【発明の詳細な説明】
ヒトロタウイルス感染の阻害
発明の背景発明の分野
本発明は、ヒトロタウイルス(HRV)の哺乳動物細胞への結合を阻害する分
泌タンパク質であるカッパ−カゼイン(κ−カゼイン)に関する。従来の技術の説明
ロタウイルスは、発展途上国と先進国の両方で、生活している子供での胃腸炎
の原因となる最重要のウイルス体である(Yolkenら、“ヒト乳ムチンはロタウイ
ルス複製を阻害し、実験的胃腸炎を予防する”Jounal of Clinical Investigati
on 90,1984-1991,1992)。ロタウイルスはまた、ナーシングホーム及びデイケア
センターで、旅行者の間で、子供と接触のある大人で、免疫低下患者で下痢の原
因となる。
母乳で育てられている乳児を人工栄養で育てられている乳児と比較すると、母
乳育児により腸感染に対するある程度の防御が生じる。発展途上国と先進国で生
活している子供の研究によると、人工栄養で育てられている乳児よりも母乳で育
てられて
いる乳児のほうが胃腸炎に罹った経歴が少ない。母乳育児はまた、腸疾患に関連
する下痢及び吐き気のひどさを軽減する。しかし、母乳育児により感染に対する
完全な防御は生じないし、ロタウイルス感染は母乳で育てられている乳児でも観
察される。
母乳育児の防御効果の完全な原因となる唯一の因子は見出されていない。抗体
がある役割を持つと考えられているが、ヒト乳中の抗ロタウイルス抗体のレベル
は、乳によって与えられる防御の程度に関連しない。このことは、非免疫グロブ
リン因子が母乳の防御効果の原因であることを示唆し、これらの因子を同定する
ために、研究を行った。
Yolkenらは、ロタウイルスの複製を阻害する非免疫グロブリン天然物質である
乳ムチンを報告している。ムチンはシアル酸含有糖タンパク質である。この報告
で、Yolkenらは、ヒト乳中に見出されるムチンとムチンの成分は抗ロタウイルス
活性を示すことを証明している。固相結合アッセイで精製された乳ムチン成分を
使用して、Yolkenらは、ロタウイルスのヒト株及びサル株に感染したアフリカミ
ドリザル腎細胞(MA−104)へのムチンの結合を初めて示した。彼らは次に
、組織培養技術を使用して、ヒト乳のある分画、即ち次にヒト乳ムチン複合体と
同定される分画がロタウイルスの複製を阻害することを示した。この分画は、ロ
タウイルスに感染した細胞に特異的に結合することを示すことにより、上記のこ
とは更に証明された。活性分画を化学的加水分解により脱シアル酸化すると、ロ
タウイルス感染細胞への結合にかなりの減少があった。このことは、本明細書で
報告する抗ウイルスシステムで、シアル酸は抗ロタウイルス活性に必要であるこ
とを示す。乳の脂肪分画にロタウイルス阻害活性の証拠をYolkenらは見出さなか
った。
乳飲マウスでの実験的ロタウイルス胃腸炎の予防におけるムチン含有乳成分の
効力をもYolkenらは証明する。
国際公開94/09651(Newburgら、“抗下痢製品及びロタウイルス関連感染の治療
法”)は、ロタウイルスに結合できる乳ムチン複合体及びその成分などの抗下痢
剤を含有する製品及び哺乳動物細胞を上記薬剤に接触させることにより上記細胞
へのロタウイルス感染を阻害する方法を開示する。
米国特許第5,147,853号(Dosakoら、“感染防御物質”)は、大腸菌のヒト上
皮細胞への吸着を、該細胞を牛乳由来のシアル酸結合タンパク質であるκ−カゼ
インで処理することで防止する方法を開示する。
リスクのある群、特に乳児及び子供におけるロタウイルス感染の流行とその影
響の重大さは、効果的治療の必要性を示す。有害な副作用を持たないロタウイル
ス感染の予防法及び治療法を開発することは特に重要である。
本発明の概要
本発明において、ヒト乳又は牛乳から精製することができ、又はcDNAを使
用する組換え形式で製造することができる分泌タンパク質であるκ−カゼインが
、ヒトロタウイルスの哺乳動物細胞への結合を阻害することを開示する。アッセ
イにおいて、上記細胞がヒト又はウシκ−カゼインで処理されると、ヒトロタウ
イルスの結合が60−70%阻害された。有害な副作用がないと考えられている
乳産物であるκ−カゼインを使用してロタウイルス感染の予防及び治療ができる
。
図面の簡単な説明
図1は、放射性ヨウ素標識ヒトロタウイルスの調製法を示す。
