JPH11302086A - 炭素繊維強化炭素複合材料及びその製造方法 - Google Patents

炭素繊維強化炭素複合材料及びその製造方法

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JPH11302086A
JPH11302086A JP10126640A JP12664098A JPH11302086A JP H11302086 A JPH11302086 A JP H11302086A JP 10126640 A JP10126640 A JP 10126640A JP 12664098 A JP12664098 A JP 12664098A JP H11302086 A JPH11302086 A JP H11302086A
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carbon fiber
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JP10126640A
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Minoru Takahata
稔 高畠
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Petoca Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 ピッチ油をニトロ化して得られた光
学的等方性ピッチを、マトリックス炭素前駆体として炭
素繊維或いは炭素繊維構造体に含浸し、炭化、必要に応
じ黒鉛化する、炭素繊維強化炭素複合材料の製法。
光学的等方性ピッチを炭素繊維構造体に含浸するに際
し、予め有機極性溶媒に溶解分散させる。ニトロ化
を、ピッチ油100部当たりニトロ化試薬を濃硝酸換算
で10〜40部添加して行う。 マトリックス炭素の
光学的組織が、等方性組織及び/又は異方性領域が微細
モザイク組織。 強化繊維の配列方向が2方向以上、
引張強度450MPa以上、引張弾性率150GPa以
上、曲げ強度340MPa以上、圧縮強度170MPa
以上、層間剪断強度10MPa以上の炭素複合材料。 【効果】 超高温環境下においても優れた機械的特性、
高耐熱性を有する高強度、高弾性率の炭素複合材料を提
供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、強化材としての炭
素繊維又はその構造体に特定の光学的等方性ピッチから
なる液状炭化性物質を含浸後、炭化、必要に応じ黒鉛化
することによって得られる、超高温環境下においても優
れた機械的特性を発現する高耐熱性を有する高強度高弾
性率の炭素繊維強化炭素複合材料及びその製造方法に関
する。より詳しくは、本発明は、強化材炭素繊維とマト
リックス炭素との界面部分に亀裂や剥離等の発生が少な
い、高耐熱性、高強度、高弾性率、耐薬品性、耐摩耗性
等の優れた炭素繊維強化炭素複合材料及びその製造方法
に関する。本発明による炭素繊維強化炭素複合材料は、
その優れた各種特性に基づき宇宙往還機用構造部材、高
温用機械部材、電気電子機器部品等に有用である。
【0002】
【従来の技術】従来、高強度高弾性率の炭素繊維強化炭
素複合材料は、強化材として高強度高弾性率を有する炭
素繊維をボビン等に巻き取った状態、或いは該炭素繊維
を主要材料とする構造物、例えば織物、三次元織物、不
織布、一方向配列シート等に賦形した構造物に、マトリ
ックス炭素前駆体としてフェノール樹脂、フラン樹脂等
の熱硬化性樹脂やピッチ類等の液状炭化性物質を含浸
し、不活性雰囲気中で炭化し、必要に応じ黒鉛化するこ
とにより得られることが知られている。この方法では、
強化材炭素繊維とマトリックス炭素との界面部分の接着
力が不十分で、亀裂や剥離を多数生じて、得られる複合
材料の機械的特性を損なうという問題を有している。
【0003】両者間の接着力を大きくするために、種々
の試みがなされている。しかし、当該炭素繊維強化炭素
複合材料の製造工程中、特に熱処理(炭化、黒鉛化)過
程での温度変化は他の複合材料では考えられない程に大
きい上、炭素分子の極端な異方性が、強化材とマトリッ
クスの寸法変化に本質的な差を与えていると考えられ、
界面接着力としてはかなり高いものが要求される。この
問題点を解決するために、従来、炭化後の複合材料に液
状炭化性物質を再度含浸させ、引き続きこれを炭素化す
るという含浸・炭化工程を5〜6回以上も繰り返す二次
的補強処理により、亀裂や剥離を埋めて複合材料の空隙
率を減らし、高密度化することにより高強度高弾性率炭
素繊維強化炭素複合材料を得ている。
【0004】この二次的補強処理は、炭素繊維強化炭素
複合材料の用途などにより、その必要性の有無や或いは
必要繰り返し回数が決められる。単に耐熱材料としてな
どの古典的な炭素繊維強化炭素複合材料の用途の場合に
は、二次的補強処理の必要性は薄い。しかし、最近はこ
の耐熱性分野のみならず、宇宙用耐熱構造材料或いは高
度の耐熱性が要求される高速車両用ブレーキ基材等の分
野への応用が期待され、相当高度な材料強度や耐摩耗性
や高摺動特性が要求されてきており、二次的補強処理の
必要性は高くなってきている。
【0005】二次的補強処理の意味するところは、初期
炭化処理によって得られる、炭素繊維強化炭素複合材料
中の強化材炭素繊維とマトリックス炭素との界面接着状
態不良により生じる欠陥、具体的には上記界面の剥離や
亀裂等の部位を炭素によって充填させて、材料強度を向
上させることにある。通常、熱硬化性樹脂をマトリック
ス炭素前駆体として使用した場合、炭化後のマトリック
ス炭素は、強化材炭素繊維から離脱した状態として観察
されることがある。このような欠陥を剥離と呼ぶ。
【0006】また、ピッチをマトリックス炭素前駆体と
して使用し、炭化処理して炭素繊維強化炭素複合材料を
