JPH10147817A - 鋼部材の溶接方法 - Google Patents

鋼部材の溶接方法

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JPH10147817A
JPH10147817A JP32363796A JP32363796A JPH10147817A JP H10147817 A JPH10147817 A JP H10147817A JP 32363796 A JP32363796 A JP 32363796A JP 32363796 A JP32363796 A JP 32363796A JP H10147817 A JPH10147817 A JP H10147817A
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reheating
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welded
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三千男 丸木
Takao Taniguchi
孝男 谷口
Koji Obayashi
巧治 大林
Takayuki Miura
隆幸 三浦
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 従来よりもさらに効果的に溶接残留応力を低
減することができる鋼部材の溶接方法を提供すること。 【解決手段】 高密度エネルギービームよりなる溶接用
ビーム71と再加熱用ビーム72とを用い,鋼部材1
1,12を溶接用ビーム71の照射により溶接し,その
直後に溶接部分2の少なくとも一部分に再加熱用ビーム
72を照射して溶接部分2を加熱する。再加熱用ビーム
71の照射による加熱は,溶接部分2がマルテンサイト
変態点以上の中間温度点まで急冷された後に行い,溶接
部分2をベイナイト変態領域に向けて昇温させてベイナ
イト組織となすことが好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は,鋼部材を溶接した際に発生する
残留応力を効果的に低減することができる溶接方法に関
する。
【0002】
【従来技術】従来より,例えば各種機械部品として,2
つの鋼部材を溶接処理して一体的に接合した溶接部材が
用いられている。かかる溶接部材における上記溶接処理
は,2つの鋼部材を突き合わせ又は重ね合わせた状態で
接合部分を加熱し,一端溶融させた後,その溶融部分を
自己放冷により再凝固させて接合するものである。その
ため,鋼部材の溶接部分には,上記の再凝固時における
熱収縮によって,引張残留応力が発生する。
【0003】この溶接部分の引張残留応力(以下,適
宜,溶接残留応力という)は,溶接歪みの原因となって
製品の寸法精度を低下させるだけでなく,その引張残留
応力が著しく高い場合には,溶接割れを発生させる場合
もある。また,引張残留応力の存在によって,低い負荷
応力でも溶接部分が破損し易くなる。
【0004】従来,上記溶接残留応力を緩和すべく行わ
れてきた対策としては,予熱方法と,再加熱方法と,こ
れらを組合わせた方法がある。上記予熱方法は,鋼部材
の溶接処理部分近傍を溶接処理前に予め溶融温度以下に
加熱して蓄熱させておき,これにより,溶接後の自己放
冷による冷却速度を緩和して引張残留応力の発生を減少
させる方法である。また,上記再加熱方法は,溶接処理
後に溶接部分を再度溶融温度以下に加熱することによ
り,発生していた引張残留応力を緩和する方法である。
【0005】
【解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の溶
接残留応力の制御方法においては,次の問題がある。即
ち,上記従来の予熱方法及び加熱方法は,いずれも溶接
残留応力の緩和効果に限界がある。つまり,上記予熱方
法は,溶接前の鋼部材への蓄熱状態の変動によって残留
応力緩和効果が変動してしまう。また,上記再加熱方法
は,上記溶接残留応力が著しく高い場合には再加熱を行