図2は、ヒト及びウシκ−カゼインによるMA−104細胞へのヒトロタウイ
ルスの結合の阻害の程度を示す図である。
図3は、ヒトκ−カゼインによるMA−104細胞へのヒトロタウイルスの用
量依存的阻害を示す。
図4は、ヒトκ−カゼインが、ノイラミニダーゼ又はフコシダーゼ又は両者に
よる処理後、MA−104細胞へのヒトロタウイルスの結合の阻害の能力を保持
していたことを示す。
図5は、ウシκ−カゼインが、ノイラミニダーゼによる処理後、MA−104
細胞へのヒトロタウイルスの結合の阻害の能力を保持していたことを示す。
図6は、MA−104細胞へのヒトロタウイルスの結合の阻
の効果を示す。
図7は、ウシκ−カゼインのMA−104細胞の感染を阻害する能力によって
測定されたヒトロタウイルスの用量依存的中和を示す。
図8は、ヒトκ−カゼインのDNA配列とアミノ酸配列を示す。
図9は、ヒトκ−カゼインの生物活性を有するアミノ酸配列を示す。
発明の詳細な説明
本発明は、哺乳動物、特にヒトにおけるロタウイルスが原因の腸感染を予防及
び治療する方法の改良に関する研究から得ら
れる。本発明は、ヒトロタウイルス(HRV)のサル細胞への結合を阻害し、そ
れにより該ウイルスが該細胞に侵入し、感染を起こすことを防止することにおけ
るκ−カゼインの効力を証明する。本発明の薬剤、即ちκ−カゼインは、乳児と
子供の治療に特に有用である。何故ならば、κ−カゼインはヒト乳の正常の構成
物であり、牛乳としてヒトの食餌に存在しているからである。従って、κ−カゼ
インは治療患者に毒性反応又はアレルギー反応の原因となることはありそうにな
い。
ウシκ−カゼインは牛乳に濃度約3.3g/Lで存在している。ウシκ−カゼ
インを食餌に加え、ロタウイルス感染のリスクのある大人と子供の両者に対し、
もしあるとしてもほとんど免疫反応のリスクがなく、利用することができる。
本出願で、ヒトロタウイルスが原因の哺乳動物細胞の感染の発病の予防もしく
は阻止の方法又は該感染の治療方法であって、天然型又は組換え型の未加水分解
ヒトカッパ−カゼイン及び天然型又は組換え型の未加水分解ウシカッパ−カゼイ
ンからなる群から選択される薬剤の有効量と該細胞を接触させることを含む方法
を開示する。哺乳動物細胞のヒトロタウイルス感染の発病の予防もしくは阻止の
方法又は該感染の治療方法であって、
ヒト乳又は牛乳での濃度を超える濃度で天然型又は組換え型の未加水分解ヒトカ
ッパ−カゼイン及び天然型又は組換え型の未加水分解ウシカッパ−カゼインから
なる群から選択される薬剤の抗ロタウイルス感染の有効量を含む経腸(enteral)
栄養組成物を哺乳動物に投与することを含む方法をも開示する。
特定の実施例で、κ−カゼインの製造法並びにヒト及びウシκ−カゼインによ
るHRV−結合能力の阻害を測定するのに使用される2つのアッセイを記載する
。実施例は例示の目的のためにのみ記載するのであって、制限的であるつもりは
ない。実施例1
:ヒト乳カッパ−カゼインの製造
凍結ヒト乳約0.5Lを融解し、15,000×g、4℃で1時間遠心し、最
上層である脂肪パッドを除去した。上清及びペレットをホモゲナイズし、得られ
た物質のpHを、塩酸を添加して4.3に調整した。塩化カルシウムを最終濃度
60mM加えた。混合物を室温で1時間撹拌し、それから沈殿したカゼインを、
18,000×g、4℃で90分間遠心して回収した。その後、カゼインペレッ
トを、6M尿素及び20mMエタノールアミン、pH9.5、約90mLに溶解
し、ヘキサン4倍量で3回抽出し、更に脂肪含量を減少させた。12,000分
子
量カット−オフ膜を使用して、水4Lに対し、水相を3回透析した。この粗カゼ
イン(収率は約2−3g/Lであった)を、6M尿素、20mM n−2−ヒド
ロキシエチルピペラジン−n′−2−エタンスルホン酸(HEPES)(sigma Che
mical Co.,St.Louis,Mo)、0.5%(v/v)2−メルカプトエタノール(2−
ME)、pH7.5に溶解し、4℃で1時間撹拌した。
ラム(Bio-Rad,Hercules,CA)のクロマトグラフィーにかけ、0.1%(v/
v)の2−MEを使用したこと以外は同一の緩衝液で平衡化した。洗浄緩衝液は
6M尿素、20mM HEPES、0.1%(v/v)2−ME、pH7.5で
あった。溶出液を波長280MMでモニターした。結合物質の溶出を、0−0.
