JPH10273778A - 酸化アルミニウム被覆工具 - Google Patents

酸化アルミニウム被覆工具

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JPH10273778A
JPH10273778A JP9644697A JP9644697A JPH10273778A JP H10273778 A JPH10273778 A JP H10273778A JP 9644697 A JP9644697 A JP 9644697A JP 9644697 A JP9644697 A JP 9644697A JP H10273778 A JPH10273778 A JP H10273778A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1と
その下地(基体側の膜)である非酸化膜3との間にあり
両膜に直接接触する薄い結合層2の両界面の密着性ある
いは結合層2自体の機械強度を高めることにより、切削
特性等の品質が安定した長寿命の酸化アルミニウム被覆
工具を提供する。 【解決手段】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化
物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれか一種の単層皮
膜または二種以上からなる多層皮膜、並びに結合層とα
型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とが形成されてい
る酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合層が針
状および/または棒状の突起を持つ組織を有しているこ
とを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、切削用及び耐摩耗
用の酸化アルミニウム被覆工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、被覆工具は超硬質合金、高速度
鋼、特殊鋼よりなる基体表面に硬質皮膜を化学蒸着法
や、物理蒸着法により成膜することにより作製される。
このような被覆工具は皮膜の耐摩耗性と基体の強靭性と
を兼ね備えており、広く実用に供されている。特に、高
硬度材を高速で切削する場合に、切削工具の刃先温度は
1000℃前後まで上がるとともに、被削材との接触に
よる摩耗や断続切削等の機械的衝撃に耐える必要があ
り、耐摩耗性と強靭性とを兼ね備えた被覆工具が重宝さ
れている。
【0003】硬質皮膜には、耐摩耗性と靭性に優れた周
期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒
化物からなる非酸化膜や耐酸化性に優れた酸化膜が単層
あるいは多層膜として用いられる。非酸化膜では例えば
TiC、TiN、TiCNが利用され、酸化膜では特に
α型酸化アルミニウムやκ型酸化アルミニウム等が利用
されている。炭化物、窒化物、炭窒化物等からなる非酸
化膜の欠点は酸化され易いことであり、この欠点を補う
ため、非酸化膜上に耐酸化性に優れた酸化アルミニウム
等の酸化膜を形成する多層膜構造を持たせることにより
非酸化膜の酸化を防止することが行われている。
【0004】この非酸化膜/酸化膜の多層膜構造の欠点
は非酸化膜と酸化膜との間の密着性が低いこと、あるい
は高温で機械強度が安定しないことである。前記酸化膜
としてκ型酸化アルミニウム膜を用いた場合、このκ型
酸化アルミニウムは前記非酸化膜との密着性は比較的良
好でありしかも1000〜1020℃と比較的低温で成
膜できる長所はあるものの、準安定状態のアルミナであ
るため高温での使用時にα型酸化アルミニウムに変態す
るため体積が変化し、酸化膜中にクラックが入り、膜が
剥がれるという欠点がある。これに対して、前記酸化膜
としてα型酸化アルミニウムを用いた場合、このα型酸
化アルミニウムは高温でも安定なアルミナ膜であり高温
特性に優れる長所があるものの、非酸化膜の上に直接成
膜するためには高温で成膜する必要があり、α型酸化ア
ルミニウムの結晶粒径が大きくなり機械特性が低下する
欠点がある。
【0005】このため従来より、前記非酸化膜の表面を
酸化させ酸化膜生成の基点を形成した後に酸化アルミニ
ウムを形成することにより1000〜1020℃と比較
的低温でα型酸化アルミニウムを得る手法が常用されて
いる。図3はこのような非酸化膜と酸化膜の界面近傍を
模式的に示したものであり、基体側に形成された非酸化
膜3とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1との間
に結合層2が存在している。上記の通り結合層2は一般
に非酸化膜3の表面を酸化させることにより作製され、
その厚さは1μm以下と薄い。このため、一見非酸化膜
3の上に直接酸化膜1が形成されているように見える
が、本発明では非酸化膜3上に形成された酸化層をその
機能と特性を明確にするためその製法に関わらず全て結
合層2として表記する。
【0006】上記のように結合層2を非酸化膜3表面の
酸化により形成した後に成膜したα型酸化アルミニウム
を主とする酸化膜1は密着強度が充分ではなく、切削時
に酸化膜1がその下地である非酸化膜3から早期に剥が
れる事故が発生することがある。このためα型酸化アル
ミニウムを主とする酸化膜1と基体側に形成された非酸
化膜3との間の密着強度を高めるために結合層2の形成
方法に種々の工夫がなされてきた。
【0007】例えば、特開平6−316758号では鋳
鉄に対する切削性能を向上させるため、下地にTiCN
層(図3の3)を形成した後、酸化ポテンシャルがH2
Oの20ppm未満の濃度であるH2キャリアガスを用
い、CO2、CO及びAlCl3の順序に反応ガスを順次
供給することによりアルミナの核形成を開始させ、核形
成時の温度を約1000℃にしてα−アルミナ膜を形成
することにより、(012)面からの等価X線強度TC
(012)が1.3より大きいアルミナ層を提案してい
る。この場合、TiCN層(図3の3)の表面にまず酸
化ポテンシャルがH2Oの20ppm未満の濃度である
