JPH11336765A - 転がり軸受用プラスチック保持器 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】従来のプラスチック保持器材料の欠点である吸
水性，寸法安定性並びに靭性を大きく向上させた安価な
転がり軸受用プラスチック保持器を提供する。 【解決手段】プラスチック保持器のマトリックス樹脂と
して、優れた耐熱性，耐油性，耐薬品性，寸法安定性，
靭性を示すと同時に高い機械的特性を有している脂肪族
ポリケトン樹脂を使用した。脂肪族ポリケトン樹脂は、
ポリアミドとは異なり水を吸わなくても柔軟性がある。
また、ガスを外部に放出することもない。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、高精度を必要とさ
れる各種転がり軸受用プラスチック保持器に関し、詳し
くは耐熱性，耐油性，耐薬品性，寸法安定性，靭性等に
優れる脂肪族ポリケトン樹脂組成物から製造される転が
り軸受用保持器に関する。

【０００２】

【従来の技術】一般に、転がり軸受は転動体の種類によ
り玉軸受ところ軸受とに大別され、それぞれがまたいく
つかの種類に分類される。そして、それらの軸受に使用
される保持器にも種々のタイプがあり、例えば玉軸受用
保持器には図１の一般タイプ保持器，図２の冠型保持
器，図３のアンギュラ軸受用保持器，スラスト玉軸受用
保持器（図示せず）等がある。一方、ころ軸受用保持器
には図４の円すいころ軸受用保持器，図５の球面ころ軸
受用保持器，図６の円筒ころ軸受用保持器，スラストこ
ろ軸受用保持器（図示せず），スラスト球面ころ軸受用
保持器（図示せず）等の保持器がある。例えば、図２の
冠型保持器を組み込んだ転がり軸受は、図７に示すよう
に、外周面に内輪軌道１を有する内輪２と、内周面に外
輪軌道３を有する外輪４と、内輪軌道１と外輪軌道３と
の間に転動自在に設けられた複数個の転動体５と、この
複数個の転動体５を保持して案内するために内輪軌道１
と外輪軌道３との間に回転自在に設けられた保持器６と
から構成される。

【０００３】保持器の材料には金属の他にプラスチック
も多く用いられており、従来のプラスチック保持器用の
材料としては、ポリアミド（ナイロン），ポリアセター
ル，ポリブチレンテレフタレート，ポリフェニレンサル
ファイド，フッ素樹脂等の所謂エンジニアリングプラス
チックが、単体のままで、或いはガラス繊維，炭素繊維
等の短繊維を混入して強化した複合材料の形態で使用さ
れてきた。中でもポリアミドは、材料コストと性能のバ
ランスが良好なことから、プラスチック保持器用の材料
として最も多用され、中程度の環境条件下では卓越した
性能が確認されている。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ポリア
ミドは、その分子構造中にアミド結合を有しているため
水の影饗を著しくうけ易く、吸水，脱水による寸法変化
並びに靭性の変化が大きい。例えば吸水することにより
靭性が向上するから、予め適度の水分を吸収させること
により、軸受組立て工程での保持器の爪，柱，リング部
又はフランジ部等が折損するおそれはないのであるが、
反面、使用環境雰囲気により吸水或いは脱水をし、更に
それに伴う寸法変化を生じる。このような理由から、水
分をきらう用途並びに保持器の寸法精度を求められる用
途には、適用することができないという問題点がある。

【０００５】一方、ポリアセタール，ポリブチレンテレ
フタレート，ポリフェニレンサルファイドは、吸水によ
る寸法変化は少ないが、保持器として要求される物理的
特性、例えば成形時や組立て時に必要な適度の柔軟性に
劣り保持器が破損するおそれがある。更に近年、１５０
℃を越えるような高温環境条件下使用される軸受用のプ
ラスチック保持器材料として、ポリエーテルスルホン
（ＰＥＳ），ポリエーテルイミド（ＰＥＩ），ポリアミ
ドイミド（ＰＡｌ），熱可塑性ポリイミド，ポリエーテ
ルエーテルケトン（ＰＥＥＫ），ポリエーテルニトリル
（ＰＥＮ）等の所謂スーパーエンジニアリングプラスチ
ック樹脂が提案されている。しかしながら、これら材料
は非常に高価であり、しかも柔軟性に劣るという問題が
あるため未だ汎用されるには至っていない。