3M 塩化ナトリウムのリニアグラジエント、100分間、流速2mL/分で行
った。7mLずつの分画を集め、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲ
ル電気泳動(SDS−PAGE)で標準品として使用した、SYMBICOM
AB、スウェーデンから得たヒトκ−カゼインと比較するか、イムノブロット解
析で、κ−カゼインを検出した。その後、κ−カゼインを含む分画をプールし、
前述のように水4Lに対し、
3回透析し、凍結乾燥した。この物質を、6M尿素、20mMHEPES、0.
5%(v/v)2−ME、pH7.0に、濃度約10mg/mL、4℃で溶解し
、同一のカラムにかけた。カラムを、6M尿素、20mM HEPES、0.1
%(v/v)2−ME、pH7.0で洗浄し、それから0−0.6M塩化ナトリ
ウムのリニアグラジエント、140分間、流速2ml/分で溶出した。280M
Mで主要ピークを含む分画をプールし、前述のように透析し、それから凍結乾燥
した。得られた物質は90%を超える純度を有するものと評価した。実施例2
:ウシκ−カゼイン源
ウシκ−カゼインをSigma(カタログ#CO406)から購入したが、そ
れは80%を超える純度を有した。実施例3
:ヒトロタウイルスの細胞結合阻害アッセイの方法
アフリカミドリザル腎細胞であるMA−104(American Type
Culture Collection,MD)を24ウエル組織培養プレー
トで100%集密度まで生育させた。MA−104細胞の使用は、Kitamotoら、
“分化細胞における異なるロタウイルス株の生育の比較”、Virology184:729-73
7(1991)に記載されている。Kitamotoらによって報告さ
れた実験によると、MA−104細胞でWa株を含むヒトロタウイルスは生育し
、抗原を生産する。該細胞を2回Hanks培地(Sigma)で洗浄し、リン
酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の1%パラホルムアルデヒドで、室温で15分
間固定化した。この後、トリス緩衝化生理食塩水(TBS)で3回洗浄した。ウ
シ血清アルブミン(BSA)5mg/mlを含むTBs中の阻害の可能性のある
阻害剤の溶液をウエルに加え、それから125I−標識ヒトロタウイルス(HRV
)懸濁液を添加した。放射性標識ウイルスを図1に記載した通りに調製した。プ
レートを37℃で90分間インキュベートし、3回TBSで洗浄した。それから
、細胞を、0.2%水酸化ナトリウムと2%SDS溶液で溶解した。溶解液の1
分当りのカウント(cpm)を、シンチレーションカウンターで測定し、細胞結
合HRVを指示するものとして使用した。実施例4
:ヒト及びウシカッパ−カゼインによる、ヒトロタウイルス株WaのM
A−104細胞への結合の阻害の測定
図2に示す実験で、5個の薬剤の阻害ポテンシャルを、濃度1mg/mlで試
験した。ヒトκ−カゼインは、HRV株WaのMA−104細胞への結合を70
%を越えて阻害し、ウシκ
−カゼイン(Sigma)は、60%を越えて結合を阻害した。このとき、HR
Vと接触後、阻害の可能性のある阻害剤を添加しない対照細胞と比較した。ウシ
ベータ−カゼイン(Sigma)とヒトベータ−カゼイン(Symbicom
AB,スエーデン)の、HPV Waの結合を阻害する能力はずっと少なかった
。ウシベータ−カゼインは45%阻害、ヒトベータ−カゼインは25%阻害を示
した。ウシ下顎ムチン(Sigma)を同じ実験で試験し、それは50%阻害を
示したが、更なる実験によると、この阻害は用量依存的でなく、それ故特異的で
なかった。このことを、図3に示す。対照的に、ヒトκ−カゼインは同じ実験で
用量依存的であることが示された。実施例5
:ヒト又はウシカッパ−カゼインによるヒトロタウイルス感染の阻害−
シアル酸の作用
実施例3に記載した方法を使用した別の実験で、ヒトK−カゼイン分子のグリ
カン鎖からシアル酸を除去するために、ヒトκ−カゼインをノイラミニダーゼで
処理した。図4に示すように、脱シアル酸化ヒトκ−カゼインは、ロタウイルス
阻害アッセイにおいて完全なヒトκ−カゼインと同様の効果を示した。このこと
は、この実験においてシアル酸残基はヒトκ−カゼイ