2キャリアガスおよびCO2ガス、COガスを流すこと
によりTiCN層表面が酸化されることにより結合層
(図3の2)が形成され、その後、更にAlCl3を加
えて流すことによりα−アルミナ膜が形成されているも
のと考えられる。
【0008】また、他の工夫としては、耐摩耗性と耐欠
損性を高めるために、X線回折で(220)面に最強ピ
ークが現れるTiの炭化物、炭窒化物、および炭窒酸化
物のうちの一種の単層または二種以上の複層からなる内
層と、κ型酸化アルミニウム、またはκ型酸化アルミニ
ウムとα型酸化アルミニウムからなる外層とで構成され
た表面被覆硬質合金製切削工具が特開昭63−1952
68により提案されている。
【0009】しかし、これらの提案はいずれもTiCN
層表面を酸化することにより結合層(図3の2)を形成
し、その後、更にAlCl3を加えて流すことによりα
−アルミナ膜を形成(特開平6−316758号)した
り、X線回折で(220)面に最強ピークが現れるTi
の炭化物、炭窒化物、および炭窒酸化物のうちの一種の
単層または二種以上の複層からなる内層上にκ型酸化ア
ルミニウム、またはκ型酸化アルミニウムとα型酸化ア
ルミニウムからなる外層を形成(特開昭63−1952
68)するものであり、結合層の組織の形状に関しては
何ら考慮されていない。また、特開昭63−19526
8はκ型酸化アルミニウムを主にする酸化膜を外層に用
いるものであり、α型酸化アルミニウムは従来例に記載
されているがその有効性が認められておらず、一般にT
iC膜等との密着性の高いκ型酸化アルミニウムに対し
て密着性が劣り、膜剥がれを生じやすいα型酸化アルミ
ニウムには適用出来ないものである。また、その内層の
X線回折の最強ピークを(220)面とのみ規定してお
り他の(111)面、(311)面に関しては考慮され
ていない。
【0010】また、酸化アルミニウムの下層の結晶粒の
形状を規定したものとしては特開平7−328808、
特開平7−328809、特開平7−328810、特
開平7−331443、特開平8−1410、特開平8
−1411があるがいずれもκ型酸化アルミニウムを主
とする酸化膜に関するものであり密着性が劣り、膜剥が
れを生じやすいα型酸化アルミニウムには適用出来ない
ものである。また、酸化層に直接接触する結合層中の酸
化層(例えばTiCO、TiCNO等。)はいずれも粒
状の結晶形状をもっており、唯一縦長状の結晶形状を持
つTiCNはその上には直接α型酸化アルミニウムを主
とする酸化膜を形成出来ないものである。
【0011】また、酸化アルミニウムの下層の結晶形状
を規定したものとしては特開平7−314207があ
り、炭化チタンまたは炭窒酸化チタンからなる結晶粒が
粒状の組織を有する上層上に結晶粒が粒状の組織を有す
る酸化アルミニウムからなる最上層を形成した表面被覆
WC基超硬合金製切削工具が提案されているが、炭化チ
タンまたは炭窒酸化チタンの結晶粒形は粒状であり、針
状、棒状、板状のいずれでもなくアンカー効果等による
密着性の向上は期待出来ないものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は超硬等の
基板上にα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜を含む
多層膜を形成して作製した切削工具を切削テストし、そ
の破損部を詳細に評価した結果、上記のようにα型酸化
アルミニウムを主とする酸化膜1が下地である非酸化膜
3との界面の結合層部分(図3の2)から剥がれたり、
酸化膜1自体にクラックが入り結晶粒が脱落したりして
いることがわかった。
【0013】一般に、前記結合層2はTiC、TiN、
TiCN膜等より成る非酸化膜3の表面をH2OとCO2
との混合ガスで酸化することにより作製しているが次の
ような理由から品質の良いα型酸化アルミニウムを主と
した酸化膜被覆工具を安定して生産することは困難であ
る。即ち、結合層2成膜時に、CO2等による酸化性ガ
スの濃度が高いと主にTi23(X線パターンはAST
M No.10−63参照)やTi35(ASTMN
o.11−217)あるいはTiO2(ASTMファイ
ル No.21−1276)が形成され、下地との密着
強度が低く、酸化層(結合層)自体がもろく機械強度が
低くなる欠点が生じる。一方、CO2等による酸化性ガ
スの濃度を下げてTi23、Ti35、TiO2が形成
されないように非酸下膜3の酸化を行うと下地であるT
iC、TiN、TiCN等の非酸化膜3表面の酸化が不
十分になり、酸化アルミニウムの成膜温度が1020℃
以下ではκ型酸化アルミニウムが形成されα型酸化アル
ミニウムが安定して形成されず、一方酸化アルミニウム
の成膜温度を1030℃以上にするとα型酸化アルミニ
ウムを主とする酸化膜1の粒径が粗大化するとともに、
中心線平均面粗さRaや最大面粗さRmaxも荒くなり
被覆工具の特性が低下する欠点が生じる。
【0014】上記問題を踏まえて、本発明が解決しよう
とする課題は、α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜
1とその下地(基体側の膜)である非酸化膜3との間に
あり両膜に直接接触する薄い結合層2の両界面の密着性
あるいは結合層2自体の機械強度を高めることにより、
切削特性等の品質が安定した長寿命の酸化アルミニウム
被覆工具を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明らは上記課題を解
決するために先に特願平8−192795、特願平8−
334948を提案し、更なる改善策を鋭意研究してき
た結果、下地であるTiC、TiN、TiCN等の非酸
化膜3とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1との
間に形成する薄い結合層2を下記のように改質すること
で非酸化膜3およびα型酸化アルミニウムを主とする酸
化膜1との密着性が改善され、上記問題点が解消するこ
とを見出し、本発明に想到した。
【0016】すなわち本発明は、基体表面に周期律表の
IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、