う前に既に溶接歪みや溶接割れが発生する場合がある。
【0006】本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてな
されたもので,従来よりもさらに効果的に溶接残留応力
を低減することができる鋼部材の溶接方法を提供しよう
とするものである。
【0007】
【課題の解決手段】請求項1の発明は,高密度エネルギ
ービームよりなる溶接用ビームと再加熱用ビームとを用
い,鋼部材を上記溶接用ビームの照射により溶接し,そ
の直後に溶接部分の少なくとも一部分に上記再加熱用ビ
ームを照射して上記溶接部分を加熱することを特徴とす
る鋼部材の溶接方法にある。
【0008】本発明において最も注目すべきことは,上
記高密度エネルギービームを用い,上記溶接の直後に上
記溶接部分を加熱することである。ここで,溶接の直後
とは,溶接処理後に連続的に上記加熱の処理を行うこと
を意味する。即ち,上記再加熱用ビームの照射は,上記
溶接用ビームの照射後0.45〜5秒後に再加熱用ビー
ムを照射することが好ましい。0.45秒未満の場合に
は溶接部での再凝固・再結晶が完了しておらず,後の焼
入れ処理による応力除去効果が少なくなるおそれがあ
り,一方,5秒を超える場合には溶接処理直後とはいえ
ず溶接処理時間の大幅な短縮ができないという問題があ
る。
【0009】上記溶接部分は,いわゆる突き合わせ溶
接,重ね合わせ溶接,すみ肉溶接等の溶接形態にかかわ
らず,溶融再凝固した接合部分である。また上記溶接部
分の少なくとも一部分とは,溶接部分の範囲内の一部分
だけ,溶接部分の一部分から溶接部分の周囲にかかる部
分,或いは溶接部分全体を覆う範囲を含んだ部分をい
う。
【0010】上記高密度エネルギービームとしては,例
えば電子ビーム,レーザビーム,またビームではないが
高周波加熱などの高密度エネルギーがある。本発明で
は,これらを総称して高密度エネルギービームという。
また,本発明において対象とする鋼部材としては,例え
ばS50C,S23C,S10C等の炭素鋼,SNC
M,SCR,SCM等の合金鋼,SK,SKH,SKS
等の工具鋼などがある。
【0011】次に,本発明による作用につき説明する。
本発明の鋼部材の溶接方法においては,上記高密度エネ
ルギービームを用い,上記溶接の直後に上記溶接部分を
加熱する。そのため,上記溶接部分に発生した引張残留
応力を効果的に低減することができる。
【0012】即ち,上記溶接部分は,これが形成された
直後に再び加熱される。そのため,溶接部分の引張残留
応力による溶接割れ等が発生する前にその引張残留応力
を低減することができる。それ故,本発明により得られ
る溶接部材は,溶接残留応力による溶接歪み,溶接割れ
等の不具合のない優れた品質を確保することができる。
さらに,本発明においては,上記加熱を溶接直後に行う
ため,溶接処理のサイクルタイムを大幅に短縮すること
もできる。
【0013】次に,請求項2の発明のように,高密度エ
ネルギービームよりなる溶接用ビームと再加熱用ビーム
とを用い,鋼部材を上記溶接用ビームの照射により溶接
し,その直後に溶接部分の周囲に上記再加熱用ビームを
照射して上記溶接部分を加熱することを特徴とする鋼部
材の溶接方法もある。
【0014】即ち,上記再加熱用ビームを,上記溶接部
分に直接照射することなく,その周囲に照射して,溶接
部分を間接的に加熱することもできる。この場合には,
溶接部分の過熱を防止して最適な加熱状態を維持するこ
とができる。
【0015】また,請求項3の発明のように,上記再加
熱用ビームの照射による加熱は,上記溶接部分がマルテ
ンサイト変態点以上の中間温度点まで急冷された後に行
い,該溶接部分をベイナイト変態領域に向けて昇温させ
てベイナイト組織となすことが好ましい。
【0016】即ち,後述する図6に示すごとく,溶接後
に再凝固して冷却過程にある溶接部分をS曲線(TTT
曲線)に接触させることなくマルテンサイト変態点(M
s点)以上の温度まで急冷し,該溶接部材を上記再加熱
用ビームにより再び加熱する。そして,溶接部分がS曲
線(TTT曲線)を横切ってベイナイト変態領域に進入
