JPH11277160A - プレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス - Google Patents

プレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス

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JPH11277160A
JPH11277160A JP10100081A JP10008198A JPH11277160A JP H11277160 A JPH11277160 A JP H11277160A JP 10100081 A JP10100081 A JP 10100081A JP 10008198 A JP10008198 A JP 10008198A JP H11277160 A JPH11277160 A JP H11277160A
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die
diamond
press
coated
diamond film
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JP10100081A
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English (en)
Inventor
Masao Murakawa
正夫 村川
Sadao Takeuchi
貞雄 竹内
Kazunori Nakatake
万能 中武
Manabu Yamashita
学 山下
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Asahi Seiki Manufacturing Co Ltd
Original Assignee
Asahi Seiki Manufacturing Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 冷間圧延鋼板等をプレス金型により絞り加工
する場合であっても、ダイス基体のダイス穴内壁面に被
覆したダイヤモンド皮膜が容易に剥離、破壊することが
なく、寿命の長いプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス
を提供すること。 【解決手段】 超硬合金からなるダイス基体10、30
の中央にはダイス穴12、32を設け、ダイス穴12、
32には、被加工材を絞り込むための上テーパ部14、
36と、ダイス軸心と平行な成形ストレート部16、3
8とを設けると共に、必要に応じてダイス穴32上端に
は開口ストレート部34を設け、ダイス穴12、32内
面をエッチング処理した後、ダイス穴12、32の温度
を900℃以上1100℃以下の温度に加熱した状態
で、ダイス穴12、32内壁面にダイヤモンド膜22、
44を被覆し、徐冷することによりプレス用ダイヤモン
ド被覆絞りダイス1、2を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ダイヤモンド被覆
絞りダイスに関し、さらに詳しくは、順送型プレス、ト
ランスファプレス等において絞り加工を行う際に用いる
プレス用絞りダイスに好適なダイヤモンド被覆絞りダイ
スに関するものである。
【0002】
【従来の技術】順送型プレス、トランスファプレス等で
行われる絞り加工は、板状のブランクをダイスとポンチ
を用いて底付きの容器に加工する方法であり、材料が周
辺からダイス穴に絞り込まれる際に、ダイスと被加工材
との間に大きな摩擦力が発生する。そのため、絞り加工
用のダイス(以下、単に「絞りダイス」という)には、
通常、耐摩耗性の高いダイス鋼、超硬合金等が使用され
ている。
【0003】しかし、耐摩耗性の高い超硬合金等を用い
た場合であっても、成形個数が数十万個を越えると製品
表面に条痕が入るため、数十万個成形する毎に絞りダイ
スのダイス穴内壁面をラッピングする作業が不可欠であ
るという問題があった。この問題を解決するには、絞り
ダイスのダイス穴内壁面に基材である超硬合金より硬い
物質、例えば、ダイヤモンド膜を被覆して、絞りダイス
の耐摩耗性を高めることが有効と考えられるが、超硬合
金をダイス基体とし、そのダイス穴内壁面にダイヤモン
ド膜を厚く被覆したプレス用絞りダイスはまだ知られて
いない。
【0004】そこで、これに類似する技術として、プレ
ス用ダイスの技術分野ではないが、特開昭64−622
13号公報には、ダイヤモンドとの密着力を高めるため
