JP3781006B2 - 酸化アルミニウム被覆工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削用及び耐摩耗用の酸化アルミニウム被覆工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆工具は超硬質合金、高速度鋼、特殊鋼よりなる基体表面に硬質皮膜を化学蒸着法(CVD)や、物理蒸着法(PVD)により成膜することにより作製される。超硬合金製基体等の表面上にα型酸化アルミニウム(以下、α−Alと記す)膜を被覆した工具として、下記の特許文献1、2、3等が提案されている。
【特許文献1】
特開平10−156606号(第12頁、図1)
【特許文献2】
特開平10−273778号(第10頁、図2、第11頁、図1)
【特許文献3】
特開2000−144427号(第9頁、図1)
【0003】
特許文献1において、超硬合金製基体等の表面上に(110)面のX線回折強度が強く下地膜との密着性が優れるα−Alを主とする酸化膜を被覆した工具を提案している。特許文献2において、結合層の[110]結晶軸とα−Alの(100)面に垂直な軸とが略平行である、あるいは結合層の(111)格子縞とα−Alの(003)格子縞とが界面において連続しており各膜間の密着性が優れる酸化アルミニウム被覆工具を提案している。また、特許文献3において、α−Alの(1010)面からのX線回折強度が強く、結晶粒径が小さい酸化アルミニウム被覆工具を提案している。これら特許の特長は、特許文献1、特許文献2は、α−Al膜の下地膜との高密着性であり、特許文献3は、α−Alの結晶粒径が小さいことであった。しかし、特許文献1と特許文献2とは膜の密着性が優れているものの特許文献3に比べて結晶粒径が若干大きくなる傾向があり、特許文献3は結晶粒径が小さくなるものの膜間の密着性が前記2者に比べて若干劣る傾向があった。特許文献3中では本願の(1010)面を(1.0.10)面と表記しているが両者は同一である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術を改善し、更に膜間の密着性が優れ、結晶粒径を小さくしたα−Al膜を実現することにより、切削耐久特性等、工具特性の優れた酸化アルミニウム被覆工具を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記知見に基づき鋭意検討した結果、基体表面に少なくとも各一層のα型酸化アルミニウム膜を主とする酸化膜とその直下に形成されている少なくともチタンと酸素とを含有する結合膜とからなる酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合膜部とα型酸化アルミニウム膜部の間に結合膜の(001)面とα型酸化アルミニウム膜の(001)hex面とが平行であり、かつ結合膜の(100)面とα型酸化アルミニウム膜の(100)hex面とが平行である方位関係を満たす領域が存在することを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具であり、α−Alを主とする酸化膜の密着性が優れ、かつ結晶粒径が微細であり、工具寿命が極めて長い優れた酸化アルミニウム被覆工具が得られることを見出し、本発明に想到した。即ち、下記(数1)、(数2)式で表させる方位関係を結合膜部とα−Al膜部の間に実現させることにより、両膜間に優れた密着性が得られるとともにα−Al膜の結晶粒径が微細かつ膜表面が平滑になり、工具寿命が極めて長い優れた酸化アルミニウム被覆工具が得られる。
【0006】
【数1】
Figure 0003781006
【0007】
【数2】
Figure 0003781006
【0008】
(数1)、(数2)式で(001)結合膜と(100)結合膜とは結合膜の結晶構造を面心立方としたときの(001)面と(100)面を表しており、(001)hex、α−Alと(100)hex、α−Alとは六方晶系軸で表現したときのα−Alの(001)面と(100)面とを表している。結合膜の結晶構造が面心立方構造であることは電子回折像からわかる。例えば、面心立方構造で格子定数が0.4327nmの場合、[100]入射電子回折像は図1の通りである。図1において、各スポットの上下の数値は面指数と面間距離を表している。
