の表面に天然抗菌処理を施す工程は、キ
トサンを含む液及びコラーゲンを含む液にそれぞれ浸漬
する工程を含むものである。この方法においては、上記
請求項６又は請求項７の作用が顕著に得られる。

【００１２】また、請求項９の発明の獣毛繊維質物の抗
菌処理方法は、請求項６乃至請求項８のいずれかに記載
の方法において、獣毛が、獣毛繊維の表皮組織を剥離し
たものである。この方法においては、獣毛へ天然抗菌材
を確実に付着させることができる。

【００１３】

【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した一実施
形態を図面を参照して説明する。図１（ａ）（ｂ）
（ｃ）（ｄ）は、それぞれ獣毛繊維（原毛）の断面図、
その部分拡大断面図、表皮組織を剥離した剥離獣毛の断
面図、及び抗菌処理した獣毛繊維質物の断面図である。
羊毛等の獣毛繊維１は、コルテックスと称される紡錘形
をした内層部細胞２の外周面を覆うスケール３と称され
る表皮組織を有し、スケール３は、Ａ部を拡大して示す
ように、外周面を覆う撥水性の膜でなるエピキュチクル
４と、その内方に位置するエキソキューティクル（Ａ）
５，（Ｂ）６、及び親水性のあるエンドキューティクル
７からなる。ここでは、エンドキューティクル７を残し
てこれが外面に露出するように、エピキュチクル４とエ
キソキューティクル（Ａ）５，（Ｂ）６を剥離する。こ
の剥離処理は、エンドキューティクル７に金属イオンを
吸着させ、ついで高濃度の酸化剤の水溶液で処理し、ね
じりを伴って酸化分解を起こさせること等により行うこ
とができる（ツイストルド、デスケール処理）。

【００１４】こうして表皮組織を剥離し、エンドキュー
ティクル７を外面に露出させものを剥離獣毛とする。こ
の剥離獣毛の表面を、同図（ｃ）に示すように、凹凸８
を設けて粗化する。粗化の方法については、後述する。
さらに、この粗化した剥離獣毛を、同図（ｄ）に示すよ
うに、天然抗菌材であるキトサン９及びコラーゲン１０
を付着して抗菌処理を施す。粗化により凹凸８が外表面
に設けられているので、天然抗菌材を確実に付着させる
ことができる。このように、天然抗菌材を剥離獣毛に付
加することにより、良好な抗菌効果が得られ、獣毛表面
に樹脂コーティングしていないにも拘らず、獣毛同士が
絡み合ったり、水分を含んでカールするといったことが
防止される。

【００１５】図２は、剥離獣毛を抗菌処理する方法を示
す工程図である。この処理では、まず、表皮組織（細
胞）を剥離した獣毛の表面を粗化する（＃１）。粗化
は、オルトリン酸（Ｈ3 ＰＯ4 ）溶液等に剥離獣毛を浸
漬することで行える。次に、剥離獣毛の表面に天然抗菌
処理を施す（＃２）。この天然抗菌処理は、キトサンと
コラーゲンと水からなる液に１０〜６０分間（時間と共
に付着量は増大するが、次第に飽和してくるので、２０
分間前後が効率面で好適）ディップ（浸漬）する。な
お、キトサンとコラーゲンとは、それぞれ重量％で１〜
１０％（４％前後が好適）、０．１〜５％（１０％前後
が好適）とする。上記の浸漬後、さらに、５０℃のコラ
ーゲン液に１〜１０分間（５分前後が好適）浸漬し、続
いて７０℃のキトサン液に１〜１０分間（５分前後が好
適）浸漬する。この後二者の浸漬を合計２回繰り返す。
このような処理により、粗化による凹凸８の作用と相俟
って、剥離獣毛の表面に天然抗菌の膜（厚さ１μｍ〜１
０μｍ）を確実に付着させることができる。

【００１６】次に、上記天然抗菌処理工程により付着さ
れた蛋白質を変性する（＃３）。この変性処理は、天然
抗菌処理された剥離獣毛を４０℃に加熱したオーブン内
に２時間入れることにより行う。蛋白質の変性は、蛋白
質の生物的活性が失われるか又は低下することを意味
し、熱、圧力等の物理的要因、又は、酸、塩基等による
化学的要因により変性が生じ、変性により、溶解度の減
少、結晶性の崩壊等が起こる。このような特性を呈する
蛋白質の変性処理を行うことで、天然抗菌処理により付
着した膜は、物理的にも化学的にも安定したものとな
り、水分を含んでも、縮んで獣毛同士が絡み合うような
こともなくなる。さらに、上記のような天然抗菌処理を
施した剥離獣毛（獣毛繊維質物）を撚る（＃４）ことで
獣毛糸（太さが１０μｍ〜２００μｍ）とする。そし
て、この獣毛糸を不織布等に縫製することで繊維（いわ
ゆる羊毛又はボア）を得る（＃５）。特に、酸を用いる
場合には、ｐＨ２程度の酢酸が良好である。

【００１７】図３は、獣毛糸１１を基布としての不織布
１２に縫製した構成を示す。このような繊維を用いて、
抗菌性を保有した薄いシート状の寝具布団等を得る。こ
れを敷き布団の上側や掛け布団の下側に装着すること
で、抗菌効果が得られ、皮膚に直接に触れても何等支障
がないと共に肌触りが良く、また、水分を含んでも縮む
ようなことがない。