に、超硬合金からなる基材の表面にタングステン(W)
等からなる厚さ0.5μm〜3μmの皮膜を形成し、基
材を700℃に加熱した状態で、気相合成法により基材
上に形成した前記皮膜の上に厚さ2〜50μmのダイヤ
モンド被膜を成膜したダイヤモンド被覆線引きダイスが
開示されている。
【0005】また、やはりプレス用ダイスと異なる技術
分野として、特開平3−114610号公報には、ダイ
ヤモンドの黒鉛化を阻止するために、超硬合金からなる
基材の表面からコバルト(Co)を酸洗除去し、基材を
700℃〜800℃に加熱した状態で、CVD法により
基材上に厚さ50〜150μmのダイヤモンド被膜を成
膜した線引きダイスが開示されている。
【0006】一方、プレス用ダイスの技術分野では、例
えば、特開平8−90092号公報には、ダイヤモンド
被膜ではないが、超硬合金等からなる基材表面に厚さ
0.5〜5μmのダイヤモンドライクカーボン膜を被覆
したアルミニウム板の深絞りに用いられる無潤滑絞り金
型が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、線材等
の抽伸用の線引きダイスは、通常、無垢の線材を元の外
径寸法よりも小さな所定の寸法に成形するためのダイス
であり、線材は一定方向に連続的に流れるものである。
そのため、線引きダイスの受ける圧力も連続し、かつ一
定方向である。
【0008】これに対し、プレス成形用の絞りダイス
は、板状のブランクまたは所定の外径を有する有底筒状
の材料から、それより小さな外径を有する底付き容器に
成形するためのダイスであり、外径を小さくするという
点では線引きダイスと同様であるが、素材は、パンチの
一方向の運動によってダイス内に絞り込まれ、逆方向の
運動によってダイス外に排出されるものである。そのた
め、絞りダイスは、ストローク数に対応した絞り込み時
の正応力と、戻し時(ノックアウト)の比較的小さな負
応力の繰り返し衝撃応力を受けることになる。
【0009】そのため、特開昭64−62213号公報
及び特開平3−114610号公報に開示された線引き
ダイスと同様の方法を用い、ダイス穴内壁面にダイヤモ
ンドを被覆して絞りダイスとした場合には、絞り加工中
に発生する繰り返しの正・負応力によりダイヤモンド皮
膜の剥離、破壊が容易に生じ、ダイスの寿命が短いとい
う問題があった。
【0010】また、絞りダイスであっても、特開平8−
90092号公報に開示されているように、ダイス基体
にダイヤモンドライクカーボン膜を被覆する方法では、
膜厚を厚くするとダイヤモンドライクカーボン膜が剥離
するために、膜厚は5μm以下に限定される。そのた
め、これを素材が冷間圧延鋼板の絞り加工に用いた場合
には、わずか数回の絞り加工で被膜の剥離、破壊が生
じ、生産に使用できないという問題があった。
【0011】本発明が解決しようとする課題は、冷間圧
延鋼板等、比較的硬い材料をプレス金型により絞り加工
する場合であっても、ダイス穴内壁面に被覆したダイヤ
モンド皮膜が容易に剥離、破壊することのない、長寿命
のプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイスを提供すること
にある。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、本発明に係るプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス
は、筒状雌型のダイスと雄型のパンチで被加工材に絞り
加工を行う際に用いるものであって、超硬合金を基材と
するダイス基体の成形ストレート部を含むダイス穴内壁
面にダイヤモンド膜を被覆してなることを要旨とするも
のである。
【0013】ここで、前記ダイス基体のダイス穴内壁面
には、被加工材を絞り込むためのダイス軸心と平行な筒
型をした成形ストレート部を有することが好ましい。成
形ストレート部がないと、ダイス基体によるダイヤモン
ド膜の保持力が弱くなり、寿命の長い絞りダイスが得ら
れない。
【0014】また、前記ダイヤモンド膜の被膜厚さは、
少なくとも前記成形ストレート部で50μm以上、30
0μm以下であることが好ましい。ダイヤモンド膜の厚
さが50μm未満では、成膜過程の冷却中に発生する熱
応力や、絞り加工中に発生する引張応力により、ダイヤ
モンド膜が破壊する場合があるので好ましくない。ま
た、ダイヤモンド膜の厚さを300μmより厚くして
も、絞りダイスの長寿命化にはあまり寄与しないので、
実益がない。なお、前記ダイヤモンド膜は、前記ダイス
基体のダイス穴内壁面にCVD法により形成するとよ
い。
【0015】また、ダイス基体としては、高い硬度と剛