【0009】
【発明の実施の形態】
結合膜部とα−Al膜部の間に(数1)、(数2)式の方位関係を満たす領域が存在すると、結合膜部とα−Al膜部の間に優れた密着性が得られるとともに、α−Al膜の結晶粒径が微細かつ膜表面が平滑になる。以下、この理由を検討する。α−Alは結晶構造がコランダム構造であり格子定数aは0.476nm、格子定数cが1.300nmである。また、結合膜の結晶構造は面心立方構造であり格子定数が約0.431nmであるとして以下を論ずる。実際の結合膜の格子定数はその組成によって若干変動するが、TiCの格子定数0.4327nmからTiNの格子定数0.4242nmの間にあり、以下の考察結果には影響しない。上記の結晶構造と格子定数を有する場合、α−Alの(100)hex面間距離は0.412nm、結合膜の(100)面間距離は0.429nmであり、両面間距離の差異が0.017nmと非常に小さく各面間距離の4.1%にすぎないことがわかる。図2はα−Alの酸素原子位置を(001)hex面に投影した図と結合膜の酸素原子位置を(001)面に投影した図とを重ねて示したものである。図2より、α−Alの(001)hex面と結合膜の(001)面とが平行であり、かつα−Alの(100)hex面の面間隔と結合膜の(100)面の面間隔とが図2中のa、b、c線で示す様に、ほぼ一致することがわかる。以上のことから、結合膜部とα−Al膜部の間に(数1)、(数2)式の方位関係が満たされていると、最密充填層であり酸素原子が最も高密度に配置されているα−Alの(001)hex面が、結合膜の同じく酸素原子密度の高い(001)面と平行であり、しかもその垂直面においても両者の酸素原子位置が周期的に重なるため、これらの酸素原子を通じて両皮膜間に強い密着性が実現される。また、このような方位関係が満たされているときはα−Alの(001)hex面が基体表面に略平行な方向に配向し易くなり、α−Alが[001]軸方向に細長いため、膜厚に対してα−Alの平均結晶粒径が小さくなり、しかも膜表面が平滑になる。
【0010】
(数1)、(数2)式の方位関係を得る方法は成膜に用いるCVD装置によって異なるが、例えば、結合膜直下の皮膜(以下、下地膜と称する。)にTi(CN)膜を用い、これをCHCNとTiClを原料ガスに用いて成膜する所謂MT−CVD法により930℃以上の比較的高温で成膜することにより、基体表面に平行に(311)面を配向させるとともに(100)面も基体表面と比較的平行な方向にバランス良く配向させると良い。そして、更に、結合膜成膜時の酸素量を精密に制御することにより、Ti(CN)膜表面に結合膜をエピタキシャルに成長させ、結合膜を面心立方構造にすると同時に、(311)面と(100)面とを基体表面に平行にバランス良く配向させることが出来、しかも結合膜表面部に薄板状の突起型結晶粒を形成させると更によい。下地膜と結合膜とを、例えば、このような方法で成膜する事により、結合膜の(001)面の表面にα−Alの(001)hex面がエピタキシャルに成長し、(数1)、(数2)式の方位関係が得られるようになる。ここで、結合膜中の酸素量が少ないと、直上にκ−Alが成膜されやすくなる。Ti(CN)膜と結合膜の最適成膜条件は用いるCVD装置によって大きく異なる。また、本発明はこれらの成膜条件に限定されるものでない。
【0011】
本発明は、前記α−Al膜部の(1010)hex面の配向係数T.C.(1010)が1.3以上であることが望ましい。こうすることにより、α−Alの[001]軸が基体表面垂直軸から17.4度の角度にある確率が高くなり、膜厚に対してα−Alの平均結晶粒径が更に小さくなり更に優れた工具寿命を有する酸化アルミニウム被覆工具が得られる。ここで、α−Al膜の配向係数T.C.(hkl)は、下記の(数3)式により定義した。
【0012】
【数3】
Figure 0003781006
【0013】
