【発明の詳細な説明】
高い鏡像異性的純度の二官能性化合物の製造法
本発明は、鏡像異性体、特に高い光学純度の二官能性鏡像異性体に関する。
この純度は、鏡像異性体、特に、活性成分、例えば薬剤若しくは農薬成分のよ
うなキラル化合物の特異的合成における反応体、シントン若しくは中間体として
、又はそれ自体で活性化合物であるものとして、又は特殊なポリマー反応体とし
ての機能を最適に表すという点において重要且つ便利である。
更に詳細には、本発明は高い鏡像異性的純度の下式で表される二官能性化合物
の合成に関する:
上式中
であり、R1及びR2は同一であるか又は異なるものであって、水素又は脂肪族基
及び/又は脂環式基及び/又は芳香族基及び/又は複素環式炭化水素基、好まし
くは水素又はアルキルである;
X及びYは同一であるか又は異なるものであって、酸素又は硫黄である;及び
Lはσ共有単結合又はC1若しくはC2アルキル基であり、上式
(If)の化合物は、Zが下式で表される式(Id)の式(If)に対応する純
粋なキラル化合物から形成される:
上式中R2及びYは上記定義と同一であるが、R2は更にNH2、アルコキシ若し
くはアルキル化S基、又は下式で表される基であることが可能である:
上式中n=1〜100である。
更に詳細には、本発明は、少なくとも2個のヒドロキシル官能基(ジオール)
又は2個のチオール官能基(ジチオール)を含有する高い光学純度の鏡像異性体
の合成に関する。ジオールの無制限の例は、(+)(S)−1,2−プロパンジ
オール又は(−)(R)−1,2−プロパンジオールである。
高い光学純度の鏡像異性体を得るための作業は、ラセミ化合物を還元する化学
的又は酵素による方法により容易に行われる。化学的方法は、基本的にラセミ化
合物を2種の分割可能なジアステレオ異性体に転化する方法である。液相クロマ
トグラフィー又は結晶化による分割は公知である。
これらの化学的分割は厄介であり、それ故に実施するのに費用がかかる。
酵素による分割も同様であり、酵素は更に鏡像異性体に特異的で
あるという不都合が存在する。
例えば、四酸化オスミウムで触媒されるプロパンの不斉ジヒドロキシ化、及び
これによって1,2−プロパンジオールの鏡像異性体が得られることが可能とな
る(K.B.Sharpless et al.,J.O.C.,1992, 57 , 2768)ような鏡像異性的純
度が中程度である特殊な不斉化学合成も公知である。
産業的に利用しうる高い鏡像異性的純度の化合物をより都合良く得ることがで
きるのは、例えば、出発材料として上式(Id)のキラル化合物を使用し、そし
て(If)を目的として高い鏡像異性的純度の水素化された誘導体が製造される
ように還元する場合である。
定義によると、キラル化合物(Id)は安価であって、容易に入手可能であり
且つ利用可能であるものである。これらは天然に存在し、容易に抽出可能な物質
であるか、又は、例えば醗酵又は分割によって、産業用に大量に製造することが
できるその他の化合物であってよい。これらの物質(Id)は、X及びY基中の
硫黄が酸素で置換されている時には、例えば、α−,β−若しくはγ−ヒドロキ
シカルボン酸のエステル、又はケトン若しくはアルデヒド、並びにこれらの等価
体のような他の誘導体である。
還元を用いるこれらの方法の中で、水素雰囲気下での触媒的還元、並びに化学
還元剤により促進される化学量論的還元が適用されることがある。
水素雰囲気下での触媒的還元に関するかぎり、先行技術文献には、穏やかで且
つ生産的な条件において、酸、エステル、アルデヒド、ケトン、又はこれらの硫
黄類似化合物をアルコール又はチオールに還元するには多大な困難があることが
記載されている。不均一触媒として使用される触媒は、一般にラネーニッケル及
び亜クロム酸銅である。
例としては、引例とすることができるE.Bowden et al.による論文 JACS, 56
,689,1934 は、キラリティーにのみ関する論文のうちの1つであって、亜クロ
ム酸銅により促進される不均一触媒によって(+)n−ブチルラクテートが還元