製造する場合には、マトリックス炭素は強化材炭素繊維
に付着してはいるが、炭素繊維−炭素繊維間に存在する
マトリックス炭素内部には、その領域の中央部に、最近
傍の炭素繊維の配列方向に沿った欠陥、或いは層流状態
の流体に生じる速度勾配分布を反映させたような三日月
状の欠陥が存在し、結果的には界面接着状態不良の複合
材料として観察される。このような欠陥を亀裂と呼ぶ。
【0007】以上のような剥離や亀裂の欠陥を有する炭
素繊維強化炭素複合材料は、緻密化処理である二次的補
強処理の繰り返しによって、得られる物性、特に機械的
強度を向上させることは可能であるが、この処理は、単
に欠陥の存在率を小さくするだけのことであり、該複合
材料にかかる応力を支える繊維の配列方向に存在する欠
陥を本質的に補強するものではない。
【0008】二次的補強処理用素材としては、経済的側
面や炭化収率等の観点から、石炭系、石油系を問わず、
ピッチを用いることが主流となっている。ピッチは、そ
の熱処理過程で光学組織的に極端な異方性を示すメソフ
ェーズを生成し、得られる炭素組織もグラファイト質の
極端な異方性を示す。従って、強化材炭素繊維近傍に充
填された上記二次的補強材は、光学的異方性を示すグラ
ファイト的組織を有する炭素を提供するものであって、
多くのグラファイト質炭素が有する積層欠陥を内在して
いて、炭素質充填材としての役割は果たすものの、複合
材料の剪断強度向上に関しては問題点を残している。
【0009】一般的に、マトリックス炭素前駆体用のピ
ッチの熱分解は、常圧下では300℃前後から重量減少
を伴って始まる。この重量減少を伴う顕著な熱分解反応
は約600℃にまでおよび、ここでは発生するガスによ
り炭化時に発泡し、得られる炭化物の嵩密度が著しく低
下するという欠点がある。また、この際の炭素化収率も
低い。炭化時の発泡及び炭素化収率の低下を防止するた
めに高圧下で炭素化する方法が提案されている。しかし
ながら、この方法は、加圧下で炭化装置、HIP装置、
オートクレーブ或いは金属製ボンベ等の特殊な装置を必
要とし、かつ生産性が低く、また大型製品を製造する際
にもこの高圧加圧装置が様々な制約となっている。
【0010】特開昭52−52912号公報には、強化
材炭素繊維の原料と同種のものをマトリックス炭素前駆
体に用いることが開示されている。これは、マトリック
ス炭素前駆体を炭化して得られるマトリックス炭素が強
化材炭素繊維とほぼ同一の性質を示し、高温度領域での
熱処理を必要とする場合に両者の熱膨張率の差が非常に
小さくなるため、この過程での強化材炭素繊維とマトリ
ックス炭素との界面に生じる亀裂や剥離等の欠陥の発生
を減少させる効果は或る程度期待できる。しかし、炭化
初期過程では、マトリックス炭素前駆体の収縮が大きい
ため、強化材炭素繊維とマトリックス炭素との界面には
欠陥が発生しやすく、依然問題が残されている。
【0011】このような問題点を解決するために、特開
昭57−209883号公報ではマトリックス炭素前駆
体としての液状炭化性物質の中に炭素質微粒子、或いは
固体状炭化性物質の微粒子を混合することが開示されて
いる。この方法の問題点は、微粒子の混合により液状炭
化性物質の粘性が顕著に増大し、強化材の炭素繊維集合
体の中に入り難くなる傾向が生じるため、微粒子の混合
率を大きくし難いことである。
【0012】炭素繊維強化炭素複合材料のマトリックス
原料としてピッチ或いは熱硬化性樹脂を用いる方法の改
善方法として、ピッチと熱硬化性樹脂の混合物をマトリ
ックス原料として使用する該複合材料の製造方法も知ら
れている(例えば特開昭62−72566号公報等)。
しかし、このピッチと熱硬化性樹脂の混合物をマトリッ
クス原料として使用する場合、ピッチと熱硬化性樹脂の
それぞれの特性が相互に補完し合ってマトリックス原料
の炭化収率が熱硬化性樹脂を単独で使用した場合よりは
向上してはいるが、得られる複合材料のマトリックス炭
素組織は、前述の構造欠陥を回避するには不十分であ
り、機械的特性も熱硬化性樹脂を単独で用いた場合を越
えるものではなく、結果的に、満足できるマトリックス
原料の炭化収率で経済的に満足できる優れた機械的強度
等の特性を有する炭素繊維強化炭素複合材料は得られな
い。
【0013】石油類の蒸留残渣油や石炭乾留時に副生す
るタール成分等のピッチ系重質油を約400〜500℃
で熱処理すると、メソフェーズ小球体がまず生成し、こ
れが成長・合体して全面メソフェーズとなる。メソフェ
ーズ小球体の粒径は通常3〜50μmで、1μm程度或
いはそれ以下のサイズのメソフェーズ小球体を製造する
ことは非常に困難である。また、小球体の成長・合体の
際には発生ガスの流れや液体の対流による攪拌現象が起
こるため、メソフェーズの大部分は流れ構造となり、微
細モザイク組織構造が主体となるメソフェーズが生成す
ることは希少である。従って、石油類の蒸留残渣や石炭
タールをピッチ原料重質油として不活性ガス雰囲気中や
不活性ガス吹き込み、又は減圧雰囲気下で熱処理して調
製した炭素繊維強化炭素複合材料用のマトリックス前駆
体ピッチは、そのまま使用した時には、流れ構造を反映
した積層構造を形成した炭素組織となり、前述の欠陥を
有するマトリックス相を提供するものとなる。
【0014】本発明者による特公平8−16032号公
報には、石油類の蒸留残渣や石炭タール等の重質油を熱
処理して調製したピッチ類、又は熱硬化性樹脂からなる
液状炭化性物質をマトリックス炭素前駆体にした高強度
高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料を得る方法が示さ
れている。この方法は、平均粒子径12〜0.07μm
のグラファイト等の炭素微粉末を強化材炭素繊維束の表
面及び内部に分散させ、そこにマトリックス炭素前駆体
としてのピッチを含浸後、炭化し、必要に応じ黒鉛化処
理するものである。
【0015】ここでは、上記マトリックス炭素前駆体ピ