【０００６】本発明は、このような従来のプラスチック
保持器の問題点を解決するためになされたものであり、
脂肪族ポリケトン樹脂を組成物の主たる成分として使用
することにより、従来のプラスチック保持器材料の欠点
である吸水性，寸法安定性並びに靭性を大きく向上させ
た安価なプラスチック保持器を提供することを目的とし
ている。

【０００７】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、請求項１に係る発明は、脂肪族ポリケトン樹脂を
マトリックス樹脂とした樹脂組成物により製造した保持
器を提供することを特徴とする。

【０００８】脂肪族ポリケトン樹脂は、ポリアミドとは
異なり水を吸わなくても柔軟性がある。また、ガスを外
部に放出しない。その他優れた耐熱性，耐油性，耐薬品
性，寸法安定性，靭性等を有する。

【０００９】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面
を参照して説明する。本発明のプラスチック保持器は、
脂肪族ポリケトン樹脂組成物から製造されるものであ
り、優れた耐熱性，耐油性，耐薬品性，寸法安定性，靭
性を示すと同時に高い機械的特性を有している脂肪族ポ
リケトン樹脂をベースとする樹脂組成物から製造される
ものであり、ポリアミド樹脂のように吸水などの特別な
処理を施すこと無しに優れた靭性を有することから保持
器製造時及び軸受組立て時に必要なスナップフィット性
を得ることができ、組立性及び寸法安定性が良好な保持
器である。

【００１０】以下にその詳細を述べる。本発明のプラス
チック保持器に使用される樹脂組成物のマトリックスを
構成する脂肪族ポリケトン樹脂は、一酸化炭素とオレフ
ィンを原料とする線状交互共重合ポリマーである。この
ような脂肪族ポリケトン樹脂は、シェルジャパン（株）
より「カリロン」として入手することができる。本発明
のプラスチック保持器をなす組成物は、目的に応じて０
〜５０ｗｔ％までの繊維状充填材を含んでもよい。当該
繊維状充填材は、保持器の剛性を増加させるとともに、
寸法精度を向上させるため必要に応じて適宜添加され
る。

【００１１】用いる繊維状充填材は、特に限定されない
が、例えばガラス繊維，炭素繊維，金属繊維，アラミド
繊維，芳香族ポリイミド繊維，液晶ポリエステル繊維，
炭化ケイ素繊維，アルミナ繊維，ボロン繊維，炭化ケイ
素ウィスカー，窒化ケイ素ウィスカー，アルミナウイス
カー，窒化アルミニウムウイスカー，ウォラストナイ
ト，チタン酸カリウムウィスカー，ホウ酸アルミニウム
ウイスカー，酸化亜鉛ウィスカー，酸化マグネシウムウ
ィスカー，ムライトウィスカー，炭酸カルシウムウィス
カー，グラファイトウィスカー，マグネシウムオキシサ
ルフェートウィスカー等を例示できる。中でもガラス繊
維，炭素繊維は補強性が良好で好ましいものである。

【００１２】繊維の形態としては、アスペクト比（たて
よこ比）が３〜２００が好適である。アスペクト比が３
未満では、保持器の補強効果が十分に発揮されず脆弱と
なってしまい、逆に約２００を超えると混合時の均一分
散が極めて困難となる。また、繊維径は特に限定されな
いが、平均繊維径が０．２〜３０μｍのものが好まし
く、より好ましくは３〜２０μｍのものである。なぜな
ら、平均繊維径が０．２μｍ未満の小径のものでは母材
と混合した際に繊維間の凝集が起こり、繊維の分散が不
均一になるおそれがあり、平均繊維径が３０μｍを超え
る大径のものでは、保持器表面の平滑性が阻害されるお
それがあるだけでなく、摺接した相手面を傷つけるおそ
れがあるからである。平均繊維径が３〜２０μｍであれ
ば、このような傾向が全くなく好ましい結果が得られ
る。