性を有する超硬合金が好適である。中でも、Co含有量
が約6%以下であるJIS B4053で規定されるK
10相当の組成を有する超硬合金は、高い硬度と剛性を
有することに加え、ダイヤモンド膜に対する高い膜付着
力が得られるので、絞りダイス用のダイス基体として特
に優れている。
【0016】また、前記ダイス基体のダイス穴内壁面
は、前記ダイス穴内壁面の成形ストレート部の絞り込み
入口端より漸次拡径となるテーパ部が延設され、さらに
該テーパ部の最大径部よりダイス端面まではダイス軸心
と平行な内壁面を有する開口ストレート部が延設されて
いることが好ましい。開口ストレート部を設けると、開
口ストレート部と成形ストレート部の双方でダイヤモン
ド膜が強固に保持されることになるので、絞りダイスの
寿命をさらに長くすることが可能となる。さらに、前記
プレス加工を行うプレスは、順送型プレスもしくはトラ
ンスファプレスが好ましい。
【0017】上記構成を有する本発明に係るダイヤモン
ド被覆絞りダイスは、超硬合金からなるダイス基体のダ
イス穴内壁面の温度を高温に保持した状態で、ダイス穴
内壁面にダイヤモンド膜を厚く成膜し、室温まで徐冷す
ることにより得られるものである。超硬合金の熱膨張係
数は、ダイヤモンドの熱膨張係数より大きいために、成
膜後の冷却過程において、ダイヤモンド膜がダイス基体
により焼きばめされた状態となり、ダイヤモンド膜中に
熱膨張係数差に起因する圧縮応力が発生する。
【0018】ダイス穴には、ダイス基体の軸心と平行な
成形ストレート部が設けられているので、成膜過程の冷
却時に発生する熱応力は、成形ストレート部で最大とな
り、この熱応力によりダイヤモンド膜がダイス基体にし
っかりと保持される。しかも、ダイヤモンド膜の厚さを
所定の範囲内としているので、熱応力によりダイヤモン
ド膜が破損することもない。
【0019】さらに、このようなダイスを絞り加工に用
いた場合には、テーパ部により被加工材が成形ストレー
ト部に滑らかに絞り込まれると共に、絞り加工の際にダ
イヤモンド膜中に発生する引張応力と、成膜後の冷却過
程で発生した圧縮応力とが相殺されるので、絞り加工中
に生ずるダイヤモンド膜の弾性変形が小さくなる。これ
により、比較的大きな繰り返し衝撃応力が発生する絞り
加工を行っても、ダイヤモンド膜が剥離、破壊すること
はなく、ダイヤモンド被覆絞りダイスを長寿命化するこ
とが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態につ
いて図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)
は、本発明の第1の実施の形態に係るプレス用ダイヤモ
ンド被覆絞りダイス1(以下、単に「ダイス1」とい
う)の断面図を示したものである。
【0021】図示されるように、ダイス1は、超硬合金
からなるダイス基体10の中央部に被加工材(図示せ
ず)を絞り加工するダイス穴12が形成されている。ま
た、ダイス穴12の内壁面には、ダイヤモンド膜22が
成膜されている(ダイヤモンド膜を誇張して示す。)。
【0022】ダイス基体10に設けられたダイス穴12
は、被加工材を絞り込むためのダイス軸心と平行な絞り
成形面である成形ストレート部16のダイス軸方向両端
縁より、ダイス軸外方向に向けて漸次拡径となる上テー
パ部14と、下テーパ部18からなっている。上テーパ
部14は、被加工材がインサートされる側に位置する。
【0023】上テーパ部14は、成形ストレート部16
からダイス基体10の上面10aに向かって60゜の角
度で広がる円錐状のテーパである。また、成形ストレー
ト部16は、直径4.2mm、長さ3mmの円筒形にな
っており、成形ストレート部16と上テーパ部14と
は、1Rのアール面20aで滑らかに繋がっている。ま
た、下テーパ部18は、成形ストレート部16からダイ
ス基体10の下面10bに向かって30゜の角度で広が
る円錐状のテーパであり、成形ストレート部16と下テ
ーパ部18とは、0.5Rのアール面20bで滑らかに
繋がっている。
【0024】また、ダイヤモンド膜22は、成形ストレ
ート部16において、膜厚が50μm〜300μmとな
るように成膜されている。上テーパ部14及び下テーパ
部18では、成形ストレート部16から遠ざかるにつれ
て、その膜厚は漸次薄くなっている。
【0025】ここで、ダイス基体10は、高い硬度と剛
性を有する材料であることを要する。硬度及び剛性が低
い材料では、絞り加工を行った際にダイス基体10の弾
性変形や塑性変形が大きくなり、ダイス基体10の中央
に設けられるダイス穴12内壁面に被覆したダイヤモン