するように溶接部分を加熱する。
【0017】上記急冷は,例えば自己放冷,空冷,油
冷,水冷等の方法により行うことができるが,少なくと
も上記のごとく,S曲線に接触することなく,かつマル
テンサイト変態点以下にならないように行う。S曲線内
に進入して冷却された場合及びマルテンサイト変態点以
下まで冷却された場合には,いずれもその後の加熱によ
るベイナイト変態が妨げられる。
【0018】また,上記溶接部分の昇温は,オーステナ
イト変態点より低い温度とする。これよりも高いとベイ
ナイト化した組織が再びオーステナイト化してしまうと
いう問題がある。また,上記昇温によりベイナイト組織
が得られた後は,例えば自己放冷,空冷,油冷,水冷の
方法により溶接部分を冷却する。
【0019】本発明によれば,上記溶接部分は,再加熱
用ビームによって上記と同様に溶接残留応力が十分に低
減されると共に,強靱なベイナイト組織に一気に改質さ
れる。 それ故,本発明により得られた溶接部材は,溶
接歪み,溶接割れ等がなく,さらに強靱な溶接部分を有
する優れた品質を確保することができる。また,本発明
においては,溶接後の冷却過程から上記昇温を行ってベ
イナイト変態を進行させる。そのため,通常の恒温変態
処理によるベイナイト変態に比べて格段に処理時間を短
縮することができる。
【0020】また,請求項4の発明のように,上記溶接
部分及び上記再加熱用ビームは,1箇所のビーム発生源
から発射されたビームを分配して照射することが好まし
い。これにより,上記溶接処理の直後の上記加熱処理を
容易かつ確実に行うことができる。
【0021】次に,溶接部分をベイナイト組織にする方
法として次の発明もある。即ち,請求項5の発明のよう
に,鋼部材の溶接部分をオーステナイト変態点以上の温
度に加熱し,次いでマルテンサイト変態点よりも高い中
間温度点まで一旦急冷し,次いで,該中間温度点からベ
イナイト変態領域に向けて再び昇温してベイナイト組織
となすことを特徴とする鋼部材の溶接方法がある。
【0022】本発明において最も注目すべきことは,予
め溶接処理した溶接部分をオーステナイト変態点以上の
温度まで加熱し,次いで上記中間温度点まで一旦急冷し
た後,ベイナイト変態領域に向けて再び昇温することに
より,ベイナイト組織を発生させることである。
【0023】上記急冷は,上記と同様に,例えば自己放
冷,空冷,油冷,水冷等の方法により行うことができる
が,少なくともS曲線に接触することなく行う。また,
上記中間温度点は,上記急冷を中断する温度であり,マ
ルテンサイト変態点よりも高い温度である。中間温度点
がマルテンサイト変態点よりも低いと,マルテンサイト
変態が開始されてしまい,ベイナイト変態の妨げとな
る。
【0024】また,上記溶接部分の昇温は,上記と同様
に,オーステナイト変態点より低い温度とする。また,
上記昇温によりベイナイト組織が得られた後は,上記と
同様に,例えば自己放冷,空冷,油冷,水冷の方法によ
り溶接部分を冷却する。
【0025】本発明においては,上記のごとく,予め溶
接処理した溶接部分に対し,上記加熱,冷却,昇温を行
う。そのため,上記加熱及び昇温によって溶接部分の溶
接残留応力が確実に低減されると共に,溶接部分が強靱
なベイナイト組織となる。それ故,得られた溶接部材
は,溶接歪み,溶接割れ等がなく,かつ強靱な溶接部分
を有する優れた品質を確保することができる。
【0026】また,本発明においては,上記中間温度か
ら上記昇温を行ってベイナイト変態を進行させる。その
ため,通常の恒温変態処理によるベイナイト変態に比べ
て格段に処理時間を短縮することができる。
【0027】次に,請求項6の発明のように,上記オー
ステナイト変態点以上の温度への加熱及び上記中間温度
点からベイナイト変態領域に向けての昇温は,高密度エ
ネルギービームよりなる加熱用ビーム及び昇温用ビーム
を照射することにより行うことが好ましい。この場合に
は,昇温タイミング等を正確にすることができると共
に,高い効率で処理することができる。それ故,上記ベ
イナイト化による効果を確実かつ容易に発揮させること
ができる。