ンの阻害効果に必要でないことを示す。その後、完全及び脱シアル酸化ヒトκ−
カゼインをフコシダーゼで処理した。両方で処理されたヒトκ−カゼインは阻害
活性を保持したが、そのことは図4に示す。このことは、このアッセイの条件下
、ヒトκ−カゼインのフコース残基はHRVに対する阻害活性に必要ないことを
示す。
ウシκ−カゼインをノイラミニダーゼで処理し、シアル酸を除去すると、得ら
れた脱シアル酸化ウシκ−カゼインは、図5に示すように、このアッセイで高度
の活性を有した。ウシκ−カゼインのシアル酸残基もHRVに対する活性に必要
でないことが結論された。実施例6
:ウシカッパ−カゼインによるヒトロタウイルス感染の阻害−加水分解
の影響
La Jolla,CA)により、16時間37℃で、0.1Mトリス緩衝液pH8.0中で
、ウシκ−カゼインを消化した。図6は、加水分解された該タンパク質のHRV
に対する用量依存的活性はこのアッセイで有意であったことを示す。この実験で
の添加量を、ウシκ−カゼインのグリカン鎖に存在するヘキソースのモ
ル量で決定した。天然のウシκ−カゼインより加水分解されたウシκ−カゼイン
の7−8倍が、阻害の同じ程度を達成するのに必要であるが、HRVに対する阻
害活性が、このアッセイの条件下加水分解された該タンパク質に保持されていた
。実施例7
:ヒトロタウイルス感染の阻害−第2のアッセイ法−MA−104細胞
とヒトロタウイルスのWa株
別のセットの実験を行い、HRVの細胞への感染を阻害するウシκ−カゼイン
の能力を測定した。使用したアッセイ法は以下の通りである。
アフリカミドリザル腎細胞であるMA−104のロタウイルスアッセイでの使
用は、Kitamotoら、“分化細胞における異なるロタウイルス株の生育の比較”、
Virology184:729-737(1991)に記載されているが、そのMA−104を BioWhitt
aker,Inc.(Walkersville,MD)から得た。Kitamotoらにより報告された実験によ
ると、Wa株を含むヒトロタウイルスは、MA−104細胞で生育し、抗原を生
産する。10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone Laboratories,Logan
,UT)及び2mM L−グルタミン(BioWhittaker)を補充したイーグル基礎培
地(BME)(BioWhittaker)で、該細胞を培養した。細
胞を剥がすためにトリプシン−EDTA(0.25%トリプシン、1mM ED
TA)(BioWhittaker)を使用して、細胞をルーチンに75cm2フラスコで継
代培養した。
アッセイプレートをフィブロネクチン(Sigma)1μg/ウエルで処理し
、培養支持体への細胞の吸着を助け、次にウイルス中和アッセイの洗浄段階で細
胞を吸着させた。フィブロネクチンを蒸留水に溶解し、各ウエルに分配し、室温
で1−3時間インキュベートし、フィブロネクチンをプラスチックウエルに結合
させた。残りのフィブロネクチンを吸引し、アッセイプレートのウエルに細胞を
分配した。生育培地を含むウエル当り密度10,000細胞で96ウエルプレートに接
種した細胞を、5%CO2インキュベーター中で37℃で3−4日維持し、ウイ
ルス中和試験用の細胞の密集単層を得た。
ヒトロタウイルスの血清型1のWa株をDr.Linda J.Saif(Ohio Agricultural
Research and Development center,最初は Dr.R.Wyatt(National Institut
es of Allergy and Infectious Diseases)から得られた)から得た。この研究
で使用したウイルスストックは5代継代収集物であった。これらのアッセイで使
用する前に、HRVを、1mlHRV当り10
IU/mlトリプシンで活性化し、36℃で30分間インキュベートした。2m
Mグルタミン、50μg/mlゲンタマイシン硫酸塩(BioWhittaker)、1%ペニ
シリン−ストレプトマイシン溶液(Sigma)を補充したBME培地で、ウイルスを
希釈し、所望の最終ウイルス濃度の2倍である1:250希釈を行った。実施例8
:ヒトロタウイルス感染の阻害−第2のアッセイ法−ウイルス中和