【００１３】上記繊維状充填材の全組成物中の配合割合
は、０〜５０重量％（ｗｔ％）好ましくは１０〜４０ｗ
ｔ％である。５０ｗｔ％を超えて配合しても樹脂組成物
の溶融流動性が著しく低下して成形性が悪くなるばかり
でなく、更なる機械的特性や寸法安定性の向上が期待で
きず、逆に材料の変形能が極めて小さくなるため、保持
器成形時や軸受組立て時に保持器が破損するおそれがあ
る。逆に、繊維状充填材の添加量がｌ０ｗｔ％末満の場
合には、機械的特性の補強効果が小さく、また耐熱性も
不足する。ただし、より強い機械的強度と変形能を必要
とする冠型玉軸受用保持器及び円錐ころ軸受用保持器
等、保持器成形時の無理抜きや転動体組込み時の無理入
れのある保持器に関しては、後述する実験結果より、繊
維状充填材の添加量は０〜４０ｗｔ％、好ましくは１０
〜３５ｗｔ％であることが判る。

【００１４】本発明のプラスチック保持器をなす樹脂組
成物は、脂肪族ポリケトン樹脂と繊維状充填材との親和
性を持たせて充填材と樹脂との密着性並びに充填材の分
散性を向上させるために、繊維状充填材をシラン系カッ
プリング剤やチタネート系カップリング剤等のカップリ
ング剤や、その他目的に応じた表面処理剤で処理するこ
とができるが、これらに限定されるものではない。

【００１５】なお、本発明の目的を損わない範囲内で、
各種添加剤を配合してもよく、例えば、黒鉛，六方晶窒
化ホウ素，フッ素雲母，四フッ化エチレン樹脂粉末，二
硫化タングステン，二硫化モリブデン等の固体潤滑剤，
無機粉末，有機粉末，潤滑油，可塑剤，ゴム，樹脂，酸
化防止剤，熱安定剤，紫外線吸収剤，光保護剤，難燃
剤，帯電防止剤，離型剤，流動性改良剤，熱伝導性改良
剤，非粘着性付与剤，結晶化促進剤，増核剤，顔料，染
料等を例示することができる。

【００１６】これら脂肪族ポリケトン樹脂と繊維状充填
材などの各種添加材との混合方法は、特に限定されな
い。例えば、各々、別々に溶融混練することが可能であ
り、また予めこれらの材料をへンシェルミキサー，タン
ブラー，リボンミキサー，ボールミル等の混合機で予備
混合した後に、溶融混合機へ供給することもできる。溶
融混合機としては単軸又は二軸押出機，混練ロール，加
圧ニーダー，バンバリーミキサー，ブラベンダープラス
トグラフ等の公知の溶融混練装置が使用できる。溶融混
練する際の温度は特に限定されないが、脂肪族ポリケト
ン樹脂の溶融が十分進行し、かつ劣化しない温度の範囲
内で適宜選定すればよい。

【００１７】本発明の軸受用プラスチック保持器の製造
方法は特に限定されない。例えば、射出成形，圧縮成
形，トランスファー成形等の通常の方法で成形すること
ができる。中でも射出成形法は、生産性に優れ、安価な
保持器を提供できるため好ましい。

【００１８】〔実施例〕以下、本発明の効果を説明する
ために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限
定されるものではない。