【0028】また,請求項7の発明のように,上記加熱
用ビーム及び上記昇温用ビームは,上記溶接部分の少な
くとも一部分に照射することが好ましい。この場合に
は,溶接部分を直接的に加熱,昇温することができ,応
答性の良い加熱,昇温処理を行うことができる。ここ
で,溶接部分の少なくとも一部とは,上記と同様に,溶
接部分の範囲内の一部分だけ,溶接部分の一部分から溶
接部分の周囲にかかる部分,或いは溶接部分全体を覆う
範囲を含んだ部分をいう。
【0029】また,請求項8の発明のように,上記加熱
用ビーム及び上記昇温用ビームは,上記溶接部分の周囲
に照射することもできる。即ち,溶接部分に直接加熱用
又は昇温用ビームを照射することなく,その周囲に照射
して間接的に溶接部分を加熱又は昇温させることもでき
る。この場合には,加熱又は昇温時の過熱を確実に防止
することができる。
【0030】また,請求項9の発明のように,上記高密
度エネルギービームは,1箇所のビーム発生源から発射
されたビームを,加熱用ビームと昇温用ビームとに分配
して照射することが好ましい。これにより,上記溶接部
分のベイナイト化を容易かつ確実に行うことができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
実施形態例1 本発明の実施形態例にかかる鋼部材の溶接方法につき,
図1を用いて説明する。本例の鋼部材の溶接方法は,図
1に示すごとく,高密度エネルギービームとしての電子
ビームよりなる溶接用ビーム71と再加熱用ビーム72
とを用い,鋼部材11,12を溶接用ビーム71の照射
により溶接し,その直後に溶接部分2上に再加熱用ビー
ム72を照射して溶接部分2を加熱する。
【0032】即ち,図1に示すごとく,電子ビーム発生
源7より発射された電子ビーム70を偏向レンズ712
により溶接用ビーム71と再加熱用ビーム72とに分配
する。そして,鋼部材11,12を突き合わせた状態
で,溶接処理のための溶接用ビーム71を溶接処理部分
20に照射すると共に,その後方において溶接部の再加
熱のための再加熱用ビーム72を照射する。
【0033】一方,鋼部材11,12は,突き合わせた
状態で,図1上において左方向へ一定速度で移動させ
る。これにより,溶接用ビーム71は順次溶接処理部分
20に対して相対的に移動しながら照射され,その直後
に再加熱用ビーム72が溶接部分2上に連続的に照射さ
れる。
【0034】そのため,溶接処理部分20は,まず上記
溶接用ビーム71の照射によって溶融後再凝固して溶接
部分2となり,鋼部材11,12が一体的に接合され
る。次いで,溶接部分2はその形成直後に照射される再
加熱用ビーム72によって加熱され,溶接残留応力が軽
減された再加熱完了部分22となる。また,溶接用ビー
ム71と再加熱用ビーム72の照射位置は30mmの間
隔を有しており,鋼部材11,12の移動速度が1.8
m/分であるため,本例における溶接処理から再加熱ま
での時間は約1.0秒である。
【0035】このように,本例においては,高密度エネ
ルギービームを用い,溶接の直後に溶接部分2を再び加
熱する。そのため,溶接部分2は,溶接により生じた引
張残留応力が上記のわずかな時間で低減される。それ
故,鋼部材11,12を溶接して得られた溶接部材1
は,溶接歪みや溶接割れ等の不具合が発生する前に良好
な残留応力状態に改善され,優れた品質を確保すること
ができる。また,溶接処理と再加熱処理を連続的に行う
ことができるため,非常に効率よく短いサイクルタイム
で鋼部材の溶接を行うことができる。
【0036】実施形態例2 本例は,図2に示すごとく,実施形態例1の鋼部材の溶
接方法を基礎とし,溶接部材2の全体及びその周囲に再
加熱用ビーム72を照射した。その他は実施形態例1と
同様である。即ち,図3に示すごとく,本例における高
密度エネルギービームは,電子ビーム発生源7より発射
した電子ビーム(図1)を,偏向レンズにより,円形状
の照射軌跡C1 を有する溶接用ビーム71と,矩形状の
広い範囲の照射軌跡C2 を有する再加熱用ビーム72と
に分配した。
【0037】そして,溶接用ビーム71を先頭にし,再
