JPH09157844A - 回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法および装置 - Google Patents

回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法および装置

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JPH09157844A
JPH09157844A JP31315695A JP31315695A JPH09157844A JP H09157844 A JPH09157844 A JP H09157844A JP 31315695 A JP31315695 A JP 31315695A JP 31315695 A JP31315695 A JP 31315695A JP H09157844 A JPH09157844 A JP H09157844A
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保吉 江上
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 一度に多数の回転式コンプレッサ用ベーンの
表面に膜厚の均一性が高いPVD膜を形成することによ
り回転式コンプレッサ用ベーンの耐磨耗性を高める。 【解決手段】 複数の回転式コンプレッサ用ベーン3を
複数の空隙50が形成されているとともに両端が開口し
ている筒状治具15の外周部に放射状に取り付け、この
筒状治具15を自転させながらターゲット12の周りを
公転させつつ移動させて真空蒸着膜形成処理を行う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回転式コンプレッ
サに用いられるベーンの耐磨耗性を向上させるために、
ベーンの表面に膜厚差の小さい物理蒸着膜を形成する方
法およびその方法を実施するための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図9および図10に示すような揺動ロー
タ型の回転式コンプレッサにおいては、ハウジング1内
で偏心回転するロータ2の外周面にハウジング1のベー
ン溝1aに進退自在に取り付けられたベーン3の先端部
が摺接してロータ2の回転に伴って進退するようになっ
ているため、ロータ2の外周面上を摺動するベーン3の
先端部、およびベーン溝1aに摺接するベーン3の側面
部に磨耗が生じ易い。
【0003】従来は、このようなベーン3の磨耗を防止
するため、例えば特開平5−33119号公報に記載さ
れているようなイオン窒化法により、ベーン3に対して
表面処理を行っている。なお、この特開平5−3311
9号公報に記載されているイオン窒化法は、図13に示
すように、円形プレート4上に複数個のベーン3を所定
間隔で並べて固定した後、この円形プレート4を処理炉
内に入れてイオン窒化処理を行うものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、回転式
コンプレッサに使用される圧縮流体としてフロンガス等
が使用される場合には、上記のようなイオン窒化法によ
る表面硬化処理のみでベーンの十分な耐磨耗性を確保す
ることができるが、近年のフロンガス規制により特定フ
ロンガスを含有するガスが使用できなくなるため、特定
フロンガスを含有しない他のガスを使用することを前提
とすると、イオン窒化法による表面硬化処理のみでは、
ベーンにより大きな耐磨耗性が要求されてくるものと思
われる。
【0005】かかる事情に鑑み、本件出願人は、特定フ
ロンガスを含有しないガスの使用を前提として回転式コ
ンプレッサ用ベーンの表面に耐磨耗性に優れた物理蒸着
膜を形成する方法およびその方法に使用する装置を提案
しているが(特開平7−41945号公報参照)、この
装置を使用して形成される物理蒸着膜は、図14に示す
ように、ベーン3の側面3cにおけるアール面3b(摺
動面)側のPVD膜60の膜厚d1 が大きくなる傾向、
すなわち膜厚d1 と膜厚d2 との差が大きくなる傾向が
あり、平行度に問題がある。したがって、この装置を使
用して形成される物理蒸着膜は膜厚の均一性に改善の余
地がある。
【0006】本発明は、上記の回転式コンプレッサ用べ
ーンの物理蒸着膜形成方法およびその方法を実施するた