酸化物、酸炭化物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれ
か一種の単層皮膜または二種以上からなる多層皮膜、並
びに結合層とα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜と
が形成されている酸化アルミニウム被覆工具において、
前記結合層が針状および/または棒状の突起を持つ組織
を有していることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工
具である。また、基体表面に周期律表のIVa、Va、VI
a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化
物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれか一種の単層皮
膜または二種以上からなる多層皮膜、並びに結合層とα
型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とが形成されてい
る酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合層が板
状組織を有していることを特徴とする酸化アルミニウム
被覆工具である。また、前記結合層が立方晶であること
を特徴とする酸化アルミニウム被覆工具である。また、
前記結合層が基体表面の接線と平行方向に(111)
面、(220)面、(311)面の配向が強く、(20
0)面の配向が相対的に弱いことを特徴とするものであ
る。また、前記結合層の等価X線回折強度PR(20
0)がPR(111)、PR(220)、PR(31
1)のいずれかよりも小さいことを特徴とするものであ
る。また、前記結合層の等価X線回折強度PR(11
1)、PR(200)、PR(220)、PR(31
1)、PR(222)のうちPR(311)あるいはP
R(111)が最も大きいことを特徴とするものであ
る。また、前記結合層(図3の2)の結晶粒がツイン構
造を持っていることを特徴とするものである。また、前
記結合層(図3の2)の[110]結晶軸と前記酸化膜
(図3の1)を主に構成するα型酸化アルミニウムの
(100)面に垂直な軸とが略平行であることを特徴と
するものである。また、前記各膜間の密着性が高まるよ
うに、前記結合層(図3の2)の(111)面格子縞と
前記酸化膜(図3の1)を主に構成するα型酸化アルミ
ニウムの(003)面格子縞とが界面において連続して
いることを特徴とするのものである。ここで、格子縞と
は、透過電子顕微鏡(TEM)で結晶を高倍率で観察し
たときに得られる格子像の縞模様の縞のことを云う。二
つ以上の相接する膜(結晶)の格子像を撮影しようとし
た時、これらの膜の結晶方位が共に透過電子顕微鏡の入
射ビームと大略平行な時にのみ両者の結晶の格子像が同
時に観察される。α型酸化アルミニウムを主とする酸化
膜1の格子縞と結合層2の格子縞とが界面において連続
しているということは即ち両結晶の結晶方位が共に入射
ビームに大略平行であり、α型酸化アルミニウムを主と
する酸化膜1と結合層2の両者がエピタキシャルの関係
にあることを示している。両膜の結晶方位が平行でなく
片一方の結晶方位のみが透過電子顕微鏡の入射ビームに
平行なときは、その結晶のみの格子像が得られ、平行で
ないもう片一方の結晶の格子像は得られない。また、両
膜の結晶方位が平行であっても両膜が直接接触しておら
ず他の物質が介在している場合には、両膜の格子像は得
られるものの間にある介在物により格子縞が途中で中断
し両者の格子縞は連続しない。また、本発明は結合層の
表面付近において大略二つの三角形の境界上に板状、針
状、棒状のいずれか一種または二種以上の結晶が形成さ
れている組織を有していることを特徴とするものであ
る。また、本発明はα型酸化アルミニウムを主とする酸
化膜の表面にチタンの窒化膜が形成されていることを特
徴とするものである。また、本発明は周期律表のIVa、
Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物のいずれ
か一種または二種以上とFe、Ni、Co、W、Mo、
Crのいずれか一種または二種以上とを主体とする超硬
質合金を基体とすることを特徴とする酸化アルミニウム
被覆工具である。
【0017】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳説する。図1は
代表的な本発明の被覆工具においてα型酸化アルミニウ
ムを主とする酸化膜(図3の1)とこの酸化膜に直接接
触しているTiC/TiCO結合層(図3の2)との界
面近傍を(株)日立製作所製の透過電子顕微鏡(H−9
000UHR)により400万倍で観察したものの一例
である。この本発明品は後述の実施例1の条件で基体表
面にTiNとTiCNを成膜した後、TiC層を薄く成
膜しそのまま連続してTiCの成膜に用いた構成ガスに
さらにCO2ガスを追加して反応させてTiCO層を成
膜することによりTiC層/TiCO層よりなる結合層
を作製した後、その表面上にα型酸化アルミニウムを成
膜したものである。また、図2は図1に対応した模式図
である。図1から求めた格子縞間隔と同箇所の透過電子
線回折像や電子線エネルギー損失分析(EELS)の結
果および後述の図5等から、図1の中央部の結合層2の
針状、棒状または板状結晶はTi、C、Oからなり結晶
構造が立方晶であるTiCOであること、およびその両
側(図2で示される1−1、1−2)はAlとOとから
なり結晶構造が六方晶であるα−Al23であることが
確認された。すなわち、図1の右側から左方向に順に、
α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1−1、この酸
化膜1−1と結合層2との界面4、結合層2、結合層2
内の双晶(すなわちツイン構造部)の境界5、結合層
2、α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1−2が写
っている。また、格子縞間隔および格子縞間の角度を解