加熱用ビーム72をその後方から連続的に照射する。一
方,溶接すべき鋼部材は実施形態例1と同様に一定速度
で移動させる。これにより,図2に示すごとく,溶接部
分2の表面全体及びその周囲を覆う部分3が加熱され,
溶接部分2は確実に再加熱完了部分22となる。
【0038】このように,本例においては,溶接部分2
だけでなくその周囲も含めて全体的に加熱する。それ
故,溶接部分2の再加熱をより安定的に行うことができ
る。その他,実施形態例1と同様の効果が得られる。
【0039】実施形態例3 本例は,図4に示すごとく,実施形態例1の鋼部材の溶
接方法を基礎とし,溶接部材2の周囲だけに2つの再加
熱用ビーム72を照射した。その他は実施形態例1と同
様である。即ち,図5に示すごとく,本例における高密
度エネルギービームは,電子ビーム発生源7より発射し
た電子ビーム(図1)を,偏向レンズにより,円形状の
照射軌跡C1 を有する溶接用ビーム71と,矩形状の照
射軌跡C3 を有する2つの再加熱用ビーム72とに分配
した。
【0040】そして,溶接用ビーム71を先頭にし,2
つの再加熱用ビーム72をその後方から連続的に照射す
る。一方,溶接すべき鋼部材は実施形態例1と同様に一
定速度で移動させる。これにより,図4に示すごとく,
溶接部分2を挟む周囲の部分3が加熱され,その熱伝導
により溶接部分2が再加熱完了部分22となる。
【0041】このように,本例においては,溶接部分2
を直接加熱することなく,その周囲だけを直接加熱する
ことにより,溶接部分2を間接的に再加熱することがで
きる。それ故,高密度エネルギービームによる溶接部分
2の過熱を確実に防止することができる。その他,実施
形態例1と同様の効果が得られる。
【0042】実施形態例4 本例は,図6に示すごとく,実施形態例1の鋼部材の溶
接方法を基本とし,溶接部分2をベイナイト組織に変態
させた。即ち,前述した図1と同様に鋼部材に対して溶
接用ビーム71と再加熱用ビーム72を照射し,かつ,
図6に示すごとく,再加熱用ビーム72(図1)の照射
による加熱は,溶接部分2がマルテンサイト変態点Ms
以上の中間温度T3 まで急冷された後に行い,溶接部分
2をベイナイト変態領域Bに向けて昇温させてベイナイ
ト組織となす。その他は,実施形態例1と同様である。
【0043】図6は,横軸に時間(対数目盛)を,縦軸
に温度(℃)をとり,S曲線56,57を(TTT曲
線)を示した図である。そして,同図には,本発明にか
かる溶接方法における溶接部分2の温度履歴を実線51
により示している。上記中間温度T3 は,同図に示すご
とく,マルテンサイト変態スタート点(Ms点)より高
い温度である。そして,その後の昇温は,ベイナイト変
態開始線を示すS曲線56と変態終了線を示すS曲線5
7を横切って,ベイナイト変態領域Bの温度T4 まで行
う。そして,温度T4 からの冷却は自己放冷により行
う。
【0044】このように,再加熱用ビーム72の照射タ
イミング及び昇温履歴を上記のごとく調整することによ
り,溶接部分2は,ベイナイト組織に変態する。また,
ベイナイト変態を行う再加熱用ビーム72の照射によ
り,溶接部分2の残留応力も効果的に除去することがで
きる。それ故,得られた溶接部材は,溶接歪みや溶接割
れがなく,かつ強靱な溶接部分2を有する優れたものと
なる。その他,実施形態例1と同様の効果が得られる。
【0045】なお,本例においては,前述した図1と同
様に,溶接部分2の上に直接再加熱用ビーム72を照射
して溶接部分2をベイナイト化したが,図2に示すごと
く溶接部分2とその周囲を同時に照射する方法,或いは
図4に示すごとく溶接部分2の周囲だけを照射する方法
をとることもできる。この場合には,実施形態例2,3
と同様の効果が得られる。
【0046】実施形態例5 本例は,図7に示すごとく,予め溶接処理した鋼部材の
溶接部分2をオーステナイト変態点以上の温度T2 に加
熱し,次いでマルテンサイト変態点Msよりも高い中間
温度T3 まで一旦急冷し,次いで,中間温度T3 からベ
イナイト変態領域Bに向けて再び昇温してベイナイト組
織となした。即ち,本例は,溶接処理とベイナイト処理