めの装置を改良するためになされたものであり、本発明
の目的は、耐磨耗性が高く、しかも膜厚の均一性に優れ
た蒸着膜を回転式コンプレッサ用ベーンの表面に効率良
く形成することのできる方法およびその方法を実施する
ための装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、本発明の回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着
膜形成方法は、複数の回転式コンプレッサ用ベーンを複
数の空隙が形成されているとともに両端が開口している
筒状治具の外周部に放射状に取り付け、この筒状治具を
自転させながら蒸着源の周りを公転させつつ移動させて
真空蒸着膜形成処理を行うことにより、各ベーンの表面
に物理蒸着膜を形成する構成とし、進行方向に沿った両
側面が開放した運搬車を使用し、この運搬車内の進行方
向に沿って且つ空隙を設けて複数段の棚状に設けられた
棚状治具のそれぞれに複数の回転式コンプレッサ用ベー
ンを取り付け、この運搬車を処理炉内に移動させるとと
もに該炉内の前記運搬車の開放面と対向する位置にそれ
ぞれ配設された蒸着源から蒸気原子を発生させて前記各
ベーンの表面に物理蒸着膜を形成する構成とした。
【0008】また、本発明の装置は、外周部に複数の回
転式コンプレッサ用ベーンを放射状に取り付けるための
取り付け部を有するとともに、複数の空隙が形成され、
両端が開口している筒状治具と、真空薄膜形成を行う処
理炉内に回転自在に配置されたプレートと、前記プレー
トの外周縁部に回転自在に配置され、その上面に前記筒
状治具が着脱自在に載置されるようになっている一個ま
たは複数の治具載置板と、前記プレートの回転に伴って
前記治具載置板をその回転軸を中心として回転させる治
具載置板機構と、前記プレートの中心位置に設置された
蒸着源とを備える構成とし、さらに、前記筒状治具に形
成されている複数の空隙が、該治具の径方向に沿って設
けられている構成とし、あるいは前記筒状治具に形成さ
れている複数の空隙が、該治具の中心軸に沿って設けら
れている構成とし、さらにまた、上記の装置において、
回転式コンプレッサ用ベーンを放射状に取り付けるため
の前記筒状治具の取り付け部が、治具の径方向に沿って
延在するように該治具の外周面に突設された複数のテー
パ状の支持ピンであり、該支持ピンに前記回転式コンプ
レッサ用ベーンに形成されている凹部を嵌合させること
により、回転式コンプレッサ用ベーンを前記筒状治具に
取り付ける構成とし、さらに、前記治具載置板自転機構
が、前記治具載置板に一体的にかつ同軸状に取り付けら
れた外歯の歯車と、前記プレートに対し同軸状に配置さ
れて前記外歯の歯車と噛み合う固定歯車とからなる構成
とした。
【0009】本発明の回転式コンプレッサ用ベーンの物
理蒸着膜形成方法においては、複数の回転式コンプレッ
サ用ベーンを複数の空隙が形成され両端が開口している
筒状治具の外周部に放射状に取り付け、この筒状治具を
自転させながら蒸着源の周りを公転させつつ移動させて
真空蒸着膜の形成処理を行うが、この方法で回転式コン
プレッサ用ベーンを取り付ける筒状治具には複数の空隙
が形成されているので、蒸発源から蒸発しイオン化した
原子のこれらの空隙からの回り込み及びこの筒状治具に
取り付けられている回転式コンプレッサ用ベーンの裏側
からの回り込みが得られることになる。したがって、本
発明の方法により形成される物理蒸着膜は、従来の回転
式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法により形
成される物理蒸着膜に比較して膜厚の均一性が向上した
ものとなる。
【0010】また、本発明の回転式コンプレッサ用ベー
ンの物理蒸着膜形成方法においては、進行方向に沿った
両側面が開放した運搬車を使用し、この運搬車内の進行
方向に沿って複数段の棚状に設けられた棚状治具のそれ
ぞれに水平方向に複数の回転式コンプレッサ用ベーンを
取り付け、この運搬車を真空室およびコーティング室か
らなる物理蒸着膜形成炉内に移動させるとともに該炉内
の前記運搬車の開放面と対向する位置に配設された蒸着
源から蒸気原子を発生させて前記各ベーンの取り付け方
向先端面側から各ベーンの表面に物理蒸着膜を形成する
が、この方法で回転式コンプレッサ用ベーンを取り付け
る複数の棚状治具の間にはそれぞれ空隙が形成されてい