等量の試験薬剤とトリプシン活性化HRVを混合し、室温で1時間プレインキ
ュベーションを行い、試験薬剤をウイルスに結合させる。HRV+試験薬剤プレ
インキュベーションの間、MA−104細胞を含むプレートを15μl希釈培地
で3回洗浄し(150μl/ウエル/洗浄)、その後希釈培地を更に50μl各
ウエルに加えた。HRV+試験薬剤のプレインキュベーション時間が終わるまで
、MA−104プレートを5%CO2中、37℃でインキュベートした。対照サ
ンプル又はHRV+試験薬剤のサンプル100μlを適切なウエルにピペットで
入れ、希釈培地50μlと混合した。プレートを更に12−14時間37℃でイ
ンキュベートし、ウイルスを細胞内に侵入させた。より長いインキュベーション
時間の結果、子孫
ウイルスのMA−104細胞への感染が起こりうるが、それは望ましくない。3
つのタイプの対照ウエルが各アッセイに含まれた。即ち、(1)MA−104細
胞、HRVを含むが、試験薬剤を含まないウエル、(2)MA−104細胞、H
RV、及び公知のHRV阻害剤であるHRV抗体を含むウエル、及び(3)MA
−104細胞を含むが、ウイルスを含まないウエル。試験薬剤又は抗体の各濃度
で3重の試験を行った。
インキュベーション時間後、アッセイプレートをダルベッコリン酸緩衝化生理
食塩水(PBS)(BioWhittaker)で2度洗浄し、冷70%エタノール150μl
を各ウエルに加え、95μlを除去し、空気が細胞単層を乾燥させないようにし
た。冷無水エタノール(190μl)を70%アルコール層に加え、プレートを
ゆすり、一晩冷蔵した。それから、アルコールを除去し、0.05%ニワトリ卵
アルブミンを含むPBS150μl(PBS−CEA)(Sigma)を各プレ
ートに加え、非特異的結合部位をブロックした。
プレートを染色するために、PBS−CEAを除去し、抗ロタウイルスIgG
を各ウエルに希釈1:2500で加えた。プレートを室温で30分間インキュベ
ートした。プレートをPB
S−CEAで3回洗浄し、抗ウシIgG(Cappel Organon Teknika,Durham,NC)
に結合したペルオキシダーゼ200μlを各ウエルに希釈1:2000で加えた
。プレートにカバーをし、室温で30分間インキュベートした。それから、プレ
ートを3回PBS−CEAで洗浄し、ジアミノベンジジン(Sigma)基質100μ
lを各ウエルに加えた。プレートを室温で20分間インキュベートし、PBS−
CEAで2回洗浄し、その後蒸留水で洗浄した。実施例9
:ウシカッパ−カゼインによるヒトロタウイルス感染の阻害−第2のア
ッセイ法−感染細胞のカウント
実施例7及び8の方法により調製されたプレートを、ウエル当り蒸留水150
−200μlを添加して、再水和させ、顕微鏡観察をした。プレートを100%
倍率で光学顕微鏡観察した。黒く染色され、特徴的な茶色で顆粒状の細胞質領域
を含む細胞を、ウイルス感染細胞としてカウントした。各ウエルの感染細胞の代
表的なカウントは、各ウエルの表面の約20%に当たる統一された区域内の全て
の染色細胞をカウントして得た。ウイルスを加えなかった対照ウエルを観察し、
感染細胞のないことを確認した。試験薬剤+HRVで処理した集団の感染細胞の
平
均数を、ウイルスだけと接触させた集団の感染細胞の平均数と比較して得られた
%阻害として、結果を報告した。結果を図7に示す。試験薬剤であるウシκ−カ
ゼインはヒトロタウイルスを用量依存的に中和した。ウシκ−カゼインの濃度を
増加させると、濃度1.6mg/mlまで感染のレベルを対応して減少させたが
、濃度1.6mg/mlでは、感染は細胞のほとんど90%で阻害され、10%
だけが感染した。実施例10
:ウシカッパ−カゼインによるヒトロタウイルス感染の阻害−第2の
アッセイ法−加水分解の影響
(Calbiochem)で、4時間又は20時間、及び表1と2に示してある濃度におい
て消化したが、表1と2は異なる日の実験ランを示す。プレートを、実施例8の
方法により37℃でインキュベートし、実施例9の方法でプレートの染色、カウ
ントを行った。表1と2に示される異なる日に行った実験の結果によると、プロ
テアーゼによるウシκ−カゼインの加水分解は、HRVのMA−104細胞への