ド膜が剥離したり、破損する場合があるからである。
【0026】ダイス基体10として用いられる超硬合金
は、周知のようにWC粒子をCoバインダーで結合した
合金であり、Co量が少なくなるほど、硬度及び剛性が
増加する。また、Co等の鉄系金属は、ダイヤモンドの
黒鉛化を助長するので、Co含有量が少なくなるほど、
ダイス基体10とダイヤモンド膜22との膜付着力が増
加する。これらを勘案すると、絞り加工用のダイス基体
10としては、Co含有量が約6%以下であるJIS
B4053で規定されるK10相当の組成を有する超硬
合金が特に好適である。
【0027】また、アール面20aは、絞り加工の際
に、上テーパ部14から成形ストレート部16にワーク
(図示せず)を滑り込ませるためのものであり、アール
面20a、上テーパ部14及び成形ストレート部16
は、絞り加工時に大きな繰り返し衝撃荷重を受け、破壊
しやすくなっている。従って、アール面20aの大きさ
及び上テーパ部14のテーパ角度は、ダイス寿命に大き
く影響するので、寸法精度、ワークの材質、絞り率等を
考慮して、最適な値を設定する必要がある。
【0028】これに対し、アール面20bは、成形スト
レート部16と下テーパ部18とを滑らかに繋ぐだけで
あり、ダイス寿命には影響しないので、アール面20b
及び下テーパ部18のテーパ角度は、加工の容易性等を
考慮して任意に設定すればよい。
【0029】次に、図1(a)に示すダイス基体10の
ダイス穴12内壁面にダイヤモンド膜22を被覆するた
めの装置について説明する。図2は、熱フィラメント方
式によるダイヤモンド合成装置の概略構成図であり、ダ
イヤモンド合成装置50は、反応容器52と、水素ガス
供給源58と、バブラ60とを備えている。
【0030】反応容器52は、上部に観察窓52aを備
え、反応容器52内部の状態を目視により観察できるよ
うになっている。また、下部には、試料台52bを備
え、ダイヤモンド膜22を被覆するダイス基体10を載
置できるようになっている。さらに、反応容器52内に
はフィラメント54が備えられ、図示しない制御装置を
介してフィラメント54の発熱量を調整できるようにな
っている。
【0031】反応容器52は、排気口56aを介して図
示しない真空ポンプに接続されており、反応容器52内
を所定の真空度に調整できるようになっている。また、
反応容器52に設けられた水素ガス導入口56bは、水
素ガス導入管62aを介して水素ガス供給源58に接続
されており、元弁64a及び電磁弁64bにより、反応
容器52内に導入する水素量を調節できるようになって
いる。
【0032】さらに、水素ガス導入管62aは、途中で
分岐し、水素ガスの一部を分岐管62bを介してバブラ
60に送るようになっている。また、バブラ60は、原
料ガス導入管62cを介して反応容器52に設けられた
原料ガス導入口56cと接続されており、原料ガス導入
管62cに設けられた電磁弁64cにより流量を調整し
ながら、水素ガスをキャリアとして原料ガスを反応容器
52内に送れるようになっている。
【0033】次に、図2に示すダイヤモンド合成装置5
0を用いて、ダイス基体10のダイス穴12内壁面にダ
イヤモンド膜22を成膜する方法について説明する。ま
ず、超硬合金からなるダイス基体10のダイス穴12に
形成された成形ストレート部16の内径を、仕上げ寸法
より100〜600μm大きめに製作する。
【0034】また、この時、ダイヤモンド膜22を成膜
する前に、ダイス穴12内壁面のエッチング処理を行う
とよい。エッチング処理を行うと、ダイス穴12内壁面
にミクロな凹凸が形成されて密着面積が増大し、ダイス
穴12内壁面とダイヤモンド膜22との膜付着力を増す
ことができるためである。具体的には、ダイス基体10
の酸洗いを行い、ダイス穴12内壁面からCoを溶出す
ればよい。
【0035】エッチング処理後、ダイス基体10を試料
台52b上に載置し、ダイス穴12内にフィラメント5
4を通す。次いで、図示しない真空ポンプを用いて反応
容器52内を排気した後、元弁64a及び電磁弁64
b、64cを開き、所定の真空度となるように、水素ガ
ス導入口56b及び原料ガス導入口56cから水素ガス
と原料ガスとを反応容器52内に導入する。
【0036】次いで、フィラメント54に通電し、ダイ
ス基体10のダイス穴12内壁面が900℃〜1100
℃に加熱されるようにすると、原料ガスが分解して、ダ
イス穴12内壁面にダイヤモンド膜22がゆっくりと厚
く生成する。そして、所定時間が経過し、ダイヤモンド
膜22が所定の厚さ(70μm〜320μm)に成膜さ
れたところでフィラメント54への通電を停止し、ダイ
ス基体10を徐冷する。