析した結果、格子縞6はTiCOの(111)結晶面か
らなり、格子縞7はα−Al23の(003)結晶面か
らなることが確認された。さらに、TiCO結晶粒はそ
の中央部の直線状界面(図2の5で示される部分)で二
つに分かれておりツイン構造を持つことがわかる。ま
た、図2の2で示される部分はTiCOの[110]結晶
軸方向から、図2の1−1で示される部分はα−Al2
3の(100)面に垂直な軸方向から各々電子線を入
射したときに観察される結晶組織を示しており、両者が
同時に観察されていることからTiCOの[110]結晶
軸とα−Al23の(100)面に垂直な軸とが略平行
になっていることがわかる。また、図1、図2よりTi
COの(111)面による格子縞6とα−Al23
(003)面による格子縞7とがTiCOとα−Al2
3の1−1との界面4において連続であることがわか
る。
【0018】次に、本発明品の代表的な皮膜部分を試料
面にして2θ−θ走査法のX線回析方法により測定を行
った。X線源にはCuのKα1(波長λ=1.5405
A)を用いた。図4はこのX線回折結果を示したもので
ある。図4より本発明品の結合層はTiCと同じ立方晶
構造を持ち面間距離即ち2θ値もほとんどTiCと同じ
であり、(111)面、(222)面、(311)面の
X線回折強度が強く、(200)面のX線回折強度が弱
いことがわかる。ここで、結合層のX線回折パターンを
測定する時、酸化膜等の膜厚が厚く結合層のX線回折強
度が充分とれない場合は、酸化膜表面を軽く研磨し酸化
膜の膜厚を薄くした状態でX線回折することで結合層の
X線回折強度を確保しても良い。
【0019】結合層の(hkl)面からのX線ピーク強
度を定量的に評価するために次式により(hkl)面に
よる等価ピーク強度PR(hkl)を定義した。ここで
I(hkl)は(hkl)面による実測時のX線回折強
度を表し、I0(hkl)はASTMファイル No.3
2−1383 (Powder Diffractio
n File Published by JCPDS
International Center for
Diffraction Data)に記載されてい
るTiCのX線回折強度であり、配向が等方的である粉
末粒子の(hkl)面からのX線回折強度を表してい
る。PR(hkl)は、ASTMのデータに記載された
等方粒子のX線ピーク強度に対する、X線回折で実測し
た皮膜の(hkl)面からのX線回折ピーク強度の相対
強度を示しており、PR(hkl)値が大きい程(hk
l)面からのX線ピーク強度が他のピーク強度よりも強
く、(hkl)方向に測定サンプルが配向していること
を示す。 PR(hkl)={I(hkl)/I0(hkl)}/[Σ
{I(hkl)/I0(hkl)}/5] 但し、(hkl)=(111)、(200)、(22
0)、(311)、(222) 図4等より、結合層のPR(hkl)を測定すると後述
の実施例(表1、図15)で詳説するように、本発明品
の結合層のPR(111)値、PR(220)値とPR
(311)値とが大きく、PR(200)値は小さい値
に留まり、(200)面の配向が弱く、(111)、
(220)、(311)面への配向が強いことがわか
る。なお、結合層の配向は透過電子顕微鏡を用いて結合
層の複数個の結晶粒子をその結合層と大略垂直方向から
電子線回折像を取り解析することによっても求められ
る。この場合、10個の結晶粒子を観察し、その過半が
(111)、(220)、(311)面からなり(20
0)面が3個以下であれば(200)面の配向が小さい
と考えられる。
【0020】本発明品のα型酸化アルミニウムを主とす
る酸化膜の密着性や機械特性が優れる理由は明確ではな
いが次のことが考えられる。本発明品のα型酸化アルミ
ニウムを主とする酸化膜は図1のように結合層2の形状
が針状、棒状または板状結晶の形を示しており、そのま
わりにα型酸化アルミニウム1が形成されることにより
いわゆるアンカー効果が期待される。また、結合層2の
[110]軸とα型酸化アルミニウム1の(100)面に
垂直な軸とがミクロ観察可能な略平行関係にある、ある
いは、TiCOの(111)面格子縞6とα型酸化アル
ミニウムの(003)面格子縞7とが連続であること、
すなわち、結合層2からα型酸化アルミニウム1がエピ
タキシャルに成長していることにより両者の密着性が優
れることが期待される。結合層2がTi、C、N、O等
からなる立方晶であることで立方晶であるTiC、Ti
CN、TiN等の下地膜(図3の3)とエピタキシャル
関係になり易く、下地膜3との密着性が確保でき、しか
も機械強度が低くその部分から膜剥がれが生じ易くなる
Ti23(結晶構造は三方晶系)、Ti35(結晶構造
は単斜晶系)あるいはTiO2(結晶構造は斜方晶系)
を結合層に用いることを避けることができる。また、結
合層(図3の2)が(111)、(311)、(22
0)面方向に配向し、(200)面方向の配向が弱いこ
と、あるいは、結合層2がツイン構造を持つことによ
り、結合層2の表面付近が針状あるいは板状の結晶構造
を取り易くなり、前記の様にアンカー効果により酸化膜
(図3の1)との密着性が高まったものと考えられる。
なお、上記内容は結合層あるいはα型酸化アルミニウム
の界面付近の全ての領域で成立する必要はなく、透過電
子顕微鏡により結合層近傍を5万倍で観察したときに上
記内容が成立した部分が局部的に存在すれば、本発明に
よる優れた作用効果を獲得することが可能である。ま
た、結合層2の表面付近において大略が三角形の一辺を
共有した二つの三角形の境界上に板状または針状、棒状
の結晶が形成されている組織を有していることにより、
結合層が(111)、(311)、(220)面方向に
配向し(200)面方向の配向が弱くなる、あるいは、
結合層2がツイン構造を持ち易くなり、結合層2の表面
の針状、棒状あるいは板状の形状を持つ結晶粒子による
アンカー効果により高い密着性が得られ、膜剥がれを起
こし難く、長寿命の酸化アルミニウム被覆工具を得るこ
とができる。結合層2の表面付近の組織は結合層2を成
膜後その上の酸化膜等を成膜せず、その試料表面の組織
を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察す