ッチが熱処理されることにより生成するメソフェーズ小
球体の成長・合体が、炭素繊維表面に分散された炭素微
粉末により制約されるために、ピッチ炭素組織が流れ構
造とならず、微細モザイク組織を形成する。従って、マ
トリックス炭素組織として積層構造欠陥は発生し難く、
高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料を得ること
が容易である。当該手法は、炭素繊維近傍のマトリック
ス炭素組織を微細化制御するために、マトリックス炭素
の破壊歪みが見掛け上大きくなり、強化材炭素繊維への
応力集中を分散させることができ、高強度高弾性率の炭
素繊維強化炭素複合材料を得ることが可能な優れた手法
である。しかしながら、更に高いレベルの引張強度、曲
げ強度、圧縮強度、並びに層間剪断等の各種機械的力学
特性に優れた高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材
料を得るためには必ずしも十分な方法ではなく、そのた
めには炭素繊維近傍以外のマトリックス組織も制御する
必要性が残されていた。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、炭素
繊維強化炭素複合材料の成形炭化時において、マトリッ
クス内や強化材炭素繊維とマトリックスとの界面に発生
する亀裂や剥離により、複合材の強度を損なう問題点、
並びに多数回マトリックス炭素前駆体ピッチを含浸する
ことにより、該亀裂や該剥離を除去するのに必然的に生
じる製造コストの上昇という問題点を解決し、且つ一層
優れた機械的特性を有する高強度高弾性率の炭素繊維強
化炭素複合材料を経済的に、更には好適に賦形された状
態で提供するものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を
達成するべく種々研究した結果、上記のような従来法の
問題点の解決に対して炭素繊維強化炭素複合材料のマト
リックス炭素の組織制御が有効であり、更には、このた
めにはマトリックス炭素前駆体自体の改質が有効である
ことを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発
明は: ピッチ原料重質油をニトロ化して得られた光学的等
方性ピッチを、マトリックス炭素前駆体として炭素繊維
或いは炭素繊維構造体に含浸し、炭化、必要に応じ黒鉛
化する、高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料の
製造方法を提供する。また、 光学的等方性ピッチを炭素繊維構造体に含浸するに
際し、予め有機極性溶媒に溶解分散させる点にも特徴を
有する。また、 ピッチ原料重質油が、石油系或いは石炭系の重質油
である点にも特徴を有する。また、
【0018】 ピッチ原料重質油のニトロ化が、硝酸
又は濃硝酸等のニトロ化試薬により行う点にも特徴を有
する。また、 ピッチ原料重質油のニトロ化が、ピッチ系重質油1
00重量部に対してニトロ化試薬を濃硝酸換算で10〜
40重量部添加して行う点にも特徴を有する。また、 マトリックス炭素の光学的組織が、等方性組織及び
/又は異方性領域が微細モザイク組織である点にも特徴
を有する。また、 〜のいずれかに記載の方法により得られる、強
化繊維の配列方向が2方向以上で、かつ、引張強度45
0MPa以上、引張弾性率150GPa以上、曲げ強度
340MPa以上、圧縮強度170MPa以上、層間剪
断強度が10MPaの高強度高弾性率の炭素繊維強化炭
素複合材料を提供する。
【0019】以下、本発明を詳細に説明する。 (A) 炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法: (i) 特徴 第一に、ピッチ原料重質油に硝酸又は濃硝酸等のニトロ
化試薬を添加混合し、ニトロ化反応させ、水分及び軽質
油分を除去して、光学的等方性ピッチを得ることにあ
り、更に該特異な光学的等方性ピッチを強化繊維原料と
しての炭素繊維或いは炭素繊維構造体に含浸し、炭化
し、必要に応じ黒鉛化処理(不活性ガス雰囲気中150
0℃以上2700℃以下、好ましくは1800〜250
0℃の熱処理)することによって、マトリックス炭素の
組織が制御された高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複
合材料を得ることにある。第二に、前記光学的等方性ピ
ッチを、強化用炭素繊維への含浸に先立って、テトラヒ
ドロフラン等の有機極性溶媒に溶解分散させた状態にす
ることが、マトリックス炭素の組織が制御された高強度
高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料を製造するのに有
利である。
【0020】(ii) 光学的等方性ピッチ: 原料 マトリックス炭素前駆体の原料としては、重質油系原料
であれば、石油系、石炭系等特に限定されるものではな
い。例えば、石油系としては、石油精製における原油熱
分解で生成する重質油、流動接触分解(FCC)の残渣
油、エチレンボトム油或いはこれらを分解重合処理した
重質油等を用いることができ、石炭系としては、石炭乾
留時に産出するコールタールやアスファルト等のピッチ
類を用いることができる。以下、これら重質油系原料を
単にピッチ原料重質油と称する。このピッチ原料重質油
は、そのままでも使用することもできるが、通常これを
濾過処理して固形物を取り除いておくことが望ましい。
【0021】 光学的等方性ピッチの調製 1)該ピッチ原料重質油は、所定量の硝酸又は濃硝酸等
ニトロ化試薬を添加混合反応させてニトロ化した後に成
分調整のために、後処理することが望ましい。即ち、反
応副生成物である水分を除去し、更に未反応軽質油分又
は分解により生成した軽質油分を減圧蒸留する等して軟
化点を調整し、光学的等方性のマトリックス炭素前駆体