【0037】そして、ダイス穴12内壁面に形成された
ダイヤモンド膜22の内、少なくともワーク(図示せ
ず)と接触し、絞り加工作用を行う上テーパ部14の下
方部分と、絞り径を定める成形ストレート部16につい
て、ワークが所定の絞り径となるようにラッピング加工
を施せば、ダイス1が完成する。
【0038】なお、原料ガスについては、一般にエタノ
ールが用いられるが、メタン、一酸化炭素等を用いても
よく、特に限定されるものではない。また、ダイス基体
10は、ダイス穴12の内径が決まっており、従って、
フィラメント54とダイス基体10との間隔も決まって
いるので、ダイス穴12内壁面の温度の調整は、フィラ
メント54温度、フィラメント54の線径、ピッチ、長
さを適宜調整することにより行えばよい。
【0039】以上のような工程を経て、寿命の長いダイ
ス1が得られるのは、以下の理由による。すなわち、超
硬合金の熱膨張係数は、5〜6x10-6/℃であるのに
対し、ダイヤモンドの熱膨張係数は、2〜3x10-6
℃であり、超硬合金の約半分である。そのため、ダイヤ
モンド膜22を成膜した後の冷却過程において、ダイヤ
モンド膜22中には、超硬合金とダイヤモンドの熱膨張
係数差に応じた圧縮の熱応力が発生する。
【0040】ここで、ダイス基体10とダイヤモンド膜
22の界面に発生した熱応力の内、垂直応力成分のみが
ダイヤモンド膜22の保持に寄与するが、ダイス穴12
に設けられた成形ストレート部16は、ダイス基体10
の軸心に平行になっているので、成形ストレート部16
に発生する熱応力は、垂直応力成分のみとなる。その結
果、ダイヤモンド膜22を保持する力は、成形ストレー
ト部16で最も高くなり、ダイス基体10によりダイヤ
モンド膜22がしっかりと保持される。
【0041】また、絞り加工の際には、ダイヤモンド膜
22中に引張応力が発生するが、この引張応力は、冷却
過程においてダイヤモンド膜22中に発生した圧縮の熱
応力により相殺される。その結果、熱応力がない場合に
比べて、絞り加工の際に生ずるダイヤモンド膜22の弾
性変形が小さくなるので、比較的大きな繰り返し衝撃応
力が発生する絞り加工を連続して行っても、ダイヤモン
ド膜22が破損したり、剥離しにくくなり、ダイス1の
長寿命化が達成される。
【0042】さらに、成形ストレート部16は、アール
面20aを介して上テーパ部14に繋がれているが、上
テーパ部14を設けることにより、ワークが成形ストレ
ート部16に滑らかに絞り込まれ、絞り加工の際にダイ
ス基体10とダイヤモンド膜22の界面に発生するせん
断応力が低減されるので、この点もダイス1の長寿命化
に寄与している。
【0043】なお、ダイヤモンド膜22に発生する熱応
力は、成膜時の温度に依存し、成膜温度が高いほど熱応
力は大きくなる。そのため、ダイヤモンド膜22を破損
させることなくダイス基体10のダイス穴12内壁面に
ダイヤモンド膜22を被覆するには、成膜時のダイス穴
12内壁面、特に成形ストレート部16内壁面の温度を
適正化する必要がある。また、絞り加工中に発生する引
張応力を相殺し、ダイヤモンド膜22の弾性変形を抑制
するには、ダイヤモンド膜22の膜厚をある程度厚く
し、ダイヤモンド膜22で支えることができる総荷重を
大きくする必要がある。
【0044】そのためには、ダイヤモンド膜22の膜厚
は、成形ストレート部16において、50μm以上とす
る必要がある。膜厚が50μm未満では、熱応力がダイ
ヤモンド膜22の破壊強度を越え、冷却中にダイヤモン
ド膜22が破壊するおそれがあるからである。また、破
損しない場合であっても、絞り加工を行ったときにダイ
ヤモンド膜22が大きく弾性変形し、容易に剥離、破壊
する場合があるからである。但し、膜厚を300μmよ
り厚くしても、長寿命化にはあまり寄与せず、むしろ高
コストとなるので、膜厚は300μm以下が好ましい。
【0045】また、成膜時の成形ストレート部16内壁
面の温度は、900℃以上1100℃以下が好ましい。
成形ストレート部16内壁面の温度が900℃未満で
は、ダイヤモンド膜22中に発生する熱応力が小さくな
り、絞り加工中にダイヤモンド膜22が大きく弾性変形
し、剥離、破壊が生ずる場合があるからである。また、
成形ストレート部16内壁面の温度が1100℃を超え
ると、熱応力がダイヤモンド膜22の破壊強度を超え、
破壊するおそれがあるので好ましくない。
【0046】さらに、上述のように比較的高い温度でダ
イヤモンド膜22を成膜した後にダイス基体10を急冷
すると、ダイヤモンド膜22中に不均一、かつ、大きな
熱応力が発生し、ダイヤモンド膜22が破壊する場合が
あるので、成膜後は徐冷することが必要である。
