JPH09168889A

JPH09168889A - ガスシールドアーク溶接用ワイヤ

Info

Publication number: JPH09168889A
Application number: JP33373995A
Authority: JP
Inventors: Akira Wada; 陽和田; Toshihiko Nakano; 利彦中野; Hiroyuki Morimoto; 啓之森本; Mamoru Nagao; 護長尾
Original assignee: Kobe Steel Ltd
Current assignee: Kobe Steel Ltd
Priority date: 1995-12-21
Filing date: 1995-12-21
Publication date: 1997-06-30

Abstract

(57)【要約】（修正有）【課題】溶接金属の強度及び靱性が良好であると共
に、溶接時のアーク安定性を向上させ、ブローホール及
びピット等の発生を防止することができるガスシールド
アーク溶接用ワイヤを提供する。【解決手段】アーク溶接用ワイヤは、有機溶剤洗浄及
び熱水洗浄により表面付着物を除去した後の実体部中
に、ワイヤ全重量に対して、Ｃ：0.02乃至0.08重量％、
Ｓｉ：0.60乃至1.00重量％、Ｍｎ：1.40乃至1.80重量
％、Ｐ：0.002乃至0.030重量％、Ｓ：0.002乃至0.028重
量％、Ｔｉ：0.10乃至0.22重量％、Ｎｂ：0.010乃至0.0
30重量％、Ｏ：0.0020乃至0.0100重量％、Ｎ：0.0015乃
至0.0070重量％、Ｃｕ：0.50重量％以下、Ｎｉ：0.50重
量％以下、Ｃｒ：0.20重量％、Ｍｏ：0.10重量％以下、
Ｚｒ：0.05重量％以下、Ｖ：0.02重量％以下、Ａｌ：0.
03重量％以下、Ｂ：0.0020重量％以下及びＣａ：0.0010
重量％以下を含有し、残部がＦｅ及び不可避的不純物か
らなり、不可避的不純物は各成分が０．０１重量％以下
である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は産業機械、自動車及び鉄
骨等の製造時において使用され、溶接金属の強度及び靱
性が良好であると共に、溶接時のアーク安定性を向上さ
せ、ブローホール及びピット等の発生を防止することが
できるガスシールドアーク溶接用ワイヤに関する。

【０００２】

【従来の技術】産業機械、自動車又は鉄骨等の製造にお
いて使用されるガスシールドアーク溶接は、近時、溶接
部の品質向上に対する要求が厳しくなってきており、溶
接部を高品質にすると共に、溶接作業性を高能率化する
ための開発が進められている。

【０００３】しかしながら、実際の溶接施工において、
高品質の溶接部を得るためには、アーク安定性の不良に
よる欠陥を防止し、安定した溶接アークを維持すること
が必要である。また、不可避的な外乱によって、ガスシ
ールドが一時的に不十分となった場合においても、ブロ
ーホール及びピット等の欠陥の発生を抑制することがで
きる溶接材料が要求されている。

【０００４】ところで、溶接アークが不安定になると、
溶融プールの形状が不規則に変動し、アンダカット及び
オーバラップ等のようなビード形状の欠陥が発生しやす
くなる。また、多層盛り溶接においては、スラグ巻き込
みが発生しやすくなる。更に、アークが不安定になる
と、スパッタの発生量が増加して溶接部の品質が低下す
ると共に、スパッタがシールドノズルに付着して、シー
ルドガス流が乱れることによってガスシールドが劣化す
る。

【０００５】そこで、ワイヤの残存潤滑剤を除去した後
に、ワイヤ表面にカルボン酸カリウム塩を固着させて、
その固着量と、固着過程において発生する遊離鉄粉又は
遊離銅粉の含有量とを適正量に規制することによって、
アークを安定化できることは公知である（特公平３−７
７０３５）。また、銅メッキを有するワイヤにおいて、
ワイヤ素地とメッキ層との間に存在するＣａ量を規制す
ることによるアーク安定性の向上についても開示されて
いる（特開平１−２４９２９１号公報）。他に、製造工
程におけるワイヤの強度低下による座屈を防止すること
によって、ワイヤを安定供給することも開発されている
（特開平６−２３５８４号公報）。

【０００６】更に、ワイヤの改良によって、ブローホー
ル及びピット等の発生を抑制することもできる。例え
ば、溶融金属の粘性及び表面張力を低下させる技術が公
知である。（特開平５−３２９６８２号公報）。また、
Ｓｉ及びＴｉ等の脱酸性元素を低減すると共に、窒素溶
解度が高いＮｂをワイヤ中に０．１０乃至１．５０重量
％添加することによって、窒素を固定することも開示さ
れている（特開平４−２７００９５号公報）。

【０００７】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来技
術においては、溶接金属の適切な強度及び靱性と、アー
ク安定性の向上並びにブローホール及びピット等の発生
防止の全てを満足することができるようなワイヤは開発
されていない。