される全ラセミ化を報告している(バルク中において200バール − 225
℃ − 2時間)。
触媒還元に要求される反応条件が厳しすぎるために、ヒドロキシカルボン酸、
これらのエステル、ヒドロキシケトン又はヒドロキシアルデヒドの還元により得
られる最終生成物のラセミ化又はキラリティーの減少が必然的に伴うと結論づけ
られねばならない。
更に、これらの触媒還元法の製造能力が低いことをも報告することが適当であ
る。
化学還元剤を使用いる化学量論的還元は、還元剤として水素化物の使用を基本
的に含む。
主に使用される水素化物は、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素
ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化リチウムアルミ
ニウム(LiAlH4)又は水素化ジイソブチルアルミニウム(DiBAH)である。
α−ヒドロキシカルボン酸又はそれらのエステル(乳酸/ラクテート)の純粋
な鏡像異性体の水素化物により促進される幾分純粋なジオール型の鏡像異性体:
1,2−プロパンジオールへの還元について扱った多くの科学出版物が存在する
。
例として引用することができるBarnett とKentによる論文 JCS,2743-510(19
63)には、水素化ホウ素カリウムが存在する20℃のアルコール溶媒中でのメチ
ルピルベートのメチルラクテートと1,2−プロパンジオールとの混合物への転
化が記載されている。この反応において、水素化物(水素化ホウ素)中の水素と
錯形成した金
属は基質と結合することによってこの基質が最終生成物となる。この反応によっ
て、このように形成された金属錯体(ホウ酸塩)を、まず第一に、メタノールで
稀釈すること及びHClの酸性メタノール溶液で酸性化することからなる処理に
よりに置換することが必要とされる。このようにホウ酸メチルが形成され、これ
は大気圧で蒸留される。次いで、炭酸鉛で前記溶液を中和し、濾過及び減圧下に
おいて生成物を濃縮する必要があり、これは最終的には分別蒸留又はクロロホル
ムによるエントレイメントによって抽出される。
このような方法では、高い収率を達成することができず、更に、実施するのに
厄介且つ複雑な精製及び抽出処理に長時間を要する。
MelchiorreによるChemistry and Industry,6 March 1976,218頁にジボラン
の存在中でS(+)−ラクトン酸からのS(+)−1,2−プロパンジオールの
合成が記載されている。使用された溶剤はテトラヒドロフランである。過剰量の
ジボランの除去は、水を加え、次いで、無水メタノールで洗浄することによるホ
ウ素/プロパンジオール錯体の置換によって行われ、この溶剤はエステル転移反
応及びホウ酸トリメチルの形成を生じさせる。次に溶剤が蒸発される。この稀釈
−蒸発作業はホウ素が完全に除去されるまで繰り返される。ジボランが取り扱う
のに有害な反応物であるという事実の他に、ホウ素のエステル及び1,2−プロ
パンジオールが前記溶剤に非常に可溶性であるために抽出が疑いなく困難である
という結果によって、水が必然的に収率を低下させるという事実がある。実際に
、Melchiorreによる収率は僅か75%であり、一方、得られた鏡像異
剰率は:
であり、この値は比較的低い値にとどまった。
結局、前記メタノール酸の溶解/蒸発工程は工業的に実際的でないことが指摘
されるべきである。
当該技術の形態の最後の例示として米国特許第4,945,187号を言及す
るのが適切であろう。前記特許には、L(−)−ラクチド及びD(+)−ラクチ
ドからS(+)−1,2−プロパンジオール及びR(−)−1,2−プロパンジ
オールの純粋な鏡像異性体の製造法が記載されている。この方法での還元は、ト
ルエン中において水素化ジイソブチルアルミニウム(DiBAH)により促進される
。水素化物残留分で錯体を置換することは、NaOHによる加水分解、次いで酸
性pHの水溶液中の水酸化アルミニウムを沈殿させることによって成される。次
いで、鏡像異性体は、蒸発、エタノールでの洗浄、蒸留によって回収される。