感染の阻害を除去した。未消化のウシκ−カゼインは、Wa細胞へのウイルス結
合を86〜93%阻害した。加水分解されたウシκ−カゼインは、このアッセイ
で全く阻害しないか、又はほんのわずか阻害した。プロナーゼ
場合、用量に無関係に種々の阻害の程度を示した。
を変性させ、その活性を無くした。それ故、観察されたHRV
作用に帰すことができる。実施例6に記載のアッセイでは、プ
のアッセイの結果は、加水分解は阻害を完全になくしてはしまわないことを示し
た。その場合には、プロテアーゼは完全には不活化されす、観察された阻害は、
加水分解されたウシκ−カ
ある。
実施例11:カッパ−カゼインの有用性と投与
ヒトκ−カゼインは、ヒト乳から抽出できるか、又は組換えDNA法及び原核
細胞もしくは真核細胞でのクローニングにより、又は HanssonらのDNA配列と
発現系を使用するトランスジェニック哺乳動物から得られる。ウシκ−カゼイン
は牛乳から抽出することができるが、牛乳では濃度約3.3g/Lで存在する。
ヒト乳タンパク質κ−カゼインをコードするDNA配列は、PCT国際公開W
O 93/15196(Hanssonら、“カッパ−カゼインをコードするDNA、該タンパ
ク質を得る方法、及びその使用”)に開示されているが、ヒトκ−カゼインの生
物活性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列の発
現系を構築する方法を教示する目的のために、該国際公開は引用により本明細書
に含まれるものとする。DNA配列は図8に示され(配列番号1)、該DNA配
列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列は図9に示される(配列番号2)。
コードされたポリペプチドは、ヒトκ−カゼインの抗微生物活性又はオピオイド
活性を有することが決定された。示されたDNA配列を使用して、原核系又は真
核系を使用して組換えヒ
トκ−カゼインを生産できるし、又はトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製
できる。組換えヒトκ−カゼインを乳児用調合乳の構成物として使用して、その
調合乳の栄養価値及び生物的価値を改善できるし、又は本発明の場合のように、
ヒトロタウイルスによる腸感染に対する防御を与えることができる。
Hanssonらによって開示されたDNA配列は、ヒト乳腺cDNAライブラリー
から単離されたcDNAクローンから決定された。発現系の構築とその分子生物
学的キャラクタリゼーションには標準的組換えDNA法を使用した。使用した方
法は以下の通りであった。大腸菌Y1090細菌を、カルベニシリン50μg/
mlを含むLB(Luria-Bertoni)プレート上で生育させた。一つのコロニーを単
離し、0.2%マルトース及び10mM MgSO4を含むLBで一晩生育させ
た。それから、培養液0.4mlを希釈したライブラリーファージと混合し、3
7℃で15分間吸着させた。感染した培養液を軟寒天(LB中0.75%アガロ
ース及び10mM MgSO4)7mlと混合した。軟寒天混合液を150mm
LBプレートに注いだ。プレートを42℃で約3.5時間インキュベートすると
、プラークが目で見えた。その後、各プレートに、予め10mM
IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)で飽和
を重層し、37℃で一晩インキュベートした。膜上の位置に印を付け、膜を取除
いた。膜をTTBS(0.05%ツイーン20を含むトリス緩衝化生理食塩水(
TBS))中で洗浄し、20%FCSとウサギで作製し、精製し、1:25に希
釈したκ−カゼイン抗血清を含むTTBS中で、室温で2時間インキュベートし
た。膜を、室温でTTBS中5分間2回洗浄した。TBS(50mMトリス−塩
酸pH7.9,150mM NaCl)中のビオチニル化ヤギ−抗ウサギTgG
を加え、膜を室温で1時間インキュベートした。膜を再度室温で5分間、2回T
TBSで洗浄した。TTBS中のストレプトアビジンとビオチニル化アルカリ性
ホスファターゼの結合物を加え、室温で1時間インキュベートした。その後、膜
を4回TTBS中、5分間洗浄し、50mMトリス−塩酸pH9.8、3mMM