【０００８】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
のであって、溶接金属の強度及び靱性が良好であると共
に、溶接時のアーク安定性を向上させ、ブローホール及
びピット等の発生を防止することができるガスシールド
アーク溶接用ワイヤを提供することを目的とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】本発明に係るガスシール
ドアーク溶接用ワイヤは、有機溶剤洗浄及び熱水洗浄に
より表面付着物を除去した後の実体部中に、ワイヤ全重
量に対して、Ｃ：０．０２乃至０．０８重量％、Ｓｉ：
０．６０乃至１．００重量％、Ｍｎ：１．４０乃至１．
８０重量％、Ｐ：０．００２乃至０．０３０重量％、
Ｓ：０．００２乃至０．０２８重量％、Ｔｉ：０．１０
乃至０．２２重量％、Ｎｂ：０．０１０乃至０．０３０
重量％、Ｏ：０．００２０乃至０．０１００重量％、
Ｎ：０．００１５乃至０．００７０重量％、Ｃｕ：０．
５０重量％以下、Ｎｉ：０．５０重量％以下、Ｃｒ：
０．２０重量％以下、Ｍｏ：０．１０重量％以下、Ｚ
ｒ：０．０５重量％以下、Ｖ：０．０２重量％以下、Ａ
ｌ：０．０３重量％以下、Ｂ：０．００２０重量％以下
及びＣａ：０．００１０重量％以下を含有し、残部がＦ
ｅ及び不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物
は、各成分が０．０１重量％以下に規制されたことを特
徴とする。

【００１０】この表面付着物はワイヤ全重量に対して
０．０５重量％以下であり、前記表面付着物中に、ワイ
ヤ全重量に対して、Ｈ：０．００１０乃至０．００９０
重量％及びＣ：０．００４乃至０．０４０重量％を含有
し、不可避的不純物としてのＢは０．００１０重量％以
下、Ｃａは０．０００５重量％以下に規制されているこ
とが好ましい。

【００１１】また、表面付着物を含むワイヤ表面から５
０乃至２００μｍの厚さのワイヤ表層部を酸又は混酸に
より溶解する表面処理を施した場合、溶解されて除去さ
れたワイヤ表層部が、Ｋ：０．０００１乃至０．００３
０重量％及びＣｕ：０．３５重量％以下を含有し、不可
避的不純物としてのＢａが０．０００５重量％以下に規
制されたものであることが好ましい。

【００１２】更にまた、ワイヤ表層部中に、ワイヤ全重
量に対して、Ｌｉを０．０００１乃至０．００３０重量
％含有していることが好ましい。

【００１３】

【作用】本願発明者等は、国内において最も多量に使用
されている重要な鋼材である４９０Ｎ／ｍｍ² 級鋼の溶
接において、高品質の溶接部を得るために、４９０Ｎ／
ｍｍ² 級鋼用の溶接材料であるＪＩＳＺ３３１２Ｙ
ＧＷ１１に該当する溶接ワイヤの改良を行った。その結
果、ブローホール及びピットを低減する作用を有すると
共に、アークを安定化する効果を有する元素を従来のワ
イヤに添加し、この元素の添加に伴って、他の含有成分
を適正化することによって、従来における課題を解決す
ることができることを見い出した。

【００１４】また、ワイヤを洗浄することによって表面
付着物を除去すると、溶接金属の強度及び靱性は、表面
付着物の除去後のワイヤ実体部の化学成分によって決定
されることを見い出した。そして、アークの安定化が溶
接欠陥の減少に寄与することから、アーク安定化物質を
ワイヤ表面に付着させ、表面付着物の化学組成を変化さ
せて溶接欠陥を評価した結果、ワイヤの表面付着物中の
Ｈ及びＣが、アークの安定化に影響する元素であること
を見い出した。

【００１５】図１はワイヤの表面付着物と実体部を示す
断面図である。表面付着物２は、アセトン又は石油エー
テル等の有機溶剤洗浄及び熱水洗浄を交互に繰り返す表
面洗浄処理によって、洗浄除去される部分であり、実体
部１はこの表面洗浄処理を施した後の部分である。な
お、この表面洗浄処理は、表面付着物２が除去されるま
で繰り返すものであり、洗浄前後で実体部１の組成が実
質的に変化しなくなるまで実施するものとする。本発明
においては、実体部１の化学組成を請求項１に規定し、
表面付着物２の化学組成を請求項２に規定している。

【００１６】また、スパッタの減少は、溶接部の品質向
上に寄与する他、開先部に付着したスパッタによるビー
ド端部の形状の劣化を防止することができ、ロボット溶
接におけるセンシングの不良を減少させる効果がある。
その他に、スパッタの減少によって得られる最も高い効
果は、シールドノズルに付着してシールドガス流を乱さ
れることによるガスシールドの劣化を抑制し、ブローホ
ール及びピットの発生を減少できることである。