【００１９】（１）試料保持器の製作 この実施例及び比較例に使用した保持器の原材料を一括
して示すと、以下の通りである。

【００２０】脂肪族ポリケトン樹脂（シェルジャパン
社製：カリロンＰ−１０００） ナイロン６，６樹脂（宇部興産社製：宇部ナイロン２
１２０Ｕ） ナイロン４，６樹脂（ＤＳＭ社製：スタニールＴＷ３
００） ガラス繊維（富士ファイバーガラス社製：ＦＥＳＳ‐
０１５‐０４１３，繊維径１０μｍ，平均繊維長０．５
ｍｍ） これらの原材料を、表１に示す割合に配合した組成物を
用いて、実施例と比較例の単列深溝玉軸受用保持器をそ
れぞれ作成し、各種試験を実施した。

【００２１】組成物の製造には二軸押出機を用いた。ガ
ラス繊維は、ガラス繊維の折損を防ぐために定量サイド
フィーダーにより添加し、押出して造粒した。得られた
ペレットをインラインスクリュー式射出成形機に供給し
て成形し、所望の保持器形状（型番６３０５相当用保持
器）とした。なお、保持器の形状は図２に示すような冠
型保持器とした。各種材料の配合割合（ｗｔ％）を表１
に示す。

【００２２】（２）寸法安定性試験 （ａ）まず、本発明のプラスチック保持器の寸法安定性
を確認するために、得られた保持器を６０℃，相対湿度
７０％の垣温恒湿槽中で１６８時間吸水処理を実施し、
その外径の寸法変化を求めた。結果を表１に付記する。

【００２３】

【表１】

【００２４】表１から明らかなように、組成物のマトリ
ックスとして脂肪族ポリケトン樹脂を用いた実施例１，
２の保持器は、いずれも精度の要求される用途の保持器
として使用するに十分な寸法安定性の水準を維持してお
り、特にガラス繊維を３０ｗｔ％配合した実施例２の保
持器は、より寸法安定性が向上している。一方、従来用
いられてきた、ナイロン６，６及びナイロン４，６を組
成物のマトリックスとして用いた比較例１〜４の保持器
は、繊維状充填材を配合することにより寸法安定性は向
上するものの、精度の要求される用途の保持器として使
用するには十分でない。

【００２５】（ｂ）また、本発明のプラスチック保持器
の吸水による長期の寸法安定性を確認するために、脂肪
族ポリケトン樹脂にガラス繊維をｌ０ｗｔ％配合した型
番６３０５相当玉軸受用冠型保持器（実施例）と、ナイ
ロン６，６にガラス繊維をｌ０ｗｔ％配合した型番６３
０５相当玉軸受用冠型保持器（比較例）とを、４０℃，
相対湿度７０％の恒温恒湿槽中で５００時間吸水処理を
実施し、その外径寸法の径時変化を求めた。結果を図８
に示す。図８から明らかなように、脂肪族ポリケトン樹
脂からなる実施例の保持器は、ナイロン６，６からなる
比較例のものと比べて吸水による寸法変化が目立って小
さく、しかも安定している。

【００２６】（３）保持器組立性試験 次に、本発明のプラスチック保持器への転動体組込み性
を試験するために、日本精工（株）製の空気駆動型自動
玉組込み装置を使用して組込み試験を行った。

【００２７】（ａ）試験に使用した空気駆動型自動玉組
込み装置は、図９（ａ），図９（ｂ）に示すように、保
持器１１のポケット上に玉１２を等配した後、押し板１
９をのせ、押し板１９を空気圧によって押すことによ
り、瞬間的に全玉を保持器１１のポケット部に組み込む
ことを可能とする装置である。即ち、図９（ｂ）におい
て，基盤１３上にフレーム１４，保持器支持板１５を固
定し、その保持器支持板１５上に玉１２を等配した保持
器１１を載せ、更に押し板１９を当てがい、フレーム１
４に固定された空気圧シリンダー１６から延びるシリン
ダーロッド１７の先端のパンチ１８で上記押し板１９を
押し付けて瞬間的に全玉を同時に保持器１１のポケット
部に組込む。この場合のシリンダーロッド１７の移動速
度は０．２ｍ／ｓｅｃ，荷重は１５ｋｇｆ，雰囲気温度
は２０℃であった。