【0047】次に、本発明の第2の実施の形態につい
て、図面を参照しながら説明する。図1(b)は、本発
明の第2の実施の形態に係るプレス用ダイヤモンド被覆
絞りダイス2(以下、単に「ダイス2」という)の断面
図を示したものである。ダイス基体30に設けられたダ
イス穴32は、成形ストレート部38、漸次拡径の上テ
ーパ部36、その端部からダイス軸方向にストレートな
開口ストレート部34と、第1の実施の形態と同様の下
テーパ部40とからなっている。
【0048】開口ストレート部34は、ダイス基体30
の上面30a側に設けられ、直径6mm、長さ2mmの
円筒形を呈している。また、開口ストレート部34と上
テーパ部36の境目42aは、要求される形状に応じ
て、アール面取り加工を施す。
【0049】ダイス基体30のその他の部分について
は、図1(a)に示すダイス基体10と同様であり、テ
ーパ角度60゜の上テーパ部36と直径4.2mm、長
さ3mmの成形ストレート部38とが1Rのアール面4
2bにより滑らかに繋がれ、さらに、成形ストレート部
38とテーパ角30゜の下テーパ部40とが0.5Rの
アール面42cにより滑らかに繋がれているものであ
る。
【0050】そして、ダイス基体30を、図2に示すダ
イヤモンド合成装置50を用い、上述と同様の手順に従
ってダイヤモンド合成を行うと、ダイス基体30のダイ
ス穴32内壁面にダイヤモンド膜44が厚く成膜された
ダイス2が得られる。なお、フィラメント54に近い位
置にある成形ストレート部38部分の膜厚がもっとも厚
く、開口ストレート部34、上テーパ部36及び下テー
パ部40の膜厚が薄くなる点は、図1(a)に示すダイ
ス1と同様である。
【0051】このようにして得られたダイス2は、開口
ストレート部34を備えているために、CVD法により
ダイヤモンド膜44を形成した後にダイス基体30の冷
却により径方向に収縮した時にダイス基体30の方がダ
イヤモンド被膜より収縮が大きいから、テーパ状よりも
大きな焼きばめ効果によりしっかりと付着される。ダイ
ス2は、特に、成形ストレート部38の他に、開口スト
レート部34を備えており、成形ストレート部38のみ
ならず、開口ストレート部34でもそのような焼きばめ
効果が生じ、ダイス1よりも更にしっかりとしたダイヤ
モンド膜44の締め付けがなされる。そのため、成形ス
トレート部16のみを有するダイス1よりも、ダイス寿
命をさらに長くすることが可能となる。
【0052】(実施例1)図2に示すダイヤモンド合成
装置を用いて、ダイス基体10のダイス穴12内壁面に
ダイヤモンド膜22を被覆することにより、図1(a)
に示すようなダイス1を作製した。
【0053】なお、ダイヤモンド膜22の成膜は、表1
に示すように、線径0.2mm、ピッチ1.5mm、巻
き数21回のフィラメント54を用い、フィラメント5
4の温度を2200℃とし、反応容器52内の真空圧力
が100Torrとなるように、エタノールを1.5〜
2vol%含む水素ガスを100cm3/minの速度
で導入することにより行った。この場合、合成速度は2
〜3μm/hである。
【0054】
【表1】
【0055】所定時間経過後、ダイヤモンド膜22の厚
さが約100μmとなったところで、フィラメント54
の通電を止め、ダイス基体10を反応容器52内で徐冷
した。徐冷後、ダイス基体10を反応容器52より取り
出し、上テーパ部14の下方と、成形ストレート部16
をワークが所定の絞り径となるようにラッピング加工し
た。加工後のダイヤモンド膜22の厚さは、成形ストレ
ート部16で75μmであった。
【0056】得られたダイス1について絞り加工試験を
行った。加工機には、トランスファプレス45tonを
用い、被加工材には、冷間圧延鋼板SPCE(JIS
G3141)0.4t材を用いた。また、ダイス1は、
最終絞り工程用のダイスとして用い、加工条件は、加工
速度70spm、絞り率0.89、しごき率13%と
し、加工油を被加工材に塗布しながら絞り加工を行っ
た。
【0057】ダイス1による最終絞り加工を行う前のワ
ーク46は、図3(a)に示すように、トランスファプ
レスの前工程において板状のブランクから成形された有
底のカップ状容器である。このワーク46を、図4
(a)に示すように、上パンチ72及びノックアウト7
4で挟み、ダイス1のダイス穴12に誘導する。
【0058】上パンチ72及びノックアウト74を下降
させるに伴い、上テーパ部14に沿ってワーク46が成
形ストレート部16に滑り込み、外径の絞りと板厚のし
ごきが同時に行われる。そして、予め定められたストロ
ーク分だけ上パンチ72及びノックアウト74を下降さ
せると、外径が絞り込まれたワーク47となる(図4