【００１８】なお、本発明は上記実施形態の構成に限ら
れず種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態で
は、獣毛糸１１を不織布１２に縫製して装身具、例えば
布団を構成したものを示したが、獣毛糸すなわち獣毛繊
維質物は各種用途に適用することができる。また、粗化
された獣毛が市販されている場合は、それに直接、天然
抗菌材を付着処理すればよい。また、天然で粗化されて
いる獣毛が存在する場合、それを用いれば、人工的に粗
化する必要はない。

【００１９】

【発明の効果】以上のように請求項１の発明に係る抗菌
作用を有する獣毛繊維質物によれば、獣毛の表面に天然
抗菌材を付着させたものであるので、確実な抗菌作用が
得られると同時に、水分を含んでも縮んだり獣毛同士が
絡み合うことが防止され、また、人体の皮膚に直接に触
れても何等支障のないものとなる。

【００２０】また、請求項２の発明に係る抗菌作用を有
する獣毛繊維質物によれば、獣毛の表面を粗化してから
天然抗菌材を付着させているので、天然抗菌材を十分に
付着することができ、上記請求項１の効果が顕著に得ら
れる。

【００２１】また、請求項３の発明に係る抗菌作用を有
する獣毛繊維質物によれば、天然抗菌材としてキトサン
及びコラーゲンを用いて抗菌効果が顕著に得られる。

【００２２】また、請求項４の発明に係る抗菌作用を有
する獣毛繊維質物によれば、表皮組織を剥離した獣毛を
用いるので、天然抗菌材を確実に付着させることが可能
となる。

【００２３】また、請求項５の発明に係る装身具によれ
ば、高い抗菌性が確保され、また、水分を含んでも繊維
が絡み合うようなことがなく、さらには、皮膚に直接に
触れても何等支障のない寝具布団等を実現できる。

【００２４】また、請求項６の発明に係る獣毛を抗菌処
理する方法によれば、獣毛の表面に天然抗菌処理を十分
に施すことができ、抗菌作用を確実なものにでき、ま
た、蛋白質変性により、水分を含んでも縮むようなこと
がなくなる。

【００２５】また、請求項７の発明に係る獣毛繊維質物
の抗菌処理方法によれば、獣毛の表面を粗化してから天
然抗菌処理を施すので、上記請求項５の効果が顕著に得
られる。

【００２６】また、請求項８の発明に係る獣毛繊維質物
の抗菌処理方法によれば、キトサンを含む液及びコラー
ゲンを含む液にそれぞれ浸漬して獣毛の表面に天然抗菌
処理を施すので、十分な天然抗菌層を確保でき、上記請
求項５又は請求項６の効果が顕著に得られる。

【００２７】また、請求項９の発明に係る獣毛繊維質物
の抗菌処理方法によれば、表皮組織を剥離した獣毛を用
いるので、天然抗菌材を付着させ易くなる。

【図面の簡単な説明】

【図１】（ａ）（ｂ）（ｃ）（ｄ）は、それぞれ本発明
の一実施形態による獣毛繊維の断面図、その部分拡大断
面図、表皮組織を剥離した剥離獣毛の断面図、及び抗菌
処理した獣毛繊維質物の断面図である。

【図２】剥離獣毛を抗菌処理する方法を示す工程図であ
る。

【図３】獣毛糸を基布に縫製した場合の構成図である。

【符号の説明】

１ 獣毛繊維 ８ 凹凸８（粗化） ９ キトサン １０ コラーゲン １１ 獣毛糸 １２ 不織布（基布）

Claims (9)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 獣毛の表面に天然抗菌材を付着させたこ
   とを特徴とする抗菌作用を有する獣毛繊維質物。
2. 【請求項２】 前記獣毛の表面が粗化され、粗化された
   表面に天然抗菌材が付着させていることを特徴とする請
   求項１に記載の抗菌作用を有する獣毛繊維質物。
3. 【請求項３】 前記天然抗菌材が、キトサン及びコラー
   ゲンであることを特徴とする請求項１又は請求項２に記
   載の抗菌作用を有する獣毛繊維質物。
4. 【請求項４】 前記獣毛は、表皮組織を剥離したもので
   あることを特徴とする請求項１乃至請求項３のいずれか
   に記載の抗菌作用を有する獣毛繊維質物。
5. 【請求項５】 請求項１乃至請求項４のいずれかに記載
   の獣毛繊維質物を基布に縫製したことを特徴とする装身
   具。
6. 【請求項６】 獣毛を抗菌処理する方法であって、 剥離獣毛の表面に天然抗菌処理を施す工程と、 前記天然抗菌処理工程により付着された蛋白質を変性す
   る工程とから成ることを特徴とする獣毛繊維質物の抗菌
   処理方法。
7. 【請求項７】 前記天然抗菌処理を施す工程の前に、獣
   毛の表面を粗化する工程を有することを特徴とする請求
   項６に記載の獣毛繊維質物の抗菌処理方法。
8. 【請求項８】 前記獣毛の表面に天然抗菌処理を施す工
   程は、キトサンを含む液及びコラーゲンを含む液にそれ
   ぞれ浸漬する工程を含むことを特徴とする請求項６又は
   請求項７に記載の獣毛繊維質物の抗菌処理方法。
9. 【請求項９】 前記獣毛は、獣毛繊維の表皮組織を剥離
   したものであることを特徴とする請求項６乃至請求項８
   のいずれかに記載の獣毛繊維質物の抗菌処理方法。