【００１７】そこで、本願発明者等はスパッタを減少さ
せるために、ワイヤ中のアーク安定化又は不安定化元素
に着目し、ワイヤ中に存在するこれらの元素の位置がア
ーク安定性に影響することを見い出した。即ち、これら
の元素はワイヤ表面のみでなく、表面直下付近に存在し
ても、アーク安定性に作用する。従って、ワイヤを表層
部と中心部とに分離したときに、アーク安定性に作用す
る領域をワイヤ表層部とし、表層部中に含有されるＣ
ａ、Ｃｕ、Ｋ、Ｂａ及びＬｉの含有量を規定した。この
とき、Ｌｉ及びＫと同様の性質を有するアルカリ金属で
あるＮａについても、０．００３０重量％以下を含有す
ることによって、アーク安定性を向上させる効果が認め
られたが、Ｋよりも作用効果が小さいので、本発明にお
いては規定しない。

【００１８】図２はワイヤの表層部と中心部を示す断面
図である。表層部３は、表面付着物２を含むワイヤ表面
から５０乃至２００μｍの厚さの表層部分を、塩酸、硫
酸及び硝酸等の酸又は混酸により溶解する表面処理によ
り溶解されて除去された部分を示している。従って、ワ
イヤ表層部３には表面付着物２及び実体部１の表面が含
まれている。本発明においては、表層部３の化学組成を
請求項３及び４に規定している。

【００１９】以下、本発明におけるガスシールドアーク
溶接用ワイヤについて、更に説明する。先ず、ワイヤの
実体部中に含有される化学成分及び組成限定理由につい
て説明する。

【００２０】実体部中のＣ：０．０２乃至０．０８重量
％Ｃは溶接金属の脱酸を促進し、強度を向上させることか
ら、必要不可欠の元素である。実体部中のＣ含有量が
０．０２重量％未満であると、脱酸及び強度向上の効果
が十分に得られない。一方、Ｃ含有量が０．０８重量％
を超えると、伸線時にワイヤ表面が荒れやすくなり、ア
ーク安定性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対する
実体部中のＣ含有量は０．０２乃至０．０８重量％とす
る。

【００２１】実体部中のＳｉ：０．６０乃至１．００重
量％Ｓｉは溶接金属の脱酸を促進することから、必要不可欠
の元素である。実体部中のＳｉ含有量が０．６０重量％
未満であると、脱酸が不十分となると共に、ビード形状
が凸状となる。一方、Ｓｉ含有量が１．００重量％を超
えると、溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。従っ
て、ワイヤ全重量に対する実体部中のＳｉは０．６０乃
至１．００重量％とする。

【００２２】実体部中のＭｎ：１．４０乃至１．８０重
量％Ｍｎは溶接金属の脱酸を促進し、強度を向上させること
から、必要不可欠の元素である。実体部中のＭｎ含有量
が１．４０重量％未満であると、脱酸及び強度向上の効
果が十分に得られない。一方、Ｍｎ含有量が１．８０重
量％を超えると、伸線時にワイヤ表面が荒れやすくな
り、アーク安定性が低下する。従って、ワイヤ全重量に
対する実体部中のＭｎ含有量は１．４０乃至１．８０重
量％とする。

【００２３】実体部中のＰ：０．００２乃至０．０３０
重量％Ｐはワイヤ先端から溶滴を滑らかに離脱させることか
ら、必要不可欠の元素である。実体部中のＰ含有量が
０．００２重量％未満であると、その効果が十分に得ら
れない。一方、Ｐ含有量が０．０３０重量％を超える
と、溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。従って、
ワイヤ全重量に対する実体部中のＰ含有量は０．００２
乃至０．０３０重量％とする。

【００２４】実体部中のＳ：０．００２乃至０．０２８
重量％Ｓはワイヤ先端から溶滴を滑らかに離脱させることか
ら、必要不可欠の元素である。実体部中のＳ含有量が
０．００２重量％未満であると、その効果が十分に得ら
れない。一方、Ｓ含有量が０．０２８重量％を超える
と、溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。従って、
ワイヤ全重量に対する実体部中のＳ含有量は０．００２
乃至０．０２８重量％とする。

【００２５】実体部中のＴｉ：０．１０乃至０．２２重
量％Ｔｉは溶接金属の脱酸を促進し、スパッタを減少させる
効果を有する。実体部中のＴｉ含有量が０．１０重量％
未満であると、脱酸及びスパッタ低減の効果が十分に得
られない。一方、本発明のワイヤが対象としている分野
においては、Ｔｉ含有量が０．２２重量％を超えると、
溶接金属の強度が過剰になると共に、伸線時にワイヤ表
面が荒れやすくなって、アーク安定性が低下する。従っ
て、ワイヤ全重量に対する実体部中のＴｉ含有量は０．
１０乃至０．２２重量％とする。

【００２６】実体部中のＮｂ：０．０１０乃至０．０３
０重量％Ｎｂはブローホール及びピットの発生頻度を低減し、ア
ークを安定化する効果を有する。本発明が対象としてい
る分野においては、Ｎｂ含有量が０．０１０重量％以下
であると、これらの効果が十分に得られない。一方、Ｎ
ｂ含有量が０．０３０重量％を超えると、溶接金属の強
度が過剰になる。従って、ワイヤ全重量に対する実体部
中のＮｂ含有量は０．０１０乃至０．０３０重量％とす
る。