ピッチとする。本発明では、特定の光学的等方性ピッチ
を使用して炭素繊維強化炭素複合材料を作製するので、
マトリックス炭素組織が通常ピッチ炭素に観察される積
層構造欠陥を有する組織とは異なって、光学的異方性組
織領域が微細なモザイク状炭素組織、或いは光学的等方
性なマトリックス炭素組織となり、従来のピッチ炭素組
織の積層構造形成に由来するマトリックス炭素内の亀裂
または強化材炭素繊維とマトリックス炭素との界面に発
生する亀裂・剥離等の欠陥発生を本質的に減少させるこ
とができ、高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料
が得られる。
【0022】 ニトロ化処理 1)ニトロ化試薬 本発明に使用するニトロ化試薬としては、硝酸や濃硝酸
等の液状の酸が好ましい。当該酸は、これに限定される
ものではなく、同様な効果を有する硝酸アセチル、二酸
化窒素等も使用できる。本発明の光学的等方性ピッチ
は、添加するニトロ化試薬の配合量によりその組成を制
御することができる。
【0023】2)ニトロ化試薬の混合割合 本発明の高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料に
使用される光学的等方性ピッチは、ピッチ原料重質油に
硝酸或いは濃硝酸等のニトロ化試薬を混合し、ピッチ原
料重質油をニトロ化して得ることができる。ニトロ化試
薬の混合割合は、ピッチ原料重質油100重量部に対
し、濃硝酸換算で10〜40重量部、好ましくは12〜
37重量部である。ニトロ化試薬の混合割合は、40重
量部を越えると収率は向上する方向であるが、ニトロ化
反応が発熱反応であるため発生熱量が大きくなり反応が
暴走したり、副生する水分量が増えその除去が煩雑とな
る。また、軟化点も著しく上昇し、有機極性溶媒への分
散混合性も乏しくなり、炭素繊維或いは炭素繊維を主要
材とする構造物への含浸処理が難しくなり好ましくな
い。この際、有機極性溶媒可溶成分のみを使用する方法
(有機極性溶媒可溶成分の炭素組織は光学的等方性を示
す)も考えられるが、ニトロ化試薬の混合割合の増加に
伴い、不溶成分量が増加する傾向にあり、総合的な収率
が低くなるためあまり好ましい方法とはいえない。
【0024】一方、ニトロ化試薬の混合割合が10重量
部未満では、得られるピッチ炭素化物の光学組織は、ニ
トロ化試薬を添加しないピッチ系重質油を単に熱処理し
て得たピッチ炭素に似た粗いモザイク組織や流れ構造組
織となり、積層構造欠陥に応じた熱収縮亀裂が内在した
炭素組織となり、複合材料強度の大きな特性改善はなさ
れない。更に、ピッチ系重質油の重合反応が十分ではな
いために軽質油分が多く、ピッチ炭素の組織構造制御は
不十分であるばかりか、効果的な炭素化収率向上を図る
ことが難しくなる。
【0025】 有機極性溶媒による溶解分散処理 1)本発明の光学的等方性ピッチの特徴は、テトラヒド
ロフラン等の有機極性溶媒との親和性に富み、有機極性
溶媒に溶解分散させることが可能である点である。ここ
でいう有機極性溶媒とは、テトラヒドロフラン、ジメチ
ルホルムアルデヒド、ジメチルスルフォキシド、ジオキ
サン等が挙げられるが、これに制限されるものではな
い。 2)粘度の調整 本発明の光学的等方性ピッチは、前述の減圧蒸留処理等
により軟化点を任意に調整できるが、一般的なピッチと
同様に、軟化点が低いと炭化収率は低くなり、軟化点が
高いと炭化収率は高くなる傾向がある。しかし、該光学
的等方性ピッチでは、軟化点が高くなり炭素繊維主要構
造部材への加熱溶融含浸が難しい場合でも、特定の有機
極性溶媒に溶解分散させることにより、マトリックス炭
素前駆体ピッチとして使用できる。
【0026】炭化収率の高い従来のマトリックス炭素前
駆体ピッチを加熱溶融含浸処理に適用するには、含浸に
適用可能な粘度が100poise以下、好ましくは1
0poise以下であるため、加熱温度を高くする必要
があり、コストが高くなる。更に、高い溶融温度では、
ピッチから低揮発成分が逸脱する等により、ピッチ組成
が変成し、ピッチ浴中の余剰ピッチが再利用できなくな
るというコスト面の問題もある。これに対して、本発明
の光学的等方性ピッチでは、有機極性溶媒に溶解分散可
能であって溶媒混合量によって粘度を制御できるため、
室温での含浸処理が可能となり、コスト的に有利とな
る。更に、有機極性溶媒を回収し、溶媒を再利用すれば
一層有利となる。
【0027】 ニトロ化試薬の添加方法 1)ピッチ系重質油へのニトロ化試薬の添加方法は、加
熱保持したピッチ原料重質油中に、攪拌しながら所定量
のニトロ化試薬を、滴下添加する方法が一般的である。
ニトロ化試薬として硝酸や濃硝酸を用いる反応では、ピ
ッチ原料重質油にニトロ化試薬を添加すると直ちにニト
ロ化反応が起こる。従って、ニトロ化反応を液流通式の
連続処理とすることが可能であり、この方式の採用が生
産性、均質組成のものを効率良く得ることができる点で
望ましい。
【0028】2)ピッチ原料重質油とニトロ化試薬との
混合反応は、連続式処理の場合、60〜110℃、好ま
しくは65〜90℃に加熱保持された液流通管を用意
し、液温60〜110℃、好ましくは65〜90℃のピ
ッチ原料重質油を定量ポンプにより所定量送油する。ニ
トロ化試薬をピッチ原料重質油100重量部に対し、濃
硝酸換算で10〜40重量部、好ましくは12〜37重
量部となるように定量ポンプにより送液し、重質油流に
合流させる。合流したピッチ原料重質油とニトロ化試薬
との混合液は、加熱保持された液流通管を通過しながら
ニトロ化反応する。 3)液流通管の形状は特別に限定されるものではない
が、螺旋状に巻かれた物を用いることが好ましい。ピッ
チ原料重質油とニトロ化試薬の添加混合方法は、これに
制限されるものではない。
【0029】 ニトロ化反応の後処理 1)反応の停止 反応の停止は、反応処理液に蒸留水を添加し、未反応硝
酸を抽出して除去することで行なうことが好ましい。反