また、I(hkl)はα−Al膜の(hkl)面からの実測されたX線回折強度であり、I(hkl)はASTMファイル番号10−173(Powder Diffraction File Published by JCPDS International Center for Diffraction Data)に記載されている標準X線回折強度である。標準X線回折強度Iは、等方的に配向したα−Al粉末粒子の(hkl)面からのX線回折強度を表すものである。(数3)式で定義されたT.C.(hkl)は、α−Al膜の(hkl)面からの実測X線回折ピーク強度の相対強度を示しており、T.C.(hkl)値が大きい程(hkl)面からのX線回折ピーク強度が他のピーク強度よりも強く、(hkl)面が基体接線方向に強く配向していることを示すものである。下地膜にTi(CN)やTi(CNO)、(TiZr)(CNO)等を用いている場合は、Ti(CN)等の(222)面の2θ値、76.96度とα−Alの(1010)面の2θ値、76.88度との差が0.08度と小さいため、両者のX線回折ピークを分離することは出来ない。このような場合は、Ti(CN)等の(222)面は(111)面と結晶構造上同一であることを用いて(222)面のX線回折強度を下記(数4)式により求め、この値を、実測された76.9度近傍のX線回折強度I:76.9度から差し引く、即ち(数5)式によりα−Alの(1010)面のX線回折強度を求める。
【0014】
【数4】
Figure 0003781006
【0015】
【数5】
Figure 0003781006
【0016】
ここで、Ti(CN)等の標準X線回折強度I(hkl)はTiCの値を採用した。TiNの標準X線回折強度I(hkl)を採用した場合、Ti(CN)等のI(222)はI(111)の12/72倍となり、(数4)式による計算値よりも大きく、α−AlのI(1010)は(数5)式による計算値よりも小さくなる。(数4)、(数5)式で求めたα−AlのI(1010)値は、小さいめに求めた値であることがわかる。
本発明は、下地膜の配向係数PR(311)が1.3以上であることが好ましい。こうすることにより、α−Al膜と結合膜の間に更に優れた密着性が得られる。また、前記下地膜がTi(CN)膜、Ti(CNO)膜、(TiZr)(CN)膜、(TiZr)(CNO)膜のいずれかであることが更に好ましい。こうすることによりα−Al膜と結合膜の間に最も優れた密着性が得られる。ここで、配向係数PR(311)は(数6)式で定義した。
【0017】
【数6】
Figure 0003781006
【0018】
配向係数PR(hkl)はα−Alの配向係数T.C.(hkl)に準じて定義したものであり、T.C.(hkl)との混同を避けるためPR(hkl)と表記した。I(hkl)は下地膜がTiNの時はASTMファイル38−1420の値を用い、TiCの時はASTMファイル29−1361の値を用いる。また、Ti(CN)、Ti(CNO)、(TiZr)(CN)、(TiZr)(CNO)の時はASTMファイル29−1361の値を用いる。これは、これら皮膜のASTMファイルがなく、結晶構造が面心立方構造であり格子定数がTiCに最も近いためである。下地膜の配向係数PR(311)が1.3以上であるとα−Al膜と結合膜の間に更に優れた密着性が得られるのは次の理由によると考えられる。本発明者らは先に、下地膜の配向係数PR(311)値が大きい場合即ち(311)面が基体表面に平行に配向している場合は、結合膜の(311)面も基体表面に平行に配向しており、結合膜が双晶組織になりやすく、その双晶面に沿って薄板状の突起が結合膜の表面近傍に形成されやすくなること、また、このように多数の薄板状突起を結合膜の表面に形成し、その表面にα−Alを形成することによりアンカリング効果等により結合膜とα−Al膜間に高密着性が得られることを見いだしている(日本金属学会誌、65巻、721−726ページ)。これらのことから、(311)面の配向係数PR(311)が1.3以上であると、結合膜の表面に薄板状の突起が形成されやすくなり、アンカリング効果等によりα−Al膜と結合膜間に更に高い密着性が得られると考えられる。また、下地膜にTi(CN)膜、Ti(CNO)膜、(TiZr)(CN)膜、(TiZr)(CNO)膜を用いると、これらはいずれも(311)面が基体表面に配向しやすいため、上記の理由で結合膜表面に薄板状突起が形成されやすくなるため、α−Al膜と結合膜の間に最も高い密着性が実現される。
【0019】