【００２７】実体部中のＯ：０．００２０乃至０．０１
００重量％Ｏは適切な成分範囲において、アークを安定化する効果
を有する。本発明が対象としている分野においては、実
体部中のＯ含有量が０．００２０重量％未満であると、
アークを安定化する効果が十分には得られない。一方、
Ｏ含有量が０．０１００重量％を超えると、逆に、アー
クが不安定になる。従って、ワイヤ全重量に対する実体
部中のＯ含有量は０．００２０乃至０．０１００重量％
とする。

【００２８】実体部中のＮ：０．００１５乃至０．００
７０重量％Ｎは他の成分と共に化合物を作り、適切な成分範囲にお
いてアークを安定化する効果を有する。本発明が対象と
している分野においては、Ｎ含有量が０．００１５重量
％未満であると、アークを安定化する効果が十分には得
られない。一方、Ｎ含有量が０．００７０重量％を超え
ると、ブローホール及びピットの発生頻度が増加すると
共に、溶接金属の靱性が低下しやすくなる。従って、ワ
イヤ全重量に対する実体部中のＮ含有量は０．００１５
乃至０．００７０重量％とする。

【００２９】実体部中のＣｕ：０．５０重量％以下Ｃｕは通電チップ部における通電を良好にして、アーク
の安定性を向上させる効果を有する。しかしながら、実
体部中のＣｕ含有量が０．５０重量％を超えると、溶接
金属に高温割れが発生しやすくなる。従って、ワイヤ全
重量に対する実体部中のＣｕ含有量は０．５０重量％以
下とする。このＣｕはワイヤ表面のメッキ被膜中、固溶
元素中及びワイヤ結晶粒界析出物中のいずれに存在して
もよいが、防錆効果及びワイヤの通電性を向上させるた
めには、ワイヤ表面のメッキ被膜中に存在することが好
ましい。従って、ワイヤ全重量に対するＣｕ含有量は、
ワイヤ表面のメッキ被膜中に０．１０乃至０．３５重量
％含有することが好ましい。

【００３０】実体部中のＮｉ：０．５０重量％以下Ｎｉは溶接金属の低温靱性及び強度を向上させる効果を
有する。しかしながら、本発明のワイヤが対象としてい
る分野においては、実体部中のＮｉ含有量が０．５０重
量％を超えると、溶接金属の強度が過剰になる。従っ
て、ワイヤ全重量に対する実体部中のＮｉ含有量は０．
５０重量％以下とする。

【００３１】実体部中のＣｒ：０．２０重量％以下Ｃｒは溶接金属の強度を向上させる効果を有する。しか
しながら、本発明のワイヤが対象としている分野におい
ては、実体部中のＣｒ含有量が０．２０重量％を超える
と、溶接金属の強度が過剰になる。従って、ワイヤ全重
量に対する実体部中のＣｒ含有量は０．２０重量％以下
とする。

【００３２】実体部中のＭｏ：０．１０重量％以下Ｍｏは溶接金属の低温靱性及び強度を向上させる効果を
有する。しかしながら、本発明のワイヤが対象としてい
る分野においては、実体部中のＭｏ含有量が０．１０重
量％を超えると、溶接金属の強度が過剰になる。従っ
て、ワイヤ全重量に対する実体部中のＭｏ含有量は０．
１０重量％以下とする。

【００３３】実体部中のＺｒ：０．０５重量％以下Ｚｒは溶接金属の脱酸を促進し、スパッタを減少させる
効果を有する。本発明のワイヤが対象としている分野に
おいては、ＺｒよりもＴｉの方がスパッタを減少させる
効果が高く、Ｔｉ＞Ｚｒの範囲で含有されていることが
望ましい。Ｚｒ含有量が０．０５重量％を超えると、溶
接金属の強度が過剰になると共に、伸線時にワイヤ表面
が荒れやすくなって、アーク安定性が低下する。従っ
て、ワイヤ全重量に対する実体部中のＺｒ含有量は０．
０５重量％以下とする。

【００３４】実体部中のＶ：０．０２重量％以下Ｖは溶接金属の強度を高める効果を有する。また、溶接
金属のブローホール及びピットを低減する若干の効果も
有している。しかしながら、Ｎｂと比較すると、これら
の効果は小さく、アークを安定化する作用もない。Ｖ含
有量が０．０２重量％を超えると、溶接金属の強度が過
剰になる。従って、ワイヤ全重量に対する実体部中のＶ
含有量は０．０２重量％以下とする。

【００３５】実体部中のＡｌ：０．０３重量％以下Ａｌは溶接金属の脱酸を促進し、溶接ビードを成形する
効果を有する。しかしながら、Ａｌ含有量が０．０３重
量％を超えると、スパッタが増加する。従って、ワイヤ
全重量に対する実体部中のＡｌ含有量は０．０３重量％
以下とする。

【００３６】実体部中のＢ：０．００２０重量％以下Ｂは溶接金属の靱性を向上させる効果を有する。しかし
ながら、本発明のワイヤが対象としている分野において
は、実体部中のＢ含有量が０．００２０重量％を超える
と、溶接金属の強度が過剰になると共に、伸線時にワイ
ヤ表面が荒れやすくなって、アーク安定性が低下する。
従って、ワイヤ全重量に対する実体部中のＢ含有量は
０．００２０重量％以下とする。