(b))。次いで、上パンチ72及びノックアウト74
を同時に上昇させると、ダイス1からワーク47を取り
出すことができる。
【0059】このようにして得られたワーク47は、図
3(b)に示すように、上縁にテーパ部を有する有底の
筒状容器となっているので、このワーク47の底部をピ
アシングにより打ち抜き、さらに上部のテーパ部をトリ
ミングすれば、図3(c)に示すような形状を有する最
終製品48が得られる。
【0060】ダイス1を用いて図3(a)に示すワーク
46の絞り加工を連続して行ったところ、約240万個
の生産が可能であり、この240万個を成形する間、ワ
ーク47の表面仕上がりは鏡面を有していた。ダイス鋼
や超硬工具のダイスでは、生産個数が数十万個に達する
とワーク47表面に条痕が入るために、数十万個生産す
る毎にラッピング作業が必要であったが、本発明に係る
ダイス1では、約240万個生産してもダイス穴12の
ラッピング加工は不要であり、著しく生産性が向上する
ことがわかった。
【0061】(実施例2)実施例1と同様の手順に従
い、ダイス基体30のダイス穴32内壁面にダイヤモン
ド膜44を被覆することにより、図1(b)に示すよう
なダイス2を得た。得られたダイス2を用い、実施例1
と同様の手順に従い、図3(a)に示すワーク46に絞
り加工試験を行った。
【0062】得られたダイス2は、成形個数が1000
万個を越えてもダイヤモンド膜44の剥離、破壊は認め
られず、ワーク47の表面仕上がりは鏡面を呈してい
た。本実施例のダイス2については、現在も使用中であ
るが、成形個数が1000万個を越えても使用に耐えて
おり、この間、ダイス穴32のラッピング加工は全く不
要であった。
【0063】以上、本発明の実施の形態について詳細に
説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定され
るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々
の改変が可能である。例えば、上記実施の形態では、ア
ール面20a、42bを共に1Rとしているが、ワーク
加工上、差し障りがない限り、アール面20a、42b
の曲率半径を大きくしてもよく、これによりダイス寿命
をさらに長くすることが可能となる。
【0064】また、上記実施の形態では、ダイヤモンド
被覆絞りダイスをトランスファプレスの最終絞り工程用
のダイスとして用いた例について示したが、本発明に係
るダイヤモンド被覆絞りダイスは、最終絞り工程用に限
定されるものではなく、絞り率の大きな強加工が行われ
る中間工程用の絞りダイスとしても用いることができ、
さらには、順送りプレスあるいはトランスファプレスの
みならず、単一のダイスを有する通常のプレスに用いる
絞りダイスとしても使用することができる。
【0065】また、上記実施の形態では、ダイス穴に開
口ストレート部を設けることにより、ダイヤモンド被覆
絞りダイスの耐久性がさらに向上することが明らかとな
ったが、このような構成は、当然、絞りダイスよりも負
荷が小さい線引きダイスにも応用することができ、これ
により線引きダイスの耐久性をさらに向上させることが
可能となる。
【0066】さらに、成形ストレート部の直径、長さ、
上テーパ部のテーパ角等は、上記実施の形態で用いられ
ている数値に何ら限定されるものではなく、製品寸法、
仕上げ精度、ワークの材質、絞り率等を考慮して、適宜
選択すればよく、これにより上記実施の形態と同様の効
果が得られるものである。
【0067】
【発明の効果】本発明に係るプレス用ダイヤモンド被覆
絞りダイスによれば、超硬合金を基材とするダイス基体
のダイス穴内壁面にダイヤモンド膜を被覆したので、比
較的大きな繰り返し衝撃応力が発生する絞り加工を連続
して行っても、ダイヤモンド膜が剥離したり破壊したり
することがなく、ダイス寿命が長くなるという効果があ
る。
【0068】また、前記ダイス基体のダイス穴内壁面に
は、被加工材を絞り込むためのダイス軸心と平行な成形
ストレート部を有しているので、被加工材を筒状に絞り
加工するのに適していることはもとより、ダイヤモンド
膜がダイス基体のダイス穴内壁面にしっかりと付着し、
ダイス寿命が長くなるという効果がある。
【0069】また、前記ダイヤモンド膜の被膜厚さを、
少なくとも前記成形ストレート部で50μm以上とすれ
ば、成膜後に生じる熱応力や、絞り加工の際に生じる引
張応力による被膜の剥離や破壊が抑制されるという効果
がある。
【0070】また、前記ダイス基体として、コバルト含
有率6%以下のK10相当超硬合金を用いると、ダイス