るので、蒸発源から蒸発しイオン化した原子のこれらの
空隙からの回り込み及びこの棚状治具に取り付けられて
いる回転式コンプレッサ用ベーンの側面および裏面側か
らの回り込みが得られることになる。したがって、本発
明の方法により形成される物理蒸着膜は、従来の回転式
コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法により形成
される物理蒸着膜に比較して膜厚の均一性が向上したも
のとなる。
【0011】一方、本発明の回転式コンプレッサ用ベー
ンの物理蒸着膜形成装置においては、回転式コンプレッ
サ用ベーンが放射状に取り付けられる治具に、複数の空
隙が形成され両端が開口している筒状治具を用い、この
筒状治具をそれぞれ処理炉内の治具載置板に載置して固
定するが、各治具載置板は駆動源により回転させられる
ことにより治具載置板上に載置されている筒状治具が自
転する。このとき、蒸発源から蒸発しイオン化した原子
が筒状治具に形成されている空隙から回り込むことにな
るので、筒状治具に放射状に取り付けられている回転式
コンプレッサ用ベーンは裏側からもイオン化した原子が
回り込むことになる。したがって、この装置を使用して
回転式コンプレッサ用ベーンの表面に形成される物理蒸
着膜は、空隙が形成されていない治具を用いる従来の装
置を使用して形成される物理蒸着膜に比較して膜厚の均
一性が向上している。
【0012】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施形態について、
図面を参照しながら具体的に説明する。この実施形態で
は、イオン窒化処理されたベーン3の表面にイオンプレ
ーティング法により物理蒸着膜(以下、PVD膜とい
う)を形成してベーン3の耐磨耗性を向上させる。
【0013】図1は、ベーン3の表面にイオンプレーテ
ィング方法によりPVD膜を形成するためのPVD膜形
成装置を示す説明図である。このPVD膜形成装置は、
イオンプレーティング処理炉10内に円形のプレート1
1が収容されており、このプレート11は図示しない駆
動装置によりその回転軸を中心に水平面において回転さ
れるようになっている。
【0014】プレート11上には、その軸心位置に、円
柱状の蒸発源(例えばCr、Ti等からなるターゲッ
ト)12が同軸状に設置されている。プレート11に
は、その周縁部に六個の円形の治具載置板13が、ター
ゲット12を中心として等角度間隔位置に、それぞれ回
転自在に設置されている。
【0015】治具載置板13上には、それぞれその軸心
位置に支持棒14が同軸状に立設され固定されている。
それぞれの治具載置板13上には、所定数のベーン3が
放射状に取り付けられ、複数の空隙が形成されていると
ともに両端が開口している筒状治具15がその中心を支
持棒14に嵌合されて載置され、固定されるようになっ
ている。この筒状治具15については、後に詳述する。
【0016】図2および図3に示すように、治具載置板
13には、それぞれプレート11の下方に位置するギア
16が、シャフト17によって同軸上にかつ一体的に連
結されており、このギア16はそれぞれプレート11を
支持する基台18の上端内周部に取り付けられた内歯歯
車19と噛み合わされている。この噛み合いにより、プ
レート11が回転すると、この回転に伴って治具載置板
13がプレート11とは反対向きに回転する。すなわ
ち、治具載置板13は、プレート11の回転に伴ってプ
レート11の回転軸の回りを公転するとともに自転を行
う。
【0017】筒状治具15は、複数の空隙を有するとと
もに、両端が開口しており、これらの空隙および開口に
より、ターゲット12から蒸発しイオン化した原子が、
この筒状治具15に放射状に取り付けられたベーン3の
裏側からも回り込めるようになっている。これによりベ
ーン3の側面3cにおけるアール面3bの反対側は裏側
からもコーティングがなされるようになる。
【0018】この筒状治具15は、図3に示すように、
複数の円板状ピンホルダー15c等が軸方向に間隔を設
けて連結され、複数の空隙50が該治具15の径方向に
沿って設けられているものであってもよいし、図4に示
すように、柱状ピンホルダー15gが円周方向に間隔を
設けて複数個連結され、複数の空隙50が該治具15の
中心軸方向に沿って設けられているものであってもよ
い。