【００３７】実体部中のＣａ：０．００１０重量％以下Ｃａは伸線潤滑剤に含有される成分であり、鋼塊の連続
鋳造時において、ノズルの閉塞を防止する効果を有す
る。しかしながら、本発明が対象としている分野におい
ては、Ｃａ含有量が０．００１０重量％を超えると、ス
パッタが増加する。従って、ワイヤ全重量に対する実体
部中のＣａ含有量は０．００１０重量％以下とする。

【００３８】ワイヤの実体部は、上記元素の他にＦｅ及
び不可避的不純物からなるものであり、本発明において
は、これらの不可避的不純物の含有量についても規制す
る。実体部中の不可避的不純物（各成分）：０．０１重量％
以下実体部中の不可避的不純物として、例えば、Ｂｅ、Ｍ
ｇ、Ｃｏ、Ｚｎ、Ａｓ、Ｓｅ、Ｓｒ、Ｙ、Ｃｄ、Ｉｎ、
Ｓｎ、Ｓｂ、Ｔｅ、Ｂａ、Ｗ、Ｈｇ、Ｔｌ、Ｐｂ及びＢ
ｉ等がある。これらの成分は本発明が対象としている分
野においては、好ましい特性を付与しないので、少ない
方が望ましい。しかしながら、不純物成分を取り除くた
めの工程が増加すると、製造コストが高くなるので、工
業的に許容範囲となるように不純物成分を規制する必要
がある。従って、ワイヤ全重量に対する実体部中の不可
避的不純物は、夫々０．０１重量％以下とする。また、
実体部中には上記元素以外に種々の不可避的不純物が存
在する。上記元素を含む全ての不可避的不純物の含有量
が総量で０．２０重量％を超えると、同様に、好ましい
特性を付与しない。従って、ワイヤ全重量に対する実体
部中の不可避的不純物は総量で、０．２０重量％以下で
あることが望ましい。

【００３９】次に、ワイヤの表面付着物中に含有される
化学成分及び組成限定理由について説明する。

【００４０】表面付着物：０．０５重量％以下ワイヤの表面には、ワイヤ送給コンジットとの摩擦を低
減させて、良好なワイヤを実現するための潤滑剤、防錆
剤及びアーク安定剤が固着されており、これらは、アー
クを安定化する効果を有する。しかしながら、本発明が
対象としている分野においては、ワイヤ全体の表面付着
物が０．０５重量％を超えると、通電チップ部における
通電が不安定になりやすく、逆に、アークが不安定にな
る。従って、ワイヤ全重量に対する表面付着物は０．０
５重量％以下であることが好ましい。

【００４１】表面付着物中のＨ：０．００１０乃至０．
００９０重量％Ｈはワイヤの表面に存在すると、ワイヤ送給コンジット
との摩擦を低減させて、良好なワイヤを実現するための
潤滑剤及びアーク安定剤として、アークを安定化する効
果を有する。本発明が対象としている分野においては、
表面付着物中のＨ含有量が０．００１０重量％未満であ
ると、アークを安定化する効果が不十分である。一方、
Ｈ含有量が０．００９０重量％を超えると、ブローホー
ル及びピットの発生頻度が増加すると共に、溶接金属に
割れが発生しやすくなる。従って、ワイヤ全重量に対す
る表面付着物中のＨ含有量は０．００１０乃至０．００
９０重量％であることが好ましい。

【００４２】表面付着物中のＣ：０．００４乃至０．０
４０重量％Ｃはワイヤの表面に存在すると、ワイヤ送給コンジット
との摩擦を低減させて、良好なワイヤを実現するための
潤滑剤及びアーク安定剤として、アークを安定化する効
果を有する。本発明が対象としている分野においては、
表面付着物中のＣ含有量が０．００４重量％未満である
と、アークを安定化する効果が不十分である。一方、Ｃ
含有量が０．０４０重量％を超えると、ヒュームが増加
する。従って、ワイヤ全重量に対する表面付着物中のＣ
含有量は０．００４乃至０．０４０重量％であることが
好ましい。

【００４３】表面付着物中のＢ：０．００１０重量％以
下前述の如く、Ｂは実体部中においては溶接金属の靱性を
向上させる効果を有する。しかしながら、本発明が対象
としている分野において、表面付着物中のＢ含有量が
０．００１０重量％を超えると、溶接金属の強度が過剰
になりやすく、靱性が低下しやすくなる。従って、ワイ
ヤ全重量に対する表面付着物中のＢ含有量は０．００１
０重量％以下であることが望ましい。

【００４４】表面付着物中のＣａ：０．０００５重量％
以下前述の如く、Ｃａは伸線潤滑剤に含有される成分であ
り、鋼塊の連続鋳造時において、ノズルの閉塞を防止す
る効果を有する。しかしながら、本発明が対象としてい
る分野においては、表面付着物中のＣａ含有量が０．０
００５重量％を超えると、スパッタが増加する。従っ
て、ワイヤ全重量に対する表面付着物中のＣａ含有量は
０．０００５重量％以下であることが好ましい。