とを連続的に行わずに,別々に行った。
【0047】また上記溶接処理は,図8(A)に示すご
とく,1つの溶接用ビーム71により行った。また,ベ
イナイト処理は,図8(B)に示すごとく,一つの電子
ビームを加熱用ビーム74と昇温用ビーム75とに分配
してこれを順次照射することにより行った。また,溶接
処理及びベイナイト処理を行うに当たっては,上記各実
施形態例と同様に溶接すべき鋼部材を一定速度で移動さ
せることにより,各電子ビームを相対的に移動させて行
った。
【0048】これらの処理における溶接部分2の温度履
歴を図7に示す。図7は,横軸に時間(対数目盛)を,
縦軸に温度をとった。そして,溶接処理時の溶接部分2
の温度履歴を実線52により,その後のベイナイト処理
を実線53により示した。溶接処理は,図7,図8
(A)に示すごとく,溶接部分2を溶接用ビーム71に
より融点以上の温度T1 まで加熱した後融点以下に冷却
することにより行う。
【0049】次いで,ベイナイト処理は,図7,図8
(B)に示すごとく,加熱用ビーム74の照射により溶
接部分2をオーステナイト変態点以上の温度T2 まで加
熱する。これにより溶接部分2はオーステナイト組織部
分31となる。その後自己放冷により中間温度T3 まで
急冷された時点で溶接部分2に再び昇温用ビーム75を
照射する。
【0050】これにより,溶接部分2は,中間温度T3
からベイナイト変態領域Bの温度T4 まで加熱され,ベ
イナイト組織部分32となる。その後は,自己放冷によ
り冷却される。なお,本例における溶接部分2の中間温
度点T3 からの昇温開始タイミングは,鋼部材の移動速
度と両ビーム74,75の照射間隔とによって調整し
た。
【0051】このような一連の熱処理により,溶接部分
2は確実に短時間でベイナイト化される。それ故,本例
によれば,溶接部分2を溶接直後にベイナイト化できな
い場合においても,通常の恒温変態の場合に比べて格段
に高い効率でベイナイト化することができる。その他
は,実施形態例1,4と同様の効果が得られる。
【0052】なお,本例の場合においては図8に示すご
とく,溶接部分2の上に加熱用ビーム74と昇温用ビー
ム75の両方を直接照射したが,次のように昇温用ビー
ム75の照射位置を変更してもよい。即ち,図9に示す
ごとく,円形軌跡の加熱用ビーム74の後方において矩
形の広範囲の昇温用ビーム75を溶接部分2とその周囲
に照射する方法や,図10に示すごとく,円形軌跡の加
熱用ビーム74の後方において矩形の2つの昇温用ビー
ム75を溶接部分2の周囲だけに照射する方法を取るこ
ともできる。この場合には,昇温部分35からの熱伝導
等により溶接部分2がベイナイト処理される。また実施
形態例2,3と同様の効果を得ることができる。
【0053】実施形態例6 本例は,図11に示すごとく,実施形態例4の鋼部材の
溶接方法を,2つのリング状鋼部材16,17の突き合
わせ溶接に適用した具体例である。即ち,本例において
接合する溶接部材15は,図11,図12に示すごと
く,下部に配置するリング状鋼部材16とその上部に配
置するリング状鋼部材17とを接合したものである。
【0054】リング状鋼部材16は材質がS45Cであ
って,リング状鋼部材17は材質がSCR420Hであ
り,これらは予め組み付け可能なように加工してある。
即ち,図11,図12に示すごとく,上部のリング状鋼
部材17の外周縁171の内側にはリング状の突出部1
72を設け,一方,下部のリング状鋼部材16の外周縁
161の内側には上記突出部172に係合する凹所16
2を設けてある。
【0055】そのため,上記突出部172を凹所162
に挿入すると共に外周縁161,171同士を当接させ
ることにより,一体的に組み付けることができる。本例
においては,予め組付けたリング状鋼部材16,17の
外周縁161,171の当接部分を突き合わせ溶接す
る。
【0056】次に,本例において使用する溶接装置8
は,図13に示すごとく,鋼部材を入れる加工室89
と,該加工室89内に電子ビーム70を発射する電子ビ
ーム発生源としての電子銃7と,電子ビーム70の照射