ることにより確かめられる。あるいは結合層2上に酸化
膜等を成膜した後でも試料の裏、表面を研磨しミリング
加工した後結合層近傍を電界放射型走査電子顕微鏡(F
E−SEM)あるいは透過電子顕微鏡で観察することに
よっても確かめられるが、この場合は結合層の一部しか
観察されないため、大略三角形状の組織や板状、針状、
棒状の結晶粒子の断面が観察されることにより上記組織
を持つことが確認できる。
【0021】本発明のα型酸化アルミニウムを主とする
酸化膜は、必ずしも最外層である必要はなく、α型酸化
アルミニウムを主とする酸化膜の上に更に少なくとも一
層のチタン化合物(例えばTiN層等。)を被覆しても
良い。
【0022】本発明における被覆方法には既知の成膜方
法を適用することが可能である。例えば、通常の化学蒸
着法(熱CVD)、プラズマを付加した化学蒸着法(P
ACVD)等を用いることができる。用途は切削工具に
限るものではなく、α型酸化アルミニウムを主とする酸
化膜を含む単層あるいは多層の硬質皮膜により被覆され
た耐摩耗材や金型、溶湯部品等でも良い。酸化膜はα型
酸化アルミニウム単相に限るものではなく、α型酸化ア
ルミニウムが主であれば、他の酸化物、例えばα型酸化
アルミニウムとκ型酸化アルミニウムとの混合膜やγ型
酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化ア
ルミニウム、χ型酸化アルミニウム等、他の構造の酸化
アルミニウムとの混合膜あるいはα型酸化アルミニウム
と酸化ジルコニウム等他の酸化物との混合膜であっても
同様の作用効果を得ることが可能である。なお、本発明
のα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とは、80v
ol%以上のα型酸化アルミニウム(α−Al23)を
含むものをいう。
【0023】次に本発明による酸化アルミニウム被覆工
具を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれ
ら実施例の範囲に限定されるものでないことは言うまで
もない。
【0024】(実施例1)WC72%,TiC8%,
(Ta,Nb)C11%,Co9%(%はいずれも重量
%を示す。)の組成よりなる切削工具用超硬基板をCV
D炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法によりH2
キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガス
に用い0.3μm厚さのTiNを900℃でまず形成
し、次に、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとCH3
CNガスを原料ガスに用い6μm厚さのTiCN膜を9
00℃で成膜することにより非酸化膜(図3の3)を形
成した後、950〜1020℃でH2キャリヤーガスと
TiCl4ガスとCH4ガスとをトータル2,200ml
/分を5〜30分間流してまず成膜し、そのまま連続し
て本構成ガスに更に2.2〜110ml/分のCO2
スを追加して5〜30分間成膜することによりTiC層
とTiCO層とが薄く積層されたTiC/TiCO結合
層(図3の2−1、2−2)を作製した。その後、続い
てAl金属小片を詰め350℃に保温した小筒中にH2
ガスを310ml/分とHClガス130ml/分とを
流すことにより発生させたAlCl3ガスとH2ガス2l
/分とCO2ガス100ml/分とをCVD炉内に流し
1010〜1020℃で反応させることにより所定の厚
さの酸化アルミニウム膜(図3の1)を成膜し本発明品
を作製した。
【0025】図5は実施例1の代表的な酸化アルミニウ
ム被覆工具において観察された、α型酸化アルミニウム
を主とする酸化膜(図3の1に対応。)、結合層(図3
の2に対応。)、下地膜(図3の3に対応。)近傍の透
過電子顕微鏡(TEM)写真の一例である。また、図6
は図5に対応した模式図である。 図5、図6より、非酸
化膜であるTiCNの結晶粒(図6の3はその一部)上
に結合層(図6の2はその一部)が形成されその上にα
型酸化アルミニウムを主とする酸化膜(図6の1はその
一部)が形成されている。図6に示される2a、2b部
分から図5の本発明の結合層2が平坦部とともに針状、
棒状、または板状の突起形状を一部に持つことがわか
る。ここで、図5の透過電子顕微鏡写真は成膜面の膜断
面を厚さ20μm以下に研磨した後更にイオンミリング
により膜断面の厚さを極端に薄くした状態で電子線を膜
断面を透過させることによって観察したものである。こ
のため、結合層の針状、棒状、または板状等の突起部分
が観察される確率は低く、図5のように結合層2と酸化
膜1との大部分の界面が平坦に写り、突起形状部は一部
(2a、2b)にのみ観察される結果になっている。図
5のように、一視野に一乃至二箇所の突起部分が観測さ
れると言うことはかなりの頻度で針状、棒状、または板
状の突起部分が結合層2中にあると考えられる。なお、
上記図1は図5の2a部、すなわち、α型酸化アルミニ
ウムを主とする酸化膜1と結合層2との界面近傍の格子
像写真を示したものである。したがって、上記図1、図
5より本発明品の結合層2が立方晶の結晶構造を持ち、
その一部は針状、棒状または板状結晶の形状を示してお
り、そのまわりにα型酸化アルミニウム1が形成されて
いること、また、結合層2がツイン構造を持っているこ
と、また、結合層2の[110]軸とα型酸化アルミニウ
ム1の(100)面に垂直な軸とが略平行関係にあり、
TiCOの(111)面格子縞6とα型酸化アルミニウ
ムの(003)面格子縞7とが界面4において連続であ
ること、すなわち、結合層2からα型酸化アルミニウム
の1−1部分がエピタキシャルに成長していることがわ
かる。また、この実施例1で作製した被覆膜の代表的な
X線回折結果は上記図4に示したものである。図4から
求めた結合層の測定値、各ピークの測定値IとASTM
ファイルに記載されている強度値I0との比I/I0
式(1)により求めた等価X線強度比PR(hkl)値
を表1にまとめた。また、図15のデータ曲線(a)
は、図4および表1から求めたPR(hkl)値を図示