【0019】筒状治具15は、その中心部に支持棒14
の直径よりも大きな直径を有する嵌合孔15aが形成さ
れている支持棒ホルダー15bを有し、この支持棒ホル
ダー15bの嵌合孔15aが支持棒14に嵌合されるこ
とにより筒状治具15が治具載置板13上に固定される
ようになっている。
【0020】さらに具体的には、図3に示すように、こ
の態様の筒状治具15は、互いに連結された円板状ピン
ホルダ15c,15d,15e,15fを有し、最上段
の円板状ピンホルダ15cおよび最下段の円板状ピンホ
ルダ15fは、それぞれ支持棒ホルダ15b,15b´
により保持されている。また、支持棒ホルダ15b´,
の底面には、例えば位置決め突起が形成され、治具載置
板13には、例えば前記位置決め突起を受ける位置決め
凹部が形成されている。これにより、筒状治具15は、
嵌合孔15aの内周面と支持棒14の外周面とが一定の
間隔を保つ状態で治具載置板13上の所定位置に載置さ
れる。
【0021】図3乃至図5に示すように、筒状治具15
の外周部には、ベーン取付け用の支持ピン20が放射状
に配設されている。ここで、複数の空隙50が該治具1
5の径方向に沿って設けられている図1および図3に示
すような筒状治具15を用いる場合、この筒状治具15
は、例えば図6に示すように等角度間隔位置に支持ピン
20が配設されている円板状ピンホルダ15cと図7に
示すように不等角度間隔位置に支持ピン20が配設され
ている円板状ピンホルダ15dとを交互に連設して構成
するようにしてもよい。このように構成された筒状治具
15を用いることにより、ターゲット12から蒸発しイ
オン化した原子の回り込みがより効率的なものとなる。
【0022】図8に拡大して示すように、各支持ピン2
0は、断面円形で先細のテーパ状に形成されている。こ
の支持ピン20へのベーン3の取り付けは、ベーン3の
後端面に形成されているスプリング嵌合用の凹部3aを
利用して行われる。すなわち、この凹部3aは、ベーン
3が回転式コンプレッサに組み付けられているとき、図
9および図10に示すように、ベーン3をロータ2側に
付勢するスプリング4を嵌合するためのものであり、こ
の凹部3aに支持ピン20を圧入することによってベー
ン3が筒状治具15に固定される。
【0023】この支持ピン20のテーパ面の角度および
寸法精度は、ベーン3の凹部3aのの寸法および公差を
考慮して決定されるが、テーパ面のテーパは例えば1/
20にすることが望ましい。
【0024】また、支持ピン20の配置は、この支持ピ
ン20にベーン3を取り付けた状態において、図3およ
び図5に示すようなベーン3同士の最も接近する間隔x
およびyが、それぞれ5mm〜15mmとなるように設
定されている。これは、間隔が5mm以下の場合には、
イオン化された原子の回り込みが十分に行われなくな
り、形成されるPVD膜が不均一になって十分な耐磨耗
性が得られなくなる一方、間隔が15mm以上になると
一本の筒状治具15に装着できるベーン3の数が少なく
なるため、製造コストが高くなるからである。
【0025】次いで、以上に説明したPVD膜形成装置
を用いてベーン表面にPVD膜を形成する方法について
説明する。先ず、べーン3の表面をイオン窒化した後、
このベーン3に形成されている凹部3aを筒状治具15
に設けられている支持ピン20に圧入することによって
取り付ける。このベーン3の取り付けは、ベーン3の両
面が鉛直方向を向き、かつその軸線が支持ピン20の軸
線と一致するように行う。
【0026】このベーン3の取り付けにスプリング取り
付け用の凹部3aを利用することにより、ベーン3の別
個の加工を施す必要がなくなる。また、支持ピン20が
テーパ状に加工されていることにより、ベーン3の取り
付けを容易にかつ確実に行うことができる。
【0027】このようにベーン3が取り付けられた筒状
治具15を予め何本も用意しておく。ここで、例えば、
上面に鉛直方向に立設された複数本の支持棒を有する治
具置き台を用意しておけば、この支持棒に嵌合孔15a
を嵌合して筒状治具15を治具置き台上に並べておくこ
とができる。
【0028】図1および図3に示すように、ベーン3が
取り付けられ準備されたそれぞれの筒状治具15の嵌合
孔15aを、処理炉10内の治具載置板13上に立設さ
れた支持棒14に前述の支持棒ホルダ15b,15b´
を使用して所定位置に嵌合することによりそれぞれの筒
状治具15を治具載置板13上に据え付ける。このと