応混合液を、室温まで冷却しながら静置し、重質油層と
未反応硝酸等が含まれる水層とに分離し、水層を除去す
ることでもよい。連続式の場合には、液流通管を出た反
応生成物と未反応硝酸等との混合液は、受器に貯えら
れ、ここに蒸留水を添加し、未反応硝酸等を抽出除去す
ることで行われる。 2)水分の除去 反応生成物中の水分除去は、反応生成物に窒素等の不活
性ガスを吹き込みながら、或いは減圧雰囲気下で、攪拌
しながら80〜120℃、好ましくは90〜115℃に
加熱し行われる。
【0030】3)ニトロ化収率 このように水分除去して得られたニトロ化反応生成物の
生成量を、ピッチ原料重質油の投入量を基準とし、重量
換算で算出した比率をニトロ化収率とし反応の目安とす
る。このニトロ化収率は、105〜120重量%、好ま
しくは108〜117重量%が適当であり好ましい。 4)軽質油分の除去 反応物中の軽質油分除去は、液温120〜190℃、好
ましくは130〜180℃で減圧(1〜10Torr)蒸留
すること等により行われる。ここで、反応物はピッチ状
となり、これをニトロ化ピッチと呼ぶ。前述のニトロ化
収率算出に使った水分除去したニトロ化反応生成物の重
量に対する軽質油分除去ピッチの重量比をピッチ収率と
する。 5)ピッチ収率 このピッチ収率としては65〜95重量%が適当であ
る。ニトロ化ピッチの軟化点及び炭素化収率を調整する
ために、減圧蒸留による留出量等を適宜制御することが
好ましい。また、ニトロ化試薬の添加量を調整すること
で、ニトロ化ピッチの炭素化収率を不活性ガス雰囲気中
800℃までの熱重量分析結果として、30〜70重量
%の範囲で変化させることが可能である。
【0031】 炭素質粉末の添加 本発明において、光学的等方性ピッチに必要に応じてカ
ーボンブラック、コークス粉、グラファイト粉等の炭素
質粉末を添加することもできる。また、本発明の光学的
等方性ピッチをマトリックス炭素前駆体ピッチとして含
浸/炭素化の一連の操作を必要に応じ複数回繰り返して
も良い。
【0032】 本発明の光学的等方性ピッチの構造的
特徴 1)本発明の方法によると、光学的等方性ピッチを単独
で炭化処理した後のピッチ炭素組織を光学的等方性組織
及び/又は光学的異方性微細モザイク組織に任意に制御
可能となる。即ち、ピッチ炭素組織が光学的等方性組織
から光学的異方性領域が微細モザイク組織となるマトリ
ックス炭素前駆体ピッチを調製し、更に、強化繊維とし
て高弾性率炭素繊維或いはその後の高温熱処理により一
層の高弾性率を発現する炭素繊維を使用することによ
り、従来の含浸/常圧炭化法でも機械的特性の優れた炭
素繊維強化炭素複合材料を作製することが可能となる。
【0033】2)本発明のニトロ化ピッチには、赤外線
吸収スペクトルで1358cm-1と1525cm-1にニ
トロ基の対称・非対称の伸縮振動による強い吸収線を認
めることができる。800℃まで熱処理した当該ニトロ
化ピッチ炭素の光学的組織は、微細モザイク組織及び/
又は等方性組織として偏光顕微鏡で観察される。
【0034】(iii) 強化用炭素繊維 炭素繊維の特徴 1)炭素繊維強化炭素複合材料の機械的強度発現と複合
材料構成要素との関係は、複合材料にかかる応力の種類
によって好ましいものを選ぶ必要がある。そもそも、炭
素繊維強化炭素複合材料は脆性マトリックス系の複合材
料である。強化材炭素繊維の破壊歪みよりもマトリック
ス炭素の破壊歪みが小さいために、複合材料の破壊はマ
トリックス炭素内部やマトリックスと強化材炭素繊維の
界面部分を起点とすることになり、マトリックスの破壊
に左右されることになる。 2)本発明で使用する強化材炭素繊維としては、マトリ
ックスの破壊限界歪み内で、できるだけ大きな応力を受
けることができるように、高弾性率を発現できる高強度
炭素繊維を用いることが有効となる。
【0035】 炭素繊維の範囲 1)本発明で強化材炭素繊維として使用する炭素繊維と
しては、例えばピッチ系、PAN系、或いはレーヨン系
等何れであっても良いが、不活性雰囲気中で、高温の熱
処理で容易に弾性率が高められ、同時に強度も向上する
ピッチ系炭素繊維の使用が好ましい。 2)強化材炭素繊維の形態としては、例えば長繊維、長
繊維織布、短繊維、短繊維不織布、紡績糸、或いは紡績
糸織布の何れでも良い。 3)これら炭素繊維は、その表面を空気、オゾン、過酸
化水素水、サイジング剤等の処理剤で表面処理したもの
でも、表面処理しないものでも差し支えない。 4)強化材炭素繊維としては、その性状、履歴、形態等
を制限するものではないが、上記炭素繊維の中でも、形
態的に長繊維で、高弾性率炭素繊維或いは後の高温熱処
理で容易に高弾性率を発現できる引張弾性率が150G
Pa以上のピッチ系炭素繊維、或いは引張弾性率が38
0GPa以上のPAN系炭素繊維を適用すれば、機械的
特性の優れた高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材
料が得られる。
【0036】(iv) 強化材炭素繊維への光学的等方性ピ
ッチの含浸 1)強化材用炭素繊維又はその構造体への光学的等方性
ピッチの含浸は、光学的等方性ピッチを加熱溶融して含
浸するか或いは有機極性溶媒に溶解分散させて含浸させ
る湿式法がある。特に、湿式法の採用が好ましい。 2)炭素繊維が長繊維でストランド、ヤーン又は紡績糸
状のスライバーヤーンの場合には、該繊維を加熱溶融し
たマトリックス炭素前駆体ピッチ中或いは有機極性溶媒
に溶解分散した光学的等方性ピッチ中を通過させてプリ
プレグヤーンとしても良い。 3)長繊維状炭素繊維を一方向に配列したシート、又は
長繊維状炭素繊維織物に対して、加熱溶融するか或いは
有機極性溶媒に溶解分散した光学的等方性ピッチを含浸
させ、プリプレグシートとしても良い。
【0037】(v)成形・炭化処理 1)光学的等方性ピッチが含浸された炭素繊維又は炭素
繊維構造物をまず成形する。この成形方法は任意であっ