したものである。図4、表1、図15のデータ曲線
(a)より、実施例1で作製した代表的な本発明品の結
合層は(200)面のI/I0値が0.51、PR(2
00)値が0.10と小さく(200)面の配向が弱い
こと、および(311)面、(220)面、(111)
面の順に配向が強いことがわかる。なお、表1に記した
2θの値はX線源にKα1線を用いた時に得られる2θ
値をASTMに記載されているTiCのd定数から計算
したものである。実測される2θ値はその前後で微妙に
異なるため、図4等において結合層のピークを同定する
ときは、2θ値とともに、その前後のWCのピーク、T
iCNのピーク、α-Al2O3、κ-Al2O3のピーク等との位
置関係も考慮して決定した。
【0026】
【表1】
【0027】(実施例2)上記実施例1と同様の手順
で、0.3μm厚さのTiNを900℃で、6μm厚さ
のTiCN膜を900℃で各々形成した後、TiC/T
iCO結合層を950〜1010℃で成膜した。次い
で、AlCl3ガスとH2ガス2l/分とCO2ガス10
0ml/分およびH2Sガス8ml/分とをCVD炉内
に流し1010℃で酸化アルミニウムを成膜し、その
後、H2ガス4l/分とTiCl4ガス50ml/分とN
2ガス1.3l/分を流し1010℃で窒化チタニウム
膜を形成した本発明の酸化アルミニウム被覆工具を作製
した。また、結合層の成膜状態を観察するために、上記
と同一の条件でTiN、TiCN、TiC/TiCO結
合層までを成膜した後、酸化アルミニウム膜を成膜せず
に試料を取り出しその試料表面を電界放射型走査電子顕
微鏡(FE−SEM)により観察した結果を図11の組
織写真に示した。また、図11に対応した模式図を図1
2に示した。図11、図12より、この実施例2でTi
N,TiCN,TiC/TiCO結合層まで成膜した状
態で観察した結合層表面は大略三角形の一辺を共有した
二つの三角形(例えば、図12の2c、2dで示される
部分)の境界線上に板状または針状、棒状の結晶(例え
ば、図12の2eで示される部分)が成長していること
がわかる。透過電子顕微鏡で観察した結果、この三角形
の結晶粒子は(111)面あるいは(311)面が基体
表面の接線と大略平行方向に成長したものであり、二つ
の三角形の境界上に成長した板状または針状、棒状の結
晶粒子は主に(110)面が三角形の結晶粒子の(11
1)面や(311)面と大略垂直方向に成長しているこ
とが確認された。また、このTiC/TiCO結合層ま
で成膜した試料のX線回折パターンを実施例1と同様の
条件で測定した結果を図13に示した。図13から求め
た結合層の各ピークの測定値IとASTMファイルに記
載されている強度値I0との比I/I0 、PR(hk
l)値を表2にまとめた。図15のデータ曲線(b)
は、図13および表2から求めたPR(hkl)値を図
示したものである。図13、表2、図15のデータ曲線
(b)より、本結合層は(200)面のI/I0値が
4.68、PR(200)値が0.28と低く(20
0)面の配向が弱いこと、および(111)面、(31
1)面、(220)面の順に配向が強いことがわかる。
【0028】
【表2】
【0029】図7は実施例2において結合層の上にその
まま更に酸化膜と窒化チタニウム膜を形成した本発明の
被覆工具のミクロ組織の一例を示すものであり、α型酸
化アルミニウムを主とする酸化膜(図3の1に対応。)
と結合層(図3の2に対応。)近傍の透過電子顕微鏡
(TEM)写真(倍率30万倍)である。また、図8は
図7に対応した模式図である。図7、図8より、結合層
2の一部が針状、棒状、ないしは板状の突起形状(図8
の2fで示される部分)を示し、ツイン構造(双晶)を
持ち、α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜1がその
まわりに形成されていることがわかる。図9は図7の2
f部近傍を倍率300万倍に拡大して観察したものであ
り、左方向が膜表面方向である。また、図10は図9に
対応した模式図である。図9、図10ではその上から下
に向かって上記図2と同様に順に、α型酸化アルミニウ
ムを主とする酸化膜1、α型酸化アルミニウムを主とす
る酸化膜1と結合層2との界面4、結合層2、結合層2
の双晶の境界5、結合層2、α型酸化アルミニウムを主
とする酸化膜1が写っている。そして、図9の結合層2
がツイン構造を持ち、結合層2の格子縞9と酸化膜1の
格子縞10とが連続であることが図9の上右側の界面
(図10で4と記されている部分)近傍からわかる。ま
た、この本発明品のX線回折パターンを実施例1と同一
の条件で測定した結果を図14に示した。図14から求
めた結合層の測定値、各ピークの測定値IとASTMフ
ァイルの強度値I0との比I/I0 、PR(hkl)値
を表3にまとめた。図15のデータ曲線(c)は、図1
4および表3から求めたPR(hkl)値を図示したも
のである。図14、表3、図15のデータ曲線(c)よ
り、本結合層は(200)面のI/I0 値が0.86、
PR(200)値が0.08と低く(200)面の配向
が弱いこと、および(111)面、(311)面、(2
20)面の順に配向が強いことがわかる。
【0030】
【表3】
【0031】次に、実施例1および実施例2の条件で製
作した本発明品の切削工具各5個を用いて、鋳物の被削
材を以下の条件で1時間連続切削試験した後に酸化アル
ミニウム被覆膜の剥離状況を倍率200倍の光学顕微鏡
により観察し、評価した。 被削材 FC25(HB230) 切削速度 300m/min 送り 0.3mm/rev 切り込み 2.0mm 水溶性切削油使用 この切削試験の結果、上記本発明品はいずれも1時間連
続切削後もアルミナ膜の剥離が見られず切削工具として
優れていることが判明した。また、上記本発明品の切削
工具各5個を以下の条件で断続切削し、1,000回衝
撃切削後に刃先先端の欠け状況を倍率50倍の実体顕微
鏡で観察し、評価した。 被削材 SCM材 切削条件 100 m/min 送り 0.3 mm/rev 切り込み 2.0 mm 切削試験後、上記本発明品はいずれも刃先に欠損不良を
発生すること無く使用でき、長寿命であった。
【0032】(従来例1)結合層の作製方法の差異によ