パターン等を制御すると共に溶接用ビーム71と再加熱
用ビーム72に分配するための集束レンズ711と偏向
レンズ712とを有する。電子銃7には6KWの高電圧
電源79が接続されている。
【0057】また,溶接装置8は,加工室89を減圧す
る真空排気装置86と,上記集束レンズ711,偏向レ
ンズ712を制御するEB高速偏向制御装置88とを有
する。集束レンズ711,偏向レンズ712を制御する
ことにより,鋼部材に照射する2つの電子ビーム71,
72の分配と,その出力及び照射パターンが調整され
る。これらの装置は,総合制御装置87によりコントロ
ールされる。また,上記加工室89の下部には,鋼部材
を載置する載置台85とこれを回転させるための回転モ
ータ850を有している。
【0058】次に,この溶接装置8を用いてリング状鋼
部材16,17を溶接するに当たっては,まず,図13
に示すごとく,リング状鋼部材16,17を組み合わせ
た状態で上記載置台85上にセットする。そして,回転
モータ850を駆動させてリング状鋼部材16,17を
外周部の移動速度が1.8mm/分となる速度で回転さ
せる。また,加工室89内を真空状態にする。
【0059】そして,溶接処理部分に対して1.6KW
の溶接用ビーム71を照射し,その直後に再加熱用の
0.5KWの再加熱用ビーム72を照射する。これらの
電子ビーム71,72は,前述した図3と同様に,溶接
用ビーム71が円形状の照射軌跡C1 を有し,再加熱用
ビーム72が広い矩形状の照射軌跡C2 を有する。そし
て,これらの電子ビーム71,72は,リング状鋼部材
16,17の回転によって,その外周縁161,171
上を相対的に一定速度で移動していく。
【0060】これにより,図11,図12に示すごと
く,リング状鋼部材16,17の外周縁161,171
の当接部分は,まず,互いに溶融した後再凝固して溶接
部分2となる。その直後,上記再加熱用ビーム72が実
施形態例4と同様のタイミングにより照射され,昇温部
分35における溶接部分2がベイナイト組織に変態して
ベイナイト組織部分32となる。
【0061】そのため,得られた溶接部材15の溶接部
分2は,その溶接残留応力が大幅に低減されると共に,
ベイナイト組織により非常に強靱となる。それ故,得ら
れた溶接部材15は,溶接歪み,溶接割れもなく,か
つ,強靱な優れた部材として,有効に利用することがで
きる。その他,実施形態例1,4と同様の効果が得られ
る。
【0062】
【発明の効果】上述のごとく,本発明によれば,従来よ
りもさらに効果的に溶接残留応力を低減することができ
る鋼部材の溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,溶接用ビーム及び再加
熱用ビームの照射状態を示す,(A)側面図,(B)平
面図。
【図2】実施形態例2における,溶接処理及び再加熱処
理の手順を示す説明図。
【図3】実施形態例2における,電子ビームの照射部の
軌跡を示す説明図。
【図4】実施形態例3における,溶接処理及び再加熱処
理の手順を示す説明図。
【図5】実施形態例3における,電子ビームの照射部の
軌跡を示す説明図。
【図6】実施形態例4における,溶接部分の温度履歴を
示す説明図。
【図7】実施形態例5における,溶接部分の温度履歴を
示す説明図。
【図8】実施形態例5における,(A)溶接処理,
(B)ベイナイト処理,の処理手順を示す説明図。
【図9】実施形態例5における,(A)溶接処理,
(B)ベイナイト処理,の別の処理手順を示す説明図。
【図10】実施形態例5における,(A)溶接処理,
(B)ベイナイト処理,の別の処理手順を示す説明図。
【図11】実施形態例6の溶接部材を示す断面図。
【図12】実施形態例6における,溶接部分の要部(図
11の要部M)の拡大説明図。
【図13】実施形態例6における,溶接装置を示す説明
図。
【符号の説明】
1,15...溶接部材, 11,12...鋼部材, 16,17...リング状鋼部材, 2...溶接部分, 22...再加熱完了部分, 32...ベイナイト組織部分, 71...溶接用ビーム, 72...再加熱用ビーム, 74...加熱用ビーム, 75...昇温用ビーム,