前記方法では水が依然として使用されており、これに付随する不都合を伴い、
更に実施するのに長時間を要し且つ複雑な多段階の工程から成る前記方法は産業
的に実施するのに困難である。
上記記載から、高い光学純度の鏡像異性体、即ち、95%を超える鏡像異性体
過剰率を有する、α−,β−若しくはγ−、好ましくはα−ヒドロキシカルボン
酸、例えばエステル、環状二量体ケトン若しくはアルデヒドから誘導されるジオ
ール、ジチオール又は他のモノ−OH型及びモノ−SH型の化合物を製造する方
法であって、
経済的である;
実施するのに容易である;
短時間である;
及び、高収率且つ高生産効率の産業的制約に合致する方法、が欠けていることが
導かれる。
従って、本発明の1つの目的は、上記した型の高い鏡像異性的純度を有する二
官能性化合物の製造方法を提供することであって、特に制限を加えるわけではな
いが、1,2−ジオールを対応するα−ヒドロキシ酸から誘導する方法を提供し
、前記方法においては、キラルな基質の穏やかな還元によりラセミ化を防止し、
特に、抽出を必然的に妨害する水の使用を避けると同時に目的とする純粋な鏡像
異性体の迅速且つ容易な抽出のための最適な条件を提供する。
従って、長時間且つ困難な調査及び実験の後に、非常に驚くべきことに、また
思いがけなく、水素化物で促進される化学量論的還元により高い鏡像異性的純度
の二官能性化合物の合成法が得られた:
− 反応混合物は好ましくは無水物である(有機溶剤);
− 水素化物(ホウ酸エステル)の転化生成物とで形成された複合体から目的
とする二官能性化合物を置換する工程は、好ましくは少なくとも1種の共反応体
で促進されることにより行われ、前記共反応体は:
少なくとも1個、好ましくは2個のヒドロキシル基又はチオール基により置換
されている;
標準大気圧(Patm)下において目的の二官能性化合物よりも沸点が高い;並
びに
目的とする鏡像異性体(ジ−OH,ジ−SH,モノ−OH,及びモノ−SH)
を単離することを可能にする直接蒸留を行うことが非常に賢明である。
このように本発明は高い鏡像異性的純度の下式で表される二官能性化合物の製
造法に関する:
上式中
であり、R1及びR2は同一であるか又は異なるものであって、水素又は脂肪族基
及び/又は脂環式基及び/又は芳香族基及び/又は複素環式炭化水素基、好まし
くは水素又はアルキルである;
X及びYは同一であるか又は異なるものであって、酸素又は硫黄である;及び
Lはσ共有単結合又はC1若しくはC2アルキル基であり、上式(If)の化合
物は、Zが下式で表される式(Id)の式(If)に対応する純粋なキラル化合
物から形成される:
上式中R2及びYは上記定義と同一であるが、R2は更にNH2、アルコキシ若し
くはアルキル化S基、又は下式で表される基であることが可能である:
上式中n=1〜1000、好ましくは1〜500、更に好ましくは1〜100で
あり、前記方法は、無水物混合物中において少なくと
も1種の水素化物の還元剤で促進される化合物(Id)の還元を伴うような型の
方法であって、前記方法は以下の工程を特徴とする:
a)化合物(Id)の化合物(If)への還元が有機溶媒中で行われる工程;
b)少なくとも1種の共反応体を反応混合物に加える工程であり、前記反応体
は:
少なくとも1個、好ましくは2個のXH又はYH基で置換されている;
上記工程a)から生成した中間生成物である化合物(If)を置換することが
できる;並びに
標準大気圧(Patm)下において化合物(If)よりも高い沸点を有する;
c)化合物(If)を回収するために反応混合物を直接蒸留する工程。
本発明の目的とする式(Id)の出発物質は、α−,β−又はγ−、好ましく
はα−ヒドロキシカルボン酸及び酸素化合物の硫黄類似化合物からの誘導体(エ
ステル、環状又は他の二量体、オリゴ重縮合体若しくは重縮合体)であってよい
。
出発物質が環状又は他の二量体、オリゴ重縮合体若しくは重縮合体である場合
には、これは下式に対応するものである:
上式中n=1〜1000である。環化した二量体及びオリゴ重縮合体若しくは重