るα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜の密着性およ
び切削特性への影響を明らかにするために、本発明品と
同様にWC72%、TiC8%、(Ta、Nb)C11
%、Co9%(%はいずれも重量%を示す。)の組成よ
りなる切削工具用超硬基板の表面に0.3μm厚さのT
iN膜と6μm厚さのTiCN膜を形成した後、H2
ャリヤーガスとTiCl4ガスとCH4ガスを原料ガスに
用い1010℃で5〜30分間反応させTiC膜を成膜
した後、TiCl4ガスとCH4ガスとを止め、作製した
TiC膜上にH2キャリヤーガスとCO2ガスとを流して
1010℃で15分間TiC膜を酸化することにより結
合層を作製した。その後、実施例1と同一の条件で10
20℃でH2ガス、AlCl3ガスおよびCO2ガスによ
り所定の厚さの酸化アルミニウム膜を成膜した従来の酸
化アルミニウム被覆工具を作製した。
【0033】従来例1において、結合層を作製した後、
1020℃でH2ガス、AlCl3ガスおよびCO2ガス
により酸化アルミニウム膜を作製した従来品の結合層近
傍を透過電子顕微鏡で観察したところ、結合層とα型酸
化アルミニウムとの界面には針状、棒状あるいは板状の
突起形状を示す結晶は見られなかった。
【0034】また、従来例1で作製した酸化アルミニウ
ム被覆工具の表面の酸化アルミニウム層を研磨により薄
くした後上記2θ−θ法によりその皮膜のX線回折を行
ったところ、結合層ではTi23(三方晶系)、Ti3
5(単斜晶系)のX線回折ピークが観察され、立方晶
系の結合層を示すX線回折ピークは観察されなかった。
【0035】(従来例2)また、従来例1と同様にして
結合層を作製した後、1010℃でAlCl3ガス、H2
ガス、CO2ガス、H2Sガスにより所定の厚さの酸化ア
ルミニウム膜を成膜し、その後、H2ガス4l/分とT
iCl4ガス50ml/分とN2ガス1.3l/分を流し
1010℃で窒化チタニウム膜を形成した従来の被覆工
具を作製した。また、結合層の成膜状態を観察するため
に、上記従来例1と同一の条件でTiN、TiCN、結
合層までを成膜した後、酸化アルミニウム膜を成膜せず
に試料を取り出しその試料表面を電界放射型走査電子顕
微鏡(FE−SEM)により観察したところ、結合層表
面には粒状の結晶のみが観察され、上記本発明品で観察
されたような大略三角形の一辺を共有した二つの三角形
の境界上に板状または針状、棒状の結晶は観察されなか
った。また、作製したこの試料のX線回折を上記実施例
2と同一条件で行った結果、PR(200)値が1以上
を示し、(200)面の配向が強かった。
【0036】従来例1、2で作製した切削工具各5個を
用いて上記実施例と同一の条件で連続切削試験を行った
結果、この従来例品はいずれも10分間連続切削後に酸
化アルミニウム膜の剥離が見られた。また、従来例1、
2で作製した切削工具各5個を上記実施例と同一条件で
断続切削し、1,000回衝撃切削後に刃先先端の欠け
状況を倍率50倍の実体顕微鏡で観察した結果、いずれ
にも大きな欠けが発生しており、切削工具として劣って
いることが判明した。
【0037】以上より、結合層の組織形態、配向および
格子縞等のミクロ組織を制御することにより高密着性の
酸化アルミニウム膜を被覆した工具を得られることがわ
かる。また、結合層の組成はTiC/TiCOに限るも
のではなく、TiN/TiNO、TiCN/TiCN
O、TiC/TiCNO、TiCN/TiCOのいずれ
かまたはこれらを組み合わせた複数層でも上記実施例と
同様の作用効果が得られた。また、下地膜はTiCNに
限るものではなく、結合層中の非酸化膜(図3の2−
2、例えばTiC/TiCO結合層中のTiC)と同一
物(TiC)でも上記実施例と同様の作用効果が得られ
た。
【0038】
【発明の効果】上述のように、本発明によれば、基体表
面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化
物、炭窒化物、酸化物、酸炭化物、酸窒化物および酸炭
窒化物のいずれか一種の単層皮膜または二種以上からな
る多層皮膜上に、針状、棒状、板状の突起を示す組織を
持つ結合層を介してα型酸化アルミニウムを主とする酸
化膜が形成されていることにより膜の密着性が良く、機
械特性の優れた長寿命の酸化アルミニウム被覆工具が実
現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる酸化アルミニウム被覆工具のセ
ラミック材料の組織写真の一例である。
【図2】図1に対応した模式図である。
【図3】酸化アルミニウム被覆工具の膜構成を説明する
ための模式図である。
【図4】本発明に係わる酸化アルミニウム被覆工具のX
線回析パターンの一例を示す図である。
【図5】本発明に係わる酸化アルミニウム被覆工具のセ
ラミック材料の組織写真の他の例である。
【図6】図5に対応した模式図である。
【図7】本発明に係わるセラミック材料の組織写真の一
例である。
【図8】図7に対応した模式図である。
【図9】図7の局部を拡大した本発明に係わるセラミッ
ク材料の組織写真である。
【図10】図9に対応した模式図である。
【図11】本発明に係わるセラミック材料(結合層表
面)の組織写真の一例である。
【図12】図11に対応した模式図である。
【図13】本発明に係わる結合層以下の膜のX線回折パ
ターンの一例を示す図である。
【図14】本発明に係わる酸化アルミニウム被覆工具の
X線回折パターンの他の例を示す図である。
【図15】本発明に係わる結合層のX線回析強度比を示
す図である。
【符号の簡単な説明】
1 酸化膜、2 結合層、3 非酸化膜(下地膜)。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 植田 広志 千葉県成田市新泉13番地の2日立ツール株 式会社成田工場内 (72)発明者 島 順彦 千葉県成田市新泉13番地の2日立ツール株 式会社成田工場内

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
    族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化