また、驚くべきことに、結合膜部とα−Al膜部の間に結合膜の(001)面とα−Alの(001)hex面とが平行であり、かつ結合膜の(100)面とα−Alの(100)hex面とが平行である方位関係を有し、しかも、α−Alの配向係数T.C.(1010)が1.3以上である事と結合膜直下の皮膜の配向係数PR(311)が1.3以上である事の上記項目を同時に満たすことが結晶学的にも可能であることが判明した。表1は結合膜部の(31−1)面、(001)面、(100)面間の面角度とα−Alの(1010)hex面、(001)hex面、(100)hex面間の面角度をまとめて示したものである。
【0020】
【表1】
Figure 0003781006
【0021】
表1中の第1列内面角度の差17.55度と第2列内面角度の差17.4度が1度以内であり、しかも第3列内と第4列内の面角度の差異がともに90度であるため、結合膜部の(31−1)面とα−Alの(1010)hex面とがX線回折のオーダーでほぼ平行であり、かつ結合膜部の(001)面とα−Alの(001)hex面間および結合膜部の(100)面とα−Al膜部の(100)hex面とがともに透過電子顕微鏡観察オーダーで相互に平行になることが結晶学的にも可能であることが表1からわかる。なお、面心立方晶の(311)と(31−1)あるいは(100)と(010)等は結晶学的に等価である。本発明は、前記α−Alを主とする酸化膜表面の平均結晶粒径Dμmが、膜厚TμmについてT<2.5μmの時はD≦1μm、2.5≦T≦4.5μmの時はD≦2μm、T>4.5μmの時はD≦3μmであることが好ましく、2.5≦T≦4.5μmの時はD≦1.5μm、T>4.5μmの時はD≦2.5μmであることが更に好ましい。こうすることにより、膜表面の面粗さが小さくなり被削材との摩擦係数が小さくなるとともに、膜中にクラックが進展し難くなり、耐摩耗性の優れた、更に工具寿命の長い優れた酸化アルミニウム被覆工具が得られる。
【0022】
本発明は、前記α−Alを主とする酸化膜表面にチタン化合物やジルコニウム化合物の膜が形成されていることが好ましい。こうすることにより、被覆工具表面の摺動性が高まるとともに被覆工具使用済みの有無が容易に判別できるようになる利点がある。また、少なくとも刃先部のこれらチタン化合物膜やジルコニウム化合物膜の1部が研磨されていることが更に好ましい。こうすることにより、刃先部の面粗さが小さくなり更に優れた摺動性が得られ、更に、工具寿命の長い優れた被覆工具が実現出来る。このような場合、酸化膜の結晶粒径はその表面に形成されたチタン化合物膜等をHF−HNO溶液等により化学エッチングで除去し酸化膜表面を露出させることにより結晶粒径を測定できる。
【0023】
本発明における被覆方法には既知の成膜方法を適用することが可能である。例えば、通常のCVD法、プラズマを付加した化学蒸着法(PACVD法)等を用いることができる。用途は切削工具に限るものではなく、α型酸化アルミニウムを主とする酸化膜を含む多層の硬質皮膜により被覆された耐摩耗材や金型、溶湯部品等でも良い。酸化膜はα型酸化アルミニウム単相に限るものではなく、α型酸化アルミニウムが主であれば、他の酸化物、例えばα型酸化アルミニウムとκ型酸化アルミニウムとの混合膜やγ型酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化アルミニウム等、他の構造の酸化アルミニウムとの混合膜あるいはα型酸化アルミニウムと酸化ジルコニウム等他の酸化物との混合膜であっても良い。本発明のα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜とは、80vol%以上のα型酸化アルミニウムを含むものをいう。
【0024】
本発明の被覆工具において、用いる皮膜の組成はMg、Y、Si、Bを単独または複数組み合わせて各元素を0.3〜10重量%添加した膜でも良い。0.3重量%未満ではこれらを添加する効果が現れず、10重量%を超えるとこれらの元素を添加する効果が低くなる欠点が現れる。また、チタンの炭窒化物等はCHCNとTiClとを反応させて成膜する所謂MT−CVD法により成膜したものに限るものではなく、CH、N、TiCl等を反応させて成膜する従来のCVD法で成膜した皮膜でもよい。また、上記層には本発明の効果を消失しない範囲で不可避の添加物、不純物を例えば数重量%程度まで含むことが許容される。本発明による被覆工具を実施例によって具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0025】