て、従来から知られている成形方法を採用できる。例え
ば、ホットプレス成形法を採用する場合は、光学的等方
性ピッチが含浸されたプリプレグシートを金型に入れ、
窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気或いは非酸化性ガス
雰囲気下、常温〜700℃、好ましくは120〜600
℃の温度、0.1〜120kg/cm2の圧力で成形す
る。特に、成形のみを低い温度でする場合は、空気雰囲
気下で成形することが可能である。このような成形方法
によると、炭素繊維又はその構成物の成形性が良く、損
傷や膨れのない成形物が得られる。
【0038】2)次いで、得られた成形物を炭化する。
この炭化は、通常、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気
或いは非酸化性ガス雰囲気中で、常圧あるいは加圧下で
毎分5℃以下、好ましくは2.5℃以下の昇温速度で6
00〜1500℃の温度で行われる。 3)このようにして得られる炭化物は、従来法により成
形物を炭化して得られる炭化物に比べ、かなり緻密で機
械的強度の高いものである。しかしながら、その緻密性
を増して機械的強度を一層高めるために、必要に応じ該
炭化物に光学的等方性ピッチを再度含浸させ、得られた
含浸処理物を不活性雰囲気或いは非酸化性雰囲気中で6
00〜1500℃の温度で炭素化する。この含浸と炭素
化の一連の操作は、必要に応じ複数回繰り返して行って
も良い。
【0039】4)上記の成形物を引張弾性率150GP
a以上のピッチ系炭素繊維、或いは引張弾性率380G
Pa以上のPAN系炭素繊維を使って作ったプリプレグ
ヤーン又はプリプレグシートの場合には、成形物を炭化
して得られる炭化物或いは、それに含浸と炭化を繰り返
して炭素繊維強化炭素複合材料とすることもできる。更
に、不活性雰囲気或いは非酸化性雰囲気中で1500〜
2700℃、好ましくは1800〜2500℃の高温度
で熱処理し、一層機械的特性の向上した高強度高弾性率
の炭素繊維強化炭素複合材料完成品とすることができ
る。
【0040】(B) 本発明の特徴 (i) マトリックスの炭素組織 1)ピッチ炭素組織として組織制御された光学的等方性
ピッチをマトリックス炭素前駆体として用いて炭素繊維
強化炭素複合材料を作製すると、複合材マトリックスの
炭素組織は、ピッチ炭素単体で観察される組織と同様
に、光学的異方性領域が微細モザイク組織及び/又は光
学的等方性組織として観察される。本発明の「微細」と
は、光学的異方性領域の最大幅の平均が1μm以下であ
ることをいう。この最大幅の平均が1μmを越えると、
強化材炭素繊維とマトリックス炭素との界面や、マトリ
ックス炭素内に構造欠陥が発生し易くなる。また、「及
び/又は」とは、両組織がそれぞれ単独で存在する状態
と、両組織が混在する状態のいずれかであることを表
す。 2)従来のマトリックス炭素の組織配向 ピッチをマトリックス炭素前駆体として使用して得られ
る炭素繊維強化炭素複合材料は、その製造熱処理過程で
熱収縮する。この挙動は、主にマトリックス炭素前駆体
としてのピッチの熱分解重縮合によるものである。
【0041】マトリックス炭素の組織配向は、炭素繊維
軸方向に、かつ炭素繊維を取り囲むように発達する。こ
れは、縮合多環芳香族平面の積層構造(いわゆる黒鉛構
造)に由来するものであり、この積層構造は熱処理によ
り変化する。具体的には、縮合多環芳香族平面積層構造
の面外方向(積層方向)に著しく収縮し、面内方向では
若干の収縮を示すものの強化材炭素繊維の軸方向と同様
な熱膨張を示すことが知られている。一方向強化材料の
場合には、マトリックスの配向に影響を及ぼす炭素繊維
の配列が一方向に限定されるため、発生する亀裂・剥離
の問題は少ない。しかしながら、炭素繊維の配列方向
が、2方向以上(例えば、炭素繊維一方向配列シートの
0°/90°の交互積層型複合材料等)の場合には、マ
トリックス炭素組織の配向性及びそれに伴う熱膨張収縮
挙動により層間剥離を生じ易くなる。
【0042】3)本発明のマトリックス炭素の組織配向 これに対して、本発明の光学的等方性ピッチでは、得ら
れるピッチ炭素の光学的組織が微細モザイク及び/又は
光学的等方性であるため、従来法によるピッチをマトリ
ックス炭素前駆体とする炭素繊維強化炭素複合材料で生
じやすい積層型複合材料の層間剥離の発生を減少させる
ことができる。
【0043】(ii)本発明の炭素繊維強化炭素複合材料の
特徴 1)本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、熱処理温度
を2500℃としてもマトリックス炭素の光学的組織を
異方性領域が微細モザイク及び/又は光学的等方性を示
すものである。しかしながら、2800℃以上で熱処理
すると、マトリックス炭素組織は極端な変化を示してグ
ラファイト質(異方性)に変化する。これは、難黒鉛化
性炭素原料であるフェノール樹脂やフラン樹脂等の熱硬
化性樹脂をマトリックスとする炭素繊維強化炭素複合材
料で一般的に認められる熱応力黒鉛化現象と同様な挙動
であると考えられる。 2)機械的特性の優れた高強度高弾性率の炭素繊維強化
炭素複合材料を得るためには、複合材料の熱処理温度を
1500〜2700℃、好ましくは1800〜2500
℃とすることが良い。
【0044】3)ただし、本発明の炭素繊維強化炭素複
合材料のマトリックス炭素組織は、2800℃以上の熱
処理で極端な異方性を示すグラファイト質になっても、
熱処理温度を同じくした従来ピッチ或いは、難黒鉛化性
炭素原料をマトリックス炭素前駆体として得られる炭素
繊維強化炭素複合材料の機械特性よりも優れたものとな
る。なお、本発明のニトロ化ピッチは従来のピッチと比
較し、理由は不明であるが、熱応力による黒鉛化が起き
難いという特性が見られる。
【0045】4)本発明の炭素繊維強化炭素複合材料
は、実施例に示すように、引張強度、引張弾性率、曲げ