き、それぞれの筒状治具15に取り付けられたベーン3
は、図3に示すように、ロータ面に摺接される先端部の
アール面3bが支持棒14に対して平行な状態を維持し
ている。
【0029】このようにして、支持棒14への筒状治具
15の据え付けが完了すると、処理炉10の内部を密閉
して真空にし、イオンボンバードによりベーン3の表面
をクリーニングした後、イオンプレーティング処理を行
う。
【0030】イオンプレーティング処理の方法として
は、例えば直流法、高周波法、クラスタイオンビーム法
および熱陰極法のいずれを用いてもよく、いずれの方法
もターゲット12から加熱蒸発させたCr、Ti等の原
子をイオン化し、このイオン化した原子を負に印加した
ベーン3に向けて加速させて衝突させ凝固させることに
より、ベーン3の表面にPVD膜を形成する。このと
き、筒状治具15の間隙および嵌合孔15aの内周面と
支持棒14の外周面との間隙からもイオン化した原子が
回り込んで全体としてイオン化した原子の回り込みがよ
り効率的なものとなり、筒状治具15に放射状に取り付
けられているベーン3の側面3cにおける膜厚d1 と膜
厚d2 との差が小さくて膜厚の均一性の高いPVD膜の
形成が行われる。
【0031】また、このイオンプレーティング処理を行
っている間、プレート11を図示しない駆動装置により
回転させて各筒状治具15をターゲット12の周りで公
転させる。一方、ギア16と内歯歯車19との噛み合い
によって治具載置板13が回転することにより、この治
具載置板13上に載置されている筒状治具15は自転す
る。
【0032】このように、複数の空隙が設けられている
とともに両端が開口している筒状治具15を用い、この
筒状治具15を自転させながらターゲット12の回りを
公転させることにより、この筒状治具15に取り付けら
れたそれぞれのベーン3を均等にターゲット12に対向
させながら全体としてイオン化した原子の回り込み効率
を向上させてベーン3の表面に膜厚の均一性が高いPV
D膜を形成することができる。このようにして、一度に
多数のベーン3にイオンプレーティング処理を行うこと
ができる。そして、この方法によれば、ベーン3の側面
3cにおける膜厚d1 と膜厚d2 との差を小さくするこ
とができるので、従来、問題となっていたPVD膜の平
行度の問題を解決することができる。具体的には、ベー
ン3の側面3cにおける膜厚d1 と膜厚d2 との差は、
前述の従来法により形成されたものが2.5〜3.5μ
mであるのに対し、本発明の方法によりベーン3の表面
に形成されるPVD膜では1.5〜2.5μmと小さい
ものであり、本発明の方法によりベーン3の表面に形成
されるPVD膜は平行度が向上している。
【0033】イオンプレーティング処理を行う場合には
処理炉10内を真空にするのに時間を要し、これが製品
コストを上昇させる原因となるが、上記の方法によれ
ば、一度に多数のベーン3についてイオンプレーティン
グ処理を施すことができるので、製品の低廉化を図るこ
とができる。
【0034】また、筒状治具15に取り付けられたベー
ン3のアール面3bが、筒状治具15の回転に伴ってタ
ーゲット12に対して接近し直角に対向することとなる
ため、最も耐磨耗性が要求されるアール面3bに目的の
膜厚と十分な密着性を有する均一なPVD膜を形成する
ことができる。
【0035】上記のようなイオンプレーティング処理に
より加熱されたベーン3は、イオンプレーティング処理
が終了した後、冷却され、筒状治具15ごと処理炉10
から取り出される。
【0036】なお、この実施態様では、ベーン3にPV
D膜を形成する前に、ベーン3にイオン窒化処理を行う
が、ベーン3にPVD膜を形成するだけで十分な耐磨耗
性が得られる場合には、ベーン3にイオン窒化処理を行
わなくてもよい。
【0037】また、この実施態様では、筒状治具15を
自転させるために基台18に取り付けられた内歯歯車1
9を用いたが、この内歯歯車19の代わりに外歯歯車を
プレート11と同軸上に基台18に固定して配置し、こ
の外歯歯車にギア16を噛み合わせるようにしてもよ
い。
【0038】さらに、プレート11に設ける治具載置板
13の数、支持ピン20の配置段数および筒状治具15
へのベーン3の取付け枚数等は、適宜に設定することが
できる。
【0039】次に、本発明の方法の他の実施態様につい
て説明する。図11に示すように、この実施態様では、