【００２８】（ｂ）試験用保持器１１は、前記実施例１
〜２，比較例１〜４と同様の方法で作製し、型番及び形
状も６３０５相当用冠型保持器とした。この場合の実施
例３〜５及び比較例５〜９の各種材料の配合割合（ｗｔ
％）を表２に示す。なお、従来からのナイロンを組成物
のマトリックスとして用いた比較例の保持器について
は、吸水していない所謂絶乾品だけでなく、予め垣温恒
湿槽中で処理し、２ｗｔ％の水を吸水させた所謂調湿品
も一部加えて試験を実施した。表２に吸水「有り」とし
て示す比較例６及び８が調湿品である。

【００２９】

【表２】

【００３０】（ｃ）組立性の評価は、保持器の爪に折損
及び白化が認められるか否かで行った。認められない場
合を組込性良好とし、その成功率を求めて表２に付記し
た。表２から明らかなように、組成物のマトリックスと
して脂肪族ポリケトン樹脂を用い、これに適量のガラス
繊維を配合した実施例３〜５の保持器は、いずれも組込
み試験により爪の折損及び白化が全く認められなかっ
た。一方、比較例５のようにガラス繊維を５５ｗｔ％と
多量に配合した組成物は、保持器の爪に若干の白化が認
められた。また、従来用いられてきたナイロン６，６及
びナイロン４，６を組成物のマトリックスとしてこれに
ガラス繊維を配合した比較例６，７及び８，９の保持器
では、吸水処理を施さなかった比較例７，９のものは変
形能が極めて小さくなるため爪の破損を生じた。

【００３１】（４）繊維状充填材の配合量と保持器組立
性及び保持器強度との関係 （ａ）繊維状充てん材の配合量がプラスチック保持器へ
の転動体組込み性（保持器組立性）に及ぼす影響を確認
するために、脂肪族ポリケトン樹脂にガラス繊維を各種
の割合で配合した冠型保持器を作製して組立性試験を実
施した。試験用保持器は前記実施例３〜５，比較例５〜
９の場合と略同様の方法（「（１）試料保持器の製作」
の項参照）で作製し、試験方法も同じとした。試験結果
を図１０に示す。この図から明らかなように、脂肪族ポ
リケトン樹脂からなる保持器は、ガラス繊維配合量４０
ｗｔ％まで良好な組込み性を示した。

【００３２】（ｂ）更に、本発明のプラスチック保持器
における繊維状充てん材の配合量が保持器の強度に及ぼ
す影響を確認するために、試験用保持器を前記と同様に
作製して円環引張り試験を実施した。当該円環引張り試
験は、図１１に示す円環引張り試験治具に試験用保持器
１１を、そのゲート部１１ｇとウエルド１１ｗが水平位
置になるように取り付け、島津製作所製の引張り試験機
（オートグラフＡＧ−１０ＫＮＧ）を用いて１０ｍｍ／
ｍｉｎ．の引張り速度で円環引張り試験を実施したもの
である。試験結果を図１２に示す。この図から明らかな
ように、脂肪族ポリケトン樹脂からなる保持器は、ガラ
ス繊維配合量１０〜４０ｗｔ％の範囲で良好な強度を示
した。