基体自身が高い硬度と剛性を有することに加え、ダイヤ
モンド膜との膜付着力を大きくすることができるので、
ダイヤモンド膜の剥離、破壊が抑制され、ダイス寿命が
長くなるという効果がある。
【0071】さらに、前記ダイス基体のダイス穴内壁面
に、前記ダイス穴内壁面の成形ストレート部の絞り込み
入口端より漸次拡径となるテーパ部を延設し、さらに該
テーパ部の最大径よりダイス端面まではダイス軸心と平
行な内壁面を有する開口ストレート部を延設すると、成
形ストレート部のみを有する場合と比べて、ダイヤモン
ド膜を保持する力が大きくなり、さらにダイス寿命が長
くなるという効果がある。
【0072】以上のように、本発明に係るプレス用ダイ
ヤモンド被覆絞りダイスは、ダイス寿命が従来のダイス
鋼あるいは超硬合金からなる絞りダイスに比較して数
倍、あるいはダイス形状によっては十倍以上に達するも
のであり、これをトランスファプレス、順送りプレス等
において絞りダイスとして用いれば、ダイスのラッピン
グ作業が不要となり、プレス加工の生産性を著しく向上
させることができるものであり、産業上、その効果の極
めて大きい発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプレス用ダイヤモンド被覆絞りダ
イスの断面図である。
【図2】熱フィラメント方式によるダイヤモンド合成装
置の概略構成図である。
【図3】図3(a)は絞り加工前のワーク、図3(b)
は絞り加工後のワーク、図3(c)は、最終製品を示す
断面図である。
【図4】ダイスによる絞り加工の過程を示す断面図であ
る。
【符号の説明】
1、2 プレス用ダイヤモンド被覆絞りダイ
ス 10、30 ダイス基体 12、32 ダイス穴 14、36 上テーパ部 16、38 成形ストレート部 22、44 ダイヤモンド膜 34 開口ストレート部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI B30B 13/00 B30B 13/00 F (72)発明者 村川 正夫 埼玉県南埼玉郡白岡町新白岡3丁目4番5 号 (72)発明者 竹内 貞雄 埼玉県浦和市元町2−1−2 元町シティ ー803 (72)発明者 中武 万能 愛知県尾張旭市旭前町新田洞5050番地の1 旭精機工業株式会社内 (72)発明者 山下 学 愛知県尾張旭市旭前町新田洞5050番地の1 旭精機工業株式会社内

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 筒状雌型のダイスと雄型のパンチで被加
    工材に絞り加工を行う際に用いるプレス用絞りダイスで
    あって、 超硬合金を基材とするダイス基体の成形ストレート部を
    含むダイス穴内壁面にダイヤモンド膜を被覆してなるこ
    とを特徴とするプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス。
  2. 【請求項2】 前記ダイヤモンド膜の被膜厚さが、少な
    くとも前記ダイス穴内壁面の成形ストレート部で50μ
    m以上、300μm以下であることを特徴とする請求項
    1に記載のプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイス。
  3. 【請求項3】 前記ダイス基体が、コバルト含有率6%
    以下のK10相当超硬合金であることを特徴とする請求
    項1又は2に記載のプレス用ダイヤモンド被覆絞りダイ
    ス。
  4. 【請求項4】 前記ダイヤモンド膜は、前記ダイス基体
    のダイス穴内壁面にCVD法により形成されていること
    を特徴とする請求項1、2又は3に記載のプレス用ダイ
    ヤモンド被覆絞りダイス。
  5. 【請求項5】 前記ダイス基体のダイス穴内壁面は、前
    記ダイス穴内壁面の成形ストレート部の絞り込み入口端
    より漸次拡径となるテーパ部が延設され、さらに該テー
    パ部の最大径部よりダイス端面まではダイス軸心と平行
    な内壁面を有する開口ストレート部が延設されているこ
    とを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のプレス
    用ダイヤモンド被覆絞りダイス。
  6. 【請求項6】 前記プレス加工を行うプレスが、順送型
    プレスもしくはトランスファプレスであることを特徴と
    する請求項1、2、3、4又は5に記載のプレス用ダイ
    ヤモンド被覆絞りダイス。
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