進行方向に沿った両側面が開放した運搬車70を使用す
る。
【0040】この運搬車70内には、運搬車70の進行
方向に沿って且つ空隙50を設けて複数段の棚状に設け
られた棚状治具80が設置されている。各棚状治具80
のそれぞれには複数の回転式コンプレッサ用ベーン3を
水平方向に取り付けるための支持ピン20´が配置され
ている。この支持ピン20´は前記支持ピン20と同様
に断面円形で先細のテーパ状に形成されている。そし
て、て、この支持ピン20´への各べーン3の取り付け
方法は前記の態様におけるのと同様である 一方、運搬車70の進行方向には真空室10aおよびコ
ーティング室10bからなる処理炉10´が配置されて
いる。
【0041】図12に示すように、コーティング室10
bにおける運搬車70の開放面と対向する位置にはそれ
ぞれターゲット12が配設されている。次に、運搬車7
0をこの処理炉10´内で移動させる。処理炉10´内
では、ターゲット12を加熱し、蒸発させてイオン化す
る。このイオン化した原子は負に印加したベーン3に向
けて加速され、ベーン3と衝突して凝固することによ
り、ベーン3の取り付け方向先端面(アール面3b)側
からベーン3の表面にPVD膜を形成する。このとき、
棚状治具80の間隙からもイオン化した原子が回り込
み、棚状治具70に水平方向に取り付けられているベー
ン3の側面3cからもPVD膜の形成が行われるととも
に、反対側に設けられているターゲット12から発生し
イオン化した原子により各ベーン3の裏側からもPVD
膜の形成が行われることになる。
【0042】このように進行方向に沿った両側面が開放
した運搬車70を使用し、この運搬車70内の進行方向
に沿って且つ空隙50を設けて複数段の棚状に設けられ
た棚状治具80のそれぞれに複数の回転式コンプレッサ
用ベーン3を水平方向に取り付け、この運搬車70を真
空室10aおよびコーティング室10bからなる処理炉
10´内に移動させるとともに該炉10´内の運搬車7
0の開放面と対向する位置にそれぞれ配設されたターゲ
ット12から蒸発し、イオン化した原子を負に印加した
ベーン3に向けて加速させ、ベーン3と衝突させて凝固
させることにより各ベーン3の取り付け方向先端面(ア
ール面3b)側から各ベーン3の表面にPVD膜を形成
するようにすれば、回転式コンプレッサ用ベーン3を取
り付けた複数の運搬車70を、連続的に炉内へ送り込む
ことにより多数のベーン3の表面に膜厚の均一なPVD
膜を連続的に形成することができる。
【0043】
【発明の効果】以上に詳述した通り、本発明は、複数の
空隙が形成されている特定の治具を用い、この治具に取
り付けた回転式コンプレッサ用ベーンに物理蒸着膜を形
成する構成としたので、本発明によれば、この治具に取
り付けられている各ベーンの裏側にもターゲットから蒸
発しイオン化した原子が回り込めることになるため、特
にベーン側面における膜厚差が小さくて膜厚の均一性が
高いPVD膜が各ベーンに形成され、回転式コンプレッ
サ用ベーンの耐磨耗性を向上させることができる。ま
た、本発明によれば、一度に多数のベーンに均一にPV
D膜を形成することができるので、品質の安定した製品
を低廉に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す装置の一部を破断して示す部分拡大
図である。
【図3】図1に示す装置の部分側断面図である。
【図4】本発明で好適に使用される筒状治具の一例を示
す正面図である。
【図5】本発明の一実施態様におけるターゲットとベー
ンとの位置関係を示す平面図である。
【図6】本発明における筒状治具の構成部品の一例を示
す平面図である。
【図7】本発明における筒状治具の構成部品の他の一例
を示す平面図である。
【図8】本発明の一実施態様におけるベーンの取り付け
方法を示す部分拡大断面図である
【図9】回転式コンプレッサの一例を示す断面図であ
る。
【図10】回転式コンプレッサの部分拡大断面図であ
る。
【図11】本発明の一実施態様における運搬車と物理蒸
着膜形成炉との関係を示す側面説明図である。
【図12】本発明の一実施態様における運搬車と物理蒸
着膜形成炉との関係を示す平面説明図である。
【図13】イオン窒化処理の一例を示す斜視図である。
【図14】従来法によりPVD膜が形成された回転式コ