縮合体である場合には、n番目のモノマーの下式で表
される基:
は第1番目のモノマーのXと結合している。
実際に、ジ−、オリゴ−及びポリマーの形態の出発基質は、還元反応(a)の
実質的な出発物質の前駆体であるとみなされ、これはモノマーである。
特に、限定するわけではないが、本発明はα−ヒドロキシカルボン酸のエステ
ルに向けられており、乳酸のエステルのD若しくはL型鏡像異性体に向けられる
ことが特に好ましい。
本発明によって達成される高い光学純度の鏡像異性体は、当然に、上記化合物
(Id)から直接導かれる。好ましいキラル化合物(If)には、1,2−ジオ
ール、並びに、特に、1,2−プロパンジオール及び1,2−ブタンジオールが
含まれることを単に想起することのみで十分であろう。
本発明に係る方法の特徴的な工程a),b)及びc)は、これらの実施の年代
記に関して代替的な形態に適応させることができることは考慮すべき事柄である
。これらの方法は連続的であることが好ましい。
共反応体は本発明に係る方法の基本的な成分の1つである。少なくとも1個の
ヒドロキシル基及び/又は1個のチオールが置換基の中に存在し、Patmにおい
て好ましくは鏡像異性体(If)の沸点よりも高いという特性を有している限り
においては、この共反応体は、チオサリチル酸及び/又は2−若しくは4−クロ
ロベンジルメルカプタンのようなチオール、及び/又は芳香族アルコール及び/
又は脂肪族アルコール及び/又は脂環式アルコール及び/又はポリ
オールのようなアルコール、特に糖質的形態のもの及び/又は少なくとも1個の
ヒドロキシル基を含有するカルボン酸、好ましくは芳香族アルコール及び/又は
4〜10個の炭素原子を含有するヒドロキシル化カルボン酸から選ばれる。
より詳細には、共反応体は、好ましくは最少2〜4個の原子で介されている2
個のXH及びYH基を含有することが好ましい。
置換又は未置換ジフェノール、及び、特に、ピロカテコール、レゾルシノール
及びヒドロキノンは好ましいクラスの共反応体を形成する。
この優先度は、このような化合物が水素化物の転化生成物とで環を形成するこ
とができ、この水素化物が還元工程(a)の結果の中間生成物を形成することに
より生成物Ifの形成を妨害するという事実から部分的に由来する。実際に、理
論に束縛されるわけではないが、この環化は生成物Ifの遊離を促進する機構を
成す。
ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ドデカノール、グリセロール、
グリコール酸、酒石酸、マンデル酸が他のクラスの好ましい共反応体であること
が見出された。
無水有機溶媒に関して、前記溶媒が本発明の第1の代替的な形態の態様に係る
極性溶剤を成しているべきであって、特に、前記溶媒の成分がグライム類又はそ
れらの前駆体、例えばポリエチレングリールから選ばれるべきである。
第2の代替的な形態の態様は、無水有機溶媒の特性に関するものであり、前記
溶媒の成分としては、無極性溶剤、好ましくは任意にヒドロキシル化されたアル
キル及び/又は未置換若しくは置換アリール、特にアルキル及び又はハロゲン化
物で置換されたアリールから選ばれるものであって、キシレンのようなベンゼン
系炭化水素が特に好ましい。鏡像異性体(If)を単離するための反応混合物の
直接蒸留の工程cを完全に行うために、本出願にである当社は無水有機溶媒の成
分の少なくとも1種が上記した鏡像異性体(If)と共沸混合物を形成するよう
に設備を都合良く組み合わせなければならなかった。実際に、共反応体の介在に
よって、該鏡像異性体は水素化物の転化生成物との結合が切断されると直ちに、
該溶剤の成分と混合することが可能であり、標準大気圧下での混合物の沸点が(
If)及び共反応体及び反応混合物の他の残留分よりも低いために、より容易且
つ迅速に回収することができる。
このような組み合わせは本方法での製造費用を相当削減する利点を提供する。
還元剤として使用可能な水素化物は、技術的及び経済的問題を考慮して金属水
素化物から選ばれる。上記金属は好ましくは周期表の第IIIA族の金属から選ば