【００４５】更に、ワイヤ表層部中に含有される化学成
分及び組成限定理由について説明する。

【００４６】ワイヤ表層部中のＣｕ：０．３５重量％以
下前述の如く、Ｃｕは通電チップ部における通電を良好に
して、アークの安定性を向上させる効果を有する。しか
しながら、ワイヤ表層部中のＣｕ含有量が０．３５重量
％を超えると、逆に、アークが不安定になりやすい。従
って、ワイヤ全重量に対するワイヤ表層部中のＣｕ含有
量は０．３５重量％以下であることが好ましい。

【００４７】ワイヤ表層部中のＫ：０．０００１乃至
０．００３０重量％ワイヤ表層部に存在するＫはアークを安定化する効果を
有する。ワイヤ表層部中のＫ含有量が０．０００１重量
％未満であると、アークを安定化する効果が不十分とな
る。一方、Ｋ含有量が０．００３０重量％を超えると、
アークがぼやけた形状になりやすい。従って、ワイヤ全
重量に対するワイヤ表層部中のＫ含有量は０．０００１
乃至０．００３０重量％であることが好ましい。

【００４８】ワイヤ表層部中のＢａ：０．０００５重量
％以下Ｂａは伸線潤滑剤に含有される成分であるが、本発明が
対象としている分野においては、ワイヤ表層部中のＢａ
含有量が０．０００５重量％を超えると、スパッタが増
加する。従って、ワイヤ全重量に対するワイヤ表層部中
のＢａ含有量は０．０００５重量％以下であることが好
ましい。

【００４９】ワイヤ表層部中のＬｉ：０．０００１乃至
０．００３０重量％ワイヤ表層部に存在するＬｉは、アークの特性を変化さ
せてアークを安定にすると共に、ブローホール及びピッ
トの発生頻度を減少させる効果を有する。ワイヤ表層部
中のＬｉ含有量が０．０００１重量％であると、これら
の効果が十分に得られない。一方、Ｌｉ含有量が０．０
０３０重量％を超えると、アークがぼやけた形状になり
やすい。従って、ワイヤ全重量に対するワイヤ表層部中
のＬｉ含有量は０．０００１乃至０．００３０重量％で
あることが望ましい。

【００５０】本発明におけるワイヤは、ワイヤ径が５．
５乃至７．０ｍｍの熱間圧延線材を圧延又は伸線する工
程、必要に応じて施す熱処理工程、洗浄工程、必要に応
じて施す銅メッキ工程、表面処理工程、スプール巻換工
程及び大容量パック製造工程等を適宜組み合わせたいず
れの工程においても、適用することができる。

【００５１】

【実施例】以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接
用ワイヤの実施例についてその比較例と比較して具体的
に説明する。

【００５２】先ず、種々の元素が添加されたワイヤにつ
いて、ブローホール及びピットの発生頻度並びにアーク
の安定性を調査した。その結果、いずれか一方の特性を
向上させる効果を有するが、他方の特性を劣化させるか
又はわずかな効果を有するという元素が多かった。しか
しながら、Ｎｂについては、双方を向上させる成分範囲
を有することが確認された。

【００５３】次いで、ＪＩＳＺ３３１２ＹＧＷ１１
による溶接金属と同等の強度及び靱性を得るために、ワ
イヤの実体部の成分であるＣ、Ｓｉ、Ｍｎ、Ｐ、Ｓ、Ｃ
ｕ、Ｎｉ、Ｃｒ、Ｍｏ、Ｔｉ、Ｎｂ、Ｚｒ、Ｖ、Ａｌ、
Ｂ、Ｏ、Ｎ及びＣａについて適正量に規定した。

【００５４】但し、本実施例及び比較例において使用し
たワイヤは、直径が５．５ｍｍである熱間圧延線材を、
下記の２種類の製造工程によって、その直径が０．８乃
至１．６ｍｍとなるように製造したものである。

【００５５】製造工程（１）伸線→熱処理→洗浄→銅メッキ→伸線→表面処理
→スプール巻換（２）伸線→熱処理→伸線→表面処理→大容量パック製
造このようにして製造したワイヤについて、Ｃ、Ｓｉ、Ｍ
ｎ、Ｐ、Ｓ、Ｃｕ、Ｎｉ、Ｃｒ、Ｍｏ、Ｔｉ、Ｎｂ、Ｚ
ｒ、Ｖ、Ａｌ、Ｂ、Ｏ、Ｎ及びＣａの化学成分が本発明
の範囲内であるものを実施例とし、その他のものを比較
例として溶接金属の機械的性能、ピット及びブローホー
ルの発生頻度並びにアーク安定性について評価した。実
施例及び比較例のワイヤの実体部中の化学成分の組成及
び評価結果を下記表１〜６に示す。但し、化学成分のそ
の他の欄において、◎は表中に記載していない不可避的
不純物の含有量が全て０．０１重量％以下であると共
に、それらの総量が０．５０重量％以下であることを示
している。また、評価欄において、１は許容できないレ
ベルであること、２は従来技術によるワイヤを使用した
ときのレベルであること、３以上は数字が大きくなるほ
ど良好であることを示している。