gCl2、50μg/ml XP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイルホ
スフェート)、100μg/ml NBT(ニトロブルーテトラゾリウム グレ
ードIII)を含む緩衝液で3回濯いだ。約100個の陽性プラークを同定した。
単離されたプラークを、希釈及びスクリーニングの繰返しによって精製した。
ファージDNAを調製し、そのDNA調製物をEcoRIで消化した。消化され
たDNAをアガロース電気泳動で分離し、多数のEcoRIフラグメントを、E
coRI消化・アルカリ性ホスファターゼ処理pUC18プラスミドにクローン
化し、次に大腸菌TG2を形質転換した。形質転換体を、カルベニシリン50μ
g/ml、X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイル−β−D−ガ
ラクトシド)40μg/ml、1mM IPTC(イソプロピル−β−D−チオ
ガラクトシド)を含むプレートで選択した。多数の形質転換体からのプラスミド
DNAを分析した。ヒトκ−カゼインをコードする完全長のcDNAフラグメン
トを含むプラスミドを有する形質転換体をpS270と命名した。プラスミドp
S 70DNAを制限エンドヌクレアーゼ分析した。κ−カゼインをコードする
領域の両鎖の完全ヌクレオチド配列を、販売元により記載された通り、二本鎖鋳
型上でT7配列決定キット(Pharmacia,Uppsala,スエーデン)を使用して決定し
た。pUC18又はκ−カゼイン配列に相補的な特異的オリゴヌクレオチドを、
配列決定反応のプライマーとして使用した。
ヌクレオチド配列は、162アミノ酸とシグナルペプチド20アミノ酸からな
るκ−カゼイン前駆体タンパク質の完全アミノ酸配列をコードするのに十分な読
取り枠を含んでいた。
pS270と命名したプラスミドDNAを、Deutsche Sammlung von Mikro
organismen und Zellkulturen GmbH,Mascheroder Weg 1b,D.3300 Brauns
chweig,独のコレクションに寄託したが、該プラスミドDNAは受託番号#DS
M6878として同定される。
精製されたヒトもしくはウシκ−カゼイン又はそれらの誘導体を、経口粘膜投
与単位形態で、又は栄養チューブにより、例えば鼻経由空脳で、もしくは空腸内
に投与できる。経口使用の場合、κ−カゼインは、組成物の2−50重量%であ
るべきである。医薬製剤の場合、κ−カゼインは、乳糖、ソルビトール、澱粉又
はゼラチンなどの固体粉状担体と混合し、錠剤剤型に圧縮すべきである。多数回
−単位投与剤型も製造できる。胃腸管での溶解速度を変えるポリマーなどの物質
で、錠剤及び顆粒をコートできる。コーティングの例には、約5.5のpKaを
有するアニオン性ポリマーがある。ヒト又はウシκ−カゼインの液体製剤を、活
性化合物0.2重量%とグリセロールとして製
造できる。活性化合物の1日の投与量は投与経路で変わる。
分泌乳タンパク質であるκ−カゼインの抗ウイルス活性という本明細書で開示
した発見により、乳児用調合乳として、リスクのある全ての群のロタウイルス感
染の予防及び治療に有用な医薬物質として、抗生物質治療を受けている患者の栄
養補給として、及び他の生物活性の経腸栄養製品での成分として、該薬剤の使用
が容易になる。上記の例は示唆的であり、κ−カゼインの可能性ある使用を制限
するものとして理解すべきでない。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
(C12P 21/02
C12R 1:19)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),AU,CA,JP,MX,N
Z
(72)発明者 セオ,アマンド・ユー−ヤン
アメリカ合衆国、オハイオ・43230、ガハ
ナ、シルバー・ロツド・レイン・4157
(72)発明者 バクスター,ジエフリイ・ハリス
アメリカ合衆国、オハイオ・43021、ゲリ
ーナ、ビツグ・ウオルナツト・ロード・
6515
(72)発明者 カミングス,リチヤード・デイル
アメリカ合衆国、オクラホマ・73003、エ
ドモンド、サンタ・フエ・アベニユー・
5215