【００３３】（５）続いて、玉軸受用保持器以外の各種
の保持器について実施した組立性評価試験（特に繊維充
填量との関係）について説明する。 （ａ）円すいころ軸受用保持器の場合：脂肪族ポリケト
ン樹脂にガラス繊維を各種の割合で配合した円すいころ
軸受用保持器を、前記と略同様の方法で作製して組立性
試験を実施した。試験装置として前記図９（ｂ）に示し
たものと同様の装置を用いた。図１３（ａ）に示すよう
に、試験用保持器２１の内径側ポケット面にころ２２を
等配したものを、図１３（ｂ）のように保持器支持板１
５上に載せ、これに円すいころ軸受の内輪２４を軽く挿
入した後、その内輪２４の大径面に押し板１９を当てが
って、空気圧シリンダー１６の加圧力で瞬間的に全ころ
を同時に保持器２１のポケット部に組込む。この場合の
シリンダー移動速度は０．２ｍ／ｓｅｃ，荷重は２５ｋ
ｇｆ，雰囲気温度は２０℃であった。試験結果を図１４
に示す。この図から明らかなように、脂肪族ポリケトン
樹脂からなる円錐ころ軸受用保持器は、ガラス繊維配合
量４０ｗｔ％まで良好な組込み性を示した。

【００３４】（ｂ）球面ころ軸受用保持器の場合：前記
同様に脂肪族ポリケトン樹脂にガラス繊維を各種の割合
で配合した保持器を作製し、前記図９（ｂ）に示したも
のと同様の装置を用いて組立性試験を実施した。但し、
この場合は図１５に示す特殊治具３０を使用し、保持器
３１のポケット部３２に１個づつころ３３を組込んだ。
即ち，保持器３１の大径側フランジ面と斜面とのなす角
βと同一の角度αを持つ斜面を有する支持台３４に、高
さが保持器３１と同一で且つ直径が保持器の小径側フラ
ンジ内径と同一の円盤３５を固定し、これに保持器３１
を挿入して保持器大径側フランジ面を支持台３４の傾斜
面に当てると共に、保持器の任意のポケット３２が真上
に位置するように押え板３６及びボルト３７を用いて保
持器３１を固定した。その最上部ポケット３２に１個の
ころ３３を当てがい、その長軸に対して垂直方向から空
気圧シリンダー１６により圧力Ｐを負荷することによ
り、ころ３３を保持器のポケット３２に組込む。以下、
順次他のポケットについても同様の操作を繰り返し、最
終的には全ポケット３２にころ３３を組み込んだ。この
場合のシリンダー移動速度，荷重及び雰囲気温度は円す
いころ軸受用保持器の場合と同じとした。試験結果を図
１６に示す。この図から明らかなように、脂肪族ポリケ
トン樹脂からなる球面ころ軸受用保持器は、ガラス繊維
配合量５０ｗｔ％まで良好な組込み性を示した。

【００３５】（ｃ）円筒ころ軸受用保持器の場合：同じ
く脂肪族ポリケトン樹脂にガラス繊維を各種の割合で配
合した円筒ころ軸受用保持器を作製して、前記同様の装
置を用いて組立性試験を実施した。但し、この場合は図
１７に示す特殊治具４０を使用して１個づつころを組込
んだ。即ち、この特殊治具４０の支持台４４は、その上
部に、保持器支持部４４ａを有する。その保持器支持部
４４ａは、保持器４１の外周と同一の曲率及び保持器厚
みと同一の幅を持つ矩形断面の凹部４０ａと、該凹部の
中央部に設けた保持器のポケット４３の高さと同一の幅
を持つ矩形断面の溝４０ｂとからなっている。その保持
器支持部４４ａに、任意のポケット４２が水平に位置す
る様に保持器４１を挿入し、保持器４１の内径側よりポ
ケット４２にころ４３を１個当てがう。そして、支柱４
５の上部に支点４５ａを介して回動自在に取り付けたア
ーム４６に固定したパンチ４７を、図示の如く上述のこ
ろ４３に接する様にセットする。この様にセットした治
具４０を、前記同様の空気圧駆動型自動ころ組込み装置
に組み付けて、アーム４６の他端４８に空気圧シリンダ
ー１６により圧力Ｐを負荷することにより、ころ４３を
保持器のポケット４２に組込む。以下、順次他のポケッ
トについても同様の操作を繰り返し、最終的には全ポケ
ット４２にころ４３を組み込んだ。この場合のシリンダ
ー移動速度，荷重及び雰囲気温度は前記円すいころ軸受
用保持器の場合と同じとした。試験結果を図１８に示
す。この図から明らかなように、脂肪族ポリケトン樹脂
からなる円筒ころ軸受用保持器は、ガラス繊維配合量４
０ｗｔ％まで良好な組込み性を示した。