【００５６】なお、溶接金属の機械的性能は強度及び靱
性の２点において、ＪＩＳＺ３３１２に準拠して評価
した。また、アーク安定性については、溶接電流（ＤＣ
ＥＰ）；２８０〜３２０Ａ、溶接電圧；２９〜３４Ｖ、
溶接速度；３０〜４５ｃｍ／分、シールドガス１００％
ＣＯ₂ 流量；２５リットル／分の溶接条件で下向き隅肉溶接
を実施し、電圧及び電流の変動を記録することによって
評価した。更に、ピット及びブローホールの発生頻度に
ついては、アーク安定性の評価と同様に溶接し、溶接部
に対して電動ファンの微風を当てて、ピット及びブロー
ホールの発生を観察することによって評価した。

【００５７】

【表１】

【００５８】

【表２】

【００５９】

【表３】

【００６０】

【表４】

【００６１】

【表５】

【００６２】

【表６】

【００６３】上記表１〜６に示すように、実体部中の化
学成分の含有量が本発明の範囲内である実施例について
は、比較例と比較して、溶接金属の機械的性能、ピット
及びブローホールの発生頻度並びにアーク安定性の評価
結果が安定して良好であった。

【００６４】一方、実体部中の少なくとも１元素の化学
成分が本発明の範囲から外れていると、各評価結果は従
来のワイヤを使用したものと同様の結果となった。

【００６５】次に、ワイヤの表面に付着したアーク安定
化物質等(表面付着物）の化学成分及びその含有量が、
溶接金属の機械的性能、ビード形状及びアーク安定性に
対して及ぼす影響について実験した。その結果、ワイヤ
の表面付着物中のＨ及びＣが、アークの安定化に影響す
る元素であることを確認した。従って、アーク安定化物
質として、各種炭酸塩、各種水酸化物及びグラファイト
等の固体潤滑剤の微粉を単体で、又は鉱物油、植物油若
しくはそれらの混合油に分散させたものを使用して、ワ
イヤの表面に付着させ、それらのワイヤについて溶接欠
陥を評価した。なお、表面付着物中のＨ、Ｃ、Ｂ及びＣ
ａが本発明の範囲内であるものを実施例とし、それ以外
のものを比較例とした。これらの実施例及び比較例につ
いて、実体部中の化学成分の含有量は本発明の範囲内で
ある。これらの化学成分の含有量を下記表７〜１０に示
し、評価結果を下記表１１に示す。

【００６６】

【表７】

【００６７】

【表８】

【００６８】

【表９】

【００６９】

【表１０】

【００７０】

【表１１】

【００７１】上記表７〜１１に示すように、本実施例
は、実体部及び表面付着物中の化学成分の含有量が本発
明の範囲内である。従って、表１〜６に示した実体部の
化学成分のみが本発明の範囲内である実施例と比較し
て、特にピット及びブローホールの発生頻度が低減さ
れ、アークの安定性が向上したものとなった。

【００７２】また、ワイヤ表面の凹部に各種元素の酸化
物等を機械的に付着させた後に、熱処理及び銅メッキ処
理並びに送給用潤滑剤を付着させる処理によって化合物
等を固定させ、ワイヤ表層部中の化学成分及びその含有
量が、溶接金属の機械的性能、ビード形状及びアーク安
定性に対して及ぼす影響について実験した。その結果、
ワイヤ表層部中のＣｕ、Ｋ、Ｂａ及びＬｉが、アークの
安定性に影響する元素であることを確認した。従って、
ワイヤ表層部中のＣｕ、Ｋ及びＢａが本発明の範囲内で
あるものを実施例とし、それ以外のものを比較例とし
て、溶接金属の機械的性能、ビード形状及びアーク安定
性について評価した。これらの実施例及び比較例につい
て、実体部及び表面付着物中の化学成分の含有量は本発
明の範囲内である。これらの化学成分の含有量を下記表
１２〜１６に示し、評価結果を下記表１６に併せて示
す。

【００７３】

【表１２】

【００７４】

【表１３】

【００７５】

【表１４】

【００７６】

【表１５】

【００７７】

【表１６】

【００７８】上記表１２〜１６に示すように、本実施例
は実体部及び表面付着物中の化学成分の含有量が本発明
の範囲内であると共に、ワイヤ表層部の特定化学成分の
含有量についても本発明の範囲内となっている。従っ
て、表７〜１１に示した実体部及び表面付着物中の化学
成分のみの組成が本発明の範囲内である実施例と比較し
て、更に一層、ピット及びブローホールの発生頻度が低
減され、アークの安定性も向上した。