強度、圧縮強度、及び層間剪断強度等の各種機械的力学
特性に優れた高強度高弾性率炭素繊維強化炭素複合材料
である点に特徴を有する。ちなみに、強化炭素繊維の配
列方向が、2方向以上で、熱処理温度を1500〜27
00℃とした場合、本発明により得られる炭素繊維強化
炭素複合材料完成品は、引張強度が450MPa以上、
引張弾性率が150GPa以上、曲げ強度が340MP
a以上、圧縮強度が170MPa以上、層間剪断強度が
10MPa以上の優れた特性を示す。
【0046】
【実施例】本発明を以下の実施例により具体的に説明す
るが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
なお、実施例に採用した実験値は以下の方法により測定
されたものである。 軟化点:高化式フロー・テスター(島津製作所製)
を用いて測定した。 800℃残炭率:熱重量分析(TG)法により測定
した。 嵩密度:JIS R7222に準拠して測定した。 開気孔率:JIS R2205に準拠して測定し
た。 引張強度、弾性率、曲げ強度、圧縮強度、層間剪断
強度は夫々ASTMD3039、ASTM D303
9、ASTM D790、ASTM D695、AST
M D2344に準拠して測定した。 マトリックス炭素組織:偏光顕微鏡による視野観
察。
【0047】(実施例1)石油精製における流動接触分
解(FCC)残渣油を濾過処理して、ピッチ原料重質油
とした(数平均分子量Mn=170、重量平均分子量M
w=206)。該ピッチ原料重質油100重量部を耐熱
ガラス製セパラブルフラスコに入れ、羽根付き攪拌棒で
攪拌(50rpm)しながら液温60℃に加熱した。そ
こに濃硝酸30重量部を約30分間かけて滴下混合し、
更に1時間攪拌保持した。濃硝酸の添加による発熱で、
この攪拌保持中に液温は90℃まで上昇した。液温が低
下した後、蒸留水を添加し、攪拌をやめ、静置して水層
と油層とに分離し、水層を除去した。引き続き、窒素ガ
スを毎分20cc吹き込みながら反応器系内を100℃
に昇温し、1時間加熱保持し水分を除去した。得られた
反応生成物の収率(ニトロ化収率)は、張り込んだ原料
重質油に対し116wt%となった。
【0048】得られた反応生成物を180℃、3tor
rで減圧蒸留処理して、この条件で留出する軽質油分を
約20wt%カットし、ピッチとした。このピッチの赤
外線吸収分光分析を行ったところ、1358cm-1と1
525cm-1にニトロ基の対称・非対称の伸縮振動によ
る強い吸収線を認めることができた。得られたニトロ化
ピッチの窒素ガス雰囲気中800℃までの熱重量(T
G)分析を行い、該ピッチの炭素化収率を計測したとこ
ろ58wt%の炭素残分が計測された。このTG残分で
あるピッチ炭素の偏光顕微鏡による組織観察では、当該
ピッチ炭素が光学的等方性組織と光学的異方性微細モザ
イク組織とが混在しているものであることが確認され
た。
【0049】このようにして得られたピッチをテトラヒ
ドロフラン(THF)に溶解分散させた。溶解分散濃度
は約45wt%であった。このようにして調製したピッ
チ/THF溶解分散液をマトリックス炭素前駆体とした
炭素繊維強化炭素複合材料を作製した。ピッチ系高弾性
率炭素繊維(商品名:カーボニックHM80(株)ペトカ
製、引張強度:3340MPa、引張弾性率:790G
Pa、繊維直径:10μm、ストランド構成フィラメン
ト数:1,000本)を縦糸(36本/25mm)に、ナ
イロン(30デニール)を横糸(10本/25mm)に
した平織りを構成し、高弾性率炭素繊維束を一方向に配
列したシート織物(230g/m2 )を強化材に使用し
た。
【0050】この炭素繊維一方向配列シート織物に、上
記調製のピッチ/THF溶解分散液を含浸した後、室温
にて溶媒を揮発させ、プリプレグシートを作製した。T
HFを完全に揮発させることは好ましくなく、若干量残
存させた方が、後の積層材を構成する上では好適であっ
た。作製されたプリプレグシートを20cm×20cm
に裁断し、炭素繊維一方向配列シート(14枚)を0°
/90°交互積層し、ホットプレス金型に入れ、窒素ガ
ス雰囲気下、室温〜600℃の温度、35〜45トンの
荷重をかけて成形炭化した。常温まで冷却後、金型から
取り出し、窒素ガス流中、常温〜1400℃まで毎分
2.5℃で昇温し1時間保持した。常温まで冷却し、当
該成形・炭化処理物の嵩密度を計測したところ約1.6
g/ccであった。
【0051】次に、上記ピッチ/THF系のマトリック
ス炭素前駆体を含浸し、風乾後、窒素気流中で炭素化す
る「含浸/炭素化」の一連の操作を更に2回繰り返し
た。このようにして緻密化した処理物をアルゴンガス雰
囲気中で、2450℃まで(1400℃まで毎分5℃、
1400℃以上毎分2.5℃)で昇温し2時間保持し
た。常温まで炉冷後、当該材料を取り出し、嵩密度、気
孔率、引張強度、弾性率、曲げ強度、圧縮強度、層間剪
断強度、及び偏光顕微鏡によるマトリックス炭素組織観
察を行った。炭素繊維の体積含有率は、炭素繊維シート
厚み、積層材成形厚み、及び炭素繊維の密度等の関係か
ら計算により求めたところ約63%であった。これらの
概要及び結果を表1、表2に示した。
【0052】(実施例2)実施例1と同じピッチ原料重
質油100重量部に、濃硝酸添加割合のみを変え、以下
実施例1と同様にしてマトリックス炭素前駆体ピッチを
5種作製した。結果を実施例1と合わせて表1に示す。
これらのマトリックス炭素前駆体ピッチのうち、濃硝酸
添加割合が25wt%のもの(試料番号2−1)を使っ
て実施例1と同様に作製した炭素繊維強化炭素複合材料
完成品の最終熱処理温度を1400〜2800℃と変化
させ、完成品の物性の評価を行った。実施例1と同様
に、概要及び結果を表1、表2に示した。
【0053】(実施例3)実施例1記載のピッチ原料重
質油を、減圧蒸留し軽質油分を80wt%カットし、こ
れを改めてピッチ原料重質油とした。この重質油(Mn