【実施例】
(実施例1)
WC:93質量%、(TaNb)C:1質量%、Co:6質量%の成分組成よりなる所定形状の切削工具用超硬合金基体をCVD反応装置内に設置し、HキヤリヤーガスとTiClガスとNガスとを原料ガスに用いて0.5μm厚さのTiN膜を900℃で形成後、HキャリヤーガスとTiClガス、Nガス、CHCNガスを原料ガスに用いて厚さ6μmのTi(CN)膜を930℃で形成した。その後、980℃でHキヤリヤーガスとTiClガス及びNガスとを原料ガスに用いてTiN膜を15分間成膜した後、そのまま連続して本構成ガスにCOガスとCOガスとを全ガスの5体積%追加し15分間成膜することによりTi(NO)膜を形成した。その後、Hキャリヤーガス、AlClガスおよびCOガスを原料に用いてα−Al膜を1010℃で形成することにより本発明の被覆工具を作製した。表2に示す様に、α−Al膜の膜厚さが2μmの試料を本発明例1、2.5μm品を本発明例2、3μm品を本発明例3、3.5μm品を本発明例4、4μm品を本発明例5、4.5μm品を本発明例6、5μm品を本発明例7とした。
【0026】
【表2】
Figure 0003781006
【0027】
試料の、結合膜部とα−Al膜部間の方位関係は皮膜断面を透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)(株)日立製作所製H−9000UHRを用いて評価した。まず、皮膜断面を50〜100μmの厚さに研磨した後、TEM像が観察される厚さまでイオンミリングにより試料を薄くした。そして、結合膜部とその直上に形成されているα−Al膜部の電子回折像を同時に観察した結果、結合膜部(面心立方晶)の[100]入射電子回折像とα−Al膜部(六方晶)の[100]hex入射電子回折像とが同時に観察され、中心スポット000を通り結合膜とα−Al膜間の界面に垂直方向な直線上に結合膜部の002スポットとα−Alの006スポットとが位置しており、かつ結合膜部の060スポットとα−Alの060スポットとが重なっている電子回折像が得られる領域がいずれの試料においても存在することが判明した。このことから、本発明例1から7の結合膜部とα−Al膜部の間に結合膜の(001)面とα−Alの(001)hex面とが平行であり、かつ結合膜の(100)面とα−Alの(100)hex面とが平行である方位関係を満たす領域が存在することが判明した。
【0028】
試料の皮膜のX線回折を理学電気(株)製のX線回折装置(RTB−300)を用いて2θ−θ法により2θが20〜145度の範囲で測定した。X線源にはCuのKα線、波長λ=0.154nmのみを用い、装置に内蔵されたソフトによりKα線とノイズとを除去して測定した。その結果、いずれの試料もα−Al膜の配向係数T.C.(1010)が1.3以上であり、下地膜であるTi(CN)膜の配向係数PR(311)も1.3以上であった。この結果、いずれの試料もα−Al膜の(1010)面とTi(CN)膜の(311)面とが基体表面に平行に強く配向していることが判明した。
【0029】
酸化膜の平均粒径Dは、(株)日立製作所製の走査電子顕微鏡(以下、SEMと記す。)S−4200型を用いて、次の方法で測定した。即ち、酸化膜表面をブラウン管上、倍率5000倍で観察し、その画像を寸法85mm×110mm範囲で紙上に印刷した。このSEM写真の表面に、上から21mm、42.5mm、64mmの各位置に横線を引くとともに更に対角線を2本、計5本を引き、各直線内にある結晶粒の数から、(数7)式より平均粒径Dを求めた。
【0030】
【数7】
Figure 0003781006
【0031】
酸化膜の膜厚は、各試料を10度傾けて斜め方向に研摩した面をレーザー顕微鏡により観察し、酸化膜の間隔を測定することにより求めた。このようにすることにより、酸化膜の膜厚をより正確に求めることが出来る。切削試験は以下の条件で行なった。試験する切削工具各5個を用いて、鋳物製被削材を以下の条件で連続切削し、逃げ面の摩耗量が0.2mmに達した時点で切削寿命と判定した。逃げ面の摩耗量は光学顕微鏡を用いて倍率35倍で観察した。