れものであって、ホウ素が特に知られており、より好ましくは水素化物はNaB
H4から選ばれる。
有利な特徴は、直接蒸留工程c)が減圧下において最も効果的に行われること
である。
この方法にはいかなる制限も含意されてはいないが、基質及び目的とする最終
生成物に関する限り、式(If)及び(Id)において、X及びYは酸素であり
、Lはσ単結合、R1はC1〜C10アルキル、好ましくはメチル、エチルまたはブ
チルであり、R2はC1〜C10アルコキシ、好ましくはメトキシ、エトキシ、ブト
キシ、又はイソブトキシである。
実際に、(Id)は、例えばアルキルアルキルラクテート、好ましくはメチル
ラクテートであり、(If)は1,2−プロパンジオールの鏡像異性体のうちの
1種である。
本発明に係る方法の原理に関して、反応の化学量論は、水素化物及び共反応体
が基質(If)に対して過剰であることが都合良い。
従って、基質(If):水素化物の規定度の比は1:1〜1:2の範囲である
ことが好ましい。
共反応体に関しては、この規定度の比は1:2〜1:3の範囲であることが好
ましい。
本発明の方法は、従来の方法によるよりも高い光学純度(ee≧95%)の鏡
像異性体を与え、且つ製造費用が低い。従来は経済的理由から限定されてきたこ
のような純粋な鏡像異性体は、特に立体選択的合成分野又は製薬若しくは農薬の
分野での反応中間体として、活性成分として、及び、最終的には、液晶型の特殊
なポリマーの製造における前駆体として、その販路及び有効な用途は増加するは
ずである。
特に実施方法及び上記した方法の多数の利点の全てを含む本発明の代替的な形
態の方法は、特に、得られた純度及び光学収率によって、以下の態様の例及び得
られた結果から明確に明らかになるであろう。
実施例
例1:R(+)D−メチルラクテートからのR(−)−1,2−プロパンジオ ールの合成
1.1 反応の概要:
1.2 原料:
1.3 使用した装置:
1.3.1 反応:
固形物を加えるためのバルブ、冷却器、温度計及び機械攪拌機を備え付けた2
リットル丸底フラスコ。冷却器のアルゴン接続部。
1.3.2 蒸留:
冷却器を20cmのVigreux カラム+温度計+冷却器+捕集器+減圧接続部に
置き替えた。
1.4 実施方法:
0時間: アルゴン下でメチルラクテートをポリエチレングリコール200に
溶かした。温度が40〜60℃に保たれ且つ水素の遊離による発泡を防ぐために
、アルゴン下で攪拌しながら水素化ホウ素を徐々に(8時間を要して)添加した
(2時間25分後に1時間添加を止めた時に温度が自然に28℃に降下した)。
添加が終了した後に、周囲温度で反応混合物を一晩攪拌した(θ=28℃)。
24時間後: ピロカテコールを数回に分けて添加した結果、白色の粘質反応
混合物となり、次いで全部を100℃で2時間加熱し
た。この反応混合物を30℃に冷却し、冷却器をVigreux カラムと冷却器に替え
、全体を減圧し、次いで加熱した。6種の留分を捕集した(メタノールは捕集さ
れなかった)。
1.5 結果:
蒸留により得られた留分の定量分析及び定性分析をVarian 6000型のクロマト
グラフィーを用いて気相クロマトグラフィーによって行った。誘導体の形成はO
−TFA型であった。
R(−)−1,2−プロパンジオールの鏡像異性的純度は97.16%であり
、同時にR(+)−メチルラクテートでは97.48%であった。従って、得ら
れた光学純度は99.7%である。
例2:S(−)−メチルラクテートからのS(+)−1,2−プロパンジオー ルの合成
この例2は例1に類似し、異なる点は以下の通りである:
出発物質(Id)がS(−)−メチルラクテート(アルドリッチ,98%,バ
ッチ82604−82)であること;
溶剤がポリエチレングリコール 300(アルドリッチ,バッチB 5733
9)であること;
化学量論的量を例1の10分の1にしたこと。
蒸留後、基本的に1,2−プロパンジオールからなる3種の留分
A,B及びCを捕集したが、留分Cは留分A及びBに比して僅かにピロカテコー