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 三浦 隆幸 愛知県安城市藤井町高根10番地 アイシ ン・エイ・ダブリュ株式会社内

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 高密度エネルギービームよりなる溶接用
    ビームと再加熱用ビームとを用い,鋼部材を上記溶接用
    ビームの照射により溶接し,その直後に溶接部分の少な
    くとも一部分に上記再加熱用ビームを照射して上記溶接
    部分を加熱することを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  2. 【請求項2】 高密度エネルギービームよりなる溶接用
    ビームと再加熱用ビームとを用い,鋼部材を上記溶接用
    ビームの照射により溶接し,その直後に溶接部分の周囲
    に上記再加熱用ビームを照射して上記溶接部分を加熱す
    ることを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2において,上記再加熱用
    ビームの照射による加熱は,上記溶接部分がマルテンサ
    イト変態点以上の中間温度点まで急冷された後に行い,
    該溶接部分をベイナイト変態領域に向けて昇温させてベ
    イナイト組織となすことを特徴とする鋼部材の溶接方
    法。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項において,
    上記溶接部分及び上記再加熱用ビームは,1箇所のビー
    ム発生源から発射されたビームを分配して照射すること
    を特徴とする鋼部材の溶接方法。
  5. 【請求項5】 鋼部材の溶接部分をオーステナイト変態
    点以上の温度に加熱し,次いでマルテンサイト変態点よ
    りも高い中間温度点まで一旦急冷し,次いで,該中間温
    度点からベイナイト変態領域に向けて再び昇温してベイ
    ナイト組織となすことを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  6. 【請求項6】 請求項5において,上記オーステナイト
    変態点以上の温度への加熱及び上記中間温度点からベイ
    ナイト変態領域に向けての昇温は,高密度エネルギービ
    ームよりなる加熱用ビーム及び昇温用ビームを照射する
    ことにより行うことを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  7. 【請求項7】 請求項6において,上記加熱用ビーム及
    び上記昇温用ビームは,上記溶接部分の少なくとも一部
    分に照射することを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  8. 【請求項8】 請求項6において,上記加熱用ビーム及
    び上記昇温用ビームは,上記溶接部分の周囲に照射する
    ことを特徴とする鋼部材の溶接方法。
  9. 【請求項9】 請求項6〜8のいずれか1項において,
    上記高密度エネルギービームは,1箇所のビーム発生源
    から発射されたビームを,加熱用ビームと昇温用ビーム
    とに分配して照射することを特徴とする鋼部材の溶接方
    法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011045901A (ja) * 2009-08-26 2011-03-10 Mitsubishi Heavy Ind Ltd 溶接装置、溶接方法
KR101359221B1 (ko) * 2011-09-30 2014-02-05 주식회사 포스코 용접부의 표면개질을 통한 내공식성 향상방법 및 용접부를 포함하는 스테인리스강

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