【００７９】更に、ワイヤ表層部中のＬｉ含有量を適正
量に規定すると、アークの安定性が更に一層向上するこ
とより、ワイヤ表層部中のＬｉが本発明の範囲内である
ものを実施例とし、それ以外のものを比較例として、溶
接金属の機械的性能、ビード形状及びアーク安定性につ
いて評価した。これらの実施例及び比較例について、実
体部及び表面付着物中の化学成分の含有量は本発明の範
囲内である。これらの化学成分の含有量を下記表１７〜
２１に示し、評価結果を下記表２２に示す。

【００８０】

【表１７】

【００８１】

【表１８】

【００８２】

【表１９】

【００８３】

【表２０】

【００８４】

【表２１】

【００８５】

【表２２】

【００８６】上記表１７〜２２に示すように、本実施例
は実体部、表面付着物及びワイヤ表層部中の特定化学成
分の含有量が本発明の範囲内であると共に、ワイヤ表層
部中のＬｉ含有量についても本発明の範囲内となってい
る。従って、表１２〜１６に示した実施例と比較して、
ピット及びブローホール発生の抑制効果が極めて高く、
アークの安定性も優れていた。

【００８７】一方、本比較例についても、Ｌｉの添加に
より表１２〜１６に示した実施例及び比較例と比較し
て、優れた結果となった。しかしながら、比較例Ｎｏ．
５８はワイヤ表層部中のＬｉ含有量が本発明範囲の下限
未満であるので、ピット及びブローホールの発生を抑制
する効果が本実施例と比較して若干劣っていた。また、
比較例Ｎｏ．５９はＬｉ含有量が本発明範囲の上限を超
えており、その評価結果は実施例と同様のものであった
が、アークがぼやけた形状になり、好ましくなかった。

【００８８】

【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
ワイヤ本体部中の化学組成を適正量に規定しているの
で、溶接金属の強度及び靱性が良好であると共に、溶接
時のアーク安定性を向上させ、ブローホール及びピット
等の発生を防止することができるガスシールドアーク溶
接用ワイヤを得ることができる。また、表面付着物及び
ワイヤ表層部中の化学成分の含有量を適切に規制する
と、更に一層ピット及びブローホール発生の抑制効果が
優れたものとなり、アーク安定性も向上する。

【図面の簡単な説明】

【図１】ワイヤの表面付着物と実体部を示す断面図であ
る。

【図２】ワイヤの表層部と中心部を示す断面図である。

【符号の説明】

１；実体部２；表面付着物３；ワイヤ表層部

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者長尾護兵庫県神戸市西区高塚台１丁目５番５号株式会社神戸製鋼所神戸総合技術研究所内

Claims

【特許請求の範囲】

【請求項１】有機溶剤洗浄及び熱水洗浄により表面付
着物を除去した後の実体部中に、ワイヤ全重量に対し
て、Ｃ：０．０２乃至０．０８重量％、Ｓｉ：０．６０
乃至１．００重量％、Ｍｎ：１．４０乃至１．８０重量
％、Ｐ：０．００２乃至０．０３０重量％、Ｓ：０．０
０２乃至０．０２８重量％、Ｔｉ：０．１０乃至０．２
２重量％、Ｎｂ：０．０１０乃至０．０３０重量％、
Ｏ：０．００２０乃至０．０１００重量％、Ｎ：０．０
０１５乃至０．００７０重量％、Ｃｕ：０．５０重量％
以下、Ｎｉ：０．５０重量％以下、Ｃｒ：０．２０重量
％以下、Ｍｏ：０．１０重量％以下、Ｚｒ：０．０５重
量％以下、Ｖ：０．０２重量％以下、Ａｌ：０．０３重
量％以下、Ｂ：０．００２０重量％以下及びＣａ：０．
００１０重量％以下を含有し、残部がＦｅ及び不可避的
不純物からなり、前記不可避的不純物は、各成分が０．
０１重量％以下に規制されたことを特徴とするガスシー
ルドアーク溶接用ワイヤ。
【請求項２】前記表面付着物はワイヤ全重量に対して
０．０５重量％以下であり、前記表面付着物中に、ワイ
ヤ全重量に対して、Ｈ：０．００１０乃至０．００９０
重量％及びＣ：０．００４乃至０．０４０重量％を含有
し、不可避的不純物としてのＢは０．００１０重量％以
下、Ｃａは０．０００５重量％以下に規制されているこ
とを特徴とする請求項１に記載のガスシールドアーク溶
接用ワイヤ。
【請求項３】表面付着物を含むワイヤ表面から５０乃
至２００μｍの厚さのワイヤ表層部を酸又は混酸により
溶解する表面処理を施した場合、溶解されて除去された
ワイヤ表層部が、Ｋ：０．０００１乃至０．００３０重
量％及びＣｕ：０．３５重量％以下を含有し、不可避的
不純物としてのＢａが０．０００５重量％以下に規制さ
れていることを特徴とする請求項１又は２に記載のガス
シールドアーク溶接用ワイヤ。
【請求項４】更に、前記ワイヤ表層部中に、ワイヤ全
重量に対して、Ｌｉを０．０００１乃至０．００３０重
量％含有していることを特徴とする請求項３に記載のガ
スシールドアーク溶接用ワイヤ。