=270、Mw=330)を液温を90℃に加熱し、以
後実施例1に記載の通りの処理を行い、炭素繊維強化炭
素複合材料完成品を作製した。該複合材料の熱処理温度
を1500〜2800℃と変化させ6種の完成品の物性
評価を行った。マトリックス前駆体ピッチの性状を表1
に、得られた炭素繊維強化炭素複合材料の物性等を表3
に示した。
【0054】(実施例4)実施例3記載のピッチ原料重
質油(Mn=270、Mw=330)に、8規定硝酸を
ニトロ化試薬として適用させた。90℃に加熱したピッ
チ系重質油100重量部に対し、8規定硝酸を30重量
部滴下混合しニトロ化させたもの、並びに8規定硝酸6
0重量部滴下混合しニトロ化させたものを以下実施例1
と同様にして炭素繊維強化炭素複合材料を作製し、物性
の評価も行った。マトリックス前駆体ピッチの性状を表
1に、得られた炭素繊維強化炭素複合材料の物性等を表
4に示した。
【0055】(比較例1)実施例3記載のピッチ原料重
質油(Mn=270、Mw=330)に空気を吹き込
み、攪拌しながら280〜360℃の温度に加熱し、1
0時間加熱攪拌保持した。更に3Torrの減圧下、3
80℃で軽質留分を除去し、ピッチ状物を得た。該ピッ
チ状物は光学的に等方性なピッチであり、軟化点150
℃、800℃TG残分による炭素化収率は52wt%で
あった。この800℃ピッチ炭素の偏光顕微鏡による光
学的組織は、バルクメソフェーズ由来の「流れ」構造を
形成するものであった。この性状を参考として表1に並
記した。実施例1記載の方法に従い、炭素繊維強化炭素
複合材料を作製し、最終熱処理温度を1500〜260
0℃まで変えて完成品の物性評価を行った。この結果を
表4に示した。
【0056】(実施例5)実施例1記載の方法に従い、
引張弾性率205GPaのピッチ系炭素繊維(商品名:
カーボニックHM20(株)ペトカ製、引張強度198
0MPa、繊維直径10μm)を使った炭素繊維一方向
配列シート織物を作製し、これを強化材として炭素繊維
強化炭素複合材料を得た。高弾性率炭素繊維を使った実
施例1〜3で得られる炭素繊維強化炭素複合材料と比べ
て強度的には劣るものの、比較例1記載のマトリックス
炭素前駆体を使用した炭素繊維強化炭素複合材料と比較
して機械的特性は優れたものとなった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【発明の効果】以上の実施例及び比較例から、本発明で
は、マトリックス炭素組織が光学的等方性組織から光学
的異方性領域が微細モザイク組織である炭素繊維強化炭
素複合材料が得られ、従来ピッチをマトリックス炭素前
駆体とした、光学的組織が全面異方性の流れ組織を示す
炭素繊維強化炭素複合材料と比べて、各種力学特性が優
れた高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材料が提供
される。しかも、それが従来法によるよりも成形物の炭
化に要する時間を短縮し、かつ含浸処理回数を減少し
て、短時間で経済的にかつ好適に成形された状態で容易
に提供される。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ピッチ原料重質油をニトロ化して得られ
    た光学的等方性ピッチを、マトリックス炭素前駆体とし
    て炭素繊維或いは炭素繊維構造体に含浸し、炭化、必要
    に応じ黒鉛化することを特徴とする、高強度高弾性率の
    炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法。
  2. 【請求項2】 光学的等方性ピッチを炭素繊維構造体に
    含浸するに際し、予め有機極性溶媒に溶解分散させるこ
    とを特徴とする、請求項1記載の炭素繊維強化炭素複合
    材料の製造方法。
  3. 【請求項3】 ピッチ原料重質油が、石油系或いは石炭
    系の重質油であることを特徴とする、請求項1又は2記
    載の炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法。
  4. 【請求項4】 ピッチ原料重質油のニトロ化を、ニトロ
    化試薬により行うことを特徴とする、請求項1又は2記
    載の炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法。
  5. 【請求項5】 ピッチ原料重質油のニトロ化を、ピッチ
    原料重質油100重量部に対してニトロ化試薬を濃硝酸
    換算で10〜40重量部添加して行うことを特徴とす
    る、請求項1又は2記載の炭素繊維強化炭素複合材料の
    製造方法。
  6. 【請求項6】 マトリックス炭素の光学的組織が、等方
    性組織及び/又は異方性領域が微細モザイク組織である
    ことを特徴とする、請求項1又は2記載の炭素繊維強化
    炭素複合材料の製造方法。
  7. 【請求項7】 請求項1〜6のいずれかに記載の方法に
    より得られる、強化繊維の配列方向が2方向以上で、か
    つ、引張強度450MPa以上、引張弾性率150GP
    a以上、曲げ強度340MPa以上、圧縮強度170M
    Pa以上、層間剪断強度が10MPa以上であることを
    特徴とする、高強度高弾性率の炭素繊維強化炭素複合材
    料。
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Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2004277192A (ja) * 2003-03-13 2004-10-07 Toray Ind Inc 炭素繊維強化炭素複合材料用炭素繊維およびその製造方法

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