被削材:FC25(HB230)
工具形状:NMA120412
切削速度:320m/min
送り:0.3mm/rev
切り込み:3.0mm
切削液:水溶性液を使用
また、同一ロットの切削工具各5個を以下の条件で断続切削し、欠損に至るまでの断続切削可能回数を評価した。刃先先端の欠け状況は倍率50倍の実体顕微鏡で観察した。
被削材:S53C溝入材(HS38)
切削速度:180m/min
送り:0.4mm/rev
切り込み:1.5mm
切削液:使用せず(乾式切削)
上記の方法で評価した、α−Al膜の配向係数T.C.(1010)、下地膜であるTi(CN)膜の配向係数PR(311)、α−Alを主とする酸化膜の結晶粒径と膜厚および切削評価結果を表2にまとめて示した。表2から、本試料のα−Al膜とTi(CN)膜はいずれも配向係数T.C.(1010)と配向係数PR(311)が1.3以上であり、酸化膜の平均結晶粒径Dμmが、膜厚TμmについてT<2.5μmの時はD≦1μm、2.5≦T≦4.5μmの時はD≦2μm、T>4.5μmの時はD≦3μmであり、断続切削可能回数が1000回以上と断続切削特性が優れていることがわかる。また、連続切削可能時間は膜厚とともに長くなり、それぞれの膜厚に対して長時間の連続切削可能時間を有していることがわかる。また、連続切削時間が45分経過した時に皮膜表面を観察すると酸化膜が剥離しておらず、膜の密着性が優れていることがわかった。
【0032】
(実施例2)
比較として、結合膜とα−Al膜の間に(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在しない場合の影響を明らかにするために、本発明例1〜7の試料と同じ基体と成膜条件で0.5μm厚さのTiN膜と厚さ6μmのTi(CN)膜を形成し、その後、980℃でHキャリヤーガスとTiClガスとCHガスとを15分間流してまずTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスに更にCOとCOの混合ガスを追加して30分間成膜することによりTi(CO)膜を作製した。そして、その表面に、本発明例1から7と同じ条件でα−Al膜を3.5μm厚さ成膜することにより比較例9の被覆工具を作製した。作製した比較例9の結合膜とα−Al膜の界面を実施例1と同じ条件でTEM観察した結果、α−Al膜の(003)hex面と結合膜の(111)面とが平行な領域は見られたが、本発明例1〜7のようにα−Al膜の(001)hex面と結合膜の(001)面とが平行かつα−Al膜の(100)hex面と結合膜の(100)面とが平行な領域は見られなかった。作製した比較例9の諸特性を評価した結果、α−Al膜の配向係数T.C.(1010)とTi(CN)の配向係数PR(311)はそれぞれ1.5と5.6と大きく、結晶粒径も2.0μmと小さいことがわかった。しかし、比較例9のインサート5個を用いて上記実施例1と同一の切削テストを行った結果、比較例9は45分間連続切削後に酸化膜の剥離が見られ、連続切削可能時間は60分にとどまった。また、断続切削試験では、800回衝撃切削後に欠けが発生した。以上の結果、(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在する本発明例4は、(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在しない比較例9に比べて同じ膜厚であるにも関わらず連続切削寿命が1.8倍、断続切削寿命が1.6倍優れていることが判明した。
【0033】
(実施例3)
結合膜とα−Al膜の間に(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在するがα−Al膜の配向係数T.C.(1010)とTi(CN)の配向係数PR(311)とが1.3未満の場合の影響を明らかにするために、本発明例1〜7の試料と同じ基体と成膜条件で0.5μm厚さのTiN膜を成膜した後、HキャリヤーガスとTiClガス、Nガス、CHCNガスを原料ガスに用いて厚さ6μmのTi(CN)膜を本発明例1から7とは異なり980℃で形成した。その後、990℃でHキヤリヤーガスとTiClガスおよびNガスとを用いてTiN膜を15分間成膜した後、そのまま連続して本構成ガスにCOガスとCOガスとを全ガスの8体積%追加し15分間成膜することによりTi(NO)膜を形成した。