    物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれか一種の単層皮
    膜または二種以上からなる多層皮膜、並びに結合層とα
    型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とが形成されてい
    る酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合層が針
    状および/または棒状の突起を持つ組織を有しているこ
    とを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  2. 【請求項2】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
    族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化
    物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれか一種の単層皮
    膜または二種以上からなる多層皮膜、並びに結合層とα
    型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とが形成されてい
    る酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合層が板
    状組織を有していることを特徴とする酸化アルミニウム
    被覆工具。
  3. 【請求項3】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
    族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、酸炭化
    物、酸窒化物および酸炭窒化物のいずれか一種の単層皮
    膜または二種以上からなる多層皮膜、並びに結合層とα
    型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とが形成されてい
    る酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合層が立
    方晶であることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工
    具。
  4. 【請求項4】 前記結合層が基体表面の接線と平行方向
    に(111)面、(220)面、(311)面の配向が
    強く、(200)面の配向が相対的に弱いことを特徴と
    する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の酸化アル
    ミニウム被覆工具。
  5. 【請求項5】 前記結合層の等価X線回折強度PR(2
    00)がPR(111)、PR(220)、PR(31
    1)のいずれかよりも小さいことを特徴とする請求項1
    乃至請求項4のいずれかに記載の酸化アルミニウム被覆
    工具。
  6. 【請求項6】 前記結合層の等価X線回折強度PR(1
    11)、PR(200)、PR(220)、PR(31
    1)、PR(222)のうちPR(311)が最も大き
    いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに
    記載の酸化アルミニウム被覆工具。
  7. 【請求項7】 前記結合層の等価X線回折強度PR(1
    11)、PR(200)、PR(220)、PR(31
    1)、PR(222)のうちPR(111)が最も大き
    いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに
    記載の酸化アルミニウム被覆工具。
  8. 【請求項8】 前記結合層がツイン構造の組織を持って
    いることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか
    に記載の酸化アルミニウム被覆工具。
  9. 【請求項9】 前記結合層の[110]結晶軸と前記酸化
    膜を主に構成するα型酸化アルミニウムの(100)面
    に垂直な軸とが略平行であることを特徴とする請求項1
    乃至請求項8のいずれかに記載の酸化アルミニウム被覆
    工具。
  10. 【請求項10】 前記各膜間の密着性が高まるように、
    前記結合層の(111)面格子縞と前記酸化膜を主に構
    成するα型酸化アルミニウムの(003)面格子縞とが
    界面において連続していることを特徴とする請求項1乃
    至請求項9のいずれかに記載の酸化アルミニウム被覆工
    具。
  11. 【請求項11】 結合層の表面付近において大略二つの
    三角形の境界上に板状、針状、棒状のいずれか1種また
    は二種以上の結晶が形成されている組織を有しているこ
    とを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記
    載の酸化アルミニウム被覆工具。
  12. 【請求項12】 前記α型酸化アルミニウムを主とする
    前記酸化膜の表面にチタンの窒化膜が形成されているこ
    とを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記
    載の酸化アルミニウム被覆工具。
  13. 【請求項13】 周期律表のIVa、Va、VIa族金属の
    炭化物、窒化物、炭窒化物のいずれか一種または二種以
    上とFe、Ni、Co、W、Mo、Crのいずれか一種
    または二種以上とを主体とする超硬質合金を基体とする
    ことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれかに
    記載の酸化アルミニウム被覆工具。
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