ンプレッサ用ベーンの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
3…ベーン 3a…ベーンの凹部 3b…ベーンのアール面 3c…ベーンの側面 10,10´…処理炉 11…プレート 12…ターゲット 13…治具載置板 15…筒状治具 15a…嵌合孔 15b,15b´…支持棒ホルダー 15c,15d,15e,15f…円板状ピンホルダー 15g…柱状ピンホルダー 16…ギア 19…内歯歯車 20…支持ピン 50…空隙 70…運搬車 80…棚状治具

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 複数の回転式コンプレッサ用ベーンを複
    数の空隙が形成されているとともに両端が開口している
    筒状治具の外周部に放射状に取り付け、この筒状治具を
    自転させながら蒸着源の周りを公転およびさせつつ移動
    させて真空蒸着膜形成処理を行うことにより、各ベーン
    の表面に物理蒸着膜を形成することを特徴とする回転式
    コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法。
  2. 【請求項2】 進行方向に沿った両側面が開放した運搬
    車を使用し、この運搬車内の進行方向に沿って且つ空隙
    を設けて複数段の棚状に設けられた棚状治具のそれぞれ
    に複数の回転式コンプレッサ用ベーンを水平方向に取り
    付け、この運搬車を処理炉内に移動させるとともに該炉
    内の前記運搬車の開放面と対向する位置にそれぞれ配設
    された蒸着源から蒸気原子を発生させて前記各ベーンの
    表面に物理蒸着膜を形成することを特徴とする回転式コ
    ンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成方法。
  3. 【請求項3】 外周部に複数の回転式コンプレッサ用ベ
    ーンを放射状に取り付けるための取り付け部を有すると
    ともに、複数の空隙が形成され両端が開口している筒状
    治具と、真空薄膜形成を行う処理炉内に回転自在に配置
    されたプレートと、前記プレートの外周縁部に回転自在
    に配置され、その上面に前記筒状治具が着脱自在に載置
    されるようになっている一個または複数の治具載置板
    と、前記プレートの回転に伴って前記治具載置板をその
    回転軸を中心として回転させる治具載置板機構と、前記
    プレートの中心位置に設置された蒸着源とを備えること
    を特徴とする回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜
    形成装置。
  4. 【請求項4】 前記筒状治具に形成されている複数の空
    隙が、該治具の径方向に沿って設けられている請求項3
    記載の回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成装
    置。
  5. 【請求項5】 前記筒状治具に形成されている複数の空
    隙が、該治具の中心軸に沿って設けられている請求項3
    記載の回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜形成装
    置。
  6. 【請求項6】 回転式コンプレッサ用ベーンを放射状に
    取り付けるための前記筒状治具の取り付け部が、治具の
    径方向に沿って延在するように該治具の外周面に突設さ
    れた複数のテーパ状の支持ピンであり、該支持ピンに前
    記回転式コンプレッサ用ベーンに形成されている凹部を
    嵌合させることにより、回転式コンプレッサ用ベーンを
    前記筒状治具に取り付ける請求項3乃至請求項5のいず
    れかに記載の回転式コンプレッサ用ベーンの物理蒸着膜
    形成装置。
  7. 【請求項7】 前記治具載置板自転機構が、前記治具載
    置板に一体的にかつ同軸状に取り付けられた外歯の歯車
    と、前記プレートに対し同軸状に配置されて前記外歯の
    歯車と噛み合う固定歯車とからなる請求項3乃至請求項
    6のいずれかに記載の回転式コンプレッサ用ベーンの物
    理蒸着膜形成装置。
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