その後、本発明例1と同じ条件で厚さ3.5μmのα−Al膜を形成することにより本発明例8の被覆工具を作製した。作製した本発明例8の結合膜とα−Al膜の界面を実施例1と同じ条件でTEM観察した結果、本発明例1から7と同様にα−Al膜の(001)hex面と結合膜の(001)とが平行かつα−Al膜の(100)hex面と結合膜の(100)面とが平行な領域が見られた。しかし、作製した本発明例8の諸特性を評価した結果、Ti(CN)膜の配向係数PR(311)とα−Al膜の配向係数T.C.(1010)はそれぞれ1.1と1.2であり1.3未満であった。結晶粒径も2.4μmであり2μmを越えることがわかった。また、本発明例8の切削特性を実施例1と同じ条件で評価した結果、本発明例8は45分間連続切削後にも酸化膜の剥離が見られず、優れた膜密着性を示すが、連続切削可能時間は80分、断続切削可能回数は1000回であり同じ酸化膜厚の本発明例4よりも劣ることが判明した。以上の結果、(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在し、しかもTi(CN)の配向係数PR(311)とα−Al膜の配向係数T.C.(1010)とがともに1.3以上である本発明例4は、(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在するもののTi(CN)の配向係数PR(311)とα−Al膜の配向係数T.C.(1010)とがともに1.3未満である本発明例8に比べて連続切削寿命が約1.4倍、断続切削寿命が約1.3倍優れており、本発明例8は、(数1)、(数2)の方位関係を満たす領域が存在しない比較例9に比べて連続切削寿命が約1.3倍、断続切削寿命が約1.3倍優れていることが判明した。
【0034】
【発明の効果】
本発明を適用することにより、α−Alを主とする酸化膜の密着性が優れ、かつ結晶粒径が微細であり、極めて優れた切削耐久特性を有する酸化アルミニウム被覆工具が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、面心立方構造で格子定数が0.4327nmの場合の[100]入射電子回折像である。
【図2】図2は、本発明に係わる酸化アルミニウム被覆工具の方位関係が満たされているときの、α−Alと結合膜の酸素原子位置を示すα−Al(001)hex面および結合膜(001)面への投影図である。

Claims (4)

  1. 基体表面に少なくとも各一層のα型酸化アルミニウム膜を主とする酸化膜とその直下に形成されている少なくともチタンと酸素とを含有する結合膜とからなる酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合膜部とα型酸化アルミニウム膜部の間に結合膜の(001)面とα型酸化アルミニウム膜の(001)hex面とが平行であり、かつ結合膜の(100)面とα型酸化アルミニウム膜の(100)hex面とが平行である方位関係を満たす領域が存在することを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  2. 請求項1に記載の酸化アルミニウム被覆工具において、前記α型酸化アルミニウム膜部の配向係数T.C.(1010)が1.3以上であることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  3. 請求項1又は請求項2記載の酸化アルミニウム被覆工具において、前記結合膜直下の皮膜の配向係数PR(311)が1.3以上であることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
  4. 請求項1乃至3いずれかに記載の酸化アルミニウム被覆工具において、前記α型酸化アルミニウム膜を主とする酸化膜表面の平均結晶粒径Dμmが、膜厚TμmについてT<2.5μmの時はD≦1μm、2.5≦T≦4.5μmの時はD≦2μm、T>4.5μmの時はD≦3μmであることを特徴とする酸化アルミニウム被覆工具。
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