【００３６】なお、上記実施例では、形状の点から転動
体組み込み（すなわち保持器組立）に対し最も不利と思
われる冠型玉軸受用保持器，円すいころ軸受用保持器、
球面ころ軸受用保持器，円筒ころ軸受用保持器に対して
実装試験を行ったが、その他の種類の保持器でも、脂肪
族ポリケトン樹脂を使用して製造した場合は十分な性能
を示すことは、上記各実施例の結果より明らかであると
いえる。すなわち、本発明の保持器は、冠型玉軸受用保
持器，円すいころ軸受用保持器，球面ころ軸受用保持
器，円筒ころ軸受用保持器に限らず、図１に示す一般玉
軸受用保持器，図３に示すアンギュラ玉軸受用保持器、
その他ニードル軸受用保持器，ローラクラッチ保持器等
の他の保持器にも適用できる。

【００３７】

【発明の効果】以上説明したように、請求項１に係る発
明は、使用する組成物のベースとなるマトリックス樹脂
として、優れた耐熱性，耐油性，耐薬品性，寸法安定
性，靭性を示すと同時に高い機械的特性を有している脂
肪族ポリケトン樹脂を使用したため、吸水性，寸法安定
性並びに組立性を大きく向上させることができて、精度
の要求される用途や水分を嫌う用途の保持器を安価に提
供できるという効果を奏する。

【図面の簡単な説明】

【図１】玉軸受用保持器の斜視図である。

【図２】冠型保持器の斜視図である。

【図３】アンギュラ軸受用保持器の斜視図である。

【図４】円すいころ軸受用保持器の斜視図である。

【図５】球面ころ軸受用保持器の斜視図である。

【図６】円筒ころ軸受用保持器の斜視図である。

【図７】冠型保持器を組み込んだ転がり軸受の半断面図
である。

【図８】玉軸受用冠型保持器の寸法安定性試験（吸水性
試験）結果を表したグラフである。

【図９】冠型保持器組立性試験の説明図で、（ａ）は保
持器平面図、（ｂ）は同試験装置の概要図である。

【図１０】冠型保持器の繊維状充填材の配合量と保持器
組立性との関係を求めた試験結果のグラフである。

【図１１】円環引張り試験治具を用いた保持器引張り強
度試験の説明図である。

【図１２】冠型保持器の繊維状充填材の配合量と保持器
強度との関係を求めた試験結果のグラフである。

【図１３】円すいころ軸受用保持器の組立性試験の説明
図で、（ａ）は保持器平面図、（ｂ）は同試験装置の概
要図である。

【図１４】円すいころ軸受用保持器の繊維状充填材の配
合量と保持器組立性との関係を求めた試験結果のグラフ
である。

【図１５】円すいころ軸受用保持器の組立性試験に用い
たころ組付治具の側面図である。

【図１６】球面ころ軸受用保持器の繊維状充填材の配合
量と保持器組立性との関係を求めた試験結果のグラフで
ある。

【図１７】円筒ころ軸受用保持器の組立性試験に用いた
ころ組付治具の側面図である。

【図１８】円筒ころ軸受用保持器の繊維状充填材の配合
量と保持器組立性との関係を求めた試験結果のグラフで
ある。

【符号の説明】

１１ 玉軸受用冠型保持器 ２１ 円すいころ軸受用保持器 ３１ 球面ころ軸受用保持器 ４１ 円筒ころ軸受用保持器

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 脂肪族ポリケトン樹脂から製造してなる
   転がり軸受用のプラスチック保持器。