ル濃度が高かった。核磁気共鳴分析により得られた生成物の構造を確認した。
気相クロマトグラフィーによって、プロパンジオールの化学収率を99%にす
ることができるとともに、S(+)−1,2−プロパンジオール鏡像異性体の光
学純度を100%にすることができる。
例3:S(−)−メチルラクテートからのS(+)−プロパンジオールの合成
例3は例2と類似し、異なる点は以下の通りである:
共反応体としてピロカテコールの代わりに酒石酸を用いたこと;
直接蒸留工程c)の前に反応混合物にキシレンを混合したこと;
ポリエチレングリコール中に存在する低分子量の望ましくない副生成物を除去
するために還元(96℃,16mbarで20分間)の前に予備的な蒸発の工程を適
用したこと。
蒸留の間に、まず初めに、メタノールが水素化物による還元の副生成物である
第1のメタノール/p−キシレン共沸混合物を、次いで、第2の段階において第
2のプロパンジオール/o−キシレン共沸混合物を64℃及び138℃において
それぞれ捕集した。
プロパンジオールとキシレンは互いに混和性ではないために容易に分離される
。プロパンジオールの化学的収率は約78%であり、同時に光学純度は98%で
あった。
例4:S(−)−メチルラクテートからのS(+)−1,2−プロパンジオー ルの合成
例1〜3の一般的方法を繰り返して本例を行った。この例4は、反応体及び運
転方法に関して若干の修飾を加えたことを除いて実質的に例2に一致する。
4.1 反応体
キシレンの代わりに、商標名「Normapur」(鏡像異性体の混合物)としてプロ
ラボ(Prolabo)社から市販されている型のポリエチレングリコール300を用
いた。
4.2 作業方法:
0時間: θ=22℃。500ミリリットルのキシレンを充填し、次いで不均
一混合物を形成させるための出発原料として水素化ホウ素ナトリウムを充填した
197回/分で攪拌した。
10分後: θ=22℃。水浴で冷却し、メチルラクテートを46分間を要し
て添加した。
55分後: θ=47℃。発熱し、大量の気体を放出した。
6時間5分後: θ=58℃。冷却。
6時間35分後: θ=38℃。ピロカテコールの溶液(メタノール溶液)を
53分間を要して反応混合物に注加した(437回/分で攪拌しながら)。多く
の気泡が形成されたことにより体積が増加した。
7時間:θ=48℃。白色沈殿物のようになった。反応生成物の塊は非常に粘
着性であった。100ミリリットルのメタノールを注加した。
7時間45分後: この注加を完了した。加熱することによって
(i)メタノール/p−キシレン共沸混合物(θ=64℃),
(ii)プロパンジオール/o−キシレン共沸混合物(θ=134℃)を蒸留し
た。200ミリリットルのキシレンを添加した。65.54gの留出物を相分離
によって粗生成物であるプロパンジオールを単離した。この粗生成物を、
o−キシレン/プロパンジオール共沸混合物(θ=134℃),
純粋なプロパンジオール(25mbarにおいて)=53.70g(θ=87℃)
に蒸留した。
4.3 結果及び分析:
得られた生成物の構造をNMRにより確認し、気相クロマトグラフィーにより
第2の留分は、化学収率100%のプロパンジオール及び光学純度が100%の
S(+)−プロパンジオールであることが見積もられた。キシレンを用いた本例
は特に有利であり、上記の他の例に比してより低い蒸留温度を用いたのと同時に
、高純度の鏡像異性体が得られたことによって、キシレンを用いた本例は特に有
利である。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C07C 319/28 C07C 319/28
321/02 321/02
323/10 323/10
// C07M 7:00
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AU,BB,BG,BR,BY,CA,
CN,CZ,FI,HU,JP,KP,KR,KZ,L
K,LV,MG,MN,MW,NO,NZ,PL,RO
,RU,SD,SK,